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安倍晋三首相の著作『美しい国へ』は読んでいないが、「美しい国」でありたいのは異論がない。しかし、現実は美しくないことが多い。その美しくないことを少しずつ改めれば「美しい国」になるが、安倍首相の考えは違う。
教育基本法を改正し、「国と郷土を愛する態度を養う」という。愛国心や愛郷心は学校で教えるものではなく、自然と身につけるもの。身につかないのは国や郷土や家庭などに欠陥があるからで、それに目をつぶり、「愛しなさい」と言っても説得力がない。
安倍首相は「日本人して生まれたのだから日本を愛して当然」と言いたいのだろう。その論理を認めると、国を愛さないのは「反日本(人)」(古い言葉で「非国民」)ということになる。さらに過去の海外侵略を認め、日本の恥部を指摘するのは利敵行為と言われかねない。
安倍首相が憲法第9条改正に熱心なのは自衛隊の違憲状態を解消し、集団的自衛権を行使できるようにしたいからだ。日本を「普通の国」にしたいのだろうが、それは難しい。なぜなら日本は敗戦後、実質的に半占領状態にあり、完全な独立国家でないからだ。憲法や法律を改正し、独立国家に似せようとすると矛盾が大きくなる。国是となっている非核3原則の「(領土内に)持ち込まず」が好例で、海外では噴飯もの。
むしろ意気込まず、ちょっと頑張れば豊かに暮らせる国でありたい。「世界第2の経済大国」という言葉は中国に譲ろう。目立たなくても困ることはない。最大の課題はニート・失業者、フリーター・ワーキングプアに相応の仕事を与えることで、それに失敗すると殺人や強盗・窃盗など凶悪犯罪が蔓延し、社会的コストが膨大になる。
もうひとつは、国民にやさしい国でありたい。中国の残留孤児、ドミニカへの移住者、国の帰還事業で北朝鮮に渡航した日本人などへの対応、産業(企業)を優先して後手に回った公害・薬害対策を振り返ると、やさしいとは言い難い。すべて北朝鮮の拉致被害者と同様に扱ったら、国のイメージは大きく異なっていたはずだ。
政治の役割は、予算を捻出して必要な事業に進めることに尽きる。新たな少子化対策として乳幼児に月5000円加算するが、いかにもケチくさい。こんなことではニート・失業者対策などができるはずがない。国民が「いい国」と思えるようにするにはカネがかかる。教育で愛国心を養うのは、カネをかけないで「いい国」と思わせたいからだ。
(奥平)
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