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  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

    【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠

  • 【田村市百条委】呆れた報告書の中身

     田村市が建設を計画している新病院の施工予定者が、白石高司市長によって鹿島建設から安藤ハザマに覆された問題。その経緯等を究明するため市議会内に設置された百条委員会は3月10日、調査結果をまとめた報告書を提出した。しかし、その中身は究明と呼ぶには程遠いもので、市民からは「百条委を設置した意味があったのか」と疑問視する声も上がっている。 「嫌がらせの設置」に専門家が警鐘 新病院予定地  この問題は本誌昨年12月号、今年2月号でリポートしている。 市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は施工予定者選定プロポーザルを行い、市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募した清水建設、鹿島建設、安藤ハザマの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、この選定に納得しなかった白石市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と、選定委員会の結果を覆す決定をした。 白石高司市長  この変更は当初伏せられ、マスコミ等には「最優秀提案者は安藤ハザマ」とだけ伝えられた。しかし、次第に「実際は鹿島だった」との事実が知れ渡ると、一部議員が「選定委員会が鹿島と決めたのに市長の独断で安藤ハザマに覆すのはおかしい」と猛反発。昨年10月、真相究明のため、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)の設置が賛成多数で可決された。 田村市議会の定数は18。百条委設置の賛否は別掲①の通りで、大橋幹一議長(4期)は採決に加わらなかった。賛否の顔ぶれを見ると、賛成した議員は1期生を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し(半谷議員は白石氏を支援)、反対した議員は白石氏を支える市長派という色分けになる。 賛成(9人)反対(8人)石井 忠治(6期)猪瀬  明(6期)半谷 理孝(6期)橋本 紀一(6期)大和田 博(5期)石井 忠重(2期)菊地 武司(5期)佐藤 重実(2期)吉田 文夫(4期)二瓶恵美子(2期)安瀬 信一(3期)大河原孝志(1期)遠藤 雄一(3期)蒲生 康博(1期)渡辺 照雄(3期)吉田 一雄(1期)管野 公治(1期)  この時点で、百条委は「白石市長への意趣返し」と見られても仕方がない状況に置かれたが、賛成した9議員には同情する余地もあったことを付記しておく。9議員は双方から委員を出さないと調査の公平・公正性が保てないとして、8議員に百条委委員の就任を打診したが「市長を調査するのは本意ではない」と拒否されたため、委員は別掲②の顔ぶれにならざるを得なくなったのだ。 ② 百条委の構成石井 忠治(委員長)安瀬 信一(副委員長)管野 公治遠藤 雄一吉田 文夫菊地 武司半谷 理孝渡辺 照雄  そんな百条委が目指したのは「白石市長が独断で安藤ハザマに覆した理由は何か」を暴くことだった。 実は、白石市長は当初、守秘義務があるとして変更理由を明かそうとしなかった。それが「何か隠しているのではないか」と憶測を呼び「疑惑の追及には百条委を設置するしかない」とのムードにつながった。 ところが百条委設置が可決される直前に、ようやく白石市長が「安藤ハザマの方が鹿島より施工金額が安く、地域貢献度も高かった」と説明。「安藤ハザマと裏で個人的につながっているのではないか」と疑っていた9議員は拍子抜けしたものの、拳を振り上げた手前、百条委設置に突き進むしかなくなったのだ。 2月号でもリポートした百条委による白石市長への証人喚問では、安藤ハザマに覆した理由が更に詳細に語られた。具体的には①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だったが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった、④市民や議会から、なぜ安藤ハザマに変更したのかと問われたら「①~③の客観的事実に基づいて変更した」と答えられるが、なぜ鹿島に決めたのかと問われたら客観的事実がないので説明できない。 本誌は先月号に白石市長の市政インタビューを掲載したが、白石市長はこの時の取材でも安藤ハザマに変更した正当性をこう話していた。 「選定委員の採点を個別に見たら7人のうち4人が安藤ハザマに高い点数を付けていた。多数決で言えば4対3なので、本来なら安藤ハザマが選ばれなければならないのに、なぜか話し合いで鹿島に変わった。客観的事実に基づけば、安藤ハザマに決まるべきものが決まらなかったのは不可解。だから、選定委員会は鹿島としたが、私は市長として、市民に有益な安藤ハザマに変更した。何より動かし難いのは、工事費が安く地域貢献度は14億円も差があったことです。市民のために施工者を変更しただけなのに、なぜ問題視されなければならないのか」 白石市長は言葉の端々に、百条委が設置されたことへの違和感と、自分は間違ったことをしていないという信念を滲ませていた。 当初から設置の意義が薄れていた百条委だが、それでも昨年10月に設置されて以降10回開催され、その間には選定委員を務めた市幹部職員3人、一般職員4人、白石市長に対する証人喚問を行ったり、市に記録や資料の提出を求めるなどした。こうした調査を経て今年3月10日、市議会に「調査結果報告書」が提出されたが、その中身は案の定、真相究明には程遠い内容だった。 以下、報告書の「総括」「結論」という項目から抜粋する。 《選定委員会の決定によることなく最終決定するのであれば、選定委員会における審査方法(審査過程)などは全く必用とせず、白石市長が最高責任者として何事も決定すればよいこととなり、公平、公正など名ばかりで、職権を乱用するが如く、白石市長の思いの中で物事がすべて決定されてしまう》 《白石市長の最終決定には「施工予定者選定公募型プロポーザルの公告第35号」で、広く施工予定者を公募した際に、最優秀提案者の選定方法を示した「選定委員会において技術提案及びプレゼンテーション等を総合的に審査し、最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する」とした選定方法が反映されておらず、このことは、公募に応じて参加した各参加事業者に対して、結果として偽った(嘘をついた)選定方法で最終決定がなされたこととなり、参加事業者に対する裏切り行為と言われても弁明の余地がない》 《議会への事実説明の遅れは、白石市長が選定委員会の選定結果を覆した事実を伏せたい(隠したい)との考えが、根底にあった》 《選定委員会の結果を最終的に覆した(中略)今回の対応は「そうせざるをえない何らかの特別な理由が白石市長にあったのではないか」と疑われても仕方のない行動であり、このような行動は置かれている立場を最大限に利用した「職権の乱用」と言わざるをえない》 あまりに不十分な検証 百条委の報告書  そのうえで、報告書は「白石市長の一連の行動に対し猛省を促す」と指摘したが、一方で「告発する状況にはない」と結論付けた。要するに法的な問題は見られなかったが、白石市長のやり方は独善的で、強く反省を求めるとしたわけ。 この結果に、なるほどと思う人はどれくらいいるだろうか。 特に違和感を覚えるのは、せっかく行った証人喚問でどのような事実が判明し、どこに問題があったのかが一切触れられていないことだ。これでは各証人からどのような証言を得られたか分からず、白石市長の証言と照らし合わせて誰の言い分に妥当性があるのか、報告書を見た第三者の視点から検証できない。そもそも、百条委が妥当性を検証したかどうかの形跡も一切読み取れない。 市幹部職員以外の選定委員(有識者)4人を証人喚問しなかったことも疑問だ。市幹部職員3人だけでなく彼らの見解も聞かなければ、選定委員会が鹿島に決めた妥当性を検証できないのに、それをしなかったのは、白石市長が安藤ハザマに決めた妥当性を検証する気がない証拠と言われても仕方がない。 挙げ句、前記抜粋を見ても分かるように「白石市長憎し」とも取れる言葉があちこちに散見される始末。これでは真相究明に努めたというより「やっぱり意趣返しか」との印象が拭えない。市内には白石市長の市政運営に批判的な人もいるわけで、百条委はその人たちの期待に応える役割もあったはずだ。 ある議員によると、報告書は市議会に提出される10分前に全議員に配られ、その後、内容に対する質疑応答に入ったため、中身を吟味する余裕がないまま質問せざるを得なかったという。「せめて前日に内容を確認させてもらわないと突っ込んだ質問ができない。中身が薄いから吟味させたくなかったのではないか」(同)との指摘はもっともだ。 報告書に対する不満は、意外にも一部の百条委委員からも聞かれた。委員ですら報告書の中身を見たのは提出当日で「報告書に書かれていることは委員の総意ではない」との声すらあった。百条委は報告書の提出をもって解散されたが、委員の中には「年度をまたいでも調査を続けるべきだ」と百条委の継続を求める意見もあった。委員たちは反市長という点では一致していたが、一枚岩ではなかったようだ。 薄れた設置の意義 期待に応えられなかった百条委  百条委委員長を務めた石井忠治議員に報告書に関する疑問をぶつけると、率直な意見を述べた。   ×  ×  ×  × ――正直、報告書は中途半端だ。 「百条委設置の直前になって、白石市長が(安藤ハザマに変更した)理由を話し出した。今まで散々質しても言わなかったのに、このタイミングで言うかというのが正直な思いだった。おかげで百条委は、スタート時点で意義が薄れた。ただ、安藤ハザマと何らかのつながりがあるのではないかというウワサはあったので、調査が始まった」 ――で、調査の結果は? 「ウワサを裏付けるものは見つからなかった。そうなると、有識者も招いてつくった選定委員会が鹿島に決めたのに、白石市長の独断で覆すのはいかがなものかという部分に焦点を当てるしかなくなった。そうした中、こちらが白石市長の独断を厳しく批判し、白石市長が間違ったことはしていないと言い張る平行線の状況をつくったことは、見ている人に議論が噛み合っていないと映ったはずで、そこは反省しなければならない。ただ、プロポーザルを公募した際、3社には『最も評価の高い提案者を最優秀提案者に選定する』と示したわけだから、それを白石市長の独断で覆したことは明確なルール違反だと思う」 ――百条委設置から報告書提出までの5カ月間は何だったのか。 「そもそも新病院建設は前市長時代に計画されたが、白石市長が『第三者委員会で検証する』という選挙公約を掲げた。そして市長就任後、第三者委員会ではなく幹部職員による検証が半年かけて行われ、建設すべきという結論が出された。その結論自体に異論はないが、計画を半年遅らせた結果、資材や物価が高騰し事業費が膨らんだのは事実で、そこは責任を問われてしかるべきだ」 ――有識者の選定委員4人に証人喚問を行わなかったのはなぜ? 「行う準備はしていた。ただ、白石市長が安藤ハザマに変更した際、市幹部職員がそのことを有識者の選定委員に伝えると『市長がそう言うなら仕方がない』と変更を受け入れたというのです。もし『それはおかしい』と言う人がいたら、その人を証人喚問に呼んでおかしいと思う理由を尋ねるつもりだったが、全員が受け入れた以上、呼び出して意見を求めても意味がないと判断した」 ――報告書は誰が作成したのか。 「委員長の私、副委員長の安瀬信一議員、議会事務局長と職員、総務課長で協議して作成した。他の委員には内容について一任を取り付け、その代わり報告書に盛り込んでほしいことを各自から聞き取りした」 ――議員からは、報告書を吟味する暇もなく質疑応答に入ったため、事前に内容を確認させてほしかったという声があった。 「前日に報告書を配布することも考えたが、検討した結果、当日ギリギリになった。質疑応答について言わせてもらえば、百条委設置に反対した議員は委員就任を拒んだのだから、彼らには報告書に意見を述べる資格はない。もし意見があるなら委員に就任し、百条委内で堂々と言うべきだった。それもせずに『偏った調査だ』などと批判するのは筋が通らない。とはいえ傍聴者もいる中で何も述べさせないわけにはいかないので、質問は受け付けるけど意見は聞かないことで質疑応答に臨んだ」 ――百条委委員の中にも、報告書を提出して解散ではなく、引き続き調査を行うべきという声があった。 「それをしてしまうと、ただでさえ遅れている新病院建設はさらに遅れ、市民に不利益になる。新病院の工事費はプロポーザルの時点では四十数億円だったが、資材や燃料などの高騰で60億円になるのではないかという話が既に出ている。これ以上遅らせることは避けるべきだ」   ×  ×  ×  × 石井議員の話からは、でき得る範囲の調査で白石市長に「そのやり方は間違っている」と気付かせ、反省を促そうとした苦労が垣間見えた。ただ、百条委設置の意義が薄れたことを認めているように、47万円余の税金(調査経費)を使って5カ月も調査し、成果が得られたかというと疑問。これならわざわざ百条委を設置しなくても、それ以外の議会の権限で対応できたはずだ。 地方自治論が専門の今井照・地方自治総合研究所主任研究員は百条委のあるべき姿をこう解説する。 「百条委は検査、監査、参考人、公聴会、有識者への調査依頼など通常の議会の仕組みでは調査が難しい案件について執行機関以外の関係者や団体等に出頭、証言、記録の提出を半ば強制的に求める必要がある時に設置されます。例えば未確認情報があり、それを百条委の場で明らかにすることができれば目的達成と言っていいと思います」 「品位を落としかねない」 今井照・地方自治総合研究所主任研究員  この解説に照らし合わせると、市役所にしか証人喚問や記録の提出を求めず、未確認情報を明らかにできなかった今回の百条委は設置されるべきではなかったことになる。 「検査や監査など議会が備えている機能にも強い権限はあるので、そこで解決できるものは解決した方がいい。その中で違法行為が確認できれば、告発することも可能な場合があるのではないか」(同) そのうえで、今井氏はこのように警鐘を鳴らす。 「百条委は時に嫌がらせに近いものも散見されるが、そういう目的で設置するのは議会の品位を落としかねないので注意すべきだ」(同) 筆者は、白石市長が100%正しいと言うつもりはなく、反省する部分もあったと思うが、報告書に書かれていた「猛省」は百条委にも求められるということだろう。 白石市長に報告書を読んだ感想を求めると、こうコメントした。 「調査の趣旨は『市長から十分な説明を得られなかったため』だが、報告書には私が証言した具体的な経緯や事実、判断に至った理由について記載がなかった。今回の判断は市の財政負担や地域経済への影響を私なりに分析した結果だが、最も重要なのは2025年5月の移転開院に向けて事業を進めることなので、議会の理解を得ながら取り組みたい」 今後のスケジュールは、早ければ6月定例会に安藤ハザマとの正式契約に関する議案が提出され、議会から議決を得られれば契約締結、工事着手となる見通しだ。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠