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政経東北速報解説版 毎月2回(1・15日)発行
続・事件屋 竹内陽一氏の仮面を剥ぐ
月刊政経東北
政経東北速報解説版
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「忖度」の限界(2015年 6月号)

 少し前、大分県の動物園で生まれた猿に英国王室で誕生したばかりの王女の名を付けたところ、日本国内から「英国王室に対して失礼だ」との批判が殺到したことがあった。当の英国王室が「命名は動物園の自由」と答えたことで騒動は一気に収束したわけだが、他者の思いを「忖度(そんたく)」する難しさを感じた。

 インターネットが普及し、個人がSNSなどを通して情報発信できるようになったこともあり、一つの事件や事故、災害などに関して、加害者や被害者、その家族、近隣住民、支援者など、さまざまな立場の意見を知ることが可能になった。それに伴い、ある事象に対し「その言動を不快に思っている人がいるかもしれないからやめるべきだ」など、他人の意見を忖度する人がネット上で目立つようになった。

 被害者や弱者の立場に立って意見を述べるのは悪いことではないが、「自分は正しい」という意識が強いためか、当事者以上に過剰反応することも多い。そうした傾向は、権力者や目上の人の意向を忖度している場合もみられ、「きっとこう考えるに違いない」と慮って行動するうちに、当事者の思惑を超えて周囲が勝手に判断するようになる。

 かつて小沢一郎衆院議員が民主党幹事長だったころ、小沢批判をした副幹事長が周囲から咎められて解任され、その後小沢氏本人が慌てて留任を要請したことがあり、小沢氏の側近による「忖度政治」と揶揄された。こうした忖度の事例は太平洋戦争前の旧日本軍、マスコミの自主規制など枚挙に暇がない。

 震災・原発事故後、福島県は、「被災地」としての思いを忖度されることが多くなった。全国から復興を応援してもらえるのは心強いが、これまでの経緯や現在の生活を無視するかのような「一刻も早く避難すべきだ」という意見や、まるで放射線被曝による被害が出ることを期待しているような物言いに疑問を抱くことも少なくない。

 もちろん、福島県民を思っての意見なのだろうし、その裏には原発事故を引き起こした国や東電の責任を追及する狙いがあるのは分かる。だが、県民の複雑な心情を無視して、価値観を押し付ける姿には閉口してしまうし、「忖度」の限界を感じる。

 震災・原発事故から4年以上経過し、「幸い放射線の影響はそれほど大きくなさそうだ」と考える県民が増えているが、将来への不安もどこかに残っている。だからこそ、本誌では「忖度」ではなく実際に多くの県民の声を聞き、県内の復興を応援しつつも、何かあったときに備えて、国や東電の責任を追及していくスタンスを継続していきたい。

(志賀)

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