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政経東北速報解説版 毎月2回(1・15日)発行
続・事件屋 竹内陽一氏の仮面を剥ぐ
月刊政経東北
政経東北速報解説版
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 「地元で話題になった記事をもう一度読みたいが、図書館に行ってバックナンバーを探すのが億劫」、「書店で売り切れていて買えなかった」という声に応え、昨年反響のあった記事をWEB上で公開することにしました。カテゴリー別に分かれており、下記のカテゴリーから選択して、興味のある記事をクリックすると全文が表示されます。

選挙

塙町長選顛末記 宮田氏"圧勝"2つの理由
 変わらなかった「グレーな選挙風土」

 任期満了に伴う塙町長選は6月19日に投開票が行われ、元町議の新人・宮田秀利氏が2818票を獲得し、ほかの候補に1000票以上の大差を付けて初当選を果たした。事前の予想を覆す"圧勝劇"となった背景とは。異様な盛り上がりを見せた同町長選を振り返る。

当選を喜ぶ宮田氏(中央)

鈴木昭雄氏(上)、藤田氏(中)、白石氏

 塙町長選の投開票日となった6月19日夜21時ごろ、開票会場となった塙農村勤労福祉会館には新町長誕生の瞬間を見ようとする数十人の町民が押し寄せ、開票作業を静かに見守っていた。町民の年齢層は若者から年配者まで幅広く、注目度の高さを物語っていた。

 現職で3期目の菊池基文氏が4選立候補断念を表明し、昭和30年の町制施行以来最多となる4人での選挙戦となった同町長選。元JA東西しらかわ組合長の鈴木昭雄氏(68)、元県議の白石卓三氏(64)、元町教育長の藤田充氏(63)、元町議の宮田秀利氏(66)が立候補した(いずれも無所属新人)。

 開票結果は以下の通り。
2818宮田秀利66無新
 1680藤田 充63無新
 1518鈴木昭雄68無新
 461白石卓三64無新
(投票率87・04%、前回87・98%)


 当選した宮田氏は東北工業大卒。㈲水戸や(金物店)経営。町議3期を務め、そのうち町監査委員を2期8年経験している。前回町長選に立候補し、3126票を獲得したものの、当時の現職・菊池氏に約500票差で敗れた。

 公約の柱として掲げたのは、前回町長選でも打ち出していた町営特別養護老人ホームの設置だ。

 4年前、町立養護老人ホーム「米山荘」が民間移譲され、医療法人藤慈会藤井病院(茨城県常陸太田市)系列の社会福祉法人誠慈会による運営となった。ただ、急変時などには同病院に入院させられるようになったため、入所者の家族からは「町内には塙厚生病院があるのに、なぜ県外の病院に行かなければならないのか。町内で気軽に利用できる介護施設がほしい」という声が増えていた。そうした声を踏まえ、宮田氏は「小規模な施設を町内に点在させ、地域密着型の施設運営をすべきだ」と主張した。

 このほか、給食費無料化などの子育て支援策充実、監査委員の経験を生かした身の丈に合った行政運営・予算効率化などを訴えた。

 前回町長選で勝利した菊池氏は、木質バイオマス発電を導入しようとしたが、予定地の近隣住民から猛反発を受け計画撤回に追い込まれたり(本誌平成25年8月号参照)、JR磐城塙駅近くの工場跡地を購入し、健康福祉センター(後にこども園・多世代交流センターと名称変更)を建設する計画を立て、住民から「不要不急の施設だ」と批判されたことがあった(本誌27年12月号参照)。

 これらを批判していた町民が宮田氏の応援に回ったほか、前回町長選で宮田氏を推した支持者も雪辱を期して一致団結し、他候補への支持者流出を最小限に食い止めた。

 逆にその他の3候補は、前回町長選で菊池氏が獲得した約3600票を食い合う形となった。

 もともと大本命と目されていたのは鈴木昭雄氏だった。

 JAのトップを務めてきた経験や経営感覚、行動力をアピールし、治水対策、道路整備、医療・福祉の充実などを公約に掲げた。

 組織力と人脈が強みで、町内全域に25の後援会を設置し、事務所開きでは菊池氏や小張允矢祭町長、薄葉功JA東西しらかわ組合長、満山喜一県議などがあいさつした。また、農業協同組合新聞号外という体裁で昭雄氏PRの後援会討論資料を作成して、町内に配布するなど豊富な資金力を感じさせた。

 だが、結果はまさかの得票数第3位。票が伸び悩んだ原因とみられるのが、立候補に至った経緯だ。

 今年3月、県内15JAが4JAに再編される中、JA東西しらかわだけは県南地方3JAとの合併を拒み、延期を求めた。その方針を決めたのが当時組合長だった昭雄氏だ。

 組合員からは「補助金を使って植物工場を建てたり農産物直売所などを整備してきたが、単独運営では維持費や減価償却費が重荷になる。本当にこのまま合併しなくて大丈夫なのか」、「合併JA(JA夢みなみ)の組合長になれなかったので、ヘソを曲げて合併に参加しなかったのではないか」と不安視する声が上がり、トップとして単独運営の舵取りに注目が集まっていた。そうした中、昭雄氏は突然組合長を辞任し、同町長選への立候補を表明した。

 JA東西しらかわの合併延期を主導しておきながら、自分はさっさと組合長を辞め町長選に立候補する――こうした行動が、町民の目に「無責任」と映り、忌避されたのかもしれない。

「脱矢祭」目指して団結

根本良一氏

 得票数2位の藤田氏は町教育長を務めていたことから、現町政継続を強調し、現職支持者を取り込んだ。公約として教育振興や子育て支援充実、役場組織の再編成、観光活性化、医療・福祉サービス向上を主張した。

 当選こそ逃したものの、得票数が多く、年齢も4人の中で一番若いため、「4年後には有力候補になる」といまから警戒する声も聞かれた。

 白石氏は渡部恒三元衆院議員秘書、県議連続3期など豊富な政治経験と人脈を持つ点をアピールした。

 公約は次世代燃料工場の誘致、小学校統合、塙工業高の改革、国民年金で入所できる「元気老人ホーム」整備など。

 ただ、平成19年の県議選で落選以降、9年間政治活動から遠ざかっていたためか、どこか地に足が付いていない感じが否めなかった。6月9日に開催された東白川青年会議所主催の公開討論会でも、主催者が設定したルール通りにうまく話すことができず、会場から失笑が漏れた。

 結局、得票数が有効投票総数(6477票)の10分の1に達せず、供託金50万円は没収された。

 白石氏をよく知るジャーナリストによる「県議時代も目立った活動をしていたわけではなかったが、地元での人望も大して無いことがあらためて分かった。要するに、政治家の器ではなかったのでしょう」という分析がすべてを物語る。

 以上が表向きの事情を総括したものだが、町民やジャーナリストに話を聞くと、宮田氏が圧勝したのには2つの理由が挙げられる。

 1つは、宮田氏陣営が「『脱矢祭・脱根本』を果たそう」という点で一致団結していたことだ。

 宮田氏の支持者男性が解説する。

 「菊池氏は前矢祭町長の根本良一氏のバックアップを受け、16年の町長選で当時現職の二瓶隆男氏を破って初当選を果たしました。そうした経緯があるためか菊池氏は根本氏に頭が上がらないと言われています。塙中学校の備品納入を根本氏が経営する根本家具店が請け負ったほか、『米山荘』の運営を根本氏と親しい人物が運営する病院系列の法人(※前出・社会福祉法人誠慈会)が担当しており、その備品納入も根本家具店が請け負うなど、何かと根本氏の影がちらつくようになりました。根本氏は昭雄氏を推しており、昭雄氏が当選すれば町内業者の備品納入機会が奪われる可能性もあるため、宮田氏の支持者が増えていったのです」

 こうした意見が出ていることを根本氏はどう受け止めるのか。茨城県大子町の根本家具店本社を訪ね、根本氏を直撃したところ、「確かに菊池氏とはつながりがあるが、塙中学校の備品納入は入札で決まったものであり、不正に仕事を得たわけではない。介護施設への備品納入は民間同士の契約なので、何も問題はないはずです」と説明した。

 ただ、「町長選前後は塙町からさまざまな人が根本氏に相談に行っていた」(ある町民)というから、根本氏が東白川郡内で大きな影響力を持つのは確かで、その様子を見て「なぜ塙町のことを隣町の元町長にお伺いを立てなければならないのか」と違和感を抱く人が多いのだろう。それが「脱矢祭・脱根本」の実現に向け、宮田氏支持者らを団結させていった、と。

4選出馬を狙っていた菊池氏

町内に撒かれた怪文書のコピー

 2つは、大本命の昭雄氏にとっていくつか誤算があったことだ。

 ある会社経営者は誤算の内容を次のように指摘する。

 「『農業だけで食べていける町をつくる』という理念は面白いし、全国的な評価も高く、菊池氏の後継者として"横綱相撲"をしていれば勝てたはずでした。ところが、菊池氏が後継指名しないと見るや早々に交渉をあきらめてしまったため、後から立候補を表明した藤田氏に菊池後援会の幹部が流れ、菊池氏支持層の票が分散したのです」

 なぜ菊池氏は後継指名を避けたのか。4月下旬に立候補断念を表明した際には「年齢的なものもあるし、争いごとは避けたい。新たな人に譲りたい」(毎日新聞4月22日付)と話していたが、同町の事情に詳しいジャーナリストによると、「実は選挙事務所用の土地を7月まで借りており、出馬する気満々だった」という。

 「菊池氏は当初4選を目指すつもりだったが、菊池氏の支持者だった昭雄氏を町長に推す声が強くなり、本人も乗り気となったため、昨年夏ごろ、有力支持者から『次の選挙に昭雄氏が出たら(菊池氏は)負ける。3期もやったしそろそろ譲ってもいいんじゃないか』と促されたそうです。議会での発言が事実上の引退表明と報道されてしまい、周りから外堀を埋められる格好で立候補を断念したが、本人の未練が大きく、最後まで後継指名はしなかったのです」

 昨年夏と言えばJA東西しらかわが合併交渉を進めている最中であり、合併しようがしまいが、昭雄氏は町長選に立候補する考えだったのだろう。結果的に合併延期を決めた直後に立候補を表明し、「無責任」という印象を与えたことも昭雄氏にとって誤算だったと言える。

 昭雄氏の選対本部長は前町議の藤田恵二氏、後援会長は前議長の鈴木道男氏で、前町議の鈴木幸江氏なども加勢し、町内を回って支持を訴えた。ただ、4月号記事でも触れた通り、道男氏が町民の前で「昭雄氏が町長選で当選したら自分(道男氏)が副町長を務めることになる」と口を滑らせたことが町内でウワサになるなど、あまりいいイメージを持たれていなかった。「応援に付いた元町議らの印象が悪すぎて、逆に支持者が離れた可能性もある」(昭雄氏を支持する男性)と指摘する声もあるほどで、これも大きな誤算と言えよう。

 こうして昭雄氏は複数の誤算により支持者拡大に失敗してしまい、宮田氏に初当選を譲ることになったわけ。

 さて晴れて新町長になる宮田氏だが、就任後の課題は少なくない。

 町の人口は6月1日現在、9270人で、10年間で約1300人減少している。高齢化率は33・9%(27年6月1日現在)と高い。面積は211・41平方㌔と広いが、その約7割は森林で、過疎化、少子高齢化などの課題に直面している。また、菊池氏が進めていた健康福祉センター(こども園・多世代交流センター)の建設を計画通り進めるか見直すか、検討する必要がある。

 自身の公約はもちろん、こうした課題に適切な対策を打ち出せるのか。約3600票が自分以外の候補者に入ったという事実を真摯に受け止め、町民の声を聞きながら町政に取り組む必要があろう。

 本誌が今後の課題と感じたのはクリーンな選挙だ。前回町長選ではライバル候補を貶めたり、公職選挙法上グレーな行為が横行していたと聞いたが、今回の町長選でも「(公選法で禁じられている)投票依頼の戸別訪問をしていた」などの目撃談が複数の町民から聞かれた。

 5月には、昭雄氏の悪評を綴った怪文書が町内全戸に撒かれた。内容の真偽や誰が撒いたのかは判然としないが、特養の問題に触れられていることから宮田氏陣営の関与が疑われ、逆に宮田氏陣営からは「宮田氏を貶めるため何者かが仕組んだ罠ではないか」という意見が出た。女性関係のウワサも書かれており、好感度低下という意味では少なからず打撃になったと思われる。

打ち上げ式でお茶とパンを配布

配られたペットボトルのお茶とパン

 6月18日、磐城塙駅前で行われた昭雄氏陣営の打ち上げ式を取材していると、陣営から運動員や近隣住民に、ペットボトルのお茶と1袋5個入りの小さなパン(あんぱん、クリームパンなど)が配布された。近隣住民が集まる様子を見てウグイス嬢が「これだけ多くの人が鈴木昭雄のために集まっています」とアピールした。

 その後、宮田氏の事務所に足を運ぶと、やはりペットボトルのお茶が入ったビニール袋を配布していた。聞くところによると、同町の選挙では、選挙最終日に運動員全員で中心街を練り歩いて支持を呼びかけ、その謝礼としてお茶と食べ物を配るのが慣習となっているようで、各陣営でも配っていたのだろう。「過去にはビニール袋の中にお金を入れ、投票を呼びかけた候補者もいたらしい」(前出・同町の事情に詳しいジャーナリスト)という。

 周知の通り、公選法第139条では飲食物の提供を禁じている。ただ、「湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く」とされており、お茶受けのお菓子や果物などは例外として認められている。県選挙管理委員会事務局に問い合わせたところ、担当者は「個別の事例について県選管が判断を示すことはできないが、過去の事例を見る限りサンドイッチは公選法に抵触すると言われており、パンも例外ではないと思います」との考えを示した。

 一方、同町選挙管理委員会に確認したところ、「公選法139条については事前説明会で説明済みで、あとは各陣営の解釈に委ねている。公選法違反があったかどうかについては棚倉署に任せている」と話し、棚倉署は「情報提供は受け付けるが、個別の案件の法解釈の説明はこちらで対応していない」と説明した。

 棚倉署に連絡した後も特に動きは見られないので、おそらく「ペットボトルのお茶とパン」は「お茶&お茶受け」と認識され、公選法には抵触しないと判断しているのだろう。

 地元の人には当たり前の行為であり、「何をいまさら」と思われるかもしれないが、異様な盛り上がりとなった町長選を象徴しているように見えた。新町長となる宮田氏にはこうした「グレーな選挙風土」の改革も進めてくれることを期待したい。