ticker
注文のご案内
注文のご案内
二本松市の本多俊昭市議(63、4期)が所有地に廃棄物を運び込んで一部を焼却処分したとして、市の担当課から注意されていたことが分かった。本多市議は反省の意を示しているが、近隣住民はこの間の言動も含めてその対応に不信感を募らせており、議員辞職を求めている。 議員辞職を宣言もあっさり「撤回」 本多市議は福島農蚕高卒。同市南部の舘野原(杉田地区)在住で、農業に従事している。2022年6月の二本松市議選(定数22)では1470票を獲得して4位当選。令和創生の会に所属し、執行部(三保市政)を厳しく監視・追及するスタンスを貫いているが、ここ2年は1年に1回代表質問で登壇するだけで、一般質問はしていない。 そんな本多市議について、「所有地に廃棄物を不法投棄し、野焼きしていたとして近隣住民とトラブルになっている」とウワサが流れている。 真相を確認するため、市内で聞き込みをしたところ、本多市議とトラブルになっている近隣住民Aさんにたどり着いた。 Aさんはこのように明かす。 「同市箕輪の人通りのない場所に、本田市議が所有する農地がある。昨年6月ごろ、その場所に選挙で使った腕章や布団などを捨て始めた。隣接する私の土地にも侵入していたため、撤去を求めたのですが、少し場所をずらしただけで、その後も放置されたままになっていました」 しばらくすると、近くにあるAさんの自宅にスズメバチが飛んで来るようになった。「廃棄物に巣を作られてはたまらない」とAさんは3度にわたり市に「本多市議に撤去させてほしい」と相談。市が指導に入り、1カ月ほど経ったころ、その場でそれらの一部を燃やし始めたという。 布団などが仮置きされた本多市議の所有地 焼却している様子 「近隣に住む私に何の連絡もなく焼却し始めたので驚きました。幸い周辺の木には延焼しませんでしたが、危ない行為でした」(Aさん) 廃棄物処理法第5条では「土地又は建物の占有者は、その占有し、又は管理する土地又は建物の清潔を保つように努めなければならない」と定められており、行政機関では「廃棄物の一時保管」と称して廃棄物を放置したままにしないように呼びかけている。 また、同法第16条の2では、悪臭やダイオキシン類の発生原因となることから、災害ゴミの処分やどんど焼きなどの例外を除いて野外焼却を禁止している。市が配布しているチラシでも「地面の上で直接ゴミを燃やすこと」について「次のような焼却行為は法律に違反しますので罰せられることがあります」と注意を呼び掛けている。 本多市議は公職に就いているにもかかわらず、こうした違反行為を平然と行っていたわけ。なお、焼却されたのは一部で、残りは本多市議の別の所有地に移動されたという。 Aさんによると、本多市議は当初、誤りを認め、深く反省しているとして、市議会3月定例会終了後に議員辞職する考えを明かしていた。Aさんはトラブル防止のため、会話の様子を「秘密録音」し、記録に残していることを明かす。 「ところが、3月定例会終了後に電話すると『弁護士に相談したら不法投棄に当たらないし、議員を辞職する必要はないと言われたので、議員活動を続ける』と、あっさり前言撤回したから呆れました。こういう人物の言うことは信用できないし、議員にはふさわしくないと思いますよ」(Aさん) 本多市議を直撃 本多市議は近隣住民のこうした声をどのように受け止めているのか。舘野原の自宅を訪ねたところ、本人が取材に応じた。 ――自分の所有地に廃棄物を捨て、その場で燃やしていたと聞いた。 「廃棄物ではなく、自宅の片付けで出た不要物をごみに出す前に〝仮置き〟していた。ただ、一部を所有地で燃やしたのは事実だ」 ――廃棄物処理法で野焼きが禁止されていることを知らなかったのか。 「ちょっとした判断ミスで、深く認識せずにやった。反省して、弁護士の先生に相談したところ、『そこまでのアレじゃないし、深く考えない方がいい』とアドバイスされた。県の人権擁護委員会の先生、法徳寺の住職にも相談したが、『議員を辞めるまでには至らない』との意見をもらったので、議員活動を続けることにした」 ――いま思うことは。 「議員という立場上、その行動がいろいろな人に見られていることをあらためて自覚したうえで、引き続き議員活動に取り組んでいく」 同市生活環境課によると、Aさんからの連絡を受けて後日、同課職員が現地を確認し、本多市議に厳重注意を行ったという。そもそもごみに出す予定で〝野ざらし〟で農地に置いておいた不要物を「仮置きしていた」という言い分は苦しい。 現地は細い農道を通ってしか入れない場所にあり、ほとんど人通りがない。そんな土地で、公職に就く人が近隣住民に声もかけず自宅の不要物を焼却するのは、客観的に見ても異様に映る。「人の目がないところで何か不都合なものを処分しようとしているのではないか」、「所有地をごみ捨て場代わりに使っていたのではないか」と疑われても仕方ないだろう。 複数の関係者によると、狭い地域の話がウワサとなって市内に広まった背景には▽地縁団体などに推されない形で当選した本多市議と一部の地元住民との確執、▽議会で三保市政の批判を続けており、三保市長の支持者から敵視されている――といった事情も影響しているという。 本多市議とAさんは、土地境界線をめぐって以前からもめているようで、今回のトラブル発生後、逆にAさんが誤って本多市議の所有地の木を無断伐採していたことも発覚したという。そうした経緯もあってか、互いに感情的になっているように見える。 Aさんは廃棄物の撤去を求め、同市生活環境課と二本松署に連絡したが、動きは鈍く、現場を確認した様子は見られなかったという(※)。早い段階で行政機関が対応しなかったことが、結果的に事態を悪化させたとも考えられる。 本多市議は「近所付き合いもあるし、大ごとになればこちらも主張しなければならないことが出てくる。記事にはしてほしくない」と言うが、Aさんは逆に「この事実を多くの人に知ってほしい」と話している。議員として地元住民と良好な関係を築いていくことが求められるが、関係修復は容易でなさそうだ。 ※市生活環境課は「Aさんから通報を受けたので後日当事者(本多市議)に電話して注意した。所有地における廃棄物の捉え方については、グレーな面がある」、二本松署は「個別の案件についてはお答えできない」と回答している。
5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」になった。これに伴い、法律に基づく外出自粛や行動制限などが発せられることがなくなり、イベントや観光などの機運が高まっている。「5類」移行の影響はどうなのか、会津若松市観光業の状況を探った。 夏休み、秋のシーズンに期待 東山温泉 会津若松市を取材対象にした理由は、1つはデータの取りまとめが非常に早いこと。速報値ではあるものの、7月中旬に同市観光課に問い合わせると、すでに市内観光各所の6月分のデータがまとめられていた。 それだけ、行政の観光セクションがしっかりしており、行政と観光関連施設などの連携が図れている証拠だろう。見方を変えると、同市において観光業はそれだけ大きな産業で、観光業の浮沈が市内経済に大きな影響を及ぼすということでもある。それが同市を取材対象にしたもう1つの理由だ。 別表はコロナ前の2019年、コロナの感染拡大が顕著になった2020年、昨年、今年の上半期(1〜6月)の同市内の主な観光地の入り込み数・利用者数をまとめたもの(市観光課調べのデータを基に本誌作成、2023年は速報値)。 鶴ヶ城天守閣 2019年2020年2022年2023年1月1万8387人2万4751人1万0174人7205人2月2万0880人2万6234人7144人6537人3月2万9821人2万0491人1万4766人1万1370人4月7万9325人4170人3万5654人5万0713人5月7万5462人1130人4万8486人6万5887人6月5万1127人9672人4万0344人5万2626人計27万5002人8万6376人15万6568人19万4338人 麟閣(※鶴ヶ城公園内の茶室) 2019年2020年2022年2023年1月1万1900人1万4287人6962人4755人2月1万0835人1万2529人5064人4161人3月2万0285人1万4943人1万0477人8577人4月4万8042人3419人2万4150人3万2038人5月4万5159人827人3万0558人3万7735人6月2万2326人7706人1万6832人2万1800人計15万8547人5万3711人9万4043人10万9066人 御薬園 2019年2020年2022年2023年1月1261人2213人594人908人2月2593人2607人470人2153人3月2308人1500人1136人2191人4月5181人389人3010人3895人5月6512人155人4488人5235人6月4633人1466人3379人4101人計2万2488人8330人1万3077人1万8483人 県立博物館 2019年2020年2022年2023年1月1179人1659人1377人1942人2月2336人2967人3660人4167人3月3825人2291人2806人4162人4月6134人551人4082人4227人5月9892人609人1万2169人1万0687人6月1万0159人2546人1万2071人未集計計3万3525人1万0623人3万6165人2万5185人 東山温泉 2019年2020年2022年2023年1月3万4278人3万7793人2万8225人2万6311人2月3万3921人3万0388人1万5224人2万5665人3月5万2957人2万9279人2万6612人4万3381人4月4万1440人7512人3万6629人3万7387人5月3万9746人3482人4万1143人4万1203人6月4万3744人1万1884人3万3535人4万4489人計24万6086人12万0338人18万1368人21万8436人 芦ノ牧温泉 2019年2020年2022年2023年1月1万4238人1万6680人8625人9455人2月1万7638人1万9828人4952人1万0936人3月1万7064人1万1310人8785人1万3185人4月1万9578人3629人1万1306人1万1481人5月1万7727人80人1万1805人1万3545人6月1万8876人3732人9607人1万1449人計10万5121人5万5259人5万5080人7万0051人 民間施設 2019年2020年2022年2023年1月1万0884人1万2945人6480人7555人2月1万4400人1万4332人5366人9545人3月2万1821人1万3104人1万1366人2万2551人4月4万6851人3915人2万3504人3万0787人5月5万9000人268人4万2305人4万8743人6月5万3130人6498人4万2789人4万7319人計20万6086人5万1062人13万1810人16万6500人※武家屋敷、白虎隊記念館、駅cafe、日新館、 飯盛山スロープコンベア、会津ブランド館、会津村の合計 コロナの感染拡大が顕著になった2020年は前年比(コロナ前)で大幅なマイナスになっている。コロナ感染が国内で初めて確認されたのが2020年1月、本格的に影響が出てきたのが2月末ごろ。それを裏付けるように、同年3月は前年同月比で30〜40%減、4月は80〜90%減、5月は90%以上の減少となっている。 同年4月17日、全国に緊急事態宣言が出され、鶴ヶ城天守閣、茶室麟閣、御薬園の主要観光施設は4月18日から5月27日まで休館した。例年同時期に開催されていた「鶴ヶ城さくらまつり」も中止になった。ゴールデンウイークの書き入れ時がゼロになったのだ。 観光客の激減は、その分だけマーケットが縮小したことになり、観光業を生業としている関係者は大きな影響を受けた。それはすなわち、収入減にほかならず、結果、あらゆる分野において地域内の消費が減るといった事態を招く。そうした点からも、同市にとって重要な産業である観光業の立て直しは、大きな課題になっていた。 そんな中、昨年はコロナ直後からだいぶ回復しており、さらに今年はコロナ前には及ばないまでも、かなり戻っていることがうかがえる。施設にもよるが、少ないところで70%程度、多いところでは90%近くまで戻っている。 コロナ前以上の鶴ヶ城 5類移行後はコロナ前を上回る入場者となっている鶴ヶ城天守閣 月別に見ると、5類移行後の今年5、6月はコロナ前に近い数字か、施設によってはコロナ前を上回っている。これは5類移行の影響と見ていいのか。 「『5類』に移行したのはゴールデンウイーク明けで、その後は観光地にとって〝平時〟だったこともあり、正直、よく分からないですね。一昨年、昨年よりは良くなったのは間違いありませんが、徐々に戻ってきている延長線上と捉えるべきなのか、5類移行の影響なのかは測りがたい。これから夏休み、秋の観光シーズンになってどう動くかでしょうね」(市内の観光業関係者) こうした見方がある一方で、「やはり、5類移行の影響は大なり小なりあると思いますよ。『いままでは旅行を控えていたけど、制約がなくなったことだし、出かけてみようか』という気になるでしょうから」(別の観光業関係者)との声もあった。 さらにはこんな見方も。 「いい意味で、5類移行の影響はあると思います。ただ、それによって、海外旅行への制限・制約もなくなりますから、『これまでは近場、国内で我慢していたけど、せっかくだから海外に行こうか』という人も今後は増えてくると思います。もっとも、5類移行とは関係なく、いつの時代も、海外を含めたほかの観光地との競争があることは変わりませんけどね。その中で、どうやって人を呼び込むかということです」(温泉地の関係者) 共同通信配信のネット記事(7月11日配信)によると、海外旅行については、まだまだ不安が大きいとのアンケート結果が出ているという。以下は同記事より。 《調査会社インテージ(東京)が(7月)11日発表した夏休みの意識調査によると、半数が海外旅行に「不安」があると答えた。今夏に海外旅行を予定しているのは2・0%。昨夏(0・8%)より増えたが、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行しても渡航に慎重な人が多いようだ。全国の15~79歳のモニターを対象にインターネットで6月26~28日にアンケートを実施。2513人から回答を得た。海外旅行に関し、27・7%が「不安がある」、23・2%は「やや不安がある」とした。「不安はない」は9・5%、「あまり不安はない」が11・1%だった》 こうしたアンケートを見ると、5類移行後、すぐに海外旅行に行く人は少なそうだが、今後はそういった需要も増えてくるだろう。逆に海外から来る人も増えるから、温泉地の関係者が語っていたように、「海外を含めたほかの観光地との競争の中で、どうやって人を呼び込むか」に尽きよう。 鶴ヶ城天守閣、麟閣、御薬園を運営する会津若松観光ビューローによると、「(5類移行で)やはり雰囲気的に違う」としつつ、「その中でも、以前とは様相が変わってきている」という。 「鶴ヶ城天守閣は、5類移行後の今年6月と7月途中(本誌取材時の7月中旬)までは、2019年同月比で来場者数が100%を超えています。詳細を見ると、教育旅行は例年並みで、それ以外の団体ツアー客はコロナ前には戻っていません。その分、個人客が増えています。外国人も増えていますが、それについても以前のような団体ツアーではなく、数人でレンタカーを借りて、といった形が増えています」(同ビューローの担当者) 鶴ヶ城天守閣は昨年10月から今年4月27日まで、リニューアル工事を行っており、4月末からの大型連休に合わせて再オープンした。そのため、「新しくなった鶴ヶ城に行ってみよう」と、地元・近場の人の来場があったようだ。そういった事情から、6月、7月途中(本誌取材時)まではコロナ前(2019年)より来場者が増えた背景もあるが、①団体ツアー客が減り個人客が増えた、②その傾向は外国人も同様――といった状況だという。 ほかの観光施設の関係者などに聞いても、似たような傾向にあるようで、それがこれからしばらくの観光の主流になってくるのだろう。「ウィズコロナ的観光需要」といったところか。 夏以降の感染拡大に注意 こうして聞くと、5類移行後は多少なりとも状況が変わっていると言えそうだが、夏休みや秋の観光シーズンの動きはどうか。 「コロナ禍以降は、(観光客のコロナ感染や濃厚接触の疑いなどで)突然のキャンセルのリスクがあるため、あまり先の予約を取らないようになっています。そのため、各施設の夏休みや秋の観光シーズンの動き、予約状況などはつかめていません」(市観光課) 「鶴ヶ城は予約して来られる方は少ないので、夏休みや秋の観光シーズンの見通しはまだ何とも言えませんが、5類移行後はコロナ前(2019年)と同等かそれ以上の方に来ていただいているので、期待はしています」(前出・会津若松観光ビューローの担当者) 「予約してくる人は少ないので、まだ何とも分からないが、少なくとも夏休みの出だしとしては、昨年よりはいいと思います」(観光施設近くの土産店) 「だいぶ戻っているのは間違いありませんが、5類移行後、夏休みに向けては普通に推移している、といったところでしょうか。コロナ禍で受けたダメージが大きいので、それを補うにはまだまだ時間がかかると思います」(東山温泉観光協会) 観光業界関係者の多くが今後に向けて、期待を抱いていることがうかがえた。 一方で、温泉旅館・ホテルではこんな問題も抱えている。温泉旅館・ホテルでは、コロナ禍に従業員を整理したところが多い。その後、ある程度、宿泊客が戻ってきた段階で再度、従業員の募集をかけたが、なかなか応募がない、といった状況に陥っているという。当然、従業員にも生活があるから、温泉旅館・ホテルで仕事がないとなれば、別の業種に就くだろう。そんな事情もあって、人手が足らずキャパいっぱいまで宿泊客を入れられないところもあるというのだ。 コロナの後遺症とも言える状況だが、今後は受け入れる側も、コロナで崩れた体制を整え、平常運転ができるようにしていく必要があるということだろう。 一方で、感染症法上の位置付けが変わったとしても、コロナがなくなったわけではない。 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の7月7日の会合では、「新規患者数は、4月上旬以降緩やかな増加傾向となっており、5類移行後も7週連続で増加が継続している」と報告された。 そのうえで、「今後の見通し」として次のように指摘している。 ○過去の状況等を踏まえると、新規患者数の増加傾向が継続し、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある。また、感染拡大により医療提供体制への負荷を増大させる場合も考えられる。 ○自然感染やワクチン接種による免疫の減衰や、より免疫逃避が起こる可能性のある株の割合の増加、また、夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要。 「夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」、「夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要」と指摘しており、夏休みシーズン後のコロナの感染状況にも注意が必要だ。
数年前から突如として囁かれるようになった玄葉光一郎衆院議員(59)の「知事転身説」。背景には野党暮らしが長くなり、このまま期数を重ねても出世の見込みが薄いため「政治家として新たなステージを目指すべきだ」という支持者の思いがある。内堀雅雄知事(59)の3期目の任期満了日は2026年11月11日。次の知事選まで3年余り、玄葉氏はいかに行動するのだろうか。本人に真意を聞いた。 首相になれない状況を悲嘆する支持者 玄葉氏の知事転身説を耳にするようになったのは、内堀氏が再選を果たした2018年の知事選が終わってからだろうか。 「内堀知事は2期目で復興の道筋をつけ、3期目を目指す気はないようだ」 こう訳知り顔で話す人に、筆者は何人も会ったが、では、その人たちが何か根拠があって話していたのかというとそうではない。政治談議は時に、あれこれ言い合うから盛り上がるわけで「誰かが『2期で終わるんじゃないか』と言っていた」「オレもそう思う」などと話しているうちにそれがウワサとなって広まり、いつの間にか「定説」として落ち着くのはよくあることだ。 ならば、内堀知事が2期8年で引退するとして「次の知事は誰?」となった時、多くの人が真っ先に思い浮かべたのが玄葉氏だったと推測される。 なぜか。 一般的に「次の市町村長は誰?」となれば、大抵は副市町村長、市町村議会議長、地元選出県議などの名前が挙がる。同じように「次の知事は誰?」となれば、副知事、官僚、国会議員などが有力候補になる。 消去法で見ていこう。 現在の鈴木正晃、佐藤宏隆両副知事は、総務部長などを歴任したプロパーで、優秀なのかもしれないが知名度はない。 官僚は、探せばいくらでも見つかるし、政治家転身への意欲を持つ官僚もいるが、内堀氏が総務省出身であることを踏まえると、2代続けて〝官僚知事〟は抵抗がある。 内堀雅雄知事 残る国会議員は元参院議員の増子輝彦氏(75)や荒井広幸氏(65)の名前を挙げる人もいたが、民間人としてすっかり定着し、年齢も加味すると現実的ではない。 というわけで現職の国会議員を見渡した時、多くの人が「最適」と考えたのが玄葉氏だったのだろう(誤解されては困るが、本誌は玄葉氏が知事に「適任」と言っているのではない。多くの人が「最適」と考える理由を探っているだけである)。 理由を探る前に、玄葉氏の政治家としてのルーツを辿る。 玄葉光一郎衆院議員 1964年、田村郡船引町(現田村市)に生まれた玄葉氏は、父方の祖父が鏡石町長、母方の祖父が船引町長、のちに結婚する妻は当時の佐藤栄佐久知事の二女と、幼少のころから政治と縁の深い家庭環境に身を置いてきた。 安積高校、上智大学法学部を卒業後は政治家を志し、松下政経塾に入塾(8期生)。4年間の研修・実践活動を経て1991年の福島県議選に立候補し、県政史上最年少の26歳で初当選を果たす。県議会では自民党に所属したが、わずか2年で県議を辞職。その年(93年)の衆院選に福島2区(中選挙区、定数5)から無所属で立候補し、並み居る候補者を退け3位で議員バッジを手にした。 当選後は自民党を離党、新党さきがけに所属した。以降は旧民主党、民主党、民進党、無所属(社会保障を立て直す国民会議)、立憲民主党と連続当選10回の議員歴は、民主党が一度は政権交代を果たし、玄葉氏も外務大臣や内閣府特命担当大臣、党政策調査会長などの要職を務めたものの、野党に身を置く期間が9割近くを占める。 それでも、選挙では無類の強さを発揮してきた。初めて小選挙区比例代表並立制が導入された1996年の衆院選こそ選挙区で荒井広幸氏に敗れ、比例復活当選に救われたが、次の衆院選で荒井氏とコスタリカを組む穂積良行氏を破り、次の次の衆院選で荒井氏も退けると、以降は対立候補を大差で退けてきた。もちろん玄葉氏の背後に、当時絶大な権勢を誇った岳父・佐藤栄佐久知事の存在があったことは言うまでもない。 しかし、栄佐久氏が県政汚職事件で失脚し、前々回、前回の衆院選では自民党の上杉謙太郎氏(48、2期、比例東北)に追い上げられたことからも分かるように、かつてのいかに得票数を増やすかという攻めの選挙から、近年はいかに得票数を減らさないかという守りの選挙に変わっていった。それもこれも野党議員では政府への陳情が通りにくい中、久しぶりに誕生した与党議員(上杉氏)に期待する有権者が増えていた証拠だろう。 旧福島3区では、選挙区は玄葉氏の名前を書くが、比例区は自民党に投票する、あるいは県議選や市町村議選は自民系の候補者を推すという〝ねじれ現象〟が長く続いている。原因は玄葉氏の政治家としての出発点が自民党で、佐藤栄佐久氏も同党参院議員を務めていたから。野党暮らしが長いとはいえ、支持者たちも元はと言えば自民党なのである。 そうした中で聞こえるのが「新党さきがけに行かず、自民党に留まっていれば……」と落胆する声だ。今の玄葉氏は、野党に身を置いたからこそ存在するわけで「たられば」の話をしても仕方ないのだが、根っこが自民党だけに残念がる人が多いのは理解できる。 なぜなら、仮に自民党で連続10回当選を重ねれば、主要閣僚はもちろん総理大臣に就いている可能性もあったからだ。来年還暦の玄葉氏はその若さも魅力になったはず。 ただ如何せん野党の身では、総理大臣は夢のまた夢。ならば政権交代を成し遂げるしかないが、政策の一致点が見いだせない野党はまとまる気配がない。玄葉氏が所属する立憲民主党も支持率が低迷し、野党第一党の座も危うい。選挙でも上杉氏に徐々に迫られている。 だから、支持者からは「このまま野党議員を続けていても展望が開けない」という本音が漏れるようになっていたし、それが次第に「いっそのこと、政治家として新たなステージを目指した方がいい」という期待へと変わっていったのだろう。 陳情受け付けに消極的 とはいえ、もし玄葉氏が知事選に立候補するとなった時、衆院議員としてどのような実績を残したかは冷静に見極める必要がある。 震災・原発事故当時、玄葉氏は外務大臣をはじめ民主党政権の中枢にいたが、地盤の旧3区をはじめ福島県に何をもたらしたか。玄葉氏はもともと、陳情をおねだりと評し「そういうことは避けた方がいい」と語っていた(※)。昔からの支持者も「玄葉君は若いころから(陳情の受け付けに)消極的だった」と認めている。 ※河北新報(2008年3月17日付)のインタビューで 「おねだり主義」という言葉を使っている。 上杉氏の支持者からはこんな皮肉も聞こえてくる。 「旧3区内を通る国道4号は片側1車線の個所が未だに残っている。それさえ解消できていない人が知事と言われても……」 旧3区の石川郡の政治関係者は、同郡が新2区に組み込まれたことでこんな体験をしたという。 「新2区から立候補を予定する自民党の根本匠衆院議員(72、9期)に『この道路をこうしてほしい』『あの課題を何とかしたい』とお願いしたら、その場から担当省庁に電話し即解決への道筋が示されたのです。実力者に陳情すればこんなに早く解決するのかと驚いたと同時に、根本氏も『石川郡はこんな些細な課題も積み残されているのか』と嘆いていました」 陳情を受け付けることは選挙区への我田引水ではなく、県民生活を良くするための手段だ。玄葉氏が知事になれば県民にとってプラスと感じられなければ、地元有権者の「衆院議員から知事になっても変わらないんじゃない?」との見方は払拭できないのではないか。 こうしたミクロの視点と同時にマクロの視点で言うと、東北大学大学院情報科学研究科(政治学)の河村和徳准教授は本誌昨年10月号の中でこのように語っていた。 「問題は玄葉氏が知事選に出るとなった時、自公政権と正面から交渉できるかどうかです。政権はおそらく、玄葉氏が知事選に出たら『野党系の玄葉氏とは交渉できない』とネガティブキャンペーンを展開するでしょう」 政権に近い内堀知事が、原発事故の海洋放出問題で国を一切批判しないのは周知の通り。野党系の玄葉氏が知事になった時、自公政権に言うべきことは言いつつ、福島県にとって有意義な予算や政策を引き出せるかどうかは、知事としての評価ポイントになる。 「次の展望」 結局、内堀氏は2022年の知事選で3回目の当選を果たしたが、既にこのころには玄葉氏の知事転身説は頻繁に聞かれるようになっていた。 本誌2021年12月号でもこのように書いている。 《玄葉氏をめぐっては、このまま野党議員を続けても展望がなく、衆院区割り改定で福島県が現在の5から4に減れば3区が再編対象となる可能性が高いため、「次の知事選に挑むのではないか」というウワサがまことしやかに囁かれている。 「玄葉は内堀雅雄知事の誕生に中心的役割を果たした。その内堀氏を押し退け、自分が知事選に出ることはあり得ない」(玄葉事務所)》 玄葉氏が内堀氏の知事選擁立に中心的役割を果たしたのは事実だ。内堀氏が初当選した2014年の知事選の出陣式ではこう挨拶している。 「内堀雅雄候補と私は14年来の付き合いであり、この間、内堀さんの安心感と信頼感を与える仕事ぶりを見てきた。3・11以降、内堀候補は副知事として最も適切なタイミングで最も適切な対応をとってきた。県職員、市町村長からも絶大な信頼を受けている。県民総参加で県政トップに内堀雅雄候補を推し上げ、復興を成し遂げてもらいたい」 これほど強いフレーズで支持を呼びかけた内堀氏を自ら押し退けて知事に就くことは、玄葉事務所も述べているように確かにあり得ない。 ただ、内堀氏が今期で引退するとなれば話は別だ。政治家が自らの進退を早々に第三者に告げることは考えにくいが、内堀氏と玄葉氏は共に1964年生まれの同級生であり、玄葉氏が「14年来の付き合い」と語っているように両者が親しい関係にあるなら、阿吽の呼吸で「私の次はあなた」「あなたの次は私」と意思疎通が図られても不思議ではない。 実際、玄葉氏が知事選立候補を決意したのではないかと思わせる出来事もあった。 「10増10減」で福島県の定数が4に減った 馬場雄基衆院議員 衆院小選挙区定数「10増10減」で福島県の定数が4に減ったことを受け、旧3区選出の玄葉氏は次の衆院選では新2区から立憲民主党公認で立候補する予定。しかしその前段には、旧2区を地盤とする馬場雄基衆院議員(30、1期、比例東北)との候補者調整が難航した経緯がある。 立憲民主党県連は党本部に対し、現職の両者を共に当選させる狙いから、同党では前例のないコスタリカ方式を採用するよう打診した。しかし、党本部はこれを見送り、玄葉氏を選挙区、馬場氏を比例東北ブロックの名簿1位で擁立する方針を決定したが、玄葉氏が一度はコスタリカを受け入れたことに、選挙通の間ではある憶測が広まった。 あらためてコスタリカ方式とは、同じ選挙区に候補者が2人(A氏、B氏)いた場合、A氏が選挙区、B氏が比例区で立候補したら、次の衆院選ではB氏が選挙区、A氏が比例区に交代で回る方式である。ただ、比例区は政党名での投票で、全国的な著名人でもない限り顔と名前を覚えてもらえないため、コスタリカの当事者たちは必ず、自分の名前を書いてもらえる選挙区からの立候補を強く望む。 前述・自民党の荒井広幸氏と穂積良行氏がコスタリカを組み、玄葉氏にことごとく敗れたのは、名前を書いてもらえない比例区に回っている間に、玄葉氏が顔と名前を有権者に浸透させたことが影響している。 そんなコスタリカ方式の弊害を身を持って知る玄葉氏が、馬場氏との間で受け入れたとなったから、選挙通たちは「玄葉氏は最初に選挙区から立候補し、あとは知事選に挑むので、結局、比例区から立候補する状況にならない。だからコスタリカを受け入れたのではないか」と深読みし、知事転身説がより色濃くなったのである。 当の玄葉氏はどのように考えているのか。本誌は衆院解散もあり得るとされていた6月上旬、本人に質問し、次のようなコメントを得た。 「確かに皆さんのところを回っていると『首相になれないなら知事選に』と言われます。ただ、今後どうしていくかはこれからの話。いずれにしても、まずは次の総選挙です。選挙区で勝たないと、自分にとっての『次の展望』はない。選挙区で必ず勝つ。そうでないと『次の展望』もないと思っています」 「私たちの政権が続いたり、現政権がブレる可能性があれば逆に(知事転身を)言われないのかもしれませんね。今はそういう政局じゃないから(知事選と)言われるのかな。ま、なんて言ったらいいのか。うーん、それ以上のことは触れない方がいいかもしれませんね。はい、これからしっかり考えます」 含みを持たせるような発言だが、周囲から知事転身を勧められていることは認めつつ、自ら「目指す」とは言わなかった。 新2区でも〝ねじれ現象〟 ちなみに本誌には、支持者や立憲民主党関係者から「本人から『知事を目指す』と挨拶された」「いや、本人が『目指す』と言ったことは一度もない」という話が度々伝わってくるが、真偽は定かではない。 「選挙区で必ず勝つ」と発言している通り、玄葉氏は今、新2区の中心都市である郡山市内を精力的に歩いている。さまざまなイベントや会合に顔を出し、各種団体や事業所からも「×回目の訪問を受けた」との話を頻繁に聞く。玄葉氏自身も「当選がおぼつかなかった初期の選挙時並みに選挙区回りをしている」と語っている。 玄葉氏は郡山市(旧2区)に縁がないわけではない。母校は安積高校なので同級生や先輩・後輩は大勢いる。佐藤栄佐久氏も同市出身で政界を離れて17年経つが、今も存在する支持者が玄葉氏を推すとみられる。経済人の中にも旧3区時代から支えてきた人たちが一定数いる。 同じく新2区から立候補を予定する根本匠氏はそうした状況に強い危機感を抱いており、同区は与野党の大臣経験者が直接対決する全国屈指の激戦区として注目されるのは確実だ。玄葉氏が本気で知事を目指すなら次の衆院選は負けられないが、根本氏も息子の拓氏にスムーズに地盤を引き継ぐため絶対に負けられない戦いとなる。 根本匠衆院議員 ある建設業者からはこんな本音も聞かれる。 「今までは無条件で根本先生を支持してきた。ウチの事務所にも根本先生のポスターが張ってあるしね。でも、玄葉氏が出るとなれば話は変わってくる。国政レベルで考えれば与党の根本先生を推した方が断然得策。しかし玄葉氏は、今は野党だが将来、知事になる可能性がある。いざ『玄葉知事』が誕生した時、あの時の衆院選で玄葉氏を応援しなかったとなるのは避けたいので、次の衆院選は、表向きは根本先生を支持しつつ玄葉氏への保険もかけておきたいという業者は多いと思う」 旧3区で見られる〝ねじれ現象〟が新2区でも起こりつつある。知事転身説の余波と言えよう。 あわせて読みたい 【玄葉光一郎】衆議院議員インタビュー 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員
もし、祖父の代から住んでいる土地を正当な理由もなく追い出されそうになったら、万人が立ち向かえるだろうか。これは、会津若松市で監視カメラを武器に転売集団と闘い続けるある男の記録である。(敬称略) 監視カメラで転売集団に応戦 居住者のXに立ち退きを迫る太田正吾(左) 2023年3月9日午後2時45分ごろ、ブオンブオンとうなり声をあげた白のミニバンが、会津若松市馬場町にあるX(70代)の家の前の駐車場に入ってきた。 助手席から真っ黒に日焼けた顔にオールバック、ネクタイ姿、ベストを着た男が降りてきた。きちんとした身なりではあるが、発する言葉は荒っぽかった。 「俺、もう許さねえからな」 「この土地は俺が買ったんだから」 「あんまり怒らせんなよ! おらあっ!」 男はすたすたとミニバンの助手席に戻り、何やら書類を取り出して、体の前でひらひらして見せた。 「俺が買って持ってるからな」 ミニバンのボンネットに書類を広げてXに見せた。 「俺、最初に言ってんじゃん。買うよって」 Xによると、男は「この土地は全部、俺がYから2200万円で買った。今なら話に乗ってやる」と言ったという。Xは「脅す一方で二束三文の金をちらつかせて体よく追い出すつもりだな」と思った。Xが応じないと分かると、男は「不法入居者」と呼び、駐車場の利用者の名前が書かれている札や張り紙などを剥がして持ち去った。監視カメラの映像を見ると、確かに手に張り紙を持ち、画面内を移動する姿がある。 監視カメラのマイクには、「許さねえからな。俺、家ぶっ壊しちゃうからな」との発言や、Xが「居住権というのがあるから」と言ったのに対し、「ねえから」と即答したやり取りが収められていた。 Xが当日を振り返る。 「男は太田正吾と名乗りました。この日の前には不動産会社を連れて来ました。立ち退きを迫ろうと脅かしに来たのだろう。そもそも、この土地は私の隣家が所有しており、100年以上前、私の祖父の代から借地料を払って住んでいました」 登記簿を確認すると、1941年に隣家が売買で土地を取得。以来一族で所有権の相続を続けていた。 「隣家の高齢夫婦が亡くなると、県外の親族が相続しました。親族は土地を手放したがっていて、私に買い手を探すよう頼んだ。そこで、近所の顔なじみで店を経営する資産家のY(70代)に持ち掛けました。今考えるとそれが間違いでした」(X) Xは隣家の親族から「ブローカーのような怪しいところには売りたくない」と言われていた。隣家の親族から委任を受けて買い手を探し、転売しないという約束のもと購入に前向きだったのがYだったという。 「①転売しない、②そのためにYが経営する店の名義で購入し、店が保有する、との条件で2019年に私とY、隣家の親族が立ち会って売買に合意しました。Yとは長い付き合いで信頼しており、契約書は取り交わす必要もないと思った。ところが、②の店の名義で購入する約束が早速破られたんです」(X) 登記簿によると、確かに2019年12月27日にYが購入したことになっている。ただし名義は、Yの経営する店ではなく、Y個人だ。売買の書類が取り交わされたことを、Xは所有権の移転が既に終わった後に自分で調べて知った。 「Yは司法書士に頼んで、県外にいる隣家の親族に売買契約の書類を郵送しました。親族は司法書士から送られてきた書類に、言われた通り書き込んで押印し、返送したそうです。宅建業法に定められた重要事項説明書は交付されておらず、本来は無効な取引でした」(X) ①の約束、「転売しない」も破られた。登記簿によると、今年2月7日に前出の太田正吾(東京都東村山市)に土地が売り渡された。冒頭に紹介した映像で、太田は「家を出ろ」とXに迫っていた。 今回、立ち退きを迫られている馬場町の土地は約230坪で、Xの一族は、その一角に祖父の代から所有者に家賃を払い、100年以上住んできたという。現在はXの息子が暮らし、Xはパソコンなどの機器を置いて仕事場にして、日中の大半はこの家にいるという。 「私には居住権があり、無理やり立ち退かせることはできません。太田たちは法律上追い出すのは難しいので、脅しという強硬手段に及んだとみています」(X) Xは、Yがはなから転売を目的に土地を購入したのではないかと疑っている。太田が昨年11月17日に初めてX宅を訪れた時、郡山市の不動産業者を引き連れていたからだ。それ以前には、郡山市の建設会社から土地の売買を持ち掛けられたという同市の設計士が訪ねてきた。Xが、Yとの間に土地トラブルがあると説明すると、「買わないし2度と来ない」と言って立ち去ったという。 「設計士や不動産業者が来たのは太田が土地を購入する前、まだYが所有している時です。Yは太田、不動産業者と共謀していたのではないでしょうか。太田はYから譲り受けた所有権を根拠に、脅しを掛けて追い出す役回りです。登記上はYから太田に所有権が移っていますが、本当に金銭が支払われたのだろうかと私は疑っています」(X) 「黒幕」とされる男 筆者はXが「黒幕」とするYの店を訪ねた。馬場町の問題の土地からごく近所だ。 ――Xは土地を追い出されそうになっている。 「追い出されるっていうのは買った人の責任だ。俺は売っただけから」 ――Xはあなたからずっと住み続けてもいいと言われたそうだが。 「言った覚えはない」 ――Xには転売すると伝えて土地を購入したのか。 「伝えてない。どうなるか分からないが、売ってだめだという条件はなかった」 ――どうして太田正吾に売ったのか。 「そんなのおめえに言う必要あるめえ。そんなことには答えねえ」 ――太田と一緒にXの家に来た郡山市の不動産業者とはどういう関係か。 「……」 ――太田とその不動産業者と面識はないということでいいか。 「そんな質問には答えねえ」 自身と太田の関係が筆者に答えられないようなものならば、なぜ大きな金額が動く土地を売ったのか。疑念は深まるばかりだ。 最後に、Xはなぜ筆者に監視カメラの映像を見せてくれたのか。 「パソコンが得意で、昨今の治安に不安を覚えていたことから防犯のために監視カメラを設置していました。おかげでこちらの正当性が証明できると思う。最近では、以前は見なかった不審車両が家の前に長時間止まっています。この映像を(筆者に)見せたのは、今回の問題を記事にしてもらうことで、脅しをする側が露骨な動きをできないように牽制して、自分の身を守るためです」 平穏な日は訪れるか。
本誌5月号に「大量カメラで社員を〝監視〟 する山口倉庫 『気味が悪い』と退職者続出!?」という記事を掲載したところ、それを読んだ元社員から「今も勤務している社員のために、さらに詳報してほしい」との要望が寄せられた。 監視カメラ四十数台、独特な朝礼 山口広志社長 山口倉庫㈱は1967年設立。資本金1000万円。郡山市三穂田町の東北自動車道郡山南IC近くに建つ本社倉庫などで米や一般貨物の保管・管理を行っている。駐車場経営や不動産賃貸なども手がける。 現社長の山口広志氏は2000年に就任した。祖父の松雄氏が創業者で、父の清一氏が2代目。3代目の広志氏は清一氏の二男に当たる。 そんな山口倉庫について、5月号では▽社内に大量の監視カメラが設置されている、▽社員だけでなく訪問客の様子も監視している、▽山口社長は自宅から、監視カメラで撮った映像や音声をチェックしている模様、▽こうした職場環境に気味の悪さを感じた社員が次々と退職し、その人数はここ4、5年で十数人に上る――と報じ、このような行為がハラスメントや個人情報保護法違反に当たるかどうか検証した。 詳細は同号に譲るが、結論を言うと、ハラスメントには当たらず、個人情報保護法にも違反しないが、監視カメラを大量に設置する目的、設置場所、映像と音声の利用範囲などを社員にきちんと説明しないと後々トラブルに発展する恐れがあると指摘した。 「社内の人でなければ知り得ないことが書かれていたので、読んだ時は本当に驚きました。ああいう記事を出していただき感謝しています」 こう話す元社員は数年前に山口倉庫を退職し、現在は「ほんの少しでも同社とは接点を持ちたくない」と別業種で働いている。 「接点を持ちたくない」と言いながら、本誌の取材に応じた理由。それは、今も勤務している社員を思ってのことだった。 「私は運良く転職できたが、社員の中には転職したくても、家族を養うため我慢して働き続けている人もいる。そういう社員のためにも、あの異様な職場環境は改められるべきと思ったのです」(同) 元社員によると、新たに判明した山口倉庫の職場環境は次の通り。 〇監視カメラは山口倉庫に四十数台、関連会社で不動産業の山口アセットマネジメント㈱に2台設置されている。カメラは映像だけでなく、音声も拾うことが可能。山口倉庫の事務スペースには、複数の画面に分割された大きなモニターがあり、各カメラの映像を一斉に確認できる。 〇社員は会社からスマホを貸与され、何かあると山口社長から直接連絡が入る。そのスマホでは、監視カメラの画像も確認できる。カメラで常に見られている社員は「余計な行動や発言をすれば、山口社長に見つかって〝直電〟が来る」と常にビクビクしている。 〇監視カメラはトイレ、更衣室、休憩室には設置されていないが、男子更衣室と休憩室の一部は廊下に設置されたカメラで確認できる。そのため男性社員は、更衣室や休憩室を利用する場合はカメラの死角になっている個所に身を潜める。 〇社員は昼休みになると、監視カメラから逃れるため駐車場に止めたマイカーの中で昼食を取ったり、休憩をしている。 〇社員は、入社するまでは大量に監視カメラが設置されていることを知らない。そのため入社後に実態を知り、気味が悪いとわずか数日で辞める人も少なくない。 〇来客者も敷地に入った瞬間から監視カメラで映され、車のナンバーも記録される。 〇山口社長はほとんど出社せず、自宅から監視カメラの映像や音声で社内の様子や社員の働きぶりをチェックしている。 山口社長がここまで監視カメラを張り巡らせる理由は何なのか。 「大量設置の理由を説明されたことがないので分からないが、『自分が他人からどう思われているかを異常なまでに気にする人』なのかもしれません」(同) その象徴として元社員が挙げたのが、山口社長の教養に対するコンプレックスだ。元社員によると「山口社長は地元の高校を経て大学、大学院に進んだはず」と言うが、信用調査等でも学歴は判然としない。 「とにかく『本を読め』と強要する。それだけならいいが、感想文を共有フォルダに記録させるのです。そしてたまに出社すると、社員に突然質問し、答えられないと『そんなことも分からないのか』とバカにしたような態度を取る。長期の休み明けには社員一人ひとりに抱負を発表させたりもします」(同) 使用者が配慮すべきこと 東北自動車道郡山南IC近くにある本社倉庫 社員に教養を身に付けさせようとする試みは否定しないが、独りよがりになってはありがた迷惑。その一例が、山口社長が最も力を入れているという毎日の朝礼だ。 「一般社団法人倫理研究所発行の月刊誌『職場の教養』を題材に、1人が正論、1人が反論、1人が正論か反論を発表し、最後にその日の司会者役が意見をまとめるのです。これを毎日、社員が交代しながら行っています。山口社長はその場にいないが、一連の様子は監視カメラを通じて自宅から見ています」(同) 社員の中には大量の監視カメラもさることながら、この朝礼が苦痛で辞める人もいるという。 「発表する社員は朝30分早く出勤して『職場の教養』を読み込み、何を話すか考えます。社員が辞めて少なくなれば発表のローテーションも早まるので、残っている社員は相当苦痛だと思います」(同) ちなみに5月号が発売される前後から、郡山市南二丁目にある山口アセットマネジメントの事務所は常にブラインドがかかっており、社員が常駐している様子がなかった。そうした状況は7月21日現在も変わっていないが、 「女性社員は(社長の妻と娘を除き)全員辞めたと聞いています。そのため山口アセットマネジメントに常駐する社員がいなくなり、急きょ山口倉庫から派遣していたが、倉庫自体も社員が減り、派遣する余裕がなくなった。だから、今は閉めざるを得ないようです」(同) 女性社員たちは職場環境を改善できないか、労働基準監督署に相談することも考えたようだが、そこに労力と時間を割いた挙げ句、山口社長から目を付けられては余計に働きづらくなると思い、退職することを選んだようだ。 社員が次々と辞めていく背景が見えてきたが、あらためて山口倉庫とはどんな会社なのか。 本業の倉庫業では、倉庫証券発行許可倉庫、政府米寄託倉庫として官公庁許可を受け、米の保管・管理を行っているほか、日産自動車ユーザーの夏・冬タイヤを同ディーラーから一手に預かっている。倉庫は郡山市内に3カ所。このほか約20カ所の有料駐車場を経営し、ある筋によれば年間の売り上げは2億5000万円前後、利益は4000万円前後を上げているという。 一方、山口アセットマネジメントは郡山市内に土地を所有する一方、飲食店や商業施設、マンションなどの賃貸・管理を行っている。 社会常識から外れた職場環境について、5月号の取材時に見解を聞いた県北地方の弁護士に今回判明した事実をあらためて伝えると、次のように指摘した。 「個人的には行き過ぎで、非常識な職場環境だと思います。ただ、経営者には従業員の働きぶりを監理する必要があり、通常は目視で行うところを監視カメラで行っているとすれば、それをもって違法とまでは言えない。もちろん、従業員にも職場環境の改善を求める権利はありますが、組合など相談先がある大企業と違い、個人で対応しなければならない中小零細企業では、ワンマンオーナー社長が聞き入れてくれるかどうかは不透明。そうなると、従業員には働く場所を選べる権利もあるので辞める流れになるが、問題はそれで困るのは会社だということです。周知の通り、今は人手不足が深刻ですからね。ただし、経営者が『それでも構わない。ウチは監視カメラに重きを置く』ということなら、それも一つの経営判断なので、外野がとやかく言う話ではない」 そう話す一方で、弁護士が「労働者の権利を守る側からの法的意見」として紹介してくれたのが立教大学講師・砂押以久子氏の考えだ。砂押氏は『日本労働法学会誌105号』(2005年5月20日発行)に寄せた論文「情報化社会における労働者の個人情報とプライバシー」の中でこう指摘している。 《企業には、企業秩序維持権限等に基づき使用者は労働者を管理監督する権限がある。しかし、他方で、前述のように労働者には職場にあっても一定程度の私的行為が存在する余地があり、労働者にもプライバシーを保護される法的利益があることも認識されなければならない。 会社が監視権限を有するとしても、このことをもって労働者のプライバシーが一定程度制約されることはあっても否定されることにはならないのである。セキュリティーなどの観点から監視が肯定されるとしても、監視過程において、労働者のプライバシー侵害が最小限になるよう使用者は常に配慮しなければならないと考える。使用者が従業員の私的領域にまで立ち入ることができるのは、業務上重大な支障が生じ、緊急な対応が必要であるなどの事情が存在する場合に限られるべきである。 モニタリングの実施にあたって、使用者の監視の必要性と労働者のプライバシー保護の均衡という視点からは、使用者に労働者に対する事前の情報提供義務を課することが不可欠といえる》 この稿の冒頭にも書いているように、使用者は労働者に対し「監視カメラを大量に設置する目的、設置場所、映像と音声の利用範囲などをきちんと説明」する必要があるわけ。 居留守を使う!?山口氏 山口アセットマネジメントの事務所はずっと閉まったまま 「給料は他社より高いし、夏と冬のボーナスも支給されるので、お金の面で文句を言う社員はいない。ただ、それでも次々と辞めていく原因は職場環境の異様さに尽きます。昨今、人手不足が深刻な問題となっていますが、いくら給料が良くても社員を大切にしない会社は人が集まらないし、将来生き残っていけないと思います」(前出・元社員) 裏を返せば、異様な職場環境を改めれば社員の定着率も上がり、人手不足に陥ることなく会社も生き残っていける、ということだろう。あとは山口社長が危機感を持ち、適切な改善策を講じることができるかどうかにかかっている。 5月号の取材時は山口倉庫に質問書を直接届けたが、何の返答もなかった。元社員によると、山口社長はほとんど出勤しないというので、今回は郡山市内にある山口社長の自宅を訪問し接触を試みた。 駐車場には元社員が教えてくれた山口社長の車が止まっていた。在宅しているのは間違いなさそう。ところが、いくらインターホンを鳴らしても反応はない。仕方なく、取材申し込みと記者の携帯電話番号を書いたメモを郵便受けに置いてきたが、5月号同様、返答はなかった。 元社員によると「自宅にも監視カメラが設置されているので、記者さんの行動は家の中から丸見えだったと思います」とのこと。 見られても困ることはしていないので構わないが、自分の分からない場所からじーっと監視されるのは、やはり気分が良いものではない。 あわせて読みたい 【郡山市】大量カメラで社員を「監視」する山口倉庫
3自治体議員選に候補者擁立 福島市議選(定数35)は7月9日に投開票が行われ、現職29人、新人6人が当選した。46人(新人13人)が立候補したが、投票率は41・97%で過去2番目に低かった。 同市議選に合わせて、春ごろから市内でポスターやのぼりでの広報活動を強化していたのが参政党だ。 2020年設立。①子供の教育、②食と健康、環境保全、③国のまもり――の3つを重点政策に掲げる。ユーチューブ動画でファンを増やし、2022年の参院選比例代表で1議席を獲得。副代表兼事務局長の神谷宗幣氏(元吹田市議)が当選し、公職選挙法などで定められている政党要件を満たした。 コロナワクチンの効果に疑問を呈しているほか、「一部の勢力が世界を牛耳っている」とする陰謀論的な話もタブーにすることなく発信し、支持を集める。昨年の時点で党員・サポーターは10万人以上に達し、野党第一党の立憲民主党と肩を並べる。 福島市議選には元東邦銀行行員の渡辺学氏(49)を擁立し、7月1日には同市中心部のまちなか広場で街頭演説会を実施。神谷氏も駆けつけ、支持者など約120人が耳を傾けた。 3歳ぐらいの子どもを連れて会場に訪れた女性は「子どもに関する情報が欲しくて、教育や食の安全、健康などについて、ネットで調べていたところ、参政党の動画に行きついた。自分でもいろいろなことに疑問を持って調べるようになり、昨年の参院選前、党員になった」と話した。「友人から紹介され足を運んだ」という人もおり、口コミで支持者を増やしている様子もうかがえた。 本誌で連載中のジャーナリスト・畠山理仁さんはこう解説する。 「『入れたい政党がないから自分たちでつくる』というのが参政党の基本理念です。既存の政党には満足していなかった人、これまで政治との接点があまりなかった人からの支持を集めているのが特徴で、ボランティアの人たちが積極的に参加しています。街頭演説では候補者だけでなくボランティアの人たちもマイクを持って演説しています。かなり極端な主張も展開していますが、従来の政治が中心課題に据えてこなかった『食と健康』を柱にし、女性党員の比率が高いのも従来の政党とは一味違うところです。これまで社会において疎外感を覚えてきた人たち、居場所をなかなか見つけられなかった人たちが『参政党なら自由に言いたいことが言える』、『言いにくいことを言えるのは参政党だけ』と信じて集まってきているようです」 演説を終えた神谷氏に拡大戦略について尋ねたところ、「ネットでの支持者増加はひと段落し、いまは地域ごとに広まっている。予算的に多くの候補者を擁立できないので、都市部に候補者を固め比例区で当選を目指す戦略を取っている。その上で重要になるのが、全国の地方議員なんです」とあけっぴろげに語った。 福島市議選投開票の結果、渡辺氏の得票数は1548票で落選したが、最下位当選の三浦由美子氏の得票数は1617票だったので、わずか69票差だったことになる。 街頭演説途中、プラカードを掲げた男性が現れ、郡山市議選立候補予定者に対し、意見を述べるシーンがあったが、神谷氏はじめ、関係者が慌てる様子はなく、演説で「組織が拡大していく過程の中で文句を言われることも多い」と自らネタにした。ただ、今後深刻な問題に発展するケースも出てくるかもしれない。 参政党では7月30日投開票の西郷村議選、8月6日投開票の郡山市議選にも候補者を擁立。本稿を執筆している時点でこれら選挙の結果は分からないが、県内の選挙戦で姿を見る機会が増えそうだ。
鏡石町の古川文雄議長(3期)が8月22日告示、27日投開票の町議選に立候補せず引退するという。古川議長はまだ50歳と若く、町内では「将来の町長候補」とも言われている。さらに、6月には県町村議会議長会長に選任されたばかり。それだけに、町内では驚きの声が出ている。 町内では「次期町長候補」との呼び声 本誌7月号の情報ファインダーで鏡石町議選の情勢について伝えた。 × × × × 鏡石町議選で定数割れの懸念 任期満了に伴う鏡石町議選が8月22日告示、27日投開票の日程で行われるが、ある町民によると定員割れの可能性が出ているという。 「地元紙のマメタイムス(6月22日付)に『定員割れの可能性大』と報じられたのです。それを見て、そんな情勢になっているのかと驚きました」 『マメタイムス』(6月22日付)は「鏡石町議選告示まで2カ月 現職6人・新人2人が立候補の意向 動き鈍く定員割れの可能性大」との見出しで情勢を報じた。 それによると、定数12(欠員1)に対して、同日時点で立候補を予定しているのは現職6人と新人2人の計8人。残る現職5人は2人が引退濃厚で、もう1人も引退の意向。2人は態度を決めかねているという。情勢によっては、複数新人擁立の動きもあるようだが、「低調で定員割れの可能性も指摘されている」と伝えている。 ちなみに、本誌では込山靖子議員が渡辺定己議員(現在は辞職)から不適切な言動を受けたと訴え、昨年8月に政治倫理審査請求書を提出した件について、2月号「鏡石町議会政倫審が元議員の『不適正行為』を一部認定」という記事のほか、何度かその動きを報じてきた。 その中で、《込山議員は周囲に「もうウンザリ」と明かしているというから、今夏の町議選には立候補しない可能性もある》と書いた。 ただ、前述のマメタイムス記事では「(込山議員は)引退を撤回し、出馬の意向を固めた」と伝えられている。 同町6月定例会では、定員割れの可能性があることを見越してか、議員発議で定数を12から10に削減する条例改正案が提出された。ただ、採決の結果、賛成2、反対8の賛成少数で否決された。 告示まではまだ1カ月以上あるため、いまの情勢を踏まえて候補者が出てくる可能性もあり、動きが注目される。 × × × × 同記事では触れられなかったが、『マメタイムス』(6月22日付)によると現職議員の進退の詳細は以下の通り。 立候補の意向▽円谷寛議員、小林政次議員、橋本喜一議員、吉田孝司議員、角田真美議員、込山靖子議員 引退▽今泉文克議員、古川文雄議長 引退の意向▽菊地洋議員 流動的、進退を決めかねている▽畑幸一副議長、大河原正雄議員 この中で、気になるのが「引退」と報じられた古川文雄議長だ。 「古川議長はまだ50歳で年齢的にも若く、町内の一部関係者の間では『次期町長候補』とも言われています。それだけに、引退と報じられたのは意外というか、かなり驚きました」(ある町民) 古川議長は、岩瀬地方町村議会議長会長を務め、今年6月5日に開かれた県町村議会議長会の総会で会長に選任されたばかり。 その際、町内ではこんな声が出ていた。 「岩瀬地方町村議会議長会は、鏡石町と天栄村の2町村だけだから、両町村の議長が交互に会長に就く。県議長会長も各地区持ち回りだが、岩瀬地方の2町村交互に比べると、回ってくる確率は格段に下がる。そんな中で、今回、古川議長にいろいろな順番がすべて当たったことになる。そういう意味では『持っている』と言うことができるし、今後、本当に町長選に出るのかどうかは分からないが、もし出るとしたらその肩書きや、そこで得られた人脈などは間違いなくプラスになるだろう」 そんなことが囁かれていただけに、8月の町議選に立候補しないとの報道には驚いたというのだ。 ある議員は「町長選に向けて地ならしに入ったのでは」との見解を示した。 ただ、現職・木賊正男町長の任期は2026年6月までで、残り3年近くある。3年後の町長選を見据えて、今回の町議選を見送ったとは考えにくい。むしろ、次の町長選まで議員(議長)を続け、県町村議長会長の肩書きで動いた方が有利に働くと思われるのだが……。 ちなみに、前回(2019年8月)の町議選では524票を獲得、4番目の得票で当選している。それ以前の町議選でも上位で当選しており、選挙で苦労しているわけではない。そもそも町議選で苦労していたら、最初から「町長候補」とは言われないだろう。 古川議長に聞く 古川議長(「議会だより」より) 一方で、「自身が経営する会社で何かあったのではないか」との見方もある。 古川議長は左官工事業「村上工業所」(同町旭町)のオーナーで、自身が経営する会社で何かあった、あるいは経営に専念するためではないか、という見方だ。 民間信用調査会社によると、同社の直近5年の売上高、当期純利益は別表の通り。 村上工業所の業績 決算期売上高当期純利益2018年1億2100万円12万円2019年1億4400万円1195万円2020年1億3300万円△434万円2021年1億2500万円1622万円2022年1億3000万円566万円※決算期は3月。△はマイナス 2020年は434万円の損失を計上したが、それ以外は利益を確保しており、売上高も一定している。これを見る限りでは、会社の経営に専念するためではないか、という見方は説得力に欠ける。 こうして見ても、「次期町長候補」と言われた古川議長の引退は意外だが、実際のところはどうなのか。古川議長に話を聞いた。 ――古川議長が引退するとの報道を見たが。 「それは事実です」 ――辞めた後はどんなことを考えているのか。 「私もまだ50歳ですからね。いろいろと考えていますよ」 ――県町村議会議長会長に就いたばかりだが。 「ちょうど3カ月ですかね(※6月5日の総会で県町村議会議長会長に選任され、鏡石町議員の任期は9月3日まで)。任期満了後は自動失職の形になると思います」 ――町内では「次期町長候補」との見方もあり、それだけに今回の引退には驚きの声が出ている。 「私が(町長候補)ですか? まあ、さっきも言いましたけど、いろいろ考えているところです」 引退は事実とのことだが、今後については明言しなかった。「いろいろ考えている」とは何を指すのかも気になるところだ。
二本松市観光連盟(会長・三保恵一市長)が観光客向けにレンタルしている電動キックボードについて、「馬力不足で坂をのぼれない」と指摘する利用者の動画がツイッターで拡散され、話題を集めた。悪い意味で注目を集めた格好だが、同連盟では事前に走行試験などを行わなかったのだろうか。 試乗動画拡散で全国の笑いものに にほんまつ城報館 電動キックボードのレンタルは3月31日から、市の歴史観光施設「にほんまつ城報館(以下、城報館と表記)」で行っている。観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう狙いがある。市によると県内初の取り組みだという。電動アシスト付き自転車も併せてレンタルしている。 立ったまま乗れるボードタイプ、自転車のような形状のバイクタイプがある。最高速度は時速30㌔で、利用する際は原動機付き自転車か普通自動車の運転免許が必要。料金は90分1000円。それ以降は30分ごとに500円加算される。 レンタル開始時はテレビや新聞などで大々的に報じられ、地元テレビ局のユーチューブチャンネルには、女性アナウンサーが電動キックボードで坂道をすいすいのぼっていく動画が投稿された。 ところが、7月2日、レンタル利用者によるこんな文章が動画付きでツイッターに投稿された。 《二本松市の電動キックボード貸出事業。全くの企画倒れ。トルク不足でスタート地点の霞ヶ城の三ノ丸から本丸天守台までの坂をのぼれません。また本町商店街へ至る竹田坂や久保丁坂といった切り通し坂も途中で止まってしまいました。市はロードテストも行わず全く無駄なことをしましたね》 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833 城報館から霞ヶ城の天守台や街なかの商店街に向かおうとしたが、馬力不足のため途中の坂道で止まってしまい、身動きが取れなくなった、と指摘しているわけ。 投稿者の佐藤守さん(43)は郡山市在住で大型自動二輪免許を保有し、バイクで通勤する〝バイク乗り〟。都内で見かけることが増えた電動キックボードに注目していたところ、地元テレビ局の紹介動画で城報館のレンタル事業を知り、走行性能の確認に訪れた。注目していたのは航続可能距離だが、実際に走行して馬力の低さに愕然としたという。 ちなみに、レンタルされている電動キックボードは「BLAZE EV SCOOTER」という商品名で、定格出力は0・35㌔㍗。原付一種(0・6㌔㍗)の6割の馬力しかないと考えるとイメージしやすいかもしれない。 佐藤さんの投稿は、73万回表示され、4725の「いいね」が付いた。それだけ関心を持つ人が多かったということだろう。佐藤さんは「行政が貸し出しているキックボードが坂をのぼれない動画は過去になかったので反響をいただいたのかもしれません」と分析したうえで、実際に走行した感想をこのように語る。 「とにかく馬力不足で、公道を安全に走る能力が圧倒的に不足していると感じました。自動車など公道を走行する他の乗り物への影響は考えていたのか、事前のテスト走行は行わなかったのか。安全面においては▽目や耳が保護できない半帽ヘルメットを貸し出していたこと、▽転倒したときの負傷防止用グローブが貸し出されなかったこと、▽サイドスタンドを出した状態でも発進してしまうこと、▽自賠責保険証が携行されておらず、交通事故時の対応に不安が残ること、▽城報館駐車場で行う走行練習は接触リスクがあること――などが気になりました」 佐藤さんの投稿の数日後、本誌記者も電動キックボードをレンタルし、実際に坂道で失速することを確認した(巻頭グラビア参照)。 利用者から上がる辛辣な意見を市観光連盟はどのように受け止めるのか。同連盟の事務局を担う同市観光課に尋ねたところ、河原隆課長は「取材の申し込みをいただき、職員に聞いてツイッターにそうした投稿があったことを知りました」と語り、次のように説明した。 「『導入前に試験は行わなかったのか』と疑問視する投稿がありましたが、バイク乗りを含む市観光課職員10人弱で、安全性や航続可能距離を確かめる走行試験を事前に行っています。その際、女性職員は坂道でもすいすいのぼっていましたが、男性職員はスピードが遅くなり、利用者の体重によって大きな差が生じました。(佐藤守さんの)ツイートの指摘を見て、体重によってスピードに差が出るという説明が不足していたと感じたので、貸し出し時に渡す文書やホームページなどに注意書きを追加しました」 体重によって坂道でスピードが出なくなることを把握していたのに、周知していなかった、と。 河原課長によると、レンタル事業は職員からの提案で始まったもので、2022(令和4)年度当初予算で電動アシスト付き自転車6台、電動キックボード(ボードタイプ・バイクタイプ)計6台、ヘルメットなどの備品を購入した。総事業費は約300万円。車両は複数の候補から予算や走行性能の条件を満たすものを選定したという。 一方で、安全面に関する指摘については「利用前に安全事項や保険に関する説明を行っているし、法律を満たす最低限の基準の装備はそろえています。それ以上の装備を求める場合は、ヘルメットやグローブなどの持ち込みをしていただいても構いません」(河原課長)と説明する。 ただ、観光客がそうした装備をわざわざ持参することは考えにくい。「観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう」という目的とも矛盾している。 6月の利用者は6人 城報館でレンタルしている電動キックボード 電動キックボードに関しては、7月1日に改正道路交通法が施行されたことで、最高速度20㌔の車両の運転は免許不要となり、ヘルメットも努力義務となった。ただ、警察庁によると2022年に41件の人身事故が発生しており、7月には大学生が飲酒運転でタクシーに追突するなど、危険性が報じられている。タイヤの直径が小さい分、段差での衝撃が大きく、バランスを崩して事故につながりやすいという面もある。 佐藤さんの指摘を参考に、より安全に走行できる装備を貸し出すべきではないか。 肝心のレンタル電動キックボードの利用者数(ボードタイプ・バイクタイプの合計)を尋ねたところ、4月20人、5月9人と低迷しており、6月に至ってはわずか6人だった。 河原課長はPR不足と城報館来場者の需要とのミスマッチを要因に挙げる。駅から離れた城報館にわざわざ公共交通機関で向かう観光客は少ないし、あえて城報館まで車で移動し、電動キックボードに乗り換えて市内を巡る人もいないということだ。県内初の取り組みということもあり、甘い見通しのまま〝見切り発車〟してしまった感は否めない。 昨年4月にオープンした城報館の年間入館者数は9万6796人で、目標としていた年間10万人を下回った。目標達成に向けて起爆剤が欲しいところだが、電動キックボードがそうなるとは考えにくい。 前出・佐藤さんはこう語る。 「(馬力不足の電動キックボードを買ってしまった以上)利用しなければどうしようもない。せめて地図で推奨ルートを示し、『この坂は体重〇㌔以上の方はのぼれません』など注意書きを表示しておけば、利用者も心構えができるのではないか」 もっと言えば、城報館を起点に「電動キックボードで巡る観光ツアー」を催せば興味を持つ人が現れるかもしれない。 このままでは、約300万円の事業費をドブに捨てることになる。佐藤さんの指摘を真摯に受け止め、改善策を打ち出すべきだ。 あわせて読みたい 【本誌記者が検証】二本松市の「ガッカリ」電動キックボード貸出事業
本誌でこの間報じてきた田村市の新病院建設計画。市は先月の臨時会に工事請負契約の議案を提出したが、賛成7人、反対10人で否決された。百条委員会で鮮明になった白石高司市長と反対派議員の対立が尾を引いた形だが、同時に白石市長の稚拙な議会対策も見えてきた。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 したたかさを備えなければ市政は機能しない 会対策に苦慮する白石高司市長 まずはこの間の経緯を振り返る。 老朽化した市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は昨年4~6月にかけて施工予定者選定プロポーザルを実施。市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募したゼネコンの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。 百条委は、白石市長と安藤ハザマが裏でつながっているのではないかと疑った。しかし、百条委による証人喚問の中で白石市長は、①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった――と安藤ハザマに覆した理由を説明した。 今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は「白石市長の職権乱用」と厳しく批判するも法的な問題点は確認されず「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。 百条委の一部メンバーからは「さらに調査すべき」との声も上がったが、最終的には「新病院建設が遅れれば市民に不利益になる」として百条委は解散された。 これにより新病院建設はようやく実現に向かうと思われた。実際、3月定例会では全体事業費を55億7000万円とすることが議決され、6月定例会では資材高騰などの影響で7億円増の62億7000万円とすることが再度議決された。これに伴い今年度分の病院事業会計の予算も増額された。 予算が全て通ったということは関連議案も議決されると考えるのが普通だが、そうはならなかった。 市は7月6日に開かれた臨時会に新病院を47億1100万円、厨房施設を4億8900万円で安藤ハザマに一括発注するため、工事請負契約の議案を提出した。同社とは6月28日に仮契約を済ませていた。(※工事費と全体事業費に開きがあるのは、全体事業費には医療機器購入費などが含まれているため) しかし、採決の結果は賛成7人、反対10人で、安藤ハザマとの工事請負契約は否決された。市議会は定数18で、採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛否の顔ぶれは別表の通り。(6月定例会での予算の賛否と百条委設置の賛否も示す) 123石井 忠治 ⑥××〇半谷 理孝 ⑥××〇大和田 博 ⑤××〇菊地 武司 ⑤××〇吉田 文夫 ④××〇安瀬 信一 ③××〇遠藤 雄一 ③×〇〇渡辺 照雄 ③××〇石井 忠重 ②×〇×管野 公治 ①××〇猪瀬 明 ⑥〇〇×橋本 紀一 ⑥〇〇×佐藤 重実 ②〇〇×二瓶恵美子 ②〇〇×大河原孝志 ①〇〇×蒲生 康博 ①〇〇×吉田 一雄 ①〇〇×※〇は賛成、×は反対※1は工事請負契約の賛否※2は6月定例会での予算の賛否※3は百条委設置の賛否※丸数字は期数 反対した議員によると、当初、工事請負契約は賛成多数で可決される見通しだったという。 「6月定例会では賛成9人、反対8人で予算が通ったので、工事請負契約も9対8で可決されると思っていました」(反対派議員) 風向きが変わったのは臨時会の2日前。予算に賛成した石井忠重議員が工事請負契約には反対することが判明し「9対8」から「8対9」に形勢逆転した。さらに、臨時会当日になって遠藤雄一議員も反対。工事請負契約は想定外の「7対10」で否決されたのである。 賛成派議員は「予算には賛成しておいて工事請負契約に反対するのはおかしい」と石井忠重議員と遠藤議員を批判したが、実情は臨時会の前から不穏な空気が漂っていた。 両議員と佐藤重実議員は「改革未来たむら」という会派を組んでいるが、臨時会直前、会派会長を務める佐藤議員は賛成派議員に「私たちは自主投票にする」と説明。佐藤議員はこの時点で石井忠重議員と遠藤議員が反対に回ることを分かっていたため、会派として拘束をかけることができなかったとみられる。 「大橋議長は無会派だが、もともとは改革未来たむら。だから採決の前に、大橋議長が『会派として賛成する』と拘束をかけていれば3人がバラバラの判断をすることもなく、工事請負契約は9対8で可決していた。大橋議長と白石市長は距離が近いが、両者が連携して議員の動向を把握しなかったことが想定外の否決を招いた」(ある議会通) なぜ、石井忠重議員と遠藤議員は予算には賛成したのに、工事請負契約に反対したのか。石井議員とは連絡が取れず話を聞けなかったが、賛成派議員には「臨時会の前に地元支持者と協議したら反対の声が多かった」と説明していたという。 一方、遠藤議員は本誌の問いにこう答えた。 「事業費は専門家が積み上げて出しているので、それを素人の私が高いか安いかを判断するのは難しい。しかし契約は、選定委員会が選んだ業者を市長が独断で覆したという明確なルール違反がある。予算は9対8で僅差の可決だったが、今後事業費が増えていけば、その度に補正予算案が出され、僅差の賛否が繰り返されるのでしょう。そこに私は違和感がある。全議員が『新病院は市民にとって必要』と思っているのに、関連議案は僅差の賛否になるのは、正しい姿とは思えないからです。新病院が本当に必要なら、関連議案も大多数が賛成する姿にすべき。もちろん、反対した議員も賛成に歩み寄る努力をしなければならないが、議案を提出する市長も、どうすれば賛成してもらえるのか努力すべきだ」 「政局での反対じゃない」 田村市百条委員会 百条委で白石市長は「自分の判断は間違っていない」と繰り返し強調した。鹿島から安藤ハザマに覆したやり方自体はよくなかったかもしれないが、客観的事実に基づいて安藤ハザマに決めたことは筋が通っており、市民にも説明が付く。逆に選考委員会の選定通り鹿島に決まっていたら、新病院を運営することになる星総合病院は、郡山市内にある本体施設の工事や旧病棟の解体工事を鹿島に任せているため、白石市長と安藤ハザマがそう見られたのと同様、裏でつながっているのではないかと疑われた可能性もあった。要するに安藤ハザマと鹿島、どちらが施工者になっても疑念を持たれたかもしれないことは付記しておきたい。 工事請負契約に反対した議員は、1期生と一部議員を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し、賛成した議員は白石市長を支える市長派という色分けになる。その構図は別表を見ても分かる通り、百条委設置でも持ち込まれた。 そうした中で気になるのは、百条委メンバーが「新病院建設をこれ以上遅らせれば早期開院を望む市民に不利益になる」と述べていたにもかかわらず、工事請負契約を否決したことだ。発言と矛盾する行動で、結局、開院は遅れる可能性が出ていることを市民に何と説明するのか。 百条委委員長だった石井忠治議員に真意を聞いた。 「新病院建設が打ち出された際の事業費は36億円だった。その後、プロポーザルで各業者が示した金額は46億円前後、そして3月定例会では55億円超、6月定例会では62億円超とどんどん増えていった。その理由について、市は『ウクライナ戦争や物価高騰で燃料・資材の価格が上がっているため』と説明するが、正直見積もりの甘さは否めない。議員は全員、新病院建設の必要性を認めている。にもかかわらず賛否が拮抗しているのは、市の説明が不十分で議員の理解が得られていないからです。起債で毎年1億2000万円ずつ、30年かけて償還していくことを踏まえると、人口減少が進む中で将来世代に負担させていいのかという思いもある。私たちは事業費が膨らみ続ける状況を市民に説明するため一度立ち止まってはどうかと言いたいだけで、政局で反対しているのではないことをご理解いただきたい」 石井忠治議員は「市の説明が不十分だから議員の理解が得られない」と述べたが、まさにこれこそが白石市長が考えを改めるべき部分なのかもしれない。 市民のために歩み寄りを 田村市船引町地内にある新病院建設予定地 前出・議会通はこう指摘する。 「白石市長は大橋議長や一部議員とは親しいが、反対派議員とは交流がない。これでは工事請負契約のように、どうしても可決・成立させたい議案が反対される恐れがある。反対派議員にへつらえと言いたいのではない。公の場で喧々諤々の議論をしながら、見えない場で『この議案を通すにはどうすればいいか』と胸襟を開いて話し合えと言いたいのです。こちらが歩み寄る姿勢を見せれば、反対派議員も『市長がそう言うなら、こちらも考えよう』となるはず。そういう行動をせずに『自分は間違っていない』とか『市民のために正しい判断をすべき』と言ったところで、施策を実行に移せなければ市民のためにならない」 要するに、白石市長は各議員との関係性が希薄で、議会対策も稚拙というわけ。 いみじくも、白石市長は工事請負契約が否決された臨時会で次のように挨拶していた。 「私たちは市民の声に真摯に耳を傾け、それを施策として反映・実行していく責務があります。今回の提案は残念な結果になりましたが、今後も議員の皆様とは市民の声をしっかり聞きながら、行政との両輪で市政を運営して参りたい」 反対派議員に「市民のために賛成しろ」と泣き言を言っても始まらない。賛成してほしければ自身の至らない点も反省し、理解を得る努力が必要だ。それが結果として市民のためになるなら、白石市長は政治家としてのしたたかさも備えないと、任期が終わるころには「議会と対立してばかりで何もしなかった市長」との評価が定まってしまう。 「そもそも、市長と議会が対立するようになったのは本田仁一前市長の時代です。本田氏は個人的な好き嫌いで味方と敵を色分けしていた。それ以前の市政で見られた、反対派議員とも腹を割って話す雰囲気はなくなった。そういう悪い風習が、白石市政になっても続いているのは良くない。本田市長時代の悪政を改めたいなら、市長と議会の関係性も見直すべきだ」(前出・議会通) 工事請負契約の否決を受け、今後の対応を白石市長に直接聞こうとしたが「スケジュールの都合で面会時間が取れないので担当課に聞いてほしい」(総務課秘書広報広聴係)と言う。保健課に問い合わせると、次のように回答した。 「現在、善後策を検討しているとしか言えません。いつごろまでにこうしたいという責任を持った回答ができない状況です」 担当課レベルではそうとしか言えないのは当然だ。事態を打開するにはトップが動くしかない。白石市長には「自分は間違っていない」という思いがあっても、私情を捨て、反対派議員と向き合うことが求められる。もちろん反対派議員も「反対のための反対」ではなく、賛成へと歩み寄る姿勢が必要。嫌がらせの反対は市民に見透かされる。双方が理解し合うことこそが「市民のため」になることを、白石市長も議会も認識すべきである。
福島市の放課後児童クラブ(学童保育)が資金不足のため、保護者に保育料まとめ払いへの協力を求めていたことが分かった。異例の対応を取った経緯とは。 指導員人件費〝膨張〟で資金不足に 渡利学童保育きりん教室 保護者に対し、保育料のまとめ払いを求めていたのは福島市渡利地区の放課後児童クラブ「渡利学童保育きりん教室」。7月、保護者に対し、協力を求める文書を配布した。 同市の放課後児童クラブはすべて民設民営で、市が民間運営団体に「放課後児童健全育成事業」を委託する形となっている。 主な収入源は①保護者からの「保育料」(毎月支払い)、②福島市からの「委託金」(5月、9月、1月に分けて支払い)、③人件費にのみ支払われる「処遇改善事業等補助金」(8月末ごろ支払い予定)。 ところが、同クラブでは、②、③が入る前の時点で資金不足になることが確定的になった。そのため、文書で保護者に協力を求めたわけ。 市内の教育関係者によると、同クラブは「300万円不足しており、指導員の給料が払えない」、「夏休み中の昼食やおやつも提供が難しいという話になっている」状況のようで、「仮に8月末を乗り切っても、近いうちに資金不足に陥るのではないか」と囁かれているという。 同クラブには約90人の児童が在籍しており、父母会が運営している。なぜ資金不足に陥ったのか、7月中旬、同市渡利地区の渡利小学校校舎内にある同クラブを訪ねたところ、佐藤秀樹施設長が取材対応し、次のように説明した。 「うちの場合、処遇改善事業等補助金は1支援単位につき480万円、委託金は1回330万円入ってくる。利益は出していないが、毎月の保育料だけでは指導員の給料を賄えないので、時期によっては200~300万円ほど繰越金を貯めておく必要がある。ところが、昨年度はそれを使い切ってしまったのです」 佐藤施設長によると、主な要因は人件費増加だという。同クラブでは経験豊富なベテラン指導員2人を再雇用し、若手指導員への継承を進めている。現在の指導員数は2支援単位12人(正規職員、パート含む)。「来年度以降、再雇用の先生方が1人ずつ抜けていくので、適正な人数になっていくと思います」(同)というが、他クラブは指導員3、4人のところが多い中で、明らかに人員過剰の態勢となっている。 そのためボーナス減額などの人件費抑制策を取ってきたが、見通しが甘く、結局資金不足に陥ってしまった――これがこの間の経緯のようだ。 同クラブはもともと教育充実のため、指導員を手厚く配置していたこともあり、保護者の多くは理解を示し、まとめ払いに協力しているようだ。だが、同業者の反応は「保護者に協力を求めるなどもってのほか。経営手腕に問題がある」と一様に冷ややかだ。 一方で、教育関係者からは「民間企業なら銀行から金を借りて対応すれば済む話。運営主体や責任者が明確でなく、借り入れなどができないからこういう問題が起きる。そういった面も含め、福島市の子育て政策の改革を木幡浩市長に求めたい」といった声も聞かれた。 現在、燃料費高騰・物価高の影響なども各クラブの財政に打撃を与えているため、市子ども政策課が対策を検討中だという。各クラブの財政が立ち行かなくなれば、割を食うのは利用する子どもたちだ。そのことを市・各クラブが認識し、共に課題を改善していく必要がある。
伊達市6月定例会議の最終本会議が同月28日に開かれ、過去の一般質問で事実と異なる不適切な発言をしたとして、佐藤栄治市議(60)に対する議員辞職勧告決議を賛成多数で可決した。同市議会で議員辞職勧告決議案が提出されたのは初めて。ただ、決議には法的拘束力はないので、佐藤市議は辞職しなければならないわけではない。 佐藤氏は1962(昭和37)年生まれ。保原高、福島大経済学部卒。実家は建設関連業の三共商事。本人の話によると、第一勧業銀行に入行後、元衆院議員・元岡山市長の萩原誠司氏の秘書を務めた。髙橋一由市議が伊達市長選に立候補した際には事務局長を務めている。昨年4月の市議選(定数22)で629票を獲得、22位で再選を果たした。 この問題については本誌3月号でリポートした。当時公開されていない情報も多かったので、あらためて報道などを基に経緯を紹介する。 佐藤市議は昨年12月定例会議の一般質問で、同市梁川町のやながわ工業団地に建設中のバイオマス発電所について言及した。重さ20㌧超の大型特殊車両が何台も通ることが予想される中、国見町担当者が「補修中の徳江大橋の通行を20㌧以下に制限する予定だ」と話していたことを明かしたうえで、「市は通行規制しなくていいのか」と対応を問うた。国土交通省福島河川国道事務所の担当者に聞いた話も併せて紹介した。 閉会後、市からの申し入れを受け、市議会が政治倫理審査会を設置。計11回の審査会が開かれ、国見町役場総務課長や福島河川国道事務所担当者に聞き取り調査が行われたが、佐藤市議の発言について、「そのような事実はない」との回答だったという。 同審査会では過去の市議会一般質問での不適切な言動も検証し、市民にも聞き取り調査したが、厳しい意見が出たようだ。本誌3月号では、過去の不適切言動を紹介したほか、▽企業などに神出鬼没で現れることに戸惑いの声が上がっていること、▽業者を引き連れて市役所に行くなど、危うい言動が見られること――を紹介したが、同審査会でもそのあたりが問題視されたようだ。 審査の結果、「虚偽の事実・誹謗中傷の発言、情報発信で他人の名誉を毀損しない」ことを定めた伊達市議会議員政治倫理条例に抵触するとされ、議員辞職勧告決議案が議員から提出された。その結果、市議22人のうち、菅野喜明議長、当日欠席した佐藤市議と高橋市議を除く18人が賛成し、佐藤市議と同じ会派の半澤隆市議のみが反対。賛成多数で可決された。 同審査会では佐藤市議に弁明書の提出を求めたが、指定された期日までに提出されなかった。本人は今回の審査結果をどう受け止めているのか。同市保原町の自宅を訪ねたところ、佐藤市議はこうコメントした。 「議員辞職勧告には法的拘束力がない。親密な新聞記者には『議員辞職勧告は名誉棄損に当たるという判例が残っている。議員や地元紙、政経東北に対し、裁判を提起したらどうか。社を挙げて支援します』と言われた。今後も議員活動は継続するし、バイオマス発電所の問題点を引き続き追及していきたい。現在は伊達市が温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)に基づき、温室効果ガス削減を目指している中、ログ社がバイオマス発電所を建設しCO2を排出しようとする矛盾について、調査しているところです」 議員辞職勧告などどこ吹く風で、逆に同僚議員やマスコミに対し〝宣戦布告〟して見せた。相変わらず地元から良い評判は聞こえてこないが、今後も我が道を歩んでいくのだろう。
原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする方針を盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」が成立した。その概要と課題について考えていきたい。 帰還希望者少数に多額の財政投資は妥当か 大熊町役場 原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。 一方、帰還困難区域は、文字通り住民が戻って生活することが難しい地域とされてきた。ただその後、帰還困難区域のうち、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)として定め、除染や各種インフラ整備などを実施した後、5年をメドに避難指示を解除し帰還を目指す、との基本方針が示された。 これに従い、帰還困難区域を抱える町村は、復興拠点を設定し「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を策定した。帰還困難区域は7市町村にまたがり、総面積は約337平方㌔。このうち復興拠点に指定されたのは約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%にとどまる。南相馬市は対象人口が少ないことから、復興拠点を定めていない。 復興拠点のうち、JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線再開通に合わせて2020年3月末までに解除された。そのほかは、葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除され、すべての復興拠点で解除が完了した。以降は、住民が戻って生活できるようになった。 一方、復興拠点から外れたところは、2021年7月に「2020年代の避難指示解除を目指す」といった大まかな方針は示されていたが、具体的なことは決まっていなかった。ただ、今年に入り、国は復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定めることを盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」の素案をまとめ、6月2日に同法が成立した。 その概要はこうだ。 ○対象の市町村長は、知事と協議のうえ、復興拠点外に「特定帰還居住区域」を設定する。「特定帰還居住区域」は帰還住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地等を含む範囲で、①放射線量を一定基準以下に低減できること、②一体的な日常生活圏を構成しており、事故前の住居で生活再建を図ることができること、③計画的、効率的な公共施設等の整備ができること、④拠点区域と一体的に復興再生できることなどが要件。 ○市町村は、それらの事項を含む「特定帰還居住区域復興再生計画」を策定して、国(内閣総理大臣)に認定申請する。 ○国(内閣総理大臣)は、特定帰還居住区域復興再生計画の申請があったら、その内容を精査して認定の可否を決める。 ○認定を受けた計画に基づき、国(環境省)が国費で除染を実施するほか、道路などのインフラ整備についても国による代行が可能。 復興拠点は、対象町村がエリア設定と同区域内の除染・インフラ整備などの計画を立て、それを国に提出し、国から認定されれば、国費で環境整備が行われる、というものだった。「特定帰還居住区域」についても、それに準じた内容と言える。避難解除は「2020年代」、すなわち2029年までに住民が戻って生活できることを目指すということだ。 こうした方針が本決まりになったことに対して、大熊町の対象者(自宅が復興拠点外にある町民)はこう話す。 「復興拠点外の扱いについては、この間、各行政区などで町や国に対して要望してきました。そうした中、今回、方向性が示され、関連の法律が成立したことは前進と言えますが、まだまだ不透明な部分も多い」 「特定帰還居住区域」に関する意向調査 復興拠点と復興拠点外の境界(双葉町) この大熊町民によると、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われたという(※意向調査実施時は「改正・福島復興再生特別措置法」の成立前で、「特定帰還居住区域」は仮の名称・制度だった)。詳細を確認したところ、国と当該自治体が共同で、大熊・双葉・富岡・浪江の4町民を対象に、「第1期帰還意向確認」の名目で意向調査が実施された。 大熊町では、対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)で、このうち「営農意向あり」が81、「営農意向なし」が24、「その他」が38。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。 回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。ほかの3町村も同様の結果だったようだ。今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。 前出の大熊町民も「アンケート結果を見ると、回答があった340世帯のうち、143世帯が『帰還希望あり』との回答だったが、仲間内での話や実際の肌感覚では、そんなにいるとは思えない」という。 今後、対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。それに先立ち、住民懇談会なども開かれると思うが、そこでどんな意見・要望が出るのか。ひとまずはそこに注目したいが、本誌が以前から指摘しているのは、原因者である東電の責任(負担)で環境回復させるのではなく、国費(税金)でそれを行うのは妥当か、ということ。 対象住民(特に年配の人)の中には、「どんな状況であれ戻りたい」という人も一定数おり、それは当然尊重されるべきだ。ただ、国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。詰まるところは、帰還困難区域は、基本的には立ち入り禁止にし、どうしても戻りたい人、あるいはそこで生活しないとしても「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人たちのための必要最低限の環境整備にとどめるか、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるかのどちらかしかあり得ない。
二本松市観光連盟は3月31日から、観光客向けに市の歴史観光施設「にほんまつ城報館」で電動キックボード・電動バイクの貸し出しを行っている。 二本松市の地図データ(国土地理院、『政経東北』が作成) ところが、7月上旬、その電動キックボードの馬力不足を指摘する体験リポート動画がツイッターで拡散。同施設でレンタルされている車両が、坂道をまともにのぼれない実態が広く知られることとなった。 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833 動画を見ているうちに、実際にどんな乗り心地なのか体感してみたくなり、投稿があった数日後、同施設を訪れて電動キックボードをレンタルしてみた(90分1000円)。 安全事項や機器の説明、基本的な操作に関する簡単なレクチャーを受けた後、練習に同施設の駐車場を2周して、いざ出発。 同施設から観光スポットに向かうという想定で、二本松城(霞ヶ城)天守台への坂道、竹根通り、竹田坂、亀谷坂などを走行した。だが、いずれのルートも坂道に入るとスピードが落ち始め、最終的に時速5㌔(早歩きぐらいのスピード)以下となってしまう。運転に慣れないうちはバランスが取りづらく、うまく地面を蹴り進めることもできないため、車道の端をひたすらゆっくりとのぼり続けた。追い越していく自動車のドライバーの視線が背中に突き刺さる。 竹根通りで最高速度を出して上機嫌だったが…… 竹田坂、亀谷坂をのぼっている途中で失速し、必死で地面を蹴り進める レンタルの電動アシスト自転車(3時間300円)に乗りながら同行撮影していた後輩記者は、「じゃあ、僕、先に上に行っていますね」とあっという間に追い越していった。 運転に慣れてくると、立ち乗りで風を切って進んでいく感覚が楽しくなる。試しに竹根通りをアクセル全開で走行したところ、時速30㌔までスピードが出た(さすがに立ち乗りでは怖かったので座って運転)。軽装備ということもあり、転倒の恐怖は付きまとうが、爽快感を味わえた。 しかし、そう思えたのは下り坂と平地だけ。亀谷坂では、「露伴亭」の辺りで失速し、地面を蹴っても進まなくなり、炎天下で、20㌔超の車両を汗だくで押して歩いた。総じて快適さよりも、坂道で止まってしまう〝ガッカリ〟感の方が大きく、初めて訪れた観光客におすすめしたい気分にはなれなかった。 右ハンドル付け根にアクセル(レバー)と速度計が取り付けられている 二本松城天守台に到着する頃には疲労困憊 同連盟によると「(体重が軽い)女性は坂道もスイスイのぼれる」とのこと。体重75㌔の本誌記者では限界がある……ということなのだろうが、そもそも中心市街地に坂道が多い同市で、その程度の馬力の乗り物をなぜ導入しようと考えたのか。 54頁からの記事で導入の経緯や同連盟の主張を掲載しているので、併せて読んでいただきたい。(志賀) 「にほんまつ城報館」には甲冑着付け体験もあり(1回1000円) https://twitter.com/seikeitohoku/status/1677459284739899392
県発注工事をめぐる贈収賄・入札妨害は氷山の一角だ。裁判では、他の県職員や業者の関与もほのめかされた。非公開の設計金額を教える見返りに接待や現金を受け取ったとして、受託収賄罪などに問われている県土木部職員は容疑を全面的に認める一方、「昔は業者との飲食が厳しくなかった」「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むためだった」と先輩から受け継がれた習慣を赤裸々に語った。 県職員間で受け継がれる業者との親密関係 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所 受託収賄、公契約関係競売入札妨害の罪に問われているのは、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査(休職中)の遠藤英司氏(60)=郡山市。須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆氏(69)は贈賄罪に、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸氏(53)は公契約関係競売入札妨害の罪に問われている(業者の肩書は逮捕当時)。 競争入札の公平性を保つために非公開にしている設計金額=入札予定価格を、県発注工事の受注業者が仲の良い県職員に頼んで教えてもらったという点で赤羽氏と坂田氏が犯した罪は同じ入札不正だが、業者が行った接待が賄賂と認められるかどうか、県職員から得た情報を自社が元請けに入るために使ったかどうかで問われた罪が異なる。 以下、7月21日に開かれた赤羽氏の初公判と、同26日に開かれた遠藤氏の初公判をもとに書き進める。 赤羽組前社長の赤羽氏は贈賄罪に問われている。赤羽氏と遠藤氏の付き合いは34年前にさかのぼる。遠藤氏は高校卒業後の1982年に土木職の技術者として県庁に入庁。89年に郡山建設事務所(現県中建設事務所)で赤羽組が受注した工事の現場監督員をしている時に赤羽氏と知り合う。互いに相手の仕事ぶりに尊敬の念を覚えた。両氏は9歳違いだったが馬が合い、赤羽氏は遠藤氏を弟のようにかわいがり、遠藤氏も赤羽氏を兄のように慕っていたとそれぞれ法廷で語っている。赤羽氏の誘いで飲食をする関係になり、2011年からは2、3カ月に1回の割合で飲みに行く仲になった。「兄貴分」の赤羽氏が全額奢った。 遠藤氏によると、30年前はまだ受注業者と担当職員の飲食はありふれていたという。その時の感覚が抜けきれなかったのだろうか。遠藤氏は妻に「業者の人と一緒に飲みに行ってまずくないのか」と聞かれ、「許容範囲であれば問題ない」と答えている。(法廷での妻の証言) 赤羽氏は2014年ごろから、遠藤氏に設計金額の積算の基となる非公開の資材単価情報を聞くようになり、次第に工事の設計金額も教えてほしいと求めるようになった。赤羽組は3人がかりで積算をしていたが、札入れの最終金額は赤羽氏1人で決めていた。赤羽氏は法廷で「競争相手がいる場合、どの程度まで金額を上げても大丈夫か、きちんとした設計金額を知らないと競り勝てない」と動機を述べた。 2018年6月ごろから22年8月ごろの間に郡山駅前で2人で飲食し、赤羽氏が計18万円ほどを全額払ったことが「設計金額などを教えた見返り」と捉えられ、贈賄に問われている。 2021年4月に赤羽氏は郡山駅前のスナックで遠藤氏に「退職したら『後継者』確保に使ってほしい」と現金10万円を渡した。「後継者」とは、入札に関わる情報を教えてくれる県職員のこと。遠藤氏は現金を受け取るのはさすがにまずいと思い、断る素振りを見せたが、これまで築いた関係を壊したくないと、受け取って自宅に保管していたという。これが受託収賄罪に問われた。遠藤氏は県庁を退職後に、赤羽組に再就職することが「内定」していた。 もともと両者の間に現金の授受はなかったが、一緒に飲食し絆が深まると、個人的な信頼関係を失いたくないと金銭の供与を断れなくなる。昨今検挙が盛んな「小物」の贈収賄事件に共通する動機だ。検察側は赤羽氏に懲役1年、遠藤氏には懲役2年と追徴金約18万円、現金10万円の没収を求刑しており、判決は福島地裁でそれぞれ8月21日、同22日に言い渡される。 公契約関係競売入札妨害の罪に問われている東日本緑化工業の坂田氏の初公判は8月16日午後1時半から同地裁で行われる予定だ。 本誌7月号記事「収まらない県職員贈収賄事件」では、坂田氏についてある法面業者がこう語っていた。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープランドという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉幸生代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」 元請けは秀和建設 7月26日の遠藤氏の公判では、坂田氏が2004年に東日本緑化工業に入社したと明かされた。遠藤氏とは1999年か2000年ごろ、当時勤めていた法面業者の工事で知り会ったという。遠藤氏はあぶくま高原道路管理事務所に勤務しており、何回か飲食に行く仲となった。 坂田氏は2012年ごろ、秀和建設(田村市)の取締役から公共工事を思うように落札できないと相談を受け、遠藤氏とは別の県職員から設計金額を教えてもらうようになる。その県職員から、遠藤氏は15年ごろにバトンタッチされ、引き続き設計金額を教えていた。それを基に秀和建設が工事を落札し、下請けに東日本緑化工業が常に入ることを考えていたと、坂田氏は検察への供述で明かしている。坂田氏は秀和建設以外の業者にも予定価格を教えることがあったという。 遠藤氏は、坂田氏に教えた情報が別の業者に流れていることに気付いていた。坂田氏が聞いてきたのは田村市内の道路改良工事で、法面業者である東日本緑化工業が元請けになるような工事ではなかったからだ。同社は大規模な工事を下請けに発注するために必要な特定建設業の許可を持っていなかった。 「聞いてどうするのか」と尋ねると、坂田氏は「いろいろあってな」。遠藤氏は悩んだが、「田村市内の業者が受注調整に使うのだろう」と想像し教えた。 前出・法面業者は「坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思いついた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」と述べていた。この法面業者の見立ては正しかったわけだ。 坂田氏は年に数回、設計金額を聞いてきたという。そんな坂田氏を、遠藤氏は「情報通として業界内での立場を強めていた」と見ていた。 ここで重要なのは、不正入札に加担していたのが秀和建設と判明したことだ。同社の元社長は、昨年発覚した田村市発注工事の入札を巡る贈収賄事件で今年1月に贈賄で有罪判決を受けている。 今回の県工事贈収賄・入札妨害事件は、任意の捜査が始まったのが3月ごろ。県警は田村市の事件で秀和建設元社長を取り調べした段階で、次は同社の下請けに入っていた東日本緑化工業と県職員と狙いを付けていたのだろう。11年前には既に遠藤氏とは別の県職員が設計金額を教えていた。坂田氏も別の業者に教えていたということは、入札不正が氷山の一角に過ぎないこと分かる。思い当たるベテラン県職員は戦々恐々としているだろう。 あわせて読みたい 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】
先月号で、JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が6月8日に事業を停止したことを報じたが、10月に挙式を予定していた夫婦の母親が、その被害と精神的ショックを打ち明けてくれた。 支払い済みの190万円は戻る保証無し 事業停止を伝える張り紙 結婚式場の運営会社である㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11、2003年7月設立、資本金1000万円、黒﨑正壽社長)は福島地裁郡山支部に破産を申請する見通し。負債総額は少なくとも2億円を超えるとみられる。 ピーク時の2013年に5億0100万円あった売り上げ(決算期は9月)は、新型コロナ発生前の19年に2億4000万円と半減し、コロナ禍の22年には1億円と5分の1にまで落ち込んでいた。 《2014年9月期以降もパーティー会場の増設や新しいイベント企画の立案等を進め顧客獲得に努めていたが同業との競争は激しく、業績伸長に苦戦を強いられていた。そのような中、2020年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、挙式・披露宴の日程変更やキャンセルが相次いだ他、招待人数の減少もあり(中略)収支一杯な状況を余儀無くされていた。2021年9月期以降も業況は好転せず、近時においても外注先との契約解消等もあったことから事業継続を断念》(東京商工リサーチ『TSR情報福島県版Weekly』6月26日付より) 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の運営管理を行う㈱TAKUSO(どちらも郡山市駅前一丁目11―7)があるが、オール・セインツの事業停止以降、事務所に人影はない。 「突然、事業停止を告げられ、しかも払ったお金は戻ってくるか分からない。今は騙されたという思いでいっぱいです」 憤った様子でこう話すのは、郡山市在住の主婦Aさん。Aさんは宮城県内に住む息子夫婦がオール・セインツで挙式とパーティーを開く予定だったが、今回の事態で見通しが立たなくなった。 「息子夫婦は5月29日に衣装や髪形などの打ち合わせをして、次回は食事の内容を詰めることになっていました。ところが、息子が担当者のラインに『次の打ち合わせはいつになりますか』と送っても『既読』になっただけで返信がなかった。いつもならすぐに返信があるので、息子も変だなと思ったそうですが、まさかこんなことになるなんて」(同) 息子夫婦が最後に打ち合わせをしたのは事業停止の10日前。おそらく担当者は、その時点では会社が破産することを認識していなかったのだろう。ラインが「既読」になっても返信がなかったということは、打ち合わせ後に黒﨑社長から社員に「6月8日に事業を停止する」旨が伝えられたとみられる。 とはいえ、顧客からすると「破産すると分かっていて説明せず、カネを騙し取ったのではないか」との疑念は拭えない。 「5月29日の打ち合わせには私も同席し、ちょうど黒﨑社長にも会っています。ただ、その日はいつもと様子が違っていました」(同) Aさんによると、黒﨑社長は愛嬌があり、丁寧な挨拶を欠かさないそうだが、その日はいつもの元気がなく、難しい表情を浮かべながら誰かと話し込む様子が見られたという。 「今思えば、破産の話をしていたのかもしれませんね」(同) 実は、Aさんの息子夫婦は他の被害カップルとは事情が異なる。 オール・セインツの約款には《挙式5万円、パーティー5万円の申込金支払いで契約成立とし、申込金は内金として当日費用に充当する》《挙式・パーティーの2週間前までに最終見積もり金額および請求金額を提出するので、挙式10日前までに当社指定の銀行口座にお振り込みください》と書かれている。つまり、被害カップルの損害額は最少で10万円、挙式まで10日を切っていると費用全額になる可能性がある。 そうした中、Aさんの息子夫婦は今年2月26日に挙式とパーティーを行う予定だったが、妻の妊娠が判明したため出産後の10月7日に延期。しかし、オール・セインツは約款で日程変更を認めていないことから、息子夫婦は特例で日程変更を承認してもらい、同社と覚書(昨年9月9日付)を交わしていたのだ。 「ただし『日程変更の条件として見積もり金額180万円の全額を払う必要がある』と言われたので、息子夫婦は覚書に基づき全額を払ったのです」(Aさん) すなわち内金10万円と合わせ、息子夫婦は計190万円を既に支払っていたのだ。挙式が10月7日ということは、本来なら10万円の損害で免れていたかもしれないのに、想定外の被害に巻き込まれた格好だ。 「私は『延期するなら契約を白紙にしてもいいのでは』と言ったのですが、息子夫婦は『どうしてもオール・セインツで式を挙げたい』と言うので、最後は本人たちの意思を尊重した経緯があります。実際、ネットの口コミ評価も高かったし、チャペルの雰囲気も素敵だったので、ここで挙式したいという思いが強かったんでしょうね」(同) 債権者集会はいつ? 門が閉ざされ静まり返るチャペル 事業停止後、オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(山口大輔法律事務所、会津若松市大町一丁目10―14)からは「(オール・セインツを)結婚式という人生の大きな節目をお祝いする場に選んでいただけたにも拘わらず、このような結果になってしまったことをお詫び申し上げます」と謝罪すると共に、▽結婚式業務委託契約を会社都合により解除する、▽支払い済みの金額および損害賠償請求は破産手続きの対象になる旨が書かれた文書(6月9日付)が送られてきた。 「紙切れ1枚で連絡を済ませるなんて酷い。黒﨑社長には、息子夫婦の人生の門出を台無しにした責任を取ってほしい」(同) 黒﨑社長は79歳で、北海道札幌市に自宅があるが出身は福島県ということは先月号でも触れた。Aさんによると「以前、雑談していたら『私は会津出身なんです』と話していました」とのこと。 チャペルやパーティー施設などの不動産は、小野町の土木工事・産廃処理会社が所有していることも既報の通りだが、その他に目ぼしい財産があるか調べたものの、不動産登記簿等では追い切れなかった。 Aさんの息子夫婦は精神的ショックに打ちひしがれている。挙式は行いたいが、別の式場でもう一度最初から打ち合わせをする気持ちになれないという。もちろん費用の問題もあり、支払い済みの190万円が戻ってくる保証はない。 山口弁護士はオール・セインツから事業停止後の処理を一任されただけで、破産手続開始が決定されれば裁判所が破産管財人を選任する。破産手続きは、その破産管財人(山口弁護士とは別の弁護士)のもとで進められることになる。 山口大輔弁護士事務所によると、7月19日現在、負債総額の調査は終わっておらず、債権者集会を開催する見通しも立っていないという。「黒﨑社長と直接話せないか」と尋ねたが「当事務所が代理人を務めているため、直接話すのは難しい」とのことだった。 「幸せ」を商売にしてきた企業が顧客を「不幸」にしたのでは話にならない。債権者を選別するわけではないが、被害カップルを何とか救済できないかと思うのは本誌だけではないだろう。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖
「福島県農業経営・就農支援センター」(福島市)は4月3日に県自治会館で開所式を実施してから、4カ月経過した。同センターは、農業経営基盤強化促進法の改正で各都道府県に設置されることになったが、県および県農業会議・県農業振興公社に加えJAグループが参加し、17名が常駐するワンストップ・ワンフロアの支援体制は全国でも福島県が初めてとなる。 従来の窓口は団体ごとに異なり、手続きが煩雑になるなど相談者の負担となっていた。各団体が1カ所に集まることで団体の連携を密にし、実効性ある支援策を講じることができるようになった。 相談件数は4月に開所して以来、6月末時点で、地域段階のサテライト窓口も含めて298件(就農相談186件、経営相談103件、企業参入相談9件)となった。この相談件数は昨年同時期と比較すると約2倍になっており、新規就農希望者やこれからの経営改善を計画する農業経営者から大きな期待が寄せられ、順調なスタートとなっている。 今後、年間1200件の相談件数を目指したPRや掘り起こし活動を積極的に行うとともに、就農相談を通じて、県農林水産業振興計画に掲げる2030(令和12)年度までに年間340名以上とする新規就農者の確保を目指す。 また今後の課題として、相談者の就農実現に向けた研修受け入れ機関(農家や公的機関)の紹介をはじめ国等の支援事業の対応や農地のあっせん等を含めた伴走支援を進める必要がある。 開所式の様子 経営相談については300件を超える重点支援対象者を設定しており、既存の経営者から寄せられた法人化や経営継承等の課題解決に向けた対応に加え、就農後5年以内の認定新規就農者に対する就農定着と経営発展に向け、センターおよびサテライト窓口職員による訪問活動や専門家派遣などに取り組んでいく。 JA福島グループでは、相談件数の増加が就農者の増加と定着、さらには農業経営者の経営課題解決という成果に着実につながっていくよう、関係機関の連携を一層強めて取り組んでいく考えだ。 JA福島中央会が運営するJAグループ福島のホームページ あわせて読みたい 【JAグループリポート2023】創立70周年記念大会で誓い新たに【JA福島女性部協議会】
陸上自衛隊郡山駐屯地(郡山市)に所属していた元陸上自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=がわいせつ被害をネットで実名公表してから1年が経った。服の上から下半身を押し付け、性行為を想起させる「腰振り」をしたとして、強制わいせつ罪で在宅起訴された元男性隊員3人の初公判が6月29日、福島地裁で開かれ、初めて加害者の名前が明かされた。マスコミのほか、傍聴席数を大きく上回る市民、自衛隊関係者が傍聴に押し寄せた。注目が集まったのは、「命を削ってでも闘う」と覚悟を決めた五ノ井さんと、わいせつと捉えられる行為を「笑いを取るために行った」と弁明する加害者たちとの埋め難い差だった。 「笑いを取るため」見苦しい弁明 福島地方裁判所 原稿執筆時(7月27日)は同31日に開かれる予定の第2回公判を傍聴しておらず、初公判(6月29日)を終えた時点での情報を書く。 強制わいせつ罪に問われているのは、いずれも自衛官を懲戒免職された、現在郡山市在住で会社員の渋谷修太郎被告(30)=山形県米沢市出身=、関根亮斗被告(29)=須賀川市出身=、木目沢佑輔被告(29)=郡山市出身=。 2021年8月3日夜に北海道・陸自矢臼別演習場の宿泊部屋の飲み会で、上司から指示を受けた被告3人が、それぞれ五ノ井さんに格闘技の「首ひねり」を掛けてベッドに押し倒した上、五ノ井さんに覆い被さって下半身を押し付けたかどうかが問われている。被告3人は技を掛けたことは認めたが、わいせつ目的の行為はしていないと一部否認している。 最初に技を掛けた渋谷被告は、裁判で「覆い被さっていない」「腰を振ったのは事実だが笑いを取るためで、下半身の接触はなかった」と主張。関根被告は押さえつけたこと、木目沢被告は覆い被さったことは認めたが「下半身は接触していない」と述べた。 「笑いを取るため」との主張は、一般の感覚を持ち合わせているなら苦し紛れに聞こえる。 渋谷被告は無罪を勝ち取った場合でも「飲み会中に女性に技を掛けて倒し、笑いのために腰を振った男」と言われ続けることを考えなかったのか。 渋谷被告は専門学校を卒業後、2013年に入隊。関根被告と木目沢被告は高校卒業後、2012年に入隊した。2020年に入隊した五ノ井さんにとっては7、8年先輩で、階級は事件当時3等陸曹だった。五ノ井さんは当時1等陸士で、3人よりも階級が下だった。今回の刑事事件では、五ノ井さん、被告3人双方が自衛隊内は絶対的な階級制度で上司の命令に逆らえなかった点を挙げている。 五ノ井さんによると、事件のあった部屋で被告3人に五ノ井さんへの首ひねりを命じたのはF1等陸曹(1曹)だった(五ノ井里奈著、岩下明日香構成『声をあげて』2023年、小学館。人名の匿名表記は同書に従う。階級は当時)。40代のF1曹は、ほかに男性隊員十数人がいたその部屋の中では階級が上位だった。 発端の言葉「首を制する者は勝てる」 柔道を指導していたF1曹は、30代のB2等陸曹(2曹)と格闘技の話で盛り上がり、「首を制する者は勝てる」と語っていた。F1曹は渋谷被告に柔道有段者である五ノ井さんを相手に「やってみろ」と言ったという。F1曹は渋谷被告にやり方をレクチャーした(検察側が読み上げた男性隊員の供述調書より)。 法廷で示された捜査段階の資料によると、部屋の広さは約6㍍×約6・8㍍。壁際にベッドが4台、短辺を中央に向けるように約0・8㍍の間隔で並んでいた。 渋谷被告の捜査段階での供述によると、「なぜ狭いところでやらなければ」と思ったという。室内が狭いので、ゆっくり首ひねりを行って五ノ井さんをベッドの上に倒した。渋谷被告は思った。「誰も反応してくれない」。性行為の疑似行為で笑いを取ろうと、腰を前後に振った。体の線を強調した黒い服装で「ウェーイ」と叫びながら腰を振る芸風で、2000年代半ばに一斉を風靡したお笑い芸人レイザーラモンHGを真似たという。人前で「ウェーイ」と叫び腰を振るのは初めてのことだった。狙い通り笑いが起きたという。 証人として出廷した五ノ井さんは、渋谷被告は腰を振る行為をする際に「あんあん」という喘ぎ声を出していたと話した。自分がされていることに頭が追いつかなかったという。大勢の男性隊員がいる中、「F1曹とB2曹が笑っていたのを覚えている」と証言した。 渋谷被告の捜査段階の供述と、五ノ井さんの法廷での証言は「笑いが起きた」という点で矛盾しない。被告側は「笑いを取るため」と強調することで、わいせつ行為に当たらないと主張したいのだろうが、「笑いを取るためにやった」ということは一般市民をドン引きさせることはあっても、責任を和らげる効果はないだろう。 市井の生活を送っている者の感覚で言えば、上官の指示とは言え、首ひねりを掛けた時点で暴行だ。訓練期間中ではあったが、飲み会の席であり、中隊の全員が参加していたわけではなかった。後から「格闘技の練習の意味合いがあった」と言い訳ができそうだが、そもそも酔った集団の中で、渋谷被告自身も「なぜ狭いところでやらなければ」と疑問に思った広さの場所で危険行為をするべきではない。裁判は、自衛隊が一般市民の感覚から大きくかけ離れていることを浮き彫りにした。 国(防衛省)は強制わいせつ罪に問われている被告たちが、F1曹の指示でくだんの行為を行い、それがセクハラに当たると認定している。五ノ井さんが被害を受けている様子を見て笑ったとされるB2曹については、別の場面で五ノ井さんにセクハラをしたと認定した。加害行為が認定された5人は昨年12月に懲戒免職された。 民事と刑事で一貫した主張 弁護士とともに福島地裁に入る五ノ井さん(左) 五ノ井さんは、懲戒免職された元隊員5人と国に対し、損害賠償を求めて横浜地裁に提訴している。加害者側の代理人が「個人責任を負うべきか疑問が残る」との見解を示したこと、加害行為をどう受け止め、どのように責任を取るか質問状を投げても回答しなかったことを、五ノ井さんは不誠実と捉え、示談では解決できないと思ったからだ(前掲書208~209ページより)。 渋谷、関根、木目沢被告は、この民事裁判でも暴行や性加害を否認。F1曹も同じく否認。B2曹は矢臼別演習場での事件を概ね認め、和解に応じる姿勢を示している。国は、性加害の事実について認めた上で、法的責任の有無などについて追って主張したいと「留保」。民事、刑事双方で被告側が一貫した主張をできるかどうかも重要な要素だ。 福島地裁によると、6月29日に開かれた渋谷、関根、木目沢被告の初公判には、47席の一般傍聴席に125枚の整理券を交付。競争倍率は約2・6倍だった(6月30日付福島民友より)。裁判が行われたのは平日の昼間である。マスコミのほか、自らが捜査した事件の行方を報告するために来た自衛隊の警務隊員など仕事で来た人がほとんどであったが、被告たちが所属していた駐屯地がある郡山市から来たという人や、大学生とみられる一団もいた。 五ノ井さんや被告3人を撮ろうと裁判所の敷地境界で待ち構えるマスコミ 本誌は記者クラブに加盟していないので、法廷内の記者席が割り当てられていない。社員8人で抽選に臨み、2人が傍聴券を得た。毎回傍聴できるとは限らないので、常に本気だ。 本来なら満席のはずだが、横を見ると、なぜか筆者の隣はずらりと3人分空いていた。傍聴を棄権した人がいることになる。裁判は公開されていると言っても新聞、テレビは知り得ても伝えないことが多いし、本誌も証言者の実名は民事裁判への影響を考慮し報じていない。どちらが本当のことを話しているのか。実社会では表情や声色などを参考にするが、事件は裁判所に赴かないと分からない。 第3回公判は8月23日午後1時半開廷の予定。どちらが本当のことを言っているのか、自分で判断するためにも傍聴を勧める。 声をあげて posted with ヨメレバ 五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス 楽天kobo Amazon あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】
著名人らを繰り返し脅迫していたとして、東京地検は暴力行為法違反(常習的脅迫)の罪などで、元参院議員で暴露系ユーチューバーとして活動していたガーシー(本名・東谷義和)被告を起訴した。 ガーシー被告に海外でユーチューバーとなることを進めた〝黒幕〟は秋田新太郎氏といわれる。太陽光関連ベンチャー企業経営者で、過去に詐欺容疑で逮捕されたことがある。融資金の詐取容疑で再び逮捕され、執行猶予期間に逃亡。現在はドバイに滞在しているという。 実は福島県も無縁ではない。 2018年8月に小売り電気事業の「福島電力」(楢葉町)という会社が破産したが、同社の実質的創業者で、幹部社員として経営に携わっていたのが秋田氏だった。 本誌昨年4月号では福島電力について次のように触れている。 《電力小売り事業全面自由化を受けて、全国の発電事業者から供給を受け、その電力を販売する事業を展開。電気代が大幅に安くなる点や売り上げの一部が福島復興に還元される点を売りに契約数を伸ばした。2017年9月期の売上高は8億4600万円に上った。 だが、全国的に営業をかけて事業拡大した結果、顧客管理などが追い付かなくなり、請求書発行の遅延や二重請求が発生したため、ネットで大炎上。(中略)そうした中で、債権者から破産を申し立てられた。債権額は2017年9月末時点で約2億1000万円》 同社の経営のずさんさは元社員らが証言している。秋田氏自身も関西ローカルのニュース番組の取材に、「上場時にストックオプションで儲けようとした」、「売り上げが苦しくて、契約時に無断で高いプランに変更していた」とあけっぴろげにコメントしていた。 同社の元社長は自称顧問(秋田氏)と共謀して、1000万円を着服したとして、業務上横領罪で逮捕・起訴されており、7月10日、東京地裁は懲役2年6月、執行猶予5年(求刑懲役2年6月)の判決を言い渡した。平然と罪を重ねる〝悪党〟ぶりにあきれるばかりだ。
【政経東北 目次】大義なき〝汚染水〞海洋放出/IAEA国際基準のずさんな内容/【会津バス】社長が明かす【丸峰観光ホテル】再生手法/違和感が渦巻く【会津大学】学長辞任/続・前理事長の性加害疑惑に揺れる会津【中沢学園】/陸自郡山駐屯地わいせつ事件「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為 アマゾンで購入する BASEで購入する 大義なき〝汚染水〞海洋放出 ジャーナリスト・牧内昇平 IAEA国際基準のずさんな内容 廃炉制度研究会・尾松亮 会津バス社長が明かす丸峰観光ホテル再生手法 丸峰庵の民事再生手続きは未だ不透明 違和感が渦巻く会津大学学長辞任 「論文不正」「学内手続き軽視」のもう一つの事実 県警の贈収賄摘発は一段落⁉ 「一罰百戒」芋づる式検挙の舞台裏 県クリエイター育成事業「誇心館」検証ないまま2年目始動 塾生の生の声を反省材料にすべき 続・前理事長の性加害疑惑に揺れる会津【中沢学園】 記事掲載禁止仮処分申立事件の内幕 陸自郡山駐屯地わいせつ事件「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為 証人は自らの嘘に苦しむ 【帰還困難区域】先行除染費用は60億円 動き出した「特定帰還居住区域」計画 県議選注目選挙区の動向 【須賀川市・岩瀬郡】自民現職2人に新人2人が挑む「共産候補も侮れない」との声も 【南会津郡】元立民党員が自民推薦で立候補 自治労出身候補者との新人対決 「空白」を回避した【磐梯東都バス】撤退問題 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 岐路に立つ真夏の相馬野馬追 歴史的根拠に乏しい「5月開催」方針 風通しが悪い中間貯蔵国策会社 「怠慢を指導」か「パワハラ」かでいがみ合い ワイド特集 祭りのあと ・田村市の新病院工事問題で新展開【安藤ハザマ】との請負契約が白紙に ・相馬福島道路が長期間の通行止め 災害に弱い「横軸」は相変わらず!? ・ヨークベニマルが原町に新店舗!?商業施設跡解体で広まる〝ウワサ〟 ・室屋パイロット塾で3次試験実施 9月からいよいよ飛行訓練が開始 ・只見町の食品スーパー店主が引退 豪雨災害で水没も地域のため再開 特集・若手新人3議員の素顔 【須賀川市】断トツ得票を記録した深谷勝仁氏 【猪苗代町】地域おこしで移住した長友海夢氏 【南会津町】元町長に大差をつけた渡部裕太氏 生涯教員宣言の77歳相楽新之助さん 「これからも教壇に立ち続けたい」 その他の特集 巻頭言 不作為の罪 グラビア 強行された〝汚染水〟海洋放出 特別インタビュー 管野啓二・JA福島五連会長 長谷川浩一・県建設業協会長 尾崎和典・福島中央テレビ社長 朝倉津右エ門・二本松信用金庫理事長 市長インタビュー 鈴木和夫・白河市長 首長訪問 薄友喜・西会津町長 新首長に聞く 須釡泰一・玉川村長 企画特集 「秋の観光」で地域に活力与える二本松市 桑折町が目指す住みよいまちづくり 福島商工会議所で創業支援の「スクール」開講 この人に聞く 新城猪之吉・会津若松観光ビューロー理事長 インフォメーション 学校法人昌平黌 いわき短大附属幼稚園 湯川村長選立候補予定者に聞く 連載 フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)情報ファインダー熟年離婚 男の言い分・その61(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁)ふくしまに生きる 編集後記
福島市本町にある学習塾「さくらゼミ」が5月上旬に突如閉鎖し、受験の天王山である夏を前に塾生たちは行き場を失った。1年分の受講料を既に払った塾生もおり、返済が必要な額は500万円にのぼる。運営会社社長は保護者への「謝罪の会」で時期は明言しなかったが全額返金する方針を示した。業界関係者は、塾生を集める算段が付かず経営難に陥り、従業員も見切りを付けたのでは、と話す。 「社会保険未加入」で去っていった講師たち 福島市の学習塾「さくらゼミ」の閉鎖は6月16日付の福島民報が最初に報じた。 《福島市中心部の学習塾が年間受講料などを徴収しながら5月上旬以降、受講生に告知せず授業を中断していることが15日までの関係者への取材で分かった。保護者は受講料返還を求める集団訴訟なども視野に、法的手続きを検討している》 さくらゼミのことだ。同記事によると、塾には小中高生約30人が在籍し、多くは1年分の受講料を一括で納めて今年度の授業を受ける予定だった。4月中はオンラインも交えて授業があったが、5月の大型連休明けから大方の生徒に事情が説明されないまま授業が打ち切られたという。 さくらゼミの元従業員Aさんが語る。 「さくらゼミは仙台市を拠点にする学習塾で教えていた佐藤団氏の個人事業として始まりました。3年前に会社組織を立ち上げ、運営がスタートしました」 法人登記簿によると、さくらゼミを運営するのは「株式会社SAKURA BLACKS」。2020年1月29日設立。事業目的には、①学習塾の経営、②速読、読解力向上の為の学習指導、③語学、資格取得に関する学習指導、④教材用図書の出版がある。代表取締役は佐藤団氏。 佐藤氏は市内で保護者向けに説明会を開いた。6月25日付の福島民友が詳しい。 《福島市の学習塾が受講料を徴収後、説明や返金もないまま事業を停止している問題で、経営者の男性は24日、同市で説明会を開き、受講料の返済が必要な人が約40人おり、総額が約500万円に上ると明らかにした》 男性とは佐藤氏のこと。同記事によると、佐藤氏は弁護士を通じて全額返金する意向を示したが、具体的な時期は明言しなかったという。佐藤氏の話として、塾は昨年12月の段階で経営難だったと伝えている。 前出のAさんが続ける。 「経営に関し、おかしいと思う部分はありました。私は従業員として授業を教えていましたが、一切、社会保険には入れてもらえなかった。佐藤氏は『お金がない』の一点張りでした。最盛期はアルバイトも含めると最大10人くらいいましたが、徐々に辞めていきましたね。私は以前、佐藤氏と一緒の塾に勤めていた同僚で、佐藤氏から『新しい塾をつくろう』と誘われてさくらゼミに参加しました。そういう事情もあって塾生たちに責任を感じ、限界まで残るつもりでしたが、昨年の夏にもう付いていけないと辞めることを決めました。高校受験生に悪影響が及ばないよう、今年2月まで授業を続け退職しました」 現在、さくらゼミのホームページの講師紹介は、佐藤氏の顔写真しか載っていない。過去のホームページをたどると、佐藤氏の担当教科は国語、英語、社会。Aさんによると、塾の従業員がAさん1人になった後は、佐藤氏が算数・数学と理科も教え、状況によっては配信授業を活用する予定だったという。 学習塾業界関係者Bさんの話。 「塾関係者の間では、佐藤氏よりもAさんの方がベテラン講師として実績があり、児童・生徒、保護者から人気がありました。さくらゼミのロゴである桜の花びらのデザインはAさんが以前経営していた学習塾のものと同じで、ノウハウも業界関係者から見れば類似点が多い。Aさんは今春から福島市内で新たに学習塾を開いています。Aさんはさくらゼミでは一従業員の立場に過ぎなかったのかもしれないが、関係性の深さを見ていくと『責任はなかった』では済まされない気がします」 筆者はAさんにこの話を伝え「業界関係者の中にはAさんが佐藤氏を表に立て、裏でさくらゼミを仕切っていたのではないかと疑う人がいるようだ」と問うたが、Aさんは「それはありません」と否定した。 「佐藤氏と一緒にさくらゼミを始めたメンバーは私以外にもいます。仕切るどころか、社会保険に入れてもらえないなどのトラブルがあり、結局全員辞めてしまいましたが」(Aさん) そして、疲れた声でこう続けた。 「むしろ私は、佐藤氏に悪者に仕立て上げられ困っているんです」 どういうことか。 「佐藤氏は私が辞める際、『塾生には何も言わず黙って辞めてくれ』と言い、私はそれに従いました。保護者から後で聞いた話ですが、佐藤氏は保護者・塾生との面談で『Aは勝手に辞めていった』と言ったそうです」(同) どのような意図があったのか。実は、Aさんはさくらゼミを辞める時点で新しい塾を開く予定だった。そのため「佐藤氏は塾生を取られることを恐れ、私が勝手に辞めたと事実と異なる説明をして、塾生に『Aに裏切られた』と思わせる狙いがあったのではないか」(同)。 佐藤氏は配信授業を活用するなどして塾生が1人になっても事業を継続する意向だったが、5月上旬に突如閉鎖して以降は再開した様子はない。7月下旬、筆者は福島市本町にあるさくらゼミが入居していたビルを訪れたが、看板が残っているだけだった。新しいテナントも入っていない。 佐藤氏はさくらゼミの閉鎖から1カ月以上経った6月24日、保護者向けに「謝罪の会」を開いたが、開催は保護者に執拗にせがまれてのことだったという。佐藤氏は保護者に、健康状態の悪化や資金繰りに困っていたことから閉鎖の連絡が遅れてしまったと釈明した。 塾生確保が困難か 前出のBさんが語る。 「佐藤氏が教えられるのは英語などの文系科目だけだったという時点で、他の講師が辞めたら閉鎖は避けられませんでした。受験の天王山と言われる夏を控える中、説明もなく突如閉鎖し、在籍していた塾生の引き受け先も確保しなかったため問題となりました。福島県は大学進学率が低いことから、学習塾にとっては高校受験を控える中学3年生が主な顧客です。塾は2月に現中学2年生の人数を見て、次年度の計画を立てます。毎年、新中学3年生の獲得に力を入れなければならない。次年度の経営状況は春には予想がつくと言っていい。報道によると、閉鎖時に小中高生が30~40人在籍していたとあったが、さくらゼミの規模だと60~70人はいないと黒字にならない。Aさんたち講師陣は、かねてから社会保険を未加入にされていた上、塾生の確保も難しいとあきらめ、見切りを付けたのではないか」 授業が行えず、塾生を集められない以上、さくらゼミの運営会社は、塾生たちに先に徴収した授業料を返還したうえで破産するのが現実的だろう。 佐藤氏はいま何を思うのか。筆者は7月平日の昼に福島市内にある自宅を訪ねたが、車はなく、家族によると「不在」とのこと。債権者への責任を果たすため、金策に走っていることを願う。 あわせて読みたい 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者
二本松市の本多俊昭市議(63、4期)が所有地に廃棄物を運び込んで一部を焼却処分したとして、市の担当課から注意されていたことが分かった。本多市議は反省の意を示しているが、近隣住民はこの間の言動も含めてその対応に不信感を募らせており、議員辞職を求めている。 議員辞職を宣言もあっさり「撤回」 本多市議は福島農蚕高卒。同市南部の舘野原(杉田地区)在住で、農業に従事している。2022年6月の二本松市議選(定数22)では1470票を獲得して4位当選。令和創生の会に所属し、執行部(三保市政)を厳しく監視・追及するスタンスを貫いているが、ここ2年は1年に1回代表質問で登壇するだけで、一般質問はしていない。 そんな本多市議について、「所有地に廃棄物を不法投棄し、野焼きしていたとして近隣住民とトラブルになっている」とウワサが流れている。 真相を確認するため、市内で聞き込みをしたところ、本多市議とトラブルになっている近隣住民Aさんにたどり着いた。 Aさんはこのように明かす。 「同市箕輪の人通りのない場所に、本田市議が所有する農地がある。昨年6月ごろ、その場所に選挙で使った腕章や布団などを捨て始めた。隣接する私の土地にも侵入していたため、撤去を求めたのですが、少し場所をずらしただけで、その後も放置されたままになっていました」 しばらくすると、近くにあるAさんの自宅にスズメバチが飛んで来るようになった。「廃棄物に巣を作られてはたまらない」とAさんは3度にわたり市に「本多市議に撤去させてほしい」と相談。市が指導に入り、1カ月ほど経ったころ、その場でそれらの一部を燃やし始めたという。 布団などが仮置きされた本多市議の所有地 焼却している様子 「近隣に住む私に何の連絡もなく焼却し始めたので驚きました。幸い周辺の木には延焼しませんでしたが、危ない行為でした」(Aさん) 廃棄物処理法第5条では「土地又は建物の占有者は、その占有し、又は管理する土地又は建物の清潔を保つように努めなければならない」と定められており、行政機関では「廃棄物の一時保管」と称して廃棄物を放置したままにしないように呼びかけている。 また、同法第16条の2では、悪臭やダイオキシン類の発生原因となることから、災害ゴミの処分やどんど焼きなどの例外を除いて野外焼却を禁止している。市が配布しているチラシでも「地面の上で直接ゴミを燃やすこと」について「次のような焼却行為は法律に違反しますので罰せられることがあります」と注意を呼び掛けている。 本多市議は公職に就いているにもかかわらず、こうした違反行為を平然と行っていたわけ。なお、焼却されたのは一部で、残りは本多市議の別の所有地に移動されたという。 Aさんによると、本多市議は当初、誤りを認め、深く反省しているとして、市議会3月定例会終了後に議員辞職する考えを明かしていた。Aさんはトラブル防止のため、会話の様子を「秘密録音」し、記録に残していることを明かす。 「ところが、3月定例会終了後に電話すると『弁護士に相談したら不法投棄に当たらないし、議員を辞職する必要はないと言われたので、議員活動を続ける』と、あっさり前言撤回したから呆れました。こういう人物の言うことは信用できないし、議員にはふさわしくないと思いますよ」(Aさん) 本多市議を直撃 本多市議は近隣住民のこうした声をどのように受け止めているのか。舘野原の自宅を訪ねたところ、本人が取材に応じた。 ――自分の所有地に廃棄物を捨て、その場で燃やしていたと聞いた。 「廃棄物ではなく、自宅の片付けで出た不要物をごみに出す前に〝仮置き〟していた。ただ、一部を所有地で燃やしたのは事実だ」 ――廃棄物処理法で野焼きが禁止されていることを知らなかったのか。 「ちょっとした判断ミスで、深く認識せずにやった。反省して、弁護士の先生に相談したところ、『そこまでのアレじゃないし、深く考えない方がいい』とアドバイスされた。県の人権擁護委員会の先生、法徳寺の住職にも相談したが、『議員を辞めるまでには至らない』との意見をもらったので、議員活動を続けることにした」 ――いま思うことは。 「議員という立場上、その行動がいろいろな人に見られていることをあらためて自覚したうえで、引き続き議員活動に取り組んでいく」 同市生活環境課によると、Aさんからの連絡を受けて後日、同課職員が現地を確認し、本多市議に厳重注意を行ったという。そもそもごみに出す予定で〝野ざらし〟で農地に置いておいた不要物を「仮置きしていた」という言い分は苦しい。 現地は細い農道を通ってしか入れない場所にあり、ほとんど人通りがない。そんな土地で、公職に就く人が近隣住民に声もかけず自宅の不要物を焼却するのは、客観的に見ても異様に映る。「人の目がないところで何か不都合なものを処分しようとしているのではないか」、「所有地をごみ捨て場代わりに使っていたのではないか」と疑われても仕方ないだろう。 複数の関係者によると、狭い地域の話がウワサとなって市内に広まった背景には▽地縁団体などに推されない形で当選した本多市議と一部の地元住民との確執、▽議会で三保市政の批判を続けており、三保市長の支持者から敵視されている――といった事情も影響しているという。 本多市議とAさんは、土地境界線をめぐって以前からもめているようで、今回のトラブル発生後、逆にAさんが誤って本多市議の所有地の木を無断伐採していたことも発覚したという。そうした経緯もあってか、互いに感情的になっているように見える。 Aさんは廃棄物の撤去を求め、同市生活環境課と二本松署に連絡したが、動きは鈍く、現場を確認した様子は見られなかったという(※)。早い段階で行政機関が対応しなかったことが、結果的に事態を悪化させたとも考えられる。 本多市議は「近所付き合いもあるし、大ごとになればこちらも主張しなければならないことが出てくる。記事にはしてほしくない」と言うが、Aさんは逆に「この事実を多くの人に知ってほしい」と話している。議員として地元住民と良好な関係を築いていくことが求められるが、関係修復は容易でなさそうだ。 ※市生活環境課は「Aさんから通報を受けたので後日当事者(本多市議)に電話して注意した。所有地における廃棄物の捉え方については、グレーな面がある」、二本松署は「個別の案件についてはお答えできない」と回答している。
5月8日から、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」になった。これに伴い、法律に基づく外出自粛や行動制限などが発せられることがなくなり、イベントや観光などの機運が高まっている。「5類」移行の影響はどうなのか、会津若松市観光業の状況を探った。 夏休み、秋のシーズンに期待 東山温泉 会津若松市を取材対象にした理由は、1つはデータの取りまとめが非常に早いこと。速報値ではあるものの、7月中旬に同市観光課に問い合わせると、すでに市内観光各所の6月分のデータがまとめられていた。 それだけ、行政の観光セクションがしっかりしており、行政と観光関連施設などの連携が図れている証拠だろう。見方を変えると、同市において観光業はそれだけ大きな産業で、観光業の浮沈が市内経済に大きな影響を及ぼすということでもある。それが同市を取材対象にしたもう1つの理由だ。 別表はコロナ前の2019年、コロナの感染拡大が顕著になった2020年、昨年、今年の上半期(1〜6月)の同市内の主な観光地の入り込み数・利用者数をまとめたもの(市観光課調べのデータを基に本誌作成、2023年は速報値)。 鶴ヶ城天守閣 2019年2020年2022年2023年1月1万8387人2万4751人1万0174人7205人2月2万0880人2万6234人7144人6537人3月2万9821人2万0491人1万4766人1万1370人4月7万9325人4170人3万5654人5万0713人5月7万5462人1130人4万8486人6万5887人6月5万1127人9672人4万0344人5万2626人計27万5002人8万6376人15万6568人19万4338人 麟閣(※鶴ヶ城公園内の茶室) 2019年2020年2022年2023年1月1万1900人1万4287人6962人4755人2月1万0835人1万2529人5064人4161人3月2万0285人1万4943人1万0477人8577人4月4万8042人3419人2万4150人3万2038人5月4万5159人827人3万0558人3万7735人6月2万2326人7706人1万6832人2万1800人計15万8547人5万3711人9万4043人10万9066人 御薬園 2019年2020年2022年2023年1月1261人2213人594人908人2月2593人2607人470人2153人3月2308人1500人1136人2191人4月5181人389人3010人3895人5月6512人155人4488人5235人6月4633人1466人3379人4101人計2万2488人8330人1万3077人1万8483人 県立博物館 2019年2020年2022年2023年1月1179人1659人1377人1942人2月2336人2967人3660人4167人3月3825人2291人2806人4162人4月6134人551人4082人4227人5月9892人609人1万2169人1万0687人6月1万0159人2546人1万2071人未集計計3万3525人1万0623人3万6165人2万5185人 東山温泉 2019年2020年2022年2023年1月3万4278人3万7793人2万8225人2万6311人2月3万3921人3万0388人1万5224人2万5665人3月5万2957人2万9279人2万6612人4万3381人4月4万1440人7512人3万6629人3万7387人5月3万9746人3482人4万1143人4万1203人6月4万3744人1万1884人3万3535人4万4489人計24万6086人12万0338人18万1368人21万8436人 芦ノ牧温泉 2019年2020年2022年2023年1月1万4238人1万6680人8625人9455人2月1万7638人1万9828人4952人1万0936人3月1万7064人1万1310人8785人1万3185人4月1万9578人3629人1万1306人1万1481人5月1万7727人80人1万1805人1万3545人6月1万8876人3732人9607人1万1449人計10万5121人5万5259人5万5080人7万0051人 民間施設 2019年2020年2022年2023年1月1万0884人1万2945人6480人7555人2月1万4400人1万4332人5366人9545人3月2万1821人1万3104人1万1366人2万2551人4月4万6851人3915人2万3504人3万0787人5月5万9000人268人4万2305人4万8743人6月5万3130人6498人4万2789人4万7319人計20万6086人5万1062人13万1810人16万6500人※武家屋敷、白虎隊記念館、駅cafe、日新館、 飯盛山スロープコンベア、会津ブランド館、会津村の合計 コロナの感染拡大が顕著になった2020年は前年比(コロナ前)で大幅なマイナスになっている。コロナ感染が国内で初めて確認されたのが2020年1月、本格的に影響が出てきたのが2月末ごろ。それを裏付けるように、同年3月は前年同月比で30〜40%減、4月は80〜90%減、5月は90%以上の減少となっている。 同年4月17日、全国に緊急事態宣言が出され、鶴ヶ城天守閣、茶室麟閣、御薬園の主要観光施設は4月18日から5月27日まで休館した。例年同時期に開催されていた「鶴ヶ城さくらまつり」も中止になった。ゴールデンウイークの書き入れ時がゼロになったのだ。 観光客の激減は、その分だけマーケットが縮小したことになり、観光業を生業としている関係者は大きな影響を受けた。それはすなわち、収入減にほかならず、結果、あらゆる分野において地域内の消費が減るといった事態を招く。そうした点からも、同市にとって重要な産業である観光業の立て直しは、大きな課題になっていた。 そんな中、昨年はコロナ直後からだいぶ回復しており、さらに今年はコロナ前には及ばないまでも、かなり戻っていることがうかがえる。施設にもよるが、少ないところで70%程度、多いところでは90%近くまで戻っている。 コロナ前以上の鶴ヶ城 5類移行後はコロナ前を上回る入場者となっている鶴ヶ城天守閣 月別に見ると、5類移行後の今年5、6月はコロナ前に近い数字か、施設によってはコロナ前を上回っている。これは5類移行の影響と見ていいのか。 「『5類』に移行したのはゴールデンウイーク明けで、その後は観光地にとって〝平時〟だったこともあり、正直、よく分からないですね。一昨年、昨年よりは良くなったのは間違いありませんが、徐々に戻ってきている延長線上と捉えるべきなのか、5類移行の影響なのかは測りがたい。これから夏休み、秋の観光シーズンになってどう動くかでしょうね」(市内の観光業関係者) こうした見方がある一方で、「やはり、5類移行の影響は大なり小なりあると思いますよ。『いままでは旅行を控えていたけど、制約がなくなったことだし、出かけてみようか』という気になるでしょうから」(別の観光業関係者)との声もあった。 さらにはこんな見方も。 「いい意味で、5類移行の影響はあると思います。ただ、それによって、海外旅行への制限・制約もなくなりますから、『これまでは近場、国内で我慢していたけど、せっかくだから海外に行こうか』という人も今後は増えてくると思います。もっとも、5類移行とは関係なく、いつの時代も、海外を含めたほかの観光地との競争があることは変わりませんけどね。その中で、どうやって人を呼び込むかということです」(温泉地の関係者) 共同通信配信のネット記事(7月11日配信)によると、海外旅行については、まだまだ不安が大きいとのアンケート結果が出ているという。以下は同記事より。 《調査会社インテージ(東京)が(7月)11日発表した夏休みの意識調査によると、半数が海外旅行に「不安」があると答えた。今夏に海外旅行を予定しているのは2・0%。昨夏(0・8%)より増えたが、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に移行しても渡航に慎重な人が多いようだ。全国の15~79歳のモニターを対象にインターネットで6月26~28日にアンケートを実施。2513人から回答を得た。海外旅行に関し、27・7%が「不安がある」、23・2%は「やや不安がある」とした。「不安はない」は9・5%、「あまり不安はない」が11・1%だった》 こうしたアンケートを見ると、5類移行後、すぐに海外旅行に行く人は少なそうだが、今後はそういった需要も増えてくるだろう。逆に海外から来る人も増えるから、温泉地の関係者が語っていたように、「海外を含めたほかの観光地との競争の中で、どうやって人を呼び込むか」に尽きよう。 鶴ヶ城天守閣、麟閣、御薬園を運営する会津若松観光ビューローによると、「(5類移行で)やはり雰囲気的に違う」としつつ、「その中でも、以前とは様相が変わってきている」という。 「鶴ヶ城天守閣は、5類移行後の今年6月と7月途中(本誌取材時の7月中旬)までは、2019年同月比で来場者数が100%を超えています。詳細を見ると、教育旅行は例年並みで、それ以外の団体ツアー客はコロナ前には戻っていません。その分、個人客が増えています。外国人も増えていますが、それについても以前のような団体ツアーではなく、数人でレンタカーを借りて、といった形が増えています」(同ビューローの担当者) 鶴ヶ城天守閣は昨年10月から今年4月27日まで、リニューアル工事を行っており、4月末からの大型連休に合わせて再オープンした。そのため、「新しくなった鶴ヶ城に行ってみよう」と、地元・近場の人の来場があったようだ。そういった事情から、6月、7月途中(本誌取材時)まではコロナ前(2019年)より来場者が増えた背景もあるが、①団体ツアー客が減り個人客が増えた、②その傾向は外国人も同様――といった状況だという。 ほかの観光施設の関係者などに聞いても、似たような傾向にあるようで、それがこれからしばらくの観光の主流になってくるのだろう。「ウィズコロナ的観光需要」といったところか。 夏以降の感染拡大に注意 こうして聞くと、5類移行後は多少なりとも状況が変わっていると言えそうだが、夏休みや秋の観光シーズンの動きはどうか。 「コロナ禍以降は、(観光客のコロナ感染や濃厚接触の疑いなどで)突然のキャンセルのリスクがあるため、あまり先の予約を取らないようになっています。そのため、各施設の夏休みや秋の観光シーズンの動き、予約状況などはつかめていません」(市観光課) 「鶴ヶ城は予約して来られる方は少ないので、夏休みや秋の観光シーズンの見通しはまだ何とも言えませんが、5類移行後はコロナ前(2019年)と同等かそれ以上の方に来ていただいているので、期待はしています」(前出・会津若松観光ビューローの担当者) 「予約してくる人は少ないので、まだ何とも分からないが、少なくとも夏休みの出だしとしては、昨年よりはいいと思います」(観光施設近くの土産店) 「だいぶ戻っているのは間違いありませんが、5類移行後、夏休みに向けては普通に推移している、といったところでしょうか。コロナ禍で受けたダメージが大きいので、それを補うにはまだまだ時間がかかると思います」(東山温泉観光協会) 観光業界関係者の多くが今後に向けて、期待を抱いていることがうかがえた。 一方で、温泉旅館・ホテルではこんな問題も抱えている。温泉旅館・ホテルでは、コロナ禍に従業員を整理したところが多い。その後、ある程度、宿泊客が戻ってきた段階で再度、従業員の募集をかけたが、なかなか応募がない、といった状況に陥っているという。当然、従業員にも生活があるから、温泉旅館・ホテルで仕事がないとなれば、別の業種に就くだろう。そんな事情もあって、人手が足らずキャパいっぱいまで宿泊客を入れられないところもあるというのだ。 コロナの後遺症とも言える状況だが、今後は受け入れる側も、コロナで崩れた体制を整え、平常運転ができるようにしていく必要があるということだろう。 一方で、感染症法上の位置付けが変わったとしても、コロナがなくなったわけではない。 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の7月7日の会合では、「新規患者数は、4月上旬以降緩やかな増加傾向となっており、5類移行後も7週連続で増加が継続している」と報告された。 そのうえで、「今後の見通し」として次のように指摘している。 ○過去の状況等を踏まえると、新規患者数の増加傾向が継続し、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある。また、感染拡大により医療提供体制への負荷を増大させる場合も考えられる。 ○自然感染やワクチン接種による免疫の減衰や、より免疫逃避が起こる可能性のある株の割合の増加、また、夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要。 「夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」、「夏休み等による今後の接触機会の増加等が感染状況に与える影響についても注意が必要」と指摘しており、夏休みシーズン後のコロナの感染状況にも注意が必要だ。
数年前から突如として囁かれるようになった玄葉光一郎衆院議員(59)の「知事転身説」。背景には野党暮らしが長くなり、このまま期数を重ねても出世の見込みが薄いため「政治家として新たなステージを目指すべきだ」という支持者の思いがある。内堀雅雄知事(59)の3期目の任期満了日は2026年11月11日。次の知事選まで3年余り、玄葉氏はいかに行動するのだろうか。本人に真意を聞いた。 首相になれない状況を悲嘆する支持者 玄葉氏の知事転身説を耳にするようになったのは、内堀氏が再選を果たした2018年の知事選が終わってからだろうか。 「内堀知事は2期目で復興の道筋をつけ、3期目を目指す気はないようだ」 こう訳知り顔で話す人に、筆者は何人も会ったが、では、その人たちが何か根拠があって話していたのかというとそうではない。政治談議は時に、あれこれ言い合うから盛り上がるわけで「誰かが『2期で終わるんじゃないか』と言っていた」「オレもそう思う」などと話しているうちにそれがウワサとなって広まり、いつの間にか「定説」として落ち着くのはよくあることだ。 ならば、内堀知事が2期8年で引退するとして「次の知事は誰?」となった時、多くの人が真っ先に思い浮かべたのが玄葉氏だったと推測される。 なぜか。 一般的に「次の市町村長は誰?」となれば、大抵は副市町村長、市町村議会議長、地元選出県議などの名前が挙がる。同じように「次の知事は誰?」となれば、副知事、官僚、国会議員などが有力候補になる。 消去法で見ていこう。 現在の鈴木正晃、佐藤宏隆両副知事は、総務部長などを歴任したプロパーで、優秀なのかもしれないが知名度はない。 官僚は、探せばいくらでも見つかるし、政治家転身への意欲を持つ官僚もいるが、内堀氏が総務省出身であることを踏まえると、2代続けて〝官僚知事〟は抵抗がある。 内堀雅雄知事 残る国会議員は元参院議員の増子輝彦氏(75)や荒井広幸氏(65)の名前を挙げる人もいたが、民間人としてすっかり定着し、年齢も加味すると現実的ではない。 というわけで現職の国会議員を見渡した時、多くの人が「最適」と考えたのが玄葉氏だったのだろう(誤解されては困るが、本誌は玄葉氏が知事に「適任」と言っているのではない。多くの人が「最適」と考える理由を探っているだけである)。 理由を探る前に、玄葉氏の政治家としてのルーツを辿る。 玄葉光一郎衆院議員 1964年、田村郡船引町(現田村市)に生まれた玄葉氏は、父方の祖父が鏡石町長、母方の祖父が船引町長、のちに結婚する妻は当時の佐藤栄佐久知事の二女と、幼少のころから政治と縁の深い家庭環境に身を置いてきた。 安積高校、上智大学法学部を卒業後は政治家を志し、松下政経塾に入塾(8期生)。4年間の研修・実践活動を経て1991年の福島県議選に立候補し、県政史上最年少の26歳で初当選を果たす。県議会では自民党に所属したが、わずか2年で県議を辞職。その年(93年)の衆院選に福島2区(中選挙区、定数5)から無所属で立候補し、並み居る候補者を退け3位で議員バッジを手にした。 当選後は自民党を離党、新党さきがけに所属した。以降は旧民主党、民主党、民進党、無所属(社会保障を立て直す国民会議)、立憲民主党と連続当選10回の議員歴は、民主党が一度は政権交代を果たし、玄葉氏も外務大臣や内閣府特命担当大臣、党政策調査会長などの要職を務めたものの、野党に身を置く期間が9割近くを占める。 それでも、選挙では無類の強さを発揮してきた。初めて小選挙区比例代表並立制が導入された1996年の衆院選こそ選挙区で荒井広幸氏に敗れ、比例復活当選に救われたが、次の衆院選で荒井氏とコスタリカを組む穂積良行氏を破り、次の次の衆院選で荒井氏も退けると、以降は対立候補を大差で退けてきた。もちろん玄葉氏の背後に、当時絶大な権勢を誇った岳父・佐藤栄佐久知事の存在があったことは言うまでもない。 しかし、栄佐久氏が県政汚職事件で失脚し、前々回、前回の衆院選では自民党の上杉謙太郎氏(48、2期、比例東北)に追い上げられたことからも分かるように、かつてのいかに得票数を増やすかという攻めの選挙から、近年はいかに得票数を減らさないかという守りの選挙に変わっていった。それもこれも野党議員では政府への陳情が通りにくい中、久しぶりに誕生した与党議員(上杉氏)に期待する有権者が増えていた証拠だろう。 旧福島3区では、選挙区は玄葉氏の名前を書くが、比例区は自民党に投票する、あるいは県議選や市町村議選は自民系の候補者を推すという〝ねじれ現象〟が長く続いている。原因は玄葉氏の政治家としての出発点が自民党で、佐藤栄佐久氏も同党参院議員を務めていたから。野党暮らしが長いとはいえ、支持者たちも元はと言えば自民党なのである。 そうした中で聞こえるのが「新党さきがけに行かず、自民党に留まっていれば……」と落胆する声だ。今の玄葉氏は、野党に身を置いたからこそ存在するわけで「たられば」の話をしても仕方ないのだが、根っこが自民党だけに残念がる人が多いのは理解できる。 なぜなら、仮に自民党で連続10回当選を重ねれば、主要閣僚はもちろん総理大臣に就いている可能性もあったからだ。来年還暦の玄葉氏はその若さも魅力になったはず。 ただ如何せん野党の身では、総理大臣は夢のまた夢。ならば政権交代を成し遂げるしかないが、政策の一致点が見いだせない野党はまとまる気配がない。玄葉氏が所属する立憲民主党も支持率が低迷し、野党第一党の座も危うい。選挙でも上杉氏に徐々に迫られている。 だから、支持者からは「このまま野党議員を続けていても展望が開けない」という本音が漏れるようになっていたし、それが次第に「いっそのこと、政治家として新たなステージを目指した方がいい」という期待へと変わっていったのだろう。 陳情受け付けに消極的 とはいえ、もし玄葉氏が知事選に立候補するとなった時、衆院議員としてどのような実績を残したかは冷静に見極める必要がある。 震災・原発事故当時、玄葉氏は外務大臣をはじめ民主党政権の中枢にいたが、地盤の旧3区をはじめ福島県に何をもたらしたか。玄葉氏はもともと、陳情をおねだりと評し「そういうことは避けた方がいい」と語っていた(※)。昔からの支持者も「玄葉君は若いころから(陳情の受け付けに)消極的だった」と認めている。 ※河北新報(2008年3月17日付)のインタビューで 「おねだり主義」という言葉を使っている。 上杉氏の支持者からはこんな皮肉も聞こえてくる。 「旧3区内を通る国道4号は片側1車線の個所が未だに残っている。それさえ解消できていない人が知事と言われても……」 旧3区の石川郡の政治関係者は、同郡が新2区に組み込まれたことでこんな体験をしたという。 「新2区から立候補を予定する自民党の根本匠衆院議員(72、9期)に『この道路をこうしてほしい』『あの課題を何とかしたい』とお願いしたら、その場から担当省庁に電話し即解決への道筋が示されたのです。実力者に陳情すればこんなに早く解決するのかと驚いたと同時に、根本氏も『石川郡はこんな些細な課題も積み残されているのか』と嘆いていました」 陳情を受け付けることは選挙区への我田引水ではなく、県民生活を良くするための手段だ。玄葉氏が知事になれば県民にとってプラスと感じられなければ、地元有権者の「衆院議員から知事になっても変わらないんじゃない?」との見方は払拭できないのではないか。 こうしたミクロの視点と同時にマクロの視点で言うと、東北大学大学院情報科学研究科(政治学)の河村和徳准教授は本誌昨年10月号の中でこのように語っていた。 「問題は玄葉氏が知事選に出るとなった時、自公政権と正面から交渉できるかどうかです。政権はおそらく、玄葉氏が知事選に出たら『野党系の玄葉氏とは交渉できない』とネガティブキャンペーンを展開するでしょう」 政権に近い内堀知事が、原発事故の海洋放出問題で国を一切批判しないのは周知の通り。野党系の玄葉氏が知事になった時、自公政権に言うべきことは言いつつ、福島県にとって有意義な予算や政策を引き出せるかどうかは、知事としての評価ポイントになる。 「次の展望」 結局、内堀氏は2022年の知事選で3回目の当選を果たしたが、既にこのころには玄葉氏の知事転身説は頻繁に聞かれるようになっていた。 本誌2021年12月号でもこのように書いている。 《玄葉氏をめぐっては、このまま野党議員を続けても展望がなく、衆院区割り改定で福島県が現在の5から4に減れば3区が再編対象となる可能性が高いため、「次の知事選に挑むのではないか」というウワサがまことしやかに囁かれている。 「玄葉は内堀雅雄知事の誕生に中心的役割を果たした。その内堀氏を押し退け、自分が知事選に出ることはあり得ない」(玄葉事務所)》 玄葉氏が内堀氏の知事選擁立に中心的役割を果たしたのは事実だ。内堀氏が初当選した2014年の知事選の出陣式ではこう挨拶している。 「内堀雅雄候補と私は14年来の付き合いであり、この間、内堀さんの安心感と信頼感を与える仕事ぶりを見てきた。3・11以降、内堀候補は副知事として最も適切なタイミングで最も適切な対応をとってきた。県職員、市町村長からも絶大な信頼を受けている。県民総参加で県政トップに内堀雅雄候補を推し上げ、復興を成し遂げてもらいたい」 これほど強いフレーズで支持を呼びかけた内堀氏を自ら押し退けて知事に就くことは、玄葉事務所も述べているように確かにあり得ない。 ただ、内堀氏が今期で引退するとなれば話は別だ。政治家が自らの進退を早々に第三者に告げることは考えにくいが、内堀氏と玄葉氏は共に1964年生まれの同級生であり、玄葉氏が「14年来の付き合い」と語っているように両者が親しい関係にあるなら、阿吽の呼吸で「私の次はあなた」「あなたの次は私」と意思疎通が図られても不思議ではない。 実際、玄葉氏が知事選立候補を決意したのではないかと思わせる出来事もあった。 「10増10減」で福島県の定数が4に減った 馬場雄基衆院議員 衆院小選挙区定数「10増10減」で福島県の定数が4に減ったことを受け、旧3区選出の玄葉氏は次の衆院選では新2区から立憲民主党公認で立候補する予定。しかしその前段には、旧2区を地盤とする馬場雄基衆院議員(30、1期、比例東北)との候補者調整が難航した経緯がある。 立憲民主党県連は党本部に対し、現職の両者を共に当選させる狙いから、同党では前例のないコスタリカ方式を採用するよう打診した。しかし、党本部はこれを見送り、玄葉氏を選挙区、馬場氏を比例東北ブロックの名簿1位で擁立する方針を決定したが、玄葉氏が一度はコスタリカを受け入れたことに、選挙通の間ではある憶測が広まった。 あらためてコスタリカ方式とは、同じ選挙区に候補者が2人(A氏、B氏)いた場合、A氏が選挙区、B氏が比例区で立候補したら、次の衆院選ではB氏が選挙区、A氏が比例区に交代で回る方式である。ただ、比例区は政党名での投票で、全国的な著名人でもない限り顔と名前を覚えてもらえないため、コスタリカの当事者たちは必ず、自分の名前を書いてもらえる選挙区からの立候補を強く望む。 前述・自民党の荒井広幸氏と穂積良行氏がコスタリカを組み、玄葉氏にことごとく敗れたのは、名前を書いてもらえない比例区に回っている間に、玄葉氏が顔と名前を有権者に浸透させたことが影響している。 そんなコスタリカ方式の弊害を身を持って知る玄葉氏が、馬場氏との間で受け入れたとなったから、選挙通たちは「玄葉氏は最初に選挙区から立候補し、あとは知事選に挑むので、結局、比例区から立候補する状況にならない。だからコスタリカを受け入れたのではないか」と深読みし、知事転身説がより色濃くなったのである。 当の玄葉氏はどのように考えているのか。本誌は衆院解散もあり得るとされていた6月上旬、本人に質問し、次のようなコメントを得た。 「確かに皆さんのところを回っていると『首相になれないなら知事選に』と言われます。ただ、今後どうしていくかはこれからの話。いずれにしても、まずは次の総選挙です。選挙区で勝たないと、自分にとっての『次の展望』はない。選挙区で必ず勝つ。そうでないと『次の展望』もないと思っています」 「私たちの政権が続いたり、現政権がブレる可能性があれば逆に(知事転身を)言われないのかもしれませんね。今はそういう政局じゃないから(知事選と)言われるのかな。ま、なんて言ったらいいのか。うーん、それ以上のことは触れない方がいいかもしれませんね。はい、これからしっかり考えます」 含みを持たせるような発言だが、周囲から知事転身を勧められていることは認めつつ、自ら「目指す」とは言わなかった。 新2区でも〝ねじれ現象〟 ちなみに本誌には、支持者や立憲民主党関係者から「本人から『知事を目指す』と挨拶された」「いや、本人が『目指す』と言ったことは一度もない」という話が度々伝わってくるが、真偽は定かではない。 「選挙区で必ず勝つ」と発言している通り、玄葉氏は今、新2区の中心都市である郡山市内を精力的に歩いている。さまざまなイベントや会合に顔を出し、各種団体や事業所からも「×回目の訪問を受けた」との話を頻繁に聞く。玄葉氏自身も「当選がおぼつかなかった初期の選挙時並みに選挙区回りをしている」と語っている。 玄葉氏は郡山市(旧2区)に縁がないわけではない。母校は安積高校なので同級生や先輩・後輩は大勢いる。佐藤栄佐久氏も同市出身で政界を離れて17年経つが、今も存在する支持者が玄葉氏を推すとみられる。経済人の中にも旧3区時代から支えてきた人たちが一定数いる。 同じく新2区から立候補を予定する根本匠氏はそうした状況に強い危機感を抱いており、同区は与野党の大臣経験者が直接対決する全国屈指の激戦区として注目されるのは確実だ。玄葉氏が本気で知事を目指すなら次の衆院選は負けられないが、根本氏も息子の拓氏にスムーズに地盤を引き継ぐため絶対に負けられない戦いとなる。 根本匠衆院議員 ある建設業者からはこんな本音も聞かれる。 「今までは無条件で根本先生を支持してきた。ウチの事務所にも根本先生のポスターが張ってあるしね。でも、玄葉氏が出るとなれば話は変わってくる。国政レベルで考えれば与党の根本先生を推した方が断然得策。しかし玄葉氏は、今は野党だが将来、知事になる可能性がある。いざ『玄葉知事』が誕生した時、あの時の衆院選で玄葉氏を応援しなかったとなるのは避けたいので、次の衆院選は、表向きは根本先生を支持しつつ玄葉氏への保険もかけておきたいという業者は多いと思う」 旧3区で見られる〝ねじれ現象〟が新2区でも起こりつつある。知事転身説の余波と言えよう。 あわせて読みたい 【玄葉光一郎】衆議院議員インタビュー 区割り改定に揺れる福島県内衆院議員
もし、祖父の代から住んでいる土地を正当な理由もなく追い出されそうになったら、万人が立ち向かえるだろうか。これは、会津若松市で監視カメラを武器に転売集団と闘い続けるある男の記録である。(敬称略) 監視カメラで転売集団に応戦 居住者のXに立ち退きを迫る太田正吾(左) 2023年3月9日午後2時45分ごろ、ブオンブオンとうなり声をあげた白のミニバンが、会津若松市馬場町にあるX(70代)の家の前の駐車場に入ってきた。 助手席から真っ黒に日焼けた顔にオールバック、ネクタイ姿、ベストを着た男が降りてきた。きちんとした身なりではあるが、発する言葉は荒っぽかった。 「俺、もう許さねえからな」 「この土地は俺が買ったんだから」 「あんまり怒らせんなよ! おらあっ!」 男はすたすたとミニバンの助手席に戻り、何やら書類を取り出して、体の前でひらひらして見せた。 「俺が買って持ってるからな」 ミニバンのボンネットに書類を広げてXに見せた。 「俺、最初に言ってんじゃん。買うよって」 Xによると、男は「この土地は全部、俺がYから2200万円で買った。今なら話に乗ってやる」と言ったという。Xは「脅す一方で二束三文の金をちらつかせて体よく追い出すつもりだな」と思った。Xが応じないと分かると、男は「不法入居者」と呼び、駐車場の利用者の名前が書かれている札や張り紙などを剥がして持ち去った。監視カメラの映像を見ると、確かに手に張り紙を持ち、画面内を移動する姿がある。 監視カメラのマイクには、「許さねえからな。俺、家ぶっ壊しちゃうからな」との発言や、Xが「居住権というのがあるから」と言ったのに対し、「ねえから」と即答したやり取りが収められていた。 Xが当日を振り返る。 「男は太田正吾と名乗りました。この日の前には不動産会社を連れて来ました。立ち退きを迫ろうと脅かしに来たのだろう。そもそも、この土地は私の隣家が所有しており、100年以上前、私の祖父の代から借地料を払って住んでいました」 登記簿を確認すると、1941年に隣家が売買で土地を取得。以来一族で所有権の相続を続けていた。 「隣家の高齢夫婦が亡くなると、県外の親族が相続しました。親族は土地を手放したがっていて、私に買い手を探すよう頼んだ。そこで、近所の顔なじみで店を経営する資産家のY(70代)に持ち掛けました。今考えるとそれが間違いでした」(X) Xは隣家の親族から「ブローカーのような怪しいところには売りたくない」と言われていた。隣家の親族から委任を受けて買い手を探し、転売しないという約束のもと購入に前向きだったのがYだったという。 「①転売しない、②そのためにYが経営する店の名義で購入し、店が保有する、との条件で2019年に私とY、隣家の親族が立ち会って売買に合意しました。Yとは長い付き合いで信頼しており、契約書は取り交わす必要もないと思った。ところが、②の店の名義で購入する約束が早速破られたんです」(X) 登記簿によると、確かに2019年12月27日にYが購入したことになっている。ただし名義は、Yの経営する店ではなく、Y個人だ。売買の書類が取り交わされたことを、Xは所有権の移転が既に終わった後に自分で調べて知った。 「Yは司法書士に頼んで、県外にいる隣家の親族に売買契約の書類を郵送しました。親族は司法書士から送られてきた書類に、言われた通り書き込んで押印し、返送したそうです。宅建業法に定められた重要事項説明書は交付されておらず、本来は無効な取引でした」(X) ①の約束、「転売しない」も破られた。登記簿によると、今年2月7日に前出の太田正吾(東京都東村山市)に土地が売り渡された。冒頭に紹介した映像で、太田は「家を出ろ」とXに迫っていた。 今回、立ち退きを迫られている馬場町の土地は約230坪で、Xの一族は、その一角に祖父の代から所有者に家賃を払い、100年以上住んできたという。現在はXの息子が暮らし、Xはパソコンなどの機器を置いて仕事場にして、日中の大半はこの家にいるという。 「私には居住権があり、無理やり立ち退かせることはできません。太田たちは法律上追い出すのは難しいので、脅しという強硬手段に及んだとみています」(X) Xは、Yがはなから転売を目的に土地を購入したのではないかと疑っている。太田が昨年11月17日に初めてX宅を訪れた時、郡山市の不動産業者を引き連れていたからだ。それ以前には、郡山市の建設会社から土地の売買を持ち掛けられたという同市の設計士が訪ねてきた。Xが、Yとの間に土地トラブルがあると説明すると、「買わないし2度と来ない」と言って立ち去ったという。 「設計士や不動産業者が来たのは太田が土地を購入する前、まだYが所有している時です。Yは太田、不動産業者と共謀していたのではないでしょうか。太田はYから譲り受けた所有権を根拠に、脅しを掛けて追い出す役回りです。登記上はYから太田に所有権が移っていますが、本当に金銭が支払われたのだろうかと私は疑っています」(X) 「黒幕」とされる男 筆者はXが「黒幕」とするYの店を訪ねた。馬場町の問題の土地からごく近所だ。 ――Xは土地を追い出されそうになっている。 「追い出されるっていうのは買った人の責任だ。俺は売っただけから」 ――Xはあなたからずっと住み続けてもいいと言われたそうだが。 「言った覚えはない」 ――Xには転売すると伝えて土地を購入したのか。 「伝えてない。どうなるか分からないが、売ってだめだという条件はなかった」 ――どうして太田正吾に売ったのか。 「そんなのおめえに言う必要あるめえ。そんなことには答えねえ」 ――太田と一緒にXの家に来た郡山市の不動産業者とはどういう関係か。 「……」 ――太田とその不動産業者と面識はないということでいいか。 「そんな質問には答えねえ」 自身と太田の関係が筆者に答えられないようなものならば、なぜ大きな金額が動く土地を売ったのか。疑念は深まるばかりだ。 最後に、Xはなぜ筆者に監視カメラの映像を見せてくれたのか。 「パソコンが得意で、昨今の治安に不安を覚えていたことから防犯のために監視カメラを設置していました。おかげでこちらの正当性が証明できると思う。最近では、以前は見なかった不審車両が家の前に長時間止まっています。この映像を(筆者に)見せたのは、今回の問題を記事にしてもらうことで、脅しをする側が露骨な動きをできないように牽制して、自分の身を守るためです」 平穏な日は訪れるか。
本誌5月号に「大量カメラで社員を〝監視〟 する山口倉庫 『気味が悪い』と退職者続出!?」という記事を掲載したところ、それを読んだ元社員から「今も勤務している社員のために、さらに詳報してほしい」との要望が寄せられた。 監視カメラ四十数台、独特な朝礼 山口広志社長 山口倉庫㈱は1967年設立。資本金1000万円。郡山市三穂田町の東北自動車道郡山南IC近くに建つ本社倉庫などで米や一般貨物の保管・管理を行っている。駐車場経営や不動産賃貸なども手がける。 現社長の山口広志氏は2000年に就任した。祖父の松雄氏が創業者で、父の清一氏が2代目。3代目の広志氏は清一氏の二男に当たる。 そんな山口倉庫について、5月号では▽社内に大量の監視カメラが設置されている、▽社員だけでなく訪問客の様子も監視している、▽山口社長は自宅から、監視カメラで撮った映像や音声をチェックしている模様、▽こうした職場環境に気味の悪さを感じた社員が次々と退職し、その人数はここ4、5年で十数人に上る――と報じ、このような行為がハラスメントや個人情報保護法違反に当たるかどうか検証した。 詳細は同号に譲るが、結論を言うと、ハラスメントには当たらず、個人情報保護法にも違反しないが、監視カメラを大量に設置する目的、設置場所、映像と音声の利用範囲などを社員にきちんと説明しないと後々トラブルに発展する恐れがあると指摘した。 「社内の人でなければ知り得ないことが書かれていたので、読んだ時は本当に驚きました。ああいう記事を出していただき感謝しています」 こう話す元社員は数年前に山口倉庫を退職し、現在は「ほんの少しでも同社とは接点を持ちたくない」と別業種で働いている。 「接点を持ちたくない」と言いながら、本誌の取材に応じた理由。それは、今も勤務している社員を思ってのことだった。 「私は運良く転職できたが、社員の中には転職したくても、家族を養うため我慢して働き続けている人もいる。そういう社員のためにも、あの異様な職場環境は改められるべきと思ったのです」(同) 元社員によると、新たに判明した山口倉庫の職場環境は次の通り。 〇監視カメラは山口倉庫に四十数台、関連会社で不動産業の山口アセットマネジメント㈱に2台設置されている。カメラは映像だけでなく、音声も拾うことが可能。山口倉庫の事務スペースには、複数の画面に分割された大きなモニターがあり、各カメラの映像を一斉に確認できる。 〇社員は会社からスマホを貸与され、何かあると山口社長から直接連絡が入る。そのスマホでは、監視カメラの画像も確認できる。カメラで常に見られている社員は「余計な行動や発言をすれば、山口社長に見つかって〝直電〟が来る」と常にビクビクしている。 〇監視カメラはトイレ、更衣室、休憩室には設置されていないが、男子更衣室と休憩室の一部は廊下に設置されたカメラで確認できる。そのため男性社員は、更衣室や休憩室を利用する場合はカメラの死角になっている個所に身を潜める。 〇社員は昼休みになると、監視カメラから逃れるため駐車場に止めたマイカーの中で昼食を取ったり、休憩をしている。 〇社員は、入社するまでは大量に監視カメラが設置されていることを知らない。そのため入社後に実態を知り、気味が悪いとわずか数日で辞める人も少なくない。 〇来客者も敷地に入った瞬間から監視カメラで映され、車のナンバーも記録される。 〇山口社長はほとんど出社せず、自宅から監視カメラの映像や音声で社内の様子や社員の働きぶりをチェックしている。 山口社長がここまで監視カメラを張り巡らせる理由は何なのか。 「大量設置の理由を説明されたことがないので分からないが、『自分が他人からどう思われているかを異常なまでに気にする人』なのかもしれません」(同) その象徴として元社員が挙げたのが、山口社長の教養に対するコンプレックスだ。元社員によると「山口社長は地元の高校を経て大学、大学院に進んだはず」と言うが、信用調査等でも学歴は判然としない。 「とにかく『本を読め』と強要する。それだけならいいが、感想文を共有フォルダに記録させるのです。そしてたまに出社すると、社員に突然質問し、答えられないと『そんなことも分からないのか』とバカにしたような態度を取る。長期の休み明けには社員一人ひとりに抱負を発表させたりもします」(同) 使用者が配慮すべきこと 東北自動車道郡山南IC近くにある本社倉庫 社員に教養を身に付けさせようとする試みは否定しないが、独りよがりになってはありがた迷惑。その一例が、山口社長が最も力を入れているという毎日の朝礼だ。 「一般社団法人倫理研究所発行の月刊誌『職場の教養』を題材に、1人が正論、1人が反論、1人が正論か反論を発表し、最後にその日の司会者役が意見をまとめるのです。これを毎日、社員が交代しながら行っています。山口社長はその場にいないが、一連の様子は監視カメラを通じて自宅から見ています」(同) 社員の中には大量の監視カメラもさることながら、この朝礼が苦痛で辞める人もいるという。 「発表する社員は朝30分早く出勤して『職場の教養』を読み込み、何を話すか考えます。社員が辞めて少なくなれば発表のローテーションも早まるので、残っている社員は相当苦痛だと思います」(同) ちなみに5月号が発売される前後から、郡山市南二丁目にある山口アセットマネジメントの事務所は常にブラインドがかかっており、社員が常駐している様子がなかった。そうした状況は7月21日現在も変わっていないが、 「女性社員は(社長の妻と娘を除き)全員辞めたと聞いています。そのため山口アセットマネジメントに常駐する社員がいなくなり、急きょ山口倉庫から派遣していたが、倉庫自体も社員が減り、派遣する余裕がなくなった。だから、今は閉めざるを得ないようです」(同) 女性社員たちは職場環境を改善できないか、労働基準監督署に相談することも考えたようだが、そこに労力と時間を割いた挙げ句、山口社長から目を付けられては余計に働きづらくなると思い、退職することを選んだようだ。 社員が次々と辞めていく背景が見えてきたが、あらためて山口倉庫とはどんな会社なのか。 本業の倉庫業では、倉庫証券発行許可倉庫、政府米寄託倉庫として官公庁許可を受け、米の保管・管理を行っているほか、日産自動車ユーザーの夏・冬タイヤを同ディーラーから一手に預かっている。倉庫は郡山市内に3カ所。このほか約20カ所の有料駐車場を経営し、ある筋によれば年間の売り上げは2億5000万円前後、利益は4000万円前後を上げているという。 一方、山口アセットマネジメントは郡山市内に土地を所有する一方、飲食店や商業施設、マンションなどの賃貸・管理を行っている。 社会常識から外れた職場環境について、5月号の取材時に見解を聞いた県北地方の弁護士に今回判明した事実をあらためて伝えると、次のように指摘した。 「個人的には行き過ぎで、非常識な職場環境だと思います。ただ、経営者には従業員の働きぶりを監理する必要があり、通常は目視で行うところを監視カメラで行っているとすれば、それをもって違法とまでは言えない。もちろん、従業員にも職場環境の改善を求める権利はありますが、組合など相談先がある大企業と違い、個人で対応しなければならない中小零細企業では、ワンマンオーナー社長が聞き入れてくれるかどうかは不透明。そうなると、従業員には働く場所を選べる権利もあるので辞める流れになるが、問題はそれで困るのは会社だということです。周知の通り、今は人手不足が深刻ですからね。ただし、経営者が『それでも構わない。ウチは監視カメラに重きを置く』ということなら、それも一つの経営判断なので、外野がとやかく言う話ではない」 そう話す一方で、弁護士が「労働者の権利を守る側からの法的意見」として紹介してくれたのが立教大学講師・砂押以久子氏の考えだ。砂押氏は『日本労働法学会誌105号』(2005年5月20日発行)に寄せた論文「情報化社会における労働者の個人情報とプライバシー」の中でこう指摘している。 《企業には、企業秩序維持権限等に基づき使用者は労働者を管理監督する権限がある。しかし、他方で、前述のように労働者には職場にあっても一定程度の私的行為が存在する余地があり、労働者にもプライバシーを保護される法的利益があることも認識されなければならない。 会社が監視権限を有するとしても、このことをもって労働者のプライバシーが一定程度制約されることはあっても否定されることにはならないのである。セキュリティーなどの観点から監視が肯定されるとしても、監視過程において、労働者のプライバシー侵害が最小限になるよう使用者は常に配慮しなければならないと考える。使用者が従業員の私的領域にまで立ち入ることができるのは、業務上重大な支障が生じ、緊急な対応が必要であるなどの事情が存在する場合に限られるべきである。 モニタリングの実施にあたって、使用者の監視の必要性と労働者のプライバシー保護の均衡という視点からは、使用者に労働者に対する事前の情報提供義務を課することが不可欠といえる》 この稿の冒頭にも書いているように、使用者は労働者に対し「監視カメラを大量に設置する目的、設置場所、映像と音声の利用範囲などをきちんと説明」する必要があるわけ。 居留守を使う!?山口氏 山口アセットマネジメントの事務所はずっと閉まったまま 「給料は他社より高いし、夏と冬のボーナスも支給されるので、お金の面で文句を言う社員はいない。ただ、それでも次々と辞めていく原因は職場環境の異様さに尽きます。昨今、人手不足が深刻な問題となっていますが、いくら給料が良くても社員を大切にしない会社は人が集まらないし、将来生き残っていけないと思います」(前出・元社員) 裏を返せば、異様な職場環境を改めれば社員の定着率も上がり、人手不足に陥ることなく会社も生き残っていける、ということだろう。あとは山口社長が危機感を持ち、適切な改善策を講じることができるかどうかにかかっている。 5月号の取材時は山口倉庫に質問書を直接届けたが、何の返答もなかった。元社員によると、山口社長はほとんど出勤しないというので、今回は郡山市内にある山口社長の自宅を訪問し接触を試みた。 駐車場には元社員が教えてくれた山口社長の車が止まっていた。在宅しているのは間違いなさそう。ところが、いくらインターホンを鳴らしても反応はない。仕方なく、取材申し込みと記者の携帯電話番号を書いたメモを郵便受けに置いてきたが、5月号同様、返答はなかった。 元社員によると「自宅にも監視カメラが設置されているので、記者さんの行動は家の中から丸見えだったと思います」とのこと。 見られても困ることはしていないので構わないが、自分の分からない場所からじーっと監視されるのは、やはり気分が良いものではない。 あわせて読みたい 【郡山市】大量カメラで社員を「監視」する山口倉庫
3自治体議員選に候補者擁立 福島市議選(定数35)は7月9日に投開票が行われ、現職29人、新人6人が当選した。46人(新人13人)が立候補したが、投票率は41・97%で過去2番目に低かった。 同市議選に合わせて、春ごろから市内でポスターやのぼりでの広報活動を強化していたのが参政党だ。 2020年設立。①子供の教育、②食と健康、環境保全、③国のまもり――の3つを重点政策に掲げる。ユーチューブ動画でファンを増やし、2022年の参院選比例代表で1議席を獲得。副代表兼事務局長の神谷宗幣氏(元吹田市議)が当選し、公職選挙法などで定められている政党要件を満たした。 コロナワクチンの効果に疑問を呈しているほか、「一部の勢力が世界を牛耳っている」とする陰謀論的な話もタブーにすることなく発信し、支持を集める。昨年の時点で党員・サポーターは10万人以上に達し、野党第一党の立憲民主党と肩を並べる。 福島市議選には元東邦銀行行員の渡辺学氏(49)を擁立し、7月1日には同市中心部のまちなか広場で街頭演説会を実施。神谷氏も駆けつけ、支持者など約120人が耳を傾けた。 3歳ぐらいの子どもを連れて会場に訪れた女性は「子どもに関する情報が欲しくて、教育や食の安全、健康などについて、ネットで調べていたところ、参政党の動画に行きついた。自分でもいろいろなことに疑問を持って調べるようになり、昨年の参院選前、党員になった」と話した。「友人から紹介され足を運んだ」という人もおり、口コミで支持者を増やしている様子もうかがえた。 本誌で連載中のジャーナリスト・畠山理仁さんはこう解説する。 「『入れたい政党がないから自分たちでつくる』というのが参政党の基本理念です。既存の政党には満足していなかった人、これまで政治との接点があまりなかった人からの支持を集めているのが特徴で、ボランティアの人たちが積極的に参加しています。街頭演説では候補者だけでなくボランティアの人たちもマイクを持って演説しています。かなり極端な主張も展開していますが、従来の政治が中心課題に据えてこなかった『食と健康』を柱にし、女性党員の比率が高いのも従来の政党とは一味違うところです。これまで社会において疎外感を覚えてきた人たち、居場所をなかなか見つけられなかった人たちが『参政党なら自由に言いたいことが言える』、『言いにくいことを言えるのは参政党だけ』と信じて集まってきているようです」 演説を終えた神谷氏に拡大戦略について尋ねたところ、「ネットでの支持者増加はひと段落し、いまは地域ごとに広まっている。予算的に多くの候補者を擁立できないので、都市部に候補者を固め比例区で当選を目指す戦略を取っている。その上で重要になるのが、全国の地方議員なんです」とあけっぴろげに語った。 福島市議選投開票の結果、渡辺氏の得票数は1548票で落選したが、最下位当選の三浦由美子氏の得票数は1617票だったので、わずか69票差だったことになる。 街頭演説途中、プラカードを掲げた男性が現れ、郡山市議選立候補予定者に対し、意見を述べるシーンがあったが、神谷氏はじめ、関係者が慌てる様子はなく、演説で「組織が拡大していく過程の中で文句を言われることも多い」と自らネタにした。ただ、今後深刻な問題に発展するケースも出てくるかもしれない。 参政党では7月30日投開票の西郷村議選、8月6日投開票の郡山市議選にも候補者を擁立。本稿を執筆している時点でこれら選挙の結果は分からないが、県内の選挙戦で姿を見る機会が増えそうだ。
鏡石町の古川文雄議長(3期)が8月22日告示、27日投開票の町議選に立候補せず引退するという。古川議長はまだ50歳と若く、町内では「将来の町長候補」とも言われている。さらに、6月には県町村議会議長会長に選任されたばかり。それだけに、町内では驚きの声が出ている。 町内では「次期町長候補」との呼び声 本誌7月号の情報ファインダーで鏡石町議選の情勢について伝えた。 × × × × 鏡石町議選で定数割れの懸念 任期満了に伴う鏡石町議選が8月22日告示、27日投開票の日程で行われるが、ある町民によると定員割れの可能性が出ているという。 「地元紙のマメタイムス(6月22日付)に『定員割れの可能性大』と報じられたのです。それを見て、そんな情勢になっているのかと驚きました」 『マメタイムス』(6月22日付)は「鏡石町議選告示まで2カ月 現職6人・新人2人が立候補の意向 動き鈍く定員割れの可能性大」との見出しで情勢を報じた。 それによると、定数12(欠員1)に対して、同日時点で立候補を予定しているのは現職6人と新人2人の計8人。残る現職5人は2人が引退濃厚で、もう1人も引退の意向。2人は態度を決めかねているという。情勢によっては、複数新人擁立の動きもあるようだが、「低調で定員割れの可能性も指摘されている」と伝えている。 ちなみに、本誌では込山靖子議員が渡辺定己議員(現在は辞職)から不適切な言動を受けたと訴え、昨年8月に政治倫理審査請求書を提出した件について、2月号「鏡石町議会政倫審が元議員の『不適正行為』を一部認定」という記事のほか、何度かその動きを報じてきた。 その中で、《込山議員は周囲に「もうウンザリ」と明かしているというから、今夏の町議選には立候補しない可能性もある》と書いた。 ただ、前述のマメタイムス記事では「(込山議員は)引退を撤回し、出馬の意向を固めた」と伝えられている。 同町6月定例会では、定員割れの可能性があることを見越してか、議員発議で定数を12から10に削減する条例改正案が提出された。ただ、採決の結果、賛成2、反対8の賛成少数で否決された。 告示まではまだ1カ月以上あるため、いまの情勢を踏まえて候補者が出てくる可能性もあり、動きが注目される。 × × × × 同記事では触れられなかったが、『マメタイムス』(6月22日付)によると現職議員の進退の詳細は以下の通り。 立候補の意向▽円谷寛議員、小林政次議員、橋本喜一議員、吉田孝司議員、角田真美議員、込山靖子議員 引退▽今泉文克議員、古川文雄議長 引退の意向▽菊地洋議員 流動的、進退を決めかねている▽畑幸一副議長、大河原正雄議員 この中で、気になるのが「引退」と報じられた古川文雄議長だ。 「古川議長はまだ50歳で年齢的にも若く、町内の一部関係者の間では『次期町長候補』とも言われています。それだけに、引退と報じられたのは意外というか、かなり驚きました」(ある町民) 古川議長は、岩瀬地方町村議会議長会長を務め、今年6月5日に開かれた県町村議会議長会の総会で会長に選任されたばかり。 その際、町内ではこんな声が出ていた。 「岩瀬地方町村議会議長会は、鏡石町と天栄村の2町村だけだから、両町村の議長が交互に会長に就く。県議長会長も各地区持ち回りだが、岩瀬地方の2町村交互に比べると、回ってくる確率は格段に下がる。そんな中で、今回、古川議長にいろいろな順番がすべて当たったことになる。そういう意味では『持っている』と言うことができるし、今後、本当に町長選に出るのかどうかは分からないが、もし出るとしたらその肩書きや、そこで得られた人脈などは間違いなくプラスになるだろう」 そんなことが囁かれていただけに、8月の町議選に立候補しないとの報道には驚いたというのだ。 ある議員は「町長選に向けて地ならしに入ったのでは」との見解を示した。 ただ、現職・木賊正男町長の任期は2026年6月までで、残り3年近くある。3年後の町長選を見据えて、今回の町議選を見送ったとは考えにくい。むしろ、次の町長選まで議員(議長)を続け、県町村議長会長の肩書きで動いた方が有利に働くと思われるのだが……。 ちなみに、前回(2019年8月)の町議選では524票を獲得、4番目の得票で当選している。それ以前の町議選でも上位で当選しており、選挙で苦労しているわけではない。そもそも町議選で苦労していたら、最初から「町長候補」とは言われないだろう。 古川議長に聞く 古川議長(「議会だより」より) 一方で、「自身が経営する会社で何かあったのではないか」との見方もある。 古川議長は左官工事業「村上工業所」(同町旭町)のオーナーで、自身が経営する会社で何かあった、あるいは経営に専念するためではないか、という見方だ。 民間信用調査会社によると、同社の直近5年の売上高、当期純利益は別表の通り。 村上工業所の業績 決算期売上高当期純利益2018年1億2100万円12万円2019年1億4400万円1195万円2020年1億3300万円△434万円2021年1億2500万円1622万円2022年1億3000万円566万円※決算期は3月。△はマイナス 2020年は434万円の損失を計上したが、それ以外は利益を確保しており、売上高も一定している。これを見る限りでは、会社の経営に専念するためではないか、という見方は説得力に欠ける。 こうして見ても、「次期町長候補」と言われた古川議長の引退は意外だが、実際のところはどうなのか。古川議長に話を聞いた。 ――古川議長が引退するとの報道を見たが。 「それは事実です」 ――辞めた後はどんなことを考えているのか。 「私もまだ50歳ですからね。いろいろと考えていますよ」 ――県町村議会議長会長に就いたばかりだが。 「ちょうど3カ月ですかね(※6月5日の総会で県町村議会議長会長に選任され、鏡石町議員の任期は9月3日まで)。任期満了後は自動失職の形になると思います」 ――町内では「次期町長候補」との見方もあり、それだけに今回の引退には驚きの声が出ている。 「私が(町長候補)ですか? まあ、さっきも言いましたけど、いろいろ考えているところです」 引退は事実とのことだが、今後については明言しなかった。「いろいろ考えている」とは何を指すのかも気になるところだ。
二本松市観光連盟(会長・三保恵一市長)が観光客向けにレンタルしている電動キックボードについて、「馬力不足で坂をのぼれない」と指摘する利用者の動画がツイッターで拡散され、話題を集めた。悪い意味で注目を集めた格好だが、同連盟では事前に走行試験などを行わなかったのだろうか。 試乗動画拡散で全国の笑いものに にほんまつ城報館 電動キックボードのレンタルは3月31日から、市の歴史観光施設「にほんまつ城報館(以下、城報館と表記)」で行っている。観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう狙いがある。市によると県内初の取り組みだという。電動アシスト付き自転車も併せてレンタルしている。 立ったまま乗れるボードタイプ、自転車のような形状のバイクタイプがある。最高速度は時速30㌔で、利用する際は原動機付き自転車か普通自動車の運転免許が必要。料金は90分1000円。それ以降は30分ごとに500円加算される。 レンタル開始時はテレビや新聞などで大々的に報じられ、地元テレビ局のユーチューブチャンネルには、女性アナウンサーが電動キックボードで坂道をすいすいのぼっていく動画が投稿された。 ところが、7月2日、レンタル利用者によるこんな文章が動画付きでツイッターに投稿された。 《二本松市の電動キックボード貸出事業。全くの企画倒れ。トルク不足でスタート地点の霞ヶ城の三ノ丸から本丸天守台までの坂をのぼれません。また本町商店街へ至る竹田坂や久保丁坂といった切り通し坂も途中で止まってしまいました。市はロードテストも行わず全く無駄なことをしましたね》 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833 城報館から霞ヶ城の天守台や街なかの商店街に向かおうとしたが、馬力不足のため途中の坂道で止まってしまい、身動きが取れなくなった、と指摘しているわけ。 投稿者の佐藤守さん(43)は郡山市在住で大型自動二輪免許を保有し、バイクで通勤する〝バイク乗り〟。都内で見かけることが増えた電動キックボードに注目していたところ、地元テレビ局の紹介動画で城報館のレンタル事業を知り、走行性能の確認に訪れた。注目していたのは航続可能距離だが、実際に走行して馬力の低さに愕然としたという。 ちなみに、レンタルされている電動キックボードは「BLAZE EV SCOOTER」という商品名で、定格出力は0・35㌔㍗。原付一種(0・6㌔㍗)の6割の馬力しかないと考えるとイメージしやすいかもしれない。 佐藤さんの投稿は、73万回表示され、4725の「いいね」が付いた。それだけ関心を持つ人が多かったということだろう。佐藤さんは「行政が貸し出しているキックボードが坂をのぼれない動画は過去になかったので反響をいただいたのかもしれません」と分析したうえで、実際に走行した感想をこのように語る。 「とにかく馬力不足で、公道を安全に走る能力が圧倒的に不足していると感じました。自動車など公道を走行する他の乗り物への影響は考えていたのか、事前のテスト走行は行わなかったのか。安全面においては▽目や耳が保護できない半帽ヘルメットを貸し出していたこと、▽転倒したときの負傷防止用グローブが貸し出されなかったこと、▽サイドスタンドを出した状態でも発進してしまうこと、▽自賠責保険証が携行されておらず、交通事故時の対応に不安が残ること、▽城報館駐車場で行う走行練習は接触リスクがあること――などが気になりました」 佐藤さんの投稿の数日後、本誌記者も電動キックボードをレンタルし、実際に坂道で失速することを確認した(巻頭グラビア参照)。 利用者から上がる辛辣な意見を市観光連盟はどのように受け止めるのか。同連盟の事務局を担う同市観光課に尋ねたところ、河原隆課長は「取材の申し込みをいただき、職員に聞いてツイッターにそうした投稿があったことを知りました」と語り、次のように説明した。 「『導入前に試験は行わなかったのか』と疑問視する投稿がありましたが、バイク乗りを含む市観光課職員10人弱で、安全性や航続可能距離を確かめる走行試験を事前に行っています。その際、女性職員は坂道でもすいすいのぼっていましたが、男性職員はスピードが遅くなり、利用者の体重によって大きな差が生じました。(佐藤守さんの)ツイートの指摘を見て、体重によってスピードに差が出るという説明が不足していたと感じたので、貸し出し時に渡す文書やホームページなどに注意書きを追加しました」 体重によって坂道でスピードが出なくなることを把握していたのに、周知していなかった、と。 河原課長によると、レンタル事業は職員からの提案で始まったもので、2022(令和4)年度当初予算で電動アシスト付き自転車6台、電動キックボード(ボードタイプ・バイクタイプ)計6台、ヘルメットなどの備品を購入した。総事業費は約300万円。車両は複数の候補から予算や走行性能の条件を満たすものを選定したという。 一方で、安全面に関する指摘については「利用前に安全事項や保険に関する説明を行っているし、法律を満たす最低限の基準の装備はそろえています。それ以上の装備を求める場合は、ヘルメットやグローブなどの持ち込みをしていただいても構いません」(河原課長)と説明する。 ただ、観光客がそうした装備をわざわざ持参することは考えにくい。「観光名所や商店街、寺社仏閣を観光客に気軽に巡ってもらう」という目的とも矛盾している。 6月の利用者は6人 城報館でレンタルしている電動キックボード 電動キックボードに関しては、7月1日に改正道路交通法が施行されたことで、最高速度20㌔の車両の運転は免許不要となり、ヘルメットも努力義務となった。ただ、警察庁によると2022年に41件の人身事故が発生しており、7月には大学生が飲酒運転でタクシーに追突するなど、危険性が報じられている。タイヤの直径が小さい分、段差での衝撃が大きく、バランスを崩して事故につながりやすいという面もある。 佐藤さんの指摘を参考に、より安全に走行できる装備を貸し出すべきではないか。 肝心のレンタル電動キックボードの利用者数(ボードタイプ・バイクタイプの合計)を尋ねたところ、4月20人、5月9人と低迷しており、6月に至ってはわずか6人だった。 河原課長はPR不足と城報館来場者の需要とのミスマッチを要因に挙げる。駅から離れた城報館にわざわざ公共交通機関で向かう観光客は少ないし、あえて城報館まで車で移動し、電動キックボードに乗り換えて市内を巡る人もいないということだ。県内初の取り組みということもあり、甘い見通しのまま〝見切り発車〟してしまった感は否めない。 昨年4月にオープンした城報館の年間入館者数は9万6796人で、目標としていた年間10万人を下回った。目標達成に向けて起爆剤が欲しいところだが、電動キックボードがそうなるとは考えにくい。 前出・佐藤さんはこう語る。 「(馬力不足の電動キックボードを買ってしまった以上)利用しなければどうしようもない。せめて地図で推奨ルートを示し、『この坂は体重〇㌔以上の方はのぼれません』など注意書きを表示しておけば、利用者も心構えができるのではないか」 もっと言えば、城報館を起点に「電動キックボードで巡る観光ツアー」を催せば興味を持つ人が現れるかもしれない。 このままでは、約300万円の事業費をドブに捨てることになる。佐藤さんの指摘を真摯に受け止め、改善策を打ち出すべきだ。 あわせて読みたい 【本誌記者が検証】二本松市の「ガッカリ」電動キックボード貸出事業
本誌でこの間報じてきた田村市の新病院建設計画。市は先月の臨時会に工事請負契約の議案を提出したが、賛成7人、反対10人で否決された。百条委員会で鮮明になった白石高司市長と反対派議員の対立が尾を引いた形だが、同時に白石市長の稚拙な議会対策も見えてきた。 あわせて読みたい 【田村市】新病院施工者を独断で覆した白石市長 【田村市百条委】呆れた報告書の中身 白石田村市長が新病院施工業者を安藤ハザマに変えた根拠 したたかさを備えなければ市政は機能しない 会対策に苦慮する白石高司市長 まずはこの間の経緯を振り返る。 老朽化した市立たむら市民病院の後継施設を建設するため、市は昨年4~6月にかけて施工予定者選定プロポーザルを実施。市幹部職員など7人でつくる選定委員会は審査の結果、プロポーザルに応募したゼネコンの中から最優秀提案者に鹿島、次点者に安藤ハザマを選んだ。 しかし、これに納得しなかった白石高司市長は最優秀提案者に安藤ハザマ、次点者に鹿島と選定委員会の選定を覆す決定をした。これに一部議員が猛反発し、昨年10月、地方自治法100条に基づく調査特別委員会(百条委員会)が設置された。 百条委は、白石市長と安藤ハザマが裏でつながっているのではないかと疑った。しかし、百条委による証人喚問の中で白石市長は、①安藤ハザマの方が鹿島より工事費が3300万円安かった、②安藤ハザマの方が鹿島より地元発注が14億円多かった、③選定委員7人による採点の合計点数は鹿島1位、安藤ハザマ2位だが、7人の採点を個別に見ると4人が安藤ハザマ1位、3人が鹿島1位だった――と安藤ハザマに覆した理由を説明した。 今年3月、百条委は議会に調査報告書を提出したが、その中身は「白石市長の職権乱用」と厳しく批判するも法的な問題点は確認されず「猛省を促す」と結論付けるのが精一杯だった。 百条委の一部メンバーからは「さらに調査すべき」との声も上がったが、最終的には「新病院建設が遅れれば市民に不利益になる」として百条委は解散された。 これにより新病院建設はようやく実現に向かうと思われた。実際、3月定例会では全体事業費を55億7000万円とすることが議決され、6月定例会では資材高騰などの影響で7億円増の62億7000万円とすることが再度議決された。これに伴い今年度分の病院事業会計の予算も増額された。 予算が全て通ったということは関連議案も議決されると考えるのが普通だが、そうはならなかった。 市は7月6日に開かれた臨時会に新病院を47億1100万円、厨房施設を4億8900万円で安藤ハザマに一括発注するため、工事請負契約の議案を提出した。同社とは6月28日に仮契約を済ませていた。(※工事費と全体事業費に開きがあるのは、全体事業費には医療機器購入費などが含まれているため) しかし、採決の結果は賛成7人、反対10人で、安藤ハザマとの工事請負契約は否決された。市議会は定数18で、採決に加わらなかった大橋幹一議長(4期)を除く賛否の顔ぶれは別表の通り。(6月定例会での予算の賛否と百条委設置の賛否も示す) 123石井 忠治 ⑥××〇半谷 理孝 ⑥××〇大和田 博 ⑤××〇菊地 武司 ⑤××〇吉田 文夫 ④××〇安瀬 信一 ③××〇遠藤 雄一 ③×〇〇渡辺 照雄 ③××〇石井 忠重 ②×〇×管野 公治 ①××〇猪瀬 明 ⑥〇〇×橋本 紀一 ⑥〇〇×佐藤 重実 ②〇〇×二瓶恵美子 ②〇〇×大河原孝志 ①〇〇×蒲生 康博 ①〇〇×吉田 一雄 ①〇〇×※〇は賛成、×は反対※1は工事請負契約の賛否※2は6月定例会での予算の賛否※3は百条委設置の賛否※丸数字は期数 反対した議員によると、当初、工事請負契約は賛成多数で可決される見通しだったという。 「6月定例会では賛成9人、反対8人で予算が通ったので、工事請負契約も9対8で可決されると思っていました」(反対派議員) 風向きが変わったのは臨時会の2日前。予算に賛成した石井忠重議員が工事請負契約には反対することが判明し「9対8」から「8対9」に形勢逆転した。さらに、臨時会当日になって遠藤雄一議員も反対。工事請負契約は想定外の「7対10」で否決されたのである。 賛成派議員は「予算には賛成しておいて工事請負契約に反対するのはおかしい」と石井忠重議員と遠藤議員を批判したが、実情は臨時会の前から不穏な空気が漂っていた。 両議員と佐藤重実議員は「改革未来たむら」という会派を組んでいるが、臨時会直前、会派会長を務める佐藤議員は賛成派議員に「私たちは自主投票にする」と説明。佐藤議員はこの時点で石井忠重議員と遠藤議員が反対に回ることを分かっていたため、会派として拘束をかけることができなかったとみられる。 「大橋議長は無会派だが、もともとは改革未来たむら。だから採決の前に、大橋議長が『会派として賛成する』と拘束をかけていれば3人がバラバラの判断をすることもなく、工事請負契約は9対8で可決していた。大橋議長と白石市長は距離が近いが、両者が連携して議員の動向を把握しなかったことが想定外の否決を招いた」(ある議会通) なぜ、石井忠重議員と遠藤議員は予算には賛成したのに、工事請負契約に反対したのか。石井議員とは連絡が取れず話を聞けなかったが、賛成派議員には「臨時会の前に地元支持者と協議したら反対の声が多かった」と説明していたという。 一方、遠藤議員は本誌の問いにこう答えた。 「事業費は専門家が積み上げて出しているので、それを素人の私が高いか安いかを判断するのは難しい。しかし契約は、選定委員会が選んだ業者を市長が独断で覆したという明確なルール違反がある。予算は9対8で僅差の可決だったが、今後事業費が増えていけば、その度に補正予算案が出され、僅差の賛否が繰り返されるのでしょう。そこに私は違和感がある。全議員が『新病院は市民にとって必要』と思っているのに、関連議案は僅差の賛否になるのは、正しい姿とは思えないからです。新病院が本当に必要なら、関連議案も大多数が賛成する姿にすべき。もちろん、反対した議員も賛成に歩み寄る努力をしなければならないが、議案を提出する市長も、どうすれば賛成してもらえるのか努力すべきだ」 「政局での反対じゃない」 田村市百条委員会 百条委で白石市長は「自分の判断は間違っていない」と繰り返し強調した。鹿島から安藤ハザマに覆したやり方自体はよくなかったかもしれないが、客観的事実に基づいて安藤ハザマに決めたことは筋が通っており、市民にも説明が付く。逆に選考委員会の選定通り鹿島に決まっていたら、新病院を運営することになる星総合病院は、郡山市内にある本体施設の工事や旧病棟の解体工事を鹿島に任せているため、白石市長と安藤ハザマがそう見られたのと同様、裏でつながっているのではないかと疑われた可能性もあった。要するに安藤ハザマと鹿島、どちらが施工者になっても疑念を持たれたかもしれないことは付記しておきたい。 工事請負契約に反対した議員は、1期生と一部議員を除いて2021年の市長選で白石氏に敗れた当時現職の本田仁一氏を支援し、賛成した議員は白石市長を支える市長派という色分けになる。その構図は別表を見ても分かる通り、百条委設置でも持ち込まれた。 そうした中で気になるのは、百条委メンバーが「新病院建設をこれ以上遅らせれば早期開院を望む市民に不利益になる」と述べていたにもかかわらず、工事請負契約を否決したことだ。発言と矛盾する行動で、結局、開院は遅れる可能性が出ていることを市民に何と説明するのか。 百条委委員長だった石井忠治議員に真意を聞いた。 「新病院建設が打ち出された際の事業費は36億円だった。その後、プロポーザルで各業者が示した金額は46億円前後、そして3月定例会では55億円超、6月定例会では62億円超とどんどん増えていった。その理由について、市は『ウクライナ戦争や物価高騰で燃料・資材の価格が上がっているため』と説明するが、正直見積もりの甘さは否めない。議員は全員、新病院建設の必要性を認めている。にもかかわらず賛否が拮抗しているのは、市の説明が不十分で議員の理解が得られていないからです。起債で毎年1億2000万円ずつ、30年かけて償還していくことを踏まえると、人口減少が進む中で将来世代に負担させていいのかという思いもある。私たちは事業費が膨らみ続ける状況を市民に説明するため一度立ち止まってはどうかと言いたいだけで、政局で反対しているのではないことをご理解いただきたい」 石井忠治議員は「市の説明が不十分だから議員の理解が得られない」と述べたが、まさにこれこそが白石市長が考えを改めるべき部分なのかもしれない。 市民のために歩み寄りを 田村市船引町地内にある新病院建設予定地 前出・議会通はこう指摘する。 「白石市長は大橋議長や一部議員とは親しいが、反対派議員とは交流がない。これでは工事請負契約のように、どうしても可決・成立させたい議案が反対される恐れがある。反対派議員にへつらえと言いたいのではない。公の場で喧々諤々の議論をしながら、見えない場で『この議案を通すにはどうすればいいか』と胸襟を開いて話し合えと言いたいのです。こちらが歩み寄る姿勢を見せれば、反対派議員も『市長がそう言うなら、こちらも考えよう』となるはず。そういう行動をせずに『自分は間違っていない』とか『市民のために正しい判断をすべき』と言ったところで、施策を実行に移せなければ市民のためにならない」 要するに、白石市長は各議員との関係性が希薄で、議会対策も稚拙というわけ。 いみじくも、白石市長は工事請負契約が否決された臨時会で次のように挨拶していた。 「私たちは市民の声に真摯に耳を傾け、それを施策として反映・実行していく責務があります。今回の提案は残念な結果になりましたが、今後も議員の皆様とは市民の声をしっかり聞きながら、行政との両輪で市政を運営して参りたい」 反対派議員に「市民のために賛成しろ」と泣き言を言っても始まらない。賛成してほしければ自身の至らない点も反省し、理解を得る努力が必要だ。それが結果として市民のためになるなら、白石市長は政治家としてのしたたかさも備えないと、任期が終わるころには「議会と対立してばかりで何もしなかった市長」との評価が定まってしまう。 「そもそも、市長と議会が対立するようになったのは本田仁一前市長の時代です。本田氏は個人的な好き嫌いで味方と敵を色分けしていた。それ以前の市政で見られた、反対派議員とも腹を割って話す雰囲気はなくなった。そういう悪い風習が、白石市政になっても続いているのは良くない。本田市長時代の悪政を改めたいなら、市長と議会の関係性も見直すべきだ」(前出・議会通) 工事請負契約の否決を受け、今後の対応を白石市長に直接聞こうとしたが「スケジュールの都合で面会時間が取れないので担当課に聞いてほしい」(総務課秘書広報広聴係)と言う。保健課に問い合わせると、次のように回答した。 「現在、善後策を検討しているとしか言えません。いつごろまでにこうしたいという責任を持った回答ができない状況です」 担当課レベルではそうとしか言えないのは当然だ。事態を打開するにはトップが動くしかない。白石市長には「自分は間違っていない」という思いがあっても、私情を捨て、反対派議員と向き合うことが求められる。もちろん反対派議員も「反対のための反対」ではなく、賛成へと歩み寄る姿勢が必要。嫌がらせの反対は市民に見透かされる。双方が理解し合うことこそが「市民のため」になることを、白石市長も議会も認識すべきである。
福島市の放課後児童クラブ(学童保育)が資金不足のため、保護者に保育料まとめ払いへの協力を求めていたことが分かった。異例の対応を取った経緯とは。 指導員人件費〝膨張〟で資金不足に 渡利学童保育きりん教室 保護者に対し、保育料のまとめ払いを求めていたのは福島市渡利地区の放課後児童クラブ「渡利学童保育きりん教室」。7月、保護者に対し、協力を求める文書を配布した。 同市の放課後児童クラブはすべて民設民営で、市が民間運営団体に「放課後児童健全育成事業」を委託する形となっている。 主な収入源は①保護者からの「保育料」(毎月支払い)、②福島市からの「委託金」(5月、9月、1月に分けて支払い)、③人件費にのみ支払われる「処遇改善事業等補助金」(8月末ごろ支払い予定)。 ところが、同クラブでは、②、③が入る前の時点で資金不足になることが確定的になった。そのため、文書で保護者に協力を求めたわけ。 市内の教育関係者によると、同クラブは「300万円不足しており、指導員の給料が払えない」、「夏休み中の昼食やおやつも提供が難しいという話になっている」状況のようで、「仮に8月末を乗り切っても、近いうちに資金不足に陥るのではないか」と囁かれているという。 同クラブには約90人の児童が在籍しており、父母会が運営している。なぜ資金不足に陥ったのか、7月中旬、同市渡利地区の渡利小学校校舎内にある同クラブを訪ねたところ、佐藤秀樹施設長が取材対応し、次のように説明した。 「うちの場合、処遇改善事業等補助金は1支援単位につき480万円、委託金は1回330万円入ってくる。利益は出していないが、毎月の保育料だけでは指導員の給料を賄えないので、時期によっては200~300万円ほど繰越金を貯めておく必要がある。ところが、昨年度はそれを使い切ってしまったのです」 佐藤施設長によると、主な要因は人件費増加だという。同クラブでは経験豊富なベテラン指導員2人を再雇用し、若手指導員への継承を進めている。現在の指導員数は2支援単位12人(正規職員、パート含む)。「来年度以降、再雇用の先生方が1人ずつ抜けていくので、適正な人数になっていくと思います」(同)というが、他クラブは指導員3、4人のところが多い中で、明らかに人員過剰の態勢となっている。 そのためボーナス減額などの人件費抑制策を取ってきたが、見通しが甘く、結局資金不足に陥ってしまった――これがこの間の経緯のようだ。 同クラブはもともと教育充実のため、指導員を手厚く配置していたこともあり、保護者の多くは理解を示し、まとめ払いに協力しているようだ。だが、同業者の反応は「保護者に協力を求めるなどもってのほか。経営手腕に問題がある」と一様に冷ややかだ。 一方で、教育関係者からは「民間企業なら銀行から金を借りて対応すれば済む話。運営主体や責任者が明確でなく、借り入れなどができないからこういう問題が起きる。そういった面も含め、福島市の子育て政策の改革を木幡浩市長に求めたい」といった声も聞かれた。 現在、燃料費高騰・物価高の影響なども各クラブの財政に打撃を与えているため、市子ども政策課が対策を検討中だという。各クラブの財政が立ち行かなくなれば、割を食うのは利用する子どもたちだ。そのことを市・各クラブが認識し、共に課題を改善していく必要がある。
伊達市6月定例会議の最終本会議が同月28日に開かれ、過去の一般質問で事実と異なる不適切な発言をしたとして、佐藤栄治市議(60)に対する議員辞職勧告決議を賛成多数で可決した。同市議会で議員辞職勧告決議案が提出されたのは初めて。ただ、決議には法的拘束力はないので、佐藤市議は辞職しなければならないわけではない。 佐藤氏は1962(昭和37)年生まれ。保原高、福島大経済学部卒。実家は建設関連業の三共商事。本人の話によると、第一勧業銀行に入行後、元衆院議員・元岡山市長の萩原誠司氏の秘書を務めた。髙橋一由市議が伊達市長選に立候補した際には事務局長を務めている。昨年4月の市議選(定数22)で629票を獲得、22位で再選を果たした。 この問題については本誌3月号でリポートした。当時公開されていない情報も多かったので、あらためて報道などを基に経緯を紹介する。 佐藤市議は昨年12月定例会議の一般質問で、同市梁川町のやながわ工業団地に建設中のバイオマス発電所について言及した。重さ20㌧超の大型特殊車両が何台も通ることが予想される中、国見町担当者が「補修中の徳江大橋の通行を20㌧以下に制限する予定だ」と話していたことを明かしたうえで、「市は通行規制しなくていいのか」と対応を問うた。国土交通省福島河川国道事務所の担当者に聞いた話も併せて紹介した。 閉会後、市からの申し入れを受け、市議会が政治倫理審査会を設置。計11回の審査会が開かれ、国見町役場総務課長や福島河川国道事務所担当者に聞き取り調査が行われたが、佐藤市議の発言について、「そのような事実はない」との回答だったという。 同審査会では過去の市議会一般質問での不適切な言動も検証し、市民にも聞き取り調査したが、厳しい意見が出たようだ。本誌3月号では、過去の不適切言動を紹介したほか、▽企業などに神出鬼没で現れることに戸惑いの声が上がっていること、▽業者を引き連れて市役所に行くなど、危うい言動が見られること――を紹介したが、同審査会でもそのあたりが問題視されたようだ。 審査の結果、「虚偽の事実・誹謗中傷の発言、情報発信で他人の名誉を毀損しない」ことを定めた伊達市議会議員政治倫理条例に抵触するとされ、議員辞職勧告決議案が議員から提出された。その結果、市議22人のうち、菅野喜明議長、当日欠席した佐藤市議と高橋市議を除く18人が賛成し、佐藤市議と同じ会派の半澤隆市議のみが反対。賛成多数で可決された。 同審査会では佐藤市議に弁明書の提出を求めたが、指定された期日までに提出されなかった。本人は今回の審査結果をどう受け止めているのか。同市保原町の自宅を訪ねたところ、佐藤市議はこうコメントした。 「議員辞職勧告には法的拘束力がない。親密な新聞記者には『議員辞職勧告は名誉棄損に当たるという判例が残っている。議員や地元紙、政経東北に対し、裁判を提起したらどうか。社を挙げて支援します』と言われた。今後も議員活動は継続するし、バイオマス発電所の問題点を引き続き追及していきたい。現在は伊達市が温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)に基づき、温室効果ガス削減を目指している中、ログ社がバイオマス発電所を建設しCO2を排出しようとする矛盾について、調査しているところです」 議員辞職勧告などどこ吹く風で、逆に同僚議員やマスコミに対し〝宣戦布告〟して見せた。相変わらず地元から良い評判は聞こえてこないが、今後も我が道を歩んでいくのだろう。
原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする方針を盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」が成立した。その概要と課題について考えていきたい。 帰還希望者少数に多額の財政投資は妥当か 大熊町役場 原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示解除準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。 一方、帰還困難区域は、文字通り住民が戻って生活することが難しい地域とされてきた。ただその後、帰還困難区域のうち、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)として定め、除染や各種インフラ整備などを実施した後、5年をメドに避難指示を解除し帰還を目指す、との基本方針が示された。 これに従い、帰還困難区域を抱える町村は、復興拠点を設定し「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を策定した。帰還困難区域は7市町村にまたがり、総面積は約337平方㌔。このうち復興拠点に指定されたのは約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%にとどまる。南相馬市は対象人口が少ないことから、復興拠点を定めていない。 復興拠点のうち、JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線再開通に合わせて2020年3月末までに解除された。そのほかは、葛尾村が昨年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が今年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除され、すべての復興拠点で解除が完了した。以降は、住民が戻って生活できるようになった。 一方、復興拠点から外れたところは、2021年7月に「2020年代の避難指示解除を目指す」といった大まかな方針は示されていたが、具体的なことは決まっていなかった。ただ、今年に入り、国は復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定めることを盛り込んだ「改正・福島復興再生特別措置法」の素案をまとめ、6月2日に同法が成立した。 その概要はこうだ。 ○対象の市町村長は、知事と協議のうえ、復興拠点外に「特定帰還居住区域」を設定する。「特定帰還居住区域」は帰還住民の日常生活に必要な宅地、道路、集会所、墓地等を含む範囲で、①放射線量を一定基準以下に低減できること、②一体的な日常生活圏を構成しており、事故前の住居で生活再建を図ることができること、③計画的、効率的な公共施設等の整備ができること、④拠点区域と一体的に復興再生できることなどが要件。 ○市町村は、それらの事項を含む「特定帰還居住区域復興再生計画」を策定して、国(内閣総理大臣)に認定申請する。 ○国(内閣総理大臣)は、特定帰還居住区域復興再生計画の申請があったら、その内容を精査して認定の可否を決める。 ○認定を受けた計画に基づき、国(環境省)が国費で除染を実施するほか、道路などのインフラ整備についても国による代行が可能。 復興拠点は、対象町村がエリア設定と同区域内の除染・インフラ整備などの計画を立て、それを国に提出し、国から認定されれば、国費で環境整備が行われる、というものだった。「特定帰還居住区域」についても、それに準じた内容と言える。避難解除は「2020年代」、すなわち2029年までに住民が戻って生活できることを目指すということだ。 こうした方針が本決まりになったことに対して、大熊町の対象者(自宅が復興拠点外にある町民)はこう話す。 「復興拠点外の扱いについては、この間、各行政区などで町や国に対して要望してきました。そうした中、今回、方向性が示され、関連の法律が成立したことは前進と言えますが、まだまだ不透明な部分も多い」 「特定帰還居住区域」に関する意向調査 復興拠点と復興拠点外の境界(双葉町) この大熊町民によると、昨年8月から9月にかけて、「特定帰還居住区域」に関する意向調査が行われたという(※意向調査実施時は「改正・福島復興再生特別措置法」の成立前で、「特定帰還居住区域」は仮の名称・制度だった)。詳細を確認したところ、国と当該自治体が共同で、大熊・双葉・富岡・浪江の4町民を対象に、「第1期帰還意向確認」の名目で意向調査が実施された。 大熊町では、対象597世帯のうち340世帯が回答した。結果は「帰還希望あり」が143(世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる)で、このうち「営農意向あり」が81、「営農意向なし」が24、「その他」が38。「帰還希望なし」(世帯全員が帰還希望なし)が120、「保留」が77だった。 回答があった世帯の約42%が「帰還希望あり」だった。ただ、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、未回答の大部分は「帰還希望なし」と捉えることができる。そう考えると、「帰還意向あり」は25%前後になる。ほかの3町村も同様の結果だったようだ。今回の調査では、世帯のうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされるため、実際の帰還希望者(人数)の割合は、もっと低いと思われる。 前出の大熊町民も「アンケート結果を見ると、回答があった340世帯のうち、143世帯が『帰還希望あり』との回答だったが、仲間内での話や実際の肌感覚では、そんなにいるとは思えない」という。 今後、対象自治体では、「特定帰還居住区域」の設定、同復興再生計画の策定に入る。それに先立ち、住民懇談会なども開かれると思うが、そこでどんな意見・要望が出るのか。ひとまずはそこに注目したいが、本誌が以前から指摘しているのは、原因者である東電の責任(負担)で環境回復させるのではなく、国費(税金)でそれを行うのは妥当か、ということ。 対象住民(特に年配の人)の中には、「どんな状況であれ戻りたい」という人も一定数おり、それは当然尊重されるべきだ。ただ、国費で除染などをするのであれば、その恩恵を享受する人(帰還者数)に見合った財政投資でなければならない。詰まるところは、帰還困難区域は、基本的には立ち入り禁止にし、どうしても戻りたい人、あるいはそこで生活しないとしても「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人たちのための必要最低限の環境整備にとどめるか、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるかのどちらかしかあり得ない。
二本松市観光連盟は3月31日から、観光客向けに市の歴史観光施設「にほんまつ城報館」で電動キックボード・電動バイクの貸し出しを行っている。 二本松市の地図データ(国土地理院、『政経東北』が作成) ところが、7月上旬、その電動キックボードの馬力不足を指摘する体験リポート動画がツイッターで拡散。同施設でレンタルされている車両が、坂道をまともにのぼれない実態が広く知られることとなった。 https://twitter.com/mamoru800813/status/1675329278693752833 動画を見ているうちに、実際にどんな乗り心地なのか体感してみたくなり、投稿があった数日後、同施設を訪れて電動キックボードをレンタルしてみた(90分1000円)。 安全事項や機器の説明、基本的な操作に関する簡単なレクチャーを受けた後、練習に同施設の駐車場を2周して、いざ出発。 同施設から観光スポットに向かうという想定で、二本松城(霞ヶ城)天守台への坂道、竹根通り、竹田坂、亀谷坂などを走行した。だが、いずれのルートも坂道に入るとスピードが落ち始め、最終的に時速5㌔(早歩きぐらいのスピード)以下となってしまう。運転に慣れないうちはバランスが取りづらく、うまく地面を蹴り進めることもできないため、車道の端をひたすらゆっくりとのぼり続けた。追い越していく自動車のドライバーの視線が背中に突き刺さる。 竹根通りで最高速度を出して上機嫌だったが…… 竹田坂、亀谷坂をのぼっている途中で失速し、必死で地面を蹴り進める レンタルの電動アシスト自転車(3時間300円)に乗りながら同行撮影していた後輩記者は、「じゃあ、僕、先に上に行っていますね」とあっという間に追い越していった。 運転に慣れてくると、立ち乗りで風を切って進んでいく感覚が楽しくなる。試しに竹根通りをアクセル全開で走行したところ、時速30㌔までスピードが出た(さすがに立ち乗りでは怖かったので座って運転)。軽装備ということもあり、転倒の恐怖は付きまとうが、爽快感を味わえた。 しかし、そう思えたのは下り坂と平地だけ。亀谷坂では、「露伴亭」の辺りで失速し、地面を蹴っても進まなくなり、炎天下で、20㌔超の車両を汗だくで押して歩いた。総じて快適さよりも、坂道で止まってしまう〝ガッカリ〟感の方が大きく、初めて訪れた観光客におすすめしたい気分にはなれなかった。 右ハンドル付け根にアクセル(レバー)と速度計が取り付けられている 二本松城天守台に到着する頃には疲労困憊 同連盟によると「(体重が軽い)女性は坂道もスイスイのぼれる」とのこと。体重75㌔の本誌記者では限界がある……ということなのだろうが、そもそも中心市街地に坂道が多い同市で、その程度の馬力の乗り物をなぜ導入しようと考えたのか。 54頁からの記事で導入の経緯や同連盟の主張を掲載しているので、併せて読んでいただきたい。(志賀) 「にほんまつ城報館」には甲冑着付け体験もあり(1回1000円) https://twitter.com/seikeitohoku/status/1677459284739899392
県発注工事をめぐる贈収賄・入札妨害は氷山の一角だ。裁判では、他の県職員や業者の関与もほのめかされた。非公開の設計金額を教える見返りに接待や現金を受け取ったとして、受託収賄罪などに問われている県土木部職員は容疑を全面的に認める一方、「昔は業者との飲食が厳しくなかった」「手抜き工事が横行していた時代に、信頼と実績のある業者に頼むためだった」と先輩から受け継がれた習慣を赤裸々に語った。 県職員間で受け継がれる業者との親密関係 須賀川市にある赤羽組の事務所 郡山市にある東日本緑化工業の事務所 受託収賄、公契約関係競売入札妨害の罪に問われているのは、県中流域下水道建設事務所建設課主任主査(休職中)の遠藤英司氏(60)=郡山市。須賀川市の土木会社・㈱赤羽組社長の赤羽隆氏(69)は贈賄罪に、大熊町の土木会社・東日本緑化工業㈱社長の坂田紀幸氏(53)は公契約関係競売入札妨害の罪に問われている(業者の肩書は逮捕当時)。 競争入札の公平性を保つために非公開にしている設計金額=入札予定価格を、県発注工事の受注業者が仲の良い県職員に頼んで教えてもらったという点で赤羽氏と坂田氏が犯した罪は同じ入札不正だが、業者が行った接待が賄賂と認められるかどうか、県職員から得た情報を自社が元請けに入るために使ったかどうかで問われた罪が異なる。 以下、7月21日に開かれた赤羽氏の初公判と、同26日に開かれた遠藤氏の初公判をもとに書き進める。 赤羽組前社長の赤羽氏は贈賄罪に問われている。赤羽氏と遠藤氏の付き合いは34年前にさかのぼる。遠藤氏は高校卒業後の1982年に土木職の技術者として県庁に入庁。89年に郡山建設事務所(現県中建設事務所)で赤羽組が受注した工事の現場監督員をしている時に赤羽氏と知り合う。互いに相手の仕事ぶりに尊敬の念を覚えた。両氏は9歳違いだったが馬が合い、赤羽氏は遠藤氏を弟のようにかわいがり、遠藤氏も赤羽氏を兄のように慕っていたとそれぞれ法廷で語っている。赤羽氏の誘いで飲食をする関係になり、2011年からは2、3カ月に1回の割合で飲みに行く仲になった。「兄貴分」の赤羽氏が全額奢った。 遠藤氏によると、30年前はまだ受注業者と担当職員の飲食はありふれていたという。その時の感覚が抜けきれなかったのだろうか。遠藤氏は妻に「業者の人と一緒に飲みに行ってまずくないのか」と聞かれ、「許容範囲であれば問題ない」と答えている。(法廷での妻の証言) 赤羽氏は2014年ごろから、遠藤氏に設計金額の積算の基となる非公開の資材単価情報を聞くようになり、次第に工事の設計金額も教えてほしいと求めるようになった。赤羽組は3人がかりで積算をしていたが、札入れの最終金額は赤羽氏1人で決めていた。赤羽氏は法廷で「競争相手がいる場合、どの程度まで金額を上げても大丈夫か、きちんとした設計金額を知らないと競り勝てない」と動機を述べた。 2018年6月ごろから22年8月ごろの間に郡山駅前で2人で飲食し、赤羽氏が計18万円ほどを全額払ったことが「設計金額などを教えた見返り」と捉えられ、贈賄に問われている。 2021年4月に赤羽氏は郡山駅前のスナックで遠藤氏に「退職したら『後継者』確保に使ってほしい」と現金10万円を渡した。「後継者」とは、入札に関わる情報を教えてくれる県職員のこと。遠藤氏は現金を受け取るのはさすがにまずいと思い、断る素振りを見せたが、これまで築いた関係を壊したくないと、受け取って自宅に保管していたという。これが受託収賄罪に問われた。遠藤氏は県庁を退職後に、赤羽組に再就職することが「内定」していた。 もともと両者の間に現金の授受はなかったが、一緒に飲食し絆が深まると、個人的な信頼関係を失いたくないと金銭の供与を断れなくなる。昨今検挙が盛んな「小物」の贈収賄事件に共通する動機だ。検察側は赤羽氏に懲役1年、遠藤氏には懲役2年と追徴金約18万円、現金10万円の没収を求刑しており、判決は福島地裁でそれぞれ8月21日、同22日に言い渡される。 公契約関係競売入札妨害の罪に問われている東日本緑化工業の坂田氏の初公判は8月16日午後1時半から同地裁で行われる予定だ。 本誌7月号記事「収まらない県職員贈収賄事件」では、坂田氏についてある法面業者がこう語っていた。 「もともとは郡山市の福島グリーン開発㈱に勤めていたが、同社が2003年に破産宣告を受けると、㈲ジープランドという会社を興し社長に就いた。同社は法面工事の下請けが専門で、東日本緑化工業の千葉幸生代表とは県法面保護協会の集まりなどを通じて接点が生まれ、その後、営業・入札担当として同社に移籍したと聞いている。一族の人間を差し置いて社長を任されたくらいなので、千葉代表からそれなりの信頼を得ていたのでしょう」 元請けは秀和建設 7月26日の遠藤氏の公判では、坂田氏が2004年に東日本緑化工業に入社したと明かされた。遠藤氏とは1999年か2000年ごろ、当時勤めていた法面業者の工事で知り会ったという。遠藤氏はあぶくま高原道路管理事務所に勤務しており、何回か飲食に行く仲となった。 坂田氏は2012年ごろ、秀和建設(田村市)の取締役から公共工事を思うように落札できないと相談を受け、遠藤氏とは別の県職員から設計金額を教えてもらうようになる。その県職員から、遠藤氏は15年ごろにバトンタッチされ、引き続き設計金額を教えていた。それを基に秀和建設が工事を落札し、下請けに東日本緑化工業が常に入ることを考えていたと、坂田氏は検察への供述で明かしている。坂田氏は秀和建設以外の業者にも予定価格を教えることがあったという。 遠藤氏は、坂田氏に教えた情報が別の業者に流れていることに気付いていた。坂田氏が聞いてきたのは田村市内の道路改良工事で、法面業者である東日本緑化工業が元請けになるような工事ではなかったからだ。同社は大規模な工事を下請けに発注するために必要な特定建設業の許可を持っていなかった。 「聞いてどうするのか」と尋ねると、坂田氏は「いろいろあってな」。遠藤氏は悩んだが、「田村市内の業者が受注調整に使うのだろう」と想像し教えた。 前出・法面業者は「坂田氏は、遠藤氏から得た入札情報を他社に教えて落札させ、自分はその会社の下請けに入り仕事を得る仕組みを思いついた。東日本緑化工業の得意先は県内の法面業者ばかりなので、その中のどこかが不正に加担したんだと思います」と述べていた。この法面業者の見立ては正しかったわけだ。 坂田氏は年に数回、設計金額を聞いてきたという。そんな坂田氏を、遠藤氏は「情報通として業界内での立場を強めていた」と見ていた。 ここで重要なのは、不正入札に加担していたのが秀和建設と判明したことだ。同社の元社長は、昨年発覚した田村市発注工事の入札を巡る贈収賄事件で今年1月に贈賄で有罪判決を受けている。 今回の県工事贈収賄・入札妨害事件は、任意の捜査が始まったのが3月ごろ。県警は田村市の事件で秀和建設元社長を取り調べした段階で、次は同社の下請けに入っていた東日本緑化工業と県職員と狙いを付けていたのだろう。11年前には既に遠藤氏とは別の県職員が設計金額を教えていた。坂田氏も別の業者に教えていたということは、入札不正が氷山の一角に過ぎないこと分かる。思い当たるベテラン県職員は戦々恐々としているだろう。 あわせて読みたい 収まらない福島県職員贈収賄事件【赤羽組】【東日本緑化工業】
先月号で、JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が6月8日に事業を停止したことを報じたが、10月に挙式を予定していた夫婦の母親が、その被害と精神的ショックを打ち明けてくれた。 支払い済みの190万円は戻る保証無し 事業停止を伝える張り紙 結婚式場の運営会社である㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11、2003年7月設立、資本金1000万円、黒﨑正壽社長)は福島地裁郡山支部に破産を申請する見通し。負債総額は少なくとも2億円を超えるとみられる。 ピーク時の2013年に5億0100万円あった売り上げ(決算期は9月)は、新型コロナ発生前の19年に2億4000万円と半減し、コロナ禍の22年には1億円と5分の1にまで落ち込んでいた。 《2014年9月期以降もパーティー会場の増設や新しいイベント企画の立案等を進め顧客獲得に努めていたが同業との競争は激しく、業績伸長に苦戦を強いられていた。そのような中、2020年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、挙式・披露宴の日程変更やキャンセルが相次いだ他、招待人数の減少もあり(中略)収支一杯な状況を余儀無くされていた。2021年9月期以降も業況は好転せず、近時においても外注先との契約解消等もあったことから事業継続を断念》(東京商工リサーチ『TSR情報福島県版Weekly』6月26日付より) 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の運営管理を行う㈱TAKUSO(どちらも郡山市駅前一丁目11―7)があるが、オール・セインツの事業停止以降、事務所に人影はない。 「突然、事業停止を告げられ、しかも払ったお金は戻ってくるか分からない。今は騙されたという思いでいっぱいです」 憤った様子でこう話すのは、郡山市在住の主婦Aさん。Aさんは宮城県内に住む息子夫婦がオール・セインツで挙式とパーティーを開く予定だったが、今回の事態で見通しが立たなくなった。 「息子夫婦は5月29日に衣装や髪形などの打ち合わせをして、次回は食事の内容を詰めることになっていました。ところが、息子が担当者のラインに『次の打ち合わせはいつになりますか』と送っても『既読』になっただけで返信がなかった。いつもならすぐに返信があるので、息子も変だなと思ったそうですが、まさかこんなことになるなんて」(同) 息子夫婦が最後に打ち合わせをしたのは事業停止の10日前。おそらく担当者は、その時点では会社が破産することを認識していなかったのだろう。ラインが「既読」になっても返信がなかったということは、打ち合わせ後に黒﨑社長から社員に「6月8日に事業を停止する」旨が伝えられたとみられる。 とはいえ、顧客からすると「破産すると分かっていて説明せず、カネを騙し取ったのではないか」との疑念は拭えない。 「5月29日の打ち合わせには私も同席し、ちょうど黒﨑社長にも会っています。ただ、その日はいつもと様子が違っていました」(同) Aさんによると、黒﨑社長は愛嬌があり、丁寧な挨拶を欠かさないそうだが、その日はいつもの元気がなく、難しい表情を浮かべながら誰かと話し込む様子が見られたという。 「今思えば、破産の話をしていたのかもしれませんね」(同) 実は、Aさんの息子夫婦は他の被害カップルとは事情が異なる。 オール・セインツの約款には《挙式5万円、パーティー5万円の申込金支払いで契約成立とし、申込金は内金として当日費用に充当する》《挙式・パーティーの2週間前までに最終見積もり金額および請求金額を提出するので、挙式10日前までに当社指定の銀行口座にお振り込みください》と書かれている。つまり、被害カップルの損害額は最少で10万円、挙式まで10日を切っていると費用全額になる可能性がある。 そうした中、Aさんの息子夫婦は今年2月26日に挙式とパーティーを行う予定だったが、妻の妊娠が判明したため出産後の10月7日に延期。しかし、オール・セインツは約款で日程変更を認めていないことから、息子夫婦は特例で日程変更を承認してもらい、同社と覚書(昨年9月9日付)を交わしていたのだ。 「ただし『日程変更の条件として見積もり金額180万円の全額を払う必要がある』と言われたので、息子夫婦は覚書に基づき全額を払ったのです」(Aさん) すなわち内金10万円と合わせ、息子夫婦は計190万円を既に支払っていたのだ。挙式が10月7日ということは、本来なら10万円の損害で免れていたかもしれないのに、想定外の被害に巻き込まれた格好だ。 「私は『延期するなら契約を白紙にしてもいいのでは』と言ったのですが、息子夫婦は『どうしてもオール・セインツで式を挙げたい』と言うので、最後は本人たちの意思を尊重した経緯があります。実際、ネットの口コミ評価も高かったし、チャペルの雰囲気も素敵だったので、ここで挙式したいという思いが強かったんでしょうね」(同) 債権者集会はいつ? 門が閉ざされ静まり返るチャペル 事業停止後、オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(山口大輔法律事務所、会津若松市大町一丁目10―14)からは「(オール・セインツを)結婚式という人生の大きな節目をお祝いする場に選んでいただけたにも拘わらず、このような結果になってしまったことをお詫び申し上げます」と謝罪すると共に、▽結婚式業務委託契約を会社都合により解除する、▽支払い済みの金額および損害賠償請求は破産手続きの対象になる旨が書かれた文書(6月9日付)が送られてきた。 「紙切れ1枚で連絡を済ませるなんて酷い。黒﨑社長には、息子夫婦の人生の門出を台無しにした責任を取ってほしい」(同) 黒﨑社長は79歳で、北海道札幌市に自宅があるが出身は福島県ということは先月号でも触れた。Aさんによると「以前、雑談していたら『私は会津出身なんです』と話していました」とのこと。 チャペルやパーティー施設などの不動産は、小野町の土木工事・産廃処理会社が所有していることも既報の通りだが、その他に目ぼしい財産があるか調べたものの、不動産登記簿等では追い切れなかった。 Aさんの息子夫婦は精神的ショックに打ちひしがれている。挙式は行いたいが、別の式場でもう一度最初から打ち合わせをする気持ちになれないという。もちろん費用の問題もあり、支払い済みの190万円が戻ってくる保証はない。 山口弁護士はオール・セインツから事業停止後の処理を一任されただけで、破産手続開始が決定されれば裁判所が破産管財人を選任する。破産手続きは、その破産管財人(山口弁護士とは別の弁護士)のもとで進められることになる。 山口大輔弁護士事務所によると、7月19日現在、負債総額の調査は終わっておらず、債権者集会を開催する見通しも立っていないという。「黒﨑社長と直接話せないか」と尋ねたが「当事務所が代理人を務めているため、直接話すのは難しい」とのことだった。 「幸せ」を商売にしてきた企業が顧客を「不幸」にしたのでは話にならない。債権者を選別するわけではないが、被害カップルを何とか救済できないかと思うのは本誌だけではないだろう。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖
「福島県農業経営・就農支援センター」(福島市)は4月3日に県自治会館で開所式を実施してから、4カ月経過した。同センターは、農業経営基盤強化促進法の改正で各都道府県に設置されることになったが、県および県農業会議・県農業振興公社に加えJAグループが参加し、17名が常駐するワンストップ・ワンフロアの支援体制は全国でも福島県が初めてとなる。 従来の窓口は団体ごとに異なり、手続きが煩雑になるなど相談者の負担となっていた。各団体が1カ所に集まることで団体の連携を密にし、実効性ある支援策を講じることができるようになった。 相談件数は4月に開所して以来、6月末時点で、地域段階のサテライト窓口も含めて298件(就農相談186件、経営相談103件、企業参入相談9件)となった。この相談件数は昨年同時期と比較すると約2倍になっており、新規就農希望者やこれからの経営改善を計画する農業経営者から大きな期待が寄せられ、順調なスタートとなっている。 今後、年間1200件の相談件数を目指したPRや掘り起こし活動を積極的に行うとともに、就農相談を通じて、県農林水産業振興計画に掲げる2030(令和12)年度までに年間340名以上とする新規就農者の確保を目指す。 また今後の課題として、相談者の就農実現に向けた研修受け入れ機関(農家や公的機関)の紹介をはじめ国等の支援事業の対応や農地のあっせん等を含めた伴走支援を進める必要がある。 開所式の様子 経営相談については300件を超える重点支援対象者を設定しており、既存の経営者から寄せられた法人化や経営継承等の課題解決に向けた対応に加え、就農後5年以内の認定新規就農者に対する就農定着と経営発展に向け、センターおよびサテライト窓口職員による訪問活動や専門家派遣などに取り組んでいく。 JA福島グループでは、相談件数の増加が就農者の増加と定着、さらには農業経営者の経営課題解決という成果に着実につながっていくよう、関係機関の連携を一層強めて取り組んでいく考えだ。 JA福島中央会が運営するJAグループ福島のホームページ あわせて読みたい 【JAグループリポート2023】創立70周年記念大会で誓い新たに【JA福島女性部協議会】
陸上自衛隊郡山駐屯地(郡山市)に所属していた元陸上自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=がわいせつ被害をネットで実名公表してから1年が経った。服の上から下半身を押し付け、性行為を想起させる「腰振り」をしたとして、強制わいせつ罪で在宅起訴された元男性隊員3人の初公判が6月29日、福島地裁で開かれ、初めて加害者の名前が明かされた。マスコミのほか、傍聴席数を大きく上回る市民、自衛隊関係者が傍聴に押し寄せた。注目が集まったのは、「命を削ってでも闘う」と覚悟を決めた五ノ井さんと、わいせつと捉えられる行為を「笑いを取るために行った」と弁明する加害者たちとの埋め難い差だった。 「笑いを取るため」見苦しい弁明 福島地方裁判所 原稿執筆時(7月27日)は同31日に開かれる予定の第2回公判を傍聴しておらず、初公判(6月29日)を終えた時点での情報を書く。 強制わいせつ罪に問われているのは、いずれも自衛官を懲戒免職された、現在郡山市在住で会社員の渋谷修太郎被告(30)=山形県米沢市出身=、関根亮斗被告(29)=須賀川市出身=、木目沢佑輔被告(29)=郡山市出身=。 2021年8月3日夜に北海道・陸自矢臼別演習場の宿泊部屋の飲み会で、上司から指示を受けた被告3人が、それぞれ五ノ井さんに格闘技の「首ひねり」を掛けてベッドに押し倒した上、五ノ井さんに覆い被さって下半身を押し付けたかどうかが問われている。被告3人は技を掛けたことは認めたが、わいせつ目的の行為はしていないと一部否認している。 最初に技を掛けた渋谷被告は、裁判で「覆い被さっていない」「腰を振ったのは事実だが笑いを取るためで、下半身の接触はなかった」と主張。関根被告は押さえつけたこと、木目沢被告は覆い被さったことは認めたが「下半身は接触していない」と述べた。 「笑いを取るため」との主張は、一般の感覚を持ち合わせているなら苦し紛れに聞こえる。 渋谷被告は無罪を勝ち取った場合でも「飲み会中に女性に技を掛けて倒し、笑いのために腰を振った男」と言われ続けることを考えなかったのか。 渋谷被告は専門学校を卒業後、2013年に入隊。関根被告と木目沢被告は高校卒業後、2012年に入隊した。2020年に入隊した五ノ井さんにとっては7、8年先輩で、階級は事件当時3等陸曹だった。五ノ井さんは当時1等陸士で、3人よりも階級が下だった。今回の刑事事件では、五ノ井さん、被告3人双方が自衛隊内は絶対的な階級制度で上司の命令に逆らえなかった点を挙げている。 五ノ井さんによると、事件のあった部屋で被告3人に五ノ井さんへの首ひねりを命じたのはF1等陸曹(1曹)だった(五ノ井里奈著、岩下明日香構成『声をあげて』2023年、小学館。人名の匿名表記は同書に従う。階級は当時)。40代のF1曹は、ほかに男性隊員十数人がいたその部屋の中では階級が上位だった。 発端の言葉「首を制する者は勝てる」 柔道を指導していたF1曹は、30代のB2等陸曹(2曹)と格闘技の話で盛り上がり、「首を制する者は勝てる」と語っていた。F1曹は渋谷被告に柔道有段者である五ノ井さんを相手に「やってみろ」と言ったという。F1曹は渋谷被告にやり方をレクチャーした(検察側が読み上げた男性隊員の供述調書より)。 法廷で示された捜査段階の資料によると、部屋の広さは約6㍍×約6・8㍍。壁際にベッドが4台、短辺を中央に向けるように約0・8㍍の間隔で並んでいた。 渋谷被告の捜査段階での供述によると、「なぜ狭いところでやらなければ」と思ったという。室内が狭いので、ゆっくり首ひねりを行って五ノ井さんをベッドの上に倒した。渋谷被告は思った。「誰も反応してくれない」。性行為の疑似行為で笑いを取ろうと、腰を前後に振った。体の線を強調した黒い服装で「ウェーイ」と叫びながら腰を振る芸風で、2000年代半ばに一斉を風靡したお笑い芸人レイザーラモンHGを真似たという。人前で「ウェーイ」と叫び腰を振るのは初めてのことだった。狙い通り笑いが起きたという。 証人として出廷した五ノ井さんは、渋谷被告は腰を振る行為をする際に「あんあん」という喘ぎ声を出していたと話した。自分がされていることに頭が追いつかなかったという。大勢の男性隊員がいる中、「F1曹とB2曹が笑っていたのを覚えている」と証言した。 渋谷被告の捜査段階の供述と、五ノ井さんの法廷での証言は「笑いが起きた」という点で矛盾しない。被告側は「笑いを取るため」と強調することで、わいせつ行為に当たらないと主張したいのだろうが、「笑いを取るためにやった」ということは一般市民をドン引きさせることはあっても、責任を和らげる効果はないだろう。 市井の生活を送っている者の感覚で言えば、上官の指示とは言え、首ひねりを掛けた時点で暴行だ。訓練期間中ではあったが、飲み会の席であり、中隊の全員が参加していたわけではなかった。後から「格闘技の練習の意味合いがあった」と言い訳ができそうだが、そもそも酔った集団の中で、渋谷被告自身も「なぜ狭いところでやらなければ」と疑問に思った広さの場所で危険行為をするべきではない。裁判は、自衛隊が一般市民の感覚から大きくかけ離れていることを浮き彫りにした。 国(防衛省)は強制わいせつ罪に問われている被告たちが、F1曹の指示でくだんの行為を行い、それがセクハラに当たると認定している。五ノ井さんが被害を受けている様子を見て笑ったとされるB2曹については、別の場面で五ノ井さんにセクハラをしたと認定した。加害行為が認定された5人は昨年12月に懲戒免職された。 民事と刑事で一貫した主張 弁護士とともに福島地裁に入る五ノ井さん(左) 五ノ井さんは、懲戒免職された元隊員5人と国に対し、損害賠償を求めて横浜地裁に提訴している。加害者側の代理人が「個人責任を負うべきか疑問が残る」との見解を示したこと、加害行為をどう受け止め、どのように責任を取るか質問状を投げても回答しなかったことを、五ノ井さんは不誠実と捉え、示談では解決できないと思ったからだ(前掲書208~209ページより)。 渋谷、関根、木目沢被告は、この民事裁判でも暴行や性加害を否認。F1曹も同じく否認。B2曹は矢臼別演習場での事件を概ね認め、和解に応じる姿勢を示している。国は、性加害の事実について認めた上で、法的責任の有無などについて追って主張したいと「留保」。民事、刑事双方で被告側が一貫した主張をできるかどうかも重要な要素だ。 福島地裁によると、6月29日に開かれた渋谷、関根、木目沢被告の初公判には、47席の一般傍聴席に125枚の整理券を交付。競争倍率は約2・6倍だった(6月30日付福島民友より)。裁判が行われたのは平日の昼間である。マスコミのほか、自らが捜査した事件の行方を報告するために来た自衛隊の警務隊員など仕事で来た人がほとんどであったが、被告たちが所属していた駐屯地がある郡山市から来たという人や、大学生とみられる一団もいた。 五ノ井さんや被告3人を撮ろうと裁判所の敷地境界で待ち構えるマスコミ 本誌は記者クラブに加盟していないので、法廷内の記者席が割り当てられていない。社員8人で抽選に臨み、2人が傍聴券を得た。毎回傍聴できるとは限らないので、常に本気だ。 本来なら満席のはずだが、横を見ると、なぜか筆者の隣はずらりと3人分空いていた。傍聴を棄権した人がいることになる。裁判は公開されていると言っても新聞、テレビは知り得ても伝えないことが多いし、本誌も証言者の実名は民事裁判への影響を考慮し報じていない。どちらが本当のことを話しているのか。実社会では表情や声色などを参考にするが、事件は裁判所に赴かないと分からない。 第3回公判は8月23日午後1時半開廷の予定。どちらが本当のことを言っているのか、自分で判断するためにも傍聴を勧める。 声をあげて posted with ヨメレバ 五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス 楽天kobo Amazon あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】
著名人らを繰り返し脅迫していたとして、東京地検は暴力行為法違反(常習的脅迫)の罪などで、元参院議員で暴露系ユーチューバーとして活動していたガーシー(本名・東谷義和)被告を起訴した。 ガーシー被告に海外でユーチューバーとなることを進めた〝黒幕〟は秋田新太郎氏といわれる。太陽光関連ベンチャー企業経営者で、過去に詐欺容疑で逮捕されたことがある。融資金の詐取容疑で再び逮捕され、執行猶予期間に逃亡。現在はドバイに滞在しているという。 実は福島県も無縁ではない。 2018年8月に小売り電気事業の「福島電力」(楢葉町)という会社が破産したが、同社の実質的創業者で、幹部社員として経営に携わっていたのが秋田氏だった。 本誌昨年4月号では福島電力について次のように触れている。 《電力小売り事業全面自由化を受けて、全国の発電事業者から供給を受け、その電力を販売する事業を展開。電気代が大幅に安くなる点や売り上げの一部が福島復興に還元される点を売りに契約数を伸ばした。2017年9月期の売上高は8億4600万円に上った。 だが、全国的に営業をかけて事業拡大した結果、顧客管理などが追い付かなくなり、請求書発行の遅延や二重請求が発生したため、ネットで大炎上。(中略)そうした中で、債権者から破産を申し立てられた。債権額は2017年9月末時点で約2億1000万円》 同社の経営のずさんさは元社員らが証言している。秋田氏自身も関西ローカルのニュース番組の取材に、「上場時にストックオプションで儲けようとした」、「売り上げが苦しくて、契約時に無断で高いプランに変更していた」とあけっぴろげにコメントしていた。 同社の元社長は自称顧問(秋田氏)と共謀して、1000万円を着服したとして、業務上横領罪で逮捕・起訴されており、7月10日、東京地裁は懲役2年6月、執行猶予5年(求刑懲役2年6月)の判決を言い渡した。平然と罪を重ねる〝悪党〟ぶりにあきれるばかりだ。
【政経東北 目次】大義なき〝汚染水〞海洋放出/IAEA国際基準のずさんな内容/【会津バス】社長が明かす【丸峰観光ホテル】再生手法/違和感が渦巻く【会津大学】学長辞任/続・前理事長の性加害疑惑に揺れる会津【中沢学園】/陸自郡山駐屯地わいせつ事件「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為 アマゾンで購入する BASEで購入する 大義なき〝汚染水〞海洋放出 ジャーナリスト・牧内昇平 IAEA国際基準のずさんな内容 廃炉制度研究会・尾松亮 会津バス社長が明かす丸峰観光ホテル再生手法 丸峰庵の民事再生手続きは未だ不透明 違和感が渦巻く会津大学学長辞任 「論文不正」「学内手続き軽視」のもう一つの事実 県警の贈収賄摘発は一段落⁉ 「一罰百戒」芋づる式検挙の舞台裏 県クリエイター育成事業「誇心館」検証ないまま2年目始動 塾生の生の声を反省材料にすべき 続・前理事長の性加害疑惑に揺れる会津【中沢学園】 記事掲載禁止仮処分申立事件の内幕 陸自郡山駐屯地わいせつ事件「口裏合わせ」を許した自衛隊の不作為 証人は自らの嘘に苦しむ 【帰還困難区域】先行除染費用は60億円 動き出した「特定帰還居住区域」計画 県議選注目選挙区の動向 【須賀川市・岩瀬郡】自民現職2人に新人2人が挑む「共産候補も侮れない」との声も 【南会津郡】元立民党員が自民推薦で立候補 自治労出身候補者との新人対決 「空白」を回避した【磐梯東都バス】撤退問題 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 岐路に立つ真夏の相馬野馬追 歴史的根拠に乏しい「5月開催」方針 風通しが悪い中間貯蔵国策会社 「怠慢を指導」か「パワハラ」かでいがみ合い ワイド特集 祭りのあと ・田村市の新病院工事問題で新展開【安藤ハザマ】との請負契約が白紙に ・相馬福島道路が長期間の通行止め 災害に弱い「横軸」は相変わらず!? ・ヨークベニマルが原町に新店舗!?商業施設跡解体で広まる〝ウワサ〟 ・室屋パイロット塾で3次試験実施 9月からいよいよ飛行訓練が開始 ・只見町の食品スーパー店主が引退 豪雨災害で水没も地域のため再開 特集・若手新人3議員の素顔 【須賀川市】断トツ得票を記録した深谷勝仁氏 【猪苗代町】地域おこしで移住した長友海夢氏 【南会津町】元町長に大差をつけた渡部裕太氏 生涯教員宣言の77歳相楽新之助さん 「これからも教壇に立ち続けたい」 その他の特集 巻頭言 不作為の罪 グラビア 強行された〝汚染水〟海洋放出 特別インタビュー 管野啓二・JA福島五連会長 長谷川浩一・県建設業協会長 尾崎和典・福島中央テレビ社長 朝倉津右エ門・二本松信用金庫理事長 市長インタビュー 鈴木和夫・白河市長 首長訪問 薄友喜・西会津町長 新首長に聞く 須釡泰一・玉川村長 企画特集 「秋の観光」で地域に活力与える二本松市 桑折町が目指す住みよいまちづくり 福島商工会議所で創業支援の「スクール」開講 この人に聞く 新城猪之吉・会津若松観光ビューロー理事長 インフォメーション 学校法人昌平黌 いわき短大附属幼稚園 湯川村長選立候補予定者に聞く 連載 フクイチ核災害は継続中(春橋哲史)横田一の政界ウオッチ耳寄り健康講座(ときわ会グループ)ふくしま歴史再発見(岡田峰幸)情報ファインダー熟年離婚 男の言い分・その61(橋本比呂)東邦見聞録高橋ユキのこちら傍聴席選挙古今東西(畠山理仁)ふくしまに生きる 編集後記
福島市本町にある学習塾「さくらゼミ」が5月上旬に突如閉鎖し、受験の天王山である夏を前に塾生たちは行き場を失った。1年分の受講料を既に払った塾生もおり、返済が必要な額は500万円にのぼる。運営会社社長は保護者への「謝罪の会」で時期は明言しなかったが全額返金する方針を示した。業界関係者は、塾生を集める算段が付かず経営難に陥り、従業員も見切りを付けたのでは、と話す。 「社会保険未加入」で去っていった講師たち 福島市の学習塾「さくらゼミ」の閉鎖は6月16日付の福島民報が最初に報じた。 《福島市中心部の学習塾が年間受講料などを徴収しながら5月上旬以降、受講生に告知せず授業を中断していることが15日までの関係者への取材で分かった。保護者は受講料返還を求める集団訴訟なども視野に、法的手続きを検討している》 さくらゼミのことだ。同記事によると、塾には小中高生約30人が在籍し、多くは1年分の受講料を一括で納めて今年度の授業を受ける予定だった。4月中はオンラインも交えて授業があったが、5月の大型連休明けから大方の生徒に事情が説明されないまま授業が打ち切られたという。 さくらゼミの元従業員Aさんが語る。 「さくらゼミは仙台市を拠点にする学習塾で教えていた佐藤団氏の個人事業として始まりました。3年前に会社組織を立ち上げ、運営がスタートしました」 法人登記簿によると、さくらゼミを運営するのは「株式会社SAKURA BLACKS」。2020年1月29日設立。事業目的には、①学習塾の経営、②速読、読解力向上の為の学習指導、③語学、資格取得に関する学習指導、④教材用図書の出版がある。代表取締役は佐藤団氏。 佐藤氏は市内で保護者向けに説明会を開いた。6月25日付の福島民友が詳しい。 《福島市の学習塾が受講料を徴収後、説明や返金もないまま事業を停止している問題で、経営者の男性は24日、同市で説明会を開き、受講料の返済が必要な人が約40人おり、総額が約500万円に上ると明らかにした》 男性とは佐藤氏のこと。同記事によると、佐藤氏は弁護士を通じて全額返金する意向を示したが、具体的な時期は明言しなかったという。佐藤氏の話として、塾は昨年12月の段階で経営難だったと伝えている。 前出のAさんが続ける。 「経営に関し、おかしいと思う部分はありました。私は従業員として授業を教えていましたが、一切、社会保険には入れてもらえなかった。佐藤氏は『お金がない』の一点張りでした。最盛期はアルバイトも含めると最大10人くらいいましたが、徐々に辞めていきましたね。私は以前、佐藤氏と一緒の塾に勤めていた同僚で、佐藤氏から『新しい塾をつくろう』と誘われてさくらゼミに参加しました。そういう事情もあって塾生たちに責任を感じ、限界まで残るつもりでしたが、昨年の夏にもう付いていけないと辞めることを決めました。高校受験生に悪影響が及ばないよう、今年2月まで授業を続け退職しました」 現在、さくらゼミのホームページの講師紹介は、佐藤氏の顔写真しか載っていない。過去のホームページをたどると、佐藤氏の担当教科は国語、英語、社会。Aさんによると、塾の従業員がAさん1人になった後は、佐藤氏が算数・数学と理科も教え、状況によっては配信授業を活用する予定だったという。 学習塾業界関係者Bさんの話。 「塾関係者の間では、佐藤氏よりもAさんの方がベテラン講師として実績があり、児童・生徒、保護者から人気がありました。さくらゼミのロゴである桜の花びらのデザインはAさんが以前経営していた学習塾のものと同じで、ノウハウも業界関係者から見れば類似点が多い。Aさんは今春から福島市内で新たに学習塾を開いています。Aさんはさくらゼミでは一従業員の立場に過ぎなかったのかもしれないが、関係性の深さを見ていくと『責任はなかった』では済まされない気がします」 筆者はAさんにこの話を伝え「業界関係者の中にはAさんが佐藤氏を表に立て、裏でさくらゼミを仕切っていたのではないかと疑う人がいるようだ」と問うたが、Aさんは「それはありません」と否定した。 「佐藤氏と一緒にさくらゼミを始めたメンバーは私以外にもいます。仕切るどころか、社会保険に入れてもらえないなどのトラブルがあり、結局全員辞めてしまいましたが」(Aさん) そして、疲れた声でこう続けた。 「むしろ私は、佐藤氏に悪者に仕立て上げられ困っているんです」 どういうことか。 「佐藤氏は私が辞める際、『塾生には何も言わず黙って辞めてくれ』と言い、私はそれに従いました。保護者から後で聞いた話ですが、佐藤氏は保護者・塾生との面談で『Aは勝手に辞めていった』と言ったそうです」(同) どのような意図があったのか。実は、Aさんはさくらゼミを辞める時点で新しい塾を開く予定だった。そのため「佐藤氏は塾生を取られることを恐れ、私が勝手に辞めたと事実と異なる説明をして、塾生に『Aに裏切られた』と思わせる狙いがあったのではないか」(同)。 佐藤氏は配信授業を活用するなどして塾生が1人になっても事業を継続する意向だったが、5月上旬に突如閉鎖して以降は再開した様子はない。7月下旬、筆者は福島市本町にあるさくらゼミが入居していたビルを訪れたが、看板が残っているだけだった。新しいテナントも入っていない。 佐藤氏はさくらゼミの閉鎖から1カ月以上経った6月24日、保護者向けに「謝罪の会」を開いたが、開催は保護者に執拗にせがまれてのことだったという。佐藤氏は保護者に、健康状態の悪化や資金繰りに困っていたことから閉鎖の連絡が遅れてしまったと釈明した。 塾生確保が困難か 前出のBさんが語る。 「佐藤氏が教えられるのは英語などの文系科目だけだったという時点で、他の講師が辞めたら閉鎖は避けられませんでした。受験の天王山と言われる夏を控える中、説明もなく突如閉鎖し、在籍していた塾生の引き受け先も確保しなかったため問題となりました。福島県は大学進学率が低いことから、学習塾にとっては高校受験を控える中学3年生が主な顧客です。塾は2月に現中学2年生の人数を見て、次年度の計画を立てます。毎年、新中学3年生の獲得に力を入れなければならない。次年度の経営状況は春には予想がつくと言っていい。報道によると、閉鎖時に小中高生が30~40人在籍していたとあったが、さくらゼミの規模だと60~70人はいないと黒字にならない。Aさんたち講師陣は、かねてから社会保険を未加入にされていた上、塾生の確保も難しいとあきらめ、見切りを付けたのではないか」 授業が行えず、塾生を集められない以上、さくらゼミの運営会社は、塾生たちに先に徴収した授業料を返還したうえで破産するのが現実的だろう。 佐藤氏はいま何を思うのか。筆者は7月平日の昼に福島市内にある自宅を訪ねたが、車はなく、家族によると「不在」とのこと。債権者への責任を果たすため、金策に走っていることを願う。 あわせて読みたい 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者