FCT【福島中央テレビ】尾崎和典社長インタビュー

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FCT【福島中央テレビ】尾崎和典社長インタビュー

おざき・かずのり 1958年3月生まれ。塩川町(現喜多方市)出身。東北大法学部卒。読売新聞社、よみうりランド、宮城テレビで役員を務め、昨年6月、福島中央テレビ副社長に就任。今年6月から現職。

 6月20日、福島中央テレビの新社長に、尾崎和典副社長が就任した。ネットや動画配信サービスの普及に伴い急速にテレビ離れが進んでいるが、地方のテレビ局はどのような生き残り策を講じているのか。元読売新聞政治部記者の尾崎社長に、地方メディアの役割やネット展開の現状、今後の展望について、インタビューした。

福島県の地域課題解決を支援し会社の持続的発展にもつなげていく。

 ――6月に代表取締役社長に就任されました。現在の率直な感想をお聞かせください。

 「塩川町(現喜多方市)出身で、高校を卒業して以来、県外で生活してきたので、まず地元で働けることに感謝しています。ふるさと・福島県を盛り上げるうえで、少しでも貢献できればうれしいです」

 ――読売新聞社やよみうりランド、宮城テレビで要職に就いてきた経験をどのように生かしていく考えですか。

 「新聞社で長く働いてきた経験は、報道機関である福島中央テレビでも生かせるはずです。当然ながらテレビ局と新聞社で違うところはあると思いますが、各社で役員として組織運営・経営判断に携わってきた経験は役に立つと思います」

 ――新聞記者時代は、テレビと新聞で具体的にどのようなところが違うと感じていましたか。

 「私は政治部記者でしたが、テレビ局の記者は映像を撮る必要があるので、政治家同士の会合の日程を押えるのがとにかく早かったのを覚えています。テレビの場合、夕方以降ニュース番組が少ないので、より締め切りが遅い新聞記者の方が夜の取材に強かった面もありますね」

 ――地方におけるメディアの役割についてどのようにお考えですか。

 「中央でも地方でもメディアの役割は基本的に変わりないと考えますが、福島県の場合、原発問題を抱えているので、より視野を広めなければならないと思います。

 地方メディアの役割は基本的に2つあると考えています。

 1つは正確な情報、ニュースを迅速に県民ないし読者に伝えることです。ネットで不正確な情報やフェイクニュースが飛び交う中で、これまで以上に重要になると思います。

 2つは地域のためにどう貢献していくかということです。番組や記事、イベントを通して福島県を盛り上げることに加え、今後は地域課題解決のお手伝いという視点も重要になるのではないでしょうか。そういう視点で県や自治体とタイアップしていけば、県内各地域の発展に貢献できると思いますし、ひいてはそれが地方メディアの生き残る道になると考えています」

 ――本県の地域課題としては少子高齢化・人口減少が挙げられます。

 「福島民友と共同で今年度から子育て世代を応援する『ふくしま子育て応援隊』プロジェクトに取り組んでいます。福島市や郡山市のように『ベビーファースト宣言』に参画している自治体、子育て環境整備に取り組む企業さんと連携し、番組で取り上げていくことで、『子育てに優しい福島県』づくりに貢献していきたいと考えています。若者の県外流出・少子高齢化・人口減少を抑制することにもつながっていくことを期待しています」

企業のSDGsを支援

 ――「地域課題解決のお手伝い」ということで言うと、福島中央テレビでは、SDGs(持続可能な開発目標)関連の番組・企画も多く見られますね。

 「平日夕方のワイド番組『ゴジてれ Chu!』で、郡山出身のタレント・鈴木文健さんが県内各地のごみを拾い歩く『ブンケン歩いてゴミ拾いの旅』を放送しています。この企画などが評価され第1回ふくしまSDGsアワードを受賞しました。

 受賞した3団体のうち、企業は当社だけでした。SDGsは今や企業評価の指標の一つになりつつあり、各社で取り組みを始めていますが、外部にどうPRしたらいいか分からない企業が少なくないのかもしれません。そうした企業のお手伝いを当社でできればと考えています」

 ――デジタル化の進行に伴い、メディアを取り巻く環境も大きく変わりつつあります。福島中央テレビではどう対応していく考えですか。

 「ネットの普及により若い世代がテレビ離れしたと言われていますが、コロナ禍以降は年配世代も動画配信サービスを利用するようになっています。昼間など視聴率が低い時間帯も増えており、テレビがメディアの中心から『ワンオブゼム(多くの中の一つ)』になりつつあると感じます。

 当然テレビに戻ってきてもらえる努力はしていきますが、ネットをうまく活用していくことも必要です。テレビ局におけるネット事業は、キー局でさえ苦戦しているところですが、地上波とネットを組み合わせた商品をクライアントに提案するなどして、模索していきたいですね。

 当社では2019年度、デジタル分野での展開を強化するため、メディアデザイン部を設けました。番組動画などコンテンツのマルチユース(番組動画をネットなどで使用すること)を見据えて番組を制作し、各プラットフォームに配信してマネタイズ(収益化)につなげる取り組みに挑戦しています。

 今年1月から3月にかけて放送した伊藤淳史さん主演のドラマ『ウオメシ~おいSea!食卓~』は、地上波に加え、BS日テレ、TVer、huluで配信され、好評をいただきました。今後もさまざまな特番を企画しており、中央のラジオ局・ニッポン放送とマルチユースの特番を制作する予定もあります。

 福島市在住の室屋義秀さんが次世代のエアレース・パイロット候補生を発掘する『RACE PILOT PROGRAM』に密着取材し、地上波での定期的放送に加え、特番、ウェブ配信、海外への配信などの展開も検討しています。

 3月に催された中テレ祭りでは、吉本興業とタッグを組んで、ネットの仮想空間・メタバース内の『月面劇場』でイベントを行い、約7000人のアバター(利用者の分身)が訪れました。24時間テレビではメタバース募金も実施しました」

 ――今後の抱負。

 「福島県を盛り上げ、県民に元気になってもらうことが目標です。その結果として、会社が持続的に発展していければと考えています。

 また、持続的に安定経営できるように、ネット展開やイベントなど、放送外収入の拡大に積極的に挑戦していきます。昨年4月には地域課題解決を進めるための部署『地域貢献室』を設置しました。国や自治体が地域を盛り上げる事業のプロポーザルを実施しているのですが、そうした案件も積極的に受注していきたい。これも放送外収入につながっていくと思います」

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