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  • 原賠審「中間指針」改定で5項目の賠償追加!?

    原賠審「中間指針」改定で5項目の賠償追加!?

     文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年4月27日に開かれた会合で、同3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命して調査・分析を行う」との方針を決めた。  これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は、原賠審が定めた中間指針(同追補を含む)にはなかった。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。  その後、専門委員を設置・任命して確定判決の詳細分析が行われ、11月10日に専門委員から原賠審に最終報告書が提出された。その報告書は参考資料を含めて200頁以上に及ぶかなりの文量だが、ポイントになるのは、①過酷避難状況による精神的損害、②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)、③自主的避難等による精神的損害、④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害、⑤精神的損害の増額事由――の5項目で類型化が可能とされたこと。  各項目の概要は次の通り。  ①過酷避難状況による精神的損害▽避難を余儀なくされた人が、放射線に関する情報不足の中で、被曝不安と、今後の見通しが示されない不安を抱きつつ、過酷な状況下で避難を強いられたことによる精神的損害。  ②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)▽避難(その地域に人が住まなくなったこと)によって生じた故郷・生活基盤の喪失・変容に伴う精神的損害。  ③自主的避難等による精神的損害▽自主的避難等対象区域(避難指示区域外)の住民の被曝不安による精神的損害。  ④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害▽計画的避難区域の住民が相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる精神的損害  ⑤精神的損害の増額事由▽ADRセンター総括基準で類型化されている精神的損害の増額事由。  専門委員の最終報告書では、これらの類型化が可能な項目を示したうえで、「今後、中間指針の見直しを含めた対応の要否等の検討では、従来からの一貫性や継続性を重視し、現在の中間指針の構造を維持しつつ、新たに類型化された損害を取り込む努力・工夫が求められる」、「指針で類型化されたものだけが賠償すべき損害ではないことは言うまでもなく、東京電力は、被害者からの賠償請求を真摯に受け止め、合理的かつ柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応を求めたい」、「関係行政機関が一体となり、東京電力への指導監督や、ADRセンターの積極的活用など、被害者の迅速かつ適正な救済と円滑な賠償の実施に向けた取り組みとともに、賠償だけでは限界がある被災地の復興に向けた取り組みを進めることも併せて要請する」と記されている。  原賠審ではこれを踏まえて、中間指針の見直しに向けた議論に入った。今後、追補として示される見通し。中間指針の見直しの必要性は、県原子力損害対策協議会、県内市町村、県内各種団体、弁護士会、被災者支援弁護団などがずっと訴えてきたことだが、ようやく本格的に動き出した格好だ。 あわせて読みたい 【原発事故】追加賠償の全容

  • 【例年とは違った原賠審視察】中間指針改定議論は佳境へ

    【例年とは違った原賠審視察】中間指針改定議論は佳境へ

     文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年8月29、30日の2日間、県内の視察を行い、同年9月26日にそれを踏まえた会合を開いた。 原賠審は原発賠償の基本的なルールとなる中間指針(同追補を含む)を定めた文部科学省の第三者組織で、毎年、「中間指針等に基づく賠償の実施状況を確認する」ことを目的に、県内の視察を行っている。2022年は例年の目的に加え、「中間指針の見直しも含めた対応の要否の検討に当たり、被害者の意見を聴取すること」も念頭に視察を行った。 視察先は大熊町、浪江町、葛尾村の原発被災地に加え、今回は福島市も訪れた。福島市では木幡浩福島市長、品川萬里郡山市長、鈴木和夫白河市長、押山利一大玉村長、杉山純一会津美里町長らと意見交換を行った。そのほか、大熊町では広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町の住民と、浪江町では南相馬市、川俣町、浪江町、飯舘村の住民と、葛尾村では田村市、川内村、葛尾村の住民と、それぞれ意見交換を行った。 これまでの視察では、避難指示区域が中心で、福島市などの「自主的避難等対象区域」に来ることはなかった。また、避難指示区域の視察でも、首長や議長などと意見交換は行われていたが、住民と意見交換をしたことはなかった。  そういった意味では、今回の視察はこれまでとは違ったものだった。その背景にあるのは、全国各地で起こされた原発賠償集団訴訟の判決が少しずつ確定しており、中間指針(同追補を含む)の範疇を超える賠償が認められていること。 原賠審は2022年4月27日に開かれた会合で、同年3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命し、調査・分析を行う」との方針を決めた。これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は中間指針にはない。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。 こうして、中間指針の見直しが必要かどうかの議論を進めており、その過程で従来とは違った形での現地視察となったのである。 懇談会では、福島市などの「自主的避難等対象区域」からは「今回の判決で、中間指針が不十分なことが示された。中間指針の見直しを早急に進めてほしい。それが遅れること自体、さらなる精神的苦痛につながる」との意見が、避難指示区域の住民からは「地区によって復旧・復興の進み具合が違う。地区の状況を踏まえ、中間指針を見直してほしい」、「避難が長期化し、戻りたくても戻れず、精神的な被害は継続している」といった意見があった。 これらを踏まえて行われた2022年9月29日の原賠審では、確定判決の調査・分析を行っている専門委員がまとめた中間報告が示された。それによると、「ふるさと喪失に伴う精神的損害」は、中間指針では帰還困難区域を除いて十分に反映されていないこと、自主避難については、中間指針が定めた賠償期間・賠償額と、各判決の賠償期間・賠償額が異なっており、さらなる検討が必要であること等々が記されている。 原賠審では、専門委員にさらなる調査・分析を進めて最終報告をまとめてもらい、そのうえで最終的な判断を下す方針だ。 あわせて読みたい 【双葉町】2021年11月1日 原子力損害賠償紛争審査会が町内視察 原賠審「中間指針」改定で5項目の賠償追加!? 【原発事故】追加賠償の全容

  • 【原発賠償訴訟の判決確定】中間指針改定につながるか

     文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年4月27日に会合を開き、原発賠償集団訴訟で確定した7件の判決について、調査・分析を行うことを決めた。このほど、同会合の議事録が公開されたので、その席でどのような議論がなされたのかを見ていきたい。 原賠審議事録を読み解く  原賠審は原発賠償の基本的な枠組みとなる中間指針、同追補を策定した文部科学省の第三者組織である。構成委員は別表の通り。 中間指針をめぐっては、以前から「被害の長期化に伴い、中間指針で示した賠償の範疇が実態とかけ離れている」と指摘されていた。そのため、県原子力損害対策協議会(会長・内堀雅雄知事)や避難指示区域の自治体、県内経済団体などが改定を要望したり、弁護士会や集団訴訟の弁護団などがその必要性を訴えたりしていた。ところが、これまで原賠審は頑なに中間指針改定を拒否してきた経緯がある。 ただ、2022年3月までに7件の原発賠償集団訴訟で判決が確定したことや、多数の要望・声明が出されていることを受け、今後の対応が議論されることになった。 2022年4月27日に開かれた原賠審では、文部科学省原子力損害賠償対策室(原賠審事務局)から、同3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について簡単な説明があった。なお、それら集団訴訟では、いずれも東電に対して中間指針(同追補を含む)を上回る賠償が命じられている。その説明の後、原賠審事務局の担当者は「東電福島原発事故に伴う損害賠償請求の集団訴訟について、東電の損害賠償額に係る部分の判決が確定したことを踏まえ、中間指針や各追補の見直し含めた対応の要否について検討を行っていくに当たり、各判決等の内容を詳細に調査・分析する必要があると考えている。専門委員を任命し、調査・分析を行ってはどうかと、事務局としては考えている」と述べた。 これに各委員が賛意を示し、以下のような方針が決定した。 ○専門委員を任命して、確定した集団訴訟の判決7件について、①中間指針等の内容についての評価がどうなっているか、②中間指針等には示されていない類型化が可能な損害項目や賠償額の算定方法等の新しい考え方が示されているか、③係属中の後続の訴訟における損害額の認定から影響を受けるような要素を有している可能性があるか、等々の観点から調査・分析を行う。 ○調査・分析を行う専門委員の選任については、裁判官経験者や弁護士を含む法律の学識経験者から数名を選任するほか、中間指針等の策定経緯に知見のある人も選任する。このほか、調査・分析に当たり、必要に応じて原賠審委員も参画する。 原賠審委員名簿 役職 氏名肩書き会  長内田貴東京大学名誉教授、早稲田大学特命教授会長代理樫見由美子学校法人稲置学園監事、金沢大学名誉教授委  員明石眞言東京医療保健大学教授、元放射線医学総合研究所理事委  員江口とし子元裁判官委  員織朱實上智大学地球環境学研究科教授委  員鹿野菜穂子慶應義塾大学大学院法務研究科教授委  員古笛恵子弁護士委  員富田善範弁護士委  員中田裕康東京大学名誉教授、一橋大学名誉教授委  員山本和彦一橋大学大学院法学研究科教授  このほか、委員からはこんな発言もあった。 鹿野委員「中間指針は、多数の被害者に共通する損害について、賠償の考え方を示すことで、原発事故による損害賠償紛争の迅速かつ公平、適正な解決と被害回復の実現を目指したもの。したがって、今回確定した裁判所の判断の中から、中間指針に示されていない損害項目等について類型化して、賠償基準を抽出できるものがあれば取り込んでいくことが、中間指針の基本的な趣旨に合致するものと思われる。これらの判決には、例えばふるさと喪失・変容による慰謝料、避難を余儀なくされたことや、避難生活の継続を余儀なくされたことによる慰謝料などの判断も含まれ、これらをどこまで類型化して基準の抽出ができるかは、分析する必要がある。もっとも、確定した7件の判決では、その内容に違いも見られることから、分析作業では各判決の違いをどのように見るのか。その違いを超えた共通項の括りだしがどのような形で可能なのかということに、もちろん留意する必要がある。そのような点に留意しながら、ぜひ類型的な賠償基準の抽出について積極的に検討していただきたい」 樫見会長代理「今回は原告の方々が様々な主張・立証をして、慰謝料増額が認められた。これまで、中間指針の額では十分ではないと考えた被害者の方々には、原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解(ADR)を利用された方がいる。具体的な認定に基づいた賠償額を求める点で言えば、今回の検討の中に、原子力損害賠償紛争解決センターの和解事例の賠償額も検討に加えればと思う」 これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は中間指針にはない。「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見や、「集団訴訟の判決だけでなく、ADR和解事例についても検討して類型化できるものは加えるべき」といった意見が出されたのである。 中間指針見直しは必要  本来、中間指針は「最低限の賠償範囲」を定めたものだが、東電はそれを勝手に「賠償のすべて」と捉えて、中間指針にないものは賠償しないといったスタンスだったフシがある。その結果、集団訴訟やADRなどで被害回復を求めてきた経緯がある。もっとも、ADRについては、集団で申し立てたものは、東電が和解案を拒否するといった事例も目立った。 総じて言うと、これまで中間指針に基づいて支払われてきた賠償は決して十分ではなく、中間指針に示された項目以外はなかなか賠償されない状況にあったため、時間と労力をかけて集団訴訟でそれを認めさせる動きが広がったのである。当然、その間に被害救済がなされないまま亡くなった人も相当数おり、そういった事態を避けるためにも、中間指針の見直しは必要だ。それを、これまで県原子力損害対策協議会や避難指示区域の自治体、集団訴訟の弁護団などが求めてきたのだ。 現在、原賠審の専門委員では確定判決の調査・分析が行われ、夏ごろまでに中間報告がまとめられる方針だったが、本稿執筆(2022年7月25日)時点では、まだそこに至っていない。 7件の集団訴訟で判決確定したことや、多数の要望・声明が出されていることを受け、原賠審はようやく重い腰を上げた格好だが、専門委員による確定判決の調査・分析がまとまり、それを経て、中間指針の見直しの必要があるかどうかという議論に入ると思われる。そう考えると、〝決着〟までにはまだ時間がかかりそうだ。 あわせて読みたい 【例年とは違った原賠審視察】中間指針改定議論は佳境へ 原賠審「中間指針」改定で5項目の賠償追加!? 【原発事故】追加賠償の全容

  • 原賠審「中間指針」改定で5項目の賠償追加!?

     文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年4月27日に開かれた会合で、同3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命して調査・分析を行う」との方針を決めた。  これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は、原賠審が定めた中間指針(同追補を含む)にはなかった。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。  その後、専門委員を設置・任命して確定判決の詳細分析が行われ、11月10日に専門委員から原賠審に最終報告書が提出された。その報告書は参考資料を含めて200頁以上に及ぶかなりの文量だが、ポイントになるのは、①過酷避難状況による精神的損害、②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)、③自主的避難等による精神的損害、④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害、⑤精神的損害の増額事由――の5項目で類型化が可能とされたこと。  各項目の概要は次の通り。  ①過酷避難状況による精神的損害▽避難を余儀なくされた人が、放射線に関する情報不足の中で、被曝不安と、今後の見通しが示されない不安を抱きつつ、過酷な状況下で避難を強いられたことによる精神的損害。  ②故郷喪失・変容による精神的損害(生活基盤変容慰謝料)▽避難(その地域に人が住まなくなったこと)によって生じた故郷・生活基盤の喪失・変容に伴う精神的損害。  ③自主的避難等による精神的損害▽自主的避難等対象区域(避難指示区域外)の住民の被曝不安による精神的損害。  ④相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害▽計画的避難区域の住民が相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる精神的損害  ⑤精神的損害の増額事由▽ADRセンター総括基準で類型化されている精神的損害の増額事由。  専門委員の最終報告書では、これらの類型化が可能な項目を示したうえで、「今後、中間指針の見直しを含めた対応の要否等の検討では、従来からの一貫性や継続性を重視し、現在の中間指針の構造を維持しつつ、新たに類型化された損害を取り込む努力・工夫が求められる」、「指針で類型化されたものだけが賠償すべき損害ではないことは言うまでもなく、東京電力は、被害者からの賠償請求を真摯に受け止め、合理的かつ柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応を求めたい」、「関係行政機関が一体となり、東京電力への指導監督や、ADRセンターの積極的活用など、被害者の迅速かつ適正な救済と円滑な賠償の実施に向けた取り組みとともに、賠償だけでは限界がある被災地の復興に向けた取り組みを進めることも併せて要請する」と記されている。  原賠審ではこれを踏まえて、中間指針の見直しに向けた議論に入った。今後、追補として示される見通し。中間指針の見直しの必要性は、県原子力損害対策協議会、県内市町村、県内各種団体、弁護士会、被災者支援弁護団などがずっと訴えてきたことだが、ようやく本格的に動き出した格好だ。 あわせて読みたい 【原発事故】追加賠償の全容

  • 【例年とは違った原賠審視察】中間指針改定議論は佳境へ

     文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年8月29、30日の2日間、県内の視察を行い、同年9月26日にそれを踏まえた会合を開いた。 原賠審は原発賠償の基本的なルールとなる中間指針(同追補を含む)を定めた文部科学省の第三者組織で、毎年、「中間指針等に基づく賠償の実施状況を確認する」ことを目的に、県内の視察を行っている。2022年は例年の目的に加え、「中間指針の見直しも含めた対応の要否の検討に当たり、被害者の意見を聴取すること」も念頭に視察を行った。 視察先は大熊町、浪江町、葛尾村の原発被災地に加え、今回は福島市も訪れた。福島市では木幡浩福島市長、品川萬里郡山市長、鈴木和夫白河市長、押山利一大玉村長、杉山純一会津美里町長らと意見交換を行った。そのほか、大熊町では広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町の住民と、浪江町では南相馬市、川俣町、浪江町、飯舘村の住民と、葛尾村では田村市、川内村、葛尾村の住民と、それぞれ意見交換を行った。 これまでの視察では、避難指示区域が中心で、福島市などの「自主的避難等対象区域」に来ることはなかった。また、避難指示区域の視察でも、首長や議長などと意見交換は行われていたが、住民と意見交換をしたことはなかった。  そういった意味では、今回の視察はこれまでとは違ったものだった。その背景にあるのは、全国各地で起こされた原発賠償集団訴訟の判決が少しずつ確定しており、中間指針(同追補を含む)の範疇を超える賠償が認められていること。 原賠審は2022年4月27日に開かれた会合で、同年3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命し、調査・分析を行う」との方針を決めた。これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は中間指針にはない。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。 こうして、中間指針の見直しが必要かどうかの議論を進めており、その過程で従来とは違った形での現地視察となったのである。 懇談会では、福島市などの「自主的避難等対象区域」からは「今回の判決で、中間指針が不十分なことが示された。中間指針の見直しを早急に進めてほしい。それが遅れること自体、さらなる精神的苦痛につながる」との意見が、避難指示区域の住民からは「地区によって復旧・復興の進み具合が違う。地区の状況を踏まえ、中間指針を見直してほしい」、「避難が長期化し、戻りたくても戻れず、精神的な被害は継続している」といった意見があった。 これらを踏まえて行われた2022年9月29日の原賠審では、確定判決の調査・分析を行っている専門委員がまとめた中間報告が示された。それによると、「ふるさと喪失に伴う精神的損害」は、中間指針では帰還困難区域を除いて十分に反映されていないこと、自主避難については、中間指針が定めた賠償期間・賠償額と、各判決の賠償期間・賠償額が異なっており、さらなる検討が必要であること等々が記されている。 原賠審では、専門委員にさらなる調査・分析を進めて最終報告をまとめてもらい、そのうえで最終的な判断を下す方針だ。 あわせて読みたい 【双葉町】2021年11月1日 原子力損害賠償紛争審査会が町内視察 原賠審「中間指針」改定で5項目の賠償追加!? 【原発事故】追加賠償の全容

  • 【原発賠償訴訟の判決確定】中間指針改定につながるか

     文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年4月27日に会合を開き、原発賠償集団訴訟で確定した7件の判決について、調査・分析を行うことを決めた。このほど、同会合の議事録が公開されたので、その席でどのような議論がなされたのかを見ていきたい。 原賠審議事録を読み解く  原賠審は原発賠償の基本的な枠組みとなる中間指針、同追補を策定した文部科学省の第三者組織である。構成委員は別表の通り。 中間指針をめぐっては、以前から「被害の長期化に伴い、中間指針で示した賠償の範疇が実態とかけ離れている」と指摘されていた。そのため、県原子力損害対策協議会(会長・内堀雅雄知事)や避難指示区域の自治体、県内経済団体などが改定を要望したり、弁護士会や集団訴訟の弁護団などがその必要性を訴えたりしていた。ところが、これまで原賠審は頑なに中間指針改定を拒否してきた経緯がある。 ただ、2022年3月までに7件の原発賠償集団訴訟で判決が確定したことや、多数の要望・声明が出されていることを受け、今後の対応が議論されることになった。 2022年4月27日に開かれた原賠審では、文部科学省原子力損害賠償対策室(原賠審事務局)から、同3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について簡単な説明があった。なお、それら集団訴訟では、いずれも東電に対して中間指針(同追補を含む)を上回る賠償が命じられている。その説明の後、原賠審事務局の担当者は「東電福島原発事故に伴う損害賠償請求の集団訴訟について、東電の損害賠償額に係る部分の判決が確定したことを踏まえ、中間指針や各追補の見直し含めた対応の要否について検討を行っていくに当たり、各判決等の内容を詳細に調査・分析する必要があると考えている。専門委員を任命し、調査・分析を行ってはどうかと、事務局としては考えている」と述べた。 これに各委員が賛意を示し、以下のような方針が決定した。 ○専門委員を任命して、確定した集団訴訟の判決7件について、①中間指針等の内容についての評価がどうなっているか、②中間指針等には示されていない類型化が可能な損害項目や賠償額の算定方法等の新しい考え方が示されているか、③係属中の後続の訴訟における損害額の認定から影響を受けるような要素を有している可能性があるか、等々の観点から調査・分析を行う。 ○調査・分析を行う専門委員の選任については、裁判官経験者や弁護士を含む法律の学識経験者から数名を選任するほか、中間指針等の策定経緯に知見のある人も選任する。このほか、調査・分析に当たり、必要に応じて原賠審委員も参画する。 原賠審委員名簿 役職 氏名肩書き会  長内田貴東京大学名誉教授、早稲田大学特命教授会長代理樫見由美子学校法人稲置学園監事、金沢大学名誉教授委  員明石眞言東京医療保健大学教授、元放射線医学総合研究所理事委  員江口とし子元裁判官委  員織朱實上智大学地球環境学研究科教授委  員鹿野菜穂子慶應義塾大学大学院法務研究科教授委  員古笛恵子弁護士委  員富田善範弁護士委  員中田裕康東京大学名誉教授、一橋大学名誉教授委  員山本和彦一橋大学大学院法学研究科教授  このほか、委員からはこんな発言もあった。 鹿野委員「中間指針は、多数の被害者に共通する損害について、賠償の考え方を示すことで、原発事故による損害賠償紛争の迅速かつ公平、適正な解決と被害回復の実現を目指したもの。したがって、今回確定した裁判所の判断の中から、中間指針に示されていない損害項目等について類型化して、賠償基準を抽出できるものがあれば取り込んでいくことが、中間指針の基本的な趣旨に合致するものと思われる。これらの判決には、例えばふるさと喪失・変容による慰謝料、避難を余儀なくされたことや、避難生活の継続を余儀なくされたことによる慰謝料などの判断も含まれ、これらをどこまで類型化して基準の抽出ができるかは、分析する必要がある。もっとも、確定した7件の判決では、その内容に違いも見られることから、分析作業では各判決の違いをどのように見るのか。その違いを超えた共通項の括りだしがどのような形で可能なのかということに、もちろん留意する必要がある。そのような点に留意しながら、ぜひ類型的な賠償基準の抽出について積極的に検討していただきたい」 樫見会長代理「今回は原告の方々が様々な主張・立証をして、慰謝料増額が認められた。これまで、中間指針の額では十分ではないと考えた被害者の方々には、原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解(ADR)を利用された方がいる。具体的な認定に基づいた賠償額を求める点で言えば、今回の検討の中に、原子力損害賠償紛争解決センターの和解事例の賠償額も検討に加えればと思う」 これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は中間指針にはない。「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見や、「集団訴訟の判決だけでなく、ADR和解事例についても検討して類型化できるものは加えるべき」といった意見が出されたのである。 中間指針見直しは必要  本来、中間指針は「最低限の賠償範囲」を定めたものだが、東電はそれを勝手に「賠償のすべて」と捉えて、中間指針にないものは賠償しないといったスタンスだったフシがある。その結果、集団訴訟やADRなどで被害回復を求めてきた経緯がある。もっとも、ADRについては、集団で申し立てたものは、東電が和解案を拒否するといった事例も目立った。 総じて言うと、これまで中間指針に基づいて支払われてきた賠償は決して十分ではなく、中間指針に示された項目以外はなかなか賠償されない状況にあったため、時間と労力をかけて集団訴訟でそれを認めさせる動きが広がったのである。当然、その間に被害救済がなされないまま亡くなった人も相当数おり、そういった事態を避けるためにも、中間指針の見直しは必要だ。それを、これまで県原子力損害対策協議会や避難指示区域の自治体、集団訴訟の弁護団などが求めてきたのだ。 現在、原賠審の専門委員では確定判決の調査・分析が行われ、夏ごろまでに中間報告がまとめられる方針だったが、本稿執筆(2022年7月25日)時点では、まだそこに至っていない。 7件の集団訴訟で判決確定したことや、多数の要望・声明が出されていることを受け、原賠審はようやく重い腰を上げた格好だが、専門委員による確定判決の調査・分析がまとまり、それを経て、中間指針の見直しの必要があるかどうかという議論に入ると思われる。そう考えると、〝決着〟までにはまだ時間がかかりそうだ。 あわせて読みたい 【例年とは違った原賠審視察】中間指針改定議論は佳境へ 原賠審「中間指針」改定で5項目の賠償追加!? 【原発事故】追加賠償の全容