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南相馬市

  • 南相馬闇バイト強盗が招いた住民不和

    南相馬闇バイト強盗が招いた住民不和

     昨年2月、南相馬市の高齢者宅を襲った闇バイト強盗事件が地域住民に不和を与えている。強盗の被害に遭った男性A氏(78)が近所の男性B氏(74)を犯人視し、昨年8月に木刀で突いた。A氏は傷害罪に問われ、現在裁判が続く。B氏が根拠なく犯人扱いされた窮状と、加害者が既に別の犯罪の被害者であることへの複雑な思いを打ち明けた。 ※A氏は傷害罪で逮捕・起訴され、実名が公表されているが、闇バイト強盗被害が傷害事件を誘発した要因になっていることと地域社会への影響を鑑み匿名で報じる。 強盗被害者に殴られた男性が真相を語る 木刀で殴られた位置を示す男性  傷害事件は、昨年2月に南相馬市で発生した若者らによる闇バイト強盗事件が遠因だ。20~22歳のとび職、専門学校生からなる男3人組が犯罪グループから指示を受けて福島駅(福島市)で合流し、南相馬市の山あいにある被害者宅に武器を持って押し入った。リーダー格の男は札幌市在住、残り2人は東京都内在住で高校の同級生。2組はそれぞれ指示役から「怪しい仕事」を持ち掛けられ、強盗と理解した上で決行した。   強盗致傷罪に問われた実行犯3人には懲役6~7年の実刑判決が言い渡されている。東京都の2人に強盗を持ち掛けた同多摩市のとび職石志福治(27)=職業、年齢は逮捕時=は共謀を問われ、1月15日に福島地裁で裁判員裁判の初公判が予定されている。  強盗被害を受けた夫婦は家を荒らされ、現金8万円余りを奪われただけでなく大けがを負った。何の落ち度もないのに急に押し入られたわけで、現在に至るまで多大な精神的被害を受けている。にもかかわらず、犯行を計画・指示した札幌市のグループの上層部は法の裁きを受けていない。SNSや秘匿性の高い通信アプリを通じ何人も人を介して指示を出しており、立証が困難なためだ。犯罪を実行する闇バイト人員は後を絶たず、トカゲの尻尾切りに終わっている。被害者は全容がつかめず釈然としない。その怒りはどこに向ければいいのか。  矛先が向いたのが近所に住む知人男性B氏だった。当人が傷害事件のあった8月11日を振り返る。  「その日はうだるような暑さでした。午後2~3時の間に車でA氏の自宅前を通るとA氏が道路沿いに座っていました。私は助手席の窓を開けて『暑いから熱中症になるなよ』と声を掛けるとA氏は『水持ってるから大丈夫』と答えました」  A氏からB氏の携帯電話に着信があったのは午後10時41分ごろだった。  「私は深夜の電話は一切出ないことにしています。放っておくと玄関ドアを叩く音が聞こえました。開けるとA氏がいたので『おやじ、どうした?』と聞くと、A氏は『お前を殺しに来た』。私が『お前に殺されるようなタマじゃない』と答えるやA氏は左手に持った20㌢くらいの木刀を私の額に向かって突き出してきました。眉間に当たった感覚があり、口の中にたらたらと血が入ってきたので出血がおびただしいと理解した」  B氏がのちに警察から凶器の写真を見せられると、木刀の切っ先や周りに釘が複数打ち込まれていたという。「釘バットという凶器があるでしょ。あんな感じです。これで額を突かれればあれだけ血が出るのも頷ける」(B氏)。  攻撃を受けた後、B氏はA氏の両手を掴んで動きを封じ、B氏の借家と同じ敷地に住む大家の元へ連れていき助けを求めた。警察に通報してもらうと、A氏と軽トラを運転してきたA氏の妻はそのまま帰っていったという。A氏は凶器の木刀を置いていった。B氏は「大家が軽トラの荷台に戻していたので、木刀の現物を詳しくは見ていない」と語った。  地裁相馬支部で昨年12月11日に開かれた公判ではB氏や大家に対する証人尋問が行われた。B氏は「A氏を許すことはできない」と厳罰を求めた。  この傷害事件で気になるのがA氏の動機だ。なぜ強盗被害者が木刀で知人を襲うに至ったのか。裁判で検察側は「B氏が北海道出身だったことで、A氏は早合点した」と言及している。どういうことか。  12月11日、証人尋問を終えたB氏に相馬市内のファミレスで話を聞いた。  「確かに私は北海道出身です。東日本大震災・原発事故後に土木工事業者として福島県に来ました。除染関連の仕事に従事していました」  B氏は、A氏が闇バイトを利用した一連の強盗事件で、指示役「ルフィ」らが北海道出身で日本では札幌市を拠点にしていたことと自分を結び付けたのではないかと推測する。南相馬市の闇バイト集団は、全国の高齢者が自宅に持つ現金や金塊などの資産状況を裏ルートで把握していた。B氏は「A氏は資産情報を漏らした犯人が自分だと因縁をつけたのではないか」と憤慨する。  「疑うべきところは私ではない。震災直後、A氏の自宅敷地内には除染や工事作業員の寮があり、全国から身元が判然としない人物が多く出入りしていた。私は南相馬に10年以上根を下ろし、大家さんや地元の方に良くしてもらっている。強盗の片棒を担いだと思われていたのは残念です」 救済制度の周知不足  B氏から話を聞くうちに、犯罪被害者救済制度を知らないことが明らかになった。福島県は犯罪被害者等支援条例を2022年4月に施行しているが、取り調べた警察や検察、居住地の南相馬市からは同制度が十分に周知されていなかった。筆者の取材を受ける中で同制度の存在を知り、検察から渡された手引きを見返すと支援の内容が載っていた。 犯罪被害者支援に特化した条例を制定している県内の自治体 白河市、喜多方市、本宮市、天栄村、北塩原村、西会津町、湯川村、金山町、昭和村、西郷村、矢吹町、棚倉町、塙町、三春町、小野町、広野町、楢葉町 (警察庁「地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する取組状況」より)  犯罪被害者を支援する条例は岩手県以外の都道府県が制定する。被害者やその家族が被害から回復し、社会復帰できるように行政と事業者、支援団体の連携と相談体制、被害に対する金銭的支援を定めたもの。福島県は「犯罪被害者等見舞金」として、各市町村が給付する見舞金を半額補助している。  けがを負わされた被害者は治療費が掛かるし、外傷は治っても心理的ショックは長期間なくなることはない。その間は仕事に就けなくなる可能性も高い。B氏も額のけがが気になり、しばらく人前に出られなかったという。  問題意識を持って被害者支援に特化した条例を制定する市町村も出て来た。警察庁の2023年4月1日現在の統計によると、県内では表の17市町村が制定している。南相馬市は制定していない。  条例があることは当事者への理解が進んでいる自治体のバロメーターと言っていい。近年制定した自治体には、凄惨な事件の舞台となったところもある。誰もが加害者と被害者になってはいけない。だが、現に起こり、近しい人の協力だけでは復帰は難しく、公的支援が必要だ。南相馬市で発生した二つの事件を機に、全県で実効性の伴う犯罪被害者・家族の支援体制を整備するべきだ。

  • 薬剤師法違反を誤解された【南相馬市】の薬局

    薬剤師法違反を誤解された【南相馬市】の薬局

     昨年11月、本誌に「南相馬市にあるA薬局は薬剤師が1人だが、他の従業員は資格がないにもかかわらず調剤や接客をしている。これは薬剤師法違反に当たる」と情報提供があった。A薬局は実名だったがここでは伏せる。  本誌は昨年5月号から同市を拠点に暗躍する青森県出身のブローカー吉田豊氏の動きを注意喚起のため報じている。吉田氏は市内のクリニックや薬局を実質経営し、一時はその薬局の2階に住んでいたため、A薬局と関連があるのではと思い調べたが、吉田氏が同市に狙いを付ける前に開業しているため、関係はなさそうだ。  薬剤師法では、医師が処方した薬を調合する調剤業務は原則薬剤師しかできない。医師も調剤できるが、業務が肥大化し、受け取る診療報酬の点数が少なくなる=診療報酬が安くなるため、薬局が近くにない診療所以外ではまずやらない。院外薬局で調剤するインセンティブが高まり、処方箋を目当てに病院の前に薬局が連なる「門前薬局」が主流となった理由だ。 薬剤師法違反との通報が寄せられた相双保健所  調剤が薬剤師の専権事項と化す中で、専門性がより求められているが、薬局の看板を掲げながら無資格者が調剤を行っているとすれば由々しき事態だ。薬の渡し間違いにつながるし、専門性を自ら明け渡してしまったら、高い学費を払って薬学部で6年間学ぶ意味を問われ、資格のための資格と軽視されてしまうだろう。  相双保健福祉事務所(相双保健所)生活環境部医事薬事課に尋ねると、A薬局で薬剤師法違反疑いの公益通報があったことを認めた。2018~19年度にかけて県庁に通報があり、相双保健所がA薬局に抜き打ちで調査したが、薬剤師以外の従業員が調剤している証拠を見つけられなかった。20~21年度は、6年ごとの薬局営業許可更新の調査の際に店舗を視察したが、この時も違反の事実を確認できなかったため保留しているという。「仮に違反事実があれば指導して改善を促す」とのこと。  名指しで「薬剤師法違反」と通報されたA薬局はどのような見解か。12月下旬の昼下がりに訪ねると、管理薬剤師が対応した。  「誤解です。薬剤師以外が調剤することはありません。服薬指導も必ず薬剤師が行い、原則私が手渡しています。ただファクスで送られた処方箋は、患者さんに電話で説明し、あとで店に取りに来てもらい、従業員が渡すことがあるので、そこを勘違いされたのかもしれません」  県内のある薬局経営者が調剤業務の規制緩和を解説する。  「2019年4月2日に厚生労働省が、今まで薬剤師が独占してきた業務の一部を条件付きで非薬剤師も可能とする文書を通知しました。『0402通知』と言います」  具体的には、包装されたままの医薬品を棚から取り出して揃える「ピッキング」、服用タイミングが同じ薬を1回ずつパックする「一包化」した薬剤の数量確認などができるようになった。ただし、薬剤師による最終監査が必要となる。  A薬局の管理薬剤師は「最終監査も私がやっています」。  規制緩和で薬剤師とそれ以外の業務が一部曖昧となったことが、今回の通報の一因のようだ。  ちなみに、通報者に「なぜ本誌に情報提供したのか」と聞くと「吉田豊氏を報じたからです」。医療・福祉業界を取り巻く「吉田豊問題」をきっかけに、住民の医療への関心が高まる効果も生まれた。

  • 【南相馬市闇バイト強盗事件】資産家を襲った『闇バイト』集団の足取り

    【南相馬市闇バイト強盗事件】資産家を襲った『闇バイト』集団の足取り

     福島県で高齢者が犯罪集団の標的になっている。今年2月に南相馬市の70代夫婦宅に男3人が押し入り、暴行のうえ現金などを奪う事件が発生。強盗傷害罪などに問われた実行犯2人に懲役7年、もう1人に同6年が言い渡された。3人はSNSや知人を通じて全国から集められ、匿名の指示役から被害者の財産情報を得ていた。(文中一部敬称略) 犯罪集団に狙われる高齢者の財産  今年2月26日午後3時20分ごろ、南相馬市原町区の県道川俣原町線沿いにある70代夫婦が住む平屋に20代の男3人が押し入り、暴行の末、現金3万8000円とネックレスを奪って逃げた。実行犯3人は約1週間のうちに逮捕された。  犯行は匿名の人物が計画してX(旧ツイッター)などのSNSで隠語を交え告知。応じた者が勧誘役となり、その知人に実行役を任せた(図参照)。検挙率が高く実刑が科される強盗はリスクが高く、自らは手を下したくない。「犯罪白書令和4年版」によると、2021年の強盗の検挙率は99%。   足が付きやすいので、直接の知人には「捨て駒」となる実行役は任せられない。主謀者はSNSで「高額報酬」をうたい、困窮し切羽詰まった者を全国から募集する。いわゆる「闇バイト」だ。高額報酬に飛びついたのが実行犯3人だった。  犯行当日に捕まったのが東京都多摩市のとび職瓜田翔(21)。翌27日には同八王子市の専門学校生江口将匡(20)が警察に事件への関与を伝え逮捕された。2人は高校時代からの友人で、瓜田が犯行に誘った。  その後、3月6日に実行犯のリーダー格とされる札幌市のとび職土岐渚(23)が同市内の自宅で逮捕された。初公判の10月10日時点で3人のほかに指示役、実行犯の勧誘役、逃走の手助け役とみられる男ら6人が逮捕されている。うち瓜田を勧誘し、凶器の準備を指示したとして、瓜田が勤めていた会社の上司であるとび職石志福治(27)が強盗傷害罪で逮捕・起訴された。指示役とみられる男たちは処分保留で釈放された。  闇バイトはSNSを通じて実行役を勧誘し、秘匿性の高い通信アプリを使って匿名の人物が指示を出すので、実行役は犯罪集団の全容を知らない。警察が摘発しても、主謀者が関わった証拠が不十分で「トカゲの尻尾切り」に終わってしまう。 ここからは、10月10~25日にかけて福島地裁で開かれた公判をもとに書き進める。  瓜田、江口ら東京都の2人と札幌市の土岐は事件まで面識がなく、2組はそれぞれ別の知人から被害者宅の財産を盗むことを持ち掛けられた。瓜田は前出の石志から、土岐は札幌市の飲食店経営新居秀道(22)からだった。別にいる指示役は、通信アプリで「クロサキジン」「ヤマモトヨシノブ」などと名乗っていた。指示役が1人で匿名アカウントを使い回していたのか、複数人が成りすましていたのかは不明。  実行犯3人は報酬に魅せられたわけだが、切迫度はそれぞれ違う。土岐は経営する会社の運営資金に困っていた。瓜田はバイクのローンや友人たちへの借金返済、交際相手との遊興費を欲していた。瓜田に誘われた江口は「瓜田に貸した金を返してもらい、それ以上の報酬がもらえるなら」と、薬物の運び屋のような非合法の仕事を想定して応じた。  闇バイトに加わる末端の若者は身分証明書や実家の情報を握られ、脅されていることが多いが、南相馬市の事件は実行犯3人とも脅しを受けていなかった点から「逃げられなかった」という言い訳は苦しい。  札幌市から参加した土岐は定時制高校を中退後、とび職に転じ、2022年2月には従業員7、8人の会社を興し独立した。だが、コロナ禍で現場の仕事が減る中、従業員に給料を払うため父親から借金してしのいでいたという。「自分なりには精いっぱいだったが、はたから見れば金の扱いが杜撰だったかもしれない。人にすぐ金を貸すなど甘いところがあった」と振り返った。  今回の強盗に加わる直前の2022年12月から翌年2月にかけては、元請けからの支払いが滞り、従業員に給料を払えなくなった。資金繰りに頭を悩ませ、従業員に資金を持ち逃げされたとも語った。「もう親には借りられない」と思ったという。  社会保険料の支払い期限が迫り、土岐が頼ったのは新居だった。土岐は新居が経営する飲食店で働いていたことがあり、彼の顔が広いことを知っていた。今年2月13日夜、土岐はLINEで次のように切り出した。  土岐「今どっかたたけない?」  新居「今?」  土岐「金持っててむかつくやつとかいないの」「潰したいやつとか」「なんかもうどうでもよくなってやばい」  タタキとは強盗の隠語。土岐は法廷で「悪い奴から金を奪う意味」と独自の定義を話した。新居とのやり取りの中では「表に出しちゃいけない金はたたいた方がいい気がする」と述べている。「いくら欲しい」と新居に聞かれ、土岐は「400万円。あればあるだけほしい」。400万円は土岐の借金の額だ。 原発賠償金も狙う  南相馬市の老夫婦以外にもタタキの候補は存在していた。当初は2月20日ごろに名古屋市に住む老夫婦の金庫を狙うつもりだったが、同日未明にキャンセルされ、福島県に変更。土岐によると、最初は空き巣を想定しており、候補には名古屋市、福島県、北海道苫小牧市が挙がっていたという。土岐と新居は福島県の標的について「原発の補助金が入っている」とのやり取りを通信アプリで交わしていた。県民にとって、原発事故の賠償金が狙われている点は見過ごせない。  土岐と新居の札幌組は実際に強盗に入った2月26日の前日に、車で東京都から茨城県を通って南相馬市に入り、仙台市に向かっていることが分かっている。この時、常磐道富岡IC付近で乗っていた車が盗難車と疑われ、福島県警に職質を受ける失態を犯す。疑いは晴れたが、裁判で検察側は土岐に対し「新居と下見に行ったのでは」と指摘。土岐は「茨城の解体のバイトに向かう途中でそれがなくなった」と、犯行前日に南相馬市を通ったのは仙台市を経由して札幌市に帰る道中であり、下見であることを否定した。  その後、札幌市に帰った土岐は新居から、匿名性の高い通信アプリを通して「クロサキジン」を紹介される。互いに顔は知らない。以後、クロサキが土岐に強盗の具体的な指示を出す。同日夜、同市内の指定された場所に向かうと、ホスト風の男から交通費2万円と南相馬市の強盗に入る家の写真を示された。寝室の床下に金の延べ棒があると伝えられた。翌26日早朝、土岐は函館市から新幹線で福島市に向かった。  一方、瓜田と江口は強盗に参加するまでにもう1人の人物を介した。今年2月、東京都多摩市のとび職石志福治は「プッシュ 運び」とツイッターで検索していた。プッシュとは大麻のこと。大麻の運び屋を表す。同24日、密売をしていると思われる「ヤマモトヨシノブ」と名乗るアカウントにダイレクトメールを送ると「車の名義を貸してほしい」と返事が来た。「変なことに使われるな」と思った石志は、ヤマモトからの案件を職場の部下の瓜田に紹介した。  瓜田には、福島県の老夫婦から金の延べ棒を奪う仕事で、1人は車で待機、2人は家に入るため最低3人は必要なこと、1人当たりの報酬は800万円はくだらないと伝えた。ハンマーやバールのような物、テープや結束バンドなども用意するよう言った。  犯行前日の2月25日夜、南相馬市に向かうためレンタカーを借りた瓜田と石志は地元の多摩市で会う。ドライブレコーダーが石志の発言を記録していた。  石志「捕まんなよ」「レンタカーの報酬は10万円だよ」「この家はだいたい億は超えてるんだ。みんなで分ける」「俺の場合はボスがいる。ボスから紹介で仕事をもらってるから、そっちに払わなきゃいけない。こっちは現場に出てるから金はでかい」  瓜田はLINEで友人たちに、福島県まで車を運転すれば50万円もらえる仕事があると勧誘した。応じたのが、瓜田に27万円貸していた江口だった。 道の確認を装い下見 福島駅  瓜田はスマホの匿名人物からの指示で同日午後10時ごろ、都内で江口を拾い、下道で福島県浜通りに向かった。翌26日午前中、いわき市を経て南相馬市に入る。老夫婦宅の前を通って車の台数を確認。指示に従って福島市のJR福島駅に向かい、札幌市から来た土岐を拾った。  合流後、3人は福島市内のホームセンターで先端がとがったハンマーなどを買う。床下にあると聞かされていた金の延べ棒を奪うため、畳を引きはがす道具だった。  合流後、指示役からの連絡は土岐に一元化された。午後1時ごろ、3人は在宅人数を確認するため、ターゲットの老夫婦宅を訪ねた。瓜田が「駅までの道を教えてほしい」と玄関に入った。  もっとも、老夫婦宅は県道から奥まったところにある。不審に思った夫のAさんは「スマホはないのか」「車のナビがあるじゃないか」と尋ねたが、瓜田は「充電がない」「ナビは付いてない」とはぐらかした。AさんはJR原ノ町駅までの道順を教え、家の窓から不審車両の行き先を見守った。  老夫婦が家の中にいることを確認した瓜田は、車に残っていた土岐、江口に報告する。市内のホームセンターに新たに武器になりそうな物を買いに行った。柄の長い全長約40㌢のハンマー、パイプレンチ、ステンレス製のパイプなどを購入。パイプレンチは約1・6㌔とこれらの中で最も重く、瓜田がAさんを殴った際に何針も縫うけがにつながった。  武器を買った3人は再び老夫婦宅の近くまで来て、土岐と瓜田は現場が見渡せる小高い森に上った。江口は車で待機。瓜田はこの時、「強行突破で行くぞ」との土岐の発言を聞いたという。土岐は「自然な成り行きで強盗に至った」と自身の主導性を否定している。いずれにせよ、3人は各々強盗を覚悟し、老夫婦宅に乗り付けた。  顔が分からないようにネックウォーマーを被り、瓜田、江口、土岐の順で無施錠の玄関から土足で侵入した。  瓜田は居間で横になっていたAさんに、右手で持っていたハンマーを振り下ろそうとした。Aさんは上半身を起こし、持ち手の部分を片手で抑え動きを封じたため、瓜田は左手に持っていたパイプレンチをAさんの頭に複数回振り下ろした。Aさんは後ろに倒れたが、抵抗して揉みあいになり、瓜田もハンマーを落とした。江口と土岐はAさんの妻の足にテープを巻き付けて動きを封じた。その後、土岐は寝室に移り、とがったハンマーで畳を引きはがした。  土岐は「金(きん)はどこにあるんだ!」とAさんに迫った。「金はない。現金はあるから持っていけ」とAさん。土岐は財布から現金を抜き取ると、Aさんから「持ってけ」と投げつけられた金色のネックレスを手にし、車で逃走した。3人はイヤリングや凶器などの証拠を家の中に残しており、現場の混乱ぶりがうかがえる。  スマホからの指示で、3人は車で数分の新田川大原水辺公園に向かった。待ち受けていた会社員矢板聖哉(21)=千葉市=の車に金品を持った土岐だけが乗り移り、いわき方面に向かった。矢板は同僚の富田湧也(28)=水戸市=から南相馬市で人を運ぶように頼まれていた。 金品を持った犯人が車を乗り換えた新田川大原水辺公園(南相馬市)  富田から着信があり、その指示で矢板は土岐に何か持っているかと尋ねた。目的の金の延べ棒を持っていないと分かると、富田は「何も持ってないならその辺で降ろしちゃっていいよ」と話したという。矢板は後部座席の土岐が、自分の携帯電話で「こっちもリスクあんだから金くらいもらえるだろ」と怒っているのを聞いていた。電話の向こうはこれまでやり取りした指示役の「クロサキジン」とみられる。  土岐は人目を避けてJR湯本駅で車を降り、鉄道で自宅がある札幌市に逃走。奪った金品も報酬も手にできなかった瓜田と江口は、凶器を田村市常葉町の山林に捨て、レンタカーを運転して都内に帰った。  結果は冒頭の通り、約1週間で実行犯3人が逮捕された。闇バイトは証拠が残りにくく、法の裁きが指示役まで及びにくいのが特徴だ。今後裁判が予定されている石志も指示役と実行犯のつなぎ役に過ぎず、全容解明は望めない。  実行犯の土岐は、目的の金品が得られず逃走車から降ろされたように、上層部にとって「捨て駒」だった。捨て駒だが起こした結果は重大で、刑罰を受けて被害者への賠償を迫られる。裁判には実行犯3人の親たちが証人として出廷した。3人合わせて600万円を被害弁償したことが明かされた。親が親戚や職場から借りて払ったという。闇バイトは被害者のみならず、自分のかけがえのない人にも迷惑を及ぼす。

  • ヨークベニマルが原町に新店舗!?【南相馬市】

    ヨークベニマルが原町に新店舗!?【南相馬市】

     「ヨークベニマルが南相馬市内に3店舗目の店舗を計画しているらしい」。こんなウワサが市内で流れている。果たして真相は。 商業施設跡解体で広まる〝ウワサ〟 本誌2022年2月号に「南相馬市原発事故で閉店した大手チェーンのその後」という記事を掲載した。  南相馬市は原発事故により市内南部の小高区が警戒区域、原町区が緊急時避難準備区域に指定され、市外への避難者・移住者が相次いだ。事故から10年以上経ったいまも当時の人口には回復しておらず、市内の事業者はマーケット縮小、労働力減少に直面している。  加えて大企業は原発賠償の幅が小さいという事情もあり、この間大手飲食・小売りチェーンの店舗が次々と撤退していった。記事では市内に進出していたさまざまな店舗の現状をリポートしたが、その一つ、洋服の青山福島原町店が立地していたショッピングセンター「JAMPARKはらまち」跡で現在、建物の解体作業が進められている。  場所は同市日の出町の国道6号沿い。かつては牛丼チェーンのすき家6号南相馬原町店やイエローハット原町店が同センター敷地内に立地していたが、現在は道路のはす向かいに新築移転して営業している。  不動産登記簿で地権者を確認したところ、2020年3月31日に千葉県茂原市の㈱玉川工産が売買で取得していた。さらに2022年8月30日には同社と同じ住所のタマ不動産が売買で取得。同日、抵当権者千葉銀行、債権額5億2000万円の抵当権が設定されていた。  こうした経緯から、市内の経済人や近隣住民の間では「新たな商業施設ができるのではないか」と囁かれており、具体的には「ヨークベニマルが出店するらしい」と言われているという。不動産業者に確認すると、業界内でもそういうウワサが飛び交っているようで、むしろいま関心事になっているのは「ヨークベニマルが市内3店舗目の出店を決断するかどうか」なのだとか。  「市内3店舗目の出店に関しては震災・原発事故前からウワサになっていたが、『南相馬市の人口では2店舗が限界だろう』と言われていました。現在営業中なのは原町店(南町)、原町西店(旭町)で、特に2020年2月に再オープンした原町店はJAMPARKはらまちと直線距離で2㌔ほどしか離れていない。自社競合覚悟で進出するのか、注目されているのです」  ヨークベニマルについては、前出2022年2月号記事でも《マーケットが大幅に縮小し、従業員不足も顕著なことから、市内に2つあった店舗を1つに集約した格好だ。ただ、市民(近隣住民)の間では、「同店(原町店)が再開しないと不便だ、という声は根強かった」という》と触れた。人口が減少した分、店舗は1店舗でいいとされていたが、市民からの要望を受けて同社は原町店を再オープンした。そうした中、さらに3店舗目のオープンまであるのだろうか、と注目されているわけ。  ちなみに、JAMPARKはらまちから南側に約1㌔離れた場所にはフレスコキクチ東原町店がある。国道6号沿いにヨークベニマルが出店したら、売り上げ面で影響を受ける可能性が高そうだ。  同地を管理する大和リース福島支店の担当者に問い合わせたところ、「現段階で明確に何かの計画が決まっているわけではない。現在は建物を解体しているだけ」と述べた。  地権者であるタマ不動産(玉川工産)にも電話で問い合わせたが、従業員が「担当者が不在で回答は難しい。少なくともその土地(JAMPARKはらまち)について、整備計画を公式に発表したとは聞いていない」と話すのみだった。  ヨークベニマルの広報担当者は「開店前の段階で今後どういう見通しになるのかをコメントするのは難しい」と説明した。  関係者は具体的なことを明かそうとしないが、現場では着々と解体工事が進められており、市民の関心は日増しに高まっている。 あわせて読みたい 宅配で顧客取り込む【ヨークベニマル】

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

    【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

    【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

    【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

     5月号で南相馬市の医療・介護業界を振り回すブローカー・吉田豊氏についてリポートしたところ、同氏が運営に携わった施設の元スタッフや同氏をよく知る人物から「被害者が何人もいる」と情報提供があった。公的機関は被害者救済に及び腰だ。 被害報告多数も公的機関は及び腰 桜並木クリニック  吉田豊氏は青森県出身。今年4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。衆院議員などの秘書を務め、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。医師を招いてクリニックを開設、その一部を母体として医療法人グループを立ち上げ、吉田氏が実質的なオーナーを務めていた。  その後、青森県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。当時の報道によると、有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、さまざまな企業に医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、いずれもずさんな計画で、集まった医師・スタッフは賃金未払いにより次々と退職。施設運営は行き詰まり、協力した企業が損失を押し付けられている状況だ。 現時点で分かっているトラブルは以下のようなもの。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続いた結果、契約解除となり、建物から退去させられた。現在は地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  〇スタッフを集めるため、ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜いた。だが、賃金未払いとブラックな職場環境に耐えかねて、相次いで退職していった。 〇その後、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」、「桜並木クリニック」を地元企業の支援で立ち上げたが、こちらも退職者が後を絶たない。 〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、それを担保に支援者から融資を受け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)建設計画を進めた。また、市内企業に話を持ち掛けて、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 5月号記事では、事実確認のため複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じてもらえなかった。そのため、関係者の意向を踏まえて具体的な企業名・施設名を伏せて報じた。南相馬市の医療・介護業界では「関わってはいけないヒト」と言われている。 だが、藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所に出入りしており、紳士的かつ気さくで話もうまいので、「初対面だと社会的地位が高い人に見えてしまう」(吉田氏の言動を間近で見て来た人物)。 ちなみに5月号発売後、東京・永田町にある議員会館の藤丸衆院議員の事務所に確認したところ、女性スタッフが次のように説明した。 「吉田豊さんには毎回パーティー券を買っていただいていますが、今年3月のパーティーには来ていただけませんでした。事務所に連絡をいただけるのはほとんどが福岡の支持者ですが、吉田さんは東北の訛りで話してくるので強く印象に残っているし、『(藤丸衆院議員と)どういう接点があるのだろう』と不思議に思っていました。カレンダーを送ってほしいと頼まれ、その送付先が福島県のクリニックだったので、医療関係者だと思っていました」 藤丸衆院議員と個人的に親しい間柄であれば、当然スタッフもそのことを共有しているはず。それほど深い関係ではないと見るべきだろう。 吉田氏は「(藤丸衆院議員が秘書を務めていた)古賀誠元衆院議員とも親交がある」と話していたとも聞いたので、古賀氏の事務所に確認したが、秘書は「申し訳ないですが全く聞いたことがありません」と回答した。細いつながりを大きくして吹聴していた可能性が高い。 本人の反論も聞きたいと思い、裁判所で閲覧した訴状の住所宛てに配達証明で質問書を送付したが、不在続きのため地元郵便局で保管され、そのまま返って来た。 不確定な部分が多かったが、新たな〝被害者〟を出さないようにと記事にしたところ、5月号発売後、吉田氏のことを知る業界関係者や元スタッフから相次いで連絡があり、トラブルの詳細と吉田氏の人物像が見えてきた。 職員への賃金未払いが横行 相馬労働基準監督署  新たに分かったのは、賃金未払いとなったスタッフが相当数いること。というのも、吉田氏に直接支払いを要望してものらりくらりと逃げられ、相馬労働基準監督署も親身に相談に乗ってくれないからだ。 「過去には立ち入り調査が入って、是正勧告が出された事例もあったが、しょせんは罰則などがない〝行政指導〟。その場だけ取り繕ってごまかされてしまいました。また、退職した人が相談しても『さかのぼって支払いを要求するのは難しい』とされて積極的に動いてもらえませんでした」(ある元スタッフ) 現時点で吉田氏が運営に携わっている施設は前出の「憩いの森」、「桜並木クリニック」の2施設と、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」。榎本氏は同クリニックにも頻繁に出入りしている吉田氏の〝参謀〟的存在で、吉田氏は現在、この薬局の2階で生活している。 憩いの森  吉田氏関連の会社はこれまで確認されているだけで4社ある。いずれも南相馬市本社。法人登記簿によると、概要は以下の通り。 ①ライフサポート 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2020年12月25日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ 事業目的=訪問介護、訪問看護、高齢者向け賃貸住宅など ②スマイルホーム 原町区本陣前二丁目22―3 設立=2021年2月19日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司 事業目的=賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供など ③フォレストフーズ 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月25日 資本金=100万円 代表取締役=馬場伸次 事業目的=不動産の企画・運営・管理、フランチャイズビジネスの企画・管理、自動車での送迎・配達サービス、人材派遣サービスなど ④ヴェール 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月6日 資本金=100万円 代表取締役=佐藤寿司 事業目的=不動産の賃貸借・仲介、ビル・共同住宅・寮の経営、公園・観光施設などの管理運営、総合リース業、日用雑貨・介護用品販売など 4社のうち2社の代表取締役を務める浜野氏は吉田氏のパートナー的存在とされる女性。二丁目53―7は「憩いの森」の住所、二丁目22―3は同施設近くの土地の一角に建てられたユニットハウス。 吉田氏を直撃 吉田豊氏  こうして見ると吉田氏本人の名前は見当たらないが、これこそが吉田氏の得意とする手口だという。 「吉田氏は代表者など表に名前が出る所に出たがらず、スタッフに経営責任者を任せて裏で指示を出す。これだと書類上の経営責任者はスタッフになり、公的機関が指揮系統やお金の流れを把握しづらくなります。実際、ここに名前が挙がっている代表取締役にも、賃金未払いを訴えて退職した職員が含まれています」(前出・元スタッフ) もっとも、複数の関係者の話を統合すると、書類上で名前を出していなくても決定権を持っているのは吉田氏であり、実際、スタッフからは「オーナー」と呼ばれている。 前出・南相馬ホームクリニックが運営していたころは、敷地内に設けられた小さなユニットハウスが「事務所」となっており、職員は退勤時に必ず顔を出してあいさつする決まりとなっていた。 そこでは毎日17時ぐらいから酒盛りが始まる。吉田氏は素性がよく分からない飲み仲間を呼び寄せ、お気に入りの正職員が顔を出すと、一緒に酒を飲むように勧めた。患者がいようがおかまいなしで、酔った状態で待合室に顔を出し、ソファーに横になることもあった。翌朝、ビールの空き缶や総菜のごみを片付けるのは職員の仕事。オーナーでなければ、こんな振る舞いは許されまい。 ちなみに、南相馬ホームクリニック閉院後、吉田氏の居場所だったユニットハウスはスマイルホームの〝社屋〟として再利用されている。 何より驚いたのは、吉田氏に数百万円単位の金を貸している元スタッフが何人もいるという事実だ。 一例を挙げると、関連会社を統合した組合組織を立ち上げ、理事に就いたスタッフに対し、「出資金が不足している」、「役員に就かせたのだから個人的に協力してくれないか」などの理屈を付けてそれぞれ数百万円の金を出させたという。借用書は残っており、それぞれ返済を求めているが、吉田氏は応じていない。 客観的に見ると吉田氏が信用に値する人物とは到底思えないが「役員として、できる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる。組合組織を立ち上げることになったのも補助金目当てだったとみられ、現在組合として活動している気配は見えない。 同市内で医療・介護業界に従事し、元スタッフとも交流がある人物は吉田氏の性格をこう述べる。 「新しく入ってくる人には手厚い待遇で迎えるが、吉田氏に意見を述べる人や内情を詳しく知った古株は徹底的に冷遇する。職員間対立も煽るようになり、ついには賃金未払いが発生し、支払いを求めると逆ギレされる。そこで初めてどういう人物だったかを思い知らされるのです」 こうした声を当の吉田氏はどのように受け止めるのか。5月下旬、オレンジファーマシーから路上に出て来た吉田氏を直撃した。 ――医療・介護施設をめぐるトラブルが多く、当初の約束通りに金を支払ってもらっていない企業などもあるようだが。 「そういうところはない」 ――南相馬ホームクリニックでは未払い分の賃貸料の支払いを求める裁判を地元企業から起こされている。 「先方がクリニックをやりたいということで、私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方。そもそも係争中なのでそういう部分だけで誤解して書かないでほしい」 ――係争中と言うが、地裁相馬支部で確認したところ、訴状に対する答弁書は見当たらなかった。 「契約している東京のサダヒロという弁護士が対応している」 ――弁護士の連絡先は。 「あることないこと言われているので、いまさら私の方から答えることは何もない」 ――個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる。 「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 ――賃金未払いを訴える声が多い。実質的なオーナーとして責任を取るべきではないか。 「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」 吉田氏はあくまで「自分は被害者」というスタンスを貫き、賃金未払いに関しても「助言している立場に過ぎないので、各施設の責任者に話してほしい」と述べた。しかし前述の通り、実質的なオーナーであることは間違いない。呆れた言い逃れであり、責任を持って賃金未払いや借入金返済に対応する必要がある。 なお、南相馬ホームクリニックの裁判は、東京の弁護士に任せているとの回答だったが、福島地裁相馬支部にあらためて確認したところ、「吉田豊氏を原告とした裁判の訴状は確認できない」とのことだった。 「ここは本当に法治国家なのか」 オレンジファーマシー  結局、本誌の直撃取材を受けた吉田氏は「この後用事があるので」と言って、桜並木クリニックの中に入っていった。本誌5月号では桜並木クリニックを訪問したときの様子を、名前を伏せてこう紹介している。 《中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初からかかわっているが、ちょっと分からない」と話した》 このとき、対応したのは「エノモト」と名乗る男性。後から確認したところ、オレンジファーマシーの管理薬剤師を務める榎本雄一氏だった。吉田氏の親戚に当たる人物が平然とうそを付いていたことになる。外部にすらこういう対応なのだから、スタッフへの対応は推して知るべし。 これ以外にも、本誌には▼同クリニックは医師会に入っていない、▼同クリニックの診察時間はその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている、▼スタッフが定着せず、パート・アルバイトで対応している、▼過去には青森県の人物から借金返済を求める電話が毎日のように来ていた、▼業者に対しても代金未払いが発生している、▼同市石神地区で何か始めようとしている――などの情報が寄せられた。 県相双保健福祉事務所、労働基準監督署などの公的機関には、これらの情報を伝えたが、いずれも反応は鈍く、他人事に捉えているように感じられた。 元スタッフの一人は「賃金未払いや借金踏み倒しで泣き寝入りしている人が多いのに、どの公的機関も見て見ぬふり。市議などに相談したが大きな動きにはつながらなかった。ここは本当に法治国家なのか、と疑いたくなりますよ」と嘆いた。 こうした実態は広く知られるべきであり、企業経営者、医療・介護従事者は被害に遭わないように吉田氏の動向を注視しながら、それぞれが〝自衛〟していく必要がある。 政経東北【2023年7月号】で【第3弾】『吉田豊』南相馬市ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆きを詳報します! 政経東北【2023年7月号】 あわせて読みたい 【第1弾】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家【吉田豊】

  • 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家

     南相馬市の医療・福祉業界関係者から「関わってはいけないヒト」と称される人物がいる。さまざまな企業に医療・福祉施設の計画を持ち掛け、ことごとく頓挫。集めた医師・スタッフは給与未払いに耐え切れず退職、協力した企業は損失を押し付けられ、至る所でトラブルになっている。被害に遭った人たちは口を閉ざすばかり。一体どんな人物なのか。 施設計画持ちかけ複数企業が損失 吉田氏の逮捕を報じる新聞記事(デーリー東北2007年4月28日付)  「吉田豊氏について『政経東北』を含めどのマスコミも触れないけど、何か理由があるのかい?」。4月上旬、南相馬市内の経済人からこんな話を持ち掛けられた。 南相馬市内で医療・福祉施設建設計画を持ち掛け、支援を募っては計画が頓挫し、複数の企業が損失を被っているというのだ。吉田氏は青森県出身の元政治家で、数年前から南相馬市内で暮らしているという。 事実確認のため複数の関係者に接触したが、結論から言うと、誰も口を開こうとしなかった。「現在係争中なのでコメントは控えたい」、「ほかに影響が及ぶのを避けたい」、「もう関わり合いたくない」というのが理由だった。 せめて一言だけでもと食い下がると、「とにかく裏切られたという思い」、「業界内では『関わってはいけないヒト』と評判だ」という答えが並んだ。誌面では書けない言葉で吉田氏を罵倒した人もいる。 ある人物は匿名を条件に次のように語った。 「医療・福祉の充実という理念を掲げ、補助金がもらえそうな事業計画を企業に持ち掛け出資させる。ただ、ブローカー的な役割に終始し、その後の運営は二の次になるのでトラブルになる。表舞台には決して立とうとせず、ほかの人物や企業を前面に立たせる。だから、結局、何かあっても吉田氏が責任を取ることはない」 関係者の意向を踏まえ、本稿では具体的な企業名・施設名などを伏せるが、市内の事情通の話や裁判資料などの情報を統合すると、吉田氏をめぐり少なくとも以下のようなトラブルが発生していた。 〇市内にクリニックを開設する計画を立て、賃貸料を支払う契約で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続き契約解除となり、現在は未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関や介護施設から医師・職員を高額給与で引き抜いたが、賃金未払いが続き、加えてブラックな職場環境だったため、相次いで退職。施設が運営できなくなり、休業している。 〇市内企業を巻き込んで、数十億円規模のサービス付き高齢者向け住宅建設計画やバイオマス焼却施設計画なども進めようとしていたが、いずれも実現していない。 吉田氏が一方的に嫌われ悪く言われている可能性もゼロではないが、話を聞いたすべての人が良く言わず、企業が泣き寝入りしている様子もうかがえた。吉田氏は現在公人ではないが、こうした事実を踏まえ、誌面で取り上げるのは公益性・公共性が高いと判断した。 吉田氏とはどういう人物なのか。過去の新聞記事などを遡って調べたところ、青森県上北町(現東北町)出身で、同町議を2期務めていた。 《八戸市内の私立高校(※編集部注・現在の八戸学院光星高校)を卒業後、県選出の代議士や県議らの下で政治を学び、1991年の町議選に32歳で初当選した。医療と福祉の充実を掲げ、医師を招いて自宅近くに内科・歯科医院を開業するなど精力的だった》(デーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏が個人で運営していた「あさひクリニック」の一部を母体に「医療法人秀豊会」が立ち上げられ、有床診療所を運営しているほか、関係会社が高齢者・障害者向け住宅賃貸サービス、在宅介護、訪問診療を行っている(現在は医療法人瑞翔会に名称変更している)。吉田氏は登記簿上は役員から外れていたが、実質的なオーナーだったという。 1999年4月、上北町議2期目途中、青森県議選・上北郡選挙区に推薦なしの無所属で立候補したが、6候補者中6番目の得票数(9545票)で落選した。その後、有権者に現金5万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼、さらに60人以上の有権者に計142万円を配って買収工作を行ったとして、公職選挙法違反(現金買収)の疑いで逮捕された。 《今年1月ごろから「吉田陣営は派手に買収に動いているようだ」とのうわさが一部に広がり出していた。「福祉に対する熱意が感じられる」として3月上旬まで同容疑者の応援を続けていた県内のある大学教授が、「金にまつわるうわさを聞いて失望した」と、告示の約3週間前に同陣営とのかかわりを断ち切るというトラブルもあった》 《(※編集部注・吉田氏が実質オーナーだった医療法人グループについて)最近では、老人保健施設や特別養護老人ホーム建設の計画を声高にうたっていた。しかし、老健施設の建設予定地の農地転用の手続きに絡み、町農業委員会の転用許可が下りる前に予定地の一部を更地にして厳重注意を受けるなど、周囲からは吉田容疑者ら経営幹部たちの強引な手法を指摘する声も上がっていた》(いずれもデーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏は懲役2年6月、執行猶予5年の有罪判決を受け、「今後は選挙にかかわらない」と誓っていた。ところが、5年間の公民権停止期間が明けると2007年4月の県議選に再び立候補。結果は、7候補者中6番目の得票数(4922票)で落選した。 立候補表明時には「住民が安心して暮らせる地域づくりを目指し、地元の医療環境を整備したい」と訴え、「派手な選挙は行わない。地道に政策を訴えたい」と話していた吉田氏。だが選挙後、3人の運動員に計76万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼していたとして、再び公職選挙法違反の疑いで逮捕された。 《「8年前は大変ご迷惑をお掛けしました」―選挙運動中、マイクを握った吉田容疑者はこの言葉から口を開き、自身を含む計6人が公選法違反で逮捕された前々回の県議選と同じ轍は踏まない―との意気込みを見せていた。しかし自身の逮捕により、今回の逮捕者は計8人と前々回を上回る結果となった》(デーリー東北2007年4月28日付) 呆れた過去に驚かされるが、吉田氏自身は2度の前科を特に隠してはいないようで、周囲に話すネタにしているフシさえあるという。 官僚・政治家人脈を強調  吉田氏の言動を間近で見てきたという人物は「どう見ても怪しいが、外見は紳士的で、初対面だと社会的地位の高い人に見えてしまう。見抜くのは難しい」と語る。 「藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区、自民党)の事務所に出入りしており、私も一度案内されたことがあった。話している感じも違和感はなく、過去を知らなければすっかり信用してしまうと思う」 藤丸氏は古賀誠元衆院議員の秘書を務めていた。そのため、「秘書時代のつながりではないか」と指摘する声もある。しかし、「〇〇議員の秘書とはしょっちゅう連絡を取っている」と至るところで吹聴しているようなので、真偽は分からない。 中央官僚ともパイプを持っていると盛んにアピールしているようだが、浜通りの政治家によると、「『誰と会っているのか教えてくれたら私からも話をする』と知り合いの官僚の名前を出したら、急にしどろもどろになって話をはぐらかした」のだとか。別の経済人からも同様の声が聞かれた。市町村長クラスと会える場所にはよく顔を出すという話もある。 複数の関係者によると、吉田氏はトラブル後も同市内で暮らし続けているが、具体的な居場所は分からないようで、「住所を特定されないように宿泊施設を転々としている」、「プレハブ小屋を事務所代わりにしている」「建設に関わった同市原町区のクリニックを拠点としている」などと囁かれている。 名前の挙がったクリニックを訪ねたところ、扉に「休業中」の札がかかっていたが、電気は付いており、中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初から関わっているが、ちょっと分からない」と話した。休業の理由については「医師が退職し、現在募っているため」という。 手紙には返答なし  念のため、同クリニック宛てに吉田豊氏に向けた手紙を送り、裁判所で閲覧した資料に掲載されていた青森県の自宅住所にも送ったが、期日までに回答はなかった。なお、吉田氏に未払い賃金の支払いを求めている人物の代理人によると、内容証明を送っても何の返答もない、とのこと。吉田氏本人の主張は残念ながら聞くことができなかった。 ちなみに、青森県六戸町の現職町長・吉田豊氏は同姓同名の別人物。また、南相馬市内にも同姓同名の医師がおり、業界関係者の間でも混乱することが多々あるという。実際、記者も同市内で最初に話を聞いたときは「町長までやった奴が南相馬で問題を起こしている」と誤って教えられた。 そのためかネット検索しても、関連情報がヒットしにくい。こうした事情も、吉田氏のトラブルが表に出てこない要因のようだ。 吉田氏に翻弄されたという男性は「これ以上被害者が増えてほしくない。こういう人物に近付いてはならないと警鐘を鳴らす意味でも政経東北で取り上げるべきだ」と話した。そうした声を踏まえ、不確定な部分が多かったが記事にした次第。 クリニック開業の際、医師が確保できていないのに認可するなど、保健所をはじめとした公的機関の無策を嘆く声も聞かれたが、一方で、吉田氏の動きはしっかりマークしているとのウワサも聞こえている。ひとまずはその動きをウオッチしながら〝自衛〟していく必要がある。 あわせて読みたい 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【南相馬市】元市幹部が地元紙に「ウソの証言」

    【南相馬市】元市幹部が地元紙に「ウソの証言」

     2022年10月12日付の福島民友に震災・原発事故当時、原町区役所長だった元職員の発言や行動を紹介する記事が載った。しかし、その内容は〝真っ赤なウソ〟だった。 裏取り怠った記者に市OBが憤慨  記事は「緊急時避難準備区域 残る市民置いてはいけず」という見出しで、震災・原発事故当時、原町区役所長を務めていた鈴木好喜氏の発言や行動を紹介している。 どんなことが書かれていたか、一部抜粋する。 《南相馬市は、市役所が緊急時避難準備区域に入ったが、行政機能をそのまま残す道を選択した。「避難できない市民を置いてはいけない。(移転には)賛成しかねる」。当時、市原町区役所長だった鈴木好喜さん(71)は市役所機能の一部を残して職員は市内にとどまるよう桜井勝延市長に進言した》 《市執行部内で「行政機能も移転すべきではないか」との議論が持ち上がった。それでは、避難できず、残された市民のケアはどうするのか―。幹部会議で口火を切ったのは鈴木さんだった。「健康状態が悪い人や体が不自由な人は自宅に残らざるを得ない。行政機能を残すにしても支所、出張所として市役所に一定の機能を残すべきだ」と主張。市は最終的に、行政機能をとどめる方針を決定した》 福島第一原発に近い双葉郡の町村は、全住民を避難させるとともに行政機能を他の自治体に移転したが、南相馬市は小高区の全住民を中心に避難させたものの、市役所はその場(原町区)にとどめた。 同紙の記事によれば、当時の桜井市長がそれを決定したのは、原町区役所長だった鈴木氏の進言があったから、というわけ。 ウソに憤慨するOBたち  「とんでもないデタラメ。よくこんなウソが言えるなと、記事を読んで呆れ返った」 そう話すのはある市役所OB。OBたちの間では今、この記事に強く憤慨しているという。 「鈴木氏は原発事故後、真っ先に市外へと避難した。そんな人が『市役所機能を残せ』などと偉そうなことを言うはずがない。当時を知る職員が見たら即ウソとバレる内容を、よく堂々と話せたものです」(同) 前稿に登場した桜井氏にも確認してみた。 「記事をそのまま読むと、市役所機能が市内にとどまったのは鈴木氏の進言のおかげ、となるが、そうした事実はない」 桜井氏によると、鈴木氏は当時、県外の避難所を回ると称して市内にいなかったという。市民をバスなどで市外に避難させた後、桜井氏は秘書課職員と運転手の計3人で、避難者を受け入れてくれた自治体に挨拶回りをしたが、新潟県妙高市を訪ねた際、現地のビジネスホテルに着くと駐車場に見覚えのある車が停まっていたという。当時、鈴木氏が乗っていた車だった。 すると、翌日の朝食会場で鈴木氏に遭遇。桜井氏が「こんなところで何をしているのか」と尋ねると、鈴木氏は「避難者を受け入れてくれた自治体を訪ね歩いて、お礼を言っている」と説明した。しかし、各地の首長に直接会って挨拶していた桜井氏に対し、鈴木氏はどこの自治体の誰に会っていたか定かでなく、市役所が公務として命じたこともなければ、鈴木氏から復命書が提出されたわけでもなかった。 「私が市役所機能を市内にとどめると決めたのは3月20日です。あの時、私の決定に賛同する幹部職員はほとんどいなかったが、そもそも鈴木氏は避難してその場にすらいなかったので、彼から進言を受けることはあり得ない」(桜井氏) では、鈴木氏はなぜ福島民友にあんなウソをついたのか。真意を確かめるため、原町区内にある鈴木氏の自宅に文書で質問を送ったが、本稿締め切りまでに返答はなかった。 市役所OBや桜井氏は、鈴木氏だけでなく、記事を掲載した同紙にも強く憤っている。確認すればすぐにウソと分かる発言を、なぜ真に受けたのか。桜井氏も同紙に「きちんと裏取りしたのか」と抗議したが、記事執筆から掲載までの経緯は説明がなかったという。 同紙に事実関係を尋ねると、担当者は次のようにコメントした。 「記事は取材に基づき書かれたものとご理解ください」 ウソをついた鈴木氏に問題の根源があることは言うまでもないが、それをそのまま記事にして市民に誤解を与えた同紙も反省すべきだろう。 あわせて読みたい 【南相馬市】桜井元市長が「市議選出馬」のワケ 選挙を経て市政監視機能が復活した南相馬市議会

  • 【南相馬市】桜井元市長が「市議選出馬」のワケ

    【南相馬市】桜井元市長が「市議選出馬」のワケ

     任期満了に伴う南相馬市議選に元市長の桜井勝延氏(66)が立候補を表明した。もともと市議を務めていたが、市長選で二度落選後、市議に出戻るのは極めて異例だ。 低迷する投票率のアップを目指す 南相馬市議会(HPより)  市議選(定数22)は2022年11月13日告示、同20日投開票で行われ、同年10月下旬現在25人程度が立候補する模様だ。 立候補予定者説明会は同年10月4日に開かれ、現職19人、新人2人が出席したが、この時、桜井氏の陣営からは誰も出席しなかった。ただ、同年9月下旬には立候補を決意し、後援会長などに挨拶を済ませていた。 当の桜井氏がこう話す。 「2022年1月の市長選に落選後、多くの方から『市議選に挑むべきだ』という声をかけてもらったが、親族の入院などが重なり選挙のことを考える余裕がなかった。しかし、お盆過ぎに退院し、ようやく落ち着いたタイミングで再度熱心に声をかけてもらい、出馬を決意した」(以下、断りがない限りコメントは桜井氏) 旧原町市議を1期、南相馬市議を2期務め、2010年から市長を2期務めた桜井氏。8年間の任期中は大半を震災・原発事故対応に費やしたが、18、22年の市長選で現市長の門馬和夫氏(68)に敗れた。 その間には国政への誘いもあったが、桜井氏は見向きもせず「脱原発をめざす首長会議」世話人として各地の現・元首長たちと脱原発に向けた活動をするなど、一貫して地方政治の立場から国に物申してきた。 「市長選は落選したが、2018年は1万6293票、22年は1万5625票を投じてもらった。ここで市政を投げ出し国政に転じれば、市民から『市民を見放した』『市長をステップに国会議員になりたかっただけ』と言われてしまう。市民に、市政に対する諦めの気持ちを抱かせないためにも地方政治にこだわりたいと思った」 とはいえ、たとえ僅差でも門馬氏に連敗したのは事実。市内には熱烈な支持者が大勢いるが、それと同じくらい〝反桜井〟の有権者もいる。二度目の落選後に「もう応援はこりごり」と離れた元支持者もいる。そういった人たちからは、今回の桜井氏の決断に「市長がダメだから市議なんて虫が良すぎる」「市議を踏み台に、また市長選に挑むつもりなんだろう」「どうせ報酬目当て」と辛辣な声も聞かれる。 一方で、桜井氏のもとには未だに市民から多くの相談が寄せられている。市立総合病院の診療・入院に関すること、災害対応に関すること、子育て支援に関すること――等々、市民が日常生活に困っている姿を日々目の当たりにしている。 市職員からも現市政を憂うメールが頻繁に届く。中堅・若手職員からは「今の職場環境では『市民のために働く』というモチベーションが保てない」と早期退職を示唆する声も寄せられている。 「市政に関心持ってほしい」  「市議は22人もいるのに、市民や職員のことを分かっていない。市議会もチェック機能が働かず、執行部の追認機関と化している。これでは市民の暮らしの改善につながらない」 ただ、市長選で1万票以上獲得している桜井氏が、1000票あれば悠々と当選できる市議選で落選する姿は想像できない。市民の関心は、桜井氏が何票獲得するかだろう。 ちなみに前回(2018年11月18日投開票)の市議選で、1位当選の得票数は2658票。しかし、桜井氏の口からは票数に関する話題は一切出てこない。桜井氏が強く意識するのは投票率だ。 「市議選出馬を決めた後、市内を挨拶回りしたら『えっ、市議選があるの?』『投票日はいつ?』と言う人がとても多かった」 要するに、市民は市議会(市議)に関心がないことを知り、桜井氏はショックを受けた。 「なぜ関心がないのか。それは市議会・議員に魅力がないからです。例えば、その商品に魅力があれば客は競うように買い求めるが、魅力がなければ見向きもしない。今の市議会・市議はそれと同じで、市民にとって魅力がないのでしょう。だから市議選の投票率も上がらない」 市長選と市議選の投票率を比べると、有権者の関心の違いがよく分かる。(日付は投開票日、人数は当日有権者数) 2014年 市長選(1月19日)―62・82%、5万3943人 市議選(11月16日)―59・10%、5万3828人 2018年 市長選(1月21日)―62・39%、5万2933人 市議選(11月18日)―55・91%、5万2376人 2022年 市長選(1月23日)―63・75%、5万0972人 市議選の投票率は下がっているが、2018年と22年の市長選は同じ顔ぶれでも1・36㌽上がっている。それだけ市民の関心が高かったということだろう。 「私は市長時代も落選後も市議選で応援マイクを握った。しかし、その候補者たちの得票数を合わせても私の市長選の得票数には及ばない。市議選も市長選と同じくらい関心を集め、候補者に魅力があればもっと得票してもいいのにそうならないのは、市民が投票に行かないか、票が別の人に逃げているかのどちらか。立候補予定者はこうした有権者の投票行動に危機感を持つべきです」 市議の多くは「桜井氏が出れば自分の票が減る」と警戒感を露わにしている。しかし、その市議が普段から支持を得ていれば、たとえ桜井氏が立候補しても、有権者はその市議に投票するはず。要するに、その市議がこれまでどういう活動をして、有権者がそれをどう評価しているかが今回の得票数に表れる、と。 「もちろん、選挙後の私自身の活動も問われる。意識しなければならないのは、市長選も市議選も投票に行かない『市政に無関心な市民』です。そういう人たちに、いかに市政に関心を持ってもらうか。国政や県政と比べて市政にできることは限られるかもしれないが、市民に最も身近だからこそ、きちんとやらなければ市民生活に及ぼす影響は大きいのです。市民には、とにかく市政に関心を持ってほしい。そのきっかけとなれるように今は市議選に全力を注ぎ、投票率アップにつなげたい」 若い世代の低投票率や若手候補者の少なさが課題となる中、市議と市長を経験し、66歳の桜井氏が立候補するのは「時代に逆行している」という批判もある。批判を跳ね返すには、投票率アップや市政に無関心な市民を引き付けるなど、さまざまな難題をクリアするほかない。 【結果】第5回南相馬市議会議員一般選挙(2022(令和4)年11月20日執行) 第5回南相馬市議会議員一般選挙 選挙結果 あわせて読みたい 【南相馬市】元市幹部が地元紙に「ウソの証言」 選挙を経て市政監視機能が復活した南相馬市議会

  • 南相馬闇バイト強盗が招いた住民不和

     昨年2月、南相馬市の高齢者宅を襲った闇バイト強盗事件が地域住民に不和を与えている。強盗の被害に遭った男性A氏(78)が近所の男性B氏(74)を犯人視し、昨年8月に木刀で突いた。A氏は傷害罪に問われ、現在裁判が続く。B氏が根拠なく犯人扱いされた窮状と、加害者が既に別の犯罪の被害者であることへの複雑な思いを打ち明けた。 ※A氏は傷害罪で逮捕・起訴され、実名が公表されているが、闇バイト強盗被害が傷害事件を誘発した要因になっていることと地域社会への影響を鑑み匿名で報じる。 強盗被害者に殴られた男性が真相を語る 木刀で殴られた位置を示す男性  傷害事件は、昨年2月に南相馬市で発生した若者らによる闇バイト強盗事件が遠因だ。20~22歳のとび職、専門学校生からなる男3人組が犯罪グループから指示を受けて福島駅(福島市)で合流し、南相馬市の山あいにある被害者宅に武器を持って押し入った。リーダー格の男は札幌市在住、残り2人は東京都内在住で高校の同級生。2組はそれぞれ指示役から「怪しい仕事」を持ち掛けられ、強盗と理解した上で決行した。   強盗致傷罪に問われた実行犯3人には懲役6~7年の実刑判決が言い渡されている。東京都の2人に強盗を持ち掛けた同多摩市のとび職石志福治(27)=職業、年齢は逮捕時=は共謀を問われ、1月15日に福島地裁で裁判員裁判の初公判が予定されている。  強盗被害を受けた夫婦は家を荒らされ、現金8万円余りを奪われただけでなく大けがを負った。何の落ち度もないのに急に押し入られたわけで、現在に至るまで多大な精神的被害を受けている。にもかかわらず、犯行を計画・指示した札幌市のグループの上層部は法の裁きを受けていない。SNSや秘匿性の高い通信アプリを通じ何人も人を介して指示を出しており、立証が困難なためだ。犯罪を実行する闇バイト人員は後を絶たず、トカゲの尻尾切りに終わっている。被害者は全容がつかめず釈然としない。その怒りはどこに向ければいいのか。  矛先が向いたのが近所に住む知人男性B氏だった。当人が傷害事件のあった8月11日を振り返る。  「その日はうだるような暑さでした。午後2~3時の間に車でA氏の自宅前を通るとA氏が道路沿いに座っていました。私は助手席の窓を開けて『暑いから熱中症になるなよ』と声を掛けるとA氏は『水持ってるから大丈夫』と答えました」  A氏からB氏の携帯電話に着信があったのは午後10時41分ごろだった。  「私は深夜の電話は一切出ないことにしています。放っておくと玄関ドアを叩く音が聞こえました。開けるとA氏がいたので『おやじ、どうした?』と聞くと、A氏は『お前を殺しに来た』。私が『お前に殺されるようなタマじゃない』と答えるやA氏は左手に持った20㌢くらいの木刀を私の額に向かって突き出してきました。眉間に当たった感覚があり、口の中にたらたらと血が入ってきたので出血がおびただしいと理解した」  B氏がのちに警察から凶器の写真を見せられると、木刀の切っ先や周りに釘が複数打ち込まれていたという。「釘バットという凶器があるでしょ。あんな感じです。これで額を突かれればあれだけ血が出るのも頷ける」(B氏)。  攻撃を受けた後、B氏はA氏の両手を掴んで動きを封じ、B氏の借家と同じ敷地に住む大家の元へ連れていき助けを求めた。警察に通報してもらうと、A氏と軽トラを運転してきたA氏の妻はそのまま帰っていったという。A氏は凶器の木刀を置いていった。B氏は「大家が軽トラの荷台に戻していたので、木刀の現物を詳しくは見ていない」と語った。  地裁相馬支部で昨年12月11日に開かれた公判ではB氏や大家に対する証人尋問が行われた。B氏は「A氏を許すことはできない」と厳罰を求めた。  この傷害事件で気になるのがA氏の動機だ。なぜ強盗被害者が木刀で知人を襲うに至ったのか。裁判で検察側は「B氏が北海道出身だったことで、A氏は早合点した」と言及している。どういうことか。  12月11日、証人尋問を終えたB氏に相馬市内のファミレスで話を聞いた。  「確かに私は北海道出身です。東日本大震災・原発事故後に土木工事業者として福島県に来ました。除染関連の仕事に従事していました」  B氏は、A氏が闇バイトを利用した一連の強盗事件で、指示役「ルフィ」らが北海道出身で日本では札幌市を拠点にしていたことと自分を結び付けたのではないかと推測する。南相馬市の闇バイト集団は、全国の高齢者が自宅に持つ現金や金塊などの資産状況を裏ルートで把握していた。B氏は「A氏は資産情報を漏らした犯人が自分だと因縁をつけたのではないか」と憤慨する。  「疑うべきところは私ではない。震災直後、A氏の自宅敷地内には除染や工事作業員の寮があり、全国から身元が判然としない人物が多く出入りしていた。私は南相馬に10年以上根を下ろし、大家さんや地元の方に良くしてもらっている。強盗の片棒を担いだと思われていたのは残念です」 救済制度の周知不足  B氏から話を聞くうちに、犯罪被害者救済制度を知らないことが明らかになった。福島県は犯罪被害者等支援条例を2022年4月に施行しているが、取り調べた警察や検察、居住地の南相馬市からは同制度が十分に周知されていなかった。筆者の取材を受ける中で同制度の存在を知り、検察から渡された手引きを見返すと支援の内容が載っていた。 犯罪被害者支援に特化した条例を制定している県内の自治体 白河市、喜多方市、本宮市、天栄村、北塩原村、西会津町、湯川村、金山町、昭和村、西郷村、矢吹町、棚倉町、塙町、三春町、小野町、広野町、楢葉町 (警察庁「地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する取組状況」より)  犯罪被害者を支援する条例は岩手県以外の都道府県が制定する。被害者やその家族が被害から回復し、社会復帰できるように行政と事業者、支援団体の連携と相談体制、被害に対する金銭的支援を定めたもの。福島県は「犯罪被害者等見舞金」として、各市町村が給付する見舞金を半額補助している。  けがを負わされた被害者は治療費が掛かるし、外傷は治っても心理的ショックは長期間なくなることはない。その間は仕事に就けなくなる可能性も高い。B氏も額のけがが気になり、しばらく人前に出られなかったという。  問題意識を持って被害者支援に特化した条例を制定する市町村も出て来た。警察庁の2023年4月1日現在の統計によると、県内では表の17市町村が制定している。南相馬市は制定していない。  条例があることは当事者への理解が進んでいる自治体のバロメーターと言っていい。近年制定した自治体には、凄惨な事件の舞台となったところもある。誰もが加害者と被害者になってはいけない。だが、現に起こり、近しい人の協力だけでは復帰は難しく、公的支援が必要だ。南相馬市で発生した二つの事件を機に、全県で実効性の伴う犯罪被害者・家族の支援体制を整備するべきだ。

  • 薬剤師法違反を誤解された【南相馬市】の薬局

     昨年11月、本誌に「南相馬市にあるA薬局は薬剤師が1人だが、他の従業員は資格がないにもかかわらず調剤や接客をしている。これは薬剤師法違反に当たる」と情報提供があった。A薬局は実名だったがここでは伏せる。  本誌は昨年5月号から同市を拠点に暗躍する青森県出身のブローカー吉田豊氏の動きを注意喚起のため報じている。吉田氏は市内のクリニックや薬局を実質経営し、一時はその薬局の2階に住んでいたため、A薬局と関連があるのではと思い調べたが、吉田氏が同市に狙いを付ける前に開業しているため、関係はなさそうだ。  薬剤師法では、医師が処方した薬を調合する調剤業務は原則薬剤師しかできない。医師も調剤できるが、業務が肥大化し、受け取る診療報酬の点数が少なくなる=診療報酬が安くなるため、薬局が近くにない診療所以外ではまずやらない。院外薬局で調剤するインセンティブが高まり、処方箋を目当てに病院の前に薬局が連なる「門前薬局」が主流となった理由だ。 薬剤師法違反との通報が寄せられた相双保健所  調剤が薬剤師の専権事項と化す中で、専門性がより求められているが、薬局の看板を掲げながら無資格者が調剤を行っているとすれば由々しき事態だ。薬の渡し間違いにつながるし、専門性を自ら明け渡してしまったら、高い学費を払って薬学部で6年間学ぶ意味を問われ、資格のための資格と軽視されてしまうだろう。  相双保健福祉事務所(相双保健所)生活環境部医事薬事課に尋ねると、A薬局で薬剤師法違反疑いの公益通報があったことを認めた。2018~19年度にかけて県庁に通報があり、相双保健所がA薬局に抜き打ちで調査したが、薬剤師以外の従業員が調剤している証拠を見つけられなかった。20~21年度は、6年ごとの薬局営業許可更新の調査の際に店舗を視察したが、この時も違反の事実を確認できなかったため保留しているという。「仮に違反事実があれば指導して改善を促す」とのこと。  名指しで「薬剤師法違反」と通報されたA薬局はどのような見解か。12月下旬の昼下がりに訪ねると、管理薬剤師が対応した。  「誤解です。薬剤師以外が調剤することはありません。服薬指導も必ず薬剤師が行い、原則私が手渡しています。ただファクスで送られた処方箋は、患者さんに電話で説明し、あとで店に取りに来てもらい、従業員が渡すことがあるので、そこを勘違いされたのかもしれません」  県内のある薬局経営者が調剤業務の規制緩和を解説する。  「2019年4月2日に厚生労働省が、今まで薬剤師が独占してきた業務の一部を条件付きで非薬剤師も可能とする文書を通知しました。『0402通知』と言います」  具体的には、包装されたままの医薬品を棚から取り出して揃える「ピッキング」、服用タイミングが同じ薬を1回ずつパックする「一包化」した薬剤の数量確認などができるようになった。ただし、薬剤師による最終監査が必要となる。  A薬局の管理薬剤師は「最終監査も私がやっています」。  規制緩和で薬剤師とそれ以外の業務が一部曖昧となったことが、今回の通報の一因のようだ。  ちなみに、通報者に「なぜ本誌に情報提供したのか」と聞くと「吉田豊氏を報じたからです」。医療・福祉業界を取り巻く「吉田豊問題」をきっかけに、住民の医療への関心が高まる効果も生まれた。

  • 【南相馬市闇バイト強盗事件】資産家を襲った『闇バイト』集団の足取り

     福島県で高齢者が犯罪集団の標的になっている。今年2月に南相馬市の70代夫婦宅に男3人が押し入り、暴行のうえ現金などを奪う事件が発生。強盗傷害罪などに問われた実行犯2人に懲役7年、もう1人に同6年が言い渡された。3人はSNSや知人を通じて全国から集められ、匿名の指示役から被害者の財産情報を得ていた。(文中一部敬称略) 犯罪集団に狙われる高齢者の財産  今年2月26日午後3時20分ごろ、南相馬市原町区の県道川俣原町線沿いにある70代夫婦が住む平屋に20代の男3人が押し入り、暴行の末、現金3万8000円とネックレスを奪って逃げた。実行犯3人は約1週間のうちに逮捕された。  犯行は匿名の人物が計画してX(旧ツイッター)などのSNSで隠語を交え告知。応じた者が勧誘役となり、その知人に実行役を任せた(図参照)。検挙率が高く実刑が科される強盗はリスクが高く、自らは手を下したくない。「犯罪白書令和4年版」によると、2021年の強盗の検挙率は99%。   足が付きやすいので、直接の知人には「捨て駒」となる実行役は任せられない。主謀者はSNSで「高額報酬」をうたい、困窮し切羽詰まった者を全国から募集する。いわゆる「闇バイト」だ。高額報酬に飛びついたのが実行犯3人だった。  犯行当日に捕まったのが東京都多摩市のとび職瓜田翔(21)。翌27日には同八王子市の専門学校生江口将匡(20)が警察に事件への関与を伝え逮捕された。2人は高校時代からの友人で、瓜田が犯行に誘った。  その後、3月6日に実行犯のリーダー格とされる札幌市のとび職土岐渚(23)が同市内の自宅で逮捕された。初公判の10月10日時点で3人のほかに指示役、実行犯の勧誘役、逃走の手助け役とみられる男ら6人が逮捕されている。うち瓜田を勧誘し、凶器の準備を指示したとして、瓜田が勤めていた会社の上司であるとび職石志福治(27)が強盗傷害罪で逮捕・起訴された。指示役とみられる男たちは処分保留で釈放された。  闇バイトはSNSを通じて実行役を勧誘し、秘匿性の高い通信アプリを使って匿名の人物が指示を出すので、実行役は犯罪集団の全容を知らない。警察が摘発しても、主謀者が関わった証拠が不十分で「トカゲの尻尾切り」に終わってしまう。 ここからは、10月10~25日にかけて福島地裁で開かれた公判をもとに書き進める。  瓜田、江口ら東京都の2人と札幌市の土岐は事件まで面識がなく、2組はそれぞれ別の知人から被害者宅の財産を盗むことを持ち掛けられた。瓜田は前出の石志から、土岐は札幌市の飲食店経営新居秀道(22)からだった。別にいる指示役は、通信アプリで「クロサキジン」「ヤマモトヨシノブ」などと名乗っていた。指示役が1人で匿名アカウントを使い回していたのか、複数人が成りすましていたのかは不明。  実行犯3人は報酬に魅せられたわけだが、切迫度はそれぞれ違う。土岐は経営する会社の運営資金に困っていた。瓜田はバイクのローンや友人たちへの借金返済、交際相手との遊興費を欲していた。瓜田に誘われた江口は「瓜田に貸した金を返してもらい、それ以上の報酬がもらえるなら」と、薬物の運び屋のような非合法の仕事を想定して応じた。  闇バイトに加わる末端の若者は身分証明書や実家の情報を握られ、脅されていることが多いが、南相馬市の事件は実行犯3人とも脅しを受けていなかった点から「逃げられなかった」という言い訳は苦しい。  札幌市から参加した土岐は定時制高校を中退後、とび職に転じ、2022年2月には従業員7、8人の会社を興し独立した。だが、コロナ禍で現場の仕事が減る中、従業員に給料を払うため父親から借金してしのいでいたという。「自分なりには精いっぱいだったが、はたから見れば金の扱いが杜撰だったかもしれない。人にすぐ金を貸すなど甘いところがあった」と振り返った。  今回の強盗に加わる直前の2022年12月から翌年2月にかけては、元請けからの支払いが滞り、従業員に給料を払えなくなった。資金繰りに頭を悩ませ、従業員に資金を持ち逃げされたとも語った。「もう親には借りられない」と思ったという。  社会保険料の支払い期限が迫り、土岐が頼ったのは新居だった。土岐は新居が経営する飲食店で働いていたことがあり、彼の顔が広いことを知っていた。今年2月13日夜、土岐はLINEで次のように切り出した。  土岐「今どっかたたけない?」  新居「今?」  土岐「金持っててむかつくやつとかいないの」「潰したいやつとか」「なんかもうどうでもよくなってやばい」  タタキとは強盗の隠語。土岐は法廷で「悪い奴から金を奪う意味」と独自の定義を話した。新居とのやり取りの中では「表に出しちゃいけない金はたたいた方がいい気がする」と述べている。「いくら欲しい」と新居に聞かれ、土岐は「400万円。あればあるだけほしい」。400万円は土岐の借金の額だ。 原発賠償金も狙う  南相馬市の老夫婦以外にもタタキの候補は存在していた。当初は2月20日ごろに名古屋市に住む老夫婦の金庫を狙うつもりだったが、同日未明にキャンセルされ、福島県に変更。土岐によると、最初は空き巣を想定しており、候補には名古屋市、福島県、北海道苫小牧市が挙がっていたという。土岐と新居は福島県の標的について「原発の補助金が入っている」とのやり取りを通信アプリで交わしていた。県民にとって、原発事故の賠償金が狙われている点は見過ごせない。  土岐と新居の札幌組は実際に強盗に入った2月26日の前日に、車で東京都から茨城県を通って南相馬市に入り、仙台市に向かっていることが分かっている。この時、常磐道富岡IC付近で乗っていた車が盗難車と疑われ、福島県警に職質を受ける失態を犯す。疑いは晴れたが、裁判で検察側は土岐に対し「新居と下見に行ったのでは」と指摘。土岐は「茨城の解体のバイトに向かう途中でそれがなくなった」と、犯行前日に南相馬市を通ったのは仙台市を経由して札幌市に帰る道中であり、下見であることを否定した。  その後、札幌市に帰った土岐は新居から、匿名性の高い通信アプリを通して「クロサキジン」を紹介される。互いに顔は知らない。以後、クロサキが土岐に強盗の具体的な指示を出す。同日夜、同市内の指定された場所に向かうと、ホスト風の男から交通費2万円と南相馬市の強盗に入る家の写真を示された。寝室の床下に金の延べ棒があると伝えられた。翌26日早朝、土岐は函館市から新幹線で福島市に向かった。  一方、瓜田と江口は強盗に参加するまでにもう1人の人物を介した。今年2月、東京都多摩市のとび職石志福治は「プッシュ 運び」とツイッターで検索していた。プッシュとは大麻のこと。大麻の運び屋を表す。同24日、密売をしていると思われる「ヤマモトヨシノブ」と名乗るアカウントにダイレクトメールを送ると「車の名義を貸してほしい」と返事が来た。「変なことに使われるな」と思った石志は、ヤマモトからの案件を職場の部下の瓜田に紹介した。  瓜田には、福島県の老夫婦から金の延べ棒を奪う仕事で、1人は車で待機、2人は家に入るため最低3人は必要なこと、1人当たりの報酬は800万円はくだらないと伝えた。ハンマーやバールのような物、テープや結束バンドなども用意するよう言った。  犯行前日の2月25日夜、南相馬市に向かうためレンタカーを借りた瓜田と石志は地元の多摩市で会う。ドライブレコーダーが石志の発言を記録していた。  石志「捕まんなよ」「レンタカーの報酬は10万円だよ」「この家はだいたい億は超えてるんだ。みんなで分ける」「俺の場合はボスがいる。ボスから紹介で仕事をもらってるから、そっちに払わなきゃいけない。こっちは現場に出てるから金はでかい」  瓜田はLINEで友人たちに、福島県まで車を運転すれば50万円もらえる仕事があると勧誘した。応じたのが、瓜田に27万円貸していた江口だった。 道の確認を装い下見 福島駅  瓜田はスマホの匿名人物からの指示で同日午後10時ごろ、都内で江口を拾い、下道で福島県浜通りに向かった。翌26日午前中、いわき市を経て南相馬市に入る。老夫婦宅の前を通って車の台数を確認。指示に従って福島市のJR福島駅に向かい、札幌市から来た土岐を拾った。  合流後、3人は福島市内のホームセンターで先端がとがったハンマーなどを買う。床下にあると聞かされていた金の延べ棒を奪うため、畳を引きはがす道具だった。  合流後、指示役からの連絡は土岐に一元化された。午後1時ごろ、3人は在宅人数を確認するため、ターゲットの老夫婦宅を訪ねた。瓜田が「駅までの道を教えてほしい」と玄関に入った。  もっとも、老夫婦宅は県道から奥まったところにある。不審に思った夫のAさんは「スマホはないのか」「車のナビがあるじゃないか」と尋ねたが、瓜田は「充電がない」「ナビは付いてない」とはぐらかした。AさんはJR原ノ町駅までの道順を教え、家の窓から不審車両の行き先を見守った。  老夫婦が家の中にいることを確認した瓜田は、車に残っていた土岐、江口に報告する。市内のホームセンターに新たに武器になりそうな物を買いに行った。柄の長い全長約40㌢のハンマー、パイプレンチ、ステンレス製のパイプなどを購入。パイプレンチは約1・6㌔とこれらの中で最も重く、瓜田がAさんを殴った際に何針も縫うけがにつながった。  武器を買った3人は再び老夫婦宅の近くまで来て、土岐と瓜田は現場が見渡せる小高い森に上った。江口は車で待機。瓜田はこの時、「強行突破で行くぞ」との土岐の発言を聞いたという。土岐は「自然な成り行きで強盗に至った」と自身の主導性を否定している。いずれにせよ、3人は各々強盗を覚悟し、老夫婦宅に乗り付けた。  顔が分からないようにネックウォーマーを被り、瓜田、江口、土岐の順で無施錠の玄関から土足で侵入した。  瓜田は居間で横になっていたAさんに、右手で持っていたハンマーを振り下ろそうとした。Aさんは上半身を起こし、持ち手の部分を片手で抑え動きを封じたため、瓜田は左手に持っていたパイプレンチをAさんの頭に複数回振り下ろした。Aさんは後ろに倒れたが、抵抗して揉みあいになり、瓜田もハンマーを落とした。江口と土岐はAさんの妻の足にテープを巻き付けて動きを封じた。その後、土岐は寝室に移り、とがったハンマーで畳を引きはがした。  土岐は「金(きん)はどこにあるんだ!」とAさんに迫った。「金はない。現金はあるから持っていけ」とAさん。土岐は財布から現金を抜き取ると、Aさんから「持ってけ」と投げつけられた金色のネックレスを手にし、車で逃走した。3人はイヤリングや凶器などの証拠を家の中に残しており、現場の混乱ぶりがうかがえる。  スマホからの指示で、3人は車で数分の新田川大原水辺公園に向かった。待ち受けていた会社員矢板聖哉(21)=千葉市=の車に金品を持った土岐だけが乗り移り、いわき方面に向かった。矢板は同僚の富田湧也(28)=水戸市=から南相馬市で人を運ぶように頼まれていた。 金品を持った犯人が車を乗り換えた新田川大原水辺公園(南相馬市)  富田から着信があり、その指示で矢板は土岐に何か持っているかと尋ねた。目的の金の延べ棒を持っていないと分かると、富田は「何も持ってないならその辺で降ろしちゃっていいよ」と話したという。矢板は後部座席の土岐が、自分の携帯電話で「こっちもリスクあんだから金くらいもらえるだろ」と怒っているのを聞いていた。電話の向こうはこれまでやり取りした指示役の「クロサキジン」とみられる。  土岐は人目を避けてJR湯本駅で車を降り、鉄道で自宅がある札幌市に逃走。奪った金品も報酬も手にできなかった瓜田と江口は、凶器を田村市常葉町の山林に捨て、レンタカーを運転して都内に帰った。  結果は冒頭の通り、約1週間で実行犯3人が逮捕された。闇バイトは証拠が残りにくく、法の裁きが指示役まで及びにくいのが特徴だ。今後裁判が予定されている石志も指示役と実行犯のつなぎ役に過ぎず、全容解明は望めない。  実行犯の土岐は、目的の金品が得られず逃走車から降ろされたように、上層部にとって「捨て駒」だった。捨て駒だが起こした結果は重大で、刑罰を受けて被害者への賠償を迫られる。裁判には実行犯3人の親たちが証人として出廷した。3人合わせて600万円を被害弁償したことが明かされた。親が親戚や職場から借りて払ったという。闇バイトは被害者のみならず、自分のかけがえのない人にも迷惑を及ぼす。

  • ヨークベニマルが原町に新店舗!?【南相馬市】

     「ヨークベニマルが南相馬市内に3店舗目の店舗を計画しているらしい」。こんなウワサが市内で流れている。果たして真相は。 商業施設跡解体で広まる〝ウワサ〟 本誌2022年2月号に「南相馬市原発事故で閉店した大手チェーンのその後」という記事を掲載した。  南相馬市は原発事故により市内南部の小高区が警戒区域、原町区が緊急時避難準備区域に指定され、市外への避難者・移住者が相次いだ。事故から10年以上経ったいまも当時の人口には回復しておらず、市内の事業者はマーケット縮小、労働力減少に直面している。  加えて大企業は原発賠償の幅が小さいという事情もあり、この間大手飲食・小売りチェーンの店舗が次々と撤退していった。記事では市内に進出していたさまざまな店舗の現状をリポートしたが、その一つ、洋服の青山福島原町店が立地していたショッピングセンター「JAMPARKはらまち」跡で現在、建物の解体作業が進められている。  場所は同市日の出町の国道6号沿い。かつては牛丼チェーンのすき家6号南相馬原町店やイエローハット原町店が同センター敷地内に立地していたが、現在は道路のはす向かいに新築移転して営業している。  不動産登記簿で地権者を確認したところ、2020年3月31日に千葉県茂原市の㈱玉川工産が売買で取得していた。さらに2022年8月30日には同社と同じ住所のタマ不動産が売買で取得。同日、抵当権者千葉銀行、債権額5億2000万円の抵当権が設定されていた。  こうした経緯から、市内の経済人や近隣住民の間では「新たな商業施設ができるのではないか」と囁かれており、具体的には「ヨークベニマルが出店するらしい」と言われているという。不動産業者に確認すると、業界内でもそういうウワサが飛び交っているようで、むしろいま関心事になっているのは「ヨークベニマルが市内3店舗目の出店を決断するかどうか」なのだとか。  「市内3店舗目の出店に関しては震災・原発事故前からウワサになっていたが、『南相馬市の人口では2店舗が限界だろう』と言われていました。現在営業中なのは原町店(南町)、原町西店(旭町)で、特に2020年2月に再オープンした原町店はJAMPARKはらまちと直線距離で2㌔ほどしか離れていない。自社競合覚悟で進出するのか、注目されているのです」  ヨークベニマルについては、前出2022年2月号記事でも《マーケットが大幅に縮小し、従業員不足も顕著なことから、市内に2つあった店舗を1つに集約した格好だ。ただ、市民(近隣住民)の間では、「同店(原町店)が再開しないと不便だ、という声は根強かった」という》と触れた。人口が減少した分、店舗は1店舗でいいとされていたが、市民からの要望を受けて同社は原町店を再オープンした。そうした中、さらに3店舗目のオープンまであるのだろうか、と注目されているわけ。  ちなみに、JAMPARKはらまちから南側に約1㌔離れた場所にはフレスコキクチ東原町店がある。国道6号沿いにヨークベニマルが出店したら、売り上げ面で影響を受ける可能性が高そうだ。  同地を管理する大和リース福島支店の担当者に問い合わせたところ、「現段階で明確に何かの計画が決まっているわけではない。現在は建物を解体しているだけ」と述べた。  地権者であるタマ不動産(玉川工産)にも電話で問い合わせたが、従業員が「担当者が不在で回答は難しい。少なくともその土地(JAMPARKはらまち)について、整備計画を公式に発表したとは聞いていない」と話すのみだった。  ヨークベニマルの広報担当者は「開店前の段階で今後どういう見通しになるのかをコメントするのは難しい」と説明した。  関係者は具体的なことを明かそうとしないが、現場では着々と解体工事が進められており、市民の関心は日増しに高まっている。 あわせて読みたい 宅配で顧客取り込む【ヨークベニマル】

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

     5月号で南相馬市の医療・介護業界を振り回すブローカー・吉田豊氏についてリポートしたところ、同氏が運営に携わった施設の元スタッフや同氏をよく知る人物から「被害者が何人もいる」と情報提供があった。公的機関は被害者救済に及び腰だ。 被害報告多数も公的機関は及び腰 桜並木クリニック  吉田豊氏は青森県出身。今年4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。衆院議員などの秘書を務め、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。医師を招いてクリニックを開設、その一部を母体として医療法人グループを立ち上げ、吉田氏が実質的なオーナーを務めていた。  その後、青森県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。当時の報道によると、有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、さまざまな企業に医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、いずれもずさんな計画で、集まった医師・スタッフは賃金未払いにより次々と退職。施設運営は行き詰まり、協力した企業が損失を押し付けられている状況だ。 現時点で分かっているトラブルは以下のようなもの。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続いた結果、契約解除となり、建物から退去させられた。現在は地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  〇スタッフを集めるため、ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜いた。だが、賃金未払いとブラックな職場環境に耐えかねて、相次いで退職していった。 〇その後、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」、「桜並木クリニック」を地元企業の支援で立ち上げたが、こちらも退職者が後を絶たない。 〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、それを担保に支援者から融資を受け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)建設計画を進めた。また、市内企業に話を持ち掛けて、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 5月号記事では、事実確認のため複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じてもらえなかった。そのため、関係者の意向を踏まえて具体的な企業名・施設名を伏せて報じた。南相馬市の医療・介護業界では「関わってはいけないヒト」と言われている。 だが、藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所に出入りしており、紳士的かつ気さくで話もうまいので、「初対面だと社会的地位が高い人に見えてしまう」(吉田氏の言動を間近で見て来た人物)。 ちなみに5月号発売後、東京・永田町にある議員会館の藤丸衆院議員の事務所に確認したところ、女性スタッフが次のように説明した。 「吉田豊さんには毎回パーティー券を買っていただいていますが、今年3月のパーティーには来ていただけませんでした。事務所に連絡をいただけるのはほとんどが福岡の支持者ですが、吉田さんは東北の訛りで話してくるので強く印象に残っているし、『(藤丸衆院議員と)どういう接点があるのだろう』と不思議に思っていました。カレンダーを送ってほしいと頼まれ、その送付先が福島県のクリニックだったので、医療関係者だと思っていました」 藤丸衆院議員と個人的に親しい間柄であれば、当然スタッフもそのことを共有しているはず。それほど深い関係ではないと見るべきだろう。 吉田氏は「(藤丸衆院議員が秘書を務めていた)古賀誠元衆院議員とも親交がある」と話していたとも聞いたので、古賀氏の事務所に確認したが、秘書は「申し訳ないですが全く聞いたことがありません」と回答した。細いつながりを大きくして吹聴していた可能性が高い。 本人の反論も聞きたいと思い、裁判所で閲覧した訴状の住所宛てに配達証明で質問書を送付したが、不在続きのため地元郵便局で保管され、そのまま返って来た。 不確定な部分が多かったが、新たな〝被害者〟を出さないようにと記事にしたところ、5月号発売後、吉田氏のことを知る業界関係者や元スタッフから相次いで連絡があり、トラブルの詳細と吉田氏の人物像が見えてきた。 職員への賃金未払いが横行 相馬労働基準監督署  新たに分かったのは、賃金未払いとなったスタッフが相当数いること。というのも、吉田氏に直接支払いを要望してものらりくらりと逃げられ、相馬労働基準監督署も親身に相談に乗ってくれないからだ。 「過去には立ち入り調査が入って、是正勧告が出された事例もあったが、しょせんは罰則などがない〝行政指導〟。その場だけ取り繕ってごまかされてしまいました。また、退職した人が相談しても『さかのぼって支払いを要求するのは難しい』とされて積極的に動いてもらえませんでした」(ある元スタッフ) 現時点で吉田氏が運営に携わっている施設は前出の「憩いの森」、「桜並木クリニック」の2施設と、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」。榎本氏は同クリニックにも頻繁に出入りしている吉田氏の〝参謀〟的存在で、吉田氏は現在、この薬局の2階で生活している。 憩いの森  吉田氏関連の会社はこれまで確認されているだけで4社ある。いずれも南相馬市本社。法人登記簿によると、概要は以下の通り。 ①ライフサポート 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2020年12月25日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ 事業目的=訪問介護、訪問看護、高齢者向け賃貸住宅など ②スマイルホーム 原町区本陣前二丁目22―3 設立=2021年2月19日 資本金=100万円 代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司 事業目的=賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供など ③フォレストフーズ 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月25日 資本金=100万円 代表取締役=馬場伸次 事業目的=不動産の企画・運営・管理、フランチャイズビジネスの企画・管理、自動車での送迎・配達サービス、人材派遣サービスなど ④ヴェール 原町区本陣前二丁目53―7 設立=2021年8月6日 資本金=100万円 代表取締役=佐藤寿司 事業目的=不動産の賃貸借・仲介、ビル・共同住宅・寮の経営、公園・観光施設などの管理運営、総合リース業、日用雑貨・介護用品販売など 4社のうち2社の代表取締役を務める浜野氏は吉田氏のパートナー的存在とされる女性。二丁目53―7は「憩いの森」の住所、二丁目22―3は同施設近くの土地の一角に建てられたユニットハウス。 吉田氏を直撃 吉田豊氏  こうして見ると吉田氏本人の名前は見当たらないが、これこそが吉田氏の得意とする手口だという。 「吉田氏は代表者など表に名前が出る所に出たがらず、スタッフに経営責任者を任せて裏で指示を出す。これだと書類上の経営責任者はスタッフになり、公的機関が指揮系統やお金の流れを把握しづらくなります。実際、ここに名前が挙がっている代表取締役にも、賃金未払いを訴えて退職した職員が含まれています」(前出・元スタッフ) もっとも、複数の関係者の話を統合すると、書類上で名前を出していなくても決定権を持っているのは吉田氏であり、実際、スタッフからは「オーナー」と呼ばれている。 前出・南相馬ホームクリニックが運営していたころは、敷地内に設けられた小さなユニットハウスが「事務所」となっており、職員は退勤時に必ず顔を出してあいさつする決まりとなっていた。 そこでは毎日17時ぐらいから酒盛りが始まる。吉田氏は素性がよく分からない飲み仲間を呼び寄せ、お気に入りの正職員が顔を出すと、一緒に酒を飲むように勧めた。患者がいようがおかまいなしで、酔った状態で待合室に顔を出し、ソファーに横になることもあった。翌朝、ビールの空き缶や総菜のごみを片付けるのは職員の仕事。オーナーでなければ、こんな振る舞いは許されまい。 ちなみに、南相馬ホームクリニック閉院後、吉田氏の居場所だったユニットハウスはスマイルホームの〝社屋〟として再利用されている。 何より驚いたのは、吉田氏に数百万円単位の金を貸している元スタッフが何人もいるという事実だ。 一例を挙げると、関連会社を統合した組合組織を立ち上げ、理事に就いたスタッフに対し、「出資金が不足している」、「役員に就かせたのだから個人的に協力してくれないか」などの理屈を付けてそれぞれ数百万円の金を出させたという。借用書は残っており、それぞれ返済を求めているが、吉田氏は応じていない。 客観的に見ると吉田氏が信用に値する人物とは到底思えないが「役員として、できる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる。組合組織を立ち上げることになったのも補助金目当てだったとみられ、現在組合として活動している気配は見えない。 同市内で医療・介護業界に従事し、元スタッフとも交流がある人物は吉田氏の性格をこう述べる。 「新しく入ってくる人には手厚い待遇で迎えるが、吉田氏に意見を述べる人や内情を詳しく知った古株は徹底的に冷遇する。職員間対立も煽るようになり、ついには賃金未払いが発生し、支払いを求めると逆ギレされる。そこで初めてどういう人物だったかを思い知らされるのです」 こうした声を当の吉田氏はどのように受け止めるのか。5月下旬、オレンジファーマシーから路上に出て来た吉田氏を直撃した。 ――医療・介護施設をめぐるトラブルが多く、当初の約束通りに金を支払ってもらっていない企業などもあるようだが。 「そういうところはない」 ――南相馬ホームクリニックでは未払い分の賃貸料の支払いを求める裁判を地元企業から起こされている。 「先方がクリニックをやりたいということで、私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方。そもそも係争中なのでそういう部分だけで誤解して書かないでほしい」 ――係争中と言うが、地裁相馬支部で確認したところ、訴状に対する答弁書は見当たらなかった。 「契約している東京のサダヒロという弁護士が対応している」 ――弁護士の連絡先は。 「あることないこと言われているので、いまさら私の方から答えることは何もない」 ――個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる。 「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 ――賃金未払いを訴える声が多い。実質的なオーナーとして責任を取るべきではないか。 「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」 吉田氏はあくまで「自分は被害者」というスタンスを貫き、賃金未払いに関しても「助言している立場に過ぎないので、各施設の責任者に話してほしい」と述べた。しかし前述の通り、実質的なオーナーであることは間違いない。呆れた言い逃れであり、責任を持って賃金未払いや借入金返済に対応する必要がある。 なお、南相馬ホームクリニックの裁判は、東京の弁護士に任せているとの回答だったが、福島地裁相馬支部にあらためて確認したところ、「吉田豊氏を原告とした裁判の訴状は確認できない」とのことだった。 「ここは本当に法治国家なのか」 オレンジファーマシー  結局、本誌の直撃取材を受けた吉田氏は「この後用事があるので」と言って、桜並木クリニックの中に入っていった。本誌5月号では桜並木クリニックを訪問したときの様子を、名前を伏せてこう紹介している。 《中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初からかかわっているが、ちょっと分からない」と話した》 このとき、対応したのは「エノモト」と名乗る男性。後から確認したところ、オレンジファーマシーの管理薬剤師を務める榎本雄一氏だった。吉田氏の親戚に当たる人物が平然とうそを付いていたことになる。外部にすらこういう対応なのだから、スタッフへの対応は推して知るべし。 これ以外にも、本誌には▼同クリニックは医師会に入っていない、▼同クリニックの診察時間はその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている、▼スタッフが定着せず、パート・アルバイトで対応している、▼過去には青森県の人物から借金返済を求める電話が毎日のように来ていた、▼業者に対しても代金未払いが発生している、▼同市石神地区で何か始めようとしている――などの情報が寄せられた。 県相双保健福祉事務所、労働基準監督署などの公的機関には、これらの情報を伝えたが、いずれも反応は鈍く、他人事に捉えているように感じられた。 元スタッフの一人は「賃金未払いや借金踏み倒しで泣き寝入りしている人が多いのに、どの公的機関も見て見ぬふり。市議などに相談したが大きな動きにはつながらなかった。ここは本当に法治国家なのか、と疑いたくなりますよ」と嘆いた。 こうした実態は広く知られるべきであり、企業経営者、医療・介護従事者は被害に遭わないように吉田氏の動向を注視しながら、それぞれが〝自衛〟していく必要がある。 政経東北【2023年7月号】で【第3弾】『吉田豊』南相馬市ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆きを詳報します! 政経東北【2023年7月号】 あわせて読みたい 【第1弾】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家【吉田豊】

  • 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家

     南相馬市の医療・福祉業界関係者から「関わってはいけないヒト」と称される人物がいる。さまざまな企業に医療・福祉施設の計画を持ち掛け、ことごとく頓挫。集めた医師・スタッフは給与未払いに耐え切れず退職、協力した企業は損失を押し付けられ、至る所でトラブルになっている。被害に遭った人たちは口を閉ざすばかり。一体どんな人物なのか。 施設計画持ちかけ複数企業が損失 吉田氏の逮捕を報じる新聞記事(デーリー東北2007年4月28日付)  「吉田豊氏について『政経東北』を含めどのマスコミも触れないけど、何か理由があるのかい?」。4月上旬、南相馬市内の経済人からこんな話を持ち掛けられた。 南相馬市内で医療・福祉施設建設計画を持ち掛け、支援を募っては計画が頓挫し、複数の企業が損失を被っているというのだ。吉田氏は青森県出身の元政治家で、数年前から南相馬市内で暮らしているという。 事実確認のため複数の関係者に接触したが、結論から言うと、誰も口を開こうとしなかった。「現在係争中なのでコメントは控えたい」、「ほかに影響が及ぶのを避けたい」、「もう関わり合いたくない」というのが理由だった。 せめて一言だけでもと食い下がると、「とにかく裏切られたという思い」、「業界内では『関わってはいけないヒト』と評判だ」という答えが並んだ。誌面では書けない言葉で吉田氏を罵倒した人もいる。 ある人物は匿名を条件に次のように語った。 「医療・福祉の充実という理念を掲げ、補助金がもらえそうな事業計画を企業に持ち掛け出資させる。ただ、ブローカー的な役割に終始し、その後の運営は二の次になるのでトラブルになる。表舞台には決して立とうとせず、ほかの人物や企業を前面に立たせる。だから、結局、何かあっても吉田氏が責任を取ることはない」 関係者の意向を踏まえ、本稿では具体的な企業名・施設名などを伏せるが、市内の事情通の話や裁判資料などの情報を統合すると、吉田氏をめぐり少なくとも以下のようなトラブルが発生していた。 〇市内にクリニックを開設する計画を立て、賃貸料を支払う契約で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続き契約解除となり、現在は未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関や介護施設から医師・職員を高額給与で引き抜いたが、賃金未払いが続き、加えてブラックな職場環境だったため、相次いで退職。施設が運営できなくなり、休業している。 〇市内企業を巻き込んで、数十億円規模のサービス付き高齢者向け住宅建設計画やバイオマス焼却施設計画なども進めようとしていたが、いずれも実現していない。 吉田氏が一方的に嫌われ悪く言われている可能性もゼロではないが、話を聞いたすべての人が良く言わず、企業が泣き寝入りしている様子もうかがえた。吉田氏は現在公人ではないが、こうした事実を踏まえ、誌面で取り上げるのは公益性・公共性が高いと判断した。 吉田氏とはどういう人物なのか。過去の新聞記事などを遡って調べたところ、青森県上北町(現東北町)出身で、同町議を2期務めていた。 《八戸市内の私立高校(※編集部注・現在の八戸学院光星高校)を卒業後、県選出の代議士や県議らの下で政治を学び、1991年の町議選に32歳で初当選した。医療と福祉の充実を掲げ、医師を招いて自宅近くに内科・歯科医院を開業するなど精力的だった》(デーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏が個人で運営していた「あさひクリニック」の一部を母体に「医療法人秀豊会」が立ち上げられ、有床診療所を運営しているほか、関係会社が高齢者・障害者向け住宅賃貸サービス、在宅介護、訪問診療を行っている(現在は医療法人瑞翔会に名称変更している)。吉田氏は登記簿上は役員から外れていたが、実質的なオーナーだったという。 1999年4月、上北町議2期目途中、青森県議選・上北郡選挙区に推薦なしの無所属で立候補したが、6候補者中6番目の得票数(9545票)で落選した。その後、有権者に現金5万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼、さらに60人以上の有権者に計142万円を配って買収工作を行ったとして、公職選挙法違反(現金買収)の疑いで逮捕された。 《今年1月ごろから「吉田陣営は派手に買収に動いているようだ」とのうわさが一部に広がり出していた。「福祉に対する熱意が感じられる」として3月上旬まで同容疑者の応援を続けていた県内のある大学教授が、「金にまつわるうわさを聞いて失望した」と、告示の約3週間前に同陣営とのかかわりを断ち切るというトラブルもあった》 《(※編集部注・吉田氏が実質オーナーだった医療法人グループについて)最近では、老人保健施設や特別養護老人ホーム建設の計画を声高にうたっていた。しかし、老健施設の建設予定地の農地転用の手続きに絡み、町農業委員会の転用許可が下りる前に予定地の一部を更地にして厳重注意を受けるなど、周囲からは吉田容疑者ら経営幹部たちの強引な手法を指摘する声も上がっていた》(いずれもデーリー東北1999年4月23日付) 吉田氏は懲役2年6月、執行猶予5年の有罪判決を受け、「今後は選挙にかかわらない」と誓っていた。ところが、5年間の公民権停止期間が明けると2007年4月の県議選に再び立候補。結果は、7候補者中6番目の得票数(4922票)で落選した。 立候補表明時には「住民が安心して暮らせる地域づくりを目指し、地元の医療環境を整備したい」と訴え、「派手な選挙は行わない。地道に政策を訴えたい」と話していた吉田氏。だが選挙後、3人の運動員に計76万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼していたとして、再び公職選挙法違反の疑いで逮捕された。 《「8年前は大変ご迷惑をお掛けしました」―選挙運動中、マイクを握った吉田容疑者はこの言葉から口を開き、自身を含む計6人が公選法違反で逮捕された前々回の県議選と同じ轍は踏まない―との意気込みを見せていた。しかし自身の逮捕により、今回の逮捕者は計8人と前々回を上回る結果となった》(デーリー東北2007年4月28日付) 呆れた過去に驚かされるが、吉田氏自身は2度の前科を特に隠してはいないようで、周囲に話すネタにしているフシさえあるという。 官僚・政治家人脈を強調  吉田氏の言動を間近で見てきたという人物は「どう見ても怪しいが、外見は紳士的で、初対面だと社会的地位の高い人に見えてしまう。見抜くのは難しい」と語る。 「藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区、自民党)の事務所に出入りしており、私も一度案内されたことがあった。話している感じも違和感はなく、過去を知らなければすっかり信用してしまうと思う」 藤丸氏は古賀誠元衆院議員の秘書を務めていた。そのため、「秘書時代のつながりではないか」と指摘する声もある。しかし、「〇〇議員の秘書とはしょっちゅう連絡を取っている」と至るところで吹聴しているようなので、真偽は分からない。 中央官僚ともパイプを持っていると盛んにアピールしているようだが、浜通りの政治家によると、「『誰と会っているのか教えてくれたら私からも話をする』と知り合いの官僚の名前を出したら、急にしどろもどろになって話をはぐらかした」のだとか。別の経済人からも同様の声が聞かれた。市町村長クラスと会える場所にはよく顔を出すという話もある。 複数の関係者によると、吉田氏はトラブル後も同市内で暮らし続けているが、具体的な居場所は分からないようで、「住所を特定されないように宿泊施設を転々としている」、「プレハブ小屋を事務所代わりにしている」「建設に関わった同市原町区のクリニックを拠点としている」などと囁かれている。 名前の挙がったクリニックを訪ねたところ、扉に「休業中」の札がかかっていたが、電気は付いており、中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初から関わっているが、ちょっと分からない」と話した。休業の理由については「医師が退職し、現在募っているため」という。 手紙には返答なし  念のため、同クリニック宛てに吉田豊氏に向けた手紙を送り、裁判所で閲覧した資料に掲載されていた青森県の自宅住所にも送ったが、期日までに回答はなかった。なお、吉田氏に未払い賃金の支払いを求めている人物の代理人によると、内容証明を送っても何の返答もない、とのこと。吉田氏本人の主張は残念ながら聞くことができなかった。 ちなみに、青森県六戸町の現職町長・吉田豊氏は同姓同名の別人物。また、南相馬市内にも同姓同名の医師がおり、業界関係者の間でも混乱することが多々あるという。実際、記者も同市内で最初に話を聞いたときは「町長までやった奴が南相馬で問題を起こしている」と誤って教えられた。 そのためかネット検索しても、関連情報がヒットしにくい。こうした事情も、吉田氏のトラブルが表に出てこない要因のようだ。 吉田氏に翻弄されたという男性は「これ以上被害者が増えてほしくない。こういう人物に近付いてはならないと警鐘を鳴らす意味でも政経東北で取り上げるべきだ」と話した。そうした声を踏まえ、不確定な部分が多かったが記事にした次第。 クリニック開業の際、医師が確保できていないのに認可するなど、保健所をはじめとした公的機関の無策を嘆く声も聞かれたが、一方で、吉田氏の動きはしっかりマークしているとのウワサも聞こえている。ひとまずはその動きをウオッチしながら〝自衛〟していく必要がある。 あわせて読みたい 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【南相馬市】元市幹部が地元紙に「ウソの証言」

     2022年10月12日付の福島民友に震災・原発事故当時、原町区役所長だった元職員の発言や行動を紹介する記事が載った。しかし、その内容は〝真っ赤なウソ〟だった。 裏取り怠った記者に市OBが憤慨  記事は「緊急時避難準備区域 残る市民置いてはいけず」という見出しで、震災・原発事故当時、原町区役所長を務めていた鈴木好喜氏の発言や行動を紹介している。 どんなことが書かれていたか、一部抜粋する。 《南相馬市は、市役所が緊急時避難準備区域に入ったが、行政機能をそのまま残す道を選択した。「避難できない市民を置いてはいけない。(移転には)賛成しかねる」。当時、市原町区役所長だった鈴木好喜さん(71)は市役所機能の一部を残して職員は市内にとどまるよう桜井勝延市長に進言した》 《市執行部内で「行政機能も移転すべきではないか」との議論が持ち上がった。それでは、避難できず、残された市民のケアはどうするのか―。幹部会議で口火を切ったのは鈴木さんだった。「健康状態が悪い人や体が不自由な人は自宅に残らざるを得ない。行政機能を残すにしても支所、出張所として市役所に一定の機能を残すべきだ」と主張。市は最終的に、行政機能をとどめる方針を決定した》 福島第一原発に近い双葉郡の町村は、全住民を避難させるとともに行政機能を他の自治体に移転したが、南相馬市は小高区の全住民を中心に避難させたものの、市役所はその場(原町区)にとどめた。 同紙の記事によれば、当時の桜井市長がそれを決定したのは、原町区役所長だった鈴木氏の進言があったから、というわけ。 ウソに憤慨するOBたち  「とんでもないデタラメ。よくこんなウソが言えるなと、記事を読んで呆れ返った」 そう話すのはある市役所OB。OBたちの間では今、この記事に強く憤慨しているという。 「鈴木氏は原発事故後、真っ先に市外へと避難した。そんな人が『市役所機能を残せ』などと偉そうなことを言うはずがない。当時を知る職員が見たら即ウソとバレる内容を、よく堂々と話せたものです」(同) 前稿に登場した桜井氏にも確認してみた。 「記事をそのまま読むと、市役所機能が市内にとどまったのは鈴木氏の進言のおかげ、となるが、そうした事実はない」 桜井氏によると、鈴木氏は当時、県外の避難所を回ると称して市内にいなかったという。市民をバスなどで市外に避難させた後、桜井氏は秘書課職員と運転手の計3人で、避難者を受け入れてくれた自治体に挨拶回りをしたが、新潟県妙高市を訪ねた際、現地のビジネスホテルに着くと駐車場に見覚えのある車が停まっていたという。当時、鈴木氏が乗っていた車だった。 すると、翌日の朝食会場で鈴木氏に遭遇。桜井氏が「こんなところで何をしているのか」と尋ねると、鈴木氏は「避難者を受け入れてくれた自治体を訪ね歩いて、お礼を言っている」と説明した。しかし、各地の首長に直接会って挨拶していた桜井氏に対し、鈴木氏はどこの自治体の誰に会っていたか定かでなく、市役所が公務として命じたこともなければ、鈴木氏から復命書が提出されたわけでもなかった。 「私が市役所機能を市内にとどめると決めたのは3月20日です。あの時、私の決定に賛同する幹部職員はほとんどいなかったが、そもそも鈴木氏は避難してその場にすらいなかったので、彼から進言を受けることはあり得ない」(桜井氏) では、鈴木氏はなぜ福島民友にあんなウソをついたのか。真意を確かめるため、原町区内にある鈴木氏の自宅に文書で質問を送ったが、本稿締め切りまでに返答はなかった。 市役所OBや桜井氏は、鈴木氏だけでなく、記事を掲載した同紙にも強く憤っている。確認すればすぐにウソと分かる発言を、なぜ真に受けたのか。桜井氏も同紙に「きちんと裏取りしたのか」と抗議したが、記事執筆から掲載までの経緯は説明がなかったという。 同紙に事実関係を尋ねると、担当者は次のようにコメントした。 「記事は取材に基づき書かれたものとご理解ください」 ウソをついた鈴木氏に問題の根源があることは言うまでもないが、それをそのまま記事にして市民に誤解を与えた同紙も反省すべきだろう。 あわせて読みたい 【南相馬市】桜井元市長が「市議選出馬」のワケ 選挙を経て市政監視機能が復活した南相馬市議会

  • 【南相馬市】桜井元市長が「市議選出馬」のワケ

     任期満了に伴う南相馬市議選に元市長の桜井勝延氏(66)が立候補を表明した。もともと市議を務めていたが、市長選で二度落選後、市議に出戻るのは極めて異例だ。 低迷する投票率のアップを目指す 南相馬市議会(HPより)  市議選(定数22)は2022年11月13日告示、同20日投開票で行われ、同年10月下旬現在25人程度が立候補する模様だ。 立候補予定者説明会は同年10月4日に開かれ、現職19人、新人2人が出席したが、この時、桜井氏の陣営からは誰も出席しなかった。ただ、同年9月下旬には立候補を決意し、後援会長などに挨拶を済ませていた。 当の桜井氏がこう話す。 「2022年1月の市長選に落選後、多くの方から『市議選に挑むべきだ』という声をかけてもらったが、親族の入院などが重なり選挙のことを考える余裕がなかった。しかし、お盆過ぎに退院し、ようやく落ち着いたタイミングで再度熱心に声をかけてもらい、出馬を決意した」(以下、断りがない限りコメントは桜井氏) 旧原町市議を1期、南相馬市議を2期務め、2010年から市長を2期務めた桜井氏。8年間の任期中は大半を震災・原発事故対応に費やしたが、18、22年の市長選で現市長の門馬和夫氏(68)に敗れた。 その間には国政への誘いもあったが、桜井氏は見向きもせず「脱原発をめざす首長会議」世話人として各地の現・元首長たちと脱原発に向けた活動をするなど、一貫して地方政治の立場から国に物申してきた。 「市長選は落選したが、2018年は1万6293票、22年は1万5625票を投じてもらった。ここで市政を投げ出し国政に転じれば、市民から『市民を見放した』『市長をステップに国会議員になりたかっただけ』と言われてしまう。市民に、市政に対する諦めの気持ちを抱かせないためにも地方政治にこだわりたいと思った」 とはいえ、たとえ僅差でも門馬氏に連敗したのは事実。市内には熱烈な支持者が大勢いるが、それと同じくらい〝反桜井〟の有権者もいる。二度目の落選後に「もう応援はこりごり」と離れた元支持者もいる。そういった人たちからは、今回の桜井氏の決断に「市長がダメだから市議なんて虫が良すぎる」「市議を踏み台に、また市長選に挑むつもりなんだろう」「どうせ報酬目当て」と辛辣な声も聞かれる。 一方で、桜井氏のもとには未だに市民から多くの相談が寄せられている。市立総合病院の診療・入院に関すること、災害対応に関すること、子育て支援に関すること――等々、市民が日常生活に困っている姿を日々目の当たりにしている。 市職員からも現市政を憂うメールが頻繁に届く。中堅・若手職員からは「今の職場環境では『市民のために働く』というモチベーションが保てない」と早期退職を示唆する声も寄せられている。 「市政に関心持ってほしい」  「市議は22人もいるのに、市民や職員のことを分かっていない。市議会もチェック機能が働かず、執行部の追認機関と化している。これでは市民の暮らしの改善につながらない」 ただ、市長選で1万票以上獲得している桜井氏が、1000票あれば悠々と当選できる市議選で落選する姿は想像できない。市民の関心は、桜井氏が何票獲得するかだろう。 ちなみに前回(2018年11月18日投開票)の市議選で、1位当選の得票数は2658票。しかし、桜井氏の口からは票数に関する話題は一切出てこない。桜井氏が強く意識するのは投票率だ。 「市議選出馬を決めた後、市内を挨拶回りしたら『えっ、市議選があるの?』『投票日はいつ?』と言う人がとても多かった」 要するに、市民は市議会(市議)に関心がないことを知り、桜井氏はショックを受けた。 「なぜ関心がないのか。それは市議会・議員に魅力がないからです。例えば、その商品に魅力があれば客は競うように買い求めるが、魅力がなければ見向きもしない。今の市議会・市議はそれと同じで、市民にとって魅力がないのでしょう。だから市議選の投票率も上がらない」 市長選と市議選の投票率を比べると、有権者の関心の違いがよく分かる。(日付は投開票日、人数は当日有権者数) 2014年 市長選(1月19日)―62・82%、5万3943人 市議選(11月16日)―59・10%、5万3828人 2018年 市長選(1月21日)―62・39%、5万2933人 市議選(11月18日)―55・91%、5万2376人 2022年 市長選(1月23日)―63・75%、5万0972人 市議選の投票率は下がっているが、2018年と22年の市長選は同じ顔ぶれでも1・36㌽上がっている。それだけ市民の関心が高かったということだろう。 「私は市長時代も落選後も市議選で応援マイクを握った。しかし、その候補者たちの得票数を合わせても私の市長選の得票数には及ばない。市議選も市長選と同じくらい関心を集め、候補者に魅力があればもっと得票してもいいのにそうならないのは、市民が投票に行かないか、票が別の人に逃げているかのどちらか。立候補予定者はこうした有権者の投票行動に危機感を持つべきです」 市議の多くは「桜井氏が出れば自分の票が減る」と警戒感を露わにしている。しかし、その市議が普段から支持を得ていれば、たとえ桜井氏が立候補しても、有権者はその市議に投票するはず。要するに、その市議がこれまでどういう活動をして、有権者がそれをどう評価しているかが今回の得票数に表れる、と。 「もちろん、選挙後の私自身の活動も問われる。意識しなければならないのは、市長選も市議選も投票に行かない『市政に無関心な市民』です。そういう人たちに、いかに市政に関心を持ってもらうか。国政や県政と比べて市政にできることは限られるかもしれないが、市民に最も身近だからこそ、きちんとやらなければ市民生活に及ぼす影響は大きいのです。市民には、とにかく市政に関心を持ってほしい。そのきっかけとなれるように今は市議選に全力を注ぎ、投票率アップにつなげたい」 若い世代の低投票率や若手候補者の少なさが課題となる中、市議と市長を経験し、66歳の桜井氏が立候補するのは「時代に逆行している」という批判もある。批判を跳ね返すには、投票率アップや市政に無関心な市民を引き付けるなど、さまざまな難題をクリアするほかない。 【結果】第5回南相馬市議会議員一般選挙(2022(令和4)年11月20日執行) 第5回南相馬市議会議員一般選挙 選挙結果 あわせて読みたい 【南相馬市】元市幹部が地元紙に「ウソの証言」 選挙を経て市政監視機能が復活した南相馬市議会