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マルト建設

  • 【マルト建設】県職員贈収賄事件の背景

     土木建築業マルト建設㈱(会津坂下町)の前社長が入札情報を教えてもらう見返りに県職員(当時)に接待したとして贈賄罪に問われ、懲役1年(執行猶予3年)の判決が言い渡された。同社の営業統括部長(当時)は贈賄ではなく、県職員から得た予定価格を同業他社の社員に教えた入札妨害の罪に問われ有罪。県職員が予定価格を教えるようになったのは、約15年前の別業者が最初だった。県職員は、各社の営業担当者の間で予定価格漏洩の「穴」とされていた実態が浮かび上がった。 15年前から横行していた予定価格漏洩 マルト建設本社  2020年3月から22年4月にかけて、県職員から入札情報を得る見返りに12回に渡ってゴルフ接待や宿泊、飲食費など約26万円を払ったとして贈賄罪に問われたのは、マルト建設前社長の上野清範氏(45)=会津坂下町=、収賄罪に問われたのが、当時県会津農林事務所に勤めていた元県職員の寺木領氏(44)=会津若松市湊町=だ。 寺木氏は高校卒業後の1997年、福島県に技術職員として採用された。各地の県農林事務所に勤め、圃場整備の発注や工事の監督を担当。2019~21年度まで県会津農林事務所に勤め、19年からマルト建設の前営業統括部長、棚木光弘氏(59)=公契約関係競売入札妨害罪で有罪=に予定価格を教えていた。  寺木氏は他に少なくとも会津地方の業者2社に予定価格を教えていたという。管理システムにアクセスし、自身が担当する以外の事業も閲覧し伝えた。逮捕後に懲戒免職となり、現在は実家の農業を手伝っている。 本誌は3月号で、関係者の話として、寺木氏と上野氏が父親の代から接点があること。寺木氏が猪苗代湖畔にプライベートビーチを持ち、マルト建設が社員の福利厚生目的でその場所をタダ同然で使っていたと伝えた。裁判では、プライベートビーチが寺木氏と上野氏を結びつけたことが明らかとなった。 寺木氏は初公判で収賄を認めるか聞かれ、「間違いありません」と答えたうえで次のように述べた。 「(受けた接待は)マルト建設がビーチを使うことについて、管理人を紹介したことに対するお礼も含まれていると思います」 ビーチは猪苗代湖西岸の会津若松市湊町にある。寺木氏の実家の近所だ。5月上旬、筆者は湖岸を訪れた。キャンパーたちのテントが張られている崎川浜から猪苗代湖を右手に北に向かい、砂利道を3分くらい歩くと「聖光学院所有地 一般の方は立入禁止」との看板が出てきた。ゲートとして金属製の棒が横に掛けられ、通れなくなっていた。 横浜市の「聖光学院」が所有するプライベートビーチの入り口。マルト建設は管理人に使用を許された寺木氏を通じて使っていた。  「聖光学院」とあるが、伊達市の甲子園常連校ではなく、神奈川県横浜市にある中高一貫の学校法人だ。 寺木氏の法廷での証言によると、ビーチには聖光学院の合宿施設があり、毎夏生徒たちが訪れていたが、震災・原発事故以降は使われていなかった。寺木氏の両親らがビーチに水道設備を作り、生徒らの食事や洗濯を世話していた縁で、寺木家はビーチを無償で使用できるようになったという。小学校時代の寺木氏にとっては格好の遊び場だった(検察官が読み上げたビーチ管理人の供述調書と寺木氏の証言より)。 寺木氏と上野氏は少なくとも2006年ごろから担当工事を通じてお互いを知った。10年ごろにビーチの近くで2人はばったり会い、上野氏はゲートに閉ざされた聖光学院のビーチを寺木氏が自由に使える理由を聞いた。事情を知った上野氏は、マルト建設の社員たちもビーチを使えるように所有者と管理人に話を通してほしいと頼んだ。 寺木氏は「今年も使わせてほしい」と上野氏から連絡を受けると、「マルト建設が使うからよろしく」と近所に住む管理人に伝える仲になった。 これを機に、2011年ごろから寺木氏は、マルト建設が新年会として郡山市やいわき市のゴルフ場で開いているコンペに招かれるようになった。費用は同社の接待交際費から捻出。県職員と公共事業の受注者が一緒にゴルフをプレーすれば疑念を抱かれるので、寺木氏は実在する同社取締役の名前を偽名に使わせてもらい参加した。 寺木氏によると、マルト建設の棚木氏に予定価格を教えたのは2019年の夏か秋ごろからだった。仕事の悩みを相談する間柄になり、恩を感じて教えるようになった。裁判ではこれ以降に贈収賄罪が成立したとされ、寺木氏と上野氏は罪を認めている。ただし、どの入札に価格漏洩が反映されていたかは、検察側は公判で言及しなかった。 入札不正は根深い。寺木氏が初めて業者に予定価格を教えたのは2008、09年ごろ、別会社の社員Aに対してだった。寺木氏はAに人間関係や仕事の悩みを相談し、助言を受けていた。「Aさんしか頼れる人がいなかった」とも。そのうち「設計金額を教えてほしい」と請われ、断れなくなった。その後も複数回教え、さらに別の2社の社員にも教えるようになった。 明確になった「ライン」 上野氏と寺木氏が接近するきっかけとなった猪苗代湖西岸。プライベートビーチは林の向こうにある。  マルト建設の棚木氏に教えるようになったのは、会津坂下町のある業者の社員の紹介だった。寺木氏は限られた営業担当者に教えたはずの予定価格が、他の業者にも広まっているのを薄々感じていたという。 棚木氏は当初、上野氏と同じく寺木氏への贈賄の疑いで逮捕されたが、実際に裁判で問われた罪は公契約関係競売入札妨害だった。2021年に県会津農林事務所が入札を行った事業に関し、寺木氏から得た情報を自社ではなく、個人的に親しかった会津若松市のB社の営業担当者に教えていた。同様の工事が前回は応札する業者がおらず不調だったこと、今回はB社のみの応札だったことから、棚木氏は教えるハードルが下がっていたと振り返った。 本誌の取材に応じたB社の役員は「棚木氏が県職員から予定価格を教えてもらっているとは夢にも思わなかった。日々向上を重ねている積算の技術で落札したもの」と話した。 業界関係者は「今は積算ソフトの性能が向上し、高い精度で予定価格を割り出せる。警察沙汰になるようなリスクを犯し、公務員から予定価格を教えてもらうのは割に合わない」と業界の常識を話す。 寺木氏は、個人的な相談をきっかけに各社の営業担当者らと親しくなり、予定価格漏洩の「穴」となった。マルト建設の棚木氏はそのうちの1人。同社前社長の上野氏は、プライベートビーチの使用を契機に寺木氏に接近し、受注業者と公務員の不適切な関係を問われた。 贈収賄と入札妨害の関係を一つひとつ紐解くのは困難で、当事者も全体像はつかめていないだろう。ただ言えるのは、公務員は予定価格の漏洩、民間業者はその公務員と疑念を抱かれる関係を持つことが「越えてはいけないライン」ということだ。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設

  • 【マルト建設】贈収賄事件の真相

    【マルト建設】贈収賄事件の真相

     土木建築業のマルト建設㈱(会津坂下町牛川字砂田565)が揺れている。社長と営業統括部長が県職員への贈賄容疑で逮捕されたが、同じタイミングで町内では、役場庁舎の移転候補地の一つに同社が関わっていることが判明。町と同社の間でそこに移転することが既に決まっているかのような密約説まで囁かれている。しかし取材を進めると、贈収賄事件も密約説も公になっていない真実が潜んでいることが分かった。 誤解だった旧坂下厚生病院跡地〝密約説〟 マルト建設本社  マルト建設は1971年設立。資本金9860万円。役員は代表取締役・上野清範、取締役・上野誠子、佐藤信雄、根本香織、鈴木和弘、棚木光弘、成田雅弘、馬場美則、監査役・上野巴、上野洋子の各氏。  土木建築工事業と砂・砂利採取業を主業とし、会津管内ではトップクラスの完工高を誇る。関連会社に不動産業のマルト不動産㈱(会津若松市、上野清範社長)、石油卸売業の宝川産業㈱(同市、根本香織社長)、測量・設計企画業の東北都市コンサル㈱(同市、鵜川壽雄社長)がある。 マルト建設が贈収賄事件の渦中にあるのは、地元紙等の報道で読者も周知のことと思う。1月23日、社長の上野清範氏(45)と、取締役で営業統括部長の棚木光弘氏(59)が逮捕された。両氏は県会津農林事務所発注の公共工事の入札で、同事務所農村整備課主査の寺木領氏(44)から設計金額を教えてもらった見返りに、飲食代やゴルフ代など約26万円相当の賄賂を供与したとされる。 報道によると、①寺木氏が賄賂を受けたのは2020年3月から22年4月ごろ、②マルト建設は会津農林事務所が19~22年度に発注した公共工事のうち17件を落札、③寺木氏が19~21年度に設計・積算を担当した工事は7件で、このうち同社が落札したのは1件、④寺木氏が教えたとされる入札情報が、自身の業務で知り得たのか、他の手段で入手したのかは分からない、⑤寺木氏は22年4月から県中農林事務所に勤務――等々が分かっている。 一方、分かっていない点もある。寺木氏から教えてもらった入札情報をもとに、マルト建設が落札した工事はどれか、別の言い方をすると、同社が供与した賄賂は、どの工事に対する見返りだったのかが判然としないことだ。 実際、寺木氏と上野氏の起訴後、福島民報は《(起訴状によると)12回にわたり、いわき市の宿泊施設など7カ所で飲食、宿泊、ゴルフ代など26万2363円分の接待》(2月14日付)と報じ、賄賂の中身は詳細になったが、賄賂と落札した工事のつながりは相変わらず見えない。 上野氏が否認する理由  興味深い点がある。棚木氏は贈賄罪について不起訴になったことだ。これに対し、寺木氏は「棚木氏に入札情報を教えたことは間違いない」と容疑を認めている。 つまり今回の事件は、寺木氏が棚木氏に入札情報を教え、寺木氏に賄賂を供与したのは上野氏という構図になる。だから、贈賄に直接関与していない棚木氏は不起訴になったとみられるが、興味深い点は他にもある。上野氏が「知らない」「関係ない」と容疑を否認していることだ。 寺木氏は入札情報を教えたことを認めているのに、上野氏は賄賂を供与したことを認めていない。これでは贈収賄は成立しないことになる。 なぜ、上野氏は容疑を否認しているのか。それは、上野氏に「賄賂を供与した」という認識が一切ないからだ。実は、上野氏と寺木氏は友人関係にあり、父親の代から接点があるという。 本誌の取材に、上野氏をよく知る人物が語ってくれた。 「寺木氏は猪苗代湖の近くに自宅があり、父親は浜の管理などの仕事をしていた。プライベートビーチも持っていた。一方、上野氏の父親はアウトドアレジャーが趣味で、上野氏自身もボートを所有している。マルト建設は昔から、夏休みに社員家族を招待して猪苗代湖でキャンプをしていたが、その場所が寺木氏のプライベートビーチだった。同社はタダ同然で借りていたそうです。今は新型コロナの影響で中止されているが、キャンプは両氏の父親の代から始まったそうだ」 44歳の寺木氏と45歳の上野氏は互いの父親を通じて、子ども時代から面識があった可能性もある。 そんな両氏は大人になり、県職員と社長になっても今までと変わらない付き合いを続けていたようだ。 「一緒に飲んだり、ゴルフをすることもあったと思います。そのお金は割り勘の時もあれば、どっちかがおごる時もあったでしょうね」(同) 普段からこういう付き合いをしていれば、ふとした拍子に仕事の話をしても不思議ではないように思えるが、上野氏を知る人物は「上野氏がプライベートで仕事の話をすることはない」と断言する。 「社内でも上野氏が仕事の話をすることはほとんどないそうです。『この仕事は絶対に取れ』とか『こういう業績では困る』といった指示もない。あるのは『こういう仕事をやります』とか、落札できた・できなかったという社員からの報告と、それに対する『分かった』という上野氏の返事だけ。仕事の細かいことは全く気にしない(知らない)上野氏が、入札情報にいちいち興味を示すとは思えない」(同) そんな上野氏との個人的関係とは別に、寺木氏が接点を持ったのが棚木氏だった。 棚木氏は会津地方の土木建築会社を経て、十数年前にマルト建設に入社。官公庁の仕事を一手に引き受ける責任者の役目を担っていた。 上野氏を知る人物は、寺木氏と棚木氏がどういう経緯で知り合ったかは分からないという。ただ、棚木氏が賄賂を渡していないのに寺木氏が入札情報を教えたということは、こんな推察ができるのではないか。 ①寺木氏が会津農林事務所に勤務したタイミングで営業活動に訪れたのが棚木氏だった。②その時、寺木氏は棚木氏が「上野氏の部下」であることを知り、親近感を抱くようになった。③そのうち「上野氏にはいつも世話になっているから」と、棚木氏に入札情報を教えるようになった。④だから、寺木氏と棚木氏の間に賄賂は介在しなかった――。 「要するに、上野氏が払った飲食代やゴルフ代は友人として寺木氏におごっただけで、寺木氏が棚木氏に入札情報を教えた見返りではないということです。にもかかわらず警察や検察から『賄賂だろ』と迫られたため、上野氏は『そうじゃない』と否認しているんだと思います」(同) これなら、賄賂と落札した工事のつながりが見えないことも納得がいく。上野氏にとっては「単におごった金」に過ぎないので、落札した工事とつながるはずがない。上野氏は今ごろ「なぜ友人との遊び代が賄賂にすり替わったんだ」と不満に思っているのではないか。 もともと業界内では「たった26万円の賄賂で工事を取るようなリスクを犯すだろうか」と上野氏の行為を疑問視する声が上がっていた。「東京オリンピックの談合事件のように数百万円の賄賂で数十億円の仕事が取れるならリスクを犯す価値もあるが、26万円の賄賂で逮捕されたら割に合わない」というのだ。つまり業界内にも「26万円は本当に賄賂なのか」といぶかしむ声があるわけ。 とはいえ、公共工事の受発注の関係にあった寺木氏と上野氏が親しくしていれば、周囲から疑惑の目を向けられるのは当然だ。 「昔から友人関係にあったとしても、立場をわきまえて付き合う必要はあったし、せめて寺木氏が会津管内に勤めている間は距離を置くべきだった」(前出・上野氏を知る人物) 寺木氏もまた、県の職員倫理規則で申告が義務付けられている利害関係者との飲食やゴルフを届け出ておらず、事後報告もしていなかった。脇の甘さは両氏とも同じようだ。 ただ、両氏の付き合い方を咎めることと26万円が本当に賄賂だったかどうかは別問題だ。上野氏が今後も容疑を否認し続けた場合、検察はそれでも「落札した工事の見返りだった」と主張するのか。26万円が賄賂ではなかったとすれば、贈収賄事件の構図はどうなるのか注目される。 更地になったら買う約束 建物の解体工事が行われている旧厚生病院(撮影時は冬季中断中だった)  本誌先月号に会津坂下町役場の新築移転に関する記事を掲載した。 現庁舎の老朽化を受け、町は2018年3月、現庁舎一帯に新庁舎を建設することを決めたが、半年後、財政問題を理由に延期。それから4年経った昨年5月、町民有志から町議会に建設場所の再考を求める請願が出され、賛成多数で可決した。 町は新庁舎候補地として①現庁舎一帯、②旧坂下厚生総合病院跡地、③旧坂下高校跡地、④南幹線沿線県有地の四カ所を挙げ、町民にアンケートを行ったところ、旧厚生病院跡地という回答が多数を占めた。 ところが、昨年12月定例会で五十嵐一夫議員が「旧厚生病院跡地は既に売却先が決まっており、新庁舎の建設場所になり得ない」と指摘。「売却先が決まっていることを知らなかったのか」と質問すると、古川庄平町長は「知らない」と答弁した。 五十嵐議員によると「JA福島厚生連に問い合わせた結果、文書(昨年10月3日付)で『売却先は〇〇社に決まっている』と回答してきた」という。文書には〇〇社の実名も書かれていたが、五十嵐議員は社名を明かすことを控えており、筆者も五十嵐議員に尋ねてみたが「教えられない」と断られた。 JA福島厚生連にも売却先を尋ねたが「答えられない」。 公にはなっていない売却先だが、実はマルト建設が取得する方向で話が進んでいる。ちなみに同社は、旧厚生病院の建物解体工事を受注しており、昨年12月末から今年2月末までは降雪を考慮し工事が中断されていたが、3月から再開され、6月に終了予定となっている。ただ、敷地内から土壌汚染対策法の基準値を超える有害物質が検出され、土壌改良が必要となり、工事は年内いっぱいかかるとみられる。 ある事情通が内幕を明かす。 「工事が終了したら正式契約を交わす約束で、マルト建設からは買付証明書、厚生連からは売渡承諾書が出ている。売却価格は厚生連から概算で示されているようだが、具体的な金額は分からない」 マルト建設は建物解体工事を受注した際、JA福島厚生連から「跡地を買わないか」と打診され「更地になったら買う」と申し入れていた。 「厚生連には跡地利用の妙案がなく、更地後も年間数百万円の固定資産税がかかるため早く手放したいと考えていた。マルト建設は取得するつもりは一切なかったが、解体工事で世話になった手前、無下には断れなかったようです」(同) そのタイミングで浮上したのが旧厚生病院跡地に役場庁舎を新築移転する案だったが、ここでマルト建設に思わぬ悪評がついて回る。密約説だ。すなわち、同社は同跡地が候補地になることを知っていて、厚生連から取得後、町に売却することを考えた。新庁舎建設が延期された2018年、同跡地は候補地に挙がっていなかったのに今回候補地になったのは、町と同社の間に密約があったから――というのだ。 密約説は、現庁舎一帯での新築を望む旧町や商店街で広まっている。 「旧町や商店街は役場が身近にあることで生活や商売が成り立っているので、旧厚生病院跡地への移転に絶対反対。だから、密約説を持ち出し『疑惑の候補地に移転するのではなく、2018年に決めた現庁舎一帯にすべき』と主張している」(同) しかし、結論を言うと密約は存在しない。 古川町長は、旧厚生病院跡地の売却先が決まっていることを知らなかったとしているが、実際は知っていたようだ。というのも、町は同跡地を新庁舎の候補地に挙げる際、マルト建設に「町で取得しても問題ないか」と打診し、内諾を得ていたというのだ。ただし取得の方法は、密約説にある「マルト建設がJA福島厚生連から取得後、町に売却する」のではなく、前述の買付証明書と売渡承諾書を破棄し、同社は撤退。その後、町が厚生連から直接取得することになるという。 この問題は、古川町長が五十嵐議員の質問に「知っていた」と答え、具体的な取得方法を示していれば密約説が囁かれることもなかったが、役所は性質上「正式に決まったことしか公表しない」ので、旧厚生病院跡地の取得を水面下で進めようとしていた以上、「知らなかった」こととして取り繕うしかなかったわけ。 JA施設集約を提案 会津坂下町の周辺地図  このように、役場庁舎の新築移転先に決まるのかどうか注目が集まる旧厚生病院跡地だが、これとは全く別の利用法を挙げているのが会津坂下町商工会(五十嵐正康会長)だ。 同商工会は昨年末、古川町長に直接「まちづくりの視点から旧厚生病院跡地を有効活用すべき」と申し入れ、具体策として町内に点在するJA関連施設の集約を提案した。 五十嵐会長はこう話す。 「町内にはJA会津よつば本店や各支店をはじめ、直売所のうまかんべ、パストラルホールなど多くのJA関連施設が点在するが、老朽化が進み、手狭になっている。そういった施設を旧厚生病院跡地に集約し、農業の一大拠点として機能させれば町内だけでなく会津西部の人たちも幅広く利用できる。直売所も駐車場が広くとれるので、遠方からも客が見込めるし、町内外の組合員が商品を納めることもできる。農機具等の修理工場も広い敷地がほしいので、同跡地は適地だと思います」 土地売買も、JA福島厚生連とJA会津よつばで交渉すれば、同じJAなのでスムーズに進むのではないかと五十嵐会長は見ている。 「新しい坂下厚生病院とメガステージ(商業施設)が町の北西部にオープンし、人の流れは確実に変わっている。商工会としては、人口減少が進む中、会津坂下町は会津西部の中心を担う立場から、広い視野に立ったまちづくりを行うべきと考えている。そのためにも、旧厚生病院跡地はより有効な活用を模索すべきと強く申し上げたい」(同) JA関連施設を集約するということは、事業主体はJAになるが、五十嵐会長は「町がJAに『こういう方法で一緒にまちづくりを進めてみないか』と提案するのは、むしろ良いことだと思う」。 ちなみに同商工会では、新庁舎をどこに建設すべきと言うつもりは一切なく、新庁舎も含めて将来の会津坂下町に必要な施設をどこにどう配置すべきかを、町民全体で今一度考えてはどうかと主張している。 密約説からJA関連施設集約案まで飛び出す旧厚生病院跡地。そこに関わるマルト建設は贈収賄事件が重なり、しばらく落ち着かない状況が続く見通しだ。 マルト建設は本誌の取材に「この度の事件では、多方面にご迷惑をおかけして本当に申し訳ない。当面の間、取材は遠慮したい」とコメントしている。 その後 ※古川町長は2月22日の町議会全員協議会で、新庁舎の建設場所を旧厚生病院跡地にする方針を示した。敷地面積2万1000平方㍍のうち1万平方㍍を利用する。用地取得費が多額になる見通しのため、町議会と協議しながら今後のスケジュールを決めるとしている。 あわせて読みたい 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設 庁舎新築議論で紛糾【継続派と再考派で割れる】 (2022年10月号) 現在地か移転かで割れる【会津坂下町】庁舎新築議論 (2023年2月号)

  • 【マルト建設】県職員贈収賄事件の背景

     土木建築業マルト建設㈱(会津坂下町)の前社長が入札情報を教えてもらう見返りに県職員(当時)に接待したとして贈賄罪に問われ、懲役1年(執行猶予3年)の判決が言い渡された。同社の営業統括部長(当時)は贈賄ではなく、県職員から得た予定価格を同業他社の社員に教えた入札妨害の罪に問われ有罪。県職員が予定価格を教えるようになったのは、約15年前の別業者が最初だった。県職員は、各社の営業担当者の間で予定価格漏洩の「穴」とされていた実態が浮かび上がった。 15年前から横行していた予定価格漏洩 マルト建設本社  2020年3月から22年4月にかけて、県職員から入札情報を得る見返りに12回に渡ってゴルフ接待や宿泊、飲食費など約26万円を払ったとして贈賄罪に問われたのは、マルト建設前社長の上野清範氏(45)=会津坂下町=、収賄罪に問われたのが、当時県会津農林事務所に勤めていた元県職員の寺木領氏(44)=会津若松市湊町=だ。 寺木氏は高校卒業後の1997年、福島県に技術職員として採用された。各地の県農林事務所に勤め、圃場整備の発注や工事の監督を担当。2019~21年度まで県会津農林事務所に勤め、19年からマルト建設の前営業統括部長、棚木光弘氏(59)=公契約関係競売入札妨害罪で有罪=に予定価格を教えていた。  寺木氏は他に少なくとも会津地方の業者2社に予定価格を教えていたという。管理システムにアクセスし、自身が担当する以外の事業も閲覧し伝えた。逮捕後に懲戒免職となり、現在は実家の農業を手伝っている。 本誌は3月号で、関係者の話として、寺木氏と上野氏が父親の代から接点があること。寺木氏が猪苗代湖畔にプライベートビーチを持ち、マルト建設が社員の福利厚生目的でその場所をタダ同然で使っていたと伝えた。裁判では、プライベートビーチが寺木氏と上野氏を結びつけたことが明らかとなった。 寺木氏は初公判で収賄を認めるか聞かれ、「間違いありません」と答えたうえで次のように述べた。 「(受けた接待は)マルト建設がビーチを使うことについて、管理人を紹介したことに対するお礼も含まれていると思います」 ビーチは猪苗代湖西岸の会津若松市湊町にある。寺木氏の実家の近所だ。5月上旬、筆者は湖岸を訪れた。キャンパーたちのテントが張られている崎川浜から猪苗代湖を右手に北に向かい、砂利道を3分くらい歩くと「聖光学院所有地 一般の方は立入禁止」との看板が出てきた。ゲートとして金属製の棒が横に掛けられ、通れなくなっていた。 横浜市の「聖光学院」が所有するプライベートビーチの入り口。マルト建設は管理人に使用を許された寺木氏を通じて使っていた。  「聖光学院」とあるが、伊達市の甲子園常連校ではなく、神奈川県横浜市にある中高一貫の学校法人だ。 寺木氏の法廷での証言によると、ビーチには聖光学院の合宿施設があり、毎夏生徒たちが訪れていたが、震災・原発事故以降は使われていなかった。寺木氏の両親らがビーチに水道設備を作り、生徒らの食事や洗濯を世話していた縁で、寺木家はビーチを無償で使用できるようになったという。小学校時代の寺木氏にとっては格好の遊び場だった(検察官が読み上げたビーチ管理人の供述調書と寺木氏の証言より)。 寺木氏と上野氏は少なくとも2006年ごろから担当工事を通じてお互いを知った。10年ごろにビーチの近くで2人はばったり会い、上野氏はゲートに閉ざされた聖光学院のビーチを寺木氏が自由に使える理由を聞いた。事情を知った上野氏は、マルト建設の社員たちもビーチを使えるように所有者と管理人に話を通してほしいと頼んだ。 寺木氏は「今年も使わせてほしい」と上野氏から連絡を受けると、「マルト建設が使うからよろしく」と近所に住む管理人に伝える仲になった。 これを機に、2011年ごろから寺木氏は、マルト建設が新年会として郡山市やいわき市のゴルフ場で開いているコンペに招かれるようになった。費用は同社の接待交際費から捻出。県職員と公共事業の受注者が一緒にゴルフをプレーすれば疑念を抱かれるので、寺木氏は実在する同社取締役の名前を偽名に使わせてもらい参加した。 寺木氏によると、マルト建設の棚木氏に予定価格を教えたのは2019年の夏か秋ごろからだった。仕事の悩みを相談する間柄になり、恩を感じて教えるようになった。裁判ではこれ以降に贈収賄罪が成立したとされ、寺木氏と上野氏は罪を認めている。ただし、どの入札に価格漏洩が反映されていたかは、検察側は公判で言及しなかった。 入札不正は根深い。寺木氏が初めて業者に予定価格を教えたのは2008、09年ごろ、別会社の社員Aに対してだった。寺木氏はAに人間関係や仕事の悩みを相談し、助言を受けていた。「Aさんしか頼れる人がいなかった」とも。そのうち「設計金額を教えてほしい」と請われ、断れなくなった。その後も複数回教え、さらに別の2社の社員にも教えるようになった。 明確になった「ライン」 上野氏と寺木氏が接近するきっかけとなった猪苗代湖西岸。プライベートビーチは林の向こうにある。  マルト建設の棚木氏に教えるようになったのは、会津坂下町のある業者の社員の紹介だった。寺木氏は限られた営業担当者に教えたはずの予定価格が、他の業者にも広まっているのを薄々感じていたという。 棚木氏は当初、上野氏と同じく寺木氏への贈賄の疑いで逮捕されたが、実際に裁判で問われた罪は公契約関係競売入札妨害だった。2021年に県会津農林事務所が入札を行った事業に関し、寺木氏から得た情報を自社ではなく、個人的に親しかった会津若松市のB社の営業担当者に教えていた。同様の工事が前回は応札する業者がおらず不調だったこと、今回はB社のみの応札だったことから、棚木氏は教えるハードルが下がっていたと振り返った。 本誌の取材に応じたB社の役員は「棚木氏が県職員から予定価格を教えてもらっているとは夢にも思わなかった。日々向上を重ねている積算の技術で落札したもの」と話した。 業界関係者は「今は積算ソフトの性能が向上し、高い精度で予定価格を割り出せる。警察沙汰になるようなリスクを犯し、公務員から予定価格を教えてもらうのは割に合わない」と業界の常識を話す。 寺木氏は、個人的な相談をきっかけに各社の営業担当者らと親しくなり、予定価格漏洩の「穴」となった。マルト建設の棚木氏はそのうちの1人。同社前社長の上野氏は、プライベートビーチの使用を契機に寺木氏に接近し、受注業者と公務員の不適切な関係を問われた。 贈収賄と入札妨害の関係を一つひとつ紐解くのは困難で、当事者も全体像はつかめていないだろう。ただ言えるのは、公務員は予定価格の漏洩、民間業者はその公務員と疑念を抱かれる関係を持つことが「越えてはいけないライン」ということだ。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設

  • 【マルト建設】贈収賄事件の真相

     土木建築業のマルト建設㈱(会津坂下町牛川字砂田565)が揺れている。社長と営業統括部長が県職員への贈賄容疑で逮捕されたが、同じタイミングで町内では、役場庁舎の移転候補地の一つに同社が関わっていることが判明。町と同社の間でそこに移転することが既に決まっているかのような密約説まで囁かれている。しかし取材を進めると、贈収賄事件も密約説も公になっていない真実が潜んでいることが分かった。 誤解だった旧坂下厚生病院跡地〝密約説〟 マルト建設本社  マルト建設は1971年設立。資本金9860万円。役員は代表取締役・上野清範、取締役・上野誠子、佐藤信雄、根本香織、鈴木和弘、棚木光弘、成田雅弘、馬場美則、監査役・上野巴、上野洋子の各氏。  土木建築工事業と砂・砂利採取業を主業とし、会津管内ではトップクラスの完工高を誇る。関連会社に不動産業のマルト不動産㈱(会津若松市、上野清範社長)、石油卸売業の宝川産業㈱(同市、根本香織社長)、測量・設計企画業の東北都市コンサル㈱(同市、鵜川壽雄社長)がある。 マルト建設が贈収賄事件の渦中にあるのは、地元紙等の報道で読者も周知のことと思う。1月23日、社長の上野清範氏(45)と、取締役で営業統括部長の棚木光弘氏(59)が逮捕された。両氏は県会津農林事務所発注の公共工事の入札で、同事務所農村整備課主査の寺木領氏(44)から設計金額を教えてもらった見返りに、飲食代やゴルフ代など約26万円相当の賄賂を供与したとされる。 報道によると、①寺木氏が賄賂を受けたのは2020年3月から22年4月ごろ、②マルト建設は会津農林事務所が19~22年度に発注した公共工事のうち17件を落札、③寺木氏が19~21年度に設計・積算を担当した工事は7件で、このうち同社が落札したのは1件、④寺木氏が教えたとされる入札情報が、自身の業務で知り得たのか、他の手段で入手したのかは分からない、⑤寺木氏は22年4月から県中農林事務所に勤務――等々が分かっている。 一方、分かっていない点もある。寺木氏から教えてもらった入札情報をもとに、マルト建設が落札した工事はどれか、別の言い方をすると、同社が供与した賄賂は、どの工事に対する見返りだったのかが判然としないことだ。 実際、寺木氏と上野氏の起訴後、福島民報は《(起訴状によると)12回にわたり、いわき市の宿泊施設など7カ所で飲食、宿泊、ゴルフ代など26万2363円分の接待》(2月14日付)と報じ、賄賂の中身は詳細になったが、賄賂と落札した工事のつながりは相変わらず見えない。 上野氏が否認する理由  興味深い点がある。棚木氏は贈賄罪について不起訴になったことだ。これに対し、寺木氏は「棚木氏に入札情報を教えたことは間違いない」と容疑を認めている。 つまり今回の事件は、寺木氏が棚木氏に入札情報を教え、寺木氏に賄賂を供与したのは上野氏という構図になる。だから、贈賄に直接関与していない棚木氏は不起訴になったとみられるが、興味深い点は他にもある。上野氏が「知らない」「関係ない」と容疑を否認していることだ。 寺木氏は入札情報を教えたことを認めているのに、上野氏は賄賂を供与したことを認めていない。これでは贈収賄は成立しないことになる。 なぜ、上野氏は容疑を否認しているのか。それは、上野氏に「賄賂を供与した」という認識が一切ないからだ。実は、上野氏と寺木氏は友人関係にあり、父親の代から接点があるという。 本誌の取材に、上野氏をよく知る人物が語ってくれた。 「寺木氏は猪苗代湖の近くに自宅があり、父親は浜の管理などの仕事をしていた。プライベートビーチも持っていた。一方、上野氏の父親はアウトドアレジャーが趣味で、上野氏自身もボートを所有している。マルト建設は昔から、夏休みに社員家族を招待して猪苗代湖でキャンプをしていたが、その場所が寺木氏のプライベートビーチだった。同社はタダ同然で借りていたそうです。今は新型コロナの影響で中止されているが、キャンプは両氏の父親の代から始まったそうだ」 44歳の寺木氏と45歳の上野氏は互いの父親を通じて、子ども時代から面識があった可能性もある。 そんな両氏は大人になり、県職員と社長になっても今までと変わらない付き合いを続けていたようだ。 「一緒に飲んだり、ゴルフをすることもあったと思います。そのお金は割り勘の時もあれば、どっちかがおごる時もあったでしょうね」(同) 普段からこういう付き合いをしていれば、ふとした拍子に仕事の話をしても不思議ではないように思えるが、上野氏を知る人物は「上野氏がプライベートで仕事の話をすることはない」と断言する。 「社内でも上野氏が仕事の話をすることはほとんどないそうです。『この仕事は絶対に取れ』とか『こういう業績では困る』といった指示もない。あるのは『こういう仕事をやります』とか、落札できた・できなかったという社員からの報告と、それに対する『分かった』という上野氏の返事だけ。仕事の細かいことは全く気にしない(知らない)上野氏が、入札情報にいちいち興味を示すとは思えない」(同) そんな上野氏との個人的関係とは別に、寺木氏が接点を持ったのが棚木氏だった。 棚木氏は会津地方の土木建築会社を経て、十数年前にマルト建設に入社。官公庁の仕事を一手に引き受ける責任者の役目を担っていた。 上野氏を知る人物は、寺木氏と棚木氏がどういう経緯で知り合ったかは分からないという。ただ、棚木氏が賄賂を渡していないのに寺木氏が入札情報を教えたということは、こんな推察ができるのではないか。 ①寺木氏が会津農林事務所に勤務したタイミングで営業活動に訪れたのが棚木氏だった。②その時、寺木氏は棚木氏が「上野氏の部下」であることを知り、親近感を抱くようになった。③そのうち「上野氏にはいつも世話になっているから」と、棚木氏に入札情報を教えるようになった。④だから、寺木氏と棚木氏の間に賄賂は介在しなかった――。 「要するに、上野氏が払った飲食代やゴルフ代は友人として寺木氏におごっただけで、寺木氏が棚木氏に入札情報を教えた見返りではないということです。にもかかわらず警察や検察から『賄賂だろ』と迫られたため、上野氏は『そうじゃない』と否認しているんだと思います」(同) これなら、賄賂と落札した工事のつながりが見えないことも納得がいく。上野氏にとっては「単におごった金」に過ぎないので、落札した工事とつながるはずがない。上野氏は今ごろ「なぜ友人との遊び代が賄賂にすり替わったんだ」と不満に思っているのではないか。 もともと業界内では「たった26万円の賄賂で工事を取るようなリスクを犯すだろうか」と上野氏の行為を疑問視する声が上がっていた。「東京オリンピックの談合事件のように数百万円の賄賂で数十億円の仕事が取れるならリスクを犯す価値もあるが、26万円の賄賂で逮捕されたら割に合わない」というのだ。つまり業界内にも「26万円は本当に賄賂なのか」といぶかしむ声があるわけ。 とはいえ、公共工事の受発注の関係にあった寺木氏と上野氏が親しくしていれば、周囲から疑惑の目を向けられるのは当然だ。 「昔から友人関係にあったとしても、立場をわきまえて付き合う必要はあったし、せめて寺木氏が会津管内に勤めている間は距離を置くべきだった」(前出・上野氏を知る人物) 寺木氏もまた、県の職員倫理規則で申告が義務付けられている利害関係者との飲食やゴルフを届け出ておらず、事後報告もしていなかった。脇の甘さは両氏とも同じようだ。 ただ、両氏の付き合い方を咎めることと26万円が本当に賄賂だったかどうかは別問題だ。上野氏が今後も容疑を否認し続けた場合、検察はそれでも「落札した工事の見返りだった」と主張するのか。26万円が賄賂ではなかったとすれば、贈収賄事件の構図はどうなるのか注目される。 更地になったら買う約束 建物の解体工事が行われている旧厚生病院(撮影時は冬季中断中だった)  本誌先月号に会津坂下町役場の新築移転に関する記事を掲載した。 現庁舎の老朽化を受け、町は2018年3月、現庁舎一帯に新庁舎を建設することを決めたが、半年後、財政問題を理由に延期。それから4年経った昨年5月、町民有志から町議会に建設場所の再考を求める請願が出され、賛成多数で可決した。 町は新庁舎候補地として①現庁舎一帯、②旧坂下厚生総合病院跡地、③旧坂下高校跡地、④南幹線沿線県有地の四カ所を挙げ、町民にアンケートを行ったところ、旧厚生病院跡地という回答が多数を占めた。 ところが、昨年12月定例会で五十嵐一夫議員が「旧厚生病院跡地は既に売却先が決まっており、新庁舎の建設場所になり得ない」と指摘。「売却先が決まっていることを知らなかったのか」と質問すると、古川庄平町長は「知らない」と答弁した。 五十嵐議員によると「JA福島厚生連に問い合わせた結果、文書(昨年10月3日付)で『売却先は〇〇社に決まっている』と回答してきた」という。文書には〇〇社の実名も書かれていたが、五十嵐議員は社名を明かすことを控えており、筆者も五十嵐議員に尋ねてみたが「教えられない」と断られた。 JA福島厚生連にも売却先を尋ねたが「答えられない」。 公にはなっていない売却先だが、実はマルト建設が取得する方向で話が進んでいる。ちなみに同社は、旧厚生病院の建物解体工事を受注しており、昨年12月末から今年2月末までは降雪を考慮し工事が中断されていたが、3月から再開され、6月に終了予定となっている。ただ、敷地内から土壌汚染対策法の基準値を超える有害物質が検出され、土壌改良が必要となり、工事は年内いっぱいかかるとみられる。 ある事情通が内幕を明かす。 「工事が終了したら正式契約を交わす約束で、マルト建設からは買付証明書、厚生連からは売渡承諾書が出ている。売却価格は厚生連から概算で示されているようだが、具体的な金額は分からない」 マルト建設は建物解体工事を受注した際、JA福島厚生連から「跡地を買わないか」と打診され「更地になったら買う」と申し入れていた。 「厚生連には跡地利用の妙案がなく、更地後も年間数百万円の固定資産税がかかるため早く手放したいと考えていた。マルト建設は取得するつもりは一切なかったが、解体工事で世話になった手前、無下には断れなかったようです」(同) そのタイミングで浮上したのが旧厚生病院跡地に役場庁舎を新築移転する案だったが、ここでマルト建設に思わぬ悪評がついて回る。密約説だ。すなわち、同社は同跡地が候補地になることを知っていて、厚生連から取得後、町に売却することを考えた。新庁舎建設が延期された2018年、同跡地は候補地に挙がっていなかったのに今回候補地になったのは、町と同社の間に密約があったから――というのだ。 密約説は、現庁舎一帯での新築を望む旧町や商店街で広まっている。 「旧町や商店街は役場が身近にあることで生活や商売が成り立っているので、旧厚生病院跡地への移転に絶対反対。だから、密約説を持ち出し『疑惑の候補地に移転するのではなく、2018年に決めた現庁舎一帯にすべき』と主張している」(同) しかし、結論を言うと密約は存在しない。 古川町長は、旧厚生病院跡地の売却先が決まっていることを知らなかったとしているが、実際は知っていたようだ。というのも、町は同跡地を新庁舎の候補地に挙げる際、マルト建設に「町で取得しても問題ないか」と打診し、内諾を得ていたというのだ。ただし取得の方法は、密約説にある「マルト建設がJA福島厚生連から取得後、町に売却する」のではなく、前述の買付証明書と売渡承諾書を破棄し、同社は撤退。その後、町が厚生連から直接取得することになるという。 この問題は、古川町長が五十嵐議員の質問に「知っていた」と答え、具体的な取得方法を示していれば密約説が囁かれることもなかったが、役所は性質上「正式に決まったことしか公表しない」ので、旧厚生病院跡地の取得を水面下で進めようとしていた以上、「知らなかった」こととして取り繕うしかなかったわけ。 JA施設集約を提案 会津坂下町の周辺地図  このように、役場庁舎の新築移転先に決まるのかどうか注目が集まる旧厚生病院跡地だが、これとは全く別の利用法を挙げているのが会津坂下町商工会(五十嵐正康会長)だ。 同商工会は昨年末、古川町長に直接「まちづくりの視点から旧厚生病院跡地を有効活用すべき」と申し入れ、具体策として町内に点在するJA関連施設の集約を提案した。 五十嵐会長はこう話す。 「町内にはJA会津よつば本店や各支店をはじめ、直売所のうまかんべ、パストラルホールなど多くのJA関連施設が点在するが、老朽化が進み、手狭になっている。そういった施設を旧厚生病院跡地に集約し、農業の一大拠点として機能させれば町内だけでなく会津西部の人たちも幅広く利用できる。直売所も駐車場が広くとれるので、遠方からも客が見込めるし、町内外の組合員が商品を納めることもできる。農機具等の修理工場も広い敷地がほしいので、同跡地は適地だと思います」 土地売買も、JA福島厚生連とJA会津よつばで交渉すれば、同じJAなのでスムーズに進むのではないかと五十嵐会長は見ている。 「新しい坂下厚生病院とメガステージ(商業施設)が町の北西部にオープンし、人の流れは確実に変わっている。商工会としては、人口減少が進む中、会津坂下町は会津西部の中心を担う立場から、広い視野に立ったまちづくりを行うべきと考えている。そのためにも、旧厚生病院跡地はより有効な活用を模索すべきと強く申し上げたい」(同) JA関連施設を集約するということは、事業主体はJAになるが、五十嵐会長は「町がJAに『こういう方法で一緒にまちづくりを進めてみないか』と提案するのは、むしろ良いことだと思う」。 ちなみに同商工会では、新庁舎をどこに建設すべきと言うつもりは一切なく、新庁舎も含めて将来の会津坂下町に必要な施設をどこにどう配置すべきかを、町民全体で今一度考えてはどうかと主張している。 密約説からJA関連施設集約案まで飛び出す旧厚生病院跡地。そこに関わるマルト建設は贈収賄事件が重なり、しばらく落ち着かない状況が続く見通しだ。 マルト建設は本誌の取材に「この度の事件では、多方面にご迷惑をおかけして本当に申し訳ない。当面の間、取材は遠慮したい」とコメントしている。 その後 ※古川町長は2月22日の町議会全員協議会で、新庁舎の建設場所を旧厚生病院跡地にする方針を示した。敷地面積2万1000平方㍍のうち1万平方㍍を利用する。用地取得費が多額になる見通しのため、町議会と協議しながら今後のスケジュールを決めるとしている。 あわせて読みたい 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設 庁舎新築議論で紛糾【継続派と再考派で割れる】 (2022年10月号) 現在地か移転かで割れる【会津坂下町】庁舎新築議論 (2023年2月号)