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  • 【二本松市】野焼きで「炎上」した本多俊昭市議

    野焼きで「炎上」した【本多俊昭】市議【二本松市】

     二本松市の本多俊昭市議(63、4期)が所有地に廃棄物を運び込んで一部を焼却処分したとして、市の担当課から注意されていたことが分かった。本多市議は反省の意を示しているが、近隣住民はこの間の言動も含めてその対応に不信感を募らせており、議員辞職を求めている。 議員辞職を宣言もあっさり「撤回」  本多市議は福島農蚕高卒。同市南部の舘野原(杉田地区)在住で、農業に従事している。2022年6月の二本松市議選(定数22)では1470票を獲得して4位当選。令和創生の会に所属し、執行部(三保市政)を厳しく監視・追及するスタンスを貫いているが、ここ2年は1年に1回代表質問で登壇するだけで、一般質問はしていない。 そんな本多市議について、「所有地に廃棄物を不法投棄し、野焼きしていたとして近隣住民とトラブルになっている」とウワサが流れている。 真相を確認するため、市内で聞き込みをしたところ、本多市議とトラブルになっている近隣住民Aさんにたどり着いた。 Aさんはこのように明かす。 「同市箕輪の人通りのない場所に、本田市議が所有する農地がある。昨年6月ごろ、その場所に選挙で使った腕章や布団などを捨て始めた。隣接する私の土地にも侵入していたため、撤去を求めたのですが、少し場所をずらしただけで、その後も放置されたままになっていました」 しばらくすると、近くにあるAさんの自宅にスズメバチが飛んで来るようになった。「廃棄物に巣を作られてはたまらない」とAさんは3度にわたり市に「本多市議に撤去させてほしい」と相談。市が指導に入り、1カ月ほど経ったころ、その場でそれらの一部を燃やし始めたという。 布団などが仮置きされた本多市議の所有地 焼却している様子  「近隣に住む私に何の連絡もなく焼却し始めたので驚きました。幸い周辺の木には延焼しませんでしたが、危ない行為でした」(Aさん) 廃棄物処理法第5条では「土地又は建物の占有者は、その占有し、又は管理する土地又は建物の清潔を保つように努めなければならない」と定められており、行政機関では「廃棄物の一時保管」と称して廃棄物を放置したままにしないように呼びかけている。 また、同法第16条の2では、悪臭やダイオキシン類の発生原因となることから、災害ゴミの処分やどんど焼きなどの例外を除いて野外焼却を禁止している。市が配布しているチラシでも「地面の上で直接ゴミを燃やすこと」について「次のような焼却行為は法律に違反しますので罰せられることがあります」と注意を呼び掛けている。 本多市議は公職に就いているにもかかわらず、こうした違反行為を平然と行っていたわけ。なお、焼却されたのは一部で、残りは本多市議の別の所有地に移動されたという。 Aさんによると、本多市議は当初、誤りを認め、深く反省しているとして、市議会3月定例会終了後に議員辞職する考えを明かしていた。Aさんはトラブル防止のため、会話の様子を「秘密録音」し、記録に残していることを明かす。 「ところが、3月定例会終了後に電話すると『弁護士に相談したら不法投棄に当たらないし、議員を辞職する必要はないと言われたので、議員活動を続ける』と、あっさり前言撤回したから呆れました。こういう人物の言うことは信用できないし、議員にはふさわしくないと思いますよ」(Aさん) 本多市議を直撃  本多市議は近隣住民のこうした声をどのように受け止めているのか。舘野原の自宅を訪ねたところ、本人が取材に応じた。 ――自分の所有地に廃棄物を捨て、その場で燃やしていたと聞いた。 「廃棄物ではなく、自宅の片付けで出た不要物をごみに出す前に〝仮置き〟していた。ただ、一部を所有地で燃やしたのは事実だ」 ――廃棄物処理法で野焼きが禁止されていることを知らなかったのか。 「ちょっとした判断ミスで、深く認識せずにやった。反省して、弁護士の先生に相談したところ、『そこまでのアレじゃないし、深く考えない方がいい』とアドバイスされた。県の人権擁護委員会の先生、法徳寺の住職にも相談したが、『議員を辞めるまでには至らない』との意見をもらったので、議員活動を続けることにした」 ――いま思うことは。 「議員という立場上、その行動がいろいろな人に見られていることをあらためて自覚したうえで、引き続き議員活動に取り組んでいく」 同市生活環境課によると、Aさんからの連絡を受けて後日、同課職員が現地を確認し、本多市議に厳重注意を行ったという。そもそもごみに出す予定で〝野ざらし〟で農地に置いておいた不要物を「仮置きしていた」という言い分は苦しい。 現地は細い農道を通ってしか入れない場所にあり、ほとんど人通りがない。そんな土地で、公職に就く人が近隣住民に声もかけず自宅の不要物を焼却するのは、客観的に見ても異様に映る。「人の目がないところで何か不都合なものを処分しようとしているのではないか」、「所有地をごみ捨て場代わりに使っていたのではないか」と疑われても仕方ないだろう。 複数の関係者によると、狭い地域の話がウワサとなって市内に広まった背景には▽地縁団体などに推されない形で当選した本多市議と一部の地元住民との確執、▽議会で三保市政の批判を続けており、三保市長の支持者から敵視されている――といった事情も影響しているという。 本多市議とAさんは、土地境界線をめぐって以前からもめているようで、今回のトラブル発生後、逆にAさんが誤って本多市議の所有地の木を無断伐採していたことも発覚したという。そうした経緯もあってか、互いに感情的になっているように見える。 Aさんは廃棄物の撤去を求め、同市生活環境課と二本松署に連絡したが、動きは鈍く、現場を確認した様子は見られなかったという(※)。早い段階で行政機関が対応しなかったことが、結果的に事態を悪化させたとも考えられる。 本多市議は「近所付き合いもあるし、大ごとになればこちらも主張しなければならないことが出てくる。記事にはしてほしくない」と言うが、Aさんは逆に「この事実を多くの人に知ってほしい」と話している。議員として地元住民と良好な関係を築いていくことが求められるが、関係修復は容易でなさそうだ。 ※市生活環境課は「Aさんから通報を受けたので後日当事者(本多市議)に電話して注意した。所有地における廃棄物の捉え方については、グレーな面がある」、二本松署は「個別の案件についてはお答えできない」と回答している。

  • 【二本松市】坂で止まる城報館レンタル電動キックボード

    【二本松市】坂で止まる城報館レンタル電動キックボード

     二本松市観光連盟(会長・三保恵一市長)が観光客向けにレンタルしている電動キックボードについて、「馬力不足で坂をのぼれない」と指摘する利用者の動画がツイッターで拡散され、話題を集めた。悪い意味で注目を集めた格好だが、同連盟では事前に走行試験などを行わなかったのだろうか。 試乗動画拡散で全国の笑いものに にほんまつ城報館  電動キックボードのレンタルは3月31日から、市の歴史観光施設「にほんまつ城報館(以下、城報館と表記)」で行っている。観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう狙いがある。市によると県内初の取り組みだという。電動アシスト付き自転車も併せてレンタルしている。 立ったまま乗れるボードタイプ、自転車のような形状のバイクタイプがある。最高速度は時速30㌔で、利用する際は原動機付き自転車か普通自動車の運転免許が必要。料金は90分1000円。それ以降は30分ごとに500円加算される。 レンタル開始時はテレビや新聞などで大々的に報じられ、地元テレビ局のユーチューブチャンネルには、女性アナウンサーが電動キックボードで坂道をすいすいのぼっていく動画が投稿された。 ところが、7月2日、レンタル利用者によるこんな文章が動画付きでツイッターに投稿された。 《二本松市の電動キックボード貸出事業。全くの企画倒れ。トルク不足でスタート地点の霞ヶ城の三ノ丸から本丸天守台までの坂をのぼれません。また本町商店街へ至る竹田坂や久保丁坂といった切り通し坂も途中で止まってしまいました。市はロードテストも行わず全く無駄なことをしましたね》 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833  城報館から霞ヶ城の天守台や街なかの商店街に向かおうとしたが、馬力不足のため途中の坂道で止まってしまい、身動きが取れなくなった、と指摘しているわけ。 投稿者の佐藤守さん(43)は郡山市在住で大型自動二輪免許を保有し、バイクで通勤する〝バイク乗り〟。都内で見かけることが増えた電動キックボードに注目していたところ、地元テレビ局の紹介動画で城報館のレンタル事業を知り、走行性能の確認に訪れた。注目していたのは航続可能距離だが、実際に走行して馬力の低さに愕然としたという。 ちなみに、レンタルされている電動キックボードは「BLAZE EV SCOOTER」という商品名で、定格出力は0・35㌔㍗。原付一種(0・6㌔㍗)の6割の馬力しかないと考えるとイメージしやすいかもしれない。 佐藤さんの投稿は、73万回表示され、4725の「いいね」が付いた。それだけ関心を持つ人が多かったということだろう。佐藤さんは「行政が貸し出しているキックボードが坂をのぼれない動画は過去になかったので反響をいただいたのかもしれません」と分析したうえで、実際に走行した感想をこのように語る。 「とにかく馬力不足で、公道を安全に走る能力が圧倒的に不足していると感じました。自動車など公道を走行する他の乗り物への影響は考えていたのか、事前のテスト走行は行わなかったのか。安全面においては▽目や耳が保護できない半帽ヘルメットを貸し出していたこと、▽転倒したときの負傷防止用グローブが貸し出されなかったこと、▽サイドスタンドを出した状態でも発進してしまうこと、▽自賠責保険証が携行されておらず、交通事故時の対応に不安が残ること、▽城報館駐車場で行う走行練習は接触リスクがあること――などが気になりました」 佐藤さんの投稿の数日後、本誌記者も電動キックボードをレンタルし、実際に坂道で失速することを確認した(巻頭グラビア参照)。 利用者から上がる辛辣な意見を市観光連盟はどのように受け止めるのか。同連盟の事務局を担う同市観光課に尋ねたところ、河原隆課長は「取材の申し込みをいただき、職員に聞いてツイッターにそうした投稿があったことを知りました」と語り、次のように説明した。 「『導入前に試験は行わなかったのか』と疑問視する投稿がありましたが、バイク乗りを含む市観光課職員10人弱で、安全性や航続可能距離を確かめる走行試験を事前に行っています。その際、女性職員は坂道でもすいすいのぼっていましたが、男性職員はスピードが遅くなり、利用者の体重によって大きな差が生じました。(佐藤守さんの)ツイートの指摘を見て、体重によってスピードに差が出るという説明が不足していたと感じたので、貸し出し時に渡す文書やホームページなどに注意書きを追加しました」 体重によって坂道でスピードが出なくなることを把握していたのに、周知していなかった、と。 河原課長によると、レンタル事業は職員からの提案で始まったもので、2022(令和4)年度当初予算で電動アシスト付き自転車6台、電動キックボード(ボードタイプ・バイクタイプ)計6台、ヘルメットなどの備品を購入した。総事業費は約300万円。車両は複数の候補から予算や走行性能の条件を満たすものを選定したという。 一方で、安全面に関する指摘については「利用前に安全事項や保険に関する説明を行っているし、法律を満たす最低限の基準の装備はそろえています。それ以上の装備を求める場合は、ヘルメットやグローブなどの持ち込みをしていただいても構いません」(河原課長)と説明する。 ただ、観光客がそうした装備をわざわざ持参することは考えにくい。「観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう」という目的とも矛盾している。 6月の利用者は6人 城報館でレンタルしている電動キックボード  電動キックボードに関しては、7月1日に改正道路交通法が施行されたことで、最高速度20㌔の車両の運転は免許不要となり、ヘルメットも努力義務となった。ただ、警察庁によると2022年に41件の人身事故が発生しており、7月には大学生が飲酒運転でタクシーに追突するなど、危険性が報じられている。タイヤの直径が小さい分、段差での衝撃が大きく、バランスを崩して事故につながりやすいという面もある。 佐藤さんの指摘を参考に、より安全に走行できる装備を貸し出すべきではないか。 肝心のレンタル電動キックボードの利用者数(ボードタイプ・バイクタイプの合計)を尋ねたところ、4月20人、5月9人と低迷しており、6月に至ってはわずか6人だった。 河原課長はPR不足と城報館来場者の需要とのミスマッチを要因に挙げる。駅から離れた城報館にわざわざ公共交通機関で向かう観光客は少ないし、あえて城報館まで車で移動し、電動キックボードに乗り換えて市内を巡る人もいないということだ。県内初の取り組みということもあり、甘い見通しのまま〝見切り発車〟してしまった感は否めない。 昨年4月にオープンした城報館の年間入館者数は9万6796人で、目標としていた年間10万人を下回った。目標達成に向けて起爆剤が欲しいところだが、電動キックボードがそうなるとは考えにくい。 前出・佐藤さんはこう語る。 「(馬力不足の電動キックボードを買ってしまった以上)利用しなければどうしようもない。せめて地図で推奨ルートを示し、『この坂は体重〇㌔以上の方はのぼれません』など注意書きを表示しておけば、利用者も心構えができるのではないか」 もっと言えば、城報館を起点に「電動キックボードで巡る観光ツアー」を催せば興味を持つ人が現れるかもしれない。 このままでは、約300万円の事業費をドブに捨てることになる。佐藤さんの指摘を真摯に受け止め、改善策を打ち出すべきだ。 あわせて読みたい 【本誌記者が検証】二本松市の「ガッカリ」電動キックボード貸出事業  

  • 【本誌記者が検証】二本松市の「ガッカリ」電動キックボード貸出事業

    【本誌記者が検証】二本松市の「ガッカリ」電動キックボード貸出事業

     二本松市観光連盟は3月31日から、観光客向けに市の歴史観光施設「にほんまつ城報館」で電動キックボード・電動バイクの貸し出しを行っている。 二本松市の地図データ(国土地理院、『政経東北』が作成)  ところが、7月上旬、その電動キックボードの馬力不足を指摘する体験リポート動画がツイッターで拡散。同施設でレンタルされている車両が、坂道をまともにのぼれない実態が広く知られることとなった。 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833  動画を見ているうちに、実際にどんな乗り心地なのか体感してみたくなり、投稿があった数日後、同施設を訪れて電動キックボードをレンタルしてみた(90分1000円)。 安全事項や機器の説明、基本的な操作に関する簡単なレクチャーを受けた後、練習に同施設の駐車場を2周して、いざ出発。 同施設から観光スポットに向かうという想定で、二本松城(霞ヶ城)天守台への坂道、竹根通り、竹田坂、亀谷坂などを走行した。だが、いずれのルートも坂道に入るとスピードが落ち始め、最終的に時速5㌔(早歩きぐらいのスピード)以下となってしまう。運転に慣れないうちはバランスが取りづらく、うまく地面を蹴り進めることもできないため、車道の端をひたすらゆっくりとのぼり続けた。追い越していく自動車のドライバーの視線が背中に突き刺さる。 竹根通りで最高速度を出して上機嫌だったが…… 竹田坂、亀谷坂をのぼっている途中で失速し、必死で地面を蹴り進める  レンタルの電動アシスト自転車(3時間300円)に乗りながら同行撮影していた後輩記者は、「じゃあ、僕、先に上に行っていますね」とあっという間に追い越していった。 運転に慣れてくると、立ち乗りで風を切って進んでいく感覚が楽しくなる。試しに竹根通りをアクセル全開で走行したところ、時速30㌔までスピードが出た(さすがに立ち乗りでは怖かったので座って運転)。軽装備ということもあり、転倒の恐怖は付きまとうが、爽快感を味わえた。 しかし、そう思えたのは下り坂と平地だけ。亀谷坂では、「露伴亭」の辺りで失速し、地面を蹴っても進まなくなり、炎天下で、20㌔超の車両を汗だくで押して歩いた。総じて快適さよりも、坂道で止まってしまう〝ガッカリ〟感の方が大きく、初めて訪れた観光客におすすめしたい気分にはなれなかった。 右ハンドル付け根にアクセル(レバー)と速度計が取り付けられている 二本松城天守台に到着する頃には疲労困憊  同連盟によると「(体重が軽い)女性は坂道もスイスイのぼれる」とのこと。体重75㌔の本誌記者では限界がある……ということなのだろうが、そもそも中心市街地に坂道が多い同市で、その程度の馬力の乗り物をなぜ導入しようと考えたのか。 54頁からの記事で導入の経緯や同連盟の主張を掲載しているので、併せて読んでいただきたい。(志賀) 「にほんまつ城報館」には甲冑着付け体験もあり(1回1000円) https://twitter.com/seikeitohoku/status/1677459284739899392

  • 県議選【二本松市】「自民2議席独占」に不安材料

    県議選【二本松市】「自民2議席独占」に不安材料

     任期満了に伴う第20回福島県議選は11月2日告示、同12日投開票で行われる。定数58、19選挙区は前回同様。無投票とみられる選挙区も少なくない中、定数2の二本松市選挙区では現職1人と新人2人が立候補の準備を進めている。 ◎2019年11月10日告示当 遊佐 久男 60 無現当 高宮 光敏 48 無現※無投票当選 ◎2015年11月15日投票当 10743 遊佐 久男 56 無現当 6699 高宮 光敏 44 無新  5644 中田 凉介 59 無新  3614 鈴木 雅之 37 無新※投票率57.78% 立候補予定者3氏の評判【高宮光敏】【石井信夫】【鈴木雅之】  現在、二本松市選挙区から選出されているのは共に自民党の遊佐久男氏(64、3期)と高宮光敏氏(52、2期)。このうち遊佐氏は次の県議選に立候補せず、今期限りで引退することを表明した。 旧安達町出身。福島大学経済学部中退。2011年の県議選で初当選した。 「数年前に脳梗塞を患った。復帰後は動作に不安はなかったが、失語症に陥った」(ある自民党員) 遊佐氏は、手元に原稿があれば問題なく話せたが、ノー原稿だと言葉に詰まる場面が見られた。政治家が言葉を発せなくなるのは致命的だ。 「家族から『もう十分やった』と言われ、早い段階で引退を決めていた。健康状態に問題がなければ、もう少し続けてほしかった」(同) 惜しまれる声があるのは、人望の厚かった証拠だろう。しかし、遊佐氏の後継をめぐっては不満の声が漏れている。 遊佐氏が引退表明(6月5日)した翌日、石井信夫氏(57)が立候補することを表明した。 石井信夫氏  《自民党二本松市総支部が党県連に推薦を申請する。 石井氏は県庁で記者会見し、「自分が住む東和地域にも過疎化の波が押し寄せている。過疎化に歯止めをかけ、活力ある地域をつくりたい」と語った》(福島民報6月7日付) 旧東和町出身。川俣高校卒。製造業や印刷業の会社員として40年近く勤務。自民党には2018年に入党したが、これまで選挙に立候補した経験はない。 自民党二本松市総支部の関係者によると、今年4月ごろ、石井氏の公認・推薦をめぐり各支部で協議が行われた。しかし、市町村議を務めた実績がなく、党員歴も浅く、年齢も若くないため「意気込みは評価するが、候補者に適任なのか」と強く推す雰囲気は少なかったという。 そうした中で6月5日、自民党二本松市総支部役員総会が開かれ、総支部長の遊佐氏が正式に引退を表明すると共に「後継に石井信夫氏を据えたい」と発言した。ところが、 「総会の最後に石井氏から挨拶があると思ったら、何もないまま閉会したのです」(総支部関係者) 出席者はここで初めて、石井氏が役員総会を欠席していたことを知ったという。 「後継指名の場に当事者がいないのはおかしい。石井氏が欠席した理由も聞かされなかった」(同) 実は、各支部の中には石井氏と直接面会した支部もあれば一度も面会していない支部もあり、支部役員からは「会ったこともない人の公認・推薦を協議しろというのか」と不満が漏れていた。その最中に石井氏は役員総会までも欠席したから、石井氏の姿勢や総支部の対応を問題視する声が上がったのだ。 挙げ句、翌6日には石井氏が記者会見を開いて立候補を正式表明、党県連に推薦を申請すると報じられたため、一部の支部役員・党員は「順番が逆」「筋道を通していない」と憤っているわけ。 なぜ大事な後継指名の場を欠席したのか。石井氏に尋ねると「体調を崩していた」と言う。 「しばらく調子が悪くて、岩代や東和などの支部にも足を運べなかった。そうこうしているうちに6月5日の総支部役員総会を迎えてしまって……。遊佐氏の引退表明と後継指名の場にいなかったことは申し訳なく思っています」(石井氏) 選挙に携わる人たちは順番や筋道を重んじる。裏を返せば、順番や筋道を間違えたら十分な支援を受けられなくなる恐れがある。一部の支部役員・党員は石井氏の立候補表明に不満を持っていると伝えると、石井氏は反省していた。 「今後、諸先輩方にアドバイスをいただき、誤解を招いたのであれば各地に出向いて立候補に至る経緯や私の考えを伝えていきたい」(同) ちなみに体調は「良くない時期が長引いていたが、今は全く問題ありません」とのこと。 「私はPTA、スポ少、消防団などの活動を通じて地域の問題に関心を深めてきました。政治経験はゼロですが、遊佐後援会の青年部で活動したり、市議の選挙を手伝ってきたので政治が全く分からないわけではありません。今後、遊佐氏の後を引き継いでいければと思います」(同) 石井氏の地元・東和地域には「彼に本当に県議が務まるのか」と訝しむ声がある。支部役員・党員だけでなく地元の支持も獲得しないと、ただでさえ苦労する初めての選挙は一層厳しいものになるだろう。 〝ヤンチャ体質〟に嫌気 高宮光敏氏  自民党のもう一人の現職・高宮氏は6月22日現在、態度を明らかにしていないが、3選を目指して立候補するものとみられる。 二本松市出身。東海大学体育学部卒。都内の電気工業会社を経て家業の岳下電機に入社。2012年、ミヤデンに商号変更すると同時に代表取締役に就任した。父親で創業者・前社長の敏夫氏(19年死去)は二本松市議、県議を務め、05年の市長選にも立候補した(結果は落選)。光敏氏はその後を継いで15年の県議選で初当選した。 高宮氏と言えば「資産の多さ」で有名だ。県の資産公開条例に基づき2020年4月に公開された資料によると、高宮氏は土地分で4669万円、建物分で8554万円、預金や投資信託などで8015万円、計2億1238万円と県議58人中トップの資産を誇る。 「大人になった今も学生時代の後輩をあごで使っている。そういう関係性に嫌気を差し、最初は高宮氏を応援していたが袂を分かった若手経済人は結構います。『オレは自民党員だが高宮氏の選挙はやらない』と公然と口にする人もいます。前回の県議選は無投票だったのに、やたらとカネを使っていた。昔からの〝ヤンチャ体質〟を改めないと、支持は広がらないと思う」(高宮氏をよく知る自民党員) そんな高宮氏と石井氏に割って入るのが鈴木雅之氏(45)。立憲民主党県連常任幹事で、同党から公認を受ける予定だ。 鈴木雅之氏  二本松市出身。石巻専修大学経営学部卒。2015年の県議選に無所属で立候補したが落選した。市内で学習塾を経営する。 「前回の県議選も本人は出る意向だったが、家族の理解が得られず断念した。今回も家族は乗り気ではないと聞いている」(市内の選挙通) 鈴木氏は前々回の県議選で3600票余を獲得しているが、反自民で三保恵一市長の支持者が支援に回れば、前々回次点だった中田凉介氏と同等かそれ以上の得票(別掲)が期待できるのではないか。そもそも前々回は、鈴木氏が立候補せず三つ巴だったら中田氏が当選していた可能性が高かった。石井氏、高宮氏より年齢が若いことも無党派層には魅力に映るかもしれない。 二本松市選挙区は前回、前々回と自民党が2議席を独占しているが、人望が厚く選挙も強かった遊佐氏に比べ、石井氏と高宮氏には不安材料がある。その間隙を鈴木氏が突くことができれば、自民2議席独占の牙城は崩れるかもしれない。

  • 【二本松市】行政連絡員の「委託料」を検証【高額?適正?】

    【二本松市】行政連絡員の「委託料」を検証【高額?適正?】

    (2022年8月号)  二本松市の行政連絡員の委託料が高過ぎる――そんな投書が本誌編集部に寄せられた。〝相場〟は判然としないが、実際どうなのか。 手渡し支給は改めるべき 二本松市役所  《私自身3~4万位かと思っておりましたが、遥か想像を絶する金額にただただ驚いておりますが、本当に今のままでよろしいのでしょうか疑問です》(原文のまま) 6月下旬、本誌編集部に届いた葉書にはそんな一文が書かれていた。 「政経東北愛読者」を名乗る人物は、葉書の中で二本松市の行政連絡員に支払われている委託料を問題視していた。同市議会3月定例会で石井馨議員が委託料に関する質問をしており「詳細は石井議員に問い合わせてほしい」とある。 問題提起した石井馨前市議  ただ、2期務めた石井氏は2022年6月5日投票の市議選に立候補せず、議員を引退していた。石井氏に連絡すると 「私はもう議員じゃないし、次の就職先も決まったので取材は遠慮したい。でも、あの委託料は問題あると思うよ」 と話す。詳細は同市議会のホームページで公開されている会議録を見てほしいというので確認すると、石井氏は3月4日の一般質問で次のような質問をしていた。 ①行政連絡員の委託料は均等割プラス世帯割となっているが、規定通り支給されているのか。 ②委託料の額が近隣自治体と比べて高いと思われるが、市はどう認識しているのか。それを是正する考えはあるのか。 ③委託料は行政連絡員に現金による一括支給となっているが、公金の支出という点を考慮すれば口座振り込みに変更すべきだ。 行政連絡員とは「市民と市政を結ぶ連絡調整役」(市生活環境課の資料より)で、行政区長が兼務しているケースがほとんどだという。市内には行政区が354あるので、行政連絡員も同人数いることになる。 行政連絡員の主な職務は▽市民との連絡に関すること、▽広報紙や市政に関する周知文書の配布、▽市が行う各種調査や加入募集事項の取りまとめ、▽その他市長が特に必要と認めること。任期は1年で再任は妨げないとしており、職務に対しては市が「委託料」を支払っている。支払い方法は安達・岩代・東和地区の行政連絡員には年1回一括、二本松地区の行政連絡員には年2回(7、2月)に分けて支払われている。 葉書の差出人は、この委託料が高過ぎると指摘しているわけだが、実際どうなのか。市生活環境課の伊藤雅弘課長に話を聞いた。 「委託料は、行政連絡員に一律4万円を支払い(均等割)、そこに世帯数に応じた金額(世帯割)を加算しています」 世帯割は7段階に設定され、①10世帯以下は2400円、②11~20世帯は1750円、③21~50世帯は1550円、④51~100世帯は1400円、⑤101~300世帯は1390円、⑥301~500世帯は1380円、⑦500世帯以上は1370円。 これだけでは分かりづらいので具体例を示そう。例えば8世帯の行政連絡員には(均等割4万円)+(2400円×8世帯)=5万9200円の委託料が支払われている。これが15世帯の行政連絡員になると(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×5世帯)=7万2750円という具合に、世帯数が多くなるにつれて委託料も高くなる積み上げ方式で算定される。 ちなみに350世帯の行政連絡員の場合は(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×10世帯)+(1550円×30世帯)+(1400円×50世帯)+(1390円×200世帯)+(1380円×50世帯)=54万5000円の委託料が支払われている。 委託料は、合併前の4市町でも均等割と世帯割を用いて算定していた経緯があり(ただし二本松と安達では委託料、岩代と東和では報酬という名称だった)、現在の算定方法も二本松・東北達地方合併協議会で複数回にわたって議論し、決定した。 同合併協議会の資料にも次のような記述がある。 《委託料については、現行の二本松市の例により新市に引き継ぎ、合併前の市町単位に算定して一括配分し、それぞれの住民自治組織等と調整して業務内容に応じて受託者等へ交付する》 前出・石井氏の3月定例会での一般質問によると、2021年度、委託料を最も多くもらっている行政連絡員は141万円。さらに80・60・50万円台は7人、40・30万円台は5人、20万円台は20人以上に上ったという。平均では12万7000円とも指摘している。 これだけ聞くと「年間141万円ももらっている行政連絡員がいるのか」と思ってしまうが、それは誤解だ。正確には、141万円の委託料が行政連絡員を通じて行政区に支払われ、その中から行政連絡員への報酬が支払われているのだ。ただし実際の報酬がいくらかは「その行政区の決算書を見なければ分からない」(前出・伊藤課長)。要するに行政連絡員は、行政区を代表して市から委託料を受け取っている(預かっている)に過ぎないのだ。 「支払っているのはあくまで委託料であり、報酬ではありません。行政連絡員の報酬額は各行政区で話し合って決めており、合併前の旧市町時代から踏襲している行政区もあるでしょうから、そこに市が『報酬はいくらにしろ』と口を挟むことはしていません」(伊藤課長) こうなると、行政区によっては常識的な額が支払われているケースもあれば、法外な額が支払われている可能性も出てくるが、そこは各行政区が開いている総会で、委託料がきちんと執行されているか、不正が行われていないかを当該住民が監視するしかなさそうだ。 「ただ、2005年に合併して以降、委託料が不正に使われているとか、行政連絡員に法外な報酬が支払われているといった苦情が市民から寄せられたことはありません。市としては委託料が適切に執行され、報酬も常識的な額が支払われているものと認識しています」(同) 求められる住民の監視  ちなみに、市が行政区の世帯数を200世帯と仮定し、県内12市と県北管内3町1村を比較したところ、二本松市の委託料は33万7000円で、同市より高額なのは2市、同額は1村、低額は10市3町という結果だった。同市の委託料は高額の部類に入るが、だからと言って行政連絡員の報酬も高額かどうかは分からないので、葉書の差出人が言うような「同市の委託料が高過ぎる」とは断定しづらい。 しかし、支払い方法には大いに問題がある。同市は行政連絡員一人ひとりに現金で直接手渡ししているのだ。令和の時代に極めて珍しい光景と言えるが、委託料が公金であることを踏まえれば、石井氏が指摘するように口座振り込みが行われてしかるべきだろう。さらに言うと、行政連絡員の個人口座に振り込めば、着服や私的流用の恐れもゼロではないので、行政区の口座に振り込むことを徹底すべきだ。 「委託料の手渡しについては、今後改善に向けて検討していきたいと思います」(同) 行政連絡員が法外な報酬をもらっているわけではないことが、お分かりいただけただろうか。かと言って正確な報酬がいくらかは、行政区ごとに異なるため判然としない。委託料の源資が公金である以上、報酬については市に報告し、非常識な額が支払われている場合は市が指導してもいいように思われる。もちろん、当該住民が総会等を通じて監視することも求められる。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

    ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

    【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

    二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

     二本松市役所で産業部長によるパワハラ・モラハラが横行している。被害者が声を上げないため公には問題になっていないが、部下の課長2人が2年連続で出先に異動し、部内のモチベーションは低下している。昨今は「ハラスメントを許さない」という考えが社会常識になっているが、三保恵一市長はこうした状況を見過ごすのか。そもそも、三保市長自身にもパワハラ疑惑が持ち上がっている。(佐藤仁) 「城報館」低迷の責任を部下に押し付ける三保市長  まずは産業部内で起きている異変を紹介したい。同部は農業振興、商工、観光の3課で組織されるが、舞台となったのは観光課である。 2021年4月から観光課長に就いたA氏が、1年で支所課長として異動した。その後任として22年4月から就いたB氏も半年後に病休となり、11月に復職後は住民センター主幹として異動した。課長から主幹ということは降格人事だ。 B氏の後任は現在も決まっておらず、観光課長は空席になっている。 菊人形、提灯祭り、岳温泉など市にとって観光は主要産業だが、観光行政の中心的役割を担う観光課長が短期間のうちに相次いで異動するのは異例と言っていい。 原因は、荒木光義産業部長によるハラスメントだという。 「荒木部長の言動にホトホト嫌気が差したA氏は、自ら支所への異動を願い出た。『定年間近に嫌な思いをして仕事をするのはまっぴら。希望が通らなければ辞める』と強気の姿勢で異動願いを出し、市に認めさせた。これに対し、B氏は繊細な性格で、荒木部長の言動をまともに受け続けた結果、心身が病んだ。問題は1カ月の病休を経て復職後、主幹として異動したことです。職員の多くは『被害者が降格し、加害者がそのまま部長に留まっているのはおかしい』と疑問視しています」(市役所関係者) 荒木部長のハラスメントとはどういうものなのか。取材で判明した主な事例を挙げると①感情の浮き沈みが激しく、機嫌が悪いと荒い口調で怒る。②指導と称して部下を叱責する。いじめの部類に入るような言い方が多々みられる。③陰口が酷く、他者を「奴ら」呼ばわりする。④自分だけのルールを市のルールや世間の常識であるかのように押し付け、部下が反論すると叱責する。⑤部下が時間をかけて作成した資料に目を通す際、あるいは打ち合わせで部下が内容を説明する際、自分の意図したものと違っていると溜息をつく。⑥「なぜこんなこともできない」と面倒くさそうに文書の修正を行う。ただし、その修正は決して的確ではない。⑦上司なので上からの物言いは仕方ないとして、人を馬鹿にしたような態度を取るので、部下は不快に感じている。⑧親しみを込めているつもりなのか部下をあだ名で呼ぶが、それによって部下が不快な思いをしていることに気付いていない。 分類すると①~③はパワハラ、⑤~⑧はモラハラ、④はモラパワハラになる。 さらにモラハラについては▽文書の直しが多く、かつ細かすぎて、最後は何を言いたいのか分からなくなる▽30分で済むような打ち合わせを2、3時間、長い時は半日かけて行う▽同じ案件の打ち合わせを何度も行う▽市長、副市長に忖度し、部下はそれに振り回されている▽予算を度外視した事業の実施や、当初・補正予算に高額予算を上げることを強要する――等々。おかげで部下は疲弊しきっているという。 そんな荒木部長の機嫌を大きく損ねている最大の原因が、市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下、城報館と略)の低迷である。 低迷する城報館 2階部分から伸びる渡り廊下  城報館は昨年4月、県立霞ヶ城公園(二本松城跡)近くにオープンした。1階は歴史館、2階は観光情報案内というつくりで、2階には同公園との行き来をスムーズにするため豪華な渡り廊下が設置された。駐車場は大型車2台、普通車44台を停めることができる。 事業費は17億1600万円。財源は合併特例債9億8900万円、社会資本整備総合交付金5億3600万円、都市構造再編集中支援事業補助金1億3900万円を使い、残り5000万円余は市で賄った。 市は年間来館者数10万人という目標を掲げているが、オープンから10カ月余が経つ現在、市役所内から聞こえるのは「10万人なんて無理」という冷ややかな意見である。 「オープン当初こそ大勢の人が詰めかけたが、冬の現在は平日が一桁台の日もあるし、土日も60~70人といったところ。霞ヶ城公園で菊人形が開催されていた昨秋は菊人形と歴史館(※1)を組み合わせたダブルチケットを販売した効果で1日200人超の来館者数が続いたが、それでも10万人には届きそうもない」(ある市職員) ※1 城報館は入場無料だが、1階の歴史館(常設展示室)の見学は大人200円、高校生以下100円の入場料がかかる。  市観光課によると、昨年12月31日現在の来館者数は8万6325人、そのうち有料の常設展示室を訪れたのは4万2742人という。 市内の事業主からは「無駄なハコモノを増やしただけ」と厳しい意見が聞かれる。 「館内にはお土産売り場も飲食コーナーもない。2階に飲食可能な場所はあるが、自販機があるだけでコーヒーすら売っていない。あんな造りでどうやって観光客を呼ぶつもりなのか」(事業主) 市は昨年秋、菊人形の来場者を城報館に誘導するため、例年、菊人形会場近くで開いている物産展を城報館に移した。三百数十万円の予算をかけて臨時総合レジを設ける力の入れようだったが、物産展を城報館で開いているという告知が不足したため、菊人形だけ見て帰る人が続出。おかげで「ここはお土産を買う場所もないのか」と菊人形の評価が下がる始末だったという。 「城報館に物産展の場所を移しても客が全然来ないので、たまりかねた出店者が三保市長に『市長の力で何とかしてほしい』と懇願した。すると三保市長は『のぼり旗をいっぱい立てたので大丈夫だ』と真顔で答えたそうです」(同) 三保恵一市長  本気で「のぼり旗を立てれば客が来る」と思っていたとしたら、呆れて物が言えない。 オープン前の市の発表では、年間の維持管理費が2300万円、人件費を含めると4400万円。これに対し、主な収入源は常設展示室の入場料で、初年度は950万円と見込んでいた。この時点で既に3450万円の赤字だが、そもそも950万円とは「10万人が来館し、そのうち5万人が常設展示室を見学する=入場料を支払う」という予測のもとに成り立っている。10万人に届きそうもない状況では、赤字幅はさらに膨らむ可能性もある。 上司とは思えない言動  前出・市職員によると、常設展示室で行われている企画展の内容は素晴らしく、二本松城は日本100名城に選ばれていることもあり、歴史好きの人は遠く関東や北海道からも訪れるという。しかし、歴史に興味のない一般の観光客が訪れるかというと「一度は足を運んでも、リピーターになる可能性は薄い」(同)。多くの人に来てもらうには、せめてお土産売り場や飲食コーナーが必要だったということだろう。 「施設全体で意思統一が図られていないのも問題。城報館は1階の歴史館を市教委文化課、2階の観光情報案内を観光課が担い、施設の管理運営は観光課が行っているため、同じ施設とは思えないくらいバラバラ感が漂っている」(同) 筆者も先月、時間をかけて館内を見学したが(と言っても時間をかけるほどの中身はなかったが……)、もう一度来ようという気持ちにはならなかった。 早くもお荷物と化しそうな雰囲気の城報館だが、そんな同館を管理運営するのが観光課のため、批判の矛先が観光課長に向けられた、というのが今回のハラスメントの背景にあったのである。 関係者の話を総合すると、A氏が課長の時は城報館のオープン前だったため、この件でハラスメントを受けることはなかったが、B氏はオープンと同時に課長に就いたため、荒木部長だけでなく三保市長からも激しく叱責されたようだ。 「荒木部長は『オレはやるべきことをやっている』と責任を回避し、三保市長は『何とかして来館者を増やせ』と声を荒げるばかりで具体的な指示は一切なかった。強いて挙げるなら、館内受付の後方に設置された曇りガラスを透明ガラスに変え、その場にいる職員全員で客を迎えろという訳の分からない指示はあったそうです。挙げ句『客が来ないのはお前のせいだ』とB氏を叱責し、荒木部長はB氏を庇おうともしなかったというから本当に気の毒」(前出・市役所関係者) 観光課が管理運営を担っている以上、課長のB氏が責任の一部を問われるのは仕方ない面もあるが、上司である荒木氏の責任はもっと重いはずだ。さらに建設を推し進めたのが市長であったことを踏まえると、三保氏の責任の重さは荒木部長の比ではない。にもかかわらず、荒木部長はB氏を庇うことなく責任を押し付け、三保市長は「客が来ないのはお前のせいだ」とB氏を叱責した。上司のあるべき姿とは思えない。 もともと城報館は新野洋元市長時代に計画され、当時の中身を見ると1階は多言語に対応できる観光案内役(コンシェルジュ)を置いてインバウンドに対応。地元の和菓子や酒などの地場産品を販売し、外国人観光客を意識した免税カウンターも設置。そして2階は歴史資料展示室と観光、物産、歴史の3要素を兼ね備えた構想が描かれた。管理運営も指定管理者や第三セクターに委託し、館長がリーダーシップを発揮できる形を想定。年間来館者数は20万人を目標とした。 加害者意識のない部長  しかし、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと、この計画は見直され、1階が歴史、2階が観光と逆の配置になり、物産は消失。管理運営も市直営となり、観光課長が館長を兼ねるようになった。 新野元市長時代の計画に沿って建設すれば来館者が増えたという保障はないが、少なくとも施設のコンセプトははっきりしていたし、一般の観光客を引き寄せる物産は存在していた。それを今の施設に変更し、議会から承認を得て建設を推し進めたのは三保市長なのだから、客が来ない責任を部下のせいにするのは全くの筋違いだ。 自治労二本松市職員労働組合の木村篤史執行委員長に、荒木部長によるハラスメントを把握しているか尋ねると次のように答えた。 「観光課長に対してハラスメント行為があったという声が寄せられたことを受け、組合員230人余に緊急アンケートを行ったところ(回答率7割)、荒木部長を名指しで詳述する回答も散見されました。組合としては現状を見過ごすわけにはいかないという立場から、結果を分析し、踏み込んだ内容を市当局に伝えていく考えです」 ハラスメントは、一歩間違えると被害者が命を失う場合もある。被害者に家族がいれば、不幸はたちまち連鎖する。一方、加害者は自分がハラスメントをしているという自覚がないケースがほとんどで、それが見過ごされ続けると、職場全体の士気が低下する。働き易い職場環境をつくるためにも、木村委員長は「上司による社会通念から逸脱した行為は受け入れられない、という姿勢を明確にしていきたい」と話す。 筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者とは認識していない様子が垣間見えた。 ちなみに、荒木部長は安達高校卒業後、旧二本松市役所に入庁。杉田住民センター所長、商工課長を経て産業部長に就いた。定年まで残り1年余。 三保市長にも秘書政策課を通じて①荒木部長によるハラスメントを認識しているか、②認識しているなら荒木部長を処分するのか。またハラスメント根絶に向けた今後の取り組みについて、③今回の件を公表する考えはあるか、④三保市長自身が元観光課長にパワハラをした事実はあるか――と質問したが、 「人事管理上の事案であり、職員のプライバシー保護という観点からコメントは控えたい」(秘書政策課) ただ、市議会昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する一般質問を行った際、三保市長はこう答弁している。 「パワハラはあってはならないと考えています。そういう事案が起きた場合は厳正に対処します。パワハラは起こさない、なくすということを徹底していきます」 疲弊する地方公務員  荒木部長は周囲に「定年まで残り1年は安達地方広域行政組合事務局長を務めるようになると思う」などと発言しているという。同事務局長は部長職なので、もし発言が事実なら、産業部長からの横滑りということになる。被害者のB氏は課長から主幹に降格したのに、加害者の荒木氏は肩書きを変えて部長職に留まることが許されるのか。 「職員の間では、荒木氏は三保市長との距離の近さから部長に昇格できたと見なされている。その荒木氏に対し三保市長が処分を科すのか、あるいはお咎めなしで安達広域の事務局長にスライドさせるのかが注目されます」(前出・市役所関係者) 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、2021年度に心の不調で病休となった地方公務員は総務省調査(※2)で3万8000人を超え、全職員の1・2%を占めたという。 ※2 令和3年度における地方公務員の懲戒処分等の状況  (令和3年4月1日~令和4年3月31日)調査  心の不調の原因は「対人関係」「業務内容」という回答が多く、パワハラ主因説の根拠になっている。 身の危険を感じた若手職員は離脱していく。2020年度の全退職者12万5900人のうち、25歳未満は4700人、25~30歳未満は9200人、30~35歳未満は6900人、計2万0800人で全退職者の16・5%を占める。せっかく採用しても6人に1人は35歳までの若いうちに退職しているのだ。 そもそも地方自治体は「選ばれる職場」ではなくなりつつある。 一般職地方公務員の過去10年間の競争試験を見ると、受験者数と競争率は2012年がピークで60万人、8・2倍だったが、19年がボトムで44万人、5・6倍と7割強まで激減した。内定を出しても入職しない人も増えている。 地方公務員を目指す人が減り、せっかく入職しても若くして辞めてしまう。一方、辞めずに留まっても心の不調を来し、病休する職員が後を絶たない。 「パワハラを放置すれば、地方自治体は職場としてますます敬遠されるでしょう。そうなれば人手不足が一層深刻化し、心の不調に陥る職員はさらに増える。健全な職場にしないと、こうした負のループからは抜け出せないと思います」(上林氏) 地方自治体は、そこまで追い込まれた職場になっているわけ。 定例会で「厳正に対処する」と明言した三保市長は、その言葉通り荒木部長に厳正に対処すると同時に、自身のハラスメント行為も改め、職員が働き易い職場づくりに努める必要がある。それが、職員のモチベーションを上げ、市民サービスの向上にもつながっていくことを深く認識すべきだ。  ※被害者の1人、B氏は周囲に「そっとしておいてほしい」と話しているため、議員はハラスメントの実態を把握しているが、一般質問などで執行部を追及できずにいる。昨年12月定例会で菅野明議員がパワハラに関する質問をしているが、B氏の件に一切言及しなかったのはそういう事情による。しかし本誌は、世の中に「ハラスメントは許さない」という考えが定着しており、加害者が部長、市長という事態を重く見て社会的に報じる意義があると記事掲載に踏み切ったことをお断わりしておく。 あわせて読みたい 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」 ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声(2021年3月号)

    【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声

    (2021年3月号)  本誌2018年2月号に「二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上」という記事を掲載した。二本松市岩代地区で民間事業者によるメガソーラー計画が浮上しており、その詳細をリポートしたもの。その後、同事業ではすでに工事が始まっているが、かなりの大規模開発になるため、地元住民からは「大雨が降ったら大丈夫か」と心配する声が出ている。 令和元年東日本台風を経て地元民感情に変化  2018年当時、地元住民に話を聞いたところ、「この一帯でメガソーラーをやりたいということで、事業者がこの辺りの地権者を回っている」とのことだった。 さらにある地権者によると、計画地は二本松市岩代地区の上長折字加藤木地内の山林・農地で、市役所岩代支所から国道459号沿いに3㌔ほど東に行った辺り。用地交渉に来ているのは栃木県の会社で、同社から「買収を想定しているのは約150㌶」「送電鉄塔が近くにあるため、メガソーラー用地として適しており、ぜひここでやりたいから協力(用地売却)してほしい」と説明・協力要請されたのだという。 この地権者は当時の本誌取材に次のように述べていた。 「計画地の大部分は山林や農地で、私の所有地は農地ですが、いまは耕作していません。その近隣も遊休農地が少なくないため、売ってもいいという人は多いのではないかと思います。おおよそですが、地権者は20〜30人くらいになると思われ、そのうちの何人かに聞いてみたのですが、多くは売ってもいいと考えているほか、すでに土地を売った人もいます。ただ、最初に事業者が私のところに来たのは、確かいま(記事掲載時の2018年)から2年ほど前だったと思いますが、その後も近隣の地権者を回っている様子はうかがえるものの、進展が見られません」 そこで、事業者に電話で問い合わせたところ、次のように明かした。 「当社は企画を担当しており、現在は地元地権者に協力を求めている状況ですが、実際の発電事業者は別な会社になるため、そちらにも相談してみないとお答えできないこともあります」 ただ、少なくとも「計画自体が進行中なのは間違いありません」とのことだった。 そのほか、同社への取材で、その時点で用地の約8割がまとまっていること、地権者との交渉と並行して周辺の測量などを進めていること、環境影響評価などの開発行為に関する手続きの準備・協議を管轄行政と進めていること――等々が明らかになった。 なお、同社は「近く、発電事業者との打ち合わせがあるので、取材の問い合わせがあったことは伝えておきます。そのうえで、あらためてお伝えできることがあればお伝えします」とも述べていたが、その後、同社から前述したこと以外の説明はなかった。 それから3年ほどが経った2021年1月、当時本誌にコメントしていた地権者から、こんな情報が寄せられた。 「同計画では、すでに工事が始まっていますが、予定地の山林が丸裸にされており、大雨が降ったら大丈夫なのかと不安になってきました。最初は、私も(同計画に対して)『どうせ、使っていない(耕作していない)土地だし、まあいいだろう』と思って、用地買収に応じましたが、それはあの災害の前でしたし、実際に山林が剥かれた現場を見ると、やっぱり大丈夫なのかなとの思いは拭えません」 コロナで説明の場もナシ まだ手付かずの事業用地もあり、開発面積はかなりの規模になる。  この地権者が言う「あの災害」とは、令和元年東日本台風を指している。この災害で同市では2人の死者が出たほか、住宅、農地、道路など、さまざまな部分で大きな被害を受けた。とりわけ、同市東和地区、岩代地区での被害が大きかったという。 そうした大きな災害があった後だけに、当初こそメガソーラー計画に賛意を示したものの、「これだけの大規模開発が行われ、山林が丸裸になった現場を見ると、大丈夫なのかとの思いを抱かずにはいられない」というのだ。加えて、同地区では、令和元年東日本台風の数年前にも大きな水害に見舞われたことがあり、「何年かに一度はそういったことがあり、特に近年は自然災害が増えているから余計に不安になります」(前出の地権者)という。 開発対象の森林面積は全体で約38㌶に上り、そのうち実際に開発が行われるのは約18㌶というから、かなりの大規模開発であることがうかがえる。 「当然、事業者もその辺(水害対策)は考えているだろうと思いますし、環境影響評価や開発許可などの手続きも踏んでいます。何らかの違反・違法行為をしているわけではありませんから、表立って『抗議』や『非難』をできる状況ではないと思いますが、やっぱり心配です」(同) この地権者に、そういった不安を抱かせた背景には、「新型コロナウイルスの影響」も関係している。 その理由はこうだ。 「以前は何か動きがあると、事業者から詳細説明がありました。ただ、新型コロナウイルスの問題が浮上してからは、そういうことがなくなりました。一応、経過説明などの文書が回ってくることはありますが、それだけではよく分からないこともありますし、疑問に思ったことがあっても、なかなか質問しにくい状況になっています。だから、余計に心配なのです」(同) 以前は、関係者を集めて説明する、あるいは地権者・近隣住民宅を訪問して説明する、といったことがあったようだが、コロナ禍でそうしたことが省略されているというのだ。一応、事業者から経過説明などの文書が届くことはあるようだが、それだけではよく分からないこともあるほか、疑問に思ったことを質問することもできない、と。 その結果、これだけの大規模開発を行い、山を丸裸にして治水対策などは本当に大丈夫なのか、といった不安を募らせることになったわけ。 用地買収に当たった事業者と、実際の発電事業者が別なこともあり、事業者の正確な動きはつかめていないが、いずれにしても、地元住民の不安が解消されるような対策・説明が求められる。 あわせて読みたい 二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上

  • 二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上(2018年2月号)

    二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上

    (2018年2月号)  二本松市岩代地区で、民間事業者による大規模太陽光発電(メガソーラー)計画が浮上している。ある地元地権者によると、「事業者から最初に用地交渉の話があったのは2年ほど前」とのことだが、その後、計画は進展している様子が見受けられないという。 進展の遅さにヤキモキする地権者  本誌2017年12月号に「増え続ける『太陽光発電』の倒産 それでも絶えない設置計画」という記事を掲載した。原発事故以降、再生可能エネルギーの必要性が叫ばれ、その中心的な存在となっていた太陽光発電だが、東京商工リサーチのリポートによると、近年は太陽光発電関連事業者の倒産が相次いでいるのだという。そこで、あらためて同事業の状況を見た中で、同事業は成長産業と見込まれていたが、新規参入が相次いだこともあり、倒産事例も増えていることなどをリポートしたもの。 ただ、そんな中でも、本誌には県内での太陽光発電の計画話がいくつか伝わっており、同記事では二本松市岩代地区の住民のこんな声を紹介した。 「この地域(二本松市岩代地区)で太陽光発電事業をやりたいということで、少し前から事業者が山(山林)や農地を持っている地権者のところを回っているようです。それも、その範囲はかなりの広範にわたっており、もし本当にできるとしたら、相当な規模の太陽光発電所になると思われます」 この時点ではそれ以上の詳しいことは分かっていなかったが、その後の取材で、少しずつ詳細が明らかになってきた。 ある地権者は次のように話す。 「ここで太陽光発電事業をやりたいということで、この辺(の山林や農地)の地権者を回っているのは、栃木県の『博栄商事』という会社です。その後、同社と一緒に『オーシャンズジャパン』という会社の名刺を持った人もあいさつに来ました。事業者の説明によると、『買収を想定しているのは150㌶ほど。送電鉄塔が近くにあるため、太陽光発電の用地として適しており、ぜひここでやりたいから、協力(土地売却)してもらえないか』とのことでした。ただ、事業者が最初に私のところに来たのは、確か2年ほど前だったと思いますが、その後も近隣の地権者を回っている様子はうかがえるものの、全くと言っていいほど進展している様子が見受けられません。私自身は協力してもいいと思っているのですが……」 計画地は、二本松市岩代地区の上長折字加藤木地内の山林・農地で、市役所岩代支所から国道459号沿いに3㌔ほど東に行った辺り。この地権者によると、事業者が用地として想定している面積は約150㌶とのことだから、かなりの規模であることがうかがえる。 「計画地の大部分は山林や農地です。私の所有地は農地だが、いまは耕作していません。その近隣も、遊休農地が少なくない。ですから、売ってもいいという人は多いと思います。実際、すでに土地を売った人もいるようです」(前出の地権者) なお、この地権者の話に出てきた博栄商事は、栃木県茂木町に本社を置く株式会社。1972(昭和47)年設立。資本金2000万円。同社のHPや商業登記簿謄本を見ると、不動産業が主業のようで、太陽光発電関連の事業実績は見当たらない。役員は代表取締役・細野正博、取締役・能代英樹の2氏。 もう一方のオーシャンズジャパンは、本社が東京都新宿区の合同会社。2015(平成27)年設立。資本金1万円。事業目的は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス、太陽熱等の再生可能エネルギーによる発電事業及びその管理・運営・電気の供給・販売等に関する業務、発電設備の設置、保守管理業務など。役員は業務執行社員・坂尾純一氏。 こうして両社のHPや商業登記簿謄本などを見る限り、博栄商事は用地交渉役(仲介役)で、実際の発電事業者はオーシャンズジャパンと見るのが自然か。 前出の地権者によると、「すでに土地を売った人もいるようだ」とのことだから、すでに投資が発生している以上、事業者が〝本気〟なのは間違いなさそう。ただ、この地権者の話では、最初に相談があったのは2年ほど前で、以降も事業者が地権者宅を回っている様子はうかがえるものの、計画が進捗している様子は見えないというのだ。 「おおよそですが、地権者は20〜30人くらいになると思います。知り合いの地権者にも聞いてみたところ、多くの人が協力してもいいと考えているようで、すでに土地を売った人もいるようですが、逆にまだ全然そんな話(用地交渉)がないという人もいます。ただ、少なくとも、私は最初に相談があってから2年近くが経っています。それなのに話が進展しないので、一体どうなっているんだろう、と」(前出の地権者) 事業者が目星を付けたところは、多くが山林や遊休農地のため、地権者からしたら「買ってくれるならありがたい」ということなのだろうが、その後、話が進展している様子が見えないため、「本当にできるのか」といった思いを抱いていることがうかがえる。 「計画は進行中」と事業者  そこで、計画の進捗状況や事業概要などを聞くため、博栄商事に問い合わせてみたところ、同社担当者は「当社は企画を担当しており、実際の発電事業者は別な会社になるため、発電事業者に確認してみないことにはお答えできないこともあります」とのことだったが、「計画自体が進行中なのは間違いありません」と明かした。 そこで、本誌記者は「地元住民からは、『オーシャンズジャパン』という会社の名刺を持った人もあいさつに来ていたとの話も聞かれたが、いまの説明に出てきた『発電事業者』はオーシャンズジャパンのことか」と尋ねてみた。 すると、博栄商事の担当者は「当初はその予定で、もともとは同社から依頼があり、当社が企画を担当することになりました。ただその後、事情があって発電事業者は変わりました。新しい事業者は横浜市の会社で、二本松市に現地法人を立ち上げ、そこが太陽光発電所を運営することになります」と語った。 このほか、博栄商事の担当者への取材で明らかになったのは、①用地は8割ほどまとまっていること、②現在、境界周辺の測量を実施しているほか、環境影響評価などの開発行為に関する手続きの準備・協議を進めていること――等々。 そのうえで、同社担当者は「近く発電事業者と打ち合わせがあるので、問い合わせがあったことは伝えます。そこで発電事業者と相談のうえ、あらためてお伝えできることはお伝えします」と話した。 発電規模や発電開始時期の目標などは明らかにされなかったが、いずれにしても、計画が進行中なのは間違いないようだ。 ただ、前述したように、用地の大部分は山林・農地のため、開発の必要があり、そのためには各種手続きが必要になるから、近隣住民の目に見える形(工事など)で動きがあるまでにはもう少し時間がかかりそうな状況だ。おそらく、開発に当たっての環境影響評価方法書の縦覧などまで計画が進展しなければ、具体的なものは見えてこないのではないかと思われる。 近隣にも太陽光発電所が 二本松太陽光発電所(旧ゴルフ場)  ところで、一連の取材で同計画地周辺を歩いてみたところ、同所のほかにも太陽光発電所、あるいはそのための造成工事中のところがあることが目に付いた。 1つは、以前、本誌でも取り上げたサンフィールド二本松ゴルフ倶楽部岩代コース跡地。同ゴルフ場については、過去の本誌記事で次のようなことを伝えた。 ①同ゴルフ場は、東日本大震災を受け、クラブハウスやコースが被害を受けたほか、原発事故によりコース上で高い放射線量が計測されたため、一時閉鎖して施設修繕や除染を行ったうえで、営業再開を目指していた。 ②それと平行して、同ゴルフ場を運営するサンフィールドは、東京電力を相手取り放射性物質の除去などを求め、東京地裁に仮処分申し立てを行った。しかし、同申し立てが却下されたため、同社は2011年7月上旬ごろまでにホームページ上で「当面の休業」を発表した。なお、同仮処分申請の中で、東電が「原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではない。したがって東電には除染責任がない」との主張を展開し、県内外で大きな注目を集めた。 ③そんな中、同ゴルフ場では、「ゴルフ場をやめて大規模太陽光発電施設にするらしい」といったウワサが浮上した。ある関係者によると「大手ゼネコンが主体となり、京セラのシステムを使うそうだ」といったかなり具体的な話も出ていたが、「正式に打診があったわけではないらしく、結局、その話は立ち消えになった」(同)とのことだった。 ④その後、2012年秋ごろまでに、同ゴルフ場の駐車場に仮設住宅のような長屋風の建物がつくられ、除染作業員などの仮設宿舎になった。同ゴルフ場には立派なホテルも併設されているが、そこも作業員宿舎(食堂?)になった。ある地権者によると、「サンフィールドは『ビジネス上の付き合いから、除染事業者である大成建設に無償貸与している』と説明していた」とのことだった。そのため、少なくとも、この時点では、ゴルフ場再開の可能性は事実上なくなり、用地がどうなるのかが注目されていた。 ⑤2014年春になると、先のウワサとは別に、大規模太陽光発電施設にする目的で、ゴルフ場用地を買いたいという会社が現れた。その会社は、東京都港区に本社を置く日本再生可能エネルギーで、ある地権者は「同社の要請(土地売却)に応じた。私の知る限り、ほとんどが同様の意向だと思う」と話した。 過去の本誌記事でリポートしたのはここまでだが、その後も、この地権者(元地権者)からは「日本再生可能エネルギーで太陽光発電所に必要なだけの用地をまとめ、本格的に動き出した」といった話は聞かされていた。もっとも、この地権者(元地権者)自身が「土地を売ったことで、直接的には関係なくなったから、詳しいことは分からないけど……」とのことで、具体的な事業の進捗状況などは分かっていなかった。 今回、あらためて同所を訪ねてみると、「二本松太陽光発電所」という看板が立てられ、外から様子をうかがった限りでは、太陽光発電所として稼働しているように見受けられた。同所を取得した日本再生可能エネルギーのHPを見てみると、国内他所の太陽光発電所に関するリリースは出ているものの、二本松太陽光発電所についてのリリースは見当たらなかった。 そこで、同社に問い合わせてみたところ、①同発電所は2017年8月から稼働していること、②発電規模は29・5㍋㍗であること――が明らかになった。つまり、すでに発電・売電を行っている、と。 なお、同社は太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーを利用した発電・売電事業を手掛ける株式会社で、2013年5月10日設立。代表はアダム・バリーン氏。HPに掲載されたリリースを見る限り、国内各地で太陽光発電所を運営しており、県内では二本松市のほかに、国見町でも2016年2月から太陽光発電所を稼働している。 工事中の計画  一方、その近くでは別の太陽光発電所の工事が行われていた。工事案内板を見ると、場所は「初森字天狗塚69―1 外3筆」、目的は「太陽光発電所建設用地の造成」、林地開発について「許可を受けた者」は札幌市の「エム・エス・ケイ」と書かれていた。 同社について調べてみると、札幌市で「ホテル翔SAPPORO」を経営しており、ホテル経営が主業のようだ。ただ、同社の商業登記簿謄本を確認すると、事業目的は、以前は①ホテル及び旅館の運営管理、②不動産の売買及び賃貸、③古物商の経営などだったが、2016年8月に変更され、再生可能エネルギーによる発電事業及び発電設備の販売、施工工事請負が追加された。最近になり、同事業に参入したことがうかがえる。 同社に二本松市で太陽光発電事業をやることになった経緯などについて問い合わせたところ、一度、連絡はあったものの、質問に対する回答は本号締め切りには間に合わなかった。そのため、事業規模などは現時点では明らかになっていない。 ちなみに、冒頭紹介した計画は、前述した通り、市役所岩代支所から国道459号沿いに3㌔ほど東に行った辺り。そこから直線距離で1㌔ほど南にいったところに二本松太陽光発電所(ゴルフ場跡地)があり、さらに直線距離で南に1㌔ほどの辺りに現在工事中のエム・エス・ケイの事業地がある。 こうして見ると、同地区周辺は民間の、それも県外事業者による太陽光発電施設、あるいはその計画が多いことが分かる。 ある地元住民は「震災・原発事故を経て、結果的にそうなりましたね。課題はソーラー発電システムの耐用年数を超えた時にどうなるのかということでしょうけど、そこさえしっかりしてもらえれば、地域としてこういうものを推奨していくのもいいのではないか」と語った。 あわせて読みたい 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声

  • 野焼きで「炎上」した【本多俊昭】市議【二本松市】

     二本松市の本多俊昭市議(63、4期)が所有地に廃棄物を運び込んで一部を焼却処分したとして、市の担当課から注意されていたことが分かった。本多市議は反省の意を示しているが、近隣住民はこの間の言動も含めてその対応に不信感を募らせており、議員辞職を求めている。 議員辞職を宣言もあっさり「撤回」  本多市議は福島農蚕高卒。同市南部の舘野原(杉田地区)在住で、農業に従事している。2022年6月の二本松市議選(定数22)では1470票を獲得して4位当選。令和創生の会に所属し、執行部(三保市政)を厳しく監視・追及するスタンスを貫いているが、ここ2年は1年に1回代表質問で登壇するだけで、一般質問はしていない。 そんな本多市議について、「所有地に廃棄物を不法投棄し、野焼きしていたとして近隣住民とトラブルになっている」とウワサが流れている。 真相を確認するため、市内で聞き込みをしたところ、本多市議とトラブルになっている近隣住民Aさんにたどり着いた。 Aさんはこのように明かす。 「同市箕輪の人通りのない場所に、本田市議が所有する農地がある。昨年6月ごろ、その場所に選挙で使った腕章や布団などを捨て始めた。隣接する私の土地にも侵入していたため、撤去を求めたのですが、少し場所をずらしただけで、その後も放置されたままになっていました」 しばらくすると、近くにあるAさんの自宅にスズメバチが飛んで来るようになった。「廃棄物に巣を作られてはたまらない」とAさんは3度にわたり市に「本多市議に撤去させてほしい」と相談。市が指導に入り、1カ月ほど経ったころ、その場でそれらの一部を燃やし始めたという。 布団などが仮置きされた本多市議の所有地 焼却している様子  「近隣に住む私に何の連絡もなく焼却し始めたので驚きました。幸い周辺の木には延焼しませんでしたが、危ない行為でした」(Aさん) 廃棄物処理法第5条では「土地又は建物の占有者は、その占有し、又は管理する土地又は建物の清潔を保つように努めなければならない」と定められており、行政機関では「廃棄物の一時保管」と称して廃棄物を放置したままにしないように呼びかけている。 また、同法第16条の2では、悪臭やダイオキシン類の発生原因となることから、災害ゴミの処分やどんど焼きなどの例外を除いて野外焼却を禁止している。市が配布しているチラシでも「地面の上で直接ゴミを燃やすこと」について「次のような焼却行為は法律に違反しますので罰せられることがあります」と注意を呼び掛けている。 本多市議は公職に就いているにもかかわらず、こうした違反行為を平然と行っていたわけ。なお、焼却されたのは一部で、残りは本多市議の別の所有地に移動されたという。 Aさんによると、本多市議は当初、誤りを認め、深く反省しているとして、市議会3月定例会終了後に議員辞職する考えを明かしていた。Aさんはトラブル防止のため、会話の様子を「秘密録音」し、記録に残していることを明かす。 「ところが、3月定例会終了後に電話すると『弁護士に相談したら不法投棄に当たらないし、議員を辞職する必要はないと言われたので、議員活動を続ける』と、あっさり前言撤回したから呆れました。こういう人物の言うことは信用できないし、議員にはふさわしくないと思いますよ」(Aさん) 本多市議を直撃  本多市議は近隣住民のこうした声をどのように受け止めているのか。舘野原の自宅を訪ねたところ、本人が取材に応じた。 ――自分の所有地に廃棄物を捨て、その場で燃やしていたと聞いた。 「廃棄物ではなく、自宅の片付けで出た不要物をごみに出す前に〝仮置き〟していた。ただ、一部を所有地で燃やしたのは事実だ」 ――廃棄物処理法で野焼きが禁止されていることを知らなかったのか。 「ちょっとした判断ミスで、深く認識せずにやった。反省して、弁護士の先生に相談したところ、『そこまでのアレじゃないし、深く考えない方がいい』とアドバイスされた。県の人権擁護委員会の先生、法徳寺の住職にも相談したが、『議員を辞めるまでには至らない』との意見をもらったので、議員活動を続けることにした」 ――いま思うことは。 「議員という立場上、その行動がいろいろな人に見られていることをあらためて自覚したうえで、引き続き議員活動に取り組んでいく」 同市生活環境課によると、Aさんからの連絡を受けて後日、同課職員が現地を確認し、本多市議に厳重注意を行ったという。そもそもごみに出す予定で〝野ざらし〟で農地に置いておいた不要物を「仮置きしていた」という言い分は苦しい。 現地は細い農道を通ってしか入れない場所にあり、ほとんど人通りがない。そんな土地で、公職に就く人が近隣住民に声もかけず自宅の不要物を焼却するのは、客観的に見ても異様に映る。「人の目がないところで何か不都合なものを処分しようとしているのではないか」、「所有地をごみ捨て場代わりに使っていたのではないか」と疑われても仕方ないだろう。 複数の関係者によると、狭い地域の話がウワサとなって市内に広まった背景には▽地縁団体などに推されない形で当選した本多市議と一部の地元住民との確執、▽議会で三保市政の批判を続けており、三保市長の支持者から敵視されている――といった事情も影響しているという。 本多市議とAさんは、土地境界線をめぐって以前からもめているようで、今回のトラブル発生後、逆にAさんが誤って本多市議の所有地の木を無断伐採していたことも発覚したという。そうした経緯もあってか、互いに感情的になっているように見える。 Aさんは廃棄物の撤去を求め、同市生活環境課と二本松署に連絡したが、動きは鈍く、現場を確認した様子は見られなかったという(※)。早い段階で行政機関が対応しなかったことが、結果的に事態を悪化させたとも考えられる。 本多市議は「近所付き合いもあるし、大ごとになればこちらも主張しなければならないことが出てくる。記事にはしてほしくない」と言うが、Aさんは逆に「この事実を多くの人に知ってほしい」と話している。議員として地元住民と良好な関係を築いていくことが求められるが、関係修復は容易でなさそうだ。 ※市生活環境課は「Aさんから通報を受けたので後日当事者(本多市議)に電話して注意した。所有地における廃棄物の捉え方については、グレーな面がある」、二本松署は「個別の案件についてはお答えできない」と回答している。

  • 【二本松市】坂で止まる城報館レンタル電動キックボード

     二本松市観光連盟(会長・三保恵一市長)が観光客向けにレンタルしている電動キックボードについて、「馬力不足で坂をのぼれない」と指摘する利用者の動画がツイッターで拡散され、話題を集めた。悪い意味で注目を集めた格好だが、同連盟では事前に走行試験などを行わなかったのだろうか。 試乗動画拡散で全国の笑いものに にほんまつ城報館  電動キックボードのレンタルは3月31日から、市の歴史観光施設「にほんまつ城報館(以下、城報館と表記)」で行っている。観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう狙いがある。市によると県内初の取り組みだという。電動アシスト付き自転車も併せてレンタルしている。 立ったまま乗れるボードタイプ、自転車のような形状のバイクタイプがある。最高速度は時速30㌔で、利用する際は原動機付き自転車か普通自動車の運転免許が必要。料金は90分1000円。それ以降は30分ごとに500円加算される。 レンタル開始時はテレビや新聞などで大々的に報じられ、地元テレビ局のユーチューブチャンネルには、女性アナウンサーが電動キックボードで坂道をすいすいのぼっていく動画が投稿された。 ところが、7月2日、レンタル利用者によるこんな文章が動画付きでツイッターに投稿された。 《二本松市の電動キックボード貸出事業。全くの企画倒れ。トルク不足でスタート地点の霞ヶ城の三ノ丸から本丸天守台までの坂をのぼれません。また本町商店街へ至る竹田坂や久保丁坂といった切り通し坂も途中で止まってしまいました。市はロードテストも行わず全く無駄なことをしましたね》 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833  城報館から霞ヶ城の天守台や街なかの商店街に向かおうとしたが、馬力不足のため途中の坂道で止まってしまい、身動きが取れなくなった、と指摘しているわけ。 投稿者の佐藤守さん(43)は郡山市在住で大型自動二輪免許を保有し、バイクで通勤する〝バイク乗り〟。都内で見かけることが増えた電動キックボードに注目していたところ、地元テレビ局の紹介動画で城報館のレンタル事業を知り、走行性能の確認に訪れた。注目していたのは航続可能距離だが、実際に走行して馬力の低さに愕然としたという。 ちなみに、レンタルされている電動キックボードは「BLAZE EV SCOOTER」という商品名で、定格出力は0・35㌔㍗。原付一種(0・6㌔㍗)の6割の馬力しかないと考えるとイメージしやすいかもしれない。 佐藤さんの投稿は、73万回表示され、4725の「いいね」が付いた。それだけ関心を持つ人が多かったということだろう。佐藤さんは「行政が貸し出しているキックボードが坂をのぼれない動画は過去になかったので反響をいただいたのかもしれません」と分析したうえで、実際に走行した感想をこのように語る。 「とにかく馬力不足で、公道を安全に走る能力が圧倒的に不足していると感じました。自動車など公道を走行する他の乗り物への影響は考えていたのか、事前のテスト走行は行わなかったのか。安全面においては▽目や耳が保護できない半帽ヘルメットを貸し出していたこと、▽転倒したときの負傷防止用グローブが貸し出されなかったこと、▽サイドスタンドを出した状態でも発進してしまうこと、▽自賠責保険証が携行されておらず、交通事故時の対応に不安が残ること、▽城報館駐車場で行う走行練習は接触リスクがあること――などが気になりました」 佐藤さんの投稿の数日後、本誌記者も電動キックボードをレンタルし、実際に坂道で失速することを確認した(巻頭グラビア参照)。 利用者から上がる辛辣な意見を市観光連盟はどのように受け止めるのか。同連盟の事務局を担う同市観光課に尋ねたところ、河原隆課長は「取材の申し込みをいただき、職員に聞いてツイッターにそうした投稿があったことを知りました」と語り、次のように説明した。 「『導入前に試験は行わなかったのか』と疑問視する投稿がありましたが、バイク乗りを含む市観光課職員10人弱で、安全性や航続可能距離を確かめる走行試験を事前に行っています。その際、女性職員は坂道でもすいすいのぼっていましたが、男性職員はスピードが遅くなり、利用者の体重によって大きな差が生じました。(佐藤守さんの)ツイートの指摘を見て、体重によってスピードに差が出るという説明が不足していたと感じたので、貸し出し時に渡す文書やホームページなどに注意書きを追加しました」 体重によって坂道でスピードが出なくなることを把握していたのに、周知していなかった、と。 河原課長によると、レンタル事業は職員からの提案で始まったもので、2022(令和4)年度当初予算で電動アシスト付き自転車6台、電動キックボード(ボードタイプ・バイクタイプ)計6台、ヘルメットなどの備品を購入した。総事業費は約300万円。車両は複数の候補から予算や走行性能の条件を満たすものを選定したという。 一方で、安全面に関する指摘については「利用前に安全事項や保険に関する説明を行っているし、法律を満たす最低限の基準の装備はそろえています。それ以上の装備を求める場合は、ヘルメットやグローブなどの持ち込みをしていただいても構いません」(河原課長)と説明する。 ただ、観光客がそうした装備をわざわざ持参することは考えにくい。「観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう」という目的とも矛盾している。 6月の利用者は6人 城報館でレンタルしている電動キックボード  電動キックボードに関しては、7月1日に改正道路交通法が施行されたことで、最高速度20㌔の車両の運転は免許不要となり、ヘルメットも努力義務となった。ただ、警察庁によると2022年に41件の人身事故が発生しており、7月には大学生が飲酒運転でタクシーに追突するなど、危険性が報じられている。タイヤの直径が小さい分、段差での衝撃が大きく、バランスを崩して事故につながりやすいという面もある。 佐藤さんの指摘を参考に、より安全に走行できる装備を貸し出すべきではないか。 肝心のレンタル電動キックボードの利用者数(ボードタイプ・バイクタイプの合計)を尋ねたところ、4月20人、5月9人と低迷しており、6月に至ってはわずか6人だった。 河原課長はPR不足と城報館来場者の需要とのミスマッチを要因に挙げる。駅から離れた城報館にわざわざ公共交通機関で向かう観光客は少ないし、あえて城報館まで車で移動し、電動キックボードに乗り換えて市内を巡る人もいないということだ。県内初の取り組みということもあり、甘い見通しのまま〝見切り発車〟してしまった感は否めない。 昨年4月にオープンした城報館の年間入館者数は9万6796人で、目標としていた年間10万人を下回った。目標達成に向けて起爆剤が欲しいところだが、電動キックボードがそうなるとは考えにくい。 前出・佐藤さんはこう語る。 「(馬力不足の電動キックボードを買ってしまった以上)利用しなければどうしようもない。せめて地図で推奨ルートを示し、『この坂は体重〇㌔以上の方はのぼれません』など注意書きを表示しておけば、利用者も心構えができるのではないか」 もっと言えば、城報館を起点に「電動キックボードで巡る観光ツアー」を催せば興味を持つ人が現れるかもしれない。 このままでは、約300万円の事業費をドブに捨てることになる。佐藤さんの指摘を真摯に受け止め、改善策を打ち出すべきだ。 あわせて読みたい 【本誌記者が検証】二本松市の「ガッカリ」電動キックボード貸出事業  

  • 【本誌記者が検証】二本松市の「ガッカリ」電動キックボード貸出事業

     二本松市観光連盟は3月31日から、観光客向けに市の歴史観光施設「にほんまつ城報館」で電動キックボード・電動バイクの貸し出しを行っている。 二本松市の地図データ(国土地理院、『政経東北』が作成)  ところが、7月上旬、その電動キックボードの馬力不足を指摘する体験リポート動画がツイッターで拡散。同施設でレンタルされている車両が、坂道をまともにのぼれない実態が広く知られることとなった。 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833  動画を見ているうちに、実際にどんな乗り心地なのか体感してみたくなり、投稿があった数日後、同施設を訪れて電動キックボードをレンタルしてみた(90分1000円)。 安全事項や機器の説明、基本的な操作に関する簡単なレクチャーを受けた後、練習に同施設の駐車場を2周して、いざ出発。 同施設から観光スポットに向かうという想定で、二本松城(霞ヶ城)天守台への坂道、竹根通り、竹田坂、亀谷坂などを走行した。だが、いずれのルートも坂道に入るとスピードが落ち始め、最終的に時速5㌔(早歩きぐらいのスピード)以下となってしまう。運転に慣れないうちはバランスが取りづらく、うまく地面を蹴り進めることもできないため、車道の端をひたすらゆっくりとのぼり続けた。追い越していく自動車のドライバーの視線が背中に突き刺さる。 竹根通りで最高速度を出して上機嫌だったが…… 竹田坂、亀谷坂をのぼっている途中で失速し、必死で地面を蹴り進める  レンタルの電動アシスト自転車(3時間300円)に乗りながら同行撮影していた後輩記者は、「じゃあ、僕、先に上に行っていますね」とあっという間に追い越していった。 運転に慣れてくると、立ち乗りで風を切って進んでいく感覚が楽しくなる。試しに竹根通りをアクセル全開で走行したところ、時速30㌔までスピードが出た(さすがに立ち乗りでは怖かったので座って運転)。軽装備ということもあり、転倒の恐怖は付きまとうが、爽快感を味わえた。 しかし、そう思えたのは下り坂と平地だけ。亀谷坂では、「露伴亭」の辺りで失速し、地面を蹴っても進まなくなり、炎天下で、20㌔超の車両を汗だくで押して歩いた。総じて快適さよりも、坂道で止まってしまう〝ガッカリ〟感の方が大きく、初めて訪れた観光客におすすめしたい気分にはなれなかった。 右ハンドル付け根にアクセル(レバー)と速度計が取り付けられている 二本松城天守台に到着する頃には疲労困憊  同連盟によると「(体重が軽い)女性は坂道もスイスイのぼれる」とのこと。体重75㌔の本誌記者では限界がある……ということなのだろうが、そもそも中心市街地に坂道が多い同市で、その程度の馬力の乗り物をなぜ導入しようと考えたのか。 54頁からの記事で導入の経緯や同連盟の主張を掲載しているので、併せて読んでいただきたい。(志賀) 「にほんまつ城報館」には甲冑着付け体験もあり(1回1000円) https://twitter.com/seikeitohoku/status/1677459284739899392

  • 県議選【二本松市】「自民2議席独占」に不安材料

     任期満了に伴う第20回福島県議選は11月2日告示、同12日投開票で行われる。定数58、19選挙区は前回同様。無投票とみられる選挙区も少なくない中、定数2の二本松市選挙区では現職1人と新人2人が立候補の準備を進めている。 ◎2019年11月10日告示当 遊佐 久男 60 無現当 高宮 光敏 48 無現※無投票当選 ◎2015年11月15日投票当 10743 遊佐 久男 56 無現当 6699 高宮 光敏 44 無新  5644 中田 凉介 59 無新  3614 鈴木 雅之 37 無新※投票率57.78% 立候補予定者3氏の評判【高宮光敏】【石井信夫】【鈴木雅之】  現在、二本松市選挙区から選出されているのは共に自民党の遊佐久男氏(64、3期)と高宮光敏氏(52、2期)。このうち遊佐氏は次の県議選に立候補せず、今期限りで引退することを表明した。 旧安達町出身。福島大学経済学部中退。2011年の県議選で初当選した。 「数年前に脳梗塞を患った。復帰後は動作に不安はなかったが、失語症に陥った」(ある自民党員) 遊佐氏は、手元に原稿があれば問題なく話せたが、ノー原稿だと言葉に詰まる場面が見られた。政治家が言葉を発せなくなるのは致命的だ。 「家族から『もう十分やった』と言われ、早い段階で引退を決めていた。健康状態に問題がなければ、もう少し続けてほしかった」(同) 惜しまれる声があるのは、人望の厚かった証拠だろう。しかし、遊佐氏の後継をめぐっては不満の声が漏れている。 遊佐氏が引退表明(6月5日)した翌日、石井信夫氏(57)が立候補することを表明した。 石井信夫氏  《自民党二本松市総支部が党県連に推薦を申請する。 石井氏は県庁で記者会見し、「自分が住む東和地域にも過疎化の波が押し寄せている。過疎化に歯止めをかけ、活力ある地域をつくりたい」と語った》(福島民報6月7日付) 旧東和町出身。川俣高校卒。製造業や印刷業の会社員として40年近く勤務。自民党には2018年に入党したが、これまで選挙に立候補した経験はない。 自民党二本松市総支部の関係者によると、今年4月ごろ、石井氏の公認・推薦をめぐり各支部で協議が行われた。しかし、市町村議を務めた実績がなく、党員歴も浅く、年齢も若くないため「意気込みは評価するが、候補者に適任なのか」と強く推す雰囲気は少なかったという。 そうした中で6月5日、自民党二本松市総支部役員総会が開かれ、総支部長の遊佐氏が正式に引退を表明すると共に「後継に石井信夫氏を据えたい」と発言した。ところが、 「総会の最後に石井氏から挨拶があると思ったら、何もないまま閉会したのです」(総支部関係者) 出席者はここで初めて、石井氏が役員総会を欠席していたことを知ったという。 「後継指名の場に当事者がいないのはおかしい。石井氏が欠席した理由も聞かされなかった」(同) 実は、各支部の中には石井氏と直接面会した支部もあれば一度も面会していない支部もあり、支部役員からは「会ったこともない人の公認・推薦を協議しろというのか」と不満が漏れていた。その最中に石井氏は役員総会までも欠席したから、石井氏の姿勢や総支部の対応を問題視する声が上がったのだ。 挙げ句、翌6日には石井氏が記者会見を開いて立候補を正式表明、党県連に推薦を申請すると報じられたため、一部の支部役員・党員は「順番が逆」「筋道を通していない」と憤っているわけ。 なぜ大事な後継指名の場を欠席したのか。石井氏に尋ねると「体調を崩していた」と言う。 「しばらく調子が悪くて、岩代や東和などの支部にも足を運べなかった。そうこうしているうちに6月5日の総支部役員総会を迎えてしまって……。遊佐氏の引退表明と後継指名の場にいなかったことは申し訳なく思っています」(石井氏) 選挙に携わる人たちは順番や筋道を重んじる。裏を返せば、順番や筋道を間違えたら十分な支援を受けられなくなる恐れがある。一部の支部役員・党員は石井氏の立候補表明に不満を持っていると伝えると、石井氏は反省していた。 「今後、諸先輩方にアドバイスをいただき、誤解を招いたのであれば各地に出向いて立候補に至る経緯や私の考えを伝えていきたい」(同) ちなみに体調は「良くない時期が長引いていたが、今は全く問題ありません」とのこと。 「私はPTA、スポ少、消防団などの活動を通じて地域の問題に関心を深めてきました。政治経験はゼロですが、遊佐後援会の青年部で活動したり、市議の選挙を手伝ってきたので政治が全く分からないわけではありません。今後、遊佐氏の後を引き継いでいければと思います」(同) 石井氏の地元・東和地域には「彼に本当に県議が務まるのか」と訝しむ声がある。支部役員・党員だけでなく地元の支持も獲得しないと、ただでさえ苦労する初めての選挙は一層厳しいものになるだろう。 〝ヤンチャ体質〟に嫌気 高宮光敏氏  自民党のもう一人の現職・高宮氏は6月22日現在、態度を明らかにしていないが、3選を目指して立候補するものとみられる。 二本松市出身。東海大学体育学部卒。都内の電気工業会社を経て家業の岳下電機に入社。2012年、ミヤデンに商号変更すると同時に代表取締役に就任した。父親で創業者・前社長の敏夫氏(19年死去)は二本松市議、県議を務め、05年の市長選にも立候補した(結果は落選)。光敏氏はその後を継いで15年の県議選で初当選した。 高宮氏と言えば「資産の多さ」で有名だ。県の資産公開条例に基づき2020年4月に公開された資料によると、高宮氏は土地分で4669万円、建物分で8554万円、預金や投資信託などで8015万円、計2億1238万円と県議58人中トップの資産を誇る。 「大人になった今も学生時代の後輩をあごで使っている。そういう関係性に嫌気を差し、最初は高宮氏を応援していたが袂を分かった若手経済人は結構います。『オレは自民党員だが高宮氏の選挙はやらない』と公然と口にする人もいます。前回の県議選は無投票だったのに、やたらとカネを使っていた。昔からの〝ヤンチャ体質〟を改めないと、支持は広がらないと思う」(高宮氏をよく知る自民党員) そんな高宮氏と石井氏に割って入るのが鈴木雅之氏(45)。立憲民主党県連常任幹事で、同党から公認を受ける予定だ。 鈴木雅之氏  二本松市出身。石巻専修大学経営学部卒。2015年の県議選に無所属で立候補したが落選した。市内で学習塾を経営する。 「前回の県議選も本人は出る意向だったが、家族の理解が得られず断念した。今回も家族は乗り気ではないと聞いている」(市内の選挙通) 鈴木氏は前々回の県議選で3600票余を獲得しているが、反自民で三保恵一市長の支持者が支援に回れば、前々回次点だった中田凉介氏と同等かそれ以上の得票(別掲)が期待できるのではないか。そもそも前々回は、鈴木氏が立候補せず三つ巴だったら中田氏が当選していた可能性が高かった。石井氏、高宮氏より年齢が若いことも無党派層には魅力に映るかもしれない。 二本松市選挙区は前回、前々回と自民党が2議席を独占しているが、人望が厚く選挙も強かった遊佐氏に比べ、石井氏と高宮氏には不安材料がある。その間隙を鈴木氏が突くことができれば、自民2議席独占の牙城は崩れるかもしれない。

  • 【二本松市】行政連絡員の「委託料」を検証【高額?適正?】

    (2022年8月号)  二本松市の行政連絡員の委託料が高過ぎる――そんな投書が本誌編集部に寄せられた。〝相場〟は判然としないが、実際どうなのか。 手渡し支給は改めるべき 二本松市役所  《私自身3~4万位かと思っておりましたが、遥か想像を絶する金額にただただ驚いておりますが、本当に今のままでよろしいのでしょうか疑問です》(原文のまま) 6月下旬、本誌編集部に届いた葉書にはそんな一文が書かれていた。 「政経東北愛読者」を名乗る人物は、葉書の中で二本松市の行政連絡員に支払われている委託料を問題視していた。同市議会3月定例会で石井馨議員が委託料に関する質問をしており「詳細は石井議員に問い合わせてほしい」とある。 問題提起した石井馨前市議  ただ、2期務めた石井氏は2022年6月5日投票の市議選に立候補せず、議員を引退していた。石井氏に連絡すると 「私はもう議員じゃないし、次の就職先も決まったので取材は遠慮したい。でも、あの委託料は問題あると思うよ」 と話す。詳細は同市議会のホームページで公開されている会議録を見てほしいというので確認すると、石井氏は3月4日の一般質問で次のような質問をしていた。 ①行政連絡員の委託料は均等割プラス世帯割となっているが、規定通り支給されているのか。 ②委託料の額が近隣自治体と比べて高いと思われるが、市はどう認識しているのか。それを是正する考えはあるのか。 ③委託料は行政連絡員に現金による一括支給となっているが、公金の支出という点を考慮すれば口座振り込みに変更すべきだ。 行政連絡員とは「市民と市政を結ぶ連絡調整役」(市生活環境課の資料より)で、行政区長が兼務しているケースがほとんどだという。市内には行政区が354あるので、行政連絡員も同人数いることになる。 行政連絡員の主な職務は▽市民との連絡に関すること、▽広報紙や市政に関する周知文書の配布、▽市が行う各種調査や加入募集事項の取りまとめ、▽その他市長が特に必要と認めること。任期は1年で再任は妨げないとしており、職務に対しては市が「委託料」を支払っている。支払い方法は安達・岩代・東和地区の行政連絡員には年1回一括、二本松地区の行政連絡員には年2回(7、2月)に分けて支払われている。 葉書の差出人は、この委託料が高過ぎると指摘しているわけだが、実際どうなのか。市生活環境課の伊藤雅弘課長に話を聞いた。 「委託料は、行政連絡員に一律4万円を支払い(均等割)、そこに世帯数に応じた金額(世帯割)を加算しています」 世帯割は7段階に設定され、①10世帯以下は2400円、②11~20世帯は1750円、③21~50世帯は1550円、④51~100世帯は1400円、⑤101~300世帯は1390円、⑥301~500世帯は1380円、⑦500世帯以上は1370円。 これだけでは分かりづらいので具体例を示そう。例えば8世帯の行政連絡員には(均等割4万円)+(2400円×8世帯)=5万9200円の委託料が支払われている。これが15世帯の行政連絡員になると(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×5世帯)=7万2750円という具合に、世帯数が多くなるにつれて委託料も高くなる積み上げ方式で算定される。 ちなみに350世帯の行政連絡員の場合は(均等割4万円)+(2400円×10世帯)+(1750円×10世帯)+(1550円×30世帯)+(1400円×50世帯)+(1390円×200世帯)+(1380円×50世帯)=54万5000円の委託料が支払われている。 委託料は、合併前の4市町でも均等割と世帯割を用いて算定していた経緯があり(ただし二本松と安達では委託料、岩代と東和では報酬という名称だった)、現在の算定方法も二本松・東北達地方合併協議会で複数回にわたって議論し、決定した。 同合併協議会の資料にも次のような記述がある。 《委託料については、現行の二本松市の例により新市に引き継ぎ、合併前の市町単位に算定して一括配分し、それぞれの住民自治組織等と調整して業務内容に応じて受託者等へ交付する》 前出・石井氏の3月定例会での一般質問によると、2021年度、委託料を最も多くもらっている行政連絡員は141万円。さらに80・60・50万円台は7人、40・30万円台は5人、20万円台は20人以上に上ったという。平均では12万7000円とも指摘している。 これだけ聞くと「年間141万円ももらっている行政連絡員がいるのか」と思ってしまうが、それは誤解だ。正確には、141万円の委託料が行政連絡員を通じて行政区に支払われ、その中から行政連絡員への報酬が支払われているのだ。ただし実際の報酬がいくらかは「その行政区の決算書を見なければ分からない」(前出・伊藤課長)。要するに行政連絡員は、行政区を代表して市から委託料を受け取っている(預かっている)に過ぎないのだ。 「支払っているのはあくまで委託料であり、報酬ではありません。行政連絡員の報酬額は各行政区で話し合って決めており、合併前の旧市町時代から踏襲している行政区もあるでしょうから、そこに市が『報酬はいくらにしろ』と口を挟むことはしていません」(伊藤課長) こうなると、行政区によっては常識的な額が支払われているケースもあれば、法外な額が支払われている可能性も出てくるが、そこは各行政区が開いている総会で、委託料がきちんと執行されているか、不正が行われていないかを当該住民が監視するしかなさそうだ。 「ただ、2005年に合併して以降、委託料が不正に使われているとか、行政連絡員に法外な報酬が支払われているといった苦情が市民から寄せられたことはありません。市としては委託料が適切に執行され、報酬も常識的な額が支払われているものと認識しています」(同) 求められる住民の監視  ちなみに、市が行政区の世帯数を200世帯と仮定し、県内12市と県北管内3町1村を比較したところ、二本松市の委託料は33万7000円で、同市より高額なのは2市、同額は1村、低額は10市3町という結果だった。同市の委託料は高額の部類に入るが、だからと言って行政連絡員の報酬も高額かどうかは分からないので、葉書の差出人が言うような「同市の委託料が高過ぎる」とは断定しづらい。 しかし、支払い方法には大いに問題がある。同市は行政連絡員一人ひとりに現金で直接手渡ししているのだ。令和の時代に極めて珍しい光景と言えるが、委託料が公金であることを踏まえれば、石井氏が指摘するように口座振り込みが行われてしかるべきだろう。さらに言うと、行政連絡員の個人口座に振り込めば、着服や私的流用の恐れもゼロではないので、行政区の口座に振り込むことを徹底すべきだ。 「委託料の手渡しについては、今後改善に向けて検討していきたいと思います」(同) 行政連絡員が法外な報酬をもらっているわけではないことが、お分かりいただけただろうか。かと言って正確な報酬がいくらかは、行政区ごとに異なるため判然としない。委託料の源資が公金である以上、報酬については市に報告し、非常識な額が支払われている場合は市が指導してもいいように思われる。もちろん、当該住民が総会等を通じて監視することも求められる。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

  • 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

     二本松市役所で産業部長によるパワハラ・モラハラが横行している。被害者が声を上げないため公には問題になっていないが、部下の課長2人が2年連続で出先に異動し、部内のモチベーションは低下している。昨今は「ハラスメントを許さない」という考えが社会常識になっているが、三保恵一市長はこうした状況を見過ごすのか。そもそも、三保市長自身にもパワハラ疑惑が持ち上がっている。(佐藤仁) 「城報館」低迷の責任を部下に押し付ける三保市長  まずは産業部内で起きている異変を紹介したい。同部は農業振興、商工、観光の3課で組織されるが、舞台となったのは観光課である。 2021年4月から観光課長に就いたA氏が、1年で支所課長として異動した。その後任として22年4月から就いたB氏も半年後に病休となり、11月に復職後は住民センター主幹として異動した。課長から主幹ということは降格人事だ。 B氏の後任は現在も決まっておらず、観光課長は空席になっている。 菊人形、提灯祭り、岳温泉など市にとって観光は主要産業だが、観光行政の中心的役割を担う観光課長が短期間のうちに相次いで異動するのは異例と言っていい。 原因は、荒木光義産業部長によるハラスメントだという。 「荒木部長の言動にホトホト嫌気が差したA氏は、自ら支所への異動を願い出た。『定年間近に嫌な思いをして仕事をするのはまっぴら。希望が通らなければ辞める』と強気の姿勢で異動願いを出し、市に認めさせた。これに対し、B氏は繊細な性格で、荒木部長の言動をまともに受け続けた結果、心身が病んだ。問題は1カ月の病休を経て復職後、主幹として異動したことです。職員の多くは『被害者が降格し、加害者がそのまま部長に留まっているのはおかしい』と疑問視しています」(市役所関係者) 荒木部長のハラスメントとはどういうものなのか。取材で判明した主な事例を挙げると①感情の浮き沈みが激しく、機嫌が悪いと荒い口調で怒る。②指導と称して部下を叱責する。いじめの部類に入るような言い方が多々みられる。③陰口が酷く、他者を「奴ら」呼ばわりする。④自分だけのルールを市のルールや世間の常識であるかのように押し付け、部下が反論すると叱責する。⑤部下が時間をかけて作成した資料に目を通す際、あるいは打ち合わせで部下が内容を説明する際、自分の意図したものと違っていると溜息をつく。⑥「なぜこんなこともできない」と面倒くさそうに文書の修正を行う。ただし、その修正は決して的確ではない。⑦上司なので上からの物言いは仕方ないとして、人を馬鹿にしたような態度を取るので、部下は不快に感じている。⑧親しみを込めているつもりなのか部下をあだ名で呼ぶが、それによって部下が不快な思いをしていることに気付いていない。 分類すると①~③はパワハラ、⑤~⑧はモラハラ、④はモラパワハラになる。 さらにモラハラについては▽文書の直しが多く、かつ細かすぎて、最後は何を言いたいのか分からなくなる▽30分で済むような打ち合わせを2、3時間、長い時は半日かけて行う▽同じ案件の打ち合わせを何度も行う▽市長、副市長に忖度し、部下はそれに振り回されている▽予算を度外視した事業の実施や、当初・補正予算に高額予算を上げることを強要する――等々。おかげで部下は疲弊しきっているという。 そんな荒木部長の機嫌を大きく損ねている最大の原因が、市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下、城報館と略)の低迷である。 低迷する城報館 2階部分から伸びる渡り廊下  城報館は昨年4月、県立霞ヶ城公園(二本松城跡)近くにオープンした。1階は歴史館、2階は観光情報案内というつくりで、2階には同公園との行き来をスムーズにするため豪華な渡り廊下が設置された。駐車場は大型車2台、普通車44台を停めることができる。 事業費は17億1600万円。財源は合併特例債9億8900万円、社会資本整備総合交付金5億3600万円、都市構造再編集中支援事業補助金1億3900万円を使い、残り5000万円余は市で賄った。 市は年間来館者数10万人という目標を掲げているが、オープンから10カ月余が経つ現在、市役所内から聞こえるのは「10万人なんて無理」という冷ややかな意見である。 「オープン当初こそ大勢の人が詰めかけたが、冬の現在は平日が一桁台の日もあるし、土日も60~70人といったところ。霞ヶ城公園で菊人形が開催されていた昨秋は菊人形と歴史館(※1)を組み合わせたダブルチケットを販売した効果で1日200人超の来館者数が続いたが、それでも10万人には届きそうもない」(ある市職員) ※1 城報館は入場無料だが、1階の歴史館(常設展示室)の見学は大人200円、高校生以下100円の入場料がかかる。  市観光課によると、昨年12月31日現在の来館者数は8万6325人、そのうち有料の常設展示室を訪れたのは4万2742人という。 市内の事業主からは「無駄なハコモノを増やしただけ」と厳しい意見が聞かれる。 「館内にはお土産売り場も飲食コーナーもない。2階に飲食可能な場所はあるが、自販機があるだけでコーヒーすら売っていない。あんな造りでどうやって観光客を呼ぶつもりなのか」(事業主) 市は昨年秋、菊人形の来場者を城報館に誘導するため、例年、菊人形会場近くで開いている物産展を城報館に移した。三百数十万円の予算をかけて臨時総合レジを設ける力の入れようだったが、物産展を城報館で開いているという告知が不足したため、菊人形だけ見て帰る人が続出。おかげで「ここはお土産を買う場所もないのか」と菊人形の評価が下がる始末だったという。 「城報館に物産展の場所を移しても客が全然来ないので、たまりかねた出店者が三保市長に『市長の力で何とかしてほしい』と懇願した。すると三保市長は『のぼり旗をいっぱい立てたので大丈夫だ』と真顔で答えたそうです」(同) 三保恵一市長  本気で「のぼり旗を立てれば客が来る」と思っていたとしたら、呆れて物が言えない。 オープン前の市の発表では、年間の維持管理費が2300万円、人件費を含めると4400万円。これに対し、主な収入源は常設展示室の入場料で、初年度は950万円と見込んでいた。この時点で既に3450万円の赤字だが、そもそも950万円とは「10万人が来館し、そのうち5万人が常設展示室を見学する=入場料を支払う」という予測のもとに成り立っている。10万人に届きそうもない状況では、赤字幅はさらに膨らむ可能性もある。 上司とは思えない言動  前出・市職員によると、常設展示室で行われている企画展の内容は素晴らしく、二本松城は日本100名城に選ばれていることもあり、歴史好きの人は遠く関東や北海道からも訪れるという。しかし、歴史に興味のない一般の観光客が訪れるかというと「一度は足を運んでも、リピーターになる可能性は薄い」(同)。多くの人に来てもらうには、せめてお土産売り場や飲食コーナーが必要だったということだろう。 「施設全体で意思統一が図られていないのも問題。城報館は1階の歴史館を市教委文化課、2階の観光情報案内を観光課が担い、施設の管理運営は観光課が行っているため、同じ施設とは思えないくらいバラバラ感が漂っている」(同) 筆者も先月、時間をかけて館内を見学したが(と言っても時間をかけるほどの中身はなかったが……)、もう一度来ようという気持ちにはならなかった。 早くもお荷物と化しそうな雰囲気の城報館だが、そんな同館を管理運営するのが観光課のため、批判の矛先が観光課長に向けられた、というのが今回のハラスメントの背景にあったのである。 関係者の話を総合すると、A氏が課長の時は城報館のオープン前だったため、この件でハラスメントを受けることはなかったが、B氏はオープンと同時に課長に就いたため、荒木部長だけでなく三保市長からも激しく叱責されたようだ。 「荒木部長は『オレはやるべきことをやっている』と責任を回避し、三保市長は『何とかして来館者を増やせ』と声を荒げるばかりで具体的な指示は一切なかった。強いて挙げるなら、館内受付の後方に設置された曇りガラスを透明ガラスに変え、その場にいる職員全員で客を迎えろという訳の分からない指示はあったそうです。挙げ句『客が来ないのはお前のせいだ』とB氏を叱責し、荒木部長はB氏を庇おうともしなかったというから本当に気の毒」(前出・市役所関係者) 観光課が管理運営を担っている以上、課長のB氏が責任の一部を問われるのは仕方ない面もあるが、上司である荒木氏の責任はもっと重いはずだ。さらに建設を推し進めたのが市長であったことを踏まえると、三保氏の責任の重さは荒木部長の比ではない。にもかかわらず、荒木部長はB氏を庇うことなく責任を押し付け、三保市長は「客が来ないのはお前のせいだ」とB氏を叱責した。上司のあるべき姿とは思えない。 もともと城報館は新野洋元市長時代に計画され、当時の中身を見ると1階は多言語に対応できる観光案内役(コンシェルジュ)を置いてインバウンドに対応。地元の和菓子や酒などの地場産品を販売し、外国人観光客を意識した免税カウンターも設置。そして2階は歴史資料展示室と観光、物産、歴史の3要素を兼ね備えた構想が描かれた。管理運営も指定管理者や第三セクターに委託し、館長がリーダーシップを発揮できる形を想定。年間来館者数は20万人を目標とした。 加害者意識のない部長  しかし、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと、この計画は見直され、1階が歴史、2階が観光と逆の配置になり、物産は消失。管理運営も市直営となり、観光課長が館長を兼ねるようになった。 新野元市長時代の計画に沿って建設すれば来館者が増えたという保障はないが、少なくとも施設のコンセプトははっきりしていたし、一般の観光客を引き寄せる物産は存在していた。それを今の施設に変更し、議会から承認を得て建設を推し進めたのは三保市長なのだから、客が来ない責任を部下のせいにするのは全くの筋違いだ。 自治労二本松市職員労働組合の木村篤史執行委員長に、荒木部長によるハラスメントを把握しているか尋ねると次のように答えた。 「観光課長に対してハラスメント行為があったという声が寄せられたことを受け、組合員230人余に緊急アンケートを行ったところ(回答率7割)、荒木部長を名指しで詳述する回答も散見されました。組合としては現状を見過ごすわけにはいかないという立場から、結果を分析し、踏み込んだ内容を市当局に伝えていく考えです」 ハラスメントは、一歩間違えると被害者が命を失う場合もある。被害者に家族がいれば、不幸はたちまち連鎖する。一方、加害者は自分がハラスメントをしているという自覚がないケースがほとんどで、それが見過ごされ続けると、職場全体の士気が低下する。働き易い職場環境をつくるためにも、木村委員長は「上司による社会通念から逸脱した行為は受け入れられない、という姿勢を明確にしていきたい」と話す。 筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者とは認識していない様子が垣間見えた。 ちなみに、荒木部長は安達高校卒業後、旧二本松市役所に入庁。杉田住民センター所長、商工課長を経て産業部長に就いた。定年まで残り1年余。 三保市長にも秘書政策課を通じて①荒木部長によるハラスメントを認識しているか、②認識しているなら荒木部長を処分するのか。またハラスメント根絶に向けた今後の取り組みについて、③今回の件を公表する考えはあるか、④三保市長自身が元観光課長にパワハラをした事実はあるか――と質問したが、 「人事管理上の事案であり、職員のプライバシー保護という観点からコメントは控えたい」(秘書政策課) ただ、市議会昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する一般質問を行った際、三保市長はこう答弁している。 「パワハラはあってはならないと考えています。そういう事案が起きた場合は厳正に対処します。パワハラは起こさない、なくすということを徹底していきます」 疲弊する地方公務員  荒木部長は周囲に「定年まで残り1年は安達地方広域行政組合事務局長を務めるようになると思う」などと発言しているという。同事務局長は部長職なので、もし発言が事実なら、産業部長からの横滑りということになる。被害者のB氏は課長から主幹に降格したのに、加害者の荒木氏は肩書きを変えて部長職に留まることが許されるのか。 「職員の間では、荒木氏は三保市長との距離の近さから部長に昇格できたと見なされている。その荒木氏に対し三保市長が処分を科すのか、あるいはお咎めなしで安達広域の事務局長にスライドさせるのかが注目されます」(前出・市役所関係者) 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、2021年度に心の不調で病休となった地方公務員は総務省調査(※2)で3万8000人を超え、全職員の1・2%を占めたという。 ※2 令和3年度における地方公務員の懲戒処分等の状況  (令和3年4月1日~令和4年3月31日)調査  心の不調の原因は「対人関係」「業務内容」という回答が多く、パワハラ主因説の根拠になっている。 身の危険を感じた若手職員は離脱していく。2020年度の全退職者12万5900人のうち、25歳未満は4700人、25~30歳未満は9200人、30~35歳未満は6900人、計2万0800人で全退職者の16・5%を占める。せっかく採用しても6人に1人は35歳までの若いうちに退職しているのだ。 そもそも地方自治体は「選ばれる職場」ではなくなりつつある。 一般職地方公務員の過去10年間の競争試験を見ると、受験者数と競争率は2012年がピークで60万人、8・2倍だったが、19年がボトムで44万人、5・6倍と7割強まで激減した。内定を出しても入職しない人も増えている。 地方公務員を目指す人が減り、せっかく入職しても若くして辞めてしまう。一方、辞めずに留まっても心の不調を来し、病休する職員が後を絶たない。 「パワハラを放置すれば、地方自治体は職場としてますます敬遠されるでしょう。そうなれば人手不足が一層深刻化し、心の不調に陥る職員はさらに増える。健全な職場にしないと、こうした負のループからは抜け出せないと思います」(上林氏) 地方自治体は、そこまで追い込まれた職場になっているわけ。 定例会で「厳正に対処する」と明言した三保市長は、その言葉通り荒木部長に厳正に対処すると同時に、自身のハラスメント行為も改め、職員が働き易い職場づくりに努める必要がある。それが、職員のモチベーションを上げ、市民サービスの向上にもつながっていくことを深く認識すべきだ。  ※被害者の1人、B氏は周囲に「そっとしておいてほしい」と話しているため、議員はハラスメントの実態を把握しているが、一般質問などで執行部を追及できずにいる。昨年12月定例会で菅野明議員がパワハラに関する質問をしているが、B氏の件に一切言及しなかったのはそういう事情による。しかし本誌は、世の中に「ハラスメントは許さない」という考えが定着しており、加害者が部長、市長という事態を重く見て社会的に報じる意義があると記事掲載に踏み切ったことをお断わりしておく。 あわせて読みたい 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」 ハラスメントを放置する三保二本松市長

  • 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声

    (2021年3月号)  本誌2018年2月号に「二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上」という記事を掲載した。二本松市岩代地区で民間事業者によるメガソーラー計画が浮上しており、その詳細をリポートしたもの。その後、同事業ではすでに工事が始まっているが、かなりの大規模開発になるため、地元住民からは「大雨が降ったら大丈夫か」と心配する声が出ている。 令和元年東日本台風を経て地元民感情に変化  2018年当時、地元住民に話を聞いたところ、「この一帯でメガソーラーをやりたいということで、事業者がこの辺りの地権者を回っている」とのことだった。 さらにある地権者によると、計画地は二本松市岩代地区の上長折字加藤木地内の山林・農地で、市役所岩代支所から国道459号沿いに3㌔ほど東に行った辺り。用地交渉に来ているのは栃木県の会社で、同社から「買収を想定しているのは約150㌶」「送電鉄塔が近くにあるため、メガソーラー用地として適しており、ぜひここでやりたいから協力(用地売却)してほしい」と説明・協力要請されたのだという。 この地権者は当時の本誌取材に次のように述べていた。 「計画地の大部分は山林や農地で、私の所有地は農地ですが、いまは耕作していません。その近隣も遊休農地が少なくないため、売ってもいいという人は多いのではないかと思います。おおよそですが、地権者は20〜30人くらいになると思われ、そのうちの何人かに聞いてみたのですが、多くは売ってもいいと考えているほか、すでに土地を売った人もいます。ただ、最初に事業者が私のところに来たのは、確かいま(記事掲載時の2018年)から2年ほど前だったと思いますが、その後も近隣の地権者を回っている様子はうかがえるものの、進展が見られません」 そこで、事業者に電話で問い合わせたところ、次のように明かした。 「当社は企画を担当しており、現在は地元地権者に協力を求めている状況ですが、実際の発電事業者は別な会社になるため、そちらにも相談してみないとお答えできないこともあります」 ただ、少なくとも「計画自体が進行中なのは間違いありません」とのことだった。 そのほか、同社への取材で、その時点で用地の約8割がまとまっていること、地権者との交渉と並行して周辺の測量などを進めていること、環境影響評価などの開発行為に関する手続きの準備・協議を管轄行政と進めていること――等々が明らかになった。 なお、同社は「近く、発電事業者との打ち合わせがあるので、取材の問い合わせがあったことは伝えておきます。そのうえで、あらためてお伝えできることがあればお伝えします」とも述べていたが、その後、同社から前述したこと以外の説明はなかった。 それから3年ほどが経った2021年1月、当時本誌にコメントしていた地権者から、こんな情報が寄せられた。 「同計画では、すでに工事が始まっていますが、予定地の山林が丸裸にされており、大雨が降ったら大丈夫なのかと不安になってきました。最初は、私も(同計画に対して)『どうせ、使っていない(耕作していない)土地だし、まあいいだろう』と思って、用地買収に応じましたが、それはあの災害の前でしたし、実際に山林が剥かれた現場を見ると、やっぱり大丈夫なのかなとの思いは拭えません」 コロナで説明の場もナシ まだ手付かずの事業用地もあり、開発面積はかなりの規模になる。  この地権者が言う「あの災害」とは、令和元年東日本台風を指している。この災害で同市では2人の死者が出たほか、住宅、農地、道路など、さまざまな部分で大きな被害を受けた。とりわけ、同市東和地区、岩代地区での被害が大きかったという。 そうした大きな災害があった後だけに、当初こそメガソーラー計画に賛意を示したものの、「これだけの大規模開発が行われ、山林が丸裸になった現場を見ると、大丈夫なのかとの思いを抱かずにはいられない」というのだ。加えて、同地区では、令和元年東日本台風の数年前にも大きな水害に見舞われたことがあり、「何年かに一度はそういったことがあり、特に近年は自然災害が増えているから余計に不安になります」(前出の地権者)という。 開発対象の森林面積は全体で約38㌶に上り、そのうち実際に開発が行われるのは約18㌶というから、かなりの大規模開発であることがうかがえる。 「当然、事業者もその辺(水害対策)は考えているだろうと思いますし、環境影響評価や開発許可などの手続きも踏んでいます。何らかの違反・違法行為をしているわけではありませんから、表立って『抗議』や『非難』をできる状況ではないと思いますが、やっぱり心配です」(同) この地権者に、そういった不安を抱かせた背景には、「新型コロナウイルスの影響」も関係している。 その理由はこうだ。 「以前は何か動きがあると、事業者から詳細説明がありました。ただ、新型コロナウイルスの問題が浮上してからは、そういうことがなくなりました。一応、経過説明などの文書が回ってくることはありますが、それだけではよく分からないこともありますし、疑問に思ったことがあっても、なかなか質問しにくい状況になっています。だから、余計に心配なのです」(同) 以前は、関係者を集めて説明する、あるいは地権者・近隣住民宅を訪問して説明する、といったことがあったようだが、コロナ禍でそうしたことが省略されているというのだ。一応、事業者から経過説明などの文書が届くことはあるようだが、それだけではよく分からないこともあるほか、疑問に思ったことを質問することもできない、と。 その結果、これだけの大規模開発を行い、山を丸裸にして治水対策などは本当に大丈夫なのか、といった不安を募らせることになったわけ。 用地買収に当たった事業者と、実際の発電事業者が別なこともあり、事業者の正確な動きはつかめていないが、いずれにしても、地元住民の不安が解消されるような対策・説明が求められる。 あわせて読みたい 二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上

  • 二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上

    (2018年2月号)  二本松市岩代地区で、民間事業者による大規模太陽光発電(メガソーラー)計画が浮上している。ある地元地権者によると、「事業者から最初に用地交渉の話があったのは2年ほど前」とのことだが、その後、計画は進展している様子が見受けられないという。 進展の遅さにヤキモキする地権者  本誌2017年12月号に「増え続ける『太陽光発電』の倒産 それでも絶えない設置計画」という記事を掲載した。原発事故以降、再生可能エネルギーの必要性が叫ばれ、その中心的な存在となっていた太陽光発電だが、東京商工リサーチのリポートによると、近年は太陽光発電関連事業者の倒産が相次いでいるのだという。そこで、あらためて同事業の状況を見た中で、同事業は成長産業と見込まれていたが、新規参入が相次いだこともあり、倒産事例も増えていることなどをリポートしたもの。 ただ、そんな中でも、本誌には県内での太陽光発電の計画話がいくつか伝わっており、同記事では二本松市岩代地区の住民のこんな声を紹介した。 「この地域(二本松市岩代地区)で太陽光発電事業をやりたいということで、少し前から事業者が山(山林)や農地を持っている地権者のところを回っているようです。それも、その範囲はかなりの広範にわたっており、もし本当にできるとしたら、相当な規模の太陽光発電所になると思われます」 この時点ではそれ以上の詳しいことは分かっていなかったが、その後の取材で、少しずつ詳細が明らかになってきた。 ある地権者は次のように話す。 「ここで太陽光発電事業をやりたいということで、この辺(の山林や農地)の地権者を回っているのは、栃木県の『博栄商事』という会社です。その後、同社と一緒に『オーシャンズジャパン』という会社の名刺を持った人もあいさつに来ました。事業者の説明によると、『買収を想定しているのは150㌶ほど。送電鉄塔が近くにあるため、太陽光発電の用地として適しており、ぜひここでやりたいから、協力(土地売却)してもらえないか』とのことでした。ただ、事業者が最初に私のところに来たのは、確か2年ほど前だったと思いますが、その後も近隣の地権者を回っている様子はうかがえるものの、全くと言っていいほど進展している様子が見受けられません。私自身は協力してもいいと思っているのですが……」 計画地は、二本松市岩代地区の上長折字加藤木地内の山林・農地で、市役所岩代支所から国道459号沿いに3㌔ほど東に行った辺り。この地権者によると、事業者が用地として想定している面積は約150㌶とのことだから、かなりの規模であることがうかがえる。 「計画地の大部分は山林や農地です。私の所有地は農地だが、いまは耕作していません。その近隣も、遊休農地が少なくない。ですから、売ってもいいという人は多いと思います。実際、すでに土地を売った人もいるようです」(前出の地権者) なお、この地権者の話に出てきた博栄商事は、栃木県茂木町に本社を置く株式会社。1972(昭和47)年設立。資本金2000万円。同社のHPや商業登記簿謄本を見ると、不動産業が主業のようで、太陽光発電関連の事業実績は見当たらない。役員は代表取締役・細野正博、取締役・能代英樹の2氏。 もう一方のオーシャンズジャパンは、本社が東京都新宿区の合同会社。2015(平成27)年設立。資本金1万円。事業目的は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス、太陽熱等の再生可能エネルギーによる発電事業及びその管理・運営・電気の供給・販売等に関する業務、発電設備の設置、保守管理業務など。役員は業務執行社員・坂尾純一氏。 こうして両社のHPや商業登記簿謄本などを見る限り、博栄商事は用地交渉役(仲介役)で、実際の発電事業者はオーシャンズジャパンと見るのが自然か。 前出の地権者によると、「すでに土地を売った人もいるようだ」とのことだから、すでに投資が発生している以上、事業者が〝本気〟なのは間違いなさそう。ただ、この地権者の話では、最初に相談があったのは2年ほど前で、以降も事業者が地権者宅を回っている様子はうかがえるものの、計画が進捗している様子は見えないというのだ。 「おおよそですが、地権者は20〜30人くらいになると思います。知り合いの地権者にも聞いてみたところ、多くの人が協力してもいいと考えているようで、すでに土地を売った人もいるようですが、逆にまだ全然そんな話(用地交渉)がないという人もいます。ただ、少なくとも、私は最初に相談があってから2年近くが経っています。それなのに話が進展しないので、一体どうなっているんだろう、と」(前出の地権者) 事業者が目星を付けたところは、多くが山林や遊休農地のため、地権者からしたら「買ってくれるならありがたい」ということなのだろうが、その後、話が進展している様子が見えないため、「本当にできるのか」といった思いを抱いていることがうかがえる。 「計画は進行中」と事業者  そこで、計画の進捗状況や事業概要などを聞くため、博栄商事に問い合わせてみたところ、同社担当者は「当社は企画を担当しており、実際の発電事業者は別な会社になるため、発電事業者に確認してみないことにはお答えできないこともあります」とのことだったが、「計画自体が進行中なのは間違いありません」と明かした。 そこで、本誌記者は「地元住民からは、『オーシャンズジャパン』という会社の名刺を持った人もあいさつに来ていたとの話も聞かれたが、いまの説明に出てきた『発電事業者』はオーシャンズジャパンのことか」と尋ねてみた。 すると、博栄商事の担当者は「当初はその予定で、もともとは同社から依頼があり、当社が企画を担当することになりました。ただその後、事情があって発電事業者は変わりました。新しい事業者は横浜市の会社で、二本松市に現地法人を立ち上げ、そこが太陽光発電所を運営することになります」と語った。 このほか、博栄商事の担当者への取材で明らかになったのは、①用地は8割ほどまとまっていること、②現在、境界周辺の測量を実施しているほか、環境影響評価などの開発行為に関する手続きの準備・協議を進めていること――等々。 そのうえで、同社担当者は「近く発電事業者と打ち合わせがあるので、問い合わせがあったことは伝えます。そこで発電事業者と相談のうえ、あらためてお伝えできることはお伝えします」と話した。 発電規模や発電開始時期の目標などは明らかにされなかったが、いずれにしても、計画が進行中なのは間違いないようだ。 ただ、前述したように、用地の大部分は山林・農地のため、開発の必要があり、そのためには各種手続きが必要になるから、近隣住民の目に見える形(工事など)で動きがあるまでにはもう少し時間がかかりそうな状況だ。おそらく、開発に当たっての環境影響評価方法書の縦覧などまで計画が進展しなければ、具体的なものは見えてこないのではないかと思われる。 近隣にも太陽光発電所が 二本松太陽光発電所(旧ゴルフ場)  ところで、一連の取材で同計画地周辺を歩いてみたところ、同所のほかにも太陽光発電所、あるいはそのための造成工事中のところがあることが目に付いた。 1つは、以前、本誌でも取り上げたサンフィールド二本松ゴルフ倶楽部岩代コース跡地。同ゴルフ場については、過去の本誌記事で次のようなことを伝えた。 ①同ゴルフ場は、東日本大震災を受け、クラブハウスやコースが被害を受けたほか、原発事故によりコース上で高い放射線量が計測されたため、一時閉鎖して施設修繕や除染を行ったうえで、営業再開を目指していた。 ②それと平行して、同ゴルフ場を運営するサンフィールドは、東京電力を相手取り放射性物質の除去などを求め、東京地裁に仮処分申し立てを行った。しかし、同申し立てが却下されたため、同社は2011年7月上旬ごろまでにホームページ上で「当面の休業」を発表した。なお、同仮処分申請の中で、東電が「原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではない。したがって東電には除染責任がない」との主張を展開し、県内外で大きな注目を集めた。 ③そんな中、同ゴルフ場では、「ゴルフ場をやめて大規模太陽光発電施設にするらしい」といったウワサが浮上した。ある関係者によると「大手ゼネコンが主体となり、京セラのシステムを使うそうだ」といったかなり具体的な話も出ていたが、「正式に打診があったわけではないらしく、結局、その話は立ち消えになった」(同)とのことだった。 ④その後、2012年秋ごろまでに、同ゴルフ場の駐車場に仮設住宅のような長屋風の建物がつくられ、除染作業員などの仮設宿舎になった。同ゴルフ場には立派なホテルも併設されているが、そこも作業員宿舎(食堂?)になった。ある地権者によると、「サンフィールドは『ビジネス上の付き合いから、除染事業者である大成建設に無償貸与している』と説明していた」とのことだった。そのため、少なくとも、この時点では、ゴルフ場再開の可能性は事実上なくなり、用地がどうなるのかが注目されていた。 ⑤2014年春になると、先のウワサとは別に、大規模太陽光発電施設にする目的で、ゴルフ場用地を買いたいという会社が現れた。その会社は、東京都港区に本社を置く日本再生可能エネルギーで、ある地権者は「同社の要請(土地売却)に応じた。私の知る限り、ほとんどが同様の意向だと思う」と話した。 過去の本誌記事でリポートしたのはここまでだが、その後も、この地権者(元地権者)からは「日本再生可能エネルギーで太陽光発電所に必要なだけの用地をまとめ、本格的に動き出した」といった話は聞かされていた。もっとも、この地権者(元地権者)自身が「土地を売ったことで、直接的には関係なくなったから、詳しいことは分からないけど……」とのことで、具体的な事業の進捗状況などは分かっていなかった。 今回、あらためて同所を訪ねてみると、「二本松太陽光発電所」という看板が立てられ、外から様子をうかがった限りでは、太陽光発電所として稼働しているように見受けられた。同所を取得した日本再生可能エネルギーのHPを見てみると、国内他所の太陽光発電所に関するリリースは出ているものの、二本松太陽光発電所についてのリリースは見当たらなかった。 そこで、同社に問い合わせてみたところ、①同発電所は2017年8月から稼働していること、②発電規模は29・5㍋㍗であること――が明らかになった。つまり、すでに発電・売電を行っている、と。 なお、同社は太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーを利用した発電・売電事業を手掛ける株式会社で、2013年5月10日設立。代表はアダム・バリーン氏。HPに掲載されたリリースを見る限り、国内各地で太陽光発電所を運営しており、県内では二本松市のほかに、国見町でも2016年2月から太陽光発電所を稼働している。 工事中の計画  一方、その近くでは別の太陽光発電所の工事が行われていた。工事案内板を見ると、場所は「初森字天狗塚69―1 外3筆」、目的は「太陽光発電所建設用地の造成」、林地開発について「許可を受けた者」は札幌市の「エム・エス・ケイ」と書かれていた。 同社について調べてみると、札幌市で「ホテル翔SAPPORO」を経営しており、ホテル経営が主業のようだ。ただ、同社の商業登記簿謄本を確認すると、事業目的は、以前は①ホテル及び旅館の運営管理、②不動産の売買及び賃貸、③古物商の経営などだったが、2016年8月に変更され、再生可能エネルギーによる発電事業及び発電設備の販売、施工工事請負が追加された。最近になり、同事業に参入したことがうかがえる。 同社に二本松市で太陽光発電事業をやることになった経緯などについて問い合わせたところ、一度、連絡はあったものの、質問に対する回答は本号締め切りには間に合わなかった。そのため、事業規模などは現時点では明らかになっていない。 ちなみに、冒頭紹介した計画は、前述した通り、市役所岩代支所から国道459号沿いに3㌔ほど東に行った辺り。そこから直線距離で1㌔ほど南にいったところに二本松太陽光発電所(ゴルフ場跡地)があり、さらに直線距離で南に1㌔ほどの辺りに現在工事中のエム・エス・ケイの事業地がある。 こうして見ると、同地区周辺は民間の、それも県外事業者による太陽光発電施設、あるいはその計画が多いことが分かる。 ある地元住民は「震災・原発事故を経て、結果的にそうなりましたね。課題はソーラー発電システムの耐用年数を超えた時にどうなるのかということでしょうけど、そこさえしっかりしてもらえれば、地域としてこういうものを推奨していくのもいいのではないか」と語った。 あわせて読みたい 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声