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贈収賄事件

  • 福島県警の贈収賄摘発は一段落!?

    福島県警の贈収賄摘発は一段落!?【赤羽組】【東日本緑化工業】

     県発注工事を巡る贈収賄事件は8月、県中流域下水道建設事務所元職員と須賀川市の土木会社「赤羽組」元社長に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。9月13日には、公契約関係競売入札妨害罪に問われている大熊町の法面業者「東日本緑化工業」元社長に判決が下される。県警による贈収賄事件の検挙は、昨年9月に田村市の元職員らを逮捕したのを皮切りに市内の業者に及び、さらにその下請けに入っていた東日本緑化工業の元社長へと至った。業界関係者は、県警が「一罰百戒」の目的を達成したとして、捜査は一区切りを迎えたとみている。 「一罰百戒」芋づる式検挙の舞台裏 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  贈賄罪に問われた赤羽組(須賀川市)元社長の赤羽隆氏(69)には懲役1年、執行猶予3年の有罪判決。受託収賄罪などに問われた県中流域下水道建設事務所元職員の遠藤英司氏(60)には懲役2年、執行猶予4年の他、現金10万円の没収と追徴金約18万円が言い渡された。公契約関係競売入札妨害罪に問われている東日本緑化工業(大熊町)元社長の坂田紀幸氏(53)の裁判は、検察側が懲役1年を求刑し、9月13日に福島地裁で判決が言い渡される予定。  本誌は昨年から、田村市や県の職員が関わった贈収賄事件を業界関係者の話や裁判で明かされた証拠をもとにリポートしてきた。時系列を追うと、今回の県発注工事に絡む贈収賄事件の摘発は、田村市で昨年発覚した贈収賄事件の延長にあった。  福島県の発注工事では、入札予定価格と設計金額は同額に設定されている。一連の贈収賄事件の発端は設計金額を積算するソフトを作る会社の営業活動だった。積算ソフト会社は自社製品の精度向上に日々励んでいるが、各社とも高精度のため製品に大差はない。それゆえ、各自治体が発注工事の設計金額の積算に使う非公表の資材単価表は、自社製品を優位にするために「喉から手が出るほど欲しい情報」だ。  2021年6月、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、同町内の建設業「丹野土木」の男性役員(50)、そして仙台市青葉区の積算ソフト会社「コンピュータシステム研究所」の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報同7月1日付より。年齢、役職は当時、紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同紙の同年12月28日付の記事によると、この3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、仙台地裁から有罪判決を受けた。判決では、同研究所の社員が丹野土木の役員と共謀し、町職員に単価表の情報提供を依頼、見返りに6回に渡って商品券計12万円分を渡したと認定された。1回当たり2万円の計算だ。  同紙によると、宮城県警が川崎町の贈収賄事件を本格捜査し始めたのは2021年5月。田村市で同種の贈収賄事件(詳細は本誌昨年12月号参照)が摘発されたのは、それから1年以上経った翌22年9月だった。  福島県警が、田村市内の土木会社「三和工業」役員のA氏(48)と、同年3月に同市を退職し民間企業に勤めていたB氏(47)をそれぞれ贈賄と受託収賄の疑いで逮捕した(年齢、肩書きは当時)。2人は中学時代の同級生だった。同研究所の営業担当社員S氏が「上司から入手するよう指示された単価表情報を手に入れられなくて困っている」とA氏に打ち明け、A氏がB氏に情報提供を働きかけた。   川崎町の事件と違い、同研究所社員は贈賄罪に問われていない。しかし、同研究所が交際費として渡した見返りが商品券で、1回当たり2万円だったように手口は全く同じだ。  裁判でB氏は、任意捜査が始まったのは2022年の5月24日と述べた。出勤のため家を出た時、警察官2人に呼び止められ、商品券を受け取ったかどうか聞かれたという。警察が同研究所を取り調べ、似たような事件が他でも起きていないか捜査の範囲を広げたと考えるのが自然だろう。  ある業界関係者は「県警は田村市の元職員を検挙し、元職員とつながりのあった業者、さらにその先の業者というように芋づる式に捜査の手を伸ばしたのだろう」とみている。  どういうことか。鍵を握るのは、田村市の贈収賄事件と、今回の県発注工事に絡む事件のどちらにも登場する市内の土木会社「秀和建設」である。  田村市の一連の贈収賄は、三和工業が贈賄側になった事件と、秀和建設が贈賄側になった事件があった。秀和建設のC社長(当時)は、市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6~9月に行われた入札で、当時市職員だったB氏に設計金額を教えてもらい、見返りに飲食接待したと裁判所に認定された(詳細は本誌1月号と2月号を参照)。  県発注工事をめぐる今回の事件では、県中流域下水道建設事務所職員(当時)の遠藤氏から設計金額を聞き出し元請け業者に教えたとして、東日本緑化工業社長(当時)の坂田氏が公契約関係競売入札妨害罪に問われている。その東日本緑化工業が設計金額を教えた元請け業者が秀和建設だった。  秀和建設は坂田氏を通じて設計金額=予定価格を知り、目当ての工事を確実に落札する。坂田氏が社長を務めていた東日本緑化工業は、その下請けに入り法面工事の仕事を得るという仕組みだ。  坂田氏と秀和建設のつながりは、氏が以前勤めていた郡山市の「福島グリーン開発」が資金繰りに困っていた時、秀和建設が援助したことから始まった。福島グリーン開発は2003年に破産宣告を受けたが、坂田氏は東日本緑化工業に転職した後、秀和建設との関係を引き継いだ。  坂田氏は今年8月に行われた初公判で「取り調べを受けてから1年近くになる」と述べているので、坂田氏に任意の捜査が入ったのは昨年8月辺り。田村市元職員のB氏が秀和建設のC氏から見返りに接待を受けたとして逮捕されたのが昨年9月、C氏が在宅起訴されたのが同10月だから、秀和建設と下請けの東日本緑化工業の捜査は呼応して行われていたと考えられる。  捜査はさらに県職員と赤羽組に波及する。坂田氏と県中流域下水道建設事務所職員だった遠藤氏、赤羽組元社長の赤羽氏は3人で会食する仲だった。警察が坂田氏を取り調べる中で、遠藤氏と赤羽氏の関係が浮上したと本誌は考える。裁判では、遠藤氏の取り調べが始まったのが今年3月と明かされたので、秀和建設→坂田氏→遠藤氏・赤羽氏の順に捜査が及んだのだろう。 杓子定規の「綱紀粛正」に迷惑  芋づる式検挙をみると、不正は氷山の一角に過ぎず、さらに摘発が進むのではと、入札不正に心当たりのあるベテラン公務員と業者は戦々恐々している様が想像できるが、前出の業界関係者は「『一罰百戒』の効果は十分にあった。県警本部長と捜査2課長も今年7〜8月に代わったので、継続性を考えると捜査は一段落したのではないか」とみる。  とりわけ、県に与えた効果は絶大だったようだ。「綱紀粛正」が杓子定規に進められ、業者からは県に対しての不満が漏れている。  「県土木部の出先機関に打ち合わせに出向くと職員から『部屋に入らないで』『挨拶はしないで』と言われる。疑いを招くような行動は全て排除しようとしているのだろうが、おかげで十分なコミュニケーションが取れず、良い仕事ができない。現場の職員が判断するべき些細な内容もいちいち上司に諮るので、1週間で終わる仕事が2週間かかり、労力も時間も倍だ。急を要する災害復旧工事が出たら、一体どうなるのか」(前出の業界関係者)  この1年間で、県土木部では出先機関の職員2人が贈収賄事件に絡み有罪判決を受けた。県職員はまさに羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹いている。県は不祥事防止対策として、警察官や教員を除く職員約5500人に「啓発リーフレット」を配り、コンプライアンス順守を周知するハンドブックを必携させたが、効果は未知数だ。  実際、いま管理職に就く世代は、業者との関係性が曖昧だった。60歳の遠藤氏は「入庁当初の1990年ごろは、県職員が受注業者と私的に飲むのは厳しく制限されていなかった」と法廷で振り返っていた。赤羽氏が「後継者を見つけてほしい」との趣旨で退職を控える遠藤氏に現金10万円を渡していたことからも、県職員が昵懇の業者に入札に関わる非公開情報を教える関係は代々受け継がれていたようだ。  ただ遠藤氏も、見境なく設計金額を教えていたわけではない。「設計金額を教えてほしい」と単刀直入に聞きに来る一見の業者がいたが、「初対面で教えろとは常識がない。何を言っているんだ」と思い断ったという。  では逆に、教えていた赤羽組と東日本緑化工業は遠藤氏にとってどのような業者だったのか。遠藤氏は、自身が入札を歪めたことは許されることではないとしつつ、「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むようになった」と法廷で理由を語った。  遠藤氏と9歳年上の赤羽氏は、熱心で優秀な仕事ぶりから初対面で互いに好印象を持ち、兄弟のような関係を築いた。東日本緑化工業の坂田氏とは、前述のように赤羽氏を交えて会食する仲であり、遠藤氏は坂田氏に有能な人物との印象を抱いていた。  東日本緑化工業のオーナー家である千葉幸生社長(坂田氏が社長を辞任したのに伴い会長から就任。現在大熊町議5期)は、浜通り以外でも営業を拡大しようと、2003年に破産宣告を受けた福島グリーン開発から坂田氏を引き取り、郡山支店で営業に据えた。おかげで中通り、会津地方でも売り上げが増えたという。同社の破産手続きを一人で完遂した坂田氏の手腕も評価していた。坂田氏を代表取締役社長にしたのは、事業承継を考えてのことだった。 見せしめの効果は想像以上  公務員だった遠藤氏は、丁寧な仕事ぶりと人柄を熟知する赤羽氏、坂田氏に「良い工事をしてもらいたいから」と便宜を図ったのか。それとも、赤羽氏から接待を受けていることに引け目を感じた見返りだったのか。何が非公開情報を教えるきっかけになったかは分からない。言えるのは、事件の時点では、清算できないほど親密な関係になっていたということだ。  今回の摘発は、コンプライアンス重視が叫ばれる昨今、捜査の目が厳しくなり、県・市職員と受注業者の近すぎる関係にメスが入ったということだろう。  公務員は摘発を恐れ、仕事が円滑に進まないくらいに「綱紀粛正」に励んでいる。一方、業者は有罪判決を受けた結果、公共工事の入札で指名停止となり、最悪廃業となるのを恐れている。公務員と業者、双方への見せしめ効果は想像以上に大きかった。前出の業界関係者が「一罰百戒」と形容し、警察・検察が十分目的を果たしたと考える所以だ。 あわせて読みたい 裁判で分かった福島県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  • 裁判で分かった県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】

    裁判で分かった福島県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】

     県発注工事をめぐる贈収賄・入札妨害は氷山の一角だ。裁判では、他の県職員や業者の関与もほのめかされた。非公開の設計金額を教える見返りに接待や現金を受け取ったとして、受託収賄罪などに問われている県土木部職員は容疑を全面的に認める一方、「昔は業者との飲食が厳しくなかった」「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むためだった」と先輩から受け継がれた習慣を赤裸々に語った。 県職員間で受け継がれる業者との親密関係 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  受託収賄、公契約関係競売入札妨害の罪に問われているのは、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査(休職中)の遠藤英司氏(60)=郡山市。須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆氏(69)は贈賄罪に、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸氏(53)は公契約関係競売入札妨害の罪に問われている(業者の肩書は逮捕当時)。 競争入札の公平性を保つために非公開にしている設計金額=入札予定価格を、県発注工事の受注業者が仲の良い県職員に頼んで教えてもらったという点で赤羽氏と坂田氏が犯した罪は同じ入札不正だが、業者が行った接待が賄賂と認められるかどうか、県職員から得た情報を自社が元請けに入るために使ったかどうかで問われた罪が異なる。 以下、7月21日に開かれた赤羽氏の初公判と、同26日に開かれた遠藤氏の初公判をもとに書き進める。 赤羽組前社長の赤羽氏は贈賄罪に問われている。赤羽氏と遠藤氏の付き合いは34年前にさかのぼる。遠藤氏は高校卒業後の1982年に土木職の技術者として県庁に入庁。89年に郡山建設事務所(現県中建設事務所)で赤羽組が受注した工事の現場監督員をしている時に赤羽氏と知り合う。互いに相手の仕事ぶりに尊敬の念を覚えた。両氏は9歳違いだったが馬が合い、赤羽氏は遠藤氏を弟のようにかわいがり、遠藤氏も赤羽氏を兄のように慕っていたとそれぞれ法廷で語っている。赤羽氏の誘いで飲食をする関係になり、2011年からは2、3カ月に1回の割合で飲みに行く仲になった。「兄貴分」の赤羽氏が全額奢った。 遠藤氏によると、30年前はまだ受注業者と担当職員の飲食はありふれていたという。その時の感覚が抜けきれなかったのだろうか。遠藤氏は妻に「業者の人と一緒に飲みに行ってまずくないのか」と聞かれ、「許容範囲であれば問題ない」と答えている。(法廷での妻の証言) 赤羽氏は2014年ごろから、遠藤氏に設計金額の積算の基となる非公開の資材単価情報を聞くようになり、次第に工事の設計金額も教えてほしいと求めるようになった。赤羽組は3人がかりで積算をしていたが、札入れの最終金額は赤羽氏1人で決めていた。赤羽氏は法廷で「競争相手がいる場合、どの程度まで金額を上げても大丈夫か、きちんとした設計金額を知らないと競り勝てない」と動機を述べた。 2018年6月ごろから22年8月ごろの間に郡山駅前で2人で飲食し、赤羽氏が計18万円ほどを全額払ったことが「設計金額などを教えた見返り」と捉えられ、贈賄に問われている。 2021年4月に赤羽氏は郡山駅前のスナックで遠藤氏に「退職したら『後継者』確保に使ってほしい」と現金10万円を渡した。「後継者」とは、入札に関わる情報を教えてくれる県職員のこと。遠藤氏は現金を受け取るのはさすがにまずいと思い、断る素振りを見せたが、これまで築いた関係を壊したくないと、受け取って自宅に保管していたという。これが受託収賄罪に問われた。遠藤氏は県庁を退職後に、赤羽組に再就職することが「内定」していた。 もともと両者の間に現金の授受はなかったが、一緒に飲食し絆が深まると、個人的な信頼関係を失いたくないと金銭の供与を断れなくなる。昨今検挙が盛んな「小物」の贈収賄事件に共通する動機だ。検察側は赤羽氏に懲役1年、遠藤氏には懲役2年と追徴金約18万円、現金10万円の没収を求刑しており、判決は福島地裁でそれぞれ8月21日、同22日に言い渡される。 公契約関係競売入札妨害の罪に問われている東日本緑化工業の坂田氏の初公判は8月16日午後1時半から同地裁で行われる予定だ。 本誌7月号記事「収まらない県職員贈収賄事件」では、坂田氏についてある法面業者がこう語っていた。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープランドという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉幸生代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」 元請けは秀和建設  7月26日の遠藤氏の公判では、坂田氏が2004年に東日本緑化工業に入社したと明かされた。遠藤氏とは1999年か2000年ごろ、当時勤めていた法面業者の工事で知り会ったという。遠藤氏はあぶくま高原道路管理事務所に勤務しており、何回か飲食に行く仲となった。 坂田氏は2012年ごろ、秀和建設(田村市)の取締役から公共工事を思うように落札できないと相談を受け、遠藤氏とは別の県職員から設計金額を教えてもらうようになる。その県職員から、遠藤氏は15年ごろにバトンタッチされ、引き続き設計金額を教えていた。それを基に秀和建設が工事を落札し、下請けに東日本緑化工業が常に入ることを考えていたと、坂田氏は検察への供述で明かしている。坂田氏は秀和建設以外の業者にも予定価格を教えることがあったという。 遠藤氏は、坂田氏に教えた情報が別の業者に流れていることに気付いていた。坂田氏が聞いてきたのは田村市内の道路改良工事で、法面業者である東日本緑化工業が元請けになるような工事ではなかったからだ。同社は大規模な工事を下請けに発注するために必要な特定建設業の許可を持っていなかった。 「聞いてどうするのか」と尋ねると、坂田氏は「いろいろあってな」。遠藤氏は悩んだが、「田村市内の業者が受注調整に使うのだろう」と想像し教えた。 前出・法面業者は「坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思いついた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」と述べていた。この法面業者の見立ては正しかったわけだ。 坂田氏は年に数回、設計金額を聞いてきたという。そんな坂田氏を、遠藤氏は「情報通として業界内での立場を強めていた」と見ていた。 ここで重要なのは、不正入札に加担していたのが秀和建設と判明したことだ。同社の元社長は、昨年発覚した田村市発注工事の入札を巡る贈収賄事件で今年1月に贈賄で有罪判決を受けている。 今回の県工事贈収賄・入札妨害事件は、任意の捜査が始まったのが3月ごろ。県警は田村市の事件で秀和建設元社長を取り調べした段階で、次は同社の下請けに入っていた東日本緑化工業と県職員と狙いを付けていたのだろう。11年前には既に遠藤氏とは別の県職員が設計金額を教えていた。坂田氏も別の業者に教えていたということは、入札不正が氷山の一角に過ぎないこと分かる。思い当たるベテラン県職員は戦々恐々としているだろう。 あわせて読みたい 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  • 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

    収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

     またもや県発注の公共工事をめぐる贈収賄事件である。1月の会津管内に続き、今度は県中流域下水道建設事務所の主任主査と須賀川市の土木会社社長が5月16日に逮捕。その3週間後には大熊町の土木会社社長も逮捕された。主任主査からもたらされた入札情報をもとに工事を落札した業者は他にもいるとみられる。不正はなぜ繰り返されるのか。また〝小物〟ばかり逮捕する県警の狙いは何か。 業者が設計金額を知りたがるワケ  今回の事件で逮捕されたのは6月25日現在3人。 1人目は、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査の遠藤英司容疑者(59)=受託収賄、公契約関係競売入札妨害。2人目は、須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆容疑者(68)=贈賄。3人目は、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸容疑者(53)=公契約関係競売入札妨害(以下、容疑者を氏と表記する)。 事件は大きく二つある。一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを赤羽氏に教えた見返りに、赤羽氏から現金10万円の謝礼や18万円相当の飲食接待を受けた贈収賄事件。遠藤氏は収賄容疑で逮捕されたが、起訴の段階で受託収賄罪に切り替わった。癒着は2018年6月ころから22年8月ころにかけて行われていたとみられる。 もう一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを坂田氏に漏らし、坂田氏がこの情報を他社に教えて落札させた公契約関係競売入札妨害事件。坂田氏は落札させた業者の下請けに入り、仕事を得ていた。遠藤氏と坂田氏の間で謝礼や飲食接待が行われていたかどうかは、6月25日現在分かっていない。 遠藤氏は1982年に土木職として県庁に入った。2011年度に県中建設事務所、15年度に石川土木事務所、18年度にあぶくま高原道路管理事務所で土木関連業務に携わり、現在の県中流域下水道建設事務所は21年度から勤務していた。 遠藤氏は前任地から工事の設計・積算に携わるようになり、土木部内の設計金額などを閲覧できるIDを持っていた。それを悪用し、所属先だけでなく担当外の入札情報も入手し、赤羽氏や遠藤氏に漏らしていたとみられる。県によると、今年2月にシステムを改修したため、現在は担当外の入札情報にはアクセスできないという。 入札情報を漏らしたことで遠藤氏が受けた見返りは、赤羽氏から約28万円(時効分も含む)。坂田氏からは現時点で不明だが、ゼロとは考えにくい。事件の全容が明らかになれば懲戒免職は免れない。現在59歳の遠藤氏はこのまま勤務していれば来年度で定年を迎える予定だったが、たった数十万円の賄賂を受け取ったがために約2000万円の退職金を失ったことになる。 その点で言うと、本誌3、6月号で報じた県中農林事務所主査と会津坂下町のマルト建設㈱をめぐる贈収賄事件でも賄賂の額は約26万円だった。主査は逮捕時44歳。県のシミュレーションによると「勤続24年の46歳主任主査が自己都合で退職した場合、退職金は約1100万円」というから、業者からの見返りと逮捕によるペナルティは釣り合っていない。 遠藤氏や県中農林事務所主査と同じく「出先勤務」が長い40代半ばの県職員はこんな感想を述べる。 「出先の方が本庁より業者と接する機会は多く、距離感も近くなりがちなのは事実です。おそらく、情報を漏らす職員は悪気もなく『それくらいならバレないだろう』との感覚なんでしょうね。見返りが何百万円とかではなく、飲み代やゴルフ代をおごってもらう程度なのも『それくらいいいか』との感覚に拍車をかけているのかもしれない。要は個々人の倫理観の問題だと思います」 既に引退した元土木会社社長の思い出話も興味深い。 「昔は入札の金額をこっそり教えてくれる県職員がいたものです。ある入札の札入れ額でウチが万単位、A社が千円単位、B社が百円単位で刻んだ結果、B社が僅差で落札したことがあったが、後日、全員が同じ職員から金額を教わっていたと知った時は驚いた。ウチは謝礼や接待はしていないが、A社とB社がどうだったかは分かりません」 県土木部では1年に二度、全職員を対象にコンプライアンス研修を行っているが、遠藤氏は逮捕される前日(5月15日)に上司との面談で「コンプライアンス順守については十分理解している」と述べていたというからシャレにならない。前出・県職員の「個々人の倫理観の問題」という指摘は的を射ている。 「私たち社員も不思議で」 須賀川市にある赤羽組の事務所  そんな遠藤氏に接近した前述・2社はどのような会社なのか。 赤羽組(須賀川市長沼)は1972年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役・赤羽隆、取締役・赤羽敦子、赤羽晃明、監査役・赤羽恵美子の各氏。 関連会社に赤羽隆氏が社長を務める葬祭業の㈲闡王閣(須賀川市並木町)がある。2002年設立。資本金300万円。 赤羽組の直近5年間の決算は別表①の通り。売上高は4億円前後で推移していたが、2021年は7億円台、22年は5億円台に伸びた。それに伴って当期純利益も21年以降大幅増。好決算の背景に、遠藤氏からもたらされた入札情報があったということか。 表① 赤羽組の業績 売上高当期純利益2018年4億0600万円1300万円2019年3億7900万円2300万円2020年3億9500万円2000万円2021年7億3700万円4600万円2022年5億6500万円5900万円※決算期は5月。  複数の建設業者に話を聞いたが、今はどこの業者も積算ソフトを用いて札入れ金額を弾き出し、その金額はかなり精度が高いので、 「県職員から設計金額を聞き出すような危険を冒さなくても、公開されている設計金額を参考にしたり、必要な情報を開示請求するなどして自社で研究すれば、最低制限価格はほぼ割り出せる。あとは他社の札入れ額を予測して、自社の札入れ額をさじ加減すればいいだけ」(県中地方の土木会社社長) 今はほとんどの業者で、社内に積算担当の社員を置くのが当たり前になっているという。 「工事の大きさにもよるが、小さければ1~2時間、大きくても半日あれば積算できると思う」(同) ただし、どうしても取りたい仕事では、積算ソフトに打ち込むための「正確な設計金額」が必要になる。 「極端な話、100円でも不正確だったら、積み上げていくと大きな開きになってしまう。シビアな入札では僅差の勝負もあるので、開きが大きいほど致命傷になる」(同) 公共工事の積算は県が作成する単価表に基づいて行われるが、それを見ると生コンクリートやアスファルト合材など、さまざまな資材の単価が細かく示されている。一方で木材類、コンクリート製品、排水溝、管類など複数の資材や各種工事の夜間単価は非公表になっている。単価表の実に半分以上が非公表だ。 各社は、非公表の単価は前年の単価を参考に「今年度はこれくらいだろう」と見当をつけて積算する。その金額はほぼ合っているが、必ずしも正確ではない。「だから、絶対取りたい仕事の積算はミスできないので、正確な設計金額を欲する」(同)。赤羽氏が遠藤氏に接近した理由もそういうことだったのだろう。 須賀川・岩瀬管内の業者がこんな話をしてくれた。 「赤羽組と同じ入札に参加し、ウチも本気で取りにいったが向こうに落札されたことが何度かある。赤羽組は精度の高い積算ソフトを使っているのかと思い、赤羽社長に聞いたがウチと同じソフトだった。積算担当社員と、なぜ同じソフトを使っているのに向こうと同じ金額にならないのか考えたが『この資材の単価が違っていたのかもしれない』というくらいしか思い当たらなかった」 この業者は対策として別メーカーのソフトも導入し、さらに精度を上げようと努めた。その直後に事件が起こり「そういうことだったのかと合点がいった」(同)。 「入札に参加して一番悔しいのは失格(最低制限価格を下回ること)です。失格は、土俵にすら上がれないことを意味するからです。失格になれば、積算担当社員にすぐに原因究明させ、反省材料にします。昔と違い、今の積算はそれくらいシビアなんです」(同) そういう意味では、赤羽社長は自社の積算を一手に行っていたというが、積算ソフトを使う一方で、年齢的(68歳)には昔の積算も経験しており、いわゆる〝天の声〟が落札の決め手になったことをよく理解しているはず。遠藤氏に接触し、正確な設計金額を聞き出したのは「古い時代の名残を知るからこそ」だったのかもしれない。 6月上旬、赤羽組の事務所を訪ねると「対応できる者が不在」(女性事務員)。夕方に電話すると、男性社員が「この電話でよければ話します」と応じてくれた。 「積算は社長が担当していたので他の社員は分からない。正直、私たちも新聞報道以上のことは知らなくて……。積算ソフトですか? もちろん使っていた。それなのに、なぜ不正をする必要があったのか、私たちも不思議でならない」 一部報道によると、遠藤氏は県を定年退職後、赤羽組に就職する予定だったという。そのことを尋ねると社員は「えっ、それも初耳です」と絶句していた。 事件を受け、赤羽組は県から24カ月(2025年5月まで)、須賀川市から9カ月(24年2月まで)の入札参加資格制限措置(指名停止)を科された。売り上げの大部分を公共工事が占める同社にとって、見返りとペナルティのどちらが大きかったことになるのか。 オーナーは大熊町議 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  東日本緑化工業(大熊町)は1967年設立。資本金1000万円。役員は代表取締役・千葉幸生、坂田紀幸、取締役・千葉ゆかり、千葉幸子、千葉智博、監査役・千葉絵里奈の各氏。逮捕された坂田氏は昨年6月に就任したばかりだった。 直近5年間の決算は別表②の通り。当期純利益は不明だが、2017年に1200万円の赤字を計上している。それまで2億円台で推移していた売上高が昨年5億円台になっているのは、赤羽組と同じく遠藤氏からの入札情報のおかげか。 表② 東日本緑化工業の業績 売上高当期純利益2018年2億8600万円――2019年2億8600万円――2020年2億6300万円――2021年2億6000万円――2022年5億5300万円――※決算期は3月。――は不明。  東日本緑化工業は2000年代に郡山市富久山町福原に支店を構えたが、2011年の震災・原発事故で大熊町の本社が避難区域になったため、以降は郡山支店が事実上の本社として機能している。 もう一人の代表取締役である千葉氏は現職の大熊町議(5期目)。2011~15年まで議長を務めた。 構図としては、大熊町議が代表兼オーナーの会社に「千葉一族」以外の坂田氏が社長として入ったことになる。坂田氏とは何者なのか。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープラントという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」(ある法面業者) ジープラントは資本金300万円で2005年に設立されたが、昨年5月に解散。本店は郡山市菜根一丁目にあったが、2013年に東日本緑化工業郡山支店と同じ住所に移転していた。つまり千葉氏と坂田氏の付き合いは10年以上に及ぶわけ。 東日本緑化工業は特定建設業の許可を持っていない。特定建設業とは1件の工事につき4000万円以上を下請けに出す場合に必要な要件だが、同社はこの許可がないため、大規模工事を受注しても下請けに出すことができず、すべて自社施工しなければならなかった。 「そこで坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思い付いた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」(同) 現在、坂田氏と遠藤氏が問われているのは公契約関係競売入札妨害だけだが、両者の間で謝礼や飲食接待が行われていれば贈収賄も問われることになる。実際に落札し、坂田氏に仕事を回していた業者は立件に至らないという観測もあるが、真面目に札入れしている業者からすると解せないに違いない。 6月上旬、郡山支社の事務所を訪ねると「警察から捜査に支障が出るので答えるなと言われている」(居合わせた男性)と告げられ、話を聞くことはできなかった。 ならば、オーナーの千葉氏に会おうと大熊町議会事務局を通じてコンタクトを取ったが「議員から『携帯番号等は個人情報に当たるので(記者に)教えないように』と言われました」(議会事務局職員)。議員が個人情報を盾に取材拒否するとは呆れて物も言えない。 新聞やテレビは東日本緑化工業と千葉氏の関係を一切報じていないが、事情を知る大熊町民からは「逮捕されたのは坂田氏だが、そういう人物を社長にしたのは千葉氏だろうし、不正を繰り返していた会社のオーナーが議員というのはいかがなものか」との声が漏れている。 事件を受け、東日本緑化工業は県から24カ月(2025年6月まで)の入札参加資格制限措置を科された。須賀川市やいわき市などからも1年前後の処分を科されている。 県警トップの意向!?  県内では2021年に会津美里町長、22年に楢葉町建設課主幹と元田村市職員、今年に入って県中農林事務所主査、そして遠藤氏と公共工事をめぐる逮捕者が相次いでいる。 かつての汚職事件はまず〝小物〟を逮捕し、その後に〝大物〟を逮捕するのがよくあるパターンだった。典型的な例が、当時の佐藤栄佐久知事が逮捕された県政汚職事件である。 しかし最近の汚職事件を見ると、会津美里町長以外は小物の逮捕に終始。事件発生直後は「おそらく県警は別の狙いがあるに違いない」との推測が出回るが、結局、現実になった試しはない。 これは何を意味するのか。 「県警トップの意向が反映されているのかもしれない。大物の逮捕は組織における評価が高いとされ、かつては首長の汚職に強い関心を向けるトップが多かったが、今のトップは『相手が誰だろうと不正は絶対に許さない』という考えなのかもしれない。だから、役職が低かろうが賄賂の額が少なかろうが、ダメなものはダメという姿勢を貫いている。その結果が小物の連続逮捕となって表れているのではないか」(ある県政ウオッチャー) 県警本部の児島洋平本部長は2021年8月に警察庁長官官房付から着任したが、今年7月7日付で同役職に異動し、後任には警視庁総務部長の若田英氏が就く。児島氏が着任したのは会津美里町長の逮捕後だったので、時系列で言うと、相次ぐ小物の逮捕時期と合致する。 警察庁発表の資料によると、全国で発生した贈収賄・公契約関係競売妨害事件の件数は横ばいで、2021年度は過去10年で最多だった(別表③参照)。県内で続発する不正は、他の都道府県でも起きているわけ。  そう考えると遠藤氏、赤羽氏、坂田氏の逮捕は氷山の一角で、「次は自分の番かも……」と内心ビクビクしている県職員、業者はもっといるのかもしれない。新しい県警本部長のもとでも引き続き「小物だろうが大物だろうが、不正は絶対に許さない」との姿勢が堅持されるのか。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

  • 【マルト建設】県職員贈収賄事件の背景

     土木建築業マルト建設㈱(会津坂下町)の前社長が入札情報を教えてもらう見返りに県職員(当時)に接待したとして贈賄罪に問われ、懲役1年(執行猶予3年)の判決が言い渡された。同社の営業統括部長(当時)は贈賄ではなく、県職員から得た予定価格を同業他社の社員に教えた入札妨害の罪に問われ有罪。県職員が予定価格を教えるようになったのは、約15年前の別業者が最初だった。県職員は、各社の営業担当者の間で予定価格漏洩の「穴」とされていた実態が浮かび上がった。 15年前から横行していた予定価格漏洩 マルト建設本社  2020年3月から22年4月にかけて、県職員から入札情報を得る見返りに12回に渡ってゴルフ接待や宿泊、飲食費など約26万円を払ったとして贈賄罪に問われたのは、マルト建設前社長の上野清範氏(45)=会津坂下町=、収賄罪に問われたのが、当時県会津農林事務所に勤めていた元県職員の寺木領氏(44)=会津若松市湊町=だ。 寺木氏は高校卒業後の1997年、福島県に技術職員として採用された。各地の県農林事務所に勤め、圃場整備の発注や工事の監督を担当。2019~21年度まで県会津農林事務所に勤め、19年からマルト建設の前営業統括部長、棚木光弘氏(59)=公契約関係競売入札妨害罪で有罪=に予定価格を教えていた。  寺木氏は他に少なくとも会津地方の業者2社に予定価格を教えていたという。管理システムにアクセスし、自身が担当する以外の事業も閲覧し伝えた。逮捕後に懲戒免職となり、現在は実家の農業を手伝っている。 本誌は3月号で、関係者の話として、寺木氏と上野氏が父親の代から接点があること。寺木氏が猪苗代湖畔にプライベートビーチを持ち、マルト建設が社員の福利厚生目的でその場所をタダ同然で使っていたと伝えた。裁判では、プライベートビーチが寺木氏と上野氏を結びつけたことが明らかとなった。 寺木氏は初公判で収賄を認めるか聞かれ、「間違いありません」と答えたうえで次のように述べた。 「(受けた接待は)マルト建設がビーチを使うことについて、管理人を紹介したことに対するお礼も含まれていると思います」 ビーチは猪苗代湖西岸の会津若松市湊町にある。寺木氏の実家の近所だ。5月上旬、筆者は湖岸を訪れた。キャンパーたちのテントが張られている崎川浜から猪苗代湖を右手に北に向かい、砂利道を3分くらい歩くと「聖光学院所有地 一般の方は立入禁止」との看板が出てきた。ゲートとして金属製の棒が横に掛けられ、通れなくなっていた。 横浜市の「聖光学院」が所有するプライベートビーチの入り口。マルト建設は管理人に使用を許された寺木氏を通じて使っていた。  「聖光学院」とあるが、伊達市の甲子園常連校ではなく、神奈川県横浜市にある中高一貫の学校法人だ。 寺木氏の法廷での証言によると、ビーチには聖光学院の合宿施設があり、毎夏生徒たちが訪れていたが、震災・原発事故以降は使われていなかった。寺木氏の両親らがビーチに水道設備を作り、生徒らの食事や洗濯を世話していた縁で、寺木家はビーチを無償で使用できるようになったという。小学校時代の寺木氏にとっては格好の遊び場だった(検察官が読み上げたビーチ管理人の供述調書と寺木氏の証言より)。 寺木氏と上野氏は少なくとも2006年ごろから担当工事を通じてお互いを知った。10年ごろにビーチの近くで2人はばったり会い、上野氏はゲートに閉ざされた聖光学院のビーチを寺木氏が自由に使える理由を聞いた。事情を知った上野氏は、マルト建設の社員たちもビーチを使えるように所有者と管理人に話を通してほしいと頼んだ。 寺木氏は「今年も使わせてほしい」と上野氏から連絡を受けると、「マルト建設が使うからよろしく」と近所に住む管理人に伝える仲になった。 これを機に、2011年ごろから寺木氏は、マルト建設が新年会として郡山市やいわき市のゴルフ場で開いているコンペに招かれるようになった。費用は同社の接待交際費から捻出。県職員と公共事業の受注者が一緒にゴルフをプレーすれば疑念を抱かれるので、寺木氏は実在する同社取締役の名前を偽名に使わせてもらい参加した。 寺木氏によると、マルト建設の棚木氏に予定価格を教えたのは2019年の夏か秋ごろからだった。仕事の悩みを相談する間柄になり、恩を感じて教えるようになった。裁判ではこれ以降に贈収賄罪が成立したとされ、寺木氏と上野氏は罪を認めている。ただし、どの入札に価格漏洩が反映されていたかは、検察側は公判で言及しなかった。 入札不正は根深い。寺木氏が初めて業者に予定価格を教えたのは2008、09年ごろ、別会社の社員Aに対してだった。寺木氏はAに人間関係や仕事の悩みを相談し、助言を受けていた。「Aさんしか頼れる人がいなかった」とも。そのうち「設計金額を教えてほしい」と請われ、断れなくなった。その後も複数回教え、さらに別の2社の社員にも教えるようになった。 明確になった「ライン」 上野氏と寺木氏が接近するきっかけとなった猪苗代湖西岸。プライベートビーチは林の向こうにある。  マルト建設の棚木氏に教えるようになったのは、会津坂下町のある業者の社員の紹介だった。寺木氏は限られた営業担当者に教えたはずの予定価格が、他の業者にも広まっているのを薄々感じていたという。 棚木氏は当初、上野氏と同じく寺木氏への贈賄の疑いで逮捕されたが、実際に裁判で問われた罪は公契約関係競売入札妨害だった。2021年に県会津農林事務所が入札を行った事業に関し、寺木氏から得た情報を自社ではなく、個人的に親しかった会津若松市のB社の営業担当者に教えていた。同様の工事が前回は応札する業者がおらず不調だったこと、今回はB社のみの応札だったことから、棚木氏は教えるハードルが下がっていたと振り返った。 本誌の取材に応じたB社の役員は「棚木氏が県職員から予定価格を教えてもらっているとは夢にも思わなかった。日々向上を重ねている積算の技術で落札したもの」と話した。 業界関係者は「今は積算ソフトの性能が向上し、高い精度で予定価格を割り出せる。警察沙汰になるようなリスクを犯し、公務員から予定価格を教えてもらうのは割に合わない」と業界の常識を話す。 寺木氏は、個人的な相談をきっかけに各社の営業担当者らと親しくなり、予定価格漏洩の「穴」となった。マルト建設の棚木氏はそのうちの1人。同社前社長の上野氏は、プライベートビーチの使用を契機に寺木氏に接近し、受注業者と公務員の不適切な関係を問われた。 贈収賄と入札妨害の関係を一つひとつ紐解くのは困難で、当事者も全体像はつかめていないだろう。ただ言えるのは、公務員は予定価格の漏洩、民間業者はその公務員と疑念を抱かれる関係を持つことが「越えてはいけないライン」ということだ。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設

  • 【マルト建設】贈収賄事件の真相

    【マルト建設】贈収賄事件の真相

     土木建築業のマルト建設㈱(会津坂下町牛川字砂田565)が揺れている。社長と営業統括部長が県職員への贈賄容疑で逮捕されたが、同じタイミングで町内では、役場庁舎の移転候補地の一つに同社が関わっていることが判明。町と同社の間でそこに移転することが既に決まっているかのような密約説まで囁かれている。しかし取材を進めると、贈収賄事件も密約説も公になっていない真実が潜んでいることが分かった。 誤解だった旧坂下厚生病院跡地〝密約説〟 マルト建設本社  マルト建設は1971年設立。資本金9860万円。役員は代表取締役・上野清範、取締役・上野誠子、佐藤信雄、根本香織、鈴木和弘、棚木光弘、成田雅弘、馬場美則、監査役・上野巴、上野洋子の各氏。  土木建築工事業と砂・砂利採取業を主業とし、会津管内ではトップクラスの完工高を誇る。関連会社に不動産業のマルト不動産㈱(会津若松市、上野清範社長)、石油卸売業の宝川産業㈱(同市、根本香織社長)、測量・設計企画業の東北都市コンサル㈱(同市、鵜川壽雄社長)がある。 マルト建設が贈収賄事件の渦中にあるのは、地元紙等の報道で読者も周知のことと思う。1月23日、社長の上野清範氏(45)と、取締役で営業統括部長の棚木光弘氏(59)が逮捕された。両氏は県会津農林事務所発注の公共工事の入札で、同事務所農村整備課主査の寺木領氏(44)から設計金額を教えてもらった見返りに、飲食代やゴルフ代など約26万円相当の賄賂を供与したとされる。 報道によると、①寺木氏が賄賂を受けたのは2020年3月から22年4月ごろ、②マルト建設は会津農林事務所が19~22年度に発注した公共工事のうち17件を落札、③寺木氏が19~21年度に設計・積算を担当した工事は7件で、このうち同社が落札したのは1件、④寺木氏が教えたとされる入札情報が、自身の業務で知り得たのか、他の手段で入手したのかは分からない、⑤寺木氏は22年4月から県中農林事務所に勤務――等々が分かっている。 一方、分かっていない点もある。寺木氏から教えてもらった入札情報をもとに、マルト建設が落札した工事はどれか、別の言い方をすると、同社が供与した賄賂は、どの工事に対する見返りだったのかが判然としないことだ。 実際、寺木氏と上野氏の起訴後、福島民報は《(起訴状によると)12回にわたり、いわき市の宿泊施設など7カ所で飲食、宿泊、ゴルフ代など26万2363円分の接待》(2月14日付)と報じ、賄賂の中身は詳細になったが、賄賂と落札した工事のつながりは相変わらず見えない。 上野氏が否認する理由  興味深い点がある。棚木氏は贈賄罪について不起訴になったことだ。これに対し、寺木氏は「棚木氏に入札情報を教えたことは間違いない」と容疑を認めている。 つまり今回の事件は、寺木氏が棚木氏に入札情報を教え、寺木氏に賄賂を供与したのは上野氏という構図になる。だから、贈賄に直接関与していない棚木氏は不起訴になったとみられるが、興味深い点は他にもある。上野氏が「知らない」「関係ない」と容疑を否認していることだ。 寺木氏は入札情報を教えたことを認めているのに、上野氏は賄賂を供与したことを認めていない。これでは贈収賄は成立しないことになる。 なぜ、上野氏は容疑を否認しているのか。それは、上野氏に「賄賂を供与した」という認識が一切ないからだ。実は、上野氏と寺木氏は友人関係にあり、父親の代から接点があるという。 本誌の取材に、上野氏をよく知る人物が語ってくれた。 「寺木氏は猪苗代湖の近くに自宅があり、父親は浜の管理などの仕事をしていた。プライベートビーチも持っていた。一方、上野氏の父親はアウトドアレジャーが趣味で、上野氏自身もボートを所有している。マルト建設は昔から、夏休みに社員家族を招待して猪苗代湖でキャンプをしていたが、その場所が寺木氏のプライベートビーチだった。同社はタダ同然で借りていたそうです。今は新型コロナの影響で中止されているが、キャンプは両氏の父親の代から始まったそうだ」 44歳の寺木氏と45歳の上野氏は互いの父親を通じて、子ども時代から面識があった可能性もある。 そんな両氏は大人になり、県職員と社長になっても今までと変わらない付き合いを続けていたようだ。 「一緒に飲んだり、ゴルフをすることもあったと思います。そのお金は割り勘の時もあれば、どっちかがおごる時もあったでしょうね」(同) 普段からこういう付き合いをしていれば、ふとした拍子に仕事の話をしても不思議ではないように思えるが、上野氏を知る人物は「上野氏がプライベートで仕事の話をすることはない」と断言する。 「社内でも上野氏が仕事の話をすることはほとんどないそうです。『この仕事は絶対に取れ』とか『こういう業績では困る』といった指示もない。あるのは『こういう仕事をやります』とか、落札できた・できなかったという社員からの報告と、それに対する『分かった』という上野氏の返事だけ。仕事の細かいことは全く気にしない(知らない)上野氏が、入札情報にいちいち興味を示すとは思えない」(同) そんな上野氏との個人的関係とは別に、寺木氏が接点を持ったのが棚木氏だった。 棚木氏は会津地方の土木建築会社を経て、十数年前にマルト建設に入社。官公庁の仕事を一手に引き受ける責任者の役目を担っていた。 上野氏を知る人物は、寺木氏と棚木氏がどういう経緯で知り合ったかは分からないという。ただ、棚木氏が賄賂を渡していないのに寺木氏が入札情報を教えたということは、こんな推察ができるのではないか。 ①寺木氏が会津農林事務所に勤務したタイミングで営業活動に訪れたのが棚木氏だった。②その時、寺木氏は棚木氏が「上野氏の部下」であることを知り、親近感を抱くようになった。③そのうち「上野氏にはいつも世話になっているから」と、棚木氏に入札情報を教えるようになった。④だから、寺木氏と棚木氏の間に賄賂は介在しなかった――。 「要するに、上野氏が払った飲食代やゴルフ代は友人として寺木氏におごっただけで、寺木氏が棚木氏に入札情報を教えた見返りではないということです。にもかかわらず警察や検察から『賄賂だろ』と迫られたため、上野氏は『そうじゃない』と否認しているんだと思います」(同) これなら、賄賂と落札した工事のつながりが見えないことも納得がいく。上野氏にとっては「単におごった金」に過ぎないので、落札した工事とつながるはずがない。上野氏は今ごろ「なぜ友人との遊び代が賄賂にすり替わったんだ」と不満に思っているのではないか。 もともと業界内では「たった26万円の賄賂で工事を取るようなリスクを犯すだろうか」と上野氏の行為を疑問視する声が上がっていた。「東京オリンピックの談合事件のように数百万円の賄賂で数十億円の仕事が取れるならリスクを犯す価値もあるが、26万円の賄賂で逮捕されたら割に合わない」というのだ。つまり業界内にも「26万円は本当に賄賂なのか」といぶかしむ声があるわけ。 とはいえ、公共工事の受発注の関係にあった寺木氏と上野氏が親しくしていれば、周囲から疑惑の目を向けられるのは当然だ。 「昔から友人関係にあったとしても、立場をわきまえて付き合う必要はあったし、せめて寺木氏が会津管内に勤めている間は距離を置くべきだった」(前出・上野氏を知る人物) 寺木氏もまた、県の職員倫理規則で申告が義務付けられている利害関係者との飲食やゴルフを届け出ておらず、事後報告もしていなかった。脇の甘さは両氏とも同じようだ。 ただ、両氏の付き合い方を咎めることと26万円が本当に賄賂だったかどうかは別問題だ。上野氏が今後も容疑を否認し続けた場合、検察はそれでも「落札した工事の見返りだった」と主張するのか。26万円が賄賂ではなかったとすれば、贈収賄事件の構図はどうなるのか注目される。 更地になったら買う約束 建物の解体工事が行われている旧厚生病院(撮影時は冬季中断中だった)  本誌先月号に会津坂下町役場の新築移転に関する記事を掲載した。 現庁舎の老朽化を受け、町は2018年3月、現庁舎一帯に新庁舎を建設することを決めたが、半年後、財政問題を理由に延期。それから4年経った昨年5月、町民有志から町議会に建設場所の再考を求める請願が出され、賛成多数で可決した。 町は新庁舎候補地として①現庁舎一帯、②旧坂下厚生総合病院跡地、③旧坂下高校跡地、④南幹線沿線県有地の四カ所を挙げ、町民にアンケートを行ったところ、旧厚生病院跡地という回答が多数を占めた。 ところが、昨年12月定例会で五十嵐一夫議員が「旧厚生病院跡地は既に売却先が決まっており、新庁舎の建設場所になり得ない」と指摘。「売却先が決まっていることを知らなかったのか」と質問すると、古川庄平町長は「知らない」と答弁した。 五十嵐議員によると「JA福島厚生連に問い合わせた結果、文書(昨年10月3日付)で『売却先は〇〇社に決まっている』と回答してきた」という。文書には〇〇社の実名も書かれていたが、五十嵐議員は社名を明かすことを控えており、筆者も五十嵐議員に尋ねてみたが「教えられない」と断られた。 JA福島厚生連にも売却先を尋ねたが「答えられない」。 公にはなっていない売却先だが、実はマルト建設が取得する方向で話が進んでいる。ちなみに同社は、旧厚生病院の建物解体工事を受注しており、昨年12月末から今年2月末までは降雪を考慮し工事が中断されていたが、3月から再開され、6月に終了予定となっている。ただ、敷地内から土壌汚染対策法の基準値を超える有害物質が検出され、土壌改良が必要となり、工事は年内いっぱいかかるとみられる。 ある事情通が内幕を明かす。 「工事が終了したら正式契約を交わす約束で、マルト建設からは買付証明書、厚生連からは売渡承諾書が出ている。売却価格は厚生連から概算で示されているようだが、具体的な金額は分からない」 マルト建設は建物解体工事を受注した際、JA福島厚生連から「跡地を買わないか」と打診され「更地になったら買う」と申し入れていた。 「厚生連には跡地利用の妙案がなく、更地後も年間数百万円の固定資産税がかかるため早く手放したいと考えていた。マルト建設は取得するつもりは一切なかったが、解体工事で世話になった手前、無下には断れなかったようです」(同) そのタイミングで浮上したのが旧厚生病院跡地に役場庁舎を新築移転する案だったが、ここでマルト建設に思わぬ悪評がついて回る。密約説だ。すなわち、同社は同跡地が候補地になることを知っていて、厚生連から取得後、町に売却することを考えた。新庁舎建設が延期された2018年、同跡地は候補地に挙がっていなかったのに今回候補地になったのは、町と同社の間に密約があったから――というのだ。 密約説は、現庁舎一帯での新築を望む旧町や商店街で広まっている。 「旧町や商店街は役場が身近にあることで生活や商売が成り立っているので、旧厚生病院跡地への移転に絶対反対。だから、密約説を持ち出し『疑惑の候補地に移転するのではなく、2018年に決めた現庁舎一帯にすべき』と主張している」(同) しかし、結論を言うと密約は存在しない。 古川町長は、旧厚生病院跡地の売却先が決まっていることを知らなかったとしているが、実際は知っていたようだ。というのも、町は同跡地を新庁舎の候補地に挙げる際、マルト建設に「町で取得しても問題ないか」と打診し、内諾を得ていたというのだ。ただし取得の方法は、密約説にある「マルト建設がJA福島厚生連から取得後、町に売却する」のではなく、前述の買付証明書と売渡承諾書を破棄し、同社は撤退。その後、町が厚生連から直接取得することになるという。 この問題は、古川町長が五十嵐議員の質問に「知っていた」と答え、具体的な取得方法を示していれば密約説が囁かれることもなかったが、役所は性質上「正式に決まったことしか公表しない」ので、旧厚生病院跡地の取得を水面下で進めようとしていた以上、「知らなかった」こととして取り繕うしかなかったわけ。 JA施設集約を提案 会津坂下町の周辺地図  このように、役場庁舎の新築移転先に決まるのかどうか注目が集まる旧厚生病院跡地だが、これとは全く別の利用法を挙げているのが会津坂下町商工会(五十嵐正康会長)だ。 同商工会は昨年末、古川町長に直接「まちづくりの視点から旧厚生病院跡地を有効活用すべき」と申し入れ、具体策として町内に点在するJA関連施設の集約を提案した。 五十嵐会長はこう話す。 「町内にはJA会津よつば本店や各支店をはじめ、直売所のうまかんべ、パストラルホールなど多くのJA関連施設が点在するが、老朽化が進み、手狭になっている。そういった施設を旧厚生病院跡地に集約し、農業の一大拠点として機能させれば町内だけでなく会津西部の人たちも幅広く利用できる。直売所も駐車場が広くとれるので、遠方からも客が見込めるし、町内外の組合員が商品を納めることもできる。農機具等の修理工場も広い敷地がほしいので、同跡地は適地だと思います」 土地売買も、JA福島厚生連とJA会津よつばで交渉すれば、同じJAなのでスムーズに進むのではないかと五十嵐会長は見ている。 「新しい坂下厚生病院とメガステージ(商業施設)が町の北西部にオープンし、人の流れは確実に変わっている。商工会としては、人口減少が進む中、会津坂下町は会津西部の中心を担う立場から、広い視野に立ったまちづくりを行うべきと考えている。そのためにも、旧厚生病院跡地はより有効な活用を模索すべきと強く申し上げたい」(同) JA関連施設を集約するということは、事業主体はJAになるが、五十嵐会長は「町がJAに『こういう方法で一緒にまちづくりを進めてみないか』と提案するのは、むしろ良いことだと思う」。 ちなみに同商工会では、新庁舎をどこに建設すべきと言うつもりは一切なく、新庁舎も含めて将来の会津坂下町に必要な施設をどこにどう配置すべきかを、町民全体で今一度考えてはどうかと主張している。 密約説からJA関連施設集約案まで飛び出す旧厚生病院跡地。そこに関わるマルト建設は贈収賄事件が重なり、しばらく落ち着かない状況が続く見通しだ。 マルト建設は本誌の取材に「この度の事件では、多方面にご迷惑をおかけして本当に申し訳ない。当面の間、取材は遠慮したい」とコメントしている。 その後 ※古川町長は2月22日の町議会全員協議会で、新庁舎の建設場所を旧厚生病院跡地にする方針を示した。敷地面積2万1000平方㍍のうち1万平方㍍を利用する。用地取得費が多額になる見通しのため、町議会と協議しながら今後のスケジュールを決めるとしている。 あわせて読みたい 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設 庁舎新築議論で紛糾【継続派と再考派で割れる】 (2022年10月号) 現在地か移転かで割れる【会津坂下町】庁舎新築議論 (2023年2月号)

  • 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化 田村市役所

    第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄の罪に問われた元市職員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。賄賂を贈った市内の土木建築業の前社長にも執行猶予付きの有罪判決。事件に関わる裁判は終結したが、有罪となったのは氷山の一角に過ぎない。「不正入札の常態化」を作り上げた歴代の首長と後援業者、担当職員の責任が問われる。 執行部・議会は真相究明に努めよ  元市職員の武田護氏(47)=郡山市在住、旧大越町出身=は二つの贈収賄ルートで罪に問われていた。贈賄業者別に一つは三和工業ルート、もう一つは秀和建設ルートだ。 三和工業ルートで、護氏は同社役員(当時)武田和樹氏(48)=同、執行猶予付き有罪判決=に県が作成した非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取っていた。単価表は入札予定価格を設定するのに必要な資料で、全資材単価が記された単価表は、受注者側からすると垂涎ものだ。 近年は民間業者が販売する積算ソフトの性能が向上し、個々の業者が贈賄のリスクを犯して入手するほどの情報ではなかったため、当初から背後にソフト制作会社の存在が囁かれていたが、主導していたのは仙台市に本社がある㈱コンピュータシステム研究所だった。営業担当者が和樹氏を通して、同氏と中学時代からの友人である護氏からデータを得ていた。和樹氏は、同研究所から見返りに1件につき2万円分の商品券を受け取り、護氏と折半していた。ただ、同研究所と和樹氏の共謀は成立せず、贈賄側は和樹氏だけが有罪となった。 求人転職サイトを覗くと、同研究所の退職者を名乗る人物が「会社ぐるみで非公開の単価表の入手に動いていたが、不正を行っていたことを反省していない」と「告発」している。本誌は同社に質問状を送ったが「返答はしない」との回答を寄せたこと、昨年12月号の記事「積算ソフト会社の『カモ』にされた市と業者」に対して抗議もないことから、会社ぐるみで不正を行い、入手した単価表のデータを自社製品に反映させていた可能性が高い。「近年は積算ソフトの性能が上がっている」と言っても、こうした業者の「営業努力」の結果に過ぎない面もある。 もう一つの秀和建設ルートは、市発注の除染除去物端末輸送業務の入札で起こった。武田護氏は同社の吉田幸司社長(当時)とその弟と昵懇になり、2019年6月から9月に行われた入札で予定価格を教えた。見返りに郡山市の飲食店で総額約30万円の接待を受けた。 護氏は裁判で「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」と動機を述べていた(詳細は本誌1月号「裁判で暴かれた不正入札の構図 汚職のきっかけは前市長派業者への反感」参照)。護氏からすると、「真面目にやっている人」とは今回罪に問われた三和工業や秀和建設。一方、「楽に仕事を得ようとしている人たち」とは本田仁一前市長派の業者だった。 本田前市長派業者の社長らは田村市復興事業協同組合(現在は解散)の組合長や本田後援会の会長を務めていた。検察はこの復興事業協同組合が受注調整=談合をしていた事実を当人たちから聞き出している。組合長を務めていた富士工業の猪狩恭典社長も取り調べで認めたという。同市の公共工事をめぐっては、かねてから談合のウワサはあったが、裁判が「答え合わせ」となった形。 護氏は、一部の業者が本田前市長の威光を笠に着て、陰で入札を仕切っていたことに反感を抱いていたのだろう。 もっとも、不正入札を是正しようと三和工業や秀和建設に便宜を図ったとしても、それは新たな不正を生んだだけだった。護氏は裁判で「民間企業にはお堅い役所にはない魅力があった」と赤裸々に語り、ちゃっかり接待を楽しんでいた。こうなると前市長派業者への反感は、収賄を正当化するための後付けの理由にしか聞こえない。裁判所も「不正をした事実に変わりはない」と情状酌量はしていない。 政治家に翻弄される建設業者  市内の業者は、長く政治家に翻弄されてきた。本田前市長派業者に従わなければ仕事を得られなかったことを示すエピソードがある。田村市船引町は玄葉光一郎衆院議員(58)=立憲民主党=の出身地で強固な地盤だ。対する本田前市長は自民党。県議時代は党県連の青年局長や政調会副会長などを務めた。 三和工業の事務所では、冨塚宥暻市長の時代、玄葉氏のポスターを張っていた。冨塚氏は玄葉氏と近い関係にあった。しかし、県議を辞職して市長選に挑んだ本田氏が冨塚氏を破ると、冨塚氏や玄葉氏を応援していた業者は次第に本田派業者から圧力を掛けられ、市発注の公共工事で冷や飯を食わされるようになったという、ある建設会社役員の証言がある。 三和工業に張られていた玄葉氏のポスターが剥がされ、本田氏のポスターに張り替えられたのはその時期だった。「三和もとうとう屈したか」とその役員は思ったという。 本田前市長とその後援業者が全ての元凶と言いたいのではない。裁判では、少なくとも冨塚市長時代から不正入札が行われていたことが判明した。自治体発注の事業が経営の柱になっていることが多い建設業は、政治家に大きく左右されるということ。極端な話、政治は公共事業の便宜を図ってくれそうな立候補者が建設業者の強力な支援を得て、選挙に勝ち続ける仕組みになっている、と言えなくもない。 田村市の贈収賄事件は、本田前市長とその後援業者が露骨に振る舞った結果、ただでさえ疑念にあふれていた入札がさらに歪んで起きた。 田村市は検察、裁判所という国家機関の介入により全国に恥部をさらすことになった。事件を受け、市民は市政に対する不信感を増幅させており、市職員のモチベーションは下がっているという。 護氏は、自分以外にも入札価格を漏洩する市職員がいたこと、本田前市長とその意向を受けた市幹部が不必要と思える事業を作り、本田前市長派業者が群がっていたことをほのめかしているから、現役の市職員が戦々恐々とし、仕事に身が入らないのも分かる。時効や立証の困難さから護氏以外の職員経験者が立件される可能性は低いが、市は今後のために内部調査をするべきだろう。白石高司市長にその気がないなら、市議会が百条委員会を設置するなどして真相究明する必要がある。 原稿執筆時の1月下旬、県職員とマルト建設(会津坂下町)の社長、役員が入札に関わる贈収賄容疑で逮捕された。入札不正を根絶するためにも、田村市は率先して調査・改善し、県や他市町村の参考になり得る「田村モデル」をつくるべきだ。 「過ちて改めざる是を過ちという」。誇りを取り戻すチャンスはまだある。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図【田村市役所】

    第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄に問われた元市職員の判決が1月13日午後2時半から福島地裁で言い渡される。裁判では除染関連の公共事業発注に関し、談合を主導していた業者の証言が提出された。予定価格の漏洩が常態化していたことも明らかになり、事件は前市長、そして懇意の業者が共同で公共事業発注をゆがめた結果、倫理崩壊が市職員にも蔓延して起こったと言える。 汚職のきっかけは前市長派業者への反感  元市職員の武田護被告(47)=郡山市=は市内の土木建築業者から賄賂を受け取った罪を全面的に認めている。昨年12月7日の公判で検察側が求めた刑は懲役2年6月と追徴金29万9397円。注目は実刑か執行猶予が付くかどうかだ。立件された贈賄の経路は二つある。  一つは三和工業の役員(当時)に非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取ったルート。もう一つが秀和建設ルートだ。市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6月27日~9月27日にかけて行われた入札で、武田被告は予定価格を同社の吉田幸司社長(当時)に教えた見返りに飲食の接待を受けた。同社は3件落札、落札率は96・95~97・90%だった。  三和工業の元役員には懲役8月、執行猶予3年が確定した。秀和建設の吉田氏は在宅起訴されている。  田村市は設計金額と予定価格を同額に設定している。武田被告は少なくともこの2社に設計金額を教え、見返りを得ていた。他の業者については、見返りの受け取りは否定しているが、やはり教えてきたという。  入札の公正さをゆがめ、公務員としての信頼に背いたのは確かだが、後付けとはいえ彼なりの理由があったようだ。2社に便宜を図った動機を取り調べでこう述べている。  「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」  「真面目にやっている人」とは武田被告からすると三和工業と秀和建設。では「楽に仕事を得ようとしている人」とは誰か。それは、本田仁一前市長時代に受注調整=談合を主導していた「市長派業者」を指している。検察側は田村市で行われていた公共事業発注について、次の事実を前提としたうえで武田被告に尋問していた。  ・船引町建設業組合では事前に落札の優先順位を決めるのが慣例だった。  ・除染除去物質端末輸送業務では一時保管所を整地した業者が優先的に落札する決まりがあった。  ・田村市復興事業協同組合(既に解散)が受注調整=談合をしていた。  これらの事実は船引町建設業組合を取りまとめる業者の社長と市復興事業協同組合長を務める業者の社長が取り調べで認めている。  「落札の優先順位を定める円滑調整役だった。業者は優先順位に従って落札する権利を与えられ、業者同士が話し合う。どこの輸送業務をどの業者が落札するか決定し、船引町の組合には結果が報告されてくる。それを同町を除く市内の各組合長に伝えていた」(船引町建設業組合長)  市復興事業協同組合長も「一時保管所を整地したら除染土壌の運搬も担うよう他地区と調整していた」と認めている。この組合長については本誌2018年8月号「田村市の公共事業を仕切る〝市長派業者〟の評判」という記事で市内の老舗業者が言及している。  「本田仁一市長の地元・旧常葉町に本社がある㈱西向建設工業の石井國仲社長は本田市長の後援会長を務めている。一方、市内の建設業界を取り仕切るのは田村市復興事業組合で組合長を務める富士工業㈱の猪狩恭典社長。この2人が『これは本田市長の意向だ』として公共工事を仕切っているんです」(同記事より)  除染土壌の輸送業務をめぐっては業者が落札の便宜を図ってもらうために、本田前市長派業者の主導で市に多額の匿名寄付をし、除染費用を還流させていた問題があった。元市職員が刑事事件に問われたことで、公共事業発注の腐敗体質が明らかになったわけだ。  武田被告は本田前市長派業者による不正が行われていた中で、自分も懇意の業者に便宜を図ろうと不正に手を染めたことになる。取り調べに「楽に仕事を得ようとする業者」に反感があったと語ったが、自分もまた同様の業者を生み出してしまった。田村市では予定価格を業者に教えるのが常態化していたというから、規範が崩れ、不正を犯すハードルが低くなっていたことが分かる。 不必要な事業を発注か  武田被告は公共事業発注の腐敗体質について、市の事業に決定権を持つ者、つまり本田前市長や職員上層部の関与もほのめかしている。  「我々公務員は言われた仕事をやる立場。決定する立場の人間が必要な事業なのか判断しているのか疑問だった。そのような事業を取る会社はそういう(=楽をして仕事を取ろうとする)会社も見受けられた」  上層部が不必要な事業をつくり、一部の業者が群がっていたという構図が見て取れる。  武田被告が市職員を辞めたのは2022年3月末。本誌は前号で、宮城県川崎町の職員が単価表データを地元の建設会社役員と積算ソフト会社社員に漏らして報酬を受け取った事件を紹介した。本誌は同種の事件を起こしていた武田被告が立件を恐れて退職したとみていたが、本人の証言によると、単に「堅苦しい役所がつまらなかった」らしい。  2022年1~2月には就職活動を行い、土木資料の販売を行う民間会社から内定を得た。市役所退職後の4月から働き始め、市の建設業務に携わった経験を生かして営業やパソコンで図面を作る仕事をしていた。市役所の閉塞感から解放され「楽しくて、初めて仕事にやりがいを感じた」という。  武田被告は1995年3月に短大を卒業後、郡山市の広告代理店に就職。解雇され職探しをしていたところ、父親の勧めで96年に旧大越町役場に入庁した。建設部水道課に所属していた2013、14年ごろに秀和建設の役員(吉田前社長の実弟)と知り合い、年に3、4回飲みに行く仲になった。  役所内に情報源を持ちたかった吉田氏の意向で、実弟は武田被告への接待をセッティング。吉田氏と武田被告はLINEで設計金額を教える間柄になった。この時期の贈収賄は時効を迎えたため立件されていない。当時は冨塚宥暻市長の時代だから、市長が誰かにかかわらず設計金額漏洩は悪習化していたようだ。  後始末に追われる白石高司市長だが、自身も公募型プロポーザルの審査委員が選定した新病院施工者を独断で覆した責任を問われ、市議会が百条委員会を設置し調査を進めている。前市政から続く問題で市民からの信頼を失っている田村市だが、武田被告が「市役所はつまらない」と評したように、内部(市職員)からも見限られてはいないか。外部からメスが入ったことを契機に膿を出し切り、生まれ変わるきっかけにするべきだ。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

    【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

     田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。 賄賂を渡した田村市内業者の思惑  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 あわせて読みたい 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

    【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。 田村市贈収賄「三和工業ルート」の構図  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の2022年11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。  単価表をめぐるコンピュータシステム研究所の動き 田村市宮城県川崎町1996年武田護氏が大越町(当時)に入庁2014年武田和樹氏が三和工業に入社、護氏と再会し飲みに行く関係に2020年2月ごろ~21年5月ごろ研究所社員のSが和樹氏を仲介役に護氏から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2010年ごろ~2021年4月ごろ研究所の社員と地元建設業役員が共謀して町職員から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2021年5月宮城県警が本格捜査2021年6月コンピュータシステム研究所が「コンプライアンス」を理由に非公開の単価表入手をやめる2021年6月30日贈収賄に関わった3人が逮捕2021年7月21日受託収賄や贈賄で3人を起訴2021年12月27日3人に執行猶予付き有罪判決2022年3月末護氏が田村市を退職2022年9月24日贈収賄で福島県警が護氏と和樹氏を逮捕河北新報や福島民報の記事を基に作成  代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。 宮城県で同様の事件  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。 狙われた自治体は他にも!?  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの2022年11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 福島県警の贈収賄摘発は一段落!?【赤羽組】【東日本緑化工業】

     県発注工事を巡る贈収賄事件は8月、県中流域下水道建設事務所元職員と須賀川市の土木会社「赤羽組」元社長に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。9月13日には、公契約関係競売入札妨害罪に問われている大熊町の法面業者「東日本緑化工業」元社長に判決が下される。県警による贈収賄事件の検挙は、昨年9月に田村市の元職員らを逮捕したのを皮切りに市内の業者に及び、さらにその下請けに入っていた東日本緑化工業の元社長へと至った。業界関係者は、県警が「一罰百戒」の目的を達成したとして、捜査は一区切りを迎えたとみている。 「一罰百戒」芋づる式検挙の舞台裏 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  贈賄罪に問われた赤羽組(須賀川市)元社長の赤羽隆氏(69)には懲役1年、執行猶予3年の有罪判決。受託収賄罪などに問われた県中流域下水道建設事務所元職員の遠藤英司氏(60)には懲役2年、執行猶予4年の他、現金10万円の没収と追徴金約18万円が言い渡された。公契約関係競売入札妨害罪に問われている東日本緑化工業(大熊町)元社長の坂田紀幸氏(53)の裁判は、検察側が懲役1年を求刑し、9月13日に福島地裁で判決が言い渡される予定。  本誌は昨年から、田村市や県の職員が関わった贈収賄事件を業界関係者の話や裁判で明かされた証拠をもとにリポートしてきた。時系列を追うと、今回の県発注工事に絡む贈収賄事件の摘発は、田村市で昨年発覚した贈収賄事件の延長にあった。  福島県の発注工事では、入札予定価格と設計金額は同額に設定されている。一連の贈収賄事件の発端は設計金額を積算するソフトを作る会社の営業活動だった。積算ソフト会社は自社製品の精度向上に日々励んでいるが、各社とも高精度のため製品に大差はない。それゆえ、各自治体が発注工事の設計金額の積算に使う非公表の資材単価表は、自社製品を優位にするために「喉から手が出るほど欲しい情報」だ。  2021年6月、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、同町内の建設業「丹野土木」の男性役員(50)、そして仙台市青葉区の積算ソフト会社「コンピュータシステム研究所」の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報同7月1日付より。年齢、役職は当時、紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同紙の同年12月28日付の記事によると、この3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、仙台地裁から有罪判決を受けた。判決では、同研究所の社員が丹野土木の役員と共謀し、町職員に単価表の情報提供を依頼、見返りに6回に渡って商品券計12万円分を渡したと認定された。1回当たり2万円の計算だ。  同紙によると、宮城県警が川崎町の贈収賄事件を本格捜査し始めたのは2021年5月。田村市で同種の贈収賄事件(詳細は本誌昨年12月号参照)が摘発されたのは、それから1年以上経った翌22年9月だった。  福島県警が、田村市内の土木会社「三和工業」役員のA氏(48)と、同年3月に同市を退職し民間企業に勤めていたB氏(47)をそれぞれ贈賄と受託収賄の疑いで逮捕した(年齢、肩書きは当時)。2人は中学時代の同級生だった。同研究所の営業担当社員S氏が「上司から入手するよう指示された単価表情報を手に入れられなくて困っている」とA氏に打ち明け、A氏がB氏に情報提供を働きかけた。   川崎町の事件と違い、同研究所社員は贈賄罪に問われていない。しかし、同研究所が交際費として渡した見返りが商品券で、1回当たり2万円だったように手口は全く同じだ。  裁判でB氏は、任意捜査が始まったのは2022年の5月24日と述べた。出勤のため家を出た時、警察官2人に呼び止められ、商品券を受け取ったかどうか聞かれたという。警察が同研究所を取り調べ、似たような事件が他でも起きていないか捜査の範囲を広げたと考えるのが自然だろう。  ある業界関係者は「県警は田村市の元職員を検挙し、元職員とつながりのあった業者、さらにその先の業者というように芋づる式に捜査の手を伸ばしたのだろう」とみている。  どういうことか。鍵を握るのは、田村市の贈収賄事件と、今回の県発注工事に絡む事件のどちらにも登場する市内の土木会社「秀和建設」である。  田村市の一連の贈収賄は、三和工業が贈賄側になった事件と、秀和建設が贈賄側になった事件があった。秀和建設のC社長(当時)は、市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6~9月に行われた入札で、当時市職員だったB氏に設計金額を教えてもらい、見返りに飲食接待したと裁判所に認定された(詳細は本誌1月号と2月号を参照)。  県発注工事をめぐる今回の事件では、県中流域下水道建設事務所職員(当時)の遠藤氏から設計金額を聞き出し元請け業者に教えたとして、東日本緑化工業社長(当時)の坂田氏が公契約関係競売入札妨害罪に問われている。その東日本緑化工業が設計金額を教えた元請け業者が秀和建設だった。  秀和建設は坂田氏を通じて設計金額=予定価格を知り、目当ての工事を確実に落札する。坂田氏が社長を務めていた東日本緑化工業は、その下請けに入り法面工事の仕事を得るという仕組みだ。  坂田氏と秀和建設のつながりは、氏が以前勤めていた郡山市の「福島グリーン開発」が資金繰りに困っていた時、秀和建設が援助したことから始まった。福島グリーン開発は2003年に破産宣告を受けたが、坂田氏は東日本緑化工業に転職した後、秀和建設との関係を引き継いだ。  坂田氏は今年8月に行われた初公判で「取り調べを受けてから1年近くになる」と述べているので、坂田氏に任意の捜査が入ったのは昨年8月辺り。田村市元職員のB氏が秀和建設のC氏から見返りに接待を受けたとして逮捕されたのが昨年9月、C氏が在宅起訴されたのが同10月だから、秀和建設と下請けの東日本緑化工業の捜査は呼応して行われていたと考えられる。  捜査はさらに県職員と赤羽組に波及する。坂田氏と県中流域下水道建設事務所職員だった遠藤氏、赤羽組元社長の赤羽氏は3人で会食する仲だった。警察が坂田氏を取り調べる中で、遠藤氏と赤羽氏の関係が浮上したと本誌は考える。裁判では、遠藤氏の取り調べが始まったのが今年3月と明かされたので、秀和建設→坂田氏→遠藤氏・赤羽氏の順に捜査が及んだのだろう。 杓子定規の「綱紀粛正」に迷惑  芋づる式検挙をみると、不正は氷山の一角に過ぎず、さらに摘発が進むのではと、入札不正に心当たりのあるベテラン公務員と業者は戦々恐々している様が想像できるが、前出の業界関係者は「『一罰百戒』の効果は十分にあった。県警本部長と捜査2課長も今年7〜8月に代わったので、継続性を考えると捜査は一段落したのではないか」とみる。  とりわけ、県に与えた効果は絶大だったようだ。「綱紀粛正」が杓子定規に進められ、業者からは県に対しての不満が漏れている。  「県土木部の出先機関に打ち合わせに出向くと職員から『部屋に入らないで』『挨拶はしないで』と言われる。疑いを招くような行動は全て排除しようとしているのだろうが、おかげで十分なコミュニケーションが取れず、良い仕事ができない。現場の職員が判断するべき些細な内容もいちいち上司に諮るので、1週間で終わる仕事が2週間かかり、労力も時間も倍だ。急を要する災害復旧工事が出たら、一体どうなるのか」(前出の業界関係者)  この1年間で、県土木部では出先機関の職員2人が贈収賄事件に絡み有罪判決を受けた。県職員はまさに羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹いている。県は不祥事防止対策として、警察官や教員を除く職員約5500人に「啓発リーフレット」を配り、コンプライアンス順守を周知するハンドブックを必携させたが、効果は未知数だ。  実際、いま管理職に就く世代は、業者との関係性が曖昧だった。60歳の遠藤氏は「入庁当初の1990年ごろは、県職員が受注業者と私的に飲むのは厳しく制限されていなかった」と法廷で振り返っていた。赤羽氏が「後継者を見つけてほしい」との趣旨で退職を控える遠藤氏に現金10万円を渡していたことからも、県職員が昵懇の業者に入札に関わる非公開情報を教える関係は代々受け継がれていたようだ。  ただ遠藤氏も、見境なく設計金額を教えていたわけではない。「設計金額を教えてほしい」と単刀直入に聞きに来る一見の業者がいたが、「初対面で教えろとは常識がない。何を言っているんだ」と思い断ったという。  では逆に、教えていた赤羽組と東日本緑化工業は遠藤氏にとってどのような業者だったのか。遠藤氏は、自身が入札を歪めたことは許されることではないとしつつ、「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むようになった」と法廷で理由を語った。  遠藤氏と9歳年上の赤羽氏は、熱心で優秀な仕事ぶりから初対面で互いに好印象を持ち、兄弟のような関係を築いた。東日本緑化工業の坂田氏とは、前述のように赤羽氏を交えて会食する仲であり、遠藤氏は坂田氏に有能な人物との印象を抱いていた。  東日本緑化工業のオーナー家である千葉幸生社長(坂田氏が社長を辞任したのに伴い会長から就任。現在大熊町議5期)は、浜通り以外でも営業を拡大しようと、2003年に破産宣告を受けた福島グリーン開発から坂田氏を引き取り、郡山支店で営業に据えた。おかげで中通り、会津地方でも売り上げが増えたという。同社の破産手続きを一人で完遂した坂田氏の手腕も評価していた。坂田氏を代表取締役社長にしたのは、事業承継を考えてのことだった。 見せしめの効果は想像以上  公務員だった遠藤氏は、丁寧な仕事ぶりと人柄を熟知する赤羽氏、坂田氏に「良い工事をしてもらいたいから」と便宜を図ったのか。それとも、赤羽氏から接待を受けていることに引け目を感じた見返りだったのか。何が非公開情報を教えるきっかけになったかは分からない。言えるのは、事件の時点では、清算できないほど親密な関係になっていたということだ。  今回の摘発は、コンプライアンス重視が叫ばれる昨今、捜査の目が厳しくなり、県・市職員と受注業者の近すぎる関係にメスが入ったということだろう。  公務員は摘発を恐れ、仕事が円滑に進まないくらいに「綱紀粛正」に励んでいる。一方、業者は有罪判決を受けた結果、公共工事の入札で指名停止となり、最悪廃業となるのを恐れている。公務員と業者、双方への見せしめ効果は想像以上に大きかった。前出の業界関係者が「一罰百戒」と形容し、警察・検察が十分目的を果たしたと考える所以だ。 あわせて読みたい 裁判で分かった福島県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  • 裁判で分かった福島県工事贈収賄事件の動機【赤羽組】【東日本緑化工業】

     県発注工事をめぐる贈収賄・入札妨害は氷山の一角だ。裁判では、他の県職員や業者の関与もほのめかされた。非公開の設計金額を教える見返りに接待や現金を受け取ったとして、受託収賄罪などに問われている県土木部職員は容疑を全面的に認める一方、「昔は業者との飲食が厳しくなかった」「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むためだった」と先輩から受け継がれた習慣を赤裸々に語った。 県職員間で受け継がれる業者との親密関係 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  受託収賄、公契約関係競売入札妨害の罪に問われているのは、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査(休職中)の遠藤英司氏(60)=郡山市。須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆氏(69)は贈賄罪に、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸氏(53)は公契約関係競売入札妨害の罪に問われている(業者の肩書は逮捕当時)。 競争入札の公平性を保つために非公開にしている設計金額=入札予定価格を、県発注工事の受注業者が仲の良い県職員に頼んで教えてもらったという点で赤羽氏と坂田氏が犯した罪は同じ入札不正だが、業者が行った接待が賄賂と認められるかどうか、県職員から得た情報を自社が元請けに入るために使ったかどうかで問われた罪が異なる。 以下、7月21日に開かれた赤羽氏の初公判と、同26日に開かれた遠藤氏の初公判をもとに書き進める。 赤羽組前社長の赤羽氏は贈賄罪に問われている。赤羽氏と遠藤氏の付き合いは34年前にさかのぼる。遠藤氏は高校卒業後の1982年に土木職の技術者として県庁に入庁。89年に郡山建設事務所(現県中建設事務所)で赤羽組が受注した工事の現場監督員をしている時に赤羽氏と知り合う。互いに相手の仕事ぶりに尊敬の念を覚えた。両氏は9歳違いだったが馬が合い、赤羽氏は遠藤氏を弟のようにかわいがり、遠藤氏も赤羽氏を兄のように慕っていたとそれぞれ法廷で語っている。赤羽氏の誘いで飲食をする関係になり、2011年からは2、3カ月に1回の割合で飲みに行く仲になった。「兄貴分」の赤羽氏が全額奢った。 遠藤氏によると、30年前はまだ受注業者と担当職員の飲食はありふれていたという。その時の感覚が抜けきれなかったのだろうか。遠藤氏は妻に「業者の人と一緒に飲みに行ってまずくないのか」と聞かれ、「許容範囲であれば問題ない」と答えている。(法廷での妻の証言) 赤羽氏は2014年ごろから、遠藤氏に設計金額の積算の基となる非公開の資材単価情報を聞くようになり、次第に工事の設計金額も教えてほしいと求めるようになった。赤羽組は3人がかりで積算をしていたが、札入れの最終金額は赤羽氏1人で決めていた。赤羽氏は法廷で「競争相手がいる場合、どの程度まで金額を上げても大丈夫か、きちんとした設計金額を知らないと競り勝てない」と動機を述べた。 2018年6月ごろから22年8月ごろの間に郡山駅前で2人で飲食し、赤羽氏が計18万円ほどを全額払ったことが「設計金額などを教えた見返り」と捉えられ、贈賄に問われている。 2021年4月に赤羽氏は郡山駅前のスナックで遠藤氏に「退職したら『後継者』確保に使ってほしい」と現金10万円を渡した。「後継者」とは、入札に関わる情報を教えてくれる県職員のこと。遠藤氏は現金を受け取るのはさすがにまずいと思い、断る素振りを見せたが、これまで築いた関係を壊したくないと、受け取って自宅に保管していたという。これが受託収賄罪に問われた。遠藤氏は県庁を退職後に、赤羽組に再就職することが「内定」していた。 もともと両者の間に現金の授受はなかったが、一緒に飲食し絆が深まると、個人的な信頼関係を失いたくないと金銭の供与を断れなくなる。昨今検挙が盛んな「小物」の贈収賄事件に共通する動機だ。検察側は赤羽氏に懲役1年、遠藤氏には懲役2年と追徴金約18万円、現金10万円の没収を求刑しており、判決は福島地裁でそれぞれ8月21日、同22日に言い渡される。 公契約関係競売入札妨害の罪に問われている東日本緑化工業の坂田氏の初公判は8月16日午後1時半から同地裁で行われる予定だ。 本誌7月号記事「収まらない県職員贈収賄事件」では、坂田氏についてある法面業者がこう語っていた。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープランドという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉幸生代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」 元請けは秀和建設  7月26日の遠藤氏の公判では、坂田氏が2004年に東日本緑化工業に入社したと明かされた。遠藤氏とは1999年か2000年ごろ、当時勤めていた法面業者の工事で知り会ったという。遠藤氏はあぶくま高原道路管理事務所に勤務しており、何回か飲食に行く仲となった。 坂田氏は2012年ごろ、秀和建設(田村市)の取締役から公共工事を思うように落札できないと相談を受け、遠藤氏とは別の県職員から設計金額を教えてもらうようになる。その県職員から、遠藤氏は15年ごろにバトンタッチされ、引き続き設計金額を教えていた。それを基に秀和建設が工事を落札し、下請けに東日本緑化工業が常に入ることを考えていたと、坂田氏は検察への供述で明かしている。坂田氏は秀和建設以外の業者にも予定価格を教えることがあったという。 遠藤氏は、坂田氏に教えた情報が別の業者に流れていることに気付いていた。坂田氏が聞いてきたのは田村市内の道路改良工事で、法面業者である東日本緑化工業が元請けになるような工事ではなかったからだ。同社は大規模な工事を下請けに発注するために必要な特定建設業の許可を持っていなかった。 「聞いてどうするのか」と尋ねると、坂田氏は「いろいろあってな」。遠藤氏は悩んだが、「田村市内の業者が受注調整に使うのだろう」と想像し教えた。 前出・法面業者は「坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思いついた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」と述べていた。この法面業者の見立ては正しかったわけだ。 坂田氏は年に数回、設計金額を聞いてきたという。そんな坂田氏を、遠藤氏は「情報通として業界内での立場を強めていた」と見ていた。 ここで重要なのは、不正入札に加担していたのが秀和建設と判明したことだ。同社の元社長は、昨年発覚した田村市発注工事の入札を巡る贈収賄事件で今年1月に贈賄で有罪判決を受けている。 今回の県工事贈収賄・入札妨害事件は、任意の捜査が始まったのが3月ごろ。県警は田村市の事件で秀和建設元社長を取り調べした段階で、次は同社の下請けに入っていた東日本緑化工業と県職員と狙いを付けていたのだろう。11年前には既に遠藤氏とは別の県職員が設計金額を教えていた。坂田氏も別の業者に教えていたということは、入札不正が氷山の一角に過ぎないこと分かる。思い当たるベテラン県職員は戦々恐々としているだろう。 あわせて読みたい 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

  • 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】

     またもや県発注の公共工事をめぐる贈収賄事件である。1月の会津管内に続き、今度は県中流域下水道建設事務所の主任主査と須賀川市の土木会社社長が5月16日に逮捕。その3週間後には大熊町の土木会社社長も逮捕された。主任主査からもたらされた入札情報をもとに工事を落札した業者は他にもいるとみられる。不正はなぜ繰り返されるのか。また〝小物〟ばかり逮捕する県警の狙いは何か。 業者が設計金額を知りたがるワケ  今回の事件で逮捕されたのは6月25日現在3人。 1人目は、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査の遠藤英司容疑者(59)=受託収賄、公契約関係競売入札妨害。2人目は、須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆容疑者(68)=贈賄。3人目は、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸容疑者(53)=公契約関係競売入札妨害(以下、容疑者を氏と表記する)。 事件は大きく二つある。一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを赤羽氏に教えた見返りに、赤羽氏から現金10万円の謝礼や18万円相当の飲食接待を受けた贈収賄事件。遠藤氏は収賄容疑で逮捕されたが、起訴の段階で受託収賄罪に切り替わった。癒着は2018年6月ころから22年8月ころにかけて行われていたとみられる。 もう一つは、遠藤氏が県発注工事の設計金額などを坂田氏に漏らし、坂田氏がこの情報を他社に教えて落札させた公契約関係競売入札妨害事件。坂田氏は落札させた業者の下請けに入り、仕事を得ていた。遠藤氏と坂田氏の間で謝礼や飲食接待が行われていたかどうかは、6月25日現在分かっていない。 遠藤氏は1982年に土木職として県庁に入った。2011年度に県中建設事務所、15年度に石川土木事務所、18年度にあぶくま高原道路管理事務所で土木関連業務に携わり、現在の県中流域下水道建設事務所は21年度から勤務していた。 遠藤氏は前任地から工事の設計・積算に携わるようになり、土木部内の設計金額などを閲覧できるIDを持っていた。それを悪用し、所属先だけでなく担当外の入札情報も入手し、赤羽氏や遠藤氏に漏らしていたとみられる。県によると、今年2月にシステムを改修したため、現在は担当外の入札情報にはアクセスできないという。 入札情報を漏らしたことで遠藤氏が受けた見返りは、赤羽氏から約28万円(時効分も含む)。坂田氏からは現時点で不明だが、ゼロとは考えにくい。事件の全容が明らかになれば懲戒免職は免れない。現在59歳の遠藤氏はこのまま勤務していれば来年度で定年を迎える予定だったが、たった数十万円の賄賂を受け取ったがために約2000万円の退職金を失ったことになる。 その点で言うと、本誌3、6月号で報じた県中農林事務所主査と会津坂下町のマルト建設㈱をめぐる贈収賄事件でも賄賂の額は約26万円だった。主査は逮捕時44歳。県のシミュレーションによると「勤続24年の46歳主任主査が自己都合で退職した場合、退職金は約1100万円」というから、業者からの見返りと逮捕によるペナルティは釣り合っていない。 遠藤氏や県中農林事務所主査と同じく「出先勤務」が長い40代半ばの県職員はこんな感想を述べる。 「出先の方が本庁より業者と接する機会は多く、距離感も近くなりがちなのは事実です。おそらく、情報を漏らす職員は悪気もなく『それくらいならバレないだろう』との感覚なんでしょうね。見返りが何百万円とかではなく、飲み代やゴルフ代をおごってもらう程度なのも『それくらいいいか』との感覚に拍車をかけているのかもしれない。要は個々人の倫理観の問題だと思います」 既に引退した元土木会社社長の思い出話も興味深い。 「昔は入札の金額をこっそり教えてくれる県職員がいたものです。ある入札の札入れ額でウチが万単位、A社が千円単位、B社が百円単位で刻んだ結果、B社が僅差で落札したことがあったが、後日、全員が同じ職員から金額を教わっていたと知った時は驚いた。ウチは謝礼や接待はしていないが、A社とB社がどうだったかは分かりません」 県土木部では1年に二度、全職員を対象にコンプライアンス研修を行っているが、遠藤氏は逮捕される前日(5月15日)に上司との面談で「コンプライアンス順守については十分理解している」と述べていたというからシャレにならない。前出・県職員の「個々人の倫理観の問題」という指摘は的を射ている。 「私たち社員も不思議で」 須賀川市にある赤羽組の事務所  そんな遠藤氏に接近した前述・2社はどのような会社なのか。 赤羽組(須賀川市長沼)は1972年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役・赤羽隆、取締役・赤羽敦子、赤羽晃明、監査役・赤羽恵美子の各氏。 関連会社に赤羽隆氏が社長を務める葬祭業の㈲闡王閣(須賀川市並木町)がある。2002年設立。資本金300万円。 赤羽組の直近5年間の決算は別表①の通り。売上高は4億円前後で推移していたが、2021年は7億円台、22年は5億円台に伸びた。それに伴って当期純利益も21年以降大幅増。好決算の背景に、遠藤氏からもたらされた入札情報があったということか。 表① 赤羽組の業績 売上高当期純利益2018年4億0600万円1300万円2019年3億7900万円2300万円2020年3億9500万円2000万円2021年7億3700万円4600万円2022年5億6500万円5900万円※決算期は5月。  複数の建設業者に話を聞いたが、今はどこの業者も積算ソフトを用いて札入れ金額を弾き出し、その金額はかなり精度が高いので、 「県職員から設計金額を聞き出すような危険を冒さなくても、公開されている設計金額を参考にしたり、必要な情報を開示請求するなどして自社で研究すれば、最低制限価格はほぼ割り出せる。あとは他社の札入れ額を予測して、自社の札入れ額をさじ加減すればいいだけ」(県中地方の土木会社社長) 今はほとんどの業者で、社内に積算担当の社員を置くのが当たり前になっているという。 「工事の大きさにもよるが、小さければ1~2時間、大きくても半日あれば積算できると思う」(同) ただし、どうしても取りたい仕事では、積算ソフトに打ち込むための「正確な設計金額」が必要になる。 「極端な話、100円でも不正確だったら、積み上げていくと大きな開きになってしまう。シビアな入札では僅差の勝負もあるので、開きが大きいほど致命傷になる」(同) 公共工事の積算は県が作成する単価表に基づいて行われるが、それを見ると生コンクリートやアスファルト合材など、さまざまな資材の単価が細かく示されている。一方で木材類、コンクリート製品、排水溝、管類など複数の資材や各種工事の夜間単価は非公表になっている。単価表の実に半分以上が非公表だ。 各社は、非公表の単価は前年の単価を参考に「今年度はこれくらいだろう」と見当をつけて積算する。その金額はほぼ合っているが、必ずしも正確ではない。「だから、絶対取りたい仕事の積算はミスできないので、正確な設計金額を欲する」(同)。赤羽氏が遠藤氏に接近した理由もそういうことだったのだろう。 須賀川・岩瀬管内の業者がこんな話をしてくれた。 「赤羽組と同じ入札に参加し、ウチも本気で取りにいったが向こうに落札されたことが何度かある。赤羽組は精度の高い積算ソフトを使っているのかと思い、赤羽社長に聞いたがウチと同じソフトだった。積算担当社員と、なぜ同じソフトを使っているのに向こうと同じ金額にならないのか考えたが『この資材の単価が違っていたのかもしれない』というくらいしか思い当たらなかった」 この業者は対策として別メーカーのソフトも導入し、さらに精度を上げようと努めた。その直後に事件が起こり「そういうことだったのかと合点がいった」(同)。 「入札に参加して一番悔しいのは失格(最低制限価格を下回ること)です。失格は、土俵にすら上がれないことを意味するからです。失格になれば、積算担当社員にすぐに原因究明させ、反省材料にします。昔と違い、今の積算はそれくらいシビアなんです」(同) そういう意味では、赤羽社長は自社の積算を一手に行っていたというが、積算ソフトを使う一方で、年齢的(68歳)には昔の積算も経験しており、いわゆる〝天の声〟が落札の決め手になったことをよく理解しているはず。遠藤氏に接触し、正確な設計金額を聞き出したのは「古い時代の名残を知るからこそ」だったのかもしれない。 6月上旬、赤羽組の事務所を訪ねると「対応できる者が不在」(女性事務員)。夕方に電話すると、男性社員が「この電話でよければ話します」と応じてくれた。 「積算は社長が担当していたので他の社員は分からない。正直、私たちも新聞報道以上のことは知らなくて……。積算ソフトですか? もちろん使っていた。それなのに、なぜ不正をする必要があったのか、私たちも不思議でならない」 一部報道によると、遠藤氏は県を定年退職後、赤羽組に就職する予定だったという。そのことを尋ねると社員は「えっ、それも初耳です」と絶句していた。 事件を受け、赤羽組は県から24カ月(2025年5月まで)、須賀川市から9カ月(24年2月まで)の入札参加資格制限措置(指名停止)を科された。売り上げの大部分を公共工事が占める同社にとって、見返りとペナルティのどちらが大きかったことになるのか。 オーナーは大熊町議 郡山市にある東日本緑化工業の事務所  東日本緑化工業(大熊町)は1967年設立。資本金1000万円。役員は代表取締役・千葉幸生、坂田紀幸、取締役・千葉ゆかり、千葉幸子、千葉智博、監査役・千葉絵里奈の各氏。逮捕された坂田氏は昨年6月に就任したばかりだった。 直近5年間の決算は別表②の通り。当期純利益は不明だが、2017年に1200万円の赤字を計上している。それまで2億円台で推移していた売上高が昨年5億円台になっているのは、赤羽組と同じく遠藤氏からの入札情報のおかげか。 表② 東日本緑化工業の業績 売上高当期純利益2018年2億8600万円――2019年2億8600万円――2020年2億6300万円――2021年2億6000万円――2022年5億5300万円――※決算期は3月。――は不明。  東日本緑化工業は2000年代に郡山市富久山町福原に支店を構えたが、2011年の震災・原発事故で大熊町の本社が避難区域になったため、以降は郡山支店が事実上の本社として機能している。 もう一人の代表取締役である千葉氏は現職の大熊町議(5期目)。2011~15年まで議長を務めた。 構図としては、大熊町議が代表兼オーナーの会社に「千葉一族」以外の坂田氏が社長として入ったことになる。坂田氏とは何者なのか。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープラントという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」(ある法面業者) ジープラントは資本金300万円で2005年に設立されたが、昨年5月に解散。本店は郡山市菜根一丁目にあったが、2013年に東日本緑化工業郡山支店と同じ住所に移転していた。つまり千葉氏と坂田氏の付き合いは10年以上に及ぶわけ。 東日本緑化工業は特定建設業の許可を持っていない。特定建設業とは1件の工事につき4000万円以上を下請けに出す場合に必要な要件だが、同社はこの許可がないため、大規模工事を受注しても下請けに出すことができず、すべて自社施工しなければならなかった。 「そこで坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思い付いた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」(同) 現在、坂田氏と遠藤氏が問われているのは公契約関係競売入札妨害だけだが、両者の間で謝礼や飲食接待が行われていれば贈収賄も問われることになる。実際に落札し、坂田氏に仕事を回していた業者は立件に至らないという観測もあるが、真面目に札入れしている業者からすると解せないに違いない。 6月上旬、郡山支社の事務所を訪ねると「警察から捜査に支障が出るので答えるなと言われている」(居合わせた男性)と告げられ、話を聞くことはできなかった。 ならば、オーナーの千葉氏に会おうと大熊町議会事務局を通じてコンタクトを取ったが「議員から『携帯番号等は個人情報に当たるので(記者に)教えないように』と言われました」(議会事務局職員)。議員が個人情報を盾に取材拒否するとは呆れて物も言えない。 新聞やテレビは東日本緑化工業と千葉氏の関係を一切報じていないが、事情を知る大熊町民からは「逮捕されたのは坂田氏だが、そういう人物を社長にしたのは千葉氏だろうし、不正を繰り返していた会社のオーナーが議員というのはいかがなものか」との声が漏れている。 事件を受け、東日本緑化工業は県から24カ月(2025年6月まで)の入札参加資格制限措置を科された。須賀川市やいわき市などからも1年前後の処分を科されている。 県警トップの意向!?  県内では2021年に会津美里町長、22年に楢葉町建設課主幹と元田村市職員、今年に入って県中農林事務所主査、そして遠藤氏と公共工事をめぐる逮捕者が相次いでいる。 かつての汚職事件はまず〝小物〟を逮捕し、その後に〝大物〟を逮捕するのがよくあるパターンだった。典型的な例が、当時の佐藤栄佐久知事が逮捕された県政汚職事件である。 しかし最近の汚職事件を見ると、会津美里町長以外は小物の逮捕に終始。事件発生直後は「おそらく県警は別の狙いがあるに違いない」との推測が出回るが、結局、現実になった試しはない。 これは何を意味するのか。 「県警トップの意向が反映されているのかもしれない。大物の逮捕は組織における評価が高いとされ、かつては首長の汚職に強い関心を向けるトップが多かったが、今のトップは『相手が誰だろうと不正は絶対に許さない』という考えなのかもしれない。だから、役職が低かろうが賄賂の額が少なかろうが、ダメなものはダメという姿勢を貫いている。その結果が小物の連続逮捕となって表れているのではないか」(ある県政ウオッチャー) 県警本部の児島洋平本部長は2021年8月に警察庁長官官房付から着任したが、今年7月7日付で同役職に異動し、後任には警視庁総務部長の若田英氏が就く。児島氏が着任したのは会津美里町長の逮捕後だったので、時系列で言うと、相次ぐ小物の逮捕時期と合致する。 警察庁発表の資料によると、全国で発生した贈収賄・公契約関係競売妨害事件の件数は横ばいで、2021年度は過去10年で最多だった(別表③参照)。県内で続発する不正は、他の都道府県でも起きているわけ。  そう考えると遠藤氏、赤羽氏、坂田氏の逮捕は氷山の一角で、「次は自分の番かも……」と内心ビクビクしている県職員、業者はもっといるのかもしれない。新しい県警本部長のもとでも引き続き「小物だろうが大物だろうが、不正は絶対に許さない」との姿勢が堅持されるのか。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

  • 【マルト建設】県職員贈収賄事件の背景

     土木建築業マルト建設㈱(会津坂下町)の前社長が入札情報を教えてもらう見返りに県職員(当時)に接待したとして贈賄罪に問われ、懲役1年(執行猶予3年)の判決が言い渡された。同社の営業統括部長(当時)は贈賄ではなく、県職員から得た予定価格を同業他社の社員に教えた入札妨害の罪に問われ有罪。県職員が予定価格を教えるようになったのは、約15年前の別業者が最初だった。県職員は、各社の営業担当者の間で予定価格漏洩の「穴」とされていた実態が浮かび上がった。 15年前から横行していた予定価格漏洩 マルト建設本社  2020年3月から22年4月にかけて、県職員から入札情報を得る見返りに12回に渡ってゴルフ接待や宿泊、飲食費など約26万円を払ったとして贈賄罪に問われたのは、マルト建設前社長の上野清範氏(45)=会津坂下町=、収賄罪に問われたのが、当時県会津農林事務所に勤めていた元県職員の寺木領氏(44)=会津若松市湊町=だ。 寺木氏は高校卒業後の1997年、福島県に技術職員として採用された。各地の県農林事務所に勤め、圃場整備の発注や工事の監督を担当。2019~21年度まで県会津農林事務所に勤め、19年からマルト建設の前営業統括部長、棚木光弘氏(59)=公契約関係競売入札妨害罪で有罪=に予定価格を教えていた。  寺木氏は他に少なくとも会津地方の業者2社に予定価格を教えていたという。管理システムにアクセスし、自身が担当する以外の事業も閲覧し伝えた。逮捕後に懲戒免職となり、現在は実家の農業を手伝っている。 本誌は3月号で、関係者の話として、寺木氏と上野氏が父親の代から接点があること。寺木氏が猪苗代湖畔にプライベートビーチを持ち、マルト建設が社員の福利厚生目的でその場所をタダ同然で使っていたと伝えた。裁判では、プライベートビーチが寺木氏と上野氏を結びつけたことが明らかとなった。 寺木氏は初公判で収賄を認めるか聞かれ、「間違いありません」と答えたうえで次のように述べた。 「(受けた接待は)マルト建設がビーチを使うことについて、管理人を紹介したことに対するお礼も含まれていると思います」 ビーチは猪苗代湖西岸の会津若松市湊町にある。寺木氏の実家の近所だ。5月上旬、筆者は湖岸を訪れた。キャンパーたちのテントが張られている崎川浜から猪苗代湖を右手に北に向かい、砂利道を3分くらい歩くと「聖光学院所有地 一般の方は立入禁止」との看板が出てきた。ゲートとして金属製の棒が横に掛けられ、通れなくなっていた。 横浜市の「聖光学院」が所有するプライベートビーチの入り口。マルト建設は管理人に使用を許された寺木氏を通じて使っていた。  「聖光学院」とあるが、伊達市の甲子園常連校ではなく、神奈川県横浜市にある中高一貫の学校法人だ。 寺木氏の法廷での証言によると、ビーチには聖光学院の合宿施設があり、毎夏生徒たちが訪れていたが、震災・原発事故以降は使われていなかった。寺木氏の両親らがビーチに水道設備を作り、生徒らの食事や洗濯を世話していた縁で、寺木家はビーチを無償で使用できるようになったという。小学校時代の寺木氏にとっては格好の遊び場だった(検察官が読み上げたビーチ管理人の供述調書と寺木氏の証言より)。 寺木氏と上野氏は少なくとも2006年ごろから担当工事を通じてお互いを知った。10年ごろにビーチの近くで2人はばったり会い、上野氏はゲートに閉ざされた聖光学院のビーチを寺木氏が自由に使える理由を聞いた。事情を知った上野氏は、マルト建設の社員たちもビーチを使えるように所有者と管理人に話を通してほしいと頼んだ。 寺木氏は「今年も使わせてほしい」と上野氏から連絡を受けると、「マルト建設が使うからよろしく」と近所に住む管理人に伝える仲になった。 これを機に、2011年ごろから寺木氏は、マルト建設が新年会として郡山市やいわき市のゴルフ場で開いているコンペに招かれるようになった。費用は同社の接待交際費から捻出。県職員と公共事業の受注者が一緒にゴルフをプレーすれば疑念を抱かれるので、寺木氏は実在する同社取締役の名前を偽名に使わせてもらい参加した。 寺木氏によると、マルト建設の棚木氏に予定価格を教えたのは2019年の夏か秋ごろからだった。仕事の悩みを相談する間柄になり、恩を感じて教えるようになった。裁判ではこれ以降に贈収賄罪が成立したとされ、寺木氏と上野氏は罪を認めている。ただし、どの入札に価格漏洩が反映されていたかは、検察側は公判で言及しなかった。 入札不正は根深い。寺木氏が初めて業者に予定価格を教えたのは2008、09年ごろ、別会社の社員Aに対してだった。寺木氏はAに人間関係や仕事の悩みを相談し、助言を受けていた。「Aさんしか頼れる人がいなかった」とも。そのうち「設計金額を教えてほしい」と請われ、断れなくなった。その後も複数回教え、さらに別の2社の社員にも教えるようになった。 明確になった「ライン」 上野氏と寺木氏が接近するきっかけとなった猪苗代湖西岸。プライベートビーチは林の向こうにある。  マルト建設の棚木氏に教えるようになったのは、会津坂下町のある業者の社員の紹介だった。寺木氏は限られた営業担当者に教えたはずの予定価格が、他の業者にも広まっているのを薄々感じていたという。 棚木氏は当初、上野氏と同じく寺木氏への贈賄の疑いで逮捕されたが、実際に裁判で問われた罪は公契約関係競売入札妨害だった。2021年に県会津農林事務所が入札を行った事業に関し、寺木氏から得た情報を自社ではなく、個人的に親しかった会津若松市のB社の営業担当者に教えていた。同様の工事が前回は応札する業者がおらず不調だったこと、今回はB社のみの応札だったことから、棚木氏は教えるハードルが下がっていたと振り返った。 本誌の取材に応じたB社の役員は「棚木氏が県職員から予定価格を教えてもらっているとは夢にも思わなかった。日々向上を重ねている積算の技術で落札したもの」と話した。 業界関係者は「今は積算ソフトの性能が向上し、高い精度で予定価格を割り出せる。警察沙汰になるようなリスクを犯し、公務員から予定価格を教えてもらうのは割に合わない」と業界の常識を話す。 寺木氏は、個人的な相談をきっかけに各社の営業担当者らと親しくなり、予定価格漏洩の「穴」となった。マルト建設の棚木氏はそのうちの1人。同社前社長の上野氏は、プライベートビーチの使用を契機に寺木氏に接近し、受注業者と公務員の不適切な関係を問われた。 贈収賄と入札妨害の関係を一つひとつ紐解くのは困難で、当事者も全体像はつかめていないだろう。ただ言えるのは、公務員は予定価格の漏洩、民間業者はその公務員と疑念を抱かれる関係を持つことが「越えてはいけないライン」ということだ。 あわせて読みたい 【マルト建設】贈収賄事件の真相 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設

  • 【マルト建設】贈収賄事件の真相

     土木建築業のマルト建設㈱(会津坂下町牛川字砂田565)が揺れている。社長と営業統括部長が県職員への贈賄容疑で逮捕されたが、同じタイミングで町内では、役場庁舎の移転候補地の一つに同社が関わっていることが判明。町と同社の間でそこに移転することが既に決まっているかのような密約説まで囁かれている。しかし取材を進めると、贈収賄事件も密約説も公になっていない真実が潜んでいることが分かった。 誤解だった旧坂下厚生病院跡地〝密約説〟 マルト建設本社  マルト建設は1971年設立。資本金9860万円。役員は代表取締役・上野清範、取締役・上野誠子、佐藤信雄、根本香織、鈴木和弘、棚木光弘、成田雅弘、馬場美則、監査役・上野巴、上野洋子の各氏。  土木建築工事業と砂・砂利採取業を主業とし、会津管内ではトップクラスの完工高を誇る。関連会社に不動産業のマルト不動産㈱(会津若松市、上野清範社長)、石油卸売業の宝川産業㈱(同市、根本香織社長)、測量・設計企画業の東北都市コンサル㈱(同市、鵜川壽雄社長)がある。 マルト建設が贈収賄事件の渦中にあるのは、地元紙等の報道で読者も周知のことと思う。1月23日、社長の上野清範氏(45)と、取締役で営業統括部長の棚木光弘氏(59)が逮捕された。両氏は県会津農林事務所発注の公共工事の入札で、同事務所農村整備課主査の寺木領氏(44)から設計金額を教えてもらった見返りに、飲食代やゴルフ代など約26万円相当の賄賂を供与したとされる。 報道によると、①寺木氏が賄賂を受けたのは2020年3月から22年4月ごろ、②マルト建設は会津農林事務所が19~22年度に発注した公共工事のうち17件を落札、③寺木氏が19~21年度に設計・積算を担当した工事は7件で、このうち同社が落札したのは1件、④寺木氏が教えたとされる入札情報が、自身の業務で知り得たのか、他の手段で入手したのかは分からない、⑤寺木氏は22年4月から県中農林事務所に勤務――等々が分かっている。 一方、分かっていない点もある。寺木氏から教えてもらった入札情報をもとに、マルト建設が落札した工事はどれか、別の言い方をすると、同社が供与した賄賂は、どの工事に対する見返りだったのかが判然としないことだ。 実際、寺木氏と上野氏の起訴後、福島民報は《(起訴状によると)12回にわたり、いわき市の宿泊施設など7カ所で飲食、宿泊、ゴルフ代など26万2363円分の接待》(2月14日付)と報じ、賄賂の中身は詳細になったが、賄賂と落札した工事のつながりは相変わらず見えない。 上野氏が否認する理由  興味深い点がある。棚木氏は贈賄罪について不起訴になったことだ。これに対し、寺木氏は「棚木氏に入札情報を教えたことは間違いない」と容疑を認めている。 つまり今回の事件は、寺木氏が棚木氏に入札情報を教え、寺木氏に賄賂を供与したのは上野氏という構図になる。だから、贈賄に直接関与していない棚木氏は不起訴になったとみられるが、興味深い点は他にもある。上野氏が「知らない」「関係ない」と容疑を否認していることだ。 寺木氏は入札情報を教えたことを認めているのに、上野氏は賄賂を供与したことを認めていない。これでは贈収賄は成立しないことになる。 なぜ、上野氏は容疑を否認しているのか。それは、上野氏に「賄賂を供与した」という認識が一切ないからだ。実は、上野氏と寺木氏は友人関係にあり、父親の代から接点があるという。 本誌の取材に、上野氏をよく知る人物が語ってくれた。 「寺木氏は猪苗代湖の近くに自宅があり、父親は浜の管理などの仕事をしていた。プライベートビーチも持っていた。一方、上野氏の父親はアウトドアレジャーが趣味で、上野氏自身もボートを所有している。マルト建設は昔から、夏休みに社員家族を招待して猪苗代湖でキャンプをしていたが、その場所が寺木氏のプライベートビーチだった。同社はタダ同然で借りていたそうです。今は新型コロナの影響で中止されているが、キャンプは両氏の父親の代から始まったそうだ」 44歳の寺木氏と45歳の上野氏は互いの父親を通じて、子ども時代から面識があった可能性もある。 そんな両氏は大人になり、県職員と社長になっても今までと変わらない付き合いを続けていたようだ。 「一緒に飲んだり、ゴルフをすることもあったと思います。そのお金は割り勘の時もあれば、どっちかがおごる時もあったでしょうね」(同) 普段からこういう付き合いをしていれば、ふとした拍子に仕事の話をしても不思議ではないように思えるが、上野氏を知る人物は「上野氏がプライベートで仕事の話をすることはない」と断言する。 「社内でも上野氏が仕事の話をすることはほとんどないそうです。『この仕事は絶対に取れ』とか『こういう業績では困る』といった指示もない。あるのは『こういう仕事をやります』とか、落札できた・できなかったという社員からの報告と、それに対する『分かった』という上野氏の返事だけ。仕事の細かいことは全く気にしない(知らない)上野氏が、入札情報にいちいち興味を示すとは思えない」(同) そんな上野氏との個人的関係とは別に、寺木氏が接点を持ったのが棚木氏だった。 棚木氏は会津地方の土木建築会社を経て、十数年前にマルト建設に入社。官公庁の仕事を一手に引き受ける責任者の役目を担っていた。 上野氏を知る人物は、寺木氏と棚木氏がどういう経緯で知り合ったかは分からないという。ただ、棚木氏が賄賂を渡していないのに寺木氏が入札情報を教えたということは、こんな推察ができるのではないか。 ①寺木氏が会津農林事務所に勤務したタイミングで営業活動に訪れたのが棚木氏だった。②その時、寺木氏は棚木氏が「上野氏の部下」であることを知り、親近感を抱くようになった。③そのうち「上野氏にはいつも世話になっているから」と、棚木氏に入札情報を教えるようになった。④だから、寺木氏と棚木氏の間に賄賂は介在しなかった――。 「要するに、上野氏が払った飲食代やゴルフ代は友人として寺木氏におごっただけで、寺木氏が棚木氏に入札情報を教えた見返りではないということです。にもかかわらず警察や検察から『賄賂だろ』と迫られたため、上野氏は『そうじゃない』と否認しているんだと思います」(同) これなら、賄賂と落札した工事のつながりが見えないことも納得がいく。上野氏にとっては「単におごった金」に過ぎないので、落札した工事とつながるはずがない。上野氏は今ごろ「なぜ友人との遊び代が賄賂にすり替わったんだ」と不満に思っているのではないか。 もともと業界内では「たった26万円の賄賂で工事を取るようなリスクを犯すだろうか」と上野氏の行為を疑問視する声が上がっていた。「東京オリンピックの談合事件のように数百万円の賄賂で数十億円の仕事が取れるならリスクを犯す価値もあるが、26万円の賄賂で逮捕されたら割に合わない」というのだ。つまり業界内にも「26万円は本当に賄賂なのか」といぶかしむ声があるわけ。 とはいえ、公共工事の受発注の関係にあった寺木氏と上野氏が親しくしていれば、周囲から疑惑の目を向けられるのは当然だ。 「昔から友人関係にあったとしても、立場をわきまえて付き合う必要はあったし、せめて寺木氏が会津管内に勤めている間は距離を置くべきだった」(前出・上野氏を知る人物) 寺木氏もまた、県の職員倫理規則で申告が義務付けられている利害関係者との飲食やゴルフを届け出ておらず、事後報告もしていなかった。脇の甘さは両氏とも同じようだ。 ただ、両氏の付き合い方を咎めることと26万円が本当に賄賂だったかどうかは別問題だ。上野氏が今後も容疑を否認し続けた場合、検察はそれでも「落札した工事の見返りだった」と主張するのか。26万円が賄賂ではなかったとすれば、贈収賄事件の構図はどうなるのか注目される。 更地になったら買う約束 建物の解体工事が行われている旧厚生病院(撮影時は冬季中断中だった)  本誌先月号に会津坂下町役場の新築移転に関する記事を掲載した。 現庁舎の老朽化を受け、町は2018年3月、現庁舎一帯に新庁舎を建設することを決めたが、半年後、財政問題を理由に延期。それから4年経った昨年5月、町民有志から町議会に建設場所の再考を求める請願が出され、賛成多数で可決した。 町は新庁舎候補地として①現庁舎一帯、②旧坂下厚生総合病院跡地、③旧坂下高校跡地、④南幹線沿線県有地の四カ所を挙げ、町民にアンケートを行ったところ、旧厚生病院跡地という回答が多数を占めた。 ところが、昨年12月定例会で五十嵐一夫議員が「旧厚生病院跡地は既に売却先が決まっており、新庁舎の建設場所になり得ない」と指摘。「売却先が決まっていることを知らなかったのか」と質問すると、古川庄平町長は「知らない」と答弁した。 五十嵐議員によると「JA福島厚生連に問い合わせた結果、文書(昨年10月3日付)で『売却先は〇〇社に決まっている』と回答してきた」という。文書には〇〇社の実名も書かれていたが、五十嵐議員は社名を明かすことを控えており、筆者も五十嵐議員に尋ねてみたが「教えられない」と断られた。 JA福島厚生連にも売却先を尋ねたが「答えられない」。 公にはなっていない売却先だが、実はマルト建設が取得する方向で話が進んでいる。ちなみに同社は、旧厚生病院の建物解体工事を受注しており、昨年12月末から今年2月末までは降雪を考慮し工事が中断されていたが、3月から再開され、6月に終了予定となっている。ただ、敷地内から土壌汚染対策法の基準値を超える有害物質が検出され、土壌改良が必要となり、工事は年内いっぱいかかるとみられる。 ある事情通が内幕を明かす。 「工事が終了したら正式契約を交わす約束で、マルト建設からは買付証明書、厚生連からは売渡承諾書が出ている。売却価格は厚生連から概算で示されているようだが、具体的な金額は分からない」 マルト建設は建物解体工事を受注した際、JA福島厚生連から「跡地を買わないか」と打診され「更地になったら買う」と申し入れていた。 「厚生連には跡地利用の妙案がなく、更地後も年間数百万円の固定資産税がかかるため早く手放したいと考えていた。マルト建設は取得するつもりは一切なかったが、解体工事で世話になった手前、無下には断れなかったようです」(同) そのタイミングで浮上したのが旧厚生病院跡地に役場庁舎を新築移転する案だったが、ここでマルト建設に思わぬ悪評がついて回る。密約説だ。すなわち、同社は同跡地が候補地になることを知っていて、厚生連から取得後、町に売却することを考えた。新庁舎建設が延期された2018年、同跡地は候補地に挙がっていなかったのに今回候補地になったのは、町と同社の間に密約があったから――というのだ。 密約説は、現庁舎一帯での新築を望む旧町や商店街で広まっている。 「旧町や商店街は役場が身近にあることで生活や商売が成り立っているので、旧厚生病院跡地への移転に絶対反対。だから、密約説を持ち出し『疑惑の候補地に移転するのではなく、2018年に決めた現庁舎一帯にすべき』と主張している」(同) しかし、結論を言うと密約は存在しない。 古川町長は、旧厚生病院跡地の売却先が決まっていることを知らなかったとしているが、実際は知っていたようだ。というのも、町は同跡地を新庁舎の候補地に挙げる際、マルト建設に「町で取得しても問題ないか」と打診し、内諾を得ていたというのだ。ただし取得の方法は、密約説にある「マルト建設がJA福島厚生連から取得後、町に売却する」のではなく、前述の買付証明書と売渡承諾書を破棄し、同社は撤退。その後、町が厚生連から直接取得することになるという。 この問題は、古川町長が五十嵐議員の質問に「知っていた」と答え、具体的な取得方法を示していれば密約説が囁かれることもなかったが、役所は性質上「正式に決まったことしか公表しない」ので、旧厚生病院跡地の取得を水面下で進めようとしていた以上、「知らなかった」こととして取り繕うしかなかったわけ。 JA施設集約を提案 会津坂下町の周辺地図  このように、役場庁舎の新築移転先に決まるのかどうか注目が集まる旧厚生病院跡地だが、これとは全く別の利用法を挙げているのが会津坂下町商工会(五十嵐正康会長)だ。 同商工会は昨年末、古川町長に直接「まちづくりの視点から旧厚生病院跡地を有効活用すべき」と申し入れ、具体策として町内に点在するJA関連施設の集約を提案した。 五十嵐会長はこう話す。 「町内にはJA会津よつば本店や各支店をはじめ、直売所のうまかんべ、パストラルホールなど多くのJA関連施設が点在するが、老朽化が進み、手狭になっている。そういった施設を旧厚生病院跡地に集約し、農業の一大拠点として機能させれば町内だけでなく会津西部の人たちも幅広く利用できる。直売所も駐車場が広くとれるので、遠方からも客が見込めるし、町内外の組合員が商品を納めることもできる。農機具等の修理工場も広い敷地がほしいので、同跡地は適地だと思います」 土地売買も、JA福島厚生連とJA会津よつばで交渉すれば、同じJAなのでスムーズに進むのではないかと五十嵐会長は見ている。 「新しい坂下厚生病院とメガステージ(商業施設)が町の北西部にオープンし、人の流れは確実に変わっている。商工会としては、人口減少が進む中、会津坂下町は会津西部の中心を担う立場から、広い視野に立ったまちづくりを行うべきと考えている。そのためにも、旧厚生病院跡地はより有効な活用を模索すべきと強く申し上げたい」(同) JA関連施設を集約するということは、事業主体はJAになるが、五十嵐会長は「町がJAに『こういう方法で一緒にまちづくりを進めてみないか』と提案するのは、むしろ良いことだと思う」。 ちなみに同商工会では、新庁舎をどこに建設すべきと言うつもりは一切なく、新庁舎も含めて将来の会津坂下町に必要な施設をどこにどう配置すべきかを、町民全体で今一度考えてはどうかと主張している。 密約説からJA関連施設集約案まで飛び出す旧厚生病院跡地。そこに関わるマルト建設は贈収賄事件が重なり、しばらく落ち着かない状況が続く見通しだ。 マルト建設は本誌の取材に「この度の事件では、多方面にご迷惑をおかけして本当に申し訳ない。当面の間、取材は遠慮したい」とコメントしている。 その後 ※古川町長は2月22日の町議会全員協議会で、新庁舎の建設場所を旧厚生病院跡地にする方針を示した。敷地面積2万1000平方㍍のうち1万平方㍍を利用する。用地取得費が多額になる見通しのため、町議会と協議しながら今後のスケジュールを決めるとしている。 あわせて読みたい 元社長も贈賄で逮捕されたマルト建設 庁舎新築議論で紛糾【継続派と再考派で割れる】 (2022年10月号) 現在地か移転かで割れる【会津坂下町】庁舎新築議論 (2023年2月号)

  • 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄の罪に問われた元市職員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。賄賂を贈った市内の土木建築業の前社長にも執行猶予付きの有罪判決。事件に関わる裁判は終結したが、有罪となったのは氷山の一角に過ぎない。「不正入札の常態化」を作り上げた歴代の首長と後援業者、担当職員の責任が問われる。 執行部・議会は真相究明に努めよ  元市職員の武田護氏(47)=郡山市在住、旧大越町出身=は二つの贈収賄ルートで罪に問われていた。贈賄業者別に一つは三和工業ルート、もう一つは秀和建設ルートだ。 三和工業ルートで、護氏は同社役員(当時)武田和樹氏(48)=同、執行猶予付き有罪判決=に県が作成した非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取っていた。単価表は入札予定価格を設定するのに必要な資料で、全資材単価が記された単価表は、受注者側からすると垂涎ものだ。 近年は民間業者が販売する積算ソフトの性能が向上し、個々の業者が贈賄のリスクを犯して入手するほどの情報ではなかったため、当初から背後にソフト制作会社の存在が囁かれていたが、主導していたのは仙台市に本社がある㈱コンピュータシステム研究所だった。営業担当者が和樹氏を通して、同氏と中学時代からの友人である護氏からデータを得ていた。和樹氏は、同研究所から見返りに1件につき2万円分の商品券を受け取り、護氏と折半していた。ただ、同研究所と和樹氏の共謀は成立せず、贈賄側は和樹氏だけが有罪となった。 求人転職サイトを覗くと、同研究所の退職者を名乗る人物が「会社ぐるみで非公開の単価表の入手に動いていたが、不正を行っていたことを反省していない」と「告発」している。本誌は同社に質問状を送ったが「返答はしない」との回答を寄せたこと、昨年12月号の記事「積算ソフト会社の『カモ』にされた市と業者」に対して抗議もないことから、会社ぐるみで不正を行い、入手した単価表のデータを自社製品に反映させていた可能性が高い。「近年は積算ソフトの性能が上がっている」と言っても、こうした業者の「営業努力」の結果に過ぎない面もある。 もう一つの秀和建設ルートは、市発注の除染除去物端末輸送業務の入札で起こった。武田護氏は同社の吉田幸司社長(当時)とその弟と昵懇になり、2019年6月から9月に行われた入札で予定価格を教えた。見返りに郡山市の飲食店で総額約30万円の接待を受けた。 護氏は裁判で「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」と動機を述べていた(詳細は本誌1月号「裁判で暴かれた不正入札の構図 汚職のきっかけは前市長派業者への反感」参照)。護氏からすると、「真面目にやっている人」とは今回罪に問われた三和工業や秀和建設。一方、「楽に仕事を得ようとしている人たち」とは本田仁一前市長派の業者だった。 本田前市長派業者の社長らは田村市復興事業協同組合(現在は解散)の組合長や本田後援会の会長を務めていた。検察はこの復興事業協同組合が受注調整=談合をしていた事実を当人たちから聞き出している。組合長を務めていた富士工業の猪狩恭典社長も取り調べで認めたという。同市の公共工事をめぐっては、かねてから談合のウワサはあったが、裁判が「答え合わせ」となった形。 護氏は、一部の業者が本田前市長の威光を笠に着て、陰で入札を仕切っていたことに反感を抱いていたのだろう。 もっとも、不正入札を是正しようと三和工業や秀和建設に便宜を図ったとしても、それは新たな不正を生んだだけだった。護氏は裁判で「民間企業にはお堅い役所にはない魅力があった」と赤裸々に語り、ちゃっかり接待を楽しんでいた。こうなると前市長派業者への反感は、収賄を正当化するための後付けの理由にしか聞こえない。裁判所も「不正をした事実に変わりはない」と情状酌量はしていない。 政治家に翻弄される建設業者  市内の業者は、長く政治家に翻弄されてきた。本田前市長派業者に従わなければ仕事を得られなかったことを示すエピソードがある。田村市船引町は玄葉光一郎衆院議員(58)=立憲民主党=の出身地で強固な地盤だ。対する本田前市長は自民党。県議時代は党県連の青年局長や政調会副会長などを務めた。 三和工業の事務所では、冨塚宥暻市長の時代、玄葉氏のポスターを張っていた。冨塚氏は玄葉氏と近い関係にあった。しかし、県議を辞職して市長選に挑んだ本田氏が冨塚氏を破ると、冨塚氏や玄葉氏を応援していた業者は次第に本田派業者から圧力を掛けられ、市発注の公共工事で冷や飯を食わされるようになったという、ある建設会社役員の証言がある。 三和工業に張られていた玄葉氏のポスターが剥がされ、本田氏のポスターに張り替えられたのはその時期だった。「三和もとうとう屈したか」とその役員は思ったという。 本田前市長とその後援業者が全ての元凶と言いたいのではない。裁判では、少なくとも冨塚市長時代から不正入札が行われていたことが判明した。自治体発注の事業が経営の柱になっていることが多い建設業は、政治家に大きく左右されるということ。極端な話、政治は公共事業の便宜を図ってくれそうな立候補者が建設業者の強力な支援を得て、選挙に勝ち続ける仕組みになっている、と言えなくもない。 田村市の贈収賄事件は、本田前市長とその後援業者が露骨に振る舞った結果、ただでさえ疑念にあふれていた入札がさらに歪んで起きた。 田村市は検察、裁判所という国家機関の介入により全国に恥部をさらすことになった。事件を受け、市民は市政に対する不信感を増幅させており、市職員のモチベーションは下がっているという。 護氏は、自分以外にも入札価格を漏洩する市職員がいたこと、本田前市長とその意向を受けた市幹部が不必要と思える事業を作り、本田前市長派業者が群がっていたことをほのめかしているから、現役の市職員が戦々恐々とし、仕事に身が入らないのも分かる。時効や立証の困難さから護氏以外の職員経験者が立件される可能性は低いが、市は今後のために内部調査をするべきだろう。白石高司市長にその気がないなら、市議会が百条委員会を設置するなどして真相究明する必要がある。 原稿執筆時の1月下旬、県職員とマルト建設(会津坂下町)の社長、役員が入札に関わる贈収賄容疑で逮捕された。入札不正を根絶するためにも、田村市は率先して調査・改善し、県や他市町村の参考になり得る「田村モデル」をつくるべきだ。 「過ちて改めざる是を過ちという」。誇りを取り戻すチャンスはまだある。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

  • 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図

     田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄に問われた元市職員の判決が1月13日午後2時半から福島地裁で言い渡される。裁判では除染関連の公共事業発注に関し、談合を主導していた業者の証言が提出された。予定価格の漏洩が常態化していたことも明らかになり、事件は前市長、そして懇意の業者が共同で公共事業発注をゆがめた結果、倫理崩壊が市職員にも蔓延して起こったと言える。 汚職のきっかけは前市長派業者への反感  元市職員の武田護被告(47)=郡山市=は市内の土木建築業者から賄賂を受け取った罪を全面的に認めている。昨年12月7日の公判で検察側が求めた刑は懲役2年6月と追徴金29万9397円。注目は実刑か執行猶予が付くかどうかだ。立件された贈賄の経路は二つある。  一つは三和工業の役員(当時)に非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取ったルート。もう一つが秀和建設ルートだ。市発注の除染除去物質端末輸送業務に関し、2019年6月27日~9月27日にかけて行われた入札で、武田被告は予定価格を同社の吉田幸司社長(当時)に教えた見返りに飲食の接待を受けた。同社は3件落札、落札率は96・95~97・90%だった。  三和工業の元役員には懲役8月、執行猶予3年が確定した。秀和建設の吉田氏は在宅起訴されている。  田村市は設計金額と予定価格を同額に設定している。武田被告は少なくともこの2社に設計金額を教え、見返りを得ていた。他の業者については、見返りの受け取りは否定しているが、やはり教えてきたという。  入札の公正さをゆがめ、公務員としての信頼に背いたのは確かだが、後付けとはいえ彼なりの理由があったようだ。2社に便宜を図った動機を取り調べでこう述べている。  「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」  「真面目にやっている人」とは武田被告からすると三和工業と秀和建設。では「楽に仕事を得ようとしている人」とは誰か。それは、本田仁一前市長時代に受注調整=談合を主導していた「市長派業者」を指している。検察側は田村市で行われていた公共事業発注について、次の事実を前提としたうえで武田被告に尋問していた。  ・船引町建設業組合では事前に落札の優先順位を決めるのが慣例だった。  ・除染除去物質端末輸送業務では一時保管所を整地した業者が優先的に落札する決まりがあった。  ・田村市復興事業協同組合(既に解散)が受注調整=談合をしていた。  これらの事実は船引町建設業組合を取りまとめる業者の社長と市復興事業協同組合長を務める業者の社長が取り調べで認めている。  「落札の優先順位を定める円滑調整役だった。業者は優先順位に従って落札する権利を与えられ、業者同士が話し合う。どこの輸送業務をどの業者が落札するか決定し、船引町の組合には結果が報告されてくる。それを同町を除く市内の各組合長に伝えていた」(船引町建設業組合長)  市復興事業協同組合長も「一時保管所を整地したら除染土壌の運搬も担うよう他地区と調整していた」と認めている。この組合長については本誌2018年8月号「田村市の公共事業を仕切る〝市長派業者〟の評判」という記事で市内の老舗業者が言及している。  「本田仁一市長の地元・旧常葉町に本社がある㈱西向建設工業の石井國仲社長は本田市長の後援会長を務めている。一方、市内の建設業界を取り仕切るのは田村市復興事業組合で組合長を務める富士工業㈱の猪狩恭典社長。この2人が『これは本田市長の意向だ』として公共工事を仕切っているんです」(同記事より)  除染土壌の輸送業務をめぐっては業者が落札の便宜を図ってもらうために、本田前市長派業者の主導で市に多額の匿名寄付をし、除染費用を還流させていた問題があった。元市職員が刑事事件に問われたことで、公共事業発注の腐敗体質が明らかになったわけだ。  武田被告は本田前市長派業者による不正が行われていた中で、自分も懇意の業者に便宜を図ろうと不正に手を染めたことになる。取り調べに「楽に仕事を得ようとする業者」に反感があったと語ったが、自分もまた同様の業者を生み出してしまった。田村市では予定価格を業者に教えるのが常態化していたというから、規範が崩れ、不正を犯すハードルが低くなっていたことが分かる。 不必要な事業を発注か  武田被告は公共事業発注の腐敗体質について、市の事業に決定権を持つ者、つまり本田前市長や職員上層部の関与もほのめかしている。  「我々公務員は言われた仕事をやる立場。決定する立場の人間が必要な事業なのか判断しているのか疑問だった。そのような事業を取る会社はそういう(=楽をして仕事を取ろうとする)会社も見受けられた」  上層部が不必要な事業をつくり、一部の業者が群がっていたという構図が見て取れる。  武田被告が市職員を辞めたのは2022年3月末。本誌は前号で、宮城県川崎町の職員が単価表データを地元の建設会社役員と積算ソフト会社社員に漏らして報酬を受け取った事件を紹介した。本誌は同種の事件を起こしていた武田被告が立件を恐れて退職したとみていたが、本人の証言によると、単に「堅苦しい役所がつまらなかった」らしい。  2022年1~2月には就職活動を行い、土木資料の販売を行う民間会社から内定を得た。市役所退職後の4月から働き始め、市の建設業務に携わった経験を生かして営業やパソコンで図面を作る仕事をしていた。市役所の閉塞感から解放され「楽しくて、初めて仕事にやりがいを感じた」という。  武田被告は1995年3月に短大を卒業後、郡山市の広告代理店に就職。解雇され職探しをしていたところ、父親の勧めで96年に旧大越町役場に入庁した。建設部水道課に所属していた2013、14年ごろに秀和建設の役員(吉田前社長の実弟)と知り合い、年に3、4回飲みに行く仲になった。  役所内に情報源を持ちたかった吉田氏の意向で、実弟は武田被告への接待をセッティング。吉田氏と武田被告はLINEで設計金額を教える間柄になった。この時期の贈収賄は時効を迎えたため立件されていない。当時は冨塚宥暻市長の時代だから、市長が誰かにかかわらず設計金額漏洩は悪習化していたようだ。  後始末に追われる白石高司市長だが、自身も公募型プロポーザルの審査委員が選定した新病院施工者を独断で覆した責任を問われ、市議会が百条委員会を設置し調査を進めている。前市政から続く問題で市民からの信頼を失っている田村市だが、武田被告が「市役所はつまらない」と評したように、内部(市職員)からも見限られてはいないか。外部からメスが入ったことを契機に膿を出し切り、生まれ変わるきっかけにするべきだ。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相

     田村市で起きた一連の贈収賄事件。逮捕・起訴された元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品を受け取っていたが、情報を漏らしていた時期が本田仁一前市長時代と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。真相はどうなのか。 賄賂を渡した田村市内業者の思惑  まずは元職員の逮捕容疑を新聞記事から説明する。 《県が作成した公共工事などの積算根拠となる「単価表」の情報を業者に提供した謝礼にギフトカードを受け取ったとして、県警捜査2課と田村署、郡山署は24日午前、元田村市技査で会社員、武田護容疑者(47)=郡山市富久山町福原字泉崎=を受託収賄の疑いで逮捕した。また、贈賄の疑いで、田村市の土木工事会社「三和工業」役員、武田和樹容疑者(48)=郡山市開成=を逮捕した。  逮捕容疑は、護容疑者が、市生活環境課原子力災害対策室で業務をしていた2020年2月から翌年5月までの間、和樹容疑者から単価表の情報提供の依頼を受け、情報を提供した謝礼として、14回にわたり、計14万円相当のギフトカードを受け取った疑い。和樹容疑者は、情報を受けた謝礼として護容疑者にギフトカードを贈った疑い》(福島民友2022年9月25日付) 両者は旧大越町出身で、中学校まで同級生だった(この稿では、両者を「容疑者」ではなく「氏」と表記する)。 武田護氏が武田和樹氏に漏らした単価表とは、県が作成した公共工事の積算根拠となる資料。県内の市町村は、県からこの資料をもらい公共工事の価格を積算している。 県のホームページを見ると土木事業単価表、土木・建築関係委託設計単価表、建築関係事業単価表が載っているが、例えば「令和4年度土木事業単価表」は994頁にも及んでおり、生コンクリート、アスファルト合材、骨材、再生材、ガソリン・軽油など、さまざまな資材の単価が県北(1~6地区)、県中(1~4地区)、県南(1~3地区)、喜多方(1~3地区)、会津若松(1~4地区)、南会津(1~3地区)、相双(1~5地区)、いわき(1~2地区)と地区ごとに細かく示されている。 福島県作成の単価表  ただ単価表を見ていくと、一般鋼材、木材類、コンクリート製品、排水溝、管類、交通安全施設資材、道路用防護柵、籠類など複数の資材や各種工事の夜間単価で「非公表」と表示されている。ざっと見て1000頁近い単価表の半分以上が非公表になっている印象だ。 県技術管理課によると、単価を公表・非公表とする基準は 「単価の多くは一般財団法人建設物価調査会と一般財団法人経済調査会の定期刊行物に載っている数字を使っている(購入している)が、発刊元から『一定期間は公表しないでほしい』と要請されているのです。発刊元からすれば、自分たちが調査した単価をすぐに都道府県に公表されてしまったら、刊行物の価値が薄れてしまうので〝著作権〟に配慮してほしい、と。ただ、非公表の単価は原則1年後には公表されます」 と言う。 とはいえ、都道府県が市町村に単価表を提供する際は全ての単価を明示するため、市町村の積算に支障が出ることはない。問題は、非公表の単価を含む「不完全な単価表」を基に入札金額を積算する業者だ。 業者は、非公表の単価については過去の単価などを参考に「だいたいこれくらいだろう」と予想して積算し、入札金額を弾き出す。業者からすると、その入札金額が、市町村が積算した価格に近いほど「予想が正確」となるから、落札に向けて戦略的な応札が可能になる。 近年、各業者は積算能力の向上に注力しており、社内に積算専門の社員を置いたり、情報開示請求で単価に関する情報を入手し、それを基に専門の積算ソフトを使って積算のシミュレーションを行うなど研究に余念がない。〝天の声〟で落札者が決まったり、役所から予定価格が漏れ伝わる官製談合は、完全になくなったわけではないが過去の話。現在は、昔とは全く趣きの異なる「シビアな札入れ合戦」が行われている。 要するに業者にとって非公表の単価は、市町村が積算した価格を正確に予想するため「喉から手が出るほど欲しい情報」なのだ。 積算ソフト会社に漏洩  「でも、ちょっと解せないんですよね」 と首を傾げるのは市内の建設会社役員だ。 「隣の郡山市では熾烈な価格競争が常に展開されているので、郡山の業者なら非公表の単価を入手し、より正確な入札金額を弾き出したいと考えているはず。しかし、田村市の入札はそこまで熾烈ではないし、三和工業クラスならだいたいの積算で札入れしても十分落札できる。そもそも贈賄というリスクを冒すほど同社は経営難ではない。こう言っては何だが贈賄額もたった14万円。落札するのに必死なら、100万円単位の賄賂を渡しても不思議ではない」 別表①は、和樹氏が護氏から単価表の情報を受け取った時期(2020年2月~21年5月)に三和工業が落札した市発注の公共工事だ。計12件のうち、富士工業とのJVで落札した東部産業団地造成工事は〝別格〟として、それ以外は1億円超の工事が1件あるだけで、他社より多く高額の工事を落札しているわけでもない。同社の落札金額と次点の入札金額も比較してみたが、前出・建設会社役員が言うように、熾烈な価格競争が行われた様子もない。  「三和工業は市内最上位のSランクで、地元(大越)の工事を中心に堅実な仕事をする会社として定評がある。他地域(滝根、都路、常葉、船引)の仕事で目立つのは船引の国道288号バイパス関連の工事くらい。他地域に食い込むこともなければ、逆に地元に食い込まれても負けることはない」(同) 同社(田村市大越町)は1952年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=武田公志、取締役=武田元志、渡辺政弘、武田和樹(前出)、監査役=武田仁子の各氏。 市が公表している「令和3・4年度工種別ランク表」によると、同社は一般土木工事、舗装工事、建築工事で最上位のSランク(S以下は特A、A、Bの順)に位置付けられている。他にSランクは富士工業、環境土木、鈴船建設だけだから、確かに市内トップクラスと言っていい。 民間信用調査機関のデータによると、業績も安定している(別表②)。  なるほど、前出・建設会社役員が言うように、同社の経営状態を知れば知るほど、リスクを冒してまで単価表の情報を入手する必要があったのか、という疑問が湧いてくる。 「単価表の情報を欲しがるとすれば積算ソフト会社です。おそらく和樹氏は、入手した情報を自社の入札に利用したのではなく、積算ソフト会社に横流ししたのでしょう。当然そこには、それなりの見返りもあったはず」(同) 実は、新聞によっては《県警は、武田和樹容疑者が工事の積算価格を算出するソフト開発会社に単価表の情報を渡していたとみて捜査している》(読売新聞県版2022年9月25日付)、《和樹容疑者が護容疑者から得た単価表の情報を自社の入札価格の算出などに使った可能性や、積算ソフトの製作会社に提供した可能性もある》(福島民報同26日付)と書いている。 「積算ソフト会社が業者から求められるのは高い精度です。そのソフトを使ってシミュレーションした価格が、市町村が積算する価格に近ければ近いほど『あの会社のソフトは良い』という評価につながる。つまり、より精度を上げたい積算ソフト会社にとって、非公表の単価はどうしても知りたい情報なのです」(同) 建設会社役員によると、積算ソフト会社はいくつかあるか、市内の業者は「大手2社のどちらかの積算ソフトを使っている」と言い、三和工業は「おそらくA社(取材では実名を挙げていたが、ここでは伏せる)だろう」というから、和樹氏は護氏から入手した情報をA社に横流ししていた可能性がある。 「A社が強く意識したのは郡山の業者でしょう。郡山の方が田村より業者数は多いし、競争もシビアなので積算ソフトの需要も高い。実は単価表の括りで言うと、田村と郡山は同じ『県中地区』に区分されているので田村の単価表が分かれば郡山の単価表も自動的に分かる。『郡山で精度の高い積算ができるソフト』と評判を呼べば、売れ行きも当然変わってきますからね」(同) 困惑する三和工業社員  これなら14万円の賄賂も合点がいく。同級生(護氏)から1回1万円(×14回)で情報を引き出し、それを積算ソフト会社に提供する見返りにそれなりの対価を得ていたとしたら、和樹氏は「お得な買い物」をしたことになる。 ちなみに1年3カ月の間に14回も情報を入手していたのは、単価が物価等の変動によって変わるため、単価表が改正される度に最新の情報を得ていたとみられる。前述・県作成の「令和4年度・土木事業単価表」も4月1日に公表されて以降、10月までに計7回も改正が行われている。 「和樹氏は以前、異業種の会社に勤めていたが、4、5年前に父親が社長を務める三和工業に入社した。そのころは別の役員が積算業務を担い、和樹氏が積算業務を担うようになったのは最近。和樹氏がどのタイミングで積算ソフト会社と接点を持ったのかは分からないが、自宅のある郡山で護氏と頻繁に飲み歩いていたようだし、そこでいろいろな人脈を築いたという話もあるので、その過程で積算ソフト会社と知り合ったのかもしれない」(同) 2022年10月27日現在、和樹氏と積算ソフト会社の接点に関する報道は出ていないが、捜査が進めば最終的に単価表の情報がどこに行き着いたか見えてくるだろう。 事件を受け、三和工業は田村市から24カ月の指名停止、県から21カ月の入札参加資格制限措置の処分を受けた。公共工事を主体とする同社にとっては厳しい処分だ。 2022年10月中旬、同社を訪ねると、応対した男性社員が次のように話した。 「私たち社員もマスコミ報道以上のことは分かっていない。弊社では毎月1日に朝礼があるが、10月1日の朝礼で社長から謝罪があった。市や県から指名停止処分などが科されたことは承知しているが、正式な通知はまだ届いていない。今後の対応はその通知を踏まえたうえで決めることになると思う。ただ、現在施工中の公共工事はこれまで通り続けられるので、まずはその仕事をしっかりこなしていきたい」 ここまで情報を受け取った側の和樹氏に触れてきたが、情報を漏らした側の護氏とはどんな人物なのか。 武田護氏は1996年に合併前の旧大越町役場に入庁。技術系職員として勤務し、単価表の情報を漏らしていた時期は田村市市民部生活環境課原子力災害対策室で技査(係長相当)を務めていた。しかし、2022年3月末に「一身上の都合」で退職。その後は自宅のある郡山で会社勤めをしていた。 突然の早期退職は、自身に捜査が及びつつあるのを察知してのこととみられる。2022年6月には「三和工業の役員が早朝、警察に呼び出され、任意の事情聴取を受けたようだ」というウワサも出ていたから、和樹氏と一緒に護氏も呼び出されていたのかもしれない。 そんな護氏が情報を漏らしていたのは同社だけではなかった。 元職員が一人で積算  《県警捜査2課と田村署、郡山署は14日午後2時15分ごろ、田村市発注の除染関連の公共工事3件の予定価格を別の業者に漏らし、見返りとして飲食の接待などを受けたとして、加重収賄の疑いで武田容疑者を再逮捕した。 再逮捕容疑は、市原子力災害対策室に勤務していた2019(令和元)年6月ごろから11月ごろまでの間、市発注の除染で出た土壌の輸送業務に関係する指名競争入札3件の予定価格について、田村市の土木建築会社役員の40代男性に漏らし、見返りとして計16万円相当の飲食接待などの提供を受けた疑い》(福島民友2022年10月15日付) 報道によると、3件の予定価格は1億8790万円、1億2670万円、3560万円で、前記2件は2019年6月、後記1件は同年9月に入札が行われた。これを基に市が公表している入札結果を見ると、落札していたのは秀和建設だった。 同社(田村市船引町)は1977年設立。資本金2000万円。役員は代表取締役=吉田幸司、取締役=吉田ヤス子、吉田眞也、監査役=佐久間多治郎の各氏。市の「令和3・4年度工種別ランク表」によると、一般土木工事と舗装工事で特Aランクとなっている。 市内の業者によると、吉田幸司社長は以前から体調を崩していたといい、新聞記事にも《県警は男性について、健康上の理由などから任意で捜査を行い、贈賄容疑で近く書類送検するとみられる》(福島民友2022年10月15日付)とあるから、護氏に飲食接待を行っていたのは吉田社長とみられる。ほかにゴルフバックなども贈っていたという。 「護氏と和樹氏は同級生だが、護氏と吉田社長がどういう関係なのかはよく分からない」(業者) 別表③は同社が落札した除染土壌の輸送業務だが、注目されるのは落札率。事前に予定価格を知っていたこともあり、100%に近い落札率となっている。  一方、別表④は同社の業績だが、厳しい状況なのが分かる。除染土壌の輸送業務を落札した近辺は黒字だが、それ以外は慢性的な赤字に陥っている。  「資金繰りに苦労しているとか、後継者問題に悩んでいると聞いたことがある」(同) というから、吉田社長は「背に腹は代えられない」と賄賂を渡してしまったのかもしれない。ただ、収賄罪の時効が5年に対し、贈賄罪の時効は3年で、飲食接待の半分以上は時効が成立しているとみられる。 加えて三和工業とは異なり、秀和建設は10月26日現在、指名停止等の処分は受けていない。 10月中旬、同社を訪ねたが 「社員で事情を分かる者がいないので、何も話せない」(事務員) それにしても、なぜ護氏はここまで好き放題ができたのか。 ある市議によると、護氏は「一部の職員に限られている」とされる、単価表を管理する設計業務システムにアクセスするための専用パスワードとIDを知り得る立場にあった。また、除染土壌の輸送業務では一人で積算を担当し、発注時の設計価格(予定価格)を算出していた。 「除染関連工事の発注は、冨塚宥暻市長時代は市内の業者で組織する復興事業組合に一括で委託し、そこから組合員が受託する方式が採られていたが、本田仁一市長時代に各社に発注する方式に変更された。その業務を担ったのが原子力災害対策室で、当初は技術系職員が複数いたが、除染関連事業が少なくなるにつれて技術系職員も減り、輸送業務が主体になるころには護氏一人になった。結果、護氏が積算を任されるようになり、チェック機能もないまま多額の事業が発注された」(ある市議) 本田仁一前市長  除染土壌の輸送業務は2017~20年度までに約70件発注され、事業費は契約額ベースで約65億円。このうち護氏は19、20年度の積算を一人で行っていた。これなら予定価格を簡単に漏らすことが可能だ。 護氏は10月14日に受託収賄罪で起訴された。今後、加重収賄罪でも起訴される見通しだ。 元職員が二度逮捕・起訴されたことを受け、白石高司市長は次のようなコメントを発表した。 《9月24日の事案と同じく、今回の事案についても、警察の捜査により逮捕に至ったもので、市長として痛恨の極みにほかなりません。あらためて市民の皆様に市政に対する信頼を損なうこととなったことを深くお詫び申し上げます》 前出・市議によると、白石市長は護氏の最初の逮捕後、すぐに県中建設事務所と本庁土木部を訪ね、県から提供された単価表を漏洩させたことを謝罪したという。 前市長の関与を疑う声  一連の贈収賄事件は今のところ、元職員による単独犯の様相を呈しているが、護氏が情報を漏らしていた時期が本田市政(2017~21年)と重なるため、一部の市民から「本田氏と何らかの関わりがあったのではないか」と疑う声が出ている。 実際、田村市役所で行われた9月24日の家宅捜索は捜査員約20人が駆け付け、5時間にわたり関連資料を探すという物々しさだった。その状況を目の当たりにした市役所関係者は「警察は他に狙いがあるのではないか」と話していた。 思い返せば、除染土壌の輸送業務をめぐっては落札業者による多額の匿名寄付問題が起きていたし、当時の公共工事の発注には本田氏を熱心に支持する業者の関与が取り沙汰されたこともあった(詳細は本誌2021年1月号「田村市政の『深過ぎる闇』」を参照されたい)。 しかし、 「本田氏は2021年4月の市長選で落選し、今年3月には公選法違反(寄付禁止)で罰金40万円の略式命令を受けている。もし本田氏が今も市長なら警察も熱心に捜査しただろうが、落選した本田氏に強い関心を寄せるとは思えない。今後の焦点は、護氏がどこまで情報を漏らし、どれくらい対価を得ていたかになると思われます」(前出・市議) 市民の関心をよそに、事件は「大山鳴動して鼠一匹」に終わる可能性もありそうだ。 前市政の後始末に追われるだけでなく、元職員まで逮捕され、白石市長は思い描いた市政運営になかなか着手できずにいる。 あわせて読みたい 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図 第4弾【田村市贈収賄事件】露呈した不正入札の常態化

  • 【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

      田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。 田村市贈収賄「三和工業ルート」の構図  元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の2022年11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。  「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。  問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。  一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。  11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。  次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。  公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。  単価表をめぐるコンピュータシステム研究所の動き 田村市宮城県川崎町1996年武田護氏が大越町(当時)に入庁2014年武田和樹氏が三和工業に入社、護氏と再会し飲みに行く関係に2020年2月ごろ~21年5月ごろ研究所社員のSが和樹氏を仲介役に護氏から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2010年ごろ~2021年4月ごろ研究所の社員と地元建設業役員が共謀して町職員から情報を入手し報酬を渡す関係が続く2021年5月宮城県警が本格捜査2021年6月コンピュータシステム研究所が「コンプライアンス」を理由に非公開の単価表入手をやめる2021年6月30日贈収賄に関わった3人が逮捕2021年7月21日受託収賄や贈賄で3人を起訴2021年12月27日3人に執行猶予付き有罪判決2022年3月末護氏が田村市を退職2022年9月24日贈収賄で福島県警が護氏と和樹氏を逮捕河北新報や福島民報の記事を基に作成  代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。 宮城県で同様の事件  実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。  2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。  同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。  判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。  田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。  共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。   一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。  田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。 狙われた自治体は他にも!?  単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。  本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの2022年11月25日を過ぎても回答はなかった。  川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。  一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。  事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。  全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。 あわせて読みたい 【第1弾】田村市・元職員「連続収賄事件」の真相 第3弾【田村市贈収賄事件】裁判で暴かれた不正入札の構図