Category

白石高司

  • 田村市の新病院工事問題で新展開

    田村市の新病院工事問題で新展開

     7月に開かれた田村市議会の臨時会で、市が提出した新病院の工事請負契約に関する議案が反対多数で否決されたことを先月号で伝えたが、その後、新たな動きがあった。 安藤ハザマとの請負契約が白紙に 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  新病院の施工予定者は、昨年4~6月にかけて行われた公募型プロポーザルで、選定委員会が最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、百条委員会が設置された。  今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は法的な問題点を見つけられず、白石市長に「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。  そうした因縁を引きずり迎えた7月の臨時会は、直前の6月定例会で新病院に関する予算が賛成多数で可決していたこともあり、安藤ハザマとの工事請負契約も可決するとみられていた。ところが、結果はまさかの否決。白石市長が反対に回った議員をどのように説得するのか今後の対応が注目されたが、本誌に飛び込んできたのは予想外の情報だった。  「市は6月下旬に安藤ハザマと仮契約を結んだが、白紙に戻し入札をやり直すというのです」(経済人)  議会筋によると、7月下旬に開かれた会派代表者会議で市から入札をやり直す方針が伝えられたという。今後、6月定例会で可決した新病院に関する予算を減額補正し、新たに入札を行って施工予定者を選び直す模様。設計はこれまでのものを踏襲するか、若干の変更があるかもしれないという。  「安藤ハザマは今回の新病院工事で、地元企業に十数億円の仕事を発注する予定だったが、船引町商工会に『契約が白紙になったため、地元発注ができなくなった』と連絡してきたそうです」(前出・経済人)  船引町商工会の話。  「8月上旬に安藤ハザマから連絡がありました。市から契約白紙を告げられたそうです。担当者からは繰り返し謝罪されたが、経済が落ち込む中、地元企業に様々な仕事が落ちると期待していただけに残念でなりません」(白石利夫事務局長)  船引町商工会では安藤ハザマと取引を希望する地元企業から見積もりを出してもらうなど、同社とのつなぎ役を務めていた。ガソリンスタンド、車両のリース、弁当など様々な業種から既に見積もりが寄せられていただけに「取引がなくなり、皆落胆しています」(同)という。  市のホームページによると、新病院は2023~24年度にかけて工事を行い25年度に開院予定となっているが、議会筋によると、入札をやり直せば工事は24年夏~26年夏、開院はその後にずれ込む。予定より1年以上開院が遅れることになる。  「白石市長は否決された工事請負契約を可決させるため、反対した議員を説得すると思われたが、そうした努力を一切せずに入札やり直しを決めた。一方、反対した議員も、当初計画より工事費が高いことを理由に否決したが、これ以上工事が遅れれば物価高やウクライナ問題のあおりで工事費はさらに割高になる。白石市長も反対した議員も新病院が必要なことでは一致しているのに、互いに歩み寄らなかった結果、『開院の遅れ』と『工事費のさらなる増額』という二つの不利益を市民に強いることになった」(前出・経済人) 白石高司市長  入札をやり直して開院を遅らせるのではなく、政治的な協議で軌道修正を図り、予定通り開院させる方法は取れなかったのか。  市内では「互いに正論を述べているつもりかもしれないが、市民の立場に立って成熟した議論ができないようでは話にならない」と冷めた意見も聞かれる。白石市長も議会も猛省すべきだ。 ※新病院建設を担当する市保健課に問い合わせると「安藤ハザマとの契約はいったんリセットされる。今後どのように入札を行うかは9月定例会など正式な場でお伝えすることになる」とコメントした。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

  • 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

    【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

     本誌でこの間報じてきた田村市の新病院建設計画。市は先月の臨時会に工事請負契約の議案を提出したが、賛成7人、反対10人で否決された。百条委員会で鮮明になった白石高司市長と反対派議員の対立が尾を引いた形だが、同時に白石市長の稚拙な議会対策も見えてきた。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 したたかさを備えなければ市政は機能しない 会対策に苦慮する白石高司市長  まずはこの間の経緯を振り返る。 老朽化した市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は昨年4~6月にかけて施工予定者選定プロポーザルを実施。市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募したゼネコンの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。 百条委は、白石市長と安藤ハザマが裏でつながっているのではないかと疑った。しかし、百条委による証人喚問の中で白石市長は、①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった――と安藤ハザマに覆した理由を説明した。 今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は「白石市長の職権乱用」と厳しく批判するも法的な問題点は確認されず「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。 百条委の一部メンバーからは「さらに調査すべき」との声も上がったが、最終的には「新病院建設が遅れれば市民に不利益になる」として百条委は解散された。 これにより新病院建設はようやく実現に向かうと思われた。実際、3月定例会では全体事業費を55億7000万円とすることが議決され、6月定例会では資材高騰などの影響で7億円増の62億7000万円とすることが再度議決された。これに伴い今年度分の病院事業会計の予算も増額された。 予算が全て通ったということは関連議案も議決されると考えるのが普通だが、そうはならなかった。 市は7月6日に開かれた臨時会に新病院を47億1100万円、厨房施設を4億8900万円で安藤ハザマに一括発注するため、工事請負契約の議案を提出した。同社とは6月28日に仮契約を済ませていた。(※工事費と全体事業費に開きがあるのは、全体事業費には医療機器購入費などが含まれているため) しかし、採決の結果は賛成7人、反対10人で、安藤ハザマとの工事請負契約は否決された。市議会は定数18で、採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛否の顔ぶれは別表の通り。(6月定例会での予算の賛否と百条委設置の賛否も示す) 123石井 忠治 ⑥××〇半谷 理孝 ⑥××〇大和田 博 ⑤××〇菊地 武司 ⑤××〇吉田 文夫 ④××〇安瀬 信一 ③××〇遠藤 雄一 ③×〇〇渡辺 照雄 ③××〇石井 忠重 ②×〇×管野 公治 ①××〇猪瀬  明 ⑥〇〇×橋本 紀一 ⑥〇〇×佐藤 重実 ②〇〇×二瓶恵美子 ②〇〇×大河原孝志 ①〇〇×蒲生 康博 ①〇〇×吉田 一雄 ①〇〇×※〇は賛成、×は反対※1は工事請負契約の賛否※2は6月定例会での予算の賛否※3は百条委設置の賛否※丸数字は期数  反対した議員によると、当初、工事請負契約は賛成多数で可決される見通しだったという。 「6月定例会では賛成9人、反対8人で予算が通ったので、工事請負契約も9対8で可決されると思っていました」(反対派議員) 風向きが変わったのは臨時会の2日前。予算に賛成した石井忠重議員が工事請負契約には反対することが判明し「9対8」から「8対9」に形勢逆転した。さらに、臨時会当日になって遠藤雄一議員も反対。工事請負契約は想定外の「7対10」で否決されたのである。 賛成派議員は「予算には賛成しておいて工事請負契約に反対するのはおかしい」と石井忠重議員と遠藤議員を批判したが、実情は臨時会の前から不穏な空気が漂っていた。 両議員と佐藤重実議員は「改革未来たむら」という会派を組んでいるが、臨時会直前、会派会長を務める佐藤議員は賛成派議員に「私たちは自主投票にする」と説明。佐藤議員はこの時点で石井忠重議員と遠藤議員が反対に回ることを分かっていたため、会派として拘束をかけることができなかったとみられる。 「大橋議長は無会派だが、もともとは改革未来たむら。だから採決の前に、大橋議長が『会派として賛成する』と拘束をかけていれば3人がバラバラの判断をすることもなく、工事請負契約は9対8で可決していた。大橋議長と白石市長は距離が近いが、両者が連携して議員の動向を把握しなかったことが想定外の否決を招いた」(ある議会通) なぜ、石井忠重議員と遠藤議員は予算には賛成したのに、工事請負契約に反対したのか。石井議員とは連絡が取れず話を聞けなかったが、賛成派議員には「臨時会の前に地元支持者と協議したら反対の声が多かった」と説明していたという。 一方、遠藤議員は本誌の問いにこう答えた。 「事業費は専門家が積み上げて出しているので、それを素人の私が高いか安いかを判断するのは難しい。しかし契約は、選定委員会が選んだ業者を市長が独断で覆したという明確なルール違反がある。予算は9対8で僅差の可決だったが、今後事業費が増えていけば、その度に補正予算案が出され、僅差の賛否が繰り返されるのでしょう。そこに私は違和感がある。全議員が『新病院は市民にとって必要』と思っているのに、関連議案は僅差の賛否になるのは、正しい姿とは思えないからです。新病院が本当に必要なら、関連議案も大多数が賛成する姿にすべき。もちろん、反対した議員も賛成に歩み寄る努力をしなければならないが、議案を提出する市長も、どうすれば賛成してもらえるのか努力すべきだ」 「政局での反対じゃない」 田村市百条委員会  百条委で白石市長は「自分の判断は間違っていない」と繰り返し強調した。鹿島から安藤ハザマに覆したやり方自体はよくなかったかもしれないが、客観的事実に基づいて安藤ハザマに決めたことは筋が通っており、市民にも説明が付く。逆に選考委員会の選定通り鹿島に決まっていたら、新病院を運営することになる星総合病院は、郡山市内にある本体施設の工事や旧病棟の解体工事を鹿島に任せているため、白石市長と安藤ハザマがそう見られたのと同様、裏でつながっているのではないかと疑われた可能性もあった。要するに安藤ハザマと鹿島、どちらが施工者になっても疑念を持たれたかもしれないことは付記しておきたい。 工事請負契約に反対した議員は、1期生と一部議員を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し、賛成した議員は白石市長を支える市長派という色分けになる。その構図は別表を見ても分かる通り、百条委設置でも持ち込まれた。 そうした中で気になるのは、百条委メンバーが「新病院建設をこれ以上遅らせれば早期開院を望む市民に不利益になる」と述べていたにもかかわらず、工事請負契約を否決したことだ。発言と矛盾する行動で、結局、開院は遅れる可能性が出ていることを市民に何と説明するのか。 百条委委員長だった石井忠治議員に真意を聞いた。 「新病院建設が打ち出された際の事業費は36億円だった。その後、プロポーザルで各業者が示した金額は46億円前後、そして3月定例会では55億円超、6月定例会では62億円超とどんどん増えていった。その理由について、市は『ウクライナ戦争や物価高騰で燃料・資材の価格が上がっているため』と説明するが、正直見積もりの甘さは否めない。議員は全員、新病院建設の必要性を認めている。にもかかわらず賛否が拮抗しているのは、市の説明が不十分で議員の理解が得られていないからです。起債で毎年1億2000万円ずつ、30年かけて償還していくことを踏まえると、人口減少が進む中で将来世代に負担させていいのかという思いもある。私たちは事業費が膨らみ続ける状況を市民に説明するため一度立ち止まってはどうかと言いたいだけで、政局で反対しているのではないことをご理解いただきたい」 石井忠治議員は「市の説明が不十分だから議員の理解が得られない」と述べたが、まさにこれこそが白石市長が考えを改めるべき部分なのかもしれない。 市民のために歩み寄りを 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  前出・議会通はこう指摘する。 「白石市長は大橋議長や一部議員とは親しいが、反対派議員とは交流がない。これでは工事請負契約のように、どうしても可決・成立させたい議案が反対される恐れがある。反対派議員にへつらえと言いたいのではない。公の場で喧々諤々の議論をしながら、見えない場で『この議案を通すにはどうすればいいか』と胸襟を開いて話し合えと言いたいのです。こちらが歩み寄る姿勢を見せれば、反対派議員も『市長がそう言うなら、こちらも考えよう』となるはず。そういう行動をせずに『自分は間違っていない』とか『市民のために正しい判断をすべき』と言ったところで、施策を実行に移せなければ市民のためにならない」 要するに、白石市長は各議員との関係性が希薄で、議会対策も稚拙というわけ。 いみじくも、白石市長は工事請負契約が否決された臨時会で次のように挨拶していた。 「私たちは市民の声に真摯に耳を傾け、それを施策として反映・実行していく責務があります。今回の提案は残念な結果になりましたが、今後も議員の皆様とは市民の声をしっかり聞きながら、行政との両輪で市政を運営して参りたい」 反対派議員に「市民のために賛成しろ」と泣き言を言っても始まらない。賛成してほしければ自身の至らない点も反省し、理解を得る努力が必要だ。それが結果として市民のためになるなら、白石市長は政治家としてのしたたかさも備えないと、任期が終わるころには「議会と対立してばかりで何もしなかった市長」との評価が定まってしまう。 「そもそも、市長と議会が対立するようになったのは本田仁一前市長の時代です。本田氏は個人的な好き嫌いで味方と敵を色分けしていた。それ以前の市政で見られた、反対派議員とも腹を割って話す雰囲気はなくなった。そういう悪い風習が、白石市政になっても続いているのは良くない。本田市長時代の悪政を改めたいなら、市長と議会の関係性も見直すべきだ」(前出・議会通) 工事請負契約の否決を受け、今後の対応を白石市長に直接聞こうとしたが「スケジュールの都合で面会時間が取れないので担当課に聞いてほしい」(総務課秘書広報広聴係)と言う。保健課に問い合わせると、次のように回答した。 「現在、善後策を検討しているとしか言えません。いつごろまでにこうしたいという責任を持った回答ができない状況です」 担当課レベルではそうとしか言えないのは当然だ。事態を打開するにはトップが動くしかない。白石市長には「自分は間違っていない」という思いがあっても、私情を捨て、反対派議員と向き合うことが求められる。もちろん反対派議員も「反対のための反対」ではなく、賛成へと歩み寄る姿勢が必要。嫌がらせの反対は市民に見透かされる。双方が理解し合うことこそが「市民のため」になることを、白石市長も議会も認識すべきである。

  • 未完成の【田村市】屋内遊び場〝歪んだ工事再開〟【屋根が撤去されドームの形がむき出しになった建物(2022年8月撮影)】

    未完成の【田村市】屋内遊び場「歪んだ工事再開」

    (2022年9月号)  2021年4月、設置した屋根に歪みが見つかり、工事が中断したままになっている田村市の屋内遊び場。対応を協議してきた市は、計1億5000万円の補正予算を組んで工事を再開させる予定だが、違和感を覚えるのは原因究明が終わっていない中、歪みを生じさせた業者に引き続き工事を任せることだ。それこそ〝歪んだ工事再開〟にも映るが、背景を探ると、白石高司市長の苦渋の決断が浮かび上がってきた。 前市長の失政に未だ振り回される白石市長 白石高司市長  田村市屋内遊び場(以下「屋内遊び場」と略)は田村市船引運動場の敷地内で2020年8月から工事が始まった。計画では3000平方㍍の敷地に建築面積約730平方㍍、延べ床面積約580平方㍍、1階建て、鉄筋コンクリート造・一部木造の施設をつくる。利用定員は100人で、駐車場は65台分を備える。 総事業費は2億9810万円。内訳は建築が2億0680万円、電気が2600万円、機械設備が2340万円、遊具が4190万円。財源は全額を「福島定住等緊急支援交付金」と「震災復興特別交付金」で2分の1ずつまかない、市の持ち出しはゼロとなっている。 2021年3月には愛称が「おひさまドーム」に決まり、あとは同7月のオープンを待つばかりだった。ところが同4月、工事は思わぬ形で中断する。設置した屋根が本来の高さから5㌢程度沈み、両側が垂れ下がるなどの歪みが生じたのだ。 建物本体の施工は鈴船建設(田村市、鈴木広孝社長)、設計は畝森泰行建築設計事務所(東京都台東区、畝森泰行社長。以下「畝森事務所」と略)とアンス(東京都狛江市、荒生祐一社長)の共同体、設計監理は桑原建築事務所(田村市、桑原俊幸所長)が請け負っていた。 問題発覚時、ある市議は本誌の取材にこう話していた。 「鈴船建設は『設計図通りに施工しただけ』、畝森事務所は『設計に問題はない』、桑原建築事務所は『監理に落ち度はない』と、全員が〝自分は悪くない〟と主張し、原因究明には程遠い状況と聞いている」 実は、屋内遊び場は非常にユニークなつくりで、市内の観光名所であるあぶくま洞と入水鍾乳洞をイメージした六つのドームに屋根を架ける構造になっている(別図①)。 屋根も奇抜で、一本の梁に屋根を乗せ、玩具「やじろべえ」の要領でバランスを取る仕組み。ただ、それだと屋根が落下する危険性があるため、別図②のように屋根の片側(下側)をワイヤーで引っ張り、安定させるつくりになっていた。 しかし、屋根を架けた途端、沈みや歪みが生じたことで、市は別図③のように棒で支える応急措置を施し、原因究明と今後の対応に乗り出していた。  ある業者は 「こういうつくりの建物は全国的にも珍しいが、行き過ぎたデザインが仇になった印象。屋内遊び場なんて単純な箱型で十分だし、空き施設をリフォームしても間に合う」 とデザイン先行のつくりに疑問を呈したが、市が鈴船建設、畝森事務所、桑原建築事務所を呼び出して行った聞き取り調査では原因究明には至らなかった。市議会の市民福祉常任委員会でも調査を進めたが、はっきりしたことはつかめなかった。 本誌は2021年7月号に「暗礁に乗り上げた田村市・二つの大型事業」という記事を載せているが、その中で屋内遊び場について次のように書いている。   ×  ×  ×  × (前略)前出・某業者が興味深い話をしてくれた。 「六つのドームから構成される屋内遊び場は一つの建物ではなく、単体の建物の集合体と見なされ、建築基準法上は『4号建築物』として扱われている。4号建築物は建築確認審査を省略することができ、構造計算も不要。建築確認申請時に構造計算書の提出も求められない。もし施工業者に問題がないとすれば、その辺に原因はなかったのかどうか」 畝森事務所は構造計算書を提出していなかったようだが、屋根にゆがみが生じると「構造計算上は問題ない」と市に同書を提出したという。4号建築物なので提出していなかったこと自体は問題ないのかもしれないが、ゆがみが生じた途端「構造計算上は問題ない」と言われても〝後出しジャンケン〟と同じで納得がいかない。 そもそも公共施設なのに、なぜ4号建築物として扱ったのか疑問も残る。主に小さい子どもが利用する施設なら、なおのこと安心・安全を確保しなければならないのに、建築確認審査を省略できて構造計算も不要の4号建築物に位置付けるのは違和感を覚える。4号建築物として扱うことにゴーサインを出したのは誰なのか、調べる必要がある。 ちなみに、畝森事務所・アンス共同体は2019年10月に行われた公募型プロポーザルに応募し、審査を経て選ばれた。請負金額は基本・実施設計を合わせて3000万円。審査を行ったのは、当時の本田仁一市長をはじめ総務部長、保健福祉部長、教育部長、経営戦略室長、こども未来課長、都市計画課長、生涯学習課長、公民館長の計9人だ。   ×  ×  ×  × 今回、この記事を補足する証言を得ることができた。当事者の一人、桑原建築事務所の桑原俊幸所長だ。 改正建築士法に抵触⁉  「確かに4号建築物は構造計算が不要だが、2020年3月に施行された改正建築士法で、4号建築物についても構造計算書を15年間保存することが義務化されたのです」 義務化の狙いは、建築物の構造安全性に疑義が生じた場合、構造安全性が確保されていることを建築士が対外的に立証できるようにすると同時に、建築設計の委託者を保護することがある。つまり、構造計算は不要とされているが、事実上必要ということだ。 「しかし畝森事務所は、歪みの発生を受けて白石高司市長が直接行ったヒヤリング調査の10日後に、ようやく構造計算書を提出した。最初から同書を持っていれば調査時点で提出できたはずなのに、10日も経って提出したのは手元になかった証拠。これは改正建築士法に抵触する行為ではないのか」(同) まさに、これこそ〝後出しジャンケン〟ということになるが、 「後から『構造計算書はある』と言われても構造計算の数値が合っている・合っていない以前の問題で、建築設計事務所としての信頼性が問われる行為だと思う」(同) 同時に見過ごしてならないのは、構造計算書が存在することを確認せず、図面にゴーサインを出した市の責任だ。最初に図面を示された際、市が畝森事務所に同書の存在を確認していれば、問題発生後に慌てて同書を提出するという不審な行動は起こらなかった。そういう意味では、市も安全・安心に対する意識が欠落していたと言われても仕方がない。 「畝森事務所は工事が始まった後も『軒が長いから短くしたい』と図面を手直ししていた。問題がなければ手直しなんてする必要がない。要するに、あの屋根は最初から奇抜だった、と。玩具『やじろべえ』の要領と言っても、1本の梁に7対3の割合で屋根を乗せる構造ではバランスが取れるはずがない」(同) 桑原所長は屋根に歪みが生じた2021年4月の出来事を今もはっきりと覚えていた。 「設計の段階で、畝森事務所と市には『こういう屋根のつくりで本当に大丈夫か』と何度も言いました。しかし、同事務所も市も『大丈夫』と繰り返すばかり。そこまで言うならと2021年3月末、現場で屋根を架けてみると、屋根自体の重さで沈み込み、ジャッキダウンしたらすぐに歪みが生じた。目の錯覚ではなく、水平の糸を使って確認しても歪んでいるのは明白だった」(同) ところが驚いたことに、それでも畝森事務所と市は、現場に持ち込んだパソコンでポチポチと数値を打ち込み「問題ない」と言い張ったという。自分たちの目の前で実際に沈み込みや歪みが起きているのに、パソコンの画面を注視するとは〝机上の空論〟以外の何ものでもない。 「結局、翌日には歪みはもっと酷くなり、棒などの支えがないと屋根は落下しそうな状態だった」(同) 前出の業者が指摘した「デザイン先行」は的を射ていたことになる。 「もし時間を戻せるなら」  建物本体を施工する鈴船建設の鈴木広孝社長は、本誌2021年7月号の取材時、 「施工業者はどんな建物も図面通りにつくる。屋内遊び場も同じで、当社は図面に従って施工しただけです。屋根を架ける際も、畝森事務所には『本当に大丈夫か』と何度も確認した。現場は風が強く、近年は台風や地震が増えており、積雪も心配される。ああいう奇抜なつくりの屋根だけに、さまざまな気象条件も念頭に確認は念入りに行った。それでも畝森事務所は『大丈夫』と言い、構造計算業者も『問題ない』と。にもかかわらず、屋根を架けて数日後に歪みが生じ、このまま放置するのは危険となった」 と話している。 今回、鈴木社長にもあらためて話を聞いたが、2021年と証言内容は変わらなかった。 「畝森事務所と市には『こんな屋根で本当に大丈夫か』と何度も尋ねたが、両者とも『大丈夫』としか言わなかった。問題発生後に行われた市の調査には『当社は図面通りに施工しただけ』と一貫して説明している。市からは、当社に非があったという類いのことは言われていない」 設計監理と施工に携わる両社にここまで力強く証言されると、屋根が歪んだ原因は図面を引いた畝森事務所に向くことになるが……。 本誌2021年7月号の取材時、畝森事務所は 「田村市が調査中と明言を避けている中、それを差し置いて当社が話すことは控えたい」 とコメントしたが、今回は何と答えるのか。 「田村市が話していること以上の内容を当社から申し上げることはできない。ただ、市の調査には引き続き協力していく意向です」 当事者たちの話から原因の大枠が見えてきた中、この間、調査を進めてきた市は事実関係をどこまで把握できたのか。 「各社から個別に聞き取り調査を行い、そこで分かったことを弁護士や一般財団法人ふくしま市町村支援機構に照会し、再び各社に問い合わせる作業を繰り返している。現時点では屋根が歪んだ原因は明確になっておらず、市として公表もしていません」(市こども未来課の担当者) 問題発覚後に開かれた各定例会でも、議員から原因究明に関する質問が相次いだが、市は明言を避けている。そうした中、白石市長が最も踏み込んだ発言をしたのが、2021年12月定例会(12月3日)で半谷理孝議員(6期)が行った一般質問に対する答弁だった。 「屋根の歪みの原因は設計か施工のいずれかにあると思っています。この件については、市長就任前の議員時代から情報収集しており、約1年前から屋根に懸念があるという情報をつかんでいました。もし時間を戻せるなら、施工前に設計者、施工者、発注者の市が話し合い、何らかの設計変更をすべきだったのではないか、と。もしタイムマシンがあれば戻りたいという気持ちです」 「施工者や監理者から話を聞いたところ、当初の図面から昨年(※2020年)12月に設計変更して、屋根の長さを短くしたとのことです。それは、自ずと屋根が歪むのではないか、この構造で持つのか、という投げ掛けがあり、屋根を小さくしたとのことでした。さらに施工前に懸念されていたことが、実際に施工して起きた、これも事実です。こうしたことを含めて、責任の所在がどこにあるのか考えていきたい」 明言こそしていないが、白石市長は設計側に原因があったのではないかと受け止めているようだ。 印象的なのは「もし時間を戻せるなら」「タイムマシンがあれば戻りたい」と繰り返している点だ。その真意について、前出の業者はこんな推測を披露する。 「屋内遊び場は、白石市長が就任前の本田仁一前市長時代に工事が始まり、就任後に歪みが生じた。白石市長からすると、本田氏から迷惑な置き土産を渡された格好。しかし自分が市長になった以上、本音は『オレは関係ない』と思っていても問題を放置するわけにはいかない。議員時代から調査していた白石市長は、そのころから『自分が市長ならこういうやり方でトラブルを回避していた』という思いがあったはず。だから、つい『時間を戻せるなら』と愚痴にも似た言葉が出たのでしょう。見方を変えれば、本田氏への恨み節と捉えることもできますね」 責任追及に及び腰のワケ  状況を踏まえると、歪みが生じた原因は明らかになりつつあると言っていい。にもかかわらず、市が責任追及の行動に移そうとしないのはなぜなのか。 某市議が市役所内の事情を明かしてくれた。 「責任の所在は業者だけでなく市にも一定程度ある。畝森事務所から上がってきた図面を見て、最終的にゴーサインを出したのは市だからです。逆に言うと、図面を見て『この屋根のつくりではマズい』とストップできたのも市だった。そういう意味では、市のチェック体制はザルだったことになり、業者だけを悪者にするわけにはいかないのです」 つまり、白石市長が責任追及に及び腰なのは身内(市職員)を庇うためなのか。某市議は「傍から見るとそう映るかもしれないが、そんな単純な話ではない」と漏らす。 「一つは、市町村役場に技術系の職員がいないことです。技術系の職員がいれば、図面を見た時に『この屋根のつくりはおかしい』と見抜いたかもしれないが、田村市役所にはそういう職員がいない。業者はそれを分かっているから『どうせ見抜けるはずがない』と自分に都合の良い図面を出してくるわけです。結果、図面上の問題は見過ごされ、専門知識を持たない市職員は提出された書類に不備がないか法律上のチェックのみに留まるのです。もう一つは、市職員はおかしいと思っても、上からやれと指示されたらやらざるを得ないことです。屋内遊び場をめぐり当時の本田市長が部下にどんな指示をしたかは分からないが、専門知識を持つ桑原建築事務所や鈴船建設が心配して何度確認しても、市は大丈夫と押し通したというから、担当した市職員は本田氏の強い圧力を受けていたと考えるのが自然でしょう」 こうした状況を念頭に「白石市長は市職員の責任を問うのは酷と逡巡している」(同)というのだ。 「本来責任を問うべきは当時の最終決定者である本田氏だが、本田氏は既に市長を退いており責任を問えない。じゃあ、本田氏から指示された市職員を処分すればいいかというと、それは酷だ、と。もちろん、最終的には市長自らが責任を負うことになるんでしょうが」(同) 事実、白石市長は前出・半谷議員の「これによって生じる責任の全てを業者ではなく、市長が負うと理解していいのか」という質問(2021年12月定例会)にこう答弁している。 「現時点では私が田村市のトップなので、全て私の責任で今後対応してまいります」 考えられる処分は市長報酬の一定期間減額、といったところか。 一方で、白石市長が原因究明を後回しにしているのは、屋内遊び場の完成を優先させているからという指摘もある。 屋内遊び場の事業費が全額交付金でまかなわれていることは前述したが、期限(工期)内に竣工・オープンしないと国から返還を迫られる可能性がある。当初の期限は2021年7月末だったが、市は屋根に歪みが生じた後、交付金の窓口である復興庁と交渉し、期限延長が了承された。しかし、新たに設定した期限(2022年度中の竣工・来年4月オープン)が守られなければ交付金は返還しなければならず、事業費は全額市が負担することになる。 もはや再延長は認められない中、市は2021年12月定例会で屋根の撤去費用1500万円、新しい屋根の葺き替え費用4500万円、計6000万円の補正予算案を計上し議会から承認された。ところが2022年6月定例会に、再び屋内遊び場に関する補正予算案として9000万円が計上された。ウッドショック(木材の不足と価格高騰)への対応や人件費など経費の高騰、さらには木造から鉄筋に変更したことで工程上の問題が生じ、更なる予算が必要になったというのだ。 この補正予算案が認められなければ屋内遊び場は完成しないため、結局、議会から承認されたものの、計1億5000万円は市の一般財源からの持ち出し。すなわち全額交付金でまかない、市の持ち出しはゼロだったはずの計画は、一転、市が1億5000万円も負担する羽目になったのだ。 さらに問題なのは、引き続き工事を行うのが鈴船建設、畝森事務所・アンス共同体と顔ぶれが変わらないことだ(桑原建築事務所は8月時点では未定)。市民からは 「歪みを生じさせた当事者に、そのまま工事を任せるのはおかしい」 と〝歪んだ工事再開〟に疑問の声が上がっている。 「市民の間では、信頼関係が失われている面々に引き続き工事をやらせることへの反発が大きい。『そういう業者たちに任せて、ちゃんとしたものができるのか』と心配の声が出るのは当然です」(前出の業者) 1.5億円の「請求先」  そうした懸念を払拭するため、市では構造設計を専門とするエーユーエム構造設計(郡山市)とコンストラクション・マネジメント契約を締結。同社が市の代理人となって施工者、設計者、設計監理者との仲介に努めていくという。業者間の信頼関係が疑われる中、同社が〝緩衝材の役目〟を果たすというわけ。 「すでに工事が3~4割進んでいる中、業者を変更して工事を再開させるのは難しいし、そもそも他社が手を付けた〝瑕疵物件〟を途中から引き受ける業者が現れることは考えにくい。そこで、同じ業者にトラブルなく仕事を全うさせるため、市はコンストラクション・マネジメントという苦肉の策を導入したのです」(前出の市議) 市としては補助金返還を絶対に避けるため、なりふり構わず施設の早期完成を目指した格好。 ちなみに、エーユーエム構造設計には「それなりの委託料」が支払われているが、これも市の一般財源からの持ち出しだ。 最後に。同じ業者に引き続き工事を任せる理由は分かったが、竣工・オープン後に待ち受けるのは、市が負担した1億5000万円(プラスエーユーエム構造設計への委託料)をどこに請求するかという問題だ。なぜなら、これらの経費は屋根に歪みが生じなければ発生しなかった。本来なら市が負担する必要のない余計な経費であり、その「原因者」に請求するのは当然だ。言うまでもなく「原因者」とは屋根の歪みを生じさせた業者を指す。 今は中途半端になっている原因究明の動きだが、最終局面は2022年度中の完成・2023年4月にオープン後、1億5000万円を請求する際に迎えることになる。 (6/9追記)2023年5月、田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」がオープン 田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」(田村市HPより) おひさまドームオフィシャルサイト あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

    【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠【百条委員会】

    白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 【田村市】白石高司市長インタビュー

    【田村市】白石高司市長インタビュー

     しらいし・たかし 1960年生まれ。田村市(旧船引町)出身。上武大学商学部卒。同市議1期を経て2021年4月の同市長選で初当選を果たした。  ――市内ではコロナの出口戦略に向け、特に観光面で明るい材料が散見されます。 「昨年行った『たむらの桜88撰総選挙』が好評を得、愛称が『田村の美桜88景』に決まり、今年はフォトスタンプラリーを行います。88カ所は1年では回りきれないので、数年かけて回ることでリピーターになっていただく狙いがあります。併せて桜ウオークも開催する予定となっています。 第2回クワガタサミットも開催します。昨年開いた第1回サミットには全国から昆虫好きの方々が集まり大好評をいただきました。全国には昆虫でまちおこしを行っている地域が多くあるので、昆虫の聖地を目指した協議会を立ち上げようと準備を進めています。昆虫は良好な自然環境の象徴という意味で復興をアピールする材料にもなり得るので、いずれは世界サミットを開催したい希望も持っています。 今年はあぶくま洞が開洞50周年を迎え、9月の秋まつりでイベントを行います。また、あぶくま洞は『恋人の聖地』認定を受けていますが、福島市の四季の里も認定され県内2カ所となったので、両施設でさまざまな連携を図り、PRに努めていきたいです」 ――常葉町地内に整備中の東部産業団地に工場進出が決定しました。 「2区画あるうち、昨年1社の進出が決定しました。残り1区画もご検討いただいている企業があるので、早期に決定できるよう引き続き営業活動に注力します」 ――移住・定住に向け田村市・東京リクルートセンターや田村サポートセンターを開設しましたが、その効果は。 「令和3年度は移住相談が86件寄せられ、5世帯12人が市内に移住されました。4年度は12月現在で相談237件、10世帯16人が移住されました。移住希望者の中には仕事を探している方もいるので、市では独自の創業・起業支援としてキッチンカー移住チャレンジ事業を行っています。キッチンカーを無償で用意し、商品開発や出店支援を行うもので、3月には市内のイベントでカレー、ハンバーガー、パンケーキのキッチンカーがデビューします。食材も地元産にこだわり、農産物の6次化につながることも期待しています。 以前、この地域は葉タバコ栽培が盛んでしたが、現在、市場は縮小しています。そこでサツマイモ栽培に力を入れ、一昨年にはサツマイモ貯蔵施設が完成・稼働しました。同施設には東北でも珍しいキュアリング設備があり、サツマイモを貯蔵するだけでなく食味向上も図れるので、昨今のサツマイモブームにのって葉タバコに代わる農産物栽培と6次化につなげていきたいです」 ――たむら市民病院の新病院建設をめぐり、市議会内に百条委員会が設置され調査が続いています(※白石市長へのインタビューは2月13日に行った)。 「公共事業の役割は、社会資本を整備することと地域経済を活性化させることだと思います。この二つの観点から、私は最優秀提案者に安藤ハザマを選びました。 プロポーザル委員会は最優秀提案者に鹿島を選びました。しかし両社の企画案を比べると、安藤ハザマの方が建設費が安く、地域貢献度も高かった。さらに多数決では、委員7人のうち4人が同社を選んでいた。にもかかわらず、その後の話し合いで鹿島が選ばれました。 もちろん、プロポーザル委員会は理由があって鹿島を選んだのでしょうが、市民から直接選ばれた立場である市長としては、市民にとって良い選択、すなわち将来に負担(借金)を残さないためには少しでも建設費が安い方がいいし、多くの地域貢献がもたらされる方がいいと判断しました。また、市民や市議会から『なぜこの業者を選んだのか』と問われた時、明確に説明できる材料がある方を選んだ方が余計な疑いを招かなくて済む、とも考えました。 今回、市議会内に百条委員会が設置され、(同委員会による)証人喚問では事実のみを丁寧に述べさせていただいたつもりです」 ――元職員が逮捕・起訴された贈収賄事件をめぐっては市発注の入札に市内の業者が関与していたことが明らかになりました。 「今回の事態を深刻に受け止め、こういったことが二度と起きないような組織体制を構築すべきと考え、副市長を先頭に綱紀粛正を図っているところです。 ただ、言葉で言うだけでは実現は難しいので、全職員を対象にコンプライアンス研修を行い、全庁が同じ方向を向いて仕事を行えるよう倫理観の向上に努めているところです。また、各所属長に依頼し、職員への聞き取りやシステム・パスワード管理に関する調査を行いました。これにより現状を把握するとともに、改善が必要と認められた部分はその都度改善を行うようにしています」 ――屋根工事などにトラブルが発生し、事業が中断していた屋内遊び場の進捗状況について。 「多くの市民の方にご心配をいただきましたが、建築主体工事は、ほぼ完了し、現在は内装や遊具設置、外構工事などを行っています。3月下旬には完成し、4月末のオープンに向けて運営業者に委託し進めていきます」  ――昨年11月、JR東日本の2021年度収支で磐越東線のいわき―小野新町間が6億9000万円の赤字という報道がありました。 「報道後すぐに小野・三春両町長と話し合いを持ちましたが、沿線自治体という点では郡山・いわき両市や県との協力も不可欠です。ただ、ある一定の区間が赤字だからといって全線が不要かというと、それは乱暴な考え方だと思います。 磐越東線は三十数年前も廃止対象となり、田村青年会議所を中心に存続運動が展開された経緯があります。市内には実に六つの駅が存在しますが、同線は市民にとっても貴重な移動手段であり、地域公共交通体系の根幹となる要素ですので、存続に向けた取り組みをしっかりと行っていきたい」 ――最後に、令和5年度の重点事業について。 「五つの政策枠を設けます。一つ目は豊かなふるさと実現枠。この中には新病院建設、健康長寿サポート事業、ムシムシランド移設などが含まれます。二つ目は地域創生枠。移住定住対策や産業振興、少子化対策などを行います。三つ目は新生活創造枠。昨年立ち上げたオンラインショップの運営やDXの推進などを図っていきます。四つ目は復旧・復興枠。都路町の複合商業施設の建設を進め、林業推進などにも努めます。五つ目は危機管理枠。自主防災組織を構築し、有事の際は機能できる体制にしていきたいです」 田村市のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】

  • 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

    【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が〝鶴の一声〟で変更された。市幹部などでつくる選定委員会は、公募型プロポーザルに参加した3社の中から鹿島建設を最優秀提案者に選んだが、白石高司市長の指示で次点者の安藤ハザマに覆ったのである。 〝本田派議員〟が疑惑追及の百条委設置 「新病院の施工予定者が白石市長の指示で変更されたらしい」 そんなウワサを田村市内の自民党関係者から聞いたのは、2022年7月に行われた参院選の前だった。  新病院とは、田村地方の医療を支えるたむら市民病院(病床数32)の後継施設を指す。公には6月30日に市のホームページで「新病院の施工予定者選定に係る公募型プロポーザルの最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者は鹿島建設」と発表され、7月4日付の福島建設工業新聞にも「新病院の施工予定者に安藤ハザマ」という記事が掲載された。 造成工事を終えた新病院予定地  ところが実際の審査では、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選ばれていたというのだ。  「2022年6月、市幹部などでつくる選定委員会が白石市長に『審査の結果、鹿島に決まった』と報告した。しかし白石市長が納得せず、次点の安藤ハザマに変更するよう指示したというのです。選定委員会は『何のために審査したか分からない』と不満に思ったが、上から言われれば従うしかない」(市内の自民党関係者)  一度聞いただけではまさかとしか思えない話。だが、それはウワサでもまさかでもなく、事実だった。  市長の指示で施工予定者が突然覆される――そんなかつての〝天の声〟を彷彿とさせる出来事はなぜ起きたのか。  たむら市民病院は、同市船引町の国道288号沿いで診療を行っている。もともとは医療法人社団真仁会が大方病院という名称で運営していたが、院長が急死したため2019年7月に市が事業継承、公的医療機関として生まれ変わった。診療科目は内科、人工透析内科、外科など10科。運営は指定管理者制度で公益財団法人星総合病院(郡山市)に委託している。  市立病院の設置は、2005年に旧5町村が合併した田村市にとって悲願だった。しかし、事業継承した時点で建物の老朽化、必要な病床数の確保、救急受け入れなどの課題を抱えていた。そこで市は2020年3月に新病院建設基本計画を策定、現在地から北東1・3㌔の場所(船引町船引字屋頭清水地内)に新病院を建設する方針を打ち出した。  2020~21年度にかけて予定地の造成を行い、その後は22年度着工、24年度開院というスケジュールが組まれたが、21年4月の市長選で状況が変化した。当時現職の本田仁一氏を破り初当選した白石高司市長が、公約に本田市政のもとで始まった公共工事の見直し(事業検証)を掲げたことから、新病院建設も一時中断を余儀なくされたのである。  その後、関係部局の職員たちが4カ月にわたり事業検証を行い、最終的に「新病院は市民にとって必要」と判断されたため、計画は予定より1年遅れて再始動した。2022年3月には建設基本設計概要書が公表され、新病院の具体像が示された。  問題の公募型プロポーザルはこの後に行われるが、ここからは、本誌が情報開示請求で市から入手した公文書に基づいて書いていく。  新病院の概要は病床50床、鉄筋コンクリート造地上4階建て、建築面積2790平方㍍、延べ面積6420平方㍍。このほか厨房施設と付属棟、250台分の駐車場を整備し、工期は2023年7月から25年1月。想定事業費は36億円程度となっている。  市は建設コスト縮減と工期短縮を図るため、施工者が設計段階から技術協力を行うECI方式の採用を決定。4月19日にプロポーザルの公告を行い、清水建設、鹿島、安藤ハザマから参加申し込みがあった。同28日には一次審査が行われ、3社とも通過した。  続く二次審査は6月25日に行われ、各社のプレゼンテーションと選定委員会によるヒアリング、さらには各委員による採点で最優秀提案者と次点者が選定された。 最高評価を受けていた鹿島  まずは評価が一目で分かる採点から見ていく。別表は選定委員7人による評価シートの合計だ。  選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、そのうちの3人は南相馬市立総合病院の及川友好院長、たむら市民病院の指定管理者である星総合病院の担当者、日大工学部教授だったことが判明している。残り1人は不明。  その7人による採点の合計を見ると(各自の採点結果は開示された公文書が黒塗りで不明)、A社は505点、B社は480点、C社は405点となっている(満点は700点)。アルファベット表記になっているが、公文書を読み進めるとA社は鹿島、B社は安藤ハザマ、C社は清水建設であることが分かり「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」と書かれている。  では、各委員の評価ポイントはどうだったのか。公文書には当時の発言順に次のように記されていた。  「A社は丁寧な技術提案や書類のつくり込みで好感が持てた。ヒアリングでのやり取りからもネガティブな要素は感じられず、安心して任せられると感じた。C社にはA社と全く逆の印象を持った。書類のつくり込みが粗いばかりか、ヒアリングでも発注者・審査員に対し礼を失する発言が多く、誠実さが感じられなかった。B社は様々な提案を盛り込んでいるが、果たしてそれがうまく収まるのか不安を感じた。工期に余裕がない点もネガティブ要素だった」(黒塗りで発言者不明)  「地域貢献に関して、書類上の金額と現実性が乖離している提案が目立った。特にB社の発注予定額は経験的に実現不可能と受け止めている。技術力に関しては提案者ごとにかなり差があると感じた。順位付けをするならA社<B社<C社の順だが、メンテナンス体制も含めるとA社の有意性がより際立つと感じた」(同)  「技術面では3社とも特に問題ないだろうと感じた。その中でも、A社は一番丁寧に提案書がつくられていた。地域貢献に関しては、その是非や実現性を判断するための情報が不足している」(佐藤委員)  「技術的な優劣は判断できない。市の姿勢として地域貢献を前面に出していただく必要がある」(渡辺委員)  「ここまでの委員の発言に同意。地域貢献に関しては、B社提案はリップサービスが過ぎたように感じる」(黒塗りで発言者不明)  「技術的な優劣は判断できないが、A社の提案は書類・説明ともに好印象だった。しっかりとした病院を確実に建てることが第一で、地域貢献はその次に考えること。地域貢献の配点が大きいため、個人的な評価と点数が一致していない。B社が提示した五つの課題は市の感覚とずれているように感じた」(石井委員長)  総体的に、A社(鹿島)の評価が高く、C社(清水建設)は厳しい意見が多く聞かれた。B社(安藤ハザマ)の提案も各委員が半信半疑に捉えている様子がうかがえる。  ただ、採点結果と評価ポイントのすり合わせを行っても順位の一致に至らなかったため、規程に基づき多数決を行った結果、A社4人、B社1人、C社0人となり、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。  この結果を選定委員会事務局が白石市長に報告し、決裁後、速やかに各社に通知、市のホームページでも公表する手筈だったが、公文書(6月30日付の発議書)には次のような驚きの記述があった。  《6月28日及び同30日に実施した市長報告において、市長から本件プロポーザルにおいては地域貢献と見積額が重要な判断基準であるため、当該提案において最も有利な条件を提示している㈱安藤・間東北支店が次点者という審査結果は妥当性を欠くため、該社を最優秀提案者として決定するよう指示がありました》  白石市長から安藤ハザマに変更するよう指示があったと明記されていたのだ。  最終的にこの変更は6月30日に了承され、安藤ハザマには《厳正に審査した結果、御社の提案が最も評価が高く、本事業の最優秀提案者として選定されましたので通知いたします》、鹿島には《御社の提案が2番目に評価が高く、本事業の次点者として選定されました》という通知が白石市長名で送られた。市のホームページでも同日中に公表された。「厳正に審査」が白々しく聞こえるのは本誌だけだろうか。 百条委設置の経緯  前述した建設工業新聞の記事はこの直後に書かれたが、当時は最優秀提案者が覆された事実は公になっていなかった。ただ市議会では、安藤ハザマを最優秀提案者に選定したことに「別の視点」から疑問の声が上がっていた。  「6月に市役所ホールの吹き抜けの窓から雨漏りしている個所が見つかったが、市役所を施工したのが安藤ハザマと地元業者によるJVだったため、議員から『そんな業者に新病院建設を任せて大丈夫か』という懸念が出たのです」(市内の事情通)  市役所は2014年12月に竣工したが、事情通によると落札金額は安く抑えられたものの、その後、追加工事が相次ぎ、結局、事業費が膨らんだ苦い経験があるため、  「議員の間には『今回も安藤ハザマは同様の手口で事業費を増やしていくのではないか』という疑いが根強くある」(同)  これ以外にも、安藤ハザマは「過去に指名停止を受けている」「市に除染費用を水増し請求した」などの不信感が持たれている。ただ同様のトラブルは、鹿島や清水建設など他のゼネコンでも見られるので、安藤ハザマだけを殊更問題視するのはバランスを欠く。  「そうこうしているうちに『最優秀提案者は、本当は鹿島だったらしい』という話が議員にも伝わり、9月定例会で選定経過に関する質問が行われたが、白石市長は『地域貢献度も含め適正に審査した』と曖昧な答弁に終始したため、過半数の議員が反発する事態となった」(同)  ウワサは次第に尾鰭をまとい「〇〇社が白石市長に頼んで安藤ハザマに変わったらしい」「実際の工事は白石市長と同級生の××社が請け負うようだ」「白石市長は安藤ハザマからいくらもらったんだ」等々、真偽不明の話まで囁かれるようになった。白石市長が明確な答弁を避けたことが「何か隠している」という印象を与えたわけ。  9月定例会が終わりに近付くころには、一部議員の間で「真相を究明するには地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置するしかない」という話が持ち上がり、10月27日に開かれた臨時議会で議員発議による設置が正式決定された。  《市は安藤ハザマを最優秀提案者にした理由の説明を避けてきたため、一部議員が反発していた。白石市長は臨時議会開会前の議員全員協議会で鹿島が選定委員会で最も点数が高かったと認め、「積算工事費や地域貢献計画などを比較し、安藤ハザマにした」と説明したが、採決の結果、賛成9、反対8で百条委設置が決まった》(福島民報10月28日付)  田村市議会は定数18。採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛成・反対の内訳は別掲の通りだが、賛成した9人のうち、半谷理孝議員を除く8人は2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を支援していた。  ちなみに百条委の委員も、賛成した9人から大和田議員を除いた8人全員が就き、反対した8人からは誰も就かなかった。そのため「市長選の私怨が絡んだ面々で正しい調査ができるのか」と言われているが、委員に就いた議員からは「反対した議員には『調査の公平・公正を担保するため、そちら(反対)の議員も百条委に加わるべきだ』と申し入れたが断わられた」という不満が漏れている。  反対した8人は白石市長と距離が近いが、話を聞くと「百条委設置に反対したのに委員に就くのは筋が通らないと思った」と言う。しかし筆者は、本気で真相を究明するなら設置の賛否にこだわらず、議会全体で疑惑の有無を探るべきと考える。そうでなければ、せっかくつくった百条委が「反白石派の腹いせに利用されている」とねじ曲がった見方をされかねないからだ。  市保健福祉部の担当者はこう話す。  「百条委が設置されたことは承知しているが、具体的な動きがない限り市側はアクションを起こせないので、今後どうなるかは全く想像がつかない」  最後に、白石市長が安藤ハザマに変更した際に重視したとされる工事費や地域貢献度については市から入手した公文書にこんな記述がある。  例えば安藤ハザマは▽直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注、▽事務用品その他も4000万円以上を市内企業から購入、▽市内における関係者個人消費は3000万円以上。さらに概算工事費は45億8700万円と提示している。  一方、鹿島については市内業者への発注額、市内企業からの建設資機材購入額、概算工事費とも黒塗りされ詳細は不明だが、白石市長に次点者に追いやられたということは、いずれの金額も安藤ハザマより劣っていたことが推察される。 開院遅れで市民に不利益  だが、プロポーザルへの参加者を公募した際の公文書(4月19日付)にはこのように書かれている。  《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》  選定委員会が最も高く評価した提案者を、市長の〝鶴の一声〟で変更していいとは書かれていない。白石市長は「工事費や地元貢献度の観点から安藤ハザマの方が優れており、やましい理由で変更したわけではない」と言いたいのだろうが、ルールに無い変更を独断で行った結果、疑惑を招き、市政を混乱させたことは事実であり、真摯に反省しなければならない。  何より新病院建設は前述した事業見直しで一時中断しており、今回の百条委でさらに遅れる可能性が出ている。高齢者や持病のある人にとって新病院は待望の施設なのに、開院がどんどん後ろ倒しになるのは不利益以外の何ものでもない。白石市長はたとえやましいことが無かったとしても、安藤ハザマに変更した理由を明確に示さない限り、市議会(百条委)は納得しないし、市民からも理解を得られないだろう。  白石市長は百条委設置を受け「プロポーザルに参加した業者の技術に差はなく、市民の利益を十分検討し最終決定した。調査には真摯に対応したい」とコメントしたが、今後の百条委で何を語るのか、それを聞いて百条委がどのように判断するのか注目される。 田村市ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 田村市の新病院工事問題で新展開

     7月に開かれた田村市議会の臨時会で、市が提出した新病院の工事請負契約に関する議案が反対多数で否決されたことを先月号で伝えたが、その後、新たな動きがあった。 安藤ハザマとの請負契約が白紙に 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  新病院の施工予定者は、昨年4~6月にかけて行われた公募型プロポーザルで、選定委員会が最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、百条委員会が設置された。  今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は法的な問題点を見つけられず、白石市長に「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。  そうした因縁を引きずり迎えた7月の臨時会は、直前の6月定例会で新病院に関する予算が賛成多数で可決していたこともあり、安藤ハザマとの工事請負契約も可決するとみられていた。ところが、結果はまさかの否決。白石市長が反対に回った議員をどのように説得するのか今後の対応が注目されたが、本誌に飛び込んできたのは予想外の情報だった。  「市は6月下旬に安藤ハザマと仮契約を結んだが、白紙に戻し入札をやり直すというのです」(経済人)  議会筋によると、7月下旬に開かれた会派代表者会議で市から入札をやり直す方針が伝えられたという。今後、6月定例会で可決した新病院に関する予算を減額補正し、新たに入札を行って施工予定者を選び直す模様。設計はこれまでのものを踏襲するか、若干の変更があるかもしれないという。  「安藤ハザマは今回の新病院工事で、地元企業に十数億円の仕事を発注する予定だったが、船引町商工会に『契約が白紙になったため、地元発注ができなくなった』と連絡してきたそうです」(前出・経済人)  船引町商工会の話。  「8月上旬に安藤ハザマから連絡がありました。市から契約白紙を告げられたそうです。担当者からは繰り返し謝罪されたが、経済が落ち込む中、地元企業に様々な仕事が落ちると期待していただけに残念でなりません」(白石利夫事務局長)  船引町商工会では安藤ハザマと取引を希望する地元企業から見積もりを出してもらうなど、同社とのつなぎ役を務めていた。ガソリンスタンド、車両のリース、弁当など様々な業種から既に見積もりが寄せられていただけに「取引がなくなり、皆落胆しています」(同)という。  市のホームページによると、新病院は2023~24年度にかけて工事を行い25年度に開院予定となっているが、議会筋によると、入札をやり直せば工事は24年夏~26年夏、開院はその後にずれ込む。予定より1年以上開院が遅れることになる。  「白石市長は否決された工事請負契約を可決させるため、反対した議員を説得すると思われたが、そうした努力を一切せずに入札やり直しを決めた。一方、反対した議員も、当初計画より工事費が高いことを理由に否決したが、これ以上工事が遅れれば物価高やウクライナ問題のあおりで工事費はさらに割高になる。白石市長も反対した議員も新病院が必要なことでは一致しているのに、互いに歩み寄らなかった結果、『開院の遅れ』と『工事費のさらなる増額』という二つの不利益を市民に強いることになった」(前出・経済人) 白石高司市長  入札をやり直して開院を遅らせるのではなく、政治的な協議で軌道修正を図り、予定通り開院させる方法は取れなかったのか。  市内では「互いに正論を述べているつもりかもしれないが、市民の立場に立って成熟した議論ができないようでは話にならない」と冷めた意見も聞かれる。白石市長も議会も猛省すべきだ。 ※新病院建設を担当する市保健課に問い合わせると「安藤ハザマとの契約はいったんリセットされる。今後どのように入札を行うかは9月定例会など正式な場でお伝えすることになる」とコメントした。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

  • 【田村市】新病院問題で露呈【白石市長】の稚拙な議会対策

     本誌でこの間報じてきた田村市の新病院建設計画。市は先月の臨時会に工事請負契約の議案を提出したが、賛成7人、反対10人で否決された。百条委員会で鮮明になった白石高司市長と反対派議員の対立が尾を引いた形だが、同時に白石市長の稚拙な議会対策も見えてきた。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 したたかさを備えなければ市政は機能しない 会対策に苦慮する白石高司市長  まずはこの間の経緯を振り返る。 老朽化した市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は昨年4~6月にかけて施工予定者選定プロポーザルを実施。市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募したゼネコンの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。 百条委は、白石市長と安藤ハザマが裏でつながっているのではないかと疑った。しかし、百条委による証人喚問の中で白石市長は、①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった――と安藤ハザマに覆した理由を説明した。 今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は「白石市長の職権乱用」と厳しく批判するも法的な問題点は確認されず「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。 百条委の一部メンバーからは「さらに調査すべき」との声も上がったが、最終的には「新病院建設が遅れれば市民に不利益になる」として百条委は解散された。 これにより新病院建設はようやく実現に向かうと思われた。実際、3月定例会では全体事業費を55億7000万円とすることが議決され、6月定例会では資材高騰などの影響で7億円増の62億7000万円とすることが再度議決された。これに伴い今年度分の病院事業会計の予算も増額された。 予算が全て通ったということは関連議案も議決されると考えるのが普通だが、そうはならなかった。 市は7月6日に開かれた臨時会に新病院を47億1100万円、厨房施設を4億8900万円で安藤ハザマに一括発注するため、工事請負契約の議案を提出した。同社とは6月28日に仮契約を済ませていた。(※工事費と全体事業費に開きがあるのは、全体事業費には医療機器購入費などが含まれているため) しかし、採決の結果は賛成7人、反対10人で、安藤ハザマとの工事請負契約は否決された。市議会は定数18で、採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛否の顔ぶれは別表の通り。(6月定例会での予算の賛否と百条委設置の賛否も示す) 123石井 忠治 ⑥××〇半谷 理孝 ⑥××〇大和田 博 ⑤××〇菊地 武司 ⑤××〇吉田 文夫 ④××〇安瀬 信一 ③××〇遠藤 雄一 ③×〇〇渡辺 照雄 ③××〇石井 忠重 ②×〇×管野 公治 ①××〇猪瀬  明 ⑥〇〇×橋本 紀一 ⑥〇〇×佐藤 重実 ②〇〇×二瓶恵美子 ②〇〇×大河原孝志 ①〇〇×蒲生 康博 ①〇〇×吉田 一雄 ①〇〇×※〇は賛成、×は反対※1は工事請負契約の賛否※2は6月定例会での予算の賛否※3は百条委設置の賛否※丸数字は期数  反対した議員によると、当初、工事請負契約は賛成多数で可決される見通しだったという。 「6月定例会では賛成9人、反対8人で予算が通ったので、工事請負契約も9対8で可決されると思っていました」(反対派議員) 風向きが変わったのは臨時会の2日前。予算に賛成した石井忠重議員が工事請負契約には反対することが判明し「9対8」から「8対9」に形勢逆転した。さらに、臨時会当日になって遠藤雄一議員も反対。工事請負契約は想定外の「7対10」で否決されたのである。 賛成派議員は「予算には賛成しておいて工事請負契約に反対するのはおかしい」と石井忠重議員と遠藤議員を批判したが、実情は臨時会の前から不穏な空気が漂っていた。 両議員と佐藤重実議員は「改革未来たむら」という会派を組んでいるが、臨時会直前、会派会長を務める佐藤議員は賛成派議員に「私たちは自主投票にする」と説明。佐藤議員はこの時点で石井忠重議員と遠藤議員が反対に回ることを分かっていたため、会派として拘束をかけることができなかったとみられる。 「大橋議長は無会派だが、もともとは改革未来たむら。だから採決の前に、大橋議長が『会派として賛成する』と拘束をかけていれば3人がバラバラの判断をすることもなく、工事請負契約は9対8で可決していた。大橋議長と白石市長は距離が近いが、両者が連携して議員の動向を把握しなかったことが想定外の否決を招いた」(ある議会通) なぜ、石井忠重議員と遠藤議員は予算には賛成したのに、工事請負契約に反対したのか。石井議員とは連絡が取れず話を聞けなかったが、賛成派議員には「臨時会の前に地元支持者と協議したら反対の声が多かった」と説明していたという。 一方、遠藤議員は本誌の問いにこう答えた。 「事業費は専門家が積み上げて出しているので、それを素人の私が高いか安いかを判断するのは難しい。しかし契約は、選定委員会が選んだ業者を市長が独断で覆したという明確なルール違反がある。予算は9対8で僅差の可決だったが、今後事業費が増えていけば、その度に補正予算案が出され、僅差の賛否が繰り返されるのでしょう。そこに私は違和感がある。全議員が『新病院は市民にとって必要』と思っているのに、関連議案は僅差の賛否になるのは、正しい姿とは思えないからです。新病院が本当に必要なら、関連議案も大多数が賛成する姿にすべき。もちろん、反対した議員も賛成に歩み寄る努力をしなければならないが、議案を提出する市長も、どうすれば賛成してもらえるのか努力すべきだ」 「政局での反対じゃない」 田村市百条委員会  百条委で白石市長は「自分の判断は間違っていない」と繰り返し強調した。鹿島から安藤ハザマに覆したやり方自体はよくなかったかもしれないが、客観的事実に基づいて安藤ハザマに決めたことは筋が通っており、市民にも説明が付く。逆に選考委員会の選定通り鹿島に決まっていたら、新病院を運営することになる星総合病院は、郡山市内にある本体施設の工事や旧病棟の解体工事を鹿島に任せているため、白石市長と安藤ハザマがそう見られたのと同様、裏でつながっているのではないかと疑われた可能性もあった。要するに安藤ハザマと鹿島、どちらが施工者になっても疑念を持たれたかもしれないことは付記しておきたい。 工事請負契約に反対した議員は、1期生と一部議員を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し、賛成した議員は白石市長を支える市長派という色分けになる。その構図は別表を見ても分かる通り、百条委設置でも持ち込まれた。 そうした中で気になるのは、百条委メンバーが「新病院建設をこれ以上遅らせれば早期開院を望む市民に不利益になる」と述べていたにもかかわらず、工事請負契約を否決したことだ。発言と矛盾する行動で、結局、開院は遅れる可能性が出ていることを市民に何と説明するのか。 百条委委員長だった石井忠治議員に真意を聞いた。 「新病院建設が打ち出された際の事業費は36億円だった。その後、プロポーザルで各業者が示した金額は46億円前後、そして3月定例会では55億円超、6月定例会では62億円超とどんどん増えていった。その理由について、市は『ウクライナ戦争や物価高騰で燃料・資材の価格が上がっているため』と説明するが、正直見積もりの甘さは否めない。議員は全員、新病院建設の必要性を認めている。にもかかわらず賛否が拮抗しているのは、市の説明が不十分で議員の理解が得られていないからです。起債で毎年1億2000万円ずつ、30年かけて償還していくことを踏まえると、人口減少が進む中で将来世代に負担させていいのかという思いもある。私たちは事業費が膨らみ続ける状況を市民に説明するため一度立ち止まってはどうかと言いたいだけで、政局で反対しているのではないことをご理解いただきたい」 石井忠治議員は「市の説明が不十分だから議員の理解が得られない」と述べたが、まさにこれこそが白石市長が考えを改めるべき部分なのかもしれない。 市民のために歩み寄りを 田村市船引町地内にある新病院建設予定地  前出・議会通はこう指摘する。 「白石市長は大橋議長や一部議員とは親しいが、反対派議員とは交流がない。これでは工事請負契約のように、どうしても可決・成立させたい議案が反対される恐れがある。反対派議員にへつらえと言いたいのではない。公の場で喧々諤々の議論をしながら、見えない場で『この議案を通すにはどうすればいいか』と胸襟を開いて話し合えと言いたいのです。こちらが歩み寄る姿勢を見せれば、反対派議員も『市長がそう言うなら、こちらも考えよう』となるはず。そういう行動をせずに『自分は間違っていない』とか『市民のために正しい判断をすべき』と言ったところで、施策を実行に移せなければ市民のためにならない」 要するに、白石市長は各議員との関係性が希薄で、議会対策も稚拙というわけ。 いみじくも、白石市長は工事請負契約が否決された臨時会で次のように挨拶していた。 「私たちは市民の声に真摯に耳を傾け、それを施策として反映・実行していく責務があります。今回の提案は残念な結果になりましたが、今後も議員の皆様とは市民の声をしっかり聞きながら、行政との両輪で市政を運営して参りたい」 反対派議員に「市民のために賛成しろ」と泣き言を言っても始まらない。賛成してほしければ自身の至らない点も反省し、理解を得る努力が必要だ。それが結果として市民のためになるなら、白石市長は政治家としてのしたたかさも備えないと、任期が終わるころには「議会と対立してばかりで何もしなかった市長」との評価が定まってしまう。 「そもそも、市長と議会が対立するようになったのは本田仁一前市長の時代です。本田氏は個人的な好き嫌いで味方と敵を色分けしていた。それ以前の市政で見られた、反対派議員とも腹を割って話す雰囲気はなくなった。そういう悪い風習が、白石市政になっても続いているのは良くない。本田市長時代の悪政を改めたいなら、市長と議会の関係性も見直すべきだ」(前出・議会通) 工事請負契約の否決を受け、今後の対応を白石市長に直接聞こうとしたが「スケジュールの都合で面会時間が取れないので担当課に聞いてほしい」(総務課秘書広報広聴係)と言う。保健課に問い合わせると、次のように回答した。 「現在、善後策を検討しているとしか言えません。いつごろまでにこうしたいという責任を持った回答ができない状況です」 担当課レベルではそうとしか言えないのは当然だ。事態を打開するにはトップが動くしかない。白石市長には「自分は間違っていない」という思いがあっても、私情を捨て、反対派議員と向き合うことが求められる。もちろん反対派議員も「反対のための反対」ではなく、賛成へと歩み寄る姿勢が必要。嫌がらせの反対は市民に見透かされる。双方が理解し合うことこそが「市民のため」になることを、白石市長も議会も認識すべきである。

  • 未完成の【田村市】屋内遊び場「歪んだ工事再開」

    (2022年9月号)  2021年4月、設置した屋根に歪みが見つかり、工事が中断したままになっている田村市の屋内遊び場。対応を協議してきた市は、計1億5000万円の補正予算を組んで工事を再開させる予定だが、違和感を覚えるのは原因究明が終わっていない中、歪みを生じさせた業者に引き続き工事を任せることだ。それこそ〝歪んだ工事再開〟にも映るが、背景を探ると、白石高司市長の苦渋の決断が浮かび上がってきた。 前市長の失政に未だ振り回される白石市長 白石高司市長  田村市屋内遊び場(以下「屋内遊び場」と略)は田村市船引運動場の敷地内で2020年8月から工事が始まった。計画では3000平方㍍の敷地に建築面積約730平方㍍、延べ床面積約580平方㍍、1階建て、鉄筋コンクリート造・一部木造の施設をつくる。利用定員は100人で、駐車場は65台分を備える。 総事業費は2億9810万円。内訳は建築が2億0680万円、電気が2600万円、機械設備が2340万円、遊具が4190万円。財源は全額を「福島定住等緊急支援交付金」と「震災復興特別交付金」で2分の1ずつまかない、市の持ち出しはゼロとなっている。 2021年3月には愛称が「おひさまドーム」に決まり、あとは同7月のオープンを待つばかりだった。ところが同4月、工事は思わぬ形で中断する。設置した屋根が本来の高さから5㌢程度沈み、両側が垂れ下がるなどの歪みが生じたのだ。 建物本体の施工は鈴船建設(田村市、鈴木広孝社長)、設計は畝森泰行建築設計事務所(東京都台東区、畝森泰行社長。以下「畝森事務所」と略)とアンス(東京都狛江市、荒生祐一社長)の共同体、設計監理は桑原建築事務所(田村市、桑原俊幸所長)が請け負っていた。 問題発覚時、ある市議は本誌の取材にこう話していた。 「鈴船建設は『設計図通りに施工しただけ』、畝森事務所は『設計に問題はない』、桑原建築事務所は『監理に落ち度はない』と、全員が〝自分は悪くない〟と主張し、原因究明には程遠い状況と聞いている」 実は、屋内遊び場は非常にユニークなつくりで、市内の観光名所であるあぶくま洞と入水鍾乳洞をイメージした六つのドームに屋根を架ける構造になっている(別図①)。 屋根も奇抜で、一本の梁に屋根を乗せ、玩具「やじろべえ」の要領でバランスを取る仕組み。ただ、それだと屋根が落下する危険性があるため、別図②のように屋根の片側(下側)をワイヤーで引っ張り、安定させるつくりになっていた。 しかし、屋根を架けた途端、沈みや歪みが生じたことで、市は別図③のように棒で支える応急措置を施し、原因究明と今後の対応に乗り出していた。  ある業者は 「こういうつくりの建物は全国的にも珍しいが、行き過ぎたデザインが仇になった印象。屋内遊び場なんて単純な箱型で十分だし、空き施設をリフォームしても間に合う」 とデザイン先行のつくりに疑問を呈したが、市が鈴船建設、畝森事務所、桑原建築事務所を呼び出して行った聞き取り調査では原因究明には至らなかった。市議会の市民福祉常任委員会でも調査を進めたが、はっきりしたことはつかめなかった。 本誌は2021年7月号に「暗礁に乗り上げた田村市・二つの大型事業」という記事を載せているが、その中で屋内遊び場について次のように書いている。   ×  ×  ×  × (前略)前出・某業者が興味深い話をしてくれた。 「六つのドームから構成される屋内遊び場は一つの建物ではなく、単体の建物の集合体と見なされ、建築基準法上は『4号建築物』として扱われている。4号建築物は建築確認審査を省略することができ、構造計算も不要。建築確認申請時に構造計算書の提出も求められない。もし施工業者に問題がないとすれば、その辺に原因はなかったのかどうか」 畝森事務所は構造計算書を提出していなかったようだが、屋根にゆがみが生じると「構造計算上は問題ない」と市に同書を提出したという。4号建築物なので提出していなかったこと自体は問題ないのかもしれないが、ゆがみが生じた途端「構造計算上は問題ない」と言われても〝後出しジャンケン〟と同じで納得がいかない。 そもそも公共施設なのに、なぜ4号建築物として扱ったのか疑問も残る。主に小さい子どもが利用する施設なら、なおのこと安心・安全を確保しなければならないのに、建築確認審査を省略できて構造計算も不要の4号建築物に位置付けるのは違和感を覚える。4号建築物として扱うことにゴーサインを出したのは誰なのか、調べる必要がある。 ちなみに、畝森事務所・アンス共同体は2019年10月に行われた公募型プロポーザルに応募し、審査を経て選ばれた。請負金額は基本・実施設計を合わせて3000万円。審査を行ったのは、当時の本田仁一市長をはじめ総務部長、保健福祉部長、教育部長、経営戦略室長、こども未来課長、都市計画課長、生涯学習課長、公民館長の計9人だ。   ×  ×  ×  × 今回、この記事を補足する証言を得ることができた。当事者の一人、桑原建築事務所の桑原俊幸所長だ。 改正建築士法に抵触⁉  「確かに4号建築物は構造計算が不要だが、2020年3月に施行された改正建築士法で、4号建築物についても構造計算書を15年間保存することが義務化されたのです」 義務化の狙いは、建築物の構造安全性に疑義が生じた場合、構造安全性が確保されていることを建築士が対外的に立証できるようにすると同時に、建築設計の委託者を保護することがある。つまり、構造計算は不要とされているが、事実上必要ということだ。 「しかし畝森事務所は、歪みの発生を受けて白石高司市長が直接行ったヒヤリング調査の10日後に、ようやく構造計算書を提出した。最初から同書を持っていれば調査時点で提出できたはずなのに、10日も経って提出したのは手元になかった証拠。これは改正建築士法に抵触する行為ではないのか」(同) まさに、これこそ〝後出しジャンケン〟ということになるが、 「後から『構造計算書はある』と言われても構造計算の数値が合っている・合っていない以前の問題で、建築設計事務所としての信頼性が問われる行為だと思う」(同) 同時に見過ごしてならないのは、構造計算書が存在することを確認せず、図面にゴーサインを出した市の責任だ。最初に図面を示された際、市が畝森事務所に同書の存在を確認していれば、問題発生後に慌てて同書を提出するという不審な行動は起こらなかった。そういう意味では、市も安全・安心に対する意識が欠落していたと言われても仕方がない。 「畝森事務所は工事が始まった後も『軒が長いから短くしたい』と図面を手直ししていた。問題がなければ手直しなんてする必要がない。要するに、あの屋根は最初から奇抜だった、と。玩具『やじろべえ』の要領と言っても、1本の梁に7対3の割合で屋根を乗せる構造ではバランスが取れるはずがない」(同) 桑原所長は屋根に歪みが生じた2021年4月の出来事を今もはっきりと覚えていた。 「設計の段階で、畝森事務所と市には『こういう屋根のつくりで本当に大丈夫か』と何度も言いました。しかし、同事務所も市も『大丈夫』と繰り返すばかり。そこまで言うならと2021年3月末、現場で屋根を架けてみると、屋根自体の重さで沈み込み、ジャッキダウンしたらすぐに歪みが生じた。目の錯覚ではなく、水平の糸を使って確認しても歪んでいるのは明白だった」(同) ところが驚いたことに、それでも畝森事務所と市は、現場に持ち込んだパソコンでポチポチと数値を打ち込み「問題ない」と言い張ったという。自分たちの目の前で実際に沈み込みや歪みが起きているのに、パソコンの画面を注視するとは〝机上の空論〟以外の何ものでもない。 「結局、翌日には歪みはもっと酷くなり、棒などの支えがないと屋根は落下しそうな状態だった」(同) 前出の業者が指摘した「デザイン先行」は的を射ていたことになる。 「もし時間を戻せるなら」  建物本体を施工する鈴船建設の鈴木広孝社長は、本誌2021年7月号の取材時、 「施工業者はどんな建物も図面通りにつくる。屋内遊び場も同じで、当社は図面に従って施工しただけです。屋根を架ける際も、畝森事務所には『本当に大丈夫か』と何度も確認した。現場は風が強く、近年は台風や地震が増えており、積雪も心配される。ああいう奇抜なつくりの屋根だけに、さまざまな気象条件も念頭に確認は念入りに行った。それでも畝森事務所は『大丈夫』と言い、構造計算業者も『問題ない』と。にもかかわらず、屋根を架けて数日後に歪みが生じ、このまま放置するのは危険となった」 と話している。 今回、鈴木社長にもあらためて話を聞いたが、2021年と証言内容は変わらなかった。 「畝森事務所と市には『こんな屋根で本当に大丈夫か』と何度も尋ねたが、両者とも『大丈夫』としか言わなかった。問題発生後に行われた市の調査には『当社は図面通りに施工しただけ』と一貫して説明している。市からは、当社に非があったという類いのことは言われていない」 設計監理と施工に携わる両社にここまで力強く証言されると、屋根が歪んだ原因は図面を引いた畝森事務所に向くことになるが……。 本誌2021年7月号の取材時、畝森事務所は 「田村市が調査中と明言を避けている中、それを差し置いて当社が話すことは控えたい」 とコメントしたが、今回は何と答えるのか。 「田村市が話していること以上の内容を当社から申し上げることはできない。ただ、市の調査には引き続き協力していく意向です」 当事者たちの話から原因の大枠が見えてきた中、この間、調査を進めてきた市は事実関係をどこまで把握できたのか。 「各社から個別に聞き取り調査を行い、そこで分かったことを弁護士や一般財団法人ふくしま市町村支援機構に照会し、再び各社に問い合わせる作業を繰り返している。現時点では屋根が歪んだ原因は明確になっておらず、市として公表もしていません」(市こども未来課の担当者) 問題発覚後に開かれた各定例会でも、議員から原因究明に関する質問が相次いだが、市は明言を避けている。そうした中、白石市長が最も踏み込んだ発言をしたのが、2021年12月定例会(12月3日)で半谷理孝議員(6期)が行った一般質問に対する答弁だった。 「屋根の歪みの原因は設計か施工のいずれかにあると思っています。この件については、市長就任前の議員時代から情報収集しており、約1年前から屋根に懸念があるという情報をつかんでいました。もし時間を戻せるなら、施工前に設計者、施工者、発注者の市が話し合い、何らかの設計変更をすべきだったのではないか、と。もしタイムマシンがあれば戻りたいという気持ちです」 「施工者や監理者から話を聞いたところ、当初の図面から昨年(※2020年)12月に設計変更して、屋根の長さを短くしたとのことです。それは、自ずと屋根が歪むのではないか、この構造で持つのか、という投げ掛けがあり、屋根を小さくしたとのことでした。さらに施工前に懸念されていたことが、実際に施工して起きた、これも事実です。こうしたことを含めて、責任の所在がどこにあるのか考えていきたい」 明言こそしていないが、白石市長は設計側に原因があったのではないかと受け止めているようだ。 印象的なのは「もし時間を戻せるなら」「タイムマシンがあれば戻りたい」と繰り返している点だ。その真意について、前出の業者はこんな推測を披露する。 「屋内遊び場は、白石市長が就任前の本田仁一前市長時代に工事が始まり、就任後に歪みが生じた。白石市長からすると、本田氏から迷惑な置き土産を渡された格好。しかし自分が市長になった以上、本音は『オレは関係ない』と思っていても問題を放置するわけにはいかない。議員時代から調査していた白石市長は、そのころから『自分が市長ならこういうやり方でトラブルを回避していた』という思いがあったはず。だから、つい『時間を戻せるなら』と愚痴にも似た言葉が出たのでしょう。見方を変えれば、本田氏への恨み節と捉えることもできますね」 責任追及に及び腰のワケ  状況を踏まえると、歪みが生じた原因は明らかになりつつあると言っていい。にもかかわらず、市が責任追及の行動に移そうとしないのはなぜなのか。 某市議が市役所内の事情を明かしてくれた。 「責任の所在は業者だけでなく市にも一定程度ある。畝森事務所から上がってきた図面を見て、最終的にゴーサインを出したのは市だからです。逆に言うと、図面を見て『この屋根のつくりではマズい』とストップできたのも市だった。そういう意味では、市のチェック体制はザルだったことになり、業者だけを悪者にするわけにはいかないのです」 つまり、白石市長が責任追及に及び腰なのは身内(市職員)を庇うためなのか。某市議は「傍から見るとそう映るかもしれないが、そんな単純な話ではない」と漏らす。 「一つは、市町村役場に技術系の職員がいないことです。技術系の職員がいれば、図面を見た時に『この屋根のつくりはおかしい』と見抜いたかもしれないが、田村市役所にはそういう職員がいない。業者はそれを分かっているから『どうせ見抜けるはずがない』と自分に都合の良い図面を出してくるわけです。結果、図面上の問題は見過ごされ、専門知識を持たない市職員は提出された書類に不備がないか法律上のチェックのみに留まるのです。もう一つは、市職員はおかしいと思っても、上からやれと指示されたらやらざるを得ないことです。屋内遊び場をめぐり当時の本田市長が部下にどんな指示をしたかは分からないが、専門知識を持つ桑原建築事務所や鈴船建設が心配して何度確認しても、市は大丈夫と押し通したというから、担当した市職員は本田氏の強い圧力を受けていたと考えるのが自然でしょう」 こうした状況を念頭に「白石市長は市職員の責任を問うのは酷と逡巡している」(同)というのだ。 「本来責任を問うべきは当時の最終決定者である本田氏だが、本田氏は既に市長を退いており責任を問えない。じゃあ、本田氏から指示された市職員を処分すればいいかというと、それは酷だ、と。もちろん、最終的には市長自らが責任を負うことになるんでしょうが」(同) 事実、白石市長は前出・半谷議員の「これによって生じる責任の全てを業者ではなく、市長が負うと理解していいのか」という質問(2021年12月定例会)にこう答弁している。 「現時点では私が田村市のトップなので、全て私の責任で今後対応してまいります」 考えられる処分は市長報酬の一定期間減額、といったところか。 一方で、白石市長が原因究明を後回しにしているのは、屋内遊び場の完成を優先させているからという指摘もある。 屋内遊び場の事業費が全額交付金でまかなわれていることは前述したが、期限(工期)内に竣工・オープンしないと国から返還を迫られる可能性がある。当初の期限は2021年7月末だったが、市は屋根に歪みが生じた後、交付金の窓口である復興庁と交渉し、期限延長が了承された。しかし、新たに設定した期限(2022年度中の竣工・来年4月オープン)が守られなければ交付金は返還しなければならず、事業費は全額市が負担することになる。 もはや再延長は認められない中、市は2021年12月定例会で屋根の撤去費用1500万円、新しい屋根の葺き替え費用4500万円、計6000万円の補正予算案を計上し議会から承認された。ところが2022年6月定例会に、再び屋内遊び場に関する補正予算案として9000万円が計上された。ウッドショック(木材の不足と価格高騰)への対応や人件費など経費の高騰、さらには木造から鉄筋に変更したことで工程上の問題が生じ、更なる予算が必要になったというのだ。 この補正予算案が認められなければ屋内遊び場は完成しないため、結局、議会から承認されたものの、計1億5000万円は市の一般財源からの持ち出し。すなわち全額交付金でまかない、市の持ち出しはゼロだったはずの計画は、一転、市が1億5000万円も負担する羽目になったのだ。 さらに問題なのは、引き続き工事を行うのが鈴船建設、畝森事務所・アンス共同体と顔ぶれが変わらないことだ(桑原建築事務所は8月時点では未定)。市民からは 「歪みを生じさせた当事者に、そのまま工事を任せるのはおかしい」 と〝歪んだ工事再開〟に疑問の声が上がっている。 「市民の間では、信頼関係が失われている面々に引き続き工事をやらせることへの反発が大きい。『そういう業者たちに任せて、ちゃんとしたものができるのか』と心配の声が出るのは当然です」(前出の業者) 1.5億円の「請求先」  そうした懸念を払拭するため、市では構造設計を専門とするエーユーエム構造設計(郡山市)とコンストラクション・マネジメント契約を締結。同社が市の代理人となって施工者、設計者、設計監理者との仲介に努めていくという。業者間の信頼関係が疑われる中、同社が〝緩衝材の役目〟を果たすというわけ。 「すでに工事が3~4割進んでいる中、業者を変更して工事を再開させるのは難しいし、そもそも他社が手を付けた〝瑕疵物件〟を途中から引き受ける業者が現れることは考えにくい。そこで、同じ業者にトラブルなく仕事を全うさせるため、市はコンストラクション・マネジメントという苦肉の策を導入したのです」(前出の市議) 市としては補助金返還を絶対に避けるため、なりふり構わず施設の早期完成を目指した格好。 ちなみに、エーユーエム構造設計には「それなりの委託料」が支払われているが、これも市の一般財源からの持ち出しだ。 最後に。同じ業者に引き続き工事を任せる理由は分かったが、竣工・オープン後に待ち受けるのは、市が負担した1億5000万円(プラスエーユーエム構造設計への委託料)をどこに請求するかという問題だ。なぜなら、これらの経費は屋根に歪みが生じなければ発生しなかった。本来なら市が負担する必要のない余計な経費であり、その「原因者」に請求するのは当然だ。言うまでもなく「原因者」とは屋根の歪みを生じさせた業者を指す。 今は中途半端になっている原因究明の動きだが、最終局面は2022年度中の完成・2023年4月にオープン後、1億5000万円を請求する際に迎えることになる。 (6/9追記)2023年5月、田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」がオープン 田村市屋内こども遊び場「おひさまドーム」(田村市HPより) おひさまドームオフィシャルサイト あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。真相を究明するため市議会は百条委員会を設置し、1月19日には白石市長に対する証人喚問を行った。しかし、同委員会の追及は甘く、逆に白石市長から安藤ハザマに決めた根拠が示されるなど、これまで明らかになっていなかった事実が見えてきた。 甘かった百条委員会の疑惑追及  この問題は昨年12月号「田村市・新病院施工者を独断で覆した白石市長」という記事で詳報している。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、昨年4月、市はプロポーザルの公告を行い、大手ゼネコンの清水建設、鹿島建設、安藤ハザマから申し込みがあった。同6月、3社はプレゼンテーションに臨み、市幹部などでつくる選定委員会からヒアリングを受けた。その後、各選定委員による採点が行われ、協議の結果、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は、最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をしたのだ。 当初、一連の経過は伏せられていたが、後から事実関係を知った一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに、市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発した。同10月、市議会は真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置を賛成多数で可決した。 百条委員会は委員長に石井忠治議員(6期)、副委員長に安瀬信一議員(3期)が就き、委員に半谷理孝議員(6期)、菊地武司議員(5期)、吉田文夫議員(4期)、遠藤雄一議員(3期)、渡辺照雄議員(3期)、管野公治議員(1期)の計8人で構成された。 百条委員会の役割は大きく二つある。一つは白石市長が安藤ハザマに変更した理由、もう一つはそこに何らかの疑惑があったのかを明らかにすることだが、白石市長はこれまでの定例会や市議会全員協議会で「工事費と地域貢献度を見て安藤ハザマに決めた」という趣旨の説明をしてきた。 つまり①工事費が高いか安いか、②新病院建設を通じて地元にどのような経済効果がもたらされるか、という二つの判断基準に基づき安藤ハザマに決めた、と。ただ、白石市長はこの間、鹿島より安藤ハザマの方が優れている理由を具体的に説明したことはなかった。 本誌の手元に、今回のプロポーザルに関する公文書一式がある。昨年11月、市に情報開示請求を行って入手し、本誌12月号の記事はこれに沿って書いている。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌が注目したのは、選定委員会が最優秀提案者に鹿島を選定するまでの経緯を読み解くことだった。 しかし、今回は見方を変える。白石市長が強調する工事費と地域貢献度に絞り、鹿島と安藤ハザマにどのような違いがあったのかを探る。  最初に断っておくと、プロポーザルに関する公文書を開示請求した場合、最優秀提案者となった業者に係る部分は開示されるが、次点者に係る部分は非開示(黒塗り)となることがほとんどだ。今回も安藤ハザマについてはほぼ開示されたが、鹿島は一部黒塗りになっていた。というわけで、鹿島が市に提案した内容は類推するしかないことをご理解願いたい。 両社の地域貢献策を比較  まずは工事費から。 安藤ハザマが市に提出した積算工事費見積書には45億8700万円と明記されていた。一方の鹿島は黒塗りになっており、金額は不明。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が金額が高かったことが類推できる。「公共工事の受注者に相応しい方を選べ」と言われた時、工事費のみを判断基準にするなら、金額の高い方を選ぶことは考えにくい。だから白石市長は、鹿島より金額が安い安藤ハザマに決めたとみられる。 次に地域貢献度だが、両社はプレゼンテーションで市に次のような貢献策を提案していた。 ◎安藤ハザマ 直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注――▽各工事・労務・材料・資材など市内業者への発注を基本とし、調達業務を進める。▽地域内での調達が難しい工事・品目は安藤ハザマ協力会福島支部加盟各社を中心に県内業者から調達。▽社会情勢・建設動向の変化などで地域内の労務・資材の不足が予測され、工程に影響が及ぶと判断される場合は前述・協力会の体制を活用し、施工に影響が出ないよう対応。▽市内に生産工場を持つ建設資材(生コン、砕石、ガラスなど)の使用を提案する。 事務用品その他についても4000万円以上を市内企業から購入――▽「鉛筆1本、釘1本」も市内企業からの購入を徹底し、建設産業以外への経済効果波及を目指す。▽現場事務員、清掃員、測量、家屋調査、交通誘導員などの役務業務についても市内企業・人材を活用。▽現場紹介のためのウェブページ制作・運営を市内の移住定住者やデザイナーなどから公募し発注する。 市内企業からの調達状況を取りまとめ報告、関係者個人消費3000万円以上――▽引き合いを含めた取引実績を月次ベースで集計し報告。安藤ハザマだけでなく協力会社の実績についても調査し報告。▽工事に関して市内を訪問・滞在する社員・関係者の個人消費も市内を優先するよう周知。▽特に安藤ハザマ社員は単身赴任者・独身者とも工事中の衣食住を市内を拠点とする。▽安藤ハザマおよび協力会社関係者が現場を訪問する際、宿泊・食事の場所などは市内店舗の利用を周知徹底する。 ◎鹿島 地元建設企業の活用に向けた協力体制の構築――▽市商工課や田村地区商工会広域連携協議会と連携し、地元建設企業の特徴や経営状況、業務対応能力などの情報を共有したうえで、本計画における活用方針や選定方法について協議、確認を行う。▽地元建設企業に対して参加意向等をヒアリング調査し、これまで鹿島と取り引きがなかった場合も積極的に業務委託を検討可能とする。 就労環境を整備したうえで地元建設企業に約××円発注(××は黒塗りになっていたため不明)――▽地元建設企業の意向を確認したうえで土木、建築、設備など幅広い工種で1次および2次協力会社に位置付け積極的に発注。▽県内建設企業についても市在住者を多数採用しているところに優先的に発注。▽鹿島の協力会社から市内の建設関連企業20社以上を2次協力会社として常時採用することを確認し、本計画においても活用することについて賛同を得ている。▽他の地元建設関連企業についても参加意向を確認し、活用を図ることで地元経済に貢献する。 建設資機材は地元企業から最大限調達――▽本工事で使用する建設資機材は市内に本社・営業所を置く企業から最大限調達。▽特に木材は田村市森林組合と連携し、地元企業に積極的に発注。▽協力会社より発注する機材は、工事を発注する際の条件書に「資機材調達は市内企業からの調達を最優先とすること」と記載し厳守させる。▽上記条件は協力会社から事前に賛同を得ている。▽工業製品、産出加工品は地元企業より適正価格で最大限購入。▽協力会社に対して加工品を製造する過程で必要な工業製品は地元企業から購入するよう指導する。 両社とも地元業者を下請けとして使うだけでなく、資機材や物品なども地元から調達する考えを示しているが、安藤ハザマは清掃員や交通誘導員などの雇用、出張時の宿泊、個人の飲食、さらには鉛筆1本、釘1本に至るまで細部にわたり地元を優先すると提案している。 とりわけ注目されるのが、地元に落ちる金額だ。 安藤ハザマの提案には「工事費18億円以上」「事務用品その他4000万円以上」「個人消費3000万円以上」とあり、単純計算で19億円近いお金を地元で消費するとしている。 これに対し鹿島の提案は、前述の通り金額が「××円」と黒塗りになっていたほか、地元に発注する各種工事や資機材の想定金額も黒塗りになっていて詳細は分からなかった。 ただ、白石市長が安藤ハザマに決めたということは、鹿島の方が地元に落ちる金額が少なかったことが類推できる。だから白石市長は、安藤ハザマの方が地域貢献度が高いと判断したとみられる。 個別採点では「2位鹿島」  とはいえ、鹿島に関する金額は全て類推に過ぎないので、黒塗りの部分が明らかにならない限り、安藤ハザマの方が工事費が安く、地域貢献度が高かったかは証明できない。また仮にそうだったとしても、百条委員会は納得しないだろう。なぜなら選定委員会の評価シートを見ると、鹿島の方が安藤ハザマより点数が高かったからだ。  上の表は選定委員7人による採点の合計点数だ。各選定委員は「実施体制」(配点20点)、「工程管理」(同15点)、「施工上の課題に係る技術的所見」(同25点)、「地域貢献」(同20点)、「VE管理」(同20点、計100点)の五つの観点から3社を評価し、合計点数はA社(鹿島建設)505点、B社(安藤ハザマ)480点、C社(清水建設)405点という結果だった。 この表は情報開示請求で入手した公文書に記載されていたが、各選定委員がどういう採点を行ったかは全て黒塗りにされ分からなかった。ただ「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」という注意書きがあり、全員が鹿島を1位にしたわけではないことが推察できる。 選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、本誌の取材で残る4人は日大工学部の浦部智義教授、たむら市民病院の佐瀬道郎病院長、同病院の指定管理者である星総合病院事務局の渡辺保夫氏、南相馬市立総合病院の及川友好院長だったことが判明している。 本誌は、黒塗りにされ分からなかった各選定委員の採点結果を独自入手した。それを見ると、及川氏と佐瀬氏は「VE管理」の評価を行っておらず80点満点で採点。両者は病院長という立場から、オブザーバーとして参加していたとみられる。  これを踏まえ7人がどういう採点を行ったかをまとめたのが上の表だ(落選した清水建設は省略)。前述の通り合計点数の結果は1位が鹿島、2位が安藤ハザマだったが、個別の採点を見ると石井、渡辺春信、佐藤、及川の4氏が安藤ハザマを1位、浦部、渡辺保夫、佐瀬の3氏が鹿島を1位にしている。 これ以外にも、個別の採点からは次の五つが読み取れた。 一つは、白石市長が重視した「地域貢献」は浦部氏を除く6人が安藤ハザマを1位にしていること。 二つは、「実施体制」は7人全員が鹿島を1位、「工程管理」は石井氏と及川氏を除く5人が鹿島を1位、「施工上の課題に係る技術的所見」は及川氏を除く6人が鹿島を1位にしており、技術面では鹿島の方が評価が高いこと。 三つは、「VE管理」は石井氏が鹿島を1位、渡辺春信氏と佐藤氏が安藤ハザマを1位、浦部氏と渡辺保夫氏が両社同点としており、評価が分かれていること。 四つは、安藤ハザマを1位にした4人のうち、及川氏を除く3人は市部長であること。 五つは、鹿島を1位にした3人のうち、渡辺保夫氏と佐瀬氏は郡山市の星総合病院と接点があること。これについては少々説明が必要だ。前述の通り、渡辺保夫氏は星総合病院事務局に勤務、佐瀬氏はたむら市民病院長だが、同病院は星総合病院が指定管理者となって運営している。 実は、星総合病院本部を施工したのは鹿島で、現在行われている旧本部の解体工事も鹿島が請け負っている。もっと言うと、浦部氏は元鹿島社長・会長の故鹿島守之助氏が創立した鹿島出版会から『建築設計のためのプログラム事典』、『劇場空間への誘い』(共著)という書籍を出版している。つまり鹿島を1位にした3人は、間接的に鹿島と関係を持っているわけ。 7人の採点が安藤ハザマと鹿島で割れた際、選定委員会ではどちらを最優秀提案者にするか協議を行ったが、渡辺保夫氏が強烈に鹿島を推したという話も伝わっている。ちなみに渡辺氏は元郡山市建設部長で、実兄は元同市副市長の渡辺保元氏。 客観的事実に基づき変更  こうした事実関係を頭に置いて白石市長の証言に耳を傾けてみたい。1月19日に開かれた百条委員会では白石市長の証人喚問が行われたが、安藤ハザマに決めた具体的な理由が白石市長から明かされた。 白石高司市長  証人喚問は公開され、マスコミ関係者2、3人のほか一般市民や議員ら十数人が詰めかけた。これに先立ち別の日に行われた選定委員(市部長)と担当職員の証人喚問では「地域貢献などの評価で白石市長から理解が得られなかった」(市部長)、「選定委員会が出した結論を首長の一存で変更したケースは、東北と関東では皆無」「地域貢献度の点数配分は他の自治体では100点満点中5~15点だが、田村市は20点と高い」(担当職員)などの証言が得られていた。 各委員からの喚問に、白石市長は概ね次のように証言した。 「私が重視したのは①良い病院をつくる、②価格が安い、③限られた予算から地元にいくら還元され、地域経済浮揚につなげられるかという三つで、それが市民の利益につながると考えた」 「両社の工事費を比べると3300万円の差があった(注=情報開示請求で入手した鹿島の積算工事費見積書は黒塗りだったが、そこに書かれていた金額は46億2000万円だったことになる)。委員は3300万円しか違わないと言うかもしれないが、私から言わせると3300万円も違っていた。だから、金額の安い安藤ハザマに決めた」 「地元発注の割合は鹿島が4億円超、安藤ハザマが18億円超。どちらの方が地域貢献度が高いかは一目瞭然だ。選定委員会の議論ではこれを懐疑的に見る意見もあったが、本当に実現できるかどうか疑うのではなく、東証一部上場企業が正式に提案したのだから、市長としてできると判断した」 「選定委員会の採点結果を見ると確かに合計点数は鹿島の方が高い。しかし、各選定委員の採点結果を見ると安藤ハザマが4人、鹿島が3人だったので、人数の多い安藤ハザマに決めた」 「私は選定委員会から『最優秀提案者に鹿島を選定した』と報告を受けた際、『議会からなぜ鹿島を選んだのかと問われた時、きちんと説明できる客観的資料を用意してほしい』と求めたが、そういった資料は用意されなかった。同委員会の議論は一方を妥当とし、一方を妥当じゃないとしたが、そこには客観的な理由付けもなかった。だから客観的に見て工事費が安い、地域貢献度が高い、選定委員7人のうち4人が1位とした安藤ハザマに決めた」 「鹿島を1位とした3人の点数を見ると、安藤ハザマとかなり点差が開いていた。項目によっては0点をつけている委員もいた(注=0点をつけられたのは清水建設)。これに対し安藤ハザマを1位とした4名の点数を見ると、鹿島との点差は小さかった。こうした評価の違いに、妥当性があるのか疑問に思った」 白石市長が工事費と地域貢献度にこだわったのは、市の財政負担を少しでも減らし、地元に落ちる金額を少しでも増やしたかったから、という考えがうかがえる。また客観的事実にこだわったのも、最優秀提案者と正式契約を結ぶには議会の議決を経なければならないため、議会に説明できる材料が必要と考えていたことが分かる。 白石市長の証人喚問は2時間半近くに及んだが、百条委員会の追及は正直甘く感じた。中には勉強不足を感じさせる委員もいて、証人喚問というより一般質問のような光景が続くこともあった。傍聴者からは「こんな追及では真相究明なんて無理」という囁きも聞こえてきた。 「百条委員会のメンバーは、半谷議員を除く7人が2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を応援した。百条委がいくら公平・公正を謳っても、私怨を晴らそうとしているようにしか見えない所以です。そういう見方を払拭するには白石市長に鋭い質問をして、市民に『安藤ハザマに変えたのはおかしい』と思わせることだったが、証人喚問を見る限り委員の勉強不足は明白だった」(ある傍聴者) 注目される百条委の結論  ただ、百条委の追及には的を射ている部分もあった。 プロポーザルの公告には《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》と書かれていた。また選定委員会の設置要項では、順位の一致に至らない場合は多数決で決めるとなっていた。 鹿島を最優秀提案者に選定するに当たっても、当然、このプロセスを踏んでおり、百条委からは「その決定を市長が覆すのはおかしい」「これでは何のために選定委員会をつくったか分からず、不適切だ」という追及が相次いだ。 これに対し、白石市長は「選定委員会の結論通りに市長が決めなければならない、とはどこにも書いていない」「プロポーザルの『結果』とは選定委員会が出した『結論』ではなく、私の『最終判断』に基づくと考えている」と突っぱねたが、こういうやり方を許せば何事も市長の独断がまかり通ることになりかねない。それを防ぐには「選定委員会が最優秀提案者を選定し、それを参考に市長が最終判断する」と公告や規定に明記することが必要だろう。 白石市長は「やましいことは何もない」と百条委の追及を不満に思っているに違いないが、真摯に受け止める部分も少なからずあったことは素直に反省すべきだ。 白石市長にあらためて話を聞くため取材を申し込んだが 「証人喚問で証言したことが今お話しできる全てです」(白石市長) とのことだった。 百条委員会は今後も調査を続け、3月定例会で結果を報告する予定。白石市長は安藤ハザマに決めた理由を明確に示したが、百条委は「白石市長の決断はおかしい」と反論できる明確な理由を探し出せるのか。もし、それが見つからないまま安藤ハザマとの正式契約を議会で否決したら、それこそ市民から「市長選の私怨を晴らすための嫌がらせ」と言われてしまう。 かと言って、シロ・クロ付けることなく「疑わしいが真相は不明」「今後は注意してほしい」などとお茶を濁した結論で幕を閉じたら、何のために百条委員会を設置したか分からない。上げたコブシを振り下ろし辛くなった百条委は難しい立場に立たされている。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

  • 【田村市】白石高司市長インタビュー

     しらいし・たかし 1960年生まれ。田村市(旧船引町)出身。上武大学商学部卒。同市議1期を経て2021年4月の同市長選で初当選を果たした。  ――市内ではコロナの出口戦略に向け、特に観光面で明るい材料が散見されます。 「昨年行った『たむらの桜88撰総選挙』が好評を得、愛称が『田村の美桜88景』に決まり、今年はフォトスタンプラリーを行います。88カ所は1年では回りきれないので、数年かけて回ることでリピーターになっていただく狙いがあります。併せて桜ウオークも開催する予定となっています。 第2回クワガタサミットも開催します。昨年開いた第1回サミットには全国から昆虫好きの方々が集まり大好評をいただきました。全国には昆虫でまちおこしを行っている地域が多くあるので、昆虫の聖地を目指した協議会を立ち上げようと準備を進めています。昆虫は良好な自然環境の象徴という意味で復興をアピールする材料にもなり得るので、いずれは世界サミットを開催したい希望も持っています。 今年はあぶくま洞が開洞50周年を迎え、9月の秋まつりでイベントを行います。また、あぶくま洞は『恋人の聖地』認定を受けていますが、福島市の四季の里も認定され県内2カ所となったので、両施設でさまざまな連携を図り、PRに努めていきたいです」 ――常葉町地内に整備中の東部産業団地に工場進出が決定しました。 「2区画あるうち、昨年1社の進出が決定しました。残り1区画もご検討いただいている企業があるので、早期に決定できるよう引き続き営業活動に注力します」 ――移住・定住に向け田村市・東京リクルートセンターや田村サポートセンターを開設しましたが、その効果は。 「令和3年度は移住相談が86件寄せられ、5世帯12人が市内に移住されました。4年度は12月現在で相談237件、10世帯16人が移住されました。移住希望者の中には仕事を探している方もいるので、市では独自の創業・起業支援としてキッチンカー移住チャレンジ事業を行っています。キッチンカーを無償で用意し、商品開発や出店支援を行うもので、3月には市内のイベントでカレー、ハンバーガー、パンケーキのキッチンカーがデビューします。食材も地元産にこだわり、農産物の6次化につながることも期待しています。 以前、この地域は葉タバコ栽培が盛んでしたが、現在、市場は縮小しています。そこでサツマイモ栽培に力を入れ、一昨年にはサツマイモ貯蔵施設が完成・稼働しました。同施設には東北でも珍しいキュアリング設備があり、サツマイモを貯蔵するだけでなく食味向上も図れるので、昨今のサツマイモブームにのって葉タバコに代わる農産物栽培と6次化につなげていきたいです」 ――たむら市民病院の新病院建設をめぐり、市議会内に百条委員会が設置され調査が続いています(※白石市長へのインタビューは2月13日に行った)。 「公共事業の役割は、社会資本を整備することと地域経済を活性化させることだと思います。この二つの観点から、私は最優秀提案者に安藤ハザマを選びました。 プロポーザル委員会は最優秀提案者に鹿島を選びました。しかし両社の企画案を比べると、安藤ハザマの方が建設費が安く、地域貢献度も高かった。さらに多数決では、委員7人のうち4人が同社を選んでいた。にもかかわらず、その後の話し合いで鹿島が選ばれました。 もちろん、プロポーザル委員会は理由があって鹿島を選んだのでしょうが、市民から直接選ばれた立場である市長としては、市民にとって良い選択、すなわち将来に負担(借金)を残さないためには少しでも建設費が安い方がいいし、多くの地域貢献がもたらされる方がいいと判断しました。また、市民や市議会から『なぜこの業者を選んだのか』と問われた時、明確に説明できる材料がある方を選んだ方が余計な疑いを招かなくて済む、とも考えました。 今回、市議会内に百条委員会が設置され、(同委員会による)証人喚問では事実のみを丁寧に述べさせていただいたつもりです」 ――元職員が逮捕・起訴された贈収賄事件をめぐっては市発注の入札に市内の業者が関与していたことが明らかになりました。 「今回の事態を深刻に受け止め、こういったことが二度と起きないような組織体制を構築すべきと考え、副市長を先頭に綱紀粛正を図っているところです。 ただ、言葉で言うだけでは実現は難しいので、全職員を対象にコンプライアンス研修を行い、全庁が同じ方向を向いて仕事を行えるよう倫理観の向上に努めているところです。また、各所属長に依頼し、職員への聞き取りやシステム・パスワード管理に関する調査を行いました。これにより現状を把握するとともに、改善が必要と認められた部分はその都度改善を行うようにしています」 ――屋根工事などにトラブルが発生し、事業が中断していた屋内遊び場の進捗状況について。 「多くの市民の方にご心配をいただきましたが、建築主体工事は、ほぼ完了し、現在は内装や遊具設置、外構工事などを行っています。3月下旬には完成し、4月末のオープンに向けて運営業者に委託し進めていきます」  ――昨年11月、JR東日本の2021年度収支で磐越東線のいわき―小野新町間が6億9000万円の赤字という報道がありました。 「報道後すぐに小野・三春両町長と話し合いを持ちましたが、沿線自治体という点では郡山・いわき両市や県との協力も不可欠です。ただ、ある一定の区間が赤字だからといって全線が不要かというと、それは乱暴な考え方だと思います。 磐越東線は三十数年前も廃止対象となり、田村青年会議所を中心に存続運動が展開された経緯があります。市内には実に六つの駅が存在しますが、同線は市民にとっても貴重な移動手段であり、地域公共交通体系の根幹となる要素ですので、存続に向けた取り組みをしっかりと行っていきたい」 ――最後に、令和5年度の重点事業について。 「五つの政策枠を設けます。一つ目は豊かなふるさと実現枠。この中には新病院建設、健康長寿サポート事業、ムシムシランド移設などが含まれます。二つ目は地域創生枠。移住定住対策や産業振興、少子化対策などを行います。三つ目は新生活創造枠。昨年立ち上げたオンラインショップの運営やDXの推進などを図っていきます。四つ目は復旧・復興枠。都路町の複合商業施設の建設を進め、林業推進などにも努めます。五つ目は危機管理枠。自主防災組織を構築し、有事の際は機能できる体制にしていきたいです」 田村市のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】

  • 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が〝鶴の一声〟で変更された。市幹部などでつくる選定委員会は、公募型プロポーザルに参加した3社の中から鹿島建設を最優秀提案者に選んだが、白石高司市長の指示で次点者の安藤ハザマに覆ったのである。 〝本田派議員〟が疑惑追及の百条委設置 「新病院の施工予定者が白石市長の指示で変更されたらしい」 そんなウワサを田村市内の自民党関係者から聞いたのは、2022年7月に行われた参院選の前だった。  新病院とは、田村地方の医療を支えるたむら市民病院(病床数32)の後継施設を指す。公には6月30日に市のホームページで「新病院の施工予定者選定に係る公募型プロポーザルの最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者は鹿島建設」と発表され、7月4日付の福島建設工業新聞にも「新病院の施工予定者に安藤ハザマ」という記事が掲載された。 造成工事を終えた新病院予定地  ところが実際の審査では、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選ばれていたというのだ。  「2022年6月、市幹部などでつくる選定委員会が白石市長に『審査の結果、鹿島に決まった』と報告した。しかし白石市長が納得せず、次点の安藤ハザマに変更するよう指示したというのです。選定委員会は『何のために審査したか分からない』と不満に思ったが、上から言われれば従うしかない」(市内の自民党関係者)  一度聞いただけではまさかとしか思えない話。だが、それはウワサでもまさかでもなく、事実だった。  市長の指示で施工予定者が突然覆される――そんなかつての〝天の声〟を彷彿とさせる出来事はなぜ起きたのか。  たむら市民病院は、同市船引町の国道288号沿いで診療を行っている。もともとは医療法人社団真仁会が大方病院という名称で運営していたが、院長が急死したため2019年7月に市が事業継承、公的医療機関として生まれ変わった。診療科目は内科、人工透析内科、外科など10科。運営は指定管理者制度で公益財団法人星総合病院(郡山市)に委託している。  市立病院の設置は、2005年に旧5町村が合併した田村市にとって悲願だった。しかし、事業継承した時点で建物の老朽化、必要な病床数の確保、救急受け入れなどの課題を抱えていた。そこで市は2020年3月に新病院建設基本計画を策定、現在地から北東1・3㌔の場所(船引町船引字屋頭清水地内)に新病院を建設する方針を打ち出した。  2020~21年度にかけて予定地の造成を行い、その後は22年度着工、24年度開院というスケジュールが組まれたが、21年4月の市長選で状況が変化した。当時現職の本田仁一氏を破り初当選した白石高司市長が、公約に本田市政のもとで始まった公共工事の見直し(事業検証)を掲げたことから、新病院建設も一時中断を余儀なくされたのである。  その後、関係部局の職員たちが4カ月にわたり事業検証を行い、最終的に「新病院は市民にとって必要」と判断されたため、計画は予定より1年遅れて再始動した。2022年3月には建設基本設計概要書が公表され、新病院の具体像が示された。  問題の公募型プロポーザルはこの後に行われるが、ここからは、本誌が情報開示請求で市から入手した公文書に基づいて書いていく。  新病院の概要は病床50床、鉄筋コンクリート造地上4階建て、建築面積2790平方㍍、延べ面積6420平方㍍。このほか厨房施設と付属棟、250台分の駐車場を整備し、工期は2023年7月から25年1月。想定事業費は36億円程度となっている。  市は建設コスト縮減と工期短縮を図るため、施工者が設計段階から技術協力を行うECI方式の採用を決定。4月19日にプロポーザルの公告を行い、清水建設、鹿島、安藤ハザマから参加申し込みがあった。同28日には一次審査が行われ、3社とも通過した。  続く二次審査は6月25日に行われ、各社のプレゼンテーションと選定委員会によるヒアリング、さらには各委員による採点で最優秀提案者と次点者が選定された。 最高評価を受けていた鹿島  まずは評価が一目で分かる採点から見ていく。別表は選定委員7人による評価シートの合計だ。  選定委員会は、委員長を石井孝道氏(市総務部長)が務め、委員には渡辺春信氏(市保健福祉部長)、佐藤健志氏(市建設部長)のほか4人が就いた。市は部長以外の名前を公表していないが、そのうちの3人は南相馬市立総合病院の及川友好院長、たむら市民病院の指定管理者である星総合病院の担当者、日大工学部教授だったことが判明している。残り1人は不明。  その7人による採点の合計を見ると(各自の採点結果は開示された公文書が黒塗りで不明)、A社は505点、B社は480点、C社は405点となっている(満点は700点)。アルファベット表記になっているが、公文書を読み進めるとA社は鹿島、B社は安藤ハザマ、C社は清水建設であることが分かり「評価シートに基づく順位は委員間で異なった」と書かれている。  では、各委員の評価ポイントはどうだったのか。公文書には当時の発言順に次のように記されていた。  「A社は丁寧な技術提案や書類のつくり込みで好感が持てた。ヒアリングでのやり取りからもネガティブな要素は感じられず、安心して任せられると感じた。C社にはA社と全く逆の印象を持った。書類のつくり込みが粗いばかりか、ヒアリングでも発注者・審査員に対し礼を失する発言が多く、誠実さが感じられなかった。B社は様々な提案を盛り込んでいるが、果たしてそれがうまく収まるのか不安を感じた。工期に余裕がない点もネガティブ要素だった」(黒塗りで発言者不明)  「地域貢献に関して、書類上の金額と現実性が乖離している提案が目立った。特にB社の発注予定額は経験的に実現不可能と受け止めている。技術力に関しては提案者ごとにかなり差があると感じた。順位付けをするならA社<B社<C社の順だが、メンテナンス体制も含めるとA社の有意性がより際立つと感じた」(同)  「技術面では3社とも特に問題ないだろうと感じた。その中でも、A社は一番丁寧に提案書がつくられていた。地域貢献に関しては、その是非や実現性を判断するための情報が不足している」(佐藤委員)  「技術的な優劣は判断できない。市の姿勢として地域貢献を前面に出していただく必要がある」(渡辺委員)  「ここまでの委員の発言に同意。地域貢献に関しては、B社提案はリップサービスが過ぎたように感じる」(黒塗りで発言者不明)  「技術的な優劣は判断できないが、A社の提案は書類・説明ともに好印象だった。しっかりとした病院を確実に建てることが第一で、地域貢献はその次に考えること。地域貢献の配点が大きいため、個人的な評価と点数が一致していない。B社が提示した五つの課題は市の感覚とずれているように感じた」(石井委員長)  総体的に、A社(鹿島)の評価が高く、C社(清水建設)は厳しい意見が多く聞かれた。B社(安藤ハザマ)の提案も各委員が半信半疑に捉えている様子がうかがえる。  ただ、採点結果と評価ポイントのすり合わせを行っても順位の一致に至らなかったため、規程に基づき多数決を行った結果、A社4人、B社1人、C社0人となり、最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマが選定された。  この結果を選定委員会事務局が白石市長に報告し、決裁後、速やかに各社に通知、市のホームページでも公表する手筈だったが、公文書(6月30日付の発議書)には次のような驚きの記述があった。  《6月28日及び同30日に実施した市長報告において、市長から本件プロポーザルにおいては地域貢献と見積額が重要な判断基準であるため、当該提案において最も有利な条件を提示している㈱安藤・間東北支店が次点者という審査結果は妥当性を欠くため、該社を最優秀提案者として決定するよう指示がありました》  白石市長から安藤ハザマに変更するよう指示があったと明記されていたのだ。  最終的にこの変更は6月30日に了承され、安藤ハザマには《厳正に審査した結果、御社の提案が最も評価が高く、本事業の最優秀提案者として選定されましたので通知いたします》、鹿島には《御社の提案が2番目に評価が高く、本事業の次点者として選定されました》という通知が白石市長名で送られた。市のホームページでも同日中に公表された。「厳正に審査」が白々しく聞こえるのは本誌だけだろうか。 百条委設置の経緯  前述した建設工業新聞の記事はこの直後に書かれたが、当時は最優秀提案者が覆された事実は公になっていなかった。ただ市議会では、安藤ハザマを最優秀提案者に選定したことに「別の視点」から疑問の声が上がっていた。  「6月に市役所ホールの吹き抜けの窓から雨漏りしている個所が見つかったが、市役所を施工したのが安藤ハザマと地元業者によるJVだったため、議員から『そんな業者に新病院建設を任せて大丈夫か』という懸念が出たのです」(市内の事情通)  市役所は2014年12月に竣工したが、事情通によると落札金額は安く抑えられたものの、その後、追加工事が相次ぎ、結局、事業費が膨らんだ苦い経験があるため、  「議員の間には『今回も安藤ハザマは同様の手口で事業費を増やしていくのではないか』という疑いが根強くある」(同)  これ以外にも、安藤ハザマは「過去に指名停止を受けている」「市に除染費用を水増し請求した」などの不信感が持たれている。ただ同様のトラブルは、鹿島や清水建設など他のゼネコンでも見られるので、安藤ハザマだけを殊更問題視するのはバランスを欠く。  「そうこうしているうちに『最優秀提案者は、本当は鹿島だったらしい』という話が議員にも伝わり、9月定例会で選定経過に関する質問が行われたが、白石市長は『地域貢献度も含め適正に審査した』と曖昧な答弁に終始したため、過半数の議員が反発する事態となった」(同)  ウワサは次第に尾鰭をまとい「〇〇社が白石市長に頼んで安藤ハザマに変わったらしい」「実際の工事は白石市長と同級生の××社が請け負うようだ」「白石市長は安藤ハザマからいくらもらったんだ」等々、真偽不明の話まで囁かれるようになった。白石市長が明確な答弁を避けたことが「何か隠している」という印象を与えたわけ。  9月定例会が終わりに近付くころには、一部議員の間で「真相を究明するには地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)を設置するしかない」という話が持ち上がり、10月27日に開かれた臨時議会で議員発議による設置が正式決定された。  《市は安藤ハザマを最優秀提案者にした理由の説明を避けてきたため、一部議員が反発していた。白石市長は臨時議会開会前の議員全員協議会で鹿島が選定委員会で最も点数が高かったと認め、「積算工事費や地域貢献計画などを比較し、安藤ハザマにした」と説明したが、採決の結果、賛成9、反対8で百条委設置が決まった》(福島民報10月28日付)  田村市議会は定数18。採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛成・反対の内訳は別掲の通りだが、賛成した9人のうち、半谷理孝議員を除く8人は2021年4月の市長選で白石市長に敗れた本田仁一氏を支援していた。  ちなみに百条委の委員も、賛成した9人から大和田議員を除いた8人全員が就き、反対した8人からは誰も就かなかった。そのため「市長選の私怨が絡んだ面々で正しい調査ができるのか」と言われているが、委員に就いた議員からは「反対した議員には『調査の公平・公正を担保するため、そちら(反対)の議員も百条委に加わるべきだ』と申し入れたが断わられた」という不満が漏れている。  反対した8人は白石市長と距離が近いが、話を聞くと「百条委設置に反対したのに委員に就くのは筋が通らないと思った」と言う。しかし筆者は、本気で真相を究明するなら設置の賛否にこだわらず、議会全体で疑惑の有無を探るべきと考える。そうでなければ、せっかくつくった百条委が「反白石派の腹いせに利用されている」とねじ曲がった見方をされかねないからだ。  市保健福祉部の担当者はこう話す。  「百条委が設置されたことは承知しているが、具体的な動きがない限り市側はアクションを起こせないので、今後どうなるかは全く想像がつかない」  最後に、白石市長が安藤ハザマに変更した際に重視したとされる工事費や地域貢献度については市から入手した公文書にこんな記述がある。  例えば安藤ハザマは▽直接工事費の60%相当・工事費18億円以上を市内業者に発注、▽事務用品その他も4000万円以上を市内企業から購入、▽市内における関係者個人消費は3000万円以上。さらに概算工事費は45億8700万円と提示している。  一方、鹿島については市内業者への発注額、市内企業からの建設資機材購入額、概算工事費とも黒塗りされ詳細は不明だが、白石市長に次点者に追いやられたということは、いずれの金額も安藤ハザマより劣っていたことが推察される。 開院遅れで市民に不利益  だが、プロポーザルへの参加者を公募した際の公文書(4月19日付)にはこのように書かれている。  《選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する》  選定委員会が最も高く評価した提案者を、市長の〝鶴の一声〟で変更していいとは書かれていない。白石市長は「工事費や地元貢献度の観点から安藤ハザマの方が優れており、やましい理由で変更したわけではない」と言いたいのだろうが、ルールに無い変更を独断で行った結果、疑惑を招き、市政を混乱させたことは事実であり、真摯に反省しなければならない。  何より新病院建設は前述した事業見直しで一時中断しており、今回の百条委でさらに遅れる可能性が出ている。高齢者や持病のある人にとって新病院は待望の施設なのに、開院がどんどん後ろ倒しになるのは不利益以外の何ものでもない。白石市長はたとえやましいことが無かったとしても、安藤ハザマに変更した理由を明確に示さない限り、市議会(百条委)は納得しないし、市民からも理解を得られないだろう。  白石市長は百条委設置を受け「プロポーザルに参加した業者の技術に差はなく、市民の利益を十分検討し最終決定した。調査には真摯に対応したい」とコメントしたが、今後の百条委で何を語るのか、それを聞いて百条委がどのように判断するのか注目される。 田村市ホームページ この記事を掲載している政経東北【2022年12月号】をBASEで購入する あわせて読みたい 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠