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バイオマス

  • 【伊達市】水不足が露見したバイオマス発電所

    【伊達市】水不足が露見したバイオマス発電所

     梁川町のやながわ工業団地に建設中のバイオマス発電所で、蒸気の冷却に必要な水が不足するかもしれない事態が起きている。 揚水試験で「水量は豊富」と見せかけ 試運転が始まったバイオマス発電所  バイオマス発電所は「バイオパワーふくしま発電所」という名称で5月1日から商業運転開始を予定している。設置者は廃棄物収集運搬・処分業の㈱ログ(群馬県太田市、金田彰社長)だが、施設運営は関連会社の㈱ログホールディングスが行う。  同発電所をめぐっては、地元住民でつくられた「梁川地域市民のくらしと命を守る会」(引地勲代表、以下守る会と略)が反対運動を展開。行政に問題点を指摘しながら設置を許可しないよう働きかけてきたが、受け入れられなかった経緯がある。  施設はほぼ完成し、1月9日からは試運転が始まったが、同5日に施設周辺のほんの数軒に配られた「お知らせ」が物議を醸している。  《現行井戸(6㍍)を廃止し、新規井戸(7・5㍍程度)を設置する(全3基×各2個)。1月上旬より工事着手》(書かれていた内容を抜粋)  ログはこれまでも、住民への説明を後回しにして工事を進めてきた。施設工事が最初に始まった時も、住民は何がつくられるのか全く知らなかったほどだ。  試運転が始まるタイミングで数軒にだけ文書を配り、新しい工事を始めようとしたことに守る会は反発。引地代表は「全市民に知らせるべきだ」として、市にログを指導するよう申し入れた。  「ログは翌週、新聞折り込みで全市に『お知らせ』を配ったが、数軒に配った文書より内容は薄かった」(引地代表)  実は、本誌は新規井戸を設置する話を昨年9月ごろに聞いていた。ログからボーリング業者数社に「現行井戸では水不足が起きる可能性がある」として、新規井戸を掘ってほしいという依頼が間接的に寄せられていたのだ。しかし、井戸を掘って反対運動の矛先が自社に向くことを恐れ、依頼を断るボーリング業者もいたようだ。  計画によると、同発電所が3カ所の現行井戸から揚水する1日の量は夏季2556㌧、冬季915㌧、年平均1707㌧。水はポンプを使って冷却塔水槽に送られ、蒸気タービンから排出された蒸気の冷却などに使われる。しかし「多量の揚水で地下水に影響が出ては困る」という周辺企業からの声を受け、市が依頼した調査会社が2022年11~12月にかけて、同発電所が行った揚水試験に合わせて井戸の水位を観測。その結果、連続揚水試験による井戸の水位低下はわずかだったため、調査会社は「発電所稼働による揚水で井戸や地下水に影響を与える可能性は低い」と結論付けた。  ただし、調査会社が市に提出した報告書にはこうも書かれていた。  《揚水試験の実施期間が短いことや発電所稼働時の揚水状況について未確認なこと、地下水位が高い時期(豊水期)の地下水の挙動が不明確なことなどから、発電所稼働前(1年前)から稼働時(1年間)にかけて、既存井戸において地下水位観測を行うことが望ましい》  調査会社は、井戸や地下水への長期的な影響に注意を払った方がいいと指摘していたのだ。 「究極的には稼働できない」  結果、商業運転目前に水不足の恐れが浮上したわけで、順番としては明らかに逆。すなわち、水が十分あるから蒸気を冷却できるというのが本来の姿なのに、水が足りなかったら蒸気を冷却できず発電は成り立たなくなる。「地下水が足りなければ上水を使うしかないが、それだと水道料金が高く付き、発電コストが上昇するため、ログにとっては好ましくない」(あるボーリング業者)。だからログは、慌てて新規井戸を掘ろうとしているのだ。  前出「お知らせ」には新規井戸を掘る理由がこう綴られていた。  《2022年度に発電所に必要な1日2500㌧前後を揚水できたと報告したが、水位が低い中、仮設ポンプを強引に使用し(いつ壊れてもおかしくない状況)、揚水量確保を主目的に強引に揚水したものだった。この揚水試験データから、水は豊富にあると情報共有されてきた》  要するに「揚水試験の時は水量が豊富にあると見せかけていた」と白状しているわけ。  「お知らせ」に書かれていた問い合わせ先に電話すると「井口」と名乗る所長が次のように話した。  「私は昨年4月に着任したので分かる範囲で言うと、2019年に一つ目の井戸を掘り、その時点で水位が底から1㍍と低く、そのあとに掘った二つの井戸も水位が低かった。言い方は悪いが、発電所に欠かせない水について深く検討しないまま施設工事を進めていたのです」  井口所長が井戸の状況を知ったのは昨年8月だったという。  「三つの現行井戸では十分に揚水できないので、7・5㍍の新規井戸を掘ることになった。現行井戸は6㍍なので1・5㍍深く掘れば水が出ると見ているが、実際に出るかどうかは掘ってみないと分からない」  新規井戸を掘っても十分な水量が確保できなかったら同発電所はどうなるのか。井口所長は「究極的には稼働できない」と答えた。  「契約で上水(水道)は1日700㌧供給してもらえるが、当然水道料金がかかる。対して井戸水はタダなので、経営的には上水はバックアップ用に回したい」  今後については「今更かもしれないが、地元住民にきちんと説明し理解を得ながら進めたい」。これまで住民を軽視する態度をとってきたログにあって、誠実な人物という印象を受けたが、軌道修正を図るのは容易ではない。井口所長のもと、失われた同社の信頼を回復できるのか、それとも住民不信を払拭できないまま商業運転に突入するのか。

  • 梁川・バイオマス計画住民の「募金活動」に圧力!?

    【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

     伊達市梁川町のやながわ工業団地で建設が進められているバイオマス発電所をめぐっては、市民団体「梁川地域市民のくらしと命を守る会」(名谷勝男代表)が反対運動を展開していることは本誌既報の通り。8月号では「傍観する市が果たすべき役割」として▽住民に寄り添う姿勢を明確にすること、▽住民と事業者の仲介役を務めること、と書いた。 しかし、住民が「なぜ市は事業者側に立つのか」と反発し、市が「法律に基づいて許可・容認しているだけ」と押し問答を繰り返している間にも、事業者の㈱ログ(群馬県太田市)は粛々と工事を進めている。来年秋には試運転が始まる予定だが、現状では、ログが話し合いで計画を止める気配は感じられない。 「このままでは事態は何も変わらない」と考えた守る会は、ログに法的手段を講じることを決めた。 守る会事務局の引地勲氏は次のように話す。 「真っ先に思い浮かぶのは工事差し止め請求ですが、具体的な方針は決まっていません。現在、弁護士や環境問題に詳しい専門家と、法的にどういう対抗策が考えられるか検討しているところです」 とはいえ、裁判を起こすにはお金が必要だが、2021年3月の結成以来、手弁当で運営してきた守る会に裁判費用を負担する余裕はない。そこで守る会は、当面の活動資金と裁判費用を捻出するため、広く募金を呼びかけることにした。 「これまでボランティアでやってきましたが、活動が長期化するにつれてお金の問題に直面することが増えてきたため、多くの方から浄財を寄せていただくしかないという結論に至りました」(同) 募金活動は当初、守る会だけでなく、地元の伊達市商工会、やながわ工業団地内の企業で組織するヤナガワテクノパーク会、農事組合法人も協力することを表明し、4団体連名で募金趣意書を作成することになっていた。ところが、募金趣意書案ができた段階で、伊達市商工会とヤナガワテクノパーク会から突然「名前を連ねるのが難しくなった」と告げられたという。 「両者ともはっきりは言わなかったが、どうやら市から『裁判を前提とする募金活動に協力するのはいかがなものか』というニュアンスの話をされたようなのです」(同) 要するに、市から〝圧力〟をかけられ、募金活動に協力できなくなったというのだ。 「両者とも、本音では協力したいと思っているので、その気持ちだけで十分です。実際、募金活動には協力できなくても、募金はしてくれましたから」(同) 一方、農事組合法人に対しても、守る会と募金活動について協議したその日の夜に、地元JAの幹部が農事組合長の家を訪ね、夜中まで「なぜ協力するのか」と詰め寄ったという。 「そういうやり方に激怒した農事組合長は翌日、JAに農事組合長の辞表を提出しました。農事組合長の言い分は『農事組合法人として、地元農家のためにバイオマス発電所に反対して何が悪いのか』というものでした」(同) これを受け、募金趣意書は4団体連名ではなくなったものの、梁川町内会長連絡協議会の協力を得ながら9月下旬に梁川町内全域に配布したという。市内他地域での配布は「現時点ではできていない」(同)とのことだが、守る会では11月いっぱいまで募金活動を続ける予定だ。 法的手段の見通しは立っていないが、協力者の思わぬ離脱は、かえって募金活動のモチベーションを高める結果につながっているようだ。 あわせて読みたい 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審

  • 【梁川・バイオマス計画】傍観する市が果たすべき役割

    【梁川・バイオマス計画】傍観する伊達市が果たすべき役割

     「梁川地域市民のくらしと命を守る会」(名谷勝男代表)は2022年7月5日、伊達市梁川町の粟野地区交流館で住民説明会を開いた。会には須田博行市長と市幹部が招かれ、地域住民ら約50人が出席した。 守る会は、やながわ工業団地で建設が進められているバイオマス発電所に反対するため2021年3月に結成された。同発電所は群馬県太田市の産業廃棄物処理業㈱ログが建設を進めている。 同発電所をめぐっては▽木材だけでなく建築廃材や廃プラスチックも焼却される、▽バイオマス事業のガイドラインを無視し、住民への十分な説明がない、▽ダイオキシンの発生などが懸念される――等々から反対の声が上がっているが、守る会では市(須田市長)の対応にも不満を露わにしている。理由はさまざまあるが、要するに市は「民の取り組みに関知しない」という姿勢を崩そうとせず、それが守る会には「住民を守る気がない」と映っているのだ。計画への賛否を示してこなかった須田市長が市長選目前の2021年12月定例会で「認められない」と発言したのに、結局建設が進んでいることも「当選したくてウソをついた」と反発を買った。 冒頭の住民説明会でも、須田市長は守る会役員や出席者から厳しい質問と批判にさらされた。それでも須田市長は「市としては適切に対応した」という発言を繰り返した。 住民説明会終了後、須田市長に聞くと疲れた様子でこう話した。 「うーん、正直とても難しい問題だ。市としては法律でそうなっている以上、その時々に応じた判断をするしかなく、そこは間違っていないと思うが……」 守る会や地域住民が須田市長に怒りをぶつける気持ちは分かる。しかし、当事者のログが不在の場で住民と市が意見を交わしても解決につながらないのではないか――住民説明会の様子を見ていてそう感じた。 住民説明会で話す須田市長(中央、2022年7月5日)  まず大前提にあるのは、ログの不誠実な姿勢だ。建設に必要な手続きは法律に則って進めたのだろうが、地域住民や工業団地内の事業所に丁寧な説明を行わなかったのは問題だった。説明は言ってみれば努力義務の類いだが、見ず知らずの場所で新規事業を行おうとするなら、きちんと説明を尽くし地元との信頼関係を築くことが欠かせない。そこをないがしろにして「法的に問題なければあとは何をしてもいいんだ」という経営姿勢では、地元から歓迎されず、事業への理解も得られない。 そのうえで市がやるべきは「地元の理解が得られなければ市として賛成できない」という姿勢を明確にすることではなかったか。あるいは市が仲介役となって説明会を設け、住民とログに出席してもらい、意見を交わし合う方法もあったと思う。市と住民、市とログによる話し合いでは、お互いの言い分が正確に相手側に伝わらない。市は「説明会を開く義務はない」と言うかもしれないが、市民が困っているのに見過ごすのは、それこそ行政の不作為だ。 日立造船が下郷、南会津、昭和、会津美里の4町村にまたがって計画している会津大沼風力発電事業(仮称)をめぐっては、舟木幸一昭和村長や渡部正義南会津町長が「法的には問題ないが受け入れられない」と撤回を求めている。町村は県に意見書を提出する立場に過ぎず、たとえ反対しても法的効力はない。それでも舟木村長と渡部町長は自然保護や文化財保護、防災の観点から「受け入れられない」と明言した。 会津大沼風力発電事業(仮称)の廃止について  これを伊達市に置き換えた場合、同発電所の近くには小学校や認定こども園がある。須田市長が「法的には問題ないが、子どもたちの安心・安全の観点から受け入れられない」と発言するのは自然なことで、それこそ市長として住民に寄り添った姿勢だと思うが、いかがだろうか。 あわせて読みたい 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 【伊達市】水不足が露見したバイオマス発電所

     梁川町のやながわ工業団地に建設中のバイオマス発電所で、蒸気の冷却に必要な水が不足するかもしれない事態が起きている。 揚水試験で「水量は豊富」と見せかけ 試運転が始まったバイオマス発電所  バイオマス発電所は「バイオパワーふくしま発電所」という名称で5月1日から商業運転開始を予定している。設置者は廃棄物収集運搬・処分業の㈱ログ(群馬県太田市、金田彰社長)だが、施設運営は関連会社の㈱ログホールディングスが行う。  同発電所をめぐっては、地元住民でつくられた「梁川地域市民のくらしと命を守る会」(引地勲代表、以下守る会と略)が反対運動を展開。行政に問題点を指摘しながら設置を許可しないよう働きかけてきたが、受け入れられなかった経緯がある。  施設はほぼ完成し、1月9日からは試運転が始まったが、同5日に施設周辺のほんの数軒に配られた「お知らせ」が物議を醸している。  《現行井戸(6㍍)を廃止し、新規井戸(7・5㍍程度)を設置する(全3基×各2個)。1月上旬より工事着手》(書かれていた内容を抜粋)  ログはこれまでも、住民への説明を後回しにして工事を進めてきた。施設工事が最初に始まった時も、住民は何がつくられるのか全く知らなかったほどだ。  試運転が始まるタイミングで数軒にだけ文書を配り、新しい工事を始めようとしたことに守る会は反発。引地代表は「全市民に知らせるべきだ」として、市にログを指導するよう申し入れた。  「ログは翌週、新聞折り込みで全市に『お知らせ』を配ったが、数軒に配った文書より内容は薄かった」(引地代表)  実は、本誌は新規井戸を設置する話を昨年9月ごろに聞いていた。ログからボーリング業者数社に「現行井戸では水不足が起きる可能性がある」として、新規井戸を掘ってほしいという依頼が間接的に寄せられていたのだ。しかし、井戸を掘って反対運動の矛先が自社に向くことを恐れ、依頼を断るボーリング業者もいたようだ。  計画によると、同発電所が3カ所の現行井戸から揚水する1日の量は夏季2556㌧、冬季915㌧、年平均1707㌧。水はポンプを使って冷却塔水槽に送られ、蒸気タービンから排出された蒸気の冷却などに使われる。しかし「多量の揚水で地下水に影響が出ては困る」という周辺企業からの声を受け、市が依頼した調査会社が2022年11~12月にかけて、同発電所が行った揚水試験に合わせて井戸の水位を観測。その結果、連続揚水試験による井戸の水位低下はわずかだったため、調査会社は「発電所稼働による揚水で井戸や地下水に影響を与える可能性は低い」と結論付けた。  ただし、調査会社が市に提出した報告書にはこうも書かれていた。  《揚水試験の実施期間が短いことや発電所稼働時の揚水状況について未確認なこと、地下水位が高い時期(豊水期)の地下水の挙動が不明確なことなどから、発電所稼働前(1年前)から稼働時(1年間)にかけて、既存井戸において地下水位観測を行うことが望ましい》  調査会社は、井戸や地下水への長期的な影響に注意を払った方がいいと指摘していたのだ。 「究極的には稼働できない」  結果、商業運転目前に水不足の恐れが浮上したわけで、順番としては明らかに逆。すなわち、水が十分あるから蒸気を冷却できるというのが本来の姿なのに、水が足りなかったら蒸気を冷却できず発電は成り立たなくなる。「地下水が足りなければ上水を使うしかないが、それだと水道料金が高く付き、発電コストが上昇するため、ログにとっては好ましくない」(あるボーリング業者)。だからログは、慌てて新規井戸を掘ろうとしているのだ。  前出「お知らせ」には新規井戸を掘る理由がこう綴られていた。  《2022年度に発電所に必要な1日2500㌧前後を揚水できたと報告したが、水位が低い中、仮設ポンプを強引に使用し(いつ壊れてもおかしくない状況)、揚水量確保を主目的に強引に揚水したものだった。この揚水試験データから、水は豊富にあると情報共有されてきた》  要するに「揚水試験の時は水量が豊富にあると見せかけていた」と白状しているわけ。  「お知らせ」に書かれていた問い合わせ先に電話すると「井口」と名乗る所長が次のように話した。  「私は昨年4月に着任したので分かる範囲で言うと、2019年に一つ目の井戸を掘り、その時点で水位が底から1㍍と低く、そのあとに掘った二つの井戸も水位が低かった。言い方は悪いが、発電所に欠かせない水について深く検討しないまま施設工事を進めていたのです」  井口所長が井戸の状況を知ったのは昨年8月だったという。  「三つの現行井戸では十分に揚水できないので、7・5㍍の新規井戸を掘ることになった。現行井戸は6㍍なので1・5㍍深く掘れば水が出ると見ているが、実際に出るかどうかは掘ってみないと分からない」  新規井戸を掘っても十分な水量が確保できなかったら同発電所はどうなるのか。井口所長は「究極的には稼働できない」と答えた。  「契約で上水(水道)は1日700㌧供給してもらえるが、当然水道料金がかかる。対して井戸水はタダなので、経営的には上水はバックアップ用に回したい」  今後については「今更かもしれないが、地元住民にきちんと説明し理解を得ながら進めたい」。これまで住民を軽視する態度をとってきたログにあって、誠実な人物という印象を受けたが、軌道修正を図るのは容易ではない。井口所長のもと、失われた同社の信頼を回復できるのか、それとも住民不信を払拭できないまま商業運転に突入するのか。

  • 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

     伊達市梁川町のやながわ工業団地で建設が進められているバイオマス発電所をめぐっては、市民団体「梁川地域市民のくらしと命を守る会」(名谷勝男代表)が反対運動を展開していることは本誌既報の通り。8月号では「傍観する市が果たすべき役割」として▽住民に寄り添う姿勢を明確にすること、▽住民と事業者の仲介役を務めること、と書いた。 しかし、住民が「なぜ市は事業者側に立つのか」と反発し、市が「法律に基づいて許可・容認しているだけ」と押し問答を繰り返している間にも、事業者の㈱ログ(群馬県太田市)は粛々と工事を進めている。来年秋には試運転が始まる予定だが、現状では、ログが話し合いで計画を止める気配は感じられない。 「このままでは事態は何も変わらない」と考えた守る会は、ログに法的手段を講じることを決めた。 守る会事務局の引地勲氏は次のように話す。 「真っ先に思い浮かぶのは工事差し止め請求ですが、具体的な方針は決まっていません。現在、弁護士や環境問題に詳しい専門家と、法的にどういう対抗策が考えられるか検討しているところです」 とはいえ、裁判を起こすにはお金が必要だが、2021年3月の結成以来、手弁当で運営してきた守る会に裁判費用を負担する余裕はない。そこで守る会は、当面の活動資金と裁判費用を捻出するため、広く募金を呼びかけることにした。 「これまでボランティアでやってきましたが、活動が長期化するにつれてお金の問題に直面することが増えてきたため、多くの方から浄財を寄せていただくしかないという結論に至りました」(同) 募金活動は当初、守る会だけでなく、地元の伊達市商工会、やながわ工業団地内の企業で組織するヤナガワテクノパーク会、農事組合法人も協力することを表明し、4団体連名で募金趣意書を作成することになっていた。ところが、募金趣意書案ができた段階で、伊達市商工会とヤナガワテクノパーク会から突然「名前を連ねるのが難しくなった」と告げられたという。 「両者ともはっきりは言わなかったが、どうやら市から『裁判を前提とする募金活動に協力するのはいかがなものか』というニュアンスの話をされたようなのです」(同) 要するに、市から〝圧力〟をかけられ、募金活動に協力できなくなったというのだ。 「両者とも、本音では協力したいと思っているので、その気持ちだけで十分です。実際、募金活動には協力できなくても、募金はしてくれましたから」(同) 一方、農事組合法人に対しても、守る会と募金活動について協議したその日の夜に、地元JAの幹部が農事組合長の家を訪ね、夜中まで「なぜ協力するのか」と詰め寄ったという。 「そういうやり方に激怒した農事組合長は翌日、JAに農事組合長の辞表を提出しました。農事組合長の言い分は『農事組合法人として、地元農家のためにバイオマス発電所に反対して何が悪いのか』というものでした」(同) これを受け、募金趣意書は4団体連名ではなくなったものの、梁川町内会長連絡協議会の協力を得ながら9月下旬に梁川町内全域に配布したという。市内他地域での配布は「現時点ではできていない」(同)とのことだが、守る会では11月いっぱいまで募金活動を続ける予定だ。 法的手段の見通しは立っていないが、協力者の思わぬ離脱は、かえって募金活動のモチベーションを高める結果につながっているようだ。 あわせて読みたい 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審

  • 【梁川・バイオマス計画】傍観する伊達市が果たすべき役割

     「梁川地域市民のくらしと命を守る会」(名谷勝男代表)は2022年7月5日、伊達市梁川町の粟野地区交流館で住民説明会を開いた。会には須田博行市長と市幹部が招かれ、地域住民ら約50人が出席した。 守る会は、やながわ工業団地で建設が進められているバイオマス発電所に反対するため2021年3月に結成された。同発電所は群馬県太田市の産業廃棄物処理業㈱ログが建設を進めている。 同発電所をめぐっては▽木材だけでなく建築廃材や廃プラスチックも焼却される、▽バイオマス事業のガイドラインを無視し、住民への十分な説明がない、▽ダイオキシンの発生などが懸念される――等々から反対の声が上がっているが、守る会では市(須田市長)の対応にも不満を露わにしている。理由はさまざまあるが、要するに市は「民の取り組みに関知しない」という姿勢を崩そうとせず、それが守る会には「住民を守る気がない」と映っているのだ。計画への賛否を示してこなかった須田市長が市長選目前の2021年12月定例会で「認められない」と発言したのに、結局建設が進んでいることも「当選したくてウソをついた」と反発を買った。 冒頭の住民説明会でも、須田市長は守る会役員や出席者から厳しい質問と批判にさらされた。それでも須田市長は「市としては適切に対応した」という発言を繰り返した。 住民説明会終了後、須田市長に聞くと疲れた様子でこう話した。 「うーん、正直とても難しい問題だ。市としては法律でそうなっている以上、その時々に応じた判断をするしかなく、そこは間違っていないと思うが……」 守る会や地域住民が須田市長に怒りをぶつける気持ちは分かる。しかし、当事者のログが不在の場で住民と市が意見を交わしても解決につながらないのではないか――住民説明会の様子を見ていてそう感じた。 住民説明会で話す須田市長(中央、2022年7月5日)  まず大前提にあるのは、ログの不誠実な姿勢だ。建設に必要な手続きは法律に則って進めたのだろうが、地域住民や工業団地内の事業所に丁寧な説明を行わなかったのは問題だった。説明は言ってみれば努力義務の類いだが、見ず知らずの場所で新規事業を行おうとするなら、きちんと説明を尽くし地元との信頼関係を築くことが欠かせない。そこをないがしろにして「法的に問題なければあとは何をしてもいいんだ」という経営姿勢では、地元から歓迎されず、事業への理解も得られない。 そのうえで市がやるべきは「地元の理解が得られなければ市として賛成できない」という姿勢を明確にすることではなかったか。あるいは市が仲介役となって説明会を設け、住民とログに出席してもらい、意見を交わし合う方法もあったと思う。市と住民、市とログによる話し合いでは、お互いの言い分が正確に相手側に伝わらない。市は「説明会を開く義務はない」と言うかもしれないが、市民が困っているのに見過ごすのは、それこそ行政の不作為だ。 日立造船が下郷、南会津、昭和、会津美里の4町村にまたがって計画している会津大沼風力発電事業(仮称)をめぐっては、舟木幸一昭和村長や渡部正義南会津町長が「法的には問題ないが受け入れられない」と撤回を求めている。町村は県に意見書を提出する立場に過ぎず、たとえ反対しても法的効力はない。それでも舟木村長と渡部町長は自然保護や文化財保護、防災の観点から「受け入れられない」と明言した。 会津大沼風力発電事業(仮称)の廃止について  これを伊達市に置き換えた場合、同発電所の近くには小学校や認定こども園がある。須田市長が「法的には問題ないが、子どもたちの安心・安全の観点から受け入れられない」と発言するのは自然なことで、それこそ市長として住民に寄り添った姿勢だと思うが、いかがだろうか。 あわせて読みたい 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?