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  • 投書で露呈した【双葉地方消防本部】の混乱

    投書で露呈した【双葉地方消防本部】の混乱

     本誌昨年11月号「問題だらけの県内消防組織」という記事で、双葉地方広域市町村圏組合消防本部のパワハラについて記した匿名の告発文が編集部宛てに届いたことを紹介した。その後、再び同消防本部に関する投書が寄せられた。 今度はパワハラと手当不正告発 本誌に寄せられた告発文  双葉地方広域市町村圏組合消防本部の管轄エリアは双葉郡8町村。拠点は消防本部(楢葉町)、浪江消防署、同消防署葛尾出張所、富岡消防署、同消防署楢葉分署、同消防署川内出張所の6カ所。実人員(職員数)は127人。県内の消防本部では小規模な部類に入る。  昨年届いた告発文には、「2023年2月22日、職員同士の飲み会で、上司が嫌がる部下にタバスコ入りの酒を一気飲みさせていた」など、同消防本部で横行するパワハラの事例が記されていた。若手職員Xは飲み会翌日から病休に入り、その後退職したという。  併せて加勢信二消防長が各消防所長に向けて送付した「職員の義務違反について(通知)」という公文書の写しも添付されていた。内容は職員がパワハラで懲戒処分されたのを受けて、言葉遣いや態度への注意を呼び掛けるもの。差出人は匿名だったが、おそらく同消防本部の職員だろう。  告発文が届いた後、同消防本部の職員3人がパワハラで懲戒処分(減給)となっていたことが10月14日付の地元紙で報じられた。おそらく同じものがマスコミ各社にも送られていたのだろう。本誌が入手した同消防本部の内部文書によると、経緯は以下の通り。  ▽被害を受けた若手職員Xは24歳(当時5年目)、富岡消防署所属。加害者はXと同じ班に所属していた。  ▽2022年10月ごろ、消防司令補A(41)が車両清掃作業中、高圧洗浄機で噴射した水をXの手に当てた。夜、ベンチプレスを使ったトレーニング時、Xにバーベルを上げながら声を出したり、彼女の名前を叫ぶように強要した。このほか、Xが兼務している庶務係の仕事をしている際、不機嫌な態度を取ったり、嫌みを言うこともあった。  ▽2023年1月ごろ、Xが防火衣の着装を拒んだとき、Aが不適切な発言(「風邪をひいたら殺すぞ」)をした。  ▽2023年2月ごろ、Xがトイレにいて、朝食を知らせる先輩の呼びかけが聞こえず集合に遅れた際、消防司令補B(35)がその状況を理解しないまま叱責した。  ▽2023年2月22日、同班職員がいわき市内でゴルフを行った後、私的な飲食会を開催。その場で消防士長C(29)がXに「タバスコが入った酒を飲め」と言った。Xはタバスコ入りの酒を飲んだだけでなく、Cからタバスコを直接口の中に入れられた。  ▽2023年2月23日、Xが当直長に「腹痛と下痢のため休みたい」と連絡。この日は年休で休み、その後3月1日まで休暇とした。  ▽2月27日、Xの母親が富岡消防署を来訪し、「息子がハラスメントを受けた」と訴えた。  ▽2月28日、所属長(消防司令長)が本人と面談。3月2日から病気休暇(神経症)を取って通院治療。6月30日付で依願退職した。  ▽Xへの聞き取り調査を経て、3月31日、A、B、Cに対し、富岡消防署長から口頭厳重注意処分が科された。  ▽4月25日にハラスメント対策協議委員会、7月3日に懲戒審査委員会が立ち上げられ、9月14日付でA、B、Cに対する懲戒処分書が交付された。懲戒処分内容はAが減給10分の1=6カ月、Bが減給10分の1=2カ月、Cが減給10分の1=1カ月、消防司令長が訓告(管理監督不十分)。同時に、X及びXの母親に処分内容が報告された。  昨年11月号記事の段階では詳細が分からなかったが、こうして見るとハラスメントが執拗に行われていたことが分かる。おそらく以前から似たようなことがあったのだろう。年下の部下ということもあって、加害者側は軽い気持ちでやっていたのかもしれないが、被害者にとっては大きなストレスとなり、心のダメージとして蓄積されていたことが想像できる。  2019年から勤務していた職員ということは、復興途上の原発被災地域で防災を担おうと高い志を持っていたはず。それを先輩職員がパワハラ行為で退職に追い込むのだからどうしようもない。  こうした体質はこの3人ばかりでなく、組織全体に蔓延しているようだ。というのも同組合の懲戒処分等に関する基準では、ハラスメントについて以下のように定めている。  《職権、情報、技術等を背景として、特定の職員等に対して、人格と尊厳を侵害する言動を繰り返し、相手が強度の心的ストレスを重積させたことによって心身に故障を生じ、勤務に就けない状況を招いたときは、当該職員は免職又は停職とする》  今回の事例ではパワハラを受けたXが休職を経て依願退職していることを考えると、加害者であるA、B、Cは明らかに免職・停職処分となる。ところが前述の通り、3人は懲戒処分の中でもより軽い減給処分で済まされた。  11月号記事で、同消防本部の金沢文男次長兼総務部長は「(懲戒処分が基準よりも軽くなった経緯について)公表していない」と述べた。また、9月14日付で懲戒処分したことを公表せず、10月14日付の地元紙が報じて初めて事実が明らかになったことについては「公表の基準が決まっており、それを下回ったので公表しなかった」と説明していた。どうにも組織全体でパワハラを軽視しており、情報公開を極力避けている印象が否めない。 管理職4人がいじめ!? 双葉地方広域市町村圏組合消防本部  双葉地方の事情通によると、同消防本部ではX以外にも若い職員が退職しており、その家族らも「若い職員を退職に追い込んだ加害者を減給処分で済ませるのはおかしい」と憤っているという。  そうした中、本誌編集部宛てに再び同消防本部に関する匿名の投書が届いた。消印は1月6日付、いわき郵便局。内容は概ね以下の通り。なおパワハラの当事者はすべて実名で書かれていたが、ここでは伏せる。  ▽パワハラが理由で職員Yが退職した。  ▽D係長はずっと嫌みを言ったり蹴ったり殴ったりしていじめていた。  ▽E係長は何度もYを消防本部に呼び出して必要以上に怒っていじめていた。  ▽F分署長はパワハラの事実を知っていたにもかかわらず、指導することなく逆にYを大声で怒鳴りつけていた。  ▽G係長は表でも裏でもしつこく嫌みを言い、陰湿ないじめを行っていた。  ▽この4人はY以外の職員にも現在進行形でパワハラを行っており、他にも辞めていった職員がいる。  ▽加勢消防長もパワハラを知っているはずだが、かわいがっている職員たちをかばい、パワハラをなかったことにしてしまう。  ▽金沢次長兼総務部長もパワハラを把握しているはずだが、分署長たちと仲良く付き合っていて、パワハラの訴えがあっても知らなかったことにしている。  ▽(消防の)関係者ではなく第三者が調査してほしい。ほとんどの職員がパワハラの実態を知っているので、Y本人と職員から聞き取りをしてほしい。  ▽辞めていった人たちは幸せ。辞めることができず、いまもパワハラを受けている私たちは毎日辛い。このままでは最悪な事態に発展することも考えられる。どうか私たちを助けてほしい。  前に届いた告発文に書かれていたのとは別の職員がパワハラで退職していたことを明かしているわけ。加勢消防長を含めほとんどの職員が把握しているのに上層部で握りつぶしている、という指摘が事実だとすれば、組織ぐるみでパワハラを隠蔽していることになる。  今回の投書には続きがあり、通勤手当不正についても記されていた。こちらも実名は伏せる。  ▽通勤手当を不正にもらっている職員がいる。E係長は浪江町にいるのに本宮市から、Hさんは郡山市にいるのに会津若松市から、Iさんは富岡町にいるのに田村市船引町から通っていることにして通勤手当を受け取っている。これは詐欺申告で不正受給ではないか。  原発被災地域を管轄エリアとしている同消防本部には、管轄エリア外の避難先で暮らしている職員もいる。それを悪用してより遠くから通勤していると申請し、通勤手当を不正受給しているケースがある、と。どれぐらいの金額になるのかは把握できなかったが、少なくとも通勤手当を目当てに異なる現住所を職場に伝えれば、緊急時に対応できないことも増えるはず。消防本部でそんなことが可能なのか、それともチェック体制が〝ザル〟ということなのか。  特定人物の評価を下げるために書かれた可能性も否定できないが、いずれにしても内部事情に詳しいところを見ると、同消防組合の職員、もしくはその内情に詳しい人物が書いたと見るべきだろう。  この投書は同組合の構成町村の議会事務局にも1月10日付で送付されたようで(本誌に届いた投書の4日後の消印)、町村議員に写しを配布したところもあるようだ。同組合には議会(定数25人)が設置されており、構成町村議員が3人ずつ(浪江町は4人)名を連ねているので、問題提起の意味で送ったのだろう。本誌以外のマスコミにも投書は届いていると思われる。 「コメントできない」  投書の内容は事実なのか。1月中旬、楢葉町の同消防本部を訪ね、金沢次長兼総務部長にあらためて取材を申し込んだが不在だった。対面取材の時間を取るのは難しいということなので、電話で投書の内容を読み上げコメントを求めたところ、次のように述べた。  「投書に記されている氏名はいずれも当消防本部に所属している職員、元職員なのは間違いありません。各町村に投書が届いているという話は聞いていますが、内容に関しては確認していないので、パワハラの有無や通勤手当不正受給について現段階でコメントできません。他のマスコミから問い合わせをいただいたこともありません」  本誌11月号記事では、消防でパワハラが起きる背景について、消防行政を研究する関西大学社会安全学部の永田尚三教授がこう語っていた。  「消防は一般的に体育会系的要素が強いのに加え、消防本部は地域間格差が大きい。地方の小規模な消防本部では日常の業務に追われ、パワハラ対策やコンプライアンスなどについて、十分に学ぶ時間が確保されていない可能性が高い。また、消防本部は行政部局から切り離され独立性が確保されていますが、それゆえに、行政部局の組織文化が共有されにくい側面もあると思います」  前出X氏の際は、2月下旬に母親がパワハラを指摘してから調査し公表されるまでに半年以上かかった。今回の投書を受けて同消防本部はどのように調査を進めるのか。またパワハラが事実だった場合、自浄能力を発揮できるのか。2月下旬に開会される同組合議会の行方も含め、その動向を注視していきたい。

  • 問題だらけの【福島県】消防組織

    問題だらけの【福島県】消防組織【パワハラ】【報酬ピンハネ】

    双葉地方広域消防本部「パワハラ」の背景 本誌に寄せられた投書  10月14日付の福島民報に「職員3人パワハラか 双葉地方消防本部 飲酒強要などで懲戒」という記事が掲載された。双葉地方広域市町村圏組合消防本部が、パワハラ行為があったとして職員3人を懲戒処分(減給)していたことを報じる内容。  実はこの前に、同消防本部のパワハラについて記した告発文が、本誌編集部宛てに寄せられていた。差出人は匿名で、消印は10月9日付、いわき郵便局。  パワハラの具体例を記した告発文と併せて、加勢信二消防長が各消防署長に向けて送付した「職員の義務違反について(通知)」という公文書の写しも添付されていた。内容はパワハラで懲戒処分された職員が出たのを受けて、言葉遣いや態度への注意を呼びかけるもの。おそらく差出人は同本部の職員だろう。  告発文によるとパワハラの内容は以下の通り。  ◯今年2月22日に開かれた職員同士の飲み会で、消防副士長(29)が嫌がる部下にタバスコ入りの酒を一気飲みさせた。  ◯消防司令補(34)が一次会で帰宅しようとした部下に土下座を強要した。  ◯警防係長(40)が過度の説教を開始。  ◯翌日から若手職員A(投書では実名)が病休に入りその後退職した。  新聞報道によると、処分された3人のうち1人は〝タバスコ消防副士長〟で、残り2人は訓練時の発言や不適切な言動、理不尽に受け取れる指導が処分対象になったという。  告発文によると、処分は9月14日付で、半年以上も経った後の処分ということになる。差出人が疑問視しているのは処分の軽さだ。というのも、同組合の懲戒処分等に関する基準では、パワハラなどで心身に故障を生じさせ、勤務できない状況を招いた際は免職・停職とすることが定められているのだ。  《その他にもパワハラで楢葉分署1名、富岡消防署2名が病気休暇で休んでいるのが、現状です。減給の処分職員はなんの反省もしていません》(告発文より引用)  福島県消防協会のホームページによると、同消防本部の管轄エリアは双葉郡8町村。実人員(職員数)は127人で、県内の消防本部では小規模な部類に入る。復興途上の原発被災地域の防災を担おうと入った若い職員がパワハラ行為の対象となり、退職・休職に追い込まれたのだとしたら、これほど理不尽な話はない。  同消防本部に詳細を問い合わせたところ、金沢文男次長兼総務課長が次のように答えた。  「パワハラに関する教育は年1回、階級に合わせて実施しています。パワハラの詳細や当消防本部が知るに至った経緯は新聞社などにも公表していないのでご理解ください。公表しない理由もお話しすることはできません。なお、楢葉分署、富岡消防署の休職者に関しては、今回のパワハラとは関係ありません」  懲戒処分が軽くなった経緯については「公表していない」、懲戒処分したことを公表しなかった理由については「公表の基準が決まっており、それを下回ったので、公表しなかった」と説明した。とにかく情報公開を避けている印象が否めない。こうした体質がパワハラを助長しているのではないか。  消防でパワハラが起きる背景について、消防行政を研究する関西大学社会安全学部の永田尚三教授は次のように語る。  「消防は一般的に体育会系的要素が強いのに加え、消防本部は地域間格差が大きい。地方の小規模な消防本部では日常の業務に追われ、パワハラ対策やコンプライアンスなどについて、十分に学ぶ時間が確保されていない可能性が高い。また、消防本部は行政部局から切り離され独立性が確保されていますが、それゆえに、行政部局の組織文化が共有されにくい側面もあると思います」  同消防本部ではパワハラ教育を実施しているということだったが、効果がなかったことを重く受け止め、この機会に徹底的に内部調査を行って、膿を出し切るべきだ。そのうえでハラスメント行為を相互チェックするルールなどを組み込み、見直しを図ることが求められる。 氷山の一角!?南相馬市消防団「報酬ピンハネ」  一方、南相馬市では、消防団員に報酬が渡されていなかった事例が明らかになった。10月9日付の毎日新聞によると、同市内の消防団が団員だった40代男性に1年半にわたり報酬を渡していなかった。  支払いを求める男性に対し、先輩団員は「消防団っていうのはボランティアなんだ。報酬は団に預けているんだ」、「昔から余ったお金を団に残して、コロナになる前は2年に1回くらい旅行に行っていた。その時に飲み物やビールを買う、宴会に使うというのをやってきた」と話し、「列からはみ出るようなら、辞めてもらうしかない」と迫ったという。 消防団の悪しき慣習  男性は報酬を受け取らないまま退団し、報酬未払いとパワハラについて、市としての対処を求める嘆願書を市長宛てに提出。1年以上連絡がなかったが、9月に毎日新聞が取材した直後、市長名の回答が寄せられた。パワハラは評価できないとしたうえで、「報酬等の取り扱いについて、団員に対する説明が不十分であったと判断し、消防団に対して口頭指導した」という内容だったという。その結果、男性はようやく報酬を受け取ることができた。  消防団の報酬問題については、本誌昨年6月号「ブラック公務員 消防団」という記事で触れた。なり手不足解消のため、消防庁では年額報酬の引き上げに加え、個人支給を強く要望している。分団ごとに一括支給すると、報酬の一部が「活動費」として強制的にプールされてしまう実態があったためだ。  現在は改善されているのか。南相馬市に問い合わせたところ、危機管理課所属の阿部信也災害対策担当課長がこう説明した。  「市では分団から頼まれて、報酬をまとめて振り込んでいましたが、現在は市が個人名義の口座に振り込んでいます。毎日新聞記事の事例も分団に頼まれ、まとめ払いしていたが、元消防団員の方はその説明を受けてないとのことだったので、話し合いを持つようお願いしました。嘆願書への返事が遅れたのは、弁護士と相談したり、事実確認する時間が必要となったためです」  消防団員は非常勤特別地方公務員に当たる。その報酬を勝手な判断でプールすれば公金横領となりそうだが、事前に市に委託があったことを踏まえ、市では問題視しない方針だという。  前出・永田教授は「消防団も規模によって異なる。消防庁の方針に従い、多くの消防団は改善に乗り出しているが、中には個人に支払われた報酬から会計責任者が活動費を再徴収したり、報酬が入る通帳を会計責任者が預かるなど悪質な事例もあるようです」と述べる。実際、本誌昨年6月号では再徴収されたケースや通帳を新たに作らされた事例を紹介している。南相馬市の事例は氷山の一角の可能性がある。  消火活動に加え、救急搬送、自然災害時の人命救助など消防組織は大きな役割を担っている。現場で命をかけて活動している職員には敬意を表するが、だからといって、消防職員の〝権利〟を侵害する労働環境・慣習は看過できない。県内の消防組織が自浄作用を働かせ、前時代的な組織からの脱却を図る必要がある。

  • 福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

    福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

     福島市役所に勤めていた会計年度任用職員の男性が、上司から大声で怒鳴られるなどの対応を取られたことで精神的ストレスを抱え、任期を迎える前に自主退職した。男性は「同市役所のパワハラ対策には欠陥がある」と訴える。 救済策で差を付けられる非正規職員  福島市で上司からパワハラを受けたと訴えるのは三条徹さん(仮名、44)。奥羽大卒。民間企業を経て、警察官を目指したものの叶わなかったため、国や県の非正規職員として働いてきた。福島市には2年前に会計年度任用職員として採用され、農業振興課生産振興係で勤務していた。  仕事内容は正規職員の事務補助。1年目に課長から頼まれてチラシの新しい整理方法を導入したところ、市長賞を受賞しやりがいを感じた。食堂、売店などが整備されていて働きやすかった。そのため2年目も継続して働くことにした。  ところが、その直後から、直属の上司である係長の態度が急変した。  他の職員とは冗談を言いながら話すときもあるのに、三条さん相手となると、不機嫌そうな表情を浮かべる。仕事の報告・面談時間の確認に対し、「そんなこと俺知らねえし」、「面談でも何でも結構でございますけどー」などと返された。  毎年実施している作業や、他の正規職員から頼まれた作業に従事しているときも、「なぜそんな無駄なことをやっているのか」、「そんな作業は他に仕事がないときにやってください!」と三条さんだけ怒鳴られた。次第に三条さんは係長と話すことに恐怖心を抱くようになった。  「私の仕事ぶりがダメで、つい注意してしまうというなら、いっそ1年目が終わった時点で契約を打ち切ってほしかった」(三条さん)  この係長は特定の職員に厳しく当たる癖があり、前年まで三条さんはその姿を他人事のように見ていた。  例えば別部署に異動した後も残務処理のため、たびたび農業振興課に訪れていた職員がいた。係長は顔を合わせるたび「まずあんたのことが信用できない。どうやったら私に信用してもらえるか考えないと」と繰り返し注意していた。「それだけ言われるということは仕事が遅い人なのだな。ダメな人だな」と思っていた。  しばらくすると、別の若手職員が連日注意されるようになった。「何でやってないの!? 君の言うことは信用できないし、聞くに値しない!」と怒鳴る声が、部署の端にいる三条さんにも聞こえて来た。若手職員は新年度、別の部署に異動していった。「大変だな」と見ていたが、まさか次は自分が厳しく言われる側に回るとは考えていなかった。  「自分が至らないから係長にこれだけ怒られるのだ」と言い聞かせて仕事を続けていた三条さんだったが、昨年12月ごろになると、毎日のように理不尽な理由で怒られるようになった。精神的に限界を迎えた三条さんは人事課に駆け込み相談した。改善につながることを期待したが、そうしている間に、三条さんにとって決定的な出来事が起きた。  三条さんの始業時間は9時15分。毎朝、始業時間の少し前に出勤し、カウンターをアルコールで拭き、鉢植えの花に水をあげ、周りを雑巾で拭いてから、新聞のスクラップをするのがルーチンワークだった。  ところが、その日に限って係長が始業時間前に三条さんを呼び止め、「新聞のスクラップは終わったのか!?」と尋ねた。「私の始業時間は9時15分からでは……」と恐る恐る答えると、嫌みを込めたトーンで「それは大変申し訳ありませんでした」と言われた。  勤怠状況を管理しているのは係長で、始業時間を知らないはずはない。連日さまざまな理由で怒鳴られていたが、ついに始業開始前から始まるルーチンワークにまでイチャモンを付けられるようになったのか――。心が折れた三条さんは課長に抗議の意味を込めて辞表を提出した。  当初、課長は係長のパワハラについて「気付かなかった」として、「有休を使って休んでいる間に考えよう」と退職を考え直すよう言ってくれた。だが、1月に入ると態度を一変。「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった。課のみんなもどう接していいか分からない」と突き放された。  やむなく正式に退職の事務手続きを進めるため、人事課を訪ねると、前回相談した職員が顔を出し、「すみません、あの後、コロナになっちゃって」と謝ってきた。精神的に限界を迎えて相談したにもかかわらず、他の職員への引き継ぎも行われず、放置されたままになっていたのだ。  「せめて一言連絡しようとは考えなかったのか、不思議でなりません」(三条さん)  あらためて同市の形式にのっとった辞表を提出するよう求められ、人事課職員に言われた通り、退職理由を「一身上の都合により」と書いて提出。結局、1月末で退職した。  離職後、失業保険の手続きや転職先探しのためにハローワークに行った三条さんは退職理由の詳細を聞かれて、素直に「パワハラを受けたから」と答えた。退職理由を書き換えるための申立書を渡されたので、係長にパワハラを受けたこと、人事課に相談に乗ってもらえなかったことを書いて市に送った。市からの返事は、所属長である農業振興課長による「パワハラではなく『指導』の範囲内だった」というものだった。  「パワハラについて『気付かなかった』と話していた課長がなぜ『指導の範囲内だった』と言えるのでしょうか。辞表提出後、課長は『今回の件で俺の評定も下がっただろう』とも話していたが、『指導の範囲内』なら評定が下がるわけがありませんよね。いろいろ矛盾しているんです」(三条さん) 周知不足の相談窓口 福島市役所  実は福島市役所内にはパワハラなどのハラスメントの被害に遭った職員の相談を受ける窓口があった。  一つは公平委員会。地方公務員法第7条に基づき、職員の利益保護と公正な人事権の行使を保護するための第三者機関として設置されている。主な業務は①勤務条件に関する措置の要求、②不利益処分についての審査請求、③苦情相談。福島市の場合、総務課が担当課になっている。苦情を申し立てれば、双方に事情を聞くなどの対応を取ってもらえたはずだ。  だが、三条さんは在職時に公平委員会の存在を知らず、人事課の担当者に相談した際も紹介されることはなかった。  市では3年ほど前から、パワハラ被害などに悩む市職員に、弁護士を紹介する取り組みも始めている。ところが、ポスターなどで周知されているわけではなく、正規職員に支給されるパソコンでのみ表示される仕組みになっていた。会計年度任用職員には、個別のパソコンを支給されていない。そのため、三条さんはそんな制度があることすら知らなかった。退職後に制度を利用させてほしいと頼んだが、「もう職員じゃないので難しい」と断られた。  福島市役所職員労働組合は正規職員により構成されているが、会計年度任用職員からの相談も受け付けている。ただ、三条さんは市職労に相談しようと思いつきもしなかった。  パワハラ自体の問題に加え、相談窓口が十分に周知されていない問題もあることが分かる。  「このままでは自分と同じような目に遭う職員が出る」。三条さんは木幡浩市長宛てに再発防止策を講じるよう手紙を出したほか、市総務課に公益通報したが、何の回答もなかった。労働基準監督署や県労働委員会に行って、「もし福島市職員からパワハラ相談があったら、相談窓口があることを教えてください」と伝えた。マスコミにもメールで情報提供したが、動きは鈍かった。 木幡浩市長  ちなみに本誌にもメールを送ったそうだが、システムのトラブルなのかメールは届いていなかった。唯一月刊タクティクス7月号で報じられたが、大きな話題になることはなく、あらためて本誌に情報提供したという経緯だった。  元会計年度任用職員の訴えを市はどう受け止めるのか。人事課の担当者はこのように話す。  「当事者(三条さん)から相談を受けた後、所属長である農業振興課長が係長に聞き取りしたが、本人は発言の内容をはっきり覚えていませんでした。多少大きな声で指導したのかもしれませんが、捉え方は人によって異なるし、それが果たしてパワハラに当たるのかどうか。人事課では農業振興課長と面談し対策を講じようとしていたが、(三条さんが)辞表を提出した。展開が早くて、弁護士の制度を紹介したり、パワハラの有無を調査する間もなかった、というのが正直なところです。パワハラがあったかどうかは、市としても顧問弁護士などと相談して検討する話。双方にしっかり話を聞くなど、調査を行わずに断言はできません」  パワハラの事実を認めないばかりか、人事課で相談を放置していたことを棚に上げ、「調査する前に退職したのでパワハラの有無は分からない」と主張しているわけ。  ちなみに人事課への相談が放置されていた件に関しては「人事に関する相談はデリケートな問題なので、一つの案件を一人で継続して担当するようにしている。そうした中でうまく引き継ぐことができなかった」と他人事のように話した。 「誰にでも大声を出していた」  一方でこの担当者はこのようにも説明した。  「農業振興課長の報告によると、係長は興奮すると誰にでも大きな声を出して熱くなることがあった。その人だけに嫌がらせをしていたわけではないという意味で、パワハラと言い切れるのだろうか、と。そういう点からも、市としては、『一連の対応はパワハラではなく業務上の範囲内だった』という認識ですが、態度によってはパワハラと受け取られる可能性があるということで、あらためて農業振興課長が係長に指導を行いました」  三条さんだけでなく、誰にでも大声で怒鳴ることがある職員だったのでパワハラには当たらない、というのだ。厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」。市の解釈だと、特定の人物に対してでなければ、どれだけ精神的苦痛を与えてもパワハラには当てはまらないことになる。  人事課担当者は「管理職を対象としたハラスメント研修を定期的に実施している」と話すが、この間のやり取りを踏まえると、正しい知識のもとで行われているか疑問だ。  気になったのは、人事課の担当者が、三条さんが退職した経緯についてこのように述べたことだ。  「(三条さんは)係長への抗議的な意味合いで辞表を出したようですが、同じ部署で働きづらい部分もあるし、もうやめるしかないんじゃないか、という流れで退職に至ったと聞いています」  前述の通り、三条さんは課長から「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった」と言われ、退職を促された、と主張していた。三条さんの見解とは違う形で報告されていることが分かる。  ちなみに課長、係長はともに今春の人事異動で農業振興課から異動になっており、どちらも降格などにはなっていなかった。  三条さんがいなくなった後の農業振興課ではどんなことが起きていたか共有され、再発防止策は講じられているのか。4月に赴任した長島晴司課長に確認したところ、「当然共有されています。ああいったことがあると、職場の雰囲気は悪くなるし、係の職員も疲弊する。そうした雰囲気の改善に努めており、併せてパワハラと受け取られるような指導はしないようにあらためて気を付けています」と話した。 厚労省指針は守られているのか  地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、「厚労省の指針では職場におけるハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知するよう定められている」という。  上林特任教授が執筆を担当した『コンシェルジュデスク地方公務員法』では公務員のハラスメント対策について、次のように記されている。  《部下は、パワーハラスメントを受けていても、上司に対してパワーハラスメントであることを伝えることは難しい。とりわけ、非正規職員のような有期雇用職員は、次年度以降の雇用の任命権者が直属の上司の場合が多いため、なおさら相談しにくい。したがって、上司以外の信頼できる職場の同僚、知人等の身近な人やより上位の人事当局、相談窓口等に相談することが必須となる》  《相談窓口・相談機関は、事業主の雇用管理上講ずべき措置の内容の中では重要な位置取りをしめ、厚生労働省のパワハラ防止指針では、相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することとし、相談窓口担当者は、①相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、②相談窓口については、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じているだけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることが求められているとしている》  昨年、市が公表した「福島市人事行政の運営等の状況について」という文書によると、2021年度における公平委員会の業務状況は、不利益処分に関する不服申立1件、職員の苦情の申立1件のみ。  職員からの苦情がない快適な職場なのか、それとも公平委員会の存在自体を知らない人が多いだけか。いずれにしても厚労省通知に定められている労働者への周知が行われているとは言い難い印象を受ける。  もっというと、会計年度任用職員にはパソコンが支給されていなかったので、弁護士相談制度に触れられなかったというのは、結果的に正規職員と非正規職員で相談窓口の案内に差が出た形になる。同じ中核市である郡山市、いわき市にも確認したが、そのような差はなかった。すぐに解消すべきではないか。  現在は福島市内の別の場所で働いている三条さん。「私のような思いをする人がこれ以上出てほしくない。いまさら謝罪や責任追及を求めているわけではない。市役所は閉鎖的でおそらく自浄作用はない。だからこそ、報道を通していかに福島市のパワハラ対応がダメか、多くの人に知ってもらい、少しでも体制改善につながればと思っている」と訴えた。福島市はまずパワハラ対策の周知から始めるべきだ。

  • 【JESCO】中間貯蔵を担う風通しの悪い国策会社

    【JESCO】中間貯蔵を担う風通しの悪い国策会社

     東京電力福島第一原発事故で生じた放射性物質を含んだ除染土を最終処分するまでの間、保管を担う国策会社「中間貯蔵・環境安全事業株式会社」(JESCO・本社東京)に上司から暴言を吐かれたと訴える職員がいる。上司は「怠慢を指導」とし、職員は「パワハラを受けた」と互いの主張は平行線。寄せ集めの組織ゆえ、職員同士の連携が並大抵でない実態が浮かび上がってきた。 「怠慢を指導」か「パワハラ」かでいがみ合い 除染廃棄物の運搬状況を監視するJESCOの輸送統括ルーム(いわき市)=2020年2月撮影  8月24日、東京電力福島第一原発で発生した汚染水を浄化処理した水の海洋放出が始まった。「水」に注目が集まる一方、事故で発生した放射性物質を含む「土」の保管を担う中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の中間貯蔵管理センター福島事務所(福島市)に勤務する60代の男性職員は、所長を務める男性から投げ掛けられたという暴言をこう振り返った。  「2022年1月に環境省から委託された建物の解体工事の設計変更を担当しました。同27日に設計書の納期が迫っているのにまだ終わらないのかと上司から言われました。『やる気あんのか!』『ふざけんじゃねえぞ!』などの暴言を吐かれました」  男性職員は、大学の工学部を卒業後、民間企業、復興庁を経て2017年にJESCOに入社した。民間企業に勤めていた時は建築現場で働き、一級建築士の免許を取った。  ここでJESCOの組織に触れておかねばならない。特徴は、中途採用や出向者が多く、職歴がさまざまな人物が集まる大所帯(従業員559人=今年3月末現在)ということだ。それが、職員間の軋轢を生みやすい土壌につながっている可能性がある。  JESCOは、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法に基づき政府全額出資で2004年に設立された特殊法人。当初の事業はポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物の処理で、16年に終える計画だった。ところが14年に計画を延長した上、原発事故で発生した除染土の収集や運搬、中間貯蔵、調査研究、技術開発の事業も追加された(東京新聞2017年4月24日付より)。  代表取締役社長は環境省で事務次官(2019年7月~20年7月)を務めた鎌形浩史氏。資本金は382億円(2023年2月末現在)。  前出の東京新聞の記事は、JESCOが中央省庁から再就職者や現役出向者を19人受け入れ、そのうち監督官庁の環境省出身者が17人で約9割を占めていたと報じた。「環境省職員だからといってPCB処理や中間貯蔵のプロというわけではない。OBや出向者を20人近くも在籍させる必要があるのか疑問だ」という元経済産業省官僚古賀茂明氏の指摘を紹介している。  除染で集めた汚染土壌を保管するのは不可欠な仕事だ。環境省所管の国策会社のため、JESCOは代々トップに同省事務次官経験者を据え、取締役と監査には元官僚と民間企業の役員が付いている。天下り先と言われる所以だ。  前出の男性職員によると、福島市の事務所では県職員が退職後に所長になり、実務は東電や土木建設会社からの出向者・転職者が主導し、現地採用の任期付き職員や派遣社員が従っているという。  JESCOの業務はPCBの処理と、除染土を最終処分するまで管理することなので、新たな業務を抱え込まない限り事業は将来縮小する。言わば「尻拭い」の組織。実務者には、生え抜きの職員を多く採用して一から育てるよりも、即戦力の人物を民間から集め、その他は臨時職員で人員調整する方が都合が良い。  男性職員に暴言を吐いたとされる所長は、県が発表する「退職県職員の再就職状況」によると、2017年度に水・大気環境課長を退職し、JESCOの福島事務所に再就職したと記載されている。  本誌は所長に、男性職員が訴える昨年1月27日の暴言について確認した。  「ハラスメントを受けたという申告はありましたが『苦情』と処理しています。『やるべきことをやらない人に厳しく指導をした』との認識です。男性職員には工事設計の締め切りを前から知らせていたのに、必要な作業をする素振りが見られませんでした。本人に確認すると『期限は明日までと思っていました』と答えました」  さらに、  「彼は『設計部門をできる』と虚偽を言って採用されたのではないでしょうか。周りがカバーしなければならず、他の職員から批判が出ました。所長の手前、必要な指導をしたと認識しています」  所長によると、納期が迫る中、工事の設計結果を急いで提出するよう指導したが、その時に「激しい言葉遣いになった」との認識のようだ。  男性職員が反論する。  「期限は同2月上旬で、まだ時間はあり、私は計画的に進めていました。正しい期限は議事録で回し、所長もチェックを入れ確認していたはずです。前職では解体工事の設計を担当したことがあります。経験に従って自分の中では順調に進んでいると思っていましたが、突然『間に合わないのではないか』と詰められ、そこで環境省委託の設計書では見積もり方法が異なっていることを知りました。想定していた期限よりも前に、徹夜で仕上げるようにと罵倒を交え叱責されました」  男性職員は、所長とのトラブルに至る前段に、発注者である環境省内で職員同士の折り合いが悪く、同省からJESCOへの指示が一本化されていなかった点、以前に環境省の仕事を請負い辛酸を舐めた民間業者から「今度の担当者は最後に仕事を押し付けてくる人物なので気を付けろ」と助言され、実際にその通りだった点を挙げ、工事の流れの川上に立つ環境省職員の問題も指摘した。 所長と同じフロアに  男性職員によると、暴言を吐かれたことを受け、福島労働基準監督署に相談して本社の人事部と面談し、別の仕事の担当になったという。ところが、その職場は所長と同じフロアで、「罵声を浴びせられるのでないかとビクビクし、顔を合わせることに苦痛を感じる」と話す。  一方、所長はと言うと「ここまで『苦情』を申し立てる職員はレアケース。やることをやらず、権利だけ主張するのはおかしいと思います」。  本誌は5月号に「福島国際研究教育機構職員が2日で『出勤断念』 霞が関官僚の〝高圧的態度〟に憤慨」という記事を掲載した。現地採用の職員が官庁の出向者から馬鹿にされたと思い、「この上司とは信頼関係を築ける気がしない」と2日で出勤を諦めた内容。寄せ集めの職場では、信頼関係を築くのが並大抵ではないことが分かる。  男性職員と所長の話を聞くと、JESCO福島事務所の職場は風通しが悪そうだ。JESCOは国策事業を担い、多額の公金が投入されているので、職場問題が業務に支障を及ぼさないか国民は不安を覚えるだろう。仲良くしろとは言わないが、準公務員であることを自覚し「呉越同舟」で職務に励んでほしい。 ※JESCO本社に事実関係を確認すると、男性職員の申し出は「ハラスメントの相談として受け付け、詳細については個人が特定される情報なので、回答を控えさせていただきますが、社内規程および厚労省の指針に則り、ヒアリング調査など必要な対応をとりました」とのこと。「会社としては、ハラスメントの防止に引き続き力を入れて取り組んでいく所存です」とした。 https://www.youtube.com/watch?v=CTJF_pbybQo&t=275s 【福島】【原発】【中間貯蔵施設】① 輸送統括ルーム(2020年.2.20)

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

    ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • 浪江町社会福祉協議会で事務局長が突然退任

    浪江町社会福祉協議会で事務局長が突然退任

     浪江町は帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除の動きが進む。3月に解除の判断が示されるが、本誌編集部には「解除後の医療福祉は大丈夫なのか」と心配の声が寄せられている。調べると、浪江町社会福祉協議会では本誌既報のパワハラ問題が解決していない。(小池航) 調査で指摘された自身のパワハラ  本誌昨年11月号「浪江町社協でパワハラと縁故採用が横行」という記事で、職員によるパワーハラスメントが蔓延している問題を取り上げた。被害者がうつ病を発症して退職を余儀なくされ、業務をカバーするため職員たちの負担が増加した。加害者は1人で会計を担当しており、替えが利かない立場を笠に着て、決裁を恣意的に拒否していた。こうした事態は専門家からガバナンス崩壊と指摘された。 浪江町社会福祉協議会の事務方トップである事務局長は、加害者を十分に指導せずパワハラを放置していた。自身は、親族や知人の血縁者を少なくとも4人採用。介護業界は人手不足とは言え、求められているのは介護士や看護師など福祉や医療の有資格者。事務局長が採用した職員たちは資格を持たず、即戦力とは言い難かった。職員や町民から「社協を私物化した縁故採用」と問題視されていた。 その事務局長が3月末付で退くというのだ。2月中旬を最後に出勤もしていない。 退任するのは鈴木幸治事務局長(69)。同社協の理事も兼ねる。鈴木事務局長は53歳ごろまで町職員を務めた後、町内の請戸漁港を拠点に漁師に転身。大震災・原発事故後の2013年から町議を1期務めた。鈴木事務局長によると、議員を辞めた後に本間茂行副町長(当時)に請われ、2019年から現職。現在2期4年目。 鈴木事務局長は昨年10月、筆者が同社協で起こっていたパワハラについて取材した際、「調査する」と明言していた。筆者は調査の進展を聞くため2月20日に同社協の事務所を訪ねた。鈴木事務局長との面談を求めたが、応対した職員から不在と伝えられた。代わりに理事会のトップを務める栃本勝雄会長が応じた。この時、筆者はまだ鈴木事務局長が辞めるとは知らされていなかった。 栃本会長は調査の進捗状況をこう説明した。 「弁護士と相談し、全職員にパワハラを見聞きしたかアンケートを実施したが、報告できるようなきちんとした結果はまだ出ていません。調査結果の報告、パワハラに関与したとされる職員への対応、社協内でのハラスメント対策をどうするかも含め、弁護士と相談しながら進めているところです」 ハラスメントは重大な人権侵害と厳しい目が向けられる昨今、一般企業や役所では規則を整え、調査でハラスメントによる加害行為が認定された職員は懲戒処分の対象になる流れにある。栃本会長によると、加害行為の疑いがある職員は在職中とのことだが、 「懲戒処分にするかどうかという話までは発展していません」(同) アンケートは昨年末までに実施した。同社協が依頼した弁護士に、職員が個別に回答を郵送、弁護士は個人が特定されない形にまとめた。公平性を担保するため、パワハラの舞台となった同社協はアンケートに関わる作業にはタッチしていないという。1月に入り、中間報告という形で結果が上層部に明かされた。全職員や理事会、評議会には知らせていないが、栃本会長は 「年度内には全職員に正式結果を知らせる予定です。理事会には正式結果と合わせて経過の報告も必要と考えています。ただ、現時点では正式結果がまとまっておらず、お答えできません」 ここまで質問に答えて、栃本会長は一息ついて言った。 「何せ私も吉田数博前町長(同社協前会長)から引き継いで昨年6月に就任したもので。ですから、会長に就くまでは内情を知らなかったんです」 筆者が「やはり詳しいのは長年勤めている鈴木事務局長ですかね」と聞くと、 「鈴木事務局長は休暇に入っています。任期満了を迎える3月末で辞める予定です」(同) 栃本会長によると、1月下旬に鈴木事務局長から「体調が思わしくないので、任期満了を迎える今期で辞めたい」と言われたという。事務所にあった私物も既に片付けており、再び出勤するかどうか分からないとのこと。 パワハラを放置した責任を取って辞めたということなのだろうか。栃本会長に問うと「私には分かりませんし、彼とはそのような話はしていません。任期満了となるから辞めるだけでしょ」。 鈴木事務局長はデイサービス利用者の送迎も担当していた。 「今はデイサービスの事業所に任せています。人手が必要なのに痛手ですよ。残った職員でカバーしながらやっています」(同) 公用車の私的使用も 参考画像 トヨタ「カローラクロス」(ハイブリット車・2WD)2022年12月のカタログより  体調不良で休んでいるというのが気になる。昨年11月号の取材時、パワハラを放置した責任があるのではないかと考え、鈴木事務局長に根掘り葉掘り質問した。あるいは記事により心身が病んでしまったのだろうか。後味が悪いので、事務局長が現在どうしているか複数の町関係者に問い合わせると意外な事実が分かった。 「同社協では『事務局長はどうしているか』と質問されたら『任期満了で辞める』と答えることになっているそうです。ですが実際の話は少し違います」(ある町関係者) 任期満了で退くのは事実だが、任期を迎える1カ月以上も前から、送迎の役目を投げ出してまで出勤しなくなったのは確かに不可解だ。取材で得られた情報を総合すると、鈴木事務局長は同社協にいづらくなり、嫌気が差して一足早く去ったというのが実情のようだ。 発端は、前述の同社協上層部に先行して伝えられたアンケート結果だった。 パワハラの加害者と疑われる職員から受けた被害が多数記述されていると思われたが、ふたを開けてみると、鈴木事務局長自身もセクハラ、パワハラ、モラハラの加害者という回答が相次いだのだ。「こんな人がいる職場では働けない。1日も早く辞めてほしい」と切実な訴えもあったという。 ハラスメントだけではなかった。同社協が職務に使っているSUVタイプの自動車「トヨタ カローラクロス」を鈴木事務局長が週末に私的利用しているという記述もあった。 同社協が第三者である弁護士にアンケートの集計を依頼し、結果は上層部しか知らないはずなのに、なぜこうも詳細に分かるのか。それは当の鈴木事務局長が自ら明かしたからだ。2月の最終出勤日に部署ごとに職員を集め、前述の自身に関わる内容を話したという。 ハラスメントの加害者のほとんどは組織の中で立場の強い者だ。加害行為を「指導」や「業務」と履き違え、本人は自覚がないことが往々にしてある。だが、被害者が苦痛と感じれば、それはハラスメントになるのが現代の常識。まずは被害者の話に耳を傾け、組織として事実かどうかを認定することが求められる。 昨年11月号の取材で鈴木事務局長は「パワハラがあると聞いてびっくりしている」「当事者同士の言葉遣い、受け取り方による」とパワハラから目をそらし、矮小化とも取れる発言をしていた。自分は関係ないと思っていただけに、今回のアンケート結果に愕然としただろう。部下から「1日も早く辞めてほしい」と言われては、任期満了を待たずに一刻も早く辞めたい気持ちになる。 不祥事追及がうやむやに  いずれにせよ、鈴木事務局長は同社協を去った。それでも、ある職員は同社協の行く末を懸念する。 「アンケート結果が出たタイミングで事務局長が辞めることで、あらゆる不祥事の責任を取ったとみなされ、問題がうやむやになってしまうのを恐れています。このままでは、パワハラを行っていた職員におとがめがないまま幕引きになってしまいます」 鈴木事務局長は決してパワハラと縁故採用の責任を取って辞めるわけではない。同社協が表向きの理由として知らせているように、任期満了を迎えるから辞めるのだ。既に出勤していないのも「体調が思わしくない」と栃本会長に申し出たためだ。 間もなく70歳のため、高齢で体力的に職務が務まらないなら仕方がない。ただ、栃本会長は「鈴木事務局長が担当していたデイサービス利用者の送迎を他の職員に頼んでいる」と漏らしており、急きょ出勤しなくなったことで、サービスの受益者である町民や同社協職員の業務に与えた影響はゼロではないだろう。 こうした中、町民と職員が関心を寄せるのが後任の事務局長だ。同社協は退職した町職員が事務局長に就くのが慣例だった。社協は、建前は民間の社会福祉法人だが、自治体の福祉事業の外注先という面があり、委託事業や補助金が主な収入源。浪江町社協の2021年度収支決算によると、事業活動による収入のうち、最も多くを占めるのが町や県からの「受託金収入」で1億5300万円(事業活動収入の約68%)。次が町の補助金などからなる「経常経費補助金収入」で4400万円(同約19%、金額は10万円以下を切り捨て)。 自治体の補助金で運営が成り立っている以上、社協と調整を円滑にするため自治体職員を派遣するのが通常で、現に浪江町でも町職員を1人出向させている。 栃本会長は「後任の事務局長は町役場と相談しながら決めます」と話す。同社協との実務を調整する町介護福祉課の松本幸夫課長は、後任の事務局長について、 「町長や副町長には同社協から報告が上がっていると思いますが、介護福祉課には伝わっていません。社会福祉行政に明るい人物も考えられるし、それ以外の人も含めて検討していると思います」 要するに、発表できる段階にはないということだ。 同社協は人材不足にも陥っているが、栃本会長は人材確保に向けた方針を次のように明かす。 「現場で実務を担う介護や医療の有資格者を募集しなければならないと思っています。地元のために一緒に働いてくれるだけで十分ありがたいのですが、半面、限られた人員で運営していく以上、採用するなら有資格者が望ましいです」 鈴木事務局長が行った無計画な縁故採用からの脱却が進みそうだ。 最後に、同社協の目指すべき未来を示した発言を紹介する。長文だが重要なのですべてを引用する。 《震災後、役場機能の移転に合わせて社協も転々としました。避難当時の混乱で職員が一人もいなかった時期もありました。一部地域の避難指示の解除を受け、2017(平成29)年4月に社協も町へ戻ることができました。現在は、浪江町と二本松市の事務所を拠点に、町民の様々な福祉サービスに取り組んでいます。 福祉における一番の課題は、これからの介護です。町内に居住する住民1600人のうち65歳以上の割合を示す高齢化率は約40%ですが、震災前に町に住んでいた人に限ると約70%と非常に高くなっています。自分の子どもや孫と離れて一人で暮らす方も多く、次第に介護が必要となってきています。2022(令和4)年には、町の地域スポーツセンターの向かいにデイサービス機能を備えた介護関連施設が完成する予定です。私たち社協は、オープンと同時に円滑にサービスを提供できる体制を整えていきたいと考えています。 原発事故の影響で散り散りになった町民にとっては、テーブルを囲み、お茶菓子を食べて語り合うだけでも、心の拠り所になるはずです。そんな交流の場を必要としている高齢者が町には数多くいます。浪江町民のために役場との連携をより深め、福祉政策の実現に取り組んでいきたいと思います》(『浪江町 震災・復興記録誌』2021年6月より) 発言の主は鈴木事務局長。筆者も同感だ。 あわせて読みたい 【浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

    【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

    二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

     二本松市役所で産業部長によるパワハラ・モラハラが横行している。被害者が声を上げないため公には問題になっていないが、部下の課長2人が2年連続で出先に異動し、部内のモチベーションは低下している。昨今は「ハラスメントを許さない」という考えが社会常識になっているが、三保恵一市長はこうした状況を見過ごすのか。そもそも、三保市長自身にもパワハラ疑惑が持ち上がっている。(佐藤仁) 「城報館」低迷の責任を部下に押し付ける三保市長  まずは産業部内で起きている異変を紹介したい。同部は農業振興、商工、観光の3課で組織されるが、舞台となったのは観光課である。 2021年4月から観光課長に就いたA氏が、1年で支所課長として異動した。その後任として22年4月から就いたB氏も半年後に病休となり、11月に復職後は住民センター主幹として異動した。課長から主幹ということは降格人事だ。 B氏の後任は現在も決まっておらず、観光課長は空席になっている。 菊人形、提灯祭り、岳温泉など市にとって観光は主要産業だが、観光行政の中心的役割を担う観光課長が短期間のうちに相次いで異動するのは異例と言っていい。 原因は、荒木光義産業部長によるハラスメントだという。 「荒木部長の言動にホトホト嫌気が差したA氏は、自ら支所への異動を願い出た。『定年間近に嫌な思いをして仕事をするのはまっぴら。希望が通らなければ辞める』と強気の姿勢で異動願いを出し、市に認めさせた。これに対し、B氏は繊細な性格で、荒木部長の言動をまともに受け続けた結果、心身が病んだ。問題は1カ月の病休を経て復職後、主幹として異動したことです。職員の多くは『被害者が降格し、加害者がそのまま部長に留まっているのはおかしい』と疑問視しています」(市役所関係者) 荒木部長のハラスメントとはどういうものなのか。取材で判明した主な事例を挙げると①感情の浮き沈みが激しく、機嫌が悪いと荒い口調で怒る。②指導と称して部下を叱責する。いじめの部類に入るような言い方が多々みられる。③陰口が酷く、他者を「奴ら」呼ばわりする。④自分だけのルールを市のルールや世間の常識であるかのように押し付け、部下が反論すると叱責する。⑤部下が時間をかけて作成した資料に目を通す際、あるいは打ち合わせで部下が内容を説明する際、自分の意図したものと違っていると溜息をつく。⑥「なぜこんなこともできない」と面倒くさそうに文書の修正を行う。ただし、その修正は決して的確ではない。⑦上司なので上からの物言いは仕方ないとして、人を馬鹿にしたような態度を取るので、部下は不快に感じている。⑧親しみを込めているつもりなのか部下をあだ名で呼ぶが、それによって部下が不快な思いをしていることに気付いていない。 分類すると①~③はパワハラ、⑤~⑧はモラハラ、④はモラパワハラになる。 さらにモラハラについては▽文書の直しが多く、かつ細かすぎて、最後は何を言いたいのか分からなくなる▽30分で済むような打ち合わせを2、3時間、長い時は半日かけて行う▽同じ案件の打ち合わせを何度も行う▽市長、副市長に忖度し、部下はそれに振り回されている▽予算を度外視した事業の実施や、当初・補正予算に高額予算を上げることを強要する――等々。おかげで部下は疲弊しきっているという。 そんな荒木部長の機嫌を大きく損ねている最大の原因が、市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下、城報館と略)の低迷である。 低迷する城報館 2階部分から伸びる渡り廊下  城報館は昨年4月、県立霞ヶ城公園(二本松城跡)近くにオープンした。1階は歴史館、2階は観光情報案内というつくりで、2階には同公園との行き来をスムーズにするため豪華な渡り廊下が設置された。駐車場は大型車2台、普通車44台を停めることができる。 事業費は17億1600万円。財源は合併特例債9億8900万円、社会資本整備総合交付金5億3600万円、都市構造再編集中支援事業補助金1億3900万円を使い、残り5000万円余は市で賄った。 市は年間来館者数10万人という目標を掲げているが、オープンから10カ月余が経つ現在、市役所内から聞こえるのは「10万人なんて無理」という冷ややかな意見である。 「オープン当初こそ大勢の人が詰めかけたが、冬の現在は平日が一桁台の日もあるし、土日も60~70人といったところ。霞ヶ城公園で菊人形が開催されていた昨秋は菊人形と歴史館(※1)を組み合わせたダブルチケットを販売した効果で1日200人超の来館者数が続いたが、それでも10万人には届きそうもない」(ある市職員) ※1 城報館は入場無料だが、1階の歴史館(常設展示室)の見学は大人200円、高校生以下100円の入場料がかかる。  市観光課によると、昨年12月31日現在の来館者数は8万6325人、そのうち有料の常設展示室を訪れたのは4万2742人という。 市内の事業主からは「無駄なハコモノを増やしただけ」と厳しい意見が聞かれる。 「館内にはお土産売り場も飲食コーナーもない。2階に飲食可能な場所はあるが、自販機があるだけでコーヒーすら売っていない。あんな造りでどうやって観光客を呼ぶつもりなのか」(事業主) 市は昨年秋、菊人形の来場者を城報館に誘導するため、例年、菊人形会場近くで開いている物産展を城報館に移した。三百数十万円の予算をかけて臨時総合レジを設ける力の入れようだったが、物産展を城報館で開いているという告知が不足したため、菊人形だけ見て帰る人が続出。おかげで「ここはお土産を買う場所もないのか」と菊人形の評価が下がる始末だったという。 「城報館に物産展の場所を移しても客が全然来ないので、たまりかねた出店者が三保市長に『市長の力で何とかしてほしい』と懇願した。すると三保市長は『のぼり旗をいっぱい立てたので大丈夫だ』と真顔で答えたそうです」(同) 三保恵一市長  本気で「のぼり旗を立てれば客が来る」と思っていたとしたら、呆れて物が言えない。 オープン前の市の発表では、年間の維持管理費が2300万円、人件費を含めると4400万円。これに対し、主な収入源は常設展示室の入場料で、初年度は950万円と見込んでいた。この時点で既に3450万円の赤字だが、そもそも950万円とは「10万人が来館し、そのうち5万人が常設展示室を見学する=入場料を支払う」という予測のもとに成り立っている。10万人に届きそうもない状況では、赤字幅はさらに膨らむ可能性もある。 上司とは思えない言動  前出・市職員によると、常設展示室で行われている企画展の内容は素晴らしく、二本松城は日本100名城に選ばれていることもあり、歴史好きの人は遠く関東や北海道からも訪れるという。しかし、歴史に興味のない一般の観光客が訪れるかというと「一度は足を運んでも、リピーターになる可能性は薄い」(同)。多くの人に来てもらうには、せめてお土産売り場や飲食コーナーが必要だったということだろう。 「施設全体で意思統一が図られていないのも問題。城報館は1階の歴史館を市教委文化課、2階の観光情報案内を観光課が担い、施設の管理運営は観光課が行っているため、同じ施設とは思えないくらいバラバラ感が漂っている」(同) 筆者も先月、時間をかけて館内を見学したが(と言っても時間をかけるほどの中身はなかったが……)、もう一度来ようという気持ちにはならなかった。 早くもお荷物と化しそうな雰囲気の城報館だが、そんな同館を管理運営するのが観光課のため、批判の矛先が観光課長に向けられた、というのが今回のハラスメントの背景にあったのである。 関係者の話を総合すると、A氏が課長の時は城報館のオープン前だったため、この件でハラスメントを受けることはなかったが、B氏はオープンと同時に課長に就いたため、荒木部長だけでなく三保市長からも激しく叱責されたようだ。 「荒木部長は『オレはやるべきことをやっている』と責任を回避し、三保市長は『何とかして来館者を増やせ』と声を荒げるばかりで具体的な指示は一切なかった。強いて挙げるなら、館内受付の後方に設置された曇りガラスを透明ガラスに変え、その場にいる職員全員で客を迎えろという訳の分からない指示はあったそうです。挙げ句『客が来ないのはお前のせいだ』とB氏を叱責し、荒木部長はB氏を庇おうともしなかったというから本当に気の毒」(前出・市役所関係者) 観光課が管理運営を担っている以上、課長のB氏が責任の一部を問われるのは仕方ない面もあるが、上司である荒木氏の責任はもっと重いはずだ。さらに建設を推し進めたのが市長であったことを踏まえると、三保氏の責任の重さは荒木部長の比ではない。にもかかわらず、荒木部長はB氏を庇うことなく責任を押し付け、三保市長は「客が来ないのはお前のせいだ」とB氏を叱責した。上司のあるべき姿とは思えない。 もともと城報館は新野洋元市長時代に計画され、当時の中身を見ると1階は多言語に対応できる観光案内役(コンシェルジュ)を置いてインバウンドに対応。地元の和菓子や酒などの地場産品を販売し、外国人観光客を意識した免税カウンターも設置。そして2階は歴史資料展示室と観光、物産、歴史の3要素を兼ね備えた構想が描かれた。管理運営も指定管理者や第三セクターに委託し、館長がリーダーシップを発揮できる形を想定。年間来館者数は20万人を目標とした。 加害者意識のない部長  しかし、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと、この計画は見直され、1階が歴史、2階が観光と逆の配置になり、物産は消失。管理運営も市直営となり、観光課長が館長を兼ねるようになった。 新野元市長時代の計画に沿って建設すれば来館者が増えたという保障はないが、少なくとも施設のコンセプトははっきりしていたし、一般の観光客を引き寄せる物産は存在していた。それを今の施設に変更し、議会から承認を得て建設を推し進めたのは三保市長なのだから、客が来ない責任を部下のせいにするのは全くの筋違いだ。 自治労二本松市職員労働組合の木村篤史執行委員長に、荒木部長によるハラスメントを把握しているか尋ねると次のように答えた。 「観光課長に対してハラスメント行為があったという声が寄せられたことを受け、組合員230人余に緊急アンケートを行ったところ(回答率7割)、荒木部長を名指しで詳述する回答も散見されました。組合としては現状を見過ごすわけにはいかないという立場から、結果を分析し、踏み込んだ内容を市当局に伝えていく考えです」 ハラスメントは、一歩間違えると被害者が命を失う場合もある。被害者に家族がいれば、不幸はたちまち連鎖する。一方、加害者は自分がハラスメントをしているという自覚がないケースがほとんどで、それが見過ごされ続けると、職場全体の士気が低下する。働き易い職場環境をつくるためにも、木村委員長は「上司による社会通念から逸脱した行為は受け入れられない、という姿勢を明確にしていきたい」と話す。 筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者とは認識していない様子が垣間見えた。 ちなみに、荒木部長は安達高校卒業後、旧二本松市役所に入庁。杉田住民センター所長、商工課長を経て産業部長に就いた。定年まで残り1年余。 三保市長にも秘書政策課を通じて①荒木部長によるハラスメントを認識しているか、②認識しているなら荒木部長を処分するのか。またハラスメント根絶に向けた今後の取り組みについて、③今回の件を公表する考えはあるか、④三保市長自身が元観光課長にパワハラをした事実はあるか――と質問したが、 「人事管理上の事案であり、職員のプライバシー保護という観点からコメントは控えたい」(秘書政策課) ただ、市議会昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する一般質問を行った際、三保市長はこう答弁している。 「パワハラはあってはならないと考えています。そういう事案が起きた場合は厳正に対処します。パワハラは起こさない、なくすということを徹底していきます」 疲弊する地方公務員  荒木部長は周囲に「定年まで残り1年は安達地方広域行政組合事務局長を務めるようになると思う」などと発言しているという。同事務局長は部長職なので、もし発言が事実なら、産業部長からの横滑りということになる。被害者のB氏は課長から主幹に降格したのに、加害者の荒木氏は肩書きを変えて部長職に留まることが許されるのか。 「職員の間では、荒木氏は三保市長との距離の近さから部長に昇格できたと見なされている。その荒木氏に対し三保市長が処分を科すのか、あるいはお咎めなしで安達広域の事務局長にスライドさせるのかが注目されます」(前出・市役所関係者) 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、2021年度に心の不調で病休となった地方公務員は総務省調査(※2)で3万8000人を超え、全職員の1・2%を占めたという。 ※2 令和3年度における地方公務員の懲戒処分等の状況  (令和3年4月1日~令和4年3月31日)調査  心の不調の原因は「対人関係」「業務内容」という回答が多く、パワハラ主因説の根拠になっている。 身の危険を感じた若手職員は離脱していく。2020年度の全退職者12万5900人のうち、25歳未満は4700人、25~30歳未満は9200人、30~35歳未満は6900人、計2万0800人で全退職者の16・5%を占める。せっかく採用しても6人に1人は35歳までの若いうちに退職しているのだ。 そもそも地方自治体は「選ばれる職場」ではなくなりつつある。 一般職地方公務員の過去10年間の競争試験を見ると、受験者数と競争率は2012年がピークで60万人、8・2倍だったが、19年がボトムで44万人、5・6倍と7割強まで激減した。内定を出しても入職しない人も増えている。 地方公務員を目指す人が減り、せっかく入職しても若くして辞めてしまう。一方、辞めずに留まっても心の不調を来し、病休する職員が後を絶たない。 「パワハラを放置すれば、地方自治体は職場としてますます敬遠されるでしょう。そうなれば人手不足が一層深刻化し、心の不調に陥る職員はさらに増える。健全な職場にしないと、こうした負のループからは抜け出せないと思います」(上林氏) 地方自治体は、そこまで追い込まれた職場になっているわけ。 定例会で「厳正に対処する」と明言した三保市長は、その言葉通り荒木部長に厳正に対処すると同時に、自身のハラスメント行為も改め、職員が働き易い職場づくりに努める必要がある。それが、職員のモチベーションを上げ、市民サービスの向上にもつながっていくことを深く認識すべきだ。  ※被害者の1人、B氏は周囲に「そっとしておいてほしい」と話しているため、議員はハラスメントの実態を把握しているが、一般質問などで執行部を追及できずにいる。昨年12月定例会で菅野明議員がパワハラに関する質問をしているが、B氏の件に一切言及しなかったのはそういう事情による。しかし本誌は、世の中に「ハラスメントは許さない」という考えが定着しており、加害者が部長、市長という事態を重く見て社会的に報じる意義があると記事掲載に踏み切ったことをお断わりしておく。 あわせて読みたい 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」 ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • 【 浪江町社会福祉協議会 】パワハラと縁故採用が横行 浪江町社協が入る「ふれあいセンターなみえ」

    浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

     浪江町社会福祉協議会が、組織の統治・管理ができないガバナンス崩壊にある。一職員によるパワハラが横行し、休職者が出たが、事務局も理事会も対処できず指導力のなさを露呈。事務局長には縁故採用を主導した疑惑もあり、専門家は「福祉という公的な役割を担う組織のモラル崩壊は、サービスを受ける住民への不利益につながる」と指摘する。 ガバナンス崩壊で住民に不利益  2022年6月、浪江町に複合施設「ふれあいセンターなみえ」がオープンした。JR浪江駅に近く、帰還した町民の健康増進や地域活性化を図る役割が期待されている。敷地面積は約3万平方㍍。デイサービスなどの福祉事業を担うふれあい福祉センターが入所し、福祉関連の事業所が事務所を置いている。福祉センター以外にも、壁をよじ登るボルダリング施設や運動場、図書室がある。 福祉センターは社会福祉法人の浪江町社会福祉協議会(浪江町社協)が指定管理者を務めている。業務を開始して3カ月以上が経った福祉センターだが、ピカピカの新事務所に職員たちは後ろめたさを感じていた。開設に尽力した人物が去ってしまったからだ。 「指定管理者認定には、40代の男性職員が町と折衝を重ねてきました。今業務ができるのも彼の働きがあってこそです。ところが、彼はうつ病と診断され休職しています。10月に辞めると聞きました。今は代わりに町職員が出向しています。病気の理由ですか? 事務局の一職員からのパワハラがひどいんです。これは社協の職員だったら誰もが知っていることです」(ある職員) パワハラの実態に触れる前に、浪江町社協が町の代わりに住民の福祉事業の実務を担う公的な機関であることを明らかにせねばならない。それだけ役割が重要で、パワハラが放置されれば休職・退職者が続出し、せっかく帰還した住民に対するサービス低下も免れないからだ。 社協は福祉事業を行う社会福祉法人の形態の一つ。社会福祉法人は成り立ちから①民設民営、②公設民営、③公設公営の三つに分けられ、社協は国や行政が施設を建設し、運営委託する点で③に含まれる。職員も中枢メンバーは設置自治体からの出向が多く、行政の外郭団体である。 浪江町社協の2021年度の資金収支計算書では、事業活動収入は計2億2400万円。うち、最も多いのが町や県からの受託金収入で1億5300万円(約68%)。次が町などからの補助金で4460万円(約19%)となっている。22年度の町の予算書によると、同社協には3788万円の補助金が交付されている。法人登記簿によると、同社協は1967(昭和42)年に成立。資産の総額は4億7059万円。現在の理事長は栃本勝雄氏(浪江町室原)で2022年6月20日に就任した。 前理事長は吉田数博前町長(同町苅宿)が兼ねていた。予算上も人員上も自治体とは不可分の関係から、首長が理事長を務めるのは小規模町村では珍しくない。吉田前町長も慣例に従っていた(2022年5月の町議会第2回臨時会での吉田数博町長の答弁より)。ただ、首長が自治体と請負契約がある法人の役員に就くことを禁じた地方自治法第142条に反するおそれがあり、社会福祉法人としての独立性を保つ観点から、近年、自治体関係者は役員に就かせない流れにある。同社協も吉田数博町長が引退するのに合わせ、2022年度から理事長を町長以外にした。 同社協の本所は前述・福祉センター内にある浪江事務所。原発災害からの避難者のために福島市、郡山市、いわき市に拠点があり、東京にも関東事務所を置く。職員は震災後に増え、現在は50人ほどいる。 事務局長「職員からの報告はない」 【浪江町】複合施設「ふれあいセンターなみえ」  問題となっているパワハラの加害者は、浪江事務所に勤める女性職員だという。この女性職員は、会計を任されていることを笠に着て同僚職員を困らせているようだ。例えば、職員が備品の購入や出張の伺いを立てる書面を、上司の決裁を得て女性職員に提出しても「何に必要なのか」「今は購入できない」などの理由を付けて跳ね返すという。人格を否定する言葉で罵倒することもあるそうだ。 一方で、女性職員は自分の判断で備品を購入しているという。ある職員は、女性職員のデスクの周りを見たら、新品の機器が揃えられていたことに唖然とした。 「彼女は勤務年数も浅いし、役職としては下から数えた方が早いんです。会計担当とはいえ、自由にお金を使える権限はありません。でも高圧的な態度を取られ、さらには罵倒までされるとなると、標的にはなりたくないので、誰も『おかしい』とは言えなくなりますね。発議を出すのが怖いと多くの職員が思っています」(ある職員) 職員たちは職場に漂う閉塞感を吐露する。休職・退職が相次ぎ、現場の負担が増した時があった。当時は「あと1人欠けたら職場が回らなくなる」との思いで出勤していたという。次第に女性職員の逆鱗に触れず一日が終わることが目的になった。「いったい私たちは誰をケアしているんでしょうね」と悲しくなる時がある。 休職し、退職を余儀なくされた男性職員は女性職員より上の役職だ。しかし、女性職員から高圧的な態度を取られ、部下からは「なぜ指導できないのか」と突き上げを食らい、板挟みとなった。この男性職員を直撃すると、 「2021年春ごろから体に異変が起こり、不眠が続くようになりました。心療内科の受診を勧められ、精神安定剤と睡眠導入剤を処方されるようになり、今も通院しています」(男性職員) 心ない言葉も浴びせられた。 「2022年春に子どもの卒業式と入学式に出席するため有給休暇を取得しました。その後、出勤すると女性職員から『なんでそんなに休むの?』と聞かれ『子どもの行事です』と答えると『あんた、父子家庭なの?』と言われました」(同) 子どもの行事に出席するのに母親か父親かは関係ない。他人が家庭の事情に言及する必要はないし、女性職員が嫌味を言うために放った一言とするならば、ひとり親家庭を蔑視している表れだろう。そもそも、有給休暇を取得するのに理由を明らかにする必要はない。 筆者は浪江事務所を訪ね、鈴木幸治事務局長(69)=理事も兼務=にパワハラへの対応を聞いた。 ――パワハラを把握しているか。 「複数の職員から被害の訴えがあったと聞いてびっくりしています。そういうことがあるというのは一切聞いていません」 ――ある職員は鈴木事務局長に直接被害を申し出、「対応する」との回答を得たと言っているが。 「その件は、県社会福祉協議会から情報提供がありました。全事務所の職員に聞き取りをしなくてはならないと思っています」 ――パワハラを把握していないという最初の回答と食い違うが。 「パワハラを受けたという職員からの直接の報告は1人もいないということです。県社協からは情報提供を受けました。聞き取りをしますと職員たちには伝えました」 ――調査は行ったのか。 「まだです。前の事務所から移ったばかりなので。落ち着くまで様子を見ている状況です」 加害者として思い当たる人物はいるかと尋ねると、「パワハラは当事者同士の言葉遣い、受け取り方によりますが、厳しい言い方があったのは確かで私も注意はしました。本人には分かってもらえたと思っています」と答えた。 本誌は栃本勝雄理事長と吉田数博前理事長にパワハラを把握していたかについて質問状を送ったが、原稿締め切りまでに返答はなかった。 「事務局長や理事長の責任放棄」  専門家はどう見るのか。流通科学大(神戸市)の元教授(社会福祉学)で近著に『社協転生―社協は生まれ変われるのか―』がある塚口伍喜夫氏(85)は「パワハラ」で収まる問題ではないという。 「役職が下の職員が上司の決裁を跳ねのけているのなら、決裁の意味が全くないですよね。個人のパワハラというよりも、組織が機能していない方がより問題だと思います。改善されていないのであれば事務局長や理事長の責任放棄です」 加えて、社協においても組織のガバナンス(管理・統治)の重要性を訴える。 「組織のガバナンスとは、任されている立場と仕事を果たすための環境を保持していくことです。業務から私的、恣意的なことを排除し、利用者に最上のサービスを提供することが大切です」(塚口氏) 事実、浪江町社協の職員たちはパワハラの巻き添えを食らわないよう自分のことに精いっぱいだ。利用者の方を向いて100%の仕事ができている状況とは言えない。 事務局長と理事長の対応に実効性がないことは分かったが、鈴木事務局長をめぐっては「別の問題」が指摘されている。縁故採用疑惑だ。 複数の職員によると、鈴木事務局長は知人の子や孫を、知人の依頼を受け積極的に職員に採用しているという。これまでに4人に上る。知人をつてに、人手不足の介護士や看護師などの専門職をヘッドハンティングしているなら分かるが、全員専門外で事務職に就いている。職員によると、採用を決めてから仕事を探して割り振るという本末転倒ぶりだ。 疑惑は親族にまで及んだ。前理事長の吉田前町長の元には、2022年度初めに「鈴木事務局長が義理の弟を関東事務所の職員に据えているのはどういうことか」と告発する手紙が届いたという。当初は義弟が所有する茨城県内の物件を間借りして関東事務所にする案もあったとの情報もある。義兄が事務局長(理事)を務める社協から、義弟に賃料が払われるという構図だ。 しかし、鈴木事務局長は「縁故採用はない」と否定する。 「職員を募集しても、福祉施設には応募が少ない。『来てくれれば助かるんだが』と話し、『家族と相談して試験を受けるんだったら受けるように』と言っただけです」 ――事務職は不足しているのか。 「町からの委託事業が多いので、それに伴った形で採用しています。正職員ではありません。なかなか応募がないので、知り合いを頼って人材を集めるのが確実です。募集もハローワークを通して、面接も小論文も必ず私以外の職員を含めた3人で行います。ですから、頼まれたから採用したというのは違います」 社協の意思決定は吉田前理事長を通して行ってきたと言う。 「やっていいかどうかの判断は私でもできます。一人で決めているわけではないです。別の職員の反対を押し切ることはありません。『ここの息子さんです』『あそこのお孫さんです』ということはすべて吉田前理事長に前もって説明していました。私が勝手にやったことは一度もありません」 ――介護士や看護師などの専門職は人手不足だが、その職種の採用を進めることはなかったのか。 「それはしていません。その時は介護士が必要な仕事を町から請け負ってなかったので、そもそも必要なかったのです。7月からデイサービス施設などを開所したことにより、介護士が必要になりました。ただ、そのような(縁故採用)指摘を受けたことの重大性は認識しており、個人的に応募を呼び掛けるのは控えるつもりです」 ――親族の採用については。 「試験を受けてもらい、復興支援員として関東事務所に配置しています。募集をかけても人が集まらない中、妻の弟が仕事を辞めたと聞き、『試験を受けてみないか』と打診しました。一方的に採用したわけではなく、私以外の職員2人による面接で選びました」 ――公募期間はいつからいつまでだったのか。 「なかなか集まらなかったので、長い期間募集していました。ただ、町からは『急いで採用してほしい』と言われていました。詳しい期間は調べてみないと分かりません」 「縁故採用は組織の私物化の表れ」  親族が所有する物件への関東事務所設置疑惑については、 「義弟が茨城県取手市で物件を管理しているので、いい物件が見つからない場合は、そこに置くのも一つの方法だな、と。ただ、それはやっていません」 ――交通の便が良い都心の方が避難者は利用しやすいのでは。 「関東に避難している方は茨城県在住の方が多いんです。近い方がいいのかな、と。それと首都圏で事務所を借り上げると、細かい部分が多いんですね。不動産業者を通して物件を探したが、なかなか見つからなかった。そこで、もし義弟の物件が空いているならと思って。ただ、身内の不動産を借りたとなると、いろいろ言われそうなのでやめました」 ――借りるのをやめたのは吉田前理事長の判断か。 「私の判断です。上に決裁は上げていませんので」 ――どうして都心の事務所になったのか。 「もう1人の職員が埼玉県草加市在住なので、どちらも通える方がいいですし、茨城だけに集中するわけではないので、被災者と職員の両方が通いやすいように、アクセスの良い都心がいいかなと考えました。義弟の物件を一時考えたのも、不動産業者を通すより手続きが簡素で、借りやすいという利点がありました。仮に義弟の物件を選んだとして、他の物件と比べて1円でも多く払うということはありません」 初めは「関東の避難者は茨城に多い」と答えていたが、いつの間にか「避難者は茨城だけに集中するわけではない」と矛盾をきたしている。 前出・塚口氏に見解を聞いた。 「公正に募って選別するというルートを踏むのが鉄則です。縁故採用が事実なら、組織を私物化した表れと言っていいでしょう。本来は誰がどこから見ても公正な採用方法が取られていると保証されなければなりません。それが組織運営の公正さに結びつきます。福祉事業は対人支援です。最上の支援は、絶えず検証しながら提供していくことが大事です。そこに私的なものや恣意的なものが混じってくると、良いサービスは提供できないと思います」 ガバナンスがきちんとしていないと、福祉サービスにも悪影響が出るというわけだ。浪江町社協には、町や県から補助金が交付されている。町民や県民は同社協の在り方にもっと関心を持ってもいい。

  • 投書で露呈した【双葉地方消防本部】の混乱

     本誌昨年11月号「問題だらけの県内消防組織」という記事で、双葉地方広域市町村圏組合消防本部のパワハラについて記した匿名の告発文が編集部宛てに届いたことを紹介した。その後、再び同消防本部に関する投書が寄せられた。 今度はパワハラと手当不正告発 本誌に寄せられた告発文  双葉地方広域市町村圏組合消防本部の管轄エリアは双葉郡8町村。拠点は消防本部(楢葉町)、浪江消防署、同消防署葛尾出張所、富岡消防署、同消防署楢葉分署、同消防署川内出張所の6カ所。実人員(職員数)は127人。県内の消防本部では小規模な部類に入る。  昨年届いた告発文には、「2023年2月22日、職員同士の飲み会で、上司が嫌がる部下にタバスコ入りの酒を一気飲みさせていた」など、同消防本部で横行するパワハラの事例が記されていた。若手職員Xは飲み会翌日から病休に入り、その後退職したという。  併せて加勢信二消防長が各消防所長に向けて送付した「職員の義務違反について(通知)」という公文書の写しも添付されていた。内容は職員がパワハラで懲戒処分されたのを受けて、言葉遣いや態度への注意を呼び掛けるもの。差出人は匿名だったが、おそらく同消防本部の職員だろう。  告発文が届いた後、同消防本部の職員3人がパワハラで懲戒処分(減給)となっていたことが10月14日付の地元紙で報じられた。おそらく同じものがマスコミ各社にも送られていたのだろう。本誌が入手した同消防本部の内部文書によると、経緯は以下の通り。  ▽被害を受けた若手職員Xは24歳(当時5年目)、富岡消防署所属。加害者はXと同じ班に所属していた。  ▽2022年10月ごろ、消防司令補A(41)が車両清掃作業中、高圧洗浄機で噴射した水をXの手に当てた。夜、ベンチプレスを使ったトレーニング時、Xにバーベルを上げながら声を出したり、彼女の名前を叫ぶように強要した。このほか、Xが兼務している庶務係の仕事をしている際、不機嫌な態度を取ったり、嫌みを言うこともあった。  ▽2023年1月ごろ、Xが防火衣の着装を拒んだとき、Aが不適切な発言(「風邪をひいたら殺すぞ」)をした。  ▽2023年2月ごろ、Xがトイレにいて、朝食を知らせる先輩の呼びかけが聞こえず集合に遅れた際、消防司令補B(35)がその状況を理解しないまま叱責した。  ▽2023年2月22日、同班職員がいわき市内でゴルフを行った後、私的な飲食会を開催。その場で消防士長C(29)がXに「タバスコが入った酒を飲め」と言った。Xはタバスコ入りの酒を飲んだだけでなく、Cからタバスコを直接口の中に入れられた。  ▽2023年2月23日、Xが当直長に「腹痛と下痢のため休みたい」と連絡。この日は年休で休み、その後3月1日まで休暇とした。  ▽2月27日、Xの母親が富岡消防署を来訪し、「息子がハラスメントを受けた」と訴えた。  ▽2月28日、所属長(消防司令長)が本人と面談。3月2日から病気休暇(神経症)を取って通院治療。6月30日付で依願退職した。  ▽Xへの聞き取り調査を経て、3月31日、A、B、Cに対し、富岡消防署長から口頭厳重注意処分が科された。  ▽4月25日にハラスメント対策協議委員会、7月3日に懲戒審査委員会が立ち上げられ、9月14日付でA、B、Cに対する懲戒処分書が交付された。懲戒処分内容はAが減給10分の1=6カ月、Bが減給10分の1=2カ月、Cが減給10分の1=1カ月、消防司令長が訓告(管理監督不十分)。同時に、X及びXの母親に処分内容が報告された。  昨年11月号記事の段階では詳細が分からなかったが、こうして見るとハラスメントが執拗に行われていたことが分かる。おそらく以前から似たようなことがあったのだろう。年下の部下ということもあって、加害者側は軽い気持ちでやっていたのかもしれないが、被害者にとっては大きなストレスとなり、心のダメージとして蓄積されていたことが想像できる。  2019年から勤務していた職員ということは、復興途上の原発被災地域で防災を担おうと高い志を持っていたはず。それを先輩職員がパワハラ行為で退職に追い込むのだからどうしようもない。  こうした体質はこの3人ばかりでなく、組織全体に蔓延しているようだ。というのも同組合の懲戒処分等に関する基準では、ハラスメントについて以下のように定めている。  《職権、情報、技術等を背景として、特定の職員等に対して、人格と尊厳を侵害する言動を繰り返し、相手が強度の心的ストレスを重積させたことによって心身に故障を生じ、勤務に就けない状況を招いたときは、当該職員は免職又は停職とする》  今回の事例ではパワハラを受けたXが休職を経て依願退職していることを考えると、加害者であるA、B、Cは明らかに免職・停職処分となる。ところが前述の通り、3人は懲戒処分の中でもより軽い減給処分で済まされた。  11月号記事で、同消防本部の金沢文男次長兼総務部長は「(懲戒処分が基準よりも軽くなった経緯について)公表していない」と述べた。また、9月14日付で懲戒処分したことを公表せず、10月14日付の地元紙が報じて初めて事実が明らかになったことについては「公表の基準が決まっており、それを下回ったので公表しなかった」と説明していた。どうにも組織全体でパワハラを軽視しており、情報公開を極力避けている印象が否めない。 管理職4人がいじめ!? 双葉地方広域市町村圏組合消防本部  双葉地方の事情通によると、同消防本部ではX以外にも若い職員が退職しており、その家族らも「若い職員を退職に追い込んだ加害者を減給処分で済ませるのはおかしい」と憤っているという。  そうした中、本誌編集部宛てに再び同消防本部に関する匿名の投書が届いた。消印は1月6日付、いわき郵便局。内容は概ね以下の通り。なおパワハラの当事者はすべて実名で書かれていたが、ここでは伏せる。  ▽パワハラが理由で職員Yが退職した。  ▽D係長はずっと嫌みを言ったり蹴ったり殴ったりしていじめていた。  ▽E係長は何度もYを消防本部に呼び出して必要以上に怒っていじめていた。  ▽F分署長はパワハラの事実を知っていたにもかかわらず、指導することなく逆にYを大声で怒鳴りつけていた。  ▽G係長は表でも裏でもしつこく嫌みを言い、陰湿ないじめを行っていた。  ▽この4人はY以外の職員にも現在進行形でパワハラを行っており、他にも辞めていった職員がいる。  ▽加勢消防長もパワハラを知っているはずだが、かわいがっている職員たちをかばい、パワハラをなかったことにしてしまう。  ▽金沢次長兼総務部長もパワハラを把握しているはずだが、分署長たちと仲良く付き合っていて、パワハラの訴えがあっても知らなかったことにしている。  ▽(消防の)関係者ではなく第三者が調査してほしい。ほとんどの職員がパワハラの実態を知っているので、Y本人と職員から聞き取りをしてほしい。  ▽辞めていった人たちは幸せ。辞めることができず、いまもパワハラを受けている私たちは毎日辛い。このままでは最悪な事態に発展することも考えられる。どうか私たちを助けてほしい。  前に届いた告発文に書かれていたのとは別の職員がパワハラで退職していたことを明かしているわけ。加勢消防長を含めほとんどの職員が把握しているのに上層部で握りつぶしている、という指摘が事実だとすれば、組織ぐるみでパワハラを隠蔽していることになる。  今回の投書には続きがあり、通勤手当不正についても記されていた。こちらも実名は伏せる。  ▽通勤手当を不正にもらっている職員がいる。E係長は浪江町にいるのに本宮市から、Hさんは郡山市にいるのに会津若松市から、Iさんは富岡町にいるのに田村市船引町から通っていることにして通勤手当を受け取っている。これは詐欺申告で不正受給ではないか。  原発被災地域を管轄エリアとしている同消防本部には、管轄エリア外の避難先で暮らしている職員もいる。それを悪用してより遠くから通勤していると申請し、通勤手当を不正受給しているケースがある、と。どれぐらいの金額になるのかは把握できなかったが、少なくとも通勤手当を目当てに異なる現住所を職場に伝えれば、緊急時に対応できないことも増えるはず。消防本部でそんなことが可能なのか、それともチェック体制が〝ザル〟ということなのか。  特定人物の評価を下げるために書かれた可能性も否定できないが、いずれにしても内部事情に詳しいところを見ると、同消防組合の職員、もしくはその内情に詳しい人物が書いたと見るべきだろう。  この投書は同組合の構成町村の議会事務局にも1月10日付で送付されたようで(本誌に届いた投書の4日後の消印)、町村議員に写しを配布したところもあるようだ。同組合には議会(定数25人)が設置されており、構成町村議員が3人ずつ(浪江町は4人)名を連ねているので、問題提起の意味で送ったのだろう。本誌以外のマスコミにも投書は届いていると思われる。 「コメントできない」  投書の内容は事実なのか。1月中旬、楢葉町の同消防本部を訪ね、金沢次長兼総務部長にあらためて取材を申し込んだが不在だった。対面取材の時間を取るのは難しいということなので、電話で投書の内容を読み上げコメントを求めたところ、次のように述べた。  「投書に記されている氏名はいずれも当消防本部に所属している職員、元職員なのは間違いありません。各町村に投書が届いているという話は聞いていますが、内容に関しては確認していないので、パワハラの有無や通勤手当不正受給について現段階でコメントできません。他のマスコミから問い合わせをいただいたこともありません」  本誌11月号記事では、消防でパワハラが起きる背景について、消防行政を研究する関西大学社会安全学部の永田尚三教授がこう語っていた。  「消防は一般的に体育会系的要素が強いのに加え、消防本部は地域間格差が大きい。地方の小規模な消防本部では日常の業務に追われ、パワハラ対策やコンプライアンスなどについて、十分に学ぶ時間が確保されていない可能性が高い。また、消防本部は行政部局から切り離され独立性が確保されていますが、それゆえに、行政部局の組織文化が共有されにくい側面もあると思います」  前出X氏の際は、2月下旬に母親がパワハラを指摘してから調査し公表されるまでに半年以上かかった。今回の投書を受けて同消防本部はどのように調査を進めるのか。またパワハラが事実だった場合、自浄能力を発揮できるのか。2月下旬に開会される同組合議会の行方も含め、その動向を注視していきたい。

  • 問題だらけの【福島県】消防組織【パワハラ】【報酬ピンハネ】

    双葉地方広域消防本部「パワハラ」の背景 本誌に寄せられた投書  10月14日付の福島民報に「職員3人パワハラか 双葉地方消防本部 飲酒強要などで懲戒」という記事が掲載された。双葉地方広域市町村圏組合消防本部が、パワハラ行為があったとして職員3人を懲戒処分(減給)していたことを報じる内容。  実はこの前に、同消防本部のパワハラについて記した告発文が、本誌編集部宛てに寄せられていた。差出人は匿名で、消印は10月9日付、いわき郵便局。  パワハラの具体例を記した告発文と併せて、加勢信二消防長が各消防署長に向けて送付した「職員の義務違反について(通知)」という公文書の写しも添付されていた。内容はパワハラで懲戒処分された職員が出たのを受けて、言葉遣いや態度への注意を呼びかけるもの。おそらく差出人は同本部の職員だろう。  告発文によるとパワハラの内容は以下の通り。  ◯今年2月22日に開かれた職員同士の飲み会で、消防副士長(29)が嫌がる部下にタバスコ入りの酒を一気飲みさせた。  ◯消防司令補(34)が一次会で帰宅しようとした部下に土下座を強要した。  ◯警防係長(40)が過度の説教を開始。  ◯翌日から若手職員A(投書では実名)が病休に入りその後退職した。  新聞報道によると、処分された3人のうち1人は〝タバスコ消防副士長〟で、残り2人は訓練時の発言や不適切な言動、理不尽に受け取れる指導が処分対象になったという。  告発文によると、処分は9月14日付で、半年以上も経った後の処分ということになる。差出人が疑問視しているのは処分の軽さだ。というのも、同組合の懲戒処分等に関する基準では、パワハラなどで心身に故障を生じさせ、勤務できない状況を招いた際は免職・停職とすることが定められているのだ。  《その他にもパワハラで楢葉分署1名、富岡消防署2名が病気休暇で休んでいるのが、現状です。減給の処分職員はなんの反省もしていません》(告発文より引用)  福島県消防協会のホームページによると、同消防本部の管轄エリアは双葉郡8町村。実人員(職員数)は127人で、県内の消防本部では小規模な部類に入る。復興途上の原発被災地域の防災を担おうと入った若い職員がパワハラ行為の対象となり、退職・休職に追い込まれたのだとしたら、これほど理不尽な話はない。  同消防本部に詳細を問い合わせたところ、金沢文男次長兼総務課長が次のように答えた。  「パワハラに関する教育は年1回、階級に合わせて実施しています。パワハラの詳細や当消防本部が知るに至った経緯は新聞社などにも公表していないのでご理解ください。公表しない理由もお話しすることはできません。なお、楢葉分署、富岡消防署の休職者に関しては、今回のパワハラとは関係ありません」  懲戒処分が軽くなった経緯については「公表していない」、懲戒処分したことを公表しなかった理由については「公表の基準が決まっており、それを下回ったので、公表しなかった」と説明した。とにかく情報公開を避けている印象が否めない。こうした体質がパワハラを助長しているのではないか。  消防でパワハラが起きる背景について、消防行政を研究する関西大学社会安全学部の永田尚三教授は次のように語る。  「消防は一般的に体育会系的要素が強いのに加え、消防本部は地域間格差が大きい。地方の小規模な消防本部では日常の業務に追われ、パワハラ対策やコンプライアンスなどについて、十分に学ぶ時間が確保されていない可能性が高い。また、消防本部は行政部局から切り離され独立性が確保されていますが、それゆえに、行政部局の組織文化が共有されにくい側面もあると思います」  同消防本部ではパワハラ教育を実施しているということだったが、効果がなかったことを重く受け止め、この機会に徹底的に内部調査を行って、膿を出し切るべきだ。そのうえでハラスメント行為を相互チェックするルールなどを組み込み、見直しを図ることが求められる。 氷山の一角!?南相馬市消防団「報酬ピンハネ」  一方、南相馬市では、消防団員に報酬が渡されていなかった事例が明らかになった。10月9日付の毎日新聞によると、同市内の消防団が団員だった40代男性に1年半にわたり報酬を渡していなかった。  支払いを求める男性に対し、先輩団員は「消防団っていうのはボランティアなんだ。報酬は団に預けているんだ」、「昔から余ったお金を団に残して、コロナになる前は2年に1回くらい旅行に行っていた。その時に飲み物やビールを買う、宴会に使うというのをやってきた」と話し、「列からはみ出るようなら、辞めてもらうしかない」と迫ったという。 消防団の悪しき慣習  男性は報酬を受け取らないまま退団し、報酬未払いとパワハラについて、市としての対処を求める嘆願書を市長宛てに提出。1年以上連絡がなかったが、9月に毎日新聞が取材した直後、市長名の回答が寄せられた。パワハラは評価できないとしたうえで、「報酬等の取り扱いについて、団員に対する説明が不十分であったと判断し、消防団に対して口頭指導した」という内容だったという。その結果、男性はようやく報酬を受け取ることができた。  消防団の報酬問題については、本誌昨年6月号「ブラック公務員 消防団」という記事で触れた。なり手不足解消のため、消防庁では年額報酬の引き上げに加え、個人支給を強く要望している。分団ごとに一括支給すると、報酬の一部が「活動費」として強制的にプールされてしまう実態があったためだ。  現在は改善されているのか。南相馬市に問い合わせたところ、危機管理課所属の阿部信也災害対策担当課長がこう説明した。  「市では分団から頼まれて、報酬をまとめて振り込んでいましたが、現在は市が個人名義の口座に振り込んでいます。毎日新聞記事の事例も分団に頼まれ、まとめ払いしていたが、元消防団員の方はその説明を受けてないとのことだったので、話し合いを持つようお願いしました。嘆願書への返事が遅れたのは、弁護士と相談したり、事実確認する時間が必要となったためです」  消防団員は非常勤特別地方公務員に当たる。その報酬を勝手な判断でプールすれば公金横領となりそうだが、事前に市に委託があったことを踏まえ、市では問題視しない方針だという。  前出・永田教授は「消防団も規模によって異なる。消防庁の方針に従い、多くの消防団は改善に乗り出しているが、中には個人に支払われた報酬から会計責任者が活動費を再徴収したり、報酬が入る通帳を会計責任者が預かるなど悪質な事例もあるようです」と述べる。実際、本誌昨年6月号では再徴収されたケースや通帳を新たに作らされた事例を紹介している。南相馬市の事例は氷山の一角の可能性がある。  消火活動に加え、救急搬送、自然災害時の人命救助など消防組織は大きな役割を担っている。現場で命をかけて活動している職員には敬意を表するが、だからといって、消防職員の〝権利〟を侵害する労働環境・慣習は看過できない。県内の消防組織が自浄作用を働かせ、前時代的な組織からの脱却を図る必要がある。

  • 福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

     福島市役所に勤めていた会計年度任用職員の男性が、上司から大声で怒鳴られるなどの対応を取られたことで精神的ストレスを抱え、任期を迎える前に自主退職した。男性は「同市役所のパワハラ対策には欠陥がある」と訴える。 救済策で差を付けられる非正規職員  福島市で上司からパワハラを受けたと訴えるのは三条徹さん(仮名、44)。奥羽大卒。民間企業を経て、警察官を目指したものの叶わなかったため、国や県の非正規職員として働いてきた。福島市には2年前に会計年度任用職員として採用され、農業振興課生産振興係で勤務していた。  仕事内容は正規職員の事務補助。1年目に課長から頼まれてチラシの新しい整理方法を導入したところ、市長賞を受賞しやりがいを感じた。食堂、売店などが整備されていて働きやすかった。そのため2年目も継続して働くことにした。  ところが、その直後から、直属の上司である係長の態度が急変した。  他の職員とは冗談を言いながら話すときもあるのに、三条さん相手となると、不機嫌そうな表情を浮かべる。仕事の報告・面談時間の確認に対し、「そんなこと俺知らねえし」、「面談でも何でも結構でございますけどー」などと返された。  毎年実施している作業や、他の正規職員から頼まれた作業に従事しているときも、「なぜそんな無駄なことをやっているのか」、「そんな作業は他に仕事がないときにやってください!」と三条さんだけ怒鳴られた。次第に三条さんは係長と話すことに恐怖心を抱くようになった。  「私の仕事ぶりがダメで、つい注意してしまうというなら、いっそ1年目が終わった時点で契約を打ち切ってほしかった」(三条さん)  この係長は特定の職員に厳しく当たる癖があり、前年まで三条さんはその姿を他人事のように見ていた。  例えば別部署に異動した後も残務処理のため、たびたび農業振興課に訪れていた職員がいた。係長は顔を合わせるたび「まずあんたのことが信用できない。どうやったら私に信用してもらえるか考えないと」と繰り返し注意していた。「それだけ言われるということは仕事が遅い人なのだな。ダメな人だな」と思っていた。  しばらくすると、別の若手職員が連日注意されるようになった。「何でやってないの!? 君の言うことは信用できないし、聞くに値しない!」と怒鳴る声が、部署の端にいる三条さんにも聞こえて来た。若手職員は新年度、別の部署に異動していった。「大変だな」と見ていたが、まさか次は自分が厳しく言われる側に回るとは考えていなかった。  「自分が至らないから係長にこれだけ怒られるのだ」と言い聞かせて仕事を続けていた三条さんだったが、昨年12月ごろになると、毎日のように理不尽な理由で怒られるようになった。精神的に限界を迎えた三条さんは人事課に駆け込み相談した。改善につながることを期待したが、そうしている間に、三条さんにとって決定的な出来事が起きた。  三条さんの始業時間は9時15分。毎朝、始業時間の少し前に出勤し、カウンターをアルコールで拭き、鉢植えの花に水をあげ、周りを雑巾で拭いてから、新聞のスクラップをするのがルーチンワークだった。  ところが、その日に限って係長が始業時間前に三条さんを呼び止め、「新聞のスクラップは終わったのか!?」と尋ねた。「私の始業時間は9時15分からでは……」と恐る恐る答えると、嫌みを込めたトーンで「それは大変申し訳ありませんでした」と言われた。  勤怠状況を管理しているのは係長で、始業時間を知らないはずはない。連日さまざまな理由で怒鳴られていたが、ついに始業開始前から始まるルーチンワークにまでイチャモンを付けられるようになったのか――。心が折れた三条さんは課長に抗議の意味を込めて辞表を提出した。  当初、課長は係長のパワハラについて「気付かなかった」として、「有休を使って休んでいる間に考えよう」と退職を考え直すよう言ってくれた。だが、1月に入ると態度を一変。「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった。課のみんなもどう接していいか分からない」と突き放された。  やむなく正式に退職の事務手続きを進めるため、人事課を訪ねると、前回相談した職員が顔を出し、「すみません、あの後、コロナになっちゃって」と謝ってきた。精神的に限界を迎えて相談したにもかかわらず、他の職員への引き継ぎも行われず、放置されたままになっていたのだ。  「せめて一言連絡しようとは考えなかったのか、不思議でなりません」(三条さん)  あらためて同市の形式にのっとった辞表を提出するよう求められ、人事課職員に言われた通り、退職理由を「一身上の都合により」と書いて提出。結局、1月末で退職した。  離職後、失業保険の手続きや転職先探しのためにハローワークに行った三条さんは退職理由の詳細を聞かれて、素直に「パワハラを受けたから」と答えた。退職理由を書き換えるための申立書を渡されたので、係長にパワハラを受けたこと、人事課に相談に乗ってもらえなかったことを書いて市に送った。市からの返事は、所属長である農業振興課長による「パワハラではなく『指導』の範囲内だった」というものだった。  「パワハラについて『気付かなかった』と話していた課長がなぜ『指導の範囲内だった』と言えるのでしょうか。辞表提出後、課長は『今回の件で俺の評定も下がっただろう』とも話していたが、『指導の範囲内』なら評定が下がるわけがありませんよね。いろいろ矛盾しているんです」(三条さん) 周知不足の相談窓口 福島市役所  実は福島市役所内にはパワハラなどのハラスメントの被害に遭った職員の相談を受ける窓口があった。  一つは公平委員会。地方公務員法第7条に基づき、職員の利益保護と公正な人事権の行使を保護するための第三者機関として設置されている。主な業務は①勤務条件に関する措置の要求、②不利益処分についての審査請求、③苦情相談。福島市の場合、総務課が担当課になっている。苦情を申し立てれば、双方に事情を聞くなどの対応を取ってもらえたはずだ。  だが、三条さんは在職時に公平委員会の存在を知らず、人事課の担当者に相談した際も紹介されることはなかった。  市では3年ほど前から、パワハラ被害などに悩む市職員に、弁護士を紹介する取り組みも始めている。ところが、ポスターなどで周知されているわけではなく、正規職員に支給されるパソコンでのみ表示される仕組みになっていた。会計年度任用職員には、個別のパソコンを支給されていない。そのため、三条さんはそんな制度があることすら知らなかった。退職後に制度を利用させてほしいと頼んだが、「もう職員じゃないので難しい」と断られた。  福島市役所職員労働組合は正規職員により構成されているが、会計年度任用職員からの相談も受け付けている。ただ、三条さんは市職労に相談しようと思いつきもしなかった。  パワハラ自体の問題に加え、相談窓口が十分に周知されていない問題もあることが分かる。  「このままでは自分と同じような目に遭う職員が出る」。三条さんは木幡浩市長宛てに再発防止策を講じるよう手紙を出したほか、市総務課に公益通報したが、何の回答もなかった。労働基準監督署や県労働委員会に行って、「もし福島市職員からパワハラ相談があったら、相談窓口があることを教えてください」と伝えた。マスコミにもメールで情報提供したが、動きは鈍かった。 木幡浩市長  ちなみに本誌にもメールを送ったそうだが、システムのトラブルなのかメールは届いていなかった。唯一月刊タクティクス7月号で報じられたが、大きな話題になることはなく、あらためて本誌に情報提供したという経緯だった。  元会計年度任用職員の訴えを市はどう受け止めるのか。人事課の担当者はこのように話す。  「当事者(三条さん)から相談を受けた後、所属長である農業振興課長が係長に聞き取りしたが、本人は発言の内容をはっきり覚えていませんでした。多少大きな声で指導したのかもしれませんが、捉え方は人によって異なるし、それが果たしてパワハラに当たるのかどうか。人事課では農業振興課長と面談し対策を講じようとしていたが、(三条さんが)辞表を提出した。展開が早くて、弁護士の制度を紹介したり、パワハラの有無を調査する間もなかった、というのが正直なところです。パワハラがあったかどうかは、市としても顧問弁護士などと相談して検討する話。双方にしっかり話を聞くなど、調査を行わずに断言はできません」  パワハラの事実を認めないばかりか、人事課で相談を放置していたことを棚に上げ、「調査する前に退職したのでパワハラの有無は分からない」と主張しているわけ。  ちなみに人事課への相談が放置されていた件に関しては「人事に関する相談はデリケートな問題なので、一つの案件を一人で継続して担当するようにしている。そうした中でうまく引き継ぐことができなかった」と他人事のように話した。 「誰にでも大声を出していた」  一方でこの担当者はこのようにも説明した。  「農業振興課長の報告によると、係長は興奮すると誰にでも大きな声を出して熱くなることがあった。その人だけに嫌がらせをしていたわけではないという意味で、パワハラと言い切れるのだろうか、と。そういう点からも、市としては、『一連の対応はパワハラではなく業務上の範囲内だった』という認識ですが、態度によってはパワハラと受け取られる可能性があるということで、あらためて農業振興課長が係長に指導を行いました」  三条さんだけでなく、誰にでも大声で怒鳴ることがある職員だったのでパワハラには当たらない、というのだ。厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」。市の解釈だと、特定の人物に対してでなければ、どれだけ精神的苦痛を与えてもパワハラには当てはまらないことになる。  人事課担当者は「管理職を対象としたハラスメント研修を定期的に実施している」と話すが、この間のやり取りを踏まえると、正しい知識のもとで行われているか疑問だ。  気になったのは、人事課の担当者が、三条さんが退職した経緯についてこのように述べたことだ。  「(三条さんは)係長への抗議的な意味合いで辞表を出したようですが、同じ部署で働きづらい部分もあるし、もうやめるしかないんじゃないか、という流れで退職に至ったと聞いています」  前述の通り、三条さんは課長から「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった」と言われ、退職を促された、と主張していた。三条さんの見解とは違う形で報告されていることが分かる。  ちなみに課長、係長はともに今春の人事異動で農業振興課から異動になっており、どちらも降格などにはなっていなかった。  三条さんがいなくなった後の農業振興課ではどんなことが起きていたか共有され、再発防止策は講じられているのか。4月に赴任した長島晴司課長に確認したところ、「当然共有されています。ああいったことがあると、職場の雰囲気は悪くなるし、係の職員も疲弊する。そうした雰囲気の改善に努めており、併せてパワハラと受け取られるような指導はしないようにあらためて気を付けています」と話した。 厚労省指針は守られているのか  地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、「厚労省の指針では職場におけるハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知するよう定められている」という。  上林特任教授が執筆を担当した『コンシェルジュデスク地方公務員法』では公務員のハラスメント対策について、次のように記されている。  《部下は、パワーハラスメントを受けていても、上司に対してパワーハラスメントであることを伝えることは難しい。とりわけ、非正規職員のような有期雇用職員は、次年度以降の雇用の任命権者が直属の上司の場合が多いため、なおさら相談しにくい。したがって、上司以外の信頼できる職場の同僚、知人等の身近な人やより上位の人事当局、相談窓口等に相談することが必須となる》  《相談窓口・相談機関は、事業主の雇用管理上講ずべき措置の内容の中では重要な位置取りをしめ、厚生労働省のパワハラ防止指針では、相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することとし、相談窓口担当者は、①相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、②相談窓口については、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じているだけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることが求められているとしている》  昨年、市が公表した「福島市人事行政の運営等の状況について」という文書によると、2021年度における公平委員会の業務状況は、不利益処分に関する不服申立1件、職員の苦情の申立1件のみ。  職員からの苦情がない快適な職場なのか、それとも公平委員会の存在自体を知らない人が多いだけか。いずれにしても厚労省通知に定められている労働者への周知が行われているとは言い難い印象を受ける。  もっというと、会計年度任用職員にはパソコンが支給されていなかったので、弁護士相談制度に触れられなかったというのは、結果的に正規職員と非正規職員で相談窓口の案内に差が出た形になる。同じ中核市である郡山市、いわき市にも確認したが、そのような差はなかった。すぐに解消すべきではないか。  現在は福島市内の別の場所で働いている三条さん。「私のような思いをする人がこれ以上出てほしくない。いまさら謝罪や責任追及を求めているわけではない。市役所は閉鎖的でおそらく自浄作用はない。だからこそ、報道を通していかに福島市のパワハラ対応がダメか、多くの人に知ってもらい、少しでも体制改善につながればと思っている」と訴えた。福島市はまずパワハラ対策の周知から始めるべきだ。

  • 【JESCO】中間貯蔵を担う風通しの悪い国策会社

     東京電力福島第一原発事故で生じた放射性物質を含んだ除染土を最終処分するまでの間、保管を担う国策会社「中間貯蔵・環境安全事業株式会社」(JESCO・本社東京)に上司から暴言を吐かれたと訴える職員がいる。上司は「怠慢を指導」とし、職員は「パワハラを受けた」と互いの主張は平行線。寄せ集めの組織ゆえ、職員同士の連携が並大抵でない実態が浮かび上がってきた。 「怠慢を指導」か「パワハラ」かでいがみ合い 除染廃棄物の運搬状況を監視するJESCOの輸送統括ルーム(いわき市)=2020年2月撮影  8月24日、東京電力福島第一原発で発生した汚染水を浄化処理した水の海洋放出が始まった。「水」に注目が集まる一方、事故で発生した放射性物質を含む「土」の保管を担う中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の中間貯蔵管理センター福島事務所(福島市)に勤務する60代の男性職員は、所長を務める男性から投げ掛けられたという暴言をこう振り返った。  「2022年1月に環境省から委託された建物の解体工事の設計変更を担当しました。同27日に設計書の納期が迫っているのにまだ終わらないのかと上司から言われました。『やる気あんのか!』『ふざけんじゃねえぞ!』などの暴言を吐かれました」  男性職員は、大学の工学部を卒業後、民間企業、復興庁を経て2017年にJESCOに入社した。民間企業に勤めていた時は建築現場で働き、一級建築士の免許を取った。  ここでJESCOの組織に触れておかねばならない。特徴は、中途採用や出向者が多く、職歴がさまざまな人物が集まる大所帯(従業員559人=今年3月末現在)ということだ。それが、職員間の軋轢を生みやすい土壌につながっている可能性がある。  JESCOは、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法に基づき政府全額出資で2004年に設立された特殊法人。当初の事業はポリ塩化ビフェニール(PCB)廃棄物の処理で、16年に終える計画だった。ところが14年に計画を延長した上、原発事故で発生した除染土の収集や運搬、中間貯蔵、調査研究、技術開発の事業も追加された(東京新聞2017年4月24日付より)。  代表取締役社長は環境省で事務次官(2019年7月~20年7月)を務めた鎌形浩史氏。資本金は382億円(2023年2月末現在)。  前出の東京新聞の記事は、JESCOが中央省庁から再就職者や現役出向者を19人受け入れ、そのうち監督官庁の環境省出身者が17人で約9割を占めていたと報じた。「環境省職員だからといってPCB処理や中間貯蔵のプロというわけではない。OBや出向者を20人近くも在籍させる必要があるのか疑問だ」という元経済産業省官僚古賀茂明氏の指摘を紹介している。  除染で集めた汚染土壌を保管するのは不可欠な仕事だ。環境省所管の国策会社のため、JESCOは代々トップに同省事務次官経験者を据え、取締役と監査には元官僚と民間企業の役員が付いている。天下り先と言われる所以だ。  前出の男性職員によると、福島市の事務所では県職員が退職後に所長になり、実務は東電や土木建設会社からの出向者・転職者が主導し、現地採用の任期付き職員や派遣社員が従っているという。  JESCOの業務はPCBの処理と、除染土を最終処分するまで管理することなので、新たな業務を抱え込まない限り事業は将来縮小する。言わば「尻拭い」の組織。実務者には、生え抜きの職員を多く採用して一から育てるよりも、即戦力の人物を民間から集め、その他は臨時職員で人員調整する方が都合が良い。  男性職員に暴言を吐いたとされる所長は、県が発表する「退職県職員の再就職状況」によると、2017年度に水・大気環境課長を退職し、JESCOの福島事務所に再就職したと記載されている。  本誌は所長に、男性職員が訴える昨年1月27日の暴言について確認した。  「ハラスメントを受けたという申告はありましたが『苦情』と処理しています。『やるべきことをやらない人に厳しく指導をした』との認識です。男性職員には工事設計の締め切りを前から知らせていたのに、必要な作業をする素振りが見られませんでした。本人に確認すると『期限は明日までと思っていました』と答えました」  さらに、  「彼は『設計部門をできる』と虚偽を言って採用されたのではないでしょうか。周りがカバーしなければならず、他の職員から批判が出ました。所長の手前、必要な指導をしたと認識しています」  所長によると、納期が迫る中、工事の設計結果を急いで提出するよう指導したが、その時に「激しい言葉遣いになった」との認識のようだ。  男性職員が反論する。  「期限は同2月上旬で、まだ時間はあり、私は計画的に進めていました。正しい期限は議事録で回し、所長もチェックを入れ確認していたはずです。前職では解体工事の設計を担当したことがあります。経験に従って自分の中では順調に進んでいると思っていましたが、突然『間に合わないのではないか』と詰められ、そこで環境省委託の設計書では見積もり方法が異なっていることを知りました。想定していた期限よりも前に、徹夜で仕上げるようにと罵倒を交え叱責されました」  男性職員は、所長とのトラブルに至る前段に、発注者である環境省内で職員同士の折り合いが悪く、同省からJESCOへの指示が一本化されていなかった点、以前に環境省の仕事を請負い辛酸を舐めた民間業者から「今度の担当者は最後に仕事を押し付けてくる人物なので気を付けろ」と助言され、実際にその通りだった点を挙げ、工事の流れの川上に立つ環境省職員の問題も指摘した。 所長と同じフロアに  男性職員によると、暴言を吐かれたことを受け、福島労働基準監督署に相談して本社の人事部と面談し、別の仕事の担当になったという。ところが、その職場は所長と同じフロアで、「罵声を浴びせられるのでないかとビクビクし、顔を合わせることに苦痛を感じる」と話す。  一方、所長はと言うと「ここまで『苦情』を申し立てる職員はレアケース。やることをやらず、権利だけ主張するのはおかしいと思います」。  本誌は5月号に「福島国際研究教育機構職員が2日で『出勤断念』 霞が関官僚の〝高圧的態度〟に憤慨」という記事を掲載した。現地採用の職員が官庁の出向者から馬鹿にされたと思い、「この上司とは信頼関係を築ける気がしない」と2日で出勤を諦めた内容。寄せ集めの職場では、信頼関係を築くのが並大抵ではないことが分かる。  男性職員と所長の話を聞くと、JESCO福島事務所の職場は風通しが悪そうだ。JESCOは国策事業を担い、多額の公金が投入されているので、職場問題が業務に支障を及ぼさないか国民は不安を覚えるだろう。仲良くしろとは言わないが、準公務員であることを自覚し「呉越同舟」で職務に励んでほしい。 ※JESCO本社に事実関係を確認すると、男性職員の申し出は「ハラスメントの相談として受け付け、詳細については個人が特定される情報なので、回答を控えさせていただきますが、社内規程および厚労省の指針に則り、ヒアリング調査など必要な対応をとりました」とのこと。「会社としては、ハラスメントの防止に引き続き力を入れて取り組んでいく所存です」とした。 https://www.youtube.com/watch?v=CTJF_pbybQo&t=275s 【福島】【原発】【中間貯蔵施設】① 輸送統括ルーム(2020年.2.20)

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • 浪江町社会福祉協議会で事務局長が突然退任

     浪江町は帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除の動きが進む。3月に解除の判断が示されるが、本誌編集部には「解除後の医療福祉は大丈夫なのか」と心配の声が寄せられている。調べると、浪江町社会福祉協議会では本誌既報のパワハラ問題が解決していない。(小池航) 調査で指摘された自身のパワハラ  本誌昨年11月号「浪江町社協でパワハラと縁故採用が横行」という記事で、職員によるパワーハラスメントが蔓延している問題を取り上げた。被害者がうつ病を発症して退職を余儀なくされ、業務をカバーするため職員たちの負担が増加した。加害者は1人で会計を担当しており、替えが利かない立場を笠に着て、決裁を恣意的に拒否していた。こうした事態は専門家からガバナンス崩壊と指摘された。 浪江町社会福祉協議会の事務方トップである事務局長は、加害者を十分に指導せずパワハラを放置していた。自身は、親族や知人の血縁者を少なくとも4人採用。介護業界は人手不足とは言え、求められているのは介護士や看護師など福祉や医療の有資格者。事務局長が採用した職員たちは資格を持たず、即戦力とは言い難かった。職員や町民から「社協を私物化した縁故採用」と問題視されていた。 その事務局長が3月末付で退くというのだ。2月中旬を最後に出勤もしていない。 退任するのは鈴木幸治事務局長(69)。同社協の理事も兼ねる。鈴木事務局長は53歳ごろまで町職員を務めた後、町内の請戸漁港を拠点に漁師に転身。大震災・原発事故後の2013年から町議を1期務めた。鈴木事務局長によると、議員を辞めた後に本間茂行副町長(当時)に請われ、2019年から現職。現在2期4年目。 鈴木事務局長は昨年10月、筆者が同社協で起こっていたパワハラについて取材した際、「調査する」と明言していた。筆者は調査の進展を聞くため2月20日に同社協の事務所を訪ねた。鈴木事務局長との面談を求めたが、応対した職員から不在と伝えられた。代わりに理事会のトップを務める栃本勝雄会長が応じた。この時、筆者はまだ鈴木事務局長が辞めるとは知らされていなかった。 栃本会長は調査の進捗状況をこう説明した。 「弁護士と相談し、全職員にパワハラを見聞きしたかアンケートを実施したが、報告できるようなきちんとした結果はまだ出ていません。調査結果の報告、パワハラに関与したとされる職員への対応、社協内でのハラスメント対策をどうするかも含め、弁護士と相談しながら進めているところです」 ハラスメントは重大な人権侵害と厳しい目が向けられる昨今、一般企業や役所では規則を整え、調査でハラスメントによる加害行為が認定された職員は懲戒処分の対象になる流れにある。栃本会長によると、加害行為の疑いがある職員は在職中とのことだが、 「懲戒処分にするかどうかという話までは発展していません」(同) アンケートは昨年末までに実施した。同社協が依頼した弁護士に、職員が個別に回答を郵送、弁護士は個人が特定されない形にまとめた。公平性を担保するため、パワハラの舞台となった同社協はアンケートに関わる作業にはタッチしていないという。1月に入り、中間報告という形で結果が上層部に明かされた。全職員や理事会、評議会には知らせていないが、栃本会長は 「年度内には全職員に正式結果を知らせる予定です。理事会には正式結果と合わせて経過の報告も必要と考えています。ただ、現時点では正式結果がまとまっておらず、お答えできません」 ここまで質問に答えて、栃本会長は一息ついて言った。 「何せ私も吉田数博前町長(同社協前会長)から引き継いで昨年6月に就任したもので。ですから、会長に就くまでは内情を知らなかったんです」 筆者が「やはり詳しいのは長年勤めている鈴木事務局長ですかね」と聞くと、 「鈴木事務局長は休暇に入っています。任期満了を迎える3月末で辞める予定です」(同) 栃本会長によると、1月下旬に鈴木事務局長から「体調が思わしくないので、任期満了を迎える今期で辞めたい」と言われたという。事務所にあった私物も既に片付けており、再び出勤するかどうか分からないとのこと。 パワハラを放置した責任を取って辞めたということなのだろうか。栃本会長に問うと「私には分かりませんし、彼とはそのような話はしていません。任期満了となるから辞めるだけでしょ」。 鈴木事務局長はデイサービス利用者の送迎も担当していた。 「今はデイサービスの事業所に任せています。人手が必要なのに痛手ですよ。残った職員でカバーしながらやっています」(同) 公用車の私的使用も 参考画像 トヨタ「カローラクロス」(ハイブリット車・2WD)2022年12月のカタログより  体調不良で休んでいるというのが気になる。昨年11月号の取材時、パワハラを放置した責任があるのではないかと考え、鈴木事務局長に根掘り葉掘り質問した。あるいは記事により心身が病んでしまったのだろうか。後味が悪いので、事務局長が現在どうしているか複数の町関係者に問い合わせると意外な事実が分かった。 「同社協では『事務局長はどうしているか』と質問されたら『任期満了で辞める』と答えることになっているそうです。ですが実際の話は少し違います」(ある町関係者) 任期満了で退くのは事実だが、任期を迎える1カ月以上も前から、送迎の役目を投げ出してまで出勤しなくなったのは確かに不可解だ。取材で得られた情報を総合すると、鈴木事務局長は同社協にいづらくなり、嫌気が差して一足早く去ったというのが実情のようだ。 発端は、前述の同社協上層部に先行して伝えられたアンケート結果だった。 パワハラの加害者と疑われる職員から受けた被害が多数記述されていると思われたが、ふたを開けてみると、鈴木事務局長自身もセクハラ、パワハラ、モラハラの加害者という回答が相次いだのだ。「こんな人がいる職場では働けない。1日も早く辞めてほしい」と切実な訴えもあったという。 ハラスメントだけではなかった。同社協が職務に使っているSUVタイプの自動車「トヨタ カローラクロス」を鈴木事務局長が週末に私的利用しているという記述もあった。 同社協が第三者である弁護士にアンケートの集計を依頼し、結果は上層部しか知らないはずなのに、なぜこうも詳細に分かるのか。それは当の鈴木事務局長が自ら明かしたからだ。2月の最終出勤日に部署ごとに職員を集め、前述の自身に関わる内容を話したという。 ハラスメントの加害者のほとんどは組織の中で立場の強い者だ。加害行為を「指導」や「業務」と履き違え、本人は自覚がないことが往々にしてある。だが、被害者が苦痛と感じれば、それはハラスメントになるのが現代の常識。まずは被害者の話に耳を傾け、組織として事実かどうかを認定することが求められる。 昨年11月号の取材で鈴木事務局長は「パワハラがあると聞いてびっくりしている」「当事者同士の言葉遣い、受け取り方による」とパワハラから目をそらし、矮小化とも取れる発言をしていた。自分は関係ないと思っていただけに、今回のアンケート結果に愕然としただろう。部下から「1日も早く辞めてほしい」と言われては、任期満了を待たずに一刻も早く辞めたい気持ちになる。 不祥事追及がうやむやに  いずれにせよ、鈴木事務局長は同社協を去った。それでも、ある職員は同社協の行く末を懸念する。 「アンケート結果が出たタイミングで事務局長が辞めることで、あらゆる不祥事の責任を取ったとみなされ、問題がうやむやになってしまうのを恐れています。このままでは、パワハラを行っていた職員におとがめがないまま幕引きになってしまいます」 鈴木事務局長は決してパワハラと縁故採用の責任を取って辞めるわけではない。同社協が表向きの理由として知らせているように、任期満了を迎えるから辞めるのだ。既に出勤していないのも「体調が思わしくない」と栃本会長に申し出たためだ。 間もなく70歳のため、高齢で体力的に職務が務まらないなら仕方がない。ただ、栃本会長は「鈴木事務局長が担当していたデイサービス利用者の送迎を他の職員に頼んでいる」と漏らしており、急きょ出勤しなくなったことで、サービスの受益者である町民や同社協職員の業務に与えた影響はゼロではないだろう。 こうした中、町民と職員が関心を寄せるのが後任の事務局長だ。同社協は退職した町職員が事務局長に就くのが慣例だった。社協は、建前は民間の社会福祉法人だが、自治体の福祉事業の外注先という面があり、委託事業や補助金が主な収入源。浪江町社協の2021年度収支決算によると、事業活動による収入のうち、最も多くを占めるのが町や県からの「受託金収入」で1億5300万円(事業活動収入の約68%)。次が町の補助金などからなる「経常経費補助金収入」で4400万円(同約19%、金額は10万円以下を切り捨て)。 自治体の補助金で運営が成り立っている以上、社協と調整を円滑にするため自治体職員を派遣するのが通常で、現に浪江町でも町職員を1人出向させている。 栃本会長は「後任の事務局長は町役場と相談しながら決めます」と話す。同社協との実務を調整する町介護福祉課の松本幸夫課長は、後任の事務局長について、 「町長や副町長には同社協から報告が上がっていると思いますが、介護福祉課には伝わっていません。社会福祉行政に明るい人物も考えられるし、それ以外の人も含めて検討していると思います」 要するに、発表できる段階にはないということだ。 同社協は人材不足にも陥っているが、栃本会長は人材確保に向けた方針を次のように明かす。 「現場で実務を担う介護や医療の有資格者を募集しなければならないと思っています。地元のために一緒に働いてくれるだけで十分ありがたいのですが、半面、限られた人員で運営していく以上、採用するなら有資格者が望ましいです」 鈴木事務局長が行った無計画な縁故採用からの脱却が進みそうだ。 最後に、同社協の目指すべき未来を示した発言を紹介する。長文だが重要なのですべてを引用する。 《震災後、役場機能の移転に合わせて社協も転々としました。避難当時の混乱で職員が一人もいなかった時期もありました。一部地域の避難指示の解除を受け、2017(平成29)年4月に社協も町へ戻ることができました。現在は、浪江町と二本松市の事務所を拠点に、町民の様々な福祉サービスに取り組んでいます。 福祉における一番の課題は、これからの介護です。町内に居住する住民1600人のうち65歳以上の割合を示す高齢化率は約40%ですが、震災前に町に住んでいた人に限ると約70%と非常に高くなっています。自分の子どもや孫と離れて一人で暮らす方も多く、次第に介護が必要となってきています。2022(令和4)年には、町の地域スポーツセンターの向かいにデイサービス機能を備えた介護関連施設が完成する予定です。私たち社協は、オープンと同時に円滑にサービスを提供できる体制を整えていきたいと考えています。 原発事故の影響で散り散りになった町民にとっては、テーブルを囲み、お茶菓子を食べて語り合うだけでも、心の拠り所になるはずです。そんな交流の場を必要としている高齢者が町には数多くいます。浪江町民のために役場との連携をより深め、福祉政策の実現に取り組んでいきたいと思います》(『浪江町 震災・復興記録誌』2021年6月より) 発言の主は鈴木事務局長。筆者も同感だ。 あわせて読みたい 【浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

  • 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

     二本松市役所で産業部長によるパワハラ・モラハラが横行している。被害者が声を上げないため公には問題になっていないが、部下の課長2人が2年連続で出先に異動し、部内のモチベーションは低下している。昨今は「ハラスメントを許さない」という考えが社会常識になっているが、三保恵一市長はこうした状況を見過ごすのか。そもそも、三保市長自身にもパワハラ疑惑が持ち上がっている。(佐藤仁) 「城報館」低迷の責任を部下に押し付ける三保市長  まずは産業部内で起きている異変を紹介したい。同部は農業振興、商工、観光の3課で組織されるが、舞台となったのは観光課である。 2021年4月から観光課長に就いたA氏が、1年で支所課長として異動した。その後任として22年4月から就いたB氏も半年後に病休となり、11月に復職後は住民センター主幹として異動した。課長から主幹ということは降格人事だ。 B氏の後任は現在も決まっておらず、観光課長は空席になっている。 菊人形、提灯祭り、岳温泉など市にとって観光は主要産業だが、観光行政の中心的役割を担う観光課長が短期間のうちに相次いで異動するのは異例と言っていい。 原因は、荒木光義産業部長によるハラスメントだという。 「荒木部長の言動にホトホト嫌気が差したA氏は、自ら支所への異動を願い出た。『定年間近に嫌な思いをして仕事をするのはまっぴら。希望が通らなければ辞める』と強気の姿勢で異動願いを出し、市に認めさせた。これに対し、B氏は繊細な性格で、荒木部長の言動をまともに受け続けた結果、心身が病んだ。問題は1カ月の病休を経て復職後、主幹として異動したことです。職員の多くは『被害者が降格し、加害者がそのまま部長に留まっているのはおかしい』と疑問視しています」(市役所関係者) 荒木部長のハラスメントとはどういうものなのか。取材で判明した主な事例を挙げると①感情の浮き沈みが激しく、機嫌が悪いと荒い口調で怒る。②指導と称して部下を叱責する。いじめの部類に入るような言い方が多々みられる。③陰口が酷く、他者を「奴ら」呼ばわりする。④自分だけのルールを市のルールや世間の常識であるかのように押し付け、部下が反論すると叱責する。⑤部下が時間をかけて作成した資料に目を通す際、あるいは打ち合わせで部下が内容を説明する際、自分の意図したものと違っていると溜息をつく。⑥「なぜこんなこともできない」と面倒くさそうに文書の修正を行う。ただし、その修正は決して的確ではない。⑦上司なので上からの物言いは仕方ないとして、人を馬鹿にしたような態度を取るので、部下は不快に感じている。⑧親しみを込めているつもりなのか部下をあだ名で呼ぶが、それによって部下が不快な思いをしていることに気付いていない。 分類すると①~③はパワハラ、⑤~⑧はモラハラ、④はモラパワハラになる。 さらにモラハラについては▽文書の直しが多く、かつ細かすぎて、最後は何を言いたいのか分からなくなる▽30分で済むような打ち合わせを2、3時間、長い時は半日かけて行う▽同じ案件の打ち合わせを何度も行う▽市長、副市長に忖度し、部下はそれに振り回されている▽予算を度外視した事業の実施や、当初・補正予算に高額予算を上げることを強要する――等々。おかげで部下は疲弊しきっているという。 そんな荒木部長の機嫌を大きく損ねている最大の原因が、市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下、城報館と略)の低迷である。 低迷する城報館 2階部分から伸びる渡り廊下  城報館は昨年4月、県立霞ヶ城公園(二本松城跡)近くにオープンした。1階は歴史館、2階は観光情報案内というつくりで、2階には同公園との行き来をスムーズにするため豪華な渡り廊下が設置された。駐車場は大型車2台、普通車44台を停めることができる。 事業費は17億1600万円。財源は合併特例債9億8900万円、社会資本整備総合交付金5億3600万円、都市構造再編集中支援事業補助金1億3900万円を使い、残り5000万円余は市で賄った。 市は年間来館者数10万人という目標を掲げているが、オープンから10カ月余が経つ現在、市役所内から聞こえるのは「10万人なんて無理」という冷ややかな意見である。 「オープン当初こそ大勢の人が詰めかけたが、冬の現在は平日が一桁台の日もあるし、土日も60~70人といったところ。霞ヶ城公園で菊人形が開催されていた昨秋は菊人形と歴史館(※1)を組み合わせたダブルチケットを販売した効果で1日200人超の来館者数が続いたが、それでも10万人には届きそうもない」(ある市職員) ※1 城報館は入場無料だが、1階の歴史館(常設展示室)の見学は大人200円、高校生以下100円の入場料がかかる。  市観光課によると、昨年12月31日現在の来館者数は8万6325人、そのうち有料の常設展示室を訪れたのは4万2742人という。 市内の事業主からは「無駄なハコモノを増やしただけ」と厳しい意見が聞かれる。 「館内にはお土産売り場も飲食コーナーもない。2階に飲食可能な場所はあるが、自販機があるだけでコーヒーすら売っていない。あんな造りでどうやって観光客を呼ぶつもりなのか」(事業主) 市は昨年秋、菊人形の来場者を城報館に誘導するため、例年、菊人形会場近くで開いている物産展を城報館に移した。三百数十万円の予算をかけて臨時総合レジを設ける力の入れようだったが、物産展を城報館で開いているという告知が不足したため、菊人形だけ見て帰る人が続出。おかげで「ここはお土産を買う場所もないのか」と菊人形の評価が下がる始末だったという。 「城報館に物産展の場所を移しても客が全然来ないので、たまりかねた出店者が三保市長に『市長の力で何とかしてほしい』と懇願した。すると三保市長は『のぼり旗をいっぱい立てたので大丈夫だ』と真顔で答えたそうです」(同) 三保恵一市長  本気で「のぼり旗を立てれば客が来る」と思っていたとしたら、呆れて物が言えない。 オープン前の市の発表では、年間の維持管理費が2300万円、人件費を含めると4400万円。これに対し、主な収入源は常設展示室の入場料で、初年度は950万円と見込んでいた。この時点で既に3450万円の赤字だが、そもそも950万円とは「10万人が来館し、そのうち5万人が常設展示室を見学する=入場料を支払う」という予測のもとに成り立っている。10万人に届きそうもない状況では、赤字幅はさらに膨らむ可能性もある。 上司とは思えない言動  前出・市職員によると、常設展示室で行われている企画展の内容は素晴らしく、二本松城は日本100名城に選ばれていることもあり、歴史好きの人は遠く関東や北海道からも訪れるという。しかし、歴史に興味のない一般の観光客が訪れるかというと「一度は足を運んでも、リピーターになる可能性は薄い」(同)。多くの人に来てもらうには、せめてお土産売り場や飲食コーナーが必要だったということだろう。 「施設全体で意思統一が図られていないのも問題。城報館は1階の歴史館を市教委文化課、2階の観光情報案内を観光課が担い、施設の管理運営は観光課が行っているため、同じ施設とは思えないくらいバラバラ感が漂っている」(同) 筆者も先月、時間をかけて館内を見学したが(と言っても時間をかけるほどの中身はなかったが……)、もう一度来ようという気持ちにはならなかった。 早くもお荷物と化しそうな雰囲気の城報館だが、そんな同館を管理運営するのが観光課のため、批判の矛先が観光課長に向けられた、というのが今回のハラスメントの背景にあったのである。 関係者の話を総合すると、A氏が課長の時は城報館のオープン前だったため、この件でハラスメントを受けることはなかったが、B氏はオープンと同時に課長に就いたため、荒木部長だけでなく三保市長からも激しく叱責されたようだ。 「荒木部長は『オレはやるべきことをやっている』と責任を回避し、三保市長は『何とかして来館者を増やせ』と声を荒げるばかりで具体的な指示は一切なかった。強いて挙げるなら、館内受付の後方に設置された曇りガラスを透明ガラスに変え、その場にいる職員全員で客を迎えろという訳の分からない指示はあったそうです。挙げ句『客が来ないのはお前のせいだ』とB氏を叱責し、荒木部長はB氏を庇おうともしなかったというから本当に気の毒」(前出・市役所関係者) 観光課が管理運営を担っている以上、課長のB氏が責任の一部を問われるのは仕方ない面もあるが、上司である荒木氏の責任はもっと重いはずだ。さらに建設を推し進めたのが市長であったことを踏まえると、三保氏の責任の重さは荒木部長の比ではない。にもかかわらず、荒木部長はB氏を庇うことなく責任を押し付け、三保市長は「客が来ないのはお前のせいだ」とB氏を叱責した。上司のあるべき姿とは思えない。 もともと城報館は新野洋元市長時代に計画され、当時の中身を見ると1階は多言語に対応できる観光案内役(コンシェルジュ)を置いてインバウンドに対応。地元の和菓子や酒などの地場産品を販売し、外国人観光客を意識した免税カウンターも設置。そして2階は歴史資料展示室と観光、物産、歴史の3要素を兼ね備えた構想が描かれた。管理運営も指定管理者や第三セクターに委託し、館長がリーダーシップを発揮できる形を想定。年間来館者数は20万人を目標とした。 加害者意識のない部長  しかし、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと、この計画は見直され、1階が歴史、2階が観光と逆の配置になり、物産は消失。管理運営も市直営となり、観光課長が館長を兼ねるようになった。 新野元市長時代の計画に沿って建設すれば来館者が増えたという保障はないが、少なくとも施設のコンセプトははっきりしていたし、一般の観光客を引き寄せる物産は存在していた。それを今の施設に変更し、議会から承認を得て建設を推し進めたのは三保市長なのだから、客が来ない責任を部下のせいにするのは全くの筋違いだ。 自治労二本松市職員労働組合の木村篤史執行委員長に、荒木部長によるハラスメントを把握しているか尋ねると次のように答えた。 「観光課長に対してハラスメント行為があったという声が寄せられたことを受け、組合員230人余に緊急アンケートを行ったところ(回答率7割)、荒木部長を名指しで詳述する回答も散見されました。組合としては現状を見過ごすわけにはいかないという立場から、結果を分析し、踏み込んだ内容を市当局に伝えていく考えです」 ハラスメントは、一歩間違えると被害者が命を失う場合もある。被害者に家族がいれば、不幸はたちまち連鎖する。一方、加害者は自分がハラスメントをしているという自覚がないケースがほとんどで、それが見過ごされ続けると、職場全体の士気が低下する。働き易い職場環境をつくるためにも、木村委員長は「上司による社会通念から逸脱した行為は受け入れられない、という姿勢を明確にしていきたい」と話す。 筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者とは認識していない様子が垣間見えた。 ちなみに、荒木部長は安達高校卒業後、旧二本松市役所に入庁。杉田住民センター所長、商工課長を経て産業部長に就いた。定年まで残り1年余。 三保市長にも秘書政策課を通じて①荒木部長によるハラスメントを認識しているか、②認識しているなら荒木部長を処分するのか。またハラスメント根絶に向けた今後の取り組みについて、③今回の件を公表する考えはあるか、④三保市長自身が元観光課長にパワハラをした事実はあるか――と質問したが、 「人事管理上の事案であり、職員のプライバシー保護という観点からコメントは控えたい」(秘書政策課) ただ、市議会昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する一般質問を行った際、三保市長はこう答弁している。 「パワハラはあってはならないと考えています。そういう事案が起きた場合は厳正に対処します。パワハラは起こさない、なくすということを徹底していきます」 疲弊する地方公務員  荒木部長は周囲に「定年まで残り1年は安達地方広域行政組合事務局長を務めるようになると思う」などと発言しているという。同事務局長は部長職なので、もし発言が事実なら、産業部長からの横滑りということになる。被害者のB氏は課長から主幹に降格したのに、加害者の荒木氏は肩書きを変えて部長職に留まることが許されるのか。 「職員の間では、荒木氏は三保市長との距離の近さから部長に昇格できたと見なされている。その荒木氏に対し三保市長が処分を科すのか、あるいはお咎めなしで安達広域の事務局長にスライドさせるのかが注目されます」(前出・市役所関係者) 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、2021年度に心の不調で病休となった地方公務員は総務省調査(※2)で3万8000人を超え、全職員の1・2%を占めたという。 ※2 令和3年度における地方公務員の懲戒処分等の状況  (令和3年4月1日~令和4年3月31日)調査  心の不調の原因は「対人関係」「業務内容」という回答が多く、パワハラ主因説の根拠になっている。 身の危険を感じた若手職員は離脱していく。2020年度の全退職者12万5900人のうち、25歳未満は4700人、25~30歳未満は9200人、30~35歳未満は6900人、計2万0800人で全退職者の16・5%を占める。せっかく採用しても6人に1人は35歳までの若いうちに退職しているのだ。 そもそも地方自治体は「選ばれる職場」ではなくなりつつある。 一般職地方公務員の過去10年間の競争試験を見ると、受験者数と競争率は2012年がピークで60万人、8・2倍だったが、19年がボトムで44万人、5・6倍と7割強まで激減した。内定を出しても入職しない人も増えている。 地方公務員を目指す人が減り、せっかく入職しても若くして辞めてしまう。一方、辞めずに留まっても心の不調を来し、病休する職員が後を絶たない。 「パワハラを放置すれば、地方自治体は職場としてますます敬遠されるでしょう。そうなれば人手不足が一層深刻化し、心の不調に陥る職員はさらに増える。健全な職場にしないと、こうした負のループからは抜け出せないと思います」(上林氏) 地方自治体は、そこまで追い込まれた職場になっているわけ。 定例会で「厳正に対処する」と明言した三保市長は、その言葉通り荒木部長に厳正に対処すると同時に、自身のハラスメント行為も改め、職員が働き易い職場づくりに努める必要がある。それが、職員のモチベーションを上げ、市民サービスの向上にもつながっていくことを深く認識すべきだ。  ※被害者の1人、B氏は周囲に「そっとしておいてほしい」と話しているため、議員はハラスメントの実態を把握しているが、一般質問などで執行部を追及できずにいる。昨年12月定例会で菅野明議員がパワハラに関する質問をしているが、B氏の件に一切言及しなかったのはそういう事情による。しかし本誌は、世の中に「ハラスメントは許さない」という考えが定着しており、加害者が部長、市長という事態を重く見て社会的に報じる意義があると記事掲載に踏み切ったことをお断わりしておく。 あわせて読みたい 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」 ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • 浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

     浪江町社会福祉協議会が、組織の統治・管理ができないガバナンス崩壊にある。一職員によるパワハラが横行し、休職者が出たが、事務局も理事会も対処できず指導力のなさを露呈。事務局長には縁故採用を主導した疑惑もあり、専門家は「福祉という公的な役割を担う組織のモラル崩壊は、サービスを受ける住民への不利益につながる」と指摘する。 ガバナンス崩壊で住民に不利益  2022年6月、浪江町に複合施設「ふれあいセンターなみえ」がオープンした。JR浪江駅に近く、帰還した町民の健康増進や地域活性化を図る役割が期待されている。敷地面積は約3万平方㍍。デイサービスなどの福祉事業を担うふれあい福祉センターが入所し、福祉関連の事業所が事務所を置いている。福祉センター以外にも、壁をよじ登るボルダリング施設や運動場、図書室がある。 福祉センターは社会福祉法人の浪江町社会福祉協議会(浪江町社協)が指定管理者を務めている。業務を開始して3カ月以上が経った福祉センターだが、ピカピカの新事務所に職員たちは後ろめたさを感じていた。開設に尽力した人物が去ってしまったからだ。 「指定管理者認定には、40代の男性職員が町と折衝を重ねてきました。今業務ができるのも彼の働きがあってこそです。ところが、彼はうつ病と診断され休職しています。10月に辞めると聞きました。今は代わりに町職員が出向しています。病気の理由ですか? 事務局の一職員からのパワハラがひどいんです。これは社協の職員だったら誰もが知っていることです」(ある職員) パワハラの実態に触れる前に、浪江町社協が町の代わりに住民の福祉事業の実務を担う公的な機関であることを明らかにせねばならない。それだけ役割が重要で、パワハラが放置されれば休職・退職者が続出し、せっかく帰還した住民に対するサービス低下も免れないからだ。 社協は福祉事業を行う社会福祉法人の形態の一つ。社会福祉法人は成り立ちから①民設民営、②公設民営、③公設公営の三つに分けられ、社協は国や行政が施設を建設し、運営委託する点で③に含まれる。職員も中枢メンバーは設置自治体からの出向が多く、行政の外郭団体である。 浪江町社協の2021年度の資金収支計算書では、事業活動収入は計2億2400万円。うち、最も多いのが町や県からの受託金収入で1億5300万円(約68%)。次が町などからの補助金で4460万円(約19%)となっている。22年度の町の予算書によると、同社協には3788万円の補助金が交付されている。法人登記簿によると、同社協は1967(昭和42)年に成立。資産の総額は4億7059万円。現在の理事長は栃本勝雄氏(浪江町室原)で2022年6月20日に就任した。 前理事長は吉田数博前町長(同町苅宿)が兼ねていた。予算上も人員上も自治体とは不可分の関係から、首長が理事長を務めるのは小規模町村では珍しくない。吉田前町長も慣例に従っていた(2022年5月の町議会第2回臨時会での吉田数博町長の答弁より)。ただ、首長が自治体と請負契約がある法人の役員に就くことを禁じた地方自治法第142条に反するおそれがあり、社会福祉法人としての独立性を保つ観点から、近年、自治体関係者は役員に就かせない流れにある。同社協も吉田数博町長が引退するのに合わせ、2022年度から理事長を町長以外にした。 同社協の本所は前述・福祉センター内にある浪江事務所。原発災害からの避難者のために福島市、郡山市、いわき市に拠点があり、東京にも関東事務所を置く。職員は震災後に増え、現在は50人ほどいる。 事務局長「職員からの報告はない」 【浪江町】複合施設「ふれあいセンターなみえ」  問題となっているパワハラの加害者は、浪江事務所に勤める女性職員だという。この女性職員は、会計を任されていることを笠に着て同僚職員を困らせているようだ。例えば、職員が備品の購入や出張の伺いを立てる書面を、上司の決裁を得て女性職員に提出しても「何に必要なのか」「今は購入できない」などの理由を付けて跳ね返すという。人格を否定する言葉で罵倒することもあるそうだ。 一方で、女性職員は自分の判断で備品を購入しているという。ある職員は、女性職員のデスクの周りを見たら、新品の機器が揃えられていたことに唖然とした。 「彼女は勤務年数も浅いし、役職としては下から数えた方が早いんです。会計担当とはいえ、自由にお金を使える権限はありません。でも高圧的な態度を取られ、さらには罵倒までされるとなると、標的にはなりたくないので、誰も『おかしい』とは言えなくなりますね。発議を出すのが怖いと多くの職員が思っています」(ある職員) 職員たちは職場に漂う閉塞感を吐露する。休職・退職が相次ぎ、現場の負担が増した時があった。当時は「あと1人欠けたら職場が回らなくなる」との思いで出勤していたという。次第に女性職員の逆鱗に触れず一日が終わることが目的になった。「いったい私たちは誰をケアしているんでしょうね」と悲しくなる時がある。 休職し、退職を余儀なくされた男性職員は女性職員より上の役職だ。しかし、女性職員から高圧的な態度を取られ、部下からは「なぜ指導できないのか」と突き上げを食らい、板挟みとなった。この男性職員を直撃すると、 「2021年春ごろから体に異変が起こり、不眠が続くようになりました。心療内科の受診を勧められ、精神安定剤と睡眠導入剤を処方されるようになり、今も通院しています」(男性職員) 心ない言葉も浴びせられた。 「2022年春に子どもの卒業式と入学式に出席するため有給休暇を取得しました。その後、出勤すると女性職員から『なんでそんなに休むの?』と聞かれ『子どもの行事です』と答えると『あんた、父子家庭なの?』と言われました」(同) 子どもの行事に出席するのに母親か父親かは関係ない。他人が家庭の事情に言及する必要はないし、女性職員が嫌味を言うために放った一言とするならば、ひとり親家庭を蔑視している表れだろう。そもそも、有給休暇を取得するのに理由を明らかにする必要はない。 筆者は浪江事務所を訪ね、鈴木幸治事務局長(69)=理事も兼務=にパワハラへの対応を聞いた。 ――パワハラを把握しているか。 「複数の職員から被害の訴えがあったと聞いてびっくりしています。そういうことがあるというのは一切聞いていません」 ――ある職員は鈴木事務局長に直接被害を申し出、「対応する」との回答を得たと言っているが。 「その件は、県社会福祉協議会から情報提供がありました。全事務所の職員に聞き取りをしなくてはならないと思っています」 ――パワハラを把握していないという最初の回答と食い違うが。 「パワハラを受けたという職員からの直接の報告は1人もいないということです。県社協からは情報提供を受けました。聞き取りをしますと職員たちには伝えました」 ――調査は行ったのか。 「まだです。前の事務所から移ったばかりなので。落ち着くまで様子を見ている状況です」 加害者として思い当たる人物はいるかと尋ねると、「パワハラは当事者同士の言葉遣い、受け取り方によりますが、厳しい言い方があったのは確かで私も注意はしました。本人には分かってもらえたと思っています」と答えた。 本誌は栃本勝雄理事長と吉田数博前理事長にパワハラを把握していたかについて質問状を送ったが、原稿締め切りまでに返答はなかった。 「事務局長や理事長の責任放棄」  専門家はどう見るのか。流通科学大(神戸市)の元教授(社会福祉学)で近著に『社協転生―社協は生まれ変われるのか―』がある塚口伍喜夫氏(85)は「パワハラ」で収まる問題ではないという。 「役職が下の職員が上司の決裁を跳ねのけているのなら、決裁の意味が全くないですよね。個人のパワハラというよりも、組織が機能していない方がより問題だと思います。改善されていないのであれば事務局長や理事長の責任放棄です」 加えて、社協においても組織のガバナンス(管理・統治)の重要性を訴える。 「組織のガバナンスとは、任されている立場と仕事を果たすための環境を保持していくことです。業務から私的、恣意的なことを排除し、利用者に最上のサービスを提供することが大切です」(塚口氏) 事実、浪江町社協の職員たちはパワハラの巻き添えを食らわないよう自分のことに精いっぱいだ。利用者の方を向いて100%の仕事ができている状況とは言えない。 事務局長と理事長の対応に実効性がないことは分かったが、鈴木事務局長をめぐっては「別の問題」が指摘されている。縁故採用疑惑だ。 複数の職員によると、鈴木事務局長は知人の子や孫を、知人の依頼を受け積極的に職員に採用しているという。これまでに4人に上る。知人をつてに、人手不足の介護士や看護師などの専門職をヘッドハンティングしているなら分かるが、全員専門外で事務職に就いている。職員によると、採用を決めてから仕事を探して割り振るという本末転倒ぶりだ。 疑惑は親族にまで及んだ。前理事長の吉田前町長の元には、2022年度初めに「鈴木事務局長が義理の弟を関東事務所の職員に据えているのはどういうことか」と告発する手紙が届いたという。当初は義弟が所有する茨城県内の物件を間借りして関東事務所にする案もあったとの情報もある。義兄が事務局長(理事)を務める社協から、義弟に賃料が払われるという構図だ。 しかし、鈴木事務局長は「縁故採用はない」と否定する。 「職員を募集しても、福祉施設には応募が少ない。『来てくれれば助かるんだが』と話し、『家族と相談して試験を受けるんだったら受けるように』と言っただけです」 ――事務職は不足しているのか。 「町からの委託事業が多いので、それに伴った形で採用しています。正職員ではありません。なかなか応募がないので、知り合いを頼って人材を集めるのが確実です。募集もハローワークを通して、面接も小論文も必ず私以外の職員を含めた3人で行います。ですから、頼まれたから採用したというのは違います」 社協の意思決定は吉田前理事長を通して行ってきたと言う。 「やっていいかどうかの判断は私でもできます。一人で決めているわけではないです。別の職員の反対を押し切ることはありません。『ここの息子さんです』『あそこのお孫さんです』ということはすべて吉田前理事長に前もって説明していました。私が勝手にやったことは一度もありません」 ――介護士や看護師などの専門職は人手不足だが、その職種の採用を進めることはなかったのか。 「それはしていません。その時は介護士が必要な仕事を町から請け負ってなかったので、そもそも必要なかったのです。7月からデイサービス施設などを開所したことにより、介護士が必要になりました。ただ、そのような(縁故採用)指摘を受けたことの重大性は認識しており、個人的に応募を呼び掛けるのは控えるつもりです」 ――親族の採用については。 「試験を受けてもらい、復興支援員として関東事務所に配置しています。募集をかけても人が集まらない中、妻の弟が仕事を辞めたと聞き、『試験を受けてみないか』と打診しました。一方的に採用したわけではなく、私以外の職員2人による面接で選びました」 ――公募期間はいつからいつまでだったのか。 「なかなか集まらなかったので、長い期間募集していました。ただ、町からは『急いで採用してほしい』と言われていました。詳しい期間は調べてみないと分かりません」 「縁故採用は組織の私物化の表れ」  親族が所有する物件への関東事務所設置疑惑については、 「義弟が茨城県取手市で物件を管理しているので、いい物件が見つからない場合は、そこに置くのも一つの方法だな、と。ただ、それはやっていません」 ――交通の便が良い都心の方が避難者は利用しやすいのでは。 「関東に避難している方は茨城県在住の方が多いんです。近い方がいいのかな、と。それと首都圏で事務所を借り上げると、細かい部分が多いんですね。不動産業者を通して物件を探したが、なかなか見つからなかった。そこで、もし義弟の物件が空いているならと思って。ただ、身内の不動産を借りたとなると、いろいろ言われそうなのでやめました」 ――借りるのをやめたのは吉田前理事長の判断か。 「私の判断です。上に決裁は上げていませんので」 ――どうして都心の事務所になったのか。 「もう1人の職員が埼玉県草加市在住なので、どちらも通える方がいいですし、茨城だけに集中するわけではないので、被災者と職員の両方が通いやすいように、アクセスの良い都心がいいかなと考えました。義弟の物件を一時考えたのも、不動産業者を通すより手続きが簡素で、借りやすいという利点がありました。仮に義弟の物件を選んだとして、他の物件と比べて1円でも多く払うということはありません」 初めは「関東の避難者は茨城に多い」と答えていたが、いつの間にか「避難者は茨城だけに集中するわけではない」と矛盾をきたしている。 前出・塚口氏に見解を聞いた。 「公正に募って選別するというルートを踏むのが鉄則です。縁故採用が事実なら、組織を私物化した表れと言っていいでしょう。本来は誰がどこから見ても公正な採用方法が取られていると保証されなければなりません。それが組織運営の公正さに結びつきます。福祉事業は対人支援です。最上の支援は、絶えず検証しながら提供していくことが大事です。そこに私的なものや恣意的なものが混じってくると、良いサービスは提供できないと思います」 ガバナンスがきちんとしていないと、福祉サービスにも悪影響が出るというわけだ。浪江町社協には、町や県から補助金が交付されている。町民や県民は同社協の在り方にもっと関心を持ってもいい。