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  • 楢葉町土地改良区で横領した【秋田金足農野球部OB】の町職員

    【秋田金足農野球部OB】楢葉町土地改良区で横領した町職員

     楢葉町職員(当時)が会計業務を請け負っていた2団体から計約3800万円を横領した事件の裁判が福島地裁いわき支部で行われている。罪に問われているのは一部の犯行に過ぎず、民事裁判で命じられた町や土地改良区への賠償金約4100万円は未払い。元職員は秋田県の強豪野球部出身で、被災地の復興に寄与したいと浜通りに移住した。信頼を裏切った代償は重い。 横領額3800万円 2年見過ごした杜撰な監査 職員の不祥事が相次いでいる楢葉町役場  業務上横領罪に問われているのは楢葉町産業振興課で主任技査を務めていたアルバイト従業員の遠藤国士被告(47)=秋田県井川町出身・在住。2019年4月に社会人枠で採用され、楢葉町土地改良区と、農地管理などを担う地元農家による任意団体「町多面的機能広域保全会」の事務局を任せられていた。両団体の事務は代々同課職員が行ってきた。  土地改良区の業務は主に農業用水を流す灌漑設備や水門の修繕管理で、農家など土地所有者が会員となり、理事もそこから選ばれる。事業は公益性が高く、補助金も支給されるため、資金は公金だ。楢葉町土地改良区の場合、松本幸英町長が理事長を務め、地元農家が理事、町監査委員が監事に就いている。  2団体からの横領総額は約3800万円、罪に問われているのは土地改良区絡みの横領だけだ。起訴状によると、2019年8月から翌20年3月にかけて複数回にわたり土地改良区の口座から現金を引き落とし計約670万円を横領した。今後追起訴があり、立証される横領額はさらに増える。  警察が遠藤氏の口座を調べたところ、原資不明の3700万円の入金があったというから、かすめた金の大部分は自身の口座に入れていたことがうかがえる。主にギャンブル、借金返済、生活費に使ったという。  発覚したのは横領を始めてから2年経った2021年8月だった。9月定例会に提出する補正予算案を作成する際、同土地改良区の会計資料が必要になり、上司の産業振興課長が遠藤氏に提示を求めたが、遠藤氏は突然体調不良を訴えて休暇に入り音信が途絶えた。遠藤氏は弁護士を通じて同8月23日に町に横領を認めた後、双葉署に出頭した。町が同9月8日に遠藤氏を懲戒免職した上で事件を公表し刑事告発。発覚から2年経った今年8月、同土地改良区から523万円を横領した容疑で逮捕された。  この間、町と同土地改良区は損害賠償を求めて福島地裁いわき支部に提訴していた。遠藤氏は出廷せず反論もしなかったため、2022年3月に約4100万円の賠償命令が下った。だが、支払いはなく回収できていない。この時、遠藤氏は逮捕されていなかったとはいえ、今後刑事裁判に掛けられることは明らかで、先行した民事裁判での答弁が影響することを考えたのだろう。  今年11月20日に地裁いわき支部で業務上横領罪の初公判が行われた。法廷に現れた遠藤氏は連行する警察官2人よりも長身で、体格が良い。髪は切り揃え、眼鏡をかけており聡明な印象だった。遠藤氏とはどのような人物なのか。  遠藤氏と数年前に仕事をしたことがあるという知人男性によると、秋田県の強豪、金足農業高校野球部でレギュラーを務め、卒業後に同県内の土地改良区に勤務、東日本大震災直後に宮城県で農地調査の応援に入ったという。その後、復興庁に転職し、浪江町に出向。妻子を引き連れ移住した。2018年に母校が夏の甲子園で決勝進出を決めた際には地元2紙の取材を受けており、テレビで試合中継を見ながら涙を浮かべていた。  知人男性によると、  「横領には驚きません。浪江町役場で何度か話したことがあるが、横柄な態度が鼻に付き、派手な様子でした。行動範囲が広く、生活にお金が掛かっている感じでした。秋田から決意を持って浪江に復興支援に来たはずなのに、2年もしないうちに楢葉町役場に転職し、信念がないとも映った。借金もあったというから資金ショートしていたのでしょう。ギャンブル依存症を疑います」  町民の間では、3800万円をギャンブルで使い果たすのは信じ難いと「町の裏金になっていたのではないか」という憶測が広がっていた。本誌既報の通り、楢葉町では職員による不祥事が相次ぎ、町民の不信感が強まっているため、まことしやかに語られた。  横領発覚の翌年22年には、建設課の元職員が指名業者に設計価格を漏洩したとして官製談合防止法違反などで逮捕され有罪。町は同4月に不祥事再発防止に関する第三者委員会を設置したが、わずか1週間後に政策企画課職員が無免許運転で逮捕。同12月には建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作し、計127万円の家賃支払いを免れたとして懲戒免職となった。わずか2年間で100人ほどの職員のうち4人が不祥事を起こす異常事態となり、町長や管理職はその度に減給するなどの責任を取っている。  遠藤氏の裁判では、横領金の使途は主にギャンブルと明かされたため「町の裏金説」の信憑性は低い。今後はのめり込んでいたギャンブルの種類や借金の額、生活費の詳細が本人への質問で判明するだろう。 「公務員なら間違いない」とハンコ  横領の直接的な原因は、遠藤氏が自己資金で賄いきれないほどギャンブルにのめり込んでいたことだ。だが、不正会計を発見できなかった同土地改良区役員にも被害を拡大させた責任がある。  同土地改良区では年に1回、監事が監査を行っている。裁判では、ある町職員が警察の取り調べに「土地改良区の監査を担当していた監事は『遠藤氏ら公務員が間違いないと言っているので問題ないと思い押印署名した』と釈明していた」と証言していたことが明かされた。役員名簿を見ると監事は2人いるが、それでも見過ごすとは、細かいことは全て事務職員にお任せする「ザル監査」だったのだろう。  さらに遠藤氏の前任者によると、土地改良区の口座から引き落とす際には役員の決裁が必要だが、事後決裁のみで済んだという。会計管理は代々町職員が1人で担っており、それらを付け込まれた同土地改良区=町は2年に渡り、遠藤氏に公金をかすめ取られ続けることになった。  そもそも同土地改良区は震災・原発事故前から解散が検討されており、活動は活発でなかったという。  「原発被災地の土地改良区は理事や総代(会員)のなり手不足に悩んでおり、関心も低いのでチェック機能が働かない。その割に、原発賠償や農業復興という名目で補助金が潤沢に入ってくる。横領事件の背景にはそのギャップがある」(土地改良区事情に詳しい男性)  遠藤氏は原発被災地に移住後、「後輩の活躍を誇りに、浪江の復興に力を尽くしたい」(福島民報2018年8月20日付)と誓っている。だが、1年も経たずに悪事に手を染め、誓いは破られた。  第2回公判は12月25日午後1時半から地裁いわき支部で開かれる。他の横領金について新たに起訴状が提出される予定だ。

  • 【楢葉町】松本幸英町長インタビュー

    【楢葉町】松本幸英町長インタビュー

    まつもと・ゆきえい 1960年12月生まれ。県立四倉高卒。1997年から楢葉町議4期、その間議長を2期務める。2012年4月の町長選で初当選を果たし、現在3期目。  ――移住・定住施策のため、昨年、相談窓口機能を備えたコドウがオープンしました。 「コドウの昨年度の移住相談実績は80件で、そのうち15名が移住に結び付きました。移住相談窓口以外にも大学生のフィールドワークの対応や、町内で新しいことをはじめたい方をサポートするスタートアップ支援も行っています。また、移住者の数だけを重視するのではなく、移住してきた方が、例えば起業して新たなサービス等を提供することによって住民の利便性が向上するなど、満足度の高い町になることが移住定住事業の重要なポイントだと考えています。そのために町としては今後、地域の担い手となる方や地域課題を捉え、起業を考える方をはじめ、多くの方に少しでもまちを知っていただくため、まずはぜひ足を運んでいただきたいと考えています」 ――農業の6次化に取り組んでいます。 「これまで農業再生について効率化・省力化に向けた担い手への農業集積や基盤整備、サツマイモの産地化など、特色ある新しい農業モデルに取り組んできました。新たなチャレンジとして地元農産物を活用した付加価値の高い特産品開発、商品化を進め、生産から処理、加工、さらには販売や販路へと一体的な流れを構築する6次産業化の第一歩として『楢葉町特産品開発センター』が4月に落成しました。この施設では主に甘藷・柚子・米を活用した加工品の開発や製造を行い、そのほかの町内産の農産物も幅広く活用しながら生産農家の経営安定を目指していきたいと考えています」 ――今後の抱負。 「震災から12年が過ぎ、ハード面の整備からソフト事業への移行が重要となる今『笑顔とチャレンジがあふれるまち ならは』の実現のための事業として、昨年オープンしたコドウやまかない付きシェアハウスでの事業に加え、新たに地域住民との交流拠点『まざらっせ』もオープンしました。これらを活用し、移住者と震災前から住む町民が互いに手を携え交流人口の拡大を図りつつ、さらに新しいステージへ邁進していきます。 役場機能についても、今年度から住民サービス向上のため、窓口業務一元化として町民税務課を設置しました。また、新規企業誘致や安定的な雇用の確保に注力し、観光資源の活用も今まで以上に進めるべく、産業創生課を設置して組織強化を図っています。さらにはDX推進体制の整備・強化を目指し、政策企画課内にDX推進室を設置しました。私たちが目指すのは、最終的には町民の幸せな暮らしの実現です。このことを肝に銘じて全職員心を一つに今後も精進してまいります」

  • 〝不祥事連続〟楢葉町で行われていた「職員カンパ」

    【不祥事連続】楢葉町で行われていた「職員カンパ」

     楢葉町議会3月定例会の一般質問で、同町職員の不祥事が相次いでいる件についての質問が行われた。 2021年9月には、産業振興課職員が、会計業務を担当していた楢葉町土地改良区と楢葉町多面的機能広域活動保全会の通帳から、約3800万円を横領していたことが発覚した(※)。 昨年2月には、建設課職員が複数の指名競争入札で指名業者名や設計価格を漏洩したとして、公契約関係競売入札妨害及び官製談合防止法違反の容疑で逮捕、起訴された。 昨年4月には、政策企画課職員が退庁後、道路交通法違反(無免許運転)で現行犯逮捕された。 町では昨年9月、再発防止に向けた「職員・組織改善計画」を策定した。だが、同12月には、建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作し、自分宅の家賃納付約127万円を免れていたことが発覚。もはや手の打ちようがない状況となっている。 3月定例会で注目されたのは、再発防止策と併せて、町議やマスコミに送付された「通報書」の真偽だった。前述・家賃管理システム不正操作について、「町が令和3年から隠蔽している」とする匿名の通報書が出回っていた(本誌2月号参照)。そのため、松本明平町議(1期)、結城政重町議(8期)が「通報書の内容は事実なのか」と追及した。 町執行部は「町役場には届いていないが、町議から見せてもらい中身は確認した。家賃管理システム不正操作に関しては、昨年12月に初めて分かったもので隠蔽していた事実はない。監査でも分からなかった」と答弁し、通報書の内容をあらためて否定した。そのうえで、「チェック体制を含め、不祥事が起きにくい仕組み作りを進めていく」と述べた。 差出人はあえて事実でない内容を記したのか、それとも町の方が事実を伏せているのか。いずれにしても、これだけ職員不祥事が連続し、こうした通報書が出されるのは異常だ。そのことを重く受け止め、職員の意識改革など具体的な対策を打ち出し、講じていく必要があろう。 気になるのは、同町役場の〝体質〟だ。町総務課への取材や町議会での過去のやり取りによると、2021年9月の公金横領の後には、町職員がカンパを集めていたという。 土地改良区などが元職員への訴訟を提起することになったのに加え、各種支払いもあったため、資金不足に陥った。そうした中、係長レベルの職員が中心となって、「会計業務を引き継いだのは同じ町職員。助け合おう」と呼びかけ、土地改良区などへのカンパを募った。1人約1万円を支払い、総額100万円になったようだ。 町総務課の担当者は「横領した元職員を支援する狙いは一切ない。横領された金額の穴埋めではなく、あくまで助け合い」と強調したが、職員不祥事の〝後始末〟を同僚の負担で行うのは疑問が残る。 町内の事情通はこう指摘する。 「不祥事の責任を取るべきは、町長であり、土地改良区理事長でもある松本幸英氏のはず。〝善意のカンパ〟で対応すれば責任の所在があいまいになるので、役場が止めるべきだったと思います。昨年12月の家賃管理システム不正操作については、町長は減給対象にすらなっていない。こうした責任をとらない体質が、役場内に〝ぬるま湯〟の空気を生み出しているのではないか」 本誌2月号記事では、神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏が「倫理教育を徹底し、不正行為に手を染めれば、その後の人生がどうなるのか、はっきり示すことが職員不祥事の再発防止において重要」と話していた。松本町長は職員不祥事の連鎖を断ち切ることができるのか、今後の対応が注目される。 ※元職員はその後、町と土地改良区から民事・刑事で訴えられ、土地改良区に4157万4684円(遅延損害金含む)、町に30万1309円の支払いを命じる判決が下された。ただ、未だに支払いは行われておらず、町は弁護士と対応を協議している。 あわせて読みたい 楢葉町で3年連続職員不祥事

  • 〝不祥事連続〟楢葉町で行われていた「職員カンパ」

    楢葉町で3年連続職員不祥事

     楢葉町で3年連続となる職員不祥事が発生した。建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作して、自宅分の家賃納付約127万円分を免れていた。町では昨年9月、不祥事再発防止に向けた改善計画を策定したが、未だ体質を変えるまでには至っていないようだ。 不正操作をしていた建設課の男性主査  町によると、不正操作をしていたのは建設課の男性主査(29)。災害公営住宅など町営住宅の家賃徴収を担当しており、自らも災害公営住宅に住んでいた。 家賃の納付は振り込みや納付書による納付、生活保護による納付などに分かれているうえ、滞納、残高不足による支払い遅延なども頻繁に起こる。そのため、専用のシステムで情報を管理し、入金が確認された人の名前をチェックしている。他市町村でも使われているシステムだ。 この男性主査はそのシステムを悪用し、毎月自分のところにチェックを入れて、家賃を払っているように装い続けていた。未納付分は2020年11月から22年11月までの2年分、計127万6000円に上る。 家賃徴収には正担当と副担当がいて、滞納者のチェックなどは2人で行っていた。だが、実際の入出金は町全体の財務会計システムで管理されている。それを基に一人ひとりの納付金額まで照らし合わせていたわけではなかった。 男性主査は数年前に正担当になり、今年度から別の仕事を兼務しつつ、副担当として新たな正担当への業務引き継ぎ・サポートを行っていた。 昨年12月7日、新担当がチェックを進めるうえで不審に思い、翌8日、男性主査に直接確認したところ、自ら不正を認めた。町の調べに対し「別の支払いがあったため」と語っていたという。 正担当から外れたのに平然と未納を続けていたのは、「どうせばれないだろう」という自信があったのか。あるいは「いつばれるのか」と恐れていたのか。 町は昨年12月27日、男性主査を懲戒免職処分とし、建設課長など管理監督責任のある職員を減給や戒告処分とした。なお未納分の家賃はすでに全額納付済み。すぐに発表せず、20日近く経って発表となった理由は「いろいろ準備していたから」(総務課長)だという。 ある町内在住の女性は「何とか災害公営住宅の家賃を払っている世帯もある中で、自分だけ平然と未納を続けていたことが許せない」と憤る。 年配男性は「これで楢葉町では3年連続、4回目の職員不祥事が起きたことになる。いったいどうなっているのか」と嘆く。 2021年9月には、産業振興課職員が楢葉町土地改良区と楢葉町多面的機能広域活動保全会の通帳から約3800万円の公金を横領していたことが発覚した(本誌2021年10月号参照)。職員は懲戒免職処分となり、同年12月に告訴(土地改良区)・告発(町・土地改良区)された。町総務課によると、現在も捜査が続いているようだ。 昨年2月には、町と土地改良区が連名で、元職員への損害賠償を求める訴訟を提起。同年4月、土地改良区に4157万4648円(遅延損害金等含む)、町に30万1309円(同)の支払いを命じる判決が下された。元職員は口頭弁論期日に出頭せず、答弁書の請求原因に対する認否の記載もなかったため、請求原因事実について争う意思を示さず、自白したものとみなされた。ただ、「未だに弁済は行われていない」(町総務課長)という。 昨年2月には、建設課職員が複数の指名競争入札で、指名業者名や設計価格を指名業者に漏洩していたとして、公契約関係競売入札妨害及び官製談合防止法違反の容疑で逮捕、起訴された(本誌昨年3月号参照)。この元職員も懲戒免職処分となり、同年6月の刑事裁判で懲役2年執行猶予4年の有罪判決が下された。 昨年4月には、政策企画課職員が退庁後、国道6号を走行中に無免許運転で現行犯逮捕された。交通取り締まりの警察官に運転免許証を提示したところ、免許が失効していた。2~3月ごろに失効の事実に気付いていたにもかかわらず、公用車、私用車を平然と運転し続けていたというから呆れる。 もはや打つ手なし!?  町は相次ぐ不祥事を受け、職員不祥事の再発防止に関する第三者委員会を設置。同委員会の報告書をもとに、昨年9月、再発防止に向けた「職員・組織改善計画」を策定。「意識・制度・組織を変える」という方針を掲げ、全職員に内容を周知していた。 それからわずか3カ月後の不祥事。松本幸英町長はホームページ上に「またも町民の皆様の信頼を大きく失墜させる事態が発生したことに対しまして、深くお詫び申し上げます。あらためまして、この事実を重く受け止め、これ以上不祥事が起こらないように、一層の綱紀粛正の徹底を図ってまいるほか道はないと考えております」とコメントを掲載した。 松本幸英町長  猪狩充弘総務課長は「職員・組織改善計画でチェック体制などを強化したが、今回の家賃未納付はその前から始まっていた。そこまでチェックできなかった」と語る。改善計画を立ててもすぐ不祥事が起き、打つ手なしといったところだろう。 町内を駆け巡った「内部告発文書」  同町に関しては、本誌宛てに「通報書」と題した匿名投書が寄せられていた。消印は12月18日付。同町の不正行為が隠蔽されていることを明かす内容で、今回発覚した不祥事についても記されていた。 《楢葉町現職員の公金管理システム不当捜査による粉飾事案 令和3年から隠蔽 当時建設課で公営住宅の家賃管理を担当していた職員が、自ら入居していた住宅家賃を支払ったかのようにシステムを不正に操作し粉飾した不正行為について、いまだに隠蔽し続け、本日現在も公表していない》(「通報書」より引用) 前述した通り、この件を町が公表したのは昨年12月27日。文書の作成日は12月14日付となっており、本誌にはその数日後に郵便で届いた。他のマスコミや町議などにも送付され、町役場も確認しているようだ。 不正行為の情報をキャッチし、公表されていないことを不審に思った役場関係者が送付したのだろう。内部の人間が不祥事隠蔽を疑い、内部告発文書を外部に送付する事態にまでなっているということだ。 ちなみに同文書には「こども園で保護者からの預かり金を管理していた職員が横領していた事実を隠蔽。問題が公になる前に依願退職として処理した」とも書かれていた。ただ、猪狩総務課長に確認したところ、「確かに依願退職した職員はいるが、そもそも保護者からの預り金を管理する業務は存在しない。業界団体の会計処理を手伝うこともあったようだが、監査を受け適正に処理されている」と疑惑を明確に否定した。 同文書には「本通報は責任者(※編集部注・松本町長のこと)及び組織の本質が変わらない限り、他の違反行為等に関し継続する」と書かれており、今後も内部告発を続けることを示唆している。 専門家に聞く再発防止策  さて楢葉町に限らず、県内では自治体職員のカネをめぐる不祥事が相次いでいる。 本誌12月号では会津若松市職員が約1億7700万円を詐取していた事件についてリポートした。 1月14日には古殿町の40代男性職員が、事業を委託する2団体の口座から133万6745円を横領したとして、1月6日付で懲戒免職処分になったことが発表された。関係職員も減給処分となり、岡部光徳町長ら特別職3人の給与を3カ月間、10%減額する条例案が町議会臨時会で可決された。町は、人事院の懲戒処分の公表指針に基づく判断として、職員の所属や氏名を公表していない。 地元紙報道によると、団体の関係者からの相談で発覚。職員は団体を支援する業務で、通帳を管理する立場だった。上司もいたが、「ダブルチェックができていなかった」(木村穣副町長)。横領した金は全額弁済済みで、町は今後の対応を弁護士と相談している。 なぜここに来てこうした不祥事が目立つのか。民間企業で経理を務めた経験があり、自治体や企業の内部事情に詳しい神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏はこう語る。 「まず民間企業でも横領などは起きているが、大抵の場合、依願退職扱いにして、退職金を弁済に充てる形で内々に済ませる。自治体の場合、そうはいかないから目立ってしまう。コロナ禍以降は国や県からさまざまな補助金が入っており、膨大な件数の事務作業をこなさなければならないため、チェック体制も甘くなっている。そうした中で、『不正をやってもバレないのではないか』と考える人が出ているのでしょう」 原発被災地で関連の補助金を多く取り扱う楢葉町は、なおさらそう考えやすい環境なのかもしれない。 中村氏が「横領などが起こる背景を考えるうえで非常に参考になる」と語るのは、前出・会津若松市の公金詐取事件に関する記者会見資料(同市ホームページで公開中)だ。 「公金詐取していた職員は管理システムの盲点を悪用し、不正な操作を繰り返した。チェックする副担当には入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充て、ばれにくい体制を構築した。パソコン関連の仕事を詳しい人間に任せ、ろくにチェックもしていない自治体・民間企業の管理職は読んでゾッとするのではないか。同市もよくここまで内情を書いたと思います。かつて在籍していた民間企業の経理部門では『不正は10万円までに見つけろ』と言われていました。それ以上の金額になると感覚が麻痺して横領額が膨れ上がる。もう少し早く異変に気付けていれば、約1億7700万円も詐取されることはなかったでしょう」 このほか、市町村職員の高くない給与(借金・ローンの有無)、長時間労働を看過する職場環境も横領の遠因になると中村氏は指摘する。 肝心の再発防止策については、次のように話す。 「会津若松市の元職員は市の調査に『(不正が)できるからやった』、『不正はやる気になればできる』と話した。正直、経理の仕事はそう感じるときがあるが、それでもほとんどの人はルールを守ってやっている。チェック機能の強化はもちろんですが、最も重要なのは倫理教育でしょう。また、穏便に済ませるのではなく、『不正をやった場合どうなるか』もしっかり示し、抑止力が働くようにしなければなりません」 穏便に対応すればまた不祥事が発生する、と。 楢葉町においては第三者委員会による報告書を受け、改善を図っていた直後だけに、この言葉を重く受け止める必要があろう。 職員の意識改革はもちろん、議会、さらには住民が厳しい目で行政を監視し、再発防止を図っていくことが重要になる。 あわせて読みたい 【不祥事連続】楢葉町で行われていた「職員カンパ」

  • 【秋田金足農野球部OB】楢葉町土地改良区で横領した町職員

     楢葉町職員(当時)が会計業務を請け負っていた2団体から計約3800万円を横領した事件の裁判が福島地裁いわき支部で行われている。罪に問われているのは一部の犯行に過ぎず、民事裁判で命じられた町や土地改良区への賠償金約4100万円は未払い。元職員は秋田県の強豪野球部出身で、被災地の復興に寄与したいと浜通りに移住した。信頼を裏切った代償は重い。 横領額3800万円 2年見過ごした杜撰な監査 職員の不祥事が相次いでいる楢葉町役場  業務上横領罪に問われているのは楢葉町産業振興課で主任技査を務めていたアルバイト従業員の遠藤国士被告(47)=秋田県井川町出身・在住。2019年4月に社会人枠で採用され、楢葉町土地改良区と、農地管理などを担う地元農家による任意団体「町多面的機能広域保全会」の事務局を任せられていた。両団体の事務は代々同課職員が行ってきた。  土地改良区の業務は主に農業用水を流す灌漑設備や水門の修繕管理で、農家など土地所有者が会員となり、理事もそこから選ばれる。事業は公益性が高く、補助金も支給されるため、資金は公金だ。楢葉町土地改良区の場合、松本幸英町長が理事長を務め、地元農家が理事、町監査委員が監事に就いている。  2団体からの横領総額は約3800万円、罪に問われているのは土地改良区絡みの横領だけだ。起訴状によると、2019年8月から翌20年3月にかけて複数回にわたり土地改良区の口座から現金を引き落とし計約670万円を横領した。今後追起訴があり、立証される横領額はさらに増える。  警察が遠藤氏の口座を調べたところ、原資不明の3700万円の入金があったというから、かすめた金の大部分は自身の口座に入れていたことがうかがえる。主にギャンブル、借金返済、生活費に使ったという。  発覚したのは横領を始めてから2年経った2021年8月だった。9月定例会に提出する補正予算案を作成する際、同土地改良区の会計資料が必要になり、上司の産業振興課長が遠藤氏に提示を求めたが、遠藤氏は突然体調不良を訴えて休暇に入り音信が途絶えた。遠藤氏は弁護士を通じて同8月23日に町に横領を認めた後、双葉署に出頭した。町が同9月8日に遠藤氏を懲戒免職した上で事件を公表し刑事告発。発覚から2年経った今年8月、同土地改良区から523万円を横領した容疑で逮捕された。  この間、町と同土地改良区は損害賠償を求めて福島地裁いわき支部に提訴していた。遠藤氏は出廷せず反論もしなかったため、2022年3月に約4100万円の賠償命令が下った。だが、支払いはなく回収できていない。この時、遠藤氏は逮捕されていなかったとはいえ、今後刑事裁判に掛けられることは明らかで、先行した民事裁判での答弁が影響することを考えたのだろう。  今年11月20日に地裁いわき支部で業務上横領罪の初公判が行われた。法廷に現れた遠藤氏は連行する警察官2人よりも長身で、体格が良い。髪は切り揃え、眼鏡をかけており聡明な印象だった。遠藤氏とはどのような人物なのか。  遠藤氏と数年前に仕事をしたことがあるという知人男性によると、秋田県の強豪、金足農業高校野球部でレギュラーを務め、卒業後に同県内の土地改良区に勤務、東日本大震災直後に宮城県で農地調査の応援に入ったという。その後、復興庁に転職し、浪江町に出向。妻子を引き連れ移住した。2018年に母校が夏の甲子園で決勝進出を決めた際には地元2紙の取材を受けており、テレビで試合中継を見ながら涙を浮かべていた。  知人男性によると、  「横領には驚きません。浪江町役場で何度か話したことがあるが、横柄な態度が鼻に付き、派手な様子でした。行動範囲が広く、生活にお金が掛かっている感じでした。秋田から決意を持って浪江に復興支援に来たはずなのに、2年もしないうちに楢葉町役場に転職し、信念がないとも映った。借金もあったというから資金ショートしていたのでしょう。ギャンブル依存症を疑います」  町民の間では、3800万円をギャンブルで使い果たすのは信じ難いと「町の裏金になっていたのではないか」という憶測が広がっていた。本誌既報の通り、楢葉町では職員による不祥事が相次ぎ、町民の不信感が強まっているため、まことしやかに語られた。  横領発覚の翌年22年には、建設課の元職員が指名業者に設計価格を漏洩したとして官製談合防止法違反などで逮捕され有罪。町は同4月に不祥事再発防止に関する第三者委員会を設置したが、わずか1週間後に政策企画課職員が無免許運転で逮捕。同12月には建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作し、計127万円の家賃支払いを免れたとして懲戒免職となった。わずか2年間で100人ほどの職員のうち4人が不祥事を起こす異常事態となり、町長や管理職はその度に減給するなどの責任を取っている。  遠藤氏の裁判では、横領金の使途は主にギャンブルと明かされたため「町の裏金説」の信憑性は低い。今後はのめり込んでいたギャンブルの種類や借金の額、生活費の詳細が本人への質問で判明するだろう。 「公務員なら間違いない」とハンコ  横領の直接的な原因は、遠藤氏が自己資金で賄いきれないほどギャンブルにのめり込んでいたことだ。だが、不正会計を発見できなかった同土地改良区役員にも被害を拡大させた責任がある。  同土地改良区では年に1回、監事が監査を行っている。裁判では、ある町職員が警察の取り調べに「土地改良区の監査を担当していた監事は『遠藤氏ら公務員が間違いないと言っているので問題ないと思い押印署名した』と釈明していた」と証言していたことが明かされた。役員名簿を見ると監事は2人いるが、それでも見過ごすとは、細かいことは全て事務職員にお任せする「ザル監査」だったのだろう。  さらに遠藤氏の前任者によると、土地改良区の口座から引き落とす際には役員の決裁が必要だが、事後決裁のみで済んだという。会計管理は代々町職員が1人で担っており、それらを付け込まれた同土地改良区=町は2年に渡り、遠藤氏に公金をかすめ取られ続けることになった。  そもそも同土地改良区は震災・原発事故前から解散が検討されており、活動は活発でなかったという。  「原発被災地の土地改良区は理事や総代(会員)のなり手不足に悩んでおり、関心も低いのでチェック機能が働かない。その割に、原発賠償や農業復興という名目で補助金が潤沢に入ってくる。横領事件の背景にはそのギャップがある」(土地改良区事情に詳しい男性)  遠藤氏は原発被災地に移住後、「後輩の活躍を誇りに、浪江の復興に力を尽くしたい」(福島民報2018年8月20日付)と誓っている。だが、1年も経たずに悪事に手を染め、誓いは破られた。  第2回公判は12月25日午後1時半から地裁いわき支部で開かれる。他の横領金について新たに起訴状が提出される予定だ。

  • 【楢葉町】松本幸英町長インタビュー

    まつもと・ゆきえい 1960年12月生まれ。県立四倉高卒。1997年から楢葉町議4期、その間議長を2期務める。2012年4月の町長選で初当選を果たし、現在3期目。  ――移住・定住施策のため、昨年、相談窓口機能を備えたコドウがオープンしました。 「コドウの昨年度の移住相談実績は80件で、そのうち15名が移住に結び付きました。移住相談窓口以外にも大学生のフィールドワークの対応や、町内で新しいことをはじめたい方をサポートするスタートアップ支援も行っています。また、移住者の数だけを重視するのではなく、移住してきた方が、例えば起業して新たなサービス等を提供することによって住民の利便性が向上するなど、満足度の高い町になることが移住定住事業の重要なポイントだと考えています。そのために町としては今後、地域の担い手となる方や地域課題を捉え、起業を考える方をはじめ、多くの方に少しでもまちを知っていただくため、まずはぜひ足を運んでいただきたいと考えています」 ――農業の6次化に取り組んでいます。 「これまで農業再生について効率化・省力化に向けた担い手への農業集積や基盤整備、サツマイモの産地化など、特色ある新しい農業モデルに取り組んできました。新たなチャレンジとして地元農産物を活用した付加価値の高い特産品開発、商品化を進め、生産から処理、加工、さらには販売や販路へと一体的な流れを構築する6次産業化の第一歩として『楢葉町特産品開発センター』が4月に落成しました。この施設では主に甘藷・柚子・米を活用した加工品の開発や製造を行い、そのほかの町内産の農産物も幅広く活用しながら生産農家の経営安定を目指していきたいと考えています」 ――今後の抱負。 「震災から12年が過ぎ、ハード面の整備からソフト事業への移行が重要となる今『笑顔とチャレンジがあふれるまち ならは』の実現のための事業として、昨年オープンしたコドウやまかない付きシェアハウスでの事業に加え、新たに地域住民との交流拠点『まざらっせ』もオープンしました。これらを活用し、移住者と震災前から住む町民が互いに手を携え交流人口の拡大を図りつつ、さらに新しいステージへ邁進していきます。 役場機能についても、今年度から住民サービス向上のため、窓口業務一元化として町民税務課を設置しました。また、新規企業誘致や安定的な雇用の確保に注力し、観光資源の活用も今まで以上に進めるべく、産業創生課を設置して組織強化を図っています。さらにはDX推進体制の整備・強化を目指し、政策企画課内にDX推進室を設置しました。私たちが目指すのは、最終的には町民の幸せな暮らしの実現です。このことを肝に銘じて全職員心を一つに今後も精進してまいります」

  • 【不祥事連続】楢葉町で行われていた「職員カンパ」

     楢葉町議会3月定例会の一般質問で、同町職員の不祥事が相次いでいる件についての質問が行われた。 2021年9月には、産業振興課職員が、会計業務を担当していた楢葉町土地改良区と楢葉町多面的機能広域活動保全会の通帳から、約3800万円を横領していたことが発覚した(※)。 昨年2月には、建設課職員が複数の指名競争入札で指名業者名や設計価格を漏洩したとして、公契約関係競売入札妨害及び官製談合防止法違反の容疑で逮捕、起訴された。 昨年4月には、政策企画課職員が退庁後、道路交通法違反(無免許運転)で現行犯逮捕された。 町では昨年9月、再発防止に向けた「職員・組織改善計画」を策定した。だが、同12月には、建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作し、自分宅の家賃納付約127万円を免れていたことが発覚。もはや手の打ちようがない状況となっている。 3月定例会で注目されたのは、再発防止策と併せて、町議やマスコミに送付された「通報書」の真偽だった。前述・家賃管理システム不正操作について、「町が令和3年から隠蔽している」とする匿名の通報書が出回っていた(本誌2月号参照)。そのため、松本明平町議(1期)、結城政重町議(8期)が「通報書の内容は事実なのか」と追及した。 町執行部は「町役場には届いていないが、町議から見せてもらい中身は確認した。家賃管理システム不正操作に関しては、昨年12月に初めて分かったもので隠蔽していた事実はない。監査でも分からなかった」と答弁し、通報書の内容をあらためて否定した。そのうえで、「チェック体制を含め、不祥事が起きにくい仕組み作りを進めていく」と述べた。 差出人はあえて事実でない内容を記したのか、それとも町の方が事実を伏せているのか。いずれにしても、これだけ職員不祥事が連続し、こうした通報書が出されるのは異常だ。そのことを重く受け止め、職員の意識改革など具体的な対策を打ち出し、講じていく必要があろう。 気になるのは、同町役場の〝体質〟だ。町総務課への取材や町議会での過去のやり取りによると、2021年9月の公金横領の後には、町職員がカンパを集めていたという。 土地改良区などが元職員への訴訟を提起することになったのに加え、各種支払いもあったため、資金不足に陥った。そうした中、係長レベルの職員が中心となって、「会計業務を引き継いだのは同じ町職員。助け合おう」と呼びかけ、土地改良区などへのカンパを募った。1人約1万円を支払い、総額100万円になったようだ。 町総務課の担当者は「横領した元職員を支援する狙いは一切ない。横領された金額の穴埋めではなく、あくまで助け合い」と強調したが、職員不祥事の〝後始末〟を同僚の負担で行うのは疑問が残る。 町内の事情通はこう指摘する。 「不祥事の責任を取るべきは、町長であり、土地改良区理事長でもある松本幸英氏のはず。〝善意のカンパ〟で対応すれば責任の所在があいまいになるので、役場が止めるべきだったと思います。昨年12月の家賃管理システム不正操作については、町長は減給対象にすらなっていない。こうした責任をとらない体質が、役場内に〝ぬるま湯〟の空気を生み出しているのではないか」 本誌2月号記事では、神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏が「倫理教育を徹底し、不正行為に手を染めれば、その後の人生がどうなるのか、はっきり示すことが職員不祥事の再発防止において重要」と話していた。松本町長は職員不祥事の連鎖を断ち切ることができるのか、今後の対応が注目される。 ※元職員はその後、町と土地改良区から民事・刑事で訴えられ、土地改良区に4157万4684円(遅延損害金含む)、町に30万1309円の支払いを命じる判決が下された。ただ、未だに支払いは行われておらず、町は弁護士と対応を協議している。 あわせて読みたい 楢葉町で3年連続職員不祥事

  • 楢葉町で3年連続職員不祥事

     楢葉町で3年連続となる職員不祥事が発生した。建設課職員が災害公営住宅の家賃管理システムを不正操作して、自宅分の家賃納付約127万円分を免れていた。町では昨年9月、不祥事再発防止に向けた改善計画を策定したが、未だ体質を変えるまでには至っていないようだ。 不正操作をしていた建設課の男性主査  町によると、不正操作をしていたのは建設課の男性主査(29)。災害公営住宅など町営住宅の家賃徴収を担当しており、自らも災害公営住宅に住んでいた。 家賃の納付は振り込みや納付書による納付、生活保護による納付などに分かれているうえ、滞納、残高不足による支払い遅延なども頻繁に起こる。そのため、専用のシステムで情報を管理し、入金が確認された人の名前をチェックしている。他市町村でも使われているシステムだ。 この男性主査はそのシステムを悪用し、毎月自分のところにチェックを入れて、家賃を払っているように装い続けていた。未納付分は2020年11月から22年11月までの2年分、計127万6000円に上る。 家賃徴収には正担当と副担当がいて、滞納者のチェックなどは2人で行っていた。だが、実際の入出金は町全体の財務会計システムで管理されている。それを基に一人ひとりの納付金額まで照らし合わせていたわけではなかった。 男性主査は数年前に正担当になり、今年度から別の仕事を兼務しつつ、副担当として新たな正担当への業務引き継ぎ・サポートを行っていた。 昨年12月7日、新担当がチェックを進めるうえで不審に思い、翌8日、男性主査に直接確認したところ、自ら不正を認めた。町の調べに対し「別の支払いがあったため」と語っていたという。 正担当から外れたのに平然と未納を続けていたのは、「どうせばれないだろう」という自信があったのか。あるいは「いつばれるのか」と恐れていたのか。 町は昨年12月27日、男性主査を懲戒免職処分とし、建設課長など管理監督責任のある職員を減給や戒告処分とした。なお未納分の家賃はすでに全額納付済み。すぐに発表せず、20日近く経って発表となった理由は「いろいろ準備していたから」(総務課長)だという。 ある町内在住の女性は「何とか災害公営住宅の家賃を払っている世帯もある中で、自分だけ平然と未納を続けていたことが許せない」と憤る。 年配男性は「これで楢葉町では3年連続、4回目の職員不祥事が起きたことになる。いったいどうなっているのか」と嘆く。 2021年9月には、産業振興課職員が楢葉町土地改良区と楢葉町多面的機能広域活動保全会の通帳から約3800万円の公金を横領していたことが発覚した(本誌2021年10月号参照)。職員は懲戒免職処分となり、同年12月に告訴(土地改良区)・告発(町・土地改良区)された。町総務課によると、現在も捜査が続いているようだ。 昨年2月には、町と土地改良区が連名で、元職員への損害賠償を求める訴訟を提起。同年4月、土地改良区に4157万4648円(遅延損害金等含む)、町に30万1309円(同)の支払いを命じる判決が下された。元職員は口頭弁論期日に出頭せず、答弁書の請求原因に対する認否の記載もなかったため、請求原因事実について争う意思を示さず、自白したものとみなされた。ただ、「未だに弁済は行われていない」(町総務課長)という。 昨年2月には、建設課職員が複数の指名競争入札で、指名業者名や設計価格を指名業者に漏洩していたとして、公契約関係競売入札妨害及び官製談合防止法違反の容疑で逮捕、起訴された(本誌昨年3月号参照)。この元職員も懲戒免職処分となり、同年6月の刑事裁判で懲役2年執行猶予4年の有罪判決が下された。 昨年4月には、政策企画課職員が退庁後、国道6号を走行中に無免許運転で現行犯逮捕された。交通取り締まりの警察官に運転免許証を提示したところ、免許が失効していた。2~3月ごろに失効の事実に気付いていたにもかかわらず、公用車、私用車を平然と運転し続けていたというから呆れる。 もはや打つ手なし!?  町は相次ぐ不祥事を受け、職員不祥事の再発防止に関する第三者委員会を設置。同委員会の報告書をもとに、昨年9月、再発防止に向けた「職員・組織改善計画」を策定。「意識・制度・組織を変える」という方針を掲げ、全職員に内容を周知していた。 それからわずか3カ月後の不祥事。松本幸英町長はホームページ上に「またも町民の皆様の信頼を大きく失墜させる事態が発生したことに対しまして、深くお詫び申し上げます。あらためまして、この事実を重く受け止め、これ以上不祥事が起こらないように、一層の綱紀粛正の徹底を図ってまいるほか道はないと考えております」とコメントを掲載した。 松本幸英町長  猪狩充弘総務課長は「職員・組織改善計画でチェック体制などを強化したが、今回の家賃未納付はその前から始まっていた。そこまでチェックできなかった」と語る。改善計画を立ててもすぐ不祥事が起き、打つ手なしといったところだろう。 町内を駆け巡った「内部告発文書」  同町に関しては、本誌宛てに「通報書」と題した匿名投書が寄せられていた。消印は12月18日付。同町の不正行為が隠蔽されていることを明かす内容で、今回発覚した不祥事についても記されていた。 《楢葉町現職員の公金管理システム不当捜査による粉飾事案 令和3年から隠蔽 当時建設課で公営住宅の家賃管理を担当していた職員が、自ら入居していた住宅家賃を支払ったかのようにシステムを不正に操作し粉飾した不正行為について、いまだに隠蔽し続け、本日現在も公表していない》(「通報書」より引用) 前述した通り、この件を町が公表したのは昨年12月27日。文書の作成日は12月14日付となっており、本誌にはその数日後に郵便で届いた。他のマスコミや町議などにも送付され、町役場も確認しているようだ。 不正行為の情報をキャッチし、公表されていないことを不審に思った役場関係者が送付したのだろう。内部の人間が不祥事隠蔽を疑い、内部告発文書を外部に送付する事態にまでなっているということだ。 ちなみに同文書には「こども園で保護者からの預かり金を管理していた職員が横領していた事実を隠蔽。問題が公になる前に依願退職として処理した」とも書かれていた。ただ、猪狩総務課長に確認したところ、「確かに依願退職した職員はいるが、そもそも保護者からの預り金を管理する業務は存在しない。業界団体の会計処理を手伝うこともあったようだが、監査を受け適正に処理されている」と疑惑を明確に否定した。 同文書には「本通報は責任者(※編集部注・松本町長のこと)及び組織の本質が変わらない限り、他の違反行為等に関し継続する」と書かれており、今後も内部告発を続けることを示唆している。 専門家に聞く再発防止策  さて楢葉町に限らず、県内では自治体職員のカネをめぐる不祥事が相次いでいる。 本誌12月号では会津若松市職員が約1億7700万円を詐取していた事件についてリポートした。 1月14日には古殿町の40代男性職員が、事業を委託する2団体の口座から133万6745円を横領したとして、1月6日付で懲戒免職処分になったことが発表された。関係職員も減給処分となり、岡部光徳町長ら特別職3人の給与を3カ月間、10%減額する条例案が町議会臨時会で可決された。町は、人事院の懲戒処分の公表指針に基づく判断として、職員の所属や氏名を公表していない。 地元紙報道によると、団体の関係者からの相談で発覚。職員は団体を支援する業務で、通帳を管理する立場だった。上司もいたが、「ダブルチェックができていなかった」(木村穣副町長)。横領した金は全額弁済済みで、町は今後の対応を弁護士と相談している。 なぜここに来てこうした不祥事が目立つのか。民間企業で経理を務めた経験があり、自治体や企業の内部事情に詳しい神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏はこう語る。 「まず民間企業でも横領などは起きているが、大抵の場合、依願退職扱いにして、退職金を弁済に充てる形で内々に済ませる。自治体の場合、そうはいかないから目立ってしまう。コロナ禍以降は国や県からさまざまな補助金が入っており、膨大な件数の事務作業をこなさなければならないため、チェック体制も甘くなっている。そうした中で、『不正をやってもバレないのではないか』と考える人が出ているのでしょう」 原発被災地で関連の補助金を多く取り扱う楢葉町は、なおさらそう考えやすい環境なのかもしれない。 中村氏が「横領などが起こる背景を考えるうえで非常に参考になる」と語るのは、前出・会津若松市の公金詐取事件に関する記者会見資料(同市ホームページで公開中)だ。 「公金詐取していた職員は管理システムの盲点を悪用し、不正な操作を繰り返した。チェックする副担当には入庁1年目の新人職員や異動1年目の職員を充て、ばれにくい体制を構築した。パソコン関連の仕事を詳しい人間に任せ、ろくにチェックもしていない自治体・民間企業の管理職は読んでゾッとするのではないか。同市もよくここまで内情を書いたと思います。かつて在籍していた民間企業の経理部門では『不正は10万円までに見つけろ』と言われていました。それ以上の金額になると感覚が麻痺して横領額が膨れ上がる。もう少し早く異変に気付けていれば、約1億7700万円も詐取されることはなかったでしょう」 このほか、市町村職員の高くない給与(借金・ローンの有無)、長時間労働を看過する職場環境も横領の遠因になると中村氏は指摘する。 肝心の再発防止策については、次のように話す。 「会津若松市の元職員は市の調査に『(不正が)できるからやった』、『不正はやる気になればできる』と話した。正直、経理の仕事はそう感じるときがあるが、それでもほとんどの人はルールを守ってやっている。チェック機能の強化はもちろんですが、最も重要なのは倫理教育でしょう。また、穏便に済ませるのではなく、『不正をやった場合どうなるか』もしっかり示し、抑止力が働くようにしなければなりません」 穏便に対応すればまた不祥事が発生する、と。 楢葉町においては第三者委員会による報告書を受け、改善を図っていた直後だけに、この言葉を重く受け止める必要があろう。 職員の意識改革はもちろん、議会、さらには住民が厳しい目で行政を監視し、再発防止を図っていくことが重要になる。 あわせて読みたい 【不祥事連続】楢葉町で行われていた「職員カンパ」