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安藤ハザマ

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

    【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠【百条委員会】

    白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身