Category

経済・ビジネス

  • 【NHKドキュメント72時間】二本松の24時間ドライブイン【4月5日放映】

     二本松市で24時間営業を続けるドライブインに全国から老若男女が訪れている。4月5日放映のNHK番組「ドキュメント72時間」の舞台となり、さらに注目が集まる。昭和の産物であるドライブインがなぜ注目されるのか。なぜ52年間も24時間営業を続けてこられたのか。秘密を探った。(小池航) レトロブームで脚光を浴びる【二本松バイパスドライブイン】  平成生まれで市内出身の筆者は、二本松バイパスドライブインに入るのは初めてだ。年季の入った「ドライブイン」「サウナ」の看板を外から目にはしていたが、「トラックドライバー以外お断りなのでは」と感じ、躊躇していた。  店に入ると右手に30畳ほどの小上がりがあり、正面と左手にテーブル席がある。窓際にはクリーム色の固定シートがあるボックス席。その奥にはアーケードゲームの筐体があり、1人の客が熱中していた。  平日夕方の店内は1人男性客が多い。食事の勘定は先払いのようだ。厨房前の壁に掛かったメニューを眺めていると、モツ煮定食の甘辛いにおいが漂ってきた。背後からはタオルを首に掛けた男性が慣れた手つきで500円を払い、レジ後ろの浴場に入っていった。  レトロブームで昭和、平成を生き残った店が脚光を浴びている。二本松市の国道4号上り線沿いにある二本松バイパスドライブインもその一つ。創業当時から24時間営業を続けているのは全国でも珍しい。直近ではNHKの人気番組「ドキュメント72時間」の舞台となった。  実は、二本松市にドライブインと名の付く飲食店は三つある(地図参照)。番組の舞台となった「二本松バイパスドライブイン」(通称バイドラ・二本松市杉田)と、国道4号下り線沿いの「二本松ドライブイン」(同市長命)、そして東北自動車道二本松インターチェンジ近くの「二本松インタードライブイン」(同市成田町)だ。国道4号下り線沿いのドライブインは昼と夜に営業しラーメンが有名。二本松インター近くのドライブインは営業が確認できておらず、閉店の情報がある。筆者が電話を掛けたところ「この回線は現在使われていない」とのアナウンスが流れた。 名物おかみが支える深夜営業 「体が動く限り店で働きたい」と厨房前に立つ橋本宏子さん  「ドキュメント72時間」の舞台となった二本松バイパスドライブインには創業時から働く「名物おかみ」がいる。おかみこと現オーナーの橋本宏子さん(81)が当時を振り返る。  「1972(昭和47)年に夫の父親が店を始めました。義父は精米業やメリヤス業に携わり、実際に店を切り盛りしたのは私たち夫婦です。当時はトラックドライバーが休憩する道の駅やコンビニがなく、ドライブインは24時間営業が当たり前でした。素人が飲食店経営を任されたので、苦労の連続でした」  店は3交代制で料理人、ホールスタッフら総勢二十数名の従業員で回している。1日当たり約250人の客が入るという。宏子さんは夕方出勤し、深夜3時まで勤務。人手が足りないと、日中のシフトに入ることもある。「私はもう後期高齢者」と謙遜するが、全国でも稀有な24時間営業のドライブインは、宏子さんのバイタリティで成り立っていると言っても過言ではない。  経営に携わる息子の信一さん(59)が窓の外を見て、国道を挟んで向かい側の小高い山を指した。  「今店が立っている場所にはもともと、あの高さと同じくらいの山がありました。店を建てる時に造成しました。現在、周辺は平らですが、国道4号は片側1車線で谷間を走っていました。今でこそ郊外店が沿線にたくさん並びますが、50年前はこうなるなんて想像もつかなかったでしょう」  店の前を通る国道4号二本松―本宮区間は1970年代以降に4車線化工事が始まり、遅くとも2002年までに完了した。  開業当初、二本松バイパスドライブインは長距離トラックのドライバーが主な客だった。大型トラック30台は停められる広い駐車場を整備した。全国のドライバーに名が知られるようになったのは、1970年代に放送が始まったTBSラジオの深夜番組「いすゞ歌うヘッドライト~コックピットのあなたへ」だったという。番組にはラジオ局から全国のドライブインに電話を掛け、居合わせたドライバーや店員が天気や道路情報を報告するコーナーがあった。  「番組の時間になるとラジオ局から電話が掛かってきてね。店にいたドライバーによく出演してもらっていた。2、3年は中継地になったかな」(宏子さん)  北海道・苫小牧からフェリーで仙台に着き、東京に向かう長距離トラックのドライバーが毎回立ち寄ってくれたのは懐かしい思い出だ。  70年代後半には映画『トラック野郎』のロケ地にもなった。宏子さんの記憶では、どのシリーズに出たかは曖昧。ただ「ギンギラギンのライトで装飾したトラックが10~20台並んで停まっていた」ことは明確に覚えている。  全国で道路網の整備が進み、長距離トラックが通る道は次第に高速道路に移っていく。開業から3年経った1975年4月には東北自動車道の郡山(福島県)―白石(宮城県)間が開通し、国道4号は「下道」となったが、店は良好な立地であり続けた。  二本松バイパスドライブインがある二本松市は県都・福島市と商都・郡山市の中間地点に位置し、営業車の行き来が多い。福島―郡山間は約50㌔で片道1時間半程度のため、ドライバーは高速よりも下道を使う。同店では客に占めるトラックドライバーの割合は確かに減っているが、代わりに営業職、建設業者、近くの工場の従業員が昼時に訪れる。  こうした事情から客の7~8割は壮年男性だが、近年は若者や女性、家族連れも見かけるようになった。  きっかけは東日本大震災、そしてここ2、3年で盛んになったユーチューバーの動画投稿だ。  「大震災直後、市内は停電になりました。断水や停電、燃料不足が続いた影響で、店の風呂に入りに来る方がいました。浴場は時代にそぐわないと思っていましたが、その時、まだまだ地域に必要とされていると感じました」(信一さん) 長距離ドライバーから地元客にシフト 創業した1972年から変わらないレトロな外観の「二本松バイパスドライブイン」  広い座敷があり、テーブル席を含めれば約100人収容できるため、地区の行事の反省会、消防団の食事などに利用される。今は地元密着型の大衆食堂としての性格が強い。  さらに、ユーチューバーが撮影しネットに投稿した動画が思わぬ効果をもたらした。  「以前通っていた地元のお客さんがまた来てくれるようになりました。20年ぶりに来た方から『動画を見たよ』と言われた時は嬉しかったですね」(同)  経営危機はあった。新型コロナでまん延防止等重点措置が発令された際、飲食店は営業時間短縮を迫られた。夜8時から朝6時までの営業を自粛し、初めて24時間営業を中断した。時短勤務に協力してもらった従業員は、新型コロナ収束後も変わらず働いてもらっている。  新型コロナの感染症法上の位置付けが引き下げられた2023年5月以降は、新規客が目立つ。  「昨晩も福島市から若者のグループがわざわざ来てくれました。夜9時を過ぎると開いている飲食店が少ないと言っていました」(宏子さん)  大手ファミレスの中には人手不足から深夜営業を取りやめる店が出ている。24時間営業の飲食店が減っていることや折からのレトロブーム、さらにネット動画で店内が紹介され「一見さん」が来やすくなったことが若者の支持を得るきっかけになったようだ。とはいえ、店はこのブームに少々戸惑っている。  「居酒屋とも違うし、カフェとも違うし、風呂もゲームもあるわで何だか分からない空間です。店としては料理を早く旨く作り、なるべく安く出す。創業時から同じことを繰り返してきただけなのですが……。ファッションと同じで、時代が1周したんでしょうね」(信一さん)  宏子さんの思いは創業時から変わらない。「『おいしかった。また来ます』と言われるのが一番うれしいですね。ただ『24時間いつまでも続けてください』と応援されると、嬉しいけど『まいったなー』とも思います」と笑顔で話す。宏子さんは信一さんを見やりながら「後のことは息子か孫だない(だねえ)」  信一さんの息子は、調理師専門学校を卒業し、今は中華料理店で修業中だ。学生時代はドライブインを手伝っていた。信一さんは「息子に期待はしていますが、本人の気持ち次第ですからね」と静かに見守る。  全国から注目されるのは喜ばしいが、本誌には地元の常連から「ブームが早く落ち着いてほしい」との声が寄せられる。混雑する昼時を避け、遅めに来店する常連もいるほど。市内出身の筆者としては、ブームを機に訪れる人が増えるのは嬉しいが、一段落した後に訪ね、ゆっくり食事をすることを勧める。一過性で終わらせるのではなく、息の長い利用が何よりも店の応援になる。 注:休みは日曜夜12時(月曜深夜0時)から月曜朝6時の6時間。 国道4号線 ドライブインは眠らない 初回放送日: 2024年4月5日

  • 震災直後より深刻な福島県内企業倒産件数

    震災直後より深刻な福島県内企業倒産件数

     民間信用調査会社の東京商工リサーチが発行している「TSR情報」(福島県版、1月15日号)によると、昨年1年間の県内企業の倒産件数(負債額1000万円以上)は80件で、震災・原発事故の翌年以降では最多だったという。本誌昨年12月号で、コロナ支援の「ゼロゼロ融資」で倒産件数は抑えられたが、返済が本格化し、倒産件数は増加に転じていると指摘した。それが如実に現れている格好だ。 コロナ融資の返済スタートで顕在化  東京商工リサーチ(『TSR情報』福島県版)のリポートによると、昨年1年間の県内企業の倒産件数(負債額1000万円以上)は80件で、負債総額は135億2600万円だった。月別の倒産件数、負債総額は別表の通り。2022年は66件、124億8300万円、2021年は50件、108億8400万円だったから、前年比で14件増、2021年比で30件増になる。倒産件数は、東日本大震災・福島第一原発事故の翌年以降、最多だったという。なお、2011年は99件、以降はおおむね40~60件台で推移している。 2023年月別の倒産件数と負債総額 月倒産件数負債総額1月2件2億7100万円2月10件32億6500万円3月6件2億8500万円4月1件1億円5月7件5億1100万円6月14件35億0700万円7月7件4億1300万円8月5件7億0400万円9月2件2億2300万円10月6件8億9800万円11月6件7億3300万円12月14件26億1600万円計80件135億2600万円  業種別ではサービス業が最も多く25件、そのほか、建設業が16件、製造業が15件だった。うち、新型コロナウイルス関連倒産は45件で、半数以上を占めた。  《ゼロゼロ融資はコロナ禍の企業倒産抑制に大きな効果を見せた。ただ、副作用として過剰債務を生み、業績回復が遅れた企業ほど、期間収益での返済原資確保が難しくなっている。経済活動が平時に戻る中、過剰債務は新たな資金調達にも支障を来している》(同リポートより)  このほか、燃料、電気、物価の上昇、経済活動再開に伴う人手不足などの要因を挙げ、さらには処理水放出に伴う新たな風評被害の懸念もあり、企業を取り巻く事業環境は厳しさを増しているため、引き続き注視が必要としている。  本誌では昨年12月号に「新型コロナ『ゼロゼロ融資』の功罪」という記事を掲載し、その効果などを検証した。  ゼロゼロ融資は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が中小企業の資金繰り支援として実施した実質無利子・無担保の融資。コロナ禍前と比較して、売り上げが15〜20%以上減少などの条件を満たせば、担保がなくても資金を借りることができ、利子も3年間は負担しなくていい。元本は信用保証協会が担保し、都道府県が利子を支払う仕組みだ。  融資期間は10年以内(据え置き期間は5年以内)で、無利子期間は3年。最大3億円まで借りられる。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など政府系金融機関を窓口に2020年3月から始まったが、申し込みが殺到したため同年5月から民間金融機関でも受け付けた。  県内でのゼロゼロ融資の実績は、約2万3300件、約3571億円というから、多くの中小企業がこの制度を利用したことが分かる。  一方で、前述したように無利子期間は3年間で、昨年夏ごろに返済開始のピークを迎えた。実際、大部分の企業が返済をスタートさせているという。県信用保証協会が公表している保証債務残高の推移を見ると、2021年度末は約5688億円、2022年度末は約5661億円、2023年12月末は約5330億円と少しずつ減少している。  一方、倒産企業の債務を信用保証協会が肩代わりする代位弁済額は、2021年度が242件、約21億円(前年比73・5%)、2022年度が302件、約35億円(同164・3%)に増加。2023年度は12月までに295件、39億円となっている。金額ベースではすでに前年を超えており、年度末までには件数、金額ともにさらに増えると思われる。 制度検証と経営支援を  さらに、朝日新聞(昨年11月8日付)によると、《22年度末時点の貸付残高は14兆3085億円(約98万件)。うち回収不能もしくは回収不能として処理中は1943億円、回収が困難な「リスク管理債権」(不良債権)が8785億円だった。計1兆0728億円》《国は日本公庫や商工中金など政府系金融機関に約31兆円の財政援助をしている。金利負担にも国費が使われており、損失は国民負担につながる》という。  こうした状況について、本誌昨年12月号記事では、次のように指摘した。    ×  ×  ×  ×  本来は早々に退場すべき企業が、異例の支援策のおかげで延命されたケースは結構あったはず。結果、一定程度の〝ゾンビ企業〟を生み出したことは事実だろう。  「実質無利子・無担保なんて本来はベンチャー企業を対象にすべき制度でしょう。業種を問わずに門戸を広げればモラルハザードを招きかねない。中には信用保証協会が代位弁済してくれるのをいいことに、計画倒産した悪質経営者もいたかもしれない。残すべき企業と退場させるべき企業を選別するのは正直難しいが、少なくともゼロゼロ融資に55兆円もの税金を使ったのはやり過ぎだったのではないか」(あるジャーナリスト)  かつて公共事業費が年々減っていた時代、増え続ける建設会社をいかに〝安楽死〟させるかが県庁の中で大きな課題になったことがある。同じことは〝ゾンビ企業〟にも言えるのかもしれない。    ×  ×  ×  ×  ここで指摘したように、本来なら、収益力が低く、コロナがなかったとしても、いずれは倒産・廃業していたであろう企業を延命させ、挙げ句、税金で債務を肩代わりしたケースもあったのは間違いない。その一方で、飲食店や宿泊業などを中心に、深刻な影響を受けた中、ゼロゼロ融資のおかげで多くの企業が存続できたのも事実だろう。ただ、当初から懸念されていたことだが、返済が本格化すると同時に、倒産件数が増加していることが、あらためて浮き彫りになった。  政府は「ゼロゼロ融資」が適切だったのか、きちんと検証すると同時に、今後は売上回復に向けた経営的な支援策が求められよう。

  • 意見交換会で見えた本宮市子ども食堂の現状

    意見交換会で見えた本宮市子ども食堂の現状

     本宮市内の子ども食堂をサポートしている「本宮市社会福祉協議会フードバンク」による支援品贈呈式が昨年12月15日、本宮市商工会館で行われた。同バンクは同社協と本宮市商工会が事業協定を結んで一昨年に始まったもので、民間事業所が「協賛会員」となり、同社協や子ども食堂に支援品を提供する。昨年から本宮ライオンズクラブ、本宮ロータリークラブも活動に加わっている。  今回支援品が贈られたのは同社協のほか、▽子ども食堂「コスモス」、▽一般社団法人金の雫「みずいろ子ども食堂」、▽社会福祉法人安積福祉会しらさわ有寿園「こころ食堂」、▽NPO法人東日本次世代教育支援協会NA―PONハウスふくしまキッズエコ食堂、▽a sobeba lab.(ア・ソベバ・ラボ)。支援品の内訳はコメ30㌔21袋、寄付金46・5万円、冷凍食品、うどん・ラーメン、レトルト食品、生卵、タオルなど。  本宮市商工会の石橋英雄会長は「人口減少抑制につながればという思いで始めた。マスコミなどで活動を周知していただいたこともあり協賛会員は38事業所まで増え、市民にも浸透してきた。長く続けていきたい」と述べた。本宮ライオンズクラブ、本宮ロータリークラブの関係者もあいさつした。  当日出席した子ども食堂の運営団体関係者は支援に対する謝辞を述べるとともに、活動報告を行った。その後、意見交換会の時間が設けられ、現状や課題について語り合った。  それぞれの話から見えてきたのは、支援を必要としている生活困窮者は多く存在していること、そして食事を提供する場がその情報を得るきっかけとなっているということだ。  同社協では生活困窮者に食料を提供しているが、今年度は上半期を終えた時点で昨年度の件数を上回っているという。生活困窮者と一口に言っても、ニート生活を過ごしていたが親の死を機に独り立ちを余儀なくされ安定した収入を得られない人、派遣社員として本宮市に来たものの契約終了し生活に困っている人、年金暮らしで過ごす老老介護状態の親子など、背景は多岐にわたる。  ある子ども食堂関係者は「多くの人にもっと気軽に足を運んでほしいが、自分から『支援してほしい』とうまく伝えられない人もいる。そうしたところには協力者や元民生委員などを通じて食料品を持っていってもらっている。子ども食堂がたくさんできて近所のことを把握できる状態になるのが理想だ」と話した。  一方で、「企業から個別に提供してもらっていた食料品の数が半分に減った。物価高の影響だと思われる」、「自宅のスペースを使って子ども食堂を開いているので、電気代・燃料費値上がりの影響が大きい」といった報告も聞かれた。市からは運営経費に関する補助金が給付されているが、1回開催につき1万円程度で、決して余裕があるわけではないという。自宅を使って運営している人は、食料品を保管するスペースがないという問題もあるようだ。  このほか、開催していることを近隣に周知する難しさを訴える声も上がった。まずは同商工会内でPR・サポートする案が話し合われたが、小中学校や放課後児童クラブ、子ども会などと連携してチラシを配ったりイベントと同時開催し、利用を呼びかけるのも一つの方法だろう。  このように課題は少なくないようだが、経済界が先頭に立って子ども食堂を応援し、地域振興につなげようとする取り組みには意義がある。引き続き注目していきたい。

  • 【会津若松】神明通り廃墟ビルが放置されるワケ

     会津若松市の中心市街地に位置する商店街・神明通り沿いに、廃墟と化したビルがある。大規模地震で倒壊する危険性が高いと診断されており、近隣の商店主らは早期解体を求めているが、市の反応は鈍い。ビルにはアスベストが使われており、外部への飛散を懸念する声も強まっている。 近隣からアスベスト飛散を心配する声 廃墟のような外観の三好野ビル  神明通りと言えば、会津若松市中心市街地を南北に走る大通りだ。国道118号、国道121号など幹線道路の経路となっており、JR会津若松駅方面と鶴ヶ城方面を結ぶ。通り沿いの商店街には昭和30年代からアーケードが設けられ、大善デパート(後のニチイダイゼン)、若松デパート(後の中合会津店)、長崎屋会津若松店が相次いで出店。多くの人でにぎわった。  もっとも、近年は郊外化が進んだ影響で衰退が著しく、2つのデパートと長崎屋はいずれも撤退。映画館なども閉館し、食品スーパーのリオン・ドール神明通り店も閉店。人通りはすっかりまばらになった。コロナ禍でその傾向はさらに加速し、空きテナント、空きビルが目立つ。  そんな寂しい商店街の現状を象徴するように佇んでいるのが、神明通りの南側、中町フジグランドホテル駐車場に隣接する、通称「三好野ビル」だ。  鉄筋コンクリート・コンクリートブロック造、地下1階、地上7階建て。1962(昭和37)年に新築され、その名の通り「三好野」という人気飲食店が営業していた。同市内の経済人が当時を振り返る。  「本格的な洋食を提供するレストランで、和食・中華のフロアもあった。子どものころ、あの店で初めてビフテキやグラタンを食べたという人も多いのではないか。50代以上であればみんな知っている店だと思います。会津中央病院前にも店舗を出していました」  ただ、いまから20年ほど前に閉店し、一時的に中華料理店として復活したもののすぐに閉店。現在はビル全体が廃墟のようになっている。 壁には枯れたツタが絡まり、よく見ると至るところで壁が崩落。細かい亀裂も入っており、いつ倒壊してもおかしくない状態だ。市内の事情通によると、実際、中町フジグランドホテル駐車場に外壁の破片が落下したことがあり、「近くを通ると人や車に当たるかもしれない」と、同ホテルの負担で塀が設置された。外壁が崩れないようにネットでも覆われた。  ただその後も改善はされず、強化ガラスが窓枠から外れ、隣接する衣料品店の屋根に破片が突き刺さる事故も発生した。衣料品店の店主は次のように語る。  「朝、店に来たら床に雨水が溜まっていた。業者を呼んで雨漏りの原因を調べたら、隣のビルから落ちた大きなガラスの破片が原因だと分かったのです。もし歩行者に直撃していたら亡くなっていたと思います」  消防のはしご車が出動し、不安定な窓ガラスに外から板を張り付ける形で応急処置を施したが、近隣商店主の不安は募るばかりだ。  何より懸念されるのは、地震などが発生した際に倒壊するリスクだ。  県は耐震改修促進法に基づき、大地震発生時に避難路となる道路沿いの建築物が倒壊して避難を妨げることがないように、「避難路沿道建築物」に耐震診断を義務付けている。  会津若松市の場合、国道118号北柳原交差点(一箕町大字亀賀=国道49号と国道118号・国道121号が交わる交差点)から同国道門田町大字中野字屋敷地内(門田小学校、第五中学校周辺)までの区間が「大地震時に円滑な通行を確保すべき避難路」と定められている。すなわち神明通り沿いに立つ三好野ビルも「避難路沿道建築物」に当たる。  昨年3月31日付で県建築指導課が公表した診断結果によると、震度6強以上の大規模地震が発生した際の三好野ビルの安全性評価は、3段階で最低の「Ⅰ(倒壊・崩落の危険性が高い)」。耐震性能の低さにレッドカードが示されたわけ。  耐震性が低いビルを所有者はなぜ放置しているのか。不動産登記簿で権利関係を確認したところ、三好野ビルは概ね①相続した土地に建てた建物、②飲食店を始めた後に隣接する土地を買い足して増築した建物――の2つに分かれるようだ。  ①の所有者は、土地=レストランを運営していた㈲三好野の代表取締役・田中雄一郎氏、建物=雄一郎氏の母親・田中ヒデ子氏。  ②の所有者は、土地・建物とも㈲三好野。同社は1968(昭和43)年設立、資本金850万円。  ただ、雄一郎氏は十数年前に亡くなっており、登記簿に記されていた自宅住所を訪ねたがすでに取り壊されていた。雄一郎氏の弟で、同社取締役に就いていた田中充氏と連絡が取れたが、「会社はもう活動していない。親族は相続放棄し、私だけ名前が残っていた。ただ、私は会津中央病院前の店舗を任されていたので、神明通りのビルの事情はよく分からない」と話した。 会津若松市が特定空き家に指定 壁や窓ガラスの崩落、倒壊リスクがある三好野ビルの前を歩いて下校する小学生  ①の土地・建物には▽極度額900万円の根抵当権(根抵当権者第四銀行)、▽極度額2400万円の根抵当権(根抵当権者東邦銀行)、▽債権額670万円の抵当権(抵当権者住宅金融公庫)が設定されていた。  一方、②の土地・建物には▽債権額1000万円の抵当権(抵当権者田中充氏)が設定されていた。ただ、事情を知る経済人の中には「数年前の時点で抵当権・根抵当権は残っていなかったはず」と話す人もいるので、抹消登記を怠っていた可能性もある。  気になるのは、②の土地・建物が2006(平成18)年、2012(平成24)年、2017(平成29)年の3度にわたり会津若松市に差し押さえられていたこと。前出・田中充氏の話を踏まえると、固定資産税を滞納していたと思われるが、昨年5月には一斉に解除されていた。  市納税課に確認したところ、「個別の案件については答えられない」としながらも「差押が解除されるのは滞納された市税が納められたほか、『換価見込みなし(競売にかけても売れる見込みがない)』と判断されるケースもある」と話す。総合的に判断して、後者である可能性が高そうだ。  行政は三好野ビルをどうしていく考えなのか。県会津若松建設事務所の担当者は「耐震改修するにしても解体するにしてもかなりの金額がかかる。国などの補助制度を使うこともできるが、少なからず自己負担を求められる。そのため、市とともに関係者(おそらく田中充氏のこと)に会って、今後について話し合っている」という。  市の窓口である危機管理課にも確認したところ、こちらでは空き家問題という視点からも解決策を探っている様子。市議会昨年6月定例会では、大竹俊哉市議(4期)の一般質問に対し、猪俣建二副市長がこのように答弁していた。  《平成29年に空き家等対策の推進に関する特別措置法に基づく特定空き家等に指定し、所有者等に対し助言・指導等を行ってきたところであり、加えて神明通り商店街の方々と今後の対応を検討してきた経過にあります。当該ビルにつきましては、中心市街地の国道沿いにあり、周辺への影響も大きいことから、引き続き状態を注視しつつ、改修や解体に係る国等の制度の活用も含め、所有者等や神明通り商店街の方々、関係機関と連携を図りながら、早期の改善が図られるよう協議してまいります》  特定空き家とは▽倒壊の恐れがある、▽衛生上有害、▽著しく景観を損なう――といった要素がある空き家のこと。自治体は指定された空き家の所有者に対し「助言・指導」を行い、改善しなければ「勧告」、「命令」が行われる。「勧告」を受けると、翌年から固定資産税・都市計画税が軽減される特例措置がなくなってしまう。「命令」に応じなかった所有者には50万円以下の過料が科せられる。  それでも改善がみられない場合は行政代執行という形で、解体などの是正措置を行い、費用を所有者から徴収する。所有者が特定できない場合は自治体の負担で略式代執行が行われることになる。この場合、代執行の撤去費用の一部を国が補助する仕組みがある。  ただし、三好野ビルの解体費用は数千万円とみられ、市が一部負担するにも金額が大きい。耐震性でレッドカードが出ている三好野ビルに対し、行政が及び腰のように見えるのはこうした背景もあるのだろう。 コロナ禍で頓挫した活用計画 建物の中を覗いたら看板と車がそのまま置かれていた  「実はあの建物の活用をかなり具体的に検討していた」と明かすのは、神明通り商店街振興組合の堂平義忠理事長だ。  「5年前ごろ、『低額で譲ってもらえるなら振興組合の方で活用したい』と伝え、市役所の関係部署によるプロジェクトチームをつくってもらって本格的に調査したことがありました。経済産業省の補助金を使い、バックパッカー向けの宿泊施設をつくろうと考えていました。解体費用は当時9000万円。一方、改装にかかる総事業費は4億5000万円で、補助金を除く約2億円を振興組合で負担する計画でした」  だが、詳細を話し合っているうちにコロナ禍に入り、そのまま計画は頓挫。仮に再び経産省の補助事業に採択されても、崩落が進んでおり、建設費が高騰していることを踏まえると予算内に収まらない見込みのため、活用を断念したようだ。  同振興組合では三好野ビルについて、毎年市に早急な対応を求める意見書を提出しているが、市の反応は鈍いという。  「この間、まちづくりに関するさまざまな話し合いの場がありましたが、中心市街地活性の計画などに組み込んで解体を進めようという考えは、市にはないようです。事故が起きてからでは遅いと思うのですが……。個人的には、人通りが減ったとは言え中心市街地なので、解体・更地にして売りに出した方が喜ばれるのではないかと思います」(堂平氏)  ある経営者は「三好野ビルには放置しておくわけにはいかない〝もう一つのリスク〟がある」と話す。  「建てられた年代を考えると、内装にはアスベストが使われているはず。吸入すると肺がんを起こす可能性があるため、現在は製造が禁止されているが、仮に地震などで崩壊することがあればアスベストが周辺に飛散することになる。壁が崩落して穴が空いている場所もあるので、周囲に飛散しないか、業界関係者も心配している。市に早急な対応を訴えた人もいたが、取り合ってもらえなかったようです」  前出・堂平氏も「調査に入った際、『4階から上はアスベストが雨漏りで固まっている状態だった』と聞いた」と明かす。  市危機管理課の担当者に問い合わせたところ、三好野ビルの内部にアスベストが使われていることを認めたうえで、「アスベストは建物の内壁に使われており外に飛んで行くことはないので、そこに関しては心配していない」と話す。だが三好野ビル周辺は、地元買い物客はもちろん観光客、さらには登下校の児童・生徒も通行している。万が一のことを考え、せめてアスベストの実態調査と対策だけでも早急に着手すべきだ。  廃墟と言えば、本誌昨年11月号で会津若松市の温泉街に残る廃墟ホテルの問題を取り上げた。  運営会社の倒産・休業などで廃墟化する宿泊施設が温泉街に増えている。そうした宿泊施設は固定資産税が滞納されたのを受けて、ひとまず市が差し押さえるが、たとえ競売にかけても買い手がつかないことが予想されるため対応が後回しにされ、結局何年も放置される実態がある。  近隣の旅館経営者は「行政は『所有者がいるから手を出せない』などの理由で動きが鈍いですが、お金ならわれわれ民間が負担しても構わないので、もっと積極的に動いてほしい」と要望していた。  それに対し会津若松市観光課の担当者は「地元で解体費用を持つからすぐ解体しましょうと言われても、実際に解体を進めるとなれば、(市の負担で)清算人を立て、裁判所で手続きを進めなければならない。差し押さえたと言っても所有権が移ったわけではないので、簡単に進まないのが実際のところです」と対応の難しさについて話していた。  早急な対応を求める周辺と、慎重な対応に終始する市という構図は、三好野ビルも温泉街も同じと言えよう。言い換えれば会津若松市は「2つの廃墟問題」に振り回されていることになる。 市に求められる役割 室井照平市長  ㈲三好野の取締役を務めていた田中充氏は「私は75歳のいまも働きに出ているほどなので、解体費用を賄うお金なんてとてもない」と話す。  一方で次のようにも話した。  「あの場所を取得して、解体後に活用したいという方がいて、各所で相談していると聞いています。県や市の担当者の方には『私個人ではもうどうにもできないので、申し訳ないですが皆さんに対応をお任せしたい』と伝えてあります」  解体後の土地を活用したいと話すのが誰なのかは分からなかったが、解体費用まで負担して購入する人がいるのであれば朗報と言える。  1月1日に発生した能登半島地震で倒壊した石川県輪島市のビルも7階建てだった。三好野ビルが現状のまま放置されれば、同じようなことが起こる可能性もある。もっと言えば、市内には三好野ビル以外に大規模地震が発生した際の安全性評価が最低の「Ⅰ(倒壊・崩落の危険性が高い)」となった建物が7カ所もあった。市はアスベスト対策も含め、地元から不安の声が広がっていることを重く受け止め、この問題に本腰を入れて臨む必要があろう。  昨年の市長選前には室井照平市長も三好野ビルを視察に訪れ、前出・堂平理事長や周辺商店に対し現状を把握した旨を話したという。今こそ先頭に立って音頭を取るべきだ。

  • 「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組み【JAグループ福島】

     JAグループ福島が「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みを始めて、まもなく2年を迎える。  「園芸ギガ団地」構想は令和3(2021)年11月に開催した第41回JA福島大会において、取り組むことが決議されたもの。  本県は全国でもコメの生産ウエイトが高い県の一つ(令和3年農業産出額1913億円、うちコメ574億円=30%)だが、近年の生産過剰基調によりコメの販売価格は低下・不安定化している。  そうした中で農業者所得の増大を図るため、国産需要が見込まれる園芸品目へ生産をシフトする取り組みとして、秋田県の取り組みを参考に同構想を進めている。  県としても、園芸振興の取り組みを後押ししており、園芸産地の生産振興をさらに進めるため、「園芸生産拠点育成支援事業」を創設。手厚い補助(事業費の6割を補助=※1)を行うことで、園芸振興に取り組みやすい環境づくりを進めている。  また、独自の支援策を打ち出している市町村もあり、JA、行政など関係機関が一体となって園芸振興の取り組みを進めている。  県内では、現在、全5JA12地区で「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが進められている。品目は、きゅうり、ピーマン、アスパラガス、トマト、宿根かすみそうなどで、各JA管内の主要園芸品目を中心とした生産振興を行っている。  各JAの今年度の販売高をみると、JAふくしま未来の桃(73億円)、JA福島さくらのピーマン(約7・3億円)、JA会津よつばの南郷トマト(約12・3億円)、昭和かすみ草(約6・4億円)など、過去最高の販売高を計上している。  また、▽GI(地理的表示=※2)の取得(南郷トマト、阿久津曲がりねぎ、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草など)、▽記念日(ふくしま桃、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草、南郷トマト)の制定など、園芸振興の取り組みが県内各地で加速化している。  「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが、福島県の園芸振興の起爆剤となり、農業者の所得増大へとつながっていくことに期待したい。 ※1 事業要件に合致するもの ※2 GI:Geographical Indication(地理的表示)。その地域ならではの自然や歴史の中で育まれてきた品質や社会的評価などの特性を有する農林水産物・食品を国が登録し、その名称を知的財産として保護しているもの。令和5(2023)年7月20日現在、全国で132産品が登録されており、福島県では6産品が登録されている。 昭和かすみ草の生産ハウス団地

  • 反対一色の【松川浦自然公園】湿地埋め立て

    反対一色の【松川浦自然公園】湿地埋め立て

     相馬市尾浜の市営松川浦環境公園に隣接する私有地の湿地で、埋め立て工事が計画されている。地元住民や環境団体、相馬双葉漁協は「生活環境が悪化する」、「自然環境が損なわれる」などの理由で反対している。事業者側の担当者を直撃すると、反対意見に対する〝本音〟をぶちまけた。 〝騒いでいるのは一部〟とうそぶく事業者  松川浦は太平洋から隔てられた県内唯一の「潟湖」。震災・原発事故後、ノリ・アサリの養殖は自粛を余儀なくされたが、現在は復活。2020年には浜の駅松川浦がオープンし、同市の観光拠点となっている。一帯は県立自然公園に指定され、多様な自然環境が維持されている。  埋め立て工事が計画されているのは、そんな松川浦県立自然公園内の北西部に当たる同市札ノ沢の私有地。大森山、市松川浦環境公園(旧衛生センター跡地)に隣接する約2㌶の湿地で、松川浦とは堤防で隔てられているが、水門でつながっている。  もともと同湿地を所有していたのは、東京都在住の野崎節子氏(故人)で、〝野崎湿地〟と呼ばれている。かつては絶滅危惧Ⅰ類のヒヌマイトトンボの生息地として知られていたが、津波でヨシ群落が壊滅して以来、確認できなくなった。  「ただ、2022年に県が実施した動植物調査結果によると、レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)に登録されている植物・昆虫・底生生物が10種以上確認されています。同公園の中でも重要な希少種の生息域です」(かつて野崎氏から同湿地の管理を任されていた環境保護団体「はぜっ子倶楽部」の新妻香織代表)  そうした中で昨年9月、所有者である野崎氏の親族から同湿地を取得したのが、同月に設立されたばかりの合同会社ケーエム(宮城県気仙沼市、三浦公男代表社員)だ。資本金100万円。事業目的は不動産賃貸・売買・仲介・管理、鉱物・砂利・砂・土石、各種建材の販売など。  三浦氏は64歳で、北部生コンクリート(宮城県気仙沼市)の社長でもある。1983年設立。資本金4000万円。民間信用調査機関によると2022年9月期売上高5億8000万円、当期純利益9000万円。  県立自然公園では自然環境に影響を及ぼす恐れのある行為が規制される。ただ、同湿地は県への届け出で土地開発が可能となる「普通地域」で、埋め立ては禁止されていない。ケーエムは11月8日、県に届け出を提出。市には工事の進入路などに市有地を使う許可申請をした。  同17日には、市松川浦環境公園の管理業務を受託するNPO法人松川浦ふれあいサポート(菊地三起郎理事長)の役員を対象とした説明会が開かれた。説明会を担当したのは北部生コンクリートの子会社で、運搬事業を担うアクトアライズ(宮城県仙台市宮城野区、三浦公男社長)。説明会は同法人関係者以外の人にも開放され、県議や市議、住民、漁業関係者、環境団体関係者など約30人が出席した。  説明会の参加者によると、同湿地取得の目的はケーエムの事務所用地の確保。横浜湘南道路(首都圏中央連絡自動車道=圏央道の一部)の建設工事で出た残土など約7万立方㍍で湿地を埋め立てる。土は汚染物質を検査した後、船で相馬港まで運び、車両で現地に運び込む計画だ。  当日出た意見は「汚染されていないか不安になる」、「ノリやアサリは原発事故後、苦難の中で復活した。新たな風評被害が生まれると困る」、「絶滅危惧種が多く生息している場所を埋め立てないでほしい」、「松川浦環境公園は環境省のみちのく潮風トレイルの始発点(終着点)でもある場所。ここの景観を壊すことは大変な損失になる」など。慎重な対応を求める意見が大半だったという。  12月10日には地元住民を対象とした説明会が開かれたが、この前後に新聞報道が出たこともあり、反対意見が続出したようだ。  さらに同12日には地元の細田地区会が工事への反対を決議し、立谷秀清市長に要望書を提出。同日、松川浦周辺の宿泊施設でつくる市松川浦観光旅館組合も、立谷市長に反対の申し入れを行った。同19日には相馬市の相馬双葉漁協が「埋め立てにより周辺の漁場が将来にわたり影響を受ける」として、市に埋め立て反対を申し入れた。  一方、12月4日には、前述した工事の進入路などに市有地を使う許可申請について、NPO法人松川浦ふれあいサポートが「住民への説明が不十分で、地域として不安と不信があることから、市の行政財産使用許可を控えるべき」とする意見書を立谷市長に提出した。  埋め立て計画に対し反対一色となっており、こうした反応を受けて県や市も慎重な姿勢を見せている。  県(知事)は県立自然公園内の「普通地域」の土地開発届け出があった際、風景を保護するために必要があると認められる場合、30日以内に土地開発の禁止・制限、期間延長などの措置を命じることができる。  県自然保護課の担当者は「特に法令違反などはなかったので、措置を命じることはありませんでした」としながらも、「地元住民の理解促進に努め、自然環境への影響を考慮するよう要請しました」と話す。 市長は反対意見尊重 野崎湿地  相馬市の立谷市長は前述した私有地の使用許可をめぐり、NPO法人松川浦ふれあいサポートの意見書を受け取った際、「地域にとって重要な土地に関して、住民の理解が得られない以上、市として行政財産使用を許可できない」と述べた。  12月7日に開かれた相馬市議会12月定例会の一般質問でも、中島孝市議(1期)の質問に答える形で「現時点で公共の利益または公益性が認められないことに加え、地域住民の理解を得られておらず、意見書が寄せられていることを踏まえると、市は使用許可については不適切と考えています」と答弁した。  市執行部は「説明会で多数の住民から不安の声が寄せられたことを踏まえ、事業者に対し、埋め立てようとしている土地に不適切なものが混入していないか、そのことによって長年にわたり弊害が起きないか、丁寧な説明を求めてきた。また、県から意見書を求められたので、①周辺環境の保全に十分配慮すること、②長期的な環境への影響が発生した際の責任や対応態勢を明確にすること、③住民の理解を得ないまま工事に着手しないこと――などの意見を表明した。以前、相馬中核工業団地東地区に不適切な残土が運搬された苦い経験(汚染物質を含む残土が運搬された。〝川崎残土問題〟と呼ばれている)もあることから意見書を提出した」と説明した。  中島市議が「市は環境基本条例を制定している。環境面への影響を考えて、市が先頭に立って反対すべきではないか」と質したのに対し、立谷市長は「許認可権は県が持っている。反対運動を演出(主導)するようなことは慎みたいが、反対の声が多ければ十分尊重する」と話した。  こうした中で、それでも事業者は埋め立て計画を強行するのか。12月11日、土地を所有するケーエムに代わって〝窓口役〟を務める前出・アクトアライズの福島営業所(浪江町)を訪ねたところ、伊藤裕規環境事業部長が取材に応じた。 アクトアライズ福島営業所  ――野崎湿地を取得したケーエムとはどんな会社か。  「北部生コンの三浦公男社長の個人会社。当初、湿地は個人で取得するつもりだったが、経費を精算するために会社を立ち上げた。この事務所自体は10年ぐらい前に設置しました(アクトアライズは2022年設立なので、関連会社の事務所という意味だと思われる)」  ――埋め立て計画について住民から反対の声が上がっている。  「一部の人が騒いでいるだけ。環境団体や共産党の関係者がわーっと来て質問しているだけで、多くの地元の人は辟易している。NPO法人松川浦ふれあいサポートや相馬双葉漁協などの〝まともな人〟は『特に反対意見はないが、埋め立てた後にどう利用されるのか気になる』とのことだったので、必要なエリア以外は相馬市に寄贈することも含めて検討しています」  ――「一部の人が騒いでいる」というがどんなことを言っているのか。  「弊社のダンプが狭い道を猛スピードで走行していて、運転手に注意したら逆に暴言を吐かれた――とか。各車両にGPSが付いているので、具体的にどこであったことなのか教えてほしいと言ってもあやふやな答えしか返ってこない。運転手一人ひとりに確認したが、注意されたという人は一人もいなかった。埋め立て計画を止めるための完全な言いがかりでしょう。地元で活動する環境団体関係者から『(約2万平方㍍の湿地と)私が所有する100坪(331平方㍍)の田んぼと交換しましょう』と意味不明な提案をされ(※)市議らから『市長に金を渡して埋め立てを決めたというウワサも出ている』などめちゃくちゃなことも言われた。名誉棄損、威力業務妨害に当たる行為もあったので、今後の対応について弁護士と相談しています」 ※環境団体関係者は「野崎湿地だけは避けてほしい。どうしても事務所建設用地が必要ならば100坪の土地を提供してもいい」と提案したとのこと。  ――野崎湿地は希少生物がいるので自然環境保護の観点から埋め立ては控えるべきとの意見がある。  「現場に行ったら自転車や冷蔵庫が捨ててあり、引っ張り上げた。環境が大事というのならまずごみ拾いからやるべきではないか。希少なトンボが生息しているというが、調査の結果、いまはいなくなったとも聞いている。自然環境保護といっても完全に主観の話になっている」  「裁判も辞さない」  ――そもそもどういう経緯で湿地を取得したのか。  「(北部生コンクリート本社がある)宮城県と(アクトアライズ福島営業所がある)浪江町をつなぐ中継地点かつ物流拠点である相馬港周辺の土地を探す中で、不動産業者からあの場所(野崎湿地)を紹介された。僕らは車を止める場所として300坪だけ購入するつもりだった。ただ、前の所有者(野崎氏の親族)に『一括して購入してほしい』、『子どもが落ちたら危ないので埋め立ててほしい』と依頼され、2㌶分を購入して埋め立てることにした。地元の学校関係者にも『埋め立ててもらった方がいい』と言われ、行政区長からも了解を得たので計画したまでです」  ――運び込まれる土に対する不安は大きいようだ。  「まるで汚染土でも運び込むように言われているが、神奈川県横浜市の道路工事現場で、NEXCOがシールドマシンを使ってトンネルを掘り出した際に出てきた普通の土ですよ。仮にその辺の山から土を持ってきても重金属など有害物質が入っている可能性がある。うちは公共工事の土しか扱っていないので、もし汚染物質が混入していたら、排出者である自治体やNEXCOに責任を取ってもらうだけです」  ――今後の見通しは。  「年が明けたらNPO法人松川浦ふれあいサポートに跡地利用のビジョンを示し、そのうえで市に再度市有地を使う許可申請を行う。それでも市が同意できないというなら裁判も辞さない考えです」  取材時点では「(反対しているといっても)一部住民が騒いでいるだけ」とかなり強気の姿勢を見せていた伊藤氏だが、前述の通りその後、細田地区会、市松川浦観光旅館組合、相馬双葉漁協、NPO法人松川浦ふれあいサポートなどが反対意見を表明している。  学校関係者は埋め立てに賛意を示したとのことだが、あらためて市教委に確認したところ、「中村二小、中村二中とも説明を受けただけと聞いている。事実と異なる」という(後日、アクトアライズの営業課長に電話取材したところ、「教頭と面会したのは私だ。間違いなく『埋め立ててもらった方がいい』と言っていた」と主張していた)。  細田地区会にも確認したが、津野信会長が「反対決議は班長など30人ほどが集まって決めた。一部の人の声だけで決めたわけではない。実際にダンプのドライバーに注意して暴言を吐かれた人もいる」と反論した。  〝まともな人〟と評価されていたNPO法人松川浦ふれあいサポートの菊地理事長は「特定の政党や特定の団体と意見を共にする考えはない」と強調しつつも「現在の環境のまま残してほしいというのがわれわれの思いだ」と話した。  双方の主張がすれ違っており、どちらが正しいか判然としないが、いずれにしても「一部の人が騒いでいるだけ」とは言い難い状況と言えよう。一方で、「自然環境保護をうたうわりに、粗大ごみが放置されていた」という指摘は、事実であれば地元住民や環境団体にとって耳が痛い指摘ではないか。 世界・国の流れと逆行  福島大学共生システム理工学類の黒沢高秀教授(植物分類学、生態学)は「ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せること)を推進する世界・国の流れと逆行した動きであることを残念に思います」と述べる。  「2022年、生物多様性条約第15回締約国会議で世界目標『昆明・モントリオール生物多様性枠組』が採択され、昨年3月には『生物多様性国家戦略2023―2030』が閣議決定されました。同月、県が同戦略を反映した『第3次ふくしま生物多様性推進計画』を策定しています。にもかかわらず、県は従来と変わらないスタンスで県立自然公園内の埋め立てを容認し、相馬市も地元自治体として意見を言う機会があったのに動かなかったことになります」  黒沢教授によると、松川浦県立自然公園はもともと全国的に著名な景勝地で、1927(昭和2)年には東京日日新聞・大阪毎日新聞の企画で日本百景にも選ばれたという。だがその後、埋め立て・護岸工事が進む中で岸辺の風景が消失していき、戦後は景勝地選定から外れた。  「風景を大切にしないことが観光客・経済的価値の減少、生態系サービスの享受の低下につながり、そのことでさらに風景を大切にしない傾向が強まる〝負のスパイラル〟に陥っているようにも見える。今回の問題をきっかけに、松川浦の風景の重要性があらためて認識され、風景保全や再生が進み、全国的な景勝地としてのステータスを取り戻す方向に進むことを望みます」(同)  12月20日、相馬市議会12月定例会最終日には、同市議会に寄せられた野崎湿地の埋め立て中止を求める陳情が請願として採択され、市議会として埋め立てに反対する決議が議決された。  アクトアライズは報道に対し、「地域住民の理解を得て進めていきたい」と取り繕ったコメントをしているが、前述の対応を聞く限り本音は違うのだろう。ちなみに、住民説明会参加者から「しっかりしていて信頼できる人」と評されていた同社の営業課長にも電話取材したが、やはり「反対しているのは一部の人」という認識を示した。  同湿地埋め立て計画に対し、県と相馬市はどう対応していくのか。地元住民や各団体は自然保護のためにどうアクションするのか。今後の動きで生物多様性に対するスタンスが自ずと見えてきそうだ。 ※はぜっ子倶楽部の新妻代表は「メンバーで協力してお金を出し合い土地を買い取り、県に管理してもらう考えだ」と明かした。

  • 呼んでも来ないタクシー・運転代行

     新型コロナウイルスが徐々に収束する中、夜の街は少しずつ賑わいを取り戻しているが、それと共に目立ってきたのがタクシー・運転代行の少なさだ。週末夜のタクシー乗り場にはちょっとした行列ができ、代行は1時間以上待たされる……読者の中にも最近の飲み会でそんな経験をした人がいるのではないだろうか。昨年10月には県警が、飲酒運転事故が前年比で増え、同死者数は全国ワースト2位という残念なデータを発表した。忘新年会シーズンを駆け回るタクシー・代行を追った。 ドライバー不足が社会に及ぼす痛手  12月の週末夜、友人との忘年会を終えた筆者はJR郡山駅西口のタクシー乗り場に向かった。タクシープールに車両はない。寒さの中、3、4人が列をつくりタクシーが来るのを待っている。  かつては飲食店を出て大通りに行けばすぐにタクシーが捕まったが、コロナ後は通りにタクシーが並んでいることは少ない。  しばらくすると、自分の番がやって来た。目の前に滑り込んできたタクシーに乗車し、帰路につく。  高齢のドライバーに話しかけると気さくに応じてくれた。  「おかげ様で忘年会シーズンということもあり忙しい。お客さんを降ろすと、すぐに次のお客さんが乗ってくる状態。いつもこれくらいだとありがたいんですけどね」  いつもこれくらいだと――要するに、普段はこんなに忙しくないということだ。  ならば、平日の日中はどんな様子なのか。JR福島駅のタクシープールに行き、待機する車両を直撃してみると  「オレは年なので夜の営業はやってない。売り上げはコロナ前の7割くらいまで戻ったかな。テレワークが増えて出張が減ったせいでビジネスマンの利用がガクンと落ちた。福島じゃ観光の利用もないし、あとは年寄りが通院で乗るくらいだ」(個人タクシーのドライバー)  「週末夜は忙しいですよ。深夜3時くらいまでお客さんが絶えない。でも平日はヒマ。コロナで夜の街を出歩く人が減った。朝、出勤時にアルコールチェックをする会社が増えたことも一因だと思います」(50代のドライバー)  タクシーは新型コロナの影響で車両、ドライバーとも数が減ったと言われているが、実際はどうなのか。  一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会によると、車両(法人タクシーのみ)はピークの2007年度は22万2500台だったが、20年度は17万7300台と4万5200台減った(20%減)。ドライバーもピークの05年は38万1900人いたが、20年は24万0500人と14万1400人減った(37%減)。  新型コロナが国内で初めて確認されたのは2020年なので、このデータからはコロナの影響がどれくらい及んだのかは分からない。ただ、年々減る中で落ち込みに拍車がかかったのは間違いないだろう。前出・50代ドライバーも自社の現状をこのように語っている。  「定年退職したあと、新しいドライバーが全然入ってこない。慢性的な人手不足。おかげで車両も余っているよ」  状況は福島県内も同じで、一般社団法人県タクシー協会によると、車両は2016年3月末2547台から23年3月末2232台で315台減った(12%減)。ドライバーも同3711人から同3032人で679人減った(18%減)。  売り上げはどうか。別図は全国ハイヤー・タクシー連合会が県内の7社を抽出し、コロナ禍(2020、21、22年と23年10月まで)の営業収入を対19年比で示したものだ。それを見ると、政府が外出制限・営業自粛を呼びかけた20年3月から大きく落ち込み、徐々に回復していることが分かる。22年4月のように大きく回復している月があるのは、抽出した会社のある地域でイベント等があり、タクシー利用が増えたためとみられる。  データからは車両、ドライバーとも減り、売り上げもコロナ前に戻っていない実態が浮かび上がる。しかし「それだけでは推し量れない面がある」と県タクシー協会の菊田善昭専務理事は言う。  「車両もドライバーも不足しているのは事実だが、恒常的に足りないわけではない。確かに、週末夜の飲み会が終わる時間帯は利用が集中するので足りなくなるが、それ以外はタクシーが捕まらなくて不便という話は聞いたことがありません」  菊田専務によると、むしろ車両が減っている中では1台の稼働率が上がり、稼ぎが増えているドライバーもいるのではないかという。  県中地区のタクシー会社役員もこのように話している。  「日中と夜で電話による配車予約の目標値を定めているが、ここ数カ月はクリアしている。コロナ前より車両とドライバーは減ったが、その分、効率は良くなっている」  タクシーは歩合制なので、努力次第で収入を得られる環境にあるのかもしれない。  「経済が回復した中で車両もドライバーも足りないというなら話は分かる。しかし、県内経済は落ち込んだままで、会社によっては維持費が負担になるから車両を減らしたところもある。経済が回復しないのに台数を元に戻そうとはならない」(菊田専務) 要するに白タク行為  そうした状況下で今、政府が進めているのがライドシェアの導入だ。国内で客を有料で運ぶには二種免許が必要で、運行するのはタクシー、管理するのはタクシー会社となっているが、ライドシェアは一般ドライバーが普通免許で自家用車を使い、有料で客を運ぶ。インバウンドで観光が回復する中、首都圏ではドライバー不足により移動に不便を来している外国人旅行者が増えている。そこで政府は、ライドシェアで世界最大手のウーバーなどを念頭に、導入の動きを加速。地域を限定し、タクシー会社が運行を管理するなどの条件付きで今春にもスタートさせる方向で調整している。  「インバウンドの恩恵を受けているのは首都圏や有名観光地だけ。経済が回復していない地方でライドシェアが始まったら、タクシー会社は大打撃です」(同)  前出・タクシー会社役員もライドシェアには大反対だ。  「要するに白タク行為を合法的にやるってことでしょ」  タクシードライバーはタクシー業務適正化特別措置法に基づき、必要な講習を受講・修了し、地域によっては試験に合格して国交相が指定する登録実施機関に登録している。二種免許を取るのも簡単ではない。  「そうやって業界を締め付けておいて、一方ではインバウンドで賑わう地域があるからと『ドライバー不足にはライドシェアが最適』というのはあまりに短絡的。挙げ句、面倒な運行管理はタクシー会社に押し付けるなんて冗談じゃない」(同)  一口に人手不足と言っても、首都圏と地方では事情が異なることが分かる。経済が戻らない地方では、今の車両、ドライバーの数が適正に近いのかもしれない。  低賃金と労働時間の長さ(厚生労働省の賃金構造基本統計調査)から就職先として敬遠されがちで、他の業界より高齢化率も高いタクシー業界だが(ドライバーの平均年齢は59歳で65歳以上が27%。2015年時点)、同連合会や同協会ではかつてより働き易くなっている環境をアピールしながら、ドライバー不足の解消に努めている。 代行のピークは21時  筆者が参加した別の忘年会での出来事である。  参加者のうち筆者を含む3人が車で来ていた。代行が捕まりにくいことは知っていたので、3人とも飲んでいる途中に「23時に来てほしい」と馴染みの代行業者に連絡した。  しかし、筆者は「0時になる」、一人は「1時過ぎ」と言われた。あとの一人は時間通りに来てくれるというので、その代行にもう2台追加できないか頼むと「それは無理なのでピストン輸送で対応します」。自宅から近場での忘年会だったので遅い帰宅にはならなかったが、あらためて代行の混雑ぶりを思い知らされた。  その代行のドライバーからはこのように言われた。  「20時とか早い時間ならすぐに駆け付けられるが、一次会が終わる21時とか二次会が終わる23時前後は申し訳ないが待っていただくことになりますね」  特にコロナ後は一次会で帰る人が増え、21時以降に代行の利用が集中するという。  「今、代行の一番忙しい時間帯は21~22時です。みんな一次会で帰るから、その時間に『迎えに来て』と連絡が入る。コロナ前は深夜1時ごろがピークだった」(ある店主)  コロナを経て、外での飲み方が様変わりしたことがうかがえる。  筆者の馴染みの代行は、JR郡山駅前の有料駐車場の一角にプレハブ小屋を建て、車とキーを預かり、指定の時間に店まで客を迎えに行く営業スタイルだった。しかし、コロナで行動制限がかかるとプレハブ小屋を撤去し、市外の営業所も閉鎖。ドライバーは辞めていき、動いていない車両が増えた。コロナが徐々に収束すると客も戻ってきたが、だからと言って辞めたドライバーは復職しないし、車両の数も元通りにはなっていないという。  「経済が戻っていないのに、人員も車両も元通りというわけにはいかない。何割か少ない状態で回し、営業終了時間もコロナ前より早めている」(馴染みのドライバー)  公益社団法人全国運転代行協会福島県支部によると、過去10年の県内の業者数は2014年が305社、17年がピークの326社、21年に初めて300を下回り(290社)、23年10月には270社まで減った。総台数は23年10月現在565台。  一方、ドライバーの数は顧客車を運転する人は二種免許、随伴車を運転する人は普通免許と分かれていたり、正社員、パート、アルバイトが入り組んでいる事情もあり、正確には分からないという。  同協会県支部の渡邉健支部長はこう話す。  「この時期は忘新年会で書き入れ時なんですが、人手、車両とも足りなくてお客さんの依頼を断らざるを得ない。せっかく楽しく飲んでいるのに〝代行難民〟を増やすことになってしまい、申し訳なく思っています」  とはいえ、代行が忙しいのは年明けの成人式辺りまでで、その後は歓送迎会や花見がある3、4月までヒマな時期が続くという。  「代行の7、8割は2、3台の車両で営業している小規模事業者なので、身の丈に合った経営で厳しい状況を乗り越えてほしい」(同)  代行はタクシーと違い歩合制ではなく、時給に残業手当をプラスして給料を支給しているところが多いようだ。時給は正社員、アルバイト、パートで差がつけられ、二種免許を持ち顧客車を運転できる、普通免許しか持っていないので随伴車しか運転できない、というスキル差も給料に反映されるという。  代行業界が今注力しているのは最低利用料金の設定だ。タクシー料金は道路運送法により、国土交通大臣の認可を受けて初乗運賃や加算運賃が決まるが、代行料金は自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律や料金制度に関するガイドラインはあるものの、タクシーのように明確に決まっていない。結果、ダンピングする業者が現れ、業界の健全化が進まないという。  「2022年9月には内堀雅雄知事宛てに最低利用料金に関する条例制定の要望書を提出した。全国の各支部でも同様の行動を起こし、料金の適正化と業界の健全化を目指しているところです」(同)  そうすることで従業員が安心して働ける環境づくりに努めている。渡邉支部長は「本業(渡辺代行)も大変だが、業界を良い方向に持っていかないと人手不足は解消されない」と支部長としての役割を果たそうとしている。  そんな渡邉支部長が同協会の最大の使命に挙げるのが「飲酒運転の根絶」だが、昨年10月に判明したデータは福島県にとって芳しいものではなかった。県警が発表した、同9月末までの県内の飲酒運転事故・死者数である。  発表によると、飲酒運転事故は47件で前年同期比18件増、それによる死者は5人で全国ワースト2位だった。前年同期は0人なので、その多さが際立つ。その後、新たに判明した同11月末までの飲酒運転事故は54件で前年同期比14件増、死者は5人で変わっていない。 被検挙者の呆れた言い訳  県内でここまで件数が増えている原因を県警に尋ねると、交通企画課の担当者はこのように答えた。  「いろいろな要素はあるが、これが原因と言い切れるものはない」  担当者によると、福島県は信号のない横断歩道での停車率やシートベルトの着用率などが高く「交通ルールを守る県民」と認識されているという。にもかかわらず、飲酒運転事故・死者数が多いのはなぜか。  「例えば、福島は酒どころだからという見方がある。しかし、同じ酒どころの山形で飲酒運転事故・死者数が増えているかというとそうではありません」(同)  もしかして、代行の数が減ったことが原因?  「被検挙者の中に『代行が減ったから』と証言する人はいます。しかし、代行が減っているのは福島だけではなく他県も同じ。それが原因ということになれば、繁華街の多い県の方が飲酒運転事故・死者数は増えるだろうし、青森や秋田など福島より公共交通が整っていない県の方が悪化してもいいはず。代行が減ったというのは言い訳に過ぎません」  あえなく推測は外れたが、飲酒運転が増加する背景には、代行を頼んでも捕まらず「1時間も待つのはめんどくさい」とハンドルを握る不届き物の存在もあるだろう。普通の状態なら絶対にそんなことはしないはずだが、酔っているから理性をなくす。そういう人は酒を飲むべきではない。あらためて「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」を強く意識することを呼びかけたい。  県警では飲酒運転事故・死者数を少しでも減らせるよう、前記のようなデータを県民に知らせ周知を図ると共に、取り締まりの強化に努めていくとしている。  地方のタクシー・代行が人手不足なのは確かだが、同時にパイ(乗る人、飲み歩く人)も縮小しているので、今後、淘汰が進みながら適正な業者数に落ち着いていくのかもしれない。一方、同じ人手不足でもインバウンド需要や経済の回復が進む首都圏・有名観光地では、ライドシェアの導入等でこちらも業者数に影響が及びそうだ。  とはいえ、減るパイの中身を見ると、その多くは高齢者だ。電車やバスの本数が少ない地方では、タクシーまで減ってしまうと移動手段がさらに狭まる。夜の利用を思い浮かべる代行も、前出・渡邉支部長によると「高齢の夫婦が車で病院に行ったら夫が入院することになり、妻は免許を返納していたので、代行を頼まれることがたまにある」という。  まさに電車やバスを補完する立場にあるタクシー・代行の減少を見過ごせば、高齢化が進む世の中に不便さとなって跳ね返ってくることも覚えておく必要がある。

  • 【北塩原村】ラビスパ裏磐梯廃止の裏事情

    【北塩原村】ラビスパ裏磐梯廃止の裏事情

     北塩原村のラビスパ裏磐梯が今年1月末で事業停止、3月末で廃止になる。同村昨年12月議会初日(昨年12月8日)の本会議終了後に開かれた全員協議会で、遠藤和夫村長が明かした。一方で、正式な廃止には関連条例を廃止する必要があり、ある村民は「今後の村の対応次第では、その過程で、一波乱あるかもしれない」との見解を示す。(末永) 不採算施設を切り捨て「村の駅」を整備!?  ラビスパ裏磐梯は、ウオータースライダーを備えたプール、天然温泉、食事・休憩スペース、フィットネスジム、山塩などの同村の名産品を扱うショップがある健康増進複合施設で、1996年にオープンした。それから27年ほどが経ち、建物や内部設備の老朽化が課題となっていた。 顕著なのは、プールゾーンが2022年7月中旬から営業休止していること。同施設HPには以下のお知らせ(2022年7月14日付)が掲載されている。    ×  ×  ×  ×  現在当館では老朽化に伴う設備修繕の必要から、プールゾーンの営業を休止しています。それに伴いウォータースライダーも運休とさせていただいております。つきましては今期のプール営業は行っておりません。また、再開時期も未定です。  現在は日帰り温泉とお食事コーナーのみの営業を行っております。なお、プールゾーン再開の見通しがつきましたらこちらでご案内させていただきます。    ×  ×  ×  ×  2022年の夏休み期間直前から、プールゾーンが使えず、再開のメドが立っていなかったのだ。  当時、ある関係者は次のように話していた。  「ラビスパ裏磐梯のプールが休止している原因は、ボイラーが故障していることに加え、天井部分が劣化によって落下の危険があるためです。もっとも、そうした兆候は以前からありましたが、何ら対策を講じてこなかった。その結果、一番客入りが見込める夏休み期間にプールが営業できなくなったのです」  この関係者によると、2011年の東日本大震災とその1カ月後に起きた大地震により、いわき市のスパリゾート・ハワイアンズが営業を休止したほか、東電福島第一原発事故の影響で海水浴ができなくなったことなどから、夏休みの子ども会のイベントなどで、ラビスパ裏磐梯を利用するケースが増えたという。奇しくも、震災・原発事故によって認知度を高めた格好だ。  「そういった流れから、夏休みの子ども会のイベントなどで、その後(スパリゾート・ハワイアンズ営業再開後や海水浴ができるようになってから)も、ラビスパ裏磐梯を継続して使ってくれているところもあるが、夏休みにプール営業ができなくなった。かつて、ほかのところからラビスパ裏磐梯に切り替わったように、一度行き先が変わると、翌年にまた元のところに戻すのは簡単ではない。そういう意味でも大きな損失です」(前出の関係者)  ラビスパ裏磐梯は村の施設で、運営会社は第三セクターの㈱ラビスパ。同社は村が1億3000万円、村商工会が100万円を出資しており、村の出資比率は99%超。社長には遠藤和夫村長が就いているほか、議会からも役員(取締役、監査役)が出ている。ラビスパ裏磐梯のほか、道の駅裏磐梯、裏磐梯物産館の指定管理を委託されている。  同社が運営する3施設の修繕費等は村の予算から支出されており、村としてどうするか、という問題だったのである。  実際、議会では以前から「今後、ラビスパ裏磐梯を改修すべきかどうか」ということが議論されてきた。前出・関係者の証言にあったように、同施設ではボイラーの故障と、天井部分に落下の危険性があることが問題となっていたが、その後、ボイラーは修理済み。一方で、落下の危険性があるプールゾーンの天井部分を含め、老朽化した施設の改修費用には10億円ほどかかる見込みで、なかなか結論が出せず、昨年9月に行われた全員協議会では「保留」とされていた。 議会での遠藤村長の説明  ところが、昨年12月議会初日(昨年12月8日)の本会議終了後に行われた全員協議会では「廃止」の意向が伝えられた。以下は、全協での遠藤村長の説明の要約。  「ラビスパ裏磐梯については、9月29日の議会全員協議会で、人口減少対策、子育て対策充実、住環境向上、福祉充実、観光人口拡大を優先して実行するため、大規模改修は保留ということを、議員の皆様に説明させていただきました。ただ、ラビスパ裏磐梯の当期間の経費増、営業収支のマイナス拡大から、判断を先延ばしにすることはできないと考え、12月6日、㈱ラビスパ取締役会での協議を踏まえ、ラビスパ裏磐梯の今後のあり方について総合的に検討した結果、来年(2024年)1月末日に営業を停止し、3月末日をもって廃止をするとの判断に至りました」  「廃止の理由は、①人口減少対策として、子育て対策、住環境向上、福祉の充実、観光人口拡大を最優先して実施するため、②老朽化した建物設備の修繕に多額の費用を要するため、③将来を見据えたとき、営業収支を維持するのが難しいため、というものです。今後の進め方は、㈱ラビスパ臨時株主総会を開催し、営業停止に向けた準備を12月から1月までしていきたい。(2024年)1月には㈱ラビスパの通常株主総会を開催し、1月31日をもってラビスパ裏磐梯の営業を停止します。3月には関係条例改正ということで、温泉健康増進施設条例の廃止や、温泉健康増進施設指定管理者の指定変更などを行います」  前回の「保留」から、突如「廃止」の方針が示されたことに、議員からは「ラビスパ裏磐梯の廃止を㈱ラビスパの取締役会で決めていいのか」、「議会軽視ではないか」といった指摘があった。この点については何度か問答があった後、最終的に遠藤村長から順序が逆だったことに対する謝罪があり、それで収まった。  このほか、議員からは「この2年間で、ボイラー修理や、改修に向けた調査費、設計費などで約1億円を支出している。廃止するのなら、その前に決断すべきだったのではないか。無駄な経費をかけたうえでの決断は背任行為に当たる」との指摘もあった。さらに、現在進行形で設計委託を行っており、その結果はまだ出ていない。3月までにはそれが示される予定で、「それを待ってからでも良かったのではないか」との意見も出た。  ただ、遠藤村長は「この間の経費増で先延ばしにできない」として、このタイミングで決断したことを明かし、理解を求めた。 村内ではラビスパ裏磐梯不要論も ラビスパ裏磐梯  一方で、村内では以前から「ラビスパ裏磐梯不要論」があった。例えば、2022年6月議会の一般質問では、伊藤英敏議員が「(ラビスパ裏磐梯の建設費を含めて)40億円が使われている。村の年間予算約30億円をはるかに超える金額だ。このまま継続して営業するのか。金額に見合った効果(村民の健康増進)があったのか」、「すでに40億円が使われ、今後さらに(修繕費等で)十数億円をつぎ込み、施設を継続させることが、本当に村のため、村民のためになるのか」といった質問を行った。  このほか、小椋元議員(当時)は修繕計画について質した後、「ラビスパ裏磐梯はどれだけやっても黒字にはならないのだから、再建計画はやめて、時間はかかるかもしれないが、取り壊した方がいい。村長の考えを問う」と村長の見解を求めた。  こうした質問に、遠藤村長、村当局は「(村民の健康増進等の)効果はあったと思っている」、「ラビスパ裏磐梯をよみがえらせ、多くの人に利用してもらえるよう構想を作り上げていく」、「村内にはスポーツ施設が整いつつあり、そこに温水プールの施設があってこそ、さらに人を呼び込むことが可能と考え、新たな構想を計画して、早い段階で示したい」などと答弁していた。  その後も、小椋元議員は、昨年4月に任期満了で引退するまで、議会のたびに「ラビスパは廃止すべきでは」と訴え続けた。  直近では、改選後の昨年9月議会で、遠藤春雄議員が「村の財政状況や近隣市町村との競合から見ても、工事は再度検討し、教育や子育て政策に力を入れるべきではないか」と質問した。  これに対し、遠藤村長は「ラビスパ裏磐梯の大規模改修は、目まぐるしく変化する環境下ですから、皆様と協議する場も考えながら進めていきたいと思っています」と答弁していた。  この間の遠藤村長、村当局の答弁を見ると、改修費用が10億円規模になるだけに、慎重に進める必要はあるものの、少なくとも廃止は考えていない、といった感じだった。ただ、今回、遠藤村長は前述の事情から方針転換し、廃止を打ち出したのである。今後は、1月末の事業停止後、清算業務に入り、3月末で廃止するという。  もっとも、ラビスパ裏磐梯は村の「温泉健康増進施設条例」に基づき設置されているもので、3月末の廃止に当たり、条例廃止を議会に諮ることになる。それが可決されて、初めて廃止決定となる。  民間信用調査会社によると、㈱ラビスパの売上高は、2016年から2018年までは3億5000万円で推移していたが、2019年は2億5000万円、2020年から2022年は1億8000万円に落ち込んでいる(決算期は10月)。なお、これは道の駅、物産館を含んだ㈱ラビスパ全体の売上高でラビスパ裏磐梯単体の売上高は不明。加えて、㈱ラビスパの当期純利益も不明だが、前出の関係者によると「もともと、道の駅は黒字だが、ラビスパ裏磐梯と物産館は苦戦していた。そこに今般のコロナ禍の影響で、全体的に落ち込んでいる」という。  一方で、遠藤村長は12月8日の全員協議会でこうも述べていた。  「(廃止となる)4月以降については、例えばほかの事業者等で利用したいというところがあれば、公募するというのも一つの手段かなと考えています。そういったところが出て来なければ、一定の期間を考えて、その後はまた議会の皆様と協議をさせていただきたい」  どこかが引き継いで営業してくれるなら、あるいは企業の研修・保養所などとして使いたいというところがあれば、公募して貸し出したり、売却することも1つの手法として考えたいということのようだ。 遠藤村長に聞く 遠藤村長  12月8日の全員協議会終了直後、遠藤村長に話を聞いた。  ――㈱ラビスパの会社(第三セクター)自体は存続して、道の駅裏磐梯や裏磐梯物産館の指定管理委託は継続するということでいいのか。  「そうです」  ――ラビスパ裏磐梯の従業員は?  「道の駅、物産館に異動してもらうことになります」  ――ラビスパ裏磐梯の土地・建物は村の所有か。  「そうです」  ――議会(全協)では「どこかが引き継いで営業してくれるなら」ということを話していたが。  「そういうところがあれば、それも1つの手段かな、と」  ――そういうところが出て来なければ、取り壊しということも?  「すぐに取り壊しというのは考えていません」  ――村民への周知は? 村民だけでなく、例えば子ども会のイベントなどでも、ラビスパ裏磐梯を利用しているところがあったと聞く。そういったところや、旅行会社や旅行サイトなどへの周知も必要になると思うが。  「その辺はこれからです」  近年、行政(第三セクター)が運営する温浴施設が廃止されたり、民間企業に譲渡されたり、といった事例が全国的に増えている。ラビスパ裏磐梯は温浴施設にウオータースライダーを備えたプールがあり、一般的な行政系温浴施設よりも規模が大きい。村では「村民の健康増進に役立った」との見解を示しているが、費用対効果はどうだったのか等々についてはさらなる検証が必要になろう。  一方で、ある村民はこんな見解を示す。  「おそらく、ラビスパ裏磐梯の廃止については、実際に赤字続きだったことからも、議会は反対しないだろう。一方で、遠藤村長は『村の駅』を整備したいという構想を持っています。その整備費用は数億円規模に上ると見られるが、どれだけ採算性があるのか分からない。せっかく採算性がないラビスパ裏磐梯を廃止するのに、新たに採算性が不透明な『村の駅』を整備するとなったら、議会はどう判断するのか。それ次第では、もう一波乱あるのではないかと思います」  「村の駅」については、具体的なことは表に出ていないが、昨年6月議会の一般質問でのやり取りで、遠藤村長は「村民の生活に欠かせない生鮮食品、生活用品の販売、村民が生産した農産物を購入できる直売施設、村内の食材を利用した飲食店、村民や観光客が気軽に立ち寄れる交流施設などを備えた複合施設にしたい」と構想を明かしている。  整備地は同村南西部の北山地区を考えているようだ。同村には裏磐梯地区に道の駅裏磐梯があるが、類似施設を北山地区にもつくりたい、ということである。  昨年12月議会では、「村の駅」関連の補正予算を追加で計上しようとしたが、議員の反発があり、取り下げた経緯がある。背景には、前出の村民が語っていたように 「採算性がないラビスパ裏磐梯を廃止するのに、新たに採算性が不透明な『村の駅』を整備するのはいかがなものか」といったことがあるのだろう。  この村民によると、「今後の村の対応次第では、ラビスパ裏磐梯の問題と絡んで、もう一波乱あるかもしれない」とのことだが、その辺の動きも注視したい。

  • 巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

    巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

     田村市常葉地区で整備が進む東部産業団地の敷地から巨大な岩が次々と出土。そのうちの一つは高さ17㍍にもなり、あまりの大きさに市内外から見物客が訪れるほどだ。テレビでも「観光地にしてはどうか」と好意的な声が紹介されているが、半面「あそこに団地をつくるのは最初から無理があった」と否定的な声はクローズアップされていない。巨岩のおかげで工事費は当初予定より増えたが、議会は問題アリと認識しているのに執行部を厳しく批判できない事情を抱える。 議会が市長、業者を追及しないワケ 敷地から出土した巨岩。隣の重機と比べると、その大きさが分かる  田村市船引地区から都路地区に向かって国道288号を車で走ると、両地区に挟まれた常葉地区で大規模な造成工事が行われている場所が見えてくる。実際の工事は高台で進んでいるため、目に入るのは綺麗に整備された法面だが、それと一緒に気付くのが巨大な岩の存在だ。  国道沿いにポツンとある一軒家と余平田集会所の向こう側にそびえる巨岩は軽く10㍍を超えている。表面はつるつるしていて、どこか人工物のようにも見える。近付いてみると横で作業する重機がまるでおもちゃのようで、思わず笑ってしまう。  「今の時間帯は誰もいないけど、結構見物客が来てますよ。先日はテレビ局が来た。その前は新聞記者も来たっけな」  現場にいた作業員がそう教えてくれた。説明が手馴れていたのは、いろいろな人が来て同じような質問をされるからだろう。  ここは田村市が整備を進める東部産業団地の敷地内だ。巨岩があるのは、ちょうど調整池を整備する場所に当たる。  昨年11月22日付の河北新報によると、同所はもともと大きな石が数多く露出する地域で、出土した巨石群は花こう岩の一種。市の試算では体積計1万4000立方㍍以上、総重量3万6400㌧以上。一方、同29日にテレビ朝日が報じたところによれば、巨岩は高さ17㍍、横30㍍、奥行き22㍍と推測され、奈良の大仏の台座を含めた高さ(18㍍)に匹敵するという。  巨岩は民家に隣接しているため、発破は危険。そこで市は重機で破砕する予定だったが、想定より硬く、そのままにせざるを得なかった。  これにより、調整池の工事は変更される事態となった。巨岩を動かせないため、そこを避けるようにして調整池の形・深さを変え、予定していた水量を確保できるようにする。  変更に伴い市は工事費を増額。発注額は2億7100万円だったが、昨年12月定例会で市は6億9900万円に増額する契約変更議案を提出し、議決された。工期も2024年3月末までだったが、同年9月末までに延長された。  気になるのは、壊すことも動かすこともできない巨岩の今後だ。同団地の担当部署である市商工課に問い合わせると  「進出企業の工場建設計画もあるので、市としては団地を早期に完成させることを優先したい。巨岩をどうするかはこれから議論していく」(担当者)  巨岩は市内外から見物客が訪れており、市民からは「あんな立派な巨岩はお目にかかれない。観光地にしてはどうか」との意見が上がっている。市でもそういう意見があることは承知しており、白石高司市長もテレビ局の取材に「地域おこしにつながらないか。巨岩を活用するアイデアを募っていきたい」とコメントしている。  実は、都路地区にはさまざまな名前の付いた巨石が点在し、ちょっとした観光スポットになっていることをご存知だろうか。  例えば亀の形をした「古代亀石」は高さ10・7㍍、周囲50・5㍍、重さ2800㌧。近くに立てられた看板にはこんな伝説が書かれている。 「古代亀石」  《古きからの言い伝えによると無病息災鶴は千年亀は万年と言われた亀によく似た石を住民が〆縄張り崇拝したと言う。石の上部に天狗が降りた足跡を残した奇観有りと言う。地区の人々が名石の周りを清掃し関心の想を呼び起して居ます》  古代亀石のすぐ近くには笠石山の登山口があり、頂上付近に「笠石」や「夫婦石」という巨石がある。登山口から1~2分の場所には綺麗に真っ二つに割れた「笠石山の刃」という巨石もあり、漫画『鬼滅の刃』で主人公・竈門炭次郎が師匠との修行で最終段階に挑んだ岩に似ていると密かに評判になっている。 「笠石山の刃」  さらに古代亀石の周辺には、文字通り船の形をした「船石」や「博打石」といった巨石もある。  これらの巨石群と東部産業団地の巨岩は車で10~15分の距離しか離れておらず、観光ルートとして確立することは十分可能だろう。  偶然にも巨岩が大々的に報じられる1カ月前には、都路地区と葛尾村にまたがる五十人山の巨石が話題になった。巨石には坂上田村麻呂が50人の家来を座らせて蝦夷平定の戦略を練ったという伝説があり、都路小学校の児童が授業中に「本当に50人座れるの?」と質問したことをきっかけに、市と村が昨年10月に実証体験会を開いた。結果は53人が座り、伝説は本当だったことが証明された。  ユニークな取り組みだが、正直、巨岩・巨石観光は地味に映る。しかし、市内の観光業関係者は  「確かに地味だが、どの世界にもマニアは存在する。数は少なくても、マニアは足繁く通い、深い知識を持ってSNSで発信する。それがじわじわと評判を呼び、興味のない人も引き寄せる。そんな好循環が期待できると思います」  磨けば有益な観光資源になる可能性を秘めている、と。  実際、巨岩はしめ縄を付ければ神秘性が生まれそう。破砕すれば、なんだかバチが当たりそうな雰囲気もあるから不思議だ。 団地にふさわしくない場所 本田仁一前市長 白石高司市長  もっとも、市内には巨岩を明るい話題と捉える人ばかりではない。東部産業団地が抱える本質的な問題を指摘する人もいる。  もともと同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代の2020年に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、場所については当初から疑問視する向きが多くあった。  すなわち、同団地は①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならないという二つの大きな労力が要る場所だった。前述の通り大きな石が数多く露出しており、その処理に苦労することも予想された。  なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。  加えて、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことも、同団地が歓迎されない要因になっていた。  こうした疑惑を抱えた同団地の区画セールスを、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から進出企業は見つかるのかという懸念が囁かれた。  幸い、二つある区画のうち、B区画(9・1㌶)には電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)、A区画(14・3㌶)には道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が進出することが決まった。大成ロテックは昨年11月に地鎮祭を行い、操業は2025年度中。ヒメジ理化も昨年12月に起工式があり、25年3月の操業開始を目指している。  あとは調整池の工事を終え、工場が稼働し、巨岩の活用方法を考えるだけ――と言いたいところだが、実は、造成工事をめぐり表沙汰になっていない問題がある。  造成工事を受注したのは富士工業と三和工業のJVであることは前述したが、当初の工事費は45億9800万円だった。それが、昨年3月定例会で61億1600万円に、さらに12月定例会で64億6000万円に契約変更された。当初から18億6200万円も増えたことになる。  市商工課によると、工事費が増えた理由は  「工事が始まる前は軟岩と思っていたが、出土した岩を調べると中硬岩であることが分かった。加えて岩が想定以上に分布していたこともあり、造成工、掘削工、法枠工が変更され、それに伴い工事費が増えた」(担当者)  この話を聞くだけで、最初から産業団地にふさわしくない場所だったことが分かるが、問題は工事費が増えた経緯だ。 進め方の順序が逆  土木業界関係者はこう話す。  「市は昨年3月定例会で46億円から61億円に増額した際、増えるのは今回限りとしていたが、半年後の9月にはあと1回増やす必要があるとの認識を示していたそうです」  問題は工事費がさらに増えると分かったあと、造成工事がどのように進められたか、である。  「普通は見積もりをして、工事費がいくら増えると分かってから、市が議会に契約変更の議案を提出します。議案が議決されれば、市と業者は変更契約を交わし、市は増額分の予算を執行、業者は増額分の工事に着手します」(同)  しかし、61億1600万円から64億6000万円に増額された際はこの順序を踏んでいなかったという。  「12月定例会の時点で造成工事はほぼ終わっており、その結果、工事費が61億円から64億円に増えたため、あとから市が契約変更の議案を提出したというのです」(同)  工事費が3億円も増えれば、それに伴って工期も延長されるのが一般的。「土木の現場で1億円の予算を1カ月で消化するのは無理」(同)というから、3カ月延長されてもいいはず。ところが今回の契約変更では、予算は64億6000万円に増えたのに、工期は従前の2024年3月末で変わらなかった。  そのことを知って「おかしい」と感じていた土木業界関係者の耳に、市役所内から「どうやら造成工事はほぼ終わっており、工事費が予定より3億円オーバーしたため、その分を増額した契約変更の議案があとから議会に提出されたようだ」との話が漏れ伝わってきたという。  「公共工事の進め方としては順序が逆。もしかすると岩の数量が不確定で工事費を算出できず、いったん仮契約を結んだあと、工事費が確定してから契約変更を議決したのかもしれないが、巨大工事を秘密裏に進めているようで解せない」(同)  このような進め方が通ってしまったのは、事業費(107億3800万円)が福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出され、市の持ち出しはゼロという点も関係しているのかもしれない。  「事業費107億円のうち、実際に執行されたのは100億円と聞いています。つまり、まだ7億円余裕があるし、これ以上遅れると進出企業に迷惑がかかるので、工事を先に進めることを優先したのでは。市の財政から出すことになっていたら、順序が逆になるなんてあり得ない」(同)  この点を市商工課に質すと、担当者はしばらく押し黙ったあと、造成工事が先に進み、変更契約があとになったことを認めた。  「ちょっと……現場の者とも確認して、今後については……」  言葉を詰まらせる担当者に「公共工事の進め方としてはおかしいのではないか。どこに問題点があったか上層部と認識を共有すべきだ」と告げると「はい」とだけ答えた。  本誌はあらためて、市商工課にメールで四つの質問をぶつけた。  ①増額分の3億円余りの工事は12月定例会で契約変更が議決された時点でどこまで進んでいたのか。それとも、議決された時点で工事は完了していたのか。  ②工事費が3億円余り増えると市が知った経緯を教えてほしい。  ③工事費の増額は、業者から「見積もりをしたら増えることが分かったので、その分をみてほしい」と言われたのか。それとも工事が終わってから「かかった金額を調べたところ64億円になったので、オーバーした3億円を市の方でみてほしい」と言われたのか。  ④市は「工事費が増えるなら契約変更をしなければならないので、関連議案が議決されてから追加の工事に入ってほしい」と業者に注意しなかったのか。もし業者が勝手に工事を進めていたとしたら「なぜ契約変更前に工事を進めたのか」と注意すべきではなかったのか。  これらは締め切り間際に判明し、担当者の出張等も重なったため、市からは期日までに回答を得られなかった。期日後に返答があれば、あらためて紹介したい(※1)。 ※1 今号の締め切りは昨年12月22日だったが、市商工課からは「25日以降に回答したい」と連絡があった。  富士工業にも問い合わせたが「現場を知る者が出たり入ったりしていていつ戻るか分からない」(事務員)と言うので、市商工課と同じく質問をメールで送った。こちらも締め切り間際だったこともあり期日までに回答がなかったので、期日後に返答があれば紹介したい(※2)。 ※2 締め切り直後、猪狩恭典社長から連絡があり「岩量が確定せず正確な工事費が出せない状況で、市といったん仮契約を結んだ。進め方の順序が逆と言われればそうだが、問題があったとは認識していなかった」などといった回答が寄せられたが、「詳細を話すのは御社に対する市の回答を待ってからにしたい」とのことだった。 契約変更前の施工はアウト 今井照・地方自治総合研究所特任研究員  自治体政策が専門の今井照・地方自治総合研究所特任研究員は次のような見解を示す。  「契約で工事費が61億円となっているのに、議会で契約変更を議決する前に64億円の工事をしていたらアウトです。一方、見積もりをしたら64億円になることが分かったというなら、まだ施工していないのでセーフです。ポイントは、市が契約変更の議案を提出した時点で工事の進捗率がどれくらいだったのか、だと思います」  今井氏によると、契約変更の議決を経ずに施工するのは「違法行為」になるという(神戸地判昭和43年2月29日行政事件裁判例集19巻1・2号「違法支出補てん請求事件」)。  「ただし罰則はないので、業者が市に損害を与えていれば損害賠償を請求できるが、今回の場合はそうとは言い切れない。神戸地裁の判例でも賠償責任は否定されています」(同)  問題は市と業者だけにあるのではない。一連の出来事を見過ごした議会にも責任がある。  「本来なら『なぜ順序が逆になったのか』と議会が追及する場面。しかし、白石市長と対峙する議員は本田前市長を支持し、東部産業団地は本田氏が推し進めた事業なので強く言えない。工事を受注しているのが本田氏を応援していた富士工業という点も、追及できない理由なのでは……。一方、白石氏を支持する議員も本来は『おかしい』と言うべきなのに、同団地は本田氏から引き継いだ事業なので、白石氏を責め立てるのは酷と控えめになっている。だから、両者とも騒ぎ立てず『仕方がない』となっているのかもしれない」(議会ウオッチャー)  それとも、これ以上工事が遅れれば同団地に進出するヒメジ理化と大成ロテックの操業計画にも影響が及ぶので、順序が逆になっても工事を進めることを市政全体が良しとする空気になっていたのだろうか。  巨岩に沸き立ち、とりわけテレビは面白おかしく報じているが、造成工事が異例の進め方になっていること、もっと言うと、そもそもあの場所は産業団地に不適だったことを認識すべきだ。

  • 郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論

    郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論

     郡山市日和田町の大型商業施設ショッピングモールフェスタの建て替えが進んでいる。老朽化に加え、度重なる大規模地震で被害を受けたためで、建物解体後、イオン系列の新たな商業施設として生まれ変わる。2026(令和8)年9月オープン予定だ。延べ床面積は約12万平方㍍で、イオンモール新利府(宮城県)に次ぐ東北最大規模のイオン系商業施設となる。  具体的な計画は公表されていないが、郡山市内で期待されているのがシネマコンプレックス(通称・シネコン。複数のスクリーンを有する映画館)の進出だ。  郡山市にはかつて10館以上の映画館が営業していたが、映画業界の衰退に伴い減少し、現在は郡山テアトル1館のみとなっている。同館は6スクリーンを備えているものの、上映される作品に限りがある。そのため、イオンシネマ福島(福島市)、フォーラム福島(同)、ポレポレシネマズいわき小名浜(いわき市)、まちポレいわき(同)まで足を伸ばす人もいるようで、「高校生の娘は、お目当ての映画を見るため、たびたび友達と電車で福島市に行っていますよ」(郡山市在住の男性)。  そうした中、新たなイオン系商業施設がオープンするということもあって、シネコン進出に期待が高まっており、「若者の間では既成事実のようにウワサされている」(同)という。それだけシネコンを求める声が高いということだろう。  実際のところ、シネコンが進出する可能性はあるのか。同施設の運営会社・㈱日和田ショッピングモールに確認したところ、「シネコンがほしいという要望を多くいただいているが、現時点では具体的なテナント構成などについてお話しできません」(担当者)と回答した。  同市では、以前からシネコン開発構想が浮上するものの、頓挫してきた経緯がある。2021年の市長選では、元県議の勅使河原正之氏がシネコン誘致を公約に掲げたが落選。SNS上には残念がる声が並んだ。  テアトル郡山を経営する東日本映画㈱の安達友社長は、興行の世界で長年生き残ってきただけあって、配給会社からの信頼が厚い。そのため、なかなか新規事業者では入り込めない事情もあるようだ。安達社長にシネコンについてコメントを求めると「取材には応じられないが、実現はかなり難しいのではないか」と述べた。  県内で計画中の大型商業施設としては、伊達市でも「イオンモール北福島(仮)」が2024年以降オープン予定となっている。こちらは隣接する福島市中心部にイオンシネマ福島がある関係もあって、競合するシネコンは設けない方針が示されており、新たなスタイルの娯楽施設の整備が検討されている。イオンモールにあらためて確認したところ、「関係機関と調整中のためお答えできません」との返答だった。  ある映画業界関係者は「以前某映画館の建設費が1館当たり1億2000万円と聞いたが、いまは建設費高騰でその倍以上かかるはず。費用対効果を考えて、いま新規でシネコン建設に踏み切る業者はなかなか現れないのではないか」と指摘する。  一方で、別の映画業界関係者は次のように語る。  「映画館空白地域に立地するイオンモールとなみ(富山県砺波市)は、もともとシネコンがない商業施設だったが、住民からの熱望を受け、リニューアルを機に、テナント跡を使ってコンパクトなシネコンを新設した。行政がシネコン誘致を後押しして実現した事例もある。郡山市、伊達市も市民の要望次第で風向きが変わるかもしれません」  果たして郡山市にシネコンが進出する日は来るのか。

  • 再開発見直しで注目される福島駅「連続立体交差」

     JR福島駅東口で進められている駅前再開発事業の雲行きが怪しくなっている。昨年12月7日の福島市議会12月定例会で、石山波恵議員(2期)と斎藤正臣議員(3期)が事業の進捗について質問したところ、木幡浩市長から「計画全体の見直し」という答弁が出てきたのである。  「(地権者らでつくる建設主体の福島駅東口地区市街地)再開発組合と共に資材の変更や計画の再調整を進めてきたが、工事費高騰の影響を抑えるには至っていない。着工の見通しが描けない中、事業全体を成立させるには市のコンベンション施設も含め、踏み込んだ見直しを行うことも視野に検討しなければならない」  同事業は昨年6月定例会で木幡市長が「工事費の2割以上増額が見込まれ、資材の変更、計画の再調整、国庫補助など財源確保を再検討している」として、着工が2023年度から24年度にずれ込み、オープンも当初予定の26年度から27年度に遅れる見通しを示していた。  それから半年経ち、事業は延期にとどまらず、計画全体を見直さざるを得ない状況に追い込まれている。  原因は資材価格の先行きが見通せなくなっていることと、深刻な人手不足、それに伴う人件費の高騰だ。もっとも、同様の理由で着工・オープンが延期されている事業は表面化していないものも含めて県内に複数あり、福島駅東口再開発事業だけが特別なわけではない。  こうした中で筆者が注目したのは福島商工会議所の渡邊博美会頭が本誌先月号のインタビューで次のように述べていたことだ。  「資材価格高騰が建設に影響を与えている。完成後も維持費を考える必要がある。私は関係者に今こそ腹を割って話そうと言っている。一番良いやり方を、駅西口と一体的に考えるべきだ」  インタビューを行ったのは昨年11月中旬だが、この時点で渡邊会頭は計画全体の見直しを予見していたのかもしれない。  12月定例会で、前出・石山議員や斎藤議員は駅西口のイトーヨーカドー福島店が5月に閉店することを踏まえ「東西一体的なまちづくりを検討すべき」と促した。それに対し木幡市長は、県有施設の「とうほう・みんなの文化センター」(県文化センター)を駅西口に移転させるアイデアに言及していた。  「今まで東西一体的なまちづくりに関心を寄せてこなかったのに、議会も木幡市長も急にそういうことを言い出すのは不愉快」  と憤るのはある経済人だ。と言うのも、市内には福島商工会議所を中心に「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織があり、福島駅の連続立体交差(※)により東西エリアの一体化を図るべきと訴え、自民党の有力議員に働きかけるなどしてきたが、議会も木幡市長も駅前再開発事業が進んでいることを理由に真剣に検討してこなかった経緯があるのだ(詳細は本誌2022年8月号参照)。  「コンベンション施設の規模を小さくすれば中途半端な再開発になってしまう。一方、議員は駅前にペデストリアンデッキをつくるべきとか東西自由通路を新しくすべきなどと言っているが、それだけでは東西一体化につながらない。連続立体交差は一大プロジェクトに違いないが、事業費を精査すると実はどの事業よりも安上がりで済むことに議員も木幡市長も目を向けてこなかったのは残念だ」(経済人)  今後、連続立体交差の機運が高まるかどうかは分からないが、迷走し出した駅前再開発事業の行方がはっきりしないうちは東西一体的なまちづくりの議論に入れないだろう。 ※鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の国庫補助として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。 あわせて読みたい 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

  • 首都圏工事の残土捨て場となる福島県

    首都圏工事の残土捨て場となる福島県

     昨年11月30日、福島市で開かれた県町村会と内堀雅雄知事との意見交換会で、中通りの複数の自治体に大量の土砂が搬入され、盛り土が造成されている現状が明らかになった。  土砂は廃棄物処理法の規制対象外で、私有地への盛り土造成に関しては行政が立ち入ることができない。西郷村や矢祭町などでは近隣住民から不安の声が上がっており、各自治体が対応に苦慮しているという。  西郷村真船地区の国道294号沿いに足を運んだところ、高さ10㍍(マンションの3~4階)ほどの土砂が積み上げられていた。  近隣住民は次のように語る。  「8月ごろから夜中に10㌧ダンプで土砂が搬入され、みるみるうちに高く積み上げられた。よく見るとヒビが入り始めており、いつ崩れるか心配で仕方ない。一度様子を見に行ったら、コワモテの人が立っていて、あいさつしたが名刺も計画書もよこそうとしませんでした」  新聞報道によると、県は同地への立ち入り調査を実施しており、土砂搬入に関わったとみられる運搬業の業者は「自社で排出した土だ」と説明しているという。なおこの業者は昨年、千葉県野田市の休耕田に無許可で土砂を運び込み盛り土としたとして、市残土条例違反容疑で摘発されたほか、前年には埼玉県でも同様の行為で措置命令を受けた(河北新報12月5日付)。  2021年7月に静岡県熱海市で盛り土が原因とみられる土石流災害が発生し、多数の死者・行方不明者、家屋被害が生じたのを受けて、「盛土規制法」が施行された。盛り土などで被害を及ぼす可能性がある区域を規制区域として指定し、一定以上の盛り土は許可を必要とする仕組みだ。だが、福島県内では規制区域の指定がまだ進んでいない。  内堀知事は12月4日の記者会見で、「規制区域の指定に向けた基礎調査を実施し、今年度内に調査結果を取りまとめて、市町村と調整しながら規制区域を指定していく」と述べ、県議会12月定例会では区域指定を24年度中に前倒しして対応していく方針を明らかにした。  産業廃棄物の収集運搬を請け負う企業の経営者はこのように語る。  「首都圏では道路整備や開発事業が活発化しており、工事で出た残土の置き場所に困っている。私も実際に首都圏の工事関係者から『多めにお金を出すから、残土を処分してほしい』と相談を受けたことがある。モラルが低い一部の業者は請け負ってしまうのではないか」  関東地方では独自に一定以上の土砂の投棄を規制する条例を定めて〝自衛〟する市町村もあるが、県内自治体は条例制定が進んでいない。そのため、首都圏に近い〝残土捨て場〟として狙われていると言える。  西郷村や矢祭町では独自の盛り土規制条例制定に向けて準備を進めており、県としても条例を制定する方針。早ければ県議会2月定例会での成立を目指す。ただし、既存の盛り土には効力が及ばない見込みで、県は引き続き盛り土されている土地の所有者・運搬事業者に土砂の内容物や発生元の報告を求め、災害の未然防止を図っていくとのこと。  それにしても、中間貯蔵施設の除染土壌の最終処分先がなかなか決まらない中、逆に首都圏から建設残土が県内に運び込まれてくるというのは何とも皮肉な話だ。  なお、110頁からの記事で取り上げている、松川浦県立自然公園内での埋め立て計画予定地にも首都圏の道路工事で出た土が使われるとのこと。〝もう一つの建設残土問題〟として併せてお読みいただきたい。

  • 郡山市が逢瀬ワイナリーの引き継ぎを決断!?

    郡山市が逢瀬ワイナリーの引き継ぎを決断!?

     本誌昨年10月号で郡山市の「ふくしま逢瀬ワイナリー」が閉鎖の危機に立たされていることを報じた。  逢瀬ワイナリーは震災からの復興を目的として、市が所有する逢瀬地区の土地に公益財団法人三菱商事復興支援財団(以下、三菱復興財団と略)が2015年10月に建設。同ワイナリーを拠点に、地元農家(現在13軒)にワイン用ブドウを栽培してもらい、地元産ワインをつくって農業、観光、物産などの地域産業を活性化させる果樹農業6次産業化プロジェクトを市と同財団が共同で進めてきた。実際の酒の製造と販売は同財団が設立した一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリーが手掛けている。  ただ三菱復興財団では当初から、同プロジェクトがスタートしてから10年後、すなわち2024年度末で撤退し、施設と事業を地元に移管する方針を示していた。同財団は「地元」がどこを指すのかは明言していないが、本命が郡山市であることは明白だった。  事実、三菱復興財団はこの間、市に施設と事業を移管したいと再三申し入れている。ところが、市農林部は頑なに拒否。その理由を本誌10月号は次のように書いている。    ×  ×  ×  ×  「郡山産ワインは市場でようやく評価されるようになったが、これまで支出が上回ってきたこともあり施設はずっと赤字だった。今は三菱復興財団が面倒を見てくれているからいいが、市が施設を引き受ければそのあとは赤字も負担しなければならないため、品川萬里市長が難色を示しているのです」(事情通)  上がノーと言えば、下は従うほかない――というわけで、市農林部は三菱復興財団の移管要請を拒み続けている、と。    ×  ×  ×  ×  移管先が決まらなければ、施設は取り壊され、事業を終える可能性もある。この時の本誌取材に、市園芸畜産振興課の植木一雄課長は「逢瀬ワイナリーについては関係者において現在検討中です」と文書で回答するのみ。9月定例会でも関連質問があったが、市は「検討中」と繰り返すばかりだった。  「政経東北の記事が出たあと、市から今後のブドウ栽培に関する聞き取り調査があった。逢瀬ワイナリーがこれからどうなるといった話は出なかった」(ある生産農家)  このように、移管に消極的な姿勢を見せていた市だったが、先月開かれた12月定例会は少し様子が違っていた。箭内好彦議員(3期)が「第一の移管先に挙がっている市の考えを聞きたい」と質問すると、和泉伸雄農林部長はこう答弁したのだ。  「三菱復興財団からは市や生産農家に配慮したご提案をいただいている。市としては同財団が築いたワイナリー事業が2025年度以降も円滑に継続されるよう、生産農家の経営方針を尊重しながら同財団と協議していきたい」  前述の「検討中」と比べると、明らかに前向きな姿勢に変わっているのが分かる。  ワイナリー事業に精通する事情通はこのように話す。  「市の方針は決まっていないが、品川市長の姿勢が変わったことは間違いない。三菱復興財団とは受け入れに関する条件面を協議している模様で、同財団担当者も市のスタンスの変化に手ごたえを感じているようだ。担当者はそれまで市を説得しようと頻繁に来庁していたが、11月以降は来庁の頻度も減っている」  三菱復興財団が撤退する2024年度末まで1年3カ月を切る中、移管に向けた協議が順調に進むのか、市の対応が注目される。 あわせて読みたい 【ふくしま逢瀬ワイナリー】が赤字閉鎖!?【郡山】

  • 【福島県WOOD.ALC推進協議会】

    【福島県WOOD.ALC推進協議会】

    地元杉材を使用した建材で低炭素社会に貢献  建築物に用いられるWOOD.ALC(ウッドエーエルシー)という構造物をご存知だろうか。  「低炭素社会(Attain Low CarbonSociety)を達成させる木材」を意味する木質パネルで、間柱状に製材、乾燥した杉材を接着した集成材だ。厚さ12㌢、幅45㌢、長さ3・0~4・0㍍の厚板で、建築素材として求められる木材独特の柔らかな色合い、優れた断熱性能、吸音性に加え、高い防耐火性も兼ね備える。  住宅はもちろん、学校、幼稚園、老人介護施設などに最適な建材で、飲食店、オフィスなど癒しが求められる建物に用いて、市街地に木の安らぎ空間をつくることも可能だ。  日本は、先進国の中では珍しく、豊かな森林資源をもつ森林大国で、国土の約8割が山林である。一方で、木材の輸入自由化から約50年が経過する中、木材価格は安い輸入材に圧迫され、日本の林業は衰退の一途を辿っている。  森林は木の成長に合わせて適度に伐採して利用することが、持続可能な森林資源の再生に不可欠だ。日本の人工林の多くは終戦後に植えられたものが大半を占めており、植林から40~50年経ち、早急に伐採と利用の促進をしなければ、森林全体が光や風の入らない不健康な山になる。  そうした中、藤田建設工業(棚倉町)では、「戦後植えられた木の中でも最も森林面積の多い杉の木をもっと利用促進できないか」と検討を重ね、WOOD.ALCとして活用する方針を打ち出している。  追い風となったのは、2010年に公共建築物木材利用促進法が制定されたこと。同法では低層の公共建築物は原則木造化を図り、低層、高層にかかわらず内装等の木質化を促進することが義務付けられている。  建築物の壁などに木材を使用するには、防耐火性能を満たすことが求められるが、WOOD.ALCは厚さを12㌢とすることで、火を通しにくくしている。2011年には改正建築基準法に基づく準耐火性能評価試験を受け、国土交通省の認定を得た。これによりWOOD.ALCを大型建築物での外壁、床板、防火区画を兼ねる内壁に使用できるようになった。  木材は、光合成によって空気中のCO2 (二酸化炭素)を体内に吸収し、閉じ込めることから〝CO2を固定化する〟と言われている。日本の森林が吸収するCO2は年間約1億㌧であり、国内すべての自家用車が排出するCO2の7割に相当する。同社の調査では、国産杉林1平方㍍当たりの吸収固定化するCO2の量は0・59t―CO2となる。国産杉を利用すればするほど、CO2の削減枠に貢献すると言っても過言ではなかろう。  2015年には藤田建設工業の藤田光夫社長(当時)が事業管理者となり、会津土建(会津若松市)、菅野建設(福島市)、協和木材(塙町)の4社で福島県WOOD.ALC協議会を設立した。現在は加盟企業10社を数え、各社で連携を図りながらWOOD.ALCの普及活動と技術開発に鋭意努めている。

  • 【吉田豊】終わらない【南相馬市】悪徳ブローカー問題

    【吉田豊】終わらない【南相馬市】悪徳ブローカー問題

     本誌5~8月号で、南相馬市で医療・介護コンサル、ブローカーとして暗躍する吉田豊氏について取り上げた。ずさんな見通しの事業計画を地元企業に持ち込み、損失を被った企業は多数。市内のクリニック、介護施設の実質的オーナーだが、ブラックな労働環境に数知れない職員が退職した。その後も被害は拡大し続けており、本誌には周辺から情報が寄せられている。(志賀) あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 第4弾【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】 「元職員が金を渡して記事書かせた」と吹聴  吉田豊氏は青森県上北町(現・東北町)出身。今年4月現在、64歳。公表している最終学歴は、同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。過去に医療法人の実質的オーナーを務めていたが、本人は医師免許を持っていない。  若いころに古賀誠衆院議員の事務所に出入りしていた過去がある。上北町議2期を経て、青森県議選に2度立候補したが落選し、どちらも選挙後に公選法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡しして投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。  復興需要にありつこうと浜通りに流れてきて、南相馬市の老舗企業の経営者に取り入り、全面的支援を受けて同市内に南相馬ホームクリニックを開設した。だが、当初からトラブル続きで給料遅配・未払いが横行するブラックな環境となったため、スタッフらは相次いで退職。クリニックの大家である老舗企業への賃貸料支払いも滞り、医師とも対立したため、同クリニックは閉院した。  現在、地元企業が未払い分の賃貸料の支払いを求め、吉田氏などを相手取って訴訟を提起している。  当の吉田氏はそのことを気にも留めず、昨年7月、同市内に桜並木クリニックを開院。すぐ近くに、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が運営する薬局「オレンジファーマシー」がつくられ、少し離れた場所に高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。  これらの施設は、吉田氏が準備を進めていた「医療・福祉タウン」構想実現に向けた準備と思われる。  高齢者の住まいの近くにクリニック、介護施設、給食事業者などを設け、事業を一手に引き受けることで、大きな収益を上げる。この計画が吉田氏にとって悲願だった。公益性が高いので復興補助金の対象にもなりやすいとみられていた。  実際に土地も購入しており、その土地を担保に、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りている。それらの資金は事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままで、10月に入ってから看板が外された。結局、計画は補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。抵当権が設定されているため、売るにも売れない状況だ。  〝準備〟として開設された前出の施設も、南相馬ホームクリニック同様、ブラックな労働環境となり、再びスタッフが次々と退職した。これ以外にもバイオマス発電構想を進めるとして、巻き込まれた地元企業が倒産に追い込まれたほか、医師や医療・介護スタッフにも100万円単位で借金をしており、未だに返済されていない人もいる。  本誌調べではコンサルタントや設計士、出入り業者、医師のために建てた住宅の造園業者などへの支払いも滞っており、吉田氏が宿泊していたホテルの料金さえ未払いが続いていたという。本誌8月号発売後、慌てて出入り業者などに金額の一部が支払われたそうだが、懐事情は末期状態にあると見るべきだろう。  ここまでが8月までの情報だが、その後、動きがあった。  1つは南相馬クリニック・憩いの森などで勤めていたAさんが、吉田氏関連の運営会社ライフサポート(浜野ひろみ社長)を相手取って、未払い賃金約48万円と遅延損害金の支払いを求める少額訴訟を相馬簡易裁判所に提起したこと(本誌10月号情報ファインダーで既報)。  9月12日に同簡裁で行われた裁判には、吉田氏や浜野氏は姿を現さず、被告不在のまま、裁判官が同社に全額支払いを命じる判決を言い渡した。もっとも、Aさんによると、判決から2カ月経っても支払われておらず、今後は強制執行を申し立てる必要がある。  2つは桜並木クリニックが8月15日付で廃止され、診療所の名称と建物はそのままで新たなクリニックとなったこと。それに伴い、院長が由富元氏から星野廣樹氏に交代した。星野氏は東邦大学医学部卒。山梨大学大学院総合研究部医学行薬理学講座などに所属し、小児科を専門としている。  現在の診療科は皮膚科、泌尿器科、内科(同クリニックのホームページより)。非常勤の医師を採用しているようだ。過去に勤めていた医師の中には、当初約束した賃金を支払ってもらえなかったり、個人名義で融資を申し込んで金を融通するよう依頼された人もいた。そうした事実をいま同クリニックで働く医師らは知っているのだろうか。 県内外から寄せられる情報  3つは桜並木クリニック、憩いの森で退職者が相次ぎ、新しいスタッフが入ったこと。人の出入りが激しくなったことに加え、本誌に掲載された吉田氏関連の過去記事がホームページに転載されたこともあってか、県内外からコアな関連情報が編集部に寄せられ続けている。  吉田氏は内部で「市内に物件を購入し、新施設を開設する計画だ」と語っているようだが、少額訴訟や賃金未払い分の請求にすら応じていないことを考えると眉唾物。青森県にある吉田氏の自宅は差し押さえられている。  驚くのは、新しく入った職員に対し、「『政経東北』の記事は元職員Bが300万円で書かせている」と吹聴していたこと。5月号記事で触れた通り、本誌は市内の経済人から吉田氏のウワサを聞き、取材活動を始めたのであって、カネをもらって書いたというのは全くのデタラメだ。  元職員Bさんは吉田氏関連の会社の社長に据えられていた人物で、前出「医療・福祉タウン」構想の主体となる協同組合を設立するため理事となり、500万円を出資。土地購入時には金融業者から金を借りる際の連帯保証人にもなった(ほかの連帯保証人は吉田氏、浜野氏、前出Aさん、理事1人)。  ところが、今年に入り「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っていた」として、利息分と遅延損害金2600万円の支払いを請求されるトラブルが発生。Bさんは吉田氏と決別して退職していたのに、自宅を差し押さえられ、競売で不動産業者への売却が決まった。いわば吉田氏に人生をめちゃくちゃにされた一番の被害者だが、吉田氏は「自分こそが被害者だ」と言わんばかりに平然とデマを流しているわけ。  「吉田氏は平気でうそをつく。われわれも事実と異なることを言われて振り回された経験がある。新たに入ったスタッフの信頼を得ようとしているのでしょう」(吉田氏のもとで働いていた元職員)  吉田氏関連のクリニックや施設に勤め、損失を被った医師・スタッフは、現在、労働基準監督署や警察署に相談しているが、その悪質性がなかなか伝わらず、表面的な調査・相談対応に留まっている。  ただ、吉田氏やその関連会社を相手取った訴訟準備がそれぞれ進められており、その外堀は埋められつつある。新たな被害者を出さないようにするためには、関係者が〝実態〟を伝え、近づかないように呼びかけていくことが必要になる。  本誌では引き続き吉田氏とその周辺をウオッチしていく方針だ。 ※吉田豊氏が実質的オーナーを務める介護施設「憩いの森」を南相馬市長寿福祉課が訪問した、との情報が入ってきた。同施設に関してはさまざまなウワサがある。詳細が分かり次第、記事を掲載したい。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 第4弾【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

  • 【検証】プロ野球の親会社「関わりゼロ不可避」説

    【検証】プロ野球の親会社「関わりゼロ不可避」説

     国内には12のプロ野球チーム(球団)があり、各球団には親会社が存在している。それら親会社(関連会社を含む)の業種は実に幅広い。プロ野球が好きな人も、そうでない人も、知らず知らずに各球団の親会社が提供する商品・サービスなどを購入・利用しているものと思われる。むしろ、プロ野球の親会社が提供する商品・サービスを全く使わずに生活するのは不可避と言っていいのではないか。それは地元球団がない福島県でも例外ではない。そこで、「プロ野球の親会社『関わりゼロ不可避』」という仮説のもとで検証してみた。 地元球団がない県内でも商品・サービス多数  今年は3月にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催され、日本代表・侍ジャパンが世界一に輝き、大きな盛り上がりを見せた。それに牽引されるように、プロ野球(セ・リーグ、パ・リーグの公式戦全858試合)の観客動員数は約2507万人(1試合平均約2万9000人)で、前年度を400万人ほど上回った(数字は日本野球機構=NPB発表に基づく)。  もっとも、2020年から2022年は新型コロナウイルスの影響で入場制限などがあったから、「前年比400万人増」というのは参考外。コロナ前の2016年から2019年を見ると、年間観客動員数は2500万人前後で推移している。つまり、2023年は完全にコロナ前に戻ったことになる。  いずれにしても、年間800以上の興行で、1興行当たり約3万人を動員できるのだから、国内屈指のコンテンツと言っていいだろう。そのほか、直接球場に行かなくても、近年はネット配信で試合を見ることができ、その利用者やプロ野球関連のSNSなどの投稿・閲覧数もかなりの数に上る。  そんな〝キラーコンテンツ〟と言えるプロ野球だが、広い視点で見ると、何気ない普段の生活でも何かしら関係している可能性が高い。というのは、プロ野球チームにはそれを運営する会社(球団)があり、その上に親会社が存在しているのだが、それらが提供する商品・サービスを全く使わずに生活するのは不可避と言っていいからだ。  別表は、チーム、球団(運営会社)、親会社をまとめたもの。 プロ野球12球団の親会社(2023年の順位順) セントラル・リーグ チーム名球団名親会社阪神タイガース阪神タイガース阪急阪神ホールディングス広島東洋カープ広島東洋カープマツダ(※本文注)横浜DeNAベイスターズ横浜DeNAベイスターズディー・エヌ・エー読売ジャイアンツ読売巨人軍読売新聞グループ東京ヤクルトスワローズヤクルト球団ヤクルト本社中日ドラゴンズ中日ドラゴンズ中日新聞社 パシフィック・リーグ チーム名球団名親会社オリックス・バファローズオリックス野球クラブオリックス千葉ロッテマリーンズ千葉ロッテマリーンズロッテホールディングス福岡ソフトバンクホークス福岡ソフトバンクホークスソフトバンクグループ東北楽天ゴールデンイーグルス楽天野球団楽天グループ埼玉西武ライオンズ埼玉西武ライオンズ西武ホールディングス北海道日本ハムファイターズ北海道日本ハムファイターズ日本ハム  なお、広島東洋カープの親会社には自動車メーカーの「マツダ」と記載したが、正確には少し違う。同球団は「特定の親会社を持たない市民球団」という位置付け。ただ、マツダの創業者一族(松田一族)が広島東洋カープの株式の大部分を所有しており、チーム・球団名に入っている「東洋」は、マツダの旧社名である「東洋工業」から取ったもの。  各球団には「球団社長」がおり、その上に親会社のトップである「オーナー」が存在する。広島東洋カープのオーナーは代々松田一族から出ている。そういった事情から、広島東洋カープは対外的には「親会社は存在しない市民球団」とされているが、実質、マツダ(松田一族)を親会社とみなすことができる。  表を見ると分かるように、プロ野球チームは、地名、親会社名、愛称で構成されている。これに対し、サッカー・Jリーグのチームは、地名と愛称のみで親会社名は入らない。これはJリーグの方針によるもの。そこが野球とサッカーで違うところ。  12球団のうち、楽天は「東北」と称しており、東北地方のチームであることを謳っているが、福島県ではそれほど身近ではない。それ以外は北海道、首都圏、名古屋、大阪圏、広島、福岡と、大都市に集中しており、より遠い存在と言える。だが、前述したように広い視点(親会社の商品・サービス)で見ると、実は県民生活においても無視できない。 食品系は利用率高め⁉️ ロッテの主力商品  親会社は、いくつかのカテゴリーに分類できる。  分かりやすいのは食品系。東京ヤクルトスワローズ、千葉ロッテマリーンズ、北海道日本ハムファイターズの親会社がそれに該当する。それぞれの主力商品を挙げてみる。  ヤクルト▽ヤクルト、ミルミル、ジョア、ソフール、タフマン  ロッテ▽コアラのマーチ、パイの実、キシリトールガム、ブラックブラックガム、チョコパイ、雪見だいふく、モナ王  日本ハム▽ロースハム、シャウエッセン、豊潤、バニラヨーグルト(関連会社の日本ルナ)、ロルフ・スモークチーズ(同・宝幸)  県内のスーパー、コンビニなどどこにでもある商品で、各社の商品を一度は口にしたことがあるはず。筆者は、クルマでの移動中によくブラックブラックガムを噛む。  ヤクルトの「ヤクルト1000」は最近のヒット商品。昨年初めごろに話題になり品薄状態になった。ブームが落ち着いたころに何度か買って飲んでみたが、謳い文句の「ストレス緩和」「睡眠の質向上」に効果があったかは不明。毎日続けなければ実感できないということか。  日本ハムは、前述の商品のほか、外食産業に食肉・加工品などを卸している関連会社(北海道・東北エリアは東日本フード)があるから、それこそ知らない間に〝お世話〟になっている可能性が高そう。  次にIT・通信系。横浜DeNAベイスターズ、福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルスの親会社が該当する。  ディー・エヌ・エーは、スマートフォン用ゲームの開発・配信が主業。代表作は、「ポケモンマスターズEX」(ポケモン社との共同開発)、「ファイナルファンタジー レコードキーパー」(スクウェア・エニックス社との共同開発)、「逆転オセロニア」など。このほか、関連会社にオークションサイトの運営「モバオク」がある。ゲーム好きなら利用したことがあるだろう。  ちなみに、同社創業者の南場智子氏は横浜DeNAベイスターズオーナーで、NPBオーナー会議議長、日本経済団体連合会副会長を女性で初めて務めた人物として知られる。デジタル庁デジタル臨時行政調査会構成員にも就いている。  ソフトバンクグループは子会社が1280社、関連会社が573社あり、事業範囲が膨大過ぎて把握しきれない。分かりやすいところで言うと、携帯キャリアサービスの「ソフトバンク」や、通信サービスの「LINE」、キャリア決済の「PayPay」、インターネット検索エンジンほか各種サービスを提供している「Yahoo」など。ソフトバンク携帯のシェアは約20%だが、スマホ所有者の80%以上がLINEを利用しているというから、同社のサービスを使っている人が多いのは間違いない。そのほか、前述のように、子会社・関連会社が膨大だから、知らず知らずに同社グループのサービスの世話になっている、ということがあると思われる。  楽天グループは、携帯キャリアサービスの「楽天モバイル」、国内最大級のインターネットショッピングモール「楽天市場」などのほか、「楽天ブック」、「楽天カード」、「楽天トラベル」などのサービスを提供している。筆者は地方競馬全場の馬券が買えて、レース映像が見られる「楽天競馬」を利用している。サービスの大部分は「楽天〇〇」という名称だから、利用している人はすぐにピンと来るはず。 オリックスグループの「御宿 東鳳」 御宿 東鳳(HPより)  読売ジャイアンツと中日ドラゴンズの親会社はメディア系という分類で括ることができる。  読売新聞グループの「読売新聞」は全国シェアではトップだが、福島県内では約6%で、福島民報(約30%)、福島民友(約20%)の地元2紙には及ばない。ただ、関連会社に日本テレビ(日本テレビホールディングス)があり、避けて生活するのは不可能と言っていいレベル。そのほか、スポーツ紙の「スポーツ報知」も発行している。福島民友、福島中央テレビにも資本が入っている。  名古屋市に本社を置く中日新聞社が発行する「中日新聞」は東海地区のブロック紙。愛知県では50%近いシェアを誇るほか、ほかの東海圏(岐阜県、三重県)でも約40%のシェアに上る。また、スポーツ紙の「中日スポーツ」を発行しているほか、「東京新聞」を傘下に加えている。福島県で生活していたら、直接的に見ることはないだろうが、ネット配信記事などを見ることはあろう。そのほか、少々強引な見方をすると、大相撲名古屋場所(毎年7月開催)は日本大相撲協会との共催になっており、名古屋ウィメンズマラソンの主催者にも名を連ねているから、テレビを通して好きな力士、選手を応援する行為が、中日新聞社の〝お世話〟になっているということもできなくはないか。  広島東洋カープのマツダは、県内各所に販売店がある。トヨタや日産、ホンダと比べるとシェアは低いが、固定ファンが存在する。知り合いのマツダユーザーは「好きな車種があるから。あとは内装がいいんだよね」とのこと。広島東洋カープに関しては、マツダのクルマに乗っているかどうか、だけのつながりか。  オリックスバファローズの親会社は、eダイレクトの預金・信託、オリックス銀行のカードローン、不動産ローンのほか、生命保険や自動車保険、オリックスレンタカー・カーシェア、ICT関連機器や医療機器のレンタル・販売、商用車・トラックのレンタルなどの事業を展開している。同社も事業範囲がかなり幅広いため、気付かない間に関わっているということがあるかもしれない。  会津・東山温泉の「御宿 東鳳」は、オリックスの関連会社「オリックス・ホテルマネジメント」が運営している。今年、オリックスバファローズは、パシフィック・リーグ3連覇を果たしたが、同温泉宿のHPを見る限り、「優勝記念特別プラン」のようなものはなかった。 関係性が薄い鉄道系  阪神タイガースと西武ライオンズの親会社は鉄道系で括れる。  阪急阪神ホールディングスは近畿地方を中心に運行する阪急電車、阪神電車の鉄道事業のほか、バス、タクシー、旅行などの事業を手掛けている。そのほか、関連会社で不動産事業や百貨店経営などがあるが、どれも近畿圏が中心。唯一、旅行業の関連会社「阪急交通社」の営業所が福島市にあるが、同社HPの同営業所の紹介では「福島営業所は常勤ではございません」、「週に1回~2回、仙台支店のスタッフが訪問します」、「営業所内にて旅行カウンターはございません」、「受付業務は行っておりません」とあり、問い合わせ番号も仙台市の番号が記載されている。福島県内に住んでいたら、最も関わりが薄い会社かもしれない。  ちなみに、筆者は阪神タイガースファンで、専門の有料チャンネルに加入しており、試合だけでなく、キャンプ情報やグラウンド外の情報なども常にチェックしている。そのため、普段の生活とは無関係でも、筆者にとっては一番身近な存在というのは余談である。  西武ホールディングスは、東京北西部と埼玉南西部を中心に「西武鉄道」を運行しているほか、ホテル、ゴルフ場、スキー場の運営などを行っている。東北地方では、仙台うみの杜水族館(宮城県)、十和田プリンスホテル(青森県)、雫石プリンスホテル、雫石スキー場、雫石ゴルフ場(岩手県)などがあるが、福島県内には関連施設はない。  西武グループは創業者の堤康次郎氏が1964年に亡くなった数年後に、鉄道部門の「西武グループ」と、西武百貨店などを運営する流通部門の「セゾングループ」に分社した。西武ライオンズは西武グループの傘下だが、西武ライオンズが優勝した際はセゾングループの西武百貨店や西友などで「優勝セール」が行われていた。そこからすると、両社が完全に無関係になったわけではない。県内では郡山市と伊達市に西友の店舗がある。  もっとも、2000年代に入り、セゾングループは解体され、中核だった西武百貨店は、同じく百貨店の「そごう」と合併して「そごう・西武」になった。その「そごう・西武」は2005年にセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入ったが、今年8月にアメリカの投資運用会社「フォートレス・インベストメント・グループ」に売却された。  西武との合併前の話だが、そごうについては、かつて郡山市に出店計画があった。駅西口再開発の目玉として、1983年にそごうを核店舗とする駅前再開発施設の建設計画があったのだ。しかし、1985年の市長選で同計画慎重派の青木久氏が当選。計画の見直しを行う過程で地権者と軋轢が生じ、これを受けそごうは出店を断念した。その後、2001年に郡山駅前再開発ビル「ビッグアイ」が開業した経緯がある。  もし、あの時、そごうが出店していたら――。開業から十数年後にそごうと西武が合併、後にセブン&アイ・ホールディングスの傘下入り……といった中で、どこかで撤退していた可能性が高い。結果的に良かったのか悪かったのかは分からないが、また違った未来があった。  最後は少し脱線してしまったが、こうして見ると、プロ野球に興味がある・ないに関係なく、地元を本拠地とする球団がない福島県で生活していても、意外と生活に関わっていることがうかがえよう。関係性の大小はあるだろうが、「プロ野球の親会社『関わりゼロ不可避』」説は、〝立証〟と言っていいのではないか。

  • 【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

    【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

     観光庁が実施している「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」という補助制度がある。2020年から毎年実施(募集)しており、2023年度は、会津磐梯地域が県内で唯一、事業採択された。それによって何が変わるのか。 インバウンドの足かせになる処理水放出 アルツ磐梯  「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の事業概要はこうだ。観光地域づくり法人(DMO)や観光関連協議会などが主体となり、スキー場やその周辺の観光施設、宿泊施設などが共同で「国際競争力の高いスノーリゾート形成計画」を策定し、観光庁に応募する。それが採択されれば、同計画に基づき、アフタースキーのコンテンツ造成、受け入れ環境の整備、スキー場のインフラ整備などの費用について国から補助が受けられる。これにより、インバウンド需要を取り込む意欲がある地域やポテンシャルが高い地域で、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することを目的としている。同事業の応募要件、補助対象などは別表の通り。  2023年度事業は2月から3月にかけて募集があり、県内では会津若松市、磐梯町、北塩原村の「会津磐梯地域」が応募し、事業採択された。計画の名称は「The authentic Japan in powder snow resort AIZU 〜歴史、文化、伝統、自然が織りなす會津の雪旅〜」。  計画策定者は会津若松観光ビューローで、同団体が事務局のような役割を担う。歴史・文化に特化した観光施設や温泉地などがあり、宿泊施設や飲食店なども多い会津若松市がベースタウンとなり、スキー客の呼び込みが期待できる磐梯町・北塩原村と連携して、長期滞在型の冬季観光を目指す。  観光庁によると、同事業は単年度事業だが、公募の際は向こう3年くらいのスパンで計画を策定・提出してもらうという。計画には全体計画と個別計画があり、それを実践していくわけだが、全体計画はそのままに、個別計画をブラッシュアップして、翌年、継続して事業採択されるケースもあるようだ。毎年の事業について、観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成の促進に向けた検討委員会」では、成果や課題などが検証される。事業採択された地域ごとに成果や課題などの発表会も行われるという。そうした中で、一定程度の成果が見られなければ、翌年度に再度応募しても、採択されないということもあり得るだろう。  今年度の事業採択は会津磐梯を含めて14地域。このうち、9地域が前年度も選定されている継続地域。これに対し、会津磐梯地域は今年度が新規だから、ライバルは一歩、二歩、先に進んでいると言っていい。  もっと言うと、事業名に「国際競争力の高い」という冠が付いていることからも分かるように、インバウンド需要の取り込みが目的の1つ。福島県は、原発事故の影響が残っているほか、最近では処理水海洋放出があり、隣国から非難された。その点でも、福島県はあまり有利な条件とは言えない。  「スノーリゾート形成事業」だから、当然、事業採択地域は雪国。八幡平(岩手県)、夏油高原(同)、蔵王(山形県)、那須塩原(栃木県)、越後湯沢(新潟県)、妙高(同)など近県が多い。近くでもスノーリゾート事業を促進しているところがある中で、どうやって福島県に来てもらうかが問われる。 処理水放出の影響  そもそも、処理水海洋放出の影響はどうなのか。会津若松市の観光関係事業者はこう話す。  「海洋放出直後は、イタズラ電話がひどくて電話線を抜いていたほどですが、しばらくすると落ち着きました。あるエージェントによると、中国、韓国などでは20代、30代くらいの若い世代はあまり気にしていないそうです。ただ、その親世代に『日本に観光に行く』と言うと、あまりいい顔をされなかったり、明確に止められたり、ということがあると話していました」  一方、会津地方の外国人観光客ツアーガイドは次のように明かした。  「私のところでは、台湾からの観光客が最も多く次いで中国です。中国人観光客については、嫌がらせの電話が問題になった時期は予約キャンセル等がありましたが、少しするとだいぶ落ち着きました。紅葉シーズンは例年並み、スキーシーズンも例年並みになるのではないかと思います。中国では昨年、冬季北京オリンピックがあり、その開催が決まった2015年ごろから、ウインタースポーツ、特にスキーブームがきているんです。日本では80年代後半から90年代初めにかけてスキーブームが起きましたが、(中国のスキーブームでは)純粋にその10倍の人がスキーを求めていると思っていい。一方で、中国ではまだまだスキー場が十分ではなく、いま盛んに開発が行われていますが、どうしても時間がかかります。ですから、中国からスキー客を呼び込むチャンスであるのは間違いありません」  一方で、このツアーガイドは「どこまで言っても来ない人は来ない。そういう人に来てもらおうと、例えば『会津地方は原発から離れている』ということを情報発信したとしても意味がないんです。ですから、来てくれる可能性がある人に向けて、気を引くようなコンテンツを用意したり、営業をかけるということに尽きると思います」とも話した。  スノーリゾート形成事業に話を戻す。計画を策定し、事業事務局の役割を担う会津若松観光ビューローによると、今年度は外国人観光客のための多言語の看板や、スキー場内でのWi―Fi整備、バスやタクシーなどの交通整備を行うという。具体的には、以前からJR会津若松駅とアルツ磐梯を結ぶ冬季限定の直通バスがあるが、それを市内の宿泊施設にも乗り入れるようにするほか、東山温泉街からの直通バスを新設する。  「初年度ということもあり、手探りの部分はありますが、今後はエリア内のスキー場の共通パスの発行や、さらなる交通整備、ペンションなどではキャッシュレスに対応していないところも多いので、その整備、エリアの拡大など、やれることはまだまだあると思います。今年度はスタートの年で、そのための意識合わせが軸になると思います」(会津若松観光ビューローの担当者)  ここで2つ疑問が浮かぶ。  1つは、磐梯町・北塩原村のスキー場と会津若松市の宿泊施設、温泉宿などをつなげるにしても、スキー場によっては自前のホテルを有しているところもある。さらに、磐梯町・北塩原村にはペンションが多数存在している。自前のホテルを有しているスキー場の営業マンや、磐梯町・北塩原村の観光協会関係者などが外国人観光客(スキー客)を呼び込む際、「宿泊には会津若松市の温泉宿がおすすめです」ということになるだろうか。「宿泊は自前のホテル、町内・村内の宿泊施設に」となるのが普通ではないか。  この疑問に対して、会津若松観光ビューローの担当者は次のように説明した。  「外国人観光客は1週間とか、ある程度の期間、滞在するケースが多い。当然、毎日スキーをするわけではなく、滑らない日もあるので、その日は会津若松市内の歴史・文化などの観光施設を回ってもらう、と。スキー場が近くて、これだけの観光施設を備えているところはなかなかありませんから、スキーと歴史・文化、温泉などをセットにして売り込んでいこうというのが、この計画の1つです」 猪苗代町は独自路線!?  もう1つの疑問は、会津磐梯山地域の周辺エリアでは、猪苗代町にもスキー場があるが、同町は同計画のメンバーに入っていない。これはなぜなのか。  「その辺はよく分かりませんが、宿泊施設や飲食店など、ベースタウンとしての機能が十分でない、ということではないでしょうか。ただ、先ほども話したように、いずれはエリアを拡大できればと思っています。それこそ、猪苗代町もそうですし、喜多方市も『食』(ラーメン)の点で強いコンテンツがありますから、一体となって売り込み、誘客につなげられればと思います」(同)  猪苗代町の関係者によると、「私の知る限りでは、今回の件(スノーリゾート形成事業)で話(誘い)はなかった」という。  一方、北塩原村の観光事業関係者はこう話す。  「猪苗代町は独自路線ということでしょう。遠藤さんのところは資金力もあるでしょうから」  この関係者が言う「遠藤さん」とは、ISグループ代表の遠藤昭二氏のこと。会津地方の住民によると、「遠藤氏は猪苗代町出身で会津工業高校を卒業後、東京でビジネスに成功し、近年は地元に寄付をしたり、さまざまなビジネス上のプロジェクトを立案・実施しています。それだけ地元に貢献しているのだから、すごいですよね」という。  ちなみに、本誌は過去に遠藤氏への取材を試みたが、同社広報担当者は「基本的に、当社・遠藤個人へのメディア取材はお断りさせてもらっています」とのことだった。  猪苗代町にISグループの関連会社「DMC aizu」があり、同社は猪苗代スキー場などを運営しているが、前出・北塩原村の観光事業関係者は、そうした背景から「DMC aizu(猪苗代スキー場)は資金力があるから、独自路線なのだろう」との見解を示したわけ。 アルツ・猫魔が連結 「ネコマ マウンテン」のイメージ(HP掲載イメージを本誌が一部改変)  ところで、今回のスノーリゾート形成事業で、1つ目玉となっているのが、磐梯町のアルツ磐梯と北塩原村の猫魔スキー場の連結だ。両スキー場はともに、星野リゾート(本社・長野県軽井沢町)が運営している。同社は2003年からアルツ磐梯を運営しており、2008年に猫魔スキー場を取得した際、両スキー場を尾根をまたいでリフトでつなぐ構想を持っていた。  ただ、当時の地元住民などの反応は「この地域は国立公園だから規制が厳しい。新たに建造物(リフト)をつくって山をまたいで連結させるなんて本当にできるのか」というものだった。  夢物語のように見られていたわけだが、ようやく許可が下り、リフトが建設できるようになった。連結計画が浮上してから約15年かかったことになるが、これは今回のスノーリゾート形成事業に選定されたことと関係しているのか。  アルツ磐梯の広報担当者によると、「許可自体はスノーリゾート形成事業に選ばれる前に下りていた」とのこと。  ただ、タイミングを考えると、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進」のために、許可された可能性もあるのではないか。だとするならば、同事業採択はすでに大きな意味を持つことになる。  アルツ磐梯はコースが豊富、猫魔スキー場は営業期間が長いといったそれぞれの利点があり、同社ではこれまでもアルツ磐梯と猫魔スキー場の共通リフト券を発行するなど、同地域内に2つのスキー場を有する強みを生かしてきた。ただ、両スキー場の行き来には、山を迂回しなければならないため、クルマで1時間ほどかかっていた。冬季の路面状況を考えると、もっと時間を要することもあっただろう。  それが、山の頂上をリフトで数分で行き来できるようになる。これに伴い、アルツ磐梯と猫魔スキー場という2つのスキー場ではなく、「ネコマ マウンテン」という1つのスキー場になる。かつてのアルツ磐梯は「ネコマ マウンテン 南ゲート」、猫魔スキー場は「北ゲート」という名称になる。2つのスキー場が一体化したことで、33コース、総滑走距離39㌔、ペアリフト11基、クワッド2基、スノーエスカレーター1基を備える国内最大規模になるという。  「予約等が大きく動くのは12月に入ってからですが、現在(本誌取材時の11月中旬時点)のところ、出足としては良好です。今シーズンはコロナ前の水準に戻るのではないかと予測しています。未だに(原発事故関連の)風評被害の影響はありますが、(スノーリゾート形成事業の)エリアとして誘客できればと思っています」(前出・アルツ磐梯の広報担当者)  前段でも述べたように、今回の事業はインバウンドを取り込み、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することが目的。そんな中、福島県は、処理水海洋放出を含めた原発事故の影響があり、決して有利な条件とは言えない。加えて、近県でもスノーリゾート形成事業の採択地域が複数ありライバルとなる。国内最大級のスキー場や、歴史的・文化的な観光施設、温泉地といったハードは整っているが、難しい条件の中で、どうやって観光客を呼び込むかが問われている。

  • 開局70周年を迎えた【ラジオ福島】

    開局70周年を迎えた【ラジオ福島】

     ラジオ福島(本社・福島市)が12月1日で開局70周年を迎えた。1953年(昭和28年)に全国で30番目のAMラジオ局として開局。県内初民間放送局の第一声は山崎義一アナウンサーの「こちらはラジオ福島でございます」という声だった。  放送される番組はバラエティーに富んでおり、開局と共に始まった「昼の希望音楽会」をはじめ「歌のない歌謡曲」、「農家の皆さんへ」などは局を代表する長寿番組である。朝、昼、夕方に放送されているワイド番組は、県内著名人や企業担当者、県民リポーターが登場するほか、生中継車両「いってみっカー」を使ったイベント中継が入るなど、徹底した地域密着型の内容となっている。「福島競馬実況中継」、「ふくしま駅伝中継」といった地元のスポーツ中継も同局の名物番組だ。  ラジオ局には災害時の情報収集と発信者としての役割もある。2011年(平成23年)の東日本大震災の際は、発生直後から15日間にわたり通常編成・コマーシャルをほぼ休止し、震災関連の特別報道番組の放送を続けた。以降も防災特設サイトを開設したり、平時も「rfc命を守るキャンペーン」として防災・交通安全・健康・防犯の啓発活動を続けている。 開局当時のラジオ福島本社 開局当時の放送の様子  開局記念日である12月1日から3日にかけては、開局70周年記念イベント「rfc感謝祭」が繰り広げられた。1日の福島市会場(キョウワグループ・テルサホール)では平日昼に放送されているワイド番組「Radio de Show(ラジオでしょう)」のパーソナリティーが勢揃いし、公開生放送で番組を届けた。併せてプロデューサー・ラジオパーソナリティーとして活躍する佐久間宣行さん(いわき市出身)をゲストに迎えた特別番組の公開収録も行われた。  2日はプラネタリウムクリエーター・大平貴之さんらをゲストに招いた「SUNKINスペシャル@スペースパーク」、3日は毎週日曜日に放送の人気番組「大和田新のラヂオ長屋」、同社OB・OGの制作で毎月最終日曜日に放送中の「回れ青春! みんなのレコードコンサート」の公開生放送で感謝を伝えた。  目や体の不自由な人たちへ募金を呼びかける「通りゃんせキャンペーン」は今年47回目を迎えた。募金総額は約5億2550万円となり、音の出る信号機や音声案内装置などを県内に贈っている。年末恒例のチャリティー・ミュージックソンも70周年企画で展開する。  開局70周年を迎え、同社の花見政行社長は「県民・リスナーの皆さんに支えられ、今があることに感謝し、県民ラジオとしての使命と誇りを胸に秘めて、愛され信頼される放送、番組づくりにまい進する」と今後に向けた意気込みを話す。  次なる節目の年に向けて、同社では引き続き県民に寄り添いながら放送を続けていく考えだ。

  • 「最終処分場」反対運動が過熱する【郡山市田村町】

     郡山市田村町の国道49号沿いに「谷田川地区最終処分場施設絶対反対!!」という看板が立てられている。谷田川行政区と「やたがわ環境を守る会」が設置したものだ。  「最終処分場施設」とは、同地区で計画されている産業廃棄物の最終処分場のことを指す。現在複数個所で整備計画が進められており、地元住民が猛烈な反対運動を展開しているのだ。  前出「守る会」の石井武四郎代表は反対理由をこのように語る。  「国道49号に沿って流れる谷田川の水は広範囲で農業用水として使われています。最終処分場は山の一角を切り崩して設置される計画ですが、仮に汚水が川に流れることがあれば深刻な影響を及ぼします。この辺は多くの世帯が井戸水を使っているので、地下水への影響も心配です。地区内にそうした施設ができることで過疎化が進む可能性もあります」  処分場建設を計画しているのはミダックホールディングス(静岡県浜松市、加藤恵子社長)。1952(昭和27)年創業。資本金9000万円。民間信用調査機関によると、2023年3月期は売上高17億3600万円、当期純利益7億8000万円。  9月には整備計画について、地元説明会が田村公民館で開催された。  計画によると、建設される最終処分場は管理型(分解腐敗して汚水が生じる廃棄物などを埋め立てる処分場)で、埋め立て面積約7㌶、埋め立て容量約160万立方㍍。  だが、自然環境や農業への影響を懸念する住民と、安全性を強調する事業者側の溝は埋まらず、公民館の貸出時間が過ぎたということで、住民の理解を得ないまま終了した。  「10月にも説明会が開かれましたが、事業者から『13年間産業廃棄物を埋め立てた後、15年間にわたって管理し、その後は管理を終了する予定』と言われました。予定地のすぐ近くは市ハザードマップで土砂災害特別警戒区域に指定されており、不安は尽きません」(石井代表)  この計画地の上流(平田村・いわき市側)に当たる田村町糠塚でも管理型の最終処分場の建設が進められている。本誌2019年8月号では同処分場の工事が停滞している旨を取り上げたが、「現在は工事が開始されており、国道をダンプが何台も行き来している。1カ所できるだけでも環境の変化を感じているのに、さらに何カ所も建設され、稼働したらどうなるのか」(同)。  「なぜ、この地域ばかり迷惑施設を受け入れなければならないのか」という負担感も反対運動の大きな理由になっているようだ。  郡山市議会9月定例会の一般質問で、岡田哲夫市議(2期)が市の関わりを尋ねたところ、環境部長が「廃掃法に違反していないことを確認し、6月16日付で事業計画書の審査を完了した」と答弁した。現時点で市から設置許可は出されていない。  「住民の強力な反対があれば建設強行はできないのではないか」との問いには、環境部長が「周辺住民の同意は廃掃法上、許可要件とされていない。環境省からも『要件を満たす場合は必ず許可しなければならない』と通知が出ている」と答えた。一方で、「事業者(ミダックホールディングス)には口頭と文書で住民の理解を得るよう求め、地元自治会・区長会から出た意見は文書で伝えている」とも述べた。  田村町地区の住民がほとんど反対している中で、今後、品川萬里市長がどう対応するか問われる、とみる向きもある。新たな事実が分かり次第、リポートしていきたい。 国道49号沿いに設置された看板

  • 【オール・セインツ ウェディング】幸せ壊した郡山破綻式場に憤る若夫婦

    【オール・セインツ ウェディング】幸せ壊した郡山破綻式場に憤る若夫婦

     本誌7、8月号でJR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウエディング」が6月8日に事業停止したことを報じたが、本誌編集部への被害告発が未だにやまない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声  10月下旬には、7月に式を挙げる予定だった男性から《返金も厳しい状況で、これは詐欺に当たるのではないか》というメールが届いた。  11月上旬には、福島市在住のAさん夫婦が直接取材に応じてくれた。この若夫婦は事業停止16日後の6月24日に式を挙げる予定だった。  「初めて式場を訪れたのは2021年5月です。ネットの口コミ評価が高く、館長(㈱オール・セインツの黒﨑正壽社長)や担当者の対応も良かったので、ここで式を挙げようと決めました。ただ式は22年10月の予定でしたが、途中、私の妊娠が判明し、出産予定が同年8月だったので23年6月に延期した経緯があります」(Aさんの妻)  夫婦は契約の内金として既に10万円を支払っていたが、延期を受けて式場から「延期日に式場を確保するには費用を先払いしてほしい」と言われ、110万円超を支払った。参列者は20人弱を予定していた。  その後、無事に出産し、体調の回復に合わせて式場と打ち合わせを重ねていったが、その間に担当者が2回代わり、館長も次第にやつれていくなど、若夫婦は式場の異変を感じるようになったという。  「正直、心配にはなったが、私たちのほかにも打ち合わせをしているカップルが複数いたので、大丈夫なんだろうと思っていました」(Aさん)  ただ、事業停止の予兆だったのか今年4月にはこんな出来事も。  「私たちの両親が式場に来て衣装合わせをしたのですが、その支払いをしようとクレジットカードを出したところ『今、カードは受け付けていない』と言われたのです。仕方なく現金(10万円超)で払ったが、カードが使えないってどういうこと?と思って……」(Aさんの妻)  それでも、5月下旬の直前打ち合わせでは式で上映するDVDの映像を確認し、招待状も発送して、担当者からは「当日が楽しみですね」と声をかけられていた。  夫婦のもとに悲しい連絡が届いたのは6月8日だった。  「実家の母から『式場に預けていた留袖が宅配便で返されてきた』という連絡が来たのです。慌てて式場に電話したがつながらず、ネットで検索すると閉鎖と出てきた。式場隣りのホテルに問い合わせたら従業員が様子を見に行ってくれて、そこで初めて事業停止の張り紙があるのを確認しました」(Aさんの妻)  知人の弁護士に相談すると「支払い済みの120万円超が返金される可能性は低い」と助言された。  途方に暮れる夫婦が式場の代理人を務める山口大輔法律事務所(会津若松市)に問い合わせると、事務員から「7月中に破産を申し立て、早ければ8月に裁判所から債権者に連絡がある」と言われた。ところが9月になっても連絡はなく、10月に再度問い合わせると「まだ破産申し立ての準備ができていない」と素っ気ない答えが返ってきた。  「事務員の面倒くさそうな物言いに『こっちは被害者なんだぞ!』と腹が立ちました」(Aさんの妻)  11月19日現在、オール・セインツが破産を申し立てたという情報は入っていない。突然、結婚式が中止され「両親や親族に晴れ姿を見せたかった」という若夫婦は「やっぱり式を挙げたいけど、もう一度初めから準備をするのは大変だし、そもそも信用できる式場が見つかるのか」と気持ちが複雑に揺れ動いて新たな一歩を踏み出せずにいる。  どんな企業も破産すれば周囲に迷惑をかけることになるが、「幸せ」を商売にする企業が顧客を「不幸」にするのは、あまりに罪深い。

  • 【NHKドキュメント72時間】二本松の24時間ドライブイン【4月5日放映】

     二本松市で24時間営業を続けるドライブインに全国から老若男女が訪れている。4月5日放映のNHK番組「ドキュメント72時間」の舞台となり、さらに注目が集まる。昭和の産物であるドライブインがなぜ注目されるのか。なぜ52年間も24時間営業を続けてこられたのか。秘密を探った。(小池航) レトロブームで脚光を浴びる【二本松バイパスドライブイン】  平成生まれで市内出身の筆者は、二本松バイパスドライブインに入るのは初めてだ。年季の入った「ドライブイン」「サウナ」の看板を外から目にはしていたが、「トラックドライバー以外お断りなのでは」と感じ、躊躇していた。  店に入ると右手に30畳ほどの小上がりがあり、正面と左手にテーブル席がある。窓際にはクリーム色の固定シートがあるボックス席。その奥にはアーケードゲームの筐体があり、1人の客が熱中していた。  平日夕方の店内は1人男性客が多い。食事の勘定は先払いのようだ。厨房前の壁に掛かったメニューを眺めていると、モツ煮定食の甘辛いにおいが漂ってきた。背後からはタオルを首に掛けた男性が慣れた手つきで500円を払い、レジ後ろの浴場に入っていった。  レトロブームで昭和、平成を生き残った店が脚光を浴びている。二本松市の国道4号上り線沿いにある二本松バイパスドライブインもその一つ。創業当時から24時間営業を続けているのは全国でも珍しい。直近ではNHKの人気番組「ドキュメント72時間」の舞台となった。  実は、二本松市にドライブインと名の付く飲食店は三つある(地図参照)。番組の舞台となった「二本松バイパスドライブイン」(通称バイドラ・二本松市杉田)と、国道4号下り線沿いの「二本松ドライブイン」(同市長命)、そして東北自動車道二本松インターチェンジ近くの「二本松インタードライブイン」(同市成田町)だ。国道4号下り線沿いのドライブインは昼と夜に営業しラーメンが有名。二本松インター近くのドライブインは営業が確認できておらず、閉店の情報がある。筆者が電話を掛けたところ「この回線は現在使われていない」とのアナウンスが流れた。 名物おかみが支える深夜営業 「体が動く限り店で働きたい」と厨房前に立つ橋本宏子さん  「ドキュメント72時間」の舞台となった二本松バイパスドライブインには創業時から働く「名物おかみ」がいる。おかみこと現オーナーの橋本宏子さん(81)が当時を振り返る。  「1972(昭和47)年に夫の父親が店を始めました。義父は精米業やメリヤス業に携わり、実際に店を切り盛りしたのは私たち夫婦です。当時はトラックドライバーが休憩する道の駅やコンビニがなく、ドライブインは24時間営業が当たり前でした。素人が飲食店経営を任されたので、苦労の連続でした」  店は3交代制で料理人、ホールスタッフら総勢二十数名の従業員で回している。1日当たり約250人の客が入るという。宏子さんは夕方出勤し、深夜3時まで勤務。人手が足りないと、日中のシフトに入ることもある。「私はもう後期高齢者」と謙遜するが、全国でも稀有な24時間営業のドライブインは、宏子さんのバイタリティで成り立っていると言っても過言ではない。  経営に携わる息子の信一さん(59)が窓の外を見て、国道を挟んで向かい側の小高い山を指した。  「今店が立っている場所にはもともと、あの高さと同じくらいの山がありました。店を建てる時に造成しました。現在、周辺は平らですが、国道4号は片側1車線で谷間を走っていました。今でこそ郊外店が沿線にたくさん並びますが、50年前はこうなるなんて想像もつかなかったでしょう」  店の前を通る国道4号二本松―本宮区間は1970年代以降に4車線化工事が始まり、遅くとも2002年までに完了した。  開業当初、二本松バイパスドライブインは長距離トラックのドライバーが主な客だった。大型トラック30台は停められる広い駐車場を整備した。全国のドライバーに名が知られるようになったのは、1970年代に放送が始まったTBSラジオの深夜番組「いすゞ歌うヘッドライト~コックピットのあなたへ」だったという。番組にはラジオ局から全国のドライブインに電話を掛け、居合わせたドライバーや店員が天気や道路情報を報告するコーナーがあった。  「番組の時間になるとラジオ局から電話が掛かってきてね。店にいたドライバーによく出演してもらっていた。2、3年は中継地になったかな」(宏子さん)  北海道・苫小牧からフェリーで仙台に着き、東京に向かう長距離トラックのドライバーが毎回立ち寄ってくれたのは懐かしい思い出だ。  70年代後半には映画『トラック野郎』のロケ地にもなった。宏子さんの記憶では、どのシリーズに出たかは曖昧。ただ「ギンギラギンのライトで装飾したトラックが10~20台並んで停まっていた」ことは明確に覚えている。  全国で道路網の整備が進み、長距離トラックが通る道は次第に高速道路に移っていく。開業から3年経った1975年4月には東北自動車道の郡山(福島県)―白石(宮城県)間が開通し、国道4号は「下道」となったが、店は良好な立地であり続けた。  二本松バイパスドライブインがある二本松市は県都・福島市と商都・郡山市の中間地点に位置し、営業車の行き来が多い。福島―郡山間は約50㌔で片道1時間半程度のため、ドライバーは高速よりも下道を使う。同店では客に占めるトラックドライバーの割合は確かに減っているが、代わりに営業職、建設業者、近くの工場の従業員が昼時に訪れる。  こうした事情から客の7~8割は壮年男性だが、近年は若者や女性、家族連れも見かけるようになった。  きっかけは東日本大震災、そしてここ2、3年で盛んになったユーチューバーの動画投稿だ。  「大震災直後、市内は停電になりました。断水や停電、燃料不足が続いた影響で、店の風呂に入りに来る方がいました。浴場は時代にそぐわないと思っていましたが、その時、まだまだ地域に必要とされていると感じました」(信一さん) 長距離ドライバーから地元客にシフト 創業した1972年から変わらないレトロな外観の「二本松バイパスドライブイン」  広い座敷があり、テーブル席を含めれば約100人収容できるため、地区の行事の反省会、消防団の食事などに利用される。今は地元密着型の大衆食堂としての性格が強い。  さらに、ユーチューバーが撮影しネットに投稿した動画が思わぬ効果をもたらした。  「以前通っていた地元のお客さんがまた来てくれるようになりました。20年ぶりに来た方から『動画を見たよ』と言われた時は嬉しかったですね」(同)  経営危機はあった。新型コロナでまん延防止等重点措置が発令された際、飲食店は営業時間短縮を迫られた。夜8時から朝6時までの営業を自粛し、初めて24時間営業を中断した。時短勤務に協力してもらった従業員は、新型コロナ収束後も変わらず働いてもらっている。  新型コロナの感染症法上の位置付けが引き下げられた2023年5月以降は、新規客が目立つ。  「昨晩も福島市から若者のグループがわざわざ来てくれました。夜9時を過ぎると開いている飲食店が少ないと言っていました」(宏子さん)  大手ファミレスの中には人手不足から深夜営業を取りやめる店が出ている。24時間営業の飲食店が減っていることや折からのレトロブーム、さらにネット動画で店内が紹介され「一見さん」が来やすくなったことが若者の支持を得るきっかけになったようだ。とはいえ、店はこのブームに少々戸惑っている。  「居酒屋とも違うし、カフェとも違うし、風呂もゲームもあるわで何だか分からない空間です。店としては料理を早く旨く作り、なるべく安く出す。創業時から同じことを繰り返してきただけなのですが……。ファッションと同じで、時代が1周したんでしょうね」(信一さん)  宏子さんの思いは創業時から変わらない。「『おいしかった。また来ます』と言われるのが一番うれしいですね。ただ『24時間いつまでも続けてください』と応援されると、嬉しいけど『まいったなー』とも思います」と笑顔で話す。宏子さんは信一さんを見やりながら「後のことは息子か孫だない(だねえ)」  信一さんの息子は、調理師専門学校を卒業し、今は中華料理店で修業中だ。学生時代はドライブインを手伝っていた。信一さんは「息子に期待はしていますが、本人の気持ち次第ですからね」と静かに見守る。  全国から注目されるのは喜ばしいが、本誌には地元の常連から「ブームが早く落ち着いてほしい」との声が寄せられる。混雑する昼時を避け、遅めに来店する常連もいるほど。市内出身の筆者としては、ブームを機に訪れる人が増えるのは嬉しいが、一段落した後に訪ね、ゆっくり食事をすることを勧める。一過性で終わらせるのではなく、息の長い利用が何よりも店の応援になる。 注:休みは日曜夜12時(月曜深夜0時)から月曜朝6時の6時間。 国道4号線 ドライブインは眠らない 初回放送日: 2024年4月5日

  • 震災直後より深刻な福島県内企業倒産件数

     民間信用調査会社の東京商工リサーチが発行している「TSR情報」(福島県版、1月15日号)によると、昨年1年間の県内企業の倒産件数(負債額1000万円以上)は80件で、震災・原発事故の翌年以降では最多だったという。本誌昨年12月号で、コロナ支援の「ゼロゼロ融資」で倒産件数は抑えられたが、返済が本格化し、倒産件数は増加に転じていると指摘した。それが如実に現れている格好だ。 コロナ融資の返済スタートで顕在化  東京商工リサーチ(『TSR情報』福島県版)のリポートによると、昨年1年間の県内企業の倒産件数(負債額1000万円以上)は80件で、負債総額は135億2600万円だった。月別の倒産件数、負債総額は別表の通り。2022年は66件、124億8300万円、2021年は50件、108億8400万円だったから、前年比で14件増、2021年比で30件増になる。倒産件数は、東日本大震災・福島第一原発事故の翌年以降、最多だったという。なお、2011年は99件、以降はおおむね40~60件台で推移している。 2023年月別の倒産件数と負債総額 月倒産件数負債総額1月2件2億7100万円2月10件32億6500万円3月6件2億8500万円4月1件1億円5月7件5億1100万円6月14件35億0700万円7月7件4億1300万円8月5件7億0400万円9月2件2億2300万円10月6件8億9800万円11月6件7億3300万円12月14件26億1600万円計80件135億2600万円  業種別ではサービス業が最も多く25件、そのほか、建設業が16件、製造業が15件だった。うち、新型コロナウイルス関連倒産は45件で、半数以上を占めた。  《ゼロゼロ融資はコロナ禍の企業倒産抑制に大きな効果を見せた。ただ、副作用として過剰債務を生み、業績回復が遅れた企業ほど、期間収益での返済原資確保が難しくなっている。経済活動が平時に戻る中、過剰債務は新たな資金調達にも支障を来している》(同リポートより)  このほか、燃料、電気、物価の上昇、経済活動再開に伴う人手不足などの要因を挙げ、さらには処理水放出に伴う新たな風評被害の懸念もあり、企業を取り巻く事業環境は厳しさを増しているため、引き続き注視が必要としている。  本誌では昨年12月号に「新型コロナ『ゼロゼロ融資』の功罪」という記事を掲載し、その効果などを検証した。  ゼロゼロ融資は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が中小企業の資金繰り支援として実施した実質無利子・無担保の融資。コロナ禍前と比較して、売り上げが15〜20%以上減少などの条件を満たせば、担保がなくても資金を借りることができ、利子も3年間は負担しなくていい。元本は信用保証協会が担保し、都道府県が利子を支払う仕組みだ。  融資期間は10年以内(据え置き期間は5年以内)で、無利子期間は3年。最大3億円まで借りられる。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など政府系金融機関を窓口に2020年3月から始まったが、申し込みが殺到したため同年5月から民間金融機関でも受け付けた。  県内でのゼロゼロ融資の実績は、約2万3300件、約3571億円というから、多くの中小企業がこの制度を利用したことが分かる。  一方で、前述したように無利子期間は3年間で、昨年夏ごろに返済開始のピークを迎えた。実際、大部分の企業が返済をスタートさせているという。県信用保証協会が公表している保証債務残高の推移を見ると、2021年度末は約5688億円、2022年度末は約5661億円、2023年12月末は約5330億円と少しずつ減少している。  一方、倒産企業の債務を信用保証協会が肩代わりする代位弁済額は、2021年度が242件、約21億円(前年比73・5%)、2022年度が302件、約35億円(同164・3%)に増加。2023年度は12月までに295件、39億円となっている。金額ベースではすでに前年を超えており、年度末までには件数、金額ともにさらに増えると思われる。 制度検証と経営支援を  さらに、朝日新聞(昨年11月8日付)によると、《22年度末時点の貸付残高は14兆3085億円(約98万件)。うち回収不能もしくは回収不能として処理中は1943億円、回収が困難な「リスク管理債権」(不良債権)が8785億円だった。計1兆0728億円》《国は日本公庫や商工中金など政府系金融機関に約31兆円の財政援助をしている。金利負担にも国費が使われており、損失は国民負担につながる》という。  こうした状況について、本誌昨年12月号記事では、次のように指摘した。    ×  ×  ×  ×  本来は早々に退場すべき企業が、異例の支援策のおかげで延命されたケースは結構あったはず。結果、一定程度の〝ゾンビ企業〟を生み出したことは事実だろう。  「実質無利子・無担保なんて本来はベンチャー企業を対象にすべき制度でしょう。業種を問わずに門戸を広げればモラルハザードを招きかねない。中には信用保証協会が代位弁済してくれるのをいいことに、計画倒産した悪質経営者もいたかもしれない。残すべき企業と退場させるべき企業を選別するのは正直難しいが、少なくともゼロゼロ融資に55兆円もの税金を使ったのはやり過ぎだったのではないか」(あるジャーナリスト)  かつて公共事業費が年々減っていた時代、増え続ける建設会社をいかに〝安楽死〟させるかが県庁の中で大きな課題になったことがある。同じことは〝ゾンビ企業〟にも言えるのかもしれない。    ×  ×  ×  ×  ここで指摘したように、本来なら、収益力が低く、コロナがなかったとしても、いずれは倒産・廃業していたであろう企業を延命させ、挙げ句、税金で債務を肩代わりしたケースもあったのは間違いない。その一方で、飲食店や宿泊業などを中心に、深刻な影響を受けた中、ゼロゼロ融資のおかげで多くの企業が存続できたのも事実だろう。ただ、当初から懸念されていたことだが、返済が本格化すると同時に、倒産件数が増加していることが、あらためて浮き彫りになった。  政府は「ゼロゼロ融資」が適切だったのか、きちんと検証すると同時に、今後は売上回復に向けた経営的な支援策が求められよう。

  • 意見交換会で見えた本宮市子ども食堂の現状

     本宮市内の子ども食堂をサポートしている「本宮市社会福祉協議会フードバンク」による支援品贈呈式が昨年12月15日、本宮市商工会館で行われた。同バンクは同社協と本宮市商工会が事業協定を結んで一昨年に始まったもので、民間事業所が「協賛会員」となり、同社協や子ども食堂に支援品を提供する。昨年から本宮ライオンズクラブ、本宮ロータリークラブも活動に加わっている。  今回支援品が贈られたのは同社協のほか、▽子ども食堂「コスモス」、▽一般社団法人金の雫「みずいろ子ども食堂」、▽社会福祉法人安積福祉会しらさわ有寿園「こころ食堂」、▽NPO法人東日本次世代教育支援協会NA―PONハウスふくしまキッズエコ食堂、▽a sobeba lab.(ア・ソベバ・ラボ)。支援品の内訳はコメ30㌔21袋、寄付金46・5万円、冷凍食品、うどん・ラーメン、レトルト食品、生卵、タオルなど。  本宮市商工会の石橋英雄会長は「人口減少抑制につながればという思いで始めた。マスコミなどで活動を周知していただいたこともあり協賛会員は38事業所まで増え、市民にも浸透してきた。長く続けていきたい」と述べた。本宮ライオンズクラブ、本宮ロータリークラブの関係者もあいさつした。  当日出席した子ども食堂の運営団体関係者は支援に対する謝辞を述べるとともに、活動報告を行った。その後、意見交換会の時間が設けられ、現状や課題について語り合った。  それぞれの話から見えてきたのは、支援を必要としている生活困窮者は多く存在していること、そして食事を提供する場がその情報を得るきっかけとなっているということだ。  同社協では生活困窮者に食料を提供しているが、今年度は上半期を終えた時点で昨年度の件数を上回っているという。生活困窮者と一口に言っても、ニート生活を過ごしていたが親の死を機に独り立ちを余儀なくされ安定した収入を得られない人、派遣社員として本宮市に来たものの契約終了し生活に困っている人、年金暮らしで過ごす老老介護状態の親子など、背景は多岐にわたる。  ある子ども食堂関係者は「多くの人にもっと気軽に足を運んでほしいが、自分から『支援してほしい』とうまく伝えられない人もいる。そうしたところには協力者や元民生委員などを通じて食料品を持っていってもらっている。子ども食堂がたくさんできて近所のことを把握できる状態になるのが理想だ」と話した。  一方で、「企業から個別に提供してもらっていた食料品の数が半分に減った。物価高の影響だと思われる」、「自宅のスペースを使って子ども食堂を開いているので、電気代・燃料費値上がりの影響が大きい」といった報告も聞かれた。市からは運営経費に関する補助金が給付されているが、1回開催につき1万円程度で、決して余裕があるわけではないという。自宅を使って運営している人は、食料品を保管するスペースがないという問題もあるようだ。  このほか、開催していることを近隣に周知する難しさを訴える声も上がった。まずは同商工会内でPR・サポートする案が話し合われたが、小中学校や放課後児童クラブ、子ども会などと連携してチラシを配ったりイベントと同時開催し、利用を呼びかけるのも一つの方法だろう。  このように課題は少なくないようだが、経済界が先頭に立って子ども食堂を応援し、地域振興につなげようとする取り組みには意義がある。引き続き注目していきたい。

  • 【会津若松】神明通り廃墟ビルが放置されるワケ

     会津若松市の中心市街地に位置する商店街・神明通り沿いに、廃墟と化したビルがある。大規模地震で倒壊する危険性が高いと診断されており、近隣の商店主らは早期解体を求めているが、市の反応は鈍い。ビルにはアスベストが使われており、外部への飛散を懸念する声も強まっている。 近隣からアスベスト飛散を心配する声 廃墟のような外観の三好野ビル  神明通りと言えば、会津若松市中心市街地を南北に走る大通りだ。国道118号、国道121号など幹線道路の経路となっており、JR会津若松駅方面と鶴ヶ城方面を結ぶ。通り沿いの商店街には昭和30年代からアーケードが設けられ、大善デパート(後のニチイダイゼン)、若松デパート(後の中合会津店)、長崎屋会津若松店が相次いで出店。多くの人でにぎわった。  もっとも、近年は郊外化が進んだ影響で衰退が著しく、2つのデパートと長崎屋はいずれも撤退。映画館なども閉館し、食品スーパーのリオン・ドール神明通り店も閉店。人通りはすっかりまばらになった。コロナ禍でその傾向はさらに加速し、空きテナント、空きビルが目立つ。  そんな寂しい商店街の現状を象徴するように佇んでいるのが、神明通りの南側、中町フジグランドホテル駐車場に隣接する、通称「三好野ビル」だ。  鉄筋コンクリート・コンクリートブロック造、地下1階、地上7階建て。1962(昭和37)年に新築され、その名の通り「三好野」という人気飲食店が営業していた。同市内の経済人が当時を振り返る。  「本格的な洋食を提供するレストランで、和食・中華のフロアもあった。子どものころ、あの店で初めてビフテキやグラタンを食べたという人も多いのではないか。50代以上であればみんな知っている店だと思います。会津中央病院前にも店舗を出していました」  ただ、いまから20年ほど前に閉店し、一時的に中華料理店として復活したもののすぐに閉店。現在はビル全体が廃墟のようになっている。 壁には枯れたツタが絡まり、よく見ると至るところで壁が崩落。細かい亀裂も入っており、いつ倒壊してもおかしくない状態だ。市内の事情通によると、実際、中町フジグランドホテル駐車場に外壁の破片が落下したことがあり、「近くを通ると人や車に当たるかもしれない」と、同ホテルの負担で塀が設置された。外壁が崩れないようにネットでも覆われた。  ただその後も改善はされず、強化ガラスが窓枠から外れ、隣接する衣料品店の屋根に破片が突き刺さる事故も発生した。衣料品店の店主は次のように語る。  「朝、店に来たら床に雨水が溜まっていた。業者を呼んで雨漏りの原因を調べたら、隣のビルから落ちた大きなガラスの破片が原因だと分かったのです。もし歩行者に直撃していたら亡くなっていたと思います」  消防のはしご車が出動し、不安定な窓ガラスに外から板を張り付ける形で応急処置を施したが、近隣商店主の不安は募るばかりだ。  何より懸念されるのは、地震などが発生した際に倒壊するリスクだ。  県は耐震改修促進法に基づき、大地震発生時に避難路となる道路沿いの建築物が倒壊して避難を妨げることがないように、「避難路沿道建築物」に耐震診断を義務付けている。  会津若松市の場合、国道118号北柳原交差点(一箕町大字亀賀=国道49号と国道118号・国道121号が交わる交差点)から同国道門田町大字中野字屋敷地内(門田小学校、第五中学校周辺)までの区間が「大地震時に円滑な通行を確保すべき避難路」と定められている。すなわち神明通り沿いに立つ三好野ビルも「避難路沿道建築物」に当たる。  昨年3月31日付で県建築指導課が公表した診断結果によると、震度6強以上の大規模地震が発生した際の三好野ビルの安全性評価は、3段階で最低の「Ⅰ(倒壊・崩落の危険性が高い)」。耐震性能の低さにレッドカードが示されたわけ。  耐震性が低いビルを所有者はなぜ放置しているのか。不動産登記簿で権利関係を確認したところ、三好野ビルは概ね①相続した土地に建てた建物、②飲食店を始めた後に隣接する土地を買い足して増築した建物――の2つに分かれるようだ。  ①の所有者は、土地=レストランを運営していた㈲三好野の代表取締役・田中雄一郎氏、建物=雄一郎氏の母親・田中ヒデ子氏。  ②の所有者は、土地・建物とも㈲三好野。同社は1968(昭和43)年設立、資本金850万円。  ただ、雄一郎氏は十数年前に亡くなっており、登記簿に記されていた自宅住所を訪ねたがすでに取り壊されていた。雄一郎氏の弟で、同社取締役に就いていた田中充氏と連絡が取れたが、「会社はもう活動していない。親族は相続放棄し、私だけ名前が残っていた。ただ、私は会津中央病院前の店舗を任されていたので、神明通りのビルの事情はよく分からない」と話した。 会津若松市が特定空き家に指定 壁や窓ガラスの崩落、倒壊リスクがある三好野ビルの前を歩いて下校する小学生  ①の土地・建物には▽極度額900万円の根抵当権(根抵当権者第四銀行)、▽極度額2400万円の根抵当権(根抵当権者東邦銀行)、▽債権額670万円の抵当権(抵当権者住宅金融公庫)が設定されていた。  一方、②の土地・建物には▽債権額1000万円の抵当権(抵当権者田中充氏)が設定されていた。ただ、事情を知る経済人の中には「数年前の時点で抵当権・根抵当権は残っていなかったはず」と話す人もいるので、抹消登記を怠っていた可能性もある。  気になるのは、②の土地・建物が2006(平成18)年、2012(平成24)年、2017(平成29)年の3度にわたり会津若松市に差し押さえられていたこと。前出・田中充氏の話を踏まえると、固定資産税を滞納していたと思われるが、昨年5月には一斉に解除されていた。  市納税課に確認したところ、「個別の案件については答えられない」としながらも「差押が解除されるのは滞納された市税が納められたほか、『換価見込みなし(競売にかけても売れる見込みがない)』と判断されるケースもある」と話す。総合的に判断して、後者である可能性が高そうだ。  行政は三好野ビルをどうしていく考えなのか。県会津若松建設事務所の担当者は「耐震改修するにしても解体するにしてもかなりの金額がかかる。国などの補助制度を使うこともできるが、少なからず自己負担を求められる。そのため、市とともに関係者(おそらく田中充氏のこと)に会って、今後について話し合っている」という。  市の窓口である危機管理課にも確認したところ、こちらでは空き家問題という視点からも解決策を探っている様子。市議会昨年6月定例会では、大竹俊哉市議(4期)の一般質問に対し、猪俣建二副市長がこのように答弁していた。  《平成29年に空き家等対策の推進に関する特別措置法に基づく特定空き家等に指定し、所有者等に対し助言・指導等を行ってきたところであり、加えて神明通り商店街の方々と今後の対応を検討してきた経過にあります。当該ビルにつきましては、中心市街地の国道沿いにあり、周辺への影響も大きいことから、引き続き状態を注視しつつ、改修や解体に係る国等の制度の活用も含め、所有者等や神明通り商店街の方々、関係機関と連携を図りながら、早期の改善が図られるよう協議してまいります》  特定空き家とは▽倒壊の恐れがある、▽衛生上有害、▽著しく景観を損なう――といった要素がある空き家のこと。自治体は指定された空き家の所有者に対し「助言・指導」を行い、改善しなければ「勧告」、「命令」が行われる。「勧告」を受けると、翌年から固定資産税・都市計画税が軽減される特例措置がなくなってしまう。「命令」に応じなかった所有者には50万円以下の過料が科せられる。  それでも改善がみられない場合は行政代執行という形で、解体などの是正措置を行い、費用を所有者から徴収する。所有者が特定できない場合は自治体の負担で略式代執行が行われることになる。この場合、代執行の撤去費用の一部を国が補助する仕組みがある。  ただし、三好野ビルの解体費用は数千万円とみられ、市が一部負担するにも金額が大きい。耐震性でレッドカードが出ている三好野ビルに対し、行政が及び腰のように見えるのはこうした背景もあるのだろう。 コロナ禍で頓挫した活用計画 建物の中を覗いたら看板と車がそのまま置かれていた  「実はあの建物の活用をかなり具体的に検討していた」と明かすのは、神明通り商店街振興組合の堂平義忠理事長だ。  「5年前ごろ、『低額で譲ってもらえるなら振興組合の方で活用したい』と伝え、市役所の関係部署によるプロジェクトチームをつくってもらって本格的に調査したことがありました。経済産業省の補助金を使い、バックパッカー向けの宿泊施設をつくろうと考えていました。解体費用は当時9000万円。一方、改装にかかる総事業費は4億5000万円で、補助金を除く約2億円を振興組合で負担する計画でした」  だが、詳細を話し合っているうちにコロナ禍に入り、そのまま計画は頓挫。仮に再び経産省の補助事業に採択されても、崩落が進んでおり、建設費が高騰していることを踏まえると予算内に収まらない見込みのため、活用を断念したようだ。  同振興組合では三好野ビルについて、毎年市に早急な対応を求める意見書を提出しているが、市の反応は鈍いという。  「この間、まちづくりに関するさまざまな話し合いの場がありましたが、中心市街地活性の計画などに組み込んで解体を進めようという考えは、市にはないようです。事故が起きてからでは遅いと思うのですが……。個人的には、人通りが減ったとは言え中心市街地なので、解体・更地にして売りに出した方が喜ばれるのではないかと思います」(堂平氏)  ある経営者は「三好野ビルには放置しておくわけにはいかない〝もう一つのリスク〟がある」と話す。  「建てられた年代を考えると、内装にはアスベストが使われているはず。吸入すると肺がんを起こす可能性があるため、現在は製造が禁止されているが、仮に地震などで崩壊することがあればアスベストが周辺に飛散することになる。壁が崩落して穴が空いている場所もあるので、周囲に飛散しないか、業界関係者も心配している。市に早急な対応を訴えた人もいたが、取り合ってもらえなかったようです」  前出・堂平氏も「調査に入った際、『4階から上はアスベストが雨漏りで固まっている状態だった』と聞いた」と明かす。  市危機管理課の担当者に問い合わせたところ、三好野ビルの内部にアスベストが使われていることを認めたうえで、「アスベストは建物の内壁に使われており外に飛んで行くことはないので、そこに関しては心配していない」と話す。だが三好野ビル周辺は、地元買い物客はもちろん観光客、さらには登下校の児童・生徒も通行している。万が一のことを考え、せめてアスベストの実態調査と対策だけでも早急に着手すべきだ。  廃墟と言えば、本誌昨年11月号で会津若松市の温泉街に残る廃墟ホテルの問題を取り上げた。  運営会社の倒産・休業などで廃墟化する宿泊施設が温泉街に増えている。そうした宿泊施設は固定資産税が滞納されたのを受けて、ひとまず市が差し押さえるが、たとえ競売にかけても買い手がつかないことが予想されるため対応が後回しにされ、結局何年も放置される実態がある。  近隣の旅館経営者は「行政は『所有者がいるから手を出せない』などの理由で動きが鈍いですが、お金ならわれわれ民間が負担しても構わないので、もっと積極的に動いてほしい」と要望していた。  それに対し会津若松市観光課の担当者は「地元で解体費用を持つからすぐ解体しましょうと言われても、実際に解体を進めるとなれば、(市の負担で)清算人を立て、裁判所で手続きを進めなければならない。差し押さえたと言っても所有権が移ったわけではないので、簡単に進まないのが実際のところです」と対応の難しさについて話していた。  早急な対応を求める周辺と、慎重な対応に終始する市という構図は、三好野ビルも温泉街も同じと言えよう。言い換えれば会津若松市は「2つの廃墟問題」に振り回されていることになる。 市に求められる役割 室井照平市長  ㈲三好野の取締役を務めていた田中充氏は「私は75歳のいまも働きに出ているほどなので、解体費用を賄うお金なんてとてもない」と話す。  一方で次のようにも話した。  「あの場所を取得して、解体後に活用したいという方がいて、各所で相談していると聞いています。県や市の担当者の方には『私個人ではもうどうにもできないので、申し訳ないですが皆さんに対応をお任せしたい』と伝えてあります」  解体後の土地を活用したいと話すのが誰なのかは分からなかったが、解体費用まで負担して購入する人がいるのであれば朗報と言える。  1月1日に発生した能登半島地震で倒壊した石川県輪島市のビルも7階建てだった。三好野ビルが現状のまま放置されれば、同じようなことが起こる可能性もある。もっと言えば、市内には三好野ビル以外に大規模地震が発生した際の安全性評価が最低の「Ⅰ(倒壊・崩落の危険性が高い)」となった建物が7カ所もあった。市はアスベスト対策も含め、地元から不安の声が広がっていることを重く受け止め、この問題に本腰を入れて臨む必要があろう。  昨年の市長選前には室井照平市長も三好野ビルを視察に訪れ、前出・堂平理事長や周辺商店に対し現状を把握した旨を話したという。今こそ先頭に立って音頭を取るべきだ。

  • 「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組み【JAグループ福島】

     JAグループ福島が「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みを始めて、まもなく2年を迎える。  「園芸ギガ団地」構想は令和3(2021)年11月に開催した第41回JA福島大会において、取り組むことが決議されたもの。  本県は全国でもコメの生産ウエイトが高い県の一つ(令和3年農業産出額1913億円、うちコメ574億円=30%)だが、近年の生産過剰基調によりコメの販売価格は低下・不安定化している。  そうした中で農業者所得の増大を図るため、国産需要が見込まれる園芸品目へ生産をシフトする取り組みとして、秋田県の取り組みを参考に同構想を進めている。  県としても、園芸振興の取り組みを後押ししており、園芸産地の生産振興をさらに進めるため、「園芸生産拠点育成支援事業」を創設。手厚い補助(事業費の6割を補助=※1)を行うことで、園芸振興に取り組みやすい環境づくりを進めている。  また、独自の支援策を打ち出している市町村もあり、JA、行政など関係機関が一体となって園芸振興の取り組みを進めている。  県内では、現在、全5JA12地区で「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが進められている。品目は、きゅうり、ピーマン、アスパラガス、トマト、宿根かすみそうなどで、各JA管内の主要園芸品目を中心とした生産振興を行っている。  各JAの今年度の販売高をみると、JAふくしま未来の桃(73億円)、JA福島さくらのピーマン(約7・3億円)、JA会津よつばの南郷トマト(約12・3億円)、昭和かすみ草(約6・4億円)など、過去最高の販売高を計上している。  また、▽GI(地理的表示=※2)の取得(南郷トマト、阿久津曲がりねぎ、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草など)、▽記念日(ふくしま桃、伊達のあんぽ柿、昭和かすみ草、南郷トマト)の制定など、園芸振興の取り組みが県内各地で加速化している。  「ふくしま園芸ギガ団地」構想の取り組みが、福島県の園芸振興の起爆剤となり、農業者の所得増大へとつながっていくことに期待したい。 ※1 事業要件に合致するもの ※2 GI:Geographical Indication(地理的表示)。その地域ならではの自然や歴史の中で育まれてきた品質や社会的評価などの特性を有する農林水産物・食品を国が登録し、その名称を知的財産として保護しているもの。令和5(2023)年7月20日現在、全国で132産品が登録されており、福島県では6産品が登録されている。 昭和かすみ草の生産ハウス団地

  • 反対一色の【松川浦自然公園】湿地埋め立て

     相馬市尾浜の市営松川浦環境公園に隣接する私有地の湿地で、埋め立て工事が計画されている。地元住民や環境団体、相馬双葉漁協は「生活環境が悪化する」、「自然環境が損なわれる」などの理由で反対している。事業者側の担当者を直撃すると、反対意見に対する〝本音〟をぶちまけた。 〝騒いでいるのは一部〟とうそぶく事業者  松川浦は太平洋から隔てられた県内唯一の「潟湖」。震災・原発事故後、ノリ・アサリの養殖は自粛を余儀なくされたが、現在は復活。2020年には浜の駅松川浦がオープンし、同市の観光拠点となっている。一帯は県立自然公園に指定され、多様な自然環境が維持されている。  埋め立て工事が計画されているのは、そんな松川浦県立自然公園内の北西部に当たる同市札ノ沢の私有地。大森山、市松川浦環境公園(旧衛生センター跡地)に隣接する約2㌶の湿地で、松川浦とは堤防で隔てられているが、水門でつながっている。  もともと同湿地を所有していたのは、東京都在住の野崎節子氏(故人)で、〝野崎湿地〟と呼ばれている。かつては絶滅危惧Ⅰ類のヒヌマイトトンボの生息地として知られていたが、津波でヨシ群落が壊滅して以来、確認できなくなった。  「ただ、2022年に県が実施した動植物調査結果によると、レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物の種のリスト)に登録されている植物・昆虫・底生生物が10種以上確認されています。同公園の中でも重要な希少種の生息域です」(かつて野崎氏から同湿地の管理を任されていた環境保護団体「はぜっ子倶楽部」の新妻香織代表)  そうした中で昨年9月、所有者である野崎氏の親族から同湿地を取得したのが、同月に設立されたばかりの合同会社ケーエム(宮城県気仙沼市、三浦公男代表社員)だ。資本金100万円。事業目的は不動産賃貸・売買・仲介・管理、鉱物・砂利・砂・土石、各種建材の販売など。  三浦氏は64歳で、北部生コンクリート(宮城県気仙沼市)の社長でもある。1983年設立。資本金4000万円。民間信用調査機関によると2022年9月期売上高5億8000万円、当期純利益9000万円。  県立自然公園では自然環境に影響を及ぼす恐れのある行為が規制される。ただ、同湿地は県への届け出で土地開発が可能となる「普通地域」で、埋め立ては禁止されていない。ケーエムは11月8日、県に届け出を提出。市には工事の進入路などに市有地を使う許可申請をした。  同17日には、市松川浦環境公園の管理業務を受託するNPO法人松川浦ふれあいサポート(菊地三起郎理事長)の役員を対象とした説明会が開かれた。説明会を担当したのは北部生コンクリートの子会社で、運搬事業を担うアクトアライズ(宮城県仙台市宮城野区、三浦公男社長)。説明会は同法人関係者以外の人にも開放され、県議や市議、住民、漁業関係者、環境団体関係者など約30人が出席した。  説明会の参加者によると、同湿地取得の目的はケーエムの事務所用地の確保。横浜湘南道路(首都圏中央連絡自動車道=圏央道の一部)の建設工事で出た残土など約7万立方㍍で湿地を埋め立てる。土は汚染物質を検査した後、船で相馬港まで運び、車両で現地に運び込む計画だ。  当日出た意見は「汚染されていないか不安になる」、「ノリやアサリは原発事故後、苦難の中で復活した。新たな風評被害が生まれると困る」、「絶滅危惧種が多く生息している場所を埋め立てないでほしい」、「松川浦環境公園は環境省のみちのく潮風トレイルの始発点(終着点)でもある場所。ここの景観を壊すことは大変な損失になる」など。慎重な対応を求める意見が大半だったという。  12月10日には地元住民を対象とした説明会が開かれたが、この前後に新聞報道が出たこともあり、反対意見が続出したようだ。  さらに同12日には地元の細田地区会が工事への反対を決議し、立谷秀清市長に要望書を提出。同日、松川浦周辺の宿泊施設でつくる市松川浦観光旅館組合も、立谷市長に反対の申し入れを行った。同19日には相馬市の相馬双葉漁協が「埋め立てにより周辺の漁場が将来にわたり影響を受ける」として、市に埋め立て反対を申し入れた。  一方、12月4日には、前述した工事の進入路などに市有地を使う許可申請について、NPO法人松川浦ふれあいサポートが「住民への説明が不十分で、地域として不安と不信があることから、市の行政財産使用許可を控えるべき」とする意見書を立谷市長に提出した。  埋め立て計画に対し反対一色となっており、こうした反応を受けて県や市も慎重な姿勢を見せている。  県(知事)は県立自然公園内の「普通地域」の土地開発届け出があった際、風景を保護するために必要があると認められる場合、30日以内に土地開発の禁止・制限、期間延長などの措置を命じることができる。  県自然保護課の担当者は「特に法令違反などはなかったので、措置を命じることはありませんでした」としながらも、「地元住民の理解促進に努め、自然環境への影響を考慮するよう要請しました」と話す。 市長は反対意見尊重 野崎湿地  相馬市の立谷市長は前述した私有地の使用許可をめぐり、NPO法人松川浦ふれあいサポートの意見書を受け取った際、「地域にとって重要な土地に関して、住民の理解が得られない以上、市として行政財産使用を許可できない」と述べた。  12月7日に開かれた相馬市議会12月定例会の一般質問でも、中島孝市議(1期)の質問に答える形で「現時点で公共の利益または公益性が認められないことに加え、地域住民の理解を得られておらず、意見書が寄せられていることを踏まえると、市は使用許可については不適切と考えています」と答弁した。  市執行部は「説明会で多数の住民から不安の声が寄せられたことを踏まえ、事業者に対し、埋め立てようとしている土地に不適切なものが混入していないか、そのことによって長年にわたり弊害が起きないか、丁寧な説明を求めてきた。また、県から意見書を求められたので、①周辺環境の保全に十分配慮すること、②長期的な環境への影響が発生した際の責任や対応態勢を明確にすること、③住民の理解を得ないまま工事に着手しないこと――などの意見を表明した。以前、相馬中核工業団地東地区に不適切な残土が運搬された苦い経験(汚染物質を含む残土が運搬された。〝川崎残土問題〟と呼ばれている)もあることから意見書を提出した」と説明した。  中島市議が「市は環境基本条例を制定している。環境面への影響を考えて、市が先頭に立って反対すべきではないか」と質したのに対し、立谷市長は「許認可権は県が持っている。反対運動を演出(主導)するようなことは慎みたいが、反対の声が多ければ十分尊重する」と話した。  こうした中で、それでも事業者は埋め立て計画を強行するのか。12月11日、土地を所有するケーエムに代わって〝窓口役〟を務める前出・アクトアライズの福島営業所(浪江町)を訪ねたところ、伊藤裕規環境事業部長が取材に応じた。 アクトアライズ福島営業所  ――野崎湿地を取得したケーエムとはどんな会社か。  「北部生コンの三浦公男社長の個人会社。当初、湿地は個人で取得するつもりだったが、経費を精算するために会社を立ち上げた。この事務所自体は10年ぐらい前に設置しました(アクトアライズは2022年設立なので、関連会社の事務所という意味だと思われる)」  ――埋め立て計画について住民から反対の声が上がっている。  「一部の人が騒いでいるだけ。環境団体や共産党の関係者がわーっと来て質問しているだけで、多くの地元の人は辟易している。NPO法人松川浦ふれあいサポートや相馬双葉漁協などの〝まともな人〟は『特に反対意見はないが、埋め立てた後にどう利用されるのか気になる』とのことだったので、必要なエリア以外は相馬市に寄贈することも含めて検討しています」  ――「一部の人が騒いでいる」というがどんなことを言っているのか。  「弊社のダンプが狭い道を猛スピードで走行していて、運転手に注意したら逆に暴言を吐かれた――とか。各車両にGPSが付いているので、具体的にどこであったことなのか教えてほしいと言ってもあやふやな答えしか返ってこない。運転手一人ひとりに確認したが、注意されたという人は一人もいなかった。埋め立て計画を止めるための完全な言いがかりでしょう。地元で活動する環境団体関係者から『(約2万平方㍍の湿地と)私が所有する100坪(331平方㍍)の田んぼと交換しましょう』と意味不明な提案をされ(※)市議らから『市長に金を渡して埋め立てを決めたというウワサも出ている』などめちゃくちゃなことも言われた。名誉棄損、威力業務妨害に当たる行為もあったので、今後の対応について弁護士と相談しています」 ※環境団体関係者は「野崎湿地だけは避けてほしい。どうしても事務所建設用地が必要ならば100坪の土地を提供してもいい」と提案したとのこと。  ――野崎湿地は希少生物がいるので自然環境保護の観点から埋め立ては控えるべきとの意見がある。  「現場に行ったら自転車や冷蔵庫が捨ててあり、引っ張り上げた。環境が大事というのならまずごみ拾いからやるべきではないか。希少なトンボが生息しているというが、調査の結果、いまはいなくなったとも聞いている。自然環境保護といっても完全に主観の話になっている」  「裁判も辞さない」  ――そもそもどういう経緯で湿地を取得したのか。  「(北部生コンクリート本社がある)宮城県と(アクトアライズ福島営業所がある)浪江町をつなぐ中継地点かつ物流拠点である相馬港周辺の土地を探す中で、不動産業者からあの場所(野崎湿地)を紹介された。僕らは車を止める場所として300坪だけ購入するつもりだった。ただ、前の所有者(野崎氏の親族)に『一括して購入してほしい』、『子どもが落ちたら危ないので埋め立ててほしい』と依頼され、2㌶分を購入して埋め立てることにした。地元の学校関係者にも『埋め立ててもらった方がいい』と言われ、行政区長からも了解を得たので計画したまでです」  ――運び込まれる土に対する不安は大きいようだ。  「まるで汚染土でも運び込むように言われているが、神奈川県横浜市の道路工事現場で、NEXCOがシールドマシンを使ってトンネルを掘り出した際に出てきた普通の土ですよ。仮にその辺の山から土を持ってきても重金属など有害物質が入っている可能性がある。うちは公共工事の土しか扱っていないので、もし汚染物質が混入していたら、排出者である自治体やNEXCOに責任を取ってもらうだけです」  ――今後の見通しは。  「年が明けたらNPO法人松川浦ふれあいサポートに跡地利用のビジョンを示し、そのうえで市に再度市有地を使う許可申請を行う。それでも市が同意できないというなら裁判も辞さない考えです」  取材時点では「(反対しているといっても)一部住民が騒いでいるだけ」とかなり強気の姿勢を見せていた伊藤氏だが、前述の通りその後、細田地区会、市松川浦観光旅館組合、相馬双葉漁協、NPO法人松川浦ふれあいサポートなどが反対意見を表明している。  学校関係者は埋め立てに賛意を示したとのことだが、あらためて市教委に確認したところ、「中村二小、中村二中とも説明を受けただけと聞いている。事実と異なる」という(後日、アクトアライズの営業課長に電話取材したところ、「教頭と面会したのは私だ。間違いなく『埋め立ててもらった方がいい』と言っていた」と主張していた)。  細田地区会にも確認したが、津野信会長が「反対決議は班長など30人ほどが集まって決めた。一部の人の声だけで決めたわけではない。実際にダンプのドライバーに注意して暴言を吐かれた人もいる」と反論した。  〝まともな人〟と評価されていたNPO法人松川浦ふれあいサポートの菊地理事長は「特定の政党や特定の団体と意見を共にする考えはない」と強調しつつも「現在の環境のまま残してほしいというのがわれわれの思いだ」と話した。  双方の主張がすれ違っており、どちらが正しいか判然としないが、いずれにしても「一部の人が騒いでいるだけ」とは言い難い状況と言えよう。一方で、「自然環境保護をうたうわりに、粗大ごみが放置されていた」という指摘は、事実であれば地元住民や環境団体にとって耳が痛い指摘ではないか。 世界・国の流れと逆行  福島大学共生システム理工学類の黒沢高秀教授(植物分類学、生態学)は「ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せること)を推進する世界・国の流れと逆行した動きであることを残念に思います」と述べる。  「2022年、生物多様性条約第15回締約国会議で世界目標『昆明・モントリオール生物多様性枠組』が採択され、昨年3月には『生物多様性国家戦略2023―2030』が閣議決定されました。同月、県が同戦略を反映した『第3次ふくしま生物多様性推進計画』を策定しています。にもかかわらず、県は従来と変わらないスタンスで県立自然公園内の埋め立てを容認し、相馬市も地元自治体として意見を言う機会があったのに動かなかったことになります」  黒沢教授によると、松川浦県立自然公園はもともと全国的に著名な景勝地で、1927(昭和2)年には東京日日新聞・大阪毎日新聞の企画で日本百景にも選ばれたという。だがその後、埋め立て・護岸工事が進む中で岸辺の風景が消失していき、戦後は景勝地選定から外れた。  「風景を大切にしないことが観光客・経済的価値の減少、生態系サービスの享受の低下につながり、そのことでさらに風景を大切にしない傾向が強まる〝負のスパイラル〟に陥っているようにも見える。今回の問題をきっかけに、松川浦の風景の重要性があらためて認識され、風景保全や再生が進み、全国的な景勝地としてのステータスを取り戻す方向に進むことを望みます」(同)  12月20日、相馬市議会12月定例会最終日には、同市議会に寄せられた野崎湿地の埋め立て中止を求める陳情が請願として採択され、市議会として埋め立てに反対する決議が議決された。  アクトアライズは報道に対し、「地域住民の理解を得て進めていきたい」と取り繕ったコメントをしているが、前述の対応を聞く限り本音は違うのだろう。ちなみに、住民説明会参加者から「しっかりしていて信頼できる人」と評されていた同社の営業課長にも電話取材したが、やはり「反対しているのは一部の人」という認識を示した。  同湿地埋め立て計画に対し、県と相馬市はどう対応していくのか。地元住民や各団体は自然保護のためにどうアクションするのか。今後の動きで生物多様性に対するスタンスが自ずと見えてきそうだ。 ※はぜっ子倶楽部の新妻代表は「メンバーで協力してお金を出し合い土地を買い取り、県に管理してもらう考えだ」と明かした。

  • 呼んでも来ないタクシー・運転代行

     新型コロナウイルスが徐々に収束する中、夜の街は少しずつ賑わいを取り戻しているが、それと共に目立ってきたのがタクシー・運転代行の少なさだ。週末夜のタクシー乗り場にはちょっとした行列ができ、代行は1時間以上待たされる……読者の中にも最近の飲み会でそんな経験をした人がいるのではないだろうか。昨年10月には県警が、飲酒運転事故が前年比で増え、同死者数は全国ワースト2位という残念なデータを発表した。忘新年会シーズンを駆け回るタクシー・代行を追った。 ドライバー不足が社会に及ぼす痛手  12月の週末夜、友人との忘年会を終えた筆者はJR郡山駅西口のタクシー乗り場に向かった。タクシープールに車両はない。寒さの中、3、4人が列をつくりタクシーが来るのを待っている。  かつては飲食店を出て大通りに行けばすぐにタクシーが捕まったが、コロナ後は通りにタクシーが並んでいることは少ない。  しばらくすると、自分の番がやって来た。目の前に滑り込んできたタクシーに乗車し、帰路につく。  高齢のドライバーに話しかけると気さくに応じてくれた。  「おかげ様で忘年会シーズンということもあり忙しい。お客さんを降ろすと、すぐに次のお客さんが乗ってくる状態。いつもこれくらいだとありがたいんですけどね」  いつもこれくらいだと――要するに、普段はこんなに忙しくないということだ。  ならば、平日の日中はどんな様子なのか。JR福島駅のタクシープールに行き、待機する車両を直撃してみると  「オレは年なので夜の営業はやってない。売り上げはコロナ前の7割くらいまで戻ったかな。テレワークが増えて出張が減ったせいでビジネスマンの利用がガクンと落ちた。福島じゃ観光の利用もないし、あとは年寄りが通院で乗るくらいだ」(個人タクシーのドライバー)  「週末夜は忙しいですよ。深夜3時くらいまでお客さんが絶えない。でも平日はヒマ。コロナで夜の街を出歩く人が減った。朝、出勤時にアルコールチェックをする会社が増えたことも一因だと思います」(50代のドライバー)  タクシーは新型コロナの影響で車両、ドライバーとも数が減ったと言われているが、実際はどうなのか。  一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会によると、車両(法人タクシーのみ)はピークの2007年度は22万2500台だったが、20年度は17万7300台と4万5200台減った(20%減)。ドライバーもピークの05年は38万1900人いたが、20年は24万0500人と14万1400人減った(37%減)。  新型コロナが国内で初めて確認されたのは2020年なので、このデータからはコロナの影響がどれくらい及んだのかは分からない。ただ、年々減る中で落ち込みに拍車がかかったのは間違いないだろう。前出・50代ドライバーも自社の現状をこのように語っている。  「定年退職したあと、新しいドライバーが全然入ってこない。慢性的な人手不足。おかげで車両も余っているよ」  状況は福島県内も同じで、一般社団法人県タクシー協会によると、車両は2016年3月末2547台から23年3月末2232台で315台減った(12%減)。ドライバーも同3711人から同3032人で679人減った(18%減)。  売り上げはどうか。別図は全国ハイヤー・タクシー連合会が県内の7社を抽出し、コロナ禍(2020、21、22年と23年10月まで)の営業収入を対19年比で示したものだ。それを見ると、政府が外出制限・営業自粛を呼びかけた20年3月から大きく落ち込み、徐々に回復していることが分かる。22年4月のように大きく回復している月があるのは、抽出した会社のある地域でイベント等があり、タクシー利用が増えたためとみられる。  データからは車両、ドライバーとも減り、売り上げもコロナ前に戻っていない実態が浮かび上がる。しかし「それだけでは推し量れない面がある」と県タクシー協会の菊田善昭専務理事は言う。  「車両もドライバーも不足しているのは事実だが、恒常的に足りないわけではない。確かに、週末夜の飲み会が終わる時間帯は利用が集中するので足りなくなるが、それ以外はタクシーが捕まらなくて不便という話は聞いたことがありません」  菊田専務によると、むしろ車両が減っている中では1台の稼働率が上がり、稼ぎが増えているドライバーもいるのではないかという。  県中地区のタクシー会社役員もこのように話している。  「日中と夜で電話による配車予約の目標値を定めているが、ここ数カ月はクリアしている。コロナ前より車両とドライバーは減ったが、その分、効率は良くなっている」  タクシーは歩合制なので、努力次第で収入を得られる環境にあるのかもしれない。  「経済が回復した中で車両もドライバーも足りないというなら話は分かる。しかし、県内経済は落ち込んだままで、会社によっては維持費が負担になるから車両を減らしたところもある。経済が回復しないのに台数を元に戻そうとはならない」(菊田専務) 要するに白タク行為  そうした状況下で今、政府が進めているのがライドシェアの導入だ。国内で客を有料で運ぶには二種免許が必要で、運行するのはタクシー、管理するのはタクシー会社となっているが、ライドシェアは一般ドライバーが普通免許で自家用車を使い、有料で客を運ぶ。インバウンドで観光が回復する中、首都圏ではドライバー不足により移動に不便を来している外国人旅行者が増えている。そこで政府は、ライドシェアで世界最大手のウーバーなどを念頭に、導入の動きを加速。地域を限定し、タクシー会社が運行を管理するなどの条件付きで今春にもスタートさせる方向で調整している。  「インバウンドの恩恵を受けているのは首都圏や有名観光地だけ。経済が回復していない地方でライドシェアが始まったら、タクシー会社は大打撃です」(同)  前出・タクシー会社役員もライドシェアには大反対だ。  「要するに白タク行為を合法的にやるってことでしょ」  タクシードライバーはタクシー業務適正化特別措置法に基づき、必要な講習を受講・修了し、地域によっては試験に合格して国交相が指定する登録実施機関に登録している。二種免許を取るのも簡単ではない。  「そうやって業界を締め付けておいて、一方ではインバウンドで賑わう地域があるからと『ドライバー不足にはライドシェアが最適』というのはあまりに短絡的。挙げ句、面倒な運行管理はタクシー会社に押し付けるなんて冗談じゃない」(同)  一口に人手不足と言っても、首都圏と地方では事情が異なることが分かる。経済が戻らない地方では、今の車両、ドライバーの数が適正に近いのかもしれない。  低賃金と労働時間の長さ(厚生労働省の賃金構造基本統計調査)から就職先として敬遠されがちで、他の業界より高齢化率も高いタクシー業界だが(ドライバーの平均年齢は59歳で65歳以上が27%。2015年時点)、同連合会や同協会ではかつてより働き易くなっている環境をアピールしながら、ドライバー不足の解消に努めている。 代行のピークは21時  筆者が参加した別の忘年会での出来事である。  参加者のうち筆者を含む3人が車で来ていた。代行が捕まりにくいことは知っていたので、3人とも飲んでいる途中に「23時に来てほしい」と馴染みの代行業者に連絡した。  しかし、筆者は「0時になる」、一人は「1時過ぎ」と言われた。あとの一人は時間通りに来てくれるというので、その代行にもう2台追加できないか頼むと「それは無理なのでピストン輸送で対応します」。自宅から近場での忘年会だったので遅い帰宅にはならなかったが、あらためて代行の混雑ぶりを思い知らされた。  その代行のドライバーからはこのように言われた。  「20時とか早い時間ならすぐに駆け付けられるが、一次会が終わる21時とか二次会が終わる23時前後は申し訳ないが待っていただくことになりますね」  特にコロナ後は一次会で帰る人が増え、21時以降に代行の利用が集中するという。  「今、代行の一番忙しい時間帯は21~22時です。みんな一次会で帰るから、その時間に『迎えに来て』と連絡が入る。コロナ前は深夜1時ごろがピークだった」(ある店主)  コロナを経て、外での飲み方が様変わりしたことがうかがえる。  筆者の馴染みの代行は、JR郡山駅前の有料駐車場の一角にプレハブ小屋を建て、車とキーを預かり、指定の時間に店まで客を迎えに行く営業スタイルだった。しかし、コロナで行動制限がかかるとプレハブ小屋を撤去し、市外の営業所も閉鎖。ドライバーは辞めていき、動いていない車両が増えた。コロナが徐々に収束すると客も戻ってきたが、だからと言って辞めたドライバーは復職しないし、車両の数も元通りにはなっていないという。  「経済が戻っていないのに、人員も車両も元通りというわけにはいかない。何割か少ない状態で回し、営業終了時間もコロナ前より早めている」(馴染みのドライバー)  公益社団法人全国運転代行協会福島県支部によると、過去10年の県内の業者数は2014年が305社、17年がピークの326社、21年に初めて300を下回り(290社)、23年10月には270社まで減った。総台数は23年10月現在565台。  一方、ドライバーの数は顧客車を運転する人は二種免許、随伴車を運転する人は普通免許と分かれていたり、正社員、パート、アルバイトが入り組んでいる事情もあり、正確には分からないという。  同協会県支部の渡邉健支部長はこう話す。  「この時期は忘新年会で書き入れ時なんですが、人手、車両とも足りなくてお客さんの依頼を断らざるを得ない。せっかく楽しく飲んでいるのに〝代行難民〟を増やすことになってしまい、申し訳なく思っています」  とはいえ、代行が忙しいのは年明けの成人式辺りまでで、その後は歓送迎会や花見がある3、4月までヒマな時期が続くという。  「代行の7、8割は2、3台の車両で営業している小規模事業者なので、身の丈に合った経営で厳しい状況を乗り越えてほしい」(同)  代行はタクシーと違い歩合制ではなく、時給に残業手当をプラスして給料を支給しているところが多いようだ。時給は正社員、アルバイト、パートで差がつけられ、二種免許を持ち顧客車を運転できる、普通免許しか持っていないので随伴車しか運転できない、というスキル差も給料に反映されるという。  代行業界が今注力しているのは最低利用料金の設定だ。タクシー料金は道路運送法により、国土交通大臣の認可を受けて初乗運賃や加算運賃が決まるが、代行料金は自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律や料金制度に関するガイドラインはあるものの、タクシーのように明確に決まっていない。結果、ダンピングする業者が現れ、業界の健全化が進まないという。  「2022年9月には内堀雅雄知事宛てに最低利用料金に関する条例制定の要望書を提出した。全国の各支部でも同様の行動を起こし、料金の適正化と業界の健全化を目指しているところです」(同)  そうすることで従業員が安心して働ける環境づくりに努めている。渡邉支部長は「本業(渡辺代行)も大変だが、業界を良い方向に持っていかないと人手不足は解消されない」と支部長としての役割を果たそうとしている。  そんな渡邉支部長が同協会の最大の使命に挙げるのが「飲酒運転の根絶」だが、昨年10月に判明したデータは福島県にとって芳しいものではなかった。県警が発表した、同9月末までの県内の飲酒運転事故・死者数である。  発表によると、飲酒運転事故は47件で前年同期比18件増、それによる死者は5人で全国ワースト2位だった。前年同期は0人なので、その多さが際立つ。その後、新たに判明した同11月末までの飲酒運転事故は54件で前年同期比14件増、死者は5人で変わっていない。 被検挙者の呆れた言い訳  県内でここまで件数が増えている原因を県警に尋ねると、交通企画課の担当者はこのように答えた。  「いろいろな要素はあるが、これが原因と言い切れるものはない」  担当者によると、福島県は信号のない横断歩道での停車率やシートベルトの着用率などが高く「交通ルールを守る県民」と認識されているという。にもかかわらず、飲酒運転事故・死者数が多いのはなぜか。  「例えば、福島は酒どころだからという見方がある。しかし、同じ酒どころの山形で飲酒運転事故・死者数が増えているかというとそうではありません」(同)  もしかして、代行の数が減ったことが原因?  「被検挙者の中に『代行が減ったから』と証言する人はいます。しかし、代行が減っているのは福島だけではなく他県も同じ。それが原因ということになれば、繁華街の多い県の方が飲酒運転事故・死者数は増えるだろうし、青森や秋田など福島より公共交通が整っていない県の方が悪化してもいいはず。代行が減ったというのは言い訳に過ぎません」  あえなく推測は外れたが、飲酒運転が増加する背景には、代行を頼んでも捕まらず「1時間も待つのはめんどくさい」とハンドルを握る不届き物の存在もあるだろう。普通の状態なら絶対にそんなことはしないはずだが、酔っているから理性をなくす。そういう人は酒を飲むべきではない。あらためて「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」を強く意識することを呼びかけたい。  県警では飲酒運転事故・死者数を少しでも減らせるよう、前記のようなデータを県民に知らせ周知を図ると共に、取り締まりの強化に努めていくとしている。  地方のタクシー・代行が人手不足なのは確かだが、同時にパイ(乗る人、飲み歩く人)も縮小しているので、今後、淘汰が進みながら適正な業者数に落ち着いていくのかもしれない。一方、同じ人手不足でもインバウンド需要や経済の回復が進む首都圏・有名観光地では、ライドシェアの導入等でこちらも業者数に影響が及びそうだ。  とはいえ、減るパイの中身を見ると、その多くは高齢者だ。電車やバスの本数が少ない地方では、タクシーまで減ってしまうと移動手段がさらに狭まる。夜の利用を思い浮かべる代行も、前出・渡邉支部長によると「高齢の夫婦が車で病院に行ったら夫が入院することになり、妻は免許を返納していたので、代行を頼まれることがたまにある」という。  まさに電車やバスを補完する立場にあるタクシー・代行の減少を見過ごせば、高齢化が進む世の中に不便さとなって跳ね返ってくることも覚えておく必要がある。

  • 【北塩原村】ラビスパ裏磐梯廃止の裏事情

     北塩原村のラビスパ裏磐梯が今年1月末で事業停止、3月末で廃止になる。同村昨年12月議会初日(昨年12月8日)の本会議終了後に開かれた全員協議会で、遠藤和夫村長が明かした。一方で、正式な廃止には関連条例を廃止する必要があり、ある村民は「今後の村の対応次第では、その過程で、一波乱あるかもしれない」との見解を示す。(末永) 不採算施設を切り捨て「村の駅」を整備!?  ラビスパ裏磐梯は、ウオータースライダーを備えたプール、天然温泉、食事・休憩スペース、フィットネスジム、山塩などの同村の名産品を扱うショップがある健康増進複合施設で、1996年にオープンした。それから27年ほどが経ち、建物や内部設備の老朽化が課題となっていた。 顕著なのは、プールゾーンが2022年7月中旬から営業休止していること。同施設HPには以下のお知らせ(2022年7月14日付)が掲載されている。    ×  ×  ×  ×  現在当館では老朽化に伴う設備修繕の必要から、プールゾーンの営業を休止しています。それに伴いウォータースライダーも運休とさせていただいております。つきましては今期のプール営業は行っておりません。また、再開時期も未定です。  現在は日帰り温泉とお食事コーナーのみの営業を行っております。なお、プールゾーン再開の見通しがつきましたらこちらでご案内させていただきます。    ×  ×  ×  ×  2022年の夏休み期間直前から、プールゾーンが使えず、再開のメドが立っていなかったのだ。  当時、ある関係者は次のように話していた。  「ラビスパ裏磐梯のプールが休止している原因は、ボイラーが故障していることに加え、天井部分が劣化によって落下の危険があるためです。もっとも、そうした兆候は以前からありましたが、何ら対策を講じてこなかった。その結果、一番客入りが見込める夏休み期間にプールが営業できなくなったのです」  この関係者によると、2011年の東日本大震災とその1カ月後に起きた大地震により、いわき市のスパリゾート・ハワイアンズが営業を休止したほか、東電福島第一原発事故の影響で海水浴ができなくなったことなどから、夏休みの子ども会のイベントなどで、ラビスパ裏磐梯を利用するケースが増えたという。奇しくも、震災・原発事故によって認知度を高めた格好だ。  「そういった流れから、夏休みの子ども会のイベントなどで、その後(スパリゾート・ハワイアンズ営業再開後や海水浴ができるようになってから)も、ラビスパ裏磐梯を継続して使ってくれているところもあるが、夏休みにプール営業ができなくなった。かつて、ほかのところからラビスパ裏磐梯に切り替わったように、一度行き先が変わると、翌年にまた元のところに戻すのは簡単ではない。そういう意味でも大きな損失です」(前出の関係者)  ラビスパ裏磐梯は村の施設で、運営会社は第三セクターの㈱ラビスパ。同社は村が1億3000万円、村商工会が100万円を出資しており、村の出資比率は99%超。社長には遠藤和夫村長が就いているほか、議会からも役員(取締役、監査役)が出ている。ラビスパ裏磐梯のほか、道の駅裏磐梯、裏磐梯物産館の指定管理を委託されている。  同社が運営する3施設の修繕費等は村の予算から支出されており、村としてどうするか、という問題だったのである。  実際、議会では以前から「今後、ラビスパ裏磐梯を改修すべきかどうか」ということが議論されてきた。前出・関係者の証言にあったように、同施設ではボイラーの故障と、天井部分に落下の危険性があることが問題となっていたが、その後、ボイラーは修理済み。一方で、落下の危険性があるプールゾーンの天井部分を含め、老朽化した施設の改修費用には10億円ほどかかる見込みで、なかなか結論が出せず、昨年9月に行われた全員協議会では「保留」とされていた。 議会での遠藤村長の説明  ところが、昨年12月議会初日(昨年12月8日)の本会議終了後に行われた全員協議会では「廃止」の意向が伝えられた。以下は、全協での遠藤村長の説明の要約。  「ラビスパ裏磐梯については、9月29日の議会全員協議会で、人口減少対策、子育て対策充実、住環境向上、福祉充実、観光人口拡大を優先して実行するため、大規模改修は保留ということを、議員の皆様に説明させていただきました。ただ、ラビスパ裏磐梯の当期間の経費増、営業収支のマイナス拡大から、判断を先延ばしにすることはできないと考え、12月6日、㈱ラビスパ取締役会での協議を踏まえ、ラビスパ裏磐梯の今後のあり方について総合的に検討した結果、来年(2024年)1月末日に営業を停止し、3月末日をもって廃止をするとの判断に至りました」  「廃止の理由は、①人口減少対策として、子育て対策、住環境向上、福祉の充実、観光人口拡大を最優先して実施するため、②老朽化した建物設備の修繕に多額の費用を要するため、③将来を見据えたとき、営業収支を維持するのが難しいため、というものです。今後の進め方は、㈱ラビスパ臨時株主総会を開催し、営業停止に向けた準備を12月から1月までしていきたい。(2024年)1月には㈱ラビスパの通常株主総会を開催し、1月31日をもってラビスパ裏磐梯の営業を停止します。3月には関係条例改正ということで、温泉健康増進施設条例の廃止や、温泉健康増進施設指定管理者の指定変更などを行います」  前回の「保留」から、突如「廃止」の方針が示されたことに、議員からは「ラビスパ裏磐梯の廃止を㈱ラビスパの取締役会で決めていいのか」、「議会軽視ではないか」といった指摘があった。この点については何度か問答があった後、最終的に遠藤村長から順序が逆だったことに対する謝罪があり、それで収まった。  このほか、議員からは「この2年間で、ボイラー修理や、改修に向けた調査費、設計費などで約1億円を支出している。廃止するのなら、その前に決断すべきだったのではないか。無駄な経費をかけたうえでの決断は背任行為に当たる」との指摘もあった。さらに、現在進行形で設計委託を行っており、その結果はまだ出ていない。3月までにはそれが示される予定で、「それを待ってからでも良かったのではないか」との意見も出た。  ただ、遠藤村長は「この間の経費増で先延ばしにできない」として、このタイミングで決断したことを明かし、理解を求めた。 村内ではラビスパ裏磐梯不要論も ラビスパ裏磐梯  一方で、村内では以前から「ラビスパ裏磐梯不要論」があった。例えば、2022年6月議会の一般質問では、伊藤英敏議員が「(ラビスパ裏磐梯の建設費を含めて)40億円が使われている。村の年間予算約30億円をはるかに超える金額だ。このまま継続して営業するのか。金額に見合った効果(村民の健康増進)があったのか」、「すでに40億円が使われ、今後さらに(修繕費等で)十数億円をつぎ込み、施設を継続させることが、本当に村のため、村民のためになるのか」といった質問を行った。  このほか、小椋元議員(当時)は修繕計画について質した後、「ラビスパ裏磐梯はどれだけやっても黒字にはならないのだから、再建計画はやめて、時間はかかるかもしれないが、取り壊した方がいい。村長の考えを問う」と村長の見解を求めた。  こうした質問に、遠藤村長、村当局は「(村民の健康増進等の)効果はあったと思っている」、「ラビスパ裏磐梯をよみがえらせ、多くの人に利用してもらえるよう構想を作り上げていく」、「村内にはスポーツ施設が整いつつあり、そこに温水プールの施設があってこそ、さらに人を呼び込むことが可能と考え、新たな構想を計画して、早い段階で示したい」などと答弁していた。  その後も、小椋元議員は、昨年4月に任期満了で引退するまで、議会のたびに「ラビスパは廃止すべきでは」と訴え続けた。  直近では、改選後の昨年9月議会で、遠藤春雄議員が「村の財政状況や近隣市町村との競合から見ても、工事は再度検討し、教育や子育て政策に力を入れるべきではないか」と質問した。  これに対し、遠藤村長は「ラビスパ裏磐梯の大規模改修は、目まぐるしく変化する環境下ですから、皆様と協議する場も考えながら進めていきたいと思っています」と答弁していた。  この間の遠藤村長、村当局の答弁を見ると、改修費用が10億円規模になるだけに、慎重に進める必要はあるものの、少なくとも廃止は考えていない、といった感じだった。ただ、今回、遠藤村長は前述の事情から方針転換し、廃止を打ち出したのである。今後は、1月末の事業停止後、清算業務に入り、3月末で廃止するという。  もっとも、ラビスパ裏磐梯は村の「温泉健康増進施設条例」に基づき設置されているもので、3月末の廃止に当たり、条例廃止を議会に諮ることになる。それが可決されて、初めて廃止決定となる。  民間信用調査会社によると、㈱ラビスパの売上高は、2016年から2018年までは3億5000万円で推移していたが、2019年は2億5000万円、2020年から2022年は1億8000万円に落ち込んでいる(決算期は10月)。なお、これは道の駅、物産館を含んだ㈱ラビスパ全体の売上高でラビスパ裏磐梯単体の売上高は不明。加えて、㈱ラビスパの当期純利益も不明だが、前出の関係者によると「もともと、道の駅は黒字だが、ラビスパ裏磐梯と物産館は苦戦していた。そこに今般のコロナ禍の影響で、全体的に落ち込んでいる」という。  一方で、遠藤村長は12月8日の全員協議会でこうも述べていた。  「(廃止となる)4月以降については、例えばほかの事業者等で利用したいというところがあれば、公募するというのも一つの手段かなと考えています。そういったところが出て来なければ、一定の期間を考えて、その後はまた議会の皆様と協議をさせていただきたい」  どこかが引き継いで営業してくれるなら、あるいは企業の研修・保養所などとして使いたいというところがあれば、公募して貸し出したり、売却することも1つの手法として考えたいということのようだ。 遠藤村長に聞く 遠藤村長  12月8日の全員協議会終了直後、遠藤村長に話を聞いた。  ――㈱ラビスパの会社(第三セクター)自体は存続して、道の駅裏磐梯や裏磐梯物産館の指定管理委託は継続するということでいいのか。  「そうです」  ――ラビスパ裏磐梯の従業員は?  「道の駅、物産館に異動してもらうことになります」  ――ラビスパ裏磐梯の土地・建物は村の所有か。  「そうです」  ――議会(全協)では「どこかが引き継いで営業してくれるなら」ということを話していたが。  「そういうところがあれば、それも1つの手段かな、と」  ――そういうところが出て来なければ、取り壊しということも?  「すぐに取り壊しというのは考えていません」  ――村民への周知は? 村民だけでなく、例えば子ども会のイベントなどでも、ラビスパ裏磐梯を利用しているところがあったと聞く。そういったところや、旅行会社や旅行サイトなどへの周知も必要になると思うが。  「その辺はこれからです」  近年、行政(第三セクター)が運営する温浴施設が廃止されたり、民間企業に譲渡されたり、といった事例が全国的に増えている。ラビスパ裏磐梯は温浴施設にウオータースライダーを備えたプールがあり、一般的な行政系温浴施設よりも規模が大きい。村では「村民の健康増進に役立った」との見解を示しているが、費用対効果はどうだったのか等々についてはさらなる検証が必要になろう。  一方で、ある村民はこんな見解を示す。  「おそらく、ラビスパ裏磐梯の廃止については、実際に赤字続きだったことからも、議会は反対しないだろう。一方で、遠藤村長は『村の駅』を整備したいという構想を持っています。その整備費用は数億円規模に上ると見られるが、どれだけ採算性があるのか分からない。せっかく採算性がないラビスパ裏磐梯を廃止するのに、新たに採算性が不透明な『村の駅』を整備するとなったら、議会はどう判断するのか。それ次第では、もう一波乱あるのではないかと思います」  「村の駅」については、具体的なことは表に出ていないが、昨年6月議会の一般質問でのやり取りで、遠藤村長は「村民の生活に欠かせない生鮮食品、生活用品の販売、村民が生産した農産物を購入できる直売施設、村内の食材を利用した飲食店、村民や観光客が気軽に立ち寄れる交流施設などを備えた複合施設にしたい」と構想を明かしている。  整備地は同村南西部の北山地区を考えているようだ。同村には裏磐梯地区に道の駅裏磐梯があるが、類似施設を北山地区にもつくりたい、ということである。  昨年12月議会では、「村の駅」関連の補正予算を追加で計上しようとしたが、議員の反発があり、取り下げた経緯がある。背景には、前出の村民が語っていたように 「採算性がないラビスパ裏磐梯を廃止するのに、新たに採算性が不透明な『村の駅』を整備するのはいかがなものか」といったことがあるのだろう。  この村民によると、「今後の村の対応次第では、ラビスパ裏磐梯の問題と絡んで、もう一波乱あるかもしれない」とのことだが、その辺の動きも注視したい。

  • 巨岩騒動の【田村市】産業団地で異例の工事費増額

     田村市常葉地区で整備が進む東部産業団地の敷地から巨大な岩が次々と出土。そのうちの一つは高さ17㍍にもなり、あまりの大きさに市内外から見物客が訪れるほどだ。テレビでも「観光地にしてはどうか」と好意的な声が紹介されているが、半面「あそこに団地をつくるのは最初から無理があった」と否定的な声はクローズアップされていない。巨岩のおかげで工事費は当初予定より増えたが、議会は問題アリと認識しているのに執行部を厳しく批判できない事情を抱える。 議会が市長、業者を追及しないワケ 敷地から出土した巨岩。隣の重機と比べると、その大きさが分かる  田村市船引地区から都路地区に向かって国道288号を車で走ると、両地区に挟まれた常葉地区で大規模な造成工事が行われている場所が見えてくる。実際の工事は高台で進んでいるため、目に入るのは綺麗に整備された法面だが、それと一緒に気付くのが巨大な岩の存在だ。  国道沿いにポツンとある一軒家と余平田集会所の向こう側にそびえる巨岩は軽く10㍍を超えている。表面はつるつるしていて、どこか人工物のようにも見える。近付いてみると横で作業する重機がまるでおもちゃのようで、思わず笑ってしまう。  「今の時間帯は誰もいないけど、結構見物客が来てますよ。先日はテレビ局が来た。その前は新聞記者も来たっけな」  現場にいた作業員がそう教えてくれた。説明が手馴れていたのは、いろいろな人が来て同じような質問をされるからだろう。  ここは田村市が整備を進める東部産業団地の敷地内だ。巨岩があるのは、ちょうど調整池を整備する場所に当たる。  昨年11月22日付の河北新報によると、同所はもともと大きな石が数多く露出する地域で、出土した巨石群は花こう岩の一種。市の試算では体積計1万4000立方㍍以上、総重量3万6400㌧以上。一方、同29日にテレビ朝日が報じたところによれば、巨岩は高さ17㍍、横30㍍、奥行き22㍍と推測され、奈良の大仏の台座を含めた高さ(18㍍)に匹敵するという。  巨岩は民家に隣接しているため、発破は危険。そこで市は重機で破砕する予定だったが、想定より硬く、そのままにせざるを得なかった。  これにより、調整池の工事は変更される事態となった。巨岩を動かせないため、そこを避けるようにして調整池の形・深さを変え、予定していた水量を確保できるようにする。  変更に伴い市は工事費を増額。発注額は2億7100万円だったが、昨年12月定例会で市は6億9900万円に増額する契約変更議案を提出し、議決された。工期も2024年3月末までだったが、同年9月末までに延長された。  気になるのは、壊すことも動かすこともできない巨岩の今後だ。同団地の担当部署である市商工課に問い合わせると  「進出企業の工場建設計画もあるので、市としては団地を早期に完成させることを優先したい。巨岩をどうするかはこれから議論していく」(担当者)  巨岩は市内外から見物客が訪れており、市民からは「あんな立派な巨岩はお目にかかれない。観光地にしてはどうか」との意見が上がっている。市でもそういう意見があることは承知しており、白石高司市長もテレビ局の取材に「地域おこしにつながらないか。巨岩を活用するアイデアを募っていきたい」とコメントしている。  実は、都路地区にはさまざまな名前の付いた巨石が点在し、ちょっとした観光スポットになっていることをご存知だろうか。  例えば亀の形をした「古代亀石」は高さ10・7㍍、周囲50・5㍍、重さ2800㌧。近くに立てられた看板にはこんな伝説が書かれている。 「古代亀石」  《古きからの言い伝えによると無病息災鶴は千年亀は万年と言われた亀によく似た石を住民が〆縄張り崇拝したと言う。石の上部に天狗が降りた足跡を残した奇観有りと言う。地区の人々が名石の周りを清掃し関心の想を呼び起して居ます》  古代亀石のすぐ近くには笠石山の登山口があり、頂上付近に「笠石」や「夫婦石」という巨石がある。登山口から1~2分の場所には綺麗に真っ二つに割れた「笠石山の刃」という巨石もあり、漫画『鬼滅の刃』で主人公・竈門炭次郎が師匠との修行で最終段階に挑んだ岩に似ていると密かに評判になっている。 「笠石山の刃」  さらに古代亀石の周辺には、文字通り船の形をした「船石」や「博打石」といった巨石もある。  これらの巨石群と東部産業団地の巨岩は車で10~15分の距離しか離れておらず、観光ルートとして確立することは十分可能だろう。  偶然にも巨岩が大々的に報じられる1カ月前には、都路地区と葛尾村にまたがる五十人山の巨石が話題になった。巨石には坂上田村麻呂が50人の家来を座らせて蝦夷平定の戦略を練ったという伝説があり、都路小学校の児童が授業中に「本当に50人座れるの?」と質問したことをきっかけに、市と村が昨年10月に実証体験会を開いた。結果は53人が座り、伝説は本当だったことが証明された。  ユニークな取り組みだが、正直、巨岩・巨石観光は地味に映る。しかし、市内の観光業関係者は  「確かに地味だが、どの世界にもマニアは存在する。数は少なくても、マニアは足繁く通い、深い知識を持ってSNSで発信する。それがじわじわと評判を呼び、興味のない人も引き寄せる。そんな好循環が期待できると思います」  磨けば有益な観光資源になる可能性を秘めている、と。  実際、巨岩はしめ縄を付ければ神秘性が生まれそう。破砕すれば、なんだかバチが当たりそうな雰囲気もあるから不思議だ。 団地にふさわしくない場所 本田仁一前市長 白石高司市長  もっとも、市内には巨岩を明るい話題と捉える人ばかりではない。東部産業団地が抱える本質的な問題を指摘する人もいる。  もともと同団地は県内でも数少ない大規模区画の企業用地を造成するため、本田仁一前市長時代の2020年に着工された。開発面積約42㌶で、事業費107億3800万円は福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出されたが、場所については当初から疑問視する向きが多くあった。  すなわち、同団地は①丘がいくつも連なっており、整地するには丘を削らなければならない、②大量の木を伐採しなければならないという二つの大きな労力が要る場所だった。前述の通り大きな石が数多く露出しており、その処理に苦労することも予想された。  なぜ、そのような場所が産業団地に選ばれたのか。当時、市は「復興の観点から浜通りと中通りの中間に当たる常葉が最適と判断した」と説明したが、市民からは「常葉は本田氏の地元。我田引水で選んだだけ」という不満が漏れていた。  加えて、造成工事を受注したのが本田氏の有力支持者である富士工業(と三和工業のJV)だったこと、整地前に行われた大量の木の伐採に本田氏の家族が経営する林業会社が関与していたことも、同団地が歓迎されない要因になっていた。  こうした疑惑を抱えた同団地の区画セールスを、2021年の市長選で本田氏を破り初当選した白石氏が引き継いだわけだが、区画が広すぎる、水の大量供給に不安がある、高速道路のICから距離がある等々の理由から進出企業は見つかるのかという懸念が囁かれた。  幸い、二つある区画のうち、B区画(9・1㌶)には電子機器関連のヒメジ理化(兵庫県姫路市)、A区画(14・3㌶)には道路舗装の大成ロテック(東京都新宿区)が進出することが決まった。大成ロテックは昨年11月に地鎮祭を行い、操業は2025年度中。ヒメジ理化も昨年12月に起工式があり、25年3月の操業開始を目指している。  あとは調整池の工事を終え、工場が稼働し、巨岩の活用方法を考えるだけ――と言いたいところだが、実は、造成工事をめぐり表沙汰になっていない問題がある。  造成工事を受注したのは富士工業と三和工業のJVであることは前述したが、当初の工事費は45億9800万円だった。それが、昨年3月定例会で61億1600万円に、さらに12月定例会で64億6000万円に契約変更された。当初から18億6200万円も増えたことになる。  市商工課によると、工事費が増えた理由は  「工事が始まる前は軟岩と思っていたが、出土した岩を調べると中硬岩であることが分かった。加えて岩が想定以上に分布していたこともあり、造成工、掘削工、法枠工が変更され、それに伴い工事費が増えた」(担当者)  この話を聞くだけで、最初から産業団地にふさわしくない場所だったことが分かるが、問題は工事費が増えた経緯だ。 進め方の順序が逆  土木業界関係者はこう話す。  「市は昨年3月定例会で46億円から61億円に増額した際、増えるのは今回限りとしていたが、半年後の9月にはあと1回増やす必要があるとの認識を示していたそうです」  問題は工事費がさらに増えると分かったあと、造成工事がどのように進められたか、である。  「普通は見積もりをして、工事費がいくら増えると分かってから、市が議会に契約変更の議案を提出します。議案が議決されれば、市と業者は変更契約を交わし、市は増額分の予算を執行、業者は増額分の工事に着手します」(同)  しかし、61億1600万円から64億6000万円に増額された際はこの順序を踏んでいなかったという。  「12月定例会の時点で造成工事はほぼ終わっており、その結果、工事費が61億円から64億円に増えたため、あとから市が契約変更の議案を提出したというのです」(同)  工事費が3億円も増えれば、それに伴って工期も延長されるのが一般的。「土木の現場で1億円の予算を1カ月で消化するのは無理」(同)というから、3カ月延長されてもいいはず。ところが今回の契約変更では、予算は64億6000万円に増えたのに、工期は従前の2024年3月末で変わらなかった。  そのことを知って「おかしい」と感じていた土木業界関係者の耳に、市役所内から「どうやら造成工事はほぼ終わっており、工事費が予定より3億円オーバーしたため、その分を増額した契約変更の議案があとから議会に提出されたようだ」との話が漏れ伝わってきたという。  「公共工事の進め方としては順序が逆。もしかすると岩の数量が不確定で工事費を算出できず、いったん仮契約を結んだあと、工事費が確定してから契約変更を議決したのかもしれないが、巨大工事を秘密裏に進めているようで解せない」(同)  このような進め方が通ってしまったのは、事業費(107億3800万円)が福島再生加速化交付金と震災復興特別交付税から捻出され、市の持ち出しはゼロという点も関係しているのかもしれない。  「事業費107億円のうち、実際に執行されたのは100億円と聞いています。つまり、まだ7億円余裕があるし、これ以上遅れると進出企業に迷惑がかかるので、工事を先に進めることを優先したのでは。市の財政から出すことになっていたら、順序が逆になるなんてあり得ない」(同)  この点を市商工課に質すと、担当者はしばらく押し黙ったあと、造成工事が先に進み、変更契約があとになったことを認めた。  「ちょっと……現場の者とも確認して、今後については……」  言葉を詰まらせる担当者に「公共工事の進め方としてはおかしいのではないか。どこに問題点があったか上層部と認識を共有すべきだ」と告げると「はい」とだけ答えた。  本誌はあらためて、市商工課にメールで四つの質問をぶつけた。  ①増額分の3億円余りの工事は12月定例会で契約変更が議決された時点でどこまで進んでいたのか。それとも、議決された時点で工事は完了していたのか。  ②工事費が3億円余り増えると市が知った経緯を教えてほしい。  ③工事費の増額は、業者から「見積もりをしたら増えることが分かったので、その分をみてほしい」と言われたのか。それとも工事が終わってから「かかった金額を調べたところ64億円になったので、オーバーした3億円を市の方でみてほしい」と言われたのか。  ④市は「工事費が増えるなら契約変更をしなければならないので、関連議案が議決されてから追加の工事に入ってほしい」と業者に注意しなかったのか。もし業者が勝手に工事を進めていたとしたら「なぜ契約変更前に工事を進めたのか」と注意すべきではなかったのか。  これらは締め切り間際に判明し、担当者の出張等も重なったため、市からは期日までに回答を得られなかった。期日後に返答があれば、あらためて紹介したい(※1)。 ※1 今号の締め切りは昨年12月22日だったが、市商工課からは「25日以降に回答したい」と連絡があった。  富士工業にも問い合わせたが「現場を知る者が出たり入ったりしていていつ戻るか分からない」(事務員)と言うので、市商工課と同じく質問をメールで送った。こちらも締め切り間際だったこともあり期日までに回答がなかったので、期日後に返答があれば紹介したい(※2)。 ※2 締め切り直後、猪狩恭典社長から連絡があり「岩量が確定せず正確な工事費が出せない状況で、市といったん仮契約を結んだ。進め方の順序が逆と言われればそうだが、問題があったとは認識していなかった」などといった回答が寄せられたが、「詳細を話すのは御社に対する市の回答を待ってからにしたい」とのことだった。 契約変更前の施工はアウト 今井照・地方自治総合研究所特任研究員  自治体政策が専門の今井照・地方自治総合研究所特任研究員は次のような見解を示す。  「契約で工事費が61億円となっているのに、議会で契約変更を議決する前に64億円の工事をしていたらアウトです。一方、見積もりをしたら64億円になることが分かったというなら、まだ施工していないのでセーフです。ポイントは、市が契約変更の議案を提出した時点で工事の進捗率がどれくらいだったのか、だと思います」  今井氏によると、契約変更の議決を経ずに施工するのは「違法行為」になるという(神戸地判昭和43年2月29日行政事件裁判例集19巻1・2号「違法支出補てん請求事件」)。  「ただし罰則はないので、業者が市に損害を与えていれば損害賠償を請求できるが、今回の場合はそうとは言い切れない。神戸地裁の判例でも賠償責任は否定されています」(同)  問題は市と業者だけにあるのではない。一連の出来事を見過ごした議会にも責任がある。  「本来なら『なぜ順序が逆になったのか』と議会が追及する場面。しかし、白石市長と対峙する議員は本田前市長を支持し、東部産業団地は本田氏が推し進めた事業なので強く言えない。工事を受注しているのが本田氏を応援していた富士工業という点も、追及できない理由なのでは……。一方、白石氏を支持する議員も本来は『おかしい』と言うべきなのに、同団地は本田氏から引き継いだ事業なので、白石氏を責め立てるのは酷と控えめになっている。だから、両者とも騒ぎ立てず『仕方がない』となっているのかもしれない」(議会ウオッチャー)  それとも、これ以上工事が遅れれば同団地に進出するヒメジ理化と大成ロテックの操業計画にも影響が及ぶので、順序が逆になっても工事を進めることを市政全体が良しとする空気になっていたのだろうか。  巨岩に沸き立ち、とりわけテレビは面白おかしく報じているが、造成工事が異例の進め方になっていること、もっと言うと、そもそもあの場所は産業団地に不適だったことを認識すべきだ。

  • 郡山市フェスタ建て替えで膨らむシネコン待望論

     郡山市日和田町の大型商業施設ショッピングモールフェスタの建て替えが進んでいる。老朽化に加え、度重なる大規模地震で被害を受けたためで、建物解体後、イオン系列の新たな商業施設として生まれ変わる。2026(令和8)年9月オープン予定だ。延べ床面積は約12万平方㍍で、イオンモール新利府(宮城県)に次ぐ東北最大規模のイオン系商業施設となる。  具体的な計画は公表されていないが、郡山市内で期待されているのがシネマコンプレックス(通称・シネコン。複数のスクリーンを有する映画館)の進出だ。  郡山市にはかつて10館以上の映画館が営業していたが、映画業界の衰退に伴い減少し、現在は郡山テアトル1館のみとなっている。同館は6スクリーンを備えているものの、上映される作品に限りがある。そのため、イオンシネマ福島(福島市)、フォーラム福島(同)、ポレポレシネマズいわき小名浜(いわき市)、まちポレいわき(同)まで足を伸ばす人もいるようで、「高校生の娘は、お目当ての映画を見るため、たびたび友達と電車で福島市に行っていますよ」(郡山市在住の男性)。  そうした中、新たなイオン系商業施設がオープンするということもあって、シネコン進出に期待が高まっており、「若者の間では既成事実のようにウワサされている」(同)という。それだけシネコンを求める声が高いということだろう。  実際のところ、シネコンが進出する可能性はあるのか。同施設の運営会社・㈱日和田ショッピングモールに確認したところ、「シネコンがほしいという要望を多くいただいているが、現時点では具体的なテナント構成などについてお話しできません」(担当者)と回答した。  同市では、以前からシネコン開発構想が浮上するものの、頓挫してきた経緯がある。2021年の市長選では、元県議の勅使河原正之氏がシネコン誘致を公約に掲げたが落選。SNS上には残念がる声が並んだ。  テアトル郡山を経営する東日本映画㈱の安達友社長は、興行の世界で長年生き残ってきただけあって、配給会社からの信頼が厚い。そのため、なかなか新規事業者では入り込めない事情もあるようだ。安達社長にシネコンについてコメントを求めると「取材には応じられないが、実現はかなり難しいのではないか」と述べた。  県内で計画中の大型商業施設としては、伊達市でも「イオンモール北福島(仮)」が2024年以降オープン予定となっている。こちらは隣接する福島市中心部にイオンシネマ福島がある関係もあって、競合するシネコンは設けない方針が示されており、新たなスタイルの娯楽施設の整備が検討されている。イオンモールにあらためて確認したところ、「関係機関と調整中のためお答えできません」との返答だった。  ある映画業界関係者は「以前某映画館の建設費が1館当たり1億2000万円と聞いたが、いまは建設費高騰でその倍以上かかるはず。費用対効果を考えて、いま新規でシネコン建設に踏み切る業者はなかなか現れないのではないか」と指摘する。  一方で、別の映画業界関係者は次のように語る。  「映画館空白地域に立地するイオンモールとなみ(富山県砺波市)は、もともとシネコンがない商業施設だったが、住民からの熱望を受け、リニューアルを機に、テナント跡を使ってコンパクトなシネコンを新設した。行政がシネコン誘致を後押しして実現した事例もある。郡山市、伊達市も市民の要望次第で風向きが変わるかもしれません」  果たして郡山市にシネコンが進出する日は来るのか。

  • 再開発見直しで注目される福島駅「連続立体交差」

     JR福島駅東口で進められている駅前再開発事業の雲行きが怪しくなっている。昨年12月7日の福島市議会12月定例会で、石山波恵議員(2期)と斎藤正臣議員(3期)が事業の進捗について質問したところ、木幡浩市長から「計画全体の見直し」という答弁が出てきたのである。  「(地権者らでつくる建設主体の福島駅東口地区市街地)再開発組合と共に資材の変更や計画の再調整を進めてきたが、工事費高騰の影響を抑えるには至っていない。着工の見通しが描けない中、事業全体を成立させるには市のコンベンション施設も含め、踏み込んだ見直しを行うことも視野に検討しなければならない」  同事業は昨年6月定例会で木幡市長が「工事費の2割以上増額が見込まれ、資材の変更、計画の再調整、国庫補助など財源確保を再検討している」として、着工が2023年度から24年度にずれ込み、オープンも当初予定の26年度から27年度に遅れる見通しを示していた。  それから半年経ち、事業は延期にとどまらず、計画全体を見直さざるを得ない状況に追い込まれている。  原因は資材価格の先行きが見通せなくなっていることと、深刻な人手不足、それに伴う人件費の高騰だ。もっとも、同様の理由で着工・オープンが延期されている事業は表面化していないものも含めて県内に複数あり、福島駅東口再開発事業だけが特別なわけではない。  こうした中で筆者が注目したのは福島商工会議所の渡邊博美会頭が本誌先月号のインタビューで次のように述べていたことだ。  「資材価格高騰が建設に影響を与えている。完成後も維持費を考える必要がある。私は関係者に今こそ腹を割って話そうと言っている。一番良いやり方を、駅西口と一体的に考えるべきだ」  インタビューを行ったのは昨年11月中旬だが、この時点で渡邊会頭は計画全体の見直しを予見していたのかもしれない。  12月定例会で、前出・石山議員や斎藤議員は駅西口のイトーヨーカドー福島店が5月に閉店することを踏まえ「東西一体的なまちづくりを検討すべき」と促した。それに対し木幡市長は、県有施設の「とうほう・みんなの文化センター」(県文化センター)を駅西口に移転させるアイデアに言及していた。  「今まで東西一体的なまちづくりに関心を寄せてこなかったのに、議会も木幡市長も急にそういうことを言い出すのは不愉快」  と憤るのはある経済人だ。と言うのも、市内には福島商工会議所を中心に「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織があり、福島駅の連続立体交差(※)により東西エリアの一体化を図るべきと訴え、自民党の有力議員に働きかけるなどしてきたが、議会も木幡市長も駅前再開発事業が進んでいることを理由に真剣に検討してこなかった経緯があるのだ(詳細は本誌2022年8月号参照)。  「コンベンション施設の規模を小さくすれば中途半端な再開発になってしまう。一方、議員は駅前にペデストリアンデッキをつくるべきとか東西自由通路を新しくすべきなどと言っているが、それだけでは東西一体化につながらない。連続立体交差は一大プロジェクトに違いないが、事業費を精査すると実はどの事業よりも安上がりで済むことに議員も木幡市長も目を向けてこなかったのは残念だ」(経済人)  今後、連続立体交差の機運が高まるかどうかは分からないが、迷走し出した駅前再開発事業の行方がはっきりしないうちは東西一体的なまちづくりの議論に入れないだろう。 ※鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の国庫補助として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。 あわせて読みたい 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

  • 首都圏工事の残土捨て場となる福島県

     昨年11月30日、福島市で開かれた県町村会と内堀雅雄知事との意見交換会で、中通りの複数の自治体に大量の土砂が搬入され、盛り土が造成されている現状が明らかになった。  土砂は廃棄物処理法の規制対象外で、私有地への盛り土造成に関しては行政が立ち入ることができない。西郷村や矢祭町などでは近隣住民から不安の声が上がっており、各自治体が対応に苦慮しているという。  西郷村真船地区の国道294号沿いに足を運んだところ、高さ10㍍(マンションの3~4階)ほどの土砂が積み上げられていた。  近隣住民は次のように語る。  「8月ごろから夜中に10㌧ダンプで土砂が搬入され、みるみるうちに高く積み上げられた。よく見るとヒビが入り始めており、いつ崩れるか心配で仕方ない。一度様子を見に行ったら、コワモテの人が立っていて、あいさつしたが名刺も計画書もよこそうとしませんでした」  新聞報道によると、県は同地への立ち入り調査を実施しており、土砂搬入に関わったとみられる運搬業の業者は「自社で排出した土だ」と説明しているという。なおこの業者は昨年、千葉県野田市の休耕田に無許可で土砂を運び込み盛り土としたとして、市残土条例違反容疑で摘発されたほか、前年には埼玉県でも同様の行為で措置命令を受けた(河北新報12月5日付)。  2021年7月に静岡県熱海市で盛り土が原因とみられる土石流災害が発生し、多数の死者・行方不明者、家屋被害が生じたのを受けて、「盛土規制法」が施行された。盛り土などで被害を及ぼす可能性がある区域を規制区域として指定し、一定以上の盛り土は許可を必要とする仕組みだ。だが、福島県内では規制区域の指定がまだ進んでいない。  内堀知事は12月4日の記者会見で、「規制区域の指定に向けた基礎調査を実施し、今年度内に調査結果を取りまとめて、市町村と調整しながら規制区域を指定していく」と述べ、県議会12月定例会では区域指定を24年度中に前倒しして対応していく方針を明らかにした。  産業廃棄物の収集運搬を請け負う企業の経営者はこのように語る。  「首都圏では道路整備や開発事業が活発化しており、工事で出た残土の置き場所に困っている。私も実際に首都圏の工事関係者から『多めにお金を出すから、残土を処分してほしい』と相談を受けたことがある。モラルが低い一部の業者は請け負ってしまうのではないか」  関東地方では独自に一定以上の土砂の投棄を規制する条例を定めて〝自衛〟する市町村もあるが、県内自治体は条例制定が進んでいない。そのため、首都圏に近い〝残土捨て場〟として狙われていると言える。  西郷村や矢祭町では独自の盛り土規制条例制定に向けて準備を進めており、県としても条例を制定する方針。早ければ県議会2月定例会での成立を目指す。ただし、既存の盛り土には効力が及ばない見込みで、県は引き続き盛り土されている土地の所有者・運搬事業者に土砂の内容物や発生元の報告を求め、災害の未然防止を図っていくとのこと。  それにしても、中間貯蔵施設の除染土壌の最終処分先がなかなか決まらない中、逆に首都圏から建設残土が県内に運び込まれてくるというのは何とも皮肉な話だ。  なお、110頁からの記事で取り上げている、松川浦県立自然公園内での埋め立て計画予定地にも首都圏の道路工事で出た土が使われるとのこと。〝もう一つの建設残土問題〟として併せてお読みいただきたい。

  • 郡山市が逢瀬ワイナリーの引き継ぎを決断!?

     本誌昨年10月号で郡山市の「ふくしま逢瀬ワイナリー」が閉鎖の危機に立たされていることを報じた。  逢瀬ワイナリーは震災からの復興を目的として、市が所有する逢瀬地区の土地に公益財団法人三菱商事復興支援財団(以下、三菱復興財団と略)が2015年10月に建設。同ワイナリーを拠点に、地元農家(現在13軒)にワイン用ブドウを栽培してもらい、地元産ワインをつくって農業、観光、物産などの地域産業を活性化させる果樹農業6次産業化プロジェクトを市と同財団が共同で進めてきた。実際の酒の製造と販売は同財団が設立した一般社団法人ふくしま逢瀬ワイナリーが手掛けている。  ただ三菱復興財団では当初から、同プロジェクトがスタートしてから10年後、すなわち2024年度末で撤退し、施設と事業を地元に移管する方針を示していた。同財団は「地元」がどこを指すのかは明言していないが、本命が郡山市であることは明白だった。  事実、三菱復興財団はこの間、市に施設と事業を移管したいと再三申し入れている。ところが、市農林部は頑なに拒否。その理由を本誌10月号は次のように書いている。    ×  ×  ×  ×  「郡山産ワインは市場でようやく評価されるようになったが、これまで支出が上回ってきたこともあり施設はずっと赤字だった。今は三菱復興財団が面倒を見てくれているからいいが、市が施設を引き受ければそのあとは赤字も負担しなければならないため、品川萬里市長が難色を示しているのです」(事情通)  上がノーと言えば、下は従うほかない――というわけで、市農林部は三菱復興財団の移管要請を拒み続けている、と。    ×  ×  ×  ×  移管先が決まらなければ、施設は取り壊され、事業を終える可能性もある。この時の本誌取材に、市園芸畜産振興課の植木一雄課長は「逢瀬ワイナリーについては関係者において現在検討中です」と文書で回答するのみ。9月定例会でも関連質問があったが、市は「検討中」と繰り返すばかりだった。  「政経東北の記事が出たあと、市から今後のブドウ栽培に関する聞き取り調査があった。逢瀬ワイナリーがこれからどうなるといった話は出なかった」(ある生産農家)  このように、移管に消極的な姿勢を見せていた市だったが、先月開かれた12月定例会は少し様子が違っていた。箭内好彦議員(3期)が「第一の移管先に挙がっている市の考えを聞きたい」と質問すると、和泉伸雄農林部長はこう答弁したのだ。  「三菱復興財団からは市や生産農家に配慮したご提案をいただいている。市としては同財団が築いたワイナリー事業が2025年度以降も円滑に継続されるよう、生産農家の経営方針を尊重しながら同財団と協議していきたい」  前述の「検討中」と比べると、明らかに前向きな姿勢に変わっているのが分かる。  ワイナリー事業に精通する事情通はこのように話す。  「市の方針は決まっていないが、品川市長の姿勢が変わったことは間違いない。三菱復興財団とは受け入れに関する条件面を協議している模様で、同財団担当者も市のスタンスの変化に手ごたえを感じているようだ。担当者はそれまで市を説得しようと頻繁に来庁していたが、11月以降は来庁の頻度も減っている」  三菱復興財団が撤退する2024年度末まで1年3カ月を切る中、移管に向けた協議が順調に進むのか、市の対応が注目される。 あわせて読みたい 【ふくしま逢瀬ワイナリー】が赤字閉鎖!?【郡山】

  • 【福島県WOOD.ALC推進協議会】

    地元杉材を使用した建材で低炭素社会に貢献  建築物に用いられるWOOD.ALC(ウッドエーエルシー)という構造物をご存知だろうか。  「低炭素社会(Attain Low CarbonSociety)を達成させる木材」を意味する木質パネルで、間柱状に製材、乾燥した杉材を接着した集成材だ。厚さ12㌢、幅45㌢、長さ3・0~4・0㍍の厚板で、建築素材として求められる木材独特の柔らかな色合い、優れた断熱性能、吸音性に加え、高い防耐火性も兼ね備える。  住宅はもちろん、学校、幼稚園、老人介護施設などに最適な建材で、飲食店、オフィスなど癒しが求められる建物に用いて、市街地に木の安らぎ空間をつくることも可能だ。  日本は、先進国の中では珍しく、豊かな森林資源をもつ森林大国で、国土の約8割が山林である。一方で、木材の輸入自由化から約50年が経過する中、木材価格は安い輸入材に圧迫され、日本の林業は衰退の一途を辿っている。  森林は木の成長に合わせて適度に伐採して利用することが、持続可能な森林資源の再生に不可欠だ。日本の人工林の多くは終戦後に植えられたものが大半を占めており、植林から40~50年経ち、早急に伐採と利用の促進をしなければ、森林全体が光や風の入らない不健康な山になる。  そうした中、藤田建設工業(棚倉町)では、「戦後植えられた木の中でも最も森林面積の多い杉の木をもっと利用促進できないか」と検討を重ね、WOOD.ALCとして活用する方針を打ち出している。  追い風となったのは、2010年に公共建築物木材利用促進法が制定されたこと。同法では低層の公共建築物は原則木造化を図り、低層、高層にかかわらず内装等の木質化を促進することが義務付けられている。  建築物の壁などに木材を使用するには、防耐火性能を満たすことが求められるが、WOOD.ALCは厚さを12㌢とすることで、火を通しにくくしている。2011年には改正建築基準法に基づく準耐火性能評価試験を受け、国土交通省の認定を得た。これによりWOOD.ALCを大型建築物での外壁、床板、防火区画を兼ねる内壁に使用できるようになった。  木材は、光合成によって空気中のCO2 (二酸化炭素)を体内に吸収し、閉じ込めることから〝CO2を固定化する〟と言われている。日本の森林が吸収するCO2は年間約1億㌧であり、国内すべての自家用車が排出するCO2の7割に相当する。同社の調査では、国産杉林1平方㍍当たりの吸収固定化するCO2の量は0・59t―CO2となる。国産杉を利用すればするほど、CO2の削減枠に貢献すると言っても過言ではなかろう。  2015年には藤田建設工業の藤田光夫社長(当時)が事業管理者となり、会津土建(会津若松市)、菅野建設(福島市)、協和木材(塙町)の4社で福島県WOOD.ALC協議会を設立した。現在は加盟企業10社を数え、各社で連携を図りながらWOOD.ALCの普及活動と技術開発に鋭意努めている。

  • 【吉田豊】終わらない【南相馬市】悪徳ブローカー問題

     本誌5~8月号で、南相馬市で医療・介護コンサル、ブローカーとして暗躍する吉田豊氏について取り上げた。ずさんな見通しの事業計画を地元企業に持ち込み、損失を被った企業は多数。市内のクリニック、介護施設の実質的オーナーだが、ブラックな労働環境に数知れない職員が退職した。その後も被害は拡大し続けており、本誌には周辺から情報が寄せられている。(志賀) あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 第4弾【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】 「元職員が金を渡して記事書かせた」と吹聴  吉田豊氏は青森県上北町(現・東北町)出身。今年4月現在、64歳。公表している最終学歴は、同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。過去に医療法人の実質的オーナーを務めていたが、本人は医師免許を持っていない。  若いころに古賀誠衆院議員の事務所に出入りしていた過去がある。上北町議2期を経て、青森県議選に2度立候補したが落選し、どちらも選挙後に公選法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡しして投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。  復興需要にありつこうと浜通りに流れてきて、南相馬市の老舗企業の経営者に取り入り、全面的支援を受けて同市内に南相馬ホームクリニックを開設した。だが、当初からトラブル続きで給料遅配・未払いが横行するブラックな環境となったため、スタッフらは相次いで退職。クリニックの大家である老舗企業への賃貸料支払いも滞り、医師とも対立したため、同クリニックは閉院した。  現在、地元企業が未払い分の賃貸料の支払いを求め、吉田氏などを相手取って訴訟を提起している。  当の吉田氏はそのことを気にも留めず、昨年7月、同市内に桜並木クリニックを開院。すぐ近くに、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が運営する薬局「オレンジファーマシー」がつくられ、少し離れた場所に高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。  これらの施設は、吉田氏が準備を進めていた「医療・福祉タウン」構想実現に向けた準備と思われる。  高齢者の住まいの近くにクリニック、介護施設、給食事業者などを設け、事業を一手に引き受けることで、大きな収益を上げる。この計画が吉田氏にとって悲願だった。公益性が高いので復興補助金の対象にもなりやすいとみられていた。  実際に土地も購入しており、その土地を担保に、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りている。それらの資金は事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままで、10月に入ってから看板が外された。結局、計画は補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。抵当権が設定されているため、売るにも売れない状況だ。  〝準備〟として開設された前出の施設も、南相馬ホームクリニック同様、ブラックな労働環境となり、再びスタッフが次々と退職した。これ以外にもバイオマス発電構想を進めるとして、巻き込まれた地元企業が倒産に追い込まれたほか、医師や医療・介護スタッフにも100万円単位で借金をしており、未だに返済されていない人もいる。  本誌調べではコンサルタントや設計士、出入り業者、医師のために建てた住宅の造園業者などへの支払いも滞っており、吉田氏が宿泊していたホテルの料金さえ未払いが続いていたという。本誌8月号発売後、慌てて出入り業者などに金額の一部が支払われたそうだが、懐事情は末期状態にあると見るべきだろう。  ここまでが8月までの情報だが、その後、動きがあった。  1つは南相馬クリニック・憩いの森などで勤めていたAさんが、吉田氏関連の運営会社ライフサポート(浜野ひろみ社長)を相手取って、未払い賃金約48万円と遅延損害金の支払いを求める少額訴訟を相馬簡易裁判所に提起したこと(本誌10月号情報ファインダーで既報)。  9月12日に同簡裁で行われた裁判には、吉田氏や浜野氏は姿を現さず、被告不在のまま、裁判官が同社に全額支払いを命じる判決を言い渡した。もっとも、Aさんによると、判決から2カ月経っても支払われておらず、今後は強制執行を申し立てる必要がある。  2つは桜並木クリニックが8月15日付で廃止され、診療所の名称と建物はそのままで新たなクリニックとなったこと。それに伴い、院長が由富元氏から星野廣樹氏に交代した。星野氏は東邦大学医学部卒。山梨大学大学院総合研究部医学行薬理学講座などに所属し、小児科を専門としている。  現在の診療科は皮膚科、泌尿器科、内科(同クリニックのホームページより)。非常勤の医師を採用しているようだ。過去に勤めていた医師の中には、当初約束した賃金を支払ってもらえなかったり、個人名義で融資を申し込んで金を融通するよう依頼された人もいた。そうした事実をいま同クリニックで働く医師らは知っているのだろうか。 県内外から寄せられる情報  3つは桜並木クリニック、憩いの森で退職者が相次ぎ、新しいスタッフが入ったこと。人の出入りが激しくなったことに加え、本誌に掲載された吉田氏関連の過去記事がホームページに転載されたこともあってか、県内外からコアな関連情報が編集部に寄せられ続けている。  吉田氏は内部で「市内に物件を購入し、新施設を開設する計画だ」と語っているようだが、少額訴訟や賃金未払い分の請求にすら応じていないことを考えると眉唾物。青森県にある吉田氏の自宅は差し押さえられている。  驚くのは、新しく入った職員に対し、「『政経東北』の記事は元職員Bが300万円で書かせている」と吹聴していたこと。5月号記事で触れた通り、本誌は市内の経済人から吉田氏のウワサを聞き、取材活動を始めたのであって、カネをもらって書いたというのは全くのデタラメだ。  元職員Bさんは吉田氏関連の会社の社長に据えられていた人物で、前出「医療・福祉タウン」構想の主体となる協同組合を設立するため理事となり、500万円を出資。土地購入時には金融業者から金を借りる際の連帯保証人にもなった(ほかの連帯保証人は吉田氏、浜野氏、前出Aさん、理事1人)。  ところが、今年に入り「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っていた」として、利息分と遅延損害金2600万円の支払いを請求されるトラブルが発生。Bさんは吉田氏と決別して退職していたのに、自宅を差し押さえられ、競売で不動産業者への売却が決まった。いわば吉田氏に人生をめちゃくちゃにされた一番の被害者だが、吉田氏は「自分こそが被害者だ」と言わんばかりに平然とデマを流しているわけ。  「吉田氏は平気でうそをつく。われわれも事実と異なることを言われて振り回された経験がある。新たに入ったスタッフの信頼を得ようとしているのでしょう」(吉田氏のもとで働いていた元職員)  吉田氏関連のクリニックや施設に勤め、損失を被った医師・スタッフは、現在、労働基準監督署や警察署に相談しているが、その悪質性がなかなか伝わらず、表面的な調査・相談対応に留まっている。  ただ、吉田氏やその関連会社を相手取った訴訟準備がそれぞれ進められており、その外堀は埋められつつある。新たな被害者を出さないようにするためには、関係者が〝実態〟を伝え、近づかないように呼びかけていくことが必要になる。  本誌では引き続き吉田氏とその周辺をウオッチしていく方針だ。 ※吉田豊氏が実質的オーナーを務める介護施設「憩いの森」を南相馬市長寿福祉課が訪問した、との情報が入ってきた。同施設に関してはさまざまなウワサがある。詳細が分かり次第、記事を掲載したい。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 第4弾【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

  • 【検証】プロ野球の親会社「関わりゼロ不可避」説

     国内には12のプロ野球チーム(球団)があり、各球団には親会社が存在している。それら親会社(関連会社を含む)の業種は実に幅広い。プロ野球が好きな人も、そうでない人も、知らず知らずに各球団の親会社が提供する商品・サービスなどを購入・利用しているものと思われる。むしろ、プロ野球の親会社が提供する商品・サービスを全く使わずに生活するのは不可避と言っていいのではないか。それは地元球団がない福島県でも例外ではない。そこで、「プロ野球の親会社『関わりゼロ不可避』」という仮説のもとで検証してみた。 地元球団がない県内でも商品・サービス多数  今年は3月にワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開催され、日本代表・侍ジャパンが世界一に輝き、大きな盛り上がりを見せた。それに牽引されるように、プロ野球(セ・リーグ、パ・リーグの公式戦全858試合)の観客動員数は約2507万人(1試合平均約2万9000人)で、前年度を400万人ほど上回った(数字は日本野球機構=NPB発表に基づく)。  もっとも、2020年から2022年は新型コロナウイルスの影響で入場制限などがあったから、「前年比400万人増」というのは参考外。コロナ前の2016年から2019年を見ると、年間観客動員数は2500万人前後で推移している。つまり、2023年は完全にコロナ前に戻ったことになる。  いずれにしても、年間800以上の興行で、1興行当たり約3万人を動員できるのだから、国内屈指のコンテンツと言っていいだろう。そのほか、直接球場に行かなくても、近年はネット配信で試合を見ることができ、その利用者やプロ野球関連のSNSなどの投稿・閲覧数もかなりの数に上る。  そんな〝キラーコンテンツ〟と言えるプロ野球だが、広い視点で見ると、何気ない普段の生活でも何かしら関係している可能性が高い。というのは、プロ野球チームにはそれを運営する会社(球団)があり、その上に親会社が存在しているのだが、それらが提供する商品・サービスを全く使わずに生活するのは不可避と言っていいからだ。  別表は、チーム、球団(運営会社)、親会社をまとめたもの。 プロ野球12球団の親会社(2023年の順位順) セントラル・リーグ チーム名球団名親会社阪神タイガース阪神タイガース阪急阪神ホールディングス広島東洋カープ広島東洋カープマツダ(※本文注)横浜DeNAベイスターズ横浜DeNAベイスターズディー・エヌ・エー読売ジャイアンツ読売巨人軍読売新聞グループ東京ヤクルトスワローズヤクルト球団ヤクルト本社中日ドラゴンズ中日ドラゴンズ中日新聞社 パシフィック・リーグ チーム名球団名親会社オリックス・バファローズオリックス野球クラブオリックス千葉ロッテマリーンズ千葉ロッテマリーンズロッテホールディングス福岡ソフトバンクホークス福岡ソフトバンクホークスソフトバンクグループ東北楽天ゴールデンイーグルス楽天野球団楽天グループ埼玉西武ライオンズ埼玉西武ライオンズ西武ホールディングス北海道日本ハムファイターズ北海道日本ハムファイターズ日本ハム  なお、広島東洋カープの親会社には自動車メーカーの「マツダ」と記載したが、正確には少し違う。同球団は「特定の親会社を持たない市民球団」という位置付け。ただ、マツダの創業者一族(松田一族)が広島東洋カープの株式の大部分を所有しており、チーム・球団名に入っている「東洋」は、マツダの旧社名である「東洋工業」から取ったもの。  各球団には「球団社長」がおり、その上に親会社のトップである「オーナー」が存在する。広島東洋カープのオーナーは代々松田一族から出ている。そういった事情から、広島東洋カープは対外的には「親会社は存在しない市民球団」とされているが、実質、マツダ(松田一族)を親会社とみなすことができる。  表を見ると分かるように、プロ野球チームは、地名、親会社名、愛称で構成されている。これに対し、サッカー・Jリーグのチームは、地名と愛称のみで親会社名は入らない。これはJリーグの方針によるもの。そこが野球とサッカーで違うところ。  12球団のうち、楽天は「東北」と称しており、東北地方のチームであることを謳っているが、福島県ではそれほど身近ではない。それ以外は北海道、首都圏、名古屋、大阪圏、広島、福岡と、大都市に集中しており、より遠い存在と言える。だが、前述したように広い視点(親会社の商品・サービス)で見ると、実は県民生活においても無視できない。 食品系は利用率高め⁉️ ロッテの主力商品  親会社は、いくつかのカテゴリーに分類できる。  分かりやすいのは食品系。東京ヤクルトスワローズ、千葉ロッテマリーンズ、北海道日本ハムファイターズの親会社がそれに該当する。それぞれの主力商品を挙げてみる。  ヤクルト▽ヤクルト、ミルミル、ジョア、ソフール、タフマン  ロッテ▽コアラのマーチ、パイの実、キシリトールガム、ブラックブラックガム、チョコパイ、雪見だいふく、モナ王  日本ハム▽ロースハム、シャウエッセン、豊潤、バニラヨーグルト(関連会社の日本ルナ)、ロルフ・スモークチーズ(同・宝幸)  県内のスーパー、コンビニなどどこにでもある商品で、各社の商品を一度は口にしたことがあるはず。筆者は、クルマでの移動中によくブラックブラックガムを噛む。  ヤクルトの「ヤクルト1000」は最近のヒット商品。昨年初めごろに話題になり品薄状態になった。ブームが落ち着いたころに何度か買って飲んでみたが、謳い文句の「ストレス緩和」「睡眠の質向上」に効果があったかは不明。毎日続けなければ実感できないということか。  日本ハムは、前述の商品のほか、外食産業に食肉・加工品などを卸している関連会社(北海道・東北エリアは東日本フード)があるから、それこそ知らない間に〝お世話〟になっている可能性が高そう。  次にIT・通信系。横浜DeNAベイスターズ、福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルスの親会社が該当する。  ディー・エヌ・エーは、スマートフォン用ゲームの開発・配信が主業。代表作は、「ポケモンマスターズEX」(ポケモン社との共同開発)、「ファイナルファンタジー レコードキーパー」(スクウェア・エニックス社との共同開発)、「逆転オセロニア」など。このほか、関連会社にオークションサイトの運営「モバオク」がある。ゲーム好きなら利用したことがあるだろう。  ちなみに、同社創業者の南場智子氏は横浜DeNAベイスターズオーナーで、NPBオーナー会議議長、日本経済団体連合会副会長を女性で初めて務めた人物として知られる。デジタル庁デジタル臨時行政調査会構成員にも就いている。  ソフトバンクグループは子会社が1280社、関連会社が573社あり、事業範囲が膨大過ぎて把握しきれない。分かりやすいところで言うと、携帯キャリアサービスの「ソフトバンク」や、通信サービスの「LINE」、キャリア決済の「PayPay」、インターネット検索エンジンほか各種サービスを提供している「Yahoo」など。ソフトバンク携帯のシェアは約20%だが、スマホ所有者の80%以上がLINEを利用しているというから、同社のサービスを使っている人が多いのは間違いない。そのほか、前述のように、子会社・関連会社が膨大だから、知らず知らずに同社グループのサービスの世話になっている、ということがあると思われる。  楽天グループは、携帯キャリアサービスの「楽天モバイル」、国内最大級のインターネットショッピングモール「楽天市場」などのほか、「楽天ブック」、「楽天カード」、「楽天トラベル」などのサービスを提供している。筆者は地方競馬全場の馬券が買えて、レース映像が見られる「楽天競馬」を利用している。サービスの大部分は「楽天〇〇」という名称だから、利用している人はすぐにピンと来るはず。 オリックスグループの「御宿 東鳳」 御宿 東鳳(HPより)  読売ジャイアンツと中日ドラゴンズの親会社はメディア系という分類で括ることができる。  読売新聞グループの「読売新聞」は全国シェアではトップだが、福島県内では約6%で、福島民報(約30%)、福島民友(約20%)の地元2紙には及ばない。ただ、関連会社に日本テレビ(日本テレビホールディングス)があり、避けて生活するのは不可能と言っていいレベル。そのほか、スポーツ紙の「スポーツ報知」も発行している。福島民友、福島中央テレビにも資本が入っている。  名古屋市に本社を置く中日新聞社が発行する「中日新聞」は東海地区のブロック紙。愛知県では50%近いシェアを誇るほか、ほかの東海圏(岐阜県、三重県)でも約40%のシェアに上る。また、スポーツ紙の「中日スポーツ」を発行しているほか、「東京新聞」を傘下に加えている。福島県で生活していたら、直接的に見ることはないだろうが、ネット配信記事などを見ることはあろう。そのほか、少々強引な見方をすると、大相撲名古屋場所(毎年7月開催)は日本大相撲協会との共催になっており、名古屋ウィメンズマラソンの主催者にも名を連ねているから、テレビを通して好きな力士、選手を応援する行為が、中日新聞社の〝お世話〟になっているということもできなくはないか。  広島東洋カープのマツダは、県内各所に販売店がある。トヨタや日産、ホンダと比べるとシェアは低いが、固定ファンが存在する。知り合いのマツダユーザーは「好きな車種があるから。あとは内装がいいんだよね」とのこと。広島東洋カープに関しては、マツダのクルマに乗っているかどうか、だけのつながりか。  オリックスバファローズの親会社は、eダイレクトの預金・信託、オリックス銀行のカードローン、不動産ローンのほか、生命保険や自動車保険、オリックスレンタカー・カーシェア、ICT関連機器や医療機器のレンタル・販売、商用車・トラックのレンタルなどの事業を展開している。同社も事業範囲がかなり幅広いため、気付かない間に関わっているということがあるかもしれない。  会津・東山温泉の「御宿 東鳳」は、オリックスの関連会社「オリックス・ホテルマネジメント」が運営している。今年、オリックスバファローズは、パシフィック・リーグ3連覇を果たしたが、同温泉宿のHPを見る限り、「優勝記念特別プラン」のようなものはなかった。 関係性が薄い鉄道系  阪神タイガースと西武ライオンズの親会社は鉄道系で括れる。  阪急阪神ホールディングスは近畿地方を中心に運行する阪急電車、阪神電車の鉄道事業のほか、バス、タクシー、旅行などの事業を手掛けている。そのほか、関連会社で不動産事業や百貨店経営などがあるが、どれも近畿圏が中心。唯一、旅行業の関連会社「阪急交通社」の営業所が福島市にあるが、同社HPの同営業所の紹介では「福島営業所は常勤ではございません」、「週に1回~2回、仙台支店のスタッフが訪問します」、「営業所内にて旅行カウンターはございません」、「受付業務は行っておりません」とあり、問い合わせ番号も仙台市の番号が記載されている。福島県内に住んでいたら、最も関わりが薄い会社かもしれない。  ちなみに、筆者は阪神タイガースファンで、専門の有料チャンネルに加入しており、試合だけでなく、キャンプ情報やグラウンド外の情報なども常にチェックしている。そのため、普段の生活とは無関係でも、筆者にとっては一番身近な存在というのは余談である。  西武ホールディングスは、東京北西部と埼玉南西部を中心に「西武鉄道」を運行しているほか、ホテル、ゴルフ場、スキー場の運営などを行っている。東北地方では、仙台うみの杜水族館(宮城県)、十和田プリンスホテル(青森県)、雫石プリンスホテル、雫石スキー場、雫石ゴルフ場(岩手県)などがあるが、福島県内には関連施設はない。  西武グループは創業者の堤康次郎氏が1964年に亡くなった数年後に、鉄道部門の「西武グループ」と、西武百貨店などを運営する流通部門の「セゾングループ」に分社した。西武ライオンズは西武グループの傘下だが、西武ライオンズが優勝した際はセゾングループの西武百貨店や西友などで「優勝セール」が行われていた。そこからすると、両社が完全に無関係になったわけではない。県内では郡山市と伊達市に西友の店舗がある。  もっとも、2000年代に入り、セゾングループは解体され、中核だった西武百貨店は、同じく百貨店の「そごう」と合併して「そごう・西武」になった。その「そごう・西武」は2005年にセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入ったが、今年8月にアメリカの投資運用会社「フォートレス・インベストメント・グループ」に売却された。  西武との合併前の話だが、そごうについては、かつて郡山市に出店計画があった。駅西口再開発の目玉として、1983年にそごうを核店舗とする駅前再開発施設の建設計画があったのだ。しかし、1985年の市長選で同計画慎重派の青木久氏が当選。計画の見直しを行う過程で地権者と軋轢が生じ、これを受けそごうは出店を断念した。その後、2001年に郡山駅前再開発ビル「ビッグアイ」が開業した経緯がある。  もし、あの時、そごうが出店していたら――。開業から十数年後にそごうと西武が合併、後にセブン&アイ・ホールディングスの傘下入り……といった中で、どこかで撤退していた可能性が高い。結果的に良かったのか悪かったのかは分からないが、また違った未来があった。  最後は少し脱線してしまったが、こうして見ると、プロ野球に興味がある・ないに関係なく、地元を本拠地とする球団がない福島県で生活していても、意外と生活に関わっていることがうかがえよう。関係性の大小はあるだろうが、「プロ野球の親会社『関わりゼロ不可避』」説は、〝立証〟と言っていいのではないか。

  • 【会津磐梯】スノーリゾート形成事業の課題

     観光庁が実施している「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」という補助制度がある。2020年から毎年実施(募集)しており、2023年度は、会津磐梯地域が県内で唯一、事業採択された。それによって何が変わるのか。 インバウンドの足かせになる処理水放出 アルツ磐梯  「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の事業概要はこうだ。観光地域づくり法人(DMO)や観光関連協議会などが主体となり、スキー場やその周辺の観光施設、宿泊施設などが共同で「国際競争力の高いスノーリゾート形成計画」を策定し、観光庁に応募する。それが採択されれば、同計画に基づき、アフタースキーのコンテンツ造成、受け入れ環境の整備、スキー場のインフラ整備などの費用について国から補助が受けられる。これにより、インバウンド需要を取り込む意欲がある地域やポテンシャルが高い地域で、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することを目的としている。同事業の応募要件、補助対象などは別表の通り。  2023年度事業は2月から3月にかけて募集があり、県内では会津若松市、磐梯町、北塩原村の「会津磐梯地域」が応募し、事業採択された。計画の名称は「The authentic Japan in powder snow resort AIZU 〜歴史、文化、伝統、自然が織りなす會津の雪旅〜」。  計画策定者は会津若松観光ビューローで、同団体が事務局のような役割を担う。歴史・文化に特化した観光施設や温泉地などがあり、宿泊施設や飲食店なども多い会津若松市がベースタウンとなり、スキー客の呼び込みが期待できる磐梯町・北塩原村と連携して、長期滞在型の冬季観光を目指す。  観光庁によると、同事業は単年度事業だが、公募の際は向こう3年くらいのスパンで計画を策定・提出してもらうという。計画には全体計画と個別計画があり、それを実践していくわけだが、全体計画はそのままに、個別計画をブラッシュアップして、翌年、継続して事業採択されるケースもあるようだ。毎年の事業について、観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成の促進に向けた検討委員会」では、成果や課題などが検証される。事業採択された地域ごとに成果や課題などの発表会も行われるという。そうした中で、一定程度の成果が見られなければ、翌年度に再度応募しても、採択されないということもあり得るだろう。  今年度の事業採択は会津磐梯を含めて14地域。このうち、9地域が前年度も選定されている継続地域。これに対し、会津磐梯地域は今年度が新規だから、ライバルは一歩、二歩、先に進んでいると言っていい。  もっと言うと、事業名に「国際競争力の高い」という冠が付いていることからも分かるように、インバウンド需要の取り込みが目的の1つ。福島県は、原発事故の影響が残っているほか、最近では処理水海洋放出があり、隣国から非難された。その点でも、福島県はあまり有利な条件とは言えない。  「スノーリゾート形成事業」だから、当然、事業採択地域は雪国。八幡平(岩手県)、夏油高原(同)、蔵王(山形県)、那須塩原(栃木県)、越後湯沢(新潟県)、妙高(同)など近県が多い。近くでもスノーリゾート事業を促進しているところがある中で、どうやって福島県に来てもらうかが問われる。 処理水放出の影響  そもそも、処理水海洋放出の影響はどうなのか。会津若松市の観光関係事業者はこう話す。  「海洋放出直後は、イタズラ電話がひどくて電話線を抜いていたほどですが、しばらくすると落ち着きました。あるエージェントによると、中国、韓国などでは20代、30代くらいの若い世代はあまり気にしていないそうです。ただ、その親世代に『日本に観光に行く』と言うと、あまりいい顔をされなかったり、明確に止められたり、ということがあると話していました」  一方、会津地方の外国人観光客ツアーガイドは次のように明かした。  「私のところでは、台湾からの観光客が最も多く次いで中国です。中国人観光客については、嫌がらせの電話が問題になった時期は予約キャンセル等がありましたが、少しするとだいぶ落ち着きました。紅葉シーズンは例年並み、スキーシーズンも例年並みになるのではないかと思います。中国では昨年、冬季北京オリンピックがあり、その開催が決まった2015年ごろから、ウインタースポーツ、特にスキーブームがきているんです。日本では80年代後半から90年代初めにかけてスキーブームが起きましたが、(中国のスキーブームでは)純粋にその10倍の人がスキーを求めていると思っていい。一方で、中国ではまだまだスキー場が十分ではなく、いま盛んに開発が行われていますが、どうしても時間がかかります。ですから、中国からスキー客を呼び込むチャンスであるのは間違いありません」  一方で、このツアーガイドは「どこまで言っても来ない人は来ない。そういう人に来てもらおうと、例えば『会津地方は原発から離れている』ということを情報発信したとしても意味がないんです。ですから、来てくれる可能性がある人に向けて、気を引くようなコンテンツを用意したり、営業をかけるということに尽きると思います」とも話した。  スノーリゾート形成事業に話を戻す。計画を策定し、事業事務局の役割を担う会津若松観光ビューローによると、今年度は外国人観光客のための多言語の看板や、スキー場内でのWi―Fi整備、バスやタクシーなどの交通整備を行うという。具体的には、以前からJR会津若松駅とアルツ磐梯を結ぶ冬季限定の直通バスがあるが、それを市内の宿泊施設にも乗り入れるようにするほか、東山温泉街からの直通バスを新設する。  「初年度ということもあり、手探りの部分はありますが、今後はエリア内のスキー場の共通パスの発行や、さらなる交通整備、ペンションなどではキャッシュレスに対応していないところも多いので、その整備、エリアの拡大など、やれることはまだまだあると思います。今年度はスタートの年で、そのための意識合わせが軸になると思います」(会津若松観光ビューローの担当者)  ここで2つ疑問が浮かぶ。  1つは、磐梯町・北塩原村のスキー場と会津若松市の宿泊施設、温泉宿などをつなげるにしても、スキー場によっては自前のホテルを有しているところもある。さらに、磐梯町・北塩原村にはペンションが多数存在している。自前のホテルを有しているスキー場の営業マンや、磐梯町・北塩原村の観光協会関係者などが外国人観光客(スキー客)を呼び込む際、「宿泊には会津若松市の温泉宿がおすすめです」ということになるだろうか。「宿泊は自前のホテル、町内・村内の宿泊施設に」となるのが普通ではないか。  この疑問に対して、会津若松観光ビューローの担当者は次のように説明した。  「外国人観光客は1週間とか、ある程度の期間、滞在するケースが多い。当然、毎日スキーをするわけではなく、滑らない日もあるので、その日は会津若松市内の歴史・文化などの観光施設を回ってもらう、と。スキー場が近くて、これだけの観光施設を備えているところはなかなかありませんから、スキーと歴史・文化、温泉などをセットにして売り込んでいこうというのが、この計画の1つです」 猪苗代町は独自路線!?  もう1つの疑問は、会津磐梯山地域の周辺エリアでは、猪苗代町にもスキー場があるが、同町は同計画のメンバーに入っていない。これはなぜなのか。  「その辺はよく分かりませんが、宿泊施設や飲食店など、ベースタウンとしての機能が十分でない、ということではないでしょうか。ただ、先ほども話したように、いずれはエリアを拡大できればと思っています。それこそ、猪苗代町もそうですし、喜多方市も『食』(ラーメン)の点で強いコンテンツがありますから、一体となって売り込み、誘客につなげられればと思います」(同)  猪苗代町の関係者によると、「私の知る限りでは、今回の件(スノーリゾート形成事業)で話(誘い)はなかった」という。  一方、北塩原村の観光事業関係者はこう話す。  「猪苗代町は独自路線ということでしょう。遠藤さんのところは資金力もあるでしょうから」  この関係者が言う「遠藤さん」とは、ISグループ代表の遠藤昭二氏のこと。会津地方の住民によると、「遠藤氏は猪苗代町出身で会津工業高校を卒業後、東京でビジネスに成功し、近年は地元に寄付をしたり、さまざまなビジネス上のプロジェクトを立案・実施しています。それだけ地元に貢献しているのだから、すごいですよね」という。  ちなみに、本誌は過去に遠藤氏への取材を試みたが、同社広報担当者は「基本的に、当社・遠藤個人へのメディア取材はお断りさせてもらっています」とのことだった。  猪苗代町にISグループの関連会社「DMC aizu」があり、同社は猪苗代スキー場などを運営しているが、前出・北塩原村の観光事業関係者は、そうした背景から「DMC aizu(猪苗代スキー場)は資金力があるから、独自路線なのだろう」との見解を示したわけ。 アルツ・猫魔が連結 「ネコマ マウンテン」のイメージ(HP掲載イメージを本誌が一部改変)  ところで、今回のスノーリゾート形成事業で、1つ目玉となっているのが、磐梯町のアルツ磐梯と北塩原村の猫魔スキー場の連結だ。両スキー場はともに、星野リゾート(本社・長野県軽井沢町)が運営している。同社は2003年からアルツ磐梯を運営しており、2008年に猫魔スキー場を取得した際、両スキー場を尾根をまたいでリフトでつなぐ構想を持っていた。  ただ、当時の地元住民などの反応は「この地域は国立公園だから規制が厳しい。新たに建造物(リフト)をつくって山をまたいで連結させるなんて本当にできるのか」というものだった。  夢物語のように見られていたわけだが、ようやく許可が下り、リフトが建設できるようになった。連結計画が浮上してから約15年かかったことになるが、これは今回のスノーリゾート形成事業に選定されたことと関係しているのか。  アルツ磐梯の広報担当者によると、「許可自体はスノーリゾート形成事業に選ばれる前に下りていた」とのこと。  ただ、タイミングを考えると、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進」のために、許可された可能性もあるのではないか。だとするならば、同事業採択はすでに大きな意味を持つことになる。  アルツ磐梯はコースが豊富、猫魔スキー場は営業期間が長いといったそれぞれの利点があり、同社ではこれまでもアルツ磐梯と猫魔スキー場の共通リフト券を発行するなど、同地域内に2つのスキー場を有する強みを生かしてきた。ただ、両スキー場の行き来には、山を迂回しなければならないため、クルマで1時間ほどかかっていた。冬季の路面状況を考えると、もっと時間を要することもあっただろう。  それが、山の頂上をリフトで数分で行き来できるようになる。これに伴い、アルツ磐梯と猫魔スキー場という2つのスキー場ではなく、「ネコマ マウンテン」という1つのスキー場になる。かつてのアルツ磐梯は「ネコマ マウンテン 南ゲート」、猫魔スキー場は「北ゲート」という名称になる。2つのスキー場が一体化したことで、33コース、総滑走距離39㌔、ペアリフト11基、クワッド2基、スノーエスカレーター1基を備える国内最大規模になるという。  「予約等が大きく動くのは12月に入ってからですが、現在(本誌取材時の11月中旬時点)のところ、出足としては良好です。今シーズンはコロナ前の水準に戻るのではないかと予測しています。未だに(原発事故関連の)風評被害の影響はありますが、(スノーリゾート形成事業の)エリアとして誘客できればと思っています」(前出・アルツ磐梯の広報担当者)  前段でも述べたように、今回の事業はインバウンドを取り込み、国際競争力の高いスノーリゾートを形成することが目的。そんな中、福島県は、処理水海洋放出を含めた原発事故の影響があり、決して有利な条件とは言えない。加えて、近県でもスノーリゾート形成事業の採択地域が複数ありライバルとなる。国内最大級のスキー場や、歴史的・文化的な観光施設、温泉地といったハードは整っているが、難しい条件の中で、どうやって観光客を呼び込むかが問われている。

  • 開局70周年を迎えた【ラジオ福島】

     ラジオ福島(本社・福島市)が12月1日で開局70周年を迎えた。1953年(昭和28年)に全国で30番目のAMラジオ局として開局。県内初民間放送局の第一声は山崎義一アナウンサーの「こちらはラジオ福島でございます」という声だった。  放送される番組はバラエティーに富んでおり、開局と共に始まった「昼の希望音楽会」をはじめ「歌のない歌謡曲」、「農家の皆さんへ」などは局を代表する長寿番組である。朝、昼、夕方に放送されているワイド番組は、県内著名人や企業担当者、県民リポーターが登場するほか、生中継車両「いってみっカー」を使ったイベント中継が入るなど、徹底した地域密着型の内容となっている。「福島競馬実況中継」、「ふくしま駅伝中継」といった地元のスポーツ中継も同局の名物番組だ。  ラジオ局には災害時の情報収集と発信者としての役割もある。2011年(平成23年)の東日本大震災の際は、発生直後から15日間にわたり通常編成・コマーシャルをほぼ休止し、震災関連の特別報道番組の放送を続けた。以降も防災特設サイトを開設したり、平時も「rfc命を守るキャンペーン」として防災・交通安全・健康・防犯の啓発活動を続けている。 開局当時のラジオ福島本社 開局当時の放送の様子  開局記念日である12月1日から3日にかけては、開局70周年記念イベント「rfc感謝祭」が繰り広げられた。1日の福島市会場(キョウワグループ・テルサホール)では平日昼に放送されているワイド番組「Radio de Show(ラジオでしょう)」のパーソナリティーが勢揃いし、公開生放送で番組を届けた。併せてプロデューサー・ラジオパーソナリティーとして活躍する佐久間宣行さん(いわき市出身)をゲストに迎えた特別番組の公開収録も行われた。  2日はプラネタリウムクリエーター・大平貴之さんらをゲストに招いた「SUNKINスペシャル@スペースパーク」、3日は毎週日曜日に放送の人気番組「大和田新のラヂオ長屋」、同社OB・OGの制作で毎月最終日曜日に放送中の「回れ青春! みんなのレコードコンサート」の公開生放送で感謝を伝えた。  目や体の不自由な人たちへ募金を呼びかける「通りゃんせキャンペーン」は今年47回目を迎えた。募金総額は約5億2550万円となり、音の出る信号機や音声案内装置などを県内に贈っている。年末恒例のチャリティー・ミュージックソンも70周年企画で展開する。  開局70周年を迎え、同社の花見政行社長は「県民・リスナーの皆さんに支えられ、今があることに感謝し、県民ラジオとしての使命と誇りを胸に秘めて、愛され信頼される放送、番組づくりにまい進する」と今後に向けた意気込みを話す。  次なる節目の年に向けて、同社では引き続き県民に寄り添いながら放送を続けていく考えだ。

  • 「最終処分場」反対運動が過熱する【郡山市田村町】

     郡山市田村町の国道49号沿いに「谷田川地区最終処分場施設絶対反対!!」という看板が立てられている。谷田川行政区と「やたがわ環境を守る会」が設置したものだ。  「最終処分場施設」とは、同地区で計画されている産業廃棄物の最終処分場のことを指す。現在複数個所で整備計画が進められており、地元住民が猛烈な反対運動を展開しているのだ。  前出「守る会」の石井武四郎代表は反対理由をこのように語る。  「国道49号に沿って流れる谷田川の水は広範囲で農業用水として使われています。最終処分場は山の一角を切り崩して設置される計画ですが、仮に汚水が川に流れることがあれば深刻な影響を及ぼします。この辺は多くの世帯が井戸水を使っているので、地下水への影響も心配です。地区内にそうした施設ができることで過疎化が進む可能性もあります」  処分場建設を計画しているのはミダックホールディングス(静岡県浜松市、加藤恵子社長)。1952(昭和27)年創業。資本金9000万円。民間信用調査機関によると、2023年3月期は売上高17億3600万円、当期純利益7億8000万円。  9月には整備計画について、地元説明会が田村公民館で開催された。  計画によると、建設される最終処分場は管理型(分解腐敗して汚水が生じる廃棄物などを埋め立てる処分場)で、埋め立て面積約7㌶、埋め立て容量約160万立方㍍。  だが、自然環境や農業への影響を懸念する住民と、安全性を強調する事業者側の溝は埋まらず、公民館の貸出時間が過ぎたということで、住民の理解を得ないまま終了した。  「10月にも説明会が開かれましたが、事業者から『13年間産業廃棄物を埋め立てた後、15年間にわたって管理し、その後は管理を終了する予定』と言われました。予定地のすぐ近くは市ハザードマップで土砂災害特別警戒区域に指定されており、不安は尽きません」(石井代表)  この計画地の上流(平田村・いわき市側)に当たる田村町糠塚でも管理型の最終処分場の建設が進められている。本誌2019年8月号では同処分場の工事が停滞している旨を取り上げたが、「現在は工事が開始されており、国道をダンプが何台も行き来している。1カ所できるだけでも環境の変化を感じているのに、さらに何カ所も建設され、稼働したらどうなるのか」(同)。  「なぜ、この地域ばかり迷惑施設を受け入れなければならないのか」という負担感も反対運動の大きな理由になっているようだ。  郡山市議会9月定例会の一般質問で、岡田哲夫市議(2期)が市の関わりを尋ねたところ、環境部長が「廃掃法に違反していないことを確認し、6月16日付で事業計画書の審査を完了した」と答弁した。現時点で市から設置許可は出されていない。  「住民の強力な反対があれば建設強行はできないのではないか」との問いには、環境部長が「周辺住民の同意は廃掃法上、許可要件とされていない。環境省からも『要件を満たす場合は必ず許可しなければならない』と通知が出ている」と答えた。一方で、「事業者(ミダックホールディングス)には口頭と文書で住民の理解を得るよう求め、地元自治会・区長会から出た意見は文書で伝えている」とも述べた。  田村町地区の住民がほとんど反対している中で、今後、品川萬里市長がどう対応するか問われる、とみる向きもある。新たな事実が分かり次第、リポートしていきたい。 国道49号沿いに設置された看板

  • 【オール・セインツ ウェディング】幸せ壊した郡山破綻式場に憤る若夫婦

     本誌7、8月号でJR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウエディング」が6月8日に事業停止したことを報じたが、本誌編集部への被害告発が未だにやまない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声  10月下旬には、7月に式を挙げる予定だった男性から《返金も厳しい状況で、これは詐欺に当たるのではないか》というメールが届いた。  11月上旬には、福島市在住のAさん夫婦が直接取材に応じてくれた。この若夫婦は事業停止16日後の6月24日に式を挙げる予定だった。  「初めて式場を訪れたのは2021年5月です。ネットの口コミ評価が高く、館長(㈱オール・セインツの黒﨑正壽社長)や担当者の対応も良かったので、ここで式を挙げようと決めました。ただ式は22年10月の予定でしたが、途中、私の妊娠が判明し、出産予定が同年8月だったので23年6月に延期した経緯があります」(Aさんの妻)  夫婦は契約の内金として既に10万円を支払っていたが、延期を受けて式場から「延期日に式場を確保するには費用を先払いしてほしい」と言われ、110万円超を支払った。参列者は20人弱を予定していた。  その後、無事に出産し、体調の回復に合わせて式場と打ち合わせを重ねていったが、その間に担当者が2回代わり、館長も次第にやつれていくなど、若夫婦は式場の異変を感じるようになったという。  「正直、心配にはなったが、私たちのほかにも打ち合わせをしているカップルが複数いたので、大丈夫なんだろうと思っていました」(Aさん)  ただ、事業停止の予兆だったのか今年4月にはこんな出来事も。  「私たちの両親が式場に来て衣装合わせをしたのですが、その支払いをしようとクレジットカードを出したところ『今、カードは受け付けていない』と言われたのです。仕方なく現金(10万円超)で払ったが、カードが使えないってどういうこと?と思って……」(Aさんの妻)  それでも、5月下旬の直前打ち合わせでは式で上映するDVDの映像を確認し、招待状も発送して、担当者からは「当日が楽しみですね」と声をかけられていた。  夫婦のもとに悲しい連絡が届いたのは6月8日だった。  「実家の母から『式場に預けていた留袖が宅配便で返されてきた』という連絡が来たのです。慌てて式場に電話したがつながらず、ネットで検索すると閉鎖と出てきた。式場隣りのホテルに問い合わせたら従業員が様子を見に行ってくれて、そこで初めて事業停止の張り紙があるのを確認しました」(Aさんの妻)  知人の弁護士に相談すると「支払い済みの120万円超が返金される可能性は低い」と助言された。  途方に暮れる夫婦が式場の代理人を務める山口大輔法律事務所(会津若松市)に問い合わせると、事務員から「7月中に破産を申し立て、早ければ8月に裁判所から債権者に連絡がある」と言われた。ところが9月になっても連絡はなく、10月に再度問い合わせると「まだ破産申し立ての準備ができていない」と素っ気ない答えが返ってきた。  「事務員の面倒くさそうな物言いに『こっちは被害者なんだぞ!』と腹が立ちました」(Aさんの妻)  11月19日現在、オール・セインツが破産を申し立てたという情報は入っていない。突然、結婚式が中止され「両親や親族に晴れ姿を見せたかった」という若夫婦は「やっぱり式を挙げたいけど、もう一度初めから準備をするのは大変だし、そもそも信用できる式場が見つかるのか」と気持ちが複雑に揺れ動いて新たな一歩を踏み出せずにいる。  どんな企業も破産すれば周囲に迷惑をかけることになるが、「幸せ」を商売にする企業が顧客を「不幸」にするのは、あまりに罪深い。