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越県・広域合併

  • 建設業者「越県・広域合併」の狙い【ファンド傘下になった小野中村と南会西部建設】

    建設業者「越県・広域合併」の狙い【小野中村】【南会西部建設】

    (2022年10月号)  2021年4月、建設業の山和建設(山形県小国町)と小野中村(相馬市)の持ち株会社が合併し、「山和建設・小野中村ホールディングス(HD)」(仙台市宮城野区)を設立、両社は同HDの傘下になった。2022年7月には南会西部建設コーポレーション(会津若松市)も、同HDの傘下に入り、持ち株会社の名称は「UNICONホールディングス」に変更された。県境をまたいだ建設会社の広域合併は珍しいが、そこにはどんな狙いがあるのか。 ファンド傘下になった小野中村と南会西部建設  山和建設は山形県小国町に本社を置く総合建設業・一級建築士設計事務所。1977年設立。資本金5000万円。民間信用調査会社に業績は掲載されていなかったが、年間売上高は約80〜100億円という。 山和建設代表取締役井上孝取締役小山剛三須三男小野貞人渡部久雄五十嵐九平黒沼理青海孝行中原慎一郎大浦和久阿部猛片山大輔監査役平岡繁  小野中村は1957年設立。資本金7900万円。民間信用調査会社によると、2021年の売上高は77億6800万円(決算期は6月)。2018年に、ともに相馬市に本拠を置く小野建設と中村土木が合併して現社名になった。 小野中村代表取締役小野貞人平澤慎一郎取締役植村卓馬青海孝行中原慎一郎小山剛片山大輔監査役平岡繁  両社は2021年4月、それぞれの持ち株会社が経営統合し、「山和建設・小野中村ホールディングス(HD)」(仙台市宮城野区)を設立した。両社の売上高を合計すると、150億円を超え、東北有数の規模となった。 2022年7月には南会西部建設コーポレーションも同HD傘下になり、持ち株会社の名称は「UNICON(ユニコン)ホールディングス」(以下「ユニコンHD」)に変更された。 UNICONホールディングス代表取締役小山剛取締役青海孝行中原慎一郎小野貞人井上孝植村賢二片山大輔監査役平岡繁  南会西部建設コーポレーションは1976年設立。資本金4930万円。民間信用調査会社によると、2021年の売上高は31億5700万円(決算期は6月)。もともとは只見町に本拠を置く南会工業という会社で、会津若松市に南会工業会津支店を置いていたが、それが独立して西部建設になった。2004年に南会工業と西部建設が合併して現社名になった。 南会西部建設コーポレーション代表取締役植村賢二取締役飯塚信小山剛青海孝行中原慎一郎片山大輔大瀧浩之監査役平岡繁  これにより、ユニコンHDの下に、山和建設、小野中村、南会西部建設コーポレーションの3社が並立する格好となり、売上高200億円規模の建設会社グループが誕生したことになる。なお、各社の役員を別表にまとめた。相互兼務している人物も多い。ユニコンHD代表取締役の小山剛氏は2022年7月までは山和建設の代表取締役も務めていた。3社の中でも、山和建設が中心的存在であることがうかがえる。 小野中村、南会西部建設コーポレーションの事例を見ても分かるように、これまでも建設会社の合併はあった。ただ、それは同一地域内でのことだった。今回のように、県境をまたいでの広域合併は珍しいケースだ。3社を束ねるユニコンHDに「広域合併にはどんな狙いがあるのか聞きたい」と問い合わせたところ、同社の返答は「取材は受けられない」とのことだった。 3社の合併の背景には、「エンデバー・ユナイテッド」(東京都千代田区、三村智彦社長)というファンドの存在がある。同社は2013年設立。資本金8000万円。役員は代表取締役・三村智彦、取締役・飯塚敏裕、平尾覚、鈴木洋之、山下裕子、監査役・平岡繁、山内正彦の各氏。監査役の平岡繁氏はユニオンHDとその傘下の3社でも監査役に就いている。主な事業は投資ファンドの運営で、建設業のほか、製造業、不動産業、飲食業、小売業、サービス業など、さまざまな分野への投資実績がある。民間信用調査会社によると、2022年4月期の売上高は10億円、当期純利益は1800万円となっている。 山和建設は2020年4月、小野中村は2021年1月、南会西部建設コーポレーションは同年12月に、それぞれ同社と資本提携しており、ファンド主導で合併がなされたことがうかがえる。 ちなみに、南会津町の南総建も7月にエンデバー・ユナイテッドと資本提携している。南総建は自社HPで、「現在、エンデバー・ユナイテッドでは、『地域連合型ゼネコン』をコンセプトに掲げるUNICONホールディングスを通じ、地域建設業界の課題解決に取り組んでいます。今般の弊社との資本業務提携もこの取り組みの一環であり、弊社は一定期間を経てUNICONホールディングスグループに参画することを予定しております」と告知している。 ローカル建設会社と言うと、地域に根ざして事業展開する、といったイメージだが、ファンド傘下になったことで、ある程度ドライに利益追求をしていく、ということかもしれない。その一例が「取材拒否」だったのではないか。 それを裏付ける証言として、ある下請け会社によると、「合併前の会社の下で仕事を請けていた(下請けに入っていた)が、合併後は『われわれの一存では決められない』、『いままで通りの付き合いは難しい』と言われた」という。 代表3者が語る狙い 互いに手を取る3社の代表、右から植村氏、小山氏、小野氏(UNICONホールディングスのHPより)  その一方で、建設業は先行きが不安定な業界というイメージだが、ファンドからすると、投資する価値がある、ということになる。 業界団体の関係者は「ファンドからすると、大幅な浮揚は難しいとしても、向こう10年くらいは食っていけるという判断なのでしょう」とのこと。 ユニオンHDのHPに小山氏(山和建設)、小野氏(小野中村)、植村氏(南会西部建設コーポレーション)の鼎談が掲載されている。その中から、「広域統合の狙い」に関連する部分を要約して拾ってみる。   ×  ×  ×  × 小山「3社はいずれも公共土木工事の元請を軸としていますが、地域性に加え、取り組んでいる工事が違います。山和建設はダムなどの砂防工事や高速道路などの未開発な地域での工事が多い。小野中村は河川や海岸工事、南会西部建設は除雪や浚渫工事など険しい場所での工事に強みがあり、互いに無い強みを有しています」 小山「我々は3社、つまり3拠点で200億円です。グループ間の連携を更に強化し、互いに力を合わせ、より大型の工事を狙うことで、売上の増加を図りたい」 小山「昨今の人材不足は業界全体の課題ですが、我々は各会社での個社採用を前提としつつ、技術者を工事の繁閑に応じて3社に流動的に異動させることを考えています。これは国土交通省が提唱してきた新しいスキームを活用する試みで、おそらく全国で初めて我々が取り組むことになります。3拠点のどこからでも機動的に動ける体制は、周りのゼネコンに対して大きな競争力になると考えています」 小野「3社間で技術者を融通しあうことで、各エリアの仕事を効率的に受注することが出来ると考えています。ただし、技術者は誰でも良いわけではなく、社員の一人ひとりが常にスキルを向上させ、成長していかないといけません。グループとしてさまざまな工事を経験できるUNICONホールディングスは、技術者一人ひとりに具体的な成長の機会を提供できると思います」 小山「公共工事の入札は、地元企業には『地域密着』というアドバンテージがあります。これは『地域の守り手』としてインフラのメンテナンスを継続的に図っていく必要がある我々の業界にとっては、各々の『地元』で業を営んでいること自体に価値があり、UNICONホールディングスグループは、そうした競争を生き残っていくことと考えています。また、建設業界は一般的には頭打ちとも言われていますが、その中で公共土木の領域は、国土強靭化を背景に今後も投資額の増加が期待される、業界唯一の成長セグメントと考えられます。ただ、公共土木は地域によって発注の波が発生する傾向にあり、我々は地域毎の発注状況に合わせて技術者を配置することで、効率的に案件を受注することが可能です。加えて、これまでは技術者不足により入札を見送らざるを得なかった大規模、高難易度案件に対しても、グループ間で技術者を融通しあうことで受注が可能になります」 植村「グループがより大きな企業集団に成長した時、それは『究極の攻め』にも『究極の守り』にもなります。連携する企業に人材を派遣することは、技術を学べるだけでなく、人材不足も補えるということです。技術者の増強は入札競争力の強化につながり、結果的にグループの企業価値も上がっていくと考えています」 小山「建設業は『地元を守らなければならない』という思いが強いです。同時に会社そのものも激しい競争から守らなければなりません。ただし地元を守っているだけでは会社は存続できず、地元外に進出していかなければならないジレンマがあります。両方を総合的に叶えることできるのがこのUNICONホールディングスです。地元を拠点にしながらも、必要に応じて地元外へ一緒に出ていける強みがあります。我々のビジョンに賛同してくれる企業があれば、是非とも一緒にやっていきたいという思いです。事業規模で選ぶのではない。自社の個性を残しながらも、技術力、経営力をより強くしたいと願う企業とどんどん連携していきたい」   ×  ×  ×  × 各社の強み・弱みの相互補完、技術者の横断による人材育成と公共工事受注機会の増加といった狙いに加え、さらなるグループ企業を加えることも視野に入れているようだ。 業界関係者の見立て  業界関係者は今回の広域合併をどう見ているのか。 ある関係者は「結局のところ、災害復旧などを除けば、今後、仕事が大きく増えることが見込めないからですよ」と話す。 福島県の2011年度当初予算では、公共事業費の全体額は約967億円だった。これは震災前に編成されたもので、震災・原発事故を経て、公共事業費は大幅に増加した。県予算のピークは2015年度(当初)の約3327億円。それ以降は徐々に減少傾向にあり、2022年度(同)は1890億円となっている。近年は震災・原発事故のほかにも、災害が相次いでいるが、いずれは震災前の水準に戻ることになる。 それでも、この間の復興特需で建設業界が持ち直したのは間違いない。本誌では過去に「復興需要により業績改善につながったか」というテーマで業界リポートを掲載したが、その際、業界関係者は次のようにコメントしていた(2017年6月号「復興需要で〝身軽〟になった建設業界の先行き」より)。 「震災前、内部留保があるところはほとんどなかったが、復旧・復興関連工事で業績が改善され、倒産寸前の状況から持ち直したところもある。ただ、もともとが酷かっただけに、まずは債務をなくすこと、その次の段階として、何とか蓄え(内部留保)をつくるところまで持っていき、復興需要が一段落した後の備えができれば、というのがおおよその状況です」(業界団体の関係者) 「震災後、公共土木施設の復旧や除染など、多くの仕事をこなす中、ある程度のストック(内部留保)はできた」(県北地方の建設業者) 「浜通りは津波被災を受けたほか、原発事故で復旧が後回しになったところもあるため、ほかの地域より、量、期間ともに仕事が見込める。それを踏まえながら、借金返済や内部留保を計画的に進めている」(浜通りの建設業者) これらの話から、多くの建設業者の業績改善が図られたのは間違いない。とはいえ、「V字回復」の要因となった復興需要は終焉を迎えた。当然、そのことは建設業者自身も分かっており、関係者は一様に「復旧・復興関連の工事が落ち着いたら、いずれまた厳しい状況になるのは間違いない。だから、いまのうちに力を蓄え、今後のことを考えておかなければならない」と明かしていた。 後継者不在も背景に  ここで言う「今後のこと」の方策の1つが広域合併だった、ということだろう。 「以前(震災前)だったら、ファンドに見向きもされない状況だったかもしれない。それが、震災・原発事故を経て大幅に業績が上向いた。だからこそ、そういった選択肢ができたのです。公共工事は地域・季節などによって発注量に偏りがありますが、広域的な経営統合であれば、その地域で仕事がなくても、人員を遊ばせておかずにグループ内で横断させて仕事をすることできます。それが最大の強みであり、狙いでしょうね」(前出の関係者) 県では2017年に「ふくしま建設業振興プラン」を策定し、2022年度から第2期(第2次ふくしま建設業振興プラン、2030年度まで)に入った。「建設業は、社会資本整備に加え、維持管理、除雪、災害対応などを担うほか、雇用の受け皿にもなっているなど、県民の安全・安心な暮らしを支えるうえで必要不可欠な役割を果たしている」といった観点から、県が取り組むべき建設業振興施策の基本計画として定めたもの。その中に「合併等支援事業」といったメニューがあり、以前から合併は1つの選択肢として示されていたのだ。 もう1つ、背景にはあるのは後継者の問題だという。 「一番大きな問題は、後継者がいないということだと思います。当然、相応の従業員を抱えているわけですから、後継者の問題で経営者・従業員ともに不安を抱えながら仕事をするくらいなら、ファンドの傘下に入って確実に存続させよう、と。もちろん、そういった選択ができるのも復興特需で業績が上向いたから、といった側面もあります。そういう意味では、今回の事例のような県を跨いで、というのは稀でしょうが、福島県の場合は広域的な経営統合は今後も増えると思います」(業界団体の関係者) 復興需要によって各建設業者が〝身軽〟になったからこそ、さまざまな選択肢ができ、その1つがファンド傘下に入ること(広域合併)だったと言えそう。この業界団体の関係者は「越県は稀としても、今後も広域的な経営統合は増えると思う」との見解を示しており、これからの数年間で、同業界は大きく変貌するかもしれない。

  • 建設業者「越県・広域合併」の狙い【小野中村】【南会西部建設】

    (2022年10月号)  2021年4月、建設業の山和建設(山形県小国町)と小野中村(相馬市)の持ち株会社が合併し、「山和建設・小野中村ホールディングス(HD)」(仙台市宮城野区)を設立、両社は同HDの傘下になった。2022年7月には南会西部建設コーポレーション(会津若松市)も、同HDの傘下に入り、持ち株会社の名称は「UNICONホールディングス」に変更された。県境をまたいだ建設会社の広域合併は珍しいが、そこにはどんな狙いがあるのか。 ファンド傘下になった小野中村と南会西部建設  山和建設は山形県小国町に本社を置く総合建設業・一級建築士設計事務所。1977年設立。資本金5000万円。民間信用調査会社に業績は掲載されていなかったが、年間売上高は約80〜100億円という。 山和建設代表取締役井上孝取締役小山剛三須三男小野貞人渡部久雄五十嵐九平黒沼理青海孝行中原慎一郎大浦和久阿部猛片山大輔監査役平岡繁  小野中村は1957年設立。資本金7900万円。民間信用調査会社によると、2021年の売上高は77億6800万円(決算期は6月)。2018年に、ともに相馬市に本拠を置く小野建設と中村土木が合併して現社名になった。 小野中村代表取締役小野貞人平澤慎一郎取締役植村卓馬青海孝行中原慎一郎小山剛片山大輔監査役平岡繁  両社は2021年4月、それぞれの持ち株会社が経営統合し、「山和建設・小野中村ホールディングス(HD)」(仙台市宮城野区)を設立した。両社の売上高を合計すると、150億円を超え、東北有数の規模となった。 2022年7月には南会西部建設コーポレーションも同HD傘下になり、持ち株会社の名称は「UNICON(ユニコン)ホールディングス」(以下「ユニコンHD」)に変更された。 UNICONホールディングス代表取締役小山剛取締役青海孝行中原慎一郎小野貞人井上孝植村賢二片山大輔監査役平岡繁  南会西部建設コーポレーションは1976年設立。資本金4930万円。民間信用調査会社によると、2021年の売上高は31億5700万円(決算期は6月)。もともとは只見町に本拠を置く南会工業という会社で、会津若松市に南会工業会津支店を置いていたが、それが独立して西部建設になった。2004年に南会工業と西部建設が合併して現社名になった。 南会西部建設コーポレーション代表取締役植村賢二取締役飯塚信小山剛青海孝行中原慎一郎片山大輔大瀧浩之監査役平岡繁  これにより、ユニコンHDの下に、山和建設、小野中村、南会西部建設コーポレーションの3社が並立する格好となり、売上高200億円規模の建設会社グループが誕生したことになる。なお、各社の役員を別表にまとめた。相互兼務している人物も多い。ユニコンHD代表取締役の小山剛氏は2022年7月までは山和建設の代表取締役も務めていた。3社の中でも、山和建設が中心的存在であることがうかがえる。 小野中村、南会西部建設コーポレーションの事例を見ても分かるように、これまでも建設会社の合併はあった。ただ、それは同一地域内でのことだった。今回のように、県境をまたいでの広域合併は珍しいケースだ。3社を束ねるユニコンHDに「広域合併にはどんな狙いがあるのか聞きたい」と問い合わせたところ、同社の返答は「取材は受けられない」とのことだった。 3社の合併の背景には、「エンデバー・ユナイテッド」(東京都千代田区、三村智彦社長)というファンドの存在がある。同社は2013年設立。資本金8000万円。役員は代表取締役・三村智彦、取締役・飯塚敏裕、平尾覚、鈴木洋之、山下裕子、監査役・平岡繁、山内正彦の各氏。監査役の平岡繁氏はユニオンHDとその傘下の3社でも監査役に就いている。主な事業は投資ファンドの運営で、建設業のほか、製造業、不動産業、飲食業、小売業、サービス業など、さまざまな分野への投資実績がある。民間信用調査会社によると、2022年4月期の売上高は10億円、当期純利益は1800万円となっている。 山和建設は2020年4月、小野中村は2021年1月、南会西部建設コーポレーションは同年12月に、それぞれ同社と資本提携しており、ファンド主導で合併がなされたことがうかがえる。 ちなみに、南会津町の南総建も7月にエンデバー・ユナイテッドと資本提携している。南総建は自社HPで、「現在、エンデバー・ユナイテッドでは、『地域連合型ゼネコン』をコンセプトに掲げるUNICONホールディングスを通じ、地域建設業界の課題解決に取り組んでいます。今般の弊社との資本業務提携もこの取り組みの一環であり、弊社は一定期間を経てUNICONホールディングスグループに参画することを予定しております」と告知している。 ローカル建設会社と言うと、地域に根ざして事業展開する、といったイメージだが、ファンド傘下になったことで、ある程度ドライに利益追求をしていく、ということかもしれない。その一例が「取材拒否」だったのではないか。 それを裏付ける証言として、ある下請け会社によると、「合併前の会社の下で仕事を請けていた(下請けに入っていた)が、合併後は『われわれの一存では決められない』、『いままで通りの付き合いは難しい』と言われた」という。 代表3者が語る狙い 互いに手を取る3社の代表、右から植村氏、小山氏、小野氏(UNICONホールディングスのHPより)  その一方で、建設業は先行きが不安定な業界というイメージだが、ファンドからすると、投資する価値がある、ということになる。 業界団体の関係者は「ファンドからすると、大幅な浮揚は難しいとしても、向こう10年くらいは食っていけるという判断なのでしょう」とのこと。 ユニオンHDのHPに小山氏(山和建設)、小野氏(小野中村)、植村氏(南会西部建設コーポレーション)の鼎談が掲載されている。その中から、「広域統合の狙い」に関連する部分を要約して拾ってみる。   ×  ×  ×  × 小山「3社はいずれも公共土木工事の元請を軸としていますが、地域性に加え、取り組んでいる工事が違います。山和建設はダムなどの砂防工事や高速道路などの未開発な地域での工事が多い。小野中村は河川や海岸工事、南会西部建設は除雪や浚渫工事など険しい場所での工事に強みがあり、互いに無い強みを有しています」 小山「我々は3社、つまり3拠点で200億円です。グループ間の連携を更に強化し、互いに力を合わせ、より大型の工事を狙うことで、売上の増加を図りたい」 小山「昨今の人材不足は業界全体の課題ですが、我々は各会社での個社採用を前提としつつ、技術者を工事の繁閑に応じて3社に流動的に異動させることを考えています。これは国土交通省が提唱してきた新しいスキームを活用する試みで、おそらく全国で初めて我々が取り組むことになります。3拠点のどこからでも機動的に動ける体制は、周りのゼネコンに対して大きな競争力になると考えています」 小野「3社間で技術者を融通しあうことで、各エリアの仕事を効率的に受注することが出来ると考えています。ただし、技術者は誰でも良いわけではなく、社員の一人ひとりが常にスキルを向上させ、成長していかないといけません。グループとしてさまざまな工事を経験できるUNICONホールディングスは、技術者一人ひとりに具体的な成長の機会を提供できると思います」 小山「公共工事の入札は、地元企業には『地域密着』というアドバンテージがあります。これは『地域の守り手』としてインフラのメンテナンスを継続的に図っていく必要がある我々の業界にとっては、各々の『地元』で業を営んでいること自体に価値があり、UNICONホールディングスグループは、そうした競争を生き残っていくことと考えています。また、建設業界は一般的には頭打ちとも言われていますが、その中で公共土木の領域は、国土強靭化を背景に今後も投資額の増加が期待される、業界唯一の成長セグメントと考えられます。ただ、公共土木は地域によって発注の波が発生する傾向にあり、我々は地域毎の発注状況に合わせて技術者を配置することで、効率的に案件を受注することが可能です。加えて、これまでは技術者不足により入札を見送らざるを得なかった大規模、高難易度案件に対しても、グループ間で技術者を融通しあうことで受注が可能になります」 植村「グループがより大きな企業集団に成長した時、それは『究極の攻め』にも『究極の守り』にもなります。連携する企業に人材を派遣することは、技術を学べるだけでなく、人材不足も補えるということです。技術者の増強は入札競争力の強化につながり、結果的にグループの企業価値も上がっていくと考えています」 小山「建設業は『地元を守らなければならない』という思いが強いです。同時に会社そのものも激しい競争から守らなければなりません。ただし地元を守っているだけでは会社は存続できず、地元外に進出していかなければならないジレンマがあります。両方を総合的に叶えることできるのがこのUNICONホールディングスです。地元を拠点にしながらも、必要に応じて地元外へ一緒に出ていける強みがあります。我々のビジョンに賛同してくれる企業があれば、是非とも一緒にやっていきたいという思いです。事業規模で選ぶのではない。自社の個性を残しながらも、技術力、経営力をより強くしたいと願う企業とどんどん連携していきたい」   ×  ×  ×  × 各社の強み・弱みの相互補完、技術者の横断による人材育成と公共工事受注機会の増加といった狙いに加え、さらなるグループ企業を加えることも視野に入れているようだ。 業界関係者の見立て  業界関係者は今回の広域合併をどう見ているのか。 ある関係者は「結局のところ、災害復旧などを除けば、今後、仕事が大きく増えることが見込めないからですよ」と話す。 福島県の2011年度当初予算では、公共事業費の全体額は約967億円だった。これは震災前に編成されたもので、震災・原発事故を経て、公共事業費は大幅に増加した。県予算のピークは2015年度(当初)の約3327億円。それ以降は徐々に減少傾向にあり、2022年度(同)は1890億円となっている。近年は震災・原発事故のほかにも、災害が相次いでいるが、いずれは震災前の水準に戻ることになる。 それでも、この間の復興特需で建設業界が持ち直したのは間違いない。本誌では過去に「復興需要により業績改善につながったか」というテーマで業界リポートを掲載したが、その際、業界関係者は次のようにコメントしていた(2017年6月号「復興需要で〝身軽〟になった建設業界の先行き」より)。 「震災前、内部留保があるところはほとんどなかったが、復旧・復興関連工事で業績が改善され、倒産寸前の状況から持ち直したところもある。ただ、もともとが酷かっただけに、まずは債務をなくすこと、その次の段階として、何とか蓄え(内部留保)をつくるところまで持っていき、復興需要が一段落した後の備えができれば、というのがおおよその状況です」(業界団体の関係者) 「震災後、公共土木施設の復旧や除染など、多くの仕事をこなす中、ある程度のストック(内部留保)はできた」(県北地方の建設業者) 「浜通りは津波被災を受けたほか、原発事故で復旧が後回しになったところもあるため、ほかの地域より、量、期間ともに仕事が見込める。それを踏まえながら、借金返済や内部留保を計画的に進めている」(浜通りの建設業者) これらの話から、多くの建設業者の業績改善が図られたのは間違いない。とはいえ、「V字回復」の要因となった復興需要は終焉を迎えた。当然、そのことは建設業者自身も分かっており、関係者は一様に「復旧・復興関連の工事が落ち着いたら、いずれまた厳しい状況になるのは間違いない。だから、いまのうちに力を蓄え、今後のことを考えておかなければならない」と明かしていた。 後継者不在も背景に  ここで言う「今後のこと」の方策の1つが広域合併だった、ということだろう。 「以前(震災前)だったら、ファンドに見向きもされない状況だったかもしれない。それが、震災・原発事故を経て大幅に業績が上向いた。だからこそ、そういった選択肢ができたのです。公共工事は地域・季節などによって発注量に偏りがありますが、広域的な経営統合であれば、その地域で仕事がなくても、人員を遊ばせておかずにグループ内で横断させて仕事をすることできます。それが最大の強みであり、狙いでしょうね」(前出の関係者) 県では2017年に「ふくしま建設業振興プラン」を策定し、2022年度から第2期(第2次ふくしま建設業振興プラン、2030年度まで)に入った。「建設業は、社会資本整備に加え、維持管理、除雪、災害対応などを担うほか、雇用の受け皿にもなっているなど、県民の安全・安心な暮らしを支えるうえで必要不可欠な役割を果たしている」といった観点から、県が取り組むべき建設業振興施策の基本計画として定めたもの。その中に「合併等支援事業」といったメニューがあり、以前から合併は1つの選択肢として示されていたのだ。 もう1つ、背景にはあるのは後継者の問題だという。 「一番大きな問題は、後継者がいないということだと思います。当然、相応の従業員を抱えているわけですから、後継者の問題で経営者・従業員ともに不安を抱えながら仕事をするくらいなら、ファンドの傘下に入って確実に存続させよう、と。もちろん、そういった選択ができるのも復興特需で業績が上向いたから、といった側面もあります。そういう意味では、今回の事例のような県を跨いで、というのは稀でしょうが、福島県の場合は広域的な経営統合は今後も増えると思います」(業界団体の関係者) 復興需要によって各建設業者が〝身軽〟になったからこそ、さまざまな選択肢ができ、その1つがファンド傘下に入ること(広域合併)だったと言えそう。この業界団体の関係者は「越県は稀としても、今後も広域的な経営統合は増えると思う」との見解を示しており、これからの数年間で、同業界は大きく変貌するかもしれない。