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  • 企業誘致に苦戦する福島県内市町村【福島市に整備された「福島おおざそうインター工業団地」】

    企業誘致に苦戦する福島県内市町村【現役コンサルに聞く課題と対策】

    (2022年10月号)  地方創生を進めるうえで軸になるのが雇用を生み出す企業誘致。県内市町村は必死にアピールしているが、全国の市町村と競い企業を誘致するのは容易でない。県内市町村に企業誘致における課題を聞くとともに、今後取るべき対策について、現役のコンサルタントに意見を聞いた。 課題は長期戦略構築と労働力確保 福島市に整備された「福島おおざそうインター工業団地」  福島県企業立地課によると、2021年の県内の工場立地数は40件(新設30件、増設10件)。内訳は特定工場(敷地面積9000平方㍍以上または建築面積3000平方㍍以上)が新設23件、増設10件、その他の工場(敷地面積1000平方㍍以上)が新設7件。 震災・原発事故直後の2012年には企業立地補助金を活用して新増設する工場が増加し、工場立地数は2年連続で100件を超えた。だが、その後は70~80件台で推移し、コロナ禍以降は2020年55件、2021年40件と落ち込んでいる。 地区別では相双12件、県中10件、県北9件、いわき5件、県南3件、会津1件。原発被災自治体での避難指示解除や福島イノベーション・コースト構想などが進む相双地区が最も多くなった。地区別の雇用計画人員は県中485人、相双339人、県北221人、いわき92人、県南76人、会津1人。市町村別データは公表されていない。 工業統計調査結果報告書によると、県内の工業従業者数は2004年約18万人から2020年約15万8000人へと減少した。製造品出荷額等は2007年には6兆円を超えたが、人口減少に加え、リーマン・ショックや震災・原発事故の影響により落ち込み、2019年5兆0890億円となっている。 雇用を創出する企業(工場)を新たに誘致すれば、若者世代が都市部に流出せず地元で働くようになるうえ、転入者(移住者)が増える可能性もある。だから、県内市町村は企業誘致に力を入れているが、全国の市町村がライバルとなる中で、大規模な企業(工場)を誘致するのは容易なことではない。 東北経済産業局の2021年工場立地動向調査によると、立地地点の選定理由ベスト5は①本社・他の自社工場への近接性、②工業団地であること、③国・地方自治体の助成、④地方自治体の誠意・積極性・迅速性、⑤周辺環境からの制約が少ない。 二次電池の研究開発に使われる充放電装置メーカー・東洋システム(いわき市)は愛知県豊田市と滋賀県彦根市に評価センターを設置している。庄司秀樹社長は「一番重視したのは取引先の研究所に近い点だった」と語る。 「純粋に取引先の自動車・電池関連メーカーの研究所に近い場所を選びました。数ある候補地の中から両市を選んだ決め手となったのは、企業誘致に熱心だったことに尽きます。わたしどもも限られた時間の中で足を運んでいるので、担当者の方が支援制度や適地を積極的に紹介してくれるところはありがたかったです」 地理的な問題もさることながら、誠意・積極性・迅速性が契約につながったということだ。 これに対し、県内市町村は企業に対しどのようにアピールしているのか。「企業誘致においてストロングポイント(長所)だと思う点」について、全59市町村にホームページのメールフォームやファクスなどで質問を送ったところ、9月22日までに31市町村から回答があった。 主な回答は以下の通り(複数回答可、数字は回答数)。 ①交通アクセスが良好    19 ②補助金や支援などが充実  12 ③地震など自然災害が少ない 5 ③水資源が充実       5 ⑤優秀な人材の確保が可能  4 ⑤豊かな自然環境      4 ⑦研究機関が立地      3 ⑦港湾が近い        3 ⑦特定の産業が集積     3 ⑦過ごしやすい気候     3 ⑦首都圏との近接性     3 ⑦オーダーメイド方式を採用 3 ⑬教育機関が多数立地    2 ⑬生活利便性が高い     2 その他=土地購入費が安価、再生可能エネルギー促進、観光が盛ん、進出用地を確保済みなど。 オーダーメイド方式とは、工場用地などを整備してから誘致するのではなく、企業の立地計画に合わせて土地を確保・造成する方法のこと。 最も多い「交通アクセスが良好」は首都圏などへの近接性を示したもの。「補助金や支援などが充実」は国や県の補助金に加え、市町村独自のバックアップ体制も整っていることを強調したもの。どちらも前出・東北経済産業局調査で挙げられた選定理由ベスト5に入っており、企業誘致の決め手になると意識してアピールしているのだろう。 では、逆に、各市町村が企業誘致を進める上で課題と感じているのはどんな点なのか。回答は別表の通り(編集部がリライトしている)。 【アンケートを実施】企業誘致の課題と感じている点 自治体名アンケートの回答福島市工業団地が分譲終了。若年層の転出者増加。伊達市市内に大学や研究機関がないので、産学連携面で不十分。桑折町現時点で、企業誘致のための補助制度等が十分に整備されていない。郡山市福島空港まで距離があり、就航先や便数が少ない。情報関連産業の誘致に当たり、5G対応エリアが狭い。白河市人口減少に伴う労働人口の減少。須賀川市新卒学生、新卒高校生などの人材不足。小野町人口減少に伴い、就業者の確保がより困難(製造業では特定技能実習生の受入れが増加)。山林が大半で平地が少ない。相馬市相馬港の港湾機能、特に荷揚げに関する施設の拡充が必要。二本松市城下町ならではの丘陵の多い地形のため、まとまった平地の進出用地が確保しづらい。本宮市工業団地はすべて分譲済み。ただしオーダーメイド方式を導入している。会津若松市工業団地が分譲終了。喜多方市首都圏等から距離があり、輸送や移動に時間を要する。積雪による交通障害のイメージ。下郷町少子高齢化で、町内での雇用者の確保が難しい。ただし、企業誘致が実現すれば他市町村から採用される人が増え、定住人口増加につながる可能性が広がると期待している。只見町空港、港、高速道路まで距離がある。冬期間は除雪が必須。南会津町人口減少で労働力人口が減少傾向にある。北塩原村裏磐梯エリアのほとんどが国立公園及び国有林野(自然公園法・森林法等の制約)、原発事故による風評被害、コロナ禍による観光入込者数の激減。会津坂下町工業団地整備を行っていない。町内や周辺市町村の既存工場などで人材の取り合いとなってきている。柳津町人口が少なく、企業誘致できたとしても町民の新規雇用へつなげることが難しい。まとまった用地の確保が難しい。金山町工場等設置の立地条件が悪い。主要幹線道路からの距離が遠い。昭和村地理的条件から誘致は非常に難しい。西郷村工業団地が分譲終了。楢葉町国庫補助金を活用しているため、国担当者の考え方により、誘致のスケジュール感や魅力的な団地整備などに制約が設けられる。原発災害からの復興の意味・意義が薄れてきた。また、業種によっては事故前の放射線量との比較をされることが多い。国際教育研究拠点が遠方立地(浪江町)に決定したことで、働き手(若者)不足が加速する可能性。大熊町従業員の確保が困難、商業施設など生活利便施設が少ないなど、町内全域への避難指示が長期間に及んだことによる影響。新地町町の面積が小さいため、広大な土地の確保が比較的難しい。飯舘村冬の寒さが厳しく、積雪が量が多い。ただ、主要道路の除雪を行う体制は整っている。いわき市すぐ紹介できる工業用地が限られており、企業側の条件とマッチングするのが難しくなっている。  最も多かったのは、「労働人口の減少により働き手が確保できない」というもの。県内の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年10月138万人から2022年7月98万人まで減少している。高齢化・人口減少が著しい会津地方、震災・原発事故の影響が大きい双葉郡だけでなく、福島市や白河市なども回答しているので、県内全域の課題と言えよう。 次いで目立ったのは、「まとまった用地が確保できない」、「工業団地の分譲がすでに終了した」。新たな工業団地の整備には金がかかるので、二の足を踏んでいるところが多い。 『2021年度版産業用地ガイド』(一般財団法人日本立地センター)に掲載されている県内の分譲中・分譲開始予定の産業用地は39カ所。全国では北海道の65カ所に次いで2番目に多いが、最近では前述したオーダーメイド方式を導入している市町村も増えている。民間遊休地の情報なども提供しながら、企業と協議して用地を確保するスタイルが主流になっていくかもしれない。 現役コンサルに聞く課題と対策 鈴木健彦氏  気になったのは、県内で自然災害が頻発している影響だ。 2019年には令和元年東日本台風により県内各地で浸水被害が発生。郡山市では阿武隈川の氾濫により郡山中央工業団地が大規模浸水に見舞われ、日立製作所は郡山事業所で行われていた事業の大半を県外の生産拠点に移転した。 2021、22年には福島県沖地震が発生。各地で家屋倒壊や停電、橋梁損傷や道路崩落、土砂崩れによる通行止めといった被害が発生し、企業活動も大きな影響を受けた。 地震保険料は地震発生の危険度に応じて都道府県別に基本料率が定められている。青森県や山形県などが1万1200円なのに対し、本県の保険料(保険期間1年、保険金額1000万円、10月改定後の料金)は宮城県と同額の1万9500円。 頻発する自然災害は企業誘致においてマイナス要素にならないのか。 複数の市町村の企業誘致担当者に確認したところ、企業側から進出予定地の災害リスクや周辺のハザードマップについて、確認されるケースは増えた。ただ、基本的に自社や取引先への近接性などを理由に進出を検討する企業が多いため、災害の多さで敬遠されることはないという。 地域と経済・工業の関係に詳しい福島大学経済経営学類の末吉健治教授(経済経営学類長)は「自然災害は日本全国で起きている。福島県だけが企業から敬遠されるとは考えにくい」としつつ、自治体が講じるべき対策についてこのように指摘した。 末吉健治教授(福島大学HPより)  「近年、防災・減災対策が進展している中で、避難場所・経路の確保だけではなく、被災時のインフラ確保計画、アクセスルートの確保などは平時より情報共有する必要があると思います。また、震災や台風のとき、製造業の重要部品の集中生産(拠点生産)が、長期にわたる生産停止の要因(半導体、ピストンリングなど)になっていたことが明らかになっています。そういう意味では、企業の被災時におけるリスク回避投資(複数拠点への生産の分散など)の情報を常日頃から収集し、企業にアプローチするなど誘致戦略も必要になるのではないでしょうか」 一方、企業立地や産業振興、不動産に関するコンサルタント業務を担う㈱エービーコンサルティング(宮城県仙台市)の鈴木健彦氏は「『福島は災害ばかり起きている』と進出に難色を示す企業も実際にあった」と語るが、「そのほとんどは西日本本社。東北は『遠い地方』で関心が薄く、復興に関する情報不足からマイナスイメージを払拭できていないだけ」と指摘した。 そのうえで、鈴木氏は今後福島県(県内市町村)が取り組むべき企業誘致対策として、①リスク開示を積極的に行う、②福島県と縁がある企業・出身者を大事にする、③小さなIT・コンテンツ産業を大きく育てる――の3点を挙げた。 ①について、鈴木氏が例に挙げたのは、富士山頂がある静岡県富士宮市だ。同市はかつてホームページの企業誘致ページに富士山の噴火リスクとその対応を掲載していた。静岡県は当時、企業立地数、面積とも全国首位だったが、そんな同県を牽引していたのが富士宮市だった。 「富士山噴火以外に東海地震のリスクもあるのに、スズキなど静岡県内の主力工場は移転せず、福島県も立地を狙っていたEVの次世代電池工場は同県湖西市に増設された。いいことだけ言っても信憑性が疑われる。自然災害に関するリスクも早い段階で開示する方がかえって企業との信頼関係が生まれやすいのです」(鈴木氏) ②については、「西日本の一部、食品系企業で(原発事故被災地である)福島県を回避する動きが未だにある」(同)。そうした中で、地道に広報活動を継続することも大切だが、それよりも県出身者など福島県に縁のある人に「地元のため」と県内での投資を求める方がより効率的で大切――と鈴木氏は主張する。 「個人情報保護の意識の高まりにより、行政も出身者の情報を集めにくくなっているようだが、都内在住の県出身者の方々とお会いすると、皆一様に他地域出身者より郷土愛が強いと感じます。郷土を良くしたいと思っている県出身者は多い。だからこそ、いままで以上に膝を交えて対話する機会を作り、その力を借りるための素地を各市町村は作っていくべきです」(同) 「担当職員異動は弱点になる」 福島県庁  ③については、鈴木氏が近年、東北経済産業局の「コンテンツ産業」に関する調査事業、福島県企業立地課の「地方拠点強化税制の利用企業探索」といった事業を受託した中で実感していることだ。 経産省系の補助金や減税支援制度には雇用要件が厳しく使いづらいものが多い。そうした中、IT・コンテンツ産業(出版、アニメ、ゲームなど創作物をつくる産業)では、東北出身者が都内で実力をつけた後、地元に戻って小規模な事業からスタートさせている事例が見られる。 「実際にいわき市でもそのような企業が県内雇用を拡大させて操業しています。UIJターンなどによってテレワーク中心でも行える業態なのは魅力です。高速ネット回線の整備のほか、総務省系の〝スモールスタート〟支援制度の周知不足など、誘致する際の課題は多いが、農業生産高9兆円に対し、ゲーム、アニメのコンテンツは12兆円産業。現在のように大企業の誘致にばかり注力していると、企業業績が怪しくなった際に地域経済全体に影響が及ぶし、自然災害や風評により撤退していくこともあり得ます」(同) 1970年代、大都市圏の工場の地方分散が進む中、地価・労働力が安い東北地方には多くの工場が立地した。県内でも「富士通城下町」と呼ばれた会津若松市をはじめ、大企業系列の工場が進出し、地域経済を支えていた。だが、社会情勢の変化や商品の生産停止などを理由にあっさり撤退した事例が複数ある。 そうした事態を招かないように、県に縁にある出身者などにアプローチしたり、小規模のコンテンツ企業を含むIT産業を数多く誘致して育ててはどうか、と。要するに、鈴木氏は長期戦略を持って企業誘致に取り組む必要性を説いているわけ。 このほか鈴木氏は行政が抱える問題点として、「ジョブローテーションで担当者が異動することは、企業にとって窓口が変わり、交渉経緯を皮膚感覚で理解している職員がいなくなることでもあるので、企業誘致において弱点になる」、「企業立地件数が多い西日本の企業誘致担当者は積極的だが、東日本の担当者は受け身の姿勢が目立つ」と指摘した。 雇用確保、定住人口増加、地域振興につながる企業誘致。だが、会津地方などは前述した働き手確保の問題に加え、「首都圏から距離があり、輸送や移動に時間を要する」(喜多方市)、「冬期間は企業除雪が必須」(只見町)といった障害がある。そのため、ここ3年間の企業誘致数がゼロという自治体も多かった。 自治体は人口を増やすため企業誘致を進めているのに、企業は人口が少なく不便な場所には来たがらない皮肉な現状がある。ただ、鈴木氏が指摘した点などを参考に改善・アピールしていくことで、企業進出、それに伴う従業員の移住・定住などの可能性も広がるのではないか。 あわせて読みたい 【会津若松市】富士通城下町〝工場撤退〟のその後

  • 企業誘致に苦戦する福島県内市町村【現役コンサルに聞く課題と対策】

    (2022年10月号)  地方創生を進めるうえで軸になるのが雇用を生み出す企業誘致。県内市町村は必死にアピールしているが、全国の市町村と競い企業を誘致するのは容易でない。県内市町村に企業誘致における課題を聞くとともに、今後取るべき対策について、現役のコンサルタントに意見を聞いた。 課題は長期戦略構築と労働力確保 福島市に整備された「福島おおざそうインター工業団地」  福島県企業立地課によると、2021年の県内の工場立地数は40件(新設30件、増設10件)。内訳は特定工場(敷地面積9000平方㍍以上または建築面積3000平方㍍以上)が新設23件、増設10件、その他の工場(敷地面積1000平方㍍以上)が新設7件。 震災・原発事故直後の2012年には企業立地補助金を活用して新増設する工場が増加し、工場立地数は2年連続で100件を超えた。だが、その後は70~80件台で推移し、コロナ禍以降は2020年55件、2021年40件と落ち込んでいる。 地区別では相双12件、県中10件、県北9件、いわき5件、県南3件、会津1件。原発被災自治体での避難指示解除や福島イノベーション・コースト構想などが進む相双地区が最も多くなった。地区別の雇用計画人員は県中485人、相双339人、県北221人、いわき92人、県南76人、会津1人。市町村別データは公表されていない。 工業統計調査結果報告書によると、県内の工業従業者数は2004年約18万人から2020年約15万8000人へと減少した。製造品出荷額等は2007年には6兆円を超えたが、人口減少に加え、リーマン・ショックや震災・原発事故の影響により落ち込み、2019年5兆0890億円となっている。 雇用を創出する企業(工場)を新たに誘致すれば、若者世代が都市部に流出せず地元で働くようになるうえ、転入者(移住者)が増える可能性もある。だから、県内市町村は企業誘致に力を入れているが、全国の市町村がライバルとなる中で、大規模な企業(工場)を誘致するのは容易なことではない。 東北経済産業局の2021年工場立地動向調査によると、立地地点の選定理由ベスト5は①本社・他の自社工場への近接性、②工業団地であること、③国・地方自治体の助成、④地方自治体の誠意・積極性・迅速性、⑤周辺環境からの制約が少ない。 二次電池の研究開発に使われる充放電装置メーカー・東洋システム(いわき市)は愛知県豊田市と滋賀県彦根市に評価センターを設置している。庄司秀樹社長は「一番重視したのは取引先の研究所に近い点だった」と語る。 「純粋に取引先の自動車・電池関連メーカーの研究所に近い場所を選びました。数ある候補地の中から両市を選んだ決め手となったのは、企業誘致に熱心だったことに尽きます。わたしどもも限られた時間の中で足を運んでいるので、担当者の方が支援制度や適地を積極的に紹介してくれるところはありがたかったです」 地理的な問題もさることながら、誠意・積極性・迅速性が契約につながったということだ。 これに対し、県内市町村は企業に対しどのようにアピールしているのか。「企業誘致においてストロングポイント(長所)だと思う点」について、全59市町村にホームページのメールフォームやファクスなどで質問を送ったところ、9月22日までに31市町村から回答があった。 主な回答は以下の通り(複数回答可、数字は回答数)。 ①交通アクセスが良好    19 ②補助金や支援などが充実  12 ③地震など自然災害が少ない 5 ③水資源が充実       5 ⑤優秀な人材の確保が可能  4 ⑤豊かな自然環境      4 ⑦研究機関が立地      3 ⑦港湾が近い        3 ⑦特定の産業が集積     3 ⑦過ごしやすい気候     3 ⑦首都圏との近接性     3 ⑦オーダーメイド方式を採用 3 ⑬教育機関が多数立地    2 ⑬生活利便性が高い     2 その他=土地購入費が安価、再生可能エネルギー促進、観光が盛ん、進出用地を確保済みなど。 オーダーメイド方式とは、工場用地などを整備してから誘致するのではなく、企業の立地計画に合わせて土地を確保・造成する方法のこと。 最も多い「交通アクセスが良好」は首都圏などへの近接性を示したもの。「補助金や支援などが充実」は国や県の補助金に加え、市町村独自のバックアップ体制も整っていることを強調したもの。どちらも前出・東北経済産業局調査で挙げられた選定理由ベスト5に入っており、企業誘致の決め手になると意識してアピールしているのだろう。 では、逆に、各市町村が企業誘致を進める上で課題と感じているのはどんな点なのか。回答は別表の通り(編集部がリライトしている)。 【アンケートを実施】企業誘致の課題と感じている点 自治体名アンケートの回答福島市工業団地が分譲終了。若年層の転出者増加。伊達市市内に大学や研究機関がないので、産学連携面で不十分。桑折町現時点で、企業誘致のための補助制度等が十分に整備されていない。郡山市福島空港まで距離があり、就航先や便数が少ない。情報関連産業の誘致に当たり、5G対応エリアが狭い。白河市人口減少に伴う労働人口の減少。須賀川市新卒学生、新卒高校生などの人材不足。小野町人口減少に伴い、就業者の確保がより困難(製造業では特定技能実習生の受入れが増加)。山林が大半で平地が少ない。相馬市相馬港の港湾機能、特に荷揚げに関する施設の拡充が必要。二本松市城下町ならではの丘陵の多い地形のため、まとまった平地の進出用地が確保しづらい。本宮市工業団地はすべて分譲済み。ただしオーダーメイド方式を導入している。会津若松市工業団地が分譲終了。喜多方市首都圏等から距離があり、輸送や移動に時間を要する。積雪による交通障害のイメージ。下郷町少子高齢化で、町内での雇用者の確保が難しい。ただし、企業誘致が実現すれば他市町村から採用される人が増え、定住人口増加につながる可能性が広がると期待している。只見町空港、港、高速道路まで距離がある。冬期間は除雪が必須。南会津町人口減少で労働力人口が減少傾向にある。北塩原村裏磐梯エリアのほとんどが国立公園及び国有林野(自然公園法・森林法等の制約)、原発事故による風評被害、コロナ禍による観光入込者数の激減。会津坂下町工業団地整備を行っていない。町内や周辺市町村の既存工場などで人材の取り合いとなってきている。柳津町人口が少なく、企業誘致できたとしても町民の新規雇用へつなげることが難しい。まとまった用地の確保が難しい。金山町工場等設置の立地条件が悪い。主要幹線道路からの距離が遠い。昭和村地理的条件から誘致は非常に難しい。西郷村工業団地が分譲終了。楢葉町国庫補助金を活用しているため、国担当者の考え方により、誘致のスケジュール感や魅力的な団地整備などに制約が設けられる。原発災害からの復興の意味・意義が薄れてきた。また、業種によっては事故前の放射線量との比較をされることが多い。国際教育研究拠点が遠方立地(浪江町)に決定したことで、働き手(若者)不足が加速する可能性。大熊町従業員の確保が困難、商業施設など生活利便施設が少ないなど、町内全域への避難指示が長期間に及んだことによる影響。新地町町の面積が小さいため、広大な土地の確保が比較的難しい。飯舘村冬の寒さが厳しく、積雪が量が多い。ただ、主要道路の除雪を行う体制は整っている。いわき市すぐ紹介できる工業用地が限られており、企業側の条件とマッチングするのが難しくなっている。  最も多かったのは、「労働人口の減少により働き手が確保できない」というもの。県内の生産年齢人口(15〜64歳)は1995年10月138万人から2022年7月98万人まで減少している。高齢化・人口減少が著しい会津地方、震災・原発事故の影響が大きい双葉郡だけでなく、福島市や白河市なども回答しているので、県内全域の課題と言えよう。 次いで目立ったのは、「まとまった用地が確保できない」、「工業団地の分譲がすでに終了した」。新たな工業団地の整備には金がかかるので、二の足を踏んでいるところが多い。 『2021年度版産業用地ガイド』(一般財団法人日本立地センター)に掲載されている県内の分譲中・分譲開始予定の産業用地は39カ所。全国では北海道の65カ所に次いで2番目に多いが、最近では前述したオーダーメイド方式を導入している市町村も増えている。民間遊休地の情報なども提供しながら、企業と協議して用地を確保するスタイルが主流になっていくかもしれない。 現役コンサルに聞く課題と対策 鈴木健彦氏  気になったのは、県内で自然災害が頻発している影響だ。 2019年には令和元年東日本台風により県内各地で浸水被害が発生。郡山市では阿武隈川の氾濫により郡山中央工業団地が大規模浸水に見舞われ、日立製作所は郡山事業所で行われていた事業の大半を県外の生産拠点に移転した。 2021、22年には福島県沖地震が発生。各地で家屋倒壊や停電、橋梁損傷や道路崩落、土砂崩れによる通行止めといった被害が発生し、企業活動も大きな影響を受けた。 地震保険料は地震発生の危険度に応じて都道府県別に基本料率が定められている。青森県や山形県などが1万1200円なのに対し、本県の保険料(保険期間1年、保険金額1000万円、10月改定後の料金)は宮城県と同額の1万9500円。 頻発する自然災害は企業誘致においてマイナス要素にならないのか。 複数の市町村の企業誘致担当者に確認したところ、企業側から進出予定地の災害リスクや周辺のハザードマップについて、確認されるケースは増えた。ただ、基本的に自社や取引先への近接性などを理由に進出を検討する企業が多いため、災害の多さで敬遠されることはないという。 地域と経済・工業の関係に詳しい福島大学経済経営学類の末吉健治教授(経済経営学類長)は「自然災害は日本全国で起きている。福島県だけが企業から敬遠されるとは考えにくい」としつつ、自治体が講じるべき対策についてこのように指摘した。 末吉健治教授(福島大学HPより)  「近年、防災・減災対策が進展している中で、避難場所・経路の確保だけではなく、被災時のインフラ確保計画、アクセスルートの確保などは平時より情報共有する必要があると思います。また、震災や台風のとき、製造業の重要部品の集中生産(拠点生産)が、長期にわたる生産停止の要因(半導体、ピストンリングなど)になっていたことが明らかになっています。そういう意味では、企業の被災時におけるリスク回避投資(複数拠点への生産の分散など)の情報を常日頃から収集し、企業にアプローチするなど誘致戦略も必要になるのではないでしょうか」 一方、企業立地や産業振興、不動産に関するコンサルタント業務を担う㈱エービーコンサルティング(宮城県仙台市)の鈴木健彦氏は「『福島は災害ばかり起きている』と進出に難色を示す企業も実際にあった」と語るが、「そのほとんどは西日本本社。東北は『遠い地方』で関心が薄く、復興に関する情報不足からマイナスイメージを払拭できていないだけ」と指摘した。 そのうえで、鈴木氏は今後福島県(県内市町村)が取り組むべき企業誘致対策として、①リスク開示を積極的に行う、②福島県と縁がある企業・出身者を大事にする、③小さなIT・コンテンツ産業を大きく育てる――の3点を挙げた。 ①について、鈴木氏が例に挙げたのは、富士山頂がある静岡県富士宮市だ。同市はかつてホームページの企業誘致ページに富士山の噴火リスクとその対応を掲載していた。静岡県は当時、企業立地数、面積とも全国首位だったが、そんな同県を牽引していたのが富士宮市だった。 「富士山噴火以外に東海地震のリスクもあるのに、スズキなど静岡県内の主力工場は移転せず、福島県も立地を狙っていたEVの次世代電池工場は同県湖西市に増設された。いいことだけ言っても信憑性が疑われる。自然災害に関するリスクも早い段階で開示する方がかえって企業との信頼関係が生まれやすいのです」(鈴木氏) ②については、「西日本の一部、食品系企業で(原発事故被災地である)福島県を回避する動きが未だにある」(同)。そうした中で、地道に広報活動を継続することも大切だが、それよりも県出身者など福島県に縁のある人に「地元のため」と県内での投資を求める方がより効率的で大切――と鈴木氏は主張する。 「個人情報保護の意識の高まりにより、行政も出身者の情報を集めにくくなっているようだが、都内在住の県出身者の方々とお会いすると、皆一様に他地域出身者より郷土愛が強いと感じます。郷土を良くしたいと思っている県出身者は多い。だからこそ、いままで以上に膝を交えて対話する機会を作り、その力を借りるための素地を各市町村は作っていくべきです」(同) 「担当職員異動は弱点になる」 福島県庁  ③については、鈴木氏が近年、東北経済産業局の「コンテンツ産業」に関する調査事業、福島県企業立地課の「地方拠点強化税制の利用企業探索」といった事業を受託した中で実感していることだ。 経産省系の補助金や減税支援制度には雇用要件が厳しく使いづらいものが多い。そうした中、IT・コンテンツ産業(出版、アニメ、ゲームなど創作物をつくる産業)では、東北出身者が都内で実力をつけた後、地元に戻って小規模な事業からスタートさせている事例が見られる。 「実際にいわき市でもそのような企業が県内雇用を拡大させて操業しています。UIJターンなどによってテレワーク中心でも行える業態なのは魅力です。高速ネット回線の整備のほか、総務省系の〝スモールスタート〟支援制度の周知不足など、誘致する際の課題は多いが、農業生産高9兆円に対し、ゲーム、アニメのコンテンツは12兆円産業。現在のように大企業の誘致にばかり注力していると、企業業績が怪しくなった際に地域経済全体に影響が及ぶし、自然災害や風評により撤退していくこともあり得ます」(同) 1970年代、大都市圏の工場の地方分散が進む中、地価・労働力が安い東北地方には多くの工場が立地した。県内でも「富士通城下町」と呼ばれた会津若松市をはじめ、大企業系列の工場が進出し、地域経済を支えていた。だが、社会情勢の変化や商品の生産停止などを理由にあっさり撤退した事例が複数ある。 そうした事態を招かないように、県に縁にある出身者などにアプローチしたり、小規模のコンテンツ企業を含むIT産業を数多く誘致して育ててはどうか、と。要するに、鈴木氏は長期戦略を持って企業誘致に取り組む必要性を説いているわけ。 このほか鈴木氏は行政が抱える問題点として、「ジョブローテーションで担当者が異動することは、企業にとって窓口が変わり、交渉経緯を皮膚感覚で理解している職員がいなくなることでもあるので、企業誘致において弱点になる」、「企業立地件数が多い西日本の企業誘致担当者は積極的だが、東日本の担当者は受け身の姿勢が目立つ」と指摘した。 雇用確保、定住人口増加、地域振興につながる企業誘致。だが、会津地方などは前述した働き手確保の問題に加え、「首都圏から距離があり、輸送や移動に時間を要する」(喜多方市)、「冬期間は企業除雪が必須」(只見町)といった障害がある。そのため、ここ3年間の企業誘致数がゼロという自治体も多かった。 自治体は人口を増やすため企業誘致を進めているのに、企業は人口が少なく不便な場所には来たがらない皮肉な現状がある。ただ、鈴木氏が指摘した点などを参考に改善・アピールしていくことで、企業進出、それに伴う従業員の移住・定住などの可能性も広がるのではないか。 あわせて読みたい 【会津若松市】富士通城下町〝工場撤退〟のその後