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政経東北速報解説版 毎月2回(1・15日)発行
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何しに来た原賠審(2019年 8月号)

 原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の鎌田薫会長をはじめたとした委員が7月24、25の両日、原発事故からの復興を目指す地域を訪れた。原賠審は原発賠償の基礎となる中間指針や同追補などを定めた機関で、委員には大学教授や弁護などの専門が就いており、文部科学省に事務局がある。

 原賠審では、定期的に県内視察を行っており、一昨年は10月3日に富岡町、浪江町、南相馬市を、昨年は今年と同時期(7月24、25日)に川俣町、飯舘村、双葉町、大熊町、葛尾村を視察した。今年は富岡町、大熊町、楢葉町、双葉町、浪江町を訪れ、帰還困難区域や楢葉町の商業施設「ここなら笑店街」などを見て回ったという。目的は「中間指針等に基づく賠償の実施状況を確認するため、被災地域の現場を視察すること」とされている。

 ただ、その様子を伝えた地元紙報道(福島民報7月26日付)によると、訪問先の各町長との意見交換で「被災地の現状を踏まえて中間指針を見直してほしい」、「避難によるコミュニティー崩壊が長期化している。精神的損害賠償を増額すべき」といった要望を受けたが、鎌田会長は視察後の報道陣の問いかけに「(中間指針について)直ちに見直す必要はない。いまの指針を正しく理解してもらうために対応していく」と述べたという。昨年の視察の際も、同様の要望があったが、中間指針を見直す考えがないことを明らかにしていた。

 視察状況や視察先での要望などを踏まえ、持ち帰って委員間で議論した後、「中間指針を見直す必要がない」というのならまだしも、視察を終えたばかりの段階で報道陣の問いかけに「その必要はない」と答えるのは違和感しかない。地元の言葉で言うならば「なんしゃ来た原賠審」といったところ。

 原発事故以降、各地で原発賠償集団訴訟が起こされ、順次、判決が出されているが、それを見ると金額の多寡はあるものの、いずれの訴訟でも原賠審の指針を超える賠償(追加賠償)が認められている。その点を取っても、中間指針(同追補を含む)が現実にそぐわなくなっているのは明らかだ。

 にもかかわらず、「中間指針を見直す必要がない」という方針は理解に苦しむ。それもわざわざ現地視察までしたうえでの話だから、何のための視察なのか、一体何しに来たのか、との思いは拭えない。

 東電は加害者本位の賠償しか行わず、それを指導する立場の原賠審がこうした対応に終始している現状を強く憂える。

(末永)

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