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  • 飯坂・吉川屋社長が選んだお薦めマンガ

    【飯坂】穴原温泉・吉川屋【畠正樹】社長が選んだ【おすすめマンガ】

     福島市飯坂町の穴原温泉・吉川屋では、4月1日、館内に名作漫画を並べたブックラウンジを開設した。同旅館の畠正樹社長(45)にラウンジ設置の狙いやおすすめ漫画、さらには飯坂温泉をモチーフとしたご当地キャラクター「飯坂真尋ちゃん」を用いた地域振興の取り組みについて語ってもらった。(志賀) 温泉旅館内の遊休施設を漫画コーナーに改装 ブックラウンジ「ふくろう」を紹介する畠社長  吉川屋は1841(天保12)年創業の温泉旅館。客室数126。天皇・皇后をはじめ皇室が利用する宿としても知られ、旅行新聞新社主催の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選2023」で全国総合11位に選ばれた人気の宿だ。 そんな同旅館の7代目社長・畠正樹社長は大の漫画好きで、4月1日には約4000冊の漫画を備えた宿泊者向けブックラウンジ「ふくろう」をオープンした。開設の狙いを畠社長はこのように語る。 「もともとは宿泊客の宴会の二次会で使われていたクラブだったが、コロナ禍前から稼働率が低く、景色が良い場所なので、もったいないと考えていました。コロナ禍で団体旅行から個人・少人数旅行への切り替えが急速に進む中、思い切ってクラブをなくし、かねてからの夢だった漫画専用のブックラウンジを整備することにしたのです」 福島市が観光関連事業者をサポートするために設けた「周遊スポット魅力アップ支援事業」に採択され、約1000万円かけてリニューアル。ブックラウンジと併せて、バーだった場所にはボルダリング設備を備えたファミリースペース「あそびば」を整備した。さらにフロント脇には、蛇口をひねるとモモやブドウ、リンゴなど季節ごとに違うジュースが味わえるジューススタンドを設置した。 フルーツジューススタンド  各施設のロゴやジューススタンドのイラストデザインは、福島学院大情報ビジネス学科の学生が担当した。 特筆すべきは、ブックラウンジの漫画は、畠社長自身が厳選したものだということ。「古本屋チェーンのブックオフを通してまとめ買いし、過去に読んで面白かったものを中心に選びました。和食や温泉に加え、日本の文化である漫画も旅館で楽しめるというコンセプトです。旅先で人生を変える1冊に出合うというのも、最高の体験だと思います」 実は畠社長、大学時代から本格的に漫画を描いており、出版社に持ち込みまでしていた異色の経歴の持ち主。果たしてどんな作品をセレクトしたのか。かつて夢中になった作品、衝撃を受けた作品などをいくつか紹介してもらった。 ①『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)既刊37巻 HUNTER×HUNTER 1posted with ヨメレバ冨樫 義博 集英社 1998年06月04日 楽天ブックスAmazonKindle  少年ゴン・フリークスとその仲間たちの活躍を描く冒険活劇。 「『面白い漫画』という点では間違いなく3本の指に入る。読者をワクワクさせる物語・伏線の作り方は神クラス。漫画にはさまざまな表現があるが、シンプルな面白さという点で頭一つ抜けています」 ②『BASTARD!!』(萩原一至、集英社)既刊27巻 BASTARD!! 1posted with ヨメレバ萩原 一至 集英社 1988年08月10日 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  魔法使いダーク・シュナイダーが戦い続けるファンタジー作品。 「物語もさることながら、圧倒的な画力による精密な作画は週刊連載レベルではない。中学生のころから読み始め、一番影響を受けた作品と言っても過言ではありません。『新世紀エヴァンゲリオン』が話題になる前から、宗教をテーマにしていたのも新しかったと思います」 ③『プラネテス』(幸村誠、講談社)全4巻 プラネテス(1)posted with ヨメレバ幸村誠 講談社 2001年01月22日 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  スペースデブリ(宇宙ごみ)の回収業に従事する青年が、自分と向き合いながら成長していく姿を描く、新感覚のSF作品。 「大学時代、漫画家を夢見てオリジナル作品を漫画誌編集部に持ち込んだが、評価されることはなく、『もっと人間を描け』とアドバイスされた。20歳そこそこで人間の深みなんて表現できるわけがない。人生に迷っているときに読んで心に染みました。青春を代表する1冊です」 「大河ドラマ超える傑作」 畠社長が挙げてくれたお薦め漫画 ④『ゴールデンカムイ』(野田サトル、集英社)全31巻 ゴールデンカムイ 1posted with ヨメレバ野田サトル 集英社 2015年01月19日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  明治末期の北海道・樺太を舞台に、アイヌの埋蔵金をめぐって戦うサバイバル漫画。 「漫画アプリで全巻無料になっているときに知って夢中で読み、本棚に入れることを決めました。徹底した時代考証でアイヌの文化を描きつつ、しっかりストーリーを盛り上げる。個人的には大河ドラマを超えた傑作。日本の漫画の価値は多様性にある、とあらためて感じました」 ⑤『攻殻機動隊』(士郎正宗、講談社)全3巻 攻殻機動隊(1)posted with ヨメレバ士郎 正宗 講談社 1991年10月02日 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  電脳化・サイボーグ技術が発達した未来の日本で、デジタル犯罪に対応する「公安9課」が奔走する物語。 「20年以上前の作品ですが、インターネットが発達した現在の問題を描いていることに驚かされます。アニメ版と合わせて多くのクリエイターに影響を与え、その遺伝子はさまざまな作品に引き継がれている。そういう意味では、日本の漫画・アニメ文化を象徴する作品です」 これ以外にもさまざまな作品を選び、熱い思いを語ってくれた畠社長(写真参照)。ブックラウンジのソファーにはスマホなどが充電できるUSBポートが設置されており、時間を気にせず快適に過ごすことができる。まさに漫画好きの畠社長の理想が反映されていると言える。 今後の展望に関しては「自分の思い出の1冊に再会すると自然と会話が広がるもの。漫画好きな人同士がコミュニケーションを取る場、新たな作品と出合う場になってほしいです。イベントや朗読会の場として活用することも検討していきたい」と明かした。 同旅館のブックラウンジが、福島市におけるアニメ・漫画文化の情報発信地となっていくかもしれない。 漫画以外にもアニメ、ゲームを愛する〝オタク〟であることを隠さない畠社長。その熱量は思わぬ形で経済効果を生みつつある。それが「飯坂真尋ちゃん」の取り組みだ。 全国の温泉をモチーフとしたキャラクターをつくり、漫画・小説・音楽などを展開する「温泉むすめ」というプロジェクトがある。エンバウンド(東京都、橋本竜社長=郡山市出身)が手がける企画だが、その中で飯坂温泉代表として制作されたのが「飯坂真尋ちゃん」だった。 飯坂温泉観光協会に立ち寄ったファンの一言でその存在を知った畠社長。「地域を、温泉地を沸かせたい」という同プロジェクトの理念に共感し、公式に応援することを決めた。 青年部や地域を巻き込みながら、「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」を立ち上げ、2019年2月には、観光協会に等身大パネルを設置。地元商店とコラボしたデザインのイラストやオリジナルグッズも制作した。同年9月には架空のキャラクターながら飯坂温泉特別観光大使に就任し、担当声優の吉岡茉祐さんのトークイベントが開催された。 2020年に「真尋ちゃん音頭」のクラウドファンディングを実施したところ、全国のファンから約360万円の支援を受けた。2022年に行われた生誕祭では、さまざまなコラボデザインの中からお気に入りを選ぶ「飯坂真尋ちゃん総選挙」が行われた。畠社長によると、こうした企画ができるほど「温泉むすめ」のコラボデザインが作られた温泉地はほかにないという。 福島交通飯坂線の飯坂温泉駅前には「飯坂真尋ちゃん」の大きな看板が立てられた。温泉街の中にはラッピング自販機が設置され、「真尋ちゃん神社」が開設された。ついには、スマホのGPSやカメラと連動し、「飯坂真尋ちゃん」が声と動きで飯坂温泉をガイドしてくれるサービスが、観光庁の補助事業で展開された。架空のキャラクターが、現実に存在するアイドルのようになりつつある。 ファンと共に地域振興 飯坂真尋ちゃん(Ⓒ️ONSEN MUSUME PROJECT)  年1回の声優トークイベントには約800人のファンが訪れ、宿泊、飲食、土産品購入などでお金を落とす。地元の新聞・テレビも注目し、福島学院大学や地元企業とも連携。盛り上がりに対応するため、同プロジェクトでは1、2カ月に1回、会議を行い、地域内での連携を深めている。「飯坂真尋ちゃん」をきっかけとした好循環が広がっている。 「もともと温泉むすめは『温泉地の神様が地域を盛り上げるため、人の姿となって、アイドル活動をしている』という設定。『飯坂真尋ちゃん』はまさしく地域を盛り上げ、われわれに一体感・成功体験を与えてくれました」(畠社長) 活動を続けるうちに、「飯坂真尋ちゃん」をモチーフとした痛車(アニメキャラなどがあしらわれた車)やコスプレ、同人誌即売会など、さまざまな〝オタク向けイベント〟も開催されるようになった。これまでの活動を通して、〝オタクに理解がある温泉街〟として認識されたということだろう。 その中心にいたのは、〝オタク文化〟を愛し、誰よりも「飯坂真尋ちゃん」を推している畠社長だ。 「オタクは自分の趣味を静かに楽しむ一方で、関心がある分野への出資を惜しまないもの。温泉地にとってとても良いお客さんであり、先入観を持たずに多様な受け入れをしていく必要があります。今後もファンととともに、『飯坂真尋ちゃん』の取り組みを盛り上げ、地域振興につなげていきたいと思います」(同) かつて漫画家になる夢をあきらめた青年はいま、日本一〝オタク愛〟が深い温泉旅館の社長として、魅力的な旅館づくりと温泉街の振興に奔走している。 楽天トラベルで吉川屋の宿泊予約をする

  • 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」仙台高専5年生の高野結奈さん

    飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」

     福島市の名湯・飯坂温泉をまちづくりの観点から研究した建築家の卵がいる。仙台高専5年生の高野結奈さん(20)=伊達市梁川町=は「魅力があるのに生かし切れていない」というもどかしさから同温泉を卒業研究の対象に選んだ。アンケート調査から見えてきたのは、訪問者の行き先が固定している、すなわち回遊性に乏しいという課題だった。  高野さんが飯坂温泉に関心を寄せたきっかけは、高専4年生だった2021年9月に中学時代の友人と日帰り旅行で訪れた際、閑散とした温泉街にショックを受けたからだ。 「摺上川沿いに廃業した旅館・ホテルが並んでいるのが目につきました。ネットで『飯坂温泉』と検索すると『怖い』『廃墟』という候補ワードが出てきます。昔からの建物や温泉がたくさんあって、私たちは十分散策を楽しめたのに、『怖い』という印象を持たれてしまうのはもったいないと思ったんです」(高野さん) 高野さんは宮城県名取市にある仙台高専総合科学建築デザインコースで学んだ。都市計画に興味があり、建築士を目指している。 旧堀切邸で研究を振り返る高野さん。「まちづくりに生かしてほしい」と話す。  学んできたスキルを生かして、飯坂温泉のまちづくりに貢献できないかと卒業研究の対象に選んだ。文献を読む中で、温泉街を活性化させるには旅館・ホテルで朝夕食、土産販売、娯楽までを用意する従来の「囲い込み」から脱却し、「街の回遊性」をいかに高めるかが重要になっていることが分かった。 飯坂温泉を訪れる人はどのようなスポットに魅力を感じて散策しているのだろうか。回遊性を数値に表そうと、高野さんは温泉街の5カ所にアンケート協力を求めるチラシを置き、2022年8月から10月までの期間、ネット上の投稿フォームに答えてもらった。有効回答数は29件。結果は図の通り。円が大きいほど訪問者が多い場所だ。 出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」  豪農・豪商の旧家旧堀切邸と共同浴場波来湯の訪問者が多く、固定化している。つまり、この2カ所が回遊性のカギになっているということだ。一方、図の南西部は住宅地で観光スポットに乏しいことから、人の回遊は見られなかった。全4カ所ある足湯は男性より女性、高齢者より若者が利用することも分かった。 飯坂温泉の現状がデータで露わになった意義は大きい。 高野さんは飯坂温泉ならではの魅力をさらに見つけようと、別の温泉地に関する論文をあさった。小説家志賀直哉の『城の崎にて』で知られる城崎温泉(兵庫県豊岡市)を筆頭に秋保温泉(宮城県仙台市)、鳴子温泉(同大崎市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)の文献を読み込んだ。 比較する中で気づいた飯坂温泉の魅力が次の3点だ。 ①泉温が高く、湯量が豊富。源泉かけ流しの浴場が多い。 ②低価格で入れる共同浴場が多く、九つもある。 ③交通の便が良く、鉄道(福島交通飯坂線)が通っている。車でもJR福島駅から30分以内で着く。 「この3点は城崎温泉と共通します。同温泉は外国人観光客を呼び寄せて成功した事例に挙げられています。多数の源泉かけ流しと共同浴場という温泉街の基本が備わっています。電車で来られることで風情も加わり、鉄道マニアも引き付けます。これらは新しい温泉街では真似できない優位な点と言えます」(同) 魅力の一方で、高野さんが「飯坂温泉に足りないもの」として挙げるのが体験施設だ。 「例えば野沢温泉では、湧き出る温泉で野沢菜を湯がいたり、卵をゆでたりする体験ができます。材料一式も売っていて、誰でも手軽にできます。飯坂温泉も温泉玉子『ラジウム玉子』が名物ですが、現状はお土産として買うことはできても、その場で作ることはできない。買うだけでなく作れる体験施設があったら観光客に喜ばれ、同温泉の魅力向上にもつながるのではないか」(同) 魅力向上という意味では、川沿いの景観保持も欠かせないが、冒頭に述べた通り、飯坂温泉のネット上の評価は「怖い」というイメージが先行している。 「元気のある温泉街の共通点は川沿いの景色がきれいなことに気づきました。整備が大変なのは分かりますが、雑草だらけで手の加わっていない岸辺は温泉街全体の魅力を損ね、悪いイメージのもとになっていると思います」(同) 高野さんは2月、飯坂温泉街の都市計画を考えジオラマ(模型)にする卒業設計を提出した。ジオラマにはラジウム玉子作りを体験できる観光施設もある。 高野さんは3月に仙台高専を卒業し、アパートの設計・施工や経営を行う大手企業の設計部で働くことが決まっている。卒業研究で縁ができた飯坂温泉とは今後も関わりを持てればいいと思っている。 「新しい物を一から作るよりも、今ある物の良さを生かすリノベーションに興味があります。温泉街にあるアパートを改装し、湯治客向けの宿泊施設にするなどの動きが広まっていますが、そのような仕事で飯坂温泉に関わることができたらうれしいです」(同) 高野さんの研究はこれで一区切りだが、今後大切になるのは、若者が調べ上げたデータを温泉街の活性化にどう生かすかだ。あとは地元住民と観光業界、飯坂温泉観光会館「パルセいいざか」や共同浴場などの管理運営に当たる第三セクター・福島市観光開発㈱の取り組み次第だ。

  • 【飯坂】穴原温泉・吉川屋【畠正樹】社長が選んだ【おすすめマンガ】

     福島市飯坂町の穴原温泉・吉川屋では、4月1日、館内に名作漫画を並べたブックラウンジを開設した。同旅館の畠正樹社長(45)にラウンジ設置の狙いやおすすめ漫画、さらには飯坂温泉をモチーフとしたご当地キャラクター「飯坂真尋ちゃん」を用いた地域振興の取り組みについて語ってもらった。(志賀) 温泉旅館内の遊休施設を漫画コーナーに改装 ブックラウンジ「ふくろう」を紹介する畠社長  吉川屋は1841(天保12)年創業の温泉旅館。客室数126。天皇・皇后をはじめ皇室が利用する宿としても知られ、旅行新聞新社主催の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選2023」で全国総合11位に選ばれた人気の宿だ。 そんな同旅館の7代目社長・畠正樹社長は大の漫画好きで、4月1日には約4000冊の漫画を備えた宿泊者向けブックラウンジ「ふくろう」をオープンした。開設の狙いを畠社長はこのように語る。 「もともとは宿泊客の宴会の二次会で使われていたクラブだったが、コロナ禍前から稼働率が低く、景色が良い場所なので、もったいないと考えていました。コロナ禍で団体旅行から個人・少人数旅行への切り替えが急速に進む中、思い切ってクラブをなくし、かねてからの夢だった漫画専用のブックラウンジを整備することにしたのです」 福島市が観光関連事業者をサポートするために設けた「周遊スポット魅力アップ支援事業」に採択され、約1000万円かけてリニューアル。ブックラウンジと併せて、バーだった場所にはボルダリング設備を備えたファミリースペース「あそびば」を整備した。さらにフロント脇には、蛇口をひねるとモモやブドウ、リンゴなど季節ごとに違うジュースが味わえるジューススタンドを設置した。 フルーツジューススタンド  各施設のロゴやジューススタンドのイラストデザインは、福島学院大情報ビジネス学科の学生が担当した。 特筆すべきは、ブックラウンジの漫画は、畠社長自身が厳選したものだということ。「古本屋チェーンのブックオフを通してまとめ買いし、過去に読んで面白かったものを中心に選びました。和食や温泉に加え、日本の文化である漫画も旅館で楽しめるというコンセプトです。旅先で人生を変える1冊に出合うというのも、最高の体験だと思います」 実は畠社長、大学時代から本格的に漫画を描いており、出版社に持ち込みまでしていた異色の経歴の持ち主。果たしてどんな作品をセレクトしたのか。かつて夢中になった作品、衝撃を受けた作品などをいくつか紹介してもらった。 ①『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)既刊37巻 HUNTER×HUNTER 1posted with ヨメレバ冨樫 義博 集英社 1998年06月04日 楽天ブックスAmazonKindle  少年ゴン・フリークスとその仲間たちの活躍を描く冒険活劇。 「『面白い漫画』という点では間違いなく3本の指に入る。読者をワクワクさせる物語・伏線の作り方は神クラス。漫画にはさまざまな表現があるが、シンプルな面白さという点で頭一つ抜けています」 ②『BASTARD!!』(萩原一至、集英社)既刊27巻 BASTARD!! 1posted with ヨメレバ萩原 一至 集英社 1988年08月10日 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  魔法使いダーク・シュナイダーが戦い続けるファンタジー作品。 「物語もさることながら、圧倒的な画力による精密な作画は週刊連載レベルではない。中学生のころから読み始め、一番影響を受けた作品と言っても過言ではありません。『新世紀エヴァンゲリオン』が話題になる前から、宗教をテーマにしていたのも新しかったと思います」 ③『プラネテス』(幸村誠、講談社)全4巻 プラネテス(1)posted with ヨメレバ幸村誠 講談社 2001年01月22日 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  スペースデブリ(宇宙ごみ)の回収業に従事する青年が、自分と向き合いながら成長していく姿を描く、新感覚のSF作品。 「大学時代、漫画家を夢見てオリジナル作品を漫画誌編集部に持ち込んだが、評価されることはなく、『もっと人間を描け』とアドバイスされた。20歳そこそこで人間の深みなんて表現できるわけがない。人生に迷っているときに読んで心に染みました。青春を代表する1冊です」 「大河ドラマ超える傑作」 畠社長が挙げてくれたお薦め漫画 ④『ゴールデンカムイ』(野田サトル、集英社)全31巻 ゴールデンカムイ 1posted with ヨメレバ野田サトル 集英社 2015年01月19日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  明治末期の北海道・樺太を舞台に、アイヌの埋蔵金をめぐって戦うサバイバル漫画。 「漫画アプリで全巻無料になっているときに知って夢中で読み、本棚に入れることを決めました。徹底した時代考証でアイヌの文化を描きつつ、しっかりストーリーを盛り上げる。個人的には大河ドラマを超えた傑作。日本の漫画の価値は多様性にある、とあらためて感じました」 ⑤『攻殻機動隊』(士郎正宗、講談社)全3巻 攻殻機動隊(1)posted with ヨメレバ士郎 正宗 講談社 1991年10月02日 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  電脳化・サイボーグ技術が発達した未来の日本で、デジタル犯罪に対応する「公安9課」が奔走する物語。 「20年以上前の作品ですが、インターネットが発達した現在の問題を描いていることに驚かされます。アニメ版と合わせて多くのクリエイターに影響を与え、その遺伝子はさまざまな作品に引き継がれている。そういう意味では、日本の漫画・アニメ文化を象徴する作品です」 これ以外にもさまざまな作品を選び、熱い思いを語ってくれた畠社長(写真参照)。ブックラウンジのソファーにはスマホなどが充電できるUSBポートが設置されており、時間を気にせず快適に過ごすことができる。まさに漫画好きの畠社長の理想が反映されていると言える。 今後の展望に関しては「自分の思い出の1冊に再会すると自然と会話が広がるもの。漫画好きな人同士がコミュニケーションを取る場、新たな作品と出合う場になってほしいです。イベントや朗読会の場として活用することも検討していきたい」と明かした。 同旅館のブックラウンジが、福島市におけるアニメ・漫画文化の情報発信地となっていくかもしれない。 漫画以外にもアニメ、ゲームを愛する〝オタク〟であることを隠さない畠社長。その熱量は思わぬ形で経済効果を生みつつある。それが「飯坂真尋ちゃん」の取り組みだ。 全国の温泉をモチーフとしたキャラクターをつくり、漫画・小説・音楽などを展開する「温泉むすめ」というプロジェクトがある。エンバウンド(東京都、橋本竜社長=郡山市出身)が手がける企画だが、その中で飯坂温泉代表として制作されたのが「飯坂真尋ちゃん」だった。 飯坂温泉観光協会に立ち寄ったファンの一言でその存在を知った畠社長。「地域を、温泉地を沸かせたい」という同プロジェクトの理念に共感し、公式に応援することを決めた。 青年部や地域を巻き込みながら、「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」を立ち上げ、2019年2月には、観光協会に等身大パネルを設置。地元商店とコラボしたデザインのイラストやオリジナルグッズも制作した。同年9月には架空のキャラクターながら飯坂温泉特別観光大使に就任し、担当声優の吉岡茉祐さんのトークイベントが開催された。 2020年に「真尋ちゃん音頭」のクラウドファンディングを実施したところ、全国のファンから約360万円の支援を受けた。2022年に行われた生誕祭では、さまざまなコラボデザインの中からお気に入りを選ぶ「飯坂真尋ちゃん総選挙」が行われた。畠社長によると、こうした企画ができるほど「温泉むすめ」のコラボデザインが作られた温泉地はほかにないという。 福島交通飯坂線の飯坂温泉駅前には「飯坂真尋ちゃん」の大きな看板が立てられた。温泉街の中にはラッピング自販機が設置され、「真尋ちゃん神社」が開設された。ついには、スマホのGPSやカメラと連動し、「飯坂真尋ちゃん」が声と動きで飯坂温泉をガイドしてくれるサービスが、観光庁の補助事業で展開された。架空のキャラクターが、現実に存在するアイドルのようになりつつある。 ファンと共に地域振興 飯坂真尋ちゃん(Ⓒ️ONSEN MUSUME PROJECT)  年1回の声優トークイベントには約800人のファンが訪れ、宿泊、飲食、土産品購入などでお金を落とす。地元の新聞・テレビも注目し、福島学院大学や地元企業とも連携。盛り上がりに対応するため、同プロジェクトでは1、2カ月に1回、会議を行い、地域内での連携を深めている。「飯坂真尋ちゃん」をきっかけとした好循環が広がっている。 「もともと温泉むすめは『温泉地の神様が地域を盛り上げるため、人の姿となって、アイドル活動をしている』という設定。『飯坂真尋ちゃん』はまさしく地域を盛り上げ、われわれに一体感・成功体験を与えてくれました」(畠社長) 活動を続けるうちに、「飯坂真尋ちゃん」をモチーフとした痛車(アニメキャラなどがあしらわれた車)やコスプレ、同人誌即売会など、さまざまな〝オタク向けイベント〟も開催されるようになった。これまでの活動を通して、〝オタクに理解がある温泉街〟として認識されたということだろう。 その中心にいたのは、〝オタク文化〟を愛し、誰よりも「飯坂真尋ちゃん」を推している畠社長だ。 「オタクは自分の趣味を静かに楽しむ一方で、関心がある分野への出資を惜しまないもの。温泉地にとってとても良いお客さんであり、先入観を持たずに多様な受け入れをしていく必要があります。今後もファンととともに、『飯坂真尋ちゃん』の取り組みを盛り上げ、地域振興につなげていきたいと思います」(同) かつて漫画家になる夢をあきらめた青年はいま、日本一〝オタク愛〟が深い温泉旅館の社長として、魅力的な旅館づくりと温泉街の振興に奔走している。 楽天トラベルで吉川屋の宿泊予約をする

  • 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」

     福島市の名湯・飯坂温泉をまちづくりの観点から研究した建築家の卵がいる。仙台高専5年生の高野結奈さん(20)=伊達市梁川町=は「魅力があるのに生かし切れていない」というもどかしさから同温泉を卒業研究の対象に選んだ。アンケート調査から見えてきたのは、訪問者の行き先が固定している、すなわち回遊性に乏しいという課題だった。  高野さんが飯坂温泉に関心を寄せたきっかけは、高専4年生だった2021年9月に中学時代の友人と日帰り旅行で訪れた際、閑散とした温泉街にショックを受けたからだ。 「摺上川沿いに廃業した旅館・ホテルが並んでいるのが目につきました。ネットで『飯坂温泉』と検索すると『怖い』『廃墟』という候補ワードが出てきます。昔からの建物や温泉がたくさんあって、私たちは十分散策を楽しめたのに、『怖い』という印象を持たれてしまうのはもったいないと思ったんです」(高野さん) 高野さんは宮城県名取市にある仙台高専総合科学建築デザインコースで学んだ。都市計画に興味があり、建築士を目指している。 旧堀切邸で研究を振り返る高野さん。「まちづくりに生かしてほしい」と話す。  学んできたスキルを生かして、飯坂温泉のまちづくりに貢献できないかと卒業研究の対象に選んだ。文献を読む中で、温泉街を活性化させるには旅館・ホテルで朝夕食、土産販売、娯楽までを用意する従来の「囲い込み」から脱却し、「街の回遊性」をいかに高めるかが重要になっていることが分かった。 飯坂温泉を訪れる人はどのようなスポットに魅力を感じて散策しているのだろうか。回遊性を数値に表そうと、高野さんは温泉街の5カ所にアンケート協力を求めるチラシを置き、2022年8月から10月までの期間、ネット上の投稿フォームに答えてもらった。有効回答数は29件。結果は図の通り。円が大きいほど訪問者が多い場所だ。 出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」  豪農・豪商の旧家旧堀切邸と共同浴場波来湯の訪問者が多く、固定化している。つまり、この2カ所が回遊性のカギになっているということだ。一方、図の南西部は住宅地で観光スポットに乏しいことから、人の回遊は見られなかった。全4カ所ある足湯は男性より女性、高齢者より若者が利用することも分かった。 飯坂温泉の現状がデータで露わになった意義は大きい。 高野さんは飯坂温泉ならではの魅力をさらに見つけようと、別の温泉地に関する論文をあさった。小説家志賀直哉の『城の崎にて』で知られる城崎温泉(兵庫県豊岡市)を筆頭に秋保温泉(宮城県仙台市)、鳴子温泉(同大崎市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)の文献を読み込んだ。 比較する中で気づいた飯坂温泉の魅力が次の3点だ。 ①泉温が高く、湯量が豊富。源泉かけ流しの浴場が多い。 ②低価格で入れる共同浴場が多く、九つもある。 ③交通の便が良く、鉄道(福島交通飯坂線)が通っている。車でもJR福島駅から30分以内で着く。 「この3点は城崎温泉と共通します。同温泉は外国人観光客を呼び寄せて成功した事例に挙げられています。多数の源泉かけ流しと共同浴場という温泉街の基本が備わっています。電車で来られることで風情も加わり、鉄道マニアも引き付けます。これらは新しい温泉街では真似できない優位な点と言えます」(同) 魅力の一方で、高野さんが「飯坂温泉に足りないもの」として挙げるのが体験施設だ。 「例えば野沢温泉では、湧き出る温泉で野沢菜を湯がいたり、卵をゆでたりする体験ができます。材料一式も売っていて、誰でも手軽にできます。飯坂温泉も温泉玉子『ラジウム玉子』が名物ですが、現状はお土産として買うことはできても、その場で作ることはできない。買うだけでなく作れる体験施設があったら観光客に喜ばれ、同温泉の魅力向上にもつながるのではないか」(同) 魅力向上という意味では、川沿いの景観保持も欠かせないが、冒頭に述べた通り、飯坂温泉のネット上の評価は「怖い」というイメージが先行している。 「元気のある温泉街の共通点は川沿いの景色がきれいなことに気づきました。整備が大変なのは分かりますが、雑草だらけで手の加わっていない岸辺は温泉街全体の魅力を損ね、悪いイメージのもとになっていると思います」(同) 高野さんは2月、飯坂温泉街の都市計画を考えジオラマ(模型)にする卒業設計を提出した。ジオラマにはラジウム玉子作りを体験できる観光施設もある。 高野さんは3月に仙台高専を卒業し、アパートの設計・施工や経営を行う大手企業の設計部で働くことが決まっている。卒業研究で縁ができた飯坂温泉とは今後も関わりを持てればいいと思っている。 「新しい物を一から作るよりも、今ある物の良さを生かすリノベーションに興味があります。温泉街にあるアパートを改装し、湯治客向けの宿泊施設にするなどの動きが広まっていますが、そのような仕事で飯坂温泉に関わることができたらうれしいです」(同) 高野さんの研究はこれで一区切りだが、今後大切になるのは、若者が調べ上げたデータを温泉街の活性化にどう生かすかだ。あとは地元住民と観光業界、飯坂温泉観光会館「パルセいいざか」や共同浴場などの管理運営に当たる第三セクター・福島市観光開発㈱の取り組み次第だ。