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  • 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

    会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

     会津若松市職員(当時)による公金詐取事件は、だまし取った約1億7700万円の使い道が裁判で明らかになってきた。生活費をはじめ、競馬や宝くじ、高級車のローン返済や貯蓄、さらには実父や叔父への貸し付け、挙げ句には交際相手への資金援助。詐取金は、家族の協力を得ても半分しか返還できていない。本人が有罪となり刑期を終えても、一族を道連れに「返還地獄」が待っている。 一族を道連れにした「1.8億円の返還地獄」  会津若松市の元職員、小原龍也氏(51)=同市河東町=は在職中、児童扶養手当や障害者への医療給付を担当する立場を悪用し、データを改ざんして約1億7700万円もの公金をだまし取っていた。パソコンに長け、発覚しにくい方法を取っていただけでなく、決裁後の起案のグループ回覧を廃止したり、チェック役に新人職員や異動1年目の職員を充てて職員同士の監視機能が働かない体制をつくっていた。 不正発覚後、市は調査を進め、昨年11月7日に会津若松署に小原氏を刑事告訴した上で懲戒免職にした。同署は任意捜査を続け、同12月1日に詐欺容疑で逮捕した。  その後も、市は個別の犯行について被害届を提出。同署は一連の詐欺容疑で計5回逮捕し、地検会津若松支部がうち4件を詐欺罪で起訴している(原稿執筆時の3月中旬時点)。検察は全ての逮捕容疑を罪に問う見込みだ。小原氏は、これまでに法廷で読み上げられた起訴事実2件を「間違いございません」と認めている。一つの公判が開かれるたびに新たな起訴事実が読み上げられ、本格的な審理にまで至っていない。 地元の事情通が警察筋から聞いた話によると、捜査は2月中に終結する見込みだった。5回目の逮捕が3月9日だから、当初の想定よりずれ込んでいる。 逮捕5回は身に応えるのだろう。出廷した小原氏の髪は白髪交じりで首の後ろまで伸び、キノコのかさのように頭を覆っていた。もともと痩せていて背が高いのだろうが、体格のいい警察官に挟まれて連行されるとそれが際立った。顔はやつれ、いつも同じ黒のトレーナー上下とスリッパを身に着けていた。 刑事事件に問われているのは犯行の一部に過ぎない。2007~09年には、重度心身障害者医療費助成金約6500万円を詐取していたことが市の調査で分かっている(表参照)。だが、詐欺罪の公訴時効7年を過ぎているため立件されなかった。市は「民事上の対応で計約1億7700万円の返還を求めていく」としている。 元市職員による総額1億7700万円の公金詐取と返還の動き 1996年4月大学卒業後、旧河東町役場入庁。住民福祉課に配属1999年4月保健福祉課に配属2001年4月税務課に配属2005年4月建設課に配属11月合併で会津若松市職員に。健康福祉部社会福祉課に配属2007年4月~2009年12月6571万円を詐取(重度心身障害者医療費助成金)2011年4月財務部税務課に配属2014年11月健康福祉部こども保育課に配属2016年5月地元の金融機関から借金するなどして叔父に700万円を貸す7月実父に700万円を貸す2018年4月健康福祉部こども家庭課に配属。こども給付グループのリーダーに昇任2019年4月~2022年3月1億1068万円を詐取(児童扶養手当)2021年60万円を詐取(21年度子育て世帯への臨時特別給付金)2022年4月健康福祉部障がい者支援課に配属6月市が支給金額に異変を発見。内部調査を開始8月市が小原氏から詐取金の回収を開始9月市が返還への協力を求めて小原氏の家族と協議開始11月7日市が小原氏を刑事告訴し懲戒免職11月8日時点9112万円を返還(残額は全額の49%)11月30日8~10月の給料分56万円を返還12月1日1回目の逮捕12月28日家族を通じて11月の給料分2万円を返還2023年2月6日実父から市に40万円の支払い2月14日時点8489万円が未返還(残額は全額の48%)出典:会津若松市「児童扶養手当等の支給に係る詐欺事件への対応について」(2022年11月、23年2月発行)より。1000円以下は切り捨て。  市は早速、小原氏を懲戒免職にした後の昨年11月8日時点で半分に当たる9112万円を回収した。小原氏に預金を振り込ませたほか、生命保険を解約させたり、所有する車を売却させたりした。 小原氏が逮捕・起訴された後も回収は続いている。まず、小原氏が昨年8月から同11月に懲戒免職になるまでに支払われた給料約3カ月分、計約58万円を本人や家族を通じて返還させた。加えて小原氏の実父が40万円を支払った。それでも市が回収できた額は計約9210万円で、だまし取られた公金の全額には到底届かない。約48%に当たる約8489万円が未回収だ。 身柄を拘束されている小原氏は今すぐに働いて収入を得ることはできない。初犯ではあるが、多額の公金をだまし取った重大性と過去の判例を考慮すると実刑が濃厚だ。 ちなみに初公判が開かれた1月30日、同じ地裁会津若松支部では、粉飾決算で計3億5000万円をだまし取ったとして詐欺罪などに問われていた会社役員吉田淳一氏に懲役4年6月が言い渡されている(㈱吉田ストアの元社長・吉田氏については、本誌昨年9月号「逮捕されたOA機器会社社長の転落劇」で詳報しているので参照されたい)。 小原氏は3月中旬時点で五つの詐欺罪に問われており、本誌は罪がより重くなると考えている。同罪の法定刑は10年以下の懲役。二つ以上の罪は併合罪としてまとめられ、より重い罪の刑に1・5を掛けた刑期が与えられる。単純に計算すると10年×1・5=15年。最長で刑期は15年になる。実刑となればその期間の就労は不可能。刑務作業の報償金は微々たるもので当てにならない。 小原氏に実刑が科されれば、市は公金を全額回収できない事態に陥る。そのため市は、小原氏の家族にも返還への協力を求めてきた。小原氏は妻子とともに市内河東町の実家で両親と同居していたが、犯行発覚後に離婚したため、立て替えているのは両親だ。 実父は市に「年2回に分けて支払う」と申し出たが、前述の通りこれまでに支払ったのは1回につき40万円。残額は約8489万円だから、1年間に80万円ずつ返還すると仮定しても106年はかかる。今のペースのままでは、小原氏や家族が存命中に全額返還はかなわない。 返還が遅れると小原氏も不利益を被る。刑を軽くするには、贖罪の意思を行動で示すために少しでも多く返還する必要があるからだ。十分な返還ができず、刑期が減らなければ、その分だけ社会復帰が遅れ、返還に支障が出るという悪循環に陥る。 「裁判が終わるまでに全額返還」が市と小原氏、双方の共通目標と言える。だが、無い袖は振れない。ここで市が言う「民事上の対応も考えている」点が重要になる。小原氏側からの返還が滞り、返還に向けて努力する姿勢を見せなければ損害賠償請求も躊躇しないということを意味する。ただ、小原氏には財産がない以上、民事訴訟をしたところで回収は果たせるのか。親族に責任を求めて提訴する方法も考えられるが。 市に問い合わせると、 「詐取の責任は一義的に元市職員(小原氏)にあり、親族にまで民事訴訟をすることは考えていない」(市人事課) 確かに、返還義務があるのはあくまで犯行に及んだ小原氏だけだ。いくら親子関係にあっても互いに別人格を持った個人であり、犯罪の責任を親にかぶせることを求めてはいけない。現状、小原氏の実父が少額ずつであれ返還に協力している以上、強硬手段は取れない。小原氏や家族の資力を勘案して、できるだけ早く返還するよう強く求めることが、市が取れる手段だ。こうして見ると、一族が一生かかっても返還できない額をよく使い切ったものだと、小原氏の金銭感覚に呆れる。 実父、叔父、交際相手を援助 小原氏の裁判が開かれている福島地裁会津若松支部(1月撮影)  それでも、小原氏本人が返還できなければ、家族や親族を民事で訴えてでも回収すべきという意見も市民には根強い。なぜなら「公金詐取の引き金は親族への貸し付けが一要因である」との趣旨を小原氏が供述でほのめかしているからだ。 検察官が法廷で述べた供述調書の内容を記す。 小原氏は2016年5月ごろに叔父に700万円を貸している。小原氏と実父の供述調書では、小原氏は実父に頼まれて同年7月に700万円を貸している。 いずれの貸し付けも公金をそのまま貸したわけではなく、まずは地元の金融機関から借りるなどして捻出した金を叔父と実父に渡した。だが叔父からは十分な額を返してもらえず、小原氏はもともと抱えていた借金も重なって金融機関への返済に窮するようになった。その結果、公金詐取に再び手を染めたという。 事実が供述調書通りなのか、法廷での小原氏自身の発言を聞いたうえで判断する余地がある。だが逮捕前の市の調査でも、小原氏は「親族の借金を肩代わりするために公金を詐取した」と弁明しているので、供述との整合性が取れている。 地元ジャーナリストが小原氏の家族関係を話す。 「実父は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐという。三男(同)は公務員だそうだ。叔父は過去に勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあると聞いている。『親族の借金の肩代わり』とは叔父のことを指しているのかもしれない」 供述と証言を積み上げていくと、実父と叔父には自前では金を用意できない事情があった。2人は市役所職員という信頼のある職に就いていた小原氏に無心し、小原氏は金融機関から借金。もともと金に困っていたところに、借金でさらに首が回らなくなり、再び犯行に及んだことがうかがえる。 実父と叔父の無心は、既に公金詐取の「前科」があった小原氏を再犯に駆り立てた形だ。2人からすると「借りた相手が悪かった」と悔やんでいるかもしれないが、小原氏が市役所職員に見合わない金の使い方をしているのを傍で見ていて、いぶかしく思わなかったのだろうか。 だが、人は目の前に羽振りの良い人物がいたら「そのお金はどこから来たのか」とは面と向かって聞きづらいだろう。自分に尽くしてくれるなら疑念は頭の隅に置く。 小原氏には妻以外に交際相手がいた。相手が結婚を望むほどの仲で、小原氏はその子どもに食事をごちそうしたりおもちゃを買ったりしていたという。交際相手と子どもの3人で住むためのマンションも購入していた。しかし事件発覚後、交際相手は小原氏に現金100万円を渡している(検察が読み上げた交際相手の供述調書より)。自分たちが使っていた金の原資が公金なのではないかと思い、恐ろしくなって返したのではないか。 加算金でかさむ返還額 小原氏と実父が共有名義で持つ市内河東町の自宅。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  不動産を金に換える選択肢も残っている。ただ登記簿によると、市内河東町にある小原氏と実父の自宅は2000年10月に新築され、持ち分が実父3分の2、小原氏3分の1の共有名義。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。返済できなければ自宅は同信金によって処分されてしまうので、返還の財源に充てられるかは不透明だ。 小原氏のみならず、家族も窮状に陥っている。だがいかんせん、同情されるには犯行規模が大きすぎた。小原氏は国や県が負担する金にも手を出していたからだ。主に詐取した児童扶養手当の財源は3分の1が国負担(国からの詐取額約3689万円)、重度心身障害者医療費助成金は2分の1が県負担(県からの詐取額約3285万円)、子育て世帯への臨時特別給付金に至っては全額が国負担(国からの詐取額約60万円)だ。 早急に全額返金できなければ市は政府と県に顔向けできない。何より、いずれの財源も国民が納めた税金である。ここで生温い対応をしては、国民や市民からの視線が厳しくなる。市は引き続き妥協せずに回収していくとみられる。 利子に当たる金額をどうするかという問題も出てくる。公金詐取という重罪を、正当な取り引きである借金に当てはめることはできないが、他人の金を一時的に自分のものにしたという点では同じだ。借金なら、返す時に当然利子を支払わなければならない。だまし取ったにもかかわらず、利子に当たる金額を支払わずに済むのは、民間の感覚では到底許せない。 市に、利子に当たる金額の支払いを小原氏に求めるのか尋ねると「弁護士に相談して対応を決めている」(市人事課)。ただ、市に対し国負担分の返還を求めている政府は、部署によっては加算金を求めることがあるという。市が小原氏の代わりに加算金を負担する理由はないので、市はその分を含めた返還を小原氏に求めていくことになる。要するに、小原氏は加算金=利子も背負わなければならず、返還額はさらに増えるということだ。 小原氏は自身が罪に問われるだけでなく、一族を「公金の返還地獄」へと道連れにした。囚われの身の自分に代わり、家族が苦しむ姿に何を思うのだろうか。 あわせて読みたい 【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

  • 【会津若松】巨額公金詐取事件の舞台裏

    【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

     会津若松市の元職員による巨額公金詐取事件。その額は約1億7700万円というから呆れるほかない。 専門知識を悪用した元職員  巨額公金詐取事件を起こしたのは障がい者支援課副主幹の小原龍也氏(51)。小原氏は2022年11月7日付で懲戒免職になっているため、正確には元職員となる。  発覚の経緯は2022年6月13日、2021年度の児童扶養手当支給に係る国庫負担金の実績報告書を県に提出するため、小原氏の後任となったこども家庭課職員が関係書類やシステムデータを確認したところ、実際に振り込んだ額とシステムデータに不整合があることを見つけたことだった。  内部調査を進めると、2021年度の児童扶養手当支給に複数の不整合があることが分かった。また小原氏の業務用パソコンからは、同年度の子育て世帯への臨時特別給付金について小原氏名義の預金口座に振込依頼していたデータや、重度心身障がい者医療費助成金をめぐり小原氏が給付事務を担当していた07~09年度に詐取していたことをうかがわせるデータも見つかった。市は会津若松署に報告し今後の対応を相談する一方、金融機関に小原氏名義の預金口座の照会を行うなど、詐取の証拠集めを2カ月かけて進めた。  市は2022年8月8日、小原氏に事情聴取した。最初は「分からない」「覚えていない」と非協力的な姿勢を見せていたが、集めた証拠類を示すと児童扶養手当と子育て世帯への臨時特別給付金を詐取したことを認めた。  小原氏は動機について「不正に振り込む方法を思い付いた。魔が差した」と語り、使途は「生活していく中で自然に使った」と説明したが、続く同9、10、15日に行った事情聴取では「親族の借金を肩代わりし返済に苦労していた」「競馬や宝くじに使った」「車のローンの返済に充てた」と次第に変化していった。  市は事情聴取と並行し、詐取された公金の回収に取り組んだ。預金口座からの振り込みに加え、生命保険の解約や車の売却といった保有財産の換価を行い、2022年11月8日現在、約9100万円を回収した。  2022年9月8日には小原氏に対する懲戒審査委員会を開き、懲戒免職が妥当と判断されたが、引き続き事情聴取と公金回収を進めるため、小原氏の職員としての身分を当面継続することとした。  小原氏は2022年10月7日、市に誓約書を提出した。内容は児童扶養手当(約1億1070万円)、子育て世帯への臨時特別給付金(60万円)、重度心身障がい者医療費助成金(約6570万円)、計約1億7700万円を詐取したことを認め、弁済することを誓約したものだ。  市は2022年11月7日付で会津若松署に詐欺罪で告訴状を提出し、その日のうちに受理された。また、同日付で小原氏を懲戒免職とし、併せて上司らの懲戒処分を行った。  「会津若松署が告訴状を受理したので、事件の全容解明は今後の捜査に委ねられることになる。警察筋の話によると、捜査は2023年2月くらいまでかかるようだ」(ある事情通)  それにしても、これほど巨額な詐取がなぜバレなかったのか不思議でならないが、  「市の説明や報道等によると、児童扶養手当の詐取は管理システムの盲点を悪用し不正な操作を繰り返した、子育て世帯への臨時特別給付金の詐取は本来の支給額より多い金額が自分の預金口座に振り込まれるようデータを細工した、重度心身障がい者医療費助成金の詐取もデータを細工する一方、帳票を改ざんして発覚を免れていた」(同) 合併自治体特有の「差」  それだけではない。こども家庭課に勤務していた時は、自分が児童扶養手当支給の主担当を担えるよう事務分担を変え、支給処理に携わる職員を1人減らし、それまで行っていた決裁後の起案のグループ回覧をやめることで他職員が関連書類に触れないようにしていた。また主担当の仕事をチェックする副担当に、入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充てることでチェックが機能しにくい体制をつくっていた。  「パソコンがかなり達者で、福祉関連の支給事務に精通していた。そこに狡猾さが加わり、不正がバレないやり方を身に付けていった」(同)  小原氏は市の事情聴取に「不正はやる気になればできる」と話したというから、詐取するには打って付けの職場環境だったに違いない。  小原氏は1996年4月、旧河東町役場に入庁。2005年11月、会津若松市との合併に伴い同市職員となった。社会福祉課に配属され、11年3月まで重度心身障がい者医療費助成金の給付事務を担当。18年4月からはこども家庭課で児童扶養手当と子育て世代への臨時特別給付金の給付事務を担当した。2022年4月、障がい者支援課副主幹に。事件はこの異動をきっかけに発覚した。  地元ジャーナリストの話。  「小原氏は妻と子どもがおり、父親と同居している。父親は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐと聞いた。三男(同)は、小原氏と職種は違うが公務員だそうだ」  小原氏は「親族の借金を肩代わりした」とも語っていたが、  「過去に叔父が勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあるという。親族の借金の肩代わりとは、それを指しているのかもしれない」(同) 会津若松市河東町にある小原氏の自宅  河東町にある自宅は2000年10月に新築され、持ち分が父親3分の2、小原氏3分の1の共有名義となっている。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  小原氏の職場での評判は「他職員が嫌がる仕事も率先して引き受け、仕事ぶりは迅速かつ的確」といい、地元の声も「悪いことをやる人にはとても見えない」と上々。しかし、会津若松市のように他町村と合併した自治体では「職員の差」が問題になることがある。  ある議員経験者によると、市町村合併では優秀な職員が多い自治体もあれば能力の低い職員が目立つ自治体、服装や挨拶など基本的なことすらできていない自治体等々、職員の能力や資質に差を感じる場面が少なくなかったという。  「合併から十数年経ち、職員の退職・入庁が繰り返されたため今は差を感じることは減ったが、中核となる市に周辺町村がくっついた合併では職員の能力や資質にだいぶ開きがあったと思います」(同)  元首長もこう話す。  「町村役場は、職員を似たような部署に長く置いて専門性を身に付けさせ、サービスの低下を防ぐ。そこで自然と専門知識が身に付くので、あとは個人の資質によるが、悪用する気になればできる、と」  小原氏は旧河東町時代も重度心身障がい者医療費助成金の支給事務を行っていたというから、専門知識は豊富だったことになる。  市町村職員になるには採用試験に合格しなければならないが、競争率が高いため「職員=優秀」というイメージが漠然と定着している。しかし現実は、小原氏のような悪質な職員も存在すること、さらに言うと合併自治体特有の、職員の能力や資質の差が今回のような事件の契機になることも認識する必要がある。  市は今後、未回収となっている約8600万円の回収に努め、場合によっては民事訴訟も視野に入れるという。事件を受け、室井照平市長は給料を7カ月2分の1に減額し、現任期(3期目)の退職手当も2分の1に減額する方針。  市の責任を形で示したわけだが、市民からは市が注力しているデジタル田園都市国家構想を踏まえ「巨額公金詐取を見抜けなかった市に膨大な市民の個人情報を預けて大丈夫なのか」と心配する声が聞かれる。ICT導入を熱心に進める前にチェック機能がない、いわば〝ザル〟の組織を立て直す方が先決ではないのか。 この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

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     会津若松市職員(当時)による公金詐取事件は、だまし取った約1億7700万円の使い道が裁判で明らかになってきた。生活費をはじめ、競馬や宝くじ、高級車のローン返済や貯蓄、さらには実父や叔父への貸し付け、挙げ句には交際相手への資金援助。詐取金は、家族の協力を得ても半分しか返還できていない。本人が有罪となり刑期を終えても、一族を道連れに「返還地獄」が待っている。 一族を道連れにした「1.8億円の返還地獄」  会津若松市の元職員、小原龍也氏(51)=同市河東町=は在職中、児童扶養手当や障害者への医療給付を担当する立場を悪用し、データを改ざんして約1億7700万円もの公金をだまし取っていた。パソコンに長け、発覚しにくい方法を取っていただけでなく、決裁後の起案のグループ回覧を廃止したり、チェック役に新人職員や異動1年目の職員を充てて職員同士の監視機能が働かない体制をつくっていた。 不正発覚後、市は調査を進め、昨年11月7日に会津若松署に小原氏を刑事告訴した上で懲戒免職にした。同署は任意捜査を続け、同12月1日に詐欺容疑で逮捕した。  その後も、市は個別の犯行について被害届を提出。同署は一連の詐欺容疑で計5回逮捕し、地検会津若松支部がうち4件を詐欺罪で起訴している(原稿執筆時の3月中旬時点)。検察は全ての逮捕容疑を罪に問う見込みだ。小原氏は、これまでに法廷で読み上げられた起訴事実2件を「間違いございません」と認めている。一つの公判が開かれるたびに新たな起訴事実が読み上げられ、本格的な審理にまで至っていない。 地元の事情通が警察筋から聞いた話によると、捜査は2月中に終結する見込みだった。5回目の逮捕が3月9日だから、当初の想定よりずれ込んでいる。 逮捕5回は身に応えるのだろう。出廷した小原氏の髪は白髪交じりで首の後ろまで伸び、キノコのかさのように頭を覆っていた。もともと痩せていて背が高いのだろうが、体格のいい警察官に挟まれて連行されるとそれが際立った。顔はやつれ、いつも同じ黒のトレーナー上下とスリッパを身に着けていた。 刑事事件に問われているのは犯行の一部に過ぎない。2007~09年には、重度心身障害者医療費助成金約6500万円を詐取していたことが市の調査で分かっている(表参照)。だが、詐欺罪の公訴時効7年を過ぎているため立件されなかった。市は「民事上の対応で計約1億7700万円の返還を求めていく」としている。 元市職員による総額1億7700万円の公金詐取と返還の動き 1996年4月大学卒業後、旧河東町役場入庁。住民福祉課に配属1999年4月保健福祉課に配属2001年4月税務課に配属2005年4月建設課に配属11月合併で会津若松市職員に。健康福祉部社会福祉課に配属2007年4月~2009年12月6571万円を詐取(重度心身障害者医療費助成金)2011年4月財務部税務課に配属2014年11月健康福祉部こども保育課に配属2016年5月地元の金融機関から借金するなどして叔父に700万円を貸す7月実父に700万円を貸す2018年4月健康福祉部こども家庭課に配属。こども給付グループのリーダーに昇任2019年4月~2022年3月1億1068万円を詐取(児童扶養手当)2021年60万円を詐取(21年度子育て世帯への臨時特別給付金)2022年4月健康福祉部障がい者支援課に配属6月市が支給金額に異変を発見。内部調査を開始8月市が小原氏から詐取金の回収を開始9月市が返還への協力を求めて小原氏の家族と協議開始11月7日市が小原氏を刑事告訴し懲戒免職11月8日時点9112万円を返還(残額は全額の49%)11月30日8~10月の給料分56万円を返還12月1日1回目の逮捕12月28日家族を通じて11月の給料分2万円を返還2023年2月6日実父から市に40万円の支払い2月14日時点8489万円が未返還(残額は全額の48%)出典:会津若松市「児童扶養手当等の支給に係る詐欺事件への対応について」(2022年11月、23年2月発行)より。1000円以下は切り捨て。  市は早速、小原氏を懲戒免職にした後の昨年11月8日時点で半分に当たる9112万円を回収した。小原氏に預金を振り込ませたほか、生命保険を解約させたり、所有する車を売却させたりした。 小原氏が逮捕・起訴された後も回収は続いている。まず、小原氏が昨年8月から同11月に懲戒免職になるまでに支払われた給料約3カ月分、計約58万円を本人や家族を通じて返還させた。加えて小原氏の実父が40万円を支払った。それでも市が回収できた額は計約9210万円で、だまし取られた公金の全額には到底届かない。約48%に当たる約8489万円が未回収だ。 身柄を拘束されている小原氏は今すぐに働いて収入を得ることはできない。初犯ではあるが、多額の公金をだまし取った重大性と過去の判例を考慮すると実刑が濃厚だ。 ちなみに初公判が開かれた1月30日、同じ地裁会津若松支部では、粉飾決算で計3億5000万円をだまし取ったとして詐欺罪などに問われていた会社役員吉田淳一氏に懲役4年6月が言い渡されている(㈱吉田ストアの元社長・吉田氏については、本誌昨年9月号「逮捕されたOA機器会社社長の転落劇」で詳報しているので参照されたい)。 小原氏は3月中旬時点で五つの詐欺罪に問われており、本誌は罪がより重くなると考えている。同罪の法定刑は10年以下の懲役。二つ以上の罪は併合罪としてまとめられ、より重い罪の刑に1・5を掛けた刑期が与えられる。単純に計算すると10年×1・5=15年。最長で刑期は15年になる。実刑となればその期間の就労は不可能。刑務作業の報償金は微々たるもので当てにならない。 小原氏に実刑が科されれば、市は公金を全額回収できない事態に陥る。そのため市は、小原氏の家族にも返還への協力を求めてきた。小原氏は妻子とともに市内河東町の実家で両親と同居していたが、犯行発覚後に離婚したため、立て替えているのは両親だ。 実父は市に「年2回に分けて支払う」と申し出たが、前述の通りこれまでに支払ったのは1回につき40万円。残額は約8489万円だから、1年間に80万円ずつ返還すると仮定しても106年はかかる。今のペースのままでは、小原氏や家族が存命中に全額返還はかなわない。 返還が遅れると小原氏も不利益を被る。刑を軽くするには、贖罪の意思を行動で示すために少しでも多く返還する必要があるからだ。十分な返還ができず、刑期が減らなければ、その分だけ社会復帰が遅れ、返還に支障が出るという悪循環に陥る。 「裁判が終わるまでに全額返還」が市と小原氏、双方の共通目標と言える。だが、無い袖は振れない。ここで市が言う「民事上の対応も考えている」点が重要になる。小原氏側からの返還が滞り、返還に向けて努力する姿勢を見せなければ損害賠償請求も躊躇しないということを意味する。ただ、小原氏には財産がない以上、民事訴訟をしたところで回収は果たせるのか。親族に責任を求めて提訴する方法も考えられるが。 市に問い合わせると、 「詐取の責任は一義的に元市職員(小原氏)にあり、親族にまで民事訴訟をすることは考えていない」(市人事課) 確かに、返還義務があるのはあくまで犯行に及んだ小原氏だけだ。いくら親子関係にあっても互いに別人格を持った個人であり、犯罪の責任を親にかぶせることを求めてはいけない。現状、小原氏の実父が少額ずつであれ返還に協力している以上、強硬手段は取れない。小原氏や家族の資力を勘案して、できるだけ早く返還するよう強く求めることが、市が取れる手段だ。こうして見ると、一族が一生かかっても返還できない額をよく使い切ったものだと、小原氏の金銭感覚に呆れる。 実父、叔父、交際相手を援助 小原氏の裁判が開かれている福島地裁会津若松支部(1月撮影)  それでも、小原氏本人が返還できなければ、家族や親族を民事で訴えてでも回収すべきという意見も市民には根強い。なぜなら「公金詐取の引き金は親族への貸し付けが一要因である」との趣旨を小原氏が供述でほのめかしているからだ。 検察官が法廷で述べた供述調書の内容を記す。 小原氏は2016年5月ごろに叔父に700万円を貸している。小原氏と実父の供述調書では、小原氏は実父に頼まれて同年7月に700万円を貸している。 いずれの貸し付けも公金をそのまま貸したわけではなく、まずは地元の金融機関から借りるなどして捻出した金を叔父と実父に渡した。だが叔父からは十分な額を返してもらえず、小原氏はもともと抱えていた借金も重なって金融機関への返済に窮するようになった。その結果、公金詐取に再び手を染めたという。 事実が供述調書通りなのか、法廷での小原氏自身の発言を聞いたうえで判断する余地がある。だが逮捕前の市の調査でも、小原氏は「親族の借金を肩代わりするために公金を詐取した」と弁明しているので、供述との整合性が取れている。 地元ジャーナリストが小原氏の家族関係を話す。 「実父は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐという。三男(同)は公務員だそうだ。叔父は過去に勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあると聞いている。『親族の借金の肩代わり』とは叔父のことを指しているのかもしれない」 供述と証言を積み上げていくと、実父と叔父には自前では金を用意できない事情があった。2人は市役所職員という信頼のある職に就いていた小原氏に無心し、小原氏は金融機関から借金。もともと金に困っていたところに、借金でさらに首が回らなくなり、再び犯行に及んだことがうかがえる。 実父と叔父の無心は、既に公金詐取の「前科」があった小原氏を再犯に駆り立てた形だ。2人からすると「借りた相手が悪かった」と悔やんでいるかもしれないが、小原氏が市役所職員に見合わない金の使い方をしているのを傍で見ていて、いぶかしく思わなかったのだろうか。 だが、人は目の前に羽振りの良い人物がいたら「そのお金はどこから来たのか」とは面と向かって聞きづらいだろう。自分に尽くしてくれるなら疑念は頭の隅に置く。 小原氏には妻以外に交際相手がいた。相手が結婚を望むほどの仲で、小原氏はその子どもに食事をごちそうしたりおもちゃを買ったりしていたという。交際相手と子どもの3人で住むためのマンションも購入していた。しかし事件発覚後、交際相手は小原氏に現金100万円を渡している(検察が読み上げた交際相手の供述調書より)。自分たちが使っていた金の原資が公金なのではないかと思い、恐ろしくなって返したのではないか。 加算金でかさむ返還額 小原氏と実父が共有名義で持つ市内河東町の自宅。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  不動産を金に換える選択肢も残っている。ただ登記簿によると、市内河東町にある小原氏と実父の自宅は2000年10月に新築され、持ち分が実父3分の2、小原氏3分の1の共有名義。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。返済できなければ自宅は同信金によって処分されてしまうので、返還の財源に充てられるかは不透明だ。 小原氏のみならず、家族も窮状に陥っている。だがいかんせん、同情されるには犯行規模が大きすぎた。小原氏は国や県が負担する金にも手を出していたからだ。主に詐取した児童扶養手当の財源は3分の1が国負担(国からの詐取額約3689万円)、重度心身障害者医療費助成金は2分の1が県負担(県からの詐取額約3285万円)、子育て世帯への臨時特別給付金に至っては全額が国負担(国からの詐取額約60万円)だ。 早急に全額返金できなければ市は政府と県に顔向けできない。何より、いずれの財源も国民が納めた税金である。ここで生温い対応をしては、国民や市民からの視線が厳しくなる。市は引き続き妥協せずに回収していくとみられる。 利子に当たる金額をどうするかという問題も出てくる。公金詐取という重罪を、正当な取り引きである借金に当てはめることはできないが、他人の金を一時的に自分のものにしたという点では同じだ。借金なら、返す時に当然利子を支払わなければならない。だまし取ったにもかかわらず、利子に当たる金額を支払わずに済むのは、民間の感覚では到底許せない。 市に、利子に当たる金額の支払いを小原氏に求めるのか尋ねると「弁護士に相談して対応を決めている」(市人事課)。ただ、市に対し国負担分の返還を求めている政府は、部署によっては加算金を求めることがあるという。市が小原氏の代わりに加算金を負担する理由はないので、市はその分を含めた返還を小原氏に求めていくことになる。要するに、小原氏は加算金=利子も背負わなければならず、返還額はさらに増えるということだ。 小原氏は自身が罪に問われるだけでなく、一族を「公金の返還地獄」へと道連れにした。囚われの身の自分に代わり、家族が苦しむ姿に何を思うのだろうか。 あわせて読みたい 【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

  • 【会津若松市】巨額公金詐取事件の舞台裏

     会津若松市の元職員による巨額公金詐取事件。その額は約1億7700万円というから呆れるほかない。 専門知識を悪用した元職員  巨額公金詐取事件を起こしたのは障がい者支援課副主幹の小原龍也氏(51)。小原氏は2022年11月7日付で懲戒免職になっているため、正確には元職員となる。  発覚の経緯は2022年6月13日、2021年度の児童扶養手当支給に係る国庫負担金の実績報告書を県に提出するため、小原氏の後任となったこども家庭課職員が関係書類やシステムデータを確認したところ、実際に振り込んだ額とシステムデータに不整合があることを見つけたことだった。  内部調査を進めると、2021年度の児童扶養手当支給に複数の不整合があることが分かった。また小原氏の業務用パソコンからは、同年度の子育て世帯への臨時特別給付金について小原氏名義の預金口座に振込依頼していたデータや、重度心身障がい者医療費助成金をめぐり小原氏が給付事務を担当していた07~09年度に詐取していたことをうかがわせるデータも見つかった。市は会津若松署に報告し今後の対応を相談する一方、金融機関に小原氏名義の預金口座の照会を行うなど、詐取の証拠集めを2カ月かけて進めた。  市は2022年8月8日、小原氏に事情聴取した。最初は「分からない」「覚えていない」と非協力的な姿勢を見せていたが、集めた証拠類を示すと児童扶養手当と子育て世帯への臨時特別給付金を詐取したことを認めた。  小原氏は動機について「不正に振り込む方法を思い付いた。魔が差した」と語り、使途は「生活していく中で自然に使った」と説明したが、続く同9、10、15日に行った事情聴取では「親族の借金を肩代わりし返済に苦労していた」「競馬や宝くじに使った」「車のローンの返済に充てた」と次第に変化していった。  市は事情聴取と並行し、詐取された公金の回収に取り組んだ。預金口座からの振り込みに加え、生命保険の解約や車の売却といった保有財産の換価を行い、2022年11月8日現在、約9100万円を回収した。  2022年9月8日には小原氏に対する懲戒審査委員会を開き、懲戒免職が妥当と判断されたが、引き続き事情聴取と公金回収を進めるため、小原氏の職員としての身分を当面継続することとした。  小原氏は2022年10月7日、市に誓約書を提出した。内容は児童扶養手当(約1億1070万円)、子育て世帯への臨時特別給付金(60万円)、重度心身障がい者医療費助成金(約6570万円)、計約1億7700万円を詐取したことを認め、弁済することを誓約したものだ。  市は2022年11月7日付で会津若松署に詐欺罪で告訴状を提出し、その日のうちに受理された。また、同日付で小原氏を懲戒免職とし、併せて上司らの懲戒処分を行った。  「会津若松署が告訴状を受理したので、事件の全容解明は今後の捜査に委ねられることになる。警察筋の話によると、捜査は2023年2月くらいまでかかるようだ」(ある事情通)  それにしても、これほど巨額な詐取がなぜバレなかったのか不思議でならないが、  「市の説明や報道等によると、児童扶養手当の詐取は管理システムの盲点を悪用し不正な操作を繰り返した、子育て世帯への臨時特別給付金の詐取は本来の支給額より多い金額が自分の預金口座に振り込まれるようデータを細工した、重度心身障がい者医療費助成金の詐取もデータを細工する一方、帳票を改ざんして発覚を免れていた」(同) 合併自治体特有の「差」  それだけではない。こども家庭課に勤務していた時は、自分が児童扶養手当支給の主担当を担えるよう事務分担を変え、支給処理に携わる職員を1人減らし、それまで行っていた決裁後の起案のグループ回覧をやめることで他職員が関連書類に触れないようにしていた。また主担当の仕事をチェックする副担当に、入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充てることでチェックが機能しにくい体制をつくっていた。  「パソコンがかなり達者で、福祉関連の支給事務に精通していた。そこに狡猾さが加わり、不正がバレないやり方を身に付けていった」(同)  小原氏は市の事情聴取に「不正はやる気になればできる」と話したというから、詐取するには打って付けの職場環境だったに違いない。  小原氏は1996年4月、旧河東町役場に入庁。2005年11月、会津若松市との合併に伴い同市職員となった。社会福祉課に配属され、11年3月まで重度心身障がい者医療費助成金の給付事務を担当。18年4月からはこども家庭課で児童扶養手当と子育て世代への臨時特別給付金の給付事務を担当した。2022年4月、障がい者支援課副主幹に。事件はこの異動をきっかけに発覚した。  地元ジャーナリストの話。  「小原氏は妻と子どもがおり、父親と同居している。父親は個人事業主として市の一般ごみの収集運搬を請け負っているが、今回の事件を受けて代表を退き、一緒に仕事をしている次男(小原氏の弟)が後を引き継ぐと聞いた。三男(同)は、小原氏と職種は違うが公務員だそうだ」  小原氏は「親族の借金を肩代わりした」とも語っていたが、  「過去に叔父が勤め先で金銭トラブルを起こしたことがあるという。親族の借金の肩代わりとは、それを指しているのかもしれない」(同) 会津若松市河東町にある小原氏の自宅  河東町にある自宅は2000年10月に新築され、持ち分が父親3分の2、小原氏3分の1の共有名義となっている。土地建物には会津信用金庫が両氏を連帯債務者とする5000万円の抵当権を付けている。  小原氏の職場での評判は「他職員が嫌がる仕事も率先して引き受け、仕事ぶりは迅速かつ的確」といい、地元の声も「悪いことをやる人にはとても見えない」と上々。しかし、会津若松市のように他町村と合併した自治体では「職員の差」が問題になることがある。  ある議員経験者によると、市町村合併では優秀な職員が多い自治体もあれば能力の低い職員が目立つ自治体、服装や挨拶など基本的なことすらできていない自治体等々、職員の能力や資質に差を感じる場面が少なくなかったという。  「合併から十数年経ち、職員の退職・入庁が繰り返されたため今は差を感じることは減ったが、中核となる市に周辺町村がくっついた合併では職員の能力や資質にだいぶ開きがあったと思います」(同)  元首長もこう話す。  「町村役場は、職員を似たような部署に長く置いて専門性を身に付けさせ、サービスの低下を防ぐ。そこで自然と専門知識が身に付くので、あとは個人の資質によるが、悪用する気になればできる、と」  小原氏は旧河東町時代も重度心身障がい者医療費助成金の支給事務を行っていたというから、専門知識は豊富だったことになる。  市町村職員になるには採用試験に合格しなければならないが、競争率が高いため「職員=優秀」というイメージが漠然と定着している。しかし現実は、小原氏のような悪質な職員も存在すること、さらに言うと合併自治体特有の、職員の能力や資質の差が今回のような事件の契機になることも認識する必要がある。  市は今後、未回収となっている約8600万円の回収に努め、場合によっては民事訴訟も視野に入れるという。事件を受け、室井照平市長は給料を7カ月2分の1に減額し、現任期(3期目)の退職手当も2分の1に減額する方針。  市の責任を形で示したわけだが、市民からは市が注力しているデジタル田園都市国家構想を踏まえ「巨額公金詐取を見抜けなかった市に膨大な市民の個人情報を預けて大丈夫なのか」と心配する声が聞かれる。ICT導入を熱心に進める前にチェック機能がない、いわば〝ザル〟の組織を立て直す方が先決ではないのか。 この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う