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上杉謙太郎

  • 【上杉謙太郎】衆議院議員インタビュー

    【上杉謙太郎】衆議院議員インタビュー

    うえすぎ・けんたろう 1975年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。荒井広幸参院議員秘書などを経て2017年の衆院選(比例東北)で初当選。現在2期目。外務大臣政務官などを歴任。  衆議院小選挙区の区割り改定を受け、県南・県中地域からなっていたこれまでの3区は、新2区と新3区に再編された。県南を地盤とする自民党の上杉謙太郎衆院議員(48)は、小選挙区を離れて比例東北から立候補することになった。自身を育ててくれた支援者への思いと、今後の方針を聞いた。  ――区割り改定を受け県衆院比例区支部長に就任しました。次期衆院選では比例東北ブロックから立候補します。これまでの経緯と現在の心境を教えてください。 「今回の区割り変更によって次の選挙については選挙区から出馬できず比例に回ることとなりました。私自身大変残念でありますし、今は状況を受け入れておりますが、昨年以来自分の中で相当な葛藤がありました。それはやはり今までご支援いただいていた旧3区の皆様の直接的な支部長ではなくなってしまうからです。これは地元の代表たる代議士にとっては致命的なことです。加えて、旧3区の皆様には秘書時代から含めると20年弱お世話になっています。本当に大切な方々であります。支援者の皆様に大変心苦しく申し訳ない思いでおります。法改正により仕方のないこととはいっても、複雑な思いの中で了承いたしました。 新2区には旧3区から須賀川、田村、石川地方が再編されています。旧2区時代の選挙全てに根本匠先生が出馬しており、かつ1度を除き全勝しています。また根本先生は自民党県連会長であり、岸田文雄総裁が率いる派閥の事務総長でもあり、実績も多々あります。新2区の大票田となる郡山市を地盤としており、そもそも新2区における支部長選任にあたっては私は選択肢に入っていなかったようです。一方新3区は、そもそも3区支部長が私であったことと、新3区に残った県南は前回選挙で私が勝利していることから、私も菅家一郎先生とともに選択肢に上がっておりました。どちらを選挙区支部長にするかについて、会津と県南における有権者数、両地域における過去の選挙での得票数や選挙区での党員の確保数、参議院選挙をはじめ自らが選対本部長等を務める選挙での貢献度、会津地域の地域性が選定の基準となったようです。 最終的には党本部と県連、私も菅家先生も所属する派閥の清和会で調整が進みました。その結果、次回の選挙における新3区支部長には菅家先生、比例に私ということになりました。菅家先生は前回選挙で対立候補に負けている地域で巻き返し勝利すること、私は県南で菅家先生を勝たせること、つまり会津と県南で協力すれば、新3区での勝算はあるという判断からのことでした。 私は選挙区で戦えなくなってしまいましたが、一歩引いた形で黒子に徹し、次の選挙でお二人が当選できるよう、お二人の選対本部長として戦います。すでに各地域支部を両代議士に繋ぐ会や、私の若手の後援会の皆様との懇親会などスタートしています。挨拶回りもスタートしています。そういった形で2区に再編された須賀川、田村、石川地方では根本先生の支持を訴え、3区に残った県南では菅家先生への支持を訴えていきます。また選挙以外では今までと変わらず旧3区の皆様の要望を聞き、地元の声を国政に届ける活動をしていきます。私のその後については、3区でのコスタリカを含めて、まずは次の選挙でお二人の選挙を全力で戦うことで初めて道が拓けてくると考えています」 ――上杉議員が地盤としていた旧3区は新2区と新3区に分断されます。 「昨年夏以降複数回にわたって東京選出の先輩議員らから『東京で出ないか』との提案がありましたが、その度に即座にお断りしてきました。お世話になってきた旧3区の人たちと今後も活動していくことが私の使命だと考えているからです。比例東北で出るのであれば、比例は東北全域が選挙区となるので、分断された旧3区の地域も今までと変わらず私の選挙区ということになります。そういう意味では、考え方によっては、今までお世話になった党員や後援会の人たちと関係を続けていけるというプラスの面もあります。しかし、選挙で出馬し、『上杉謙太郎』と名前を書いてもらうからこそ代議士ですので、大変辛いことですし、法改正と党本部の判断によるものとは言え、ご支援いただいてきた方々には本当に申し訳なく思います。私は福島県で生まれ育った訳ではありませんが、骨を埋めるつもりで白河に来て家族共々住んでいます。子供達も白河で育っています。未熟な私ですが、地元の支援者の皆様に政治家として育てていただき、次の選挙では『対立候補に勝てるかもしれない』というところまで来ていました。それが、お世話になった選挙区が分断されただけでなく、小選挙区からも身を引かなければならなくなったこの現状は、本当のところかなり受け入れ難いことでしたし、戦いにおいてはまさに次こそが勝負という時でしたから、まさにはしごを外されたような感覚があります。 今は受け入れて話せていますが、昨年から今年の春までの選挙区調整期間は本当に『まな板の鯉』状態でした。『今の3区の皆さんとこれからも政治活動を続けていきます。動く気はありません』というのが揺るがぬ本心で、この点を党本部、県連に伝えてきました。とはいえ、私がいったん引くことで、党内も県連内も対立することなく収まる結果となったことはよかったと思います。しっかりと謙虚に受け止めて自分の与えられた職務を全うし邁進していきます」 ――新3区支部長の菅家一郎衆院議員とは、どのような関係性を築いていきたいですか。 「何が何でも菅家先生に当選してもらう、そのために一丸となります。新3区の県南地方では必ず対立候補以上の得票数が得られるよう県議の先生方や各地域支部の皆様と協力をして菅家先生を連れて歩きます。すでに始まっています。まずは県南で菅家先生が受け入れてもらえるようご理解をいただきながら活動していきます。自分以外の選挙でも汗を流す。それを一生懸命やることが比例支部長に与えられた職務とも考えています」 ――次期衆院選に向けて、有権者にメッセージをお願いします。 「比例に行くからといって今までのご縁が切れる、離れてしまうということは一切ありません。これからもお世話になりますし、今後は複雑な立ち位置になりますが、選挙においては根本先生と菅家先生の当選のために、おそらく旧3区地域の各選対に入り、支援者の皆様とともに選挙を戦います。ある意味、今まで候補者として街宣車で外に出てしまっていたので支援者の方々と会えるのがほんの一瞬ということが多かったのですが、今度は選挙区の候補者ではないので支援者の方々と近くで頻繁に顔を突き合わせてある意味一緒に選挙活動ができます。そのような形で両代議士をしっかりと当選させるのが、比例で優遇された私に与えられた責任です。 東北全部が選挙区になりますが、目下、旧3区と新3区の声を両代議士と県議の先生らと連携して地元の皆様の声を国政に届けていきます」 【上杉謙太郎】衆議院議員のホームページ

  • 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

    区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

     選挙区の変更に翻弄されたり、陰で「もう辞めるべきだ」と囁かれている県内衆院議員たち。その最新動向を追った。 新3区支部長は菅家氏、上杉氏は比例単独へ 森山氏と並んで取材に応じる菅家氏(右)と上杉氏(左)=3月21日の党県連大会  衆院区割り改定を受け、県南地方の一部(旧3区)と会津全域(旧4区)が一つになった新3区。この新しい選挙区で自民党から立候補を目指していたのが、旧3区で活動する上杉謙太郎氏(47)=2期、比例東北=と、旧4区を地盤とする菅家一郎氏(67)=4期、比例東北=だ。 次期衆院選の公認候補予定者となる新3区の支部長について、党本部は「勝てる候補者を擁立する」という方針のもと、上杉氏と菅家氏が共に比例復活当選だったこと、県内の意向調査で両氏を推す声が交錯していたことなどを理由に選定を先延ばししてきた。一方、中央筋から伝わっていたのは、党本部は上杉氏を据えたい意向だが、両氏が所属する派閥(清和政策研究会)は菅家氏を推しているというものだった。 選定の行方が注目されていた中、党本部は3月14日、新3区の支部長に菅家氏を選び、上杉氏は県衆院比例区支部長として次期衆院選の比例東北で名簿上位の優遇措置が取られることが決まった。 森山裕選対委員長は、菅家氏を選んだ理由を「主な地盤が会津だったから」と説明した。県南と比べ会津の方が有権者数が多いことが判断基準になったという。 本誌は1月号の記事で、上杉氏は新3区から立候補したいが菅家氏に遠慮していると指摘。併せて「菅家氏は会津若松市長を3期務めたのに小熊慎司氏に選挙区で負けており、支部長に相応しくない」という上杉支持者の声を紹介した。 それだけに上杉支持者は今回の選定に落胆しているかと思ったが、意外にも冷静な分析をしていた。 「有権者数を比べれば、県南(白河市、西白河郡、東白川郡)より会津の方が多いので、菅家氏が選ばれるのは妥当です。上杉氏がいきなり会津に行っても得票できないでしょうからね」(ある支持者) そう話す支持者が見据えていたのは、負ける確率が高い「次」ではなく「次の次」だった。 「菅家氏は次の衆院選で相当苦戦するでしょう。小熊氏と毎回接戦を演じているところに、県南の一部が入ることで玄葉光一郎氏の応援がプラスされる。今回の選定は、党本部が『菅家氏が選挙区で負けても、上杉氏が比例で当選すれば御の字』と考えた結果と捉えています」(同) そこまで言い切る理由は、両氏に対し、一方が小選挙区、もう一方が比例単独で立候補し、次の選挙では立場を入れ替えるコスタリカ方式を導入しなかったことにある。 「コスタリカを組むと、選挙区に回った候補者が負けた場合、比例に回った候補者は『オマエが一生懸命やらなかったから(選挙区の候補者が)負けた』と厳しく批判され、次に選挙区から出る際のマイナス材料になってしまう」(同) 上杉氏は次の衆院選で、菅家氏のために一生懸命汗をかくことになるが、その結果、菅家氏が負けてもコスタリカを組んでいないので批判の矛先は向きにくい。一方、汗をかいた見返りに、これまで未開の地だった会津に立ち入ることができる。すなわちそれは、次の衆院選を菅家氏のために戦いながら、次の次の衆院選を見据えた自分の戦いにつながることを意味する。 「もし菅家氏が負ければ、既に2回比例復活当選しているので支部長には就けないから、次の次は上杉氏の出番になる。上杉氏はその時を見越して(比例当選で)バッジをつけながら選挙区で勝つための準備を進めればいい、と」(同) もちろん、このシナリオは菅家氏が負けることが前提になっており、もし菅家氏が勝てば、今度は上杉氏が比例東北で2回連続優遇とはいかないだろうから、途端に行き場を失う恐れがある。前出・森山選対委員長は上杉氏に「次の次は支部長」と密かに約束したとの話も漏れ伝わっているが、これだってカラ手形に終わる可能性がある。 いずれにしても「選挙はやってみなければ分からない」ので、今回の選定が両氏にとって吉と出るか凶と出るかは判然としない。 党本部のやり方に拗ねる馬場氏 馬場雄基氏  馬場雄基氏(30)=1期、比例東北=が3月15日に行ったツイッターへの投稿が波紋を生んでいる。 《質問終え、新聞見て、目を疑いました。事実確認のために、常任幹事会の議事録見て、本当と知ってショックが大きすぎます。県連常任幹事会で話したことは正しく伝わっているのでしょうか。本人の知らないところで、こうやって決まっていくのですね。気持ちの整理がつきません》 https://twitter.com/yuki_8ba/status/1635848039670882309  真に言いたいことは分からないが、立憲民主党本部が行った「何らかの決定」にショックを受け、不満を露わにしている様子は伝わってくる。 投稿にある「新聞」とは、3月15日付の地元紙を指す。そこには党本部が、次期衆院選の公認候補予定者となる支部長について、新1区は金子恵美氏、新3区は小熊慎司氏を選任したという記事が載っていた。 実は、馬場氏も冒頭の投稿に福島民友の記事写真を掲載したが、同記事には馬場氏に関する記載がなかったため、尚更「何にショックを受けたのか」と憶測を呼んだのだ。 党県連幹事長の髙橋秀樹県議に思い当たることがあるか尋ねると、次のように話した。 「私も支持者から『あの投稿はどういう意味?』と聞かれたが、彼の言わんとすることは分かりません。県連で話したことが党本部に正しく伝わっていないと不満をのぞかせている印象だが、県連の方針は党本部にきちんと伝えてあります」 馬場氏をめぐる県連の方針とは、元外相玄葉光一郎氏(58)=10期、旧3区=とのコスタリカだ。 衆院区割り改定を受け、玄葉氏は新2区から立候補する考えを示したが、旧2区で活動する馬場氏も玄葉氏に配慮し明言は避けつつも、新2区からの立候補に意欲をにじませていた。これを受け県連は2月27日、両氏を対象にコスタリカ方式を導入することを党本部に上申した。 この時の馬場氏と玄葉氏のコメントが読売新聞県版の電子版(3月1日付)に載っている。 《記者会見で、馬場氏はコスタリカ方式の要請について、「現職同士が重なる苦しい状況を打開し、党本部の決定を促すためだ」と強調。「その部分が決定してから様々なことが決まる」と述べた。玄葉氏は「活動基盤を新2区にしていく。私にとっては大きな試練だ」とし、「比例に回った方が優遇される環境が前提だが、私の場合、小選挙区で出る前提で準備を進める」とも述べた》 馬場氏は玄葉氏とのコスタリカを認めるよう党本部に強く迫り、それが決まらないうちは他の部分は決まらないと強調したのだ。 ただ党本部は、コスタリカで比例区に転出する候補者(馬場氏)は名簿上位で優遇する必要があり、他県と調整しなければならないため、3月10日に大串博志選対委員長が「統一地方選前の決定はあり得ない」との見解を示していた。 そして4日後の同14日、党本部は前述の通り金子氏を新1区、小熊氏を新3区の支部長とし、新2区については判断を持ち越したため、馬場氏はショックのあまりツイッターに思いを吐露したとみられる。 進退にも関わることなので馬場氏の気持ちは分からなくもないが、前出・高橋県議は至って冷静だ。 「もしコスタリカを導入すれば立憲民主党にとっては初の試みで、比例名簿の上位登載は他県の候補者との兼ね合いもあるため、簡単に『やる』とは発表できない。調整に時間がかかるという党本部の説明は理解できます」(高橋県議) 要するに今回の出来事は、多方面と調整しなければ結論を出せない党本部の苦労を理解せずに、馬場氏が拗ねてツイッターに投稿した、ということらしい。 馬場事務所に投稿の真意を尋ねると、馬場氏本人から次のようなコメントが返ってきた。 「多くの方々に支えられて議員として活動させていただいていることに誇りと責任を持って行動していきます。難しい状況だからこそ、より応援の輪を広げていけるよう精進して参ります」 ここからも真意は読み取れない。 前述の上杉・菅家両氏といい、馬場氏といい、衆院区割り改定に翻弄される人たちは心身が休まることがないということだろう。 健康不安の吉野氏に引退を求める声 吉野正芳氏  選定が難航する区もあれば、すんなり決まった区もある。そのうちの一つ、自民党の新4区支部長には昨年12月、現職の吉野正芳氏(74)=8期、旧5区=が選任された。 選挙の実績で言えば、支部長選任は順当。ただ周知の通り、吉野氏は健康問題を抱え、このまま議員を続けても満足な政治活動は難しいという見方が大勢を占めている。 復興大臣を2018年に退任後、脳梗塞を発症。療養を経て現場復帰したが、身体に不自由を来し、移動は車椅子に頼っているほか、喋りもスムーズではない状態にある。 「正直、会話にはならない。吉野先生から返ってくる言葉も、こもった話し方で『〇くん、ありがとね』という具合ですから」(ある議員) 要するに今の吉野氏は、国会・委員会での質問や聴衆を前にした演説など、衆院議員として当たり前の仕事ができずにいるのだ。3月21日に開かれた党県連の定期大会さえも欠席(秘書が代理出席)している。 ここで難しいのは、政治家の出処進退は自分で決めるということだ。周りがいくら「辞めるべき」と思っても、本人が「やる」と言えば認めざるを得ない。 ただ、吉野氏の場合は前回(2021年10月)の衆院選も同様の健康状態で挑み、この時は周囲も「あと1期やったら流石に引退だろう」と割り切って支援した経緯があった。ところが今回、新4区支部長に選任され、本人も事務所も「まだまだやれる」とふれ回っているため、地元では「いい加減にしてほしい」と思いつつ、首に鈴をつける人がいない状況なのだ。 写真は3月21日の党県連定期大会を欠席した吉野氏が会場に宛てた祝電  「吉野氏の後釜を狙う坂本竜太郎県議は内心、『まだやるつもりか』と不満に思っているだろうが、ここで波風を立てれば自分に出番が回ってこないことを恐れ、ひたすら沈黙を貫いています」(ある選挙通) 旧5区、そして新たに移行する新4区は強力な野党候補が不在の状態が続いている。それが、満足な政治活動ができない吉野氏でも容易に当選できてしまう要因になっている。ただ、いつまでも当選できるからといって「議員であり続けること」に固執するのは有権者に失礼だ。 それでなくても新4区は原発被災地が広がるエリアで、復興の途上にある。元復興大臣という肩書きを笠に着て、行動力に期待が持てない議員に課題山積の新4区を任せるのは違和感がある。 あわせて読みたい 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き

  • 【福島県】衆院区割り改定に翻弄される若手議員

    【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員

     衆院小選挙区定数「10増10減」を反映し、1票の格差を2倍未満とする改正公職選挙法が12月28日に施行された。これを受け、福島県の小選挙区定数は5から4に減った。新たな区割りは次の衆院選から適用される。今後の焦点は与野党の候補者調整だが、ベテラン議員が早くから立候補したい選挙区を匂わせているのに対し、若手議員は意中の選挙区があっても「先輩」への遠慮から口籠っている。若手議員はこのまま本音を言えず、時の流れに身を任せるしかないのか。与野党2人の若手議員の今後に迫った。(佐藤仁) ベテランに遠慮し口籠る上杉氏と馬場氏 福島県四つの区切りの地図  新区割りは以下の市町村構成になる。▽新1区=現1区の福島市、伊達市、伊達郡と現2区の二本松市、本宮市、安達郡。▽新2区=現2区の郡山市と現3区の須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡。▽新3区=現3区の白河市、西白河郡、東白川郡と現4区全域(会津地方、西白河郡西郷村)。▽新4区=現5区全域(いわき市、双葉郡)と現1区の相馬市、南相馬市、相馬郡。 中央メディアの記者は、自民党選対筋の話として「5月に開かれるG7広島サミット終了後、岸田文雄首相が解散総選挙に打って出るのではないか」という見方を示している。 解散権は首相の専権事項なので、選挙の時期は岸田首相のみぞ知ることだが、いつ選挙になってもいいように候補者調整を急がなければならないのは与野党とも同じだ。 現在、県内には与野党合わせて9人の衆院議員がいる。根本匠(71、9期)、吉野正芳(74、8期)、亀岡偉民(67、5期)、菅家一郎(67、4期)、上杉謙太郎(47、2期)=以上、自民党。玄葉光一郎(58、10期)、小熊慎司(54、4期)、金子恵美(57、3期)、馬場雄基(1期、30)=以上、立憲民主党。このうち本誌が注目するのは両党の2人の若手議員、上杉氏と馬場氏だ。 上杉氏はこれまで3回の選挙を経験し、いずれも現3区から立候補してきた。最初の選挙は厳しい結果に終わったが、前々回、前回は比例復活当選。玄葉光一郎氏を相手に小選挙区では及ばないが、着実に票差を縮めており、支持者の間では「次の選挙は(小選挙区で)勝てる」が合言葉になっていた。それだけに、今回の区割り改定に支持者は大きく落胆している。 現3区は区割り改定で最もあおりを受けた。福島市がある現1区、郡山市がある現2区、会津若松市がある現4区、いわき市がある現5区は新区割りでも一定の原形をとどめたが、現3区は真っ二つに分断・消失する。他選挙区のように「母体となる市」がなかったことが影響した。 現3区は、北側(須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡)が新2区、南側(白河市、西白河郡、東白川郡)が新3区に組み込まれた。そうなると上杉氏はどちらかの選挙区から立候補するのが自然だが、現実はそう簡単ではない。新2区では根本氏、新3区では菅家氏が立候補に意欲を示しているからだ。 「先輩」に手を挙げられては、年齢が若く期数も少ない上杉氏は遠慮するしかない。しかし立候補する選挙区がなくなれば、自身の政治生命が危ぶまれる。要するに、今の上杉氏は「ここから立候補したい」という意中の選挙区があっても、積極的に口にしづらい立場にあるのだ。 もっとも、上杉氏が「先輩」に気を使ったとしても、上杉氏を熱心に応援してきた支持者は納得がいかないだろう。 上杉氏が家族とともに暮らす白河市の支持者もこのように語る。 「上杉氏が大臣経験のある根本氏を押し退け、新2区から出ることはあり得ない。残る選択肢は新3区になるが、菅家氏と上杉氏のどちらを候補者にするかは、期数ではなく選挙実績を重視すべきだ」 この支持者が選挙実績を持ち出したのは、もちろん理由がある。 前述の通り上杉氏は小選挙区で玄葉氏に連敗しているが、着実に票差を縮めている。これに対し菅家氏は現4区で小熊慎司氏を相手に勝ち負けを繰り返している。前回は小選挙区で敗れ、比例復活に救われた。 「最大の疑問は菅家氏が会津若松で小熊氏に負けていることです。会津若松市長を3期も務めた人がなぜ得票できないのか。地元で不人気な人が候補者にふさわしいとは思えない」(同) 選考は長期化の見通し  前回の結果を見ると、会津若松市の得票数は小熊氏2万9650票、菅家氏2万8107票で菅家氏の負け。同市の得票数に限ってさかのぼると、2014年と12年の衆院選も菅家氏は負けている。唯一、17年の衆院選は勝ったものの、両氏以外に立候補した野党系2氏の得票分を小熊氏に上乗せすると、菅家氏は実質負けているのだ。 「菅家氏が小選挙区で連勝し、会津若松市の得票数も引き離していれば、私たちも『新3区からは菅家氏が出るべき』と潔くあきらめた。しかし、地元で不人気という現実を見ると、新たに県南に来て得票できるかは怪しい」(同) ちなみに前回の衆院選で、西白河郡の西郷村は現3区から現4区に編入されたが、同村の得票数は小熊氏4430票、菅家氏4299票とここでも菅家氏は競り負けている。 「とはいえ、菅家氏が県南で得票できるか分からないのと同じく、上杉氏も会津で戦えるかは未知数。正直、あれだけ広いエリアをどうやって回るかも想像がつかない」(同) そんな両氏を救う方法は二つ考えられる。 一つはどちらかが比例単独に回ること。ただし、当選することはできても地盤は失われるので、これまで小選挙区で戦ってきた両氏には受け入れ難い救済案だろう。確実に当選できるならまだしも、名簿順位で上位が確約されなければ落選リスクにもさらされる。 もう一つはどちらかが小選挙区、どちらかが比例区に回り、次の選挙では入れ替わって立候補するコスタリカ方式を採用すること。ただし、この救済案もどちらが先に小選挙区に回るかで揉めると思われる。最初に比例区に回れば、小選挙区の有権者に自分の名前を書いてもらう機会を逸し、次の選挙で自分が小選挙区に回った際、名前を書いてもらえる保証がないからだ。 さらに同方式の危うさとして、小選挙区の候補者が落選し比例区の候補者が当選したら、両陣営の間に溝が生じ、次の選挙では選挙協力が成立しづらい点も挙げられる。 田村地方の自民党員はこう話す。 「私たちはこの先、上杉氏を直接応援することはできないが、本人には『もし菅家氏とコスタリカを組むなら絶対に比例区に回るな』とはアドバイスしました」 そもそも現3区の自民党員は同方式に良いイメージを持っていない。中選挙区制の時代、県南・田村地方には穂積良行と荒井広幸、2人の自民党議員がいたが、小選挙区比例代表並立制への移行を受け両氏は現3区で同方式を組んだ。最初の選挙は荒井氏が小選挙区、穂積氏が比例区に回り、荒井氏が玄葉氏を破って両氏とも当選したが、次の選挙は小選挙区に回った穂積氏が玄葉氏に敗れ政界引退。荒井氏は比例単独で当選したものの、次の選挙は小選挙区で玄葉氏に大差負けした。名前を書いてもらえない比例区に回ったことと両者の選挙協力が機能しなかったことが、小選挙区での大敗を招いた典型例と言える。 「上杉氏はかつて荒井氏の秘書をしていたので、コスタリカが上手くいかないことはよく分かっているはずです」(同) 果たして上杉氏は、区割り改定を受けてどのようなアクションを起こそうとしているのか。衆院議員会館の上杉事務所に取材を申し込むと、 「上杉本人とも話しましたが、これから決まっていく事案について、いろいろ申し上げるのは控えさせてほしい」(事務所担当者) この翌日(12月15日)、自民党県連は選挙対策委員会を開き、次期衆院選公認候補となる選挙区支部長に新1区が亀岡氏、新2区が根本氏、新4区が吉野氏に内定したと発表した。新3区は菅家氏と上杉氏、双方の地元(総支部)から「オラがセンセイ」を強く推す意見が出され、結論は持ち越された。今後、党本部や両氏の所属派閥(清和政策研究会)で調整が行われるが、党本部は比例復活で複数回当選している議員の支部長就任は慎重に検討するという方針も示しており、上杉氏(2回)、菅家氏(2回)とも該当するため、選考は長期化する見通しだ。 県連はどちらが選挙区支部長に内定しても「現職5人を引き続き国政に送ることが大前提」として、比例代表の1枠を優先的に配分するよう党本部に求めていくとしている。菅家氏と上杉氏はともに早稲田大学卒業。「先輩」に面と向かって本音を言いづらい上杉氏に代わり、地元支持者の熱意と、前述した菅家氏への物足りなさが候補者調整にどう影響するのか注目される。 組織力を持たない馬場氏  立憲民主党の若手、馬場雄基氏も上杉氏と同様、辛い立場にある。 前回、現2区から立候補した馬場氏は根本匠氏に及ばなかったが比例復活で初当選した。当時20代で初登院後は「平成生まれ初の衆院議員」としてマスコミの注目を集めた。爽やかなルックスで「馬場氏の演説には引き込まれるものがある」と同党県連内の評価もまずまず。国会がない週末は選挙区内を回り、自民党支持者が多く集まる場所にも臆せず顔を出すなどフットワークの軽さものぞかせる。 現2区は、中核を成す郡山市が現3区の北側と一緒になり新2区に移行。これに伴い馬場氏も新2区からの立候補を目指すとみられるが、ここに早くから踏み入るのが、現3区が地盤の玄葉光一郎氏だ。 当選10回。民主党政権時には外務大臣、国家戦略担当大臣、同党政調会長などの要職を歴任。岳父は佐藤栄佐久元知事。言わずと知れた福島県を代表する政治家の一人だ。 玄葉氏は、現3区の南側が組み入れられた新3区ではなく、新2区からの立候補を模索している。背景には▽郡山市には昔から自分を支持してくれる経済人らが多数いること、▽同市内の安積高校を卒業していること、▽同市内に栄佐久氏の人脈が存在すること、等々の理由が挙げられる。「現3区で上杉氏が票差を詰めている」と書いたが、北側(須賀川市や田村市)では一定の票差で勝っていることも新2区を選んだ一因になっているようだ。 馬場氏にとっては年齢も期数も実績も「大先輩」の玄葉氏が新2区からの立候補に意欲を示せば、面と向かって「それは困る」「自分も立候補したい」とは言いにくいだろう。 もっとも玄葉氏と馬場氏を天秤にかければ、本人が辞退しない限り玄葉氏が候補者になることは誰の目にも明らかだ。理由は馬場氏より期数や実績が上回っているから、ということだけではない。 両氏の明らかな差は組織力だ。政治家歴30年以上の玄葉氏と、2年にも満たない馬場氏では比べ物にならない。例えば、郡山駅前で街頭演説を行うことが急きょ決まり「動員をかけろ」となったら、玄葉氏は支持者を集めることができても、組織力を持たない馬場氏は難しいだろう。 「馬場氏は青空集会を定期的に開いて多くの有権者と触れ合ったり、SNSを使って積極的に発信している点は評価できる。馬場氏がマイクを握ると聴衆が聞き入るように、演説も相当長けている。しかし、辻立ちや挨拶回り、名簿集めといった基本的な行動は物足りない」(同党の関係者) 馬場氏の普段の政治活動は、若者や無党派層が多い都市部では支持が広がり易いが、高齢者が多く地縁血縁が幅を利かす地方では、この関係者が言う「基本的な行動」を疎かにすると票に結び付かないのだ。 「簡単には決められない」  立憲民主党の県議に新区割りを受けて馬場氏の今後がどうなるか意見を求めたが、言葉を濁した。 「現1区で当選した金子氏が新1区、現4区で当選した小熊氏が新3区に決まれば残るは二つだが、だからと言って新2区が玄葉氏、現5区時代から候補者不在の新4区が馬場氏、という単純な振り分けにはならない。両氏の支持者を思うと、簡単にあっちに行け、こっちに行けとは言えませんよ」 加えて県議が挙げたのは、同党単独では決めづらい事情だ。 「私たちはこの間、野党共闘で選挙を戦っており、他党の候補者との調整や、ここに来て距離を縮めている日本維新の党との関係にも配慮しなければならない。こうなると県連での判断は難しく、党本部が調整しないと決まらないでしょうね」(同) 同党県連幹事長の高橋秀樹県議もかなり頭を悩ませている様子。 「もし全員が新人なら、あなたはあっち、あなたはこっちと振り分けられたかもしれないが、現選挙区に長く根ざし、そこには大勢の支持者がいることを考えると、パズルのピーズを埋めるような決め方はできない。党本部からは年内に一定の方向性を示すよう言われているが『他県はできるかもしれないが、福島は無理』と伝えています。他県は現職の人数が少なかったり、2人の現職が一つの選挙区に重なるケースがほとんどないため、すんなり候補者が決まるかもしれないが、現職の人数が多い福島では簡単に決められない。ただ、目標は現職4人を再び国政に送ることなので、4人と直接協議しながら党本部も交えて調整していきたい」(高橋幹事長) 当の馬場氏は今後どのように活動していくつもりなのか。衆院議員会館の馬場事務所に尋ねると、馬場氏から次のような返答があった。(丸カッコ内は本誌注釈) 「(候補者調整について)現時点において、特段決まっていることはございません。しっかりと自分の思いを県連や党本部に伝えているところでもあり、その決定に従いたいと考えています。その思いとは、私が今ここに平成初の国会議員として活動できているのも、地盤看板鞄の何一つ持ち合わせていない中から育ててくださり、ゼロから一緒につくりあげてくださり、今なお大きく支えてくださっている郡山市・二本松市・本宮市・大玉村の皆さまのおかげです。いただいた負託に応えられるように全力を尽くすのみです」 現2区への強い思いをにじませつつ、県連や党本部の決定には従うとしている。 中途半端な状態に長く置き続けるのは本人にも支持者にも気の毒。それは馬場氏に限った話ではない。丁寧に協議を進めつつ、早期決着を図り、次の選挙に向けた新体制を構築することが賢明だ。(文中一部敬称略) あわせて読みたい 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

  • 【上杉謙太郎】衆議院議員インタビュー

    うえすぎ・けんたろう 1975年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。荒井広幸参院議員秘書などを経て2017年の衆院選(比例東北)で初当選。現在2期目。外務大臣政務官などを歴任。  衆議院小選挙区の区割り改定を受け、県南・県中地域からなっていたこれまでの3区は、新2区と新3区に再編された。県南を地盤とする自民党の上杉謙太郎衆院議員(48)は、小選挙区を離れて比例東北から立候補することになった。自身を育ててくれた支援者への思いと、今後の方針を聞いた。  ――区割り改定を受け県衆院比例区支部長に就任しました。次期衆院選では比例東北ブロックから立候補します。これまでの経緯と現在の心境を教えてください。 「今回の区割り変更によって次の選挙については選挙区から出馬できず比例に回ることとなりました。私自身大変残念でありますし、今は状況を受け入れておりますが、昨年以来自分の中で相当な葛藤がありました。それはやはり今までご支援いただいていた旧3区の皆様の直接的な支部長ではなくなってしまうからです。これは地元の代表たる代議士にとっては致命的なことです。加えて、旧3区の皆様には秘書時代から含めると20年弱お世話になっています。本当に大切な方々であります。支援者の皆様に大変心苦しく申し訳ない思いでおります。法改正により仕方のないこととはいっても、複雑な思いの中で了承いたしました。 新2区には旧3区から須賀川、田村、石川地方が再編されています。旧2区時代の選挙全てに根本匠先生が出馬しており、かつ1度を除き全勝しています。また根本先生は自民党県連会長であり、岸田文雄総裁が率いる派閥の事務総長でもあり、実績も多々あります。新2区の大票田となる郡山市を地盤としており、そもそも新2区における支部長選任にあたっては私は選択肢に入っていなかったようです。一方新3区は、そもそも3区支部長が私であったことと、新3区に残った県南は前回選挙で私が勝利していることから、私も菅家一郎先生とともに選択肢に上がっておりました。どちらを選挙区支部長にするかについて、会津と県南における有権者数、両地域における過去の選挙での得票数や選挙区での党員の確保数、参議院選挙をはじめ自らが選対本部長等を務める選挙での貢献度、会津地域の地域性が選定の基準となったようです。 最終的には党本部と県連、私も菅家先生も所属する派閥の清和会で調整が進みました。その結果、次回の選挙における新3区支部長には菅家先生、比例に私ということになりました。菅家先生は前回選挙で対立候補に負けている地域で巻き返し勝利すること、私は県南で菅家先生を勝たせること、つまり会津と県南で協力すれば、新3区での勝算はあるという判断からのことでした。 私は選挙区で戦えなくなってしまいましたが、一歩引いた形で黒子に徹し、次の選挙でお二人が当選できるよう、お二人の選対本部長として戦います。すでに各地域支部を両代議士に繋ぐ会や、私の若手の後援会の皆様との懇親会などスタートしています。挨拶回りもスタートしています。そういった形で2区に再編された須賀川、田村、石川地方では根本先生の支持を訴え、3区に残った県南では菅家先生への支持を訴えていきます。また選挙以外では今までと変わらず旧3区の皆様の要望を聞き、地元の声を国政に届ける活動をしていきます。私のその後については、3区でのコスタリカを含めて、まずは次の選挙でお二人の選挙を全力で戦うことで初めて道が拓けてくると考えています」 ――上杉議員が地盤としていた旧3区は新2区と新3区に分断されます。 「昨年夏以降複数回にわたって東京選出の先輩議員らから『東京で出ないか』との提案がありましたが、その度に即座にお断りしてきました。お世話になってきた旧3区の人たちと今後も活動していくことが私の使命だと考えているからです。比例東北で出るのであれば、比例は東北全域が選挙区となるので、分断された旧3区の地域も今までと変わらず私の選挙区ということになります。そういう意味では、考え方によっては、今までお世話になった党員や後援会の人たちと関係を続けていけるというプラスの面もあります。しかし、選挙で出馬し、『上杉謙太郎』と名前を書いてもらうからこそ代議士ですので、大変辛いことですし、法改正と党本部の判断によるものとは言え、ご支援いただいてきた方々には本当に申し訳なく思います。私は福島県で生まれ育った訳ではありませんが、骨を埋めるつもりで白河に来て家族共々住んでいます。子供達も白河で育っています。未熟な私ですが、地元の支援者の皆様に政治家として育てていただき、次の選挙では『対立候補に勝てるかもしれない』というところまで来ていました。それが、お世話になった選挙区が分断されただけでなく、小選挙区からも身を引かなければならなくなったこの現状は、本当のところかなり受け入れ難いことでしたし、戦いにおいてはまさに次こそが勝負という時でしたから、まさにはしごを外されたような感覚があります。 今は受け入れて話せていますが、昨年から今年の春までの選挙区調整期間は本当に『まな板の鯉』状態でした。『今の3区の皆さんとこれからも政治活動を続けていきます。動く気はありません』というのが揺るがぬ本心で、この点を党本部、県連に伝えてきました。とはいえ、私がいったん引くことで、党内も県連内も対立することなく収まる結果となったことはよかったと思います。しっかりと謙虚に受け止めて自分の与えられた職務を全うし邁進していきます」 ――新3区支部長の菅家一郎衆院議員とは、どのような関係性を築いていきたいですか。 「何が何でも菅家先生に当選してもらう、そのために一丸となります。新3区の県南地方では必ず対立候補以上の得票数が得られるよう県議の先生方や各地域支部の皆様と協力をして菅家先生を連れて歩きます。すでに始まっています。まずは県南で菅家先生が受け入れてもらえるようご理解をいただきながら活動していきます。自分以外の選挙でも汗を流す。それを一生懸命やることが比例支部長に与えられた職務とも考えています」 ――次期衆院選に向けて、有権者にメッセージをお願いします。 「比例に行くからといって今までのご縁が切れる、離れてしまうということは一切ありません。これからもお世話になりますし、今後は複雑な立ち位置になりますが、選挙においては根本先生と菅家先生の当選のために、おそらく旧3区地域の各選対に入り、支援者の皆様とともに選挙を戦います。ある意味、今まで候補者として街宣車で外に出てしまっていたので支援者の方々と会えるのがほんの一瞬ということが多かったのですが、今度は選挙区の候補者ではないので支援者の方々と近くで頻繁に顔を突き合わせてある意味一緒に選挙活動ができます。そのような形で両代議士をしっかりと当選させるのが、比例で優遇された私に与えられた責任です。 東北全部が選挙区になりますが、目下、旧3区と新3区の声を両代議士と県議の先生らと連携して地元の皆様の声を国政に届けていきます」 【上杉謙太郎】衆議院議員のホームページ

  • 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員

     選挙区の変更に翻弄されたり、陰で「もう辞めるべきだ」と囁かれている県内衆院議員たち。その最新動向を追った。 新3区支部長は菅家氏、上杉氏は比例単独へ 森山氏と並んで取材に応じる菅家氏(右)と上杉氏(左)=3月21日の党県連大会  衆院区割り改定を受け、県南地方の一部(旧3区)と会津全域(旧4区)が一つになった新3区。この新しい選挙区で自民党から立候補を目指していたのが、旧3区で活動する上杉謙太郎氏(47)=2期、比例東北=と、旧4区を地盤とする菅家一郎氏(67)=4期、比例東北=だ。 次期衆院選の公認候補予定者となる新3区の支部長について、党本部は「勝てる候補者を擁立する」という方針のもと、上杉氏と菅家氏が共に比例復活当選だったこと、県内の意向調査で両氏を推す声が交錯していたことなどを理由に選定を先延ばししてきた。一方、中央筋から伝わっていたのは、党本部は上杉氏を据えたい意向だが、両氏が所属する派閥(清和政策研究会)は菅家氏を推しているというものだった。 選定の行方が注目されていた中、党本部は3月14日、新3区の支部長に菅家氏を選び、上杉氏は県衆院比例区支部長として次期衆院選の比例東北で名簿上位の優遇措置が取られることが決まった。 森山裕選対委員長は、菅家氏を選んだ理由を「主な地盤が会津だったから」と説明した。県南と比べ会津の方が有権者数が多いことが判断基準になったという。 本誌は1月号の記事で、上杉氏は新3区から立候補したいが菅家氏に遠慮していると指摘。併せて「菅家氏は会津若松市長を3期務めたのに小熊慎司氏に選挙区で負けており、支部長に相応しくない」という上杉支持者の声を紹介した。 それだけに上杉支持者は今回の選定に落胆しているかと思ったが、意外にも冷静な分析をしていた。 「有権者数を比べれば、県南(白河市、西白河郡、東白川郡)より会津の方が多いので、菅家氏が選ばれるのは妥当です。上杉氏がいきなり会津に行っても得票できないでしょうからね」(ある支持者) そう話す支持者が見据えていたのは、負ける確率が高い「次」ではなく「次の次」だった。 「菅家氏は次の衆院選で相当苦戦するでしょう。小熊氏と毎回接戦を演じているところに、県南の一部が入ることで玄葉光一郎氏の応援がプラスされる。今回の選定は、党本部が『菅家氏が選挙区で負けても、上杉氏が比例で当選すれば御の字』と考えた結果と捉えています」(同) そこまで言い切る理由は、両氏に対し、一方が小選挙区、もう一方が比例単独で立候補し、次の選挙では立場を入れ替えるコスタリカ方式を導入しなかったことにある。 「コスタリカを組むと、選挙区に回った候補者が負けた場合、比例に回った候補者は『オマエが一生懸命やらなかったから(選挙区の候補者が)負けた』と厳しく批判され、次に選挙区から出る際のマイナス材料になってしまう」(同) 上杉氏は次の衆院選で、菅家氏のために一生懸命汗をかくことになるが、その結果、菅家氏が負けてもコスタリカを組んでいないので批判の矛先は向きにくい。一方、汗をかいた見返りに、これまで未開の地だった会津に立ち入ることができる。すなわちそれは、次の衆院選を菅家氏のために戦いながら、次の次の衆院選を見据えた自分の戦いにつながることを意味する。 「もし菅家氏が負ければ、既に2回比例復活当選しているので支部長には就けないから、次の次は上杉氏の出番になる。上杉氏はその時を見越して(比例当選で)バッジをつけながら選挙区で勝つための準備を進めればいい、と」(同) もちろん、このシナリオは菅家氏が負けることが前提になっており、もし菅家氏が勝てば、今度は上杉氏が比例東北で2回連続優遇とはいかないだろうから、途端に行き場を失う恐れがある。前出・森山選対委員長は上杉氏に「次の次は支部長」と密かに約束したとの話も漏れ伝わっているが、これだってカラ手形に終わる可能性がある。 いずれにしても「選挙はやってみなければ分からない」ので、今回の選定が両氏にとって吉と出るか凶と出るかは判然としない。 党本部のやり方に拗ねる馬場氏 馬場雄基氏  馬場雄基氏(30)=1期、比例東北=が3月15日に行ったツイッターへの投稿が波紋を生んでいる。 《質問終え、新聞見て、目を疑いました。事実確認のために、常任幹事会の議事録見て、本当と知ってショックが大きすぎます。県連常任幹事会で話したことは正しく伝わっているのでしょうか。本人の知らないところで、こうやって決まっていくのですね。気持ちの整理がつきません》 https://twitter.com/yuki_8ba/status/1635848039670882309  真に言いたいことは分からないが、立憲民主党本部が行った「何らかの決定」にショックを受け、不満を露わにしている様子は伝わってくる。 投稿にある「新聞」とは、3月15日付の地元紙を指す。そこには党本部が、次期衆院選の公認候補予定者となる支部長について、新1区は金子恵美氏、新3区は小熊慎司氏を選任したという記事が載っていた。 実は、馬場氏も冒頭の投稿に福島民友の記事写真を掲載したが、同記事には馬場氏に関する記載がなかったため、尚更「何にショックを受けたのか」と憶測を呼んだのだ。 党県連幹事長の髙橋秀樹県議に思い当たることがあるか尋ねると、次のように話した。 「私も支持者から『あの投稿はどういう意味?』と聞かれたが、彼の言わんとすることは分かりません。県連で話したことが党本部に正しく伝わっていないと不満をのぞかせている印象だが、県連の方針は党本部にきちんと伝えてあります」 馬場氏をめぐる県連の方針とは、元外相玄葉光一郎氏(58)=10期、旧3区=とのコスタリカだ。 衆院区割り改定を受け、玄葉氏は新2区から立候補する考えを示したが、旧2区で活動する馬場氏も玄葉氏に配慮し明言は避けつつも、新2区からの立候補に意欲をにじませていた。これを受け県連は2月27日、両氏を対象にコスタリカ方式を導入することを党本部に上申した。 この時の馬場氏と玄葉氏のコメントが読売新聞県版の電子版(3月1日付)に載っている。 《記者会見で、馬場氏はコスタリカ方式の要請について、「現職同士が重なる苦しい状況を打開し、党本部の決定を促すためだ」と強調。「その部分が決定してから様々なことが決まる」と述べた。玄葉氏は「活動基盤を新2区にしていく。私にとっては大きな試練だ」とし、「比例に回った方が優遇される環境が前提だが、私の場合、小選挙区で出る前提で準備を進める」とも述べた》 馬場氏は玄葉氏とのコスタリカを認めるよう党本部に強く迫り、それが決まらないうちは他の部分は決まらないと強調したのだ。 ただ党本部は、コスタリカで比例区に転出する候補者(馬場氏)は名簿上位で優遇する必要があり、他県と調整しなければならないため、3月10日に大串博志選対委員長が「統一地方選前の決定はあり得ない」との見解を示していた。 そして4日後の同14日、党本部は前述の通り金子氏を新1区、小熊氏を新3区の支部長とし、新2区については判断を持ち越したため、馬場氏はショックのあまりツイッターに思いを吐露したとみられる。 進退にも関わることなので馬場氏の気持ちは分からなくもないが、前出・高橋県議は至って冷静だ。 「もしコスタリカを導入すれば立憲民主党にとっては初の試みで、比例名簿の上位登載は他県の候補者との兼ね合いもあるため、簡単に『やる』とは発表できない。調整に時間がかかるという党本部の説明は理解できます」(高橋県議) 要するに今回の出来事は、多方面と調整しなければ結論を出せない党本部の苦労を理解せずに、馬場氏が拗ねてツイッターに投稿した、ということらしい。 馬場事務所に投稿の真意を尋ねると、馬場氏本人から次のようなコメントが返ってきた。 「多くの方々に支えられて議員として活動させていただいていることに誇りと責任を持って行動していきます。難しい状況だからこそ、より応援の輪を広げていけるよう精進して参ります」 ここからも真意は読み取れない。 前述の上杉・菅家両氏といい、馬場氏といい、衆院区割り改定に翻弄される人たちは心身が休まることがないということだろう。 健康不安の吉野氏に引退を求める声 吉野正芳氏  選定が難航する区もあれば、すんなり決まった区もある。そのうちの一つ、自民党の新4区支部長には昨年12月、現職の吉野正芳氏(74)=8期、旧5区=が選任された。 選挙の実績で言えば、支部長選任は順当。ただ周知の通り、吉野氏は健康問題を抱え、このまま議員を続けても満足な政治活動は難しいという見方が大勢を占めている。 復興大臣を2018年に退任後、脳梗塞を発症。療養を経て現場復帰したが、身体に不自由を来し、移動は車椅子に頼っているほか、喋りもスムーズではない状態にある。 「正直、会話にはならない。吉野先生から返ってくる言葉も、こもった話し方で『〇くん、ありがとね』という具合ですから」(ある議員) 要するに今の吉野氏は、国会・委員会での質問や聴衆を前にした演説など、衆院議員として当たり前の仕事ができずにいるのだ。3月21日に開かれた党県連の定期大会さえも欠席(秘書が代理出席)している。 ここで難しいのは、政治家の出処進退は自分で決めるということだ。周りがいくら「辞めるべき」と思っても、本人が「やる」と言えば認めざるを得ない。 ただ、吉野氏の場合は前回(2021年10月)の衆院選も同様の健康状態で挑み、この時は周囲も「あと1期やったら流石に引退だろう」と割り切って支援した経緯があった。ところが今回、新4区支部長に選任され、本人も事務所も「まだまだやれる」とふれ回っているため、地元では「いい加減にしてほしい」と思いつつ、首に鈴をつける人がいない状況なのだ。 写真は3月21日の党県連定期大会を欠席した吉野氏が会場に宛てた祝電  「吉野氏の後釜を狙う坂本竜太郎県議は内心、『まだやるつもりか』と不満に思っているだろうが、ここで波風を立てれば自分に出番が回ってこないことを恐れ、ひたすら沈黙を貫いています」(ある選挙通) 旧5区、そして新たに移行する新4区は強力な野党候補が不在の状態が続いている。それが、満足な政治活動ができない吉野氏でも容易に当選できてしまう要因になっている。ただ、いつまでも当選できるからといって「議員であり続けること」に固執するのは有権者に失礼だ。 それでなくても新4区は原発被災地が広がるエリアで、復興の途上にある。元復興大臣という肩書きを笠に着て、行動力に期待が持てない議員に課題山積の新4区を任せるのは違和感がある。 あわせて読みたい 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き

  • 【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員

     衆院小選挙区定数「10増10減」を反映し、1票の格差を2倍未満とする改正公職選挙法が12月28日に施行された。これを受け、福島県の小選挙区定数は5から4に減った。新たな区割りは次の衆院選から適用される。今後の焦点は与野党の候補者調整だが、ベテラン議員が早くから立候補したい選挙区を匂わせているのに対し、若手議員は意中の選挙区があっても「先輩」への遠慮から口籠っている。若手議員はこのまま本音を言えず、時の流れに身を任せるしかないのか。与野党2人の若手議員の今後に迫った。(佐藤仁) ベテランに遠慮し口籠る上杉氏と馬場氏 福島県四つの区切りの地図  新区割りは以下の市町村構成になる。▽新1区=現1区の福島市、伊達市、伊達郡と現2区の二本松市、本宮市、安達郡。▽新2区=現2区の郡山市と現3区の須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡。▽新3区=現3区の白河市、西白河郡、東白川郡と現4区全域(会津地方、西白河郡西郷村)。▽新4区=現5区全域(いわき市、双葉郡)と現1区の相馬市、南相馬市、相馬郡。 中央メディアの記者は、自民党選対筋の話として「5月に開かれるG7広島サミット終了後、岸田文雄首相が解散総選挙に打って出るのではないか」という見方を示している。 解散権は首相の専権事項なので、選挙の時期は岸田首相のみぞ知ることだが、いつ選挙になってもいいように候補者調整を急がなければならないのは与野党とも同じだ。 現在、県内には与野党合わせて9人の衆院議員がいる。根本匠(71、9期)、吉野正芳(74、8期)、亀岡偉民(67、5期)、菅家一郎(67、4期)、上杉謙太郎(47、2期)=以上、自民党。玄葉光一郎(58、10期)、小熊慎司(54、4期)、金子恵美(57、3期)、馬場雄基(1期、30)=以上、立憲民主党。このうち本誌が注目するのは両党の2人の若手議員、上杉氏と馬場氏だ。 上杉氏はこれまで3回の選挙を経験し、いずれも現3区から立候補してきた。最初の選挙は厳しい結果に終わったが、前々回、前回は比例復活当選。玄葉光一郎氏を相手に小選挙区では及ばないが、着実に票差を縮めており、支持者の間では「次の選挙は(小選挙区で)勝てる」が合言葉になっていた。それだけに、今回の区割り改定に支持者は大きく落胆している。 現3区は区割り改定で最もあおりを受けた。福島市がある現1区、郡山市がある現2区、会津若松市がある現4区、いわき市がある現5区は新区割りでも一定の原形をとどめたが、現3区は真っ二つに分断・消失する。他選挙区のように「母体となる市」がなかったことが影響した。 現3区は、北側(須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡)が新2区、南側(白河市、西白河郡、東白川郡)が新3区に組み込まれた。そうなると上杉氏はどちらかの選挙区から立候補するのが自然だが、現実はそう簡単ではない。新2区では根本氏、新3区では菅家氏が立候補に意欲を示しているからだ。 「先輩」に手を挙げられては、年齢が若く期数も少ない上杉氏は遠慮するしかない。しかし立候補する選挙区がなくなれば、自身の政治生命が危ぶまれる。要するに、今の上杉氏は「ここから立候補したい」という意中の選挙区があっても、積極的に口にしづらい立場にあるのだ。 もっとも、上杉氏が「先輩」に気を使ったとしても、上杉氏を熱心に応援してきた支持者は納得がいかないだろう。 上杉氏が家族とともに暮らす白河市の支持者もこのように語る。 「上杉氏が大臣経験のある根本氏を押し退け、新2区から出ることはあり得ない。残る選択肢は新3区になるが、菅家氏と上杉氏のどちらを候補者にするかは、期数ではなく選挙実績を重視すべきだ」 この支持者が選挙実績を持ち出したのは、もちろん理由がある。 前述の通り上杉氏は小選挙区で玄葉氏に連敗しているが、着実に票差を縮めている。これに対し菅家氏は現4区で小熊慎司氏を相手に勝ち負けを繰り返している。前回は小選挙区で敗れ、比例復活に救われた。 「最大の疑問は菅家氏が会津若松で小熊氏に負けていることです。会津若松市長を3期も務めた人がなぜ得票できないのか。地元で不人気な人が候補者にふさわしいとは思えない」(同) 選考は長期化の見通し  前回の結果を見ると、会津若松市の得票数は小熊氏2万9650票、菅家氏2万8107票で菅家氏の負け。同市の得票数に限ってさかのぼると、2014年と12年の衆院選も菅家氏は負けている。唯一、17年の衆院選は勝ったものの、両氏以外に立候補した野党系2氏の得票分を小熊氏に上乗せすると、菅家氏は実質負けているのだ。 「菅家氏が小選挙区で連勝し、会津若松市の得票数も引き離していれば、私たちも『新3区からは菅家氏が出るべき』と潔くあきらめた。しかし、地元で不人気という現実を見ると、新たに県南に来て得票できるかは怪しい」(同) ちなみに前回の衆院選で、西白河郡の西郷村は現3区から現4区に編入されたが、同村の得票数は小熊氏4430票、菅家氏4299票とここでも菅家氏は競り負けている。 「とはいえ、菅家氏が県南で得票できるか分からないのと同じく、上杉氏も会津で戦えるかは未知数。正直、あれだけ広いエリアをどうやって回るかも想像がつかない」(同) そんな両氏を救う方法は二つ考えられる。 一つはどちらかが比例単独に回ること。ただし、当選することはできても地盤は失われるので、これまで小選挙区で戦ってきた両氏には受け入れ難い救済案だろう。確実に当選できるならまだしも、名簿順位で上位が確約されなければ落選リスクにもさらされる。 もう一つはどちらかが小選挙区、どちらかが比例区に回り、次の選挙では入れ替わって立候補するコスタリカ方式を採用すること。ただし、この救済案もどちらが先に小選挙区に回るかで揉めると思われる。最初に比例区に回れば、小選挙区の有権者に自分の名前を書いてもらう機会を逸し、次の選挙で自分が小選挙区に回った際、名前を書いてもらえる保証がないからだ。 さらに同方式の危うさとして、小選挙区の候補者が落選し比例区の候補者が当選したら、両陣営の間に溝が生じ、次の選挙では選挙協力が成立しづらい点も挙げられる。 田村地方の自民党員はこう話す。 「私たちはこの先、上杉氏を直接応援することはできないが、本人には『もし菅家氏とコスタリカを組むなら絶対に比例区に回るな』とはアドバイスしました」 そもそも現3区の自民党員は同方式に良いイメージを持っていない。中選挙区制の時代、県南・田村地方には穂積良行と荒井広幸、2人の自民党議員がいたが、小選挙区比例代表並立制への移行を受け両氏は現3区で同方式を組んだ。最初の選挙は荒井氏が小選挙区、穂積氏が比例区に回り、荒井氏が玄葉氏を破って両氏とも当選したが、次の選挙は小選挙区に回った穂積氏が玄葉氏に敗れ政界引退。荒井氏は比例単独で当選したものの、次の選挙は小選挙区で玄葉氏に大差負けした。名前を書いてもらえない比例区に回ったことと両者の選挙協力が機能しなかったことが、小選挙区での大敗を招いた典型例と言える。 「上杉氏はかつて荒井氏の秘書をしていたので、コスタリカが上手くいかないことはよく分かっているはずです」(同) 果たして上杉氏は、区割り改定を受けてどのようなアクションを起こそうとしているのか。衆院議員会館の上杉事務所に取材を申し込むと、 「上杉本人とも話しましたが、これから決まっていく事案について、いろいろ申し上げるのは控えさせてほしい」(事務所担当者) この翌日(12月15日)、自民党県連は選挙対策委員会を開き、次期衆院選公認候補となる選挙区支部長に新1区が亀岡氏、新2区が根本氏、新4区が吉野氏に内定したと発表した。新3区は菅家氏と上杉氏、双方の地元(総支部)から「オラがセンセイ」を強く推す意見が出され、結論は持ち越された。今後、党本部や両氏の所属派閥(清和政策研究会)で調整が行われるが、党本部は比例復活で複数回当選している議員の支部長就任は慎重に検討するという方針も示しており、上杉氏(2回)、菅家氏(2回)とも該当するため、選考は長期化する見通しだ。 県連はどちらが選挙区支部長に内定しても「現職5人を引き続き国政に送ることが大前提」として、比例代表の1枠を優先的に配分するよう党本部に求めていくとしている。菅家氏と上杉氏はともに早稲田大学卒業。「先輩」に面と向かって本音を言いづらい上杉氏に代わり、地元支持者の熱意と、前述した菅家氏への物足りなさが候補者調整にどう影響するのか注目される。 組織力を持たない馬場氏  立憲民主党の若手、馬場雄基氏も上杉氏と同様、辛い立場にある。 前回、現2区から立候補した馬場氏は根本匠氏に及ばなかったが比例復活で初当選した。当時20代で初登院後は「平成生まれ初の衆院議員」としてマスコミの注目を集めた。爽やかなルックスで「馬場氏の演説には引き込まれるものがある」と同党県連内の評価もまずまず。国会がない週末は選挙区内を回り、自民党支持者が多く集まる場所にも臆せず顔を出すなどフットワークの軽さものぞかせる。 現2区は、中核を成す郡山市が現3区の北側と一緒になり新2区に移行。これに伴い馬場氏も新2区からの立候補を目指すとみられるが、ここに早くから踏み入るのが、現3区が地盤の玄葉光一郎氏だ。 当選10回。民主党政権時には外務大臣、国家戦略担当大臣、同党政調会長などの要職を歴任。岳父は佐藤栄佐久元知事。言わずと知れた福島県を代表する政治家の一人だ。 玄葉氏は、現3区の南側が組み入れられた新3区ではなく、新2区からの立候補を模索している。背景には▽郡山市には昔から自分を支持してくれる経済人らが多数いること、▽同市内の安積高校を卒業していること、▽同市内に栄佐久氏の人脈が存在すること、等々の理由が挙げられる。「現3区で上杉氏が票差を詰めている」と書いたが、北側(須賀川市や田村市)では一定の票差で勝っていることも新2区を選んだ一因になっているようだ。 馬場氏にとっては年齢も期数も実績も「大先輩」の玄葉氏が新2区からの立候補に意欲を示せば、面と向かって「それは困る」「自分も立候補したい」とは言いにくいだろう。 もっとも玄葉氏と馬場氏を天秤にかければ、本人が辞退しない限り玄葉氏が候補者になることは誰の目にも明らかだ。理由は馬場氏より期数や実績が上回っているから、ということだけではない。 両氏の明らかな差は組織力だ。政治家歴30年以上の玄葉氏と、2年にも満たない馬場氏では比べ物にならない。例えば、郡山駅前で街頭演説を行うことが急きょ決まり「動員をかけろ」となったら、玄葉氏は支持者を集めることができても、組織力を持たない馬場氏は難しいだろう。 「馬場氏は青空集会を定期的に開いて多くの有権者と触れ合ったり、SNSを使って積極的に発信している点は評価できる。馬場氏がマイクを握ると聴衆が聞き入るように、演説も相当長けている。しかし、辻立ちや挨拶回り、名簿集めといった基本的な行動は物足りない」(同党の関係者) 馬場氏の普段の政治活動は、若者や無党派層が多い都市部では支持が広がり易いが、高齢者が多く地縁血縁が幅を利かす地方では、この関係者が言う「基本的な行動」を疎かにすると票に結び付かないのだ。 「簡単には決められない」  立憲民主党の県議に新区割りを受けて馬場氏の今後がどうなるか意見を求めたが、言葉を濁した。 「現1区で当選した金子氏が新1区、現4区で当選した小熊氏が新3区に決まれば残るは二つだが、だからと言って新2区が玄葉氏、現5区時代から候補者不在の新4区が馬場氏、という単純な振り分けにはならない。両氏の支持者を思うと、簡単にあっちに行け、こっちに行けとは言えませんよ」 加えて県議が挙げたのは、同党単独では決めづらい事情だ。 「私たちはこの間、野党共闘で選挙を戦っており、他党の候補者との調整や、ここに来て距離を縮めている日本維新の党との関係にも配慮しなければならない。こうなると県連での判断は難しく、党本部が調整しないと決まらないでしょうね」(同) 同党県連幹事長の高橋秀樹県議もかなり頭を悩ませている様子。 「もし全員が新人なら、あなたはあっち、あなたはこっちと振り分けられたかもしれないが、現選挙区に長く根ざし、そこには大勢の支持者がいることを考えると、パズルのピーズを埋めるような決め方はできない。党本部からは年内に一定の方向性を示すよう言われているが『他県はできるかもしれないが、福島は無理』と伝えています。他県は現職の人数が少なかったり、2人の現職が一つの選挙区に重なるケースがほとんどないため、すんなり候補者が決まるかもしれないが、現職の人数が多い福島では簡単に決められない。ただ、目標は現職4人を再び国政に送ることなので、4人と直接協議しながら党本部も交えて調整していきたい」(高橋幹事長) 当の馬場氏は今後どのように活動していくつもりなのか。衆院議員会館の馬場事務所に尋ねると、馬場氏から次のような返答があった。(丸カッコ内は本誌注釈) 「(候補者調整について)現時点において、特段決まっていることはございません。しっかりと自分の思いを県連や党本部に伝えているところでもあり、その決定に従いたいと考えています。その思いとは、私が今ここに平成初の国会議員として活動できているのも、地盤看板鞄の何一つ持ち合わせていない中から育ててくださり、ゼロから一緒につくりあげてくださり、今なお大きく支えてくださっている郡山市・二本松市・本宮市・大玉村の皆さまのおかげです。いただいた負託に応えられるように全力を尽くすのみです」 現2区への強い思いをにじませつつ、県連や党本部の決定には従うとしている。 中途半端な状態に長く置き続けるのは本人にも支持者にも気の毒。それは馬場氏に限った話ではない。丁寧に協議を進めつつ、早期決着を図り、次の選挙に向けた新体制を構築することが賢明だ。(文中一部敬称略) あわせて読みたい 【福島県】自民・新3区支部長をめぐる綱引き 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員