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  • 浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定

    浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定

     原発事故に伴う避難指示区域で、現在も残っているのは帰還困難区域のみ。同区域の一部は「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定され各種環境整備が進められた。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が2022年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が昨年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。  ただ、復興拠点は、帰還困難区域の約8%にとどまり、残りの大部分は手付かずだった。そんな中、国は昨年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。  復興拠点の延長のような形で、主にそこに隣接するエリアが指定され、居住区域を少しずつ拡大していくようなイメージである。  同制度ができ、早速、大熊町と双葉町で動きがあった。2022年に実施した帰還意向調査結果や復興拠点との位置関係、放射線量などを考慮し、大熊町の下野上1区、双葉町の下長塚行政区と三字行政区が昨年9月に先行して「特定帰還居住区域」に指定された。昨年12月20日からは先行除染がスタートしている。  両町の「特定帰還居住区域復興再生計画」によると、ともに計画期間は2023年9月から2029年12月まで。その間に、除染や家屋解体を進め、道路、電気・通信、上下水道などの生活インフラ整備を実施して帰還(避難指示解除)を目指す。  両町に続き、浪江町は昨年12月15日までに「浪江町特定帰還居住区域復興再生計画」をまとめた。帰還困難区域を抱えるのは7市町村あるが同計画策定は3例目。その後、県との協議を経て国に申請した。本誌は締め切りの関係上、同計画について国の認可が下りたかどうかは確認できていないが、過去の「特定復興再生拠点区域復興再生計画」などの事例からしても、すんなり認定されるものと思われる。  同町の計画では、帰還困難区域に指定されている全14行政区が対象に含まれている。計画期間は大熊・双葉両町と同じ2023年9月から2029年12月まで。  整備概要は以下の通り。  ○除染・家屋解体を進め、道路、河川、電気・通信、上下水道等の生活インフラの復旧・整備を実施する。  ○集会所等については、利用ニーズへの対応や効率的な運営を考慮し、住民のコミュニティー再生に寄与するものとなるよう再整備を進める。  ○農業水利施設の復旧・整備等については、各地域における営農再開に向けた検討状況等に留意しつつ、関係者と協議の上、営農に必要な範囲での実施に向けて調整を進める。  ○そのほか、生活関連サービスについては、避難指示解除時のサービス提供を目指し、関係者と調整を進める。  ○インフラ整備と除染等の措置などについては、特定復興再生拠点区域復興再生計画の際と同様に、一体的かつ効率的に実施する。  こうして、帰還困難区域全域解除に向けて、一歩前進したわけだが、違和感があるのは、帰還困難区域の除染が国費で行われること。原因者である東電に負担を求めないのだ。以前の本誌記事でも指摘したが、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるのが筋で、そうではなく国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。

  • 【写真】復興拠点避難解除の光と影【浪江町・富岡町】

    【写真】復興拠点避難解除の光と影【浪江町・富岡町】

     浪江町と富岡町の帰還困難区域内に設定された「特定復興再生拠点区域」の避難指示が解除された。これまでに葛尾村、双葉町、大熊町で復興拠点の避難指示が解除されており、今回は4、5例目となる。(写真左下の数字は地上1㍍で測定した空間線量。単位はマイクロシーベルト毎時)  浪江町は3月31日に解除され、午前10時に町の防災無線で解除を伝える放送があった。その後、室原地区の防災拠点(整備中)敷地内で記念式典を行い、吉田栄光町長、政府原子力災害現地対策本部の師田晃彦副本部長があいさつした。同町は総面積約224平方㌔のうち、約180平方㌔(約80%)が帰還困難区域に指定されている。このうち、今回解除されたのは室原、末森、津島、大堀の4地区の復興拠点で、計約6・61平方㌔(約4%)にとどまる。 浪江町 津島地区に整備された福島再生賃貸住宅(0.56μSv/h) 室原地区の防災拠点(0.11μSv/h) 大堀地区の「陶芸の杜おおぼり」(1.78μSv/h) 津島地区の福島再生賃貸住宅の住民に群がる報道陣 (0.46μSv/h) 記念式典であいさつする吉田栄光浪江町長  一方、富岡町は4月1日に解除された。同日は避難指示解除記念セレモニーが行われ、山本育男町長があいさつした後、岸田文雄首相らが祝辞を述べた。同町の総面積68平方㌔のうち、帰還困難区域は約8平方㌔(約12%)。このうち、復興拠点に指定されたのは桜並木で有名な夜の森地区など約3・9平方㌔(約49%)となっている。 富岡町 にぎわう夜の森公園の隣接地には除染などで解体された住宅の跡が残る (0.32μSv/h) 多くの花見客でにぎわう夜の森の桜並木 (0.42μSv/h) 除染された夜の森公園で遊ぶ家族連れ (0.20μSv/h) 閉店した状態のままになっているコンビニエンスストア (0.44μSv/h) 避難指示解除記念セレモニーに参加した岸田文雄首相(中央)と、山本育男富岡町長(左)、内堀雅雄知事  復興拠点の避難指示解除は、これまでに葛尾村、双葉町、大熊町で実施され、浪江町と富岡町は4、5例目になる。住民が戻って生活することが難しいとされてきた帰還困難区域だが、こうして復興への第一歩を踏み出した。その歓迎ムードの一方で、放射線量の問題やどれだけ住民が戻るかといった課題があり、復興への道のりは簡単ではない。 あわせて読みたい 【原発事故から12年】旧避難区域のいま【2023年】写真 福島第一原発のいま【2023年】【写真】

  • 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」【エフレイ】

    【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」【エフレイ】

     4月1日、政府は特別法人「福島国際研究教育機構」(略称F―REI=エフレイ)を設立した。現地仮事務所開所の様子は大々的に報じられたが、その一方で早くも出勤していない職員がいるという。 霞が関官僚の〝高圧的態度〟に憤慨 エフレイの仮事務所が開設されたふれあいセンターなみえ  エフレイでは①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療と放射線の産業利用、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――の5分野に関する研究開発を進める。7年間で26項目の研究開発を進める中期計画案を策定した。理事長は前金沢大学長の山崎光悦氏。 今後50程度の研究グループがつくられる予定で、第1号となる研究グループ(放射性物質の環境胴体に関する研究を担当)が県立医大内に設けられた。 産業化、人材育成、司令塔の機能を備え、国内外から数百人の研究者が参加する見通し。浪江町川添地区の用地14㌶を取得して整備する方針で、2024年度以降、国が順次必要な施設を整備、復興庁が存続する2030年度までに開設していく。予算は7年間で1000億円規模になる見通し。 4月1日には町内のふれあいセンターなみえ内に仮事務所を開設し、新年度から常勤58人と、非常勤数人の職員が配置された。 ところが、仮事務所が本格稼働してからわずか3日目にして出勤しなくなり、電話にも出なくなった職員がいるという。 どういう理由で出勤しなくなったのか。当事者である中年男性に接触したところ、本誌取材に対し「特技の英語を活用して働く環境に憧れ、県内の職場を辞めて求人に申し込んだ。ただ、理想と現実のギャップに愕然として出勤する気が失せた。後は察してください」と述べた。 一部始終を聞かされたという知人男性が、この男性に代わって詳細を教えてくれた。 「職員の多くは中央省庁からの出向組で、事前に立ち上げられた準備チームからスライドしてきた。互いに気心が知れている分、新しいメンバーには冷たいのか、着任1日目の職員(当事者の中年男性)に敬語も使わず、いきなり『あんた』呼ばわりだったらしい。ろくに顔合わせもしないうちに弁当の集金、スケジュール管理などの業務を任せられ、同じく地元採用枠で入った女性職員について『あごで使っていいから』と指示を出された。とにかく、すべてが前時代の高圧的・パワハラ的対応。『この上司と信頼関係を築ける気がしない』と感じたそうです」 「HTML(ウェブページを作るための言語)知ってる?」と質問されたが、職員採用の募集要項にHTMLの知識は明記されていなかったため、素直に「分かりません」と答えた。すると「しょうがねーなー」と返されたので唖然とした。 別部署の女性職員は「外で〝第一村人〟にあいさつされちゃった」とはしゃいで笑っていた。「地域との連携をうたっているが、現場の人間は地域住民を馬鹿にするのか」と不信感が募り、実質的な〝試行期間〟のうちに就労を断念することにした――これがこの間の経緯のようだ。 「質問にお答えできない」 エフレイの仮事務所に掲げられている看板  エフレイに事実関係を確認したところ、金子忠義総務部長、堀内隆之人事課長が対応し、「情報公開の規定に基づき個人が特定される質問にはお答えできない」としたうえで、一般的な判断基準について次のように話した。 「各種ハラスメントに関しては法令で定められているので、双方の話を聞き、それに当てはまるかどうか判断することになります。(HTMLの知識の有無を尋ねたことについては)職員採用の募集要項に明記されていない資格・能力を〝裏条件〟のように定めているということはありません。地域との連携はエフレイの重要な課題だと認識しています」 “出勤断念”に至った背景には、語られていない事情もあると思われるが、いずれにしても働きたい環境とは思えない。 4月8日付の福島民友で、山崎理事長は「世界トップレベルの研究を目指し、初期は外国人が主体になるが、ゆくゆくは研究者・研究支援者の何割かを地元出身者から受け入れたい」、「われわれも高等教育機関や高校、中学校などを訪ね、夢を持つことの大切さを伝えていく」と述べていた。だが、まずは職員による高圧的対応、地方に対する上から目線を改めていかなければ、そうした理想も実現が難しいのではないか。 エフレイのホームページ あわせて読みたい 【浪江町】国際研究教育機構への期待と不安

  • 全容が報じられた浪江町・競走馬施設計画【浪江町末森地区】

    全容が報じられた浪江町・競走馬施設計画

     本誌昨年9月号に「浪江町末森地区に競走馬施設整備!?」という記事を掲載した。記事のポイントは以下のようなもの。 〇帰還困難区域の浪江町末森地区で、競走馬のトレーニング・リフレッシュ施設の整備計画が浮上している。 〇町産業振興課は「民間事業としてそういった話があるのは聞いたことがあるが、詳細は分かりません」とコメント。 〇県内には天栄村にも競走馬用のトレーニング・リフレッシュ施設がある。茨城県美浦村にある日本中央競馬会(JRA)のトレーニングセンターから比較的近く、競走馬の疲れを癒したり、軽い調整を目的に利用されている。 吉田栄光町長も「町の復興やにぎわい創出につながる」と評価しており、その行方が注目されていたが、2月25日付の読売新聞県版で具体的な計画が報じられた。 記事によると、事業主体は2022年1月設立の娯楽業「Blooming Stables」(東京都中央区日本橋、吉谷憲一郎社長)。法人登記簿を確認したところ、資本金1000万円。事業目的は競走馬の生産、育成、調教、管理、売買など、すべて競走馬に関するものだった。 https://twitter.com/oak_tree_farm  吉谷氏はリフォーム・家電取り付け工事を手掛けるメディオテック(東京都新宿区新宿)で取締役を務めているほか、経営コンサルタント、不動産開発などの会社の社長になっていた。インターネットで名前を検索したところ、複数の競走馬(地方競馬)の馬主として表示された。 敷地面積約35㌶で、1000㍍のトラックと、1000㍍の坂路コースを整備予定。約500頭収容可能で、120人の雇用を見込んでいる。国の「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」の活用を目指しており、①従業員とその家族の居住による人口増加、②肥料となる馬ふんの農家への提供、③乗馬体験などによる観光誘客――などで地域貢献を果たしていく考え。 開業目標は2026年4月。同社は昨年末から住民説明会を開いているそうだが、記事によると、地権者からは「帰還する考えはない。(生活に影響はないし土地を活用してくれるのはありがたいので)悪い話ではない」、「馬の鳴き声や臭いが気になる。せっかく自宅に戻れるのに騒がしくなってしまう」と賛否両論の意見が出ているようだ。 同社はホームページなどを開設しておらず、電話番号やメールなどを公表していないため、残念ながら連絡を取ることができなかった。どういう経緯で同町に整備することを決めたのかはもちろん、本誌昨年11月号で取り上げた山本幸一郎副議長とはどんな関わりがあるのかも気になるところ。 同町末森地区内には特定復興再生拠点区域が指定され、この間除染やインフラ整備が進められてきた。3月31日には室原・津島両地区の特定復興再生拠点区域とともに、避難指示が解除された。今後、住民帰還の動きが本格化し、復興の在り方が議論されるにつれて、競走馬施設の動向も注目を集めそうだ。 あわせて読みたい 悪評絶えない山本幸一郎【浪江町】副議長 【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

  • 浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

    浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

    本誌2月号で、浪江町の町営大平山霊園の改修工事が、同町請戸地区住民で組織される「大字請戸区」の負担で行われていたことを報じた。 請戸地区は災害危険区域に指定されており、同団体は将来的に解散する見通し。財産を清算する目的で、大平山霊園の改修と費用負担が総会で決められた。だが、総会に出席できなかった県外在住の住民から反発が相次ぎ、「町の工事を地縁団体が行うのは違和感がある」「一律に配分すべき」と主張していた。 同団体の代表者(区長)は本誌取材に応じようとしなかったが、2月号発売直後、同団体は住民にファクスで文書を送付した。 文書には《同団体の財産は準公金なので個人に配分できない》、《町民や区の住民から問題点が指摘されたため急遽工事は一時中断にし、次回の総会で再検討する》といった内容が書かれていた。 請戸地区の住民はこの文書について「各世帯への見舞金などは支給されており、準公金を理由に配分できないというのは違和感がある。町はなぜゴーサインを出したのか、大平山霊園を利用している請戸地区以外の住民の意向を確認しようと考えなかったのか、いろいろ疑問が残る。関係者には明確に説明してほしい」と述べた。 5月に行われる総会では大きな議論になりそうだ。 あわせて読みたい 【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?  

  • 【浪江町】新設薬局は医大進出の関西大手グループ【町役場敷地内にある浪江診療所】

    【浪江町】新設薬局は福島医大進出の関西大手グループ

     浪江町役場敷地内にある浪江診療所の近くに、震災・原発事故後初めて調剤薬局が開設される。進出するのは関西を拠点とする大手・I&Hグループで、県立医大でも敷地内薬局の運営に乗り出すなど勢力伸長が著しい。同町への進出を機に「原発被災地での影響力を強める方針ではないか」と同業者たちは見ている。 原発被災地で着々と影響力を拡大  浪江町で薬局を開設・運営するのは、関西を拠点に「阪神調剤薬局」を全国展開するI&H(兵庫県芦屋市)のグループ企業。本誌は昨年10月号「医大『敷地内薬局』から県内進出狙う関西大手」という記事で薬局設置に関わる規制の緩和が進む中、福島県立医大(福島市)も敷地内薬局を導入し、運営者を公募型プロポーザルで決めたことを報じた。 県薬剤師会は「医薬分業」を建前に、敷地内薬局に猛反対していたため動きが鈍く、情報収集に後れを取った。公募について会員内で共有したのは応募締め切り後だった。応募した地元薬局はあったものの、全国展開する大手3社がトップ争いを繰り広げる中、資本力で太刀打ちできず、I&Hが優先交渉権を獲得。次点者とは1点差という激しい争いだった。 地元の薬剤師・薬局経営者の間では、県立医大の敷地内薬局の運営権を関西の企業が勝ち取ったことは、県内の薬局勢力図の変化を象徴する出来事と捉えられ、「原発事故後、帰還が進みつつある浜通りに進出する足掛かりにしたいのでは」という見方があった。 浪江診療所は、町が国民健康保険の事業として設置・運営している。町健康保険課によると、復興が進む町内では唯一の医療機関だ。最新の年間利用者は延べ約5800人。ただ、調剤ができる薬局が町内にないため、医師や不定期に出勤する薬剤師が行い、看護師らが補助する形で実務を担っていた。院内処方と呼ばれる。 震災・原発事故後、町内に初めて調剤薬局ができるということは、浪江診療所の調剤業務を薬局に外注することを意味する。同課の西健一課長(浪江診療所事務長を兼務)も、「町としては院外処方に移行したいと思っています」と言う。 県内で薬局を経営する企業の役員は町が院外処方を進める理由を「医薬関係のコストを削減できるからです」と解説する。 町の特別会計「国民健康保険直営診療施設事業」の2021年度決算書によると、浪江診療所の医業費は2600万円(10万円以下切り捨て、以下同)。医薬材料費は2100万円で医業費の約8割。医薬材料費に患者に処方する医薬品の金額がどの程度含まれているかは不明だが、外注すれば相当圧縮できるだろう。 さらに、患者への薬の受け渡しに時間を取られていた看護師の負担が減る分、本来の業務に専念できる。業務が効率化できれば、町としては必要最低限の雇用で済ませられる。 メリットは患者にもある。 「取り扱いの少ない薬でもすぐに十分な量が手に入ります」(同) 診療所の調剤室は単独の薬局に比べると、量も種類も限られる。西課長によると、需要の少ない医薬品の場合、在庫切れになることもあり、南相馬市にある最寄りの調剤薬局まで車を走らせなければならなかった患者もいたという。 ただ、患者には見過ごせないデメリットもある。 まず、薬代が高くなる。院外処方は院内処方よりも、医療行為に対する報酬の基準となる診療点数が高くなるので、患者の負担が増える。  院内処方から院外処方に移行すれば、患者が薬局に薬を受け取りに行く手間もかかる。浪江診療所は役場敷地内にあるが、開設予定の薬局は敷地外に建設されるというから、大きな負担になるとは言わないまでもそれなりの移動を強いられる。 実際、薬局新設を聞きつけたある町民からは、 「通院しているのは年寄りが多いのに、町や医者の都合で雨の中でも薬を取りに行かなければならないのか」 と不満の声が聞かれた。 これまでの動きを振り返ると、財政負担を減らしたい町と、原発被災地に進出したいI&Hグループの思惑が合致したと言える。 「開設経緯を明らかに」  ある町関係者は薬局の開設経緯をオープンにすべきだったと訴える。 「関西の企業がどういう経緯で浪江に進出するのか。町が土地を紹介しないと無理でしょう。町に相談なしに進出を決めたとは考えられません。実質、浪江診療所に付随する薬局です。本来は公募して民間を競わせる方が公正だし、より良い条件を引き出せたのではないか。民間薬局が進出する動きがあると議会を通じて町民に知らせる必要があったと思います」 前出の西課長に薬局開設に町はどの程度関わっているか聞くと、 「役場の敷地外にできるので町は関わっていません。診療所の近くにできるとは聞いていますが、民間企業の活動なので、いつ、どこに開設するかはI&Hに聞いてほしい」 筆者はI&Hにメールで「薬局の開設場所はどこか」「いつ営業を始めるか」など7項目にわたり質問した。回答によると、近隣に建てる予定があることは確かだが、「具体的なスケジュールは決まっていない」という。 西課長によると、町とI&Hグループが接点を持ったきっかけは、震災・原発事故後からたびたび開かれている「お薬相談会」だという。浪江町には薬剤師がいないため、町外から招いて服薬指導をしている。この相談会に関係していた復興庁から「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル」というイベントへの参加を打診され、そこでI&Hと接点ができたという。 このイベントについては本誌昨年10月号で報じた。避難指示解除後に帰還が進む地域で、医師と共に薬剤師が不足している状況に薬剤師や薬局経営者らが問題意識を持ち、同年2月24日に厚生労働省や自治体職員とオンラインで現状を共有した。 主催は任意団体「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会」、事務局は城西国際大大学院(東京)国際アドミニストレーション研究科。同大学院の鈴木崇弘特任教授の記事(ヤフーニュース2022年3月1日配信)によると、メンバーは表の通り。I&H取締役や薬学部がある大学の教員が名を連ねる。 福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会のメンバー(敬称略) メンバー役職渡邉暁洋岡山大学医学部助教小林大高東邦大学薬学部非常勤講師岩崎英毅I&H取締役鈴木崇弘城西国際大学国際アドミニストレーション研究科長黒澤武邦城西国際大学国際アドミニストレーション研究科 准教授  鈴木氏の記事によると、I&H取締役の岩崎英毅氏のほかに福島市、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、そして厚労省の担当者が参加した。式次第によると、オープニングで学校法人城西大学の上原明理事長(大正製薬会長)が挨拶した。 本誌は以前、I&Hに、どのような関係で自社の取締役が同委員会のメンバーを務めているのかメールで質問した。同社からは次のような回答が寄せられた。 《医療分野のDXへの関心が飛躍的に高まり、また、厚生労働省が進めている薬局業務の対物業務から対人業務へのシフトにより、薬局には住民の皆様の個別のニーズに応じた、より質の高いサービスの提供が期待されています。このような状況のもと、弊社は、オンライン診療、服薬指導、処方薬の配送など、地域医療の格差是正に向けた取り組みを推進しておりますが、このような取り組みの知見や課題を共有することで、無薬局の解消の一助になることができればと考え、実行委員会に参加させていただきました》 営業活動の一環か、という質問には、 《無薬局の解消、地域医療の格差是正に向けて、様々な視点からの知見や課題を学ばせていただくことが目的でございます》 と答えた。 双葉郡に進出加速か? 浪江町役場敷地内にある浪江診療所  浪江診療所の患者の処方を受け付けるだけでは元は取れない。だが、I&H取締役の岩崎氏は被災地へ進出する個人的な思いがあるようだ。 「岩崎氏は中学生の時に阪神・淡路大震災を経験したそうです。他人ごとではないという思いから、東日本大震災でも一薬剤師として被災地に支援に来ました。その時の写真も見せてもらいました。被災地の行く末を心配し、今回、薬局の進出を決めたそうです。将来的に経営が安定し、地元の薬剤師で希望者がいれば雇用したい考えもあるそうです」(前出の西課長) 大手調剤薬局グループは、調剤だけでなく、旺盛なM&Aを繰り広げ介護福祉事業、カフェやコンビニも展開している。地方の薬局で採算が取れなくとも、都市部の収益とその他の事業で黒字になればいいとチャレンジする余裕がある。 町が福祉事業を委託している浪江町社協で、行き当たりばったりの縁故採用が横行し、人手不足に陥っていることを考えると、I&Hのような全国に人員を抱える大手民間企業が町からデイサービスなどの委託事業を担うのも現実味を増す。 昨年2月の「薬局ゼロ解消」を目指すイベントには浪江町以外にも富岡、大熊、双葉の各町が参加した。I&Hはこのつながりを足掛かりに浜通りでの薬局開設を加速させるのだろう。さらに、休止が続く県立大野病院(大熊町)の後継病院への関与も見据えているはずだ。 原発被災地は、一時的に医療・医薬関連業が撤退を強いられ、空白地帯となった。一方、復興の名目で国や県の主導で事業が進む中、資本力のある大手にとっては新規開拓の土地でもある。 あわせて読みたい 福島医大「敷地内薬局」から県内進出狙う関西大手【I&H】

  • 【浪江町】吉田栄光町長インタビュー

    【浪江町】吉田栄光町長インタビュー

    よしだ・えいこう 1963年12月生まれ。浪江町出身。双葉高卒。県議を5期務め、自民党県連幹事長、県議会議長などを歴任。昨年7月の浪江町長選で初当選を果たした。  ――昨年7月に町長に就任しました。 「首長の仕事は想像以上に忙しいですね。職員とのチームワークも良くなっており、日々の行政執行は良い形でできています。当町は復興という大きなミッションがあります。前町長が行ってきた施策により、成熟しつつある分野と新たな分野がありますが、いずれも芽を出し始めており、民間企業からも多くの興味を示していただいています」 ――帰還困難区域の津島、末森、室原3地区内に設定された特定復興再生拠点区域の避難指示が3月31日、解除されます。 「3つの拠点に共通する産業は農業です。将来を見据えた農業の再建を進めるために、大規模化や効率化など、外部からの投資が活発化することを期待しています。 住民帰還に関しては、町民の5割以上が避難先で新たな居を構えていることや、帰還することの経済的な不安なども踏まえ、バランスよく考えていかなければなりません。ただ、この半年間、帰還意欲の高まりを感じています。福島国際研究教育機構(F―REI)やJR浪江駅周辺整備計画などの復興プランが表に出てきて、故郷とともに復興を肌で感じたい町民が多くなっているからだと思います」 ――F―REIと浪江駅周辺整備計画について。 「F―REIは浪江町だけのものではありません。浜通り全体として、研究者の方々の住みやすい環境を整えることが大切だと考えています。社会環境の変化や人口減少の時代を担う〝次の世代〟が競争力を持てる技術力や仕組みが必要であり、同機構にはその牽引役を担ってほしいです。浪江駅周辺整備事業は同機構におけるフロントの役割を担っています。復興まちづくりのためにこうした事業を成功させるには、周辺自治体を含めた国・県と町の協働(協同)が不可欠です」 ――育苗施設が供用を開始しました。 「既に稼働している『カントリーエレベーター』と育苗施設の完成によって、育苗から収穫後の乾燥までが担保されました。さらなる水田の利活用を促進するため、6次化を考えていかなければならないと思います。町の新たな特産品であるタマネギや花卉など、水稲以外にも多様化が必要だと思っています」 ――今後の抱負。 「今後、民間が投資しやすい環境を整え、経済の活性化を図っていきたい。現在、当町の町民は町内外にお住まいですが、興味を持っていただけることが、われわれにとって刺激になっています。町民が復興を支援できる・応援したくなるような町をつくっていくことが使命だと思っています」 浪江町ホームページ 掲載号:政経東北【2023年4月号】

  • 福島国際研究教育機構の予定地

    【浪江町】国際研究教育機構への期待と不安

     福島イノベーション・コースト構想の中核拠点となる福島国際研究教育機構が川添地区に整備される。どんな場所なのか、現地に足を運んだ。 利権絡みのトラブルを懸念する声  福島国際研究教育機構(略称F―REI=エフレイ)は▽福島・東北の復興の夢や希望となり、▽科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長や国民生活の向上に貢献する――ことを目的とした研究教育機関。福島復興再生特別措置法に基づく特別法人として国が設置した。理事長は金沢大前学長の山崎光悦氏。 ①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――の5分野に関する研究開発を進める。産業化、人材育成、司令塔の機能を備え、国内外から数百人の研究者が参加する見通し。2024年度以降、約10㌶の敷地に国が順次必要な施設を整備し、復興庁が存続する2030年度までに開設していく。 立地選定に関しては、原発被災地の9市町から15カ所の提案があった。交通アクセスや生活環境、福島イノベーション・コースト構想の推進状況など11項目の調査・評価により、浪江町の川添地区が選定された。県による選定を経て、国の復興推進会議で正式に決定した。 復興庁の資料によると、予定地はJR浪江駅近くの農地。社会福祉協議会や交流センター、屋内遊び場などを備えた「ふれあいセンターなみえ」の南西に位置する。 今年4月には仮事務所をふれあいセンターなみえの建物内に開設。施設基本計画を策定し、完成した施設から順次、運用をスタートする。 2022年度の関連予算は38億円。23年度予算案では、産学官連携体制構築に向けて146億円が計上された。29年度までの事業規模は約1000億円となる見込み。 県は国家プロジェクトを機に、数百人の研究者らの生活圏を広げるなどまちづくりに生かすことで、原発被災自治体の復興・居住人口回復を図りたい考えだ。 地権者によると、昨年12月に説明会が行われたが、ホームページなどで公表されている事業概要の説明に終始し、具体的な話には至らなかったという。 「予定地は農業振興地域で、震災・原発事故後は圃場整備が検討されたが、『農業を再開するつもりはない』という人が多くてまとまらなかった。そうした中で浮上したのがエフレイの立地計画です。農地の処分を考えていた地権者にとっては、渡りに船でした。国のプロジェクトなので、売却価格も期待できると思います」(ある地権者) 今回は期待に応えられるか  そうした中で、「利権絡みの動きには注意しなければならない」と釘を差すのが町内の事情通だ。 「『政経東北』で、同町末森・大堀地区で整備が計画されている競走馬施設計画地内の土地を、山本幸一郎浪江町副議長が事前に情報を得て取得していた疑惑が報じられていました(本誌昨年11月号参照=山本氏は「父親の主導で取得した土地が偶然計画地に入っていただけ」と主張)。山本氏に限らず、国家プロジェクトのエフレイ予定地で地元関係者のヘンな疑惑が浮上したら、復興ムードに水を差し、町が全国の笑いものになる。そのため、町関係者は警戒しているようです」 あわせて読みたい 全容が報じられた浪江町・競走馬施設計画  同町には福島水素エネルギー研究フィールドや福島ロボットテストフィールドなどが立地しているほか、約125億円を投じて浪江駅周辺再開発を進める計画も進行中だ。国や県の狙い通り、国内外の研究者や関係者が集い、関連企業の進出や商業施設の充実が加速して「研究・産業都市」ができれば、居住人口の回復が見込めよう。 もっとも、南相馬市の福島ロボットテストフィールドをはじめ、福島イノベーション・コースト構想の一環で整備された施設はいずれも中心部から外れた場所にあり、住民が目にする機会は少ない。 地元企業参入や定住人口増加、にぎわい創出などの効果はある程度出ているのだろうが、期待された役割を十分果たしているようには感じられない。そのため「今回もコケるのではないか」と心配する声が各方面から聞こえてくる。 そもそもそういう形で居住人口を増やすことが、住民が求める復興の在り方なのか、という問題もある。 さまざまな意味で同町川添地区の今後に注目が集まる。 あわせて読みたい 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」【エフレイ】  

  • 【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?

    【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?

     町営大平山霊園の改修費用を地縁団体(町内会や自治会のような組織)である大字請戸区が負担して進めようとしていたことが分かり、一部住民が反発している。背景には複合災害被災地ならではの事情がある。 申し出認めた町の対応に住民反発  東日本大震災により浪江町では182人が死亡し、441人が原発事故関連死として認定された。 請戸漁港が位置する請戸地区では、津波により死者95人、行方不明者24人の人的被害が発生した。同地区は住宅などの建築を制限する災害危険区域に指定され、住民は地区外への移住を余儀なくされた。 その請戸地区の住民により運営される地縁団体・大字請戸区について、複数の住民から本誌編集部に電話が寄せられた。 その内容は「大平山霊園の改修工事を大字請戸区の負担で行うのはいかがなものか」というものだ。 大平山霊園は津波で流失した墓地を再建するため、2015年に町が整備した。約400区画あり、請戸地区をはじめ、沿岸部に位置する両竹・中浜地区の住民が区画利用者となっている町営の霊園だ。 にもかかわらず、なぜか大字請戸区が発注者となる形で、霊園内に敷かれている玉砂利撤去と石板整備を実施しようとしているというのだ。 町建設課に確認したところ、電話で指摘されたことは事実であり、改修工事は大字請戸区の申し出により進められることになったという。 「『将来的な団体解散に向けて、資金を整理したい。こちらの負担で工事を行わせてほしい』と打診がありました。検討した結果、利用者の利便性向上につながるし、問題はないと判断し、道路管理者以外が工事を行う『承認工事』として進めることを認めました」(町建設課) 実は、大字請戸区では昨年3月に開かれた総会の時点で《大平山町営霊園の墓地周りと先人の丘(請戸地区共同墓地跡に整備された鎮魂の広場)の大字関係碑の周りの歩道を、車いすでも通れるように町へ要望する。又は、大字予算で施工する》とする議題を承認していた。 町議会6月定例会の一般質問では、請戸地区を地盤とする高野武町議がこの件について質問し、町建設課長は「国の補助を受け工事した。原則10年は改修して形状や機能を変えてはならないことになっている」と答弁していた。 ところが関係機関などに確認したところ、「全面改修でなく、第三者が一部改修する分には問題ない」という解釈だったため方針転換。前述の通り、「承認工事」として進めることになった。 昨年11月には町建設課が区画利用者に向けて、請戸行政区(大字請戸区)が改修工事を行う旨をファクスで周知。ここで事実が広く知られることになり、町議会12月定例会の一般質問では佐々木茂町議が「執行部への質問ではない」としながら、この問題を取り上げる一幕があった。 複数の住民によると、改修工事費用は「先人の丘」の分も含めて約1700万円。昨年には「先人の丘」の草刈りを行うためのロボットを300万円で購入し、町に寄付したという。将来的な解散に向けての清算のためとは言え、町にお金を投じまくっているのだ。 被災地の現状を象徴  請戸地区に住所を置きながら県外に避難しているという年配女性は憤りながらこう話す。 「災害危険区域に指定された行政区の住民は、津波で家族や友人を亡くし、故郷に住むことを禁じられた。自宅を自然災害で失ったので、住宅関連の原発賠償もわずかな金額しかもらえない。ただでさえ強い不公平感を抱いているのに、地縁団体のお金も町のために使われるのだとしたら、不満が募るのも当然です。両竹・中浜行政区では解散に向けてすべての現金を分配しているのに、請戸はそのように対応しようとしません」 こうした声を大字請戸区はどう受け止めるのか。区長に電話で問い合わせると「総会で承認され、ほぼ全員が賛成したので(疑問の声が出たことに)困惑している。1月中に役員による委員会が開かれるので、そこで取材を受けていいか確認する」と述べた。だが、期日を過ぎても電話はかかってこず、そのまま音信不通となった。 やむなく別の役員に連絡したところ、「地縁団体の解散を静かに進めたい。一人の反対意見を聞いて報道で騒ぎ立てるのは住民を傷つける行為。記事にしないでほしい」と訴えた。 役員らの口ぶりからは、「特定の人物にイチャモンを付けられて参っている」という〝本音〟が透けて見えた。ただ冒頭で述べた通り、本誌には複数の住民を名乗る人物から意見が寄せられた。取材拒否するのは自由だが、住民から幅広く意見を聞く必要があるのではないか。 同町の事情に詳しい男性は次のように分析する。 「団体などの総会に参加せず、運営に興味も示さないのに、後から決議内容を知り文句を言ってくる人は確かにいる。全国に避難者がいる分、その傾向は強くなっている。また、町内の行政区(地縁団体)は共有地や集会所の原発賠償などで収入増になっているという事情もある。その使い道に困っているところが多く、大字請戸区もやむを得ず町のために使おうと考えたのではないか」 一方で、この男性は次のようにも指摘する。 「だとしても、町営霊園の改修工事を地縁団体が担うのはさすがに違和感がある。町が地縁団体に補助金を出すこともあり得るわけで、そうした関係性も考慮し、申し出は断るべきだったと思います」 複数の住民によると、1月中に行われた委員会で、大字請戸区による改修工事は中止する方針が決められたようだ。 現住人口ゼロの請戸地区で起きた騒動。ある意味、複合災害被災地の現状を反映していると言えよう。 あわせて読みたい 浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

  • 悪評絶えない山本幸一郎【浪江町】副議長

    悪評絶えない山本幸一郎【浪江町】副議長

     本誌2022年8月号に掲載したのは「山本幸一郎浪江町副議長に怪文書 家業の建設会社急成長に疑惑の目」という記事。内容は編集部宛てに届いた山本氏への批判メールの内容を検証し、本人に直撃したもの。 議員の資質が問われる〝傍若無人ぶり〟  公職選挙法第92条の2では、自治体議員がその自治体から仕事を請け負う会社の役員に就くことを禁じている(兼業禁止)。そのため、山本氏は家業の建設会社・平成建設の役員から退いている。ただ、実際は副議長の立場を利用して多くの仕事を得ており、会社は急成長している。7月の町長選で新町長となった元県議・吉田栄光氏とは仲が良く、その威光もあって、ゼネコンの下請けに入っている――。以上がメールの概要だ。 実際、平成建設はここ数年業績を伸ばしている(別表参照)。震災・原発事故前の売上高は1億2000万円前後だったが、近年は数億円規模となっており、2020年12月期には売上高14億0400万円、当期純利益1億1600万円を計上。安藤・間が元請けの農地除染や被災建物解体工事に下請けとして入っているほか、町発注の農業用施設保全整備工事を元請けで受注していた。  山本氏はどう受け止めるのか。本人を直撃すると、「議員の立場を利用して入札情報を得たわけではなく、誰でも入手できる形で情報を得たに過ぎない」と主張した。 そのほかメールで指摘されていた点については、「大手ゼネコンから浪江町復興事業協同組合に打診があり、複数社で請け負っている」、「事情が分からない役場職員に対しては、怒ってしまうというかつい大きな声でやり取りしてしまう」、「町長選では吉田栄光氏の選対幹事長を務めた。町長選も意識して送信されたメールかもしれない」と話していた。 そのため、記事では、「町内で存在感を増す山本氏に対し、敵意を抱く人物がメールを送ったのではないか」と書いた。 ところが、その後、過去に取材したことのある複数の浪江町民や浜通りの建設業界関係者から「山本氏は役場職員だけでなく、同業者に対しても乱暴な言動を見せたり、強引に仕事を取ることがあるので嫌われている。何件もトラブルになっている」と指摘が入ったのだ。 ある町民はこう話す。 「いま、この地域には復興関連で大手ゼネコンをはじめ、他地区からさまざまな業者が入っているが、地域の実情を知らない人は、『議員』『副議長』という肩書きを持つ山本氏を信用して近づいてくる。山本氏(平成建設)はそれでパイプを作り、大手ゼネコンの復興事業の下請けに入って、かなりの仕事を得たのは間違いない。本人はそのつもりはないかもしれないが、『議員』『副議長』という肩書きがなければそれは叶わなかったでしょう。南相馬市内の飲み屋で、山本氏と大手ゼネコンの現地所長クラスが飲み歩いている姿を何度も見かけた。そういう意味では、『議員』『副議長』の肩書きを使って、平成建設の営業活動をしていると捉えられても仕方がないでしょうね」 同業者から多数の〝被害〟報告  一方、浜通りの建設業界関係者は次のように証言する。 「記事にあったように、山本氏は気性や口調が荒く、同業者に対しても義理を欠く対応を取ることがある。それでも、町内では相応の影響力があり、今回、親しい吉田栄光氏が町長になったことで、さらに力を持つことになった。皆、それぞれの仕事や生活があるから、不満に思っていてもなかなか言い出せないのです。だから、『政経東北』に告発した人に対しては、匿名とはいえ、『勇気あるな』『よく言ってくれた』という人が多かったのです」 平成建設の事務所  平成建設と過去に仕事をしたことがある複数の建設業界関係者に当たったところ、「詳細に記すと誰が言ったか分かり、仕事の上で不利益になることが予想されるため、記事で具体的に書かないでほしい」という人がほとんどだった。 ただ、彼らの話を統合すると、「この仕事を手伝ってほしい」とか、「あそこの現場に何人か人を出してほしい」ということがあり、正式に契約書を交わさずに仕事に入った後、トラブルに巻き込まれたケースが多々あったようだ。 「最初に言っていた条件と違うとか、最初に話していた以上の仕事をやらされることになったとか、そういった事例がよく知られている。近隣の土建業者はみな直接的に関わるのを避け、陰で愚痴を言い合っている」(建設業界関係者) 8月上旬には編集部宛てに新たな匿名投書も寄せられた。 《記事では山本氏が「父が半年前に倒れてからは私が金勘定を担当するようになった」と話していたが、実際はその前からすべての実権を握っている。仕事の打ち合わせから段取りなどすべて行っていた》 《山本氏は役場、業界関係者に対し、気に入らないことがあればすぐに声を荒げて恫喝し詰め寄ってくるので、関係者の間では山本氏に会わないようにするのが基本。会社に乗り込み暴言、恫喝等、日常的に行っている》 まるで〝被害者の会〟でも組織されたような勢いで本誌に寄せられる山本氏関連の情報の数々。要するに、「町内で存在感を増している山本氏」に敵意を抱いて怪文書メールが送られたわけではなく、もともと評判が悪い人物だったわけ。 山本氏は1968年4月生まれ。浪江町出身で、大堀小学校、浪江中学校、双葉高校卒。2007年に平成建設社長に就任。2009年、浪江町議選で初当選したのに伴い社長を退任。山本氏の妻・博美氏が社長を務め、山本氏は同社社員となっている。もっとも、山本氏が経営を取り仕切っているのは周知の事実だ。 山本氏の父親・幸男氏は山本牧場(同町末森地区=原発事故で帰還困難区域に指定)を経営するかたわら、同町議を8期務め、議長経験もある。 町内のある議員経験者は山本親子をこう評価する。 「幸男さんは3回も議長不信任案が出されるなど、議会のトラブルメーカー的存在として取り沙汰されることが多かった。幸一郎くんはそこまで目立ってはいないが、〝瞬間湯沸かし器〟で、納得できないことがあるとすぐ大声を出す。〝ヤンチャ〟な武勇伝も知られています」 山本氏が毎年参加している相馬野馬追の騎馬会や、大手ゼネコン事務所などでも大声を出し机をひっくり返して暴れていた――という目撃談も複数の町民から得られた。 「よく知られているのは、町内某企業の創立記念パーティーの二次会で、知人に暴力を振るった事件です。周囲に人がいる中だったのでウワサになり、『月刊タクティクス』に匿名で書かれました」(ある町民) 町議4期目。副議長を務めるベテラン議員だが、同僚町議からは「議員という立場をわきまえない言動が多くて敬遠されている」、「政治的行動を共にする同士はいない」という本音が聞かれる。 農地取得と競走馬施設の関係  そんな山本氏にとって強い味方となっているのが吉田栄光氏だ。子どものころから親密で、町長選では山本氏が吉田氏の選対幹事長を務めた。2人の関係を象徴すると言われているのが、同町末森・大堀地区で整備が計画されている競走馬施設(本誌9月号既報)だ。 民間事業者主体の計画とされているが、吉田氏が誘致に前向きだったとされており、「吉田町長の息子らが経営するランドビルドという会社が運営に携わるらしい」(前出・ある町民)と言われている。 一方、山本氏は帰還困難区域の末森地区や大堀地区などで営農意思がない農家から農地を取得している(本誌8月号既報)。そのため「吉田氏を通して施設が整備されることを知った山本氏が、周辺施設なども想定して土地を先行取得しているのだろう」という見方が広まっているのだ。 吉田氏に事実関係を確認したところ、「競走馬施設の計画が浮上しているのは事実であり、とても期待している。ただ具体的な段階ではないし、(吉田氏の子どもの会社は)運営に携わるというものではなく、お手伝いした程度」とコメントした。 ランドビルドの吉田学人氏にコメントを求めるとこう話した。 「私が乗馬を趣味としていることを知って、先方から相談を受けたのです。地域のためになる事業と感じたので、ほかの人を紹介するなどしてお手伝いしましたが、運営などに携わる予定はありません。そのようなウワサが出ているのは承知していましたが、事業主は全く別の方なので、どう対応すればいいか困惑していました」 山本氏に話があったのかどうかは判然としないが、競走馬施設の計画と山本氏の農地取得、タイミングが良すぎるのは事実だ。 10月下旬、再び山本氏を直撃し悪評が相次いでいることに対し、意見を聞いた。 まず大手ゼネコンの現地所長クラスと飲み歩いている点についてはこう話した。 「年に数回飲みに行く友達グループの中に、大手ゼネコンの現地所長経験者がいるのは事実。ただ、いまはそのゼネコンの下請けに入っているわけではないし、自分が直接的に酒席に招くことはない」 同業者とのトラブルに関しては、「そうしたトラブルになった記憶はない。特に思い当たらない」と語った。複数の業界関係者から話を聞いているが、事実ではないということか、それともより詳細に話せば記憶がよみがえることもあるのか。 騎馬会や大手ゼネコン事務所で大暴れした――という話に関しては次のように答えた。 「騎馬会の〝役付け〟をめぐり、声を荒げて異議を唱えるのはみんなやっていたこと。自分だけがことさら取り上げられるのは違和感がある。それに机をひっくり返して大暴れした記憶はない。誰かと勘違いしているのではないか」 「大手ゼネコンに関しては除染漏れの個所があったので、呼びつけて怒鳴ったことが何度かある。事務所で大暴れした記憶はない」 ウワサを否定する山本氏だが、町内某企業の創立記念パーティーの二次会で、知人に暴力を振るった点は「本当にあったことです」とあっさり認めた。 「酒癖の悪い知人を諫める目的で叩いたらもみ合いになり、周りに止められた。事件化はしなかったが、議員という立場にありながら手を出したことを反省しています」(山本氏) 競走馬施設用地の先行取得に関しては「同施設の計画が浮上したのは半年ほど前。うちの父親(幸男氏)が山本牧場付近の農地を取得し始めたのが3年前。計画に合わせて先行取得したわけではありません」とウワサを否定した。 一方で、「計画地は山麓線(県道35号いわき浪江線)から1㌔ほど山側に入っていったところになる見込み。実はそちらにもわずかですが私の所有地が含まれています」と自ら明かした。競走馬施設に合わせて土地を先行取得したわけではないが、偶然所有地の一部が計画地に入っていた――山本氏はそう主張したいようだ。そう言いつつも計画地はしっかり把握していたわけで、意識はしていたのではないか。 「酒飲みに出かけるのはやめる」 山本幸一郎氏(浪江町議会HPより)  一通り話を聞いた後、山本氏は「自分が認めていないウワサまで誌面で紹介されるのは違和感がある」と語った。それならば、本人にとって都合のいい情報しか記事には書けないことになる。真面目に活動している議員であれば、これほどヘンなウワサが流れることはないだろう。怪文書が送られてきたという記事に対し、同業者から「勇気あるな」「よく言ってくれた」という声が上がるのはよほどのことだ。 言葉の端々からいかにも相馬野馬追出場者らしい熱い性格で、仲間への面倒見のよさが伝わってくる。業界関係者もそのことは認める。しかし、それ以上に公人らしからぬ傍若無人ぶりが際立っている。 「議員なのに建設会社の社長のようにふるまい、ゼネコンの現地所長と堂々と飲み歩く。そのことを指摘されれば〝いまは仕事をしていないゼネコン〟とうそぶく。公禄をはむ〝公人〟という自覚に欠けているのではないか」(建設業界関係者) 山本氏に関する情報は現在進行形で寄せられている。一つは山本牧場の件だ。山本氏の父親・幸男氏が病気で倒れ、山本牧場において研究名目で飼われていた牛が殺処分された。それらの死体について、「家畜保健所に届け出せず牧場敷地内に埋めたのではないか」とウワサになった。 山本牧場  ただ、家畜保健所に確認したところ、原発事故により指定された旧警戒区域において、原発事故発生当時生きていた牛は殺処分して敷地内に埋設するよう方針が示されており、それに基づいていたので問題がないことが分かった。「家畜保健所担当者の立ち合いのもと、埋めました」(山本氏)。 このほか、下請け会社から出向している社員について、雇用の〝グレーさ〟を指摘する声もあった。 山本氏は記者に対し「酒飲みは好きだが、友達グループと酒飲みに出かけるのはやめる。前回記事を受けて、職員に対し大声を出すのもやめた」と語った。どこまで真剣かは分からないが、周囲からは自分が想像している以上に冷ややかな目で見られていることを意識すべきだ。 あわせて読みたい 【吉田栄光町長の側近】山本幸一郎【浪江町】副議長に怪文書

  • 【 浪江町社会福祉協議会 】パワハラと縁故採用が横行 浪江町社協が入る「ふれあいセンターなみえ」

    浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

     浪江町社会福祉協議会が、組織の統治・管理ができないガバナンス崩壊にある。一職員によるパワハラが横行し、休職者が出たが、事務局も理事会も対処できず指導力のなさを露呈。事務局長には縁故採用を主導した疑惑もあり、専門家は「福祉という公的な役割を担う組織のモラル崩壊は、サービスを受ける住民への不利益につながる」と指摘する。 ガバナンス崩壊で住民に不利益  2022年6月、浪江町に複合施設「ふれあいセンターなみえ」がオープンした。JR浪江駅に近く、帰還した町民の健康増進や地域活性化を図る役割が期待されている。敷地面積は約3万平方㍍。デイサービスなどの福祉事業を担うふれあい福祉センターが入所し、福祉関連の事業所が事務所を置いている。福祉センター以外にも、壁をよじ登るボルダリング施設や運動場、図書室がある。 福祉センターは社会福祉法人の浪江町社会福祉協議会(浪江町社協)が指定管理者を務めている。業務を開始して3カ月以上が経った福祉センターだが、ピカピカの新事務所に職員たちは後ろめたさを感じていた。開設に尽力した人物が去ってしまったからだ。 「指定管理者認定には、40代の男性職員が町と折衝を重ねてきました。今業務ができるのも彼の働きがあってこそです。ところが、彼はうつ病と診断され休職しています。10月に辞めると聞きました。今は代わりに町職員が出向しています。病気の理由ですか? 事務局の一職員からのパワハラがひどいんです。これは社協の職員だったら誰もが知っていることです」(ある職員) パワハラの実態に触れる前に、浪江町社協が町の代わりに住民の福祉事業の実務を担う公的な機関であることを明らかにせねばならない。それだけ役割が重要で、パワハラが放置されれば休職・退職者が続出し、せっかく帰還した住民に対するサービス低下も免れないからだ。 社協は福祉事業を行う社会福祉法人の形態の一つ。社会福祉法人は成り立ちから①民設民営、②公設民営、③公設公営の三つに分けられ、社協は国や行政が施設を建設し、運営委託する点で③に含まれる。職員も中枢メンバーは設置自治体からの出向が多く、行政の外郭団体である。 浪江町社協の2021年度の資金収支計算書では、事業活動収入は計2億2400万円。うち、最も多いのが町や県からの受託金収入で1億5300万円(約68%)。次が町などからの補助金で4460万円(約19%)となっている。22年度の町の予算書によると、同社協には3788万円の補助金が交付されている。法人登記簿によると、同社協は1967(昭和42)年に成立。資産の総額は4億7059万円。現在の理事長は栃本勝雄氏(浪江町室原)で2022年6月20日に就任した。 前理事長は吉田数博前町長(同町苅宿)が兼ねていた。予算上も人員上も自治体とは不可分の関係から、首長が理事長を務めるのは小規模町村では珍しくない。吉田前町長も慣例に従っていた(2022年5月の町議会第2回臨時会での吉田数博町長の答弁より)。ただ、首長が自治体と請負契約がある法人の役員に就くことを禁じた地方自治法第142条に反するおそれがあり、社会福祉法人としての独立性を保つ観点から、近年、自治体関係者は役員に就かせない流れにある。同社協も吉田数博町長が引退するのに合わせ、2022年度から理事長を町長以外にした。 同社協の本所は前述・福祉センター内にある浪江事務所。原発災害からの避難者のために福島市、郡山市、いわき市に拠点があり、東京にも関東事務所を置く。職員は震災後に増え、現在は50人ほどいる。 事務局長「職員からの報告はない」 【浪江町】複合施設「ふれあいセンターなみえ」  問題となっているパワハラの加害者は、浪江事務所に勤める女性職員だという。この女性職員は、会計を任されていることを笠に着て同僚職員を困らせているようだ。例えば、職員が備品の購入や出張の伺いを立てる書面を、上司の決裁を得て女性職員に提出しても「何に必要なのか」「今は購入できない」などの理由を付けて跳ね返すという。人格を否定する言葉で罵倒することもあるそうだ。 一方で、女性職員は自分の判断で備品を購入しているという。ある職員は、女性職員のデスクの周りを見たら、新品の機器が揃えられていたことに唖然とした。 「彼女は勤務年数も浅いし、役職としては下から数えた方が早いんです。会計担当とはいえ、自由にお金を使える権限はありません。でも高圧的な態度を取られ、さらには罵倒までされるとなると、標的にはなりたくないので、誰も『おかしい』とは言えなくなりますね。発議を出すのが怖いと多くの職員が思っています」(ある職員) 職員たちは職場に漂う閉塞感を吐露する。休職・退職が相次ぎ、現場の負担が増した時があった。当時は「あと1人欠けたら職場が回らなくなる」との思いで出勤していたという。次第に女性職員の逆鱗に触れず一日が終わることが目的になった。「いったい私たちは誰をケアしているんでしょうね」と悲しくなる時がある。 休職し、退職を余儀なくされた男性職員は女性職員より上の役職だ。しかし、女性職員から高圧的な態度を取られ、部下からは「なぜ指導できないのか」と突き上げを食らい、板挟みとなった。この男性職員を直撃すると、 「2021年春ごろから体に異変が起こり、不眠が続くようになりました。心療内科の受診を勧められ、精神安定剤と睡眠導入剤を処方されるようになり、今も通院しています」(男性職員) 心ない言葉も浴びせられた。 「2022年春に子どもの卒業式と入学式に出席するため有給休暇を取得しました。その後、出勤すると女性職員から『なんでそんなに休むの?』と聞かれ『子どもの行事です』と答えると『あんた、父子家庭なの?』と言われました」(同) 子どもの行事に出席するのに母親か父親かは関係ない。他人が家庭の事情に言及する必要はないし、女性職員が嫌味を言うために放った一言とするならば、ひとり親家庭を蔑視している表れだろう。そもそも、有給休暇を取得するのに理由を明らかにする必要はない。 筆者は浪江事務所を訪ね、鈴木幸治事務局長(69)=理事も兼務=にパワハラへの対応を聞いた。 ――パワハラを把握しているか。 「複数の職員から被害の訴えがあったと聞いてびっくりしています。そういうことがあるというのは一切聞いていません」 ――ある職員は鈴木事務局長に直接被害を申し出、「対応する」との回答を得たと言っているが。 「その件は、県社会福祉協議会から情報提供がありました。全事務所の職員に聞き取りをしなくてはならないと思っています」 ――パワハラを把握していないという最初の回答と食い違うが。 「パワハラを受けたという職員からの直接の報告は1人もいないということです。県社協からは情報提供を受けました。聞き取りをしますと職員たちには伝えました」 ――調査は行ったのか。 「まだです。前の事務所から移ったばかりなので。落ち着くまで様子を見ている状況です」 加害者として思い当たる人物はいるかと尋ねると、「パワハラは当事者同士の言葉遣い、受け取り方によりますが、厳しい言い方があったのは確かで私も注意はしました。本人には分かってもらえたと思っています」と答えた。 本誌は栃本勝雄理事長と吉田数博前理事長にパワハラを把握していたかについて質問状を送ったが、原稿締め切りまでに返答はなかった。 「事務局長や理事長の責任放棄」  専門家はどう見るのか。流通科学大(神戸市)の元教授(社会福祉学)で近著に『社協転生―社協は生まれ変われるのか―』がある塚口伍喜夫氏(85)は「パワハラ」で収まる問題ではないという。 「役職が下の職員が上司の決裁を跳ねのけているのなら、決裁の意味が全くないですよね。個人のパワハラというよりも、組織が機能していない方がより問題だと思います。改善されていないのであれば事務局長や理事長の責任放棄です」 加えて、社協においても組織のガバナンス(管理・統治)の重要性を訴える。 「組織のガバナンスとは、任されている立場と仕事を果たすための環境を保持していくことです。業務から私的、恣意的なことを排除し、利用者に最上のサービスを提供することが大切です」(塚口氏) 事実、浪江町社協の職員たちはパワハラの巻き添えを食らわないよう自分のことに精いっぱいだ。利用者の方を向いて100%の仕事ができている状況とは言えない。 事務局長と理事長の対応に実効性がないことは分かったが、鈴木事務局長をめぐっては「別の問題」が指摘されている。縁故採用疑惑だ。 複数の職員によると、鈴木事務局長は知人の子や孫を、知人の依頼を受け積極的に職員に採用しているという。これまでに4人に上る。知人をつてに、人手不足の介護士や看護師などの専門職をヘッドハンティングしているなら分かるが、全員専門外で事務職に就いている。職員によると、採用を決めてから仕事を探して割り振るという本末転倒ぶりだ。 疑惑は親族にまで及んだ。前理事長の吉田前町長の元には、2022年度初めに「鈴木事務局長が義理の弟を関東事務所の職員に据えているのはどういうことか」と告発する手紙が届いたという。当初は義弟が所有する茨城県内の物件を間借りして関東事務所にする案もあったとの情報もある。義兄が事務局長(理事)を務める社協から、義弟に賃料が払われるという構図だ。 しかし、鈴木事務局長は「縁故採用はない」と否定する。 「職員を募集しても、福祉施設には応募が少ない。『来てくれれば助かるんだが』と話し、『家族と相談して試験を受けるんだったら受けるように』と言っただけです」 ――事務職は不足しているのか。 「町からの委託事業が多いので、それに伴った形で採用しています。正職員ではありません。なかなか応募がないので、知り合いを頼って人材を集めるのが確実です。募集もハローワークを通して、面接も小論文も必ず私以外の職員を含めた3人で行います。ですから、頼まれたから採用したというのは違います」 社協の意思決定は吉田前理事長を通して行ってきたと言う。 「やっていいかどうかの判断は私でもできます。一人で決めているわけではないです。別の職員の反対を押し切ることはありません。『ここの息子さんです』『あそこのお孫さんです』ということはすべて吉田前理事長に前もって説明していました。私が勝手にやったことは一度もありません」 ――介護士や看護師などの専門職は人手不足だが、その職種の採用を進めることはなかったのか。 「それはしていません。その時は介護士が必要な仕事を町から請け負ってなかったので、そもそも必要なかったのです。7月からデイサービス施設などを開所したことにより、介護士が必要になりました。ただ、そのような(縁故採用)指摘を受けたことの重大性は認識しており、個人的に応募を呼び掛けるのは控えるつもりです」 ――親族の採用については。 「試験を受けてもらい、復興支援員として関東事務所に配置しています。募集をかけても人が集まらない中、妻の弟が仕事を辞めたと聞き、『試験を受けてみないか』と打診しました。一方的に採用したわけではなく、私以外の職員2人による面接で選びました」 ――公募期間はいつからいつまでだったのか。 「なかなか集まらなかったので、長い期間募集していました。ただ、町からは『急いで採用してほしい』と言われていました。詳しい期間は調べてみないと分かりません」 「縁故採用は組織の私物化の表れ」  親族が所有する物件への関東事務所設置疑惑については、 「義弟が茨城県取手市で物件を管理しているので、いい物件が見つからない場合は、そこに置くのも一つの方法だな、と。ただ、それはやっていません」 ――交通の便が良い都心の方が避難者は利用しやすいのでは。 「関東に避難している方は茨城県在住の方が多いんです。近い方がいいのかな、と。それと首都圏で事務所を借り上げると、細かい部分が多いんですね。不動産業者を通して物件を探したが、なかなか見つからなかった。そこで、もし義弟の物件が空いているならと思って。ただ、身内の不動産を借りたとなると、いろいろ言われそうなのでやめました」 ――借りるのをやめたのは吉田前理事長の判断か。 「私の判断です。上に決裁は上げていませんので」 ――どうして都心の事務所になったのか。 「もう1人の職員が埼玉県草加市在住なので、どちらも通える方がいいですし、茨城だけに集中するわけではないので、被災者と職員の両方が通いやすいように、アクセスの良い都心がいいかなと考えました。義弟の物件を一時考えたのも、不動産業者を通すより手続きが簡素で、借りやすいという利点がありました。仮に義弟の物件を選んだとして、他の物件と比べて1円でも多く払うということはありません」 初めは「関東の避難者は茨城に多い」と答えていたが、いつの間にか「避難者は茨城だけに集中するわけではない」と矛盾をきたしている。 前出・塚口氏に見解を聞いた。 「公正に募って選別するというルートを踏むのが鉄則です。縁故採用が事実なら、組織を私物化した表れと言っていいでしょう。本来は誰がどこから見ても公正な採用方法が取られていると保証されなければなりません。それが組織運営の公正さに結びつきます。福祉事業は対人支援です。最上の支援は、絶えず検証しながら提供していくことが大事です。そこに私的なものや恣意的なものが混じってくると、良いサービスは提供できないと思います」 ガバナンスがきちんとしていないと、福祉サービスにも悪影響が出るというわけだ。浪江町社協には、町や県から補助金が交付されている。町民や県民は同社協の在り方にもっと関心を持ってもいい。

  • 【吉田栄光町長の側近】山本幸一郎【浪江町】副議長に怪文書

    【吉田栄光町長の側近】山本幸一郎【浪江町】副議長に怪文書

     2022年6月中旬、浪江町副議長の山本幸一郎氏(54、4期)に関する疑惑を綴ったメールが本誌編集部に寄せられた。山本氏が町議の立場を利用して、家業の建設会社の仕事を得ている――とする内容。山本氏に真偽のほどを聞いてみた。 家業の建設会社〝急成長〟に疑惑の目 怪文書メール  メールは匿名で送られてきた。受信日時は6月18日。ポイントは以下のようなもの。  〇浪江町議会副議長の山本幸一郎氏は、妻が平成建設の社長を務めているが、本人がいまも実質的な社長業を行っている。 〇町役場内で議員の立場を利用し、町工事や復興事業関係の入札情報を入手して仕事を得ている。 〇大手ゼネコンの下請に無理やり入り、好条件の請負金をせしめる行為が目立っている。 〇業界の鼻つまみ者だが、副議長であることや、浪江町長選で当選確実の吉田栄光氏(※編集部注・7月10日投開票の同町長選で6339票を獲得して初当選した)の威光もあり、大手ゼネコンのJVなどは仕方なく下請に入れている。 〇役場内で職員を恫喝し、次長課長クラスには必要な情報を出すようすり寄っている。復興事業で突然成金になった輩が「もっと金儲けさせろ」と守銭奴のごとく迫っているようで気持ち悪さがある。 〇浪江町にはいかがわしい議員がほかにもいる。町の政治をクリーンで適切なものとするため、こうした勘違い議員をただしていく必要があるのではないか。 公職選挙法第92条の2では、自治体議員がその自治体から仕事を請け負う会社の役員に就くことを禁じている(兼業禁止)。山本氏は家業の建設会社の役員から退いたものの、実際は副議長の立場を利用して多くの仕事を得ており、会社は急成長を遂げている――と指摘しているわけ。  山本氏は1968年4月生まれ。双葉高卒。2007年に平成建設社長に就任。2009年、浪江町議選に初当選したのに伴い社長を退任し、現在は同社社員として勤務。2021年4月の改選で4選を果たし、副議長を務める。山本氏の父・幸男氏も、同町議を8期務め、議長経験もある。 平成建設は1989年3月設立。資本金1000万円。従業員数24人(役員4人含む)。もともと牧場を経営していた幸男氏が立ち上げた(初代社長は幸男氏夫人のシヅ子氏)。所在地は、同町末森(すえのもり)地区だったが、原発事故で帰還困難区域に指定されたため、拠点を南相馬市原町区に移し、2018年に同町小野田地区に再移転した。 大手ゼネコンの下請として浪江町内の戸建て住宅建築や建物の解体工事、除染作業を手掛けているほか、一般顧客の整地工事や個人住宅の造成工事なども請け負っている。 役員は、代表取締役社長が山本氏の妻・山本博美氏。取締役が山本シヅ子氏、山本正幸氏、監査役が川村香代子氏。 民間信用調査機関によると、業績は別表の通り。震災・原発事故前の売上高は1億2000万円前後だったが、近年は数億円規模になり、2020年12月期には1億円超の当期純利益を計上した。  メールによると、町議の立場を利用して浪江町発注工事や復興事業に関係する入札情報を入手し、大手ゼネコンの下請に入っている、という。 相双建設事務所で同社の工事経歴書を閲覧したところ、業績が一気にアップした2019年から2021年にかけて、確かに大手ゼネコンが手掛ける被災建物の解体撤去工事や除染工事の下請に入っていた。 例えば2021年は安藤・間が元請の農地除染(請負金3億2470万円)と被災建物解体工事(同4500万円)を受注していた。 また、町発注工事に関しても、2020年に農業用施設保全整備(同1億2200万円)、2021年に小野田取水場造成工事(同1億7800万円)を元請で受注していた。 町議の立場を利用したかどうかは分からないが、復興事業や町発注工事を受注していたのは確かなようだ。 「業界の鼻つまみ者」、「大手ゼネコンのJVなどは仕方なく下請に入れている」という点が事実かどうかは確認できなかったが、「役場内で職員を恫喝し、次長課長クラスには必要な情報を出すようすり寄っている」という記述に関しては、町役場に出入りしている人物が次のように証言した。 「役場内で職員に大声で質問しているところを何度も見かけた。別のフロアにいてもその声が聞こえてきたほど。少なくとも第三者からは怒って話しているように見えました」 町内の事情通がこう解説する。 「〝導火線〟が短いタイプで、担当者などの回答が要領を得ないと大声になり、言葉遣いもすぐ荒くなる。いまの役場職員は震災・原発事故後に入庁したり、国・他市町村から応援で入っている人が大半で、地域事情をよく理解していないことが多いので、そうなりやすいのかもしれません。議会でも執行部とのやり取りの中で言葉遣いが荒くなり、何度か注意を受けていると聞いた。本人は自覚がないかもしれませんが、周りの受け止め方は違う」 いささか厳しい批判メールについて、当の本人はどう受け止めるのか。7月下旬、山本氏の自宅敷地内にある同社を訪ね、直接話を聞いた。 山本氏を直撃 山本幸一郎氏(浪江町議会HPより)  ――平成建設の実質的な社長業を山本氏が務めていると記されていた。 「厳密に言えば、この間実質的に経営を担ってきたのは私の父です。ただ、半年前に脳梗塞で倒れてしまったので、いまは私が〝金勘定〟を担当しています。もちろん、(公選法で禁じられているので)役員には就いていません」 ――議員の立場を利用し、町工事や復興事業に関係する入札情報を入手して仕事を得ているのでは、という指摘をどう受け止めますか。 「議員活動をしていれば、確かに予算策定の段階で次年度の事業について情報を得やすい。ただ、それらの情報は広報されており、誰でも入手できるもの。そもそも近年出ている町発注工事は規模が大きいものばかりで、入札参加資格がB、Cクラスのうちが応札できるものは少ない。(前出の)小野田取水場造成工事はうちの近所で、何としても取りたかったので、かなり〝叩いた〟金額で応札して取れましたけどね」 ――「大手ゼネコンの下請に無理やり入り、好条件の請負金をせしめている」という一文もあった。 「実際は大手ゼネコンから浪江町復興事業協同組合に打診があり、複数社で請け負っています。うちの会社が立地していた末森地区は特定復興再生拠点区域となっており、除染や建物解体工事が行われるということで、そこの下請には入れていただきました。地の利を生かせるということで、少し多めに(担当エリアを)配分していただいたと思いますし、危険手当分なども加味されているので割高な請負金になっています。ただ事情を知らない人には、議員の立場を使って仕事を取り、好条件な請負金を受け取っているように見えるかもしれません」 ――「議員として役場内で職員を恫喝している」という意見については、第三者からも証言を得ている。 「農業委員など地域のさまざまな役職を務めているので、2日に1度は役場に足を運び、担当課の職員と話をしています。ただ、事情が分からない職員も多く、怒ってしまうというか、つい大きな声でやり取りしてしまうのは事実です。建設課には町発注工事を受注している関係で確認のため訪ねることがありますが、それ以外で行くことはないです」 ――差出人に思い当たる節は。 「関係あるかどうかは分かりませんが、少し前に業界関係者とちょっとしたトラブルになったことがあり、(メールの内容と)同じようなことを指摘されたことがありました」 ――吉田栄光氏との関係にも触れられているが、これについては。 「父と付き合いがあり、私は中学生のときから何かとお世話になっているので、『他社より仕事を多くもらえているのではないか』とよく揶揄されていますが、さすがに県議の立場の方がそんなことはしません。町長選では吉田栄光氏の選対幹事長を務めました。町長選も意識して送信したのかもしれませんね」 疑惑のメールに対し、事実と異なる部分を丁寧に訂正し、同社の役員から退いているので公選法には抵触しない、と主張したが、「職員を恫喝」という指摘に関しては、そう疑われる行為をしていたと自ら認めた格好だ。町職員が町議から厳しい態度で詰められれば、立場の強さを利用したパワハラと受け取られかねない。まずは職員に対する姿勢を見直すべきだろう。 なお、町建設課にも確認したところ、「議員活動の一環として、事業の進捗状況などについて問い合わせがあれば説明することもあるが、未確定の情報について教えるようなことはない」と説明した。 言動を改めるべき  それにしても、誰がどんな目的でこのようなメールを送ったのか。 考えられるのは、年々町内での存在感を増す山本氏に対し敵意を抱く人物だろう。町議会副議長に就任し、家業の平成建設は復興需要で業績を伸ばしている。親密な関係の吉田栄光氏は新町長に就任する。そんな山本氏を疎ましく思う人物が悪評を綴ったのではないか。 そもそも山本氏の父・幸男氏からして、3回も議長不信任案が出されるなど議会のトラブルメーカー的存在だった。 本誌では2008年5月号に「違法墓地経営の浪江町議会議長に産廃不法投棄の仰天事実!!」という記事を掲載している。 県の相双地方振興局に「平成建設が山林に大量の建設廃棄物を不法投棄している」と通報が入った。現地を確認すると、建設廃棄物が野積みされ、埋められたものも確認できたため、同社に改善指導を行っていた。 2000年に建設廃棄物の分別解体と再資源化を義務付けた建設リサイクル法が定められていたが、当時同社の社長を務めていた山本氏らは同振興局に対し、「リサイクル法を知らなかった」と答えたという。 当時の本誌取材に幸男氏は「廃棄物は現在のように廃掃法が厳しくなる以前のもの」、「息子(山本氏)は『土の中から出て来た廃棄物は昔に埋めたもので、今は法律に基づいて適正に処理している』と説明した」、「掘り起こした廃棄物は(廃掃法の対象になるので)県の改善指導を受けて適正に処理した」と答えていた。 複数の町民によると、町長選には当初議長の佐々木恵寿氏(6期)が意欲を示していたが、「対立候補が出たとき、割れる可能性がある」という判断から候補者を調整し、議会を挙げて吉田栄光氏に頼み込んで、立候補を決意させた。その調整役を担ったのが山本氏とされる。 前述の通り、吉田氏は6339票を獲得し、会社社長の高橋翔氏に5895票差を付けて初当選を果たした。選対幹事長を務めた山本氏の存在感はますます大きくなると思われるが、それに伴い、過去の〝しくじり〟や職員への言動が蒸し返される機会が増えそう。「大堀地区で土地を取得し始めたが、何をするつもりなのか」(ある町民)など新たなウワサも聞こえてくるが、これまで以上に周囲の目を意識した言動を心がけなければ、再び同じような批判メールが出回ることになろう。 あわせて読みたい 悪評絶えない山本幸一郎【浪江町】副議長

  • 浪江町が特定帰還居住区域の復興再生計画を策定

     原発事故に伴う避難指示区域で、現在も残っているのは帰還困難区域のみ。同区域の一部は「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定され各種環境整備が進められた。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が2022年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が昨年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。  ただ、復興拠点は、帰還困難区域の約8%にとどまり、残りの大部分は手付かずだった。そんな中、国は昨年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。  復興拠点の延長のような形で、主にそこに隣接するエリアが指定され、居住区域を少しずつ拡大していくようなイメージである。  同制度ができ、早速、大熊町と双葉町で動きがあった。2022年に実施した帰還意向調査結果や復興拠点との位置関係、放射線量などを考慮し、大熊町の下野上1区、双葉町の下長塚行政区と三字行政区が昨年9月に先行して「特定帰還居住区域」に指定された。昨年12月20日からは先行除染がスタートしている。  両町の「特定帰還居住区域復興再生計画」によると、ともに計画期間は2023年9月から2029年12月まで。その間に、除染や家屋解体を進め、道路、電気・通信、上下水道などの生活インフラ整備を実施して帰還(避難指示解除)を目指す。  両町に続き、浪江町は昨年12月15日までに「浪江町特定帰還居住区域復興再生計画」をまとめた。帰還困難区域を抱えるのは7市町村あるが同計画策定は3例目。その後、県との協議を経て国に申請した。本誌は締め切りの関係上、同計画について国の認可が下りたかどうかは確認できていないが、過去の「特定復興再生拠点区域復興再生計画」などの事例からしても、すんなり認定されるものと思われる。  同町の計画では、帰還困難区域に指定されている全14行政区が対象に含まれている。計画期間は大熊・双葉両町と同じ2023年9月から2029年12月まで。  整備概要は以下の通り。  ○除染・家屋解体を進め、道路、河川、電気・通信、上下水道等の生活インフラの復旧・整備を実施する。  ○集会所等については、利用ニーズへの対応や効率的な運営を考慮し、住民のコミュニティー再生に寄与するものとなるよう再整備を進める。  ○農業水利施設の復旧・整備等については、各地域における営農再開に向けた検討状況等に留意しつつ、関係者と協議の上、営農に必要な範囲での実施に向けて調整を進める。  ○そのほか、生活関連サービスについては、避難指示解除時のサービス提供を目指し、関係者と調整を進める。  ○インフラ整備と除染等の措置などについては、特定復興再生拠点区域復興再生計画の際と同様に、一体的かつ効率的に実施する。  こうして、帰還困難区域全域解除に向けて、一歩前進したわけだが、違和感があるのは、帰還困難区域の除染が国費で行われること。原因者である東電に負担を求めないのだ。以前の本誌記事でも指摘したが、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるのが筋で、そうではなく国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。

  • 【写真】復興拠点避難解除の光と影【浪江町・富岡町】

     浪江町と富岡町の帰還困難区域内に設定された「特定復興再生拠点区域」の避難指示が解除された。これまでに葛尾村、双葉町、大熊町で復興拠点の避難指示が解除されており、今回は4、5例目となる。(写真左下の数字は地上1㍍で測定した空間線量。単位はマイクロシーベルト毎時)  浪江町は3月31日に解除され、午前10時に町の防災無線で解除を伝える放送があった。その後、室原地区の防災拠点(整備中)敷地内で記念式典を行い、吉田栄光町長、政府原子力災害現地対策本部の師田晃彦副本部長があいさつした。同町は総面積約224平方㌔のうち、約180平方㌔(約80%)が帰還困難区域に指定されている。このうち、今回解除されたのは室原、末森、津島、大堀の4地区の復興拠点で、計約6・61平方㌔(約4%)にとどまる。 浪江町 津島地区に整備された福島再生賃貸住宅(0.56μSv/h) 室原地区の防災拠点(0.11μSv/h) 大堀地区の「陶芸の杜おおぼり」(1.78μSv/h) 津島地区の福島再生賃貸住宅の住民に群がる報道陣 (0.46μSv/h) 記念式典であいさつする吉田栄光浪江町長  一方、富岡町は4月1日に解除された。同日は避難指示解除記念セレモニーが行われ、山本育男町長があいさつした後、岸田文雄首相らが祝辞を述べた。同町の総面積68平方㌔のうち、帰還困難区域は約8平方㌔(約12%)。このうち、復興拠点に指定されたのは桜並木で有名な夜の森地区など約3・9平方㌔(約49%)となっている。 富岡町 にぎわう夜の森公園の隣接地には除染などで解体された住宅の跡が残る (0.32μSv/h) 多くの花見客でにぎわう夜の森の桜並木 (0.42μSv/h) 除染された夜の森公園で遊ぶ家族連れ (0.20μSv/h) 閉店した状態のままになっているコンビニエンスストア (0.44μSv/h) 避難指示解除記念セレモニーに参加した岸田文雄首相(中央)と、山本育男富岡町長(左)、内堀雅雄知事  復興拠点の避難指示解除は、これまでに葛尾村、双葉町、大熊町で実施され、浪江町と富岡町は4、5例目になる。住民が戻って生活することが難しいとされてきた帰還困難区域だが、こうして復興への第一歩を踏み出した。その歓迎ムードの一方で、放射線量の問題やどれだけ住民が戻るかといった課題があり、復興への道のりは簡単ではない。 あわせて読みたい 【原発事故から12年】旧避難区域のいま【2023年】写真 福島第一原発のいま【2023年】【写真】

  • 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」【エフレイ】

     4月1日、政府は特別法人「福島国際研究教育機構」(略称F―REI=エフレイ)を設立した。現地仮事務所開所の様子は大々的に報じられたが、その一方で早くも出勤していない職員がいるという。 霞が関官僚の〝高圧的態度〟に憤慨 エフレイの仮事務所が開設されたふれあいセンターなみえ  エフレイでは①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療と放射線の産業利用、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――の5分野に関する研究開発を進める。7年間で26項目の研究開発を進める中期計画案を策定した。理事長は前金沢大学長の山崎光悦氏。 今後50程度の研究グループがつくられる予定で、第1号となる研究グループ(放射性物質の環境胴体に関する研究を担当)が県立医大内に設けられた。 産業化、人材育成、司令塔の機能を備え、国内外から数百人の研究者が参加する見通し。浪江町川添地区の用地14㌶を取得して整備する方針で、2024年度以降、国が順次必要な施設を整備、復興庁が存続する2030年度までに開設していく。予算は7年間で1000億円規模になる見通し。 4月1日には町内のふれあいセンターなみえ内に仮事務所を開設し、新年度から常勤58人と、非常勤数人の職員が配置された。 ところが、仮事務所が本格稼働してからわずか3日目にして出勤しなくなり、電話にも出なくなった職員がいるという。 どういう理由で出勤しなくなったのか。当事者である中年男性に接触したところ、本誌取材に対し「特技の英語を活用して働く環境に憧れ、県内の職場を辞めて求人に申し込んだ。ただ、理想と現実のギャップに愕然として出勤する気が失せた。後は察してください」と述べた。 一部始終を聞かされたという知人男性が、この男性に代わって詳細を教えてくれた。 「職員の多くは中央省庁からの出向組で、事前に立ち上げられた準備チームからスライドしてきた。互いに気心が知れている分、新しいメンバーには冷たいのか、着任1日目の職員(当事者の中年男性)に敬語も使わず、いきなり『あんた』呼ばわりだったらしい。ろくに顔合わせもしないうちに弁当の集金、スケジュール管理などの業務を任せられ、同じく地元採用枠で入った女性職員について『あごで使っていいから』と指示を出された。とにかく、すべてが前時代の高圧的・パワハラ的対応。『この上司と信頼関係を築ける気がしない』と感じたそうです」 「HTML(ウェブページを作るための言語)知ってる?」と質問されたが、職員採用の募集要項にHTMLの知識は明記されていなかったため、素直に「分かりません」と答えた。すると「しょうがねーなー」と返されたので唖然とした。 別部署の女性職員は「外で〝第一村人〟にあいさつされちゃった」とはしゃいで笑っていた。「地域との連携をうたっているが、現場の人間は地域住民を馬鹿にするのか」と不信感が募り、実質的な〝試行期間〟のうちに就労を断念することにした――これがこの間の経緯のようだ。 「質問にお答えできない」 エフレイの仮事務所に掲げられている看板  エフレイに事実関係を確認したところ、金子忠義総務部長、堀内隆之人事課長が対応し、「情報公開の規定に基づき個人が特定される質問にはお答えできない」としたうえで、一般的な判断基準について次のように話した。 「各種ハラスメントに関しては法令で定められているので、双方の話を聞き、それに当てはまるかどうか判断することになります。(HTMLの知識の有無を尋ねたことについては)職員採用の募集要項に明記されていない資格・能力を〝裏条件〟のように定めているということはありません。地域との連携はエフレイの重要な課題だと認識しています」 “出勤断念”に至った背景には、語られていない事情もあると思われるが、いずれにしても働きたい環境とは思えない。 4月8日付の福島民友で、山崎理事長は「世界トップレベルの研究を目指し、初期は外国人が主体になるが、ゆくゆくは研究者・研究支援者の何割かを地元出身者から受け入れたい」、「われわれも高等教育機関や高校、中学校などを訪ね、夢を持つことの大切さを伝えていく」と述べていた。だが、まずは職員による高圧的対応、地方に対する上から目線を改めていかなければ、そうした理想も実現が難しいのではないか。 エフレイのホームページ あわせて読みたい 【浪江町】国際研究教育機構への期待と不安

  • 全容が報じられた浪江町・競走馬施設計画

     本誌昨年9月号に「浪江町末森地区に競走馬施設整備!?」という記事を掲載した。記事のポイントは以下のようなもの。 〇帰還困難区域の浪江町末森地区で、競走馬のトレーニング・リフレッシュ施設の整備計画が浮上している。 〇町産業振興課は「民間事業としてそういった話があるのは聞いたことがあるが、詳細は分かりません」とコメント。 〇県内には天栄村にも競走馬用のトレーニング・リフレッシュ施設がある。茨城県美浦村にある日本中央競馬会(JRA)のトレーニングセンターから比較的近く、競走馬の疲れを癒したり、軽い調整を目的に利用されている。 吉田栄光町長も「町の復興やにぎわい創出につながる」と評価しており、その行方が注目されていたが、2月25日付の読売新聞県版で具体的な計画が報じられた。 記事によると、事業主体は2022年1月設立の娯楽業「Blooming Stables」(東京都中央区日本橋、吉谷憲一郎社長)。法人登記簿を確認したところ、資本金1000万円。事業目的は競走馬の生産、育成、調教、管理、売買など、すべて競走馬に関するものだった。 https://twitter.com/oak_tree_farm  吉谷氏はリフォーム・家電取り付け工事を手掛けるメディオテック(東京都新宿区新宿)で取締役を務めているほか、経営コンサルタント、不動産開発などの会社の社長になっていた。インターネットで名前を検索したところ、複数の競走馬(地方競馬)の馬主として表示された。 敷地面積約35㌶で、1000㍍のトラックと、1000㍍の坂路コースを整備予定。約500頭収容可能で、120人の雇用を見込んでいる。国の「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」の活用を目指しており、①従業員とその家族の居住による人口増加、②肥料となる馬ふんの農家への提供、③乗馬体験などによる観光誘客――などで地域貢献を果たしていく考え。 開業目標は2026年4月。同社は昨年末から住民説明会を開いているそうだが、記事によると、地権者からは「帰還する考えはない。(生活に影響はないし土地を活用してくれるのはありがたいので)悪い話ではない」、「馬の鳴き声や臭いが気になる。せっかく自宅に戻れるのに騒がしくなってしまう」と賛否両論の意見が出ているようだ。 同社はホームページなどを開設しておらず、電話番号やメールなどを公表していないため、残念ながら連絡を取ることができなかった。どういう経緯で同町に整備することを決めたのかはもちろん、本誌昨年11月号で取り上げた山本幸一郎副議長とはどんな関わりがあるのかも気になるところ。 同町末森地区内には特定復興再生拠点区域が指定され、この間除染やインフラ整備が進められてきた。3月31日には室原・津島両地区の特定復興再生拠点区域とともに、避難指示が解除された。今後、住民帰還の動きが本格化し、復興の在り方が議論されるにつれて、競走馬施設の動向も注目を集めそうだ。 あわせて読みたい 悪評絶えない山本幸一郎【浪江町】副議長 【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

  • 浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

    本誌2月号で、浪江町の町営大平山霊園の改修工事が、同町請戸地区住民で組織される「大字請戸区」の負担で行われていたことを報じた。 請戸地区は災害危険区域に指定されており、同団体は将来的に解散する見通し。財産を清算する目的で、大平山霊園の改修と費用負担が総会で決められた。だが、総会に出席できなかった県外在住の住民から反発が相次ぎ、「町の工事を地縁団体が行うのは違和感がある」「一律に配分すべき」と主張していた。 同団体の代表者(区長)は本誌取材に応じようとしなかったが、2月号発売直後、同団体は住民にファクスで文書を送付した。 文書には《同団体の財産は準公金なので個人に配分できない》、《町民や区の住民から問題点が指摘されたため急遽工事は一時中断にし、次回の総会で再検討する》といった内容が書かれていた。 請戸地区の住民はこの文書について「各世帯への見舞金などは支給されており、準公金を理由に配分できないというのは違和感がある。町はなぜゴーサインを出したのか、大平山霊園を利用している請戸地区以外の住民の意向を確認しようと考えなかったのか、いろいろ疑問が残る。関係者には明確に説明してほしい」と述べた。 5月に行われる総会では大きな議論になりそうだ。 あわせて読みたい 【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?  

  • 【浪江町】新設薬局は福島医大進出の関西大手グループ

     浪江町役場敷地内にある浪江診療所の近くに、震災・原発事故後初めて調剤薬局が開設される。進出するのは関西を拠点とする大手・I&Hグループで、県立医大でも敷地内薬局の運営に乗り出すなど勢力伸長が著しい。同町への進出を機に「原発被災地での影響力を強める方針ではないか」と同業者たちは見ている。 原発被災地で着々と影響力を拡大  浪江町で薬局を開設・運営するのは、関西を拠点に「阪神調剤薬局」を全国展開するI&H(兵庫県芦屋市)のグループ企業。本誌は昨年10月号「医大『敷地内薬局』から県内進出狙う関西大手」という記事で薬局設置に関わる規制の緩和が進む中、福島県立医大(福島市)も敷地内薬局を導入し、運営者を公募型プロポーザルで決めたことを報じた。 県薬剤師会は「医薬分業」を建前に、敷地内薬局に猛反対していたため動きが鈍く、情報収集に後れを取った。公募について会員内で共有したのは応募締め切り後だった。応募した地元薬局はあったものの、全国展開する大手3社がトップ争いを繰り広げる中、資本力で太刀打ちできず、I&Hが優先交渉権を獲得。次点者とは1点差という激しい争いだった。 地元の薬剤師・薬局経営者の間では、県立医大の敷地内薬局の運営権を関西の企業が勝ち取ったことは、県内の薬局勢力図の変化を象徴する出来事と捉えられ、「原発事故後、帰還が進みつつある浜通りに進出する足掛かりにしたいのでは」という見方があった。 浪江診療所は、町が国民健康保険の事業として設置・運営している。町健康保険課によると、復興が進む町内では唯一の医療機関だ。最新の年間利用者は延べ約5800人。ただ、調剤ができる薬局が町内にないため、医師や不定期に出勤する薬剤師が行い、看護師らが補助する形で実務を担っていた。院内処方と呼ばれる。 震災・原発事故後、町内に初めて調剤薬局ができるということは、浪江診療所の調剤業務を薬局に外注することを意味する。同課の西健一課長(浪江診療所事務長を兼務)も、「町としては院外処方に移行したいと思っています」と言う。 県内で薬局を経営する企業の役員は町が院外処方を進める理由を「医薬関係のコストを削減できるからです」と解説する。 町の特別会計「国民健康保険直営診療施設事業」の2021年度決算書によると、浪江診療所の医業費は2600万円(10万円以下切り捨て、以下同)。医薬材料費は2100万円で医業費の約8割。医薬材料費に患者に処方する医薬品の金額がどの程度含まれているかは不明だが、外注すれば相当圧縮できるだろう。 さらに、患者への薬の受け渡しに時間を取られていた看護師の負担が減る分、本来の業務に専念できる。業務が効率化できれば、町としては必要最低限の雇用で済ませられる。 メリットは患者にもある。 「取り扱いの少ない薬でもすぐに十分な量が手に入ります」(同) 診療所の調剤室は単独の薬局に比べると、量も種類も限られる。西課長によると、需要の少ない医薬品の場合、在庫切れになることもあり、南相馬市にある最寄りの調剤薬局まで車を走らせなければならなかった患者もいたという。 ただ、患者には見過ごせないデメリットもある。 まず、薬代が高くなる。院外処方は院内処方よりも、医療行為に対する報酬の基準となる診療点数が高くなるので、患者の負担が増える。  院内処方から院外処方に移行すれば、患者が薬局に薬を受け取りに行く手間もかかる。浪江診療所は役場敷地内にあるが、開設予定の薬局は敷地外に建設されるというから、大きな負担になるとは言わないまでもそれなりの移動を強いられる。 実際、薬局新設を聞きつけたある町民からは、 「通院しているのは年寄りが多いのに、町や医者の都合で雨の中でも薬を取りに行かなければならないのか」 と不満の声が聞かれた。 これまでの動きを振り返ると、財政負担を減らしたい町と、原発被災地に進出したいI&Hグループの思惑が合致したと言える。 「開設経緯を明らかに」  ある町関係者は薬局の開設経緯をオープンにすべきだったと訴える。 「関西の企業がどういう経緯で浪江に進出するのか。町が土地を紹介しないと無理でしょう。町に相談なしに進出を決めたとは考えられません。実質、浪江診療所に付随する薬局です。本来は公募して民間を競わせる方が公正だし、より良い条件を引き出せたのではないか。民間薬局が進出する動きがあると議会を通じて町民に知らせる必要があったと思います」 前出の西課長に薬局開設に町はどの程度関わっているか聞くと、 「役場の敷地外にできるので町は関わっていません。診療所の近くにできるとは聞いていますが、民間企業の活動なので、いつ、どこに開設するかはI&Hに聞いてほしい」 筆者はI&Hにメールで「薬局の開設場所はどこか」「いつ営業を始めるか」など7項目にわたり質問した。回答によると、近隣に建てる予定があることは確かだが、「具体的なスケジュールは決まっていない」という。 西課長によると、町とI&Hグループが接点を持ったきっかけは、震災・原発事故後からたびたび開かれている「お薬相談会」だという。浪江町には薬剤師がいないため、町外から招いて服薬指導をしている。この相談会に関係していた復興庁から「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル」というイベントへの参加を打診され、そこでI&Hと接点ができたという。 このイベントについては本誌昨年10月号で報じた。避難指示解除後に帰還が進む地域で、医師と共に薬剤師が不足している状況に薬剤師や薬局経営者らが問題意識を持ち、同年2月24日に厚生労働省や自治体職員とオンラインで現状を共有した。 主催は任意団体「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会」、事務局は城西国際大大学院(東京)国際アドミニストレーション研究科。同大学院の鈴木崇弘特任教授の記事(ヤフーニュース2022年3月1日配信)によると、メンバーは表の通り。I&H取締役や薬学部がある大学の教員が名を連ねる。 福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会のメンバー(敬称略) メンバー役職渡邉暁洋岡山大学医学部助教小林大高東邦大学薬学部非常勤講師岩崎英毅I&H取締役鈴木崇弘城西国際大学国際アドミニストレーション研究科長黒澤武邦城西国際大学国際アドミニストレーション研究科 准教授  鈴木氏の記事によると、I&H取締役の岩崎英毅氏のほかに福島市、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、そして厚労省の担当者が参加した。式次第によると、オープニングで学校法人城西大学の上原明理事長(大正製薬会長)が挨拶した。 本誌は以前、I&Hに、どのような関係で自社の取締役が同委員会のメンバーを務めているのかメールで質問した。同社からは次のような回答が寄せられた。 《医療分野のDXへの関心が飛躍的に高まり、また、厚生労働省が進めている薬局業務の対物業務から対人業務へのシフトにより、薬局には住民の皆様の個別のニーズに応じた、より質の高いサービスの提供が期待されています。このような状況のもと、弊社は、オンライン診療、服薬指導、処方薬の配送など、地域医療の格差是正に向けた取り組みを推進しておりますが、このような取り組みの知見や課題を共有することで、無薬局の解消の一助になることができればと考え、実行委員会に参加させていただきました》 営業活動の一環か、という質問には、 《無薬局の解消、地域医療の格差是正に向けて、様々な視点からの知見や課題を学ばせていただくことが目的でございます》 と答えた。 双葉郡に進出加速か? 浪江町役場敷地内にある浪江診療所  浪江診療所の患者の処方を受け付けるだけでは元は取れない。だが、I&H取締役の岩崎氏は被災地へ進出する個人的な思いがあるようだ。 「岩崎氏は中学生の時に阪神・淡路大震災を経験したそうです。他人ごとではないという思いから、東日本大震災でも一薬剤師として被災地に支援に来ました。その時の写真も見せてもらいました。被災地の行く末を心配し、今回、薬局の進出を決めたそうです。将来的に経営が安定し、地元の薬剤師で希望者がいれば雇用したい考えもあるそうです」(前出の西課長) 大手調剤薬局グループは、調剤だけでなく、旺盛なM&Aを繰り広げ介護福祉事業、カフェやコンビニも展開している。地方の薬局で採算が取れなくとも、都市部の収益とその他の事業で黒字になればいいとチャレンジする余裕がある。 町が福祉事業を委託している浪江町社協で、行き当たりばったりの縁故採用が横行し、人手不足に陥っていることを考えると、I&Hのような全国に人員を抱える大手民間企業が町からデイサービスなどの委託事業を担うのも現実味を増す。 昨年2月の「薬局ゼロ解消」を目指すイベントには浪江町以外にも富岡、大熊、双葉の各町が参加した。I&Hはこのつながりを足掛かりに浜通りでの薬局開設を加速させるのだろう。さらに、休止が続く県立大野病院(大熊町)の後継病院への関与も見据えているはずだ。 原発被災地は、一時的に医療・医薬関連業が撤退を強いられ、空白地帯となった。一方、復興の名目で国や県の主導で事業が進む中、資本力のある大手にとっては新規開拓の土地でもある。 あわせて読みたい 福島医大「敷地内薬局」から県内進出狙う関西大手【I&H】

  • 【浪江町】吉田栄光町長インタビュー

    よしだ・えいこう 1963年12月生まれ。浪江町出身。双葉高卒。県議を5期務め、自民党県連幹事長、県議会議長などを歴任。昨年7月の浪江町長選で初当選を果たした。  ――昨年7月に町長に就任しました。 「首長の仕事は想像以上に忙しいですね。職員とのチームワークも良くなっており、日々の行政執行は良い形でできています。当町は復興という大きなミッションがあります。前町長が行ってきた施策により、成熟しつつある分野と新たな分野がありますが、いずれも芽を出し始めており、民間企業からも多くの興味を示していただいています」 ――帰還困難区域の津島、末森、室原3地区内に設定された特定復興再生拠点区域の避難指示が3月31日、解除されます。 「3つの拠点に共通する産業は農業です。将来を見据えた農業の再建を進めるために、大規模化や効率化など、外部からの投資が活発化することを期待しています。 住民帰還に関しては、町民の5割以上が避難先で新たな居を構えていることや、帰還することの経済的な不安なども踏まえ、バランスよく考えていかなければなりません。ただ、この半年間、帰還意欲の高まりを感じています。福島国際研究教育機構(F―REI)やJR浪江駅周辺整備計画などの復興プランが表に出てきて、故郷とともに復興を肌で感じたい町民が多くなっているからだと思います」 ――F―REIと浪江駅周辺整備計画について。 「F―REIは浪江町だけのものではありません。浜通り全体として、研究者の方々の住みやすい環境を整えることが大切だと考えています。社会環境の変化や人口減少の時代を担う〝次の世代〟が競争力を持てる技術力や仕組みが必要であり、同機構にはその牽引役を担ってほしいです。浪江駅周辺整備事業は同機構におけるフロントの役割を担っています。復興まちづくりのためにこうした事業を成功させるには、周辺自治体を含めた国・県と町の協働(協同)が不可欠です」 ――育苗施設が供用を開始しました。 「既に稼働している『カントリーエレベーター』と育苗施設の完成によって、育苗から収穫後の乾燥までが担保されました。さらなる水田の利活用を促進するため、6次化を考えていかなければならないと思います。町の新たな特産品であるタマネギや花卉など、水稲以外にも多様化が必要だと思っています」 ――今後の抱負。 「今後、民間が投資しやすい環境を整え、経済の活性化を図っていきたい。現在、当町の町民は町内外にお住まいですが、興味を持っていただけることが、われわれにとって刺激になっています。町民が復興を支援できる・応援したくなるような町をつくっていくことが使命だと思っています」 浪江町ホームページ 掲載号:政経東北【2023年4月号】

  • 【浪江町】国際研究教育機構への期待と不安

     福島イノベーション・コースト構想の中核拠点となる福島国際研究教育機構が川添地区に整備される。どんな場所なのか、現地に足を運んだ。 利権絡みのトラブルを懸念する声  福島国際研究教育機構(略称F―REI=エフレイ)は▽福島・東北の復興の夢や希望となり、▽科学技術力・産業競争力の強化を牽引し、経済成長や国民生活の向上に貢献する――ことを目的とした研究教育機関。福島復興再生特別措置法に基づく特別法人として国が設置した。理事長は金沢大前学長の山崎光悦氏。 ①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療、⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――の5分野に関する研究開発を進める。産業化、人材育成、司令塔の機能を備え、国内外から数百人の研究者が参加する見通し。2024年度以降、約10㌶の敷地に国が順次必要な施設を整備し、復興庁が存続する2030年度までに開設していく。 立地選定に関しては、原発被災地の9市町から15カ所の提案があった。交通アクセスや生活環境、福島イノベーション・コースト構想の推進状況など11項目の調査・評価により、浪江町の川添地区が選定された。県による選定を経て、国の復興推進会議で正式に決定した。 復興庁の資料によると、予定地はJR浪江駅近くの農地。社会福祉協議会や交流センター、屋内遊び場などを備えた「ふれあいセンターなみえ」の南西に位置する。 今年4月には仮事務所をふれあいセンターなみえの建物内に開設。施設基本計画を策定し、完成した施設から順次、運用をスタートする。 2022年度の関連予算は38億円。23年度予算案では、産学官連携体制構築に向けて146億円が計上された。29年度までの事業規模は約1000億円となる見込み。 県は国家プロジェクトを機に、数百人の研究者らの生活圏を広げるなどまちづくりに生かすことで、原発被災自治体の復興・居住人口回復を図りたい考えだ。 地権者によると、昨年12月に説明会が行われたが、ホームページなどで公表されている事業概要の説明に終始し、具体的な話には至らなかったという。 「予定地は農業振興地域で、震災・原発事故後は圃場整備が検討されたが、『農業を再開するつもりはない』という人が多くてまとまらなかった。そうした中で浮上したのがエフレイの立地計画です。農地の処分を考えていた地権者にとっては、渡りに船でした。国のプロジェクトなので、売却価格も期待できると思います」(ある地権者) 今回は期待に応えられるか  そうした中で、「利権絡みの動きには注意しなければならない」と釘を差すのが町内の事情通だ。 「『政経東北』で、同町末森・大堀地区で整備が計画されている競走馬施設計画地内の土地を、山本幸一郎浪江町副議長が事前に情報を得て取得していた疑惑が報じられていました(本誌昨年11月号参照=山本氏は「父親の主導で取得した土地が偶然計画地に入っていただけ」と主張)。山本氏に限らず、国家プロジェクトのエフレイ予定地で地元関係者のヘンな疑惑が浮上したら、復興ムードに水を差し、町が全国の笑いものになる。そのため、町関係者は警戒しているようです」 あわせて読みたい 全容が報じられた浪江町・競走馬施設計画  同町には福島水素エネルギー研究フィールドや福島ロボットテストフィールドなどが立地しているほか、約125億円を投じて浪江駅周辺再開発を進める計画も進行中だ。国や県の狙い通り、国内外の研究者や関係者が集い、関連企業の進出や商業施設の充実が加速して「研究・産業都市」ができれば、居住人口の回復が見込めよう。 もっとも、南相馬市の福島ロボットテストフィールドをはじめ、福島イノベーション・コースト構想の一環で整備された施設はいずれも中心部から外れた場所にあり、住民が目にする機会は少ない。 地元企業参入や定住人口増加、にぎわい創出などの効果はある程度出ているのだろうが、期待された役割を十分果たしているようには感じられない。そのため「今回もコケるのではないか」と心配する声が各方面から聞こえてくる。 そもそもそういう形で居住人口を増やすことが、住民が求める復興の在り方なのか、という問題もある。 さまざまな意味で同町川添地区の今後に注目が集まる。 あわせて読みたい 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」【エフレイ】  

  • 【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?

     町営大平山霊園の改修費用を地縁団体(町内会や自治会のような組織)である大字請戸区が負担して進めようとしていたことが分かり、一部住民が反発している。背景には複合災害被災地ならではの事情がある。 申し出認めた町の対応に住民反発  東日本大震災により浪江町では182人が死亡し、441人が原発事故関連死として認定された。 請戸漁港が位置する請戸地区では、津波により死者95人、行方不明者24人の人的被害が発生した。同地区は住宅などの建築を制限する災害危険区域に指定され、住民は地区外への移住を余儀なくされた。 その請戸地区の住民により運営される地縁団体・大字請戸区について、複数の住民から本誌編集部に電話が寄せられた。 その内容は「大平山霊園の改修工事を大字請戸区の負担で行うのはいかがなものか」というものだ。 大平山霊園は津波で流失した墓地を再建するため、2015年に町が整備した。約400区画あり、請戸地区をはじめ、沿岸部に位置する両竹・中浜地区の住民が区画利用者となっている町営の霊園だ。 にもかかわらず、なぜか大字請戸区が発注者となる形で、霊園内に敷かれている玉砂利撤去と石板整備を実施しようとしているというのだ。 町建設課に確認したところ、電話で指摘されたことは事実であり、改修工事は大字請戸区の申し出により進められることになったという。 「『将来的な団体解散に向けて、資金を整理したい。こちらの負担で工事を行わせてほしい』と打診がありました。検討した結果、利用者の利便性向上につながるし、問題はないと判断し、道路管理者以外が工事を行う『承認工事』として進めることを認めました」(町建設課) 実は、大字請戸区では昨年3月に開かれた総会の時点で《大平山町営霊園の墓地周りと先人の丘(請戸地区共同墓地跡に整備された鎮魂の広場)の大字関係碑の周りの歩道を、車いすでも通れるように町へ要望する。又は、大字予算で施工する》とする議題を承認していた。 町議会6月定例会の一般質問では、請戸地区を地盤とする高野武町議がこの件について質問し、町建設課長は「国の補助を受け工事した。原則10年は改修して形状や機能を変えてはならないことになっている」と答弁していた。 ところが関係機関などに確認したところ、「全面改修でなく、第三者が一部改修する分には問題ない」という解釈だったため方針転換。前述の通り、「承認工事」として進めることになった。 昨年11月には町建設課が区画利用者に向けて、請戸行政区(大字請戸区)が改修工事を行う旨をファクスで周知。ここで事実が広く知られることになり、町議会12月定例会の一般質問では佐々木茂町議が「執行部への質問ではない」としながら、この問題を取り上げる一幕があった。 複数の住民によると、改修工事費用は「先人の丘」の分も含めて約1700万円。昨年には「先人の丘」の草刈りを行うためのロボットを300万円で購入し、町に寄付したという。将来的な解散に向けての清算のためとは言え、町にお金を投じまくっているのだ。 被災地の現状を象徴  請戸地区に住所を置きながら県外に避難しているという年配女性は憤りながらこう話す。 「災害危険区域に指定された行政区の住民は、津波で家族や友人を亡くし、故郷に住むことを禁じられた。自宅を自然災害で失ったので、住宅関連の原発賠償もわずかな金額しかもらえない。ただでさえ強い不公平感を抱いているのに、地縁団体のお金も町のために使われるのだとしたら、不満が募るのも当然です。両竹・中浜行政区では解散に向けてすべての現金を分配しているのに、請戸はそのように対応しようとしません」 こうした声を大字請戸区はどう受け止めるのか。区長に電話で問い合わせると「総会で承認され、ほぼ全員が賛成したので(疑問の声が出たことに)困惑している。1月中に役員による委員会が開かれるので、そこで取材を受けていいか確認する」と述べた。だが、期日を過ぎても電話はかかってこず、そのまま音信不通となった。 やむなく別の役員に連絡したところ、「地縁団体の解散を静かに進めたい。一人の反対意見を聞いて報道で騒ぎ立てるのは住民を傷つける行為。記事にしないでほしい」と訴えた。 役員らの口ぶりからは、「特定の人物にイチャモンを付けられて参っている」という〝本音〟が透けて見えた。ただ冒頭で述べた通り、本誌には複数の住民を名乗る人物から意見が寄せられた。取材拒否するのは自由だが、住民から幅広く意見を聞く必要があるのではないか。 同町の事情に詳しい男性は次のように分析する。 「団体などの総会に参加せず、運営に興味も示さないのに、後から決議内容を知り文句を言ってくる人は確かにいる。全国に避難者がいる分、その傾向は強くなっている。また、町内の行政区(地縁団体)は共有地や集会所の原発賠償などで収入増になっているという事情もある。その使い道に困っているところが多く、大字請戸区もやむを得ず町のために使おうと考えたのではないか」 一方で、この男性は次のようにも指摘する。 「だとしても、町営霊園の改修工事を地縁団体が担うのはさすがに違和感がある。町が地縁団体に補助金を出すこともあり得るわけで、そうした関係性も考慮し、申し出は断るべきだったと思います」 複数の住民によると、1月中に行われた委員会で、大字請戸区による改修工事は中止する方針が決められたようだ。 現住人口ゼロの請戸地区で起きた騒動。ある意味、複合災害被災地の現状を反映していると言えよう。 あわせて読みたい 浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

  • 悪評絶えない山本幸一郎【浪江町】副議長

     本誌2022年8月号に掲載したのは「山本幸一郎浪江町副議長に怪文書 家業の建設会社急成長に疑惑の目」という記事。内容は編集部宛てに届いた山本氏への批判メールの内容を検証し、本人に直撃したもの。 議員の資質が問われる〝傍若無人ぶり〟  公職選挙法第92条の2では、自治体議員がその自治体から仕事を請け負う会社の役員に就くことを禁じている(兼業禁止)。そのため、山本氏は家業の建設会社・平成建設の役員から退いている。ただ、実際は副議長の立場を利用して多くの仕事を得ており、会社は急成長している。7月の町長選で新町長となった元県議・吉田栄光氏とは仲が良く、その威光もあって、ゼネコンの下請けに入っている――。以上がメールの概要だ。 実際、平成建設はここ数年業績を伸ばしている(別表参照)。震災・原発事故前の売上高は1億2000万円前後だったが、近年は数億円規模となっており、2020年12月期には売上高14億0400万円、当期純利益1億1600万円を計上。安藤・間が元請けの農地除染や被災建物解体工事に下請けとして入っているほか、町発注の農業用施設保全整備工事を元請けで受注していた。  山本氏はどう受け止めるのか。本人を直撃すると、「議員の立場を利用して入札情報を得たわけではなく、誰でも入手できる形で情報を得たに過ぎない」と主張した。 そのほかメールで指摘されていた点については、「大手ゼネコンから浪江町復興事業協同組合に打診があり、複数社で請け負っている」、「事情が分からない役場職員に対しては、怒ってしまうというかつい大きな声でやり取りしてしまう」、「町長選では吉田栄光氏の選対幹事長を務めた。町長選も意識して送信されたメールかもしれない」と話していた。 そのため、記事では、「町内で存在感を増す山本氏に対し、敵意を抱く人物がメールを送ったのではないか」と書いた。 ところが、その後、過去に取材したことのある複数の浪江町民や浜通りの建設業界関係者から「山本氏は役場職員だけでなく、同業者に対しても乱暴な言動を見せたり、強引に仕事を取ることがあるので嫌われている。何件もトラブルになっている」と指摘が入ったのだ。 ある町民はこう話す。 「いま、この地域には復興関連で大手ゼネコンをはじめ、他地区からさまざまな業者が入っているが、地域の実情を知らない人は、『議員』『副議長』という肩書きを持つ山本氏を信用して近づいてくる。山本氏(平成建設)はそれでパイプを作り、大手ゼネコンの復興事業の下請けに入って、かなりの仕事を得たのは間違いない。本人はそのつもりはないかもしれないが、『議員』『副議長』という肩書きがなければそれは叶わなかったでしょう。南相馬市内の飲み屋で、山本氏と大手ゼネコンの現地所長クラスが飲み歩いている姿を何度も見かけた。そういう意味では、『議員』『副議長』の肩書きを使って、平成建設の営業活動をしていると捉えられても仕方がないでしょうね」 同業者から多数の〝被害〟報告  一方、浜通りの建設業界関係者は次のように証言する。 「記事にあったように、山本氏は気性や口調が荒く、同業者に対しても義理を欠く対応を取ることがある。それでも、町内では相応の影響力があり、今回、親しい吉田栄光氏が町長になったことで、さらに力を持つことになった。皆、それぞれの仕事や生活があるから、不満に思っていてもなかなか言い出せないのです。だから、『政経東北』に告発した人に対しては、匿名とはいえ、『勇気あるな』『よく言ってくれた』という人が多かったのです」 平成建設の事務所  平成建設と過去に仕事をしたことがある複数の建設業界関係者に当たったところ、「詳細に記すと誰が言ったか分かり、仕事の上で不利益になることが予想されるため、記事で具体的に書かないでほしい」という人がほとんどだった。 ただ、彼らの話を統合すると、「この仕事を手伝ってほしい」とか、「あそこの現場に何人か人を出してほしい」ということがあり、正式に契約書を交わさずに仕事に入った後、トラブルに巻き込まれたケースが多々あったようだ。 「最初に言っていた条件と違うとか、最初に話していた以上の仕事をやらされることになったとか、そういった事例がよく知られている。近隣の土建業者はみな直接的に関わるのを避け、陰で愚痴を言い合っている」(建設業界関係者) 8月上旬には編集部宛てに新たな匿名投書も寄せられた。 《記事では山本氏が「父が半年前に倒れてからは私が金勘定を担当するようになった」と話していたが、実際はその前からすべての実権を握っている。仕事の打ち合わせから段取りなどすべて行っていた》 《山本氏は役場、業界関係者に対し、気に入らないことがあればすぐに声を荒げて恫喝し詰め寄ってくるので、関係者の間では山本氏に会わないようにするのが基本。会社に乗り込み暴言、恫喝等、日常的に行っている》 まるで〝被害者の会〟でも組織されたような勢いで本誌に寄せられる山本氏関連の情報の数々。要するに、「町内で存在感を増している山本氏」に敵意を抱いて怪文書メールが送られたわけではなく、もともと評判が悪い人物だったわけ。 山本氏は1968年4月生まれ。浪江町出身で、大堀小学校、浪江中学校、双葉高校卒。2007年に平成建設社長に就任。2009年、浪江町議選で初当選したのに伴い社長を退任。山本氏の妻・博美氏が社長を務め、山本氏は同社社員となっている。もっとも、山本氏が経営を取り仕切っているのは周知の事実だ。 山本氏の父親・幸男氏は山本牧場(同町末森地区=原発事故で帰還困難区域に指定)を経営するかたわら、同町議を8期務め、議長経験もある。 町内のある議員経験者は山本親子をこう評価する。 「幸男さんは3回も議長不信任案が出されるなど、議会のトラブルメーカー的存在として取り沙汰されることが多かった。幸一郎くんはそこまで目立ってはいないが、〝瞬間湯沸かし器〟で、納得できないことがあるとすぐ大声を出す。〝ヤンチャ〟な武勇伝も知られています」 山本氏が毎年参加している相馬野馬追の騎馬会や、大手ゼネコン事務所などでも大声を出し机をひっくり返して暴れていた――という目撃談も複数の町民から得られた。 「よく知られているのは、町内某企業の創立記念パーティーの二次会で、知人に暴力を振るった事件です。周囲に人がいる中だったのでウワサになり、『月刊タクティクス』に匿名で書かれました」(ある町民) 町議4期目。副議長を務めるベテラン議員だが、同僚町議からは「議員という立場をわきまえない言動が多くて敬遠されている」、「政治的行動を共にする同士はいない」という本音が聞かれる。 農地取得と競走馬施設の関係  そんな山本氏にとって強い味方となっているのが吉田栄光氏だ。子どものころから親密で、町長選では山本氏が吉田氏の選対幹事長を務めた。2人の関係を象徴すると言われているのが、同町末森・大堀地区で整備が計画されている競走馬施設(本誌9月号既報)だ。 民間事業者主体の計画とされているが、吉田氏が誘致に前向きだったとされており、「吉田町長の息子らが経営するランドビルドという会社が運営に携わるらしい」(前出・ある町民)と言われている。 一方、山本氏は帰還困難区域の末森地区や大堀地区などで営農意思がない農家から農地を取得している(本誌8月号既報)。そのため「吉田氏を通して施設が整備されることを知った山本氏が、周辺施設なども想定して土地を先行取得しているのだろう」という見方が広まっているのだ。 吉田氏に事実関係を確認したところ、「競走馬施設の計画が浮上しているのは事実であり、とても期待している。ただ具体的な段階ではないし、(吉田氏の子どもの会社は)運営に携わるというものではなく、お手伝いした程度」とコメントした。 ランドビルドの吉田学人氏にコメントを求めるとこう話した。 「私が乗馬を趣味としていることを知って、先方から相談を受けたのです。地域のためになる事業と感じたので、ほかの人を紹介するなどしてお手伝いしましたが、運営などに携わる予定はありません。そのようなウワサが出ているのは承知していましたが、事業主は全く別の方なので、どう対応すればいいか困惑していました」 山本氏に話があったのかどうかは判然としないが、競走馬施設の計画と山本氏の農地取得、タイミングが良すぎるのは事実だ。 10月下旬、再び山本氏を直撃し悪評が相次いでいることに対し、意見を聞いた。 まず大手ゼネコンの現地所長クラスと飲み歩いている点についてはこう話した。 「年に数回飲みに行く友達グループの中に、大手ゼネコンの現地所長経験者がいるのは事実。ただ、いまはそのゼネコンの下請けに入っているわけではないし、自分が直接的に酒席に招くことはない」 同業者とのトラブルに関しては、「そうしたトラブルになった記憶はない。特に思い当たらない」と語った。複数の業界関係者から話を聞いているが、事実ではないということか、それともより詳細に話せば記憶がよみがえることもあるのか。 騎馬会や大手ゼネコン事務所で大暴れした――という話に関しては次のように答えた。 「騎馬会の〝役付け〟をめぐり、声を荒げて異議を唱えるのはみんなやっていたこと。自分だけがことさら取り上げられるのは違和感がある。それに机をひっくり返して大暴れした記憶はない。誰かと勘違いしているのではないか」 「大手ゼネコンに関しては除染漏れの個所があったので、呼びつけて怒鳴ったことが何度かある。事務所で大暴れした記憶はない」 ウワサを否定する山本氏だが、町内某企業の創立記念パーティーの二次会で、知人に暴力を振るった点は「本当にあったことです」とあっさり認めた。 「酒癖の悪い知人を諫める目的で叩いたらもみ合いになり、周りに止められた。事件化はしなかったが、議員という立場にありながら手を出したことを反省しています」(山本氏) 競走馬施設用地の先行取得に関しては「同施設の計画が浮上したのは半年ほど前。うちの父親(幸男氏)が山本牧場付近の農地を取得し始めたのが3年前。計画に合わせて先行取得したわけではありません」とウワサを否定した。 一方で、「計画地は山麓線(県道35号いわき浪江線)から1㌔ほど山側に入っていったところになる見込み。実はそちらにもわずかですが私の所有地が含まれています」と自ら明かした。競走馬施設に合わせて土地を先行取得したわけではないが、偶然所有地の一部が計画地に入っていた――山本氏はそう主張したいようだ。そう言いつつも計画地はしっかり把握していたわけで、意識はしていたのではないか。 「酒飲みに出かけるのはやめる」 山本幸一郎氏(浪江町議会HPより)  一通り話を聞いた後、山本氏は「自分が認めていないウワサまで誌面で紹介されるのは違和感がある」と語った。それならば、本人にとって都合のいい情報しか記事には書けないことになる。真面目に活動している議員であれば、これほどヘンなウワサが流れることはないだろう。怪文書が送られてきたという記事に対し、同業者から「勇気あるな」「よく言ってくれた」という声が上がるのはよほどのことだ。 言葉の端々からいかにも相馬野馬追出場者らしい熱い性格で、仲間への面倒見のよさが伝わってくる。業界関係者もそのことは認める。しかし、それ以上に公人らしからぬ傍若無人ぶりが際立っている。 「議員なのに建設会社の社長のようにふるまい、ゼネコンの現地所長と堂々と飲み歩く。そのことを指摘されれば〝いまは仕事をしていないゼネコン〟とうそぶく。公禄をはむ〝公人〟という自覚に欠けているのではないか」(建設業界関係者) 山本氏に関する情報は現在進行形で寄せられている。一つは山本牧場の件だ。山本氏の父親・幸男氏が病気で倒れ、山本牧場において研究名目で飼われていた牛が殺処分された。それらの死体について、「家畜保健所に届け出せず牧場敷地内に埋めたのではないか」とウワサになった。 山本牧場  ただ、家畜保健所に確認したところ、原発事故により指定された旧警戒区域において、原発事故発生当時生きていた牛は殺処分して敷地内に埋設するよう方針が示されており、それに基づいていたので問題がないことが分かった。「家畜保健所担当者の立ち合いのもと、埋めました」(山本氏)。 このほか、下請け会社から出向している社員について、雇用の〝グレーさ〟を指摘する声もあった。 山本氏は記者に対し「酒飲みは好きだが、友達グループと酒飲みに出かけるのはやめる。前回記事を受けて、職員に対し大声を出すのもやめた」と語った。どこまで真剣かは分からないが、周囲からは自分が想像している以上に冷ややかな目で見られていることを意識すべきだ。 あわせて読みたい 【吉田栄光町長の側近】山本幸一郎【浪江町】副議長に怪文書

  • 浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

     浪江町社会福祉協議会が、組織の統治・管理ができないガバナンス崩壊にある。一職員によるパワハラが横行し、休職者が出たが、事務局も理事会も対処できず指導力のなさを露呈。事務局長には縁故採用を主導した疑惑もあり、専門家は「福祉という公的な役割を担う組織のモラル崩壊は、サービスを受ける住民への不利益につながる」と指摘する。 ガバナンス崩壊で住民に不利益  2022年6月、浪江町に複合施設「ふれあいセンターなみえ」がオープンした。JR浪江駅に近く、帰還した町民の健康増進や地域活性化を図る役割が期待されている。敷地面積は約3万平方㍍。デイサービスなどの福祉事業を担うふれあい福祉センターが入所し、福祉関連の事業所が事務所を置いている。福祉センター以外にも、壁をよじ登るボルダリング施設や運動場、図書室がある。 福祉センターは社会福祉法人の浪江町社会福祉協議会(浪江町社協)が指定管理者を務めている。業務を開始して3カ月以上が経った福祉センターだが、ピカピカの新事務所に職員たちは後ろめたさを感じていた。開設に尽力した人物が去ってしまったからだ。 「指定管理者認定には、40代の男性職員が町と折衝を重ねてきました。今業務ができるのも彼の働きがあってこそです。ところが、彼はうつ病と診断され休職しています。10月に辞めると聞きました。今は代わりに町職員が出向しています。病気の理由ですか? 事務局の一職員からのパワハラがひどいんです。これは社協の職員だったら誰もが知っていることです」(ある職員) パワハラの実態に触れる前に、浪江町社協が町の代わりに住民の福祉事業の実務を担う公的な機関であることを明らかにせねばならない。それだけ役割が重要で、パワハラが放置されれば休職・退職者が続出し、せっかく帰還した住民に対するサービス低下も免れないからだ。 社協は福祉事業を行う社会福祉法人の形態の一つ。社会福祉法人は成り立ちから①民設民営、②公設民営、③公設公営の三つに分けられ、社協は国や行政が施設を建設し、運営委託する点で③に含まれる。職員も中枢メンバーは設置自治体からの出向が多く、行政の外郭団体である。 浪江町社協の2021年度の資金収支計算書では、事業活動収入は計2億2400万円。うち、最も多いのが町や県からの受託金収入で1億5300万円(約68%)。次が町などからの補助金で4460万円(約19%)となっている。22年度の町の予算書によると、同社協には3788万円の補助金が交付されている。法人登記簿によると、同社協は1967(昭和42)年に成立。資産の総額は4億7059万円。現在の理事長は栃本勝雄氏(浪江町室原)で2022年6月20日に就任した。 前理事長は吉田数博前町長(同町苅宿)が兼ねていた。予算上も人員上も自治体とは不可分の関係から、首長が理事長を務めるのは小規模町村では珍しくない。吉田前町長も慣例に従っていた(2022年5月の町議会第2回臨時会での吉田数博町長の答弁より)。ただ、首長が自治体と請負契約がある法人の役員に就くことを禁じた地方自治法第142条に反するおそれがあり、社会福祉法人としての独立性を保つ観点から、近年、自治体関係者は役員に就かせない流れにある。同社協も吉田数博町長が引退するのに合わせ、2022年度から理事長を町長以外にした。 同社協の本所は前述・福祉センター内にある浪江事務所。原発災害からの避難者のために福島市、郡山市、いわき市に拠点があり、東京にも関東事務所を置く。職員は震災後に増え、現在は50人ほどいる。 事務局長「職員からの報告はない」 【浪江町】複合施設「ふれあいセンターなみえ」  問題となっているパワハラの加害者は、浪江事務所に勤める女性職員だという。この女性職員は、会計を任されていることを笠に着て同僚職員を困らせているようだ。例えば、職員が備品の購入や出張の伺いを立てる書面を、上司の決裁を得て女性職員に提出しても「何に必要なのか」「今は購入できない」などの理由を付けて跳ね返すという。人格を否定する言葉で罵倒することもあるそうだ。 一方で、女性職員は自分の判断で備品を購入しているという。ある職員は、女性職員のデスクの周りを見たら、新品の機器が揃えられていたことに唖然とした。 「彼女は勤務年数も浅いし、役職としては下から数えた方が早いんです。会計担当とはいえ、自由にお金を使える権限はありません。でも高圧的な態度を取られ、さらには罵倒までされるとなると、標的にはなりたくないので、誰も『おかしい』とは言えなくなりますね。発議を出すのが怖いと多くの職員が思っています」(ある職員) 職員たちは職場に漂う閉塞感を吐露する。休職・退職が相次ぎ、現場の負担が増した時があった。当時は「あと1人欠けたら職場が回らなくなる」との思いで出勤していたという。次第に女性職員の逆鱗に触れず一日が終わることが目的になった。「いったい私たちは誰をケアしているんでしょうね」と悲しくなる時がある。 休職し、退職を余儀なくされた男性職員は女性職員より上の役職だ。しかし、女性職員から高圧的な態度を取られ、部下からは「なぜ指導できないのか」と突き上げを食らい、板挟みとなった。この男性職員を直撃すると、 「2021年春ごろから体に異変が起こり、不眠が続くようになりました。心療内科の受診を勧められ、精神安定剤と睡眠導入剤を処方されるようになり、今も通院しています」(男性職員) 心ない言葉も浴びせられた。 「2022年春に子どもの卒業式と入学式に出席するため有給休暇を取得しました。その後、出勤すると女性職員から『なんでそんなに休むの?』と聞かれ『子どもの行事です』と答えると『あんた、父子家庭なの?』と言われました」(同) 子どもの行事に出席するのに母親か父親かは関係ない。他人が家庭の事情に言及する必要はないし、女性職員が嫌味を言うために放った一言とするならば、ひとり親家庭を蔑視している表れだろう。そもそも、有給休暇を取得するのに理由を明らかにする必要はない。 筆者は浪江事務所を訪ね、鈴木幸治事務局長(69)=理事も兼務=にパワハラへの対応を聞いた。 ――パワハラを把握しているか。 「複数の職員から被害の訴えがあったと聞いてびっくりしています。そういうことがあるというのは一切聞いていません」 ――ある職員は鈴木事務局長に直接被害を申し出、「対応する」との回答を得たと言っているが。 「その件は、県社会福祉協議会から情報提供がありました。全事務所の職員に聞き取りをしなくてはならないと思っています」 ――パワハラを把握していないという最初の回答と食い違うが。 「パワハラを受けたという職員からの直接の報告は1人もいないということです。県社協からは情報提供を受けました。聞き取りをしますと職員たちには伝えました」 ――調査は行ったのか。 「まだです。前の事務所から移ったばかりなので。落ち着くまで様子を見ている状況です」 加害者として思い当たる人物はいるかと尋ねると、「パワハラは当事者同士の言葉遣い、受け取り方によりますが、厳しい言い方があったのは確かで私も注意はしました。本人には分かってもらえたと思っています」と答えた。 本誌は栃本勝雄理事長と吉田数博前理事長にパワハラを把握していたかについて質問状を送ったが、原稿締め切りまでに返答はなかった。 「事務局長や理事長の責任放棄」  専門家はどう見るのか。流通科学大(神戸市)の元教授(社会福祉学)で近著に『社協転生―社協は生まれ変われるのか―』がある塚口伍喜夫氏(85)は「パワハラ」で収まる問題ではないという。 「役職が下の職員が上司の決裁を跳ねのけているのなら、決裁の意味が全くないですよね。個人のパワハラというよりも、組織が機能していない方がより問題だと思います。改善されていないのであれば事務局長や理事長の責任放棄です」 加えて、社協においても組織のガバナンス(管理・統治)の重要性を訴える。 「組織のガバナンスとは、任されている立場と仕事を果たすための環境を保持していくことです。業務から私的、恣意的なことを排除し、利用者に最上のサービスを提供することが大切です」(塚口氏) 事実、浪江町社協の職員たちはパワハラの巻き添えを食らわないよう自分のことに精いっぱいだ。利用者の方を向いて100%の仕事ができている状況とは言えない。 事務局長と理事長の対応に実効性がないことは分かったが、鈴木事務局長をめぐっては「別の問題」が指摘されている。縁故採用疑惑だ。 複数の職員によると、鈴木事務局長は知人の子や孫を、知人の依頼を受け積極的に職員に採用しているという。これまでに4人に上る。知人をつてに、人手不足の介護士や看護師などの専門職をヘッドハンティングしているなら分かるが、全員専門外で事務職に就いている。職員によると、採用を決めてから仕事を探して割り振るという本末転倒ぶりだ。 疑惑は親族にまで及んだ。前理事長の吉田前町長の元には、2022年度初めに「鈴木事務局長が義理の弟を関東事務所の職員に据えているのはどういうことか」と告発する手紙が届いたという。当初は義弟が所有する茨城県内の物件を間借りして関東事務所にする案もあったとの情報もある。義兄が事務局長(理事)を務める社協から、義弟に賃料が払われるという構図だ。 しかし、鈴木事務局長は「縁故採用はない」と否定する。 「職員を募集しても、福祉施設には応募が少ない。『来てくれれば助かるんだが』と話し、『家族と相談して試験を受けるんだったら受けるように』と言っただけです」 ――事務職は不足しているのか。 「町からの委託事業が多いので、それに伴った形で採用しています。正職員ではありません。なかなか応募がないので、知り合いを頼って人材を集めるのが確実です。募集もハローワークを通して、面接も小論文も必ず私以外の職員を含めた3人で行います。ですから、頼まれたから採用したというのは違います」 社協の意思決定は吉田前理事長を通して行ってきたと言う。 「やっていいかどうかの判断は私でもできます。一人で決めているわけではないです。別の職員の反対を押し切ることはありません。『ここの息子さんです』『あそこのお孫さんです』ということはすべて吉田前理事長に前もって説明していました。私が勝手にやったことは一度もありません」 ――介護士や看護師などの専門職は人手不足だが、その職種の採用を進めることはなかったのか。 「それはしていません。その時は介護士が必要な仕事を町から請け負ってなかったので、そもそも必要なかったのです。7月からデイサービス施設などを開所したことにより、介護士が必要になりました。ただ、そのような(縁故採用)指摘を受けたことの重大性は認識しており、個人的に応募を呼び掛けるのは控えるつもりです」 ――親族の採用については。 「試験を受けてもらい、復興支援員として関東事務所に配置しています。募集をかけても人が集まらない中、妻の弟が仕事を辞めたと聞き、『試験を受けてみないか』と打診しました。一方的に採用したわけではなく、私以外の職員2人による面接で選びました」 ――公募期間はいつからいつまでだったのか。 「なかなか集まらなかったので、長い期間募集していました。ただ、町からは『急いで採用してほしい』と言われていました。詳しい期間は調べてみないと分かりません」 「縁故採用は組織の私物化の表れ」  親族が所有する物件への関東事務所設置疑惑については、 「義弟が茨城県取手市で物件を管理しているので、いい物件が見つからない場合は、そこに置くのも一つの方法だな、と。ただ、それはやっていません」 ――交通の便が良い都心の方が避難者は利用しやすいのでは。 「関東に避難している方は茨城県在住の方が多いんです。近い方がいいのかな、と。それと首都圏で事務所を借り上げると、細かい部分が多いんですね。不動産業者を通して物件を探したが、なかなか見つからなかった。そこで、もし義弟の物件が空いているならと思って。ただ、身内の不動産を借りたとなると、いろいろ言われそうなのでやめました」 ――借りるのをやめたのは吉田前理事長の判断か。 「私の判断です。上に決裁は上げていませんので」 ――どうして都心の事務所になったのか。 「もう1人の職員が埼玉県草加市在住なので、どちらも通える方がいいですし、茨城だけに集中するわけではないので、被災者と職員の両方が通いやすいように、アクセスの良い都心がいいかなと考えました。義弟の物件を一時考えたのも、不動産業者を通すより手続きが簡素で、借りやすいという利点がありました。仮に義弟の物件を選んだとして、他の物件と比べて1円でも多く払うということはありません」 初めは「関東の避難者は茨城に多い」と答えていたが、いつの間にか「避難者は茨城だけに集中するわけではない」と矛盾をきたしている。 前出・塚口氏に見解を聞いた。 「公正に募って選別するというルートを踏むのが鉄則です。縁故採用が事実なら、組織を私物化した表れと言っていいでしょう。本来は誰がどこから見ても公正な採用方法が取られていると保証されなければなりません。それが組織運営の公正さに結びつきます。福祉事業は対人支援です。最上の支援は、絶えず検証しながら提供していくことが大事です。そこに私的なものや恣意的なものが混じってくると、良いサービスは提供できないと思います」 ガバナンスがきちんとしていないと、福祉サービスにも悪影響が出るというわけだ。浪江町社協には、町や県から補助金が交付されている。町民や県民は同社協の在り方にもっと関心を持ってもいい。

  • 【吉田栄光町長の側近】山本幸一郎【浪江町】副議長に怪文書

     2022年6月中旬、浪江町副議長の山本幸一郎氏(54、4期)に関する疑惑を綴ったメールが本誌編集部に寄せられた。山本氏が町議の立場を利用して、家業の建設会社の仕事を得ている――とする内容。山本氏に真偽のほどを聞いてみた。 家業の建設会社〝急成長〟に疑惑の目 怪文書メール  メールは匿名で送られてきた。受信日時は6月18日。ポイントは以下のようなもの。  〇浪江町議会副議長の山本幸一郎氏は、妻が平成建設の社長を務めているが、本人がいまも実質的な社長業を行っている。 〇町役場内で議員の立場を利用し、町工事や復興事業関係の入札情報を入手して仕事を得ている。 〇大手ゼネコンの下請に無理やり入り、好条件の請負金をせしめる行為が目立っている。 〇業界の鼻つまみ者だが、副議長であることや、浪江町長選で当選確実の吉田栄光氏(※編集部注・7月10日投開票の同町長選で6339票を獲得して初当選した)の威光もあり、大手ゼネコンのJVなどは仕方なく下請に入れている。 〇役場内で職員を恫喝し、次長課長クラスには必要な情報を出すようすり寄っている。復興事業で突然成金になった輩が「もっと金儲けさせろ」と守銭奴のごとく迫っているようで気持ち悪さがある。 〇浪江町にはいかがわしい議員がほかにもいる。町の政治をクリーンで適切なものとするため、こうした勘違い議員をただしていく必要があるのではないか。 公職選挙法第92条の2では、自治体議員がその自治体から仕事を請け負う会社の役員に就くことを禁じている(兼業禁止)。山本氏は家業の建設会社の役員から退いたものの、実際は副議長の立場を利用して多くの仕事を得ており、会社は急成長を遂げている――と指摘しているわけ。  山本氏は1968年4月生まれ。双葉高卒。2007年に平成建設社長に就任。2009年、浪江町議選に初当選したのに伴い社長を退任し、現在は同社社員として勤務。2021年4月の改選で4選を果たし、副議長を務める。山本氏の父・幸男氏も、同町議を8期務め、議長経験もある。 平成建設は1989年3月設立。資本金1000万円。従業員数24人(役員4人含む)。もともと牧場を経営していた幸男氏が立ち上げた(初代社長は幸男氏夫人のシヅ子氏)。所在地は、同町末森(すえのもり)地区だったが、原発事故で帰還困難区域に指定されたため、拠点を南相馬市原町区に移し、2018年に同町小野田地区に再移転した。 大手ゼネコンの下請として浪江町内の戸建て住宅建築や建物の解体工事、除染作業を手掛けているほか、一般顧客の整地工事や個人住宅の造成工事なども請け負っている。 役員は、代表取締役社長が山本氏の妻・山本博美氏。取締役が山本シヅ子氏、山本正幸氏、監査役が川村香代子氏。 民間信用調査機関によると、業績は別表の通り。震災・原発事故前の売上高は1億2000万円前後だったが、近年は数億円規模になり、2020年12月期には1億円超の当期純利益を計上した。  メールによると、町議の立場を利用して浪江町発注工事や復興事業に関係する入札情報を入手し、大手ゼネコンの下請に入っている、という。 相双建設事務所で同社の工事経歴書を閲覧したところ、業績が一気にアップした2019年から2021年にかけて、確かに大手ゼネコンが手掛ける被災建物の解体撤去工事や除染工事の下請に入っていた。 例えば2021年は安藤・間が元請の農地除染(請負金3億2470万円)と被災建物解体工事(同4500万円)を受注していた。 また、町発注工事に関しても、2020年に農業用施設保全整備(同1億2200万円)、2021年に小野田取水場造成工事(同1億7800万円)を元請で受注していた。 町議の立場を利用したかどうかは分からないが、復興事業や町発注工事を受注していたのは確かなようだ。 「業界の鼻つまみ者」、「大手ゼネコンのJVなどは仕方なく下請に入れている」という点が事実かどうかは確認できなかったが、「役場内で職員を恫喝し、次長課長クラスには必要な情報を出すようすり寄っている」という記述に関しては、町役場に出入りしている人物が次のように証言した。 「役場内で職員に大声で質問しているところを何度も見かけた。別のフロアにいてもその声が聞こえてきたほど。少なくとも第三者からは怒って話しているように見えました」 町内の事情通がこう解説する。 「〝導火線〟が短いタイプで、担当者などの回答が要領を得ないと大声になり、言葉遣いもすぐ荒くなる。いまの役場職員は震災・原発事故後に入庁したり、国・他市町村から応援で入っている人が大半で、地域事情をよく理解していないことが多いので、そうなりやすいのかもしれません。議会でも執行部とのやり取りの中で言葉遣いが荒くなり、何度か注意を受けていると聞いた。本人は自覚がないかもしれませんが、周りの受け止め方は違う」 いささか厳しい批判メールについて、当の本人はどう受け止めるのか。7月下旬、山本氏の自宅敷地内にある同社を訪ね、直接話を聞いた。 山本氏を直撃 山本幸一郎氏(浪江町議会HPより)  ――平成建設の実質的な社長業を山本氏が務めていると記されていた。 「厳密に言えば、この間実質的に経営を担ってきたのは私の父です。ただ、半年前に脳梗塞で倒れてしまったので、いまは私が〝金勘定〟を担当しています。もちろん、(公選法で禁じられているので)役員には就いていません」 ――議員の立場を利用し、町工事や復興事業に関係する入札情報を入手して仕事を得ているのでは、という指摘をどう受け止めますか。 「議員活動をしていれば、確かに予算策定の段階で次年度の事業について情報を得やすい。ただ、それらの情報は広報されており、誰でも入手できるもの。そもそも近年出ている町発注工事は規模が大きいものばかりで、入札参加資格がB、Cクラスのうちが応札できるものは少ない。(前出の)小野田取水場造成工事はうちの近所で、何としても取りたかったので、かなり〝叩いた〟金額で応札して取れましたけどね」 ――「大手ゼネコンの下請に無理やり入り、好条件の請負金をせしめている」という一文もあった。 「実際は大手ゼネコンから浪江町復興事業協同組合に打診があり、複数社で請け負っています。うちの会社が立地していた末森地区は特定復興再生拠点区域となっており、除染や建物解体工事が行われるということで、そこの下請には入れていただきました。地の利を生かせるということで、少し多めに(担当エリアを)配分していただいたと思いますし、危険手当分なども加味されているので割高な請負金になっています。ただ事情を知らない人には、議員の立場を使って仕事を取り、好条件な請負金を受け取っているように見えるかもしれません」 ――「議員として役場内で職員を恫喝している」という意見については、第三者からも証言を得ている。 「農業委員など地域のさまざまな役職を務めているので、2日に1度は役場に足を運び、担当課の職員と話をしています。ただ、事情が分からない職員も多く、怒ってしまうというか、つい大きな声でやり取りしてしまうのは事実です。建設課には町発注工事を受注している関係で確認のため訪ねることがありますが、それ以外で行くことはないです」 ――差出人に思い当たる節は。 「関係あるかどうかは分かりませんが、少し前に業界関係者とちょっとしたトラブルになったことがあり、(メールの内容と)同じようなことを指摘されたことがありました」 ――吉田栄光氏との関係にも触れられているが、これについては。 「父と付き合いがあり、私は中学生のときから何かとお世話になっているので、『他社より仕事を多くもらえているのではないか』とよく揶揄されていますが、さすがに県議の立場の方がそんなことはしません。町長選では吉田栄光氏の選対幹事長を務めました。町長選も意識して送信したのかもしれませんね」 疑惑のメールに対し、事実と異なる部分を丁寧に訂正し、同社の役員から退いているので公選法には抵触しない、と主張したが、「職員を恫喝」という指摘に関しては、そう疑われる行為をしていたと自ら認めた格好だ。町職員が町議から厳しい態度で詰められれば、立場の強さを利用したパワハラと受け取られかねない。まずは職員に対する姿勢を見直すべきだろう。 なお、町建設課にも確認したところ、「議員活動の一環として、事業の進捗状況などについて問い合わせがあれば説明することもあるが、未確定の情報について教えるようなことはない」と説明した。 言動を改めるべき  それにしても、誰がどんな目的でこのようなメールを送ったのか。 考えられるのは、年々町内での存在感を増す山本氏に対し敵意を抱く人物だろう。町議会副議長に就任し、家業の平成建設は復興需要で業績を伸ばしている。親密な関係の吉田栄光氏は新町長に就任する。そんな山本氏を疎ましく思う人物が悪評を綴ったのではないか。 そもそも山本氏の父・幸男氏からして、3回も議長不信任案が出されるなど議会のトラブルメーカー的存在だった。 本誌では2008年5月号に「違法墓地経営の浪江町議会議長に産廃不法投棄の仰天事実!!」という記事を掲載している。 県の相双地方振興局に「平成建設が山林に大量の建設廃棄物を不法投棄している」と通報が入った。現地を確認すると、建設廃棄物が野積みされ、埋められたものも確認できたため、同社に改善指導を行っていた。 2000年に建設廃棄物の分別解体と再資源化を義務付けた建設リサイクル法が定められていたが、当時同社の社長を務めていた山本氏らは同振興局に対し、「リサイクル法を知らなかった」と答えたという。 当時の本誌取材に幸男氏は「廃棄物は現在のように廃掃法が厳しくなる以前のもの」、「息子(山本氏)は『土の中から出て来た廃棄物は昔に埋めたもので、今は法律に基づいて適正に処理している』と説明した」、「掘り起こした廃棄物は(廃掃法の対象になるので)県の改善指導を受けて適正に処理した」と答えていた。 複数の町民によると、町長選には当初議長の佐々木恵寿氏(6期)が意欲を示していたが、「対立候補が出たとき、割れる可能性がある」という判断から候補者を調整し、議会を挙げて吉田栄光氏に頼み込んで、立候補を決意させた。その調整役を担ったのが山本氏とされる。 前述の通り、吉田氏は6339票を獲得し、会社社長の高橋翔氏に5895票差を付けて初当選を果たした。選対幹事長を務めた山本氏の存在感はますます大きくなると思われるが、それに伴い、過去の〝しくじり〟や職員への言動が蒸し返される機会が増えそう。「大堀地区で土地を取得し始めたが、何をするつもりなのか」(ある町民)など新たなウワサも聞こえてくるが、これまで以上に周囲の目を意識した言動を心がけなければ、再び同じような批判メールが出回ることになろう。 あわせて読みたい 悪評絶えない山本幸一郎【浪江町】副議長