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政経東北速報解説版 毎月2回(1・15日)発行
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情けないこの国(2019年 10月号)

 東電福島第一原発事故をめぐり、旧経営陣3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された裁判で、東京地裁は9月19日、勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長に無罪判決を言い渡した。

 法律の専門家は、3氏が当時責任ある立場にあっても原発事故の責任を個人に負わせるのは難しく、無罪は予想された結果と解説する。しかし、これだけ凄惨な事故を起こし、誰も責任をとらず罪にも問われない状態が8年半も続いているのは異常だ。

 多くの被災者が未だにモヤモヤとした気持ちを引きずっているのは、原発事故のケジメがついていないからだ。世の中を揺るがす事件・事故を起こした企業は、普通であれば即倒産だ。そこに悪質性があれば、経営陣は逮捕され、刑事罰を受ける。すなわち、社会から存在意義がないと烙印を押され、消滅していく。 だが、国は多額の税金を投じて東電を生かした。経営陣は引責辞任したが、誰も逮捕されていない。避難者が各地で起こしている民事訴訟では、東電の非が認められ、賠償命令が出されているのに、なぜ旧経営陣は罪に問えないのか、

 裁判官は原発の現状を知っているのか。原発周辺の「時間が止まったままのまち」を見たことがあるのか。被災者がどんな気持ちで暮らしているか話を聞いたことがあるのか。法廷に出される証拠や証言だけでなく、被害の真の実態を知れば、法律の常識論に基づいた判決(無罪)は出せなかったはずだ。

 判決で強い違和感を覚えたのは「事故前の法規制は絶対的安全確保を前提としていない」という部分だ。一たび事故を起こせばこれだけの被害をもたらす原発に、絶対的安全確保を求めていなかった国の無責任体質がのぞくが、危険性を最も認識していたはずの東電も、安全を疎かにしたまま運転を続けていた無能無策ぶりが浮かび上がる。私たちが散々聞かされてきた"安全神話"は何だったのか。 判決は無罪でも、旧経営陣の責任が消えることはない。ただ、それは分かっていてもケジメがつかない状態が今後も続くのは理不尽だ。 そもそも「法人の罪を裁く法律がない」「責任を個人には負わせられない」という時点で、裁判による決着は無理があったのかもしれない。そうなると最後は政治決着に委ねる以外ないが、東電を生かすことを決めたのは政治だ。裁く法律がなく、裁判所には手が負えず、政治にも期待できない……いつまで経っても原発事故のケジメをつけられない、情けないこの国の姿を示した裁判だったと言える。

(佐藤)

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