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  • 丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚【会津若松市】

    【芦ノ牧温泉】丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

     先月号に「丸峰観光ホテル『民事再生』を阻む諸課題」という記事を掲載したところ、それを読んだ元従業員たちが、在職中に目撃した星保洋社長の杜撰な経営を明かしてくれた。元従業員たちは「あんな社長のもとでは自主再建なんて絶対無理」と断言する。 スポンサー不在の民事再生に憤る元従業員 再建を目指す丸峰観光ホテル  会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵が福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは2月26日。負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 両社の経営状態が分かる資料は少ないが、東京商工リサーチ発行『東商信用録福島県版』に別表の決算が載っていた。もっとも、その数値もコロナ禍前のものだから、現在は更に厳しい売り上げ・損益になっているのは間違いない。 丸峰観光ホテルの業績売上高利益2012年15億4700万円1億1000万円2013年14億3100万円14万円2014年14億9400万円190万円2015年8億8500万円980万円2016年9億7300万円5200万円 丸峰庵の業績売上高利益2013年4億0800万円16万円2014年5億0700万円▲1800万円※決算期は両社とも3月。▲は赤字。  両社の社長を務める星保洋氏は、3月に開いた債権者説明会で自主再建を目指す方針を明らかにした。債権者が注目していたスポンサーについては「今後の状況によっては(スポンサーから)支援を受けることも検討する」と説明。スポンサー不在で再建を進めようとする星社長のやり方に、多くの債権者が首を傾げていた。 先代社長で女将の星弘子氏(保洋氏の母、故人)にかつて世話になったという元従業員はこう話す。 「丸峰観光ホテルは最盛期、土日のみで年13億円を売り上げていた。あの施設規模だと損益分岐点は10億円。しかし、稼働率は震災・原発事故や新型コロナもあり低調で、現在は少しずつ回復しているとしても2022年3月期決算は売上高5億円台、最終赤字2億円超というから、スポンサー不在で再建できるとは思えない。それでも自主再建を目指すというなら、トップが代わらないと無理でしょう」 このように、社長交代の必要性を指摘する元従業員だが、 「ただ、私は丸峰を辞めてからだいぶ経つので、現社長の経営手腕はウワサで聞くことはあっても、実際に見たわけではない」(同) ならば、会社が傾いていく経過を間近で見ていた元従業員は、星社長の経営手腕をどう評価するのか。 ここからは、先月号の記事を読んで「ぜひ星社長の真の姿を知ってほしい。そして、この人のもとでは自主再建は絶対無理ということを分かってほしい」と情報を寄せてくれたAさんとBさんの証言を紹介する。ちなみに、ふたりの性別、在職時の勤務先、退職日等々を書いてしまうと、誰が話しているのか特定される恐れがあるため、ここでは触れないことをご了承いただきたい。 まず驚かされたのが星社長の金銭感覚だ。少ない月で20~30万円、多い月には100万円以上の個人的支出を「これ、処理しておいて」と経理に回していたという。 一体何に浪費していたのか、その一部は後述するが、 「要するに、会社の財布を自分の財布のように使っていた」(Aさん) そのくせ、取引先への支払いは後回しにすることが多く、口うるさい取引先には10日遅れ、物分かりがいい取引先には1、2カ月遅れで支払うこともザラだった。 「そういうことをしておいて、自分はレクサスを乗り回し、飲み屋に出入りしていた。取引先はそんな星社長の姿を見て『贅沢する余裕があるならオレたちに払えよ!』といつも怒っていた」(Bさん) ふたりによると、星社長は滞っている支払いをめぐり、どこを優先するかを決める会議まで開いていたというから呆れるしかない。 「こういう無駄な会議が、本来やるべき業務の妨げになっていることを星社長は分かっていない」(同) 従業員に対しても、会社のために立て替え払いをしても数百円、1000円の精算にさえ応じないケチっぷりだった。 AさんとBさんが口を揃えて言うのは「本業に注力していれば傾くことはなかった」ということだ。本業とは、言うまでもなく丸峰観光ホテルを指す。ならば経営悪化の要因は丸峰庵が手掛ける「丸峰黒糖まんじゅう」にあったということか。 「黒糖まんじゅうは、利益は薄かったかもしれないが現金収入として会社に入っていたし、お土産として需要があったという点では本業とリンクしていたと思う」(Aさん) 問題は、丸峰庵が行っていた飲食店経営にあった。 前出・かつての従業員によると、そもそも飲食店経営に乗り出したのは星弘子氏が健在のころ、保洋氏の妻が姑との関係に悩み、夫婦で一時期、会津若松市から郡山市に引っ越したことがきっかけという。保洋氏からすると、妻のことを思って弘子氏と距離を置く一方、ホテル経営で実績を上げる母を見返すため、別事業で成果を出したい思惑もあったのかもしれない。 報道等によると、飲食店経営は2006年ごろから参入し、もともとは「丸峰観光ホテルの外食事業」としてスタート。しかし、2014年にホテル経営に注力するため、まんじゅう製造・販売事業と併せて丸峰庵に移管した。 現在、丸峰庵が経営しているのはJR郡山駅のエキナカに並んでいる蕎麦店と中華料理店、同駅前に立地するダイワロイネットホテルの飲食テナント(1階)に入っている、エキナカよりグレードの高い蕎麦店。 「それ以外に郡山駅西口の陣屋では居酒屋とバーを経営している。大町にもかつて居酒屋を出したことがある」(Aさん) そのほか東京都内にも飲食店を構えたことがあったが「3年程前に撤退し、今は都内にはない」(同)。 店を出すのが「趣味」 丸峰庵  これらの飲食店が繁盛し、グループ全体の売り上げを押し上げていればよかったが、現実は本業の足を引っ張るお荷物になっていたという。 「駅前は人が来ないのに家賃が高い。そんな場所に、会社にとって中心的な店を三つも出している時点で厳しい。都内から撤退したのは正解でしたが」(同) そんな甘い出店戦略もさることながら、従業員の目には星社長の経営感覚も違和感だらけに映った。 「ちゃんとリサーチして出店しているのかな、と思うことばかりだった。例えば、大町の立地条件が悪い場所に『知り合いから紹介された』と中華料理店を出したが、案の定、客が入らず閉店した。すると、今度は同じ場所でしゃぶしゃぶ店をやると言い出し、店内を改装してオープンしたが、こちらも数カ月で閉店してしまった」(Bさん) さらに問題なのは、▽閉店後に完全撤退するのではなく「また店を出すかもしれない」と無駄な家賃を支払い続けた、▽出店に当たり他店から料理人等を引き抜いてきたのに、すぐに閉店させたことで行き場を失わせた、▽店が営業中、経営が厳しいと理解しているのに対策を練らない――等々、先を見据えている様子が一切見られないことだった。 「要するに、星社長にとっては店を出すことが目的なので、オープンしたら途端に興味を失うのです。もし店を出すことが手段なら、客を増やすにはどうしたらいいか真剣に考えるはず。しかし、星社長は『今月は〇〇円の赤字です』と報告を受けても全く焦らないし悩まない」(同) 星社長にとっては、店を出すことが「趣味」なのかもしれない。そうなると、飲食店事業で儲けようという考えは出てこないだろう。 「出店に当たっては、厨房機器等をネット通販で勝手に買い、会社に払わせていた。普通はリースやまとめ買いで揃えると思うが、与信が通らないから個人で揃えるしかなかったのでしょう」(同) 前述・会社に支払わせていた個人的支出の一部は、ネット通販で購入した厨房機器等とみられる。 AさんとBさんは「もし飲食店経営をするなら計画的に出店し、店舗数を絞ればグループ全体に寄与したのではないか」とも話す。ところが現状は、星社長による無計画な出店が足を引っ張り、従業員の間に軋轢を起こしていたと指摘する。 「ホテルやまんじゅう製造・販売に関わる従業員は『儲からない飲食店のおかげでオレたちが稼いだ利益が食われている』と不満に思っていた。飲食店経営に関わる従業員はそれをよく理解していたが、出店が趣味の星社長は意に介さないし、忠告する幹部社員もいない」(Bさん) 「かつては苦言を呈する幹部社員もいたが、星社長が聞く耳を持たないため嫌気を差して辞めていった。今いる幹部社員は星社長のイエスマンばかり」(Aさん) 星弘子氏が健在のころは強いブレーキ役を果たしていたが、2019年に弘子氏が亡くなったのを境にタガが外れ、本業から飲食店経営への資金流出が起こっていた可能性も考えられる。 こうした状況を招いた経営者が民事再生法の適用を申請し、スポンサー不在のまま自主再建を目指すと言い出したから、AさんとBさんは既に退職した立場だが「債権者に失礼だし、従業員も気の毒」として、星社長の真の姿を伝えるべきと決心したという。ふたりとも「そういう経営者のもとで自主再建を目指そうなんてとんでもない」と憤りが収まらなかったわけ。 AさんとBさんは、最後にこのように語った。 「SNSで『大好きなホテルなので残念』『再建できるよう応援しています』とのコメントを見かけたが、それは従業員がお客さんに真摯な接客をしたから言われているのであって、星社長を応援しているわけではないことを理解してほしい。私たちは、スポンサーがつくなどして新しい経営者のもとで再建を目指すなら応援するが、星社長が主導する再建は賛成できない」 難しい自主再建 渓谷美の宿 川音(HPより)  丸峰観光ホテルは現在も予約を受け付けるなど、傍目には平時と変わらない営業を続けているという。しかし、三つある施設のうち「渓谷美の宿 川音」は古代檜の湯が工事中で男女ともに営業停止。「レストランあいづ五桜」も設備メンテナンスのため休業している。どちらも再開日は未定だ。 このほか二つの施設「丸峰本館」「離れ山翠」のうち、本館も休館中との話もあり、営業しているのは離れ山翠だけとみられる。客が入らないのに巨大な施設を稼働させても経費の無駄なので、経営資源を集中させるという意味では正解と言える。 ただ、本誌には4月中旬に起きた出来事として「その日は給料日だったが振り込まれず、従業員がホテルに詰めかける騒動があった」「給料は支払われたが、3月は手渡し、4月は振り込みだったらしい」との話も寄せられており、これが事実なら星社長は当面の資金繰りに窮していることが考えられる。 今後注目されるのは、これから債権者に示されることになる再生計画の中身だ。以下は『民事再生申立ての実務』(東京弁護士会倒産法部編、ぎょうせい発行)に基づいて書き進める。 民事再生申し立てに当たり、再生債務者(丸峰観光ホテルと丸峰庵)は裁判所や監督委員から、申し立て前1年間の資金繰り実績表と、申し立て後半年間の資金繰り予定表の提出を求められる。資金繰りができなければ再生計画の策定・認可を待つことなく事業停止に追い込まれるため、再生債務者にとって資金繰り対策は極めて重要になる。 再生債務者は「申し立てによる相殺」や「申し立て前の差し押さえ」といった難を逃れて確保できた資金をもとに資金計画を立てる。ここで重要なのは、入金・出金の確度を高めることができるかどうかだ。関係者に協力を仰ぎ、既発生の売掛金・未収金・貸付金などの回収を進め、将来発生する売掛金の入金見込みを立てると同時に、支払い条件を一定のルールに基づき決定し、支出の見込みも立てる。併せて棚卸や無担保資産の早期処分を適宜行う。 問題は、星社長がこのような資金繰りのメドをつけられるかどうかだが、前述した個人的支出、取引先への支払い遅延、給料遅配、さらに飲食店事業をめぐっては家賃滞納のウワサも囁かれる中、取引先・債権者から資金繰りの理解と協力が得られるかは疑問だ。 メーンバンクの会津商工信組も、民事再生申し立て前に「思うように再建が進まない」と嘆いていたというし、前出・AさんとBさんも「星社長は他人の意見を聞かない」というから、自主再建が見込める資金計画が立てられるとは考えにくい。 だからこそ、スポンサーの存在が重要になるのだ。スポンサーがつけば信用が補完され、再生債務者の事業価値の毀損(信用不安・資金不足による取引先との取引中止、従業員の退職、顧客離れなど)が最小限に抑えられる。スポンサーによる確実な事業再生が見込まれ、申し立ての前後からスポンサーの人的・資金的協力も得られる。 スポンサー不在の違和感  全国を見渡しても、鳥取県・皆生温泉の老舗旅館「白扇」は負債16億円を抱えて4月7日に民事再生法の適用を申請したが、同日付で地元の食肉加工会社がスポンサーにつくことが発表された。昨年3月に負債11億円で同法適用を申請した山梨県・湯村温泉の「湯村ホテル」も、スポンサー候補を探すプレパッケージ型民事再生に取り組み、半年後に事業譲渡した。2021年8月に同法適用を申請した北海道・丸駒温泉の「丸駒温泉旅館」は、全国で地域ファンドを運用する企業がスポンサーとなって再建が図られた。負債は8億3000万円だった。 ここに挙げた事例より負債額が格段に多い丸峰観光ホテル・丸峰庵がスポンサー不在というのは、やはり違和感がある。今後は3月の債権者説明会で言及がなかったスポンサーを見つけることが、今夏にも債権者に示されるであろう再生計画案の成否を握るのではないか。 ちなみに再生計画案を実行に移せるかどうかは、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。 本誌は民事再生の申請代理人を務めるDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士を通じて、星社長に取材を申し込んだ。具体的に15の質問項目を示して回答を待ったが、両者からは期限までに何の返事もなかった。 この稿の主人公は丸峰観光ホテルだったが、星社長のような経営者は他にもいるはずで、そこにコロナ禍が重なり、青息吐息のホテル・旅館は少なくないと思われる。杜撰な経営を改めなければ早晩、手痛いしっぺ返しに遭うことを経営者は肝に銘じるべきだ。 最後に余談になるが、4月中旬、本誌編集部に会津商工信組と取り引きがあるとする匿名事業者から「今回の民事再生で信組の損失がどれくらいになるか心配」「役員が責任を取って辞める話が出ている」「これを機に新体制のもとで以前のような活気ある組織に戻ってほしい」などと綴られた投書が届いた。組合員は丸峰観光ホテル・丸峰庵の再生の行方と同時に、メーンバンクの同信組が今後どうなるのかについても強い関心を向けている。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

  • 丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚【会津若松市】

    芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

     会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵は2月28日、福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請した。債権者説明会では営業体制を見直し、自主再建を目指す方針が示されたが、取引先や同業者は「スポンサーからの支援を受けずに再建できるのか」と先行きを懸念する。 スポンサー不在を懸念する債権者  民間信用調査機関によると負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 《1994(平成6)年3月期にはバブル景気が追い風となり、売上高25億円とピークを迎えた。1995年3月期以降は景気後退で利用者数が減少。債務超過額も拡大していた》《2020(令和2)年に入ると新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた。2022年3月期は売上高が5億円台まで後退し、2億円超の最終赤字を計上した。その後も業況は好転せず、資金繰りが限界に達した。丸峰庵はホテルに連鎖する形で民事再生法の適用を申請した》(福島民報3月1日付より) 申請代理人はDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士ほか2名が務めている。 債権者の顔ぶれや各自の債権額は判明していないが、主な仕入れ先は地元の水産卸売会社、食肉会社、冷凍食品会社、土産物卸商社など。そのほかリネン、アメニティー、旅行代理店、広告代理店、リース、コンパニオン派遣、組合など取引先は多岐に渡るとみられる。 最大の債権者である金融機関については、同ホテルの不動産登記簿に基づき権利関係を別掲しておく。 根抵当権極度額1250万円1972年設定会津商工信組根抵当権極度額2400万円1974年設定会津商工信組根抵当権極度額3600万円1976年設定会津商工信組根抵当権極度額4000万円1976年設定福島銀行根抵当権極度額3億円1979年設定商工中金根抵当権極度額2億4000万円1981年設定常陽銀行根抵当権極度額4億5000万円2011年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定商工中金根抵当権極度額3億円2018年設定商工中金  ㈱丸峰観光ホテル(1965年設立、資本金3000万円)は客室数65室の「丸峰本館」、同49室の「丸峰別館川音」、同6室の「離れ山翠」を運営する芦ノ牧温泉では最大規模の温泉観光ホテル。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子、田中博志、監査役=川井茂夫の各氏。 同ホテルでは「丸峰黒糖まんじゅう」などの菓子製造・販売も営み、ピーク時には郡山市の駅構内や駅前などで飲食店も経営していたが、業績が振るわず、2014年に関連会社の㈱丸峰庵(2006年設立、資本金300万円)に旅館経営以外の事業を移した。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子の各氏。 同ホテルの関係者によると「まんじゅうはともかく、飲食店は本業との相乗効果を生まないばかりか、ホテルで稼いだ利益を注ぎ込んだこともあったはずで、経営が傾く要因になったのは間違いない」。実際、丸峰庵は都内2カ所にも支店を構えるなど、身の丈に合わない経営が常態化していた様子がうかがえる。 同ホテルはホームページで、今後も事業を継続すること、引き続き予約を受け付けること、監督委員の指導のもと一日も早い再建を目指すことを告知している。 「再建に向け、メーンバンクの会津商工信組も尽力したが『思うようにいかない』と嘆いていた。もっとも同信組に、大規模な温泉観光ホテルを立て直すコンサル能力があるとは思えませんが」(同) 同ホテルは2019年に亡くなった先代で女将の星弘子氏が辣腕を振るっていた時代は上り調子だった。 「女将は茨城方面の営業に長け、そこを切り口に関東から多くの大型観光バスを呼び込んでいた。平日や冬季の稼働率を上げるため料金を下げ、それでいて利益を確保する商品を開発したり、歌手を呼ぶなどの企画を練ったり、常に経営のことを考えている人だった」(同) 1980~90年代にかけてはテレビCMを流したり、2時間ドラマの舞台になったり、高級車やクルーザーを所有するなど、成功者の威光を放っていた。 しかし、次第に団体客が減り、観光地間の競争が激化。そのタイミングで経営のかじ取りが星弘子氏の息子・保洋氏に代わると、以降は浮上のきっかけをつかめずにいた。 民事再生の申請後、本誌が耳にした同ホテルや星社長の評判は次のようなものだった。 ▽取引先との間で支払いの遅延が起きていた。 ▽星社長は経営合理化を進めるため、外部の管理職経験者を招き入れたが、強引な進め方が社内で反発を招き、ベテランや士気の高かった社員が相次いで退職した。 ▽その一方で、星社長は高級車レクサスに乗っていたため、ひんしゅくを買っていた。 ▽地元建設会社に改修工事を依頼するも、前回工事の未払い金が残っていることを理由に断られた。 丸峰庵をめぐっても、こんな話が聞かれた。 ▽顧客ごとの特注包装紙や新商品のパッケージングなど工夫を凝らしていたが、ロット発注になってしまうため、経費増が囁かれていた。 ▽道の駅などに通常の委託販売ではなく買い取り販売を依頼するも、在庫ロスへの懸念から断られた。 ▽賞味期限の短い商品を社員が直接納品するのではなく、宅配便で送るなど、商品管理体制が疑問視されていた。 ▽飲食店の家賃を滞納していた。 ちなみに1987年には、法人税法違反で法人としての同ホテルに罰金1600万円、当時の代表取締役である星弘子氏に懲役1年執行猶予3年の有罪判決が福島地裁で言い渡されている。 難しい自主再建 臨時休業中の丸峰庵  ある債権者によると、社員たちは民事再生の申請を外部から知らされたという。 「ウチは当日(2月28日)の昼にファクスで通知が届いた。その日はちょうど仕入れ業者への支払日で、各業者が付き合いのある社員に『支払いはどうなるんだ』と個別に問い合わせたことで社員たちに知れ渡った。社員たちが星社長から話をされたのはその後だったそうです」 債権者説明会は同ホテルが3月3日、丸峰庵が同8日に開いたが、出席者は淡々としていたという。 「仕入れ業者からは『未払い分は払ってもらえるのか』『この先の支払い方法はどうなるのか』などの質問が出ていた。会津商工信組から発言はなかったが、商工中金が今後の経営体制を尋ねると、星社長は『ある程度目処がついたら経営から退く』と答えていた」(同) しかし、それを聞いた出席者たちは首を傾げた。 「理由は二つある。一つは既に決まっていると思われたスポンサーがおらず『今後の状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する』と星社長が述べたことです。物心両面で支援してくれるところがなければ、経営者の交代はもちろん再建もままならない。もう一つは星社長には子どもがいないため、後継者の見当がつかないことです」(同) スポンサー不在については、ホテル再建に携わった経験を持つ会社社長も「正直驚いた」と話す。 「民事再生はあらかじめ綿密な計画を立て、これでいけるとなったら申請―公表するが、その際、重要になるのがスポンサーの存在です。申請すれば新たな融資を受けられないので、スポンサー探しは必須。もちろん、スポンサー不在でも再建はできるだろうが、星社長はこの間、あらゆる手立てを尽くし、それでもダメだったのだから、尚のこと緻密な自主再建策を用意する必要がある。そうでなければ今後、同ホテルが再生計画案を示しても債権者から同意を得られるかは微妙だと思います」 なぜスポンサー不在をここまで嘆くのかというと、自主再建するには本業の将来収益から再生債権を弁済しなければならないからだ。そうした中でこの社長が注目したのは、冒頭の新聞記事中にある「売上高5億円、赤字2億円」という金額だ。 「単純に売り上げが7億円以上ないと黒字にならない。じゃあ7億円以上を売り上げるため、料金を何万円と設定し、1部屋に何人入れて何日稼働させると計算していくと相当ハードルが高いことが見えてくるんです。しかも、丸峰は規模が大きいので固定資産税がかかり、人件費も光熱費もかさむ。年月が経てばリニューアルも必要。挙げ句、お客さんは少ないので、お金は出ていくばかりだと思います」(同) この社長によると温泉観光ホテルは近年、客の見込めない平日を連休にすることが増えているが、丸峰観光ホテルは不定休だったという。 「1年中オープンするのが当たり前の温泉観光ホテルにとって連休はあり得ないことだったが、いざ休んでみると経費が抑えられ、少ない社員を効率良く配置できるなど経営にメリハリが出てくる。丸峰も連休を導入しつつ、3棟ある建物のどれかを臨時休館して経営資源を集中させる必要があるのではないか」(同) 聞けば聞くほど、スポンサー不在では再建は難しく感じる。実際、会津地方のスキー場に中国系企業が参入していることを受け「丸峰も外資が関心を示すといいのだが」との声があるが、芦ノ牧温泉の事情に詳しい人物によると、外資が登場する可能性は低いという。 「芦ノ牧温泉は地元の人たちが土地を所有し、経営者は地主らでつくる芦ノ牧温泉開発事業所に地代を払い、旅館・ホテルを建てている。経営をやめる場合は建物を壊し、土地を原状回復して地主に返さなければならない。同温泉街に廃旅館・廃ホテルが多いのは、解体費を捻出できない経営者が夜逃げしたためです」 要するに、外資にとって芦ノ牧温泉は魅力的な投資先ではない、と。 実際、同ホテルの不動産登記簿を確認すると、土地は芦ノ牧地区をはじめ市内の人たちの名義になっており、そこに同ホテルが地上権を設定し、建物を建てていた。 激減する入り込み数 自主再建を目指す丸峰観光ホテル  民事再生の申請から2週間後、星社長に話を聞けないか同ホテルを訪ねたが、 「社長は連日、取引先を回っており不在です。私たち社員は何も分からないので、それ以上のことはお答えできません」(フロント社員) 申請代理人のDEPT弁護士法人にも問い合わせてみた。 「債権者がスポンサー不在を心配しているのであれば真摯に受け止めなければならないが、私共が今やるべきことは債権者に納得していただける再生計画案を示すことなので、債権者以外の第三者にあれこれ話すのは控えたい」(田尾賢太弁護士) 同ホテルは今後、再生計画案を作成し裁判所に提出。その後、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。民事再生の申請から再生計画の認可までは通常5カ月程度。 前出・債権者は「同ホテルから示される再生計画案に債権者たちが納得するかは分からないが、これまで芦ノ牧温泉を引っ張ってきたホテルなので復活してほしい」と話した。 芦ノ牧温泉はピーク時、30軒近い旅館・ホテルがあったが、現在は8軒。一方、会津若松市の公表資料によると、同温泉の入り込み数は2001年約39万4000人、コロナ禍前の19年約23万1000人、コロナ禍の21年約10万3000人。入り込み数が激減する中、今日まで営業を続けてきた丸峰観光ホテルは善戦した方なのかもしれない。 丸峰観光ホテルのホームページ あわせて読みたい 【芦ノ牧温泉】丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

  • 【芦ノ牧温泉】丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

     先月号に「丸峰観光ホテル『民事再生』を阻む諸課題」という記事を掲載したところ、それを読んだ元従業員たちが、在職中に目撃した星保洋社長の杜撰な経営を明かしてくれた。元従業員たちは「あんな社長のもとでは自主再建なんて絶対無理」と断言する。 スポンサー不在の民事再生に憤る元従業員 再建を目指す丸峰観光ホテル  会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵が福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは2月26日。負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 両社の経営状態が分かる資料は少ないが、東京商工リサーチ発行『東商信用録福島県版』に別表の決算が載っていた。もっとも、その数値もコロナ禍前のものだから、現在は更に厳しい売り上げ・損益になっているのは間違いない。 丸峰観光ホテルの業績売上高利益2012年15億4700万円1億1000万円2013年14億3100万円14万円2014年14億9400万円190万円2015年8億8500万円980万円2016年9億7300万円5200万円 丸峰庵の業績売上高利益2013年4億0800万円16万円2014年5億0700万円▲1800万円※決算期は両社とも3月。▲は赤字。  両社の社長を務める星保洋氏は、3月に開いた債権者説明会で自主再建を目指す方針を明らかにした。債権者が注目していたスポンサーについては「今後の状況によっては(スポンサーから)支援を受けることも検討する」と説明。スポンサー不在で再建を進めようとする星社長のやり方に、多くの債権者が首を傾げていた。 先代社長で女将の星弘子氏(保洋氏の母、故人)にかつて世話になったという元従業員はこう話す。 「丸峰観光ホテルは最盛期、土日のみで年13億円を売り上げていた。あの施設規模だと損益分岐点は10億円。しかし、稼働率は震災・原発事故や新型コロナもあり低調で、現在は少しずつ回復しているとしても2022年3月期決算は売上高5億円台、最終赤字2億円超というから、スポンサー不在で再建できるとは思えない。それでも自主再建を目指すというなら、トップが代わらないと無理でしょう」 このように、社長交代の必要性を指摘する元従業員だが、 「ただ、私は丸峰を辞めてからだいぶ経つので、現社長の経営手腕はウワサで聞くことはあっても、実際に見たわけではない」(同) ならば、会社が傾いていく経過を間近で見ていた元従業員は、星社長の経営手腕をどう評価するのか。 ここからは、先月号の記事を読んで「ぜひ星社長の真の姿を知ってほしい。そして、この人のもとでは自主再建は絶対無理ということを分かってほしい」と情報を寄せてくれたAさんとBさんの証言を紹介する。ちなみに、ふたりの性別、在職時の勤務先、退職日等々を書いてしまうと、誰が話しているのか特定される恐れがあるため、ここでは触れないことをご了承いただきたい。 まず驚かされたのが星社長の金銭感覚だ。少ない月で20~30万円、多い月には100万円以上の個人的支出を「これ、処理しておいて」と経理に回していたという。 一体何に浪費していたのか、その一部は後述するが、 「要するに、会社の財布を自分の財布のように使っていた」(Aさん) そのくせ、取引先への支払いは後回しにすることが多く、口うるさい取引先には10日遅れ、物分かりがいい取引先には1、2カ月遅れで支払うこともザラだった。 「そういうことをしておいて、自分はレクサスを乗り回し、飲み屋に出入りしていた。取引先はそんな星社長の姿を見て『贅沢する余裕があるならオレたちに払えよ!』といつも怒っていた」(Bさん) ふたりによると、星社長は滞っている支払いをめぐり、どこを優先するかを決める会議まで開いていたというから呆れるしかない。 「こういう無駄な会議が、本来やるべき業務の妨げになっていることを星社長は分かっていない」(同) 従業員に対しても、会社のために立て替え払いをしても数百円、1000円の精算にさえ応じないケチっぷりだった。 AさんとBさんが口を揃えて言うのは「本業に注力していれば傾くことはなかった」ということだ。本業とは、言うまでもなく丸峰観光ホテルを指す。ならば経営悪化の要因は丸峰庵が手掛ける「丸峰黒糖まんじゅう」にあったということか。 「黒糖まんじゅうは、利益は薄かったかもしれないが現金収入として会社に入っていたし、お土産として需要があったという点では本業とリンクしていたと思う」(Aさん) 問題は、丸峰庵が行っていた飲食店経営にあった。 前出・かつての従業員によると、そもそも飲食店経営に乗り出したのは星弘子氏が健在のころ、保洋氏の妻が姑との関係に悩み、夫婦で一時期、会津若松市から郡山市に引っ越したことがきっかけという。保洋氏からすると、妻のことを思って弘子氏と距離を置く一方、ホテル経営で実績を上げる母を見返すため、別事業で成果を出したい思惑もあったのかもしれない。 報道等によると、飲食店経営は2006年ごろから参入し、もともとは「丸峰観光ホテルの外食事業」としてスタート。しかし、2014年にホテル経営に注力するため、まんじゅう製造・販売事業と併せて丸峰庵に移管した。 現在、丸峰庵が経営しているのはJR郡山駅のエキナカに並んでいる蕎麦店と中華料理店、同駅前に立地するダイワロイネットホテルの飲食テナント(1階)に入っている、エキナカよりグレードの高い蕎麦店。 「それ以外に郡山駅西口の陣屋では居酒屋とバーを経営している。大町にもかつて居酒屋を出したことがある」(Aさん) そのほか東京都内にも飲食店を構えたことがあったが「3年程前に撤退し、今は都内にはない」(同)。 店を出すのが「趣味」 丸峰庵  これらの飲食店が繁盛し、グループ全体の売り上げを押し上げていればよかったが、現実は本業の足を引っ張るお荷物になっていたという。 「駅前は人が来ないのに家賃が高い。そんな場所に、会社にとって中心的な店を三つも出している時点で厳しい。都内から撤退したのは正解でしたが」(同) そんな甘い出店戦略もさることながら、従業員の目には星社長の経営感覚も違和感だらけに映った。 「ちゃんとリサーチして出店しているのかな、と思うことばかりだった。例えば、大町の立地条件が悪い場所に『知り合いから紹介された』と中華料理店を出したが、案の定、客が入らず閉店した。すると、今度は同じ場所でしゃぶしゃぶ店をやると言い出し、店内を改装してオープンしたが、こちらも数カ月で閉店してしまった」(Bさん) さらに問題なのは、▽閉店後に完全撤退するのではなく「また店を出すかもしれない」と無駄な家賃を支払い続けた、▽出店に当たり他店から料理人等を引き抜いてきたのに、すぐに閉店させたことで行き場を失わせた、▽店が営業中、経営が厳しいと理解しているのに対策を練らない――等々、先を見据えている様子が一切見られないことだった。 「要するに、星社長にとっては店を出すことが目的なので、オープンしたら途端に興味を失うのです。もし店を出すことが手段なら、客を増やすにはどうしたらいいか真剣に考えるはず。しかし、星社長は『今月は〇〇円の赤字です』と報告を受けても全く焦らないし悩まない」(同) 星社長にとっては、店を出すことが「趣味」なのかもしれない。そうなると、飲食店事業で儲けようという考えは出てこないだろう。 「出店に当たっては、厨房機器等をネット通販で勝手に買い、会社に払わせていた。普通はリースやまとめ買いで揃えると思うが、与信が通らないから個人で揃えるしかなかったのでしょう」(同) 前述・会社に支払わせていた個人的支出の一部は、ネット通販で購入した厨房機器等とみられる。 AさんとBさんは「もし飲食店経営をするなら計画的に出店し、店舗数を絞ればグループ全体に寄与したのではないか」とも話す。ところが現状は、星社長による無計画な出店が足を引っ張り、従業員の間に軋轢を起こしていたと指摘する。 「ホテルやまんじゅう製造・販売に関わる従業員は『儲からない飲食店のおかげでオレたちが稼いだ利益が食われている』と不満に思っていた。飲食店経営に関わる従業員はそれをよく理解していたが、出店が趣味の星社長は意に介さないし、忠告する幹部社員もいない」(Bさん) 「かつては苦言を呈する幹部社員もいたが、星社長が聞く耳を持たないため嫌気を差して辞めていった。今いる幹部社員は星社長のイエスマンばかり」(Aさん) 星弘子氏が健在のころは強いブレーキ役を果たしていたが、2019年に弘子氏が亡くなったのを境にタガが外れ、本業から飲食店経営への資金流出が起こっていた可能性も考えられる。 こうした状況を招いた経営者が民事再生法の適用を申請し、スポンサー不在のまま自主再建を目指すと言い出したから、AさんとBさんは既に退職した立場だが「債権者に失礼だし、従業員も気の毒」として、星社長の真の姿を伝えるべきと決心したという。ふたりとも「そういう経営者のもとで自主再建を目指そうなんてとんでもない」と憤りが収まらなかったわけ。 AさんとBさんは、最後にこのように語った。 「SNSで『大好きなホテルなので残念』『再建できるよう応援しています』とのコメントを見かけたが、それは従業員がお客さんに真摯な接客をしたから言われているのであって、星社長を応援しているわけではないことを理解してほしい。私たちは、スポンサーがつくなどして新しい経営者のもとで再建を目指すなら応援するが、星社長が主導する再建は賛成できない」 難しい自主再建 渓谷美の宿 川音(HPより)  丸峰観光ホテルは現在も予約を受け付けるなど、傍目には平時と変わらない営業を続けているという。しかし、三つある施設のうち「渓谷美の宿 川音」は古代檜の湯が工事中で男女ともに営業停止。「レストランあいづ五桜」も設備メンテナンスのため休業している。どちらも再開日は未定だ。 このほか二つの施設「丸峰本館」「離れ山翠」のうち、本館も休館中との話もあり、営業しているのは離れ山翠だけとみられる。客が入らないのに巨大な施設を稼働させても経費の無駄なので、経営資源を集中させるという意味では正解と言える。 ただ、本誌には4月中旬に起きた出来事として「その日は給料日だったが振り込まれず、従業員がホテルに詰めかける騒動があった」「給料は支払われたが、3月は手渡し、4月は振り込みだったらしい」との話も寄せられており、これが事実なら星社長は当面の資金繰りに窮していることが考えられる。 今後注目されるのは、これから債権者に示されることになる再生計画の中身だ。以下は『民事再生申立ての実務』(東京弁護士会倒産法部編、ぎょうせい発行)に基づいて書き進める。 民事再生申し立てに当たり、再生債務者(丸峰観光ホテルと丸峰庵)は裁判所や監督委員から、申し立て前1年間の資金繰り実績表と、申し立て後半年間の資金繰り予定表の提出を求められる。資金繰りができなければ再生計画の策定・認可を待つことなく事業停止に追い込まれるため、再生債務者にとって資金繰り対策は極めて重要になる。 再生債務者は「申し立てによる相殺」や「申し立て前の差し押さえ」といった難を逃れて確保できた資金をもとに資金計画を立てる。ここで重要なのは、入金・出金の確度を高めることができるかどうかだ。関係者に協力を仰ぎ、既発生の売掛金・未収金・貸付金などの回収を進め、将来発生する売掛金の入金見込みを立てると同時に、支払い条件を一定のルールに基づき決定し、支出の見込みも立てる。併せて棚卸や無担保資産の早期処分を適宜行う。 問題は、星社長がこのような資金繰りのメドをつけられるかどうかだが、前述した個人的支出、取引先への支払い遅延、給料遅配、さらに飲食店事業をめぐっては家賃滞納のウワサも囁かれる中、取引先・債権者から資金繰りの理解と協力が得られるかは疑問だ。 メーンバンクの会津商工信組も、民事再生申し立て前に「思うように再建が進まない」と嘆いていたというし、前出・AさんとBさんも「星社長は他人の意見を聞かない」というから、自主再建が見込める資金計画が立てられるとは考えにくい。 だからこそ、スポンサーの存在が重要になるのだ。スポンサーがつけば信用が補完され、再生債務者の事業価値の毀損(信用不安・資金不足による取引先との取引中止、従業員の退職、顧客離れなど)が最小限に抑えられる。スポンサーによる確実な事業再生が見込まれ、申し立ての前後からスポンサーの人的・資金的協力も得られる。 スポンサー不在の違和感  全国を見渡しても、鳥取県・皆生温泉の老舗旅館「白扇」は負債16億円を抱えて4月7日に民事再生法の適用を申請したが、同日付で地元の食肉加工会社がスポンサーにつくことが発表された。昨年3月に負債11億円で同法適用を申請した山梨県・湯村温泉の「湯村ホテル」も、スポンサー候補を探すプレパッケージ型民事再生に取り組み、半年後に事業譲渡した。2021年8月に同法適用を申請した北海道・丸駒温泉の「丸駒温泉旅館」は、全国で地域ファンドを運用する企業がスポンサーとなって再建が図られた。負債は8億3000万円だった。 ここに挙げた事例より負債額が格段に多い丸峰観光ホテル・丸峰庵がスポンサー不在というのは、やはり違和感がある。今後は3月の債権者説明会で言及がなかったスポンサーを見つけることが、今夏にも債権者に示されるであろう再生計画案の成否を握るのではないか。 ちなみに再生計画案を実行に移せるかどうかは、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。 本誌は民事再生の申請代理人を務めるDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士を通じて、星社長に取材を申し込んだ。具体的に15の質問項目を示して回答を待ったが、両者からは期限までに何の返事もなかった。 この稿の主人公は丸峰観光ホテルだったが、星社長のような経営者は他にもいるはずで、そこにコロナ禍が重なり、青息吐息のホテル・旅館は少なくないと思われる。杜撰な経営を改めなければ早晩、手痛いしっぺ返しに遭うことを経営者は肝に銘じるべきだ。 最後に余談になるが、4月中旬、本誌編集部に会津商工信組と取り引きがあるとする匿名事業者から「今回の民事再生で信組の損失がどれくらいになるか心配」「役員が責任を取って辞める話が出ている」「これを機に新体制のもとで以前のような活気ある組織に戻ってほしい」などと綴られた投書が届いた。組合員は丸峰観光ホテル・丸峰庵の再生の行方と同時に、メーンバンクの同信組が今後どうなるのかについても強い関心を向けている。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

  • 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】

     会津若松市・芦ノ牧温泉の丸峰観光ホテルと関連会社の丸峰庵は2月28日、福島地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請した。債権者説明会では営業体制を見直し、自主再建を目指す方針が示されたが、取引先や同業者は「スポンサーからの支援を受けずに再建できるのか」と先行きを懸念する。 スポンサー不在を懸念する債権者  民間信用調査機関によると負債総額は2022年3月期末時点で、丸峰観光ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円。 《1994(平成6)年3月期にはバブル景気が追い風となり、売上高25億円とピークを迎えた。1995年3月期以降は景気後退で利用者数が減少。債務超過額も拡大していた》《2020(令和2)年に入ると新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた。2022年3月期は売上高が5億円台まで後退し、2億円超の最終赤字を計上した。その後も業況は好転せず、資金繰りが限界に達した。丸峰庵はホテルに連鎖する形で民事再生法の適用を申請した》(福島民報3月1日付より) 申請代理人はDEPT弁護士法人(大阪市)の秦周平弁護士ほか2名が務めている。 債権者の顔ぶれや各自の債権額は判明していないが、主な仕入れ先は地元の水産卸売会社、食肉会社、冷凍食品会社、土産物卸商社など。そのほかリネン、アメニティー、旅行代理店、広告代理店、リース、コンパニオン派遣、組合など取引先は多岐に渡るとみられる。 最大の債権者である金融機関については、同ホテルの不動産登記簿に基づき権利関係を別掲しておく。 根抵当権極度額1250万円1972年設定会津商工信組根抵当権極度額2400万円1974年設定会津商工信組根抵当権極度額3600万円1976年設定会津商工信組根抵当権極度額4000万円1976年設定福島銀行根抵当権極度額3億円1979年設定商工中金根抵当権極度額2億4000万円1981年設定常陽銀行根抵当権極度額4億5000万円2011年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定会津商工信組抵当権債権額7500万円2018年設定商工中金根抵当権極度額3億円2018年設定商工中金  ㈱丸峰観光ホテル(1965年設立、資本金3000万円)は客室数65室の「丸峰本館」、同49室の「丸峰別館川音」、同6室の「離れ山翠」を運営する芦ノ牧温泉では最大規模の温泉観光ホテル。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子、田中博志、監査役=川井茂夫の各氏。 同ホテルでは「丸峰黒糖まんじゅう」などの菓子製造・販売も営み、ピーク時には郡山市の駅構内や駅前などで飲食店も経営していたが、業績が振るわず、2014年に関連会社の㈱丸峰庵(2006年設立、資本金300万円)に旅館経営以外の事業を移した。役員は代表取締役=星保洋、取締役=星啓子の各氏。 同ホテルの関係者によると「まんじゅうはともかく、飲食店は本業との相乗効果を生まないばかりか、ホテルで稼いだ利益を注ぎ込んだこともあったはずで、経営が傾く要因になったのは間違いない」。実際、丸峰庵は都内2カ所にも支店を構えるなど、身の丈に合わない経営が常態化していた様子がうかがえる。 同ホテルはホームページで、今後も事業を継続すること、引き続き予約を受け付けること、監督委員の指導のもと一日も早い再建を目指すことを告知している。 「再建に向け、メーンバンクの会津商工信組も尽力したが『思うようにいかない』と嘆いていた。もっとも同信組に、大規模な温泉観光ホテルを立て直すコンサル能力があるとは思えませんが」(同) 同ホテルは2019年に亡くなった先代で女将の星弘子氏が辣腕を振るっていた時代は上り調子だった。 「女将は茨城方面の営業に長け、そこを切り口に関東から多くの大型観光バスを呼び込んでいた。平日や冬季の稼働率を上げるため料金を下げ、それでいて利益を確保する商品を開発したり、歌手を呼ぶなどの企画を練ったり、常に経営のことを考えている人だった」(同) 1980~90年代にかけてはテレビCMを流したり、2時間ドラマの舞台になったり、高級車やクルーザーを所有するなど、成功者の威光を放っていた。 しかし、次第に団体客が減り、観光地間の競争が激化。そのタイミングで経営のかじ取りが星弘子氏の息子・保洋氏に代わると、以降は浮上のきっかけをつかめずにいた。 民事再生の申請後、本誌が耳にした同ホテルや星社長の評判は次のようなものだった。 ▽取引先との間で支払いの遅延が起きていた。 ▽星社長は経営合理化を進めるため、外部の管理職経験者を招き入れたが、強引な進め方が社内で反発を招き、ベテランや士気の高かった社員が相次いで退職した。 ▽その一方で、星社長は高級車レクサスに乗っていたため、ひんしゅくを買っていた。 ▽地元建設会社に改修工事を依頼するも、前回工事の未払い金が残っていることを理由に断られた。 丸峰庵をめぐっても、こんな話が聞かれた。 ▽顧客ごとの特注包装紙や新商品のパッケージングなど工夫を凝らしていたが、ロット発注になってしまうため、経費増が囁かれていた。 ▽道の駅などに通常の委託販売ではなく買い取り販売を依頼するも、在庫ロスへの懸念から断られた。 ▽賞味期限の短い商品を社員が直接納品するのではなく、宅配便で送るなど、商品管理体制が疑問視されていた。 ▽飲食店の家賃を滞納していた。 ちなみに1987年には、法人税法違反で法人としての同ホテルに罰金1600万円、当時の代表取締役である星弘子氏に懲役1年執行猶予3年の有罪判決が福島地裁で言い渡されている。 難しい自主再建 臨時休業中の丸峰庵  ある債権者によると、社員たちは民事再生の申請を外部から知らされたという。 「ウチは当日(2月28日)の昼にファクスで通知が届いた。その日はちょうど仕入れ業者への支払日で、各業者が付き合いのある社員に『支払いはどうなるんだ』と個別に問い合わせたことで社員たちに知れ渡った。社員たちが星社長から話をされたのはその後だったそうです」 債権者説明会は同ホテルが3月3日、丸峰庵が同8日に開いたが、出席者は淡々としていたという。 「仕入れ業者からは『未払い分は払ってもらえるのか』『この先の支払い方法はどうなるのか』などの質問が出ていた。会津商工信組から発言はなかったが、商工中金が今後の経営体制を尋ねると、星社長は『ある程度目処がついたら経営から退く』と答えていた」(同) しかし、それを聞いた出席者たちは首を傾げた。 「理由は二つある。一つは既に決まっていると思われたスポンサーがおらず『今後の状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する』と星社長が述べたことです。物心両面で支援してくれるところがなければ、経営者の交代はもちろん再建もままならない。もう一つは星社長には子どもがいないため、後継者の見当がつかないことです」(同) スポンサー不在については、ホテル再建に携わった経験を持つ会社社長も「正直驚いた」と話す。 「民事再生はあらかじめ綿密な計画を立て、これでいけるとなったら申請―公表するが、その際、重要になるのがスポンサーの存在です。申請すれば新たな融資を受けられないので、スポンサー探しは必須。もちろん、スポンサー不在でも再建はできるだろうが、星社長はこの間、あらゆる手立てを尽くし、それでもダメだったのだから、尚のこと緻密な自主再建策を用意する必要がある。そうでなければ今後、同ホテルが再生計画案を示しても債権者から同意を得られるかは微妙だと思います」 なぜスポンサー不在をここまで嘆くのかというと、自主再建するには本業の将来収益から再生債権を弁済しなければならないからだ。そうした中でこの社長が注目したのは、冒頭の新聞記事中にある「売上高5億円、赤字2億円」という金額だ。 「単純に売り上げが7億円以上ないと黒字にならない。じゃあ7億円以上を売り上げるため、料金を何万円と設定し、1部屋に何人入れて何日稼働させると計算していくと相当ハードルが高いことが見えてくるんです。しかも、丸峰は規模が大きいので固定資産税がかかり、人件費も光熱費もかさむ。年月が経てばリニューアルも必要。挙げ句、お客さんは少ないので、お金は出ていくばかりだと思います」(同) この社長によると温泉観光ホテルは近年、客の見込めない平日を連休にすることが増えているが、丸峰観光ホテルは不定休だったという。 「1年中オープンするのが当たり前の温泉観光ホテルにとって連休はあり得ないことだったが、いざ休んでみると経費が抑えられ、少ない社員を効率良く配置できるなど経営にメリハリが出てくる。丸峰も連休を導入しつつ、3棟ある建物のどれかを臨時休館して経営資源を集中させる必要があるのではないか」(同) 聞けば聞くほど、スポンサー不在では再建は難しく感じる。実際、会津地方のスキー場に中国系企業が参入していることを受け「丸峰も外資が関心を示すといいのだが」との声があるが、芦ノ牧温泉の事情に詳しい人物によると、外資が登場する可能性は低いという。 「芦ノ牧温泉は地元の人たちが土地を所有し、経営者は地主らでつくる芦ノ牧温泉開発事業所に地代を払い、旅館・ホテルを建てている。経営をやめる場合は建物を壊し、土地を原状回復して地主に返さなければならない。同温泉街に廃旅館・廃ホテルが多いのは、解体費を捻出できない経営者が夜逃げしたためです」 要するに、外資にとって芦ノ牧温泉は魅力的な投資先ではない、と。 実際、同ホテルの不動産登記簿を確認すると、土地は芦ノ牧地区をはじめ市内の人たちの名義になっており、そこに同ホテルが地上権を設定し、建物を建てていた。 激減する入り込み数 自主再建を目指す丸峰観光ホテル  民事再生の申請から2週間後、星社長に話を聞けないか同ホテルを訪ねたが、 「社長は連日、取引先を回っており不在です。私たち社員は何も分からないので、それ以上のことはお答えできません」(フロント社員) 申請代理人のDEPT弁護士法人にも問い合わせてみた。 「債権者がスポンサー不在を心配しているのであれば真摯に受け止めなければならないが、私共が今やるべきことは債権者に納得していただける再生計画案を示すことなので、債権者以外の第三者にあれこれ話すのは控えたい」(田尾賢太弁護士) 同ホテルは今後、再生計画案を作成し裁判所に提出。その後、債権者集会に同案を諮り①議決権者の過半数の同意(頭数要件)、②議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意(議決権数要件)を満たす必要がある。民事再生の申請から再生計画の認可までは通常5カ月程度。 前出・債権者は「同ホテルから示される再生計画案に債権者たちが納得するかは分からないが、これまで芦ノ牧温泉を引っ張ってきたホテルなので復活してほしい」と話した。 芦ノ牧温泉はピーク時、30軒近い旅館・ホテルがあったが、現在は8軒。一方、会津若松市の公表資料によると、同温泉の入り込み数は2001年約39万4000人、コロナ禍前の19年約23万1000人、コロナ禍の21年約10万3000人。入り込み数が激減する中、今日まで営業を続けてきた丸峰観光ホテルは善戦した方なのかもしれない。 丸峰観光ホテルのホームページ あわせて読みたい 【芦ノ牧温泉】丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚