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原発賠償ゼロ

  • 「原発賠償ゼロ」だった郡山事業者のその後

    「原発賠償ゼロ」だった郡山事業者のその後

     本誌2019年4月号に「原発賠償を不当拒否された郡山市の事業者」という記事を掲載した。同社は、原発事故の影響と思われる営業損害を受けながら、一度も原発賠償が受けられなかった。その後も、同社関係者は粘り強く東電と交渉を続けているが、東電の姿勢に変化はない。そんな中で、関係者が不信感を募らせるのが県の対応だ。 東電に加え県の対応にも不信感  原発賠償を受けられなかったのは、郡山市内でカフェとクラブを経営していたA社。同社は原発事故の影響で一時休業し、2011年6月にクラブのみ再開した。しかし、①もともとビジネス(出張)客の利用が多かったが、原発事故を受け、ビジネス客や観光客が激減した、②クラブの客入りは女性店員の人気によるところが大きいが、女性店員の多くが自主避難してしまった――等々の理由から、売上は原発事故前の半分程度に落ち込んだのだ。 客観的に見て、これら損害は原発事故に起因すると考えられる。つまりは東電から賠償を受けられる可能性が高いが、東電から「賠償対象外地域なのでお支払いできません」と言われ、応じてもらえなかった。 売り上げが落ち込んだ状況で賠償が全く受けられず、A社は経営に行き詰まった。規模縮小などの努力をしたものの、2015年1月に事業を停止せざるを得なくなった。 一方で、その間もA社関係者は行政や商工団体などに相談しており、2017年に商工団体の仲介で、東京で東電福島原子力補償相談室の担当者と交渉した。A社関係者がこれまでの経過と事情を説明したところ、東電担当者から「郡山市は賠償対象外地域と申し上げたのは間違いでした。今後は個別に対応させていただきます」と言われた。 ところが後日、東電から「裁判の結果が出ているので、お支払いできない」と告げられた。 実は、A社は2014年に、東電に約4億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしていた。同訴訟でA社の訴えは認められず、請求は棄却された(2016年9月)。これを受け、東京高裁に控訴したが、二審でもA社の訴えは棄却された(2017年6月)。 その後、A社は最高裁に上告しており、「二審判決後、さらなる証言・証拠を集めるため、行政や東電の窓口を訪ねました。上告に当たり、新たにお願いした弁護士の先生からは『東電の対応は明らかに公序良俗違反、憲法違反に当たる。一審、二審のような結果にならないと思う』と言っていただき、手応えを感じていました」(A社関係者)という。 ただ、そんな過程で、前述の交渉に臨み、その席で東電担当者が不手際を認め、「今後は適切に対応する」と明言したことから、これ以上、裁判を継続する必要はないと判断し、上告を取り下げた。 それにより、同訴訟の判決(二審判決)が確定したわけだが、前述のように、後に東電から「裁判の結果が出ているので支払えない」と告げられたのだ。以降は「弁護士に一任したので、今後はそちらを通してほしい」旨を一方的に告げられた。 東電の不誠実さ 東京電力本店  その後も、東電とは弁護士を通して書面でやり取りをしているが、交渉の席で東電担当者が「郡山市は賠償対象外地域」と説明したのは仮払いのことだった――などと回答してきた。原発事故直後、東電は避難指示区域の住民・事業者に、損害範囲を把握できていない中での緊急対応として「賠償仮払い」を行っていた。「郡山市は賠償対象外地域」と説明したのは、それには該当しないという意味だった、と。 A社関係者は憤る。 「当時、東電との交渉で、『仮払いの請求』などと言ったことは一度もない。対応したオペレーターからも『仮払い』などというフレーズは一切出ていません。東電は過去の経緯を自社に都合のいいようにすり替えているとしか思えません」 客観的に見ても、A社が賠償請求したのは原発事故発生から半年以上が経ったころで、その時すでに原子力損害賠償紛争審査会が賠償の基本スキームを定めた「中間指針」が示されていたから、「仮払い云々」の話になるはずがない。A社が「東電は〝後付け〟で辻褄を合わせようとしている」と感じるのも当然だろう。 いずれにしても、東電の対応は不誠実極まりない。確かに、判決が確定している以上、東電の言い分には道理がある。ただ、東電は「最初の段階で『郡山市は賠償対象外』と言ったのは間違いだった」と認めている(※後に「それは仮払いのことだった」とニュアンスを変えて主張しているが)。東電がそれを認めたのは裁判での審理を終えた後で、裁判中にそれが分かっていれば、途中で和解するなどの道筋もあったかもしれない。ところが、裁判が終わった後に自社の対応ミスを認め、そのことがなかったかのように、後で「判決が出ている」ことを振りかざすのは、果たして正当性があるのかといった疑問が生じる。 知事の姿勢にも問題 内堀雅雄知事  いまもA社関係者は東電と交渉(抗議)を続けているが、東電の姿勢に変化はなく、八方塞がりに陥っている状況。それと並行して、国の関係省庁や県にも要請活動を行っているが、その中で不満を募らせるのが県の対応だ。 A社は2018年に、県に対してこれまで述べてきた経緯を報告し、県から東電を指導してほしい旨を要請した。しかしその後、県からは何の連絡・報告もなかった。要請から4年超が経った昨年秋、自分たちの要請はどうなったかを確認すると、「県の担当者は2018年ごろの要請なんて分からない、といった感じでした」(A社関係者)という。 この点については、本誌でも再三指摘してきたが、内堀雅雄知事の姿勢に問題があると考える。というのは、内堀知事は原発賠償の問題解決にあまり熱心でないのだ。 県原子力損害対策協議会というものがある。県原子力損害対策課が事務局となり、県内の市町村、農林水産団体、商工団体、業界団体など205の団体で組織されている。会長には内堀雅雄知事、副会長には管野啓二JA福島五連会長(JAグループ福島東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会長)、轡田倉治県商工会連合会長、県市長会長の立谷秀清相馬市長、県町村会長の遠藤智広野町長が就いており、言うなれば「オールふくしま」の原発賠償対策協議会である。 同協議会は、毎年、構成団体員の代表者会議を開き意見を集約して、国の関係省庁と東電に要望・要求活動を行っている。 内堀知事就任後の要望・要求活動は、2015年2月4日、同年5月12、13日、同年11月26日、2016年6月13日、同年11月15日、2017年5月31日、2018年2月5日、同年11月6日、2019年11月18日、2020年12月1日、2021年6月21日、2022年4月19日、同年9月13日、同年12月2日(※国のみ)と、計14回実施している。 しかし、副会長(時のJA福島五連会長、轡田倉治福島県商工会連合会長、時の市長会長・町村会長)がそこに参加する中、協議会のトップである内堀知事が要望・要求活動に同行したことは一度もない。すべて「会長代理」の副知事が代表者になっているのだ。 この点からしても、内堀知事が原発賠償の問題解決に熱心でないことがうかがえよう。A社に対する県の対応もそこに起因するのではないか。県民を原発被害から救済することも、県(知事)としての大きな役割であることを認識してほしい。 あわせて読みたい 根本から間違っている国の帰還困難区域対応

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     本誌2019年4月号に「原発賠償を不当拒否された郡山市の事業者」という記事を掲載した。同社は、原発事故の影響と思われる営業損害を受けながら、一度も原発賠償が受けられなかった。その後も、同社関係者は粘り強く東電と交渉を続けているが、東電の姿勢に変化はない。そんな中で、関係者が不信感を募らせるのが県の対応だ。 東電に加え県の対応にも不信感  原発賠償を受けられなかったのは、郡山市内でカフェとクラブを経営していたA社。同社は原発事故の影響で一時休業し、2011年6月にクラブのみ再開した。しかし、①もともとビジネス(出張)客の利用が多かったが、原発事故を受け、ビジネス客や観光客が激減した、②クラブの客入りは女性店員の人気によるところが大きいが、女性店員の多くが自主避難してしまった――等々の理由から、売上は原発事故前の半分程度に落ち込んだのだ。 客観的に見て、これら損害は原発事故に起因すると考えられる。つまりは東電から賠償を受けられる可能性が高いが、東電から「賠償対象外地域なのでお支払いできません」と言われ、応じてもらえなかった。 売り上げが落ち込んだ状況で賠償が全く受けられず、A社は経営に行き詰まった。規模縮小などの努力をしたものの、2015年1月に事業を停止せざるを得なくなった。 一方で、その間もA社関係者は行政や商工団体などに相談しており、2017年に商工団体の仲介で、東京で東電福島原子力補償相談室の担当者と交渉した。A社関係者がこれまでの経過と事情を説明したところ、東電担当者から「郡山市は賠償対象外地域と申し上げたのは間違いでした。今後は個別に対応させていただきます」と言われた。 ところが後日、東電から「裁判の結果が出ているので、お支払いできない」と告げられた。 実は、A社は2014年に、東電に約4億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしていた。同訴訟でA社の訴えは認められず、請求は棄却された(2016年9月)。これを受け、東京高裁に控訴したが、二審でもA社の訴えは棄却された(2017年6月)。 その後、A社は最高裁に上告しており、「二審判決後、さらなる証言・証拠を集めるため、行政や東電の窓口を訪ねました。上告に当たり、新たにお願いした弁護士の先生からは『東電の対応は明らかに公序良俗違反、憲法違反に当たる。一審、二審のような結果にならないと思う』と言っていただき、手応えを感じていました」(A社関係者)という。 ただ、そんな過程で、前述の交渉に臨み、その席で東電担当者が不手際を認め、「今後は適切に対応する」と明言したことから、これ以上、裁判を継続する必要はないと判断し、上告を取り下げた。 それにより、同訴訟の判決(二審判決)が確定したわけだが、前述のように、後に東電から「裁判の結果が出ているので支払えない」と告げられたのだ。以降は「弁護士に一任したので、今後はそちらを通してほしい」旨を一方的に告げられた。 東電の不誠実さ 東京電力本店  その後も、東電とは弁護士を通して書面でやり取りをしているが、交渉の席で東電担当者が「郡山市は賠償対象外地域」と説明したのは仮払いのことだった――などと回答してきた。原発事故直後、東電は避難指示区域の住民・事業者に、損害範囲を把握できていない中での緊急対応として「賠償仮払い」を行っていた。「郡山市は賠償対象外地域」と説明したのは、それには該当しないという意味だった、と。 A社関係者は憤る。 「当時、東電との交渉で、『仮払いの請求』などと言ったことは一度もない。対応したオペレーターからも『仮払い』などというフレーズは一切出ていません。東電は過去の経緯を自社に都合のいいようにすり替えているとしか思えません」 客観的に見ても、A社が賠償請求したのは原発事故発生から半年以上が経ったころで、その時すでに原子力損害賠償紛争審査会が賠償の基本スキームを定めた「中間指針」が示されていたから、「仮払い云々」の話になるはずがない。A社が「東電は〝後付け〟で辻褄を合わせようとしている」と感じるのも当然だろう。 いずれにしても、東電の対応は不誠実極まりない。確かに、判決が確定している以上、東電の言い分には道理がある。ただ、東電は「最初の段階で『郡山市は賠償対象外』と言ったのは間違いだった」と認めている(※後に「それは仮払いのことだった」とニュアンスを変えて主張しているが)。東電がそれを認めたのは裁判での審理を終えた後で、裁判中にそれが分かっていれば、途中で和解するなどの道筋もあったかもしれない。ところが、裁判が終わった後に自社の対応ミスを認め、そのことがなかったかのように、後で「判決が出ている」ことを振りかざすのは、果たして正当性があるのかといった疑問が生じる。 知事の姿勢にも問題 内堀雅雄知事  いまもA社関係者は東電と交渉(抗議)を続けているが、東電の姿勢に変化はなく、八方塞がりに陥っている状況。それと並行して、国の関係省庁や県にも要請活動を行っているが、その中で不満を募らせるのが県の対応だ。 A社は2018年に、県に対してこれまで述べてきた経緯を報告し、県から東電を指導してほしい旨を要請した。しかしその後、県からは何の連絡・報告もなかった。要請から4年超が経った昨年秋、自分たちの要請はどうなったかを確認すると、「県の担当者は2018年ごろの要請なんて分からない、といった感じでした」(A社関係者)という。 この点については、本誌でも再三指摘してきたが、内堀雅雄知事の姿勢に問題があると考える。というのは、内堀知事は原発賠償の問題解決にあまり熱心でないのだ。 県原子力損害対策協議会というものがある。県原子力損害対策課が事務局となり、県内の市町村、農林水産団体、商工団体、業界団体など205の団体で組織されている。会長には内堀雅雄知事、副会長には管野啓二JA福島五連会長(JAグループ福島東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会長)、轡田倉治県商工会連合会長、県市長会長の立谷秀清相馬市長、県町村会長の遠藤智広野町長が就いており、言うなれば「オールふくしま」の原発賠償対策協議会である。 同協議会は、毎年、構成団体員の代表者会議を開き意見を集約して、国の関係省庁と東電に要望・要求活動を行っている。 内堀知事就任後の要望・要求活動は、2015年2月4日、同年5月12、13日、同年11月26日、2016年6月13日、同年11月15日、2017年5月31日、2018年2月5日、同年11月6日、2019年11月18日、2020年12月1日、2021年6月21日、2022年4月19日、同年9月13日、同年12月2日(※国のみ)と、計14回実施している。 しかし、副会長(時のJA福島五連会長、轡田倉治福島県商工会連合会長、時の市長会長・町村会長)がそこに参加する中、協議会のトップである内堀知事が要望・要求活動に同行したことは一度もない。すべて「会長代理」の副知事が代表者になっているのだ。 この点からしても、内堀知事が原発賠償の問題解決に熱心でないことがうかがえよう。A社に対する県の対応もそこに起因するのではないか。県民を原発被害から救済することも、県(知事)としての大きな役割であることを認識してほしい。 あわせて読みたい 根本から間違っている国の帰還困難区域対応