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いうまでもないことだが、だれでも生まれる時代、国、親、兄弟などを選べない。すべてが所与のものとして受け入れるしかないわけで、だからこそ、それぞれが唯一無二の存在といえる。
現在、未曽有の不況で、仕事に就けない若者が増えている。仕事に就けても、望んだ仕事でないため鬱屈した日々を送っている若者も多い。おそらく、みんな「生まれた時代が悪かった」と思っているに違いない。
追い打ちをかけるようだが、悲観的な材料はまだある。一つは、日本の財政が危機的で、このままでは10年もたないだろう。もう一つは、長い周期でやってくる大震災のリミットが近づいていることである。
いずれも、悲惨な事態に陥るのは確実だ。分かっていながら、有効な手を打てないのが日本だから、ジタバタしても仕方がない。しかし、日本の近代史のなかで、君たちが最も不幸かというと、そうではない。
最も不幸なのは、否応なく戦争に駆り出された世代だ。敗戦から65年、日本が戦争しなかったのは喜ばしい。戦後生まれから若い世代まで、その恩恵に浴している。半面、平和が長く続いて緊張感が緩んだのか、不登校や引きこもり、自殺まがいの殺傷事件が増えた。一種のコミュニケーション障害とみられるが、短い人生なのにもったいないと思う。
とりあえず、年表に生年を入れてみる。終点の目安は平均寿命だ。その間、どう生きるか。
もう少しましな社会をつくってバトンタッチしたかったが、かなわなかった。お詫びのつもりで、いくつかアドバイスしたい。
仕事がつまらなくても飯の種と割り切り、家族や趣味を大事にする。政治や行政に期待せず、自分の生活の視点から価値基準を見いだして判断する。一方で、タコつぼ国家・日本から飛び出て見聞を広めるのも面白い。それがビジネスにつながればもっと面白い。
『アフリカを食い荒らす中国』(河出書房新社)によると、西欧の植民地だったアフリカ大陸に中国人が約50万人やってきて、ビジネスしているという。是非はともかく、そういうバイタリティは日本人にもあったはずだ。
新聞や雑誌を毎日丹念に読んでも、いまどんな時代であるかを見通すのは難しい。どんな出来事も数十年経たなければ正確なことは分からない。結局、「なるようにしかならない」ものの、それぞれが生きた証しを少しでも残せたら、と思う。
(奥平)
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