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政経東北速報解説版 毎月2回(1・15日)発行
続・事件屋 竹内陽一氏の仮面を剥ぐ
月刊政経東北
政経東北速報解説版
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深澤晟雄氏をしのぶ(2012年 10月号)

 8月下旬、岩手県西和賀町沢内の深澤晟(まさ)雄(お)資料館を訪ねた。深澤氏は旧沢内村の元村長。生命尊重の地域づくりに努めたことで知られ、1965(昭和40)年、59歳で亡くなった。

 村長に就任したのは57(昭和32)年、51歳のとき。最初に取り組んだのは、雪のため閉ざされる道路の除雪だった。次いで、乳児死亡半減運動。当時、乳児死亡率は出生1000人比70・5、全国平均の倍以上。さらに、60年、老人医療無料化の草分けとなる65歳以上、国保10割給付(無料)を断行、翌61年、1歳未満・60歳以上に拡大した。

 村の財政が豊かだったわけではない。除雪用のブルドーザー(付属一式を含め550万円)は特別会計を設け、3年分割で購入した。貧しさから抜け出すには耕地拡大が不可欠ということで、そのブルドーザーを山林原野の開墾に使った。米の政府売渡量は5年後の62年、8000俵から2万1000俵に増えた。旧沢内村を南北に縦断する県道1号線を通ると、両側に平坦な耕地が広がっている。耕作放棄地が目立つのは残念だが。

 乳児死亡半減運動は着実に効果を上げ、5年後の62年、地方自治体初の「ゼロ」を達成した。予防に努めることによって総医療費を抑制し、国保税の減税も実現している。

 乳児と高齢者の医療無料化を実施する際には、岩手県・厚生省の嫌がらせを受けている。それでも「憲法には抵触しない」として、当初の方針を曲げなかった。83年、国が財政難を理由に70歳以上老人医療費無料化を一部有料化に改めた際も、沢内村は60歳以上無料化を堅持した。04年、就学前の子ども・65歳以上、一律1500円に変わったが、翌年、湯田町と合併してからも続けている。

 深澤氏は小地主の生まれ。旧制二高・東北帝国大学を卒業しているが、戦前も戦後も順風満帆だったわけではない。何度も転職を余儀なくされ、最初の妻(医師)を妊娠中毒で亡くしている。このような経験が個性豊かな村長を育んだように思える。

 日本が貧しかった時代、先例などにとらわれず、住民とともに苦闘した深澤氏の実践はいまでも輝きを失わない。

 行政課題は常に変わるから、深澤氏を模倣せよと言いたいのではない。ある事業が住民にとって切実と思うなら、容易でなくても実現に努めるべきだということである。最悪なのは「財政難」や「国・県の意向」を理由に、思考を停止することだ。最近はこのような首長ばかりのような気がする。

(奥平)

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