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政経東北速報解説版 毎月2回(1・15日)発行
続・事件屋 竹内陽一氏の仮面を剥ぐ
月刊政経東北
政経東北速報解説版
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それぞれのトラウマ(2018年 9月号)

 震災・原発事故により被害に遭った県民に直接会って話を聞くと、一口に「県内の被災者」と言っても大きく異なることを実感させられる。

 例えば、浜通りで津波から逃れ、原発事故により体育館や旅館、仮設住宅などを転々としながら避難生活を過ごしてきた人と、中通りで被災し、自宅で支援物資などを受けられない中、水・ガソリン・食料の調達に走り回っていた人はまるで違った体験をしている。避難指示が出された地域の人と自主避難した人、30〜40代の現役世代と少ない年金で生活するシニア世代、低収入者と高収入者……同じ被災者でも見えている風景は別なのだ。

 そうした違いが際立つ出来事が8月に続けて起きた。

 東電は8月1日から福島第一原発の記念グッズとして、廃炉作業中の1〜4号機の写真をあしらったクリアファイルを3枚セット300円で販売した。視察者や廃炉作業を担う企業から「記念品が欲しい」と意見が出たのを受け、構内のコンビニ2店舗限定で販売されたが、ネットで賛否両論となり、やむなく東電は記念グッズ販売を中止した。

 確かにそういう声もあったのだろうが、原発事故による避難などで命を落とした人の遺族、原発事故により人生が狂わされたと感じる人は「記念品」を作ること自体に不快感を覚えただろう。

 一方、福島市では、市が教育文化施設「こむこむ」前に設置したヤノベケンジ氏制作の巨大立像「サン・チャイルド」が議論になった。民間団体から寄贈された現代アートで、原発被災地の希望を表現しているが、防護服姿で、空間線量計を模した胸のカウンターに「000」と表示されていることについて、「福島の現状とかけ離れた作品であり、公共施設前という目立つ場所に設置すれば風評被害を助長する」と批判が集まったのだ。

 その背景には、ネットなどで誤った情報をもとに健康被害増加などを予言する人が後を絶たず、県民らがストレスを抱えながら生活してきたことがある。

 前述の通り、見えている風景が違えば、不快感を抱くスイッチも人それぞれ異なるということだろう。だからこそ、今後はさまざまな見え方があることを意識して、異論を唱える人にも耳を傾け、それぞれの考えを尊重していく姿勢が行政にも市民にも求められよう。

 原発事故により数多くの「トラウマ」と分断が生み出された。賠償の対象にはならないが、これも福島県が負った被害と言えよう。

(志賀)

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