未成年の元教え子の女性にわいせつな行為をしたとして、棚倉町にある県立修明高校の元常勤講師の男が不同意性交等罪に問われている。福島地裁郡山支部で裁判が継続しており、8月22日には被害者の女性が被害に遭った状況を証言した。女性は、元講師から受けた性的行為について、「先生を信用していた。無理やりしてくるとは思わなかった」と悲痛に声を震わせて語った。
被害女性が語った「恐怖と嫌悪感」
元講師は白河市大信の金子智哉氏(28)。大学卒業後の2021年、県立高校に理科を教える常勤講師として採用された。24年4月に修明高に異動。被害女性は以前勤務していた別の県立高校の生徒で、金子氏は被害女性が所属する部活動の顧問だった。金子氏は同年12月に逮捕・起訴され、今年2月に懲戒免職された。
起訴状によると、金子氏は2024年4月ごろ、郡山市の郡山庭球場北側駐車場に停めた自家用車の車内で、当時17歳だった被害女性Aさんに手首を押さえつけるなどの暴行を加え、拒否が困難な状況で着衣の上から胸を触ったり、直接陰部を触るなどのわいせつな行為をしたという。さらに、Aさんの頭を押さえて自身の陰茎を舐めさせる口腔性交をさせたともした。
金子氏は今年2月に開かれた初公判で起訴内容の一部を認めつつも、口腔性交させたことや、陰部を触ったことについては否認。弁護人は「不同意性交等罪は成立しない。認められたとしても不同意わいせつ罪かその未遂だ」と主張した。
一方で、金子氏は「それ以前になるが、市内の商業施設の駐車場に停めた車内でお互いの同意の下でキスをし、胸や陰部を触ったり口腔性交したりしたことはある」とも述べ、別の機会では被害女性との間に性的同意があったとした。
性的同意は個別の機会ごとに判断される。分かりやすく言えば、婚姻関係や交際関係にあったとしても、双方に同意がない性的行為に踏み切れば不同意性交等罪や不同意わいせつ罪に問われる。恋愛関係にあったかどうかは判断材料の一つにはなるが、事件時の性的行為に双方の同意があったかどうかが基準だ。
8月22日に行われた証人尋問では、Aさんが法廷内に設置したカメラを通じて証言した。トラウマから言葉に詰まったり、すすり泣いたりする場面があった。まずは検察側の主尋問。Aさんが「嘘偽りなく述べます」と宣誓した後、検察官が、事件があった日のことを聞いた。
Aさんの証言によると、昨年4月下旬ごろに郡山市内の庭球場で車で来た金子氏と会った。金子氏はAさんの悩みを聞き、午後にアルバイト先まで送っていくことになっていたという。アルバイトは土日にあるので、被害を受けたのは、土日いずれかの曜日の日中と特定されている。
2人で後部座席に並んで座り、Aさんが学校生活の悩みを話すと、金子氏は話を聞きながら、「大丈夫?」のようなことを言い、次第にAさんの頭をなでたり抱擁したりしてきたという。その後、口にキスをされた。
どのように対応したのか検察官から問われたAさんは、「嫌だったので顔をそらして避けたのですが、キスをされ続けました」と答えた。
Aさんの証言は続く。金子氏は覆いかぶさってきて、Aさんの手をつかんで動きを封じ、もう一方の手で下着の上から胸を触ってきたり、直接陰部を触ってきたりしたという。
手を封じられたので、体を動かして抵抗したというAさん。金子氏の行為がやんだので、ドアを開けて逃げようとするが、自動ドアが開く間に片腕をつかまれて、金子氏の傍に引き寄せられた。なぜ車から出ようとしたのかと検察官に問われたAさんは、「怖かったからです。これ以上何をされるか分からなかったので逃げたかった」と答えた。
Aさんによると、その後、金子氏に上から頭を押さえつけられ、口腔性交を迫られたという。金子氏の力が弱まり、行為が終わった後、「アルバイトに行くので車の外に出してほしい」と言うと、出られた。
「その時、先生は『何で僕の気持ちを分かってくれないのか』みたいなことを言っていた」(Aさん)
別れた後に、Aさんは金子氏に「もう関わらないでほしい」という旨のメッセージを送った。Aさんは、「信用していた先生だったので、その時にされたことが怖かった。また何かされると思った」と法廷で当時の気持ちを振り返った。
事件から間もない昨年5月上旬の大型連休に、金子氏はAさんのアルバイト先に客として来店した。接客のやり取りの後、帰り際に紙袋を渡された。中にはアンパンマンチョコレート30個と、手作りのキーホルダー、それに手紙が入っていた。内容は、金子氏があの日にAさんにしたことを詫びるものだった。
Aさんは帰宅すると、写真を撮って友人に送った。Aさんは法廷で金子氏が書いた手紙を読み直し、当時抱いた印象を語った。
「先生は、自分の気持ちを抑えられずに私に対して無理やりしたこと、嫌な思いや怖い思いをさせたことに対して謝ろうとしているのだと思いました。自分がしたことをなかったことにしたいがために謝っているのだとも感じました」
手紙を読んだ後、Aさんは普段いる場所を金子氏に把握されていることに恐怖を覚え、「もう2度とアルバイト先に来ないでほしい。学校にも来ないでください」とメッセージを送った。
性被害把握のきっかけ
事件を学校側が把握したのは、昨年10月にAさんの高校で行われた性被害に関するアンケート調査がきっかけだった。アンケートに記された事例から、自身が受けた行為が性被害に該当すると知った。被害を思い出してフラッシュバックにさいなまれるようになり、高校の友人に相談。それが高校と県教委への相談につながり、警察に被害届を提出した。
Aさんによると、事件以前から校外で金子氏と会うことはあり、その際もキスをされたり胸を触られたりすることがあったという。検察官とのやり取りを一部抜粋する。
――他の機会にキスをされたことはあったのか。
「あった。口にされた」
――胸を触られることは。
「あった」
――どう対応したのか。
「笑いながら『やめて』と言った。我慢していた」
――なぜ我慢していたのか。
「先生には高1の時から世話になっていてすごく信用していた。それ以上のことをしてくるとは思わなかった。本当にやめてと言えばやめてくれると思った。その当時は頼れる人が先生しかいなかったので、それくらいのことは我慢しなければと思った」
今の金子氏への気持ちを問われたAさんは次のように答えた。
「これ以上、私に関わらないでほしい。(もし有罪になって刑に服し)刑務所から出てきたらどこにいるか分からない。復讐しに来ないでほしい」
弁護側の反対尋問では、Aさんから金子氏へ送ったLINEメッセージの内容確認が行われた。Aさんが好意を寄せているように受け取れる内容や、金子氏との親密さをうかがわせるやり取りが紹介された。法廷で被告人が自己防衛するための必要な手続きではあるが、被告人に有利な証言を引き出す目的がある以上、ともすれば被害者の言動を責めるような結果になりがちで、心理的負担は大きい。マイク越しにAさんの呼吸が乱れる様子が伝わった。
下山洋司裁判長は、弁護人に「立証方針は分かるが、検察側と弁護側で争いのない部分はそのまま進めてほしい」と言った。既に証拠として採用されているLINEのやり取りについては、事細かにAさんに確認するのは控えるよう暗に促す趣旨だ。裁判は休廷を挟み、Aさんの体調回復を待ったが、審理続行は不可能と判断され、この日は閉廷した。
成人、特に教員が未成年と淫行することは社会的に許されない。総じて教員は「恋愛関係」を主張するが、そもそもの出会いが教員と教え子という非対称な関係のため、裁判で恋愛関係が認められることはまずない。逆に「本当に相手のことを愛しているなら、なぜ教え子が成人するまで性的行為を待てなかったのか。やはり性欲目的ではないのか」と検察官や裁判官から突っ込まれる。
2023年8月に石川町の高校の部活動で指導していた40代の元会社社長の男が、当時15歳だった教え子の女性に性交した事件では、地裁郡山支部(下山裁判長)が求刑通り懲役4年を言い渡した。被害者が16歳未満、かつ加害者が5歳以上年齢が上の場合は、性的同意の有無を問わず不同意性交等罪や不同意わいせつ罪が成立する。男は「真剣交際」を主張していた。
2018年夏に、いわき市立中学校の60代の元男性教諭が当時15歳の女子生徒に淫行した事件では、児童福祉法違反(淫行させる行為)に問われ、地裁いわき支部(齊藤研一郎裁判官)は懲役2年6月、執行猶予4年(求刑懲役2年6月)を言い渡した。性交など一線を越える行為が認められなかったため、同法違反に留まった。元男性教諭は「女子生徒の方から好意を寄せてきた」と無罪を主張する一方で、「15歳の少女と付き合っていることに舞い上がっていたと思う」と振り返っていた。
過去の判決を見ても、教員と教え子の「恋愛関係」が額面通り受け取られることはない。教員による未成年相手の淫行に対し、社会の目はもちろん、司法の判断もより厳しくなっている。
























