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  • 郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論

    郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論

     郡山市日和田町の大型商業施設ショッピングモールフェスタの建て替えが進んでいる。老朽化に加え、度重なる大規模地震で被害を受けたためで、建物解体後、イオン系列の新たな商業施設として生まれ変わる。2026(令和8)年9月オープン予定だ。延べ床面積は約12万平方㍍で、イオンモール新利府(宮城県)に次ぐ東北最大規模のイオン系商業施設となる。  具体的な計画は公表されていないが、郡山市内で期待されているのがシネマコンプレックス(通称・シネコン。複数のスクリーンを有する映画館)の進出だ。  郡山市にはかつて10館以上の映画館が営業していたが、映画業界の衰退に伴い減少し、現在は郡山テアトル1館のみとなっている。同館は6スクリーンを備えているものの、上映される作品に限りがある。そのため、イオンシネマ福島(福島市)、フォーラム福島(同)、ポレポレシネマズいわき小名浜(いわき市)、まちポレいわき(同)まで足を伸ばす人もいるようで、「高校生の娘は、お目当ての映画を見るため、たびたび友達と電車で福島市に行っていますよ」(郡山市在住の男性)。  そうした中、新たなイオン系商業施設がオープンするということもあって、シネコン進出に期待が高まっており、「若者の間では既成事実のようにウワサされている」(同)という。それだけシネコンを求める声が高いということだろう。  実際のところ、シネコンが進出する可能性はあるのか。同施設の運営会社・㈱日和田ショッピングモールに確認したところ、「シネコンがほしいという要望を多くいただいているが、現時点では具体的なテナント構成などについてお話しできません」(担当者)と回答した。  同市では、以前からシネコン開発構想が浮上するものの、頓挫してきた経緯がある。2021年の市長選では、元県議の勅使河原正之氏がシネコン誘致を公約に掲げたが落選。SNS上には残念がる声が並んだ。  テアトル郡山を経営する東日本映画㈱の安達友社長は、興行の世界で長年生き残ってきただけあって、配給会社からの信頼が厚い。そのため、なかなか新規事業者では入り込めない事情もあるようだ。安達社長にシネコンについてコメントを求めると「取材には応じられないが、実現はかなり難しいのではないか」と述べた。  県内で計画中の大型商業施設としては、伊達市でも「イオンモール北福島(仮)」が2024年以降オープン予定となっている。こちらは隣接する福島市中心部にイオンシネマ福島がある関係もあって、競合するシネコンは設けない方針が示されており、新たなスタイルの娯楽施設の整備が検討されている。イオンモールにあらためて確認したところ、「関係機関と調整中のためお答えできません」との返答だった。  ある映画業界関係者は「以前某映画館の建設費が1館当たり1億2000万円と聞いたが、いまは建設費高騰でその倍以上かかるはず。費用対効果を考えて、いま新規でシネコン建設に踏み切る業者はなかなか現れないのではないか」と指摘する。  一方で、別の映画業界関係者は次のように語る。  「映画館空白地域に立地するイオンモールとなみ(富山県砺波市)は、もともとシネコンがない商業施設だったが、住民からの熱望を受け、リニューアルを機に、テナント跡を使ってコンパクトなシネコンを新設した。行政がシネコン誘致を後押しして実現した事例もある。郡山市、伊達市も市民の要望次第で風向きが変わるかもしれません」  果たして郡山市にシネコンが進出する日は来るのか。

  • 郡山市が逢瀬ワイナリーの引き継ぎを決断!?

    郡山市が逢瀬ワイナリーの引き継ぎを決断!?

     本誌昨年10月号で郡山市の「ふくしま逢瀬ワイナリー」が閉鎖の危機に立たされていることを報じた。  逢瀬ワイナリーは震災からの復興を目的として、市が所有する逢瀬地区の土地に公益財団法人三菱商事復興支援財団(以下、三菱復興財団と略)が2015年10月に建設。同ワイナリーを拠点に、地元農家(現在13軒)にワイン用ブドウを栽培してもらい、地元産ワインをつくって農業、観光、物産などの地域産業を活性化させる果樹農業6次産業化プロジェクトを市と同財団が共同で進めてきた。実際の酒の製造と販売は同財団が設立した一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリーが手掛けている。  ただ三菱復興財団では当初から、同プロジェクトがスタートしてから10年後、すなわち2024年度末で撤退し、施設と事業を地元に移管する方針を示していた。同財団は「地元」がどこを指すのかは明言していないが、本命が郡山市であることは明白だった。  事実、三菱復興財団はこの間、市に施設と事業を移管したいと再三申し入れている。ところが、市農林部は頑なに拒否。その理由を本誌10月号は次のように書いている。    ×  ×  ×  ×  「郡山産ワインは市場でようやく評価されるようになったが、これまで支出が上回ってきたこともあり施設はずっと赤字だった。今は三菱復興財団が面倒を見てくれているからいいが、市が施設を引き受ければそのあとは赤字も負担しなければならないため、品川萬里市長が難色を示しているのです」(事情通)  上がノーと言えば、下は従うほかない――というわけで、市農林部は三菱復興財団の移管要請を拒み続けている、と。    ×  ×  ×  ×  移管先が決まらなければ、施設は取り壊され、事業を終える可能性もある。この時の本誌取材に、市園芸畜産振興課の植木一雄課長は「逢瀬ワイナリーについては関係者において現在検討中です」と文書で回答するのみ。9月定例会でも関連質問があったが、市は「検討中」と繰り返すばかりだった。  「政経東北の記事が出たあと、市から今後のブドウ栽培に関する聞き取り調査があった。逢瀬ワイナリーがこれからどうなるといった話は出なかった」(ある生産農家)  このように、移管に消極的な姿勢を見せていた市だったが、先月開かれた12月定例会は少し様子が違っていた。箭内好彦議員(3期)が「第一の移管先に挙がっている市の考えを聞きたい」と質問すると、和泉伸雄農林部長はこう答弁したのだ。  「三菱復興財団からは市や生産農家に配慮したご提案をいただいている。市としては同財団が築いたワイナリー事業が2025年度以降も円滑に継続されるよう、生産農家の経営方針を尊重しながら同財団と協議していきたい」  前述の「検討中」と比べると、明らかに前向きな姿勢に変わっているのが分かる。  ワイナリー事業に精通する事情通はこのように話す。  「市の方針は決まっていないが、品川市長の姿勢が変わったことは間違いない。三菱復興財団とは受け入れに関する条件面を協議している模様で、同財団担当者も市のスタンスの変化に手ごたえを感じているようだ。担当者はそれまで市を説得しようと頻繁に来庁していたが、11月以降は来庁の頻度も減っている」  三菱復興財団が撤退する2024年度末まで1年3カ月を切る中、移管に向けた協議が順調に進むのか、市の対応が注目される。 あわせて読みたい 【ふくしま逢瀬ワイナリー】が赤字閉鎖!?【郡山】

  • 郡山【大麻アパート】に見る若者の栽培・密売参入

     全国で若者が大麻栽培に手を染めている。郡山市では20~30代のグループがアパートと一軒家で大規模栽培していた。県警が1度に押収した量としては過去最多。栽培手法をマニュアル化して指南する専門集団が存在し、都会や地方を問わず新規参入が増える。流通量増加の要因には、若年層がネットを介し安易に入手できるようになったことがある。乱用や売買が強盗や傷害事件につながるケースもあり、郡山産の大麻が全国の治安悪化に与えた影響は計り知れない。(一部敬称略) 「電気大量消費」「年中カーテン」の怪しい部屋  7月14日、郡山市内の公園で通行人が落とし物のバッグを警察に届けると、中に液体大麻0・5㌘が入っていた。液体大麻は大麻リキッドとも呼ばれ、幻覚成分を抽出・濃縮した物。電子タバコで吸入する。  液体大麻入りのバッグを所持していた20代女の知人を含む男女4人が逮捕されたのは、バッグの発見から約半月後だった。  7月28日付の福島民友は、福島、愛知の両県警が営利目的で大麻を所持したとして、郡山市内の20~30代の主犯格を含む男女4人を逮捕したと伝えた。押収された乾燥前の大麻草270鉢(末端価格7000万円以上)は、福島県内で一度に押収した量としては過去最多という。両県警は組織的な大麻栽培・密売事件とみて合同捜査しており、主犯格は愛知県警が逮捕した。液体大麻が入っていたバッグを落とした女も栽培に加担した容疑で逮捕された。  11月中旬までに栽培・譲渡に関与したとみられる県内の男女9人と県外の購入者6人の計15人が逮捕された。主犯格の斉藤聖司(32)と一員の山田一茂(34)、箭内武(28)の郡山市の3人と、白河市の松崎泰大(37)は起訴され、山田と箭内の公判は地裁郡山支部で審理中だ。  栽培場所は郡山市安積町笹川経蔵のアパートと同市笹川2丁目の一軒家だった。アパートの家賃は月5万9000円。グループの一員が通い、エアコンや扇風機で温度と湿度を常時管理して大麻草を育て、乾燥後にジップロックに詰め発送していた。県警がマスコミを通して公表した現場写真からは、部屋に所狭しと大麻の鉢が置かれ、照明と遮光シートを設置しているのが分かる。裁判では、生育を促すCO2発生装置や脱臭機を使っていたと言及があった。  過去に薬物事犯で検挙された経験がある元密売人は写真を見て、  「かなり部屋が狭いし鉢植えも小さいですね。小規模な組織と思われます。大規模組織は広い敷地で水耕栽培するからです。大麻の需要増に応じてここ2、3年は新規栽培者が増えている。都会や地方を問わず、全国で人知れず栽培している事例は多い」と話す。  大麻押収量と検挙者は格段に増えている。全薬物犯罪の検挙者は過去10年間で1万2000~1万4000人の間を増減。覚醒剤、大麻の順に多い。2022年は全検挙者1万2000人のうち、覚醒剤に絡む者が6000人(50%)、大麻に絡む者が5500人(45%)=出典は警察庁、厚生労働省、海上保安庁の統計を厚労省が集計したもの。以下同。\  覚醒剤に絡む犯罪は依然として多く見過ごせないものの減少傾向にある。過去10年では2015年の1万1200人をピークに22年に6200人に減った。一方で大麻は13年の1600人から21年には過去最多の5700人と3・5倍も増えている。  検挙者数は氷山の一角で、乱用者はもっと多いと推測される。全薬物犯罪とその大半を占める覚醒剤犯罪が減少傾向なのに大麻犯罪が急増しているということは、大麻が急速に流行していることを意味する。  県警刑事部・組織犯罪対策課によると、検挙者の特徴は、覚醒剤は中高年や再犯者が多く、大麻は若者の初犯者が多いという。2022年に県警が検挙した薬物犯罪は大麻が29人中、初犯者は25人で約86%を占めた(県内の過去10年の推移はグラフ参照)。覚醒剤は45人中、初犯者は12人で約27%、大半が再犯者だ。大麻検挙者のうち8割以上が30代以下で、覚醒剤検挙者のうち6割が40代以上だった。若者に流行る大麻と中高年に多い覚醒剤。これは全国・県内とも同じ傾向だ。  関東信越厚生局麻薬取締部の部長を務めた瀬戸晴海氏の著書『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書、2022年)の題名通り、若年層がネットを通じて大麻を手にするようになった。「海外では合法」といったイメージが先行しているためだという。  注射する覚醒剤に比べ、大麻はタバコのように吸入し乱用方法が簡易。さらに1㌘当たりの末端価格が1万円台の覚醒剤に比べて、大麻は同5000円と安いことも若者が手を出し易い要因だ。  関西の4大学は共同調査し、大麻や覚醒剤などの危険ドラッグを「手に入る」と考える大学1年生が4割に上るとの結果を11月に発表した。手に入ると答えたうち8割が「SNSやインターネットで探せば見つけることができるから」という理由を挙げた。 栽培指南に特化  大麻が若者に浸透する中、福島県内でも過去に前例のない規模で栽培されていても不思議ではない。郡山市で違法栽培されていた大麻はアパートで乾燥後、流通を担う個人や組織を通じて全国で売買されていたとみられる。  「都内への流通やコスト面に限って言えば、福島県が特別栽培地として選ばれているとは思えない。栽培地に地方が有利な点を強いて挙げるとすれば、家賃が安いことと、捜査員の充てられる人数が少ないため摘発リスクが都会に比べて低いことぐらいではないでしょうか」(前出の元密売人)  新規栽培が増える背景には、育て方を指南する集団・個人の存在がある。栽培手法はマニュアル化され、フランチャイズのように売り上げの何割かを受け取る契約で全国に波及する。指南に特化することで効率化を図り、検挙リスクの高い流通・密売には積極的に関わらない。  栽培者は自ら顧客に売るか流通担当者に流す。違法な物を売るため、表立って取引はできない。ここで登場するのがSNSと秘匿性の高いアプリだ。先払いが鉄則だという。  「物を先に渡すと代金を払わないで逃げられてしまう可能性が高い。違法な物を販売しているので、逃げられても通報できない弱みがある。顧客も犯罪傾向が進んでいる者が多いので不払いに躊躇がない。タタキ(強盗)と言って、約束の品を持ってきたところで暴行を受け強奪されることもある」(同)  福島県のような地方の場合、そもそも若者の割合が少ないので、大麻に関して言えば乱用地というよりも供給地の性格が強くなる。  「栽培者は隠語で『農家』と呼ばれます。また聞きですが、福島県内のある山間地では、野菜栽培を装ってビニールハウス内で大麻草を栽培している人がいると聞いたことがあります」(同)  アパートの一室でも農地でも。大麻はそれだけ身近に潜んでいるということだ。部屋の貸主が気づく術はあるのか。  「空調を常時管理するため電気代が異常に掛かります」(同)  郡山市の大麻栽培・密売事件の裁判では、栽培場所のアパートや一軒家の電気代が毎月3~7万円掛かっていたことが明かされた。一軒家に至っては「1階の電気を点けたらブレーカーが落ちる」とメンバーが気を使っていたほど。  もう一つは臭いだ。栽培現場には脱臭機があった。「大麻の苗も乾燥した物も独特の臭いがあり、身近な人もそうでない人も嗅げば異変を感じる。鉢植えで育てれば土の臭いもある。異臭を外に出さないため部屋は常に閉め切っているはず」(同)  大家は、高額な電気代と年中部屋を締め切っている部屋があったら注意した方がいい。 テレグラムは必須  前出『スマホで薬物を買う子どもたち』は、非行と無縁だった若者が大麻をスマホで買っている現状を書く。大麻をきっかけに生活や人間関係が破綻し、より幻覚作用が強い薬物に手を出し依存。薬物代を稼ぐため自らも大麻栽培・密売に手を出す事例を紹介している。大麻が「手軽」なイメージとは裏腹に、薬物の入り口を意味する「ゲートウェイドラッグ」と呼ばれる所以だ。乱用の兆候はあるのか。  「顧客と売人の取引には必ずと言っていいほどX(旧ツイッター)とテレグラムが使われます。Xで薬物の隠語を使って不特定多数に呼び掛け、通信が暗号化されるテレグラムでのやり取りに誘導する」(同)  テレグラムは秘匿性の高いアプリの一つ。通信が暗号化され、捜査機関の解析が困難になる。もともとは中国やロシアなど強権国家で人権活動家が当局の監視を避けるために開発されたが、技術は使いようで、日本では薬物の取引や闇バイトの募集などに悪用されている。  「秘匿性の高いアプリには、他にウィッカー、シグナル、ワイヤーなどがあるが、ウィッカーは近々サービスを終了。シグナルは電話番号の登録が必要で相手にも通知されるので好まれない。もっとセキュリティが高度なアプリもあるが、その分通信性能が落ち、使っている人も少ないから、誰もが使うテレグラムに落ち着く」(同)  通信の秘密は守られて然るべきだが、これらのアプリが実際に犯罪行為に使われている以上、もし情報セキュリティに無頓着だった家族や知人が突如ダウンロードしていたら警戒する必要がある。  大麻は凶悪犯罪の「ゲートウェイ」でもある。昨年3月にJR福島駅に停車した新幹線内で起こった傷害事件は、犯人の23歳男が大麻を大阪府の知人から譲り受けようと岩手県から無賃乗車し、車掌に咎められて暴れたのが原因だった。  裁判には男の大麻依存傾向を診断した医師が出廷し、より強い作用を求めて濃縮した液体大麻を乱用していたこと、優先順位の最上に大麻があり、崇めるような精神世界を築いていたことを証言した。「薬物乱用者に言えることだが、何が悪いか理解できない以上、いま反省するのは難しい」とも。証人として出廷した母親は、涙を流しながら息子が迷惑を掛けたことをひたすら悔いていた。  家族と言えども、スマホの先で誰とつながっているかは分からない。異変を察知するためにまずできることは、帰省した我が子に「テレグラムやってる?」とカマをかけるぐらいだ。

  • 郡山【小原寺】お檀家・業者に敬遠される前住職

    郡山【小原寺】お檀家・業者に敬遠される前住職

     小原寺と言えば、郡山市を代表する名刹だが、檀家や葬祭業者からの評判は芳しくない。原因はクセが強い前住職の存在だ。ただでさえ仏教離れの傾向が強まっている中、その存在が〝墓じまい〟を加速させている――という指摘すらある。いったいどんな人物なのか。 〝上から目線〟の運営で離檀者続出!?  大邦寺神竜院小原寺は郡山市図景にある曹洞宗の寺院だ。近くには郡山健康科学専門学校や郡山警察署がある。かつてはその名が示す通り、同市小原田にあった。  天文年間(1532年~)に廃絶した久徳寺を、永禄3(1560)年、二本松市・龍泉寺6世の実山存貞和尚が再興し、曹洞宗小原寺としたのがはじまりとされる。戦乱を経て延宝4(1676)年に再建。材料に阿武隈川の埋もれ木を掘り出したものが使われ「奥州・安積の埋もれ木寺」として、名所の一つに数えられた。天明3(1783)年、失火により全焼したが、寛政5(1793)年に古材を集めて仮本堂が建立された。  その仮本堂がつい10年前まで本堂として使用されていたが、震災で全壊判定を受け、2014年3月に解体撤去。約500㍍離れた現在の場所に、広大な駐車場を備えた近代的建築の本堂・庫裏を再建。同年8月に落慶法要が執り行われた。  安積三十三観音霊場第六番札所となっているほか、「巡拝郡山の御本尊様」の会が実施している御朱印企画では第一番札所となっている。  檀家は約1000軒あるとされるが、「現在は800軒ほどに減ったのではないか」と指摘する檀家もいる。いずれにしても、郡山市を代表する古刹であり、高い公共性を有する施設だ。  現在の住職は安倍元輝氏だが、市内で有名なのは、父親で東堂(曹洞宗における前住職の呼称)の安倍元雄氏だ。元高校教師で、郡山青年会議所理事長も務めていた。宗教法人小原寺の代表役員である元輝住職は心身のバランスを崩し一時期活動を控えていたとのことで、83歳の元雄氏がいまも同寺院を代表する存在として活動している。  ところが、その元雄氏に対する不満の声が各所でくすぶっている。  檀家の年配男性は「一番の原因はお布施の高さですよ」と説明する。  「葬儀のお布施が周辺の寺院と比べて高い。戒名が院号(寺への貢献者・信仰心の厚い信者に付けられる称号)の家で100万円超、軒号(院号よりランクが落ちる称号)の家でも70~80万円支払うことになる。親の葬儀で『大金を支払えないので戒名の位を下げてほしい』とお願いする人もいました」  代々檀家になっているという男性も「知り合いが、仲の良い墓石業者に相談して安く墓を立てる算段をしていたが、元雄氏に一応伝えると特定の業者を使うよう指定された。あれやこれやと条件を付けられ、結局200万円以上の金額に跳ね上がって泣いていましたよ」と語る。  檀家の中には、親が亡くなったのを機に〝墓じまい〟して、市営東山霊園に墓を移す人もいる。近年は仏教離れが進んでいることもあって、その傾向が強まっているが、同寺院ではその際も30~40万円の〝離檀料〟を支払うよう求めているという。  曹洞宗宗務庁はホームページ上で「宗門公式としての離檀料に関する取り決めはないし、指導も行っていない」とする見解を表明しているが、同寺院では「離檀を申し込むと、金額を提示される。半ば支払いを強制されているような感じ」(前出・檀家の年配男性)だとか。  小原田地区の住民によると、過去には元雄氏の独断が過ぎるとして、紛糾したこともあった。  「震災で本堂が全壊判定を受け、現在の場所に新築移転することになったが、檀家が計画の全容を知ったのは、どんな本堂にするか設計や見積もりが終わり、銀行と建築費用の融資計画まで打ち合わせした後だった。そのため、説明を受けた檀家から『これを負担するのはわれわれだ。なぜ事前に相談がないのか』と物言いが入ったのです。そのため、当初の計画は一旦見直されることになりました」  複数の檀家によると、新築された本堂・庫裏は当初、左翼側に葬儀・法事などを執り行える葬祭会館が併設される計画で、檀家には「総事業費数億円に上る」と説明していた。だが、葬祭会館建設は見直されることになり、左右非対称の造りとなった。このほか、正確な時期は不明だが、総代が元雄氏と対立し全員退任したこともあったという。  檀家に十分な説明が行われない状況は現在も続いているようで、小原寺の墓地の近くに住む檀家の男性は「現在の総代が誰なのかも知らないし、総代会が開かれているのかも報告されていないので分からない。法要のときは足を運ぶし、『寄付してくれ』と頼まれたら協力しますが、それ以上のコミュニケーションはありません」と語った。  不満の声は檀家のみでなく葬祭業者からも聞かれる。原因は「『うちの檀家の葬儀は白い花でそろえないとダメだ』などと細かい注文が入るうえ、とにかく話が長くて予定がめちゃくちゃになる」(ある葬祭業関係者)。葬儀終了後に元雄氏が数十分かけて〝ダメ出し〟する姿もたびたび目撃されており、ある業者とは深刻なトラブルに発展したようだ。複数の業者の現場担当者に声をかけたが、元雄氏がどんな人物か把握していたので、業界内ではおなじみの存在なのだろう。  元雄氏のクセの強さは経済界でも有名なようで、「郡山青年会議所OBの会合で簡単なあいさつを依頼されたのに30分以上話し続け、3人がかりで止めに入ったが、それでもまだ話し続けた」(市内の経済人)ことは〝伝説〟となっている。 元雄氏を直撃 安倍元雄氏  これだけ不満の声が出ていることを本人はどう受け止めているのか。同寺院に取材を申し込んだところ、元雄氏が対応し「葬儀続きで話すのは難しい」と渋られたが、10分程度でも構わないと伝え、何とか直接会う約束を取り付けた。  11月下旬、同寺院を訪ねると、元雄氏が杖をつきながら登場し、本堂を案内した後、御本尊である釈迦三尊像の説明や釈迦(ブッダ)が生まれたころの背景を20分にわたり話し続けた。「この後予定がある」と言いながら話し続けそうな雰囲気だったので、途中で遮って本題に入った。  ――本堂の新築移転をめぐり、檀家から不満の声が上がったと聞いた。  「本堂新築移転は震災で旧本堂が全壊となり、総代会で満場一致で決められたものです。檀家がお参りできる場所を作るのが私の務め。近代的な建物にした理由は、皆さんに親しまれるように、いまの時代に合った本堂を立てるべきだと考えたからです。具体的な建設費用は伏せますが、総代をはじめ、檀家の皆さんに『先祖の供養の場を作ってほしい』と寄付していただいた。私も個人で3000万円借りて寄付しました」  ――檀家は「総代長が誰かも分からないし、総代会がいつ開かれたのかも報告がないから分からない」と嘆いていた。コミュニケーションが不足しているのではないか。  「総代は住職などを含め5人います(※宗教法人の役員のことだと思われる)。総代会はその都度開かれているが、そのことはほかの檀家には連絡はしていませんね」  ――お布施の金額や、離檀料についても不満の声が聞かれた。  「お布施はできるだけ安くすることを心がけているし、納めるべき金額は檀家にはっきり公表している。不満の声がウワサとなって広まっている背景には、他の寺の住職のねたみも含まれているのではないか。住職に知識や考えがなければ長く喋りたくても喋られない。でも、俺が喋ると内容は豊富だし、間違ったことは言ってないので『ごもっとも』となる。離檀料は長い間お世話になった気持ちを込めて菩提寺に寄付したいという方もいるので設定しているが、決して強制ではない」  ――葬祭業者にも敬遠されている。注文・ダメ出しの多さと話の長さが原因のようだが、心当たりは。  「小原寺の葬儀のやり方というのが明確に決まっている。どうすればスムーズに進行できるか、担当者に教えることがあります。でも、『指摘してくれてありがとう』と言われることもあるし、そんなにトラブルみたいなことにはなってないよ」  ――こうした不満が出たことをどう受け止めるか。  「まあ、『出る杭は打たれる』ということなんでしょう」 取材には真摯に対応してもらったものの、本堂新築移転をはじめ、檀家や葬祭業者から上がっている不満の声を素直に受け止めず、「他の寺の住職のねたみが背景にあるのではないか」、「出る杭は打たれるということ」と話す始末。コミュニケーション不足を指摘してもピンと来ていない様子で、再度質しても明確な回答はなかった。これでは檀家・葬祭業者との溝を埋めるのは難しい。  本堂新築移転にいくらかかったのか、明確な金額は明かそうとしなかったが、今年11月時点での寄付一覧を見せてくれた。本堂の建設を手掛けた業者や県内の寺院が寄付していたが、寄付金額を合計しても1億円にも満たない。残りは宗教法人として銀行融資を返済しているという。つまり、最終的には檀家が負担することになる。  総代長を務める年配女性を訪ね、元雄氏について質問しようとしたが「私は全然そういうの分からないの」とドアを閉められた。現代表役員の元輝氏の存在感はなく、同寺院に取材を申し込んだ際も、こちらが特に指定していないのに元雄氏が対応した。厳密に言えば寺の本堂は宗教法人のものだが、元雄氏の判断ですべてが決まる体制ということだろう。 寺院経営のボーダーライン 小原寺  人口減少により経営が厳しくなっている寺院が増えているとされているが、そうした中で、1000軒以上の檀家を抱える同寺院はかなり余裕があると言える。寺院の事情について詳しい東洋大学国際学部の藤本典嗣教授は「寺院経営が成り立つボーダーラインは一般的に約300軒と言われている」と説明する。  「地方の寺院では収入が年間約900万円あれば、諸経費、維持管理費、宗費(本山に納める費用)など諸々を差し引いても、住職の所得として360万円程度確保でき、生活を維持できるとされています。主な収入は葬儀、法要、供養などで入るお布施。住職1人で運営できるラインは300軒程度とも言われているので、1軒当たり平均年3万円のお布施を支払ってもらえれば、専業で寺院経営が成り立つ計算です」  藤本教授によると、寺院によってお布施の金額は異なるが、公表されている論文や書籍などのデータを大雑把にまとめると、葬儀の相場は10万~100万円、法事の相場は3000~5万円とのこと。寺院、戒名によってその金額は異なるが、「福島市の福島大学に勤めていた頃の感覚では、中心市街地のお寺での葬儀のお布施は20~50万円でした」(藤本教授)。小原寺の金額が高めであることが分かるだろう。  檀家数が300軒を下回ると、住職の業務は少なくなって負担は軽減されるが、収入も減るので別の仕事をする必要がある。かつて郡部の寺では、地元で働き続けられる公務員や教員、農協などの仕事を檀家から紹介され、兼業しながら寺院運営する住職が多かったという。SNS情報によると、現在は介護業界で働く人が多いようだ。  小原寺では元雄氏と元輝氏のほかにも僧侶の姿を見かけた。それだけ経営的に余裕があるということで、だからこそ檀家に強気な姿勢で臨めるのかもしれない。しかし、そうした環境にあぐらをかいていれば、離檀していく人も増えるのではないか。  「うちは代々檀家になっているので付き合い続けているが、そうでない人は『住職との折り合いが悪いから』とためらいなく離檀していく。実際、周辺にそういう人がいました」(前出・檀家の年配男性)  本誌10月号で、喜多方市熱塩加納町の古刹・示現寺で〝墓じまい〟が相次いでいる背景を取材した。檀家らの声を聞いた結果、人口減少・少子高齢化の影響に加え、高圧的な態度の住職に対する不満も一因となっていた様子が分かった。ほかにも、会津美里町・会津薬師寺、伊達市霊山町・三乗院など、寺院をめぐるトラブルを取り上げている。本誌10月号記事では、これらのトラブルに共通するのは、①「一方的で説明不足」など住職に檀家が不信感を抱いている、②「本堂新築」、「平成の大修理」など寄付を要する大規模な事業を行おうとしている点と指摘した。  藤本教授は「寺院の大規模事業に関しては、かつては多額の寄付をできる人に依存し、一般の檀家の寄付額は少額という傾向にあったが、時代の流れにより全体で負担する方向に変わりつつあります。計画がしっかりしている寺院では、総代を中心に話し合い、マンションでいう〝修繕費〟を積み立てています。逆に言えば、そのような計画がしっかりしていない寺院は不満が一気に噴出しやすいのです」と解説する。  そのうえで「住職、総代、檀家のコミュニケーションがうまくいってない場合、トラブルが起こりがち。3者で定期的に話し合いの場を持ち、コミュニケーションを取っていれば問題は起こりにくいはずです」と話す。小原寺に関しても当てはまる指摘ではないか。 いかに寺が檀家に寄り添えるか 小原寺の本堂内  市内のある寺院関係者は元雄氏について次のように語る。  「以前は周りが年配者ばかりだったが、檀家も住職も年下が増えてきたこともあって、自己中心的な言動がとにかく目立つようになった。都市部だが、旧小原田村を象徴する寺なので、住職も檀家もそれぞれプライドを持っている。だから、不満が溜まるのでしょう。仏教離れ、少子高齢化が進み、物価高騰で家計も大変な中、何より大事なのはいかに寺(住職)が檀家に寄り添えるか。一方的に旧態依然とした考え方を押し付けるスタンスでは、今後も離檀する檀家は増える一方でしょう」  元雄氏自身は自覚がないようだが、檀家の話を聞く限りコミュニケーション不足は否めない。中には知識量や宗教者としての姿勢を認め、リスペクトを込めて話す人もいたが、だからと言って一方的な〝上から目線〟の寺院運営を続けていれば檀家は離れていく。  同寺院は前述の通り、公共性が高い古刹であり、宗教法人は周知の通り、その公益性の高さから境内や寺院建造物の固定資産税が免除され、お布施などの収入は非課税となっている。元雄氏はその寺院を代表する立場にいるのだから、周りから不満の声が出ていることを素直に受け止め、自身の対応を見直すべきだ。  元輝氏はこの間仏像彫刻の寺小屋イベントを実施しているという。さらに立派な本堂と広大な駐車場を活用した祭り・イベントを計画し、寺に足を運びやすい雰囲気を作ることから考えてみてはどうだろうか。

  • 【ふくしま逢瀬ワイナリー】が赤字閉鎖!?【郡山】

    【ふくしま逢瀬ワイナリー】が赤字閉鎖!?【郡山】

     郡山市の「ふくしま逢瀬ワイナリー」が閉鎖の危機に立たされているという情報が寄せられた。施設を建設し、ワイナリー事業を進める公益財団法人が2024年度末に撤退するが、施設と事業の移管先が見つからないという。同法人は施設を通じて市と果樹農業6次産業化プロジェクトを行っているが、市からも移管を拒まれている。同法人と市の間では現在も協議が続いているが、このまま移管先が見つからなければ最悪、施設を取り壊しワイナリー事業を終える可能性もある、というから穏やかではない。(佐藤仁) 復興寄与で歓迎した郡山市は素知らぬ顔  今から8年前の2015年10月、郡山市西部の逢瀬地区にふくしま逢瀬ワイナリー(以下逢瀬ワイナリーと略)が竣工した。  市が所有する土地に公益財団法人三菱商事復興支援財団(東京都千代田区、以下三菱復興財団と略)が醸造・加工工場を建設。2016年11月にはワイナリーショップも併設された。敷地面積約9000平方㍍、建物面積約1400平方㍍。県内産の果実(リンゴ、桃、梨、ブドウ)を原料にリキュールやワインなどを製造・販売しており、当初の生産量は1万2000㍑、将来的には2万5000~3万㍑を目指すという方針が掲げられた。  逢瀬ワイナリーが建設されたのは2011年3月に起きた東日本大震災がきっかけだった。  同年4月、三菱商事は被災地支援を目的に、4年総額100億円の三菱商事東日本大震災復興支援基金を創設。被災した大学生や復興支援に携わるNPO、社会福祉法人、任意団体などに奨学金や助成金を給付した。2012年3月には三菱復興財団を設立し、同年5月に公益財団法人の認定を取得。同基金から奨学金事業と助成金事業を継承する一方、地元金融機関と協力して被災地の産業復興と雇用創出のための投融資支援を行った。  予定通り2014年度末で「4年総額100億円」の同基金は終了したが、15年度以降も被災地支援を継続するため、三菱商事から35億円が追加拠出された。  ワイナリー事業に精通する事情通が解説する。  「三菱復興財団は当初、岩手と宮城の津波で被災した事業所を中心に支援し、福島では産業・雇用に関する目立った支援が見られなかった。その〝遅れ〟を取り戻そうと始まったのが逢瀬ワイナリーだったと言われています」  三菱復興財団が2011~20年までの活動をまとめた報告書「10years」に産業支援・雇用創出の支援先一覧が載っているが、それを見ると3県の支援先数と投融資額合計は、岩手県が15件、5億9850万円、宮城県が25件、10億8500万円なのに対し、福島県は11件、3億4200万円となっている。  奨学金と助成金の給付状況を見るとこの序列は当てはまらないが、産業支援・雇用創出の支援は確かに福島県が一番少ない。  「津波被害や風評に苦しむ企業・団体が投融資支援の対象となってきた中、突然郡山にワイナリーをつくるという発表は不思議だったが、その背景には地元選出で復興大臣(2012年12月~14年9月)を務めた根本匠衆院議員の存在があったと言われています。表向きの理由は①果実が豊富な福島県は果実酒製造のポテンシャルが高い、②ワイナリー事業は地元産業と競合しない、②郡山市から協力体制が得られたとなっていますが、一方で囁かれたもう一つの理由が、復興大臣の地元を支援しないのはマズいと三菱復興財団が忖度したというものでした」(同)  真偽はさておき、35億円の追加拠出を受けた三菱復興財団は2015年2月、市と果樹農業6次産業化プロジェクトに関する連携協定を締結した。以下は当時のリリース。  《今般、お互いの復興に対する思いが合致し、郡山市と三菱商事復興支援財団が一体となって、農業、観光、物産業等の地域産業の復興を加速させるために連携協定を締結致します。「果樹農業6次産業化プロジェクト」は、福島県産果実の生産から加工、販売を一連のものとして運営する新たな事業モデルの構築を目指すものです。現状、安価で取引されている規格外の生食用果実(桃・なし・リンゴ等)の利活用を図ると共に、新たにワイン用ぶどうの生産農家を育成し、集めた果実を使用してリキュール、ワインの製造・販売を行います。三菱商事復興支援財団が醸造所や加工施設の建設、販売等の地元農家だけでは負担することが難しい初期費用、事業リスクを請け負う形で、6次産業化事業の確立を目指します》  三菱復興財団が施設を建設し、販路を開拓するだけでなく、事業にかかる初期費用やリスクを負うことで地元農家を支えることを約束している。事実、前述した同基金(創設時100億円+追加拠出35億円=計135億円)の給付内訳(別掲)を見ると「ふくしまワイナリープロジェクト」には13億円も給付しており、同財団の注力ぶりが伝わってくる。 難航極める移管先探し ふくしま逢瀬ワイナリー  三菱復興財団と市が連携して取り組む果樹農業6次産業化プロジェクトとはどのようなものなのか。  三菱復興財団と市は安価で取り引きされている規格外の生食用果実を利活用するだけではなく、地ワイン開発とワイン産地化を目指して、これまで市内で栽培例のなかったワイン用ブドウの生産に着手(1次産業=農業生産)。これらの果実を原料にリキュールやワインの醸造技術とノウハウを蓄積(2次産業=加工)。製造された加工商品の販路を開拓する(3次産業=流通・販売・ブランディング等)というものだ。  市は2015年3月、ワイン用ブドウの試験栽培を地元農家4軒に依頼。同年12月にはワイン用ブドウの苗木や栽培用資材にかかる初期経費を支援した。さらに▽逢瀬ワイナリー周辺の環境整備、▽産地形成を目的に地元農家9軒をメンバーとする郡山地域果実醸造研究会を発足(現在は13軒に拡大し、ここがワイン用ブドウの生産農家となって逢瀬ワイナリーに納めている)、▽逢瀬ワイナリーの敷地を観光復興特区に指定し固定資産税を軽減、▽イベント開催――などを進めた。  一方、公益財団法人の三菱復興財団は特定の利益事業を行うことができないため2015年5月、委託先として一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリー(郡山市逢瀬町、河内恒樹代表理事)を設立。同法人が酒の製造・販売など現場を取り仕切り、理事には市農林部の部課長も就いた。  県内産の果実を使ったスパークリングワインやリキュールは施設稼働の翌年(2016年)から出荷したが、15年に植栽したワイン用ブドウを原料とする郡山産ワインは19年3月に初出荷。以降は毎年、郡山産ワインを製造・販売しており、国内外の品評会でも20年度まではリキュールやシードルでの受賞にとどまっていたが、21、22年度はワインでも高い評価を得るまでに成長した。  スタートから8年。逢瀬ワイナリーを核とする6次産業化プロジェクトはようやく軌道に乗ったが、そんな施設が今、閉鎖の危機に立たされているというから驚くほかない。  前出・事情通が再び解説する。  「三菱復興財団が逢瀬ワイナリーから2024年度限りで撤退するため、市に施設と事業を移管したいと申し入れている。しかし、市農林部が頑なに拒んでいて……」  実は、三菱復興財団はもともと6次産業化プロジェクトのスタートから10年後の2024年度末に施設と事業を「地元」に移管する予定だったのである。同財団は「地元」がどこを指すかは明言していないが、同財団撤退後、新たな事業主が必要になることは関係者の間で周知の事実だったことになる。  「三菱復興財団は以前から、できれば市に引き受けてほしいと秋波を送っていた。市は6次産業化のパートナーなので、同財団がそう考えるのは当然です。しかし市は、ずっと態度を曖昧にしてきた」(同)  なぜ、市は「引き受ける」と言わないのか。  「郡山産ワインは市場でようやく評価されるようになったが、これまで支出が上回ってきたこともあり施設はずっと赤字だった。今は三菱復興財団が面倒を見てくれているからいいが、市が施設を引き受ければそのあとは赤字も負担しなければならないため、品川萬里市長が難色を示しているのです」(同)  上がノーと言えば、下は従うほかない――というわけで、市農林部は三菱復興財団の移管要請を拒み続けている、と。  「三菱復興財団では、市が引き受けてくれないなら同財団に代わって施設と事業を継続してくれる企業・団体を探すとしています。ただし、同財団は公益財団法人なので民間に売却できない。そこで、市に施設と事業を移管し、同財団が探してきた企業・団体と市で引き続き6次産業化プロジェクトに取り組んでもらう方向を模索している。とはいえ、同財団に代わる企業・団体を見つけるのは簡単ではなく、移管先探しは難航を極めているようです」(同) 振り回される生産農家  ワイン用ブドウの生産農家に近い関係者も次のように話す。  「三菱復興財団の担当者も『市長がウンと言ってくれなくて……どこか適当な移管先はないか』と嘆いていました」  この関係者は、地元の大手スーパーか酒造会社が施設と事業を引き受け、ワインづくりを継続できれば理想的と語るが、「現実は赤字施設を引き受けるところなんて見つからないのではないか」(同)。  もっとも、本当に赤字かどうかは逢瀬ワイナリーの決算が不明で、三菱復興財団も貸借対照表が公表されているだけなので分からない。参考になるのは、国税庁が調査した全国のワイン製造業者の経営状況(2021年1月現在)だ。  それによると、ワイン製造者の46%が欠損または低収益となっているが、製造数量が少ない(100㌔㍑未満)事業者ほど営業利益はマイナスで、多い(1000㌔㍑以上)事業者はプラスになっている。逢瀬ワイナリーの製造量は100㌔㍑未満なので、この調査に照らせば赤字なのは間違いなさそうだ。  ついでに言うと、全国にワイナリーは413場あり(2021年1月現在、国税庁の製造免許場数および製造免許者数)、都道府県別では1位が山梨県92場、2位が長野県62場、3位が北海道46場と、この3地域で全国の48%を占める。福島県は9場で第9位。  「生産農家は実際にワイン用ブドウをつくってみて、郡山の土地と気候は合わないと感じつつ、それでも試行錯誤を重ね、今では品評会でも賞をとるほどの良いブドウをつくれるまでに成長した。昨年のブドウも良かったが、今年はさらに良い出来と期待も高まっている。そうした中で施設と事業の移管先が見つからないという話が出てきたから、生産農家は困惑している」(同)  今年春には、市農林部から生産農家に「もし逢瀬ワイナリーがなくなったら、生産したブドウはどこに手配するか」との質問がメールで投げかけられたという。  「ワインづくりは各地で行われているので、ここで買い取ってくれなくても、意欲の高い生産農家は他地域にブドウを持ち込んで、さらに品質の良いワインづくりに挑むと思います。そういう意味では郡山にこだわる必要はないのかもしれないが、半面、ワイン用ブドウの生産は復興支援で始まった取り組みなのに、そういう市の聞き方はないんじゃないかと不満に思った生産農家もいたようです」(同)  記者は生産農家数軒に「三菱復興財団が逢瀬ワイナリーから撤退するため、移管先を探していると聞いたが事実か」と尋ねてみたが、  「私はワイン用ブドウを生産し納めているだけで、施設の経営については分からないので、コメントは控えたい」  と、返答を寄せた人は口を開こうとしなかった。折り返し連絡すると言ったまま返答がない人もおり、生産農家がどこまで詳細を把握しているかは分からなかった。  ちなみに生産農家は三菱復興財団と契約し、つくったブドウの全量を買い取ってもらい、逢瀬ワイナリーに納めているという。前出・関係者によると「買い取り価格は一般より高く設定されている」とのこと。 最悪、施設の取り壊しも ※6次産業化プロジェクトのスキーム図  生産農家を巻き込んだ6次産業化プロジェクトは着実に進んでいる印象だ。それだけに逢瀬ワイナリーがなくなれば、せっかく形になった6次産業化は中途半端に終わり、生産農家は行き場を失ってしまうのではないか。  そう、「逢瀬ワイナリーがなくなれば」と書いたが、三菱復興財団に代わる事業主がこのまま見つからなければ最悪、施設を取り壊しワイナリー事業を終える可能性もゼロではないというのだ。  前出・事情通は眉をひそめる。  「三菱復興財団と6次産業化の連携協定を締結したのは品川市長だ。復興支援の申し入れがあった時は喜んで受け入れ、同財団が撤退する段になったら赤字を理由に移管を拒むのは、同財団からすると気分が悪いでしょうね。6次産業化や果樹農家の育成は表面的な黒字・赤字では推し量れない部分があり、長い投資を経てようやく地場産業として成長するもの。収益の話はそれからだと思います」  事情通によると、もし市が移管を拒み続け、三菱復興財団に代わる事業主も見つからなければ、施設を取り壊すことも同財団内では最悪のシナリオとして描かれているという。  「三菱復興財団の定款には『清算する場合、残余財産は公益法人等に該当する法人または国もしくは地方公共団体に贈与する』と書かれています。もし移管先が見つからなければ、逢瀬ワイナリーは市名義の土地に建っている以上、取り壊して一帯を現状回復しつつ、余計な財産を残さずに清算するしかないと考えているようです」(同)  これにより市に生じるデメリットとしては▽ブランドになりつつあった郡山産ワインの喪失、▽果樹農業6次産業化の頓挫、▽果樹農家やワイン用ブドウの生産農家に対する背信、▽三菱との関係悪化(今後の企業誘致等への悪影響)などが考えられる。  もちろん市が移管を受けたとしても課題は残る。メリットしては▽郡山産ワインのさらなるブランド化、▽ワイン用ブドウの地場産業化、▽逢瀬ワイナリーを拠点とした観光面での人的交流などが挙げられるが、デメリットとしては▽施設の維持管理、▽設備の更新、▽人件費をはじめとする運営費用などランニングコストを覚悟しなければならない。  そうした中で品川市長が最も気にしているのは、赤字を税金で穴埋めするようなことがあれば市民や議会から厳しく批判される可能性があることだろう。それを避けるには赤字から黒字への転換を図る必要があるが、施設と事業の性格上、黒字に持っていくのが簡単ではないことは前述した通り。  「6次産業化を確立したければ、赤字を税金で穴埋めという考え方は横に置くべき。その上で市が考えなければならないのは、ふくしまワイナリープロジェクトが三菱復興財団にとって唯一直接的に実施した事業であり、13億円もの基金が投じられていることです。三菱商事は移管後もグループとして施設と事業を支える意向と聞いている。復興支援の象徴でもある逢瀬ワイナリーを簡単になくしていいはずがない。品川市長は『自分が市長の時に赤字施設を引き受けるわけにはいかない』と短絡的に考えるのではなく、市として施設をどう生かしていくのか長期的な視点に立って検討すべきだ」(同)  市は逢瀬ワイナリーの今後をどう考えているのか。市農林部に取材を申し込むと、園芸畜産振興課の植木一雄課長から以下の文書回答(9月25日付)が寄せられた。  《逢瀬ワイナリーについては関係者において現在検討中です》  現場の声を聞きたいと、逢瀬ワイナリーの河内恒樹代表理事にも問い合わせてみたが、  「当社は三菱復興財団から委託を受けて酒類を製造・仕入れ・販売しているため、同財団の事業方針について回答し得る立場にありません。施設の今後も知り得ていないので、取材対応はできません」  とのことだった。  肝心の三菱復興財団はどのように答えるのか。以下は國兼康男事務局長の回答。  「弊財団がワイナリー事業の地元への移管を検討していることは事実です。弊財団としては、ワイナリー事業を開始した2015年より10年後の2024年末を目途に地元に事業を移管する予定で準備を進めてきました。現在、移管に向けて関係者と協議中のため、今後のことについては回答できませんが、誠意を持って協議を続けていきます」 財団と市が頻繁に協議  三菱復興財団と市は今年度に入ってから頻繁に協議を行っている。記者が入手した情報によると、5、6月に1回ずつ、8月は3回も協議している。その間、市農林部から品川市長への経過報告は2回。さらに9月中旬には同財団と副市長が意見交換を行ったとみられる。  8月に入って慌ただしさを増していることからも、撤退まで残り1年半の三菱復興財団が焦りを見せ、対する市は態度をハッキリさせない様子が伝わってくる。  それにしても品川市政になってから、ゼビオの栃木県宇都宮市への本社移転、令和元年東日本台風の被害を受けた日立製作所の撤退、保土谷化学とのギクシャクした関係など、地元に根ざしてきた企業と距離ができている印象を受ける。今回の逢瀬ワイナリーも、対応次第では三菱との関係悪化が懸念される。  復興支援という名目で巨費が投じられた際は喜んで受け入れ、それが苦戦すると一転して移管要請に応じない品川市長。前市長が受け入れたならまだしも、1期目の任期中に自身が受け入れた事業であることを踏まえると、10年後に地元に移管することは当然分かっていたはず。品川市長には、施設が赤字という理由で移管を拒むのではなく、13億円もの巨費が投じられていること、さらには果樹農業の6次産業化に必要な施設なのかという観点に立ち、どういう対策がとれるのか・とれないのかを検討することが求められる。

  • 【郡山市】選挙漫遊(県議選)

    【郡山市】選挙漫遊(県議選)

     取材日を11月5、6日に設定。3日の夕方に全候補者(12人)の事務所に電話をして、「5、6日のいずれかで、街頭演説や個人集会などの予定があれば教えてほしい。その様子を取材させてもらったうえで、終了後に5分くらい、次の予定があるならもっと短くてもいいので、候補者への個別取材の時間を設けてほしい。両日に街頭演説や個人集会などの予定がなければ、事務所で取材させてほしい」ということを依頼した。  その時点で、街頭演説や個人集会などの予定が把握できた、あるいは事務所での取材のアポイントが取れたのが10人。計ったように5日と6日で半々(5人ずつ)に分散した。もっとも、時間が被っていた人もいたので、その場合は手分けして取材に当たった。  残りの2人は流動的だったが、どちらも「お昼(12時から13時)は一度事務所に戻ると思う」とのことだったので、「5日から6日のお昼を目安に事務所に行くか電話をする」旨を伝えた。  こうして取材をスタート。2日間かけて、比較的、スムーズに全候補者に会うことができた。 担当:末永 補佐:本田 福島県議選【郡山市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=1756 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松郡山市の解説は29:16~ 定数10 立候補者12 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601621.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601654.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 今井久敏 https://www.youtube.com/watch?v=G6hR6C2WpO4  ――真っ先に取り組むべき県政の課題は。  「物価高騰対策と防災・減災ということに尽きると思います。それを徹底してやっていきます」  ――そのほかでは?  「原発処理水の問題を含めた復興の加速です。われわれが提案したイノベーション・コースト構想がしっかりと実を結ぶように取り組んでいきます」 一言メモ  公明党・山口那津男代表が応援に駆けつけたこともあり、演説会場の郡山駅前広場には多くの聴衆が集まった。警察・警備でかなりの厳戒態勢。その中で、動き回って写真撮影をしていたため、おそらく筆者は「注意人物」扱いだった。(末永) 山田平四郎 https://www.youtube.com/watch?v=F0pB6JNMgzE  ――この選挙戦での有権者の反応は。  「私の地元は田村町で、4年前の台風被害で選挙ムードではない部分がありました。それから見ると、地元では支援の輪が広がっていることを感じる一方、『いつ選挙ですか』と聞かれることもあり、関心という部分では分からない点もあります」  ――県政の課題は。  「内堀知事も大きな課題に挙げていますが、人口減少問題です。郡山市は微減にとどまっていますが、郡山市で育った子どもが大学進学等で都市部に出て、なかなか戻ってこない実態があります。事業承継の問題も含めて、魅力ある郡山市にしていかなければならないと思っています。東日本大震災、原発事故、令和元年東日本台風、昨年・一昨年の福島県沖地震がありましたが、災害に負けないまちづくりをしていかなければなりません。国会議員の先生方と一緒に、郡山市の地区ごとの課題を踏まえながら、まちづくりをしていかなければなりません」    一言メモ  事前連絡では「基本的には昼には事務所に戻る」とのことだったが、6日昼前に事務所に確認すると、「今日は昼は戻ってこない」という。ただ、「〇〇町の〇〇という食堂で昼食をとる予定だから、12時過ぎに行けば会える」とのこと。教えてもらった場所に行くと、事前に事務所から候補者に連絡があったようで、すんなり取材できた。(末永) 佐藤徹哉 https://www.youtube.com/watch?v=t1NCu14mPiw  ――この選挙戦で住民の声をどう受け止めているか。  「若者が活躍できる環境をつくることと、子育て世代の仲間からは、教育の充実、子育て支援の充実を求める声を数多くいただいています」  ――県議会では、県立高校の空き校舎の問題について質問を行っていた。  「空き校舎は、上手く活用することで地域の発展に寄与できるものだと思っています。受け入れる自治体がどう扱うか。郡山市は安積高校御館校が対象で、立地的に人が集まる場所ではありません。逆に、大きな音を出しても問題なければ、楽団の練習、夜間の合唱の練習に使わせてもらいたい、といった要望はあります。決定権は郡山市にあるので、市にどう訴えていくかが今後の課題です」 一言メモ  本誌の問い合わせに対して、候補者本人から「事務所で取材を受けます。事務所の雰囲気も見てほしいので」と連絡があった。実際、事務所を訪ねると、若い人が多いのが目に付いた。(末永) 高橋翔 https://www.youtube.com/watch?v=TnGRnB_Q_-M  ――今回の選挙の位置付けは?  「郡山市は当初、無投票が予想されていました。人材不足が顕著で、現職が後継者を育てられてない。同じ顔ぶれで、選挙公報を見ても言っていることも同じ。そのレベルなんですよ。そもそも、この4年間で『県議ってどこで何をしているの?』という声が結構多かったので、そこを改善するために、民間人・有権者側の立場で立候補することにしました」  ――今回は選挙区である郡山市だけでなく、県内全域を回っているそうだが。  「郡山選挙区から立候補したから、ほかは関係ないという考え方は危険だと思います。それは僕からしたら当たり前のこと。若い人は、そういうスケールの小さい考えの人の方が少ない。いまはそういう若い人は選挙に行かないかもしれない。でも、いずれ選挙に関わるようになったときに履歴がない。30代で立候補する人はほとんどいないから。若手が本当の意味での無所属で立候補した場合、どれだけ求められているか。僕がその履歴をつくる意味もあります」  一言メモ  演説内容を聞いても、個別取材でも、1人だけ「異質」で、フラットな視点で見るならば、最も興味深い人物。もちろん、それが良いか悪いかは有権者の判断による。(末永) 佐藤憲保 https://www.youtube.com/watch?v=W6F8KQenANs  ――地域の課題は。  「郡山市は、他地域に比べて若い世帯が多いが、少子高齢化が迫っている流れは同じ。県の中心である郡山市がもっと経済中心地にならなければなりませんが、まだまだそうはなっていません。郡山市を経済中心地として発展させていく必要があります。震災後は、逢瀬ワイナリーや医療機器開発支援センター、三春町の環境創造センターの誘致を行い、これらを郡山市ならびに周辺地域の経済発展の核にしていきたいと思っていましたが、リンクした民間企業の貼り付けがなかなか進んでいないのが課題です。機能的、有機的に連携して民間企業の誘致を進めていきたい」  ――県全体の課題は。  「やはり震災復興。東日本大震災の復興は一定の形になってきたが、原発事故・廃炉を抱える県にとって、廃炉が終了するまでは課題として対応していく」 一言メモ  事務所での取材とは別に、JR舞木駅での街頭演説(11月6日13時55分から)を取材。平日にも関わらず約20名の群衆がおり、固定支持者層の厚さを見た。在任期間が長く人脈も広い。コロナ対応の話などに聞き入った。(本田) 二瓶陽一 https://www.youtube.com/watch?v=tdYBBR3r0GM  ――立候補の経緯は。  「郡山市を良くしようと8月の郡山市議選に立候補しましたが、落選したため実現できませんでした。私も71歳ですから、4年後の市議選を目指すよりも、元気なうちにやりたいことをやらなければならないと思い、今回の県議選への立候補を決めました」  ――ズバリ、県政の課題は。  「県議のこの4年間の任期は、あまり活躍の場が見られなかった。コロナで、そういう場に恵まれなかったのかもしれませんが、あまりにもないので、このままでいいのか、と。そうした中で、私はインバウンド計画、英語オンライン教育推進などに取り組みたいと思っています」   一言メモ  市議選では「日本維新の会」から立候補。ただ、「政策的に合わない部分もある」と今回は無所属に。政党などに縛られない自由な視点・発想を売りにしている。(末永) 神山悦子 https://www.youtube.com/watch?v=JxtEHjADPrw  ――県政の課題は。  「多数あるが、まずは暮らしを守ること。県内の86%が学校給食費を無料にしており、県が半分補助すれば県内全市町村が給食費半額になります。そういった資金を出せるだけの財源もあります。『子育て日本一』と謳っている福島県であり、国でも検討を始めたいまだからこそ、県として実施すれば全国トップクラスになると思います。  震災後、18歳以下の医療費無料を公約で掲げて実現しました。これも全国でいち早い取り組みでした。県民が原発事故や様々な災害に苦しんでいる中でも、まずは子どもを守る。教育費の負担軽減を県が率先してやるべきです。  県は『健康長寿県』も謳っているが、であれば高齢者のバス代無料化やタクシー補助を行うべき。どちらも県内自治体では実施しているところが多く、県が率先し全県で進めるべき。  医療面でも、医師不足が続いており、震災によってさらに大変になっています。そういった部分に優先して予算を回すべきです。  中には、『年を越せるのか』と不安視している事業者もいます。そのような県民の暮らしの痛みを感じて、そういった方々の暮らしを守るために予算を投じることを、知事の判断でやるべきです。そうなっていないのが県政の一番の課題だと思います」 一言メモ  住宅地での街頭演説。群衆はそれほど多くないが、花束を持って応援に来る支持者もおり、アットホームな雰囲気。給食費無料化や高齢者向けのタクシー補助など、訴える内容も生活に寄り添った事柄が多かった。(本田) 鈴木優樹 https://www.youtube.com/watch?v=whtXAY6sn9E  ――県政の課題は。  「復興と、人口減対策ですね。特に、復興の部分は浜通りが多い。それは当然ですが、中通り、会津も含めたオールふくしまでやっていかなければならないと思います」  ――有権者から何を求められていると感じるか。  「政治に対する不満があるのだと思いますが、訴えたことに対する跳ね返り、それは声だけでなく顔(表情)を含めて、厳しいなと感じています。政治への不信感を払拭して、参加しよう、自分たちの意思表示をしようと思ってもらえるようにしなければなりません。ただ、われわれはすべての方に接触はできない。ですから、こういうところ(個人演説会に来てくれた人)から広めてもらう。われわれも発信していくような地道な作業が必要だと思います」   一言メモ  安原地区での個人演説会を取材。広い郡山市内でも、本来の地盤ではないところで、自発的(地元町会主導)に後援会がつくられたという。地元住民は「地元選出の市議会議員とのタッグでの活躍を期待している」と話していた。(末永) 佐久間俊男 https://www.youtube.com/watch?v=_ZpgUSpL-OA   ――今日で告示から5日目になりますが、有権者の声をどう捉えていますか。  「人口減少の現状をしっかりと捉えて選挙戦に臨んでほしいという声が多いですね。もう1つは、もっともっと魅力ある郡山にして、若者の県外流出を抑制できるようにしてほしい、と。これは私も同じ思いです」  ――それを踏まえ、県政ではどういった活動をしていくか。  「選挙でいただいた意見を県政に伝えていくわけですが、限られた予算の中で、県民生活に直結する部分への予算配分にもっと重きを置くべき。そういったことを訴えていきたいと思います」 一言メモ  馬場雄基衆議院議員らが応援演説に駆けつける。下校途中の中学生から「頑張れー」と声をかけられていた。(末永) 長尾トモ子 https://www.youtube.com/watch?v=1WvkS95D9gY  ――県政の一番の課題は。  「少子高齢化の問題に加え、震災・原発事故から12年7カ月が経ち、浜通り、双葉地区の人口減少が進んでいる中、新しいふくしまの産業を充実させていかなければなりません。国、国際研究機構と連携しながら、地元の人たちが活躍できるような場をつくっていくことが課題だと思います。もう1つは、会津地方をはじめ、県内広域で農業が衰退しているので、農業のあり方を変えながら、素晴らしい福島県の農産物を継承できるような仕組みをつくっていなかればなりません」  ――地元・郡山としてはどうでしょうか。  「私は県議会議員ですから、郡山だけでなく、会津も、いわきも、広い視点で福島県を見ていきたい。その中でも、私は45年間、幼稚園・保育園の園長をしてきましたから、子どもたちがどういうふうに育っていくのか、社会でどんな活躍をするのか、自分をどう表現するのか、その機会をつくることが得意とする分野ですので、そのための活動をしていきたい」   一言メモ  選挙期間中は毎日、平日の朝8時から郡山駅前で街頭演説をしているという。取材日は、障がいを持つ子どもの母親、障がい者支援団体の関係者らが応援に駆けつけ、マイクを握った。(末永) 椎根健雄 https://www.youtube.com/watch?v=ULAyLeT9vFQ  ――今日の演説で強調していたコロナ後の対策、物価高対策について具体的には。  「県では石油・ガスの支援を行っており、それを拡大させるべく、今後の補正予算や、2月には当初予算審議が行われますので、しっかりと会派として執行部に訴えていきたい」  ――そのほかの課題は?  「少子高齢化が進んでおり、限られた財源の中で、いかに子育て世代に財源を持っていくかということと、医療・福祉・介護の問題にしっかりと取り組んでいきたい」   一言メモ  佐藤雄平前知事、玄葉光一郎衆院議員らが駆けつけるなど、個人演説会は盛況。(末永) 山口信雄 https://www.youtube.com/watch?v=ixAEI6CI8hk  ――選挙戦で有権者の思いをどのように受け止めているか。  「コロナがあり、事業に対する不安の声などが多く聞かれました。コロナからの経済復活のため、郡山市から県に、県から国に伝えていかなければならないと思っています」  ――県全体の課題は。  「一番は人口減少、流出です。あとは復興に関する部分ですが、エフレイ(福島国際研究教育機構)との連携、効果を浜通りだけでなく、全県に広げていけるようにしていかなければならないと思います」   一言メモ  安積地区での集会を取材。安積町は令和元年東日本台風の被害が大きく、支持者の中にも被災者がいた。山口候補自身、防災士の資格を持っており、県議として水害対応や防災を望む声が多かった。(本田)

  • 【しゃぶしゃぶ温野菜 郡山爆発事故】被害女性が明かす苦悩

    【しゃぶしゃぶ温野菜 郡山爆発事故】被害女性が明かす苦悩

     2020年7月に郡山市で起きた飲食店爆発事故から、間もなく3年を迎える。当時、現場近くの事業所におり、重傷を負った女性が本誌取材に応じ、この間の苦悩や、誰も責任を問われない現状へのやるせなさなどを明かした。(末永) 「責任の所在不明」で進まない被害者救済  まずは事故の経過を振り返っておく。 爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところに位置する。 この事故によって1人が死亡し、19人が重軽傷者を負った。加えて、当該建物が全壊したほか、付近の民家や事業所など200棟以上に被害が及んだ。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。 警察の調べに基づく当時の地元紙報道などによると、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたと考えられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに、何らかの原因で引火した可能性が高いという。 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。 それによると、以下のようなことが分かったという。 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かった。管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 以降しばらくは、捜査機関の動きは報じられていなかったが、今年3月、福島地検が全員を不起訴としたことが伝えられた。運営会社社長ら4人は嫌疑不十分、内装業者は死亡していることが理由。 これを受け、事故で重傷を負った市内の女性が4月12日、不起訴処分を不服として福島検察審査会に審査を申し立てた。 地元紙報道によると、代理人弁護士が県庁で記者会見し、「大事故にもかかわらず、誰も責任を負わない結果は被害者には納得できない。責任の所在を明確にし、なぜ事故が起きたのかはっきりさせないといけない」と話したという。(福島民報4月13日付) 被害女性に聞く 本誌取材に応じるAさん  以上が事故のおおよその経緯だが、今回、本誌取材に応じたのは、事故現場のすぐ目の前の事業所にいて重傷を負ったAさん(※不起訴処分を不服として審査を申し立てたのとは別の被害女性)。 その日、Aさんはいつも通り始業時間である8時半の少し前に出勤し、事務所の掃除、業務の打ち合わせなどをして、自分のデスクに座り、パソコンの電源を立ち上げた瞬間に事故が起きた。 〝ドーン〟という大きな音とともにAさんがいた事業所(建物)が崩れ、「飛行機か何かが落ちてきたのかと思った」(Aさん)というほどの衝撃だった。天井が落下して下敷きになり、割れた窓ガラスの破片で頭や顔などに大ケガを負った。 当時、事業所にはAさんのほかにもう1人いたが、「たまたま何かの陰になったのか、その方は傷を負うことはなく、(下敷きになっていた)私を救出してくれました」(Aさん)。 その後、救急車で郡山市内の病院に運ばれ、そこからドクターヘリで福島県立医大病院に搬送された。 そこで、手術・点滴などの治療を受けたが、安静にする間もなく、警察から事情を聞かれた。毎日、窓越しに事故が起きた飲食店の改修工事の様子を見ていたため、早急に話を聞きたいとのことだったという。当時は話をするのも容易でない状況だったが、警察から「(工事で)何人くらいの人が出入りしていたか」等々の質問を受け、筆談で応じた。 その後は、医大病院(病室)で安静にしていたが、次第に「助かった」という思いと、「家族はどうしているか」、「職場はどうなったか」等々が頭を占めるようになった。 「なるべく早く帰りたいと思い、一生懸命、歩ける、大丈夫ということをアピールしました」(同) その結果、抜糸やその後の治療は郡山市内の病院で引き継ぐことになり、翌日には退院して自宅に戻ることができた。 そうまでして、退院を急いだ理由について、Aさんはこう話す。 「私は何のキャリアもない主婦で、過去には大きな病気をしたこともありました。そんな中、いまの職場に入り、そこから一生懸命仕事を覚えて、事務職にまで取り立ててもらえるようになって、やっと軌道に乗ってきたところでした。そうやって積み重ねてきたものがなくなる怖さと、生き残ったということに気持ちが高ぶっており、痛くて寝込むとか、つらいとかいうよりも、早く復帰しなければという思いの方が強かったんです」 Aさんが勤める事業所は、市内の別の場所に移り、事故後1日も休むことなく事業を続けている。Aさんも間もなく仕事に復帰し、その間、一度だけ元の事業所に行った。事故の影響で、顧客情報などが散乱してしまったことから、その回収のためである。 ただ、事故後、現場に行ったのはそれ1回だけ。 「それ(一度、資料等を回収に行った時)以降は、一度も現場には行っていません。周辺がキレイに整備され、新しくなってドラッグストアができたとか聞きますが、あの周辺を通ったこともありません」 それだけ、恐怖心が残っているということだ。 事故の後遺症はそれだけではない。いまでも、時折、体に痛みを感じるほか、ヘリコプターや飛行機などの音を聞くと、猛烈な恐怖心に襲われることがある。「ドクターヘリで搬送されたときの記憶はあいまい」とのことだが、仕事中、そうした音が聞こえると、建物が崩れたときの記憶がフラッシュバックし、怖くて建物の外に飛び出すこともある。 「(事故の記憶がよみがえらないように)全く違う業種に転職して、環境を変えた方がいいのかな、と思うこともありました。ただ、いまの状況ではどこに行っても、普通に働くことはなかなか難しいでしょうし、いまの職場の方は事情を分かってくれて、例えば、調子が悪い日は職場に設置してもらった簡易ベッドで休ませてもらうこともあります。そういったサポートをしてくれるので働き続けることができています」 関係者の「不起訴」にやるせなさ 爆発事故後のAさんの勤務先(Aさんのデスクがあった場所=Aさん提供)  傍目には目立つ外傷はないが、体には痛みが残り、精神的に安定しない日があるというのだ。 「どんどん握力が落ちて、お皿を洗っているときに、落とすこともあります。握力測定では性別・年代別の平均値よりずっと低く、幼稚園児と同じくらいでした」 いまも、整形外科で薬を処方してもらっているほか、メンタルクリニックでカウンセリングを受けている。睡眠薬がなければ眠れず、体の痛みで眠れない日もある。 治療費は、しゃぶしゃぶ温野菜のフランチャイザーのレインズインターナショナル(横浜市)と、運営会社の高島屋商店(いわき市)の被害対応基金から支払われている。ただ、まずは自分で負担し、診断書を添えて実費分が支払われる、という手続きが必要になる。加えて、これもいつまで続くか、といった不安がある。 中には「賠償金はいくらもらったの?」と心ないことを聞かれることもあったそうだが、治療費以外の賠償金は支払われていない。それどころか、事故を起こした店舗の関係者からは「私たちが悪いと決まったわけではないので」といった理由から謝罪もされていないという。 当然、「納得できない」との思いを抱いてきたが、それをさらに増幅させることがあった。前段で述べたように、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)が業務上過失致死傷の疑いで書類送検されていたが、今年3月、全員が不起訴になったことだ。 「まず、こんなに時間がかかるとは思っていませんでしたし、あれだけの事故を起こして、誰も責任を問われないなんて……。無力感と言うんですかね、そんな感じです」 言葉にならない、やるせなさを浮かべる。 事故当時、警察からは、被害者として刑事告訴できる旨の説明を受けた。民事でも「被害者の会」が組織されるのではないか、との見方もあった。ただ、被害の程度が違うため、被害者組織は結成されなかった。 Aさん自身、自分の心身のこと、家族のこと、仕事のことで精一杯で、刑事告訴や、民事での損害賠償請求などに費やすエネルギーや時間的余裕がなかった。そのため、これまで自らアクションを起こすことはなかった。 そもそも、これだけの事故を起こして、誰も責任を問われない、自身の被害が救済されない、などということがあるとは思っていなかったに違いない。ただ、刑事は前述のような形になり、どうしたらいいか分からないといった思いのようだ。 郡山市の損害賠償訴訟に期待 Aさんの勤務先から事故現場に向かって撮影した写真。奥に警察、消防士などが見え、現場と至近距離であることが分かる。(Aさん提供)  そんな中で、Aさんが「希望を持っている」と明かすのが、郡山市が起こした損害賠償請求訴訟である。 これについては、本誌昨年6月号で詳細リポートし、今年6月号で続報した。 郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円、避難所運営に要した費用約100万円、被災者への固定資産税の減免措置など約80万円、災害ごみの回収費用約70万円など。 裁判に至る前、市は独自で情報収集を行い、裁判の被告とした6社と協議をした。そのうえで、2021年2月19日、6社に対して損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。 3月29日までに6社すべてから回答があり、2社は「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社は「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答だった。 前段で、事故を起こした店舗の関係者は「自分たちが悪いと決まったわけではないので」といった理由から、Aさん(被害者)に謝罪していないと書いたが、市との協議でも同様の主張であることがうかがえる。 これを受け、市は県消防保安課、郡山消防本部、郡山警察署、代理人弁護士と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対して、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。同年9月に6社に対して協議による解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。 ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こすことを決めたのである。 2021年12月議会で関連議案を提出し、品川萬里市長が次のように説明した。 「2020年7月に島2丁目地内で発生した爆発事故で、本市が支出した費用について、責任を有すると思慮される関係者に対し、民事上の任意の賠償を求め協議してきましたが、本日現在、当該関係者から賠償金全額を支払う旨の回答を得ておりません。本市としては、事故の責任の所在を明らかにするため、弁護士への相談等を踏まえ、関係者に対して民法第719条に基づく共同不法行為者として、損害賠償を求める訴えの提起にかかる議案を提出しています」 議会の採決では全会一致で可決され、それを経て提訴した。 昨年4月22日から今年5月23日までに計6回の口頭弁論が開かれているが、市総務法務課によると「現在(この間の裁判)は争点整理をしています」とのこと。 判決に至るまでにはまだ時間がかかりそうだが、Aさんは「市が率先して、責任の所在を明らかにしようとしているのはありがたいし、希望でもある」と話す。 求められる被害救済  市総務法務課の担当者は、裁判を起こした理由について、こう話していた。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」 当然、裁判は市の損害を回復することが最大の目的だが、市が率先して裁判を起こすことで判例をつくり、ほかの被害者の参考にしてもらえれば、といった意味合いもあるということだ。 今回の事故で、Aさんをはじめ多くの人・企業が被害を受けたのは明らかだが、「加害者」は明確なようで実はそうではない。 過失があると思われるのは運営会社、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関などだが、それぞれが「自分たちの責任ではない」、あるいは「自分たちの責任であると明確に認定されるまでは謝罪も賠償もしない」という姿勢。言わば、責任をなすりつけあっているような状況なのである。 そのため、事故から3年が経とうとしているが、賠償などは全く進んでいない。気の毒というほかないが、運営会社、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関などのどこであれ、責任の所在を明らかにし、事故を起こした事実を受け止めてほしい。あの日、日常の中で事故に巻き込まれた人たちの被害が救済されることを切に願う。 あわせて読みたい 【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】郡山市が関係6社を提訴 「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」刑事・民事で追及続く【郡山】

  • 【郡山市】品川萬里市長インタビュー

    【郡山市】品川萬里市長インタビュー

     しながわ・まさと 1944年生まれ。東京大学法学部を卒業後、旧郵政省に入省。郵政審議官を経てNTTデータ副社長、法政大学教授など。現在市長3期目。  ――新型コロナの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられました。 「県の移行計画では9月末までに入院受け入れ医療機関を51医療機関から131医療機関へ、対応病床数も766病床から786病床へ段階的に拡大し、未対応であった医療機関に対しても働きかけを行うこととしています。外来診療体制も現在の689医療機関からすべての医療機関に働きかけ、インフルエンザと同等に幅広い医療機関による外来診療体制を構築することとしています。このことにより、これまで一部の医療機関での診療や入院であったものからすべての医療機関での診療等が可能となり、郡山市内においても診療可能となる医療機関の増加が想定されることから、診療や入院の受け入れを行ってきた医療機関の負担は軽減されると考えられます。 一方、これまで診療や入院の受け入れを行ってこなかった医療機関では新たな感染防止対策をとるなどの負担が考えられますが、県では必要となる感染防止等の設備整備の補助や院内感染発生に伴う休止・縮小に対する支援、個人防護具の配布等の財政支援措置を準備しています。市としては県や医師会などと連携してサポートを行っていきます。 ワクチン接種については5月8日から『令和5年春開始接種』が始まり、本市でも4月24日から接種券を発送しています。市民の皆様には羅患時の重症化リスクを低減し、ひいては医療機関の負担軽減に結び付くと考えられることから、接種についてご検討をお願い致します」 ――一家4人死亡事故を受け、市道を点検した結果、危険交差点が222カ所あることが判明しました。 「2月3日までに222カ所の点検を行い、180カ所で対策を検討していましたが、その後、郡山地区交通安全協会や郡山市交通対策協議会などから新たに61カ所の交差点の情報が寄せられ、それらの点検を行った結果、58カ所を追加し、238カ所の交差点で対策が必要であると判定しています。対策工事については市民の皆様の安全を確保するため迅速な対応に努め、昨年度中に区画線・路面表示の対策を5カ所実施し、現在は133カ所について工事発注の手続きを進めており、カラー舗装の工事を6月に、カーブミラーや路面標示などの工事を7月までに完了する見込みです。残り100カ所についても県公安委員会と連携し、1日も早い完了を目指します」 ――開成山公園と公園内の体育施設がPFIを導入した新しい公園・体育施設に生まれ変わります。 「開成山公園は2017年の都市公園法改正により創設されたPark―PFIを活用し整備を行うこととしました。体育施設はPFI法及び郡山市PFIガイドライン等に基づき19年度にPFI導入可能性調査を行った結果、施設改修と維持管理・運営を一体的に行うPFI事業としての効果が十分に発揮できると判断しました。開成山公園は目指すべき姿を『郡山の「未来を切り拓く」セントラルパーク』とし、自由広場の芝生化、駐車場の拡充及びトイレの改修・新築等といった公園施設の整備とともに、民間事業者による飲食店等の新設など市制施行100周年の節目となる2024年のリニューアルオープンを目指し、民間事業者との協奏による整備を行っていきます。さらには気候変動に対応する防災機能の強化、ベビーファースト、SDGsを実現させるべく、市民の財産である開成山公園をより有効活用し、秘めたる力を発揮させていくとともに、先人たちの偉業に思いを馳せながら『次の100年』を目指した公園整備を行っていきます。体育施設は年齢、障がいの有無などに関わらず、すべての市民がスポーツに親しみ、各種プロスポーツ大会や大規模大会が開催される市のスポーツの拠点形成を目指します。改修工事は宝来屋郡山体育館が今年10月から2024年9月まで、郡山ヒロセ開成山陸上競技場が24年2月から25年3月末まで、ヨーク開成山スタジアムが24年8月から25年3月末まで、開成山弓道場が24年12月から25年3月末までとなっており、オープン時期は施設により異なります」 ――今年度の重点施策について。 「少子高齢化・人口減少の中にあっても持続的発展を遂げる都市を目指すため、今年度の市政執行方針を『「ベビーファースト(子本主義)実現型」課題解決先進都市の創生』と定め、子どもの視点に立ったまちづくりを推進していきます。主な施策としては学校給食の公費負担を実施したことです。私は教科書が無償であるのと同様に『給食は食育教育の教科書である』と考えているため、本年度から市独自の施策として中学校の給食費を全額公費負担とし、小学校の給食費も国の地方創生臨時交付金を活用し、全額公費負担としたところです。また、DXの推進に加え、気候変動や地球温暖化対策といったGXの推進にも重点を置き、2050年の二酸化炭素排出量実質ゼロ目標の実現を目指します」  ――来年、市制施行100周年を迎えます。 「明治時代に行われた安積開拓をきっかけに全国各地から士族が移住してきました。安積疏水は農業の発展はもとより、疏水を利用した水力発電により養蚕などの産業や工業の発展をもたらしました。1924年に郡山町と小原田村が合併し郡山市となり、その後も幾度かの合併を経て65年の大合併により現在の形となりました。この間、東日本大震災や自然災害など幾多の困難もありましたが、多くの先人たちが築き上げた礎のおかげで、市制100周年を迎えることができると考えています。次の100年に向け、先人たちの思いをつなぎ、安積開拓の理念『開物成務』のもと、市民や事業者が自由かつ存分に活躍してもらえる、自治力のある都市の実現を図っていきます。 記念事業についてはオール郡山で記念事業に取り組むため、次代を担う世代の方々や市民活動団体関係者、報道機関などの22名で構成された『郡山市制施行100周年記念事業プロモーション委員会』において、市の政策との整合性にも留意しつつ、記念事業が次の100年を見据え、未来メッセージを発信していく意義のあるものとなるよう検討していただいています。委員会からは音楽イベントの開催、プロスポーツの記念試合開催などのほか、歴史・観光・子ども・産業などのアイデアをいただいており、今後、記念事業の内容について検討していきます」 ――今後の抱負を。 「『誰一人取り残されない』SDGsの基本理念のもと、市民・団体・事業者などの皆様との『公民協奏』『セーフコミュニティ活動』の推進を念頭に各種施策を総合的・持続的に実施することにより、市民・事業者の皆様が思う存分に活躍できるまちづくりを進めてまいります」 郡山市のホームページ

  • うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

    うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

     本誌3月号に、うすい百貨店(郡山市)から「ルイ・ヴィトン」が撤退するウワサがある、と書いた。 それから2カ月経った先月、ヴィトンは公式ホームページで「うすい店は8月31日で営業を終了することとなりました」と発表。ネット通販が全盛の昨今、地方都市に店舗を構えるのは得策ではない、という経営判断が働いたとみられる。 問題は撤退後の空きスペースをどうするかだが、3月号取材時は「後継テナントが見当たらず、憩いのスペースにする案が浮上している」との話だった。百貨店に憩いのスペースは相応しくない。この間の検討で具体案は練られたのか、うすいの公式発表が待たれる。 あわせて読みたい 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂 2023年3月号

  • 「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」刑事・民事で追及続く【郡山】

     2020年7月に、郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜郡山新さくら通り店」で爆発事故が発生した。当時の報道によると、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたとみられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに何らかの原因で引火した可能性が高いという。 爆発事故の原因 事故現場。現在はドラッグストアになっている。  その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かった。管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 以降、しばらくは捜査機関の動きは報じられていなかったが、今年3月、福島地検が全員を不起訴としたことが伝えられた。運営会社社長ら4人は嫌疑不十分、内装業者は死亡していることが理由。 これを受け、事故で重傷を負った市内の女性が4月12日、不起訴処分を不服として福島検察審査会に審査を申し立てた。 地元紙報道によると、代理人弁護士が県庁で記者会見し、「大事故にもかかわらず、誰も責任を負わない結果は被害者には納得できない。責任の所在を明確にし、なぜ事故が起きたのかはっきりさせないといけない」と話したという。(福島民報4月13日付) 事故後の裁判と賠償問題 郡山市役所  こうした刑事の動きとは別に、民事(すなわち賠償)の動きはあまり進展していない。 本誌昨年6月号に「郡山爆発事故で市が関係6社を提訴 被害住民に『賠償の先例』をつくる狙いも」という記事を掲載した。 同記事は、事故を受けて市が2021年12月に、店舗運営会社やフランチャイズ本部などの6社を相手取り、現場周辺の市道清掃や災害見舞金支給に要した費用など約600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を福島地裁郡山支部に起こしたことを伝えたもの。 市は裁判に至る前、情報収集を行い、6社と協議をしてきたが、賠償金の支払いに関しては話がまとまらなかった。そのため、裁判を起こしたのである。 昨年4月22日から今年5月23日までに計6回の口頭弁論が開かれているが、市総務法務課によると「現在(この間の裁判)は争点整理をしています」とのこと。 一方、以前の本誌取材で裁判を起こした理由を尋ねたところ、市総務法務課の担当者はこう話していた。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」  これは「追随してほしい」という意味ではなく、判例をつくることで被害にあった人にそれを参考にしてもらえれば、ということのようだ。その点でも、市が損害賠償を求めた裁判は大きな意味を持つが、判例ができるまでにはまだ時間がかかるだろう。 あわせて読みたい 郡山【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】市が関係6社を提訴 2022年6月号 福島県郡山市の飲食店で爆発事故、親会社コロワイドの株価が下落 (Bloomberg) 政経東北【2023年7月号】で『郡山【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】被害女性が明かす苦悩』を掲載  2020年7月に郡山市で起きた飲食店爆発事故から、間もなく3年を迎える。当時、現場近くの事業所におり、重傷を負った女性が本誌取材に応じ、この間の苦悩や、誰も責任を問われない現状へのやるせなさなどを明かした。(末永)

  • 郡山【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】市が関係6社を提訴

    【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】郡山市が関係6社を提訴

    (2022年6月号)  2020年7月に郡山市島2丁目で起きた飲食店爆発事故をめぐり、市は2021年12月、店舗運営会社やフランチャイズ本部などの6社を相手取り、現場周辺の市道清掃や災害見舞金支給に要した費用など約600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。2022年4月22日には第1回口頭弁論が開かれ、6社はいずれも請求棄却を求めて争う姿勢を示したという。今後、裁判での審理が本格化していくが、あらためて事故原因と裁判に至った経過についてリポートする。 被害住民に「賠償の先例」をつくる狙いも 事故現場。現在はドラッグストアになっている。 爆発事故現場の地図  爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところにある。この爆発事故により、死者1人、重傷者2人、軽傷者17人、当該建物全壊のほか、付近の民家や事業所などにも多数の被害が出た。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。 当時の報道によると、警察の調べで、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたとみられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに何らかの原因で引火した可能性が高いという。 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。 それによると、以下のようなことが分かったという。 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。 こうした調査を経て、経済産業省は、一般社団法人・全国LPガス協会などに注意喚起を促す要請文を出している。 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かり、管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月2日、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 ただ、それ以降は捜査機関の動きは報じられていない。 責任の所在が曖昧 爆発事故の被害を受けた近くの事業所から事故現場に向かって撮影した写真  以上が事故の経緯だが、この件をめぐり、郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円など。 あわせて読みたい 福島県郡山市の飲食店で爆発事故、親会社コロワイドの株価が下落 Bloomberg   4月22日には1回目の口頭弁論が行われ、被告6社はいずれも請求棄却を求める答弁書を提出したという。 それからほどなく、本誌は、運営会社の高島屋商店、フランチャイズ本部のレインズインターナショナルにコメントを求めたところ、レインズインターナショナルのみ期日までに回答があった。 それによると、「事故が発生したことは大変遺憾であり、事故原因・責任の所在に関わらず、ご迷惑をお掛けした近隣の皆様には申し訳ないと考えております」とのこと。そのうえで、郡山市の提訴についてはこう反論した。 ①フランチャイザーの監督義務違反(民法709条)という点において、そもそもフランチャイザーがフランチャイジーを監督する義務はフランチャイズ契約にも規定がなく、また、店舗の内装造作工事・ガス管の設置方法に関して、当社から一切の指示をしていません。 ②使用者責任(民法715条)に基づく法的責任については、使用者責任は両者間において「使用者」・「被用者」の関係にあることが必要で、フランチャイザーとフランチャイジーは独立の主体として事業活動を行うものであることから、主張に無理があると考えており、これらの主張に対して遺憾に思います。 ③ただし、被害に遭われた方に対しては、当社の法的責任の如何に拘らず、基金による補償金の支払いを本件訴訟と併行しながら継続しています。なお、現在はお怪我をされた方の継続的な医療費の支払いがメインであり、これらの方に対し、基金として最後まで対応していきます。 次回裁判は6月28日に開かれ、争点整理手続きを経て争点などが洗い出され、以降は本格的な審理に入っていくことになろう。その中で、同社以外の被告がどのような主張なのかが明らかにされていく。 市によると、裁判に至る前、6社と協議をしてきたという。2021年2月19日、6社に対して、損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。3月29日までに、2社からは「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社からは「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答があった。 これを受け、関係各所と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対し、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。2021年9月、6社に協議解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こした。 ここまでの経過を振り返ると、警察が運営会社社長、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検したように、責任の所在が明らかにされていないことが話をややこしくしている。 市と関係6社との協議でも、一部から「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」との回答があったように、責任の所在が明らかにされれば、損害賠償に応じる可能性もあろう。 もちろん、刑事事件と市が損害賠償を求めた民事裁判は別物だが、今後、刑事裁判が行われ、責任の所在が明らかになってから、損害賠償請求することもできた。 いま訴訟を起こした理由 郡山市役所  なぜ、このタイミングで市は損害賠償請求訴訟を起こしたのか。 市によると、1つは民法724条に、不法行為の賠償請求権の消滅時効は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき」とあること。   今回のケースでは、損害を受けたのは明らかだが、前述のように「加害者」はハッキリしているようで、実は明確でない。そのため、消滅時効の起算は始まっていないと考えられるが、「ひょっとしたら、消滅時効の起算が始まっているとみなされる可能性もある」と、代理人弁護士からアドバイスされたのだという。 もし、そうだとしたら、もう少しで事故発生から2年が経ち、どの時点が起算点になるかは不明だが、仮に事故発生直後とすると時効が1年余に迫っていることになる。もっとも、市の場合は、話し合い(協議)の中で、明確に損害賠償を求める意思を示しているため、それには当てはまらないと考えられるが。 もう1つは、こんな理由だ。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」(市総務法務課) 品川萬里・郡山市長  主にこうした2つの理由から、このタイミングで損害賠償請求訴訟を起こしたわけ。 爆発事故で被害を受けた住民に話を聞くと、次のように述べた。 「賠償は進んでいません。近く、弁護士に相談しようと思っています。すでに、いくつか裁判が始まっているとも聞いているので、そこに合流させてもらうことも視野に入れています。いずれにしても、泣き寝入りせず、納得のいく賠償を求めていきたい」 関係各社は、市との協議で「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」といった姿勢だったから、近隣住民や事業者に対しても同様の対応だろう。 そういった意味では、今後、刑事裁判や、市が起こした民事裁判でどのような判断が下されるかが大きな注目ポイントになりそうだ。 あわせて読みたい 刑事・民事で追及続く【郡山】「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」

  • 大量カメラで社員を〝監視〟する山口倉庫

    【郡山市】大量カメラで社員を「監視」する山口倉庫

     郡山市の山口倉庫㈱で社員の退職が相次いでいるという。原因は大量の監視カメラ。社内の至る所に設置され、四六時中〝監視〟されている状況に、社員は気味の悪さを感じているようだ。決して働き易いとは言えない職場環境。経営者の見識が問われる。 「気味が悪い」と退職者続出!? 郡山市三穂田町にある山口倉庫の本社倉庫  山口倉庫は1967年設立。資本金1000万円。郡山市三穂田町の東北自動車道郡山南IC近くに建つ本社倉庫のほか、市内にある複数の自社倉庫で米や一般貨物の保管・管理を行っている。駐車場経営や土地建物の賃貸なども手がける。 現社長の山口広志氏は2000年に就任。祖父の松雄氏が創業し、父の清一氏が2代目。広志氏は清一氏の二男に当たる。 2001年に建てられた本社倉庫の不動産登記簿を見ると、東邦銀行が極度額3億6000万円と同4億9200万円、大東銀行が同6億円の根抵当権を設定していたが、昨年までにすべて抹消されている。詳しい決算は不明だが、ある筋によれば年間の売り上げは2億5000万円前後で、4000万円前後の利益を上げているというから堅実だ。 「数年前に一度、大きな赤字を出した。原因は、倉庫で預かっていた製品に不備が生じ、損害賠償を払ったため。そこに会社合併による株式消滅損が重なった」(事情通) 会社合併とはグループ会社内の動きを指す。山口氏は、山口倉庫のほかに㈱山口商店、山口不動産㈱、旭日商事㈲、東北林産工業㈱の社長を務めていたが、4社は2019年から今年初めにかけて山口倉庫に吸収合併された。一方で、20年に不動産業の山口アセットマネジメント㈱を設立し、社長に就いている。  そんな山口グループを率いる3代目をめぐり、本誌編集部に次のような情報が寄せられた。 〇山口倉庫の社内に大量の監視カメラが設置されている。 〇ただでさえ台数が多い中、最近も新しい監視カメラを複数導入した。 〇社員だけでなく、訪問客の様子も監視しているらしい。 〇山口氏は自宅から、監視カメラで撮った映像や音声をチェックしている模様。 〇こうした職場環境に気味の悪さを感じた社員が次々と退職し、その人数はここ4、5年で十数人に上る。 個別労働紛争解決制度とは 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html  話は前後するが、筆者は山口氏に取材を申し込むため、4月中旬に山口倉庫を訪問したが、ほんの数分の滞在中、目の届く範囲内だけで玄関ホールの天井に1台、事務スペースの天井に4台のドーム型カメラが設置されているのを目撃した。事務スペースは更に奥まで続いており、そちらは目視できなかったため、監視カメラは更に設置されている可能性が高い。こうなると、他の部屋(応接室や会議室など)や倉庫内の設置の有無も当然気になる。 読者の皆さんには、出勤してから退勤するまで四六時中〝監視〟されている状況を思い浮かべてほしい。それが働き易い職場環境と言えるだろうか。あくまで個人の感想だが、少なくとも筆者は働きたくない。 もちろん、職種によっては常に監視が必要な仕事もあるだろう。しかし、倉庫業がそれに該当するかというと、顧客から預かっている製品の安全管理上、一定数の監視カメラは必要だが、事務スペースなどに複数設置する必要性は感じない。 山口広志氏とはどのような人物なのか。本誌は郡山市内の経済人や同業者などを当たったが「彼のことならよく知っている」という人には行き着かなかった。その過程で、ようやく山口倉庫の元社員を見つけることはできたものの「もう関わりたくない」と断られてしまった。在職中の苦い経験を呼び起こしたくない、ということか。 問題は、社員が気味の悪さを感じる職場環境を放置していいのか、ということだ。山口氏からすると「余計なお世話」かもしれないが、本誌は労使上、見過ごすべきではないと考え、二つの検証を試みる。 一つはハラスメントに当たるかどうか。 ハラスメントが「人に対する嫌がらせやいじめなどの迷惑行為」であることを考えると、該当するようにも思える。しかし、職場におけるパワハラ・セクハラ・マタハラは、厚生労働省が該当する条件を明示しており、大量の監視カメラが設置されている事実だけではハラスメントには該当しないようだ。 福島労働局雇用環境・均等室の担当者もこう話す。 「監視カメラの設置は法律では禁じられていない。社員の働きぶりを監視するのが目的と言われれば、あとは経営者の判断になる」 それでも、社員が「そういう職場環境は嫌なので改善してほしい」と求め、経営者が応じなかった場合、都道府県労働局では個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき①総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談、②都道府県労働局長による助言・指導、③紛争調整委員会によるあっせんという三つの紛争解決援助サービスを行っている。 要するに労使間の「民事上のトラブル」を、労働局が仲介役となって話し合いによる解決を目指す取り組み。それでも解決しなければ、あとは裁判で決着を図るしかない。 ちなみに、福島労働局が公表する令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況によると、民事上の個別労働紛争相談件数は5754件(前年度比マイナス2・0%)。相談内容の内訳は「いじめ・嫌がらせ」20・6%、「自己都合退職」15・7%、「解雇」9・5%、「労働条件引き下げ」6・5%、「退職勧奨」7・6%、「その他」40・1%となっている。 「その他」の項目には「雇用管理等」「その他労働条件」とあるから、仮に監視カメラの大量設置を相談した場合はここにカウントされることになるのだろう。 二つは、監視カメラで撮影した映像が個人情報に当たるかどうか。 経営者が職場に監視カメラを設置したとしても、それだけで「プライバシーの侵害」には当たらない。経営者には社員がきちんと働いているか指揮監督する必要性が認められており、そもそも職場は「働く場所」なので「プライバシーの保護」という概念が該当しにくいからだ(更衣室やトイレに監視カメラを設置すれば、プライバシーの侵害に当たることは言うまでもない)。 ただ、撮影された映像が個人を特定できる場合、その映像は個人情報に該当するため、個人情報保護法が適用される可能性がある。 気になるカメラの性能 社員の様子を常に監視!?(写真はイメージ)  個人情報保護法18条1項(利用目的による制限)は次のように定めている。 《個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない》 個人情報取扱事業者とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者を指す。もし山口倉庫が、監視カメラで撮影した映像を事業に役立てる使い方をしていたら同事業者になる。一方、社員を指揮監視する目的で監視カメラを設置していれば同事業者には当たらない。同社のホームページを見ると同事業者であることを謳っていないので、監視カメラは純粋に社員の指揮監視が目的なのだろう。 しかし「本当に事業に役立てる使い方をしていないのか」「実は使っているのではないか」という疑いは、撮影されている社員の側からするとどこまでも残る。そうなると、社員個人が特定できる映像は同法によって保護されるべき、という考え方も成立するはず。 だからこそ経営者は、監視カメラの設置自体には違法性がないとはいえ、設置の目的や設置する場所、撮影した映像の利用範囲などを社員にきちんと説明することが大切になる。何の説明もなければ、後々トラブルに発展する恐れもある。 弁護士の見解  県北地方の弁護士に見解を尋ねたところ、このように回答した。 「監視カメラが大量に設置されているからといって、直ちに『ハラスメントに当たる』『個人情報保護法違反だ』とはならないと思う。ただ、監視カメラがどのくらいの性能を有しているかは気掛かりだ。単に社員を指揮監視するだけなら低い性能で十分なはずだが、ズームで社員の手元まで見えたり、音声まで拾える高い性能であれば、社員のスマホ画面をのぞき見したり、個人的な会話を盗み聞きすることもできてしまう。そうなると、プライバシーの侵害に当たる可能性がある」 前述した通り、筆者は山口倉庫を訪問し、居合わせた社員に▽監視カメラを大量設置する目的、▽社員に対する説明の有無、▽社員が相次いで退職しているのは事実か、▽今の御社が「社員にとって働き易い職場環境」と考えているか――等々を記した山口社長宛ての質問書を渡し、期限までの面会か文書回答を求めたが、4月24日現在、山口社長からは何の返答もない。 余談になるが「郡山の山口一族」と言えば、かつては別掲の勢力を誇り、今は子どもたちが各社を脈々と引き継いでいる。そうした中、山口広志氏は一族トップである故・清一氏の後を継いだ。その広志氏が、法的には問題ないかもしれないが、社会常識に照らして強い違和感を抱く経営をしているのは、一族にとって恥ずべきことと言えないか。 あわせて読みたい 元社員が明かす【山口倉庫】の「異様な職場」 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

  • ゼビオ「本社移転」の波紋

    ゼビオ「本社移転」の波紋

     スポーツ用品販売大手ゼビオホールディングス(HD、郡山市、諸橋友良社長)は3月28日、中核子会社ゼビオの本社を郡山市から栃木県宇都宮市に移すと発表した。寝耳に水の決定に、地元経済界は雇用や税収などに与える影響を懸念するが、同市はノーコメントで平静を装う。本社移転を決めた背景には、品川萬里市長に対する同社の不信感があったとされるが、真相はどうなのか。(佐藤 仁) 信頼関係を築けなかった品川市長 品川萬里市長  郡山から宇都宮への本社移転が発表されたゼビオは、持ち株会社ゼビオHDが持つ「六つの中核子会社」のうちの1社だ。 別図にゼビオグループの構成を示す。スポーツ用品・用具・衣料を中心とした一般小売事業をメーンにスポーツマーケティング事業、商品開発事業、クレジットカード事業、ウェブサイト運営事業などを国内外で展開。連結企業数は33社に上る。  かつてはゼビオが旧東証一部上場会社だったが、2015年から純粋持ち株会社体制に移行。同社はスポーツ事業部門継承を目的に、会社分割で現在の経営体制に移行した。 法人登記簿によると、ゼビオ(郡山市朝日三丁目7―35)は1952年設立。資本金1億円。役員は代表取締役・諸橋友良、取締役・中村考昭、木庭寛史、石塚晃一、監査役・加藤則宏、菅野仁、向谷地正一の各氏。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。 「子会社の一つが移るだけ」「HDや管理部門のゼビオコーポレートなどは引き続き郡山にとどまる」などと楽観してはいけない。ゼビオHDはグループ全体で約900店舗を展開するが、ゼビオは「スーパースポーツゼビオ」「ゼビオスポーツエクスプレス」などの店名で約550店舗を運営。別表の決算を見ても分かるように、HDの売り上げの半分以上を占める。地元・郡山に与える影響は小さくない。 ゼビオHDの連結業績売上高経常利益2018年2345億9500万円113億8900万円2019年2316億2900万円67億2500万円2020年2253億1200万円58億4200万円2021年2024億3800万円43億4200万円2022年2232億8200万円78億5100万円※決算期は3月 ゼビオの業績売上高当期純利益2018年1457億6600万円54億1000万円2019年1380億2400万円21億7600万円2020年1291億7600万円19億5300万円2021年1124億6900万円12億8700万円2022年1282億1900万円6億2000万円※決算期は3月  郡山商工会議所の滝田康雄会頭に感想を求めると、次のようなコメントが返ってきた。 郡山商工会議所の滝田康雄会頭  「雇用や税収など多方面に影響が出るのではないか。他社の企業戦略に外野が口を挟むことは控えるが、とにかく残念だ。他方、普段からコミュニケーションを密にしていれば結果は違ったものになっていたかもしれず、そこは会議所も行政も反省すべきだと思う」 雇用の面では、純粋に雇用の場が少なくなり、転勤等による人材の流出が起きることが考えられる。 税収の面では、市に入る市民税、固定資産税、国民健康保険税、事業所税、都市計画税などが減る。その額は「ゼビオの申告書を見ないと分からないが、億単位になることは言うまでもない」(ある税理士)。 3月29日付の地元紙によると、本社移転は今年から来年にかけて完了させ、将来的には数百人規模で移る見通し。移転候補地には2014年に取得したJR宇都宮駅西口の土地(約1万平方㍍)が挙がっている。 それにしても、数ある都市の中からなぜ宇都宮だったのか。 ゼビオは2011年3月の震災・原発事故で国内外の企業との商談に支障が出たため、会津若松市にサテライトオフィスを構えた。しかし交通の便などの問題があり、同年5月に宇都宮駅近くに再移転した。 その後、同所も手狭になり、2013年12月に宇都宮市内のコジマ社屋に再移転。商品を買い付ける購買部門を置き、100人以上の体制を敷いた。マスコミは当時、「本社機能の一部移転」と報じた。 ただ、それから8年経った2021年7月、宇都宮オフィスは閉所。コロナ禍でウェブ会議などが急速に普及したことで同オフィスの役割は薄れ、もとの郡山本社と東京オフィスの体制に戻っていた。 このように、震災・原発事故を機にゼビオとの深い接点が生まれた宇都宮。しかし、それだけの理由で同社が40年以上本社を置く郡山から離れる決断をするとは思えない。 ある事情通は 「本社移転の背景には、ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった事情がある」  と指摘する。郡山では実現の見込みがない、とはどういう意味か。 農業試験場跡地に強い関心 脳神経疾患研究所が落札した旧農業試験場跡地  本社移転が発表された3月28日、ゼビオは宇都宮市と連携協定を締結。締結式では諸橋友良社長と佐藤栄一市長が固い握手を交わした。  ゼビオは同日付のプレスリリースで、宇都宮市と連携協定を締結した理由をこう説明している。  《宇都宮市は社会環境の変化に対応した「未来都市うつのみや」の実現に向け、効果的・効率的な行政サービスの提供に加え、多様な担い手が、それぞれの力や価値を最大限に発揮し合うことで、人口減少社会においても総合的に市民生活を支えることのできる公共的サービス基盤の確立を目指しています》《今回、宇都宮市の積極的な企業誘致・官民連携の取り組み方針を受け、ゼビオホールディングス株式会社の中核子会社であるゼビオ株式会社の本社及び必要機能の移転を宇都宮市に行っていく事などを通じて、産学官の協働・共創のもとスポーツが持つ多面的な価値をまちづくりに活かし、スポーツを通じた全世代のウェルビーイングの向上によって新たなビジネスモデルの創出を目指すこととなりました》  宇都宮市は産学官連携により2030年ごろのまちの姿として、ネットワーク型コンパクトシティを土台に地域共生社会(社会)、地域経済循環社会(経済)、脱炭素社会(環境)の「三つの社会」が人づくりの取り組みやデジタル技術の活用によって発展していく「スーパースマートシティ」の実現を目指している。  この取り組みがゼビオの目指す新たなビジネスモデルと合致したわけだが、単純な疑問として浮かぶのは、同社はこれから宇都宮でやろうとしていることを郡山で進める考えはなかったのか、ということだ。  実は、過去に進めようとしたフシがある。場所は、郡山市富田町の旧農業試験場跡地だ。  同跡地は県有地だが、郡山市が市街化調整区域に指定していたため、県の独断では開発できない場所だった。そこで、県は「市有地にしてはどうか」と同市に売却を持ちかけるも断られ、同市も「市有地と交換してほしい」と県に提案するも話がまとまらなかった経緯がある。  震災・原発事故後は敷地内に大規模な仮設住宅がつくられ、多くの避難者が避難生活を送った。しかし、避難者の退去後に仮設住宅は取り壊され、再び更地になっていた。  そんな場所に早くから関心を示していたのがゼビオだった。2010年ごろには同跡地だけでなく周辺の土地も使って、トレーニングセンターやグラウンド、研究施設などを備えた一体的なスポーツ施設を整備する構想が漏れ伝わった。  開発が進む気配がないまま年月を重ねていた同跡地に、ようやく動きがみられたのは2年前。総合南東北病院を運営する一般財団法人脳神経疾患研究所(郡山市、渡辺一夫理事長)が同跡地に移転・新築し、2024年4月に新病院を開業する方針が地元紙で報じられたのだ。  ただ、同跡地の入札は今後行われる予定なのに、既に落札者が決まっているかのような報道は多くの人に違和感を抱かせた。自民党県連の佐藤憲保県議(7期)が裏でサポートしているとのウワサも囁かれた(※佐藤県議は本誌の取材に「一切関与していない」と否定している)。 トップ同士のソリが合わず  その後、県が条件付き一般競争入札を行ったのは、報道から1年以上経った昨年11月。落札したのは脳神経疾患研究所を中心とする共同事業体だったため、デキレースという声が上がるのも無理はなかった。  ちなみに、県が設定した最低落札価格は39億4000万円、脳神経疾患研究所の落札額は倍の74億7600万円だが、この入札には他にも参加者がいた。ゼビオHDだ。  ゼビオHDは同跡地に、スポーツとリハビリを組み合わせた施設整備を考えていたとされる。しかし具体的な計画内容は、入札参加に当たり同社が県に提出した企画案を情報開示請求で確認したものの、すべて黒塗り(非開示)で分からなかった。入札額は51億5000万円で、脳神経疾患研究所の落札額より20億円以上安かった。  関心を持ち続けていた場所が他者の手に渡り、ゼビオHDは悔しさをにじませていたとされる。本誌はある経済人と市役所関係者からこんな話を聞いている。  「入札後、ゼビオの諸橋社長は主要な政財界人に、郡山市の後押しが一切なかったことに落胆と怒りの心境を打ち明けていたそうです。品川萬里市長に対しても強い不満を述べていたそうだ」(ある経済人)  「昨年12月、諸橋社長は市役所で品川市長と面談しているが、その時のやりとりが辛辣で互いに悪い印象を持ったそうです」(市役所関係者)  諸橋社長が「郡山市の後押し」を口にしたのはワケがある。入札からちょうど1年前の2021年11月、同市は郡山市医師会とともに、同跡地の早期売却を求める要望書を県に提出している。地元医師会と歩調を合わせたら、同市が脳神経疾患研究所を後押ししたと見られてもやむを得ない。実際、諸橋社長はそう受け止めたから「市が入札参加者の一方を応援するのはフェアじゃない」と不満に思ったのではないか。  ゼビオの本社移転を報じた福島民友(3月29日付)の記事にも《スポーツ振興などを巡って行政側と折り合いがつかない部分があったと指摘する声もあり、「事業を展開する上でより環境の整った宇都宮市を選択したのでは」とみる関係者もいる》などと書かれている。  つまり、前出・事情通が「ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった」と語っていたのは、落札できなかった同跡地での取り組みを指している。  「郡山市が非協力的で、品川市長ともソリが合わないとなれば『協力的な宇都宮でやるからもう結構』となるのは理解できる」(同)  そんな「見切りをつけられた」格好の品川市長は、ゼビオの本社移転に「企業の経営判断についてコメントすることは差し控える」との談話を公表しているが、これが市民や職員から「まるで他人事」と不評を買っている。ただ、このような冷淡なコメントが品川市長と諸橋社長の関係を物語っていると言われれば、なるほど合点がいく。 「後出しジャンケン」 ゼビオコーポレートが市に提案した開成山地区体育施設のイメージパース  ここまでゼビオを擁護するようなトーンで書いてきたが、批判的な意見も当然ある。とりわけ「それはあんまりだ」と言われているのが、開成山地区体育施設整備事業だ。  郡山市は、市営の宝来屋郡山総合体育館、HRS開成山陸上競技場、ヨーク開成山スタジアム、開成山弓道場(総面積15・6㌶)をPFI方式で改修する。PFIは民間事業者の資金やノウハウを生かして公共施設を整備・運営する制度。昨年、委託先となる事業者を公募型プロポーザル方式で募集し、ゼビオコーポレート(郡山市)を代表企業とするグループと陰山建設(同)のグループから応募があった。  郡山市は学識経験者ら6人を委員とする「開成山体育施設PFI事業者等選定審議会」を設置。審査を重ねた結果、昨年12月22日、ゼビオコーポレートのグループを優先交渉権者に決めた。同社から示された指定管理料を含む提案事業費は97億7800万円だった。  同グループは同審議会に示した企画案に基づき、今年度から来年度にかけて各施設の整備を進め、2025年度から順次供用開始する予定。  本誌は各施設がどのように整備されるのか、ゼビオコーポレートの企画案を情報開示請求で確認したが、9割以上が黒塗り(非開示)で分からなかった。  郡山市は今年3月6日、市議会3月定例会の審議・議決を経て、ゼビオグループがPFI事業を受託するため新たに設立した開成山クロスフィールド郡山(郡山市)と正式契約を交わした。指定管理も含む契約期間は2033年3月までの10年間。  それから約3週間後、突然、ゼビオの本社移転が発表されたから、市議会や経済界には不満の声が渦巻いている。  「正確に言えば、ゼビオは開成山体育施設整備事業とは無関係です。同事業を受託したのはゼビオコーポレートであり、契約相手は開成山クロスフィールド郡山です。しかし、今後10年間にわたる施設整備と管理運営は『ゼビオ』の看板を背負って行われる。市民はこの事業に携わる会社の正式名称までは分かっていない。分かっているのは『ゼビオ』ということだけ」(ある経済人)  この経済人によると、市議会や経済界の間では「市の一大プロジェクトを取っておいて、ここから出て行くなんてあんまりだ」「正式契約を交わしてから本社移転を発表するのは後出しジャンケン」「地元の大きな仕事は地元企業にやらせるべき。郡山を去る企業は相応しくない」等々、批判めいた意見が出ているという。  ゼビオからすると「当社は無関係で、受託したのは別会社」となるだろうが、同じ「ゼビオ」の看板を背負っている以上、市民が正確に理解するのは難しい。心情的には「それはあんまりだ」と思う方が自然だ。  そうした市民の心情に輪をかけているのが、事業に携わる地元企業の度合いだ。プロポーザルに参加した2グループに市内企業がどれくらい参加していたかを比較すると、優先交渉権者となったゼビオコーポレートのグループは、構成員4社のうち1社、協力企業5社のうち1社が市内企業だった。これに対し次点者だった陰山建設のグループは、構成員7社のうち4社、協力企業19社のうち15社が市内企業。後者の方が地元企業を意識的に参加させようとしていたことは明白だった。  だから尚更「地元企業の参加が少ない『ゼビオ』が受託した挙げ句、宇都宮に本社を移され、郡山は踏んだり蹴ったり」「品川市長はお人好しにも程がある」と批判の声が鳴り止まないのだ。 釈然としない空気 志翔会会長の大城宏之議員(5期)  加えて市議会3月定例会では、志翔会会長の大城宏之議員(5期)が代表質問で「事業者選定は総合評価としながら、次点者は企画提案力では(ゼビオを)上回っていたのに、価格が高かったため落選の憂き目に遭った」「優先交渉権者となったグループの構成員には(郡山総合体育館をホームとする地元プロバスケットボールチームの)運営会社が入っているが、公平性や利害関係の観点から、内閣府やスポーツ庁が示す指針に触れないのか」と指摘。市文化スポーツ部長が「優先交渉権者は審議会が基準に則って決定した」「グループの構成員に問題はない」と答弁する一幕もあった。  確かに採点結果を見ると、技術提案の審査ではゼビオコーポレートグループ520・93点、陰山建設グループ528・69点で後者が7・76点上回った。ところが価格審査ではゼビオグループが97億7800万円で300点、陰山グループが101億2000万円で289・86点と前者が10・14点上回り、合計点でゼビオグループが勝利しているのだ。  また、ゼビオグループの側に地元プロバスケの運営会社が参加していることも、他地域の体育施設に関するPFI事業では、利害関係が生じる恐れのあるスポーツチームは受託者から除外され、スポーツ庁の指針などでも行政のパートナーとして協力するのが望ましいとされていることから「一方のグループへの関与が深過ぎる」との指摘があった。  こうした状況を大城議員は「問題なかったのか」と再確認したわけだが、本誌は審査に不正があったとは思っていない。大城議員もそうは考えていないだろう。ただ地元企業が多く参加するグループが、企画提案力では優れていたのに価格で負けた挙げ句、有権交渉権者になった「ゼビオ」が正式契約直後に本社移転を発表したので、釈然としない空気になっているのは事実だ。  次点者のグループに参加した地元企業に取材を申し込んだところ、唯一、1人の方が匿名を条件に「もし審査の過程で『ゼビオ』の本社移転が分かっていたら、地元企業優遇の観点から結果は違っていたかもしれない。そう思うと複雑な気持ちだ」とだけ話してくれた。  旧農業試験場跡地の入札で辛酸を舐めたと思ったら、開成山体育施設整備事業のプロポーザルでは槍玉に挙げられたゼビオ。大きな事業に関われば嫌でも注目されるし、賛成・応援してもらうこともあれば反対・批判されることもある。そんな渦中に、同社は今まさにいる。  ゼビオの本社移転について取材を申し込むと、ゼビオコーポレートの田村健志氏(コーポレート室長)が応じてくれた。以下、紙面と口頭でのやりとりを織り交ぜながら記す。    ×  ×  ×  ×  ――本社移転のスケジュールは。  「現時点で移転日は決まっていないが、今後、場所や規模を含め、社員の就労環境に配慮しながら具体的な移転作業に着手する予定です」  ――社員の移転規模は。  「ゼビオは社員約700人、パート・アルバイト約3300人です。ゼビオグループ全体では社員約2600人、パート・アルバイト約5400人です。宇都宮に移転するのはあくまでゼビオであり、ゼビオコーポレートやゼビオカードなど郡山本社に勤務するグループ会社社員の雇用は守る考えです。ゼビオについても全員の異動ではなく、地域に根ざしている社員の雇用を守りながら経営していきます」  ――数ある都市の中から宇都宮を選んだ理由は。  「震災以降、宇都宮市をはじめ約70の自治体からお誘いを受けた。私たちゼビオグループは未来に向けた会社経営を行っていくに際し、自治体を含めた産学官の連携が必須と考えている。そうした中で今年2月に話し合いが始まり、当グループの取り組みについて宇都宮市が快く引き受けてくださったことから本社移転を決断した」  ――ゼビオにとって宇都宮は魅力的な都市だった、と。  「人口減少や少子高齢化などかつてない社会構造の変化を迎えている中、まちづくりとスポーツを連動させ、地域の子どもから高齢者まで誰もが夢や希望の叶う『スーパースマートシティ』の実現に向け、宇都宮市が円滑な対話姿勢を持っていたことは非常に魅力的でした」  ――逆に言うと、郡山ではスポーツを通じたまちづくりはできない? 「先に述べた通りです」 逃した魚は大きい 郡山市朝日にあるゼビオ本社  ――ゼビオHDは旧農業試験場跡地の入札に参加したが次点でした。ここで行いたかった事業を宇都宮で実現する考えはあるのか。  「同跡地でも同様に産学官連携によるスポーツを通じたまちづくりを構想していました。正直、同跡地で実現したい思いはありました。ただゼビオHDは上場会社なので、適正価格で入札に臨むしかなかった。民間企業はスピード感が求められるので、宇都宮市からのお声がけを生かすことにしました」  ――同跡地をめぐって行政とはこの間、どんなやりとりを?  「郡山市には私たちの考え・思いを定期的に伝えてきた。県とは、知事とお会いすることは叶わなかったが、副知事には私たちの考え・思いを話しています」  ――ゼビオグループは開成山体育施設の整備と管理運営を、郡山市から10年間にわたり受託したが、同事業の正式契約後にゼビオの本社移転が発表されたため、市議会や市役所内からは「後出しジャンケン」と批判的な声が上がっている。  「これは私見になるが『後出しジャンケン』ということは、本来、公平・公正に行われるはずの入札が、ゼビオが郡山市に本社を置いていれば何らかの配慮や忖度が働いた可能性があったと受け取ることもできるが、いかがでしょうか」    ×  ×  ×  ×  ゼビオの宇都宮への本社移転は、将来を見据えた企業戦略の一環だったことが分かる。また、移転先のソフト・ハードを含めた環境と、パートナーとなる自治体との信頼関係を重視した様子もうかがえる。  これは裏を返せば、ゼビオにとって郡山市は▽子どもの部活動や高齢者の健康づくりにも関わるスポーツを通じたまちづくりへの考えが希薄で、▽環境(旧農業試験場跡地)を用意することもなく、▽品川市長も理解に乏しかったため信頼関係が築けなかった――と捉えることができるのではないか。  「釣った魚に餌をやらない」ではないが、地元を代表する企業とのコミュニケーションを疎かにしてきた結果、「逃がした魚は大きかった」と後悔しているのが、郡山市・品川市長の今の姿と言える。 あわせて読みたい 南東北病院「移転」にゼビオが横やり 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

  • 青木フルーツ「合併」で株式上場に暗雲!?【郡山市】

    青木フルーツ「合併」で株式上場に暗雲!?【郡山市】

     フルーツジュース店や洋菓子店などを全国展開する㈱青木商店(郡山市、1950年設立、資本金1000万円※)。同社は株式上場を長年の悲願としており、2017年には持ち株会社の青木フルーツホールディングス㈱(住所同、資本金2300万円)を設立した。 ※法人登記簿によると青木商店の資本金は1000万円だが、HPにはなぜか「資本金等4500万円」と表記されている。こうした〝微妙な不正確さ〟が、青木氏が地元経済界からイマイチ信用されない要因なのかもしれない。  そんな両社の経営動向と、代表取締役を務める青木信博氏(75)の人物像は本誌昨年4月号「青木フルーツ『上場』を妨げる経営課題」という記事で詳報しているので参照されたい。この稿で取り上げるのは、3月1日付の地元紙で報じられた「両社の合併」についてである。 福島民友はこう伝えている。 《持ち株会社青木フルーツホールディングス(HD)は1日付で青木商店と合併する。青木商店が存続会社となり、同HD会長・社長の青木信博氏(75)が代表権のある会長に就く》《2月24日に開かれた同HDの臨時株主総会で合併の承認を受けた。同HDは合併について「組織再編を通じて経営の効率化を図るため」としている》 併せて、青木氏は同紙の取材に、タイの関連会社を新型コロナの影響で閉鎖したことも明かしている。 一般的に、持ち株会社は事業ごとに分かれた子会社を持ち、事業拡大やリスク分散を図るが、青木フルーツHDの場合は子会社が青木商店1社しかなく、持ち株会社としての存在意義は薄かったようだ。そもそも持ち株会社をつくる狙いは経営効率化なのに「両社を合併して経営効率化を図る」と言ってしまったら、青木フルーツHDの存在を自分から否定したことにならないか。 それはともかく、今後気になるのは持ち株会社をなくしたことで悲願の株式上場はどうなるのか、ということだ。これに関して青木氏は、福島民友の取材に「合併を機にスピードを上げて実現したい」と述べている。上場はあきらめないということだが、現実はどうなのか。 青木商店と青木フルーツHDはこれまで、三井住友信託銀行の証券代行部に株主名簿管理人を依頼していた。株主名簿管理人とは、株式に関する各種手続きや株主総会の支援などを代行する信託銀行や専門会社のこと。上場企業は会社法により株式事務の委託が義務付けられているため、青木商店は2014年から、青木フルーツHDは設立と同時に同行を株主名簿代理人に据えていた。 ところが青木商店の法人登記簿を見ると、今年1月12日付で株主名簿管理人を廃止している。これは何を意味するのか。 同行証券代行部に確認すると「青木商店に関する業務は取り扱っていない。ただ、青木フルーツHDに関する業務は現時点でも取り扱っている」と言う。記者が「青木フルーツHDは青木商店と合併し、既に解散している」と指摘すると「解散については把握していない。営業サイドと状況を確認し、必要があれば更新したい」と答えた。 青木商店にも問い合わせてみた。 「三井住友信託銀行とは青木フルーツHDが契約していたが、登記上は青木商店の株主名簿管理人にもなっていた。そこで、今回の合併を受けHDとしての契約は破棄し、青木商店の登記もいったん抹消して、同行には新たに青木商店として株主名簿管理人をお願いする予定です。株式上場は引き続き存続会社の青木商店で目指していきます」(総務部) 株式上場はあきらめない、とのこと。今後のポイントは上場に耐え得る決算(経営状態)を実現できるかどうかだが、せっかくつくった持ち株会社を解散する迷走ぶりを見せられると、悲願達成はまだまだ先のような気がしてならない。 あわせて読みたい 青木フルーツ「上場」を妨げる経営課題【郡山市】

  • 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年

    郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年

     郡山市大平町の市道交差点で発生した一家4人死亡事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた福島市泉の会社員高橋俊被告(25)に対し、地裁郡山支部は4月10日、禁錮3年(求刑禁錮3年6カ月)の判決を言い渡した。 裁判では、初めて通る道路にもかかわらず、助手席に置いたスマホに知人女性から連絡があるかどうか、気にしながら運転していたことが分かった。交差点に一時停止の標識などが設置されておらず、停止線も消えかかっていたのを踏まえ、小野寺健太裁判官は「過失の程度は重大であったとまでは言えないが、結果の重大性も考慮すれば、執行猶予を付けることは相当ではない」とした。 記者は夜、実際に現場を走ったが、坂道で加速するのに見通しが悪く、減速しながら慎重に降りた。判決によると高橋被告は約60㌔で交差点に入ったというから、漫然と運転した結果が悲劇を生み出したと言える。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

  • 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった【芳賀小児童クラブ】

    郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

    (2022年9月号)  郡山市内の放課後児童クラブ支援員が保護者会費を横領した――。編集部宛てにこんな告発メールが届いたことを8月号で紹介したところ、記事脱稿後に市が記者会見を開き、概ね事実だったことが分かった。子どもたちの〝おやつ代〟として使われるべき金を生活費として使い込んでおり、同業者や保護者からは怒りの声が聞かれる。 公式発表前に届いた内部告発メール   一連の経緯は本誌8月号「郡山市民が呆れるアノ話題 学童保育支援員に横領疑惑が浮上」という記事で紹介した。 7月上旬、編集部宛てに以下のような内容のメールが寄せられた。 《芳賀小児童クラブで2年前ぐらいから、会計を務める主任支援員が保護者会費(保護者が支払うおやつ代などの運営費)を着服している。その額は100万円以上。市の子ども政策課は事実を把握しているが、公表しておらず、なかったことにしようとしている》 芳賀小児童クラブは放課後の間、児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育とも呼ばれる)の一つ。同小学校の校庭に建てられた施設に開設されており、児童は勉強(宿題)や運動、遊びをして過ごしている。 子どもたちの〝先生役〟となるのは「放課後児童支援員(以下、支援員と表記)」という資格を持つ職員。同市の放課後児童クラブは公設公営なので、いずれも市職員(会計年度任用職員)だ。 保護者会費とは、市に支払う利用料金とは別に支払う料金で、おやつなどの購入に使われる。同クラブは100人弱の児童が利用。毎月1人2300円の保護者会費を支払っており、会計担当の支援員が現金で預かる形になっていた。メールの内容が事実だとすれば、市職員がその金を横領していたことになる。 7月下旬、放課後児童クラブを管轄する市こども政策課にメールの内容について問い合わせると、担当者は「その放課後児童クラブに関しては現在調査中であり、事実関係や当該支援員の扱いも含めて、いまはお話しできません、ただ、調査が終わった段階で、然るべき形で発表しようとは考えています」と話した。内部で何らかのトラブルが起きていたことを認めたわけ。 同クラブに直接足を運んだが、「私どもも詳しい事情は分からない。コメントは控えさせていただきます」(当日勤務していた支援員)と話すのみだった。 いずれにしても、これだけ内情を知っているということは、差出人は同クラブを利用する保護者か、同市の職員・支援員だろう。ただ、確証が得られなかったため、8月号記事では学校名を伏せ、「疑惑」として紹介する形に留めた。 そうしたところ、記事脱稿後の8月2日、市が「放課後児童クラブ保護者会費(運営費)を横領した会計年度任用職員の懲戒処分について」という内容の記者会見を開いた。総合的に判断して同クラブで起きた案件と思われ、公益性もあると判断したので、本稿では実名で表記する。 市によると、横領したのは2009年から支援員として働いていた50代女性。20年度から22年度にかけて、保護者会費の一部239万4069円を横領。その事実を隠蔽するため、20、21年度の収支決算書を偽造していた。 横領期間は2020年8月から22年5月までの22カ月間。横領額の内訳は20年度68万1160円、21年度138万4000円、22年度32万8909円。 市こども政策課によると、保護者会の規約では「会計(=保護者)は担当支援員(=市職員)と相互協力のもと、円滑な運営を遂行する」と規定されており、市も「職員は2人以上が担当する」と指導していた。 ところが、芳賀小児童クラブに関しては、同支援員が一人で会計を担当。保護者から預かった会費は口座に入金せず金庫で管理し、収支決算書で帳尻合わせをしていた。保護者会で会計監査も行われていたそうだが、会計監査担当者に帳簿と領収書を一部分だけ突き合わせさせ、金額が合っていると信じ込ませる形で切り抜けていた。 239万円横領の理由 8月2日に行われた記者会見  周囲が異変に気付いたのは2022年5月。同クラブの別の支援員から「おやつ代を立て替えた際の清算が遅くて困っている」と相談を受けた同課の職員が事務指導を行っている中で、保護者会費が通帳に記帳されていないことが発覚。関係書類を提出させたところ、毎月ほぼ一定であるはずの保護者会費の収入額がなぜか月によって開きがあった。 同課の職員が6月14日、会計担当だった同支援員に事情聴取したところ、横領と書類偽造を認めた。 同課の聞き取り調査に対し、同支援員は「父が所有する事業用倉庫内の機械等を撤去する必要があり、その費用(約70万円)を工面するため、『一時的に借りよう』と思い一部を横領してしまった。その後も自分の生活が苦しかったこともあり、生活費に充てるため、横領を繰り返してしまった」と語ったという。 前述の通り、保護者会費はすべて現金で支払われ、金庫で管理されていた。すなわち1000円札や100円玉などを金庫からそのまま持ち出し、使っていたことになる。「生活費に充てるため」と語っていたというが、「ちょっと拝借する」程度で年間140万円にはなるまい。完全に感覚が麻痺してしまっていたのだろう。会見では記者から宗教団体などの関与を疑う質問もあった。 冒頭のメールには「全額回収のめどが立たないので市こども政策課としても公表できないようだ。このまま隠蔽するのではないか」とも書かれていたが、結局、同支援員は全額を返済した。同課は6月14日に事件が発覚してから1カ月以上公表しなかった理由について、「同支援員に返還の意思があり、そちらを優先したため」と明かした。 その一方で、同支援員は8月2日付で懲戒免職になった。本来、業務上横領罪に問われる案件だが、市では横領分が全額返済されたことから刑事告訴は行わない方針。そうした条件で示談にしたということだろう。 8月1日には保護者向けの説明会が開かれ、横領期間に利用していた児童の在籍期間に応じて返金する方針が伝えられた。対象となる保護者は延べ124人。 おやつ代として支払われていた保護者会費を横領していたということは、その分子どもたちへのおやつをケチっていたと考えられる。県内で活動する支援員はこう語る。 「保護者会費2300円ということは、1カ月に23日利用するとして、1日100円使う計算なのでしょう。うちのクラブでは大袋の菓子をみんなで分けて1日60円程度で済ませ、浮いた分で誕生日やイベント時に振る舞うケーキを買うなど、メリハリを付けている。問題の支援員はそうしたやりくりをせず、ひたすら安く済ませて横領分を捻出していたのかもしれません」 保護者会費は単純計算で年間1人当たり2万7600円、100人分で276万円。その中から最大138万円横領(2021年度)していたということは、おやつ代1日50円の計算で運営していたことになる。一緒に勤務していた支援員は気付かなかったのか。それとも会計を務める支援員だから何も言えなかったのか。同課は実名を伏せ、詳細も明かしていないので真相は分からないが、〝どんぶり勘定〟であったことがうかがえるし、市のチェック体制にも問題があったと言わざるを得ない。 8月上旬、同クラブ周辺で、児童を迎えに来た父親に声をかけたところ、「最悪ですよね。自分たちが預けていた金を勝手に使われていたわけですから」と述べた。 ほかにも複数の保護者に声をかけたが、「詳しく分からない」、「時間がない」と明言を避け足早に帰っていく人が多かった。「仕事と子育てを両立するのに忙しい中で、放課後児童クラブの内情まで把握できないし、余計なトラブルに巻き込まないでくれ」というのが本音かもしれない。市のチェック体制の甘さと保護者の〝無関心〟の間で、約2年にわたる横領が見過ごされてきたのだろう。 放課後児童クラブへの不満  取材の中では、同市の放課後児童クラブへの不満の声も聞かれた。 「子どもが利用し始めた当初、放課後をただ遊んで過ごしていることが分かり、『せめて宿題を終えてから遊べよ』と叱ったことがある。放課後の間、預かってもらうのはとてもありがたいが、それ以上のことは期待できないのだな、と実感しました」(2021年まで市内の放課後児童クラブを利用していた保護者) 放課後児童クラブにおいては、支援員の資格を持たない職員も「補助員」として働いている。ただ、支援員事情に詳しい関係者によると「現在人手不足なので、基本的には誰でもなれる状況。地域の高齢者などが務めることも多いが、親族や顔見知りの児童に甘い対応を見せて、不満が生まれることもある」。 2021年3月号では「郡山市の児童クラブで支援員が体罰!?」という記事を掲載した。「放課後児童クラブに通う長男が支援員から体罰を受けた」という投書の内容を検証したもので、支援員にそのつもりはなかったものの、誤解を招きかねない言動が確認されたという。 同市の放課後児童クラブの利用料金は1カ月4800円(生活保護受給世帯など条件によって軽減措置あり)。保護者会費2300円と合わせると約7100円に上る。「その金額で放課後の間預かってくれるなら十分だ」という保護者もいるが、その一方で「物足りない」、「割に合わない」と不満を抱く保護者もいるということだ。 同市の放課後児童クラブは市内50校に81クラブ設置されており、各クラブでは5~10人の支援員が勤務している。その大半は誠実に働いているが、今回のような不祥事が発覚すれば、保護者からの信頼をさらに失うことになる。 前出・県内で活動する支援員は次のように憤る。 「私たちは子どもたちから〝先生〟と呼ばれる立場にある。その立場の人間が『子どもたちの健全な育成のために』と保護者からもらったおやつ代(保護者会費)を横領する……これは、目の前の子どもより自分の生活費を優先したということであり、到底許されることではありません」 テレビや新聞での扱いは小さく、詳細が分かっていないことも多いが、市は今回の事件を重く受け止め、再発防止策を徹底しなければならない。前出のメールの差出人は、それが期待できないと懸念したから、本誌に〝内部告発〟したのだろう。 市では保護者会役員と支援員の役割を明確化して監査を行うとともに、コンプライアンス研修などを実施し再発防止に努める考えだ。しかし、そうした対応だけでは不十分だ。会計のダブルチェックの徹底、提供されるおやつのSNSでの公開など、保護者会費の使途をできる限り透明化し、「これなら横領できそうだ」という悪意が入り込めないような体制構築が求められる。 あわせて読みたい 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

  • 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

    郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

    (2022年10月号)  郡山市の認可保育所「ヒューマニティー保育園」が委託費を不正受給していたとして、新規園児受け入れ半年間停止の行政処分を受けた。不正受領していた金額は約660万円に上り、市は返還を求めている。 〝投書攻撃〟を受けていた運営法人  ヒューマニティー保育園を運営しているのは一般社団法人ヒューマニティー幼保学園(瓜生麻美代表理事)。子どもの能力を開花させる教育法として話題になった「ヨコミネ式」を導入して人気を集めており、認可外保育所や学習塾なども運営する。 私立の認可保育所には市から委託費(運営費用)が支払われているが、同保育所では、非常勤の所長を常勤勤務として市に報告。加算分の受給要件を満たしていないにもかかわらず、2019年9月から21年3月にかけて、委託費659万8280円を不正に受給していた。 さらに昨年12月22日に行われた定期施設監査において、在籍していない保育士1人を「勤務していた」と偽って市に報告。虚偽の出勤簿や履歴書などを作成して提出していた。併せて同法人が運営する認可外保育施設などで使用する中古車2台(計65万円)を、同保育所の委託費で購入していたことも判明。市は同保育所への9月・10月分委託費から不正分を差し引く考え。 市は「昨年12月の定期施設監査の書類が偽造されていた」と外部から通報を受け、1月に特別監査を実施。この間、書類精査や関係者の聴取を行ってきた。市の聴き取りに対し、同保育所の関係者は「当初から不正の認識はあった。運営会社の指示を受けて行った」(NHKニュース)と語っていたというから、組織ぐるみだった可能性が高い。 同法人に関しては、匿名投書が連続で送られてきたとして、本誌2013年11月号で取り上げたことがある。内容はいずれも「保護者に説明がないまま新保育園建設が進められている」という不満を綴ったもので、「保育士の人数など、法律を無視した運営がなされている」など運営の怪しさを指摘する記述もあった。 当時の本誌取材に対し、園長代理を務めていた瓜生氏は「保護者にはきちんと説明しており、法律違反の点もない」、「(同法人の運営が)まるで不安要素だらけのように書かれているのは悪意を感じますね」と話し、「投書は外部から見たイメージだけで意図的に悪く書かれている。これ以上続くようであれば、差出人に対し法的手段を取ることも考えています」と息巻いていた。 同市保育課の担当者も「(当時、同法人が運営していたのは認可外保育所のみだったので)投書で苦情を言われても市としては対応しようがない」というスタンスだった。 だが結果的に、保育士の数を偽っていると指摘していた〝投書攻撃〟は事実だったことになる。 不正受給の件について、あらためて同法人に問い合わせたが、担当者はどの質問にも「市に報告し、この間報道されたことがすべてです」と答えるのみだった。記者が「2013年の取材当時も実は内部で不正が行われていたのではないか」と尋ねると「あの時点では間違いなく不正行為はしていなかった」と述べた。市は同法人が返金の意思を示していることから刑事告訴しない方針。不正受給の動機は分からずじまいだ。 9月下旬、同保育所を訪ねると静まり返っていた。新規園児受け入れ停止期間は来年3月末まで。保護者の反応は聞けなかったが、悪質な不正受給の実態を知って、退園する動きが出てきても不思議ではない。 あわせて読みたい 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

  • 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

    郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

     1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場  郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所     要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 (前田公園前十字路)見通し市53大平町字前田116-2見通し市54大平町字御前田53見通しなし55大平町字御前田59-45見通し市56大平町字向川原80-4見通しなし57荒井町字東195見通し市58阿久津町字風早87-2見通し市59舞木町字岩ノ作44-6見通し市60町東一丁目245見通しなし61町東二丁目67見通しなし62町東三丁目142-2見通し市63新屋敷1-91見通し市64富田町字墨染18見通し公安65富田町字十文字2見通し市66富田町字大十内85-246ヒヤリ市67富田町字音路90-20見通し市68富田東二丁目1優先市69富田町字細田85-1優先公安70富田町日吉ヶ丘53優先市71大槻町字西宮前26ヒヤリ公安72大槻町字南反田18−3ヒヤリなし73大槻町字室ノ木33-8見通し市74大槻町字原田東13-93ヒヤリ市75大槻町字葉槻22-1優先市76笹川一丁目184-32見通し市77安積一丁目155見通し市78安積一丁目38見通しなし79安積町二丁目350番1見通し公安80安積町日出山字一本松100番18見通しなし81三穂田町川田二丁目62-2見通し市82三穂田町川田三丁目156見通し市83三穂田町川田字駒隠1-4見通し公安84三穂田町川田字小樋41見通し公安85三穂田町川田字北宿3-2見通し公安86三穂田町野田字中沢目9見通し公安87三穂田町鍋山字松川53見通しなし88三穂田町駒屋二丁目62ヒヤリ市89三穂田町駒屋字上佐武担2-2見通し公安90三穂田町八幡字北山10-13見通し公安91三穂田町八幡字北山7-12見通しなし92三穂田町富岡字下茂内56見通し市93三穂田町富岡字下間川67ヒヤリ公安94三穂田町富岡字藤沼18-9見通しなし95三穂田町山口字横山5-4見通しなし96三穂田町山口字川底原22優先公安97逢瀬町多田野字清水池125見通し市98逢瀬町多田野字上中丸56-1見通し市99逢瀬町多田野字家向61見通し市100逢瀬町多田野字柳河原77-2優先市101逢瀬町多田野字南原26見通し市102逢瀬町河内字西荒井123優先市103逢瀬町河内字藤田185見通し公安104片平町字庚坦原14-507優先市105片平町字元大谷地27-3優先市106片平町字森48-2優先市107片平町字新蟻塚99-5見通し市108片平町字樋下68優先市109東原一丁目44見通しなし110東原一丁目120見通し市111東原一丁目229見通し市112東原一丁目250見通し市113東原二丁目127見通し市114東原二丁目141見通し市115東原二丁目235見通し市116東原三丁目246ヒヤリ市117喜久田町字双又30-19見通し市118喜久田町堀之内字北原6-9優先市119喜久田町早稲原字伝左エ門原優先市120日和田町高倉字牛ケ鼻130-1優先市121日和田町高倉字鶴番367-1優先市122日和田町高倉字南台23-1見通し公安123日和田町梅沢字衛門次郎原123優先市124日和田町梅沢字衛門次郎原150-2見通し市125日和田町梅沢字新屋敷115-1見通し市126日和田町字鶴見坦139優先市127日和田町字鶴見坦88優先市128日和田町字鶴見坦156優先市129日和田町字沼田29-1見通しなし130日和田町字原町25-1見通し市131日和田町字水神前145優先市132日和田町字水神前169優先市133日和田町字水神前184優先市134日和田町字境田17優先市135日和田町字鶴見坦40-54見通し公安136八山田二丁目204優先市137八山田三丁目204優先市138八山田四丁目160優先市139八山田五丁目452優先市140八山田西二丁目242優先なし141八山田西三丁目149優先なし142八山田西三丁目164優先なし143八山田西四丁目9優先市144八山田西四丁目30優先市145八山田西四丁目83優先なし146八山田西四丁目179優先市147八山田西五丁目284優先市148富久山町八山田字細田原3-18見通し市149富久山町八山田字坂下1-1優先市150富久山町八山田字舘前103-2見通しなし151富久山町八山田字菱池17-4見通し市152富久山町久保田字本木93見通し市153富久山町久保田字我妻117優先市154富久山町久保田字我妻136優先なし155富久山町久保田字石堂35-4優先市156富久山町久保田字石堂22優先市157富久山町久保田字本木54-2見通しなし158富久山町久保田字我妻79-1見通し市159富久山町久保田字麓山115-3見通しなし160富久山町久保田字麓山54-3見通しなし161富久山町久保田字三御堂12-2優先市162富久山町久保田字三御堂15-1優先なし163富久山町久保田字下河原123-1優先市164富久山町久保田字下河原38-2優先市165富久山町久保田字古坦131-4優先なし166富久山町久保田字三御堂122-2優先市167富久山町久保田字三御堂129-10優先なし168富久山町福原字猪田29-1見通し市169富久山町福原字左内90-63見通し市170湖南町三代字原木1148優先市171湖南町三代字御代1155-2優先市172湖南町福良字畑田181-1優先市173湖南町舟津字ヲボケ沼1見通し市174湖南町舘字上高野52優先市175熱海町安子島字北原24-54見通し市176上伊豆島一丁目25見通し市177田村町小川字岡市6見通し市178田村町小川字戸ノ内80-4見通し市179田村町山中字上野90-2見通し市180田村町山中字鬼越91-1見通し市181田村町山中字鬼越518-3優先市182田村町山中字枇杷沢264-6見通し市183田村町金沢字大谷地234-10見通し市184田村町谷田川字北田9見通し市185田村町谷田川字町畑11-1見通しなし186田村町守山字湯ノ川85-1見通し市187田村町正直字南17-1見通し市188田村町正直字北22-3見通し市189田村町金屋字水上35-1見通し市190田村町金屋字水上4見通し市191田村町金屋字マセ口14-2見通し市192田村町金屋字西川原80-3見通しなし193田村町上行合字北古川97優先市194田村町下行合字古道内122-2優先市195田村町下行合字宮田130-25優先市196田村町手代木字三斗蒔34優先市197田村町手代木字永作236-1優先市198田村町桜ケ丘一丁目59優先公安199田村町桜ケ丘一丁目170見通し公安200田村町桜ケ丘一丁目226見通しなし201田村町桜ケ丘二丁目1見通し市202田村町桜ケ丘二丁目2見通し市203田村町桜ケ丘二丁目27見通し市204田村町桜ケ丘二丁目90見通し市205田村町桜ケ丘二丁目115、297-17見通し市206田村町桜ケ丘二丁目144見通し公安207田村町桜ケ丘二丁目203見通し市208田村町桜ケ丘二丁目295-54見通し市209田村町桜ケ丘二丁目365見通し市210田村町守山字権現壇165-1見通し市211西田町鬼生田字前田407優先公安212西田町鬼生田字石堂1194優先市213西田町土棚字内出694-2見通しなし214中田町下枝字五百目55見通し市215中田町柳橋字石畑520-9見通し市216中田町柳橋字久根込564優先市217中田町柳橋字小中里217優先市218中田町牛字縊本字袋内1-1優先市219中田町高倉字弥五郎253優先市220中田町高倉字弥五郎202見通し市221中田町高倉字三渡13-2見通し市222中田町高倉字宮ノ脇198-1見通し市  また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い  東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない  郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影)  さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

    【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

     総合南東北病院などを運営する一般財団法人脳神経疾患研究所(郡山市八山田七丁目115、渡辺一夫理事長)が移転・新築を目指す新病院の輪郭が、県から入手した公文書により薄っすらと見えてきた。  県は昨年11月、郡山市富田町字若宮前の旧農業試験場跡地(15万4760平方㍍)を売却するため条件付き一般競争入札を行い、脳神経疾患研究所など5者でつくる共同事業者が最高額の74億7600万円で落札した。同研究所は南東北病院など複数の医療施設を同跡地に移転・新築する計画を立てている。 同跡地はふくしま医療機器開発支援センターに隣接し、郡山市が医療関連産業の集積を目指すメディカルヒルズ郡山構想の対象地域になっている。そうした中、同研究所が2021年8月、同跡地に新病院を建設すると早々に発表したため、入札前から「落札者は同構想に合致する同研究所で決まり」という雰囲気が漂っていた。自民党の重鎮・佐藤憲保県議(7期)が裏でサポートしているというウワサも囁かれた(※本誌の取材に、佐藤県議は関与を否定している=昨年6月号参照)。 ところが昨年夏ごろ、「ゼビオが入札に参加するようだ」という話が急浮上。予想外のライバル出現に、同研究所は慌てた。同社はかつて、同跡地にトレーニングセンターやグラウンド、研究施設などを整備する計画を水面下で練ったことがある。新しい本社の移転候補地に挙がったこともあった。 ある事情通によると「ゼビオはメディカルヒルズ郡山構想に合致させるため、スポーツとリハビリを組み合わせた施設を考えていたようだ」とのこと。しかし、入札価格は51億5000万円で、同研究所を23億円余り下回る次点だった。ちなみに県が設定した最低落札価格は39億4000万円。同研究所としては、本当はもっと安く落札する予定が、同社の入札参加で想定外の出費を強いられた可能性がある。 「ゼビオは同跡地にどうしても進出したいと、郡山市を〝仲介人〟に立て、同研究所に共同で事業をやらないかと打診したという話もある。しかし同研究所が断ったため、両者は入札で勝負することになったようです」(前出・事情通) この話が事実なら、ゼビオは同跡地に相当強い思い入れがあったことになる。 それはともかく、本誌は同研究所の移転・新築計画を把握するため、県に情報開示請求を行い、同研究所が入札時に示した企画案を入手した。半分近くが黒塗り(非開示)になっていたため詳細は分からなかったが、新病院の輪郭は薄っすらと知ることができた。 それによると、同研究所は医療法人社団新生会(郡山市)、㈱江東微生物研究所(東京都江戸川区)、クオール㈱(東京都港区)、㈱エヌジェイアイ(郡山市)と共同で、総合病院と医療関連産業の各種施設を一体的に整備し、県民の命と健康を守る医療体制を強化・拡充すると共に、隣接するふくしま医療機器開発支援センターと協力し、医療関連産業の振興を図るとしている。 5者の具体的な計画内容は別掲の通りだが、県から開示された企画案は核心部分が黒塗りだった。ただ、企画案を見ていくと「新興感染症や災害への対応」という文言がしばしば出てくる。 5者の計画内容 脳神経疾患研究所総合南東北病院、南東北医療クリニック、南東 北眼科クリニック、南東北がん陽子線治療センター等を一体的に整備。新生会 南東北第二病院を整備。脳神経疾患研究所と新生会は救急医療、一般医療、最先端医療を継ぎ目なく提供。また、ふくしま医療機器開発支援センターの研究設備を活用し、新たな基礎・臨床研究につなげる。同センターの手術支援設備や講義室等を活用し、医療者の教育と能力向上も目指す。江東微生物研究所 生化学検査、血液検査、遺伝子検査、細菌・ウ イルス検査などに対応できる高度な検査機関を 整備。検査時間の迅速化や利便性を向上させ、県全体の検査体制充実に貢献する。クオール     がん疾患などの専門的な薬学管理から在宅診療まで、地域のニーズに対応できる高機能な調剤薬局を設置・運営。併せて血液センターや医薬品卸配送センターなども整備する。エヌジェイアイ  医療機器・システム開発等の拠点となる医療データセンターを整備。※5者が県に示した企画案をもとに本誌が作成。  新型コロナウイルスや震災・原発事故を経験したことで、新病院は未曽有の事態にも迅速に対応できる造り・体制にすることを強く意識しているのは間違いない。また、同研究所に足りない面を江東微生物研究所やクオールに補ってもらうことで、より高度な医療を提供する一方、ふくしま医療機器開発支援センターを上手に活用し、県が注力する医療関連産業の集積と医療人材の育成に寄与していく狙いがあるのではないか。 事実、企画案には《高次な救急患者を感染症のパンデミック時でも受け入れ可能とする構造・設備・空間を実現》《がん陽子線治療をはじめとした、放射線治療やロボット手術を駆使し、低侵襲の最先端医療を福島県外や海外からの患者にも提供》と書かれている。 一方、土地利用計画を見ると、医療関連施設以外の整備も検討していることが分かる。 例えば、隣接するJR磐越西線・郡山富田駅を念頭に駅前広場、同広場から郡山インター線につなぐ構内道路、各種テナントを入れた商業施設、既存斜面林を生かした公園などを整備するとしている。また新病院と各種施設も、建て替え・増築時に医療機能がストップしないような配置にしていくという。 開発スケジュールは黒塗りになっていて分からないが、同跡地の所有権が同研究所に移った後、2023~28年度までの期間で着工―開設を目指すとしている。 脳神経疾患研究所が落札した旧農業試験場跡地  ここまでが県から開示された企画案で分かったことだが、新病院の輪郭をさらにハッキリさせるため同研究所の法人本部に問い合わせると、 「現時点でお答えできる材料はありません。現在、設計を行っているところで、それが完成すると詳細な計画も明らかになり、会見も開けると思います」(広報担当者) とのことだった。 気になる事業費、資金計画、収支見通しは5者ごとに示しているが、こちらも黒塗りになっていて不明。ただ「事業費は総額600億円と聞いており、同研究所内からも『そんな巨費を捻出できるのか』と不安が漏れている」(前出・事情通)。今後は自己資金、借り入れ、補助金などの割合が注目される。 あわせて読みたい 南東北病院「移転」にゼビオが横やり

  • 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂

    【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂

     福島県の〝商都〟を象徴する「うすい百貨店」(郡山市中町13―1、横江良司社長、以下うすいと表記)に気になるウワサが浮上している。  本誌2023年2月号【ホテルプリシード郡山閉館のワケ】で既報の通り、うすいの隣で営業するホテルプリシード郡山が3月末で閉館し、同じ建物に入る商業施設やスポーツクラブも5月末で撤退することが決まるなど、賑わいを取り戻せずにいる中心市街地はますます寂れていくことが懸念されている。 そのうすいをめぐっても、地元経済人の間で最近こんなウワサが囁かれている。 「ルイ・ヴィトンが今年秋に撤退することが決まったらしい」 言わずと知れた高級ファッションブランドのルイ・ヴィトンは、うすいが現在の店舗でリニューアルオープンした1999年からキーテナントとして1階で営業。地方の百貨店にルイ・ヴィトンが出店したことは当時大きな話題となった。 以来、ルイ・ヴィトンは「百貨店としての質」を高める顔役を担ってきたが、それが撤退することになれば集客面はもちろん、イメージ面でも影響は計り知れない。 「うすいに限らず百貨店自体が新型コロナの影響もあり厳しいと言われているが、(うすいに入る)ヴィトンの売り上げ自体は悪くないそうです」(ある商店主) うすいは今年に入ってから、同じく高級ファッションブランドであるグッチの特設売り場を開設したが、売り上げ好調を受けて開設期間を延長した。延長期間は長期になるという話もあるから、客入りは予想以上に良いのだろう。新型コロナが経済に与える影響は続いているが、高級ブランドへの需要は戻りつつあることがうかがえる。 にもかかわらず、なぜルイ・ヴィトンは撤退するのか。 「東北地方には仙台に店を置けば十分と本部(ルイ・ヴィトンジャパン)が判断したようです。今はネット購入が当たり前で、地方にいても容易にブランド品が手に入る時代なので、テナント料や人件費を払ってまで各地に店を構える必要はないということなんでしょうね」(同) なるほど一理あるが、半面、郡山に「都市としての魅力」が備わっていれば、ルイ・ヴィトンも「ここに店を置く意義はある」と思い留まったのではないか。そういう意味で、撤退の要因はうすいにあるのではなく、郡山に都市としての魅力が無かったと捉えるべきだろう。 もっとも、撤退はウワサの可能性もある。うすいに事実関係を確認すると、広報担当者はこう答えた。 「オフィシャルには11月にリモデルすることを発表していますが、中身については経営側と店舗開発部で協議しているところです。当然、ショップの入れ替わりも出てくると思いますが、現時点で発表できる材料はありません」 前出・商店主によると 「ヴィトンの後継テナントが見当たらないため、内部では『市民の憩いの広場にしてはどうか』という案が浮上しているそうです」 とのことだが、今まで高級ブランド店が構えていた場所にベンチを置くだけの使い方をすれば「百貨店としての質」は確実に落ちる。地方の百貨店にハイブランドテナントを誘致するのが難しいことは十分承知しているが、安易な代替案は避け、百貨店に相応しいテナントを引っ張ってくる努力を怠るべきではない。 ちなみに民間信用調査機関によると、うすいの近年の業績は別表の通り。地方の百貨店は厳しいと言われる中、少ないかもしれないが黒字を維持している。2021年はさすがに新型コロナの影響が出て大幅赤字を計上したが、翌年はその反動からか逆に大幅黒字を計上している。 うすい百貨店の業績 売上高当期純利益2018年154.9億円4100万円2019年149.9億円3600万円2020年141.8億円1700万円2021年122.1億円▲1億3300万円2022年132.9億円1億5500万円※決算期は1月。▲は赤字。  うすいはこれまでも、大塚家具や八重洲ブックセンターといった有力テナントの撤退に見舞われたが、県内初進出のブランドを期間限定ながら出店させるなどして「県内唯一の百貨店」としての地位を維持してきた。しかし、撤退のウワサはルイ・ヴィトンに留まらず、 「私はティファニー(宝飾品・銀製品ブランド)が出ていくって聞いていますよ」(ある経済人) という話も漏れ伝わるなど、地方の百貨店の先行きはますます不透明感を増している状況だ。 新型コロナの影響は収まっていないが、11月のリモデルでルイ・ヴィトンやティファニーが撤退するのかどうかも含め、どのような新しい方向性が打ち出されるのか。うすいの奮闘は続く。 あわせて読みたい ホテルプリシード郡山閉館のワケ うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

  • 郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論

     郡山市日和田町の大型商業施設ショッピングモールフェスタの建て替えが進んでいる。老朽化に加え、度重なる大規模地震で被害を受けたためで、建物解体後、イオン系列の新たな商業施設として生まれ変わる。2026(令和8)年9月オープン予定だ。延べ床面積は約12万平方㍍で、イオンモール新利府(宮城県)に次ぐ東北最大規模のイオン系商業施設となる。  具体的な計画は公表されていないが、郡山市内で期待されているのがシネマコンプレックス(通称・シネコン。複数のスクリーンを有する映画館)の進出だ。  郡山市にはかつて10館以上の映画館が営業していたが、映画業界の衰退に伴い減少し、現在は郡山テアトル1館のみとなっている。同館は6スクリーンを備えているものの、上映される作品に限りがある。そのため、イオンシネマ福島(福島市)、フォーラム福島(同)、ポレポレシネマズいわき小名浜(いわき市)、まちポレいわき(同)まで足を伸ばす人もいるようで、「高校生の娘は、お目当ての映画を見るため、たびたび友達と電車で福島市に行っていますよ」(郡山市在住の男性)。  そうした中、新たなイオン系商業施設がオープンするということもあって、シネコン進出に期待が高まっており、「若者の間では既成事実のようにウワサされている」(同)という。それだけシネコンを求める声が高いということだろう。  実際のところ、シネコンが進出する可能性はあるのか。同施設の運営会社・㈱日和田ショッピングモールに確認したところ、「シネコンがほしいという要望を多くいただいているが、現時点では具体的なテナント構成などについてお話しできません」(担当者)と回答した。  同市では、以前からシネコン開発構想が浮上するものの、頓挫してきた経緯がある。2021年の市長選では、元県議の勅使河原正之氏がシネコン誘致を公約に掲げたが落選。SNS上には残念がる声が並んだ。  テアトル郡山を経営する東日本映画㈱の安達友社長は、興行の世界で長年生き残ってきただけあって、配給会社からの信頼が厚い。そのため、なかなか新規事業者では入り込めない事情もあるようだ。安達社長にシネコンについてコメントを求めると「取材には応じられないが、実現はかなり難しいのではないか」と述べた。  県内で計画中の大型商業施設としては、伊達市でも「イオンモール北福島(仮)」が2024年以降オープン予定となっている。こちらは隣接する福島市中心部にイオンシネマ福島がある関係もあって、競合するシネコンは設けない方針が示されており、新たなスタイルの娯楽施設の整備が検討されている。イオンモールにあらためて確認したところ、「関係機関と調整中のためお答えできません」との返答だった。  ある映画業界関係者は「以前某映画館の建設費が1館当たり1億2000万円と聞いたが、いまは建設費高騰でその倍以上かかるはず。費用対効果を考えて、いま新規でシネコン建設に踏み切る業者はなかなか現れないのではないか」と指摘する。  一方で、別の映画業界関係者は次のように語る。  「映画館空白地域に立地するイオンモールとなみ(富山県砺波市)は、もともとシネコンがない商業施設だったが、住民からの熱望を受け、リニューアルを機に、テナント跡を使ってコンパクトなシネコンを新設した。行政がシネコン誘致を後押しして実現した事例もある。郡山市、伊達市も市民の要望次第で風向きが変わるかもしれません」  果たして郡山市にシネコンが進出する日は来るのか。

  • 郡山市が逢瀬ワイナリーの引き継ぎを決断!?

     本誌昨年10月号で郡山市の「ふくしま逢瀬ワイナリー」が閉鎖の危機に立たされていることを報じた。  逢瀬ワイナリーは震災からの復興を目的として、市が所有する逢瀬地区の土地に公益財団法人三菱商事復興支援財団(以下、三菱復興財団と略)が2015年10月に建設。同ワイナリーを拠点に、地元農家(現在13軒)にワイン用ブドウを栽培してもらい、地元産ワインをつくって農業、観光、物産などの地域産業を活性化させる果樹農業6次産業化プロジェクトを市と同財団が共同で進めてきた。実際の酒の製造と販売は同財団が設立した一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリーが手掛けている。  ただ三菱復興財団では当初から、同プロジェクトがスタートしてから10年後、すなわち2024年度末で撤退し、施設と事業を地元に移管する方針を示していた。同財団は「地元」がどこを指すのかは明言していないが、本命が郡山市であることは明白だった。  事実、三菱復興財団はこの間、市に施設と事業を移管したいと再三申し入れている。ところが、市農林部は頑なに拒否。その理由を本誌10月号は次のように書いている。    ×  ×  ×  ×  「郡山産ワインは市場でようやく評価されるようになったが、これまで支出が上回ってきたこともあり施設はずっと赤字だった。今は三菱復興財団が面倒を見てくれているからいいが、市が施設を引き受ければそのあとは赤字も負担しなければならないため、品川萬里市長が難色を示しているのです」(事情通)  上がノーと言えば、下は従うほかない――というわけで、市農林部は三菱復興財団の移管要請を拒み続けている、と。    ×  ×  ×  ×  移管先が決まらなければ、施設は取り壊され、事業を終える可能性もある。この時の本誌取材に、市園芸畜産振興課の植木一雄課長は「逢瀬ワイナリーについては関係者において現在検討中です」と文書で回答するのみ。9月定例会でも関連質問があったが、市は「検討中」と繰り返すばかりだった。  「政経東北の記事が出たあと、市から今後のブドウ栽培に関する聞き取り調査があった。逢瀬ワイナリーがこれからどうなるといった話は出なかった」(ある生産農家)  このように、移管に消極的な姿勢を見せていた市だったが、先月開かれた12月定例会は少し様子が違っていた。箭内好彦議員(3期)が「第一の移管先に挙がっている市の考えを聞きたい」と質問すると、和泉伸雄農林部長はこう答弁したのだ。  「三菱復興財団からは市や生産農家に配慮したご提案をいただいている。市としては同財団が築いたワイナリー事業が2025年度以降も円滑に継続されるよう、生産農家の経営方針を尊重しながら同財団と協議していきたい」  前述の「検討中」と比べると、明らかに前向きな姿勢に変わっているのが分かる。  ワイナリー事業に精通する事情通はこのように話す。  「市の方針は決まっていないが、品川市長の姿勢が変わったことは間違いない。三菱復興財団とは受け入れに関する条件面を協議している模様で、同財団担当者も市のスタンスの変化に手ごたえを感じているようだ。担当者はそれまで市を説得しようと頻繁に来庁していたが、11月以降は来庁の頻度も減っている」  三菱復興財団が撤退する2024年度末まで1年3カ月を切る中、移管に向けた協議が順調に進むのか、市の対応が注目される。 あわせて読みたい 【ふくしま逢瀬ワイナリー】が赤字閉鎖!?【郡山】

  • 郡山【大麻アパート】に見る若者の栽培・密売参入

     全国で若者が大麻栽培に手を染めている。郡山市では20~30代のグループがアパートと一軒家で大規模栽培していた。県警が1度に押収した量としては過去最多。栽培手法をマニュアル化して指南する専門集団が存在し、都会や地方を問わず新規参入が増える。流通量増加の要因には、若年層がネットを介し安易に入手できるようになったことがある。乱用や売買が強盗や傷害事件につながるケースもあり、郡山産の大麻が全国の治安悪化に与えた影響は計り知れない。(一部敬称略) 「電気大量消費」「年中カーテン」の怪しい部屋  7月14日、郡山市内の公園で通行人が落とし物のバッグを警察に届けると、中に液体大麻0・5㌘が入っていた。液体大麻は大麻リキッドとも呼ばれ、幻覚成分を抽出・濃縮した物。電子タバコで吸入する。  液体大麻入りのバッグを所持していた20代女の知人を含む男女4人が逮捕されたのは、バッグの発見から約半月後だった。  7月28日付の福島民友は、福島、愛知の両県警が営利目的で大麻を所持したとして、郡山市内の20~30代の主犯格を含む男女4人を逮捕したと伝えた。押収された乾燥前の大麻草270鉢(末端価格7000万円以上)は、福島県内で一度に押収した量としては過去最多という。両県警は組織的な大麻栽培・密売事件とみて合同捜査しており、主犯格は愛知県警が逮捕した。液体大麻が入っていたバッグを落とした女も栽培に加担した容疑で逮捕された。  11月中旬までに栽培・譲渡に関与したとみられる県内の男女9人と県外の購入者6人の計15人が逮捕された。主犯格の斉藤聖司(32)と一員の山田一茂(34)、箭内武(28)の郡山市の3人と、白河市の松崎泰大(37)は起訴され、山田と箭内の公判は地裁郡山支部で審理中だ。  栽培場所は郡山市安積町笹川経蔵のアパートと同市笹川2丁目の一軒家だった。アパートの家賃は月5万9000円。グループの一員が通い、エアコンや扇風機で温度と湿度を常時管理して大麻草を育て、乾燥後にジップロックに詰め発送していた。県警がマスコミを通して公表した現場写真からは、部屋に所狭しと大麻の鉢が置かれ、照明と遮光シートを設置しているのが分かる。裁判では、生育を促すCO2発生装置や脱臭機を使っていたと言及があった。  過去に薬物事犯で検挙された経験がある元密売人は写真を見て、  「かなり部屋が狭いし鉢植えも小さいですね。小規模な組織と思われます。大規模組織は広い敷地で水耕栽培するからです。大麻の需要増に応じてここ2、3年は新規栽培者が増えている。都会や地方を問わず、全国で人知れず栽培している事例は多い」と話す。  大麻押収量と検挙者は格段に増えている。全薬物犯罪の検挙者は過去10年間で1万2000~1万4000人の間を増減。覚醒剤、大麻の順に多い。2022年は全検挙者1万2000人のうち、覚醒剤に絡む者が6000人(50%)、大麻に絡む者が5500人(45%)=出典は警察庁、厚生労働省、海上保安庁の統計を厚労省が集計したもの。以下同。\  覚醒剤に絡む犯罪は依然として多く見過ごせないものの減少傾向にある。過去10年では2015年の1万1200人をピークに22年に6200人に減った。一方で大麻は13年の1600人から21年には過去最多の5700人と3・5倍も増えている。  検挙者数は氷山の一角で、乱用者はもっと多いと推測される。全薬物犯罪とその大半を占める覚醒剤犯罪が減少傾向なのに大麻犯罪が急増しているということは、大麻が急速に流行していることを意味する。  県警刑事部・組織犯罪対策課によると、検挙者の特徴は、覚醒剤は中高年や再犯者が多く、大麻は若者の初犯者が多いという。2022年に県警が検挙した薬物犯罪は大麻が29人中、初犯者は25人で約86%を占めた(県内の過去10年の推移はグラフ参照)。覚醒剤は45人中、初犯者は12人で約27%、大半が再犯者だ。大麻検挙者のうち8割以上が30代以下で、覚醒剤検挙者のうち6割が40代以上だった。若者に流行る大麻と中高年に多い覚醒剤。これは全国・県内とも同じ傾向だ。  関東信越厚生局麻薬取締部の部長を務めた瀬戸晴海氏の著書『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書、2022年)の題名通り、若年層がネットを通じて大麻を手にするようになった。「海外では合法」といったイメージが先行しているためだという。  注射する覚醒剤に比べ、大麻はタバコのように吸入し乱用方法が簡易。さらに1㌘当たりの末端価格が1万円台の覚醒剤に比べて、大麻は同5000円と安いことも若者が手を出し易い要因だ。  関西の4大学は共同調査し、大麻や覚醒剤などの危険ドラッグを「手に入る」と考える大学1年生が4割に上るとの結果を11月に発表した。手に入ると答えたうち8割が「SNSやインターネットで探せば見つけることができるから」という理由を挙げた。 栽培指南に特化  大麻が若者に浸透する中、福島県内でも過去に前例のない規模で栽培されていても不思議ではない。郡山市で違法栽培されていた大麻はアパートで乾燥後、流通を担う個人や組織を通じて全国で売買されていたとみられる。  「都内への流通やコスト面に限って言えば、福島県が特別栽培地として選ばれているとは思えない。栽培地に地方が有利な点を強いて挙げるとすれば、家賃が安いことと、捜査員の充てられる人数が少ないため摘発リスクが都会に比べて低いことぐらいではないでしょうか」(前出の元密売人)  新規栽培が増える背景には、育て方を指南する集団・個人の存在がある。栽培手法はマニュアル化され、フランチャイズのように売り上げの何割かを受け取る契約で全国に波及する。指南に特化することで効率化を図り、検挙リスクの高い流通・密売には積極的に関わらない。  栽培者は自ら顧客に売るか流通担当者に流す。違法な物を売るため、表立って取引はできない。ここで登場するのがSNSと秘匿性の高いアプリだ。先払いが鉄則だという。  「物を先に渡すと代金を払わないで逃げられてしまう可能性が高い。違法な物を販売しているので、逃げられても通報できない弱みがある。顧客も犯罪傾向が進んでいる者が多いので不払いに躊躇がない。タタキ(強盗)と言って、約束の品を持ってきたところで暴行を受け強奪されることもある」(同)  福島県のような地方の場合、そもそも若者の割合が少ないので、大麻に関して言えば乱用地というよりも供給地の性格が強くなる。  「栽培者は隠語で『農家』と呼ばれます。また聞きですが、福島県内のある山間地では、野菜栽培を装ってビニールハウス内で大麻草を栽培している人がいると聞いたことがあります」(同)  アパートの一室でも農地でも。大麻はそれだけ身近に潜んでいるということだ。部屋の貸主が気づく術はあるのか。  「空調を常時管理するため電気代が異常に掛かります」(同)  郡山市の大麻栽培・密売事件の裁判では、栽培場所のアパートや一軒家の電気代が毎月3~7万円掛かっていたことが明かされた。一軒家に至っては「1階の電気を点けたらブレーカーが落ちる」とメンバーが気を使っていたほど。  もう一つは臭いだ。栽培現場には脱臭機があった。「大麻の苗も乾燥した物も独特の臭いがあり、身近な人もそうでない人も嗅げば異変を感じる。鉢植えで育てれば土の臭いもある。異臭を外に出さないため部屋は常に閉め切っているはず」(同)  大家は、高額な電気代と年中部屋を締め切っている部屋があったら注意した方がいい。 テレグラムは必須  前出『スマホで薬物を買う子どもたち』は、非行と無縁だった若者が大麻をスマホで買っている現状を書く。大麻をきっかけに生活や人間関係が破綻し、より幻覚作用が強い薬物に手を出し依存。薬物代を稼ぐため自らも大麻栽培・密売に手を出す事例を紹介している。大麻が「手軽」なイメージとは裏腹に、薬物の入り口を意味する「ゲートウェイドラッグ」と呼ばれる所以だ。乱用の兆候はあるのか。  「顧客と売人の取引には必ずと言っていいほどX(旧ツイッター)とテレグラムが使われます。Xで薬物の隠語を使って不特定多数に呼び掛け、通信が暗号化されるテレグラムでのやり取りに誘導する」(同)  テレグラムは秘匿性の高いアプリの一つ。通信が暗号化され、捜査機関の解析が困難になる。もともとは中国やロシアなど強権国家で人権活動家が当局の監視を避けるために開発されたが、技術は使いようで、日本では薬物の取引や闇バイトの募集などに悪用されている。  「秘匿性の高いアプリには、他にウィッカー、シグナル、ワイヤーなどがあるが、ウィッカーは近々サービスを終了。シグナルは電話番号の登録が必要で相手にも通知されるので好まれない。もっとセキュリティが高度なアプリもあるが、その分通信性能が落ち、使っている人も少ないから、誰もが使うテレグラムに落ち着く」(同)  通信の秘密は守られて然るべきだが、これらのアプリが実際に犯罪行為に使われている以上、もし情報セキュリティに無頓着だった家族や知人が突如ダウンロードしていたら警戒する必要がある。  大麻は凶悪犯罪の「ゲートウェイ」でもある。昨年3月にJR福島駅に停車した新幹線内で起こった傷害事件は、犯人の23歳男が大麻を大阪府の知人から譲り受けようと岩手県から無賃乗車し、車掌に咎められて暴れたのが原因だった。  裁判には男の大麻依存傾向を診断した医師が出廷し、より強い作用を求めて濃縮した液体大麻を乱用していたこと、優先順位の最上に大麻があり、崇めるような精神世界を築いていたことを証言した。「薬物乱用者に言えることだが、何が悪いか理解できない以上、いま反省するのは難しい」とも。証人として出廷した母親は、涙を流しながら息子が迷惑を掛けたことをひたすら悔いていた。  家族と言えども、スマホの先で誰とつながっているかは分からない。異変を察知するためにまずできることは、帰省した我が子に「テレグラムやってる?」とカマをかけるぐらいだ。

  • 郡山【小原寺】お檀家・業者に敬遠される前住職

     小原寺と言えば、郡山市を代表する名刹だが、檀家や葬祭業者からの評判は芳しくない。原因はクセが強い前住職の存在だ。ただでさえ仏教離れの傾向が強まっている中、その存在が〝墓じまい〟を加速させている――という指摘すらある。いったいどんな人物なのか。 〝上から目線〟の運営で離檀者続出!?  大邦寺神竜院小原寺は郡山市図景にある曹洞宗の寺院だ。近くには郡山健康科学専門学校や郡山警察署がある。かつてはその名が示す通り、同市小原田にあった。  天文年間(1532年~)に廃絶した久徳寺を、永禄3(1560)年、二本松市・龍泉寺6世の実山存貞和尚が再興し、曹洞宗小原寺としたのがはじまりとされる。戦乱を経て延宝4(1676)年に再建。材料に阿武隈川の埋もれ木を掘り出したものが使われ「奥州・安積の埋もれ木寺」として、名所の一つに数えられた。天明3(1783)年、失火により全焼したが、寛政5(1793)年に古材を集めて仮本堂が建立された。  その仮本堂がつい10年前まで本堂として使用されていたが、震災で全壊判定を受け、2014年3月に解体撤去。約500㍍離れた現在の場所に、広大な駐車場を備えた近代的建築の本堂・庫裏を再建。同年8月に落慶法要が執り行われた。  安積三十三観音霊場第六番札所となっているほか、「巡拝郡山の御本尊様」の会が実施している御朱印企画では第一番札所となっている。  檀家は約1000軒あるとされるが、「現在は800軒ほどに減ったのではないか」と指摘する檀家もいる。いずれにしても、郡山市を代表する古刹であり、高い公共性を有する施設だ。  現在の住職は安倍元輝氏だが、市内で有名なのは、父親で東堂(曹洞宗における前住職の呼称)の安倍元雄氏だ。元高校教師で、郡山青年会議所理事長も務めていた。宗教法人小原寺の代表役員である元輝住職は心身のバランスを崩し一時期活動を控えていたとのことで、83歳の元雄氏がいまも同寺院を代表する存在として活動している。  ところが、その元雄氏に対する不満の声が各所でくすぶっている。  檀家の年配男性は「一番の原因はお布施の高さですよ」と説明する。  「葬儀のお布施が周辺の寺院と比べて高い。戒名が院号(寺への貢献者・信仰心の厚い信者に付けられる称号)の家で100万円超、軒号(院号よりランクが落ちる称号)の家でも70~80万円支払うことになる。親の葬儀で『大金を支払えないので戒名の位を下げてほしい』とお願いする人もいました」  代々檀家になっているという男性も「知り合いが、仲の良い墓石業者に相談して安く墓を立てる算段をしていたが、元雄氏に一応伝えると特定の業者を使うよう指定された。あれやこれやと条件を付けられ、結局200万円以上の金額に跳ね上がって泣いていましたよ」と語る。  檀家の中には、親が亡くなったのを機に〝墓じまい〟して、市営東山霊園に墓を移す人もいる。近年は仏教離れが進んでいることもあって、その傾向が強まっているが、同寺院ではその際も30~40万円の〝離檀料〟を支払うよう求めているという。  曹洞宗宗務庁はホームページ上で「宗門公式としての離檀料に関する取り決めはないし、指導も行っていない」とする見解を表明しているが、同寺院では「離檀を申し込むと、金額を提示される。半ば支払いを強制されているような感じ」(前出・檀家の年配男性)だとか。  小原田地区の住民によると、過去には元雄氏の独断が過ぎるとして、紛糾したこともあった。  「震災で本堂が全壊判定を受け、現在の場所に新築移転することになったが、檀家が計画の全容を知ったのは、どんな本堂にするか設計や見積もりが終わり、銀行と建築費用の融資計画まで打ち合わせした後だった。そのため、説明を受けた檀家から『これを負担するのはわれわれだ。なぜ事前に相談がないのか』と物言いが入ったのです。そのため、当初の計画は一旦見直されることになりました」  複数の檀家によると、新築された本堂・庫裏は当初、左翼側に葬儀・法事などを執り行える葬祭会館が併設される計画で、檀家には「総事業費数億円に上る」と説明していた。だが、葬祭会館建設は見直されることになり、左右非対称の造りとなった。このほか、正確な時期は不明だが、総代が元雄氏と対立し全員退任したこともあったという。  檀家に十分な説明が行われない状況は現在も続いているようで、小原寺の墓地の近くに住む檀家の男性は「現在の総代が誰なのかも知らないし、総代会が開かれているのかも報告されていないので分からない。法要のときは足を運ぶし、『寄付してくれ』と頼まれたら協力しますが、それ以上のコミュニケーションはありません」と語った。  不満の声は檀家のみでなく葬祭業者からも聞かれる。原因は「『うちの檀家の葬儀は白い花でそろえないとダメだ』などと細かい注文が入るうえ、とにかく話が長くて予定がめちゃくちゃになる」(ある葬祭業関係者)。葬儀終了後に元雄氏が数十分かけて〝ダメ出し〟する姿もたびたび目撃されており、ある業者とは深刻なトラブルに発展したようだ。複数の業者の現場担当者に声をかけたが、元雄氏がどんな人物か把握していたので、業界内ではおなじみの存在なのだろう。  元雄氏のクセの強さは経済界でも有名なようで、「郡山青年会議所OBの会合で簡単なあいさつを依頼されたのに30分以上話し続け、3人がかりで止めに入ったが、それでもまだ話し続けた」(市内の経済人)ことは〝伝説〟となっている。 元雄氏を直撃 安倍元雄氏  これだけ不満の声が出ていることを本人はどう受け止めているのか。同寺院に取材を申し込んだところ、元雄氏が対応し「葬儀続きで話すのは難しい」と渋られたが、10分程度でも構わないと伝え、何とか直接会う約束を取り付けた。  11月下旬、同寺院を訪ねると、元雄氏が杖をつきながら登場し、本堂を案内した後、御本尊である釈迦三尊像の説明や釈迦(ブッダ)が生まれたころの背景を20分にわたり話し続けた。「この後予定がある」と言いながら話し続けそうな雰囲気だったので、途中で遮って本題に入った。  ――本堂の新築移転をめぐり、檀家から不満の声が上がったと聞いた。  「本堂新築移転は震災で旧本堂が全壊となり、総代会で満場一致で決められたものです。檀家がお参りできる場所を作るのが私の務め。近代的な建物にした理由は、皆さんに親しまれるように、いまの時代に合った本堂を立てるべきだと考えたからです。具体的な建設費用は伏せますが、総代をはじめ、檀家の皆さんに『先祖の供養の場を作ってほしい』と寄付していただいた。私も個人で3000万円借りて寄付しました」  ――檀家は「総代長が誰かも分からないし、総代会がいつ開かれたのかも報告がないから分からない」と嘆いていた。コミュニケーションが不足しているのではないか。  「総代は住職などを含め5人います(※宗教法人の役員のことだと思われる)。総代会はその都度開かれているが、そのことはほかの檀家には連絡はしていませんね」  ――お布施の金額や、離檀料についても不満の声が聞かれた。  「お布施はできるだけ安くすることを心がけているし、納めるべき金額は檀家にはっきり公表している。不満の声がウワサとなって広まっている背景には、他の寺の住職のねたみも含まれているのではないか。住職に知識や考えがなければ長く喋りたくても喋られない。でも、俺が喋ると内容は豊富だし、間違ったことは言ってないので『ごもっとも』となる。離檀料は長い間お世話になった気持ちを込めて菩提寺に寄付したいという方もいるので設定しているが、決して強制ではない」  ――葬祭業者にも敬遠されている。注文・ダメ出しの多さと話の長さが原因のようだが、心当たりは。  「小原寺の葬儀のやり方というのが明確に決まっている。どうすればスムーズに進行できるか、担当者に教えることがあります。でも、『指摘してくれてありがとう』と言われることもあるし、そんなにトラブルみたいなことにはなってないよ」  ――こうした不満が出たことをどう受け止めるか。  「まあ、『出る杭は打たれる』ということなんでしょう」 取材には真摯に対応してもらったものの、本堂新築移転をはじめ、檀家や葬祭業者から上がっている不満の声を素直に受け止めず、「他の寺の住職のねたみが背景にあるのではないか」、「出る杭は打たれるということ」と話す始末。コミュニケーション不足を指摘してもピンと来ていない様子で、再度質しても明確な回答はなかった。これでは檀家・葬祭業者との溝を埋めるのは難しい。  本堂新築移転にいくらかかったのか、明確な金額は明かそうとしなかったが、今年11月時点での寄付一覧を見せてくれた。本堂の建設を手掛けた業者や県内の寺院が寄付していたが、寄付金額を合計しても1億円にも満たない。残りは宗教法人として銀行融資を返済しているという。つまり、最終的には檀家が負担することになる。  総代長を務める年配女性を訪ね、元雄氏について質問しようとしたが「私は全然そういうの分からないの」とドアを閉められた。現代表役員の元輝氏の存在感はなく、同寺院に取材を申し込んだ際も、こちらが特に指定していないのに元雄氏が対応した。厳密に言えば寺の本堂は宗教法人のものだが、元雄氏の判断ですべてが決まる体制ということだろう。 寺院経営のボーダーライン 小原寺  人口減少により経営が厳しくなっている寺院が増えているとされているが、そうした中で、1000軒以上の檀家を抱える同寺院はかなり余裕があると言える。寺院の事情について詳しい東洋大学国際学部の藤本典嗣教授は「寺院経営が成り立つボーダーラインは一般的に約300軒と言われている」と説明する。  「地方の寺院では収入が年間約900万円あれば、諸経費、維持管理費、宗費(本山に納める費用)など諸々を差し引いても、住職の所得として360万円程度確保でき、生活を維持できるとされています。主な収入は葬儀、法要、供養などで入るお布施。住職1人で運営できるラインは300軒程度とも言われているので、1軒当たり平均年3万円のお布施を支払ってもらえれば、専業で寺院経営が成り立つ計算です」  藤本教授によると、寺院によってお布施の金額は異なるが、公表されている論文や書籍などのデータを大雑把にまとめると、葬儀の相場は10万~100万円、法事の相場は3000~5万円とのこと。寺院、戒名によってその金額は異なるが、「福島市の福島大学に勤めていた頃の感覚では、中心市街地のお寺での葬儀のお布施は20~50万円でした」(藤本教授)。小原寺の金額が高めであることが分かるだろう。  檀家数が300軒を下回ると、住職の業務は少なくなって負担は軽減されるが、収入も減るので別の仕事をする必要がある。かつて郡部の寺では、地元で働き続けられる公務員や教員、農協などの仕事を檀家から紹介され、兼業しながら寺院運営する住職が多かったという。SNS情報によると、現在は介護業界で働く人が多いようだ。  小原寺では元雄氏と元輝氏のほかにも僧侶の姿を見かけた。それだけ経営的に余裕があるということで、だからこそ檀家に強気な姿勢で臨めるのかもしれない。しかし、そうした環境にあぐらをかいていれば、離檀していく人も増えるのではないか。  「うちは代々檀家になっているので付き合い続けているが、そうでない人は『住職との折り合いが悪いから』とためらいなく離檀していく。実際、周辺にそういう人がいました」(前出・檀家の年配男性)  本誌10月号で、喜多方市熱塩加納町の古刹・示現寺で〝墓じまい〟が相次いでいる背景を取材した。檀家らの声を聞いた結果、人口減少・少子高齢化の影響に加え、高圧的な態度の住職に対する不満も一因となっていた様子が分かった。ほかにも、会津美里町・会津薬師寺、伊達市霊山町・三乗院など、寺院をめぐるトラブルを取り上げている。本誌10月号記事では、これらのトラブルに共通するのは、①「一方的で説明不足」など住職に檀家が不信感を抱いている、②「本堂新築」、「平成の大修理」など寄付を要する大規模な事業を行おうとしている点と指摘した。  藤本教授は「寺院の大規模事業に関しては、かつては多額の寄付をできる人に依存し、一般の檀家の寄付額は少額という傾向にあったが、時代の流れにより全体で負担する方向に変わりつつあります。計画がしっかりしている寺院では、総代を中心に話し合い、マンションでいう〝修繕費〟を積み立てています。逆に言えば、そのような計画がしっかりしていない寺院は不満が一気に噴出しやすいのです」と解説する。  そのうえで「住職、総代、檀家のコミュニケーションがうまくいってない場合、トラブルが起こりがち。3者で定期的に話し合いの場を持ち、コミュニケーションを取っていれば問題は起こりにくいはずです」と話す。小原寺に関しても当てはまる指摘ではないか。 いかに寺が檀家に寄り添えるか 小原寺の本堂内  市内のある寺院関係者は元雄氏について次のように語る。  「以前は周りが年配者ばかりだったが、檀家も住職も年下が増えてきたこともあって、自己中心的な言動がとにかく目立つようになった。都市部だが、旧小原田村を象徴する寺なので、住職も檀家もそれぞれプライドを持っている。だから、不満が溜まるのでしょう。仏教離れ、少子高齢化が進み、物価高騰で家計も大変な中、何より大事なのはいかに寺(住職)が檀家に寄り添えるか。一方的に旧態依然とした考え方を押し付けるスタンスでは、今後も離檀する檀家は増える一方でしょう」  元雄氏自身は自覚がないようだが、檀家の話を聞く限りコミュニケーション不足は否めない。中には知識量や宗教者としての姿勢を認め、リスペクトを込めて話す人もいたが、だからと言って一方的な〝上から目線〟の寺院運営を続けていれば檀家は離れていく。  同寺院は前述の通り、公共性が高い古刹であり、宗教法人は周知の通り、その公益性の高さから境内や寺院建造物の固定資産税が免除され、お布施などの収入は非課税となっている。元雄氏はその寺院を代表する立場にいるのだから、周りから不満の声が出ていることを素直に受け止め、自身の対応を見直すべきだ。  元輝氏はこの間仏像彫刻の寺小屋イベントを実施しているという。さらに立派な本堂と広大な駐車場を活用した祭り・イベントを計画し、寺に足を運びやすい雰囲気を作ることから考えてみてはどうだろうか。

  • 【ふくしま逢瀬ワイナリー】が赤字閉鎖!?【郡山】

     郡山市の「ふくしま逢瀬ワイナリー」が閉鎖の危機に立たされているという情報が寄せられた。施設を建設し、ワイナリー事業を進める公益財団法人が2024年度末に撤退するが、施設と事業の移管先が見つからないという。同法人は施設を通じて市と果樹農業6次産業化プロジェクトを行っているが、市からも移管を拒まれている。同法人と市の間では現在も協議が続いているが、このまま移管先が見つからなければ最悪、施設を取り壊しワイナリー事業を終える可能性もある、というから穏やかではない。(佐藤仁) 復興寄与で歓迎した郡山市は素知らぬ顔  今から8年前の2015年10月、郡山市西部の逢瀬地区にふくしま逢瀬ワイナリー(以下逢瀬ワイナリーと略)が竣工した。  市が所有する土地に公益財団法人三菱商事復興支援財団(東京都千代田区、以下三菱復興財団と略)が醸造・加工工場を建設。2016年11月にはワイナリーショップも併設された。敷地面積約9000平方㍍、建物面積約1400平方㍍。県内産の果実(リンゴ、桃、梨、ブドウ)を原料にリキュールやワインなどを製造・販売しており、当初の生産量は1万2000㍑、将来的には2万5000~3万㍑を目指すという方針が掲げられた。  逢瀬ワイナリーが建設されたのは2011年3月に起きた東日本大震災がきっかけだった。  同年4月、三菱商事は被災地支援を目的に、4年総額100億円の三菱商事東日本大震災復興支援基金を創設。被災した大学生や復興支援に携わるNPO、社会福祉法人、任意団体などに奨学金や助成金を給付した。2012年3月には三菱復興財団を設立し、同年5月に公益財団法人の認定を取得。同基金から奨学金事業と助成金事業を継承する一方、地元金融機関と協力して被災地の産業復興と雇用創出のための投融資支援を行った。  予定通り2014年度末で「4年総額100億円」の同基金は終了したが、15年度以降も被災地支援を継続するため、三菱商事から35億円が追加拠出された。  ワイナリー事業に精通する事情通が解説する。  「三菱復興財団は当初、岩手と宮城の津波で被災した事業所を中心に支援し、福島では産業・雇用に関する目立った支援が見られなかった。その〝遅れ〟を取り戻そうと始まったのが逢瀬ワイナリーだったと言われています」  三菱復興財団が2011~20年までの活動をまとめた報告書「10years」に産業支援・雇用創出の支援先一覧が載っているが、それを見ると3県の支援先数と投融資額合計は、岩手県が15件、5億9850万円、宮城県が25件、10億8500万円なのに対し、福島県は11件、3億4200万円となっている。  奨学金と助成金の給付状況を見るとこの序列は当てはまらないが、産業支援・雇用創出の支援は確かに福島県が一番少ない。  「津波被害や風評に苦しむ企業・団体が投融資支援の対象となってきた中、突然郡山にワイナリーをつくるという発表は不思議だったが、その背景には地元選出で復興大臣(2012年12月~14年9月)を務めた根本匠衆院議員の存在があったと言われています。表向きの理由は①果実が豊富な福島県は果実酒製造のポテンシャルが高い、②ワイナリー事業は地元産業と競合しない、②郡山市から協力体制が得られたとなっていますが、一方で囁かれたもう一つの理由が、復興大臣の地元を支援しないのはマズいと三菱復興財団が忖度したというものでした」(同)  真偽はさておき、35億円の追加拠出を受けた三菱復興財団は2015年2月、市と果樹農業6次産業化プロジェクトに関する連携協定を締結した。以下は当時のリリース。  《今般、お互いの復興に対する思いが合致し、郡山市と三菱商事復興支援財団が一体となって、農業、観光、物産業等の地域産業の復興を加速させるために連携協定を締結致します。「果樹農業6次産業化プロジェクト」は、福島県産果実の生産から加工、販売を一連のものとして運営する新たな事業モデルの構築を目指すものです。現状、安価で取引されている規格外の生食用果実(桃・なし・リンゴ等)の利活用を図ると共に、新たにワイン用ぶどうの生産農家を育成し、集めた果実を使用してリキュール、ワインの製造・販売を行います。三菱商事復興支援財団が醸造所や加工施設の建設、販売等の地元農家だけでは負担することが難しい初期費用、事業リスクを請け負う形で、6次産業化事業の確立を目指します》  三菱復興財団が施設を建設し、販路を開拓するだけでなく、事業にかかる初期費用やリスクを負うことで地元農家を支えることを約束している。事実、前述した同基金(創設時100億円+追加拠出35億円=計135億円)の給付内訳(別掲)を見ると「ふくしまワイナリープロジェクト」には13億円も給付しており、同財団の注力ぶりが伝わってくる。 難航極める移管先探し ふくしま逢瀬ワイナリー  三菱復興財団と市が連携して取り組む果樹農業6次産業化プロジェクトとはどのようなものなのか。  三菱復興財団と市は安価で取り引きされている規格外の生食用果実を利活用するだけではなく、地ワイン開発とワイン産地化を目指して、これまで市内で栽培例のなかったワイン用ブドウの生産に着手(1次産業=農業生産)。これらの果実を原料にリキュールやワインの醸造技術とノウハウを蓄積(2次産業=加工)。製造された加工商品の販路を開拓する(3次産業=流通・販売・ブランディング等)というものだ。  市は2015年3月、ワイン用ブドウの試験栽培を地元農家4軒に依頼。同年12月にはワイン用ブドウの苗木や栽培用資材にかかる初期経費を支援した。さらに▽逢瀬ワイナリー周辺の環境整備、▽産地形成を目的に地元農家9軒をメンバーとする郡山地域果実醸造研究会を発足(現在は13軒に拡大し、ここがワイン用ブドウの生産農家となって逢瀬ワイナリーに納めている)、▽逢瀬ワイナリーの敷地を観光復興特区に指定し固定資産税を軽減、▽イベント開催――などを進めた。  一方、公益財団法人の三菱復興財団は特定の利益事業を行うことができないため2015年5月、委託先として一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリー(郡山市逢瀬町、河内恒樹代表理事)を設立。同法人が酒の製造・販売など現場を取り仕切り、理事には市農林部の部課長も就いた。  県内産の果実を使ったスパークリングワインやリキュールは施設稼働の翌年(2016年)から出荷したが、15年に植栽したワイン用ブドウを原料とする郡山産ワインは19年3月に初出荷。以降は毎年、郡山産ワインを製造・販売しており、国内外の品評会でも20年度まではリキュールやシードルでの受賞にとどまっていたが、21、22年度はワインでも高い評価を得るまでに成長した。  スタートから8年。逢瀬ワイナリーを核とする6次産業化プロジェクトはようやく軌道に乗ったが、そんな施設が今、閉鎖の危機に立たされているというから驚くほかない。  前出・事情通が再び解説する。  「三菱復興財団が逢瀬ワイナリーから2024年度限りで撤退するため、市に施設と事業を移管したいと申し入れている。しかし、市農林部が頑なに拒んでいて……」  実は、三菱復興財団はもともと6次産業化プロジェクトのスタートから10年後の2024年度末に施設と事業を「地元」に移管する予定だったのである。同財団は「地元」がどこを指すかは明言していないが、同財団撤退後、新たな事業主が必要になることは関係者の間で周知の事実だったことになる。  「三菱復興財団は以前から、できれば市に引き受けてほしいと秋波を送っていた。市は6次産業化のパートナーなので、同財団がそう考えるのは当然です。しかし市は、ずっと態度を曖昧にしてきた」(同)  なぜ、市は「引き受ける」と言わないのか。  「郡山産ワインは市場でようやく評価されるようになったが、これまで支出が上回ってきたこともあり施設はずっと赤字だった。今は三菱復興財団が面倒を見てくれているからいいが、市が施設を引き受ければそのあとは赤字も負担しなければならないため、品川萬里市長が難色を示しているのです」(同)  上がノーと言えば、下は従うほかない――というわけで、市農林部は三菱復興財団の移管要請を拒み続けている、と。  「三菱復興財団では、市が引き受けてくれないなら同財団に代わって施設と事業を継続してくれる企業・団体を探すとしています。ただし、同財団は公益財団法人なので民間に売却できない。そこで、市に施設と事業を移管し、同財団が探してきた企業・団体と市で引き続き6次産業化プロジェクトに取り組んでもらう方向を模索している。とはいえ、同財団に代わる企業・団体を見つけるのは簡単ではなく、移管先探しは難航を極めているようです」(同) 振り回される生産農家  ワイン用ブドウの生産農家に近い関係者も次のように話す。  「三菱復興財団の担当者も『市長がウンと言ってくれなくて……どこか適当な移管先はないか』と嘆いていました」  この関係者は、地元の大手スーパーか酒造会社が施設と事業を引き受け、ワインづくりを継続できれば理想的と語るが、「現実は赤字施設を引き受けるところなんて見つからないのではないか」(同)。  もっとも、本当に赤字かどうかは逢瀬ワイナリーの決算が不明で、三菱復興財団も貸借対照表が公表されているだけなので分からない。参考になるのは、国税庁が調査した全国のワイン製造業者の経営状況(2021年1月現在)だ。  それによると、ワイン製造者の46%が欠損または低収益となっているが、製造数量が少ない(100㌔㍑未満)事業者ほど営業利益はマイナスで、多い(1000㌔㍑以上)事業者はプラスになっている。逢瀬ワイナリーの製造量は100㌔㍑未満なので、この調査に照らせば赤字なのは間違いなさそうだ。  ついでに言うと、全国にワイナリーは413場あり(2021年1月現在、国税庁の製造免許場数および製造免許者数)、都道府県別では1位が山梨県92場、2位が長野県62場、3位が北海道46場と、この3地域で全国の48%を占める。福島県は9場で第9位。  「生産農家は実際にワイン用ブドウをつくってみて、郡山の土地と気候は合わないと感じつつ、それでも試行錯誤を重ね、今では品評会でも賞をとるほどの良いブドウをつくれるまでに成長した。昨年のブドウも良かったが、今年はさらに良い出来と期待も高まっている。そうした中で施設と事業の移管先が見つからないという話が出てきたから、生産農家は困惑している」(同)  今年春には、市農林部から生産農家に「もし逢瀬ワイナリーがなくなったら、生産したブドウはどこに手配するか」との質問がメールで投げかけられたという。  「ワインづくりは各地で行われているので、ここで買い取ってくれなくても、意欲の高い生産農家は他地域にブドウを持ち込んで、さらに品質の良いワインづくりに挑むと思います。そういう意味では郡山にこだわる必要はないのかもしれないが、半面、ワイン用ブドウの生産は復興支援で始まった取り組みなのに、そういう市の聞き方はないんじゃないかと不満に思った生産農家もいたようです」(同)  記者は生産農家数軒に「三菱復興財団が逢瀬ワイナリーから撤退するため、移管先を探していると聞いたが事実か」と尋ねてみたが、  「私はワイン用ブドウを生産し納めているだけで、施設の経営については分からないので、コメントは控えたい」  と、返答を寄せた人は口を開こうとしなかった。折り返し連絡すると言ったまま返答がない人もおり、生産農家がどこまで詳細を把握しているかは分からなかった。  ちなみに生産農家は三菱復興財団と契約し、つくったブドウの全量を買い取ってもらい、逢瀬ワイナリーに納めているという。前出・関係者によると「買い取り価格は一般より高く設定されている」とのこと。 最悪、施設の取り壊しも ※6次産業化プロジェクトのスキーム図  生産農家を巻き込んだ6次産業化プロジェクトは着実に進んでいる印象だ。それだけに逢瀬ワイナリーがなくなれば、せっかく形になった6次産業化は中途半端に終わり、生産農家は行き場を失ってしまうのではないか。  そう、「逢瀬ワイナリーがなくなれば」と書いたが、三菱復興財団に代わる事業主がこのまま見つからなければ最悪、施設を取り壊しワイナリー事業を終える可能性もゼロではないというのだ。  前出・事情通は眉をひそめる。  「三菱復興財団と6次産業化の連携協定を締結したのは品川市長だ。復興支援の申し入れがあった時は喜んで受け入れ、同財団が撤退する段になったら赤字を理由に移管を拒むのは、同財団からすると気分が悪いでしょうね。6次産業化や果樹農家の育成は表面的な黒字・赤字では推し量れない部分があり、長い投資を経てようやく地場産業として成長するもの。収益の話はそれからだと思います」  事情通によると、もし市が移管を拒み続け、三菱復興財団に代わる事業主も見つからなければ、施設を取り壊すことも同財団内では最悪のシナリオとして描かれているという。  「三菱復興財団の定款には『清算する場合、残余財産は公益法人等に該当する法人または国もしくは地方公共団体に贈与する』と書かれています。もし移管先が見つからなければ、逢瀬ワイナリーは市名義の土地に建っている以上、取り壊して一帯を現状回復しつつ、余計な財産を残さずに清算するしかないと考えているようです」(同)  これにより市に生じるデメリットとしては▽ブランドになりつつあった郡山産ワインの喪失、▽果樹農業6次産業化の頓挫、▽果樹農家やワイン用ブドウの生産農家に対する背信、▽三菱との関係悪化(今後の企業誘致等への悪影響)などが考えられる。  もちろん市が移管を受けたとしても課題は残る。メリットしては▽郡山産ワインのさらなるブランド化、▽ワイン用ブドウの地場産業化、▽逢瀬ワイナリーを拠点とした観光面での人的交流などが挙げられるが、デメリットとしては▽施設の維持管理、▽設備の更新、▽人件費をはじめとする運営費用などランニングコストを覚悟しなければならない。  そうした中で品川市長が最も気にしているのは、赤字を税金で穴埋めするようなことがあれば市民や議会から厳しく批判される可能性があることだろう。それを避けるには赤字から黒字への転換を図る必要があるが、施設と事業の性格上、黒字に持っていくのが簡単ではないことは前述した通り。  「6次産業化を確立したければ、赤字を税金で穴埋めという考え方は横に置くべき。その上で市が考えなければならないのは、ふくしまワイナリープロジェクトが三菱復興財団にとって唯一直接的に実施した事業であり、13億円もの基金が投じられていることです。三菱商事は移管後もグループとして施設と事業を支える意向と聞いている。復興支援の象徴でもある逢瀬ワイナリーを簡単になくしていいはずがない。品川市長は『自分が市長の時に赤字施設を引き受けるわけにはいかない』と短絡的に考えるのではなく、市として施設をどう生かしていくのか長期的な視点に立って検討すべきだ」(同)  市は逢瀬ワイナリーの今後をどう考えているのか。市農林部に取材を申し込むと、園芸畜産振興課の植木一雄課長から以下の文書回答(9月25日付)が寄せられた。  《逢瀬ワイナリーについては関係者において現在検討中です》  現場の声を聞きたいと、逢瀬ワイナリーの河内恒樹代表理事にも問い合わせてみたが、  「当社は三菱復興財団から委託を受けて酒類を製造・仕入れ・販売しているため、同財団の事業方針について回答し得る立場にありません。施設の今後も知り得ていないので、取材対応はできません」  とのことだった。  肝心の三菱復興財団はどのように答えるのか。以下は國兼康男事務局長の回答。  「弊財団がワイナリー事業の地元への移管を検討していることは事実です。弊財団としては、ワイナリー事業を開始した2015年より10年後の2024年末を目途に地元に事業を移管する予定で準備を進めてきました。現在、移管に向けて関係者と協議中のため、今後のことについては回答できませんが、誠意を持って協議を続けていきます」 財団と市が頻繁に協議  三菱復興財団と市は今年度に入ってから頻繁に協議を行っている。記者が入手した情報によると、5、6月に1回ずつ、8月は3回も協議している。その間、市農林部から品川市長への経過報告は2回。さらに9月中旬には同財団と副市長が意見交換を行ったとみられる。  8月に入って慌ただしさを増していることからも、撤退まで残り1年半の三菱復興財団が焦りを見せ、対する市は態度をハッキリさせない様子が伝わってくる。  それにしても品川市政になってから、ゼビオの栃木県宇都宮市への本社移転、令和元年東日本台風の被害を受けた日立製作所の撤退、保土谷化学とのギクシャクした関係など、地元に根ざしてきた企業と距離ができている印象を受ける。今回の逢瀬ワイナリーも、対応次第では三菱との関係悪化が懸念される。  復興支援という名目で巨費が投じられた際は喜んで受け入れ、それが苦戦すると一転して移管要請に応じない品川市長。前市長が受け入れたならまだしも、1期目の任期中に自身が受け入れた事業であることを踏まえると、10年後に地元に移管することは当然分かっていたはず。品川市長には、施設が赤字という理由で移管を拒むのではなく、13億円もの巨費が投じられていること、さらには果樹農業の6次産業化に必要な施設なのかという観点に立ち、どういう対策がとれるのか・とれないのかを検討することが求められる。

  • 【郡山市】選挙漫遊(県議選)

     取材日を11月5、6日に設定。3日の夕方に全候補者(12人)の事務所に電話をして、「5、6日のいずれかで、街頭演説や個人集会などの予定があれば教えてほしい。その様子を取材させてもらったうえで、終了後に5分くらい、次の予定があるならもっと短くてもいいので、候補者への個別取材の時間を設けてほしい。両日に街頭演説や個人集会などの予定がなければ、事務所で取材させてほしい」ということを依頼した。  その時点で、街頭演説や個人集会などの予定が把握できた、あるいは事務所での取材のアポイントが取れたのが10人。計ったように5日と6日で半々(5人ずつ)に分散した。もっとも、時間が被っていた人もいたので、その場合は手分けして取材に当たった。  残りの2人は流動的だったが、どちらも「お昼(12時から13時)は一度事務所に戻ると思う」とのことだったので、「5日から6日のお昼を目安に事務所に行くか電話をする」旨を伝えた。  こうして取材をスタート。2日間かけて、比較的、スムーズに全候補者に会うことができた。 担当:末永 補佐:本田 福島県議選【郡山市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=1756 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松郡山市の解説は29:16~ 定数10 立候補者12 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601621.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601654.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【福島市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 今井久敏 https://www.youtube.com/watch?v=G6hR6C2WpO4  ――真っ先に取り組むべき県政の課題は。  「物価高騰対策と防災・減災ということに尽きると思います。それを徹底してやっていきます」  ――そのほかでは?  「原発処理水の問題を含めた復興の加速です。われわれが提案したイノベーション・コースト構想がしっかりと実を結ぶように取り組んでいきます」 一言メモ  公明党・山口那津男代表が応援に駆けつけたこともあり、演説会場の郡山駅前広場には多くの聴衆が集まった。警察・警備でかなりの厳戒態勢。その中で、動き回って写真撮影をしていたため、おそらく筆者は「注意人物」扱いだった。(末永) 山田平四郎 https://www.youtube.com/watch?v=F0pB6JNMgzE  ――この選挙戦での有権者の反応は。  「私の地元は田村町で、4年前の台風被害で選挙ムードではない部分がありました。それから見ると、地元では支援の輪が広がっていることを感じる一方、『いつ選挙ですか』と聞かれることもあり、関心という部分では分からない点もあります」  ――県政の課題は。  「内堀知事も大きな課題に挙げていますが、人口減少問題です。郡山市は微減にとどまっていますが、郡山市で育った子どもが大学進学等で都市部に出て、なかなか戻ってこない実態があります。事業承継の問題も含めて、魅力ある郡山市にしていかなければならないと思っています。東日本大震災、原発事故、令和元年東日本台風、昨年・一昨年の福島県沖地震がありましたが、災害に負けないまちづくりをしていかなければなりません。国会議員の先生方と一緒に、郡山市の地区ごとの課題を踏まえながら、まちづくりをしていかなければなりません」    一言メモ  事前連絡では「基本的には昼には事務所に戻る」とのことだったが、6日昼前に事務所に確認すると、「今日は昼は戻ってこない」という。ただ、「〇〇町の〇〇という食堂で昼食をとる予定だから、12時過ぎに行けば会える」とのこと。教えてもらった場所に行くと、事前に事務所から候補者に連絡があったようで、すんなり取材できた。(末永) 佐藤徹哉 https://www.youtube.com/watch?v=t1NCu14mPiw  ――この選挙戦で住民の声をどう受け止めているか。  「若者が活躍できる環境をつくることと、子育て世代の仲間からは、教育の充実、子育て支援の充実を求める声を数多くいただいています」  ――県議会では、県立高校の空き校舎の問題について質問を行っていた。  「空き校舎は、上手く活用することで地域の発展に寄与できるものだと思っています。受け入れる自治体がどう扱うか。郡山市は安積高校御館校が対象で、立地的に人が集まる場所ではありません。逆に、大きな音を出しても問題なければ、楽団の練習、夜間の合唱の練習に使わせてもらいたい、といった要望はあります。決定権は郡山市にあるので、市にどう訴えていくかが今後の課題です」 一言メモ  本誌の問い合わせに対して、候補者本人から「事務所で取材を受けます。事務所の雰囲気も見てほしいので」と連絡があった。実際、事務所を訪ねると、若い人が多いのが目に付いた。(末永) 高橋翔 https://www.youtube.com/watch?v=TnGRnB_Q_-M  ――今回の選挙の位置付けは?  「郡山市は当初、無投票が予想されていました。人材不足が顕著で、現職が後継者を育てられてない。同じ顔ぶれで、選挙公報を見ても言っていることも同じ。そのレベルなんですよ。そもそも、この4年間で『県議ってどこで何をしているの?』という声が結構多かったので、そこを改善するために、民間人・有権者側の立場で立候補することにしました」  ――今回は選挙区である郡山市だけでなく、県内全域を回っているそうだが。  「郡山選挙区から立候補したから、ほかは関係ないという考え方は危険だと思います。それは僕からしたら当たり前のこと。若い人は、そういうスケールの小さい考えの人の方が少ない。いまはそういう若い人は選挙に行かないかもしれない。でも、いずれ選挙に関わるようになったときに履歴がない。30代で立候補する人はほとんどいないから。若手が本当の意味での無所属で立候補した場合、どれだけ求められているか。僕がその履歴をつくる意味もあります」  一言メモ  演説内容を聞いても、個別取材でも、1人だけ「異質」で、フラットな視点で見るならば、最も興味深い人物。もちろん、それが良いか悪いかは有権者の判断による。(末永) 佐藤憲保 https://www.youtube.com/watch?v=W6F8KQenANs  ――地域の課題は。  「郡山市は、他地域に比べて若い世帯が多いが、少子高齢化が迫っている流れは同じ。県の中心である郡山市がもっと経済中心地にならなければなりませんが、まだまだそうはなっていません。郡山市を経済中心地として発展させていく必要があります。震災後は、逢瀬ワイナリーや医療機器開発支援センター、三春町の環境創造センターの誘致を行い、これらを郡山市ならびに周辺地域の経済発展の核にしていきたいと思っていましたが、リンクした民間企業の貼り付けがなかなか進んでいないのが課題です。機能的、有機的に連携して民間企業の誘致を進めていきたい」  ――県全体の課題は。  「やはり震災復興。東日本大震災の復興は一定の形になってきたが、原発事故・廃炉を抱える県にとって、廃炉が終了するまでは課題として対応していく」 一言メモ  事務所での取材とは別に、JR舞木駅での街頭演説(11月6日13時55分から)を取材。平日にも関わらず約20名の群衆がおり、固定支持者層の厚さを見た。在任期間が長く人脈も広い。コロナ対応の話などに聞き入った。(本田) 二瓶陽一 https://www.youtube.com/watch?v=tdYBBR3r0GM  ――立候補の経緯は。  「郡山市を良くしようと8月の郡山市議選に立候補しましたが、落選したため実現できませんでした。私も71歳ですから、4年後の市議選を目指すよりも、元気なうちにやりたいことをやらなければならないと思い、今回の県議選への立候補を決めました」  ――ズバリ、県政の課題は。  「県議のこの4年間の任期は、あまり活躍の場が見られなかった。コロナで、そういう場に恵まれなかったのかもしれませんが、あまりにもないので、このままでいいのか、と。そうした中で、私はインバウンド計画、英語オンライン教育推進などに取り組みたいと思っています」   一言メモ  市議選では「日本維新の会」から立候補。ただ、「政策的に合わない部分もある」と今回は無所属に。政党などに縛られない自由な視点・発想を売りにしている。(末永) 神山悦子 https://www.youtube.com/watch?v=JxtEHjADPrw  ――県政の課題は。  「多数あるが、まずは暮らしを守ること。県内の86%が学校給食費を無料にしており、県が半分補助すれば県内全市町村が給食費半額になります。そういった資金を出せるだけの財源もあります。『子育て日本一』と謳っている福島県であり、国でも検討を始めたいまだからこそ、県として実施すれば全国トップクラスになると思います。  震災後、18歳以下の医療費無料を公約で掲げて実現しました。これも全国でいち早い取り組みでした。県民が原発事故や様々な災害に苦しんでいる中でも、まずは子どもを守る。教育費の負担軽減を県が率先してやるべきです。  県は『健康長寿県』も謳っているが、であれば高齢者のバス代無料化やタクシー補助を行うべき。どちらも県内自治体では実施しているところが多く、県が率先し全県で進めるべき。  医療面でも、医師不足が続いており、震災によってさらに大変になっています。そういった部分に優先して予算を回すべきです。  中には、『年を越せるのか』と不安視している事業者もいます。そのような県民の暮らしの痛みを感じて、そういった方々の暮らしを守るために予算を投じることを、知事の判断でやるべきです。そうなっていないのが県政の一番の課題だと思います」 一言メモ  住宅地での街頭演説。群衆はそれほど多くないが、花束を持って応援に来る支持者もおり、アットホームな雰囲気。給食費無料化や高齢者向けのタクシー補助など、訴える内容も生活に寄り添った事柄が多かった。(本田) 鈴木優樹 https://www.youtube.com/watch?v=whtXAY6sn9E  ――県政の課題は。  「復興と、人口減対策ですね。特に、復興の部分は浜通りが多い。それは当然ですが、中通り、会津も含めたオールふくしまでやっていかなければならないと思います」  ――有権者から何を求められていると感じるか。  「政治に対する不満があるのだと思いますが、訴えたことに対する跳ね返り、それは声だけでなく顔(表情)を含めて、厳しいなと感じています。政治への不信感を払拭して、参加しよう、自分たちの意思表示をしようと思ってもらえるようにしなければなりません。ただ、われわれはすべての方に接触はできない。ですから、こういうところ(個人演説会に来てくれた人)から広めてもらう。われわれも発信していくような地道な作業が必要だと思います」   一言メモ  安原地区での個人演説会を取材。広い郡山市内でも、本来の地盤ではないところで、自発的(地元町会主導)に後援会がつくられたという。地元住民は「地元選出の市議会議員とのタッグでの活躍を期待している」と話していた。(末永) 佐久間俊男 https://www.youtube.com/watch?v=_ZpgUSpL-OA   ――今日で告示から5日目になりますが、有権者の声をどう捉えていますか。  「人口減少の現状をしっかりと捉えて選挙戦に臨んでほしいという声が多いですね。もう1つは、もっともっと魅力ある郡山にして、若者の県外流出を抑制できるようにしてほしい、と。これは私も同じ思いです」  ――それを踏まえ、県政ではどういった活動をしていくか。  「選挙でいただいた意見を県政に伝えていくわけですが、限られた予算の中で、県民生活に直結する部分への予算配分にもっと重きを置くべき。そういったことを訴えていきたいと思います」 一言メモ  馬場雄基衆議院議員らが応援演説に駆けつける。下校途中の中学生から「頑張れー」と声をかけられていた。(末永) 長尾トモ子 https://www.youtube.com/watch?v=1WvkS95D9gY  ――県政の一番の課題は。  「少子高齢化の問題に加え、震災・原発事故から12年7カ月が経ち、浜通り、双葉地区の人口減少が進んでいる中、新しいふくしまの産業を充実させていかなければなりません。国、国際研究機構と連携しながら、地元の人たちが活躍できるような場をつくっていくことが課題だと思います。もう1つは、会津地方をはじめ、県内広域で農業が衰退しているので、農業のあり方を変えながら、素晴らしい福島県の農産物を継承できるような仕組みをつくっていなかればなりません」  ――地元・郡山としてはどうでしょうか。  「私は県議会議員ですから、郡山だけでなく、会津も、いわきも、広い視点で福島県を見ていきたい。その中でも、私は45年間、幼稚園・保育園の園長をしてきましたから、子どもたちがどういうふうに育っていくのか、社会でどんな活躍をするのか、自分をどう表現するのか、その機会をつくることが得意とする分野ですので、そのための活動をしていきたい」   一言メモ  選挙期間中は毎日、平日の朝8時から郡山駅前で街頭演説をしているという。取材日は、障がいを持つ子どもの母親、障がい者支援団体の関係者らが応援に駆けつけ、マイクを握った。(末永) 椎根健雄 https://www.youtube.com/watch?v=ULAyLeT9vFQ  ――今日の演説で強調していたコロナ後の対策、物価高対策について具体的には。  「県では石油・ガスの支援を行っており、それを拡大させるべく、今後の補正予算や、2月には当初予算審議が行われますので、しっかりと会派として執行部に訴えていきたい」  ――そのほかの課題は?  「少子高齢化が進んでおり、限られた財源の中で、いかに子育て世代に財源を持っていくかということと、医療・福祉・介護の問題にしっかりと取り組んでいきたい」   一言メモ  佐藤雄平前知事、玄葉光一郎衆院議員らが駆けつけるなど、個人演説会は盛況。(末永) 山口信雄 https://www.youtube.com/watch?v=ixAEI6CI8hk  ――選挙戦で有権者の思いをどのように受け止めているか。  「コロナがあり、事業に対する不安の声などが多く聞かれました。コロナからの経済復活のため、郡山市から県に、県から国に伝えていかなければならないと思っています」  ――県全体の課題は。  「一番は人口減少、流出です。あとは復興に関する部分ですが、エフレイ(福島国際研究教育機構)との連携、効果を浜通りだけでなく、全県に広げていけるようにしていかなければならないと思います」   一言メモ  安積地区での集会を取材。安積町は令和元年東日本台風の被害が大きく、支持者の中にも被災者がいた。山口候補自身、防災士の資格を持っており、県議として水害対応や防災を望む声が多かった。(本田)

  • 【しゃぶしゃぶ温野菜 郡山爆発事故】被害女性が明かす苦悩

     2020年7月に郡山市で起きた飲食店爆発事故から、間もなく3年を迎える。当時、現場近くの事業所におり、重傷を負った女性が本誌取材に応じ、この間の苦悩や、誰も責任を問われない現状へのやるせなさなどを明かした。(末永) 「責任の所在不明」で進まない被害者救済  まずは事故の経過を振り返っておく。 爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところに位置する。 この事故によって1人が死亡し、19人が重軽傷者を負った。加えて、当該建物が全壊したほか、付近の民家や事業所など200棟以上に被害が及んだ。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。 警察の調べに基づく当時の地元紙報道などによると、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたと考えられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに、何らかの原因で引火した可能性が高いという。 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。 それによると、以下のようなことが分かったという。 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かった。管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 以降しばらくは、捜査機関の動きは報じられていなかったが、今年3月、福島地検が全員を不起訴としたことが伝えられた。運営会社社長ら4人は嫌疑不十分、内装業者は死亡していることが理由。 これを受け、事故で重傷を負った市内の女性が4月12日、不起訴処分を不服として福島検察審査会に審査を申し立てた。 地元紙報道によると、代理人弁護士が県庁で記者会見し、「大事故にもかかわらず、誰も責任を負わない結果は被害者には納得できない。責任の所在を明確にし、なぜ事故が起きたのかはっきりさせないといけない」と話したという。(福島民報4月13日付) 被害女性に聞く 本誌取材に応じるAさん  以上が事故のおおよその経緯だが、今回、本誌取材に応じたのは、事故現場のすぐ目の前の事業所にいて重傷を負ったAさん(※不起訴処分を不服として審査を申し立てたのとは別の被害女性)。 その日、Aさんはいつも通り始業時間である8時半の少し前に出勤し、事務所の掃除、業務の打ち合わせなどをして、自分のデスクに座り、パソコンの電源を立ち上げた瞬間に事故が起きた。 〝ドーン〟という大きな音とともにAさんがいた事業所(建物)が崩れ、「飛行機か何かが落ちてきたのかと思った」(Aさん)というほどの衝撃だった。天井が落下して下敷きになり、割れた窓ガラスの破片で頭や顔などに大ケガを負った。 当時、事業所にはAさんのほかにもう1人いたが、「たまたま何かの陰になったのか、その方は傷を負うことはなく、(下敷きになっていた)私を救出してくれました」(Aさん)。 その後、救急車で郡山市内の病院に運ばれ、そこからドクターヘリで福島県立医大病院に搬送された。 そこで、手術・点滴などの治療を受けたが、安静にする間もなく、警察から事情を聞かれた。毎日、窓越しに事故が起きた飲食店の改修工事の様子を見ていたため、早急に話を聞きたいとのことだったという。当時は話をするのも容易でない状況だったが、警察から「(工事で)何人くらいの人が出入りしていたか」等々の質問を受け、筆談で応じた。 その後は、医大病院(病室)で安静にしていたが、次第に「助かった」という思いと、「家族はどうしているか」、「職場はどうなったか」等々が頭を占めるようになった。 「なるべく早く帰りたいと思い、一生懸命、歩ける、大丈夫ということをアピールしました」(同) その結果、抜糸やその後の治療は郡山市内の病院で引き継ぐことになり、翌日には退院して自宅に戻ることができた。 そうまでして、退院を急いだ理由について、Aさんはこう話す。 「私は何のキャリアもない主婦で、過去には大きな病気をしたこともありました。そんな中、いまの職場に入り、そこから一生懸命仕事を覚えて、事務職にまで取り立ててもらえるようになって、やっと軌道に乗ってきたところでした。そうやって積み重ねてきたものがなくなる怖さと、生き残ったということに気持ちが高ぶっており、痛くて寝込むとか、つらいとかいうよりも、早く復帰しなければという思いの方が強かったんです」 Aさんが勤める事業所は、市内の別の場所に移り、事故後1日も休むことなく事業を続けている。Aさんも間もなく仕事に復帰し、その間、一度だけ元の事業所に行った。事故の影響で、顧客情報などが散乱してしまったことから、その回収のためである。 ただ、事故後、現場に行ったのはそれ1回だけ。 「それ(一度、資料等を回収に行った時)以降は、一度も現場には行っていません。周辺がキレイに整備され、新しくなってドラッグストアができたとか聞きますが、あの周辺を通ったこともありません」 それだけ、恐怖心が残っているということだ。 事故の後遺症はそれだけではない。いまでも、時折、体に痛みを感じるほか、ヘリコプターや飛行機などの音を聞くと、猛烈な恐怖心に襲われることがある。「ドクターヘリで搬送されたときの記憶はあいまい」とのことだが、仕事中、そうした音が聞こえると、建物が崩れたときの記憶がフラッシュバックし、怖くて建物の外に飛び出すこともある。 「(事故の記憶がよみがえらないように)全く違う業種に転職して、環境を変えた方がいいのかな、と思うこともありました。ただ、いまの状況ではどこに行っても、普通に働くことはなかなか難しいでしょうし、いまの職場の方は事情を分かってくれて、例えば、調子が悪い日は職場に設置してもらった簡易ベッドで休ませてもらうこともあります。そういったサポートをしてくれるので働き続けることができています」 関係者の「不起訴」にやるせなさ 爆発事故後のAさんの勤務先(Aさんのデスクがあった場所=Aさん提供)  傍目には目立つ外傷はないが、体には痛みが残り、精神的に安定しない日があるというのだ。 「どんどん握力が落ちて、お皿を洗っているときに、落とすこともあります。握力測定では性別・年代別の平均値よりずっと低く、幼稚園児と同じくらいでした」 いまも、整形外科で薬を処方してもらっているほか、メンタルクリニックでカウンセリングを受けている。睡眠薬がなければ眠れず、体の痛みで眠れない日もある。 治療費は、しゃぶしゃぶ温野菜のフランチャイザーのレインズインターナショナル(横浜市)と、運営会社の高島屋商店(いわき市)の被害対応基金から支払われている。ただ、まずは自分で負担し、診断書を添えて実費分が支払われる、という手続きが必要になる。加えて、これもいつまで続くか、といった不安がある。 中には「賠償金はいくらもらったの?」と心ないことを聞かれることもあったそうだが、治療費以外の賠償金は支払われていない。それどころか、事故を起こした店舗の関係者からは「私たちが悪いと決まったわけではないので」といった理由から謝罪もされていないという。 当然、「納得できない」との思いを抱いてきたが、それをさらに増幅させることがあった。前段で述べたように、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)が業務上過失致死傷の疑いで書類送検されていたが、今年3月、全員が不起訴になったことだ。 「まず、こんなに時間がかかるとは思っていませんでしたし、あれだけの事故を起こして、誰も責任を問われないなんて……。無力感と言うんですかね、そんな感じです」 言葉にならない、やるせなさを浮かべる。 事故当時、警察からは、被害者として刑事告訴できる旨の説明を受けた。民事でも「被害者の会」が組織されるのではないか、との見方もあった。ただ、被害の程度が違うため、被害者組織は結成されなかった。 Aさん自身、自分の心身のこと、家族のこと、仕事のことで精一杯で、刑事告訴や、民事での損害賠償請求などに費やすエネルギーや時間的余裕がなかった。そのため、これまで自らアクションを起こすことはなかった。 そもそも、これだけの事故を起こして、誰も責任を問われない、自身の被害が救済されない、などということがあるとは思っていなかったに違いない。ただ、刑事は前述のような形になり、どうしたらいいか分からないといった思いのようだ。 郡山市の損害賠償訴訟に期待 Aさんの勤務先から事故現場に向かって撮影した写真。奥に警察、消防士などが見え、現場と至近距離であることが分かる。(Aさん提供)  そんな中で、Aさんが「希望を持っている」と明かすのが、郡山市が起こした損害賠償請求訴訟である。 これについては、本誌昨年6月号で詳細リポートし、今年6月号で続報した。 郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円、避難所運営に要した費用約100万円、被災者への固定資産税の減免措置など約80万円、災害ごみの回収費用約70万円など。 裁判に至る前、市は独自で情報収集を行い、裁判の被告とした6社と協議をした。そのうえで、2021年2月19日、6社に対して損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。 3月29日までに6社すべてから回答があり、2社は「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社は「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答だった。 前段で、事故を起こした店舗の関係者は「自分たちが悪いと決まったわけではないので」といった理由から、Aさん(被害者)に謝罪していないと書いたが、市との協議でも同様の主張であることがうかがえる。 これを受け、市は県消防保安課、郡山消防本部、郡山警察署、代理人弁護士と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対して、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。同年9月に6社に対して協議による解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。 ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こすことを決めたのである。 2021年12月議会で関連議案を提出し、品川萬里市長が次のように説明した。 「2020年7月に島2丁目地内で発生した爆発事故で、本市が支出した費用について、責任を有すると思慮される関係者に対し、民事上の任意の賠償を求め協議してきましたが、本日現在、当該関係者から賠償金全額を支払う旨の回答を得ておりません。本市としては、事故の責任の所在を明らかにするため、弁護士への相談等を踏まえ、関係者に対して民法第719条に基づく共同不法行為者として、損害賠償を求める訴えの提起にかかる議案を提出しています」 議会の採決では全会一致で可決され、それを経て提訴した。 昨年4月22日から今年5月23日までに計6回の口頭弁論が開かれているが、市総務法務課によると「現在(この間の裁判)は争点整理をしています」とのこと。 判決に至るまでにはまだ時間がかかりそうだが、Aさんは「市が率先して、責任の所在を明らかにしようとしているのはありがたいし、希望でもある」と話す。 求められる被害救済  市総務法務課の担当者は、裁判を起こした理由について、こう話していた。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」 当然、裁判は市の損害を回復することが最大の目的だが、市が率先して裁判を起こすことで判例をつくり、ほかの被害者の参考にしてもらえれば、といった意味合いもあるということだ。 今回の事故で、Aさんをはじめ多くの人・企業が被害を受けたのは明らかだが、「加害者」は明確なようで実はそうではない。 過失があると思われるのは運営会社、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関などだが、それぞれが「自分たちの責任ではない」、あるいは「自分たちの責任であると明確に認定されるまでは謝罪も賠償もしない」という姿勢。言わば、責任をなすりつけあっているような状況なのである。 そのため、事故から3年が経とうとしているが、賠償などは全く進んでいない。気の毒というほかないが、運営会社、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関などのどこであれ、責任の所在を明らかにし、事故を起こした事実を受け止めてほしい。あの日、日常の中で事故に巻き込まれた人たちの被害が救済されることを切に願う。 あわせて読みたい 【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】郡山市が関係6社を提訴 「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」刑事・民事で追及続く【郡山】

  • 【郡山市】品川萬里市長インタビュー

     しながわ・まさと 1944年生まれ。東京大学法学部を卒業後、旧郵政省に入省。郵政審議官を経てNTTデータ副社長、法政大学教授など。現在市長3期目。  ――新型コロナの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられました。 「県の移行計画では9月末までに入院受け入れ医療機関を51医療機関から131医療機関へ、対応病床数も766病床から786病床へ段階的に拡大し、未対応であった医療機関に対しても働きかけを行うこととしています。外来診療体制も現在の689医療機関からすべての医療機関に働きかけ、インフルエンザと同等に幅広い医療機関による外来診療体制を構築することとしています。このことにより、これまで一部の医療機関での診療や入院であったものからすべての医療機関での診療等が可能となり、郡山市内においても診療可能となる医療機関の増加が想定されることから、診療や入院の受け入れを行ってきた医療機関の負担は軽減されると考えられます。 一方、これまで診療や入院の受け入れを行ってこなかった医療機関では新たな感染防止対策をとるなどの負担が考えられますが、県では必要となる感染防止等の設備整備の補助や院内感染発生に伴う休止・縮小に対する支援、個人防護具の配布等の財政支援措置を準備しています。市としては県や医師会などと連携してサポートを行っていきます。 ワクチン接種については5月8日から『令和5年春開始接種』が始まり、本市でも4月24日から接種券を発送しています。市民の皆様には羅患時の重症化リスクを低減し、ひいては医療機関の負担軽減に結び付くと考えられることから、接種についてご検討をお願い致します」 ――一家4人死亡事故を受け、市道を点検した結果、危険交差点が222カ所あることが判明しました。 「2月3日までに222カ所の点検を行い、180カ所で対策を検討していましたが、その後、郡山地区交通安全協会や郡山市交通対策協議会などから新たに61カ所の交差点の情報が寄せられ、それらの点検を行った結果、58カ所を追加し、238カ所の交差点で対策が必要であると判定しています。対策工事については市民の皆様の安全を確保するため迅速な対応に努め、昨年度中に区画線・路面表示の対策を5カ所実施し、現在は133カ所について工事発注の手続きを進めており、カラー舗装の工事を6月に、カーブミラーや路面標示などの工事を7月までに完了する見込みです。残り100カ所についても県公安委員会と連携し、1日も早い完了を目指します」 ――開成山公園と公園内の体育施設がPFIを導入した新しい公園・体育施設に生まれ変わります。 「開成山公園は2017年の都市公園法改正により創設されたPark―PFIを活用し整備を行うこととしました。体育施設はPFI法及び郡山市PFIガイドライン等に基づき19年度にPFI導入可能性調査を行った結果、施設改修と維持管理・運営を一体的に行うPFI事業としての効果が十分に発揮できると判断しました。開成山公園は目指すべき姿を『郡山の「未来を切り拓く」セントラルパーク』とし、自由広場の芝生化、駐車場の拡充及びトイレの改修・新築等といった公園施設の整備とともに、民間事業者による飲食店等の新設など市制施行100周年の節目となる2024年のリニューアルオープンを目指し、民間事業者との協奏による整備を行っていきます。さらには気候変動に対応する防災機能の強化、ベビーファースト、SDGsを実現させるべく、市民の財産である開成山公園をより有効活用し、秘めたる力を発揮させていくとともに、先人たちの偉業に思いを馳せながら『次の100年』を目指した公園整備を行っていきます。体育施設は年齢、障がいの有無などに関わらず、すべての市民がスポーツに親しみ、各種プロスポーツ大会や大規模大会が開催される市のスポーツの拠点形成を目指します。改修工事は宝来屋郡山体育館が今年10月から2024年9月まで、郡山ヒロセ開成山陸上競技場が24年2月から25年3月末まで、ヨーク開成山スタジアムが24年8月から25年3月末まで、開成山弓道場が24年12月から25年3月末までとなっており、オープン時期は施設により異なります」 ――今年度の重点施策について。 「少子高齢化・人口減少の中にあっても持続的発展を遂げる都市を目指すため、今年度の市政執行方針を『「ベビーファースト(子本主義)実現型」課題解決先進都市の創生』と定め、子どもの視点に立ったまちづくりを推進していきます。主な施策としては学校給食の公費負担を実施したことです。私は教科書が無償であるのと同様に『給食は食育教育の教科書である』と考えているため、本年度から市独自の施策として中学校の給食費を全額公費負担とし、小学校の給食費も国の地方創生臨時交付金を活用し、全額公費負担としたところです。また、DXの推進に加え、気候変動や地球温暖化対策といったGXの推進にも重点を置き、2050年の二酸化炭素排出量実質ゼロ目標の実現を目指します」  ――来年、市制施行100周年を迎えます。 「明治時代に行われた安積開拓をきっかけに全国各地から士族が移住してきました。安積疏水は農業の発展はもとより、疏水を利用した水力発電により養蚕などの産業や工業の発展をもたらしました。1924年に郡山町と小原田村が合併し郡山市となり、その後も幾度かの合併を経て65年の大合併により現在の形となりました。この間、東日本大震災や自然災害など幾多の困難もありましたが、多くの先人たちが築き上げた礎のおかげで、市制100周年を迎えることができると考えています。次の100年に向け、先人たちの思いをつなぎ、安積開拓の理念『開物成務』のもと、市民や事業者が自由かつ存分に活躍してもらえる、自治力のある都市の実現を図っていきます。 記念事業についてはオール郡山で記念事業に取り組むため、次代を担う世代の方々や市民活動団体関係者、報道機関などの22名で構成された『郡山市制施行100周年記念事業プロモーション委員会』において、市の政策との整合性にも留意しつつ、記念事業が次の100年を見据え、未来メッセージを発信していく意義のあるものとなるよう検討していただいています。委員会からは音楽イベントの開催、プロスポーツの記念試合開催などのほか、歴史・観光・子ども・産業などのアイデアをいただいており、今後、記念事業の内容について検討していきます」 ――今後の抱負を。 「『誰一人取り残されない』SDGsの基本理念のもと、市民・団体・事業者などの皆様との『公民協奏』『セーフコミュニティ活動』の推進を念頭に各種施策を総合的・持続的に実施することにより、市民・事業者の皆様が思う存分に活躍できるまちづくりを進めてまいります」 郡山市のホームページ

  • うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

     本誌3月号に、うすい百貨店(郡山市)から「ルイ・ヴィトン」が撤退するウワサがある、と書いた。 それから2カ月経った先月、ヴィトンは公式ホームページで「うすい店は8月31日で営業を終了することとなりました」と発表。ネット通販が全盛の昨今、地方都市に店舗を構えるのは得策ではない、という経営判断が働いたとみられる。 問題は撤退後の空きスペースをどうするかだが、3月号取材時は「後継テナントが見当たらず、憩いのスペースにする案が浮上している」との話だった。百貨店に憩いのスペースは相応しくない。この間の検討で具体案は練られたのか、うすいの公式発表が待たれる。 あわせて読みたい 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂 2023年3月号

  • 「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」刑事・民事で追及続く【郡山】

     2020年7月に、郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜郡山新さくら通り店」で爆発事故が発生した。当時の報道によると、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたとみられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに何らかの原因で引火した可能性が高いという。 爆発事故の原因 事故現場。現在はドラッグストアになっている。  その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かった。管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など5人(爆発事故で死亡した内装業者1人を含む)を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 以降、しばらくは捜査機関の動きは報じられていなかったが、今年3月、福島地検が全員を不起訴としたことが伝えられた。運営会社社長ら4人は嫌疑不十分、内装業者は死亡していることが理由。 これを受け、事故で重傷を負った市内の女性が4月12日、不起訴処分を不服として福島検察審査会に審査を申し立てた。 地元紙報道によると、代理人弁護士が県庁で記者会見し、「大事故にもかかわらず、誰も責任を負わない結果は被害者には納得できない。責任の所在を明確にし、なぜ事故が起きたのかはっきりさせないといけない」と話したという。(福島民報4月13日付) 事故後の裁判と賠償問題 郡山市役所  こうした刑事の動きとは別に、民事(すなわち賠償)の動きはあまり進展していない。 本誌昨年6月号に「郡山爆発事故で市が関係6社を提訴 被害住民に『賠償の先例』をつくる狙いも」という記事を掲載した。 同記事は、事故を受けて市が2021年12月に、店舗運営会社やフランチャイズ本部などの6社を相手取り、現場周辺の市道清掃や災害見舞金支給に要した費用など約600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を福島地裁郡山支部に起こしたことを伝えたもの。 市は裁判に至る前、情報収集を行い、6社と協議をしてきたが、賠償金の支払いに関しては話がまとまらなかった。そのため、裁判を起こしたのである。 昨年4月22日から今年5月23日までに計6回の口頭弁論が開かれているが、市総務法務課によると「現在(この間の裁判)は争点整理をしています」とのこと。 一方、以前の本誌取材で裁判を起こした理由を尋ねたところ、市総務法務課の担当者はこう話していた。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」  これは「追随してほしい」という意味ではなく、判例をつくることで被害にあった人にそれを参考にしてもらえれば、ということのようだ。その点でも、市が損害賠償を求めた裁判は大きな意味を持つが、判例ができるまでにはまだ時間がかかるだろう。 あわせて読みたい 郡山【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】市が関係6社を提訴 2022年6月号 福島県郡山市の飲食店で爆発事故、親会社コロワイドの株価が下落 (Bloomberg) 政経東北【2023年7月号】で『郡山【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】被害女性が明かす苦悩』を掲載  2020年7月に郡山市で起きた飲食店爆発事故から、間もなく3年を迎える。当時、現場近くの事業所におり、重傷を負った女性が本誌取材に応じ、この間の苦悩や、誰も責任を問われない現状へのやるせなさなどを明かした。(末永)

  • 【しゃぶしゃぶ温野菜 爆発事故】郡山市が関係6社を提訴

    (2022年6月号)  2020年7月に郡山市島2丁目で起きた飲食店爆発事故をめぐり、市は2021年12月、店舗運営会社やフランチャイズ本部などの6社を相手取り、現場周辺の市道清掃や災害見舞金支給に要した費用など約600万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。2022年4月22日には第1回口頭弁論が開かれ、6社はいずれも請求棄却を求めて争う姿勢を示したという。今後、裁判での審理が本格化していくが、あらためて事故原因と裁判に至った経過についてリポートする。 被害住民に「賠償の先例」をつくる狙いも 事故現場。現在はドラッグストアになっている。 爆発事故現場の地図  爆発事故が起きたのは2020年7月30日午前8時57分ごろ。現場は郡山市島2丁目の飲食店「しゃぶしゃぶ温野菜 郡山新さくら通り店」で、郡山市役所から西に1㌔ほどのところにある。この爆発事故により、死者1人、重傷者2人、軽傷者17人、当該建物全壊のほか、付近の民家や事業所などにも多数の被害が出た。同店は同年4月から休業しており、リニューアル工事を実施している最中だった。 当時の報道によると、警察の調べで、爆発前、厨房のガス管に、腐食によってできたとみられる亀裂や穴があり、そこから漏れたプロパンガスに何らかの原因で引火した可能性が高いという。 経済産業省産業保安グループ(本省ガス安全室、関東東北産業保安監督部東北支部)は、現地で情報収集を行い、2020年12月に報告書をまとめた。 それによると、以下のようなことが分かったという。 ○流し台下の配管に著しい腐食があり、特に床面を中心に腐食している個所が複数あった。 ○事故前、屋内の多湿部、水の影響を受けるおそれがある場所などで配管が使用されていた。コンクリート面等の導電性の支持面に直接触れない措置は講じられていなかった。 ○保安機関の点検・調査で、ガス栓劣化、接続管基準、燃焼機器故障について「否」とし、特記事項として「警報器とメーターを連動してください」と指摘されていたが、消費設備の改善の痕跡は確認できない。 ○配管が腐食していたという記載や、配管腐食に関する注意喚起等は、過去の点検・調査記録等からは確認できない。保安機関は、定期点検・調査(2019年12月2日)で、配管(腐食、腐食防止措置等)は「良」としていた。 ○直近の点検・調査は2019年12月で、前回の点検・調査(2015年3月)から4年以上経過していた。 ○保安機関の点検・調査によれば、ガス漏れ警報器は設置されていた。 事故発生前にガス漏れ警報器が鳴動したことを認知した者はおらず、ガス漏れ警報器の電源等、作動する状況であったかどうかは不明。 ○漏えい量、漏えい時期と漏えい時の流量、爆発の中心、着火源など、爆発前後の状況は不明な点が多い。 同調査では「業務用施設(飲食店)において、厨房シンク下、コンクリート上に直に設置されていた腐食した白管(SGP配管)からガスが漏えい。何らかの着火源により着火して爆発したことが推定されている」とされているが、不明な部分も多かったということだ。 こうした調査を経て、経済産業省は、一般社団法人・全国LPガス協会などに注意喚起を促す要請文を出している。 その後、警察の調べで、事故の原因とされるガス管は2006年の店舗建設時に国の基準に沿わない形で設置されていたこと、腐食を防ぐ措置がとられていなかったこと、法定点検を行った保安機関はそれらを認識しながら詳しく確認せずに問題ないと判断していたことなどが分かり、管理を適切に行わなかったために事故が起きたとして、2021年9月2日、運営会社社長や、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検した。 ただ、それ以降は捜査機関の動きは報じられていない。 責任の所在が曖昧 爆発事故の被害を受けた近くの事業所から事故現場に向かって撮影した写真  以上が事故の経緯だが、この件をめぐり、郡山市は2021年12月、運営会社の高島屋商店(いわき市)、フランチャイズ本部のレインズインターナショナル(横浜市)など6社を相手取り、約600万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁郡山支部に起こした。賠償請求の内訳は災害見舞金の支給に要した費用約130万円、現場周辺の市道清掃費用約130万円など。 あわせて読みたい 福島県郡山市の飲食店で爆発事故、親会社コロワイドの株価が下落 Bloomberg   4月22日には1回目の口頭弁論が行われ、被告6社はいずれも請求棄却を求める答弁書を提出したという。 それからほどなく、本誌は、運営会社の高島屋商店、フランチャイズ本部のレインズインターナショナルにコメントを求めたところ、レインズインターナショナルのみ期日までに回答があった。 それによると、「事故が発生したことは大変遺憾であり、事故原因・責任の所在に関わらず、ご迷惑をお掛けした近隣の皆様には申し訳ないと考えております」とのこと。そのうえで、郡山市の提訴についてはこう反論した。 ①フランチャイザーの監督義務違反(民法709条)という点において、そもそもフランチャイザーがフランチャイジーを監督する義務はフランチャイズ契約にも規定がなく、また、店舗の内装造作工事・ガス管の設置方法に関して、当社から一切の指示をしていません。 ②使用者責任(民法715条)に基づく法的責任については、使用者責任は両者間において「使用者」・「被用者」の関係にあることが必要で、フランチャイザーとフランチャイジーは独立の主体として事業活動を行うものであることから、主張に無理があると考えており、これらの主張に対して遺憾に思います。 ③ただし、被害に遭われた方に対しては、当社の法的責任の如何に拘らず、基金による補償金の支払いを本件訴訟と併行しながら継続しています。なお、現在はお怪我をされた方の継続的な医療費の支払いがメインであり、これらの方に対し、基金として最後まで対応していきます。 次回裁判は6月28日に開かれ、争点整理手続きを経て争点などが洗い出され、以降は本格的な審理に入っていくことになろう。その中で、同社以外の被告がどのような主張なのかが明らかにされていく。 市によると、裁判に至る前、6社と協議をしてきたという。2021年2月19日、6社に対して、損害賠償を請求し、回答期限を同年3月末までとしていた。3月29日までに、2社からは「事故原因が明らかになれば協議に応じる」旨の回答、4社からは「爆発事故の責任がないため請求には応じない」旨の回答があった。 これを受け、関係各所と協議・情報収集を行い、新たに1社を加えた7社に対し、関係資料の提出を求めた。7社の対応は、2社が「捜査資料のため提出できない」、4社が一部回答あり、1社が回答拒否だった。 市では「関係者間で主張の食い違いがあるほか、捜査資料のため情報収集が困難で、刑事事件との関係性もあり、協議による解決は困難」と判断。2021年9月、6社に協議解決の最後通告を行ったが、全社から全額賠償に応じる意思がないとの回答が届いた。ただ、1社は「条件付きで一部弁済を内容とする協議には応じる」、別の1社は「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」とした。残りの4社は「爆発事故に責任があると考えていないため損害賠償請求には応じない」旨の回答だった。 こうした協議を経て、市は損害賠償請求訴訟を起こした。 ここまでの経過を振り返ると、警察が運営会社社長、ガス管を設置した会社、点検をした保安機関の担当者など4人を業務上過失致死傷の疑いで書類送検したように、責任の所在が明らかにされていないことが話をややこしくしている。 市と関係6社との協議でも、一部から「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」との回答があったように、責任の所在が明らかにされれば、損害賠償に応じる可能性もあろう。 もちろん、刑事事件と市が損害賠償を求めた民事裁判は別物だが、今後、刑事裁判が行われ、責任の所在が明らかになってから、損害賠償請求することもできた。 いま訴訟を起こした理由 郡山市役所  なぜ、このタイミングで市は損害賠償請求訴訟を起こしたのか。 市によると、1つは民法724条に、不法行為の賠償請求権の消滅時効は「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき」とあること。   今回のケースでは、損害を受けたのは明らかだが、前述のように「加害者」はハッキリしているようで、実は明確でない。そのため、消滅時効の起算は始まっていないと考えられるが、「ひょっとしたら、消滅時効の起算が始まっているとみなされる可能性もある」と、代理人弁護士からアドバイスされたのだという。 もし、そうだとしたら、もう少しで事故発生から2年が経ち、どの時点が起算点になるかは不明だが、仮に事故発生直後とすると時効が1年余に迫っていることになる。もっとも、市の場合は、話し合い(協議)の中で、明確に損害賠償を求める意思を示しているため、それには当てはまらないと考えられるが。 もう1つは、こんな理由だ。 「市長が『被害に遭われた住民は多数おり、市が率先して責任の所在を明らかにしていく』ということを言っていたように、市が先頭に立って裁判を行い、責任の所在を明らかにすることで、被害に遭われた方に参考にしてもらえれば、といった思いもあります」(市総務法務課) 品川萬里・郡山市長  主にこうした2つの理由から、このタイミングで損害賠償請求訴訟を起こしたわけ。 爆発事故で被害を受けた住民に話を聞くと、次のように述べた。 「賠償は進んでいません。近く、弁護士に相談しようと思っています。すでに、いくつか裁判が始まっているとも聞いているので、そこに合流させてもらうことも視野に入れています。いずれにしても、泣き寝入りせず、納得のいく賠償を求めていきたい」 関係各社は、市との協議で「事故原因が明らかになれば協議に応じる」、「今後の刑事裁判の結果によって協議に応じる」といった姿勢だったから、近隣住民や事業者に対しても同様の対応だろう。 そういった意味では、今後、刑事裁判や、市が起こした民事裁判でどのような判断が下されるかが大きな注目ポイントになりそうだ。 あわせて読みたい 刑事・民事で追及続く【郡山】「しゃぶしゃぶ温野菜 ガス爆発事故」

  • 【郡山市】大量カメラで社員を「監視」する山口倉庫

     郡山市の山口倉庫㈱で社員の退職が相次いでいるという。原因は大量の監視カメラ。社内の至る所に設置され、四六時中〝監視〟されている状況に、社員は気味の悪さを感じているようだ。決して働き易いとは言えない職場環境。経営者の見識が問われる。 「気味が悪い」と退職者続出!? 郡山市三穂田町にある山口倉庫の本社倉庫  山口倉庫は1967年設立。資本金1000万円。郡山市三穂田町の東北自動車道郡山南IC近くに建つ本社倉庫のほか、市内にある複数の自社倉庫で米や一般貨物の保管・管理を行っている。駐車場経営や土地建物の賃貸なども手がける。 現社長の山口広志氏は2000年に就任。祖父の松雄氏が創業し、父の清一氏が2代目。広志氏は清一氏の二男に当たる。 2001年に建てられた本社倉庫の不動産登記簿を見ると、東邦銀行が極度額3億6000万円と同4億9200万円、大東銀行が同6億円の根抵当権を設定していたが、昨年までにすべて抹消されている。詳しい決算は不明だが、ある筋によれば年間の売り上げは2億5000万円前後で、4000万円前後の利益を上げているというから堅実だ。 「数年前に一度、大きな赤字を出した。原因は、倉庫で預かっていた製品に不備が生じ、損害賠償を払ったため。そこに会社合併による株式消滅損が重なった」(事情通) 会社合併とはグループ会社内の動きを指す。山口氏は、山口倉庫のほかに㈱山口商店、山口不動産㈱、旭日商事㈲、東北林産工業㈱の社長を務めていたが、4社は2019年から今年初めにかけて山口倉庫に吸収合併された。一方で、20年に不動産業の山口アセットマネジメント㈱を設立し、社長に就いている。  そんな山口グループを率いる3代目をめぐり、本誌編集部に次のような情報が寄せられた。 〇山口倉庫の社内に大量の監視カメラが設置されている。 〇ただでさえ台数が多い中、最近も新しい監視カメラを複数導入した。 〇社員だけでなく、訪問客の様子も監視しているらしい。 〇山口氏は自宅から、監視カメラで撮った映像や音声をチェックしている模様。 〇こうした職場環境に気味の悪さを感じた社員が次々と退職し、その人数はここ4、5年で十数人に上る。 個別労働紛争解決制度とは 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html  話は前後するが、筆者は山口氏に取材を申し込むため、4月中旬に山口倉庫を訪問したが、ほんの数分の滞在中、目の届く範囲内だけで玄関ホールの天井に1台、事務スペースの天井に4台のドーム型カメラが設置されているのを目撃した。事務スペースは更に奥まで続いており、そちらは目視できなかったため、監視カメラは更に設置されている可能性が高い。こうなると、他の部屋(応接室や会議室など)や倉庫内の設置の有無も当然気になる。 読者の皆さんには、出勤してから退勤するまで四六時中〝監視〟されている状況を思い浮かべてほしい。それが働き易い職場環境と言えるだろうか。あくまで個人の感想だが、少なくとも筆者は働きたくない。 もちろん、職種によっては常に監視が必要な仕事もあるだろう。しかし、倉庫業がそれに該当するかというと、顧客から預かっている製品の安全管理上、一定数の監視カメラは必要だが、事務スペースなどに複数設置する必要性は感じない。 山口広志氏とはどのような人物なのか。本誌は郡山市内の経済人や同業者などを当たったが「彼のことならよく知っている」という人には行き着かなかった。その過程で、ようやく山口倉庫の元社員を見つけることはできたものの「もう関わりたくない」と断られてしまった。在職中の苦い経験を呼び起こしたくない、ということか。 問題は、社員が気味の悪さを感じる職場環境を放置していいのか、ということだ。山口氏からすると「余計なお世話」かもしれないが、本誌は労使上、見過ごすべきではないと考え、二つの検証を試みる。 一つはハラスメントに当たるかどうか。 ハラスメントが「人に対する嫌がらせやいじめなどの迷惑行為」であることを考えると、該当するようにも思える。しかし、職場におけるパワハラ・セクハラ・マタハラは、厚生労働省が該当する条件を明示しており、大量の監視カメラが設置されている事実だけではハラスメントには該当しないようだ。 福島労働局雇用環境・均等室の担当者もこう話す。 「監視カメラの設置は法律では禁じられていない。社員の働きぶりを監視するのが目的と言われれば、あとは経営者の判断になる」 それでも、社員が「そういう職場環境は嫌なので改善してほしい」と求め、経営者が応じなかった場合、都道府県労働局では個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき①総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談、②都道府県労働局長による助言・指導、③紛争調整委員会によるあっせんという三つの紛争解決援助サービスを行っている。 要するに労使間の「民事上のトラブル」を、労働局が仲介役となって話し合いによる解決を目指す取り組み。それでも解決しなければ、あとは裁判で決着を図るしかない。 ちなみに、福島労働局が公表する令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況によると、民事上の個別労働紛争相談件数は5754件(前年度比マイナス2・0%)。相談内容の内訳は「いじめ・嫌がらせ」20・6%、「自己都合退職」15・7%、「解雇」9・5%、「労働条件引き下げ」6・5%、「退職勧奨」7・6%、「その他」40・1%となっている。 「その他」の項目には「雇用管理等」「その他労働条件」とあるから、仮に監視カメラの大量設置を相談した場合はここにカウントされることになるのだろう。 二つは、監視カメラで撮影した映像が個人情報に当たるかどうか。 経営者が職場に監視カメラを設置したとしても、それだけで「プライバシーの侵害」には当たらない。経営者には社員がきちんと働いているか指揮監督する必要性が認められており、そもそも職場は「働く場所」なので「プライバシーの保護」という概念が該当しにくいからだ(更衣室やトイレに監視カメラを設置すれば、プライバシーの侵害に当たることは言うまでもない)。 ただ、撮影された映像が個人を特定できる場合、その映像は個人情報に該当するため、個人情報保護法が適用される可能性がある。 気になるカメラの性能 社員の様子を常に監視!?(写真はイメージ)  個人情報保護法18条1項(利用目的による制限)は次のように定めている。 《個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない》 個人情報取扱事業者とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者を指す。もし山口倉庫が、監視カメラで撮影した映像を事業に役立てる使い方をしていたら同事業者になる。一方、社員を指揮監視する目的で監視カメラを設置していれば同事業者には当たらない。同社のホームページを見ると同事業者であることを謳っていないので、監視カメラは純粋に社員の指揮監視が目的なのだろう。 しかし「本当に事業に役立てる使い方をしていないのか」「実は使っているのではないか」という疑いは、撮影されている社員の側からするとどこまでも残る。そうなると、社員個人が特定できる映像は同法によって保護されるべき、という考え方も成立するはず。 だからこそ経営者は、監視カメラの設置自体には違法性がないとはいえ、設置の目的や設置する場所、撮影した映像の利用範囲などを社員にきちんと説明することが大切になる。何の説明もなければ、後々トラブルに発展する恐れもある。 弁護士の見解  県北地方の弁護士に見解を尋ねたところ、このように回答した。 「監視カメラが大量に設置されているからといって、直ちに『ハラスメントに当たる』『個人情報保護法違反だ』とはならないと思う。ただ、監視カメラがどのくらいの性能を有しているかは気掛かりだ。単に社員を指揮監視するだけなら低い性能で十分なはずだが、ズームで社員の手元まで見えたり、音声まで拾える高い性能であれば、社員のスマホ画面をのぞき見したり、個人的な会話を盗み聞きすることもできてしまう。そうなると、プライバシーの侵害に当たる可能性がある」 前述した通り、筆者は山口倉庫を訪問し、居合わせた社員に▽監視カメラを大量設置する目的、▽社員に対する説明の有無、▽社員が相次いで退職しているのは事実か、▽今の御社が「社員にとって働き易い職場環境」と考えているか――等々を記した山口社長宛ての質問書を渡し、期限までの面会か文書回答を求めたが、4月24日現在、山口社長からは何の返答もない。 余談になるが「郡山の山口一族」と言えば、かつては別掲の勢力を誇り、今は子どもたちが各社を脈々と引き継いでいる。そうした中、山口広志氏は一族トップである故・清一氏の後を継いだ。その広志氏が、法的には問題ないかもしれないが、社会常識に照らして強い違和感を抱く経営をしているのは、一族にとって恥ずべきことと言えないか。 あわせて読みたい 元社員が明かす【山口倉庫】の「異様な職場」 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

  • ゼビオ「本社移転」の波紋

     スポーツ用品販売大手ゼビオホールディングス(HD、郡山市、諸橋友良社長)は3月28日、中核子会社ゼビオの本社を郡山市から栃木県宇都宮市に移すと発表した。寝耳に水の決定に、地元経済界は雇用や税収などに与える影響を懸念するが、同市はノーコメントで平静を装う。本社移転を決めた背景には、品川萬里市長に対する同社の不信感があったとされるが、真相はどうなのか。(佐藤 仁) 信頼関係を築けなかった品川市長 品川萬里市長  郡山から宇都宮への本社移転が発表されたゼビオは、持ち株会社ゼビオHDが持つ「六つの中核子会社」のうちの1社だ。 別図にゼビオグループの構成を示す。スポーツ用品・用具・衣料を中心とした一般小売事業をメーンにスポーツマーケティング事業、商品開発事業、クレジットカード事業、ウェブサイト運営事業などを国内外で展開。連結企業数は33社に上る。  かつてはゼビオが旧東証一部上場会社だったが、2015年から純粋持ち株会社体制に移行。同社はスポーツ事業部門継承を目的に、会社分割で現在の経営体制に移行した。 法人登記簿によると、ゼビオ(郡山市朝日三丁目7―35)は1952年設立。資本金1億円。役員は代表取締役・諸橋友良、取締役・中村考昭、木庭寛史、石塚晃一、監査役・加藤則宏、菅野仁、向谷地正一の各氏。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。 「子会社の一つが移るだけ」「HDや管理部門のゼビオコーポレートなどは引き続き郡山にとどまる」などと楽観してはいけない。ゼビオHDはグループ全体で約900店舗を展開するが、ゼビオは「スーパースポーツゼビオ」「ゼビオスポーツエクスプレス」などの店名で約550店舗を運営。別表の決算を見ても分かるように、HDの売り上げの半分以上を占める。地元・郡山に与える影響は小さくない。 ゼビオHDの連結業績売上高経常利益2018年2345億9500万円113億8900万円2019年2316億2900万円67億2500万円2020年2253億1200万円58億4200万円2021年2024億3800万円43億4200万円2022年2232億8200万円78億5100万円※決算期は3月 ゼビオの業績売上高当期純利益2018年1457億6600万円54億1000万円2019年1380億2400万円21億7600万円2020年1291億7600万円19億5300万円2021年1124億6900万円12億8700万円2022年1282億1900万円6億2000万円※決算期は3月  郡山商工会議所の滝田康雄会頭に感想を求めると、次のようなコメントが返ってきた。 郡山商工会議所の滝田康雄会頭  「雇用や税収など多方面に影響が出るのではないか。他社の企業戦略に外野が口を挟むことは控えるが、とにかく残念だ。他方、普段からコミュニケーションを密にしていれば結果は違ったものになっていたかもしれず、そこは会議所も行政も反省すべきだと思う」 雇用の面では、純粋に雇用の場が少なくなり、転勤等による人材の流出が起きることが考えられる。 税収の面では、市に入る市民税、固定資産税、国民健康保険税、事業所税、都市計画税などが減る。その額は「ゼビオの申告書を見ないと分からないが、億単位になることは言うまでもない」(ある税理士)。 3月29日付の地元紙によると、本社移転は今年から来年にかけて完了させ、将来的には数百人規模で移る見通し。移転候補地には2014年に取得したJR宇都宮駅西口の土地(約1万平方㍍)が挙がっている。 それにしても、数ある都市の中からなぜ宇都宮だったのか。 ゼビオは2011年3月の震災・原発事故で国内外の企業との商談に支障が出たため、会津若松市にサテライトオフィスを構えた。しかし交通の便などの問題があり、同年5月に宇都宮駅近くに再移転した。 その後、同所も手狭になり、2013年12月に宇都宮市内のコジマ社屋に再移転。商品を買い付ける購買部門を置き、100人以上の体制を敷いた。マスコミは当時、「本社機能の一部移転」と報じた。 ただ、それから8年経った2021年7月、宇都宮オフィスは閉所。コロナ禍でウェブ会議などが急速に普及したことで同オフィスの役割は薄れ、もとの郡山本社と東京オフィスの体制に戻っていた。 このように、震災・原発事故を機にゼビオとの深い接点が生まれた宇都宮。しかし、それだけの理由で同社が40年以上本社を置く郡山から離れる決断をするとは思えない。 ある事情通は 「本社移転の背景には、ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった事情がある」  と指摘する。郡山では実現の見込みがない、とはどういう意味か。 農業試験場跡地に強い関心 脳神経疾患研究所が落札した旧農業試験場跡地  本社移転が発表された3月28日、ゼビオは宇都宮市と連携協定を締結。締結式では諸橋友良社長と佐藤栄一市長が固い握手を交わした。  ゼビオは同日付のプレスリリースで、宇都宮市と連携協定を締結した理由をこう説明している。  《宇都宮市は社会環境の変化に対応した「未来都市うつのみや」の実現に向け、効果的・効率的な行政サービスの提供に加え、多様な担い手が、それぞれの力や価値を最大限に発揮し合うことで、人口減少社会においても総合的に市民生活を支えることのできる公共的サービス基盤の確立を目指しています》《今回、宇都宮市の積極的な企業誘致・官民連携の取り組み方針を受け、ゼビオホールディングス株式会社の中核子会社であるゼビオ株式会社の本社及び必要機能の移転を宇都宮市に行っていく事などを通じて、産学官の協働・共創のもとスポーツが持つ多面的な価値をまちづくりに活かし、スポーツを通じた全世代のウェルビーイングの向上によって新たなビジネスモデルの創出を目指すこととなりました》  宇都宮市は産学官連携により2030年ごろのまちの姿として、ネットワーク型コンパクトシティを土台に地域共生社会(社会)、地域経済循環社会(経済)、脱炭素社会(環境)の「三つの社会」が人づくりの取り組みやデジタル技術の活用によって発展していく「スーパースマートシティ」の実現を目指している。  この取り組みがゼビオの目指す新たなビジネスモデルと合致したわけだが、単純な疑問として浮かぶのは、同社はこれから宇都宮でやろうとしていることを郡山で進める考えはなかったのか、ということだ。  実は、過去に進めようとしたフシがある。場所は、郡山市富田町の旧農業試験場跡地だ。  同跡地は県有地だが、郡山市が市街化調整区域に指定していたため、県の独断では開発できない場所だった。そこで、県は「市有地にしてはどうか」と同市に売却を持ちかけるも断られ、同市も「市有地と交換してほしい」と県に提案するも話がまとまらなかった経緯がある。  震災・原発事故後は敷地内に大規模な仮設住宅がつくられ、多くの避難者が避難生活を送った。しかし、避難者の退去後に仮設住宅は取り壊され、再び更地になっていた。  そんな場所に早くから関心を示していたのがゼビオだった。2010年ごろには同跡地だけでなく周辺の土地も使って、トレーニングセンターやグラウンド、研究施設などを備えた一体的なスポーツ施設を整備する構想が漏れ伝わった。  開発が進む気配がないまま年月を重ねていた同跡地に、ようやく動きがみられたのは2年前。総合南東北病院を運営する一般財団法人脳神経疾患研究所(郡山市、渡辺一夫理事長)が同跡地に移転・新築し、2024年4月に新病院を開業する方針が地元紙で報じられたのだ。  ただ、同跡地の入札は今後行われる予定なのに、既に落札者が決まっているかのような報道は多くの人に違和感を抱かせた。自民党県連の佐藤憲保県議(7期)が裏でサポートしているとのウワサも囁かれた(※佐藤県議は本誌の取材に「一切関与していない」と否定している)。 トップ同士のソリが合わず  その後、県が条件付き一般競争入札を行ったのは、報道から1年以上経った昨年11月。落札したのは脳神経疾患研究所を中心とする共同事業体だったため、デキレースという声が上がるのも無理はなかった。  ちなみに、県が設定した最低落札価格は39億4000万円、脳神経疾患研究所の落札額は倍の74億7600万円だが、この入札には他にも参加者がいた。ゼビオHDだ。  ゼビオHDは同跡地に、スポーツとリハビリを組み合わせた施設整備を考えていたとされる。しかし具体的な計画内容は、入札参加に当たり同社が県に提出した企画案を情報開示請求で確認したものの、すべて黒塗り(非開示)で分からなかった。入札額は51億5000万円で、脳神経疾患研究所の落札額より20億円以上安かった。  関心を持ち続けていた場所が他者の手に渡り、ゼビオHDは悔しさをにじませていたとされる。本誌はある経済人と市役所関係者からこんな話を聞いている。  「入札後、ゼビオの諸橋社長は主要な政財界人に、郡山市の後押しが一切なかったことに落胆と怒りの心境を打ち明けていたそうです。品川萬里市長に対しても強い不満を述べていたそうだ」(ある経済人)  「昨年12月、諸橋社長は市役所で品川市長と面談しているが、その時のやりとりが辛辣で互いに悪い印象を持ったそうです」(市役所関係者)  諸橋社長が「郡山市の後押し」を口にしたのはワケがある。入札からちょうど1年前の2021年11月、同市は郡山市医師会とともに、同跡地の早期売却を求める要望書を県に提出している。地元医師会と歩調を合わせたら、同市が脳神経疾患研究所を後押ししたと見られてもやむを得ない。実際、諸橋社長はそう受け止めたから「市が入札参加者の一方を応援するのはフェアじゃない」と不満に思ったのではないか。  ゼビオの本社移転を報じた福島民友(3月29日付)の記事にも《スポーツ振興などを巡って行政側と折り合いがつかない部分があったと指摘する声もあり、「事業を展開する上でより環境の整った宇都宮市を選択したのでは」とみる関係者もいる》などと書かれている。  つまり、前出・事情通が「ゼビオが進めたかった事業が郡山では実現の見込みがなく、別の都市で進めるしかなかった」と語っていたのは、落札できなかった同跡地での取り組みを指している。  「郡山市が非協力的で、品川市長ともソリが合わないとなれば『協力的な宇都宮でやるからもう結構』となるのは理解できる」(同)  そんな「見切りをつけられた」格好の品川市長は、ゼビオの本社移転に「企業の経営判断についてコメントすることは差し控える」との談話を公表しているが、これが市民や職員から「まるで他人事」と不評を買っている。ただ、このような冷淡なコメントが品川市長と諸橋社長の関係を物語っていると言われれば、なるほど合点がいく。 「後出しジャンケン」 ゼビオコーポレートが市に提案した開成山地区体育施設のイメージパース  ここまでゼビオを擁護するようなトーンで書いてきたが、批判的な意見も当然ある。とりわけ「それはあんまりだ」と言われているのが、開成山地区体育施設整備事業だ。  郡山市は、市営の宝来屋郡山総合体育館、HRS開成山陸上競技場、ヨーク開成山スタジアム、開成山弓道場(総面積15・6㌶)をPFI方式で改修する。PFIは民間事業者の資金やノウハウを生かして公共施設を整備・運営する制度。昨年、委託先となる事業者を公募型プロポーザル方式で募集し、ゼビオコーポレート(郡山市)を代表企業とするグループと陰山建設(同)のグループから応募があった。  郡山市は学識経験者ら6人を委員とする「開成山体育施設PFI事業者等選定審議会」を設置。審査を重ねた結果、昨年12月22日、ゼビオコーポレートのグループを優先交渉権者に決めた。同社から示された指定管理料を含む提案事業費は97億7800万円だった。  同グループは同審議会に示した企画案に基づき、今年度から来年度にかけて各施設の整備を進め、2025年度から順次供用開始する予定。  本誌は各施設がどのように整備されるのか、ゼビオコーポレートの企画案を情報開示請求で確認したが、9割以上が黒塗り(非開示)で分からなかった。  郡山市は今年3月6日、市議会3月定例会の審議・議決を経て、ゼビオグループがPFI事業を受託するため新たに設立した開成山クロスフィールド郡山(郡山市)と正式契約を交わした。指定管理も含む契約期間は2033年3月までの10年間。  それから約3週間後、突然、ゼビオの本社移転が発表されたから、市議会や経済界には不満の声が渦巻いている。  「正確に言えば、ゼビオは開成山体育施設整備事業とは無関係です。同事業を受託したのはゼビオコーポレートであり、契約相手は開成山クロスフィールド郡山です。しかし、今後10年間にわたる施設整備と管理運営は『ゼビオ』の看板を背負って行われる。市民はこの事業に携わる会社の正式名称までは分かっていない。分かっているのは『ゼビオ』ということだけ」(ある経済人)  この経済人によると、市議会や経済界の間では「市の一大プロジェクトを取っておいて、ここから出て行くなんてあんまりだ」「正式契約を交わしてから本社移転を発表するのは後出しジャンケン」「地元の大きな仕事は地元企業にやらせるべき。郡山を去る企業は相応しくない」等々、批判めいた意見が出ているという。  ゼビオからすると「当社は無関係で、受託したのは別会社」となるだろうが、同じ「ゼビオ」の看板を背負っている以上、市民が正確に理解するのは難しい。心情的には「それはあんまりだ」と思う方が自然だ。  そうした市民の心情に輪をかけているのが、事業に携わる地元企業の度合いだ。プロポーザルに参加した2グループに市内企業がどれくらい参加していたかを比較すると、優先交渉権者となったゼビオコーポレートのグループは、構成員4社のうち1社、協力企業5社のうち1社が市内企業だった。これに対し次点者だった陰山建設のグループは、構成員7社のうち4社、協力企業19社のうち15社が市内企業。後者の方が地元企業を意識的に参加させようとしていたことは明白だった。  だから尚更「地元企業の参加が少ない『ゼビオ』が受託した挙げ句、宇都宮に本社を移され、郡山は踏んだり蹴ったり」「品川市長はお人好しにも程がある」と批判の声が鳴り止まないのだ。 釈然としない空気 志翔会会長の大城宏之議員(5期)  加えて市議会3月定例会では、志翔会会長の大城宏之議員(5期)が代表質問で「事業者選定は総合評価としながら、次点者は企画提案力では(ゼビオを)上回っていたのに、価格が高かったため落選の憂き目に遭った」「優先交渉権者となったグループの構成員には(郡山総合体育館をホームとする地元プロバスケットボールチームの)運営会社が入っているが、公平性や利害関係の観点から、内閣府やスポーツ庁が示す指針に触れないのか」と指摘。市文化スポーツ部長が「優先交渉権者は審議会が基準に則って決定した」「グループの構成員に問題はない」と答弁する一幕もあった。  確かに採点結果を見ると、技術提案の審査ではゼビオコーポレートグループ520・93点、陰山建設グループ528・69点で後者が7・76点上回った。ところが価格審査ではゼビオグループが97億7800万円で300点、陰山グループが101億2000万円で289・86点と前者が10・14点上回り、合計点でゼビオグループが勝利しているのだ。  また、ゼビオグループの側に地元プロバスケの運営会社が参加していることも、他地域の体育施設に関するPFI事業では、利害関係が生じる恐れのあるスポーツチームは受託者から除外され、スポーツ庁の指針などでも行政のパートナーとして協力するのが望ましいとされていることから「一方のグループへの関与が深過ぎる」との指摘があった。  こうした状況を大城議員は「問題なかったのか」と再確認したわけだが、本誌は審査に不正があったとは思っていない。大城議員もそうは考えていないだろう。ただ地元企業が多く参加するグループが、企画提案力では優れていたのに価格で負けた挙げ句、有権交渉権者になった「ゼビオ」が正式契約直後に本社移転を発表したので、釈然としない空気になっているのは事実だ。  次点者のグループに参加した地元企業に取材を申し込んだところ、唯一、1人の方が匿名を条件に「もし審査の過程で『ゼビオ』の本社移転が分かっていたら、地元企業優遇の観点から結果は違っていたかもしれない。そう思うと複雑な気持ちだ」とだけ話してくれた。  旧農業試験場跡地の入札で辛酸を舐めたと思ったら、開成山体育施設整備事業のプロポーザルでは槍玉に挙げられたゼビオ。大きな事業に関われば嫌でも注目されるし、賛成・応援してもらうこともあれば反対・批判されることもある。そんな渦中に、同社は今まさにいる。  ゼビオの本社移転について取材を申し込むと、ゼビオコーポレートの田村健志氏(コーポレート室長)が応じてくれた。以下、紙面と口頭でのやりとりを織り交ぜながら記す。    ×  ×  ×  ×  ――本社移転のスケジュールは。  「現時点で移転日は決まっていないが、今後、場所や規模を含め、社員の就労環境に配慮しながら具体的な移転作業に着手する予定です」  ――社員の移転規模は。  「ゼビオは社員約700人、パート・アルバイト約3300人です。ゼビオグループ全体では社員約2600人、パート・アルバイト約5400人です。宇都宮に移転するのはあくまでゼビオであり、ゼビオコーポレートやゼビオカードなど郡山本社に勤務するグループ会社社員の雇用は守る考えです。ゼビオについても全員の異動ではなく、地域に根ざしている社員の雇用を守りながら経営していきます」  ――数ある都市の中から宇都宮を選んだ理由は。  「震災以降、宇都宮市をはじめ約70の自治体からお誘いを受けた。私たちゼビオグループは未来に向けた会社経営を行っていくに際し、自治体を含めた産学官の連携が必須と考えている。そうした中で今年2月に話し合いが始まり、当グループの取り組みについて宇都宮市が快く引き受けてくださったことから本社移転を決断した」  ――ゼビオにとって宇都宮は魅力的な都市だった、と。  「人口減少や少子高齢化などかつてない社会構造の変化を迎えている中、まちづくりとスポーツを連動させ、地域の子どもから高齢者まで誰もが夢や希望の叶う『スーパースマートシティ』の実現に向け、宇都宮市が円滑な対話姿勢を持っていたことは非常に魅力的でした」  ――逆に言うと、郡山ではスポーツを通じたまちづくりはできない? 「先に述べた通りです」 逃した魚は大きい 郡山市朝日にあるゼビオ本社  ――ゼビオHDは旧農業試験場跡地の入札に参加したが次点でした。ここで行いたかった事業を宇都宮で実現する考えはあるのか。  「同跡地でも同様に産学官連携によるスポーツを通じたまちづくりを構想していました。正直、同跡地で実現したい思いはありました。ただゼビオHDは上場会社なので、適正価格で入札に臨むしかなかった。民間企業はスピード感が求められるので、宇都宮市からのお声がけを生かすことにしました」  ――同跡地をめぐって行政とはこの間、どんなやりとりを?  「郡山市には私たちの考え・思いを定期的に伝えてきた。県とは、知事とお会いすることは叶わなかったが、副知事には私たちの考え・思いを話しています」  ――ゼビオグループは開成山体育施設の整備と管理運営を、郡山市から10年間にわたり受託したが、同事業の正式契約後にゼビオの本社移転が発表されたため、市議会や市役所内からは「後出しジャンケン」と批判的な声が上がっている。  「これは私見になるが『後出しジャンケン』ということは、本来、公平・公正に行われるはずの入札が、ゼビオが郡山市に本社を置いていれば何らかの配慮や忖度が働いた可能性があったと受け取ることもできるが、いかがでしょうか」    ×  ×  ×  ×  ゼビオの宇都宮への本社移転は、将来を見据えた企業戦略の一環だったことが分かる。また、移転先のソフト・ハードを含めた環境と、パートナーとなる自治体との信頼関係を重視した様子もうかがえる。  これは裏を返せば、ゼビオにとって郡山市は▽子どもの部活動や高齢者の健康づくりにも関わるスポーツを通じたまちづくりへの考えが希薄で、▽環境(旧農業試験場跡地)を用意することもなく、▽品川市長も理解に乏しかったため信頼関係が築けなかった――と捉えることができるのではないか。  「釣った魚に餌をやらない」ではないが、地元を代表する企業とのコミュニケーションを疎かにしてきた結果、「逃がした魚は大きかった」と後悔しているのが、郡山市・品川市長の今の姿と言える。 あわせて読みたい 南東北病院「移転」にゼビオが横やり 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

  • 青木フルーツ「合併」で株式上場に暗雲!?【郡山市】

     フルーツジュース店や洋菓子店などを全国展開する㈱青木商店(郡山市、1950年設立、資本金1000万円※)。同社は株式上場を長年の悲願としており、2017年には持ち株会社の青木フルーツホールディングス㈱(住所同、資本金2300万円)を設立した。 ※法人登記簿によると青木商店の資本金は1000万円だが、HPにはなぜか「資本金等4500万円」と表記されている。こうした〝微妙な不正確さ〟が、青木氏が地元経済界からイマイチ信用されない要因なのかもしれない。  そんな両社の経営動向と、代表取締役を務める青木信博氏(75)の人物像は本誌昨年4月号「青木フルーツ『上場』を妨げる経営課題」という記事で詳報しているので参照されたい。この稿で取り上げるのは、3月1日付の地元紙で報じられた「両社の合併」についてである。 福島民友はこう伝えている。 《持ち株会社青木フルーツホールディングス(HD)は1日付で青木商店と合併する。青木商店が存続会社となり、同HD会長・社長の青木信博氏(75)が代表権のある会長に就く》《2月24日に開かれた同HDの臨時株主総会で合併の承認を受けた。同HDは合併について「組織再編を通じて経営の効率化を図るため」としている》 併せて、青木氏は同紙の取材に、タイの関連会社を新型コロナの影響で閉鎖したことも明かしている。 一般的に、持ち株会社は事業ごとに分かれた子会社を持ち、事業拡大やリスク分散を図るが、青木フルーツHDの場合は子会社が青木商店1社しかなく、持ち株会社としての存在意義は薄かったようだ。そもそも持ち株会社をつくる狙いは経営効率化なのに「両社を合併して経営効率化を図る」と言ってしまったら、青木フルーツHDの存在を自分から否定したことにならないか。 それはともかく、今後気になるのは持ち株会社をなくしたことで悲願の株式上場はどうなるのか、ということだ。これに関して青木氏は、福島民友の取材に「合併を機にスピードを上げて実現したい」と述べている。上場はあきらめないということだが、現実はどうなのか。 青木商店と青木フルーツHDはこれまで、三井住友信託銀行の証券代行部に株主名簿管理人を依頼していた。株主名簿管理人とは、株式に関する各種手続きや株主総会の支援などを代行する信託銀行や専門会社のこと。上場企業は会社法により株式事務の委託が義務付けられているため、青木商店は2014年から、青木フルーツHDは設立と同時に同行を株主名簿代理人に据えていた。 ところが青木商店の法人登記簿を見ると、今年1月12日付で株主名簿管理人を廃止している。これは何を意味するのか。 同行証券代行部に確認すると「青木商店に関する業務は取り扱っていない。ただ、青木フルーツHDに関する業務は現時点でも取り扱っている」と言う。記者が「青木フルーツHDは青木商店と合併し、既に解散している」と指摘すると「解散については把握していない。営業サイドと状況を確認し、必要があれば更新したい」と答えた。 青木商店にも問い合わせてみた。 「三井住友信託銀行とは青木フルーツHDが契約していたが、登記上は青木商店の株主名簿管理人にもなっていた。そこで、今回の合併を受けHDとしての契約は破棄し、青木商店の登記もいったん抹消して、同行には新たに青木商店として株主名簿管理人をお願いする予定です。株式上場は引き続き存続会社の青木商店で目指していきます」(総務部) 株式上場はあきらめない、とのこと。今後のポイントは上場に耐え得る決算(経営状態)を実現できるかどうかだが、せっかくつくった持ち株会社を解散する迷走ぶりを見せられると、悲願達成はまだまだ先のような気がしてならない。 あわせて読みたい 青木フルーツ「上場」を妨げる経営課題【郡山市】

  • 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年

     郡山市大平町の市道交差点で発生した一家4人死亡事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた福島市泉の会社員高橋俊被告(25)に対し、地裁郡山支部は4月10日、禁錮3年(求刑禁錮3年6カ月)の判決を言い渡した。 裁判では、初めて通る道路にもかかわらず、助手席に置いたスマホに知人女性から連絡があるかどうか、気にしながら運転していたことが分かった。交差点に一時停止の標識などが設置されておらず、停止線も消えかかっていたのを踏まえ、小野寺健太裁判官は「過失の程度は重大であったとまでは言えないが、結果の重大性も考慮すれば、執行猶予を付けることは相当ではない」とした。 記者は夜、実際に現場を走ったが、坂道で加速するのに見通しが悪く、減速しながら慎重に降りた。判決によると高橋被告は約60㌔で交差点に入ったというから、漫然と運転した結果が悲劇を生み出したと言える。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

  • 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

    (2022年9月号)  郡山市内の放課後児童クラブ支援員が保護者会費を横領した――。編集部宛てにこんな告発メールが届いたことを8月号で紹介したところ、記事脱稿後に市が記者会見を開き、概ね事実だったことが分かった。子どもたちの〝おやつ代〟として使われるべき金を生活費として使い込んでおり、同業者や保護者からは怒りの声が聞かれる。 公式発表前に届いた内部告発メール   一連の経緯は本誌8月号「郡山市民が呆れるアノ話題 学童保育支援員に横領疑惑が浮上」という記事で紹介した。 7月上旬、編集部宛てに以下のような内容のメールが寄せられた。 《芳賀小児童クラブで2年前ぐらいから、会計を務める主任支援員が保護者会費(保護者が支払うおやつ代などの運営費)を着服している。その額は100万円以上。市の子ども政策課は事実を把握しているが、公表しておらず、なかったことにしようとしている》 芳賀小児童クラブは放課後の間、児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育とも呼ばれる)の一つ。同小学校の校庭に建てられた施設に開設されており、児童は勉強(宿題)や運動、遊びをして過ごしている。 子どもたちの〝先生役〟となるのは「放課後児童支援員(以下、支援員と表記)」という資格を持つ職員。同市の放課後児童クラブは公設公営なので、いずれも市職員(会計年度任用職員)だ。 保護者会費とは、市に支払う利用料金とは別に支払う料金で、おやつなどの購入に使われる。同クラブは100人弱の児童が利用。毎月1人2300円の保護者会費を支払っており、会計担当の支援員が現金で預かる形になっていた。メールの内容が事実だとすれば、市職員がその金を横領していたことになる。 7月下旬、放課後児童クラブを管轄する市こども政策課にメールの内容について問い合わせると、担当者は「その放課後児童クラブに関しては現在調査中であり、事実関係や当該支援員の扱いも含めて、いまはお話しできません、ただ、調査が終わった段階で、然るべき形で発表しようとは考えています」と話した。内部で何らかのトラブルが起きていたことを認めたわけ。 同クラブに直接足を運んだが、「私どもも詳しい事情は分からない。コメントは控えさせていただきます」(当日勤務していた支援員)と話すのみだった。 いずれにしても、これだけ内情を知っているということは、差出人は同クラブを利用する保護者か、同市の職員・支援員だろう。ただ、確証が得られなかったため、8月号記事では学校名を伏せ、「疑惑」として紹介する形に留めた。 そうしたところ、記事脱稿後の8月2日、市が「放課後児童クラブ保護者会費(運営費)を横領した会計年度任用職員の懲戒処分について」という内容の記者会見を開いた。総合的に判断して同クラブで起きた案件と思われ、公益性もあると判断したので、本稿では実名で表記する。 市によると、横領したのは2009年から支援員として働いていた50代女性。20年度から22年度にかけて、保護者会費の一部239万4069円を横領。その事実を隠蔽するため、20、21年度の収支決算書を偽造していた。 横領期間は2020年8月から22年5月までの22カ月間。横領額の内訳は20年度68万1160円、21年度138万4000円、22年度32万8909円。 市こども政策課によると、保護者会の規約では「会計(=保護者)は担当支援員(=市職員)と相互協力のもと、円滑な運営を遂行する」と規定されており、市も「職員は2人以上が担当する」と指導していた。 ところが、芳賀小児童クラブに関しては、同支援員が一人で会計を担当。保護者から預かった会費は口座に入金せず金庫で管理し、収支決算書で帳尻合わせをしていた。保護者会で会計監査も行われていたそうだが、会計監査担当者に帳簿と領収書を一部分だけ突き合わせさせ、金額が合っていると信じ込ませる形で切り抜けていた。 239万円横領の理由 8月2日に行われた記者会見  周囲が異変に気付いたのは2022年5月。同クラブの別の支援員から「おやつ代を立て替えた際の清算が遅くて困っている」と相談を受けた同課の職員が事務指導を行っている中で、保護者会費が通帳に記帳されていないことが発覚。関係書類を提出させたところ、毎月ほぼ一定であるはずの保護者会費の収入額がなぜか月によって開きがあった。 同課の職員が6月14日、会計担当だった同支援員に事情聴取したところ、横領と書類偽造を認めた。 同課の聞き取り調査に対し、同支援員は「父が所有する事業用倉庫内の機械等を撤去する必要があり、その費用(約70万円)を工面するため、『一時的に借りよう』と思い一部を横領してしまった。その後も自分の生活が苦しかったこともあり、生活費に充てるため、横領を繰り返してしまった」と語ったという。 前述の通り、保護者会費はすべて現金で支払われ、金庫で管理されていた。すなわち1000円札や100円玉などを金庫からそのまま持ち出し、使っていたことになる。「生活費に充てるため」と語っていたというが、「ちょっと拝借する」程度で年間140万円にはなるまい。完全に感覚が麻痺してしまっていたのだろう。会見では記者から宗教団体などの関与を疑う質問もあった。 冒頭のメールには「全額回収のめどが立たないので市こども政策課としても公表できないようだ。このまま隠蔽するのではないか」とも書かれていたが、結局、同支援員は全額を返済した。同課は6月14日に事件が発覚してから1カ月以上公表しなかった理由について、「同支援員に返還の意思があり、そちらを優先したため」と明かした。 その一方で、同支援員は8月2日付で懲戒免職になった。本来、業務上横領罪に問われる案件だが、市では横領分が全額返済されたことから刑事告訴は行わない方針。そうした条件で示談にしたということだろう。 8月1日には保護者向けの説明会が開かれ、横領期間に利用していた児童の在籍期間に応じて返金する方針が伝えられた。対象となる保護者は延べ124人。 おやつ代として支払われていた保護者会費を横領していたということは、その分子どもたちへのおやつをケチっていたと考えられる。県内で活動する支援員はこう語る。 「保護者会費2300円ということは、1カ月に23日利用するとして、1日100円使う計算なのでしょう。うちのクラブでは大袋の菓子をみんなで分けて1日60円程度で済ませ、浮いた分で誕生日やイベント時に振る舞うケーキを買うなど、メリハリを付けている。問題の支援員はそうしたやりくりをせず、ひたすら安く済ませて横領分を捻出していたのかもしれません」 保護者会費は単純計算で年間1人当たり2万7600円、100人分で276万円。その中から最大138万円横領(2021年度)していたということは、おやつ代1日50円の計算で運営していたことになる。一緒に勤務していた支援員は気付かなかったのか。それとも会計を務める支援員だから何も言えなかったのか。同課は実名を伏せ、詳細も明かしていないので真相は分からないが、〝どんぶり勘定〟であったことがうかがえるし、市のチェック体制にも問題があったと言わざるを得ない。 8月上旬、同クラブ周辺で、児童を迎えに来た父親に声をかけたところ、「最悪ですよね。自分たちが預けていた金を勝手に使われていたわけですから」と述べた。 ほかにも複数の保護者に声をかけたが、「詳しく分からない」、「時間がない」と明言を避け足早に帰っていく人が多かった。「仕事と子育てを両立するのに忙しい中で、放課後児童クラブの内情まで把握できないし、余計なトラブルに巻き込まないでくれ」というのが本音かもしれない。市のチェック体制の甘さと保護者の〝無関心〟の間で、約2年にわたる横領が見過ごされてきたのだろう。 放課後児童クラブへの不満  取材の中では、同市の放課後児童クラブへの不満の声も聞かれた。 「子どもが利用し始めた当初、放課後をただ遊んで過ごしていることが分かり、『せめて宿題を終えてから遊べよ』と叱ったことがある。放課後の間、預かってもらうのはとてもありがたいが、それ以上のことは期待できないのだな、と実感しました」(2021年まで市内の放課後児童クラブを利用していた保護者) 放課後児童クラブにおいては、支援員の資格を持たない職員も「補助員」として働いている。ただ、支援員事情に詳しい関係者によると「現在人手不足なので、基本的には誰でもなれる状況。地域の高齢者などが務めることも多いが、親族や顔見知りの児童に甘い対応を見せて、不満が生まれることもある」。 2021年3月号では「郡山市の児童クラブで支援員が体罰!?」という記事を掲載した。「放課後児童クラブに通う長男が支援員から体罰を受けた」という投書の内容を検証したもので、支援員にそのつもりはなかったものの、誤解を招きかねない言動が確認されたという。 同市の放課後児童クラブの利用料金は1カ月4800円(生活保護受給世帯など条件によって軽減措置あり)。保護者会費2300円と合わせると約7100円に上る。「その金額で放課後の間預かってくれるなら十分だ」という保護者もいるが、その一方で「物足りない」、「割に合わない」と不満を抱く保護者もいるということだ。 同市の放課後児童クラブは市内50校に81クラブ設置されており、各クラブでは5~10人の支援員が勤務している。その大半は誠実に働いているが、今回のような不祥事が発覚すれば、保護者からの信頼をさらに失うことになる。 前出・県内で活動する支援員は次のように憤る。 「私たちは子どもたちから〝先生〟と呼ばれる立場にある。その立場の人間が『子どもたちの健全な育成のために』と保護者からもらったおやつ代(保護者会費)を横領する……これは、目の前の子どもより自分の生活費を優先したということであり、到底許されることではありません」 テレビや新聞での扱いは小さく、詳細が分かっていないことも多いが、市は今回の事件を重く受け止め、再発防止策を徹底しなければならない。前出のメールの差出人は、それが期待できないと懸念したから、本誌に〝内部告発〟したのだろう。 市では保護者会役員と支援員の役割を明確化して監査を行うとともに、コンプライアンス研修などを実施し再発防止に努める考えだ。しかし、そうした対応だけでは不十分だ。会計のダブルチェックの徹底、提供されるおやつのSNSでの公開など、保護者会費の使途をできる限り透明化し、「これなら横領できそうだ」という悪意が入り込めないような体制構築が求められる。 あわせて読みたい 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

  • 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

    (2022年10月号)  郡山市の認可保育所「ヒューマニティー保育園」が委託費を不正受給していたとして、新規園児受け入れ半年間停止の行政処分を受けた。不正受領していた金額は約660万円に上り、市は返還を求めている。 〝投書攻撃〟を受けていた運営法人  ヒューマニティー保育園を運営しているのは一般社団法人ヒューマニティー幼保学園(瓜生麻美代表理事)。子どもの能力を開花させる教育法として話題になった「ヨコミネ式」を導入して人気を集めており、認可外保育所や学習塾なども運営する。 私立の認可保育所には市から委託費(運営費用)が支払われているが、同保育所では、非常勤の所長を常勤勤務として市に報告。加算分の受給要件を満たしていないにもかかわらず、2019年9月から21年3月にかけて、委託費659万8280円を不正に受給していた。 さらに昨年12月22日に行われた定期施設監査において、在籍していない保育士1人を「勤務していた」と偽って市に報告。虚偽の出勤簿や履歴書などを作成して提出していた。併せて同法人が運営する認可外保育施設などで使用する中古車2台(計65万円)を、同保育所の委託費で購入していたことも判明。市は同保育所への9月・10月分委託費から不正分を差し引く考え。 市は「昨年12月の定期施設監査の書類が偽造されていた」と外部から通報を受け、1月に特別監査を実施。この間、書類精査や関係者の聴取を行ってきた。市の聴き取りに対し、同保育所の関係者は「当初から不正の認識はあった。運営会社の指示を受けて行った」(NHKニュース)と語っていたというから、組織ぐるみだった可能性が高い。 同法人に関しては、匿名投書が連続で送られてきたとして、本誌2013年11月号で取り上げたことがある。内容はいずれも「保護者に説明がないまま新保育園建設が進められている」という不満を綴ったもので、「保育士の人数など、法律を無視した運営がなされている」など運営の怪しさを指摘する記述もあった。 当時の本誌取材に対し、園長代理を務めていた瓜生氏は「保護者にはきちんと説明しており、法律違反の点もない」、「(同法人の運営が)まるで不安要素だらけのように書かれているのは悪意を感じますね」と話し、「投書は外部から見たイメージだけで意図的に悪く書かれている。これ以上続くようであれば、差出人に対し法的手段を取ることも考えています」と息巻いていた。 同市保育課の担当者も「(当時、同法人が運営していたのは認可外保育所のみだったので)投書で苦情を言われても市としては対応しようがない」というスタンスだった。 だが結果的に、保育士の数を偽っていると指摘していた〝投書攻撃〟は事実だったことになる。 不正受給の件について、あらためて同法人に問い合わせたが、担当者はどの質問にも「市に報告し、この間報道されたことがすべてです」と答えるのみだった。記者が「2013年の取材当時も実は内部で不正が行われていたのではないか」と尋ねると「あの時点では間違いなく不正行為はしていなかった」と述べた。市は同法人が返金の意思を示していることから刑事告訴しない方針。不正受給の動機は分からずじまいだ。 9月下旬、同保育所を訪ねると静まり返っていた。新規園児受け入れ停止期間は来年3月末まで。保護者の反応は聞けなかったが、悪質な不正受給の実態を知って、退園する動きが出てきても不思議ではない。 あわせて読みたい 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

  • 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

     1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場  郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所     要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 (前田公園前十字路)見通し市53大平町字前田116-2見通し市54大平町字御前田53見通しなし55大平町字御前田59-45見通し市56大平町字向川原80-4見通しなし57荒井町字東195見通し市58阿久津町字風早87-2見通し市59舞木町字岩ノ作44-6見通し市60町東一丁目245見通しなし61町東二丁目67見通しなし62町東三丁目142-2見通し市63新屋敷1-91見通し市64富田町字墨染18見通し公安65富田町字十文字2見通し市66富田町字大十内85-246ヒヤリ市67富田町字音路90-20見通し市68富田東二丁目1優先市69富田町字細田85-1優先公安70富田町日吉ヶ丘53優先市71大槻町字西宮前26ヒヤリ公安72大槻町字南反田18−3ヒヤリなし73大槻町字室ノ木33-8見通し市74大槻町字原田東13-93ヒヤリ市75大槻町字葉槻22-1優先市76笹川一丁目184-32見通し市77安積一丁目155見通し市78安積一丁目38見通しなし79安積町二丁目350番1見通し公安80安積町日出山字一本松100番18見通しなし81三穂田町川田二丁目62-2見通し市82三穂田町川田三丁目156見通し市83三穂田町川田字駒隠1-4見通し公安84三穂田町川田字小樋41見通し公安85三穂田町川田字北宿3-2見通し公安86三穂田町野田字中沢目9見通し公安87三穂田町鍋山字松川53見通しなし88三穂田町駒屋二丁目62ヒヤリ市89三穂田町駒屋字上佐武担2-2見通し公安90三穂田町八幡字北山10-13見通し公安91三穂田町八幡字北山7-12見通しなし92三穂田町富岡字下茂内56見通し市93三穂田町富岡字下間川67ヒヤリ公安94三穂田町富岡字藤沼18-9見通しなし95三穂田町山口字横山5-4見通しなし96三穂田町山口字川底原22優先公安97逢瀬町多田野字清水池125見通し市98逢瀬町多田野字上中丸56-1見通し市99逢瀬町多田野字家向61見通し市100逢瀬町多田野字柳河原77-2優先市101逢瀬町多田野字南原26見通し市102逢瀬町河内字西荒井123優先市103逢瀬町河内字藤田185見通し公安104片平町字庚坦原14-507優先市105片平町字元大谷地27-3優先市106片平町字森48-2優先市107片平町字新蟻塚99-5見通し市108片平町字樋下68優先市109東原一丁目44見通しなし110東原一丁目120見通し市111東原一丁目229見通し市112東原一丁目250見通し市113東原二丁目127見通し市114東原二丁目141見通し市115東原二丁目235見通し市116東原三丁目246ヒヤリ市117喜久田町字双又30-19見通し市118喜久田町堀之内字北原6-9優先市119喜久田町早稲原字伝左エ門原優先市120日和田町高倉字牛ケ鼻130-1優先市121日和田町高倉字鶴番367-1優先市122日和田町高倉字南台23-1見通し公安123日和田町梅沢字衛門次郎原123優先市124日和田町梅沢字衛門次郎原150-2見通し市125日和田町梅沢字新屋敷115-1見通し市126日和田町字鶴見坦139優先市127日和田町字鶴見坦88優先市128日和田町字鶴見坦156優先市129日和田町字沼田29-1見通しなし130日和田町字原町25-1見通し市131日和田町字水神前145優先市132日和田町字水神前169優先市133日和田町字水神前184優先市134日和田町字境田17優先市135日和田町字鶴見坦40-54見通し公安136八山田二丁目204優先市137八山田三丁目204優先市138八山田四丁目160優先市139八山田五丁目452優先市140八山田西二丁目242優先なし141八山田西三丁目149優先なし142八山田西三丁目164優先なし143八山田西四丁目9優先市144八山田西四丁目30優先市145八山田西四丁目83優先なし146八山田西四丁目179優先市147八山田西五丁目284優先市148富久山町八山田字細田原3-18見通し市149富久山町八山田字坂下1-1優先市150富久山町八山田字舘前103-2見通しなし151富久山町八山田字菱池17-4見通し市152富久山町久保田字本木93見通し市153富久山町久保田字我妻117優先市154富久山町久保田字我妻136優先なし155富久山町久保田字石堂35-4優先市156富久山町久保田字石堂22優先市157富久山町久保田字本木54-2見通しなし158富久山町久保田字我妻79-1見通し市159富久山町久保田字麓山115-3見通しなし160富久山町久保田字麓山54-3見通しなし161富久山町久保田字三御堂12-2優先市162富久山町久保田字三御堂15-1優先なし163富久山町久保田字下河原123-1優先市164富久山町久保田字下河原38-2優先市165富久山町久保田字古坦131-4優先なし166富久山町久保田字三御堂122-2優先市167富久山町久保田字三御堂129-10優先なし168富久山町福原字猪田29-1見通し市169富久山町福原字左内90-63見通し市170湖南町三代字原木1148優先市171湖南町三代字御代1155-2優先市172湖南町福良字畑田181-1優先市173湖南町舟津字ヲボケ沼1見通し市174湖南町舘字上高野52優先市175熱海町安子島字北原24-54見通し市176上伊豆島一丁目25見通し市177田村町小川字岡市6見通し市178田村町小川字戸ノ内80-4見通し市179田村町山中字上野90-2見通し市180田村町山中字鬼越91-1見通し市181田村町山中字鬼越518-3優先市182田村町山中字枇杷沢264-6見通し市183田村町金沢字大谷地234-10見通し市184田村町谷田川字北田9見通し市185田村町谷田川字町畑11-1見通しなし186田村町守山字湯ノ川85-1見通し市187田村町正直字南17-1見通し市188田村町正直字北22-3見通し市189田村町金屋字水上35-1見通し市190田村町金屋字水上4見通し市191田村町金屋字マセ口14-2見通し市192田村町金屋字西川原80-3見通しなし193田村町上行合字北古川97優先市194田村町下行合字古道内122-2優先市195田村町下行合字宮田130-25優先市196田村町手代木字三斗蒔34優先市197田村町手代木字永作236-1優先市198田村町桜ケ丘一丁目59優先公安199田村町桜ケ丘一丁目170見通し公安200田村町桜ケ丘一丁目226見通しなし201田村町桜ケ丘二丁目1見通し市202田村町桜ケ丘二丁目2見通し市203田村町桜ケ丘二丁目27見通し市204田村町桜ケ丘二丁目90見通し市205田村町桜ケ丘二丁目115、297-17見通し市206田村町桜ケ丘二丁目144見通し公安207田村町桜ケ丘二丁目203見通し市208田村町桜ケ丘二丁目295-54見通し市209田村町桜ケ丘二丁目365見通し市210田村町守山字権現壇165-1見通し市211西田町鬼生田字前田407優先公安212西田町鬼生田字石堂1194優先市213西田町土棚字内出694-2見通しなし214中田町下枝字五百目55見通し市215中田町柳橋字石畑520-9見通し市216中田町柳橋字久根込564優先市217中田町柳橋字小中里217優先市218中田町牛字縊本字袋内1-1優先市219中田町高倉字弥五郎253優先市220中田町高倉字弥五郎202見通し市221中田町高倉字三渡13-2見通し市222中田町高倉字宮ノ脇198-1見通し市  また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い  東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない  郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影)  さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【郡山】南東北病院「県有地移転案」の全容

     総合南東北病院などを運営する一般財団法人脳神経疾患研究所(郡山市八山田七丁目115、渡辺一夫理事長)が移転・新築を目指す新病院の輪郭が、県から入手した公文書により薄っすらと見えてきた。  県は昨年11月、郡山市富田町字若宮前の旧農業試験場跡地(15万4760平方㍍)を売却するため条件付き一般競争入札を行い、脳神経疾患研究所など5者でつくる共同事業者が最高額の74億7600万円で落札した。同研究所は南東北病院など複数の医療施設を同跡地に移転・新築する計画を立てている。 同跡地はふくしま医療機器開発支援センターに隣接し、郡山市が医療関連産業の集積を目指すメディカルヒルズ郡山構想の対象地域になっている。そうした中、同研究所が2021年8月、同跡地に新病院を建設すると早々に発表したため、入札前から「落札者は同構想に合致する同研究所で決まり」という雰囲気が漂っていた。自民党の重鎮・佐藤憲保県議(7期)が裏でサポートしているというウワサも囁かれた(※本誌の取材に、佐藤県議は関与を否定している=昨年6月号参照)。 ところが昨年夏ごろ、「ゼビオが入札に参加するようだ」という話が急浮上。予想外のライバル出現に、同研究所は慌てた。同社はかつて、同跡地にトレーニングセンターやグラウンド、研究施設などを整備する計画を水面下で練ったことがある。新しい本社の移転候補地に挙がったこともあった。 ある事情通によると「ゼビオはメディカルヒルズ郡山構想に合致させるため、スポーツとリハビリを組み合わせた施設を考えていたようだ」とのこと。しかし、入札価格は51億5000万円で、同研究所を23億円余り下回る次点だった。ちなみに県が設定した最低落札価格は39億4000万円。同研究所としては、本当はもっと安く落札する予定が、同社の入札参加で想定外の出費を強いられた可能性がある。 「ゼビオは同跡地にどうしても進出したいと、郡山市を〝仲介人〟に立て、同研究所に共同で事業をやらないかと打診したという話もある。しかし同研究所が断ったため、両者は入札で勝負することになったようです」(前出・事情通) この話が事実なら、ゼビオは同跡地に相当強い思い入れがあったことになる。 それはともかく、本誌は同研究所の移転・新築計画を把握するため、県に情報開示請求を行い、同研究所が入札時に示した企画案を入手した。半分近くが黒塗り(非開示)になっていたため詳細は分からなかったが、新病院の輪郭は薄っすらと知ることができた。 それによると、同研究所は医療法人社団新生会(郡山市)、㈱江東微生物研究所(東京都江戸川区)、クオール㈱(東京都港区)、㈱エヌジェイアイ(郡山市)と共同で、総合病院と医療関連産業の各種施設を一体的に整備し、県民の命と健康を守る医療体制を強化・拡充すると共に、隣接するふくしま医療機器開発支援センターと協力し、医療関連産業の振興を図るとしている。 5者の具体的な計画内容は別掲の通りだが、県から開示された企画案は核心部分が黒塗りだった。ただ、企画案を見ていくと「新興感染症や災害への対応」という文言がしばしば出てくる。 5者の計画内容 脳神経疾患研究所総合南東北病院、南東北医療クリニック、南東 北眼科クリニック、南東北がん陽子線治療センター等を一体的に整備。新生会 南東北第二病院を整備。脳神経疾患研究所と新生会は救急医療、一般医療、最先端医療を継ぎ目なく提供。また、ふくしま医療機器開発支援センターの研究設備を活用し、新たな基礎・臨床研究につなげる。同センターの手術支援設備や講義室等を活用し、医療者の教育と能力向上も目指す。江東微生物研究所 生化学検査、血液検査、遺伝子検査、細菌・ウ イルス検査などに対応できる高度な検査機関を 整備。検査時間の迅速化や利便性を向上させ、県全体の検査体制充実に貢献する。クオール     がん疾患などの専門的な薬学管理から在宅診療まで、地域のニーズに対応できる高機能な調剤薬局を設置・運営。併せて血液センターや医薬品卸配送センターなども整備する。エヌジェイアイ  医療機器・システム開発等の拠点となる医療データセンターを整備。※5者が県に示した企画案をもとに本誌が作成。  新型コロナウイルスや震災・原発事故を経験したことで、新病院は未曽有の事態にも迅速に対応できる造り・体制にすることを強く意識しているのは間違いない。また、同研究所に足りない面を江東微生物研究所やクオールに補ってもらうことで、より高度な医療を提供する一方、ふくしま医療機器開発支援センターを上手に活用し、県が注力する医療関連産業の集積と医療人材の育成に寄与していく狙いがあるのではないか。 事実、企画案には《高次な救急患者を感染症のパンデミック時でも受け入れ可能とする構造・設備・空間を実現》《がん陽子線治療をはじめとした、放射線治療やロボット手術を駆使し、低侵襲の最先端医療を福島県外や海外からの患者にも提供》と書かれている。 一方、土地利用計画を見ると、医療関連施設以外の整備も検討していることが分かる。 例えば、隣接するJR磐越西線・郡山富田駅を念頭に駅前広場、同広場から郡山インター線につなぐ構内道路、各種テナントを入れた商業施設、既存斜面林を生かした公園などを整備するとしている。また新病院と各種施設も、建て替え・増築時に医療機能がストップしないような配置にしていくという。 開発スケジュールは黒塗りになっていて分からないが、同跡地の所有権が同研究所に移った後、2023~28年度までの期間で着工―開設を目指すとしている。 脳神経疾患研究所が落札した旧農業試験場跡地  ここまでが県から開示された企画案で分かったことだが、新病院の輪郭をさらにハッキリさせるため同研究所の法人本部に問い合わせると、 「現時点でお答えできる材料はありません。現在、設計を行っているところで、それが完成すると詳細な計画も明らかになり、会見も開けると思います」(広報担当者) とのことだった。 気になる事業費、資金計画、収支見通しは5者ごとに示しているが、こちらも黒塗りになっていて不明。ただ「事業費は総額600億円と聞いており、同研究所内からも『そんな巨費を捻出できるのか』と不安が漏れている」(前出・事情通)。今後は自己資金、借り入れ、補助金などの割合が注目される。 あわせて読みたい 南東北病院「移転」にゼビオが横やり

  • 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂

     福島県の〝商都〟を象徴する「うすい百貨店」(郡山市中町13―1、横江良司社長、以下うすいと表記)に気になるウワサが浮上している。  本誌2023年2月号【ホテルプリシード郡山閉館のワケ】で既報の通り、うすいの隣で営業するホテルプリシード郡山が3月末で閉館し、同じ建物に入る商業施設やスポーツクラブも5月末で撤退することが決まるなど、賑わいを取り戻せずにいる中心市街地はますます寂れていくことが懸念されている。 そのうすいをめぐっても、地元経済人の間で最近こんなウワサが囁かれている。 「ルイ・ヴィトンが今年秋に撤退することが決まったらしい」 言わずと知れた高級ファッションブランドのルイ・ヴィトンは、うすいが現在の店舗でリニューアルオープンした1999年からキーテナントとして1階で営業。地方の百貨店にルイ・ヴィトンが出店したことは当時大きな話題となった。 以来、ルイ・ヴィトンは「百貨店としての質」を高める顔役を担ってきたが、それが撤退することになれば集客面はもちろん、イメージ面でも影響は計り知れない。 「うすいに限らず百貨店自体が新型コロナの影響もあり厳しいと言われているが、(うすいに入る)ヴィトンの売り上げ自体は悪くないそうです」(ある商店主) うすいは今年に入ってから、同じく高級ファッションブランドであるグッチの特設売り場を開設したが、売り上げ好調を受けて開設期間を延長した。延長期間は長期になるという話もあるから、客入りは予想以上に良いのだろう。新型コロナが経済に与える影響は続いているが、高級ブランドへの需要は戻りつつあることがうかがえる。 にもかかわらず、なぜルイ・ヴィトンは撤退するのか。 「東北地方には仙台に店を置けば十分と本部(ルイ・ヴィトンジャパン)が判断したようです。今はネット購入が当たり前で、地方にいても容易にブランド品が手に入る時代なので、テナント料や人件費を払ってまで各地に店を構える必要はないということなんでしょうね」(同) なるほど一理あるが、半面、郡山に「都市としての魅力」が備わっていれば、ルイ・ヴィトンも「ここに店を置く意義はある」と思い留まったのではないか。そういう意味で、撤退の要因はうすいにあるのではなく、郡山に都市としての魅力が無かったと捉えるべきだろう。 もっとも、撤退はウワサの可能性もある。うすいに事実関係を確認すると、広報担当者はこう答えた。 「オフィシャルには11月にリモデルすることを発表していますが、中身については経営側と店舗開発部で協議しているところです。当然、ショップの入れ替わりも出てくると思いますが、現時点で発表できる材料はありません」 前出・商店主によると 「ヴィトンの後継テナントが見当たらないため、内部では『市民の憩いの広場にしてはどうか』という案が浮上しているそうです」 とのことだが、今まで高級ブランド店が構えていた場所にベンチを置くだけの使い方をすれば「百貨店としての質」は確実に落ちる。地方の百貨店にハイブランドテナントを誘致するのが難しいことは十分承知しているが、安易な代替案は避け、百貨店に相応しいテナントを引っ張ってくる努力を怠るべきではない。 ちなみに民間信用調査機関によると、うすいの近年の業績は別表の通り。地方の百貨店は厳しいと言われる中、少ないかもしれないが黒字を維持している。2021年はさすがに新型コロナの影響が出て大幅赤字を計上したが、翌年はその反動からか逆に大幅黒字を計上している。 うすい百貨店の業績 売上高当期純利益2018年154.9億円4100万円2019年149.9億円3600万円2020年141.8億円1700万円2021年122.1億円▲1億3300万円2022年132.9億円1億5500万円※決算期は1月。▲は赤字。  うすいはこれまでも、大塚家具や八重洲ブックセンターといった有力テナントの撤退に見舞われたが、県内初進出のブランドを期間限定ながら出店させるなどして「県内唯一の百貨店」としての地位を維持してきた。しかし、撤退のウワサはルイ・ヴィトンに留まらず、 「私はティファニー(宝飾品・銀製品ブランド)が出ていくって聞いていますよ」(ある経済人) という話も漏れ伝わるなど、地方の百貨店の先行きはますます不透明感を増している状況だ。 新型コロナの影響は収まっていないが、11月のリモデルでルイ・ヴィトンやティファニーが撤退するのかどうかも含め、どのような新しい方向性が打ち出されるのか。うすいの奮闘は続く。 あわせて読みたい ホテルプリシード郡山閉館のワケ うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退