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  • 【浪江町】新設薬局は医大進出の関西大手グループ【町役場敷地内にある浪江診療所】

    【浪江町】新設薬局は福島医大進出の関西大手グループ

     浪江町役場敷地内にある浪江診療所の近くに、震災・原発事故後初めて調剤薬局が開設される。進出するのは関西を拠点とする大手・I&Hグループで、県立医大でも敷地内薬局の運営に乗り出すなど勢力伸長が著しい。同町への進出を機に「原発被災地での影響力を強める方針ではないか」と同業者たちは見ている。 原発被災地で着々と影響力を拡大  浪江町で薬局を開設・運営するのは、関西を拠点に「阪神調剤薬局」を全国展開するI&H(兵庫県芦屋市)のグループ企業。本誌は昨年10月号「医大『敷地内薬局』から県内進出狙う関西大手」という記事で薬局設置に関わる規制の緩和が進む中、福島県立医大(福島市)も敷地内薬局を導入し、運営者を公募型プロポーザルで決めたことを報じた。 県薬剤師会は「医薬分業」を建前に、敷地内薬局に猛反対していたため動きが鈍く、情報収集に後れを取った。公募について会員内で共有したのは応募締め切り後だった。応募した地元薬局はあったものの、全国展開する大手3社がトップ争いを繰り広げる中、資本力で太刀打ちできず、I&Hが優先交渉権を獲得。次点者とは1点差という激しい争いだった。 地元の薬剤師・薬局経営者の間では、県立医大の敷地内薬局の運営権を関西の企業が勝ち取ったことは、県内の薬局勢力図の変化を象徴する出来事と捉えられ、「原発事故後、帰還が進みつつある浜通りに進出する足掛かりにしたいのでは」という見方があった。 浪江診療所は、町が国民健康保険の事業として設置・運営している。町健康保険課によると、復興が進む町内では唯一の医療機関だ。最新の年間利用者は延べ約5800人。ただ、調剤ができる薬局が町内にないため、医師や不定期に出勤する薬剤師が行い、看護師らが補助する形で実務を担っていた。院内処方と呼ばれる。 震災・原発事故後、町内に初めて調剤薬局ができるということは、浪江診療所の調剤業務を薬局に外注することを意味する。同課の西健一課長(浪江診療所事務長を兼務)も、「町としては院外処方に移行したいと思っています」と言う。 県内で薬局を経営する企業の役員は町が院外処方を進める理由を「医薬関係のコストを削減できるからです」と解説する。 町の特別会計「国民健康保険直営診療施設事業」の2021年度決算書によると、浪江診療所の医業費は2600万円(10万円以下切り捨て、以下同)。医薬材料費は2100万円で医業費の約8割。医薬材料費に患者に処方する医薬品の金額がどの程度含まれているかは不明だが、外注すれば相当圧縮できるだろう。 さらに、患者への薬の受け渡しに時間を取られていた看護師の負担が減る分、本来の業務に専念できる。業務が効率化できれば、町としては必要最低限の雇用で済ませられる。 メリットは患者にもある。 「取り扱いの少ない薬でもすぐに十分な量が手に入ります」(同) 診療所の調剤室は単独の薬局に比べると、量も種類も限られる。西課長によると、需要の少ない医薬品の場合、在庫切れになることもあり、南相馬市にある最寄りの調剤薬局まで車を走らせなければならなかった患者もいたという。 ただ、患者には見過ごせないデメリットもある。 まず、薬代が高くなる。院外処方は院内処方よりも、医療行為に対する報酬の基準となる診療点数が高くなるので、患者の負担が増える。  院内処方から院外処方に移行すれば、患者が薬局に薬を受け取りに行く手間もかかる。浪江診療所は役場敷地内にあるが、開設予定の薬局は敷地外に建設されるというから、大きな負担になるとは言わないまでもそれなりの移動を強いられる。 実際、薬局新設を聞きつけたある町民からは、 「通院しているのは年寄りが多いのに、町や医者の都合で雨の中でも薬を取りに行かなければならないのか」 と不満の声が聞かれた。 これまでの動きを振り返ると、財政負担を減らしたい町と、原発被災地に進出したいI&Hグループの思惑が合致したと言える。 「開設経緯を明らかに」  ある町関係者は薬局の開設経緯をオープンにすべきだったと訴える。 「関西の企業がどういう経緯で浪江に進出するのか。町が土地を紹介しないと無理でしょう。町に相談なしに進出を決めたとは考えられません。実質、浪江診療所に付随する薬局です。本来は公募して民間を競わせる方が公正だし、より良い条件を引き出せたのではないか。民間薬局が進出する動きがあると議会を通じて町民に知らせる必要があったと思います」 前出の西課長に薬局開設に町はどの程度関わっているか聞くと、 「役場の敷地外にできるので町は関わっていません。診療所の近くにできるとは聞いていますが、民間企業の活動なので、いつ、どこに開設するかはI&Hに聞いてほしい」 筆者はI&Hにメールで「薬局の開設場所はどこか」「いつ営業を始めるか」など7項目にわたり質問した。回答によると、近隣に建てる予定があることは確かだが、「具体的なスケジュールは決まっていない」という。 西課長によると、町とI&Hグループが接点を持ったきっかけは、震災・原発事故後からたびたび開かれている「お薬相談会」だという。浪江町には薬剤師がいないため、町外から招いて服薬指導をしている。この相談会に関係していた復興庁から「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル」というイベントへの参加を打診され、そこでI&Hと接点ができたという。 このイベントについては本誌昨年10月号で報じた。避難指示解除後に帰還が進む地域で、医師と共に薬剤師が不足している状況に薬剤師や薬局経営者らが問題意識を持ち、同年2月24日に厚生労働省や自治体職員とオンラインで現状を共有した。 主催は任意団体「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会」、事務局は城西国際大大学院(東京)国際アドミニストレーション研究科。同大学院の鈴木崇弘特任教授の記事(ヤフーニュース2022年3月1日配信)によると、メンバーは表の通り。I&H取締役や薬学部がある大学の教員が名を連ねる。 福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会のメンバー(敬称略) メンバー役職渡邉暁洋岡山大学医学部助教小林大高東邦大学薬学部非常勤講師岩崎英毅I&H取締役鈴木崇弘城西国際大学国際アドミニストレーション研究科長黒澤武邦城西国際大学国際アドミニストレーション研究科 准教授  鈴木氏の記事によると、I&H取締役の岩崎英毅氏のほかに福島市、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、そして厚労省の担当者が参加した。式次第によると、オープニングで学校法人城西大学の上原明理事長(大正製薬会長)が挨拶した。 本誌は以前、I&Hに、どのような関係で自社の取締役が同委員会のメンバーを務めているのかメールで質問した。同社からは次のような回答が寄せられた。 《医療分野のDXへの関心が飛躍的に高まり、また、厚生労働省が進めている薬局業務の対物業務から対人業務へのシフトにより、薬局には住民の皆様の個別のニーズに応じた、より質の高いサービスの提供が期待されています。このような状況のもと、弊社は、オンライン診療、服薬指導、処方薬の配送など、地域医療の格差是正に向けた取り組みを推進しておりますが、このような取り組みの知見や課題を共有することで、無薬局の解消の一助になることができればと考え、実行委員会に参加させていただきました》 営業活動の一環か、という質問には、 《無薬局の解消、地域医療の格差是正に向けて、様々な視点からの知見や課題を学ばせていただくことが目的でございます》 と答えた。 双葉郡に進出加速か? 浪江町役場敷地内にある浪江診療所  浪江診療所の患者の処方を受け付けるだけでは元は取れない。だが、I&H取締役の岩崎氏は被災地へ進出する個人的な思いがあるようだ。 「岩崎氏は中学生の時に阪神・淡路大震災を経験したそうです。他人ごとではないという思いから、東日本大震災でも一薬剤師として被災地に支援に来ました。その時の写真も見せてもらいました。被災地の行く末を心配し、今回、薬局の進出を決めたそうです。将来的に経営が安定し、地元の薬剤師で希望者がいれば雇用したい考えもあるそうです」(前出の西課長) 大手調剤薬局グループは、調剤だけでなく、旺盛なM&Aを繰り広げ介護福祉事業、カフェやコンビニも展開している。地方の薬局で採算が取れなくとも、都市部の収益とその他の事業で黒字になればいいとチャレンジする余裕がある。 町が福祉事業を委託している浪江町社協で、行き当たりばったりの縁故採用が横行し、人手不足に陥っていることを考えると、I&Hのような全国に人員を抱える大手民間企業が町からデイサービスなどの委託事業を担うのも現実味を増す。 昨年2月の「薬局ゼロ解消」を目指すイベントには浪江町以外にも富岡、大熊、双葉の各町が参加した。I&Hはこのつながりを足掛かりに浜通りでの薬局開設を加速させるのだろう。さらに、休止が続く県立大野病院(大熊町)の後継病院への関与も見据えているはずだ。 原発被災地は、一時的に医療・医薬関連業が撤退を強いられ、空白地帯となった。一方、復興の名目で国や県の主導で事業が進む中、資本力のある大手にとっては新規開拓の土地でもある。 あわせて読みたい 福島医大「敷地内薬局」から県内進出狙う関西大手【I&H】

  • 【浪江町】新設薬局は福島医大進出の関西大手グループ

     浪江町役場敷地内にある浪江診療所の近くに、震災・原発事故後初めて調剤薬局が開設される。進出するのは関西を拠点とする大手・I&Hグループで、県立医大でも敷地内薬局の運営に乗り出すなど勢力伸長が著しい。同町への進出を機に「原発被災地での影響力を強める方針ではないか」と同業者たちは見ている。 原発被災地で着々と影響力を拡大  浪江町で薬局を開設・運営するのは、関西を拠点に「阪神調剤薬局」を全国展開するI&H(兵庫県芦屋市)のグループ企業。本誌は昨年10月号「医大『敷地内薬局』から県内進出狙う関西大手」という記事で薬局設置に関わる規制の緩和が進む中、福島県立医大(福島市)も敷地内薬局を導入し、運営者を公募型プロポーザルで決めたことを報じた。 県薬剤師会は「医薬分業」を建前に、敷地内薬局に猛反対していたため動きが鈍く、情報収集に後れを取った。公募について会員内で共有したのは応募締め切り後だった。応募した地元薬局はあったものの、全国展開する大手3社がトップ争いを繰り広げる中、資本力で太刀打ちできず、I&Hが優先交渉権を獲得。次点者とは1点差という激しい争いだった。 地元の薬剤師・薬局経営者の間では、県立医大の敷地内薬局の運営権を関西の企業が勝ち取ったことは、県内の薬局勢力図の変化を象徴する出来事と捉えられ、「原発事故後、帰還が進みつつある浜通りに進出する足掛かりにしたいのでは」という見方があった。 浪江診療所は、町が国民健康保険の事業として設置・運営している。町健康保険課によると、復興が進む町内では唯一の医療機関だ。最新の年間利用者は延べ約5800人。ただ、調剤ができる薬局が町内にないため、医師や不定期に出勤する薬剤師が行い、看護師らが補助する形で実務を担っていた。院内処方と呼ばれる。 震災・原発事故後、町内に初めて調剤薬局ができるということは、浪江診療所の調剤業務を薬局に外注することを意味する。同課の西健一課長(浪江診療所事務長を兼務)も、「町としては院外処方に移行したいと思っています」と言う。 県内で薬局を経営する企業の役員は町が院外処方を進める理由を「医薬関係のコストを削減できるからです」と解説する。 町の特別会計「国民健康保険直営診療施設事業」の2021年度決算書によると、浪江診療所の医業費は2600万円(10万円以下切り捨て、以下同)。医薬材料費は2100万円で医業費の約8割。医薬材料費に患者に処方する医薬品の金額がどの程度含まれているかは不明だが、外注すれば相当圧縮できるだろう。 さらに、患者への薬の受け渡しに時間を取られていた看護師の負担が減る分、本来の業務に専念できる。業務が効率化できれば、町としては必要最低限の雇用で済ませられる。 メリットは患者にもある。 「取り扱いの少ない薬でもすぐに十分な量が手に入ります」(同) 診療所の調剤室は単独の薬局に比べると、量も種類も限られる。西課長によると、需要の少ない医薬品の場合、在庫切れになることもあり、南相馬市にある最寄りの調剤薬局まで車を走らせなければならなかった患者もいたという。 ただ、患者には見過ごせないデメリットもある。 まず、薬代が高くなる。院外処方は院内処方よりも、医療行為に対する報酬の基準となる診療点数が高くなるので、患者の負担が増える。  院内処方から院外処方に移行すれば、患者が薬局に薬を受け取りに行く手間もかかる。浪江診療所は役場敷地内にあるが、開設予定の薬局は敷地外に建設されるというから、大きな負担になるとは言わないまでもそれなりの移動を強いられる。 実際、薬局新設を聞きつけたある町民からは、 「通院しているのは年寄りが多いのに、町や医者の都合で雨の中でも薬を取りに行かなければならないのか」 と不満の声が聞かれた。 これまでの動きを振り返ると、財政負担を減らしたい町と、原発被災地に進出したいI&Hグループの思惑が合致したと言える。 「開設経緯を明らかに」  ある町関係者は薬局の開設経緯をオープンにすべきだったと訴える。 「関西の企業がどういう経緯で浪江に進出するのか。町が土地を紹介しないと無理でしょう。町に相談なしに進出を決めたとは考えられません。実質、浪江診療所に付随する薬局です。本来は公募して民間を競わせる方が公正だし、より良い条件を引き出せたのではないか。民間薬局が進出する動きがあると議会を通じて町民に知らせる必要があったと思います」 前出の西課長に薬局開設に町はどの程度関わっているか聞くと、 「役場の敷地外にできるので町は関わっていません。診療所の近くにできるとは聞いていますが、民間企業の活動なので、いつ、どこに開設するかはI&Hに聞いてほしい」 筆者はI&Hにメールで「薬局の開設場所はどこか」「いつ営業を始めるか」など7項目にわたり質問した。回答によると、近隣に建てる予定があることは確かだが、「具体的なスケジュールは決まっていない」という。 西課長によると、町とI&Hグループが接点を持ったきっかけは、震災・原発事故後からたびたび開かれている「お薬相談会」だという。浪江町には薬剤師がいないため、町外から招いて服薬指導をしている。この相談会に関係していた復興庁から「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル」というイベントへの参加を打診され、そこでI&Hと接点ができたという。 このイベントについては本誌昨年10月号で報じた。避難指示解除後に帰還が進む地域で、医師と共に薬剤師が不足している状況に薬剤師や薬局経営者らが問題意識を持ち、同年2月24日に厚生労働省や自治体職員とオンラインで現状を共有した。 主催は任意団体「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会」、事務局は城西国際大大学院(東京)国際アドミニストレーション研究科。同大学院の鈴木崇弘特任教授の記事(ヤフーニュース2022年3月1日配信)によると、メンバーは表の通り。I&H取締役や薬学部がある大学の教員が名を連ねる。 福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル実行委員会のメンバー(敬称略) メンバー役職渡邉暁洋岡山大学医学部助教小林大高東邦大学薬学部非常勤講師岩崎英毅I&H取締役鈴木崇弘城西国際大学国際アドミニストレーション研究科長黒澤武邦城西国際大学国際アドミニストレーション研究科 准教授  鈴木氏の記事によると、I&H取締役の岩崎英毅氏のほかに福島市、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、そして厚労省の担当者が参加した。式次第によると、オープニングで学校法人城西大学の上原明理事長(大正製薬会長)が挨拶した。 本誌は以前、I&Hに、どのような関係で自社の取締役が同委員会のメンバーを務めているのかメールで質問した。同社からは次のような回答が寄せられた。 《医療分野のDXへの関心が飛躍的に高まり、また、厚生労働省が進めている薬局業務の対物業務から対人業務へのシフトにより、薬局には住民の皆様の個別のニーズに応じた、より質の高いサービスの提供が期待されています。このような状況のもと、弊社は、オンライン診療、服薬指導、処方薬の配送など、地域医療の格差是正に向けた取り組みを推進しておりますが、このような取り組みの知見や課題を共有することで、無薬局の解消の一助になることができればと考え、実行委員会に参加させていただきました》 営業活動の一環か、という質問には、 《無薬局の解消、地域医療の格差是正に向けて、様々な視点からの知見や課題を学ばせていただくことが目的でございます》 と答えた。 双葉郡に進出加速か? 浪江町役場敷地内にある浪江診療所  浪江診療所の患者の処方を受け付けるだけでは元は取れない。だが、I&H取締役の岩崎氏は被災地へ進出する個人的な思いがあるようだ。 「岩崎氏は中学生の時に阪神・淡路大震災を経験したそうです。他人ごとではないという思いから、東日本大震災でも一薬剤師として被災地に支援に来ました。その時の写真も見せてもらいました。被災地の行く末を心配し、今回、薬局の進出を決めたそうです。将来的に経営が安定し、地元の薬剤師で希望者がいれば雇用したい考えもあるそうです」(前出の西課長) 大手調剤薬局グループは、調剤だけでなく、旺盛なM&Aを繰り広げ介護福祉事業、カフェやコンビニも展開している。地方の薬局で採算が取れなくとも、都市部の収益とその他の事業で黒字になればいいとチャレンジする余裕がある。 町が福祉事業を委託している浪江町社協で、行き当たりばったりの縁故採用が横行し、人手不足に陥っていることを考えると、I&Hのような全国に人員を抱える大手民間企業が町からデイサービスなどの委託事業を担うのも現実味を増す。 昨年2月の「薬局ゼロ解消」を目指すイベントには浪江町以外にも富岡、大熊、双葉の各町が参加した。I&Hはこのつながりを足掛かりに浜通りでの薬局開設を加速させるのだろう。さらに、休止が続く県立大野病院(大熊町)の後継病院への関与も見据えているはずだ。 原発被災地は、一時的に医療・医薬関連業が撤退を強いられ、空白地帯となった。一方、復興の名目で国や県の主導で事業が進む中、資本力のある大手にとっては新規開拓の土地でもある。 あわせて読みたい 福島医大「敷地内薬局」から県内進出狙う関西大手【I&H】