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玉川村

  • 「議員定数議論」で対応分かれた古殿町・玉川村・平田村

    「議員定数議論」で対応分かれた古殿町・玉川村・平田村

     古殿町、玉川村、平田村の石川郡3町村は3月に同時日程で議員選挙が行われる。それに先立ち、それぞれの町村議会で、昨年から議員定数のあり方を議論してきたが、結果は三者三様のものだった。(末永) 重要なのは住民にとって有益な存在かどうか 3町村の基礎データ面 積人 口議員定数古殿町163・29平方㌔4655人10玉川村46・47平方㌔6191人12平田村93・42平方㌔5413人12※人口は古殿町が昨年12月31日、玉川村が今年1月1日、平田村が昨年12月1日時点  任期満了に伴う古殿町議選、玉川村議選、平田村議選が3月19日告示、24日投開票の日程で行われる。それを前に、各議会では昨年から議員定数をどうするかを検討してきた。結果から言うと、古殿町は2減(12人→10人)、玉川村は現状維持(12人)、平田村はひとまず現状維持(12人)として改選後の議会で再度議論する――という三者三様のものだった。同じ石川郡ということもあり、関係者はそれぞれの議会の動きに注目していたようだ。関係者だけでなく、住民から「向こう(近隣町村)はこうだったが、ウチは……」といった話を聞く機会もあった。 古殿町議会 古殿町役場  古殿町議会は、昨年10月から12月まで、全員協議会で5回にわたり議論を重ねてきた。同町議会は2012年までは定数が14だったが、同年3月の改選時に12に減らした。それから12年が経ち、あらためて議員定数のあり方を議論したのである。  根底にあるのは、2012年に定数削減したころから、人口が約1500人減少していること。もう1つは、町民から「人口が減少しているのだから、それに倣って、議員定数も減らすべき」といった声が出ていたこと。  なお、3町村の基礎データを別表にまとめたが、古殿町は行政区分こそ「町」だが、玉川村、平田村より人口が少ない。反して、面積はだいぶ広く「町内全域に目を向ける」という点では、3町村の中では最も大変な地域と言える。  そうした中で議論を重ね、昨年12月議会で、議員発議で定数削減案(条例改正案)が出され、採決の結果、賛成7、反対4の賛成多数で可決された。反対意見としては、町民の声が届きにくくなること、若い人や女性などが議員になるハードルが高くなること、議論が十分でないこと――等々が挙げられた。議案審議(討論)の中でも、そうした意見が出たが、結果は前述の通り。  ある関係者は「反対する人もいましたが、人口減少、時代の流れなどからしても、(2減は)妥当だったのではないか」と話した。  一方、選挙に向けた動きについては、「削減によって枠が2つ減るわけだから、常に上位当選している人以外は、いろいろと気にしているようだ。ただ、いま(本誌取材時の1月中旬時点)は、それぞれが様子見という段階で、現職の誰が引退して、新人のこんな動きがある、といった具体的なことは見えてこない」(前出の関係者)という。 玉川村議会 玉川村役場  玉川村議会は、昨年10月から11月にかけて、議員定数に関する住民アンケートを実施した。対象は全1799世帯、回答数は1029件(回収率57・2%)だった。  もっとも多かった回答は現在の定数12から2減の「10人」で402(39・1%)。以下、現状維持の「12人」が382(37・1%)、「8人以下」が156(15・2%)と続く。この3つで全体の90%超を占める。2減の「10人」と、現状維持の「12人」が拮抗しているが、「8人以下」を含めた「削減」という点で見るならば、半数を超えている。  少数意見としては、「18人」が22、「16人」と「14人」がそれぞれ1あり、増員を求める回答もあった。逆に「0人」、「1人」、「2人」という回答がそれぞれ1ずつあった。  ちなみに、議会は「最低人数は何人」といった規定はないが、「議長を置いたうえで議論できる」ことが条件になる。つまり、議長1人と、議長を除いて議論するために最低2人が必要だから、議員の最小人数は3人という解釈になり、それ未満はあり得ない。一方、地方自治法(94条、95条)では、議会を置かず、それに代わって選挙権を有する住民による総会(町村総会)を設けることができる、と規定されている。60年以上前はその事例があったが、近年はない。 賛成、反対意見の中身  話を戻して、玉川村議会はアンケート結果を踏まえ、全員協議会で検討した。そのうえで、昨年12月議会で議員発議によって、議員定数を10にする条例改正案が提出された。採決の結果、賛成5、反対6の賛成少数で否決された。  以下、その際に行われた討論の概要を紹介する。  賛成討論  小林徳清議員▽少子高齢、人口減少にあえぐ市町村情勢は、議員定数削減の方向となっている。アンケートの結果からも民意は削減を求めており、現状維持は村民の理解が得られないばかりか、アンケートの意味をなさない民意無視となり、議会・議員に対して不信感を招き、保身と批判を受けることになる。議員として、多くの民意を反映させる職務と責務から、アンケートに基づく定数2削減に大いに賛成。  塩澤重男議員▽今回のアンケートでは様々な意見があった。その中でも、削減が過半数の58%を占めている。人口減少が加速する中、議員定数も減らすべきであり、村民の意見を真摯に受け止め、定数削減に賛成する。  大和田宏議員▽アンケート結果で、当然、少数派意見も尊重しなければならないが、やはり多数派意見に重点を置かなければならないので賛同する。削減した場合はメリット・デメリットが出るが、デメリットは今後協議しながらカバーしていけばいいと思う。それぞれの議員がすぐに活動できる環境を進めていき、デメリットを克服しながら十分対応できると考えるので賛成。  石井清勝議員▽近隣の市町村では10人で運営しているところも多くある。人口だけでなく、予算も考慮しながら、住民の代表として、村をいかに良くしていくか、活性化していくかを考えていく必要がある。議員自ら身を削ってやっていかないと村も活性化しないと思うので賛成する。  反対討論  佐久間安裕議員▽議員定数見直しに反対するものではなく、今回は十分に議論する時間がない中での削減のため反対する。アンケート結果でも50代以下は現状維持が多く、「現状維持」と「10人」も僅差だった。そういった若い世代の意見を切り捨ててもいいのか疑問を感じる。議会基本条例策定とともに議会改革を進め、内容を公開していくことが求められる中で、いまだ議論の準備段階であり、様々な観点から十分な議論を尽くしていくべき。アンケート結果の民意だから即削減すべきではなく、今回は拙速であるので反対する。  飯島三郎議員▽病人が多数出たりして欠席が多くなってしまうと議会が成り立たなくなる恐れがあるとの思いで、現状維持の判断をした。今回新たな特別委員会が設置され、業務が多くなり、議員1人当たりの業務負担が増加している中で、これ以上人数が少なくなると村内の隅々まで行き届かなくなり、本来の活動ができなくなることは間違いないので、削減に反対する。  三瓶力議員▽今回のアンケートをすべて確認し、皆様の思いや考えをいろいろな方面から検討した。アンケート結果を見ると、現状維持の12人の意見が多かったのは、20代から50代だった。回答数では60代以上からの回答が多く、偏っているのではと感じる。20代から50代の貴重な意見を尊重すべきであり反対する。 深刻ななり手不足  こうした意見があった中、前述したように、議員定数削減案は反対多数で否決された。  賛成した議員は「村民からは、だったらなぜアンケートを実施したのかと言われた」と、早速、批判があったことを明かした。  「住民の意見」がハッキリ出ている中で、「現状維持」の判断をしたのだから、そうした批判が出るのは当然か。  今回取材した近隣町村の関係者からも、「玉川村は住民アンケートまでやって、住民の多数派意見を洗い出したのに、『現状維持』にして批判は出ていないのか? 他村のことながら気になってしまう」との声が聞かれた。  改選後の議会は、そうした批判とも向き合っていかなければならないことを覚えておいた方がいい。  選挙に向けた情勢としては、4人の現職議員が引退する見込みという。昨年4月の村長選に議員を辞して立候補した須藤安昭氏、林芳子氏の2人が議員復帰を目指す可能性はありそうだが、現状はほかに立候補の可能性がありそうな人の動きは見えてこないようだ。  ある議員は、地元行政区で「自分は今期で引退して、誰かにバトンタッチしたい」旨を伝えたところ、自薦他薦ともに後継者になり得る人が出てこなかったという。かといって、「この地区から議員がいなくなるのは困る」との意見もあったことから、やむなく「自分がもう1期やるしかない」という結論に至った事例もあると聞く。それだけ、なり手がいないということだ。  そのため、村内では「『現状維持』にしておきながら、定数割れが起きるのではないか」と懸念する声もあり、もしそうなったら、より批判が大きくなるだろう。  定数割れにならないまでも、「タダでなれるなら」と、何の考え・信条もなく、立候補する人が出てくる可能性もあり、「そうなったら、議会の質の低下を招くのではないか」と憂える住民は少なくない。 平田村議会 平田村役場  平田村議会は、昨年9月に3回の全員協議会を開き、議員定数について検討した。  その中で出された意見は、「人口が減少していることや、住民の声などを踏まえると、削減すべき」というものと、「削減ありきではなく、総合的に考えるべき」というもの。そのほか、「20年以上の議員は引退して後継者に託すべき」、「若い人が立候補できるような条件整備が必要」、「仮に議員を2人削減しても、費用面での効果は予算総額の0・17%に過ぎない」といった意見もあった。当初は、条件付きでの「削減派」が8人、「現状維持派」が4人だったという。  その後、検討が進められる中で、定数を削減した場合、現状維持とした場合のメリット・デメリットが挙げられた。  削減のメリット▽経費削減、意見の集約が早い、議員のレベルアップにつながる、住民からの意見を反映した議員活動がしやすくなる、議員と村民の距離が縮まり議員活動がしやすい。  削減のデメリット▽議員のなり手を狭める、意見が偏る傾向がある、多くの意見が上がらない、委員会が少人数になる、住民の意見が反映されにくくなる、少数意見になり村民のニーズから遠くなる、執行者への監視が不十分になる、多様な意見や考えが反映されず結果十分な議論ができずに決定されてしまう、行政と住民の橋渡しが薄れる、現職議員が有利で若年層・女性の進出が困難になる。  現状維持のメリット▽村民の意見が届きやすい、議員のなり手の門扉を開く、委員会の構成人数が良い、多数精鋭を目指し広く村民の声を反映できる、多数の意見を集約できる、多様性が維持される、新たな立候補者が出やすくなる。  現状維持のデメリット▽議員の資質低下、意見の集約に時間がかかる。賛否拮抗で結論持ち越し  こうして、意見が出されていくうちに、「削減派」と「現状維持派」が拮抗していき、最終的には6対6になった。そのため、「今回は現状維持とし、これらの問題に対しては、住民からの意見等も聞きながら、次期議員で引き続き協議を進めるべきである」との結論に至った。  つまりは、結論を改選後の議会に持ち越したのである。  同村が古殿町、玉川村と少し違うのは、早い段階で新人2人が立候補の動きを見せているのだという。現職は引退する意向の人はおらず、ほかに元職1人が立候補するのではないかと言われている。現状、現職12人、元職1人、新人2人で、選挙戦になるのが濃厚だ。「それだけ、なり手がいるのはいいことだ」と見る向きもあれば、「現職議員は、厳しい選挙戦が予想されるから、減らしたくなかったのだろう」といった批判もあるようだ。  以上、古殿町、玉川村、平田村の議員選挙に向けた定数削減議論について見てきたが、3町村で完全に対応が分かれた格好。同じ石川郡で、同時日程で選挙が行われるだけに、当該町村の住民・関係者などからは「ウチはこうだったけど、向こうはどういう流れであの結論に至ったのか気になる」と、それぞれが気にしている様子。そんな中で、何が正解かと言ったら、「住民にとって有益な議会・議員であるかどうか」しかない。住民にとって有益な存在であれば、「定数を削減すべき」といった意見は出てこないだろうから。削減したところも、現状維持としたところも、一番に意識すべきはそこだ。

  • 【玉川村】職員「住居手当不適切受給」の背景

    【玉川村】職員「住居手当不適切受給」の背景

     玉川村の50代男性職員が住居手当と通勤手当の計約400万円を不適切に受給したとして、昨年12月に停職3カ月の懲戒処分を受けた。一方、本誌昨年10月号では、矢吹町の30代男性職員が住居手当を不適切に受給していたとして、昨年9月に戒告の懲戒処分を受けたことを報じた。この2つの事例から察するに、表面化していないだけで、この手の問題はほかの自治体でもあるのではないか、と思えてならない。 矢吹町でも同様の事例発覚  玉川村の問題は、地域整備課の男性職員(主任主査。50代)が、2012年5月~昨年11月まで、住居手当379万7000円と通勤手当17万1000円の396万8000円を不適切に受給した。村はこの男性職員を停職3カ月の懲戒処分にした。処分は昨年12月7日付。  村によると、男性職員は村外に借りたアパートに住民登録しており、村では家賃の2分の1、2万8000円(※以前は2万7000円)を上限に住宅手当が支給されることになっている。ところが、男性職員はアパートを借りたままで、実際の生活は村外の親族宅で暮らすようになった。それが始まったのが2012年5月こと。本来であれば、その時点で住民票を移して、村に申し出なければならなかったが、「親族宅での生活は一時的なもの」として、そのままにしていた。しかし、親族宅での生活は「一時的なもの」ではなく、結果的に10年以上に及んだ。その間、アパートの賃貸借契約は継続されていたが、住居手当には「生活の実態がある」旨の条件があり、受給条件を満たさなくなった。加えて、その親族宅は、住民登録していたアパートより、職場(玉川村役場)への距離が若干近かった。  こうした事情から、前述した住居手当、通勤手当の計約400万円を不適切に受給したとして、停職3カ月の懲戒処分を受けたのである。  この問題が発覚した原因は匿名の情報提供があったのがきっかけ。これを受け、聞き取り調査を行い、男性職員が事実と認めたことから、懲罰委員会で処分を決めた。不適切に受給した住居手当、通勤手当は全額を返済されているという。  「(処分発表後)村民からは厳しいご指摘もいただいている。今回の件を受け、11月と12月に(同様の事例がないか)全職員への聞き取りを行いました。今後も、年1回は確認を行い、このようなことが起こらないように対処したい」(須田潤一総務課長)  今回の件を受け、ある議員はこう話した。  「昨年12月議会開会前の同月6日に、控え室で村から議員にこの問題についての説明があった。そこでは明日(7日)に懲罰委員会を開き、(議会初日の)8日にあらためて説明するとのことだった。ただ、村民の中には、われわれ(議員)より先にこの問題を知っている人がいて、それによると『この男性職員は矢吹町にアパートを借りていて、奥さんが出産の際、実家に戻った。旦那さん(男性職員)もアパートに帰らず、奥さんの実家に寝泊まりして、そこから通勤するようになった。それがズルズルと続いて、今回の問題に至った』と、逆にわれわれが村民に詳細を教えられる状況だった。どこから漏れたのか、ある程度、察しはつくが、こういうのは何とかならないものかと思いましたね」  肝心の問題の対処については、「どの職員がどこに住んでいるか。本当に、住民登録があるところに住んでいるのか等々を把握するのは難しい。本当にそこに住んでいるのか、抜き打ちで後をつけるわけにもいかないしね。その辺は本人の申告に頼らざるを得ないが、定期的に確認することは必要になるでしょう」との見解を示した。  アパートなどの賃貸住宅は、一度契約すると、当事者からの申し出がない限り、自動的に契約が更新される仕組み。例えば、1年ごとに契約を結び直すシステムであれば、その度に契約書を提示してもらうことで確認できるが、そうでない以上、本人の申し出に頼るしかない。そういった点はあるものの、住居手当の受給条件を満たしているか等々の定期的な確認は必要だろう。  一方で、ある村民はこう話す。  「いま、村内では阿武隈川遊水地の問題があるが、遊水地の対象地区では地元協議会を立ち上げ、要望活動などを行っています。昨年12月9日に、その会合を開き、村からも関係職員が出席することになっていましたが、急遽、村から『事情があって出席できなくなった』と言われました。後で、その問題を知り、そういうことか、と」  前述したように、処分は昨年12月7日付だが、村が公表したのは同12日だった。そのため、ほとんどの村民は、同日の夕方のニュースか、翌日の朝刊でこの問題を知った。遊水地の地元協議会が開かれた9日の時点では、「なぜ、村はドタキャンしたのか」と訝しんだが、数日後に「この問題があってバタバタしていたから来られなかったのか」と悟ったというのだ。 矢吹町の事例  ところで、本誌昨年10月号に「矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景」という記事を掲載した。受給条件を満たしていないにもかかわらず、住居手当を7年8カ月にわたり受け取っていたとして、30代男性職員が戒告の懲戒処分を受けたことを報じたもの。まさに玉川村と似た事例だ。以下は同記事より。    ×  ×  ×  ×  報道や関係者の情報によると、この男性職員は2013年2月から賃貸物件を契約し、住居手当1カ月2万6700円を受給していた。  2015年10月に賃貸物件を引き払い、実家に住むようになったが、住居手当の変更手続きを怠り、同年11月から今年6月までの7年8カ月分、245万6000円を受給していた。職員は届け出を「失念していた」と話している。また、町もこの間、支給要件を満たしているかどうかの確認をしていなかった。  本人の届け出により発覚し、不適切受給した分は全額返還された。    ×  ×  ×  ×  記事では、男性職員が懲戒処分の中で最も軽い戒告処分、監督する立場だった管理職の50代男性2人を口頭注意としたこと(処分は9月15日付)に触れつつ、町民の「結構重大な問題だと思うけど、ずいぶん軽い処分だったので呆れました」とのコメントを紹介した。  懲罰規定は各自治体によって違うが、確かに、似たような事例で、玉川村では停職3カ月、矢吹町では戒告と、処分に開きがあるのは気になるところ。  一方で、両町村の事例から察するに、バレていないだけで、似たような問題はほかの市町村でも潜んでいるのではないかと思えてならない。各市町村は、一度点検する必要があるのではないか。

  • 【玉川村】須釡泰一村長インタビュー

    【玉川村】須釡泰一村長インタビュー

    すがま・やすいち 1959年生まれ。福島大中退。福島県総務部政策監、福島県観光物産交流協会常務理事、玉川村副村長などを歴任し、今年4月の玉川村長選で初当選。    ――玉川村長選では新人3人による三つどもえの激戦を制して初当選を果たしました。  「副村長を3年間務めていたものの知名度不足は否めず、苦戦を覚悟していました。ただ、支持者の皆さまに『顔と名前』の浸透に注力していただいた結果、日を追うごとに村長選への関心が高まり、村民の皆さまの政策への理解が深まっていくのを実感しました。あらためて村民の皆さま方に当選させていただいたと痛感するとともに、身が引き締まる思いです。選挙戦で寄せられた期待に応えるためにも、公約を着実に実現していかなければならないとの思いを強くしております」  ――1期目の重点施策について。  「『生まれて良かった、住んで良かった、選んで良かった玉川村』を基本コンセプトに掲げています。時代や社会の変化とともに進化しながら、村民の皆さまが安心・安全を実感し快適に暮らせる生活環境、質の高い行政サービスを提供していくことが何より肝要です。  喫緊の課題としては、人口減少対策が挙げられます。人口流出を阻止し、移住者等を増やす政策が必要となります。仕事・住居・教育・医療・子育て支援の充実と生活インフラの整備に加え、移住支援金をはじめ、移住者への手厚い支援など『総合政策』として取り組む必要があります。関係人口の創出と都市部からの移住・定住や二地域居住などを積極的に推進し、地域の活性化、振興策を講じていきます。  次いで、阿武隈川遊水地群整備計画です。村内で収穫量が最も多い優良な農地が買収されるなど、今後の村づくりに大きな影響を及ぼしかねない国家プロジェクトです。住居などの移転を迫られる方々が、これまでの生活の質を確保しながら安心・安全に暮らしていける環境を整えるのが本村の重要な役割と認識しています。対象者一人ひとりに寄り添った対策の実現に向け、国としっかり協議調整していきます。  そのほか、①複合型水辺施設を中心とした『かわまちづくり事業』、②旧須釜中学校校庭を活用した宅地造成事業、③泉郷駅前の活性化などのプロジェクトの推進、④基幹産業である農林業や商工業の振興、⑤いわゆる交通弱者対策としての『高齢者等QOL向上サービス実証事業』の展開と来年度以降の事業化、⑥地域のデジタル化推進を踏まえたプレミアム率30%の『デジタル商品券』の発行〝手ぶらキャッシュレス〟事業、⑦高齢の方々が末永く幸せに暮らしていけるための健康寿命の延伸事業――など、多様なニーズを把握しながら、地域に合ったきめ細かなサービスを提供できる仕組みづくりに鋭意努めます」  ――今後の抱負を。  「4月30日の就任から約4カ月が経過しました。この間、村民の皆さまをはじめ、職員、議会のご理解とご協力に深く感謝致します。『だれもが誇りを持てる魅力ある活力ある元気で豊かな玉川村』の実現に向け、皆さまのご意見やご要望に真摯に向き合いながら、本村における課題解決にしっかりコミットする『玉川モデル』としての施策の展開に邁進していく考えです」

  • 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家

     国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」  令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。  遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区  3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い 木賊正男町長  そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。

  • 現職退任で混沌とする玉川村長選

    現職退任で混沌とする玉川村長選

     任期満了に伴う玉川村長選は4月18日告示、同23日投開票の日程で行われる。現職・石森春男氏は昨年12月議会で今期限りでの引退を表明しており、村内では「石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を立てる可能性が高い」との見方がもっぱらだ。 石森派候補と反石森派候補の一騎打ちか  石森春男村長(71、4期)は昨年12月議会の一般質問への答弁で、今期限りでの引退を表明した。 退任を表明した石森氏  石森村長は「村政の課題を考えると、新たな視点で行政を推進することが大事であり、後進に道を譲りたい。後継者は考えていない」(福島民友昨年12月13日付)と述べた。 石森村長は1951年生まれ。同村出身。須賀川(現須賀川創英館)高卒。1971年に村役場職員となり、企画財政課長、農業委員会事務局長などを経て、2007年の村長選で初当選。4期のうち、選挙戦になったのは2015年のみで、それ以外はすべて無投票当選だった。 石森村長をめぐっては、こんな憶測も流れている。 「同村唯一の女性議員である林芳子議員に石森村長が暴言を吐いたという。内容は女性を軽視するようなものだったとか。そうした問題があり、今回、引退を表明したのではないか」(ある村民) 林議員はいわゆる反村長派議員で、議会のたびに石森村長(執行部)に厳しい質問をぶつけてきた。その林議員に石森村長が女性を軽視するような暴言を吐いたというのだ。 どういった状況で、どんな言葉を発したのかは分かっていないが、林議員と近い議員(反村長派議員)によると、「当人(林議員)から、そういったことがあったとは聞いている」という。内容・程度はともかく、そうしたことがあったのは間違いなさそう。もっとも、それが石森村長引退のきっかけになったかは不明。 村長選をめぐっては、1月23日時点で表立った動きはない。ただ、村内では「誰もが納得するような候補者が出てきたら別だが、石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を擁立する可能性が高い」との見方がもっぱらだ。つまりは、新人同士の一騎打ちになるのではないか、と。前述したように1月23日時点で表立った動きはないが、チラホラと名前は挙がっている。 「石森村長を支持していたグループ」で、名前が挙がっているのが小針竹千代議員と大和田宏議員の2人である。 「小針議員と大和田議員は奥さんの関係で、親戚筋に当たるため、双方の調整が必要になり、水面下でその辺の話し合いが行われているようだ。ともに60代半ばで、できたとしても2期だろう」(ある村民) 小針議員は2期目、大和田議員は4期目で、それぞれ最初の村議選ではトップ当選を果たしたが、その後は票を減らしている。前段で紹介した石森氏の答弁では「後継者は考えていない」とのことだったが、実質、このどちらかが後継者という扱いになりそう。 一方、対立グループの候補として名前が挙がるのが、2015年の村長選に立候補した小林正司氏。元須賀川市職員で現在71歳。2015年の村長選では、石森氏2558票、小林氏2037票で落選した(同年4月26日投開票、投票率82・98%)。実は、小林氏は前回(2019年)の村長選の際も名前が挙がり、本人もそのつもりだった。 「当時、反石森派の人たちが熱心に誘い、小林氏本人もその気になっていた。ところが、直前で反意し、立候補を取りやめた経緯がある。結果、前回は無投票になり、反石森派の落胆は大きかった。今回も、一応名前は挙がっているが、反石森派の人たちは『前回のことがあるから、われわれの方から小林氏に対して立候補してほしいとお願いすることはしない。本人から立候補するから応援してほしいと言って来ない限りは応援するつもりはない』と話していた。結局は本人次第ということだが、71歳という年齢を考えると、できても2期、下手すると1期しかできないかもしれない。それを踏まえると、可能性は低いと思う」(前出の村民) 有力視される女性議員  このほかで、対立グループの候補として名前が挙がっているのが前述した林議員。現在1期目だが、2020年の村議選では416票でトップ当選だった。 「女性ということもあり、票を取ることだけを考えたら、林議員はかなり有力だと思う。ただ、新村長になったとして、任期がスタートするのは4月末だから、石森村長の下で人事・予算などが決まった後に就任することになる。林議員は議会のたびに村長・執行部に厳しい質問をしており、石森村長のやり方を否定する部分が多かったことから、おそらく村長になったら、大幅な路線修正をすることになると思う。ただ、いま話した経緯から、役場職員、特に課長連中がちゃんと応えてくれるか、上手く使いこなせるかといった問題がある。下手すると、村長になったはいいけど、路線修正だけで1期目のほとんど費やしてしまった、なんてことにもなりかねない。そもそも、現在67歳で、できても2期くらいだろうから、1期目をそんなふうに過ごしたら、何もできずに終わってしまう可能性もある」(同) 一方で、別の村民はこう話す。 「いまの村政・役場には危機感が感じられない。それを変えるには林議員が適任だと思う。たとえ、目に見えるような大きな仕事はできなかったとしても、役場内の意識改革をして次にバトンタッチしてもらえれば、十分役目を果たしたと言えるのではないか」 こうして聞くと、林議員への期待は大きいようだが、前出の林議員と近い議員によると、「年始に林議員と会った際、村長選に立候補する考えはあるかと聞きたら、『いまのところは考えていない』とのことでした」という。 村内の会社役員は「誰が出るにしても、とにかく現状を変えなければならない」と危機感を募らせる。 「村の財政状況は決していいとは言えない。戦略に基づく財政投資ならいいが、例えば、1年半前にオープンした『森の駅ヨッジ』は人が入っていないし、いま事業を進めている『かわまちづくり』にしても、乙字が滝周辺にボートを浮かべて人が来るとは思えない。村民にとってプラスになるとは思えない事業が多いのです。若い人・子育て世代などからは『今度、須賀川市に家を建てる』といった話もチラホラ聞かれますし、村内に立地している企業・工場だって、いつまでも村内に居続けるとは限らない。そういったことに危機感を持って対応してくれる候補者が出てくることを願いたい」 そうした問題に危機感を持って取り組む候補者は現れるか。現職退任で混沌とする同村長選だが、構図が見えてくるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。 その後の動向  3月下旬時点で立候補を表明しているのは、いずれも新人で、元村議の須藤安昭氏(67)、元村議の林芳子氏(68)、前副村長の須釜泰一氏(63)の3人。本誌はこの3人に取材を申し込んだところ、須藤氏と須釜氏の2人が応じた。【2023年4月号】で両立候補予定者に村の課題への対応や選挙公約、意気込みなどを掲載する。

  • 「議員定数議論」で対応分かれた古殿町・玉川村・平田村

     古殿町、玉川村、平田村の石川郡3町村は3月に同時日程で議員選挙が行われる。それに先立ち、それぞれの町村議会で、昨年から議員定数のあり方を議論してきたが、結果は三者三様のものだった。(末永) 重要なのは住民にとって有益な存在かどうか 3町村の基礎データ面 積人 口議員定数古殿町163・29平方㌔4655人10玉川村46・47平方㌔6191人12平田村93・42平方㌔5413人12※人口は古殿町が昨年12月31日、玉川村が今年1月1日、平田村が昨年12月1日時点  任期満了に伴う古殿町議選、玉川村議選、平田村議選が3月19日告示、24日投開票の日程で行われる。それを前に、各議会では昨年から議員定数をどうするかを検討してきた。結果から言うと、古殿町は2減(12人→10人)、玉川村は現状維持(12人)、平田村はひとまず現状維持(12人)として改選後の議会で再度議論する――という三者三様のものだった。同じ石川郡ということもあり、関係者はそれぞれの議会の動きに注目していたようだ。関係者だけでなく、住民から「向こう(近隣町村)はこうだったが、ウチは……」といった話を聞く機会もあった。 古殿町議会 古殿町役場  古殿町議会は、昨年10月から12月まで、全員協議会で5回にわたり議論を重ねてきた。同町議会は2012年までは定数が14だったが、同年3月の改選時に12に減らした。それから12年が経ち、あらためて議員定数のあり方を議論したのである。  根底にあるのは、2012年に定数削減したころから、人口が約1500人減少していること。もう1つは、町民から「人口が減少しているのだから、それに倣って、議員定数も減らすべき」といった声が出ていたこと。  なお、3町村の基礎データを別表にまとめたが、古殿町は行政区分こそ「町」だが、玉川村、平田村より人口が少ない。反して、面積はだいぶ広く「町内全域に目を向ける」という点では、3町村の中では最も大変な地域と言える。  そうした中で議論を重ね、昨年12月議会で、議員発議で定数削減案(条例改正案)が出され、採決の結果、賛成7、反対4の賛成多数で可決された。反対意見としては、町民の声が届きにくくなること、若い人や女性などが議員になるハードルが高くなること、議論が十分でないこと――等々が挙げられた。議案審議(討論)の中でも、そうした意見が出たが、結果は前述の通り。  ある関係者は「反対する人もいましたが、人口減少、時代の流れなどからしても、(2減は)妥当だったのではないか」と話した。  一方、選挙に向けた動きについては、「削減によって枠が2つ減るわけだから、常に上位当選している人以外は、いろいろと気にしているようだ。ただ、いま(本誌取材時の1月中旬時点)は、それぞれが様子見という段階で、現職の誰が引退して、新人のこんな動きがある、といった具体的なことは見えてこない」(前出の関係者)という。 玉川村議会 玉川村役場  玉川村議会は、昨年10月から11月にかけて、議員定数に関する住民アンケートを実施した。対象は全1799世帯、回答数は1029件(回収率57・2%)だった。  もっとも多かった回答は現在の定数12から2減の「10人」で402(39・1%)。以下、現状維持の「12人」が382(37・1%)、「8人以下」が156(15・2%)と続く。この3つで全体の90%超を占める。2減の「10人」と、現状維持の「12人」が拮抗しているが、「8人以下」を含めた「削減」という点で見るならば、半数を超えている。  少数意見としては、「18人」が22、「16人」と「14人」がそれぞれ1あり、増員を求める回答もあった。逆に「0人」、「1人」、「2人」という回答がそれぞれ1ずつあった。  ちなみに、議会は「最低人数は何人」といった規定はないが、「議長を置いたうえで議論できる」ことが条件になる。つまり、議長1人と、議長を除いて議論するために最低2人が必要だから、議員の最小人数は3人という解釈になり、それ未満はあり得ない。一方、地方自治法(94条、95条)では、議会を置かず、それに代わって選挙権を有する住民による総会(町村総会)を設けることができる、と規定されている。60年以上前はその事例があったが、近年はない。 賛成、反対意見の中身  話を戻して、玉川村議会はアンケート結果を踏まえ、全員協議会で検討した。そのうえで、昨年12月議会で議員発議によって、議員定数を10にする条例改正案が提出された。採決の結果、賛成5、反対6の賛成少数で否決された。  以下、その際に行われた討論の概要を紹介する。  賛成討論  小林徳清議員▽少子高齢、人口減少にあえぐ市町村情勢は、議員定数削減の方向となっている。アンケートの結果からも民意は削減を求めており、現状維持は村民の理解が得られないばかりか、アンケートの意味をなさない民意無視となり、議会・議員に対して不信感を招き、保身と批判を受けることになる。議員として、多くの民意を反映させる職務と責務から、アンケートに基づく定数2削減に大いに賛成。  塩澤重男議員▽今回のアンケートでは様々な意見があった。その中でも、削減が過半数の58%を占めている。人口減少が加速する中、議員定数も減らすべきであり、村民の意見を真摯に受け止め、定数削減に賛成する。  大和田宏議員▽アンケート結果で、当然、少数派意見も尊重しなければならないが、やはり多数派意見に重点を置かなければならないので賛同する。削減した場合はメリット・デメリットが出るが、デメリットは今後協議しながらカバーしていけばいいと思う。それぞれの議員がすぐに活動できる環境を進めていき、デメリットを克服しながら十分対応できると考えるので賛成。  石井清勝議員▽近隣の市町村では10人で運営しているところも多くある。人口だけでなく、予算も考慮しながら、住民の代表として、村をいかに良くしていくか、活性化していくかを考えていく必要がある。議員自ら身を削ってやっていかないと村も活性化しないと思うので賛成する。  反対討論  佐久間安裕議員▽議員定数見直しに反対するものではなく、今回は十分に議論する時間がない中での削減のため反対する。アンケート結果でも50代以下は現状維持が多く、「現状維持」と「10人」も僅差だった。そういった若い世代の意見を切り捨ててもいいのか疑問を感じる。議会基本条例策定とともに議会改革を進め、内容を公開していくことが求められる中で、いまだ議論の準備段階であり、様々な観点から十分な議論を尽くしていくべき。アンケート結果の民意だから即削減すべきではなく、今回は拙速であるので反対する。  飯島三郎議員▽病人が多数出たりして欠席が多くなってしまうと議会が成り立たなくなる恐れがあるとの思いで、現状維持の判断をした。今回新たな特別委員会が設置され、業務が多くなり、議員1人当たりの業務負担が増加している中で、これ以上人数が少なくなると村内の隅々まで行き届かなくなり、本来の活動ができなくなることは間違いないので、削減に反対する。  三瓶力議員▽今回のアンケートをすべて確認し、皆様の思いや考えをいろいろな方面から検討した。アンケート結果を見ると、現状維持の12人の意見が多かったのは、20代から50代だった。回答数では60代以上からの回答が多く、偏っているのではと感じる。20代から50代の貴重な意見を尊重すべきであり反対する。 深刻ななり手不足  こうした意見があった中、前述したように、議員定数削減案は反対多数で否決された。  賛成した議員は「村民からは、だったらなぜアンケートを実施したのかと言われた」と、早速、批判があったことを明かした。  「住民の意見」がハッキリ出ている中で、「現状維持」の判断をしたのだから、そうした批判が出るのは当然か。  今回取材した近隣町村の関係者からも、「玉川村は住民アンケートまでやって、住民の多数派意見を洗い出したのに、『現状維持』にして批判は出ていないのか? 他村のことながら気になってしまう」との声が聞かれた。  改選後の議会は、そうした批判とも向き合っていかなければならないことを覚えておいた方がいい。  選挙に向けた情勢としては、4人の現職議員が引退する見込みという。昨年4月の村長選に議員を辞して立候補した須藤安昭氏、林芳子氏の2人が議員復帰を目指す可能性はありそうだが、現状はほかに立候補の可能性がありそうな人の動きは見えてこないようだ。  ある議員は、地元行政区で「自分は今期で引退して、誰かにバトンタッチしたい」旨を伝えたところ、自薦他薦ともに後継者になり得る人が出てこなかったという。かといって、「この地区から議員がいなくなるのは困る」との意見もあったことから、やむなく「自分がもう1期やるしかない」という結論に至った事例もあると聞く。それだけ、なり手がいないということだ。  そのため、村内では「『現状維持』にしておきながら、定数割れが起きるのではないか」と懸念する声もあり、もしそうなったら、より批判が大きくなるだろう。  定数割れにならないまでも、「タダでなれるなら」と、何の考え・信条もなく、立候補する人が出てくる可能性もあり、「そうなったら、議会の質の低下を招くのではないか」と憂える住民は少なくない。 平田村議会 平田村役場  平田村議会は、昨年9月に3回の全員協議会を開き、議員定数について検討した。  その中で出された意見は、「人口が減少していることや、住民の声などを踏まえると、削減すべき」というものと、「削減ありきではなく、総合的に考えるべき」というもの。そのほか、「20年以上の議員は引退して後継者に託すべき」、「若い人が立候補できるような条件整備が必要」、「仮に議員を2人削減しても、費用面での効果は予算総額の0・17%に過ぎない」といった意見もあった。当初は、条件付きでの「削減派」が8人、「現状維持派」が4人だったという。  その後、検討が進められる中で、定数を削減した場合、現状維持とした場合のメリット・デメリットが挙げられた。  削減のメリット▽経費削減、意見の集約が早い、議員のレベルアップにつながる、住民からの意見を反映した議員活動がしやすくなる、議員と村民の距離が縮まり議員活動がしやすい。  削減のデメリット▽議員のなり手を狭める、意見が偏る傾向がある、多くの意見が上がらない、委員会が少人数になる、住民の意見が反映されにくくなる、少数意見になり村民のニーズから遠くなる、執行者への監視が不十分になる、多様な意見や考えが反映されず結果十分な議論ができずに決定されてしまう、行政と住民の橋渡しが薄れる、現職議員が有利で若年層・女性の進出が困難になる。  現状維持のメリット▽村民の意見が届きやすい、議員のなり手の門扉を開く、委員会の構成人数が良い、多数精鋭を目指し広く村民の声を反映できる、多数の意見を集約できる、多様性が維持される、新たな立候補者が出やすくなる。  現状維持のデメリット▽議員の資質低下、意見の集約に時間がかかる。賛否拮抗で結論持ち越し  こうして、意見が出されていくうちに、「削減派」と「現状維持派」が拮抗していき、最終的には6対6になった。そのため、「今回は現状維持とし、これらの問題に対しては、住民からの意見等も聞きながら、次期議員で引き続き協議を進めるべきである」との結論に至った。  つまりは、結論を改選後の議会に持ち越したのである。  同村が古殿町、玉川村と少し違うのは、早い段階で新人2人が立候補の動きを見せているのだという。現職は引退する意向の人はおらず、ほかに元職1人が立候補するのではないかと言われている。現状、現職12人、元職1人、新人2人で、選挙戦になるのが濃厚だ。「それだけ、なり手がいるのはいいことだ」と見る向きもあれば、「現職議員は、厳しい選挙戦が予想されるから、減らしたくなかったのだろう」といった批判もあるようだ。  以上、古殿町、玉川村、平田村の議員選挙に向けた定数削減議論について見てきたが、3町村で完全に対応が分かれた格好。同じ石川郡で、同時日程で選挙が行われるだけに、当該町村の住民・関係者などからは「ウチはこうだったけど、向こうはどういう流れであの結論に至ったのか気になる」と、それぞれが気にしている様子。そんな中で、何が正解かと言ったら、「住民にとって有益な議会・議員であるかどうか」しかない。住民にとって有益な存在であれば、「定数を削減すべき」といった意見は出てこないだろうから。削減したところも、現状維持としたところも、一番に意識すべきはそこだ。

  • 【玉川村】職員「住居手当不適切受給」の背景

     玉川村の50代男性職員が住居手当と通勤手当の計約400万円を不適切に受給したとして、昨年12月に停職3カ月の懲戒処分を受けた。一方、本誌昨年10月号では、矢吹町の30代男性職員が住居手当を不適切に受給していたとして、昨年9月に戒告の懲戒処分を受けたことを報じた。この2つの事例から察するに、表面化していないだけで、この手の問題はほかの自治体でもあるのではないか、と思えてならない。 矢吹町でも同様の事例発覚  玉川村の問題は、地域整備課の男性職員(主任主査。50代)が、2012年5月~昨年11月まで、住居手当379万7000円と通勤手当17万1000円の396万8000円を不適切に受給した。村はこの男性職員を停職3カ月の懲戒処分にした。処分は昨年12月7日付。  村によると、男性職員は村外に借りたアパートに住民登録しており、村では家賃の2分の1、2万8000円(※以前は2万7000円)を上限に住宅手当が支給されることになっている。ところが、男性職員はアパートを借りたままで、実際の生活は村外の親族宅で暮らすようになった。それが始まったのが2012年5月こと。本来であれば、その時点で住民票を移して、村に申し出なければならなかったが、「親族宅での生活は一時的なもの」として、そのままにしていた。しかし、親族宅での生活は「一時的なもの」ではなく、結果的に10年以上に及んだ。その間、アパートの賃貸借契約は継続されていたが、住居手当には「生活の実態がある」旨の条件があり、受給条件を満たさなくなった。加えて、その親族宅は、住民登録していたアパートより、職場(玉川村役場)への距離が若干近かった。  こうした事情から、前述した住居手当、通勤手当の計約400万円を不適切に受給したとして、停職3カ月の懲戒処分を受けたのである。  この問題が発覚した原因は匿名の情報提供があったのがきっかけ。これを受け、聞き取り調査を行い、男性職員が事実と認めたことから、懲罰委員会で処分を決めた。不適切に受給した住居手当、通勤手当は全額を返済されているという。  「(処分発表後)村民からは厳しいご指摘もいただいている。今回の件を受け、11月と12月に(同様の事例がないか)全職員への聞き取りを行いました。今後も、年1回は確認を行い、このようなことが起こらないように対処したい」(須田潤一総務課長)  今回の件を受け、ある議員はこう話した。  「昨年12月議会開会前の同月6日に、控え室で村から議員にこの問題についての説明があった。そこでは明日(7日)に懲罰委員会を開き、(議会初日の)8日にあらためて説明するとのことだった。ただ、村民の中には、われわれ(議員)より先にこの問題を知っている人がいて、それによると『この男性職員は矢吹町にアパートを借りていて、奥さんが出産の際、実家に戻った。旦那さん(男性職員)もアパートに帰らず、奥さんの実家に寝泊まりして、そこから通勤するようになった。それがズルズルと続いて、今回の問題に至った』と、逆にわれわれが村民に詳細を教えられる状況だった。どこから漏れたのか、ある程度、察しはつくが、こういうのは何とかならないものかと思いましたね」  肝心の問題の対処については、「どの職員がどこに住んでいるか。本当に、住民登録があるところに住んでいるのか等々を把握するのは難しい。本当にそこに住んでいるのか、抜き打ちで後をつけるわけにもいかないしね。その辺は本人の申告に頼らざるを得ないが、定期的に確認することは必要になるでしょう」との見解を示した。  アパートなどの賃貸住宅は、一度契約すると、当事者からの申し出がない限り、自動的に契約が更新される仕組み。例えば、1年ごとに契約を結び直すシステムであれば、その度に契約書を提示してもらうことで確認できるが、そうでない以上、本人の申し出に頼るしかない。そういった点はあるものの、住居手当の受給条件を満たしているか等々の定期的な確認は必要だろう。  一方で、ある村民はこう話す。  「いま、村内では阿武隈川遊水地の問題があるが、遊水地の対象地区では地元協議会を立ち上げ、要望活動などを行っています。昨年12月9日に、その会合を開き、村からも関係職員が出席することになっていましたが、急遽、村から『事情があって出席できなくなった』と言われました。後で、その問題を知り、そういうことか、と」  前述したように、処分は昨年12月7日付だが、村が公表したのは同12日だった。そのため、ほとんどの村民は、同日の夕方のニュースか、翌日の朝刊でこの問題を知った。遊水地の地元協議会が開かれた9日の時点では、「なぜ、村はドタキャンしたのか」と訝しんだが、数日後に「この問題があってバタバタしていたから来られなかったのか」と悟ったというのだ。 矢吹町の事例  ところで、本誌昨年10月号に「矢吹町職員〝住居手当〟7年不適切受給の背景」という記事を掲載した。受給条件を満たしていないにもかかわらず、住居手当を7年8カ月にわたり受け取っていたとして、30代男性職員が戒告の懲戒処分を受けたことを報じたもの。まさに玉川村と似た事例だ。以下は同記事より。    ×  ×  ×  ×  報道や関係者の情報によると、この男性職員は2013年2月から賃貸物件を契約し、住居手当1カ月2万6700円を受給していた。  2015年10月に賃貸物件を引き払い、実家に住むようになったが、住居手当の変更手続きを怠り、同年11月から今年6月までの7年8カ月分、245万6000円を受給していた。職員は届け出を「失念していた」と話している。また、町もこの間、支給要件を満たしているかどうかの確認をしていなかった。  本人の届け出により発覚し、不適切受給した分は全額返還された。    ×  ×  ×  ×  記事では、男性職員が懲戒処分の中で最も軽い戒告処分、監督する立場だった管理職の50代男性2人を口頭注意としたこと(処分は9月15日付)に触れつつ、町民の「結構重大な問題だと思うけど、ずいぶん軽い処分だったので呆れました」とのコメントを紹介した。  懲罰規定は各自治体によって違うが、確かに、似たような事例で、玉川村では停職3カ月、矢吹町では戒告と、処分に開きがあるのは気になるところ。  一方で、両町村の事例から察するに、バレていないだけで、似たような問題はほかの市町村でも潜んでいるのではないかと思えてならない。各市町村は、一度点検する必要があるのではないか。

  • 【玉川村】須釡泰一村長インタビュー

    すがま・やすいち 1959年生まれ。福島大中退。福島県総務部政策監、福島県観光物産交流協会常務理事、玉川村副村長などを歴任し、今年4月の玉川村長選で初当選。    ――玉川村長選では新人3人による三つどもえの激戦を制して初当選を果たしました。  「副村長を3年間務めていたものの知名度不足は否めず、苦戦を覚悟していました。ただ、支持者の皆さまに『顔と名前』の浸透に注力していただいた結果、日を追うごとに村長選への関心が高まり、村民の皆さまの政策への理解が深まっていくのを実感しました。あらためて村民の皆さま方に当選させていただいたと痛感するとともに、身が引き締まる思いです。選挙戦で寄せられた期待に応えるためにも、公約を着実に実現していかなければならないとの思いを強くしております」  ――1期目の重点施策について。  「『生まれて良かった、住んで良かった、選んで良かった玉川村』を基本コンセプトに掲げています。時代や社会の変化とともに進化しながら、村民の皆さまが安心・安全を実感し快適に暮らせる生活環境、質の高い行政サービスを提供していくことが何より肝要です。  喫緊の課題としては、人口減少対策が挙げられます。人口流出を阻止し、移住者等を増やす政策が必要となります。仕事・住居・教育・医療・子育て支援の充実と生活インフラの整備に加え、移住支援金をはじめ、移住者への手厚い支援など『総合政策』として取り組む必要があります。関係人口の創出と都市部からの移住・定住や二地域居住などを積極的に推進し、地域の活性化、振興策を講じていきます。  次いで、阿武隈川遊水地群整備計画です。村内で収穫量が最も多い優良な農地が買収されるなど、今後の村づくりに大きな影響を及ぼしかねない国家プロジェクトです。住居などの移転を迫られる方々が、これまでの生活の質を確保しながら安心・安全に暮らしていける環境を整えるのが本村の重要な役割と認識しています。対象者一人ひとりに寄り添った対策の実現に向け、国としっかり協議調整していきます。  そのほか、①複合型水辺施設を中心とした『かわまちづくり事業』、②旧須釜中学校校庭を活用した宅地造成事業、③泉郷駅前の活性化などのプロジェクトの推進、④基幹産業である農林業や商工業の振興、⑤いわゆる交通弱者対策としての『高齢者等QOL向上サービス実証事業』の展開と来年度以降の事業化、⑥地域のデジタル化推進を踏まえたプレミアム率30%の『デジタル商品券』の発行〝手ぶらキャッシュレス〟事業、⑦高齢の方々が末永く幸せに暮らしていけるための健康寿命の延伸事業――など、多様なニーズを把握しながら、地域に合ったきめ細かなサービスを提供できる仕組みづくりに鋭意努めます」  ――今後の抱負を。  「4月30日の就任から約4カ月が経過しました。この間、村民の皆さまをはじめ、職員、議会のご理解とご協力に深く感謝致します。『だれもが誇りを持てる魅力ある活力ある元気で豊かな玉川村』の実現に向け、皆さまのご意見やご要望に真摯に向き合いながら、本村における課題解決にしっかりコミットする『玉川モデル』としての施策の展開に邁進していく考えです」

  • 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家

     国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」  令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。  遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区  3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い 木賊正男町長  そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。

  • 現職退任で混沌とする玉川村長選

     任期満了に伴う玉川村長選は4月18日告示、同23日投開票の日程で行われる。現職・石森春男氏は昨年12月議会で今期限りでの引退を表明しており、村内では「石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を立てる可能性が高い」との見方がもっぱらだ。 石森派候補と反石森派候補の一騎打ちか  石森春男村長(71、4期)は昨年12月議会の一般質問への答弁で、今期限りでの引退を表明した。 退任を表明した石森氏  石森村長は「村政の課題を考えると、新たな視点で行政を推進することが大事であり、後進に道を譲りたい。後継者は考えていない」(福島民友昨年12月13日付)と述べた。 石森村長は1951年生まれ。同村出身。須賀川(現須賀川創英館)高卒。1971年に村役場職員となり、企画財政課長、農業委員会事務局長などを経て、2007年の村長選で初当選。4期のうち、選挙戦になったのは2015年のみで、それ以外はすべて無投票当選だった。 石森村長をめぐっては、こんな憶測も流れている。 「同村唯一の女性議員である林芳子議員に石森村長が暴言を吐いたという。内容は女性を軽視するようなものだったとか。そうした問題があり、今回、引退を表明したのではないか」(ある村民) 林議員はいわゆる反村長派議員で、議会のたびに石森村長(執行部)に厳しい質問をぶつけてきた。その林議員に石森村長が女性を軽視するような暴言を吐いたというのだ。 どういった状況で、どんな言葉を発したのかは分かっていないが、林議員と近い議員(反村長派議員)によると、「当人(林議員)から、そういったことがあったとは聞いている」という。内容・程度はともかく、そうしたことがあったのは間違いなさそう。もっとも、それが石森村長引退のきっかけになったかは不明。 村長選をめぐっては、1月23日時点で表立った動きはない。ただ、村内では「誰もが納得するような候補者が出てきたら別だが、石森村長を支持していたグループと、その対立グループの双方が候補者を擁立する可能性が高い」との見方がもっぱらだ。つまりは、新人同士の一騎打ちになるのではないか、と。前述したように1月23日時点で表立った動きはないが、チラホラと名前は挙がっている。 「石森村長を支持していたグループ」で、名前が挙がっているのが小針竹千代議員と大和田宏議員の2人である。 「小針議員と大和田議員は奥さんの関係で、親戚筋に当たるため、双方の調整が必要になり、水面下でその辺の話し合いが行われているようだ。ともに60代半ばで、できたとしても2期だろう」(ある村民) 小針議員は2期目、大和田議員は4期目で、それぞれ最初の村議選ではトップ当選を果たしたが、その後は票を減らしている。前段で紹介した石森氏の答弁では「後継者は考えていない」とのことだったが、実質、このどちらかが後継者という扱いになりそう。 一方、対立グループの候補として名前が挙がるのが、2015年の村長選に立候補した小林正司氏。元須賀川市職員で現在71歳。2015年の村長選では、石森氏2558票、小林氏2037票で落選した(同年4月26日投開票、投票率82・98%)。実は、小林氏は前回(2019年)の村長選の際も名前が挙がり、本人もそのつもりだった。 「当時、反石森派の人たちが熱心に誘い、小林氏本人もその気になっていた。ところが、直前で反意し、立候補を取りやめた経緯がある。結果、前回は無投票になり、反石森派の落胆は大きかった。今回も、一応名前は挙がっているが、反石森派の人たちは『前回のことがあるから、われわれの方から小林氏に対して立候補してほしいとお願いすることはしない。本人から立候補するから応援してほしいと言って来ない限りは応援するつもりはない』と話していた。結局は本人次第ということだが、71歳という年齢を考えると、できても2期、下手すると1期しかできないかもしれない。それを踏まえると、可能性は低いと思う」(前出の村民) 有力視される女性議員  このほかで、対立グループの候補として名前が挙がっているのが前述した林議員。現在1期目だが、2020年の村議選では416票でトップ当選だった。 「女性ということもあり、票を取ることだけを考えたら、林議員はかなり有力だと思う。ただ、新村長になったとして、任期がスタートするのは4月末だから、石森村長の下で人事・予算などが決まった後に就任することになる。林議員は議会のたびに村長・執行部に厳しい質問をしており、石森村長のやり方を否定する部分が多かったことから、おそらく村長になったら、大幅な路線修正をすることになると思う。ただ、いま話した経緯から、役場職員、特に課長連中がちゃんと応えてくれるか、上手く使いこなせるかといった問題がある。下手すると、村長になったはいいけど、路線修正だけで1期目のほとんど費やしてしまった、なんてことにもなりかねない。そもそも、現在67歳で、できても2期くらいだろうから、1期目をそんなふうに過ごしたら、何もできずに終わってしまう可能性もある」(同) 一方で、別の村民はこう話す。 「いまの村政・役場には危機感が感じられない。それを変えるには林議員が適任だと思う。たとえ、目に見えるような大きな仕事はできなかったとしても、役場内の意識改革をして次にバトンタッチしてもらえれば、十分役目を果たしたと言えるのではないか」 こうして聞くと、林議員への期待は大きいようだが、前出の林議員と近い議員によると、「年始に林議員と会った際、村長選に立候補する考えはあるかと聞きたら、『いまのところは考えていない』とのことでした」という。 村内の会社役員は「誰が出るにしても、とにかく現状を変えなければならない」と危機感を募らせる。 「村の財政状況は決していいとは言えない。戦略に基づく財政投資ならいいが、例えば、1年半前にオープンした『森の駅ヨッジ』は人が入っていないし、いま事業を進めている『かわまちづくり』にしても、乙字が滝周辺にボートを浮かべて人が来るとは思えない。村民にとってプラスになるとは思えない事業が多いのです。若い人・子育て世代などからは『今度、須賀川市に家を建てる』といった話もチラホラ聞かれますし、村内に立地している企業・工場だって、いつまでも村内に居続けるとは限らない。そういったことに危機感を持って対応してくれる候補者が出てくることを願いたい」 そうした問題に危機感を持って取り組む候補者は現れるか。現職退任で混沌とする同村長選だが、構図が見えてくるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。 その後の動向  3月下旬時点で立候補を表明しているのは、いずれも新人で、元村議の須藤安昭氏(67)、元村議の林芳子氏(68)、前副村長の須釜泰一氏(63)の3人。本誌はこの3人に取材を申し込んだところ、須藤氏と須釜氏の2人が応じた。【2023年4月号】で両立候補予定者に村の課題への対応や選挙公約、意気込みなどを掲載する。