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  • ヨーカドー福島店閉店で加速する中心市街地空洞化

    ヨーカドー福島店閉店で加速する中心市街地空洞化

     9月中旬、総合スーパー「イトーヨーカドー」の郡山店、福島店について、閉店が検討されていることが福島民報の報道で明らかになった。  店舗を運営するイトーヨーカ堂の親会社・セブン&アイホールディングス(HD)は来年5月ごろ閉店する方針であることを正式に認めた。郡山店の後継店はグループ企業の食品スーパー・ヨークベニマルを核テナントとする方向で検討しており、福島店の後継店は未定だという(福島民報9月21日付)。  同HDでは3月、地方都市の採算性が低い店を中心に、33店舗を削減する方針を打ち出していた。  特にその影響が懸念されるのは、JR福島駅の西口駅前に立地する福島店の閉店だ。  同店は1985年オープン。敷地面積2万3750平方㍍、地上4階建て。食料品や日用品、衣料品を販売してきた。計680台分の駐車場(平面・立体)を備える。  かつては工場や資材置き場、国鉄の関連施設が並び、〝駅裏〟と呼ばれていた福島駅西口。1982年の東北新幹線大宮―盛岡駅間開業を機に周辺の再開発事業が進む中で、昭栄製紙福島工場跡地にオープンし、人の流れを変えたのが同店だった。  近くの太田町商店街とは当初から〝共存共栄〟の関係。同商店街の振興組合に福島店も加入し、駐車場を2時間無料にして回遊性を高めたり、駐車場で地域の夏祭りを開催するなど、地域貢献に熱心だった。歴代店長は商店街の店主らと積極的に交流していたという。  もっとも、後継者不足により商店街の店舗は年々減少し、振興組合は10年ほど前に解散。現在は個人的な付き合いを除き、福島店と商店街との交流は途絶えているとか。  ある商店街の店主はこう嘆く。  「駅前の一等地なので集客が期待できる商業施設や公共施設を整備してほしい思いはあるが、駅東口周辺でも再開発事業が進められており、再開発ビルに市の公共施設(コンベンションホール)も入居する。そちらの調整もあるので、市では身動きが取れないでしょう。伊達市で建設が進められているイオンモール北福島(仮称、2024年以降開店予定)がオープンすれば、福島市の商業も間違いなく打撃を受ける。このあたりは寂れる一方で、明るい要素はありませんね」  駅東口周辺の再開発に関しては資材価格高騰のあおりで当初計画より2割以上の増額が見込まれたため、計画の再調整を余儀なくされた。オープンは2027年度にまでずれ込む見通しだ(本誌7月号参照)。  車社会の福島市では、郊外の大型商業施設、大手チェーンの路面店を利用する人が多く、伊達市にイオンモールが開店すれば人気を集めるのは必至。そうした中で中心市街地の空洞化状態が続けば、買い物客流出は加速する一方だろう。  土地・建物を所有しているのは不動産大手・ヒューリック(東京都)。同社ではイトーヨーカドー鶴見店が入居する建物を商業施設「LICOPA(リコパ)鶴見」としてリニューアルした実績があり、過去には福島店も活性化策の対象となっていると報じられたことがある。本誌の取材に対し、同社担当者は「検討しているかどうかも含めてお答えすることができない」と話したが、今後どのような判断を示すのか。  「福島駅前は商業機能が脆弱で、人が集まりたくなる魅力に欠けている。コンベンション機能が中心部に必要だ」と話し、市が250億円以上負担する再開発を推し進めてきた木幡浩市長。逆風の中で中心市街地にどうやってにぎわいを生み出すのか、正念場となりそうだ。

  • 「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

    「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

     本誌8月号に「磐梯東都バス撤退の裏事情 会津バスが路線継承!?」という記事を掲載した。猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになり、その影響と背景を探ったもの。その中で、「会津バスが事業を引き継ぐことが決定的」と書いたが、その後、正式に会津バスが事業継承することが発表された。一方で、ある関係者は「磐梯東都バスから会津バスへの事業継承に向けて、〝最後の課題〟が残っている」と明かした。 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛け、福島県内では1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。  磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。  同社グループが猪苗代・裏磐梯エリアで路線バスを運行するに至った背景について、北塩原村の事情通はこう話していた。  「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」  こうして、約20年にわたって路線バスが運行されてきたが、「少子化に伴う利用客の減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減」を理由に、事業継続は困難と判断し、9月末で全4路線を廃止してバス事業から撤退することを決めた。  磐梯東都バスから猪苗代・北塩原両町村に正式にそれが伝えられたのは今年6月だが、それ以前から、「このままでは事業を継続できない」旨は知らされていた模様。そのため、両町村は、「クルマを使えない住民が不便になる」、「観光客の足がなくなる」として、代替策を検討し、関係者間の協議で、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことが決定的になっていた。  以前、磐梯東都バスは前述の4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。  村は代替交通手段の確保に向けた検討を行い、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入し、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。  ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。  こうした事例もあったことから、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえると思う――というのが大方の見方だったのだ。 会津バスのリリース 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  本誌8月号締め切り時点では、正式発表はなかったが、その後、会津バスは7月28日付で「猪苗代町内・北塩原村内の路線バスを10月1日から会津乗合自動車が運行します」とのリリースを発表した。  同リリースには、おおむね以下のようなことが記されている。  ○10月1日(※磐梯東都バスの最終運行日の翌日)から会津バスが4路線を運行する。  ○運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ。  ○猪苗代町、北塩原村と連携し、路線バスの維持、適正な運行を目指す。  ○猪苗代町と北塩原村は、夏は登山、冬はスキーを中心とするアクティビリティーを楽しめ、風光明媚な猪苗代湖、磐梯山、五色沼などの豊富な観光資源があるため、路線バスだけでなく、貸切バス事業の活性化により、訪日外国人を含む観光誘客に貢献し、当該地域の経済効果が図られるものと考えている。  ○スマホなどで、利用するバスの現在地や到着時刻などが分かる「バスロケーションシステム」を提供し、より便利で快適な利用を実現する。  単に路線バスを引き継ぐだけでなく、新たなサービスや、運行エリアの観光資源を生かした事業展開などを考えていることが分かる。  一方で、ある関係者によると、「事業継承に向けて〝最後の課題〟になっているのが、磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所の売買金額」という。  磐梯東都バスは猪苗代町千代田地内、JR猪苗代駅から約500㍍のところに猪苗代磐梯営業所を構えている。自社所有の土地・建物で、敷地面積は約991平方㍍。不動産登記簿謄本によると、担保は設定されてない。  前段で紹介した会津バスのリリースでは、磐梯東都バスから運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ、とのことだったが、その売買金額で折り合いが付いていない、というのが、前出・ある関係者の証言だ。  この関係者はこう続ける。  「磐梯東都バスは、営業所、車庫、車両をすべて合わせて9000万円で売却したい考えを示しました。それに対し、会津バスは、『そんなに出せない。もう少し安くならないか』といった意向のようです」  こうして、両者間で折り合いがつかず、「事業継承に向けた〝最後の課題〟になっている」というのだ。  そんな中、会津バスは猪苗代町と北塩原村に補助金要請をしたのだという。  これを受け、関係者間で協議を行い、磐梯東都バスが営業所、車庫、車両などの売却価格に設定した9000万円のうち、4500万円を会津バスが負担し、残りは猪苗代町が75%(3375万円)、北塩原村が25%(1125万円)を負担(補助)する、といった案が出された。猪苗代町と北塩原村の負担割合は、バス路線の大部分が猪苗代町内を走っていることなどが加味された模様。  猪苗代町、北塩原村はともに7月24日に議会全員協議会を開き、この案について説明した。本誌は、両町村が議会に説明するために配布した文書を確認しているが、似たような文面になっており、両町村間で調整したことがうかがえる。  この案について、猪苗代町議会では特に異論はなく、理解が得られたという。 補助名目に疑義 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  一方で、北塩原村議会では、反対ではないものの、ある問題点が指摘された。関係者はこう話す。  「まず、会津バスが磐梯東都バスの事業を継承するのは非常にありがたいことです。路線バスは中高生の通学や高齢者の通院などには欠かせないものですし、観光客の足にもなっていましたからね。そのために、行政として補助金を出すこと自体への反対は出なかった。ただ、今回の場合は、バス運行にかかる補助金ではなく、民間事業者(会津バス)が、土地・建物などの不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)や車両、つまりは財産を取得するための補助金です。ですから、そういった名目での補助金支出が正しいのか、といった疑義が出たのです」  同議会では、不動産取得について補助を出すのであれば、その不動産について一部、村に権利があるようにしなければならないのでは、といった指摘があったようだ。  もっとも、後に本誌が村に確認したところ、「補助金の名目は未定」とのこと。つまり、補助金を出すにしても、不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)取得についての補助金なのか、別の名目にするのかはこれから決めるというのだ。予算化の時期についても、「9月議会ではなく、その後になる」(村当局)との説明だった。  猪苗代町にも確認したが、「会津バスに補助金を出すこと自体は、議会から理解が得られたが、まだ予算化はしておらず、名目についてもこれから決めることになる」とのことだった。  ちなみに、両町村が議会に説明するために配布した文書には、「予算の計上時期、方法については、国・県の指導により、適切に行う」と書かれていた。  一方、会津バスに「磐梯東都バスの営業所、車庫、車両の取得について、猪苗代町、北塩原村に補助金を要請したそうだが、その見通しは」と問い合わせたところ、次のように回答した。  「猪苗代町、北塩原村による補助金は見通しがついた。10月1日からの運行に合わせて陸運局への申請・許可取得を済ませ、営業所、車庫、車両も9月30日までに取得する」  北塩原村では名目について疑義が出たようだが、両町村が補助金を出すこと、その金額は猪苗代町が3375万円、北塩原村が1125万円であること自体は、おおむね理解が得られている模様。あとは、どのような名目で、どのタイミングで予算化・支出するのか、ということになる。少なくとも、両町村に確認した限りでは、9月議会で予算化されることはなさそう。つまり、支出は、会津バスが磐梯東都バスの営業所、車庫、車両を取得した後、ということになる。  補助金の名目がどうなるのかなど、不透明な部分はあるものの、〝最後の課題〟は解決の目処が立ったと言えそう。少なくとも、磐梯東都バス撤退後に「空白期間」をつくることなく、バス運行が行われるのは確実で、その点ではひと安心といったところか。 あわせて読みたい 磐梯東都バス撤退の裏事情

  • 【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

    【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

    民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰庵の民事再生手続きは未だ不透明  民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰観光ホテルを運営する㈱丸峰観光ホテル(星保洋社長)と、丸峰黒糖まんじゅうの製造・販売や飲食店経営などを行う関連会社㈱丸峰庵(同)が地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは今年2月28日。負債総額は2022年3月期末時点で、同ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円に上った。  本誌は4月号で民事再生を阻む諸課題を指摘。さらに5月号では元従業員の証言をもとに星氏の杜撰な経営を明らかにしたが、債権者、元従業員、同業者らが揃って疑問を呈していたのは、星氏が「自主再建を目指し、状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する」との再生方針を示したことだった。  債権者らは「自主再建ができるなら多額の負債を抱えることはなかったし、民事再生に頼らなくても済んだはず」と呆れた。大方の意見は、スポンサーを見つけ、星社長は退任し、新しい経営者のもとで再生を目指すべきというものだった。  丸峰観光ホテルは民事再生法の適用申請後も営業を続けていた。芦ノ牧温泉で働く人によると「黒字にはなっていないだろうが、週末を中心に宿泊客はそれなりにいますよ」。  記者も夏休み中の月曜日の朝、チェックアウトの時間に合わせて駐車場をのぞいてみたが、満車とまではいかないまでも首都圏ナンバーの車が多く止まっていた。  「ただ、従業員が次々と辞めていて、どこも人手不足ということもあり、他の温泉街の旅館が『ウチに来てくれそうな人はいないか』と熱心にリクルートしていました」(同)  再生の行方が見えてこない中、市内では「大手リゾートホテルが関心を示しているようだ」とのウワサも聞かれたが、7月25日、会津乗合自動車(通称・会津バス)が会見を開き、スポンサーとして支援することを正式に表明した。  会津乗合自動車㈱(会津若松市、佐藤俊材社長)は会津地方一円で路線・高速・貸切バスやタクシーを運行している。直近5年間の決算は別表①の通りで、コロナ禍により赤字が続いていたが、昨期は黒字に回復した。 表① 会津乗合自動車の業績 売上高当期純利益2018年23億9900万円1300万円2019年23億8200万円▲1400万円2020年16億6700万円▲2億7300万円2021年14億4700万円▲5000万円2022年17億5000万円4500万円※決算期は9月。▲は赤字。  会津乗合自動車は東日本最大級の公共交通事業を展開する「みちのりグループ」の傘下にある。㈱みちのりホールディングス(東京都千代田区、松本順社長)を頂点に、会津乗合自動車のほか岩手県北バス、福島交通、関東自動車、茨城交通、湘南モノレール、佐渡汽船、みちのりトラベルジャパンで構成され、それぞれの会社もバス以外に旅行、整備、保険などのグループを形成。みちのりホールディングスは親会社として各社に100%出資(佐渡汽船のみ86%出資)している。同グループ全体の従業員数は5300人余、バスは2400台余に上る。  会津乗合自動車のプレスリリースによると、同社とみちのりホールディングスが丸峰観光ホテルのスポンサーに指名され、7月14日に基本合意書が締結された。正式なスポンサー契約は8月末に交わされる予定。  会津乗合自動車は民事再生計画の成立を前提に、星保洋氏が保有する全株式を無償で取得・消却したうえで第三者割当の方法により募集株式の全てを同社に割り当て、同社が全額払い込む100%減増資スキームで出資を行う。丸峰観光ホテルの新社長には佐藤氏が就き、同ホテルはみちのりグループの傘下に入る。  「バス会社がホテルを経営?」と思われる人もいるかもしれないが、会津乗合自動車が明かしている支援方針は興味深い。  会津乗合自動車は観光を基幹産業とする会津地方でバスとタクシーを走らせるだけでなく、旅行事業、人材派遣事業、売店事業を展開している。丸峰観光ホテルがある芦ノ牧地区にも路線バスを走らせている。これらの経営資源を生かし、ホテルと地元観光地との周遊ルートや旅行商品をつくり、交通と宿泊との連携や着地型商品の開発につなげ、バスとホテルがウィンウィンの関係になる仕組みを生み出そうとしている。  前出・芦ノ牧温泉で働く人も、こんな期待を寄せる。  「芦ノ牧は市の中心部から遠く離れ、公共交通は会津鉄道があるが、最寄りの芦ノ牧温泉駅から温泉街までは4㌔もある。高齢者やインバウンドの旅行客が増えているのに、訪れる手段がマイカーかレンタカーしかないのは厳しいが、会津バスが芦ノ牧の弱点である脆弱な交通をカバーしてくれれば、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館にとっても有り難いはず」  期待の背景にあるのは、それだけではない。  「会津バスが芦ノ牧全体を気にかけてくれていることが有り難い。実際、佐藤社長と話をしたら『全体が良くならないと自分の所も良くならない』と言っていましたからね。もし『自分のバスとホテルさえ良ければいい』という考え方なら、温泉街は会津バスがスポンサーになったことを歓迎しなかったと思います。大手の〇〇や××(※実名を挙げていたが伏せる)だったら地元と交わろうとせず、周囲と釣り合いの取れない料金設定にして客を囲い込む『自分さえ良ければいい経営』をしていたのではないか」(同)  とはいえ、観光地とホテルをバスでつなぐのはいいとして、会津乗合自動車はホテル経営のノウハウを持ち合わせていない。そこで登場するのが、前述・みちのりグループの傘下にある岩手県北バスの関連会社㈱みちのりホテルズ(岩手県盛岡市、松本順社長)だ。  同社は岩手県内で「つなぎ温泉・四季亭」(22室)と「浄土ヶ浜パークホテル」(75室)を経営し、新潟県佐渡市にある同グループの「SADO二ツ亀ビューホテル」(20室)も受託運営している。別表②の決算を見ると、コロナ禍でも一定の売り上げと利益を計上しているが、岩手県北バスが観光地とホテルをバスでつないでいることが安定した宿泊客確保につながっているという。 表② みちのりホテルズの業績 売上高当期純利益2018年2億1800万円130万円2019年2億3400万円1200万円2020年2億3700万円1700万円2021年2億3000万円1500万円2022年2億3000万円――※決算期は3月。―は不明。  このノウハウが丸峰観光ホテルにも導入される。株式は会津乗合自動車が100%所有するが、運営はみちのりホテルズに委託され、支配人も同社から派遣される。 「地元の企業が守るべき」 スポンサーに名乗りを上げた会津乗合自動車  おおよその支援方針は理解できたが、筆者はさらに詳細に迫ろうと会津乗合自動車に取材を申し込んだ。すると、丸峰観光ホテルと正式なスポンサー契約を交わす直前に佐藤俊材社長が取材に応じてくれた。  最初に、支援を決めた理由を佐藤社長はこう説明した。  「弊社はバス会社ですが、目的もなくバスに乗る人はいません。人は目的地がないとバスに乗らないし、目的地が活性化しないとバス会社も活性化しません。そうした中で観光会津を代表する温泉街の旅館がなくなれば、弊社にとってもダメージになります。丸峰さんには再建を果たしてほしいと思っていましたが、同時に、他社に任せていては難しいのではないかと考えるようになり、直接支援することを決めました」(以下、断りがない限りコメントは佐藤社長)  丸峰観光ホテルのメーンバンクで最大債権者の会津商工信用組合からも、仮に全国チェーンのホテルがスポンサーになった場合、コストが重視され、地元企業との取引が打ち切られたり、同ホテルから「会津らしさ」が薄まってしまう懸念が示されたという。  「ならば、地元の企業が地元の人たちと協力し、地元のホテルを守っていくべきだと思ったことも支援を決めた理由の一つです」  会津乗合自動車ではデューデリジェンス(投資対象となる企業の価値やリスクを調査すること)を行った後、7月に行われたスポンサー選定入札に臨み、スポンサー候補に指名されたという。ちなみに、選定入札には他社も参加したようだが「どこだったのか、何社いたのかは分かりません」とのこと。  佐藤社長の根底にあるのは「自分の所さえ良ければいい、というやり方では会社は良くならない」との考え方だ。  「芦ノ牧温泉全体を活性化していかないとダメだと思うんです。そのためには大川荘さん、観光協会、旅館協同組合などと連携し、行政にも廃旅館の解体を進めてもらうなど、関係する人たちみんなで知恵を出し合うことが大切になる」  そうやって芦ノ牧温泉を変えていけば、訪れたいと思う人が増え、バスの乗客も増え、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館も宿泊客が増える好循環が生まれる、と。 丸峰庵は支援の対象外 丸峰庵  「幸い、私たちにはノウハウがある」と佐藤社長は自信を見せる。  「丸峰観光ホテルの運営を委託するみちのりホテルズは、岩手県と新潟県佐渡市の旅館運営で優れた実績を上げ、その成果は決算にも表れています。そこに、みちのりグループの強みを加えれば、経営再建は十分可能と見ています」  みちのりグループの強みとは、傘下にある他のバス会社との連携だ。とりわけ関東自動車(栃木県宇都宮市)、茨城交通(茨城県水戸市)とは芦ノ牧温泉が両県と2~3時間の距離しか離れていない「小旅行圏内」に位置するため、魅力的な旅行商品を開発すればグループ力で集客につなげることが見込めるという。  「さらに、みちのりグループにはインバウンドをターゲットにしたみちのりトラベルジャパンという会社もあり、閑散期の冬には雪を目当てにしたタイや台湾からの旅行客を呼び込むことも視野に入っています」  今後のスケジュールは8月末に正式にスポンサー契約を交わした後、債権者集会に臨み、再生計画が承認されれば前述した100%減増資スキームで出資を行う(※今号発売時には余程のトラブルがない限り実行されていると思われる)。  「出資が完了したら、10、11月の観光シーズンに間に合わせるべく、すぐに施設の改修に着手します。従業員は引き続き雇用します。新聞には80人とありましたが、実際はそこまではいません。債権者への対応は承認された再生計画に従って粛々と進めます。債権者との取引も継続していく考えです」  気になるのは、会津乗合自動車が株式を100%所有し、社長が佐藤氏に代わった後、星保洋氏の立場はどうなるのかということだ。  「星氏は丸峰観光ホテルとは無関係になるので、役員からも退いていただきます」 ただし、と佐藤社長は続ける。  「弊社がスポンサーになったのは丸峰観光ホテルだけで、丸峰庵は支援の対象ではありません」  なんと会津乗合自動車は、丸峰庵の民事再生計画には一切関与していないというのだ。佐藤社長によるとスポンサー選定入札では両社セットでの支援を申し入れたが「丸峰庵は弊社が示した条件では考え方が合わないとなったようです」。  丸峰庵は丸峰黒糖まんじゅうを製造・販売しているが、それをホテルで取り扱うかは他の土産品同様、今後の話し合いで決めるという。  丸峰観光ホテルの再生にメドがついたのは喜ばしいことだが、丸峰庵の民事再生手続きがどうなるかは未だに不透明なわけ。今後のポイントは債権者集会における債権者の判断と、星氏の会社への関わり方だが、丸峰庵の登記簿謄本(8月24日現在)を見ると社長は星氏のままだった。 ※民事再生申請代理人のDEPT弁護士法人(大阪市)に丸峰庵の民事再生手続きの現状について問い合わせたが、「担当者が不在」と言われ、締め切りまでに返答を得られなかった。

  • 【ブイチェーン】只見町の食品スーパー店主が引退

    【ブイチェーン】只見町の食品スーパー店主が引退

     只見町で食品スーパー・ブイチェーン只見店を経営していた三瓶政夫さんが、店舗を別の運営会社に売却し、引退することになった。平成23年新潟・福島豪雨で被害を受けてもすぐに店を再開し、地域の生活を支え続けた。50年以上に及ぶ経営の思い出を聞いた。 豪雨災害で水没も地域のため再開 豪雨災害で水没した店舗(三瓶政夫さん提供) 只見町の中心部に「ブイチェーン只見店」というスーパーマーケットがある。川の近くに立地し、2011年に発生した「平成23年新潟・福島豪雨」で大きな被害を受けたが、店主の三瓶政夫さんが復旧させた。その被害状況について、本誌2012年4月号に掲載した。  その三瓶さんが8月末で店を閉めるという。  「もともとは65歳で辞めるつもりだったが、水害に遭ってから必死で店を大きくしてきた。ようやくひと段落したので、ブイチェーン本部に『引退したいので経営をそのまま引き継いでくれる人を紹介してくれないか』とお願いしたのです」  同町朝日地区出身。若松商業高校卒の75歳。50年以上前に実家の商店を継ぎ、友人からの紹介で現在の場所にブイチェーンをオープンした。  地域の人に少しでも新鮮な食材を届けたいと新潟県魚沼市や郡山市の市場まで出かけ、新鮮で珍しい魚や野菜を仕入れた。提案型の売り場は顧客から広く支持され、売り上げを伸ばした。  そうした中で遭遇したのが、「平成23年新潟・福島豪雨」だった。当日、増水を警戒し買い物客に少し早めに帰ってもらっていたが、そこに川から氾濫した水が一気に押し寄せ、閉店作業を進めていた三瓶さんは命からがら店外に脱出した。店は水没し、商品や機械などがすべて使い物にならなくなった。  ただ、三瓶さんは地域の人の生活を守るために復旧を決意。付き合いがあった郡山市の市場関係者などが駆けつけて、片付けを手伝ってくれた。安い中古機械などを買い集めて、何とか営業再開にこぎつけた。その後も「意気消沈する町内の事業者を勇気づけるため先頭に立って復興させなければ」と考え、3期にわたり店舗拡張工事を行った。  三瓶さんが納得いかないのは、こうした民間の動きを支援する姿勢が町などに見えなかったことだ。  豪雨災害後、只見川沿いにダムを設置している東北電力と電源開発は県に10億円ずつ寄付。「只見川流域豪雨災害復興基金」が設けられ、被災町村に分配された。只見町には9億円が入ったが、基金の目的は被災者の住宅の新築・改築・修繕や、自治体の産業復興支援事業などに固定され、被災した事業者や住宅を建て直す予定のない高齢者などは支援を受けられなかった。  町内の水害被害者が国、県、町、電源開発などに損害賠償を求める裁判を提起したが、中心人物の死去などが重なり、和解で終わった。一部事業者らは支援格差を訴え、町に支援金の支払いを要求し、只見区長にも要望書を提出したが、「裁判を起こしてすでに和解している」ことなどを理由に要望には沿えないと拒否された。  「地域のためにやってきたのに、周囲はそう思ってくれなかったのかと落胆しました」(三瓶さん)  店舗の経営を引き継ぐのは他町村でブイチェーンを展開する会社で、社員もそのまま移る。「引退する身なので、顔写真はいいよ。勘弁してくれ」と笑う三瓶さん。雪深く物流が不便な奥地で約50年、地域のことを思い経営してきた熱い気持ちは今後も店に残り続ける。

  • 磐梯東都バス撤退の裏事情

    磐梯東都バス撤退の裏事情

     猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになった。住民の足が失われることに加え、観光への影響も懸念されることから、関係町村は代替策を検討している。同社撤退の影響と背景を探った。(末永) 会津バスが路線継承!? 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、1959年設立、資本金3750万円。東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県に営業所を構え、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛けている。福島県内では、1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。 磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。 「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」(北塩原村の事情通) 以降、磐梯東都バスは約20年間にわたって、猪苗代町、北塩原村で路線バスを運行してきたわけだが、9月末で全4路線を廃止し、バス事業から撤退することになった。 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所に撤退に至った経緯などを尋ねると、本社経由で回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されましたが、撤退決定に至った理由。また、いつ頃から撤退を考えるようになったのでしょうか。 「近年の少子化に伴う利用客の減少と、3年間に及んだ新型コロナウイルスによる観光利用客の激減により、事業継続は困難と判断しました。撤退を考えるようになったのは、新型コロナウイルスが大きく影響した時期と重なります」 ――差し支えなければで結構ですが、売上高のピークと直近の減少幅、さらには採算ラインはどのくらいか、を教えていただけますか。 「令和2(2020)年3月期(コロナ前)に対し、令和5(2023)年3月期(直近)の売り上げは、33%下落の67%となっております」 ――関係自治体とは撤退決定前の段階で、協議してきたと思われますが、いつの段階で、どのような話をしてきたのでしょうか。また、その中で存続の道筋は見い出せなかったのでしょうか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、といった部分はあったのでしょうか。 「関係自治体とは当社の実績も伝え対策を協議してまいりました。やはりコロナ禍の影響が大きく、従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難であると考えます。当社としましては、事業撤退に際し、地域住民にご迷惑をお掛けしないように努め、引き続き後任事業者と自治体との間で調整してまいります」 大きかったコロナの影響 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  猪苗代町によると、全4路線のうち、同町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線は、「委託路線」の扱いだという。つまり、町が磐梯東都バスに委託費を支払い、同路線を運行してもらっていた。今年度の委託費は4280万円。 当然、町としては「住民の足」として必要なものと捉えており、例えば町独自でコミュニティバスを運行するよりは、委託費を支払ってバス会社に運行してもらった方が効率的といった考えからそうしている。今年度の契約期間は昨年10月1日から今年9月30日まで。つまり、磐梯東都バスは今年度の委託期間を終えるのと同時に、撤退するということだ。 一方、猪苗代駅から北塩原村裏磐梯地区を結ぶ路線は、「自主路線」の扱いで委託費は支払われていない。諸橋近代美術館前、五色沼入口、小野川湖入口、磐梯山噴火記念館前、長峯舟付、裏磐梯高原駅、裏磐梯レイクリゾート、裏磐梯高原ホテルなどの観光地を中心に停留所があり、観光客の重要な足となっていた。 裏磐梯地区の観光業関係者は次のように話す。 「ほかの路線は、乗客がいてもポツポツで、誰も乗客がいないというのも珍しくなかったが、猪苗代駅から裏磐梯方面への路線は、結構、観光客が利用していました。ですから、ほかと比べたらそれほど悪くなかったと思いますが、コロナ禍以降は観光客が減りましたからね。われわれとしては、観光地としての〝格〟とでも言うんですかね、それが損なわれるというか。今後、代わりの方策が取られるとは思いますが、『路線バス撤退』ということが表に出ただけで、観光地として貧弱な印象を与えてしまう。それだけでマイナスですよね」 磐梯東都バスの回答では「少子化に伴う利用客減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減で、事業継続は困難と判断した」とのことだったが、要は「委託路線」は少子化に伴う利用客減少で委託費だけではやっていけない、「自主路線」もコロナによる観光客激減で厳しくなった、ということだろう。 本誌は猪苗代駅周辺で各路線の乗客状況を見たが、やはり乗客はほとんどいなかった。 民間信用調査会社調べの磐梯東都バスの業績は別表の通り。2021年3月期(2020年4月から2021年3月)は、最もコロナの影響を受けた時期で、それが如実に数字に表れている。 磐梯東都バスの業績 決算期売上高当期純利益2017年4億9000万円1074万円2018年4億3300万円1460万円2019年4億2500万円1833万円2020年4億1700万円1218万円2021年8200万円△6405万円2022年2億0300万円1323万円※決算期は3月。△はマイナス  一方、本誌の「存続の道筋は見い出せなかったのか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、という部分はあったのか」との質問には、磐梯東都バスは「従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難と考える。事業撤退で地域住民に迷惑を掛けないよう、後任事業者と自治体との間で調整していく」との回答だった。 猪苗代町の前後公前町長(今年6月25日の任期満了で退任)はこう話した。 「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていました。業績などの内情を示され、やむを得ないだろう、と。とはいえ、それで路線バスが完全になくなっては町(町民)としても困るので、以降は関係事業者を交えて代替策を検討してきました」 その後、前後氏は6月25日の任期満了で退任し、この問題は新町長に引き継がれることになった。 前後前町長が言う「代替策」について、町に確認すると「いま交渉中ですので、まだ詳細をお話できる段階にありません」とのこと。 今号で二瓶盛一新町長のインタビュー取材を行ったが、その際、二瓶町長は次のように語っていた。 「JR猪苗代駅を起点として町内や裏磐梯方面を走る磐梯東都バスが9月末で町内から撤退することになり、10月以降の路線バスの運用について現在協議を進めているところで、空白を生まないためにもスピード感と責任感を持ったうえで判断し、利用者の方々にご不便をおかけしないよう対処していきたい」 どうやら、関係者間の協議では、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことで、ある程度まとまっている模様。ただ、交渉ごとのため、「まだ詳しいことは話せない」、「もう少し待ってほしい」というのが現状のようだ。 喜多方―裏磐梯線の廃止騒動 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  以前、磐梯東都バスは前述した4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。 同路線は、主に中高生の通学や高齢者の通院などで利用されていたことから、同村内では「廃止されたら困る」、「12月以降はどうなるのか」といった声が噴出した。そこで、村は代替交通手段の確保に向けた検討を行った。 同社から「喜多方―裏磐梯間のバス廃止」の意思表示があった直後の同村2019年3月議会では、関連の質問が出た。当時の議会でのやりとりで明らかになったのは以下のようなこと。 ○村は喜多方―裏磐梯間のバス運行に対して、年間1600万円の負担金(補助金)を支出している。 ○磐梯東都バスが運行している路線は黒字のところはなく、経営的な問題から喜多方―裏磐梯間廃止の打診があった。そのほか、バス更新、運転手確保などの問題もある。村長が本社に行って協議してきたが、廃止撤回は難しいとのことだった。 ○「廃止」の意思表示を受け、村では運行を引き継ぐ事業者を探すか、村でバスを購入し、運行してもらえる事業者を探す等々の代替策を検討している。 こうして、すったもんだした中、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。 ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。 これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。 こうした事例があるため、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえるよう交渉し、その方向でまとまりつつあるようだ。 ところで、この「喜多方―裏磐梯間のバス廃止騒動」があった際、ある村民はこう話していた。 「同路線が赤字で厳しい状況だったのは間違いないのだろうけど、廃止の理由はそれだけではなさそう。というのは、元村議の遠藤和夫氏が自身の考えなどを綴ったビラを村内で配布しており、『路線廃止』報道があった直後、磐梯東都バスの件を書いていました。遠藤氏は同社の役員などに会い、そこで得た情報を掲載していたのですが、それによると、同社は数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後の路線バスのあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止に至ったというのです。言い換えると、村がきちんと対応していれば廃止を決断することもなかったかもしれない、と」 要するに、「廃止騒動」の裏には村の不作為があったというのだ。どうやら、磐梯東都バスは村に補助金申請のための相談をしていたが、村が動いてくれなかったため、業を煮やして「廃止せざるを得ない」と伝えた。それで、村が慌てて同社に「どうにかならないか」と持ちかけ、前述した「公有民営方式」に落ち着いたということのようだ。 ここに出てくる「元村議の遠藤和夫氏」は現村長。2015年4月の村議選で初当選し、その任期途中の2016年8月の村長選に立候補したが、当時現職の小椋敏一氏に敗れた。以降は、前出の村民の証言にあったように、村内で各種情報発信をしており、自身の考えなどを綴ったビラを配布していた。その後、2020年の村長選に立候補し、当選を果たした。 かつて、村長選を見据えて情報発信する中で、磐梯東都バス関連で現職村長の対応を問題視していた遠藤氏。その遠藤氏が村長に就いた後、磐梯東都バスの撤退問題に直面することになったわけ。 遠藤村長に聞く 遠藤和夫北塩原村長  村総務企画課を通して、遠藤村長にコメントを求めると、次のような回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されました。村にはその前の段階で、何らかの話があったと思われますが、事業者からはいつの段階で、どのような話があったのでしょうか。また、それを受けて、村としてはどのように応じたのでしょうか。 「6月5日に、磐梯東都バスが村へ訪問。本年9月30日をもって事業撤退する旨を報告。諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」 ――磐梯東都バスが撤退することで、村、村民の足、あるいは村内に来る観光客など、どのような影響が懸念されますか。 「猪苗代・裏磐梯の路線は村民の通学や通院・買い物に利用されているほか、観光客の移動手段にもなっていることから、磐梯東都バスが撤退後に路線バスの維持がなされない場合、住民や観光客の足が無くなり、住民に不便を来たしてしまうこと、そして観光客の減少につながる懸念が想定される」 ――磐梯東都バスの問題に限らず、いまの社会情勢等を考えると、地方における路線バスの廃止は避けられない面があると思います。一方で、路線バス廃止によって「交通難民」が生まれてしまう懸念もあるわけですが、磐梯東都バス撤退後の代替策についてはどのように考えていますか。 「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」 ――2019年に磐梯東都バスの「喜多方線廃止」問題が浮上した際、遠藤村長は一村民の立場で情報発信する中で、磐梯東都バスの役員と会い、「数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後のバス路線のあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止問題に至った」旨を指摘されていたと記憶しています(※当時、村民の方に現物を見せていただき、本誌記者の取材メモとして記録されている)。その後、村長に就いたわけですが、新たな関係性の構築や、協議の場を設けるなどの動きはあったのでしょうか。 「村長就任後に磐梯東都バスとは会っていたが、喜多方線廃止問題が具体的になる中、残念ながら相互に理解を得ることが難しくなり、喜多方線の撤退、猪苗代線も独自運行となった。解決に向けての打開策について協議を行ったが、磐梯東都バスの判断として、このような事態となった」 最大のポイントである磐梯東都バス撤退後の代替策については、「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」との回答だった。前述したように、同村では喜多方―裏磐梯間の路線バスで「公有民営方式」を採用し、当初の磐梯東都バス撤退後は会津バスに引き継いでもらっている。今回の4路線(※北塩原村が直接的に関係するのは猪苗代―裏磐梯間の路線バス)についても、会津バスに継承してもらって運行維持することを想定しているのだろう。 事業参入時に裏約束⁉  一方で、磐梯東都バスから撤退することを聞かされたのは6月5日で、村役場に同社関係者の訪問があり、「9月30日で事業撤退」の報告を受けたという。そのうえで「諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」とのことだった。 最終的な決定事項(撤退)の伝達としては、その日だったのだろうが、猪苗代町の前後前町長が「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていた」と話していたことからも、当然、その前の事前協議があったと思われる。 前出・村内の事情通によると、「昨年の段階で、磐梯東都バスから村には『このままでは厳しい』といった話があったようだ」という。 「その席で、磐梯東都バスは『このエリアでバス事業を始めるときに、渡部恒三衆院議員、高橋伝村長との約束が』と、過去に決め事があったようなニュアンスのことをチラつかせたそうです。要するに、何らかの裏約束があったかのような口ぶりだった、と。とはいっても、それは20年以上前のことですし、恒三先生は亡くなり、高橋伝さんも村長を退いてだいぶ経つ。磐梯東都バスの親会社の社長も代わりました。そもそも、本当に何らかの約束事(裏約束?)があったのか、あったとしてそれがどんな内容だったのかは、いまの村長をはじめとする関係者は誰も知らない。そのため、村では『そんな昔のことを持ち出されても……。それよりも、今後どうすべきかを一緒に考えていきましょう』といったスタンスで応じたそうです」 こうして協議を行ったが、結果的には存続には至らなかった。 マイカーの普及、人口減少による利用者の減少、少子化に伴う通学需要の縮小などを背景に、地方の路線バスはどこも厳しい状況。磐梯東都バスが事業参入したときには、すでにその流れが顕著になっていたが、コロナという思いがけない事態にも見舞われた。そんな中で、撤退は避けられなかったということだろう。

  • 【幸楽苑】創業者【新井田傳】氏に再建を託す

    【幸楽苑】創業者【新井田傳】氏に再建を託す

     幸楽苑(郡山市)が苦境に立たされている。2023年3月期決算で28億円超の大幅赤字を計上し、新井田昇社長(49)が退任。創業者の新井田傳氏(79)が会長兼社長に復帰し経営再建を目指すことになった。傳氏が社長時代の赤字から、息子の昇氏が後継者となってⅤ字回復させたものの、再び赤字となり父親の傳氏が再登板。同社は立ち直ることができるのか。(佐藤仁) ラーメン一筋からの脱却に挑んだ【新井田昇】前社長 経営から退いた新井田昇氏  6月23日、郡山市内のホテルで開かれた幸楽苑ホールディングスの株主総会に、筆者は株主の一人として出席したが、帰り際のエレベーターで男性株主がボソッと言った独り言は痛烈だった。 「今期もダメなら、この会社は終わりだな……」 今の幸楽苑(※)は株主にそう思わせるくらい危機的状況にある。 株主総会で報告された2023年3月期決算(連結)は、売上高254億6100万円、営業損失16億8700万円の赤字、経常損失15億2800万円の赤字、当期純損失28億5800万円の赤字だった。 前期の黒字から一転、大幅赤字となった。もっとも、さかのぼれば2021年、20年も赤字であり、幸楽苑にとって経営安定化はここ数年の課題に位置付けられていた。 株主総会では新井田昇社長が任期満了で退任し、取締役からも退くことが承認された。業績を踏まえれば続投は望めるはずもなく、引責と捉えるのが自然だ。 これを受け、後任には一線から退いていた相談役の新井田傳氏が会長兼社長として復帰。渡辺秀夫専務取締役からは「原点回帰」をキーワードとする経営再建策が示された。 経営再建策の具体的な中身は後述するが、その前に、赤字から抜け出せなかった新井田昇氏の経営手腕を検証する必要がある。反省を欠いては再建には踏み出せない。 安積高校、慶応大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社した昇氏が父・傳氏が社長を務める幸楽苑に転職したのは2003年。取締役海外事業本部長、常務取締役、代表取締役副社長を経て18年11月、傳氏に代わり社長に就任した時は同年3月期に売上高385億7600万円、営業損失7200万円の赤字、経常損失1億1400万円の赤字、当期純損失32億2500万円の赤字と同社が苦境にあったタイミングだった。 昇氏は副社長時代から推し進めていた経営改革を断行し、翌2019年3月期は売上高412億6800万円、営業利益16億3600万円、経常利益15億8700万円、当期純利益10億0900万円と、前期の大幅赤字からV字回復を果たした。 昇氏は意気揚々と、2019年6月の株主総会で20年3月期の業績予想を売上高420億円、営業利益21億円、経常利益20億円、当期純利益11億円と発表。V字回復の勢いを持続させれば難しくない数字に思われたが、このあと幸楽苑は「想定外の三つの事態」に襲われる。 一つは2019年10月の令和元年東日本台風。東日本の店舗に製品を供給する郡山工場が阿武隈川の氾濫で冠水し、操業を停止。東北地方を中心に200店舗以上が休業に追い込まれ、通常営業再開までに1カ月を要した。 二つは新型コロナウイルス。2020年2月以降、国内で感染が急拡大すると経済活動は大きく停滞。国による外出制限や飲食店への営業自粛要請で、幸楽苑をはじめとする外食産業は大ダメージを受けた。 V字回復の勢いを削がれた幸楽苑は厳しい決算を余儀なくされる。別表①の通り前期の黒字から一転、2020、21年3月期と2期連続の赤字。新型コロナの影響は当面続くと考えた昇氏は20年5月、ラーメンチェーン業界では先んじて夏のボーナス不支給を決定した。以降、同社はボーナスを支給していない。 表① 幸楽苑の業績(連結) 売上高営業損益経常損益当期純損益2018年385億7600万円▲7200万円▲1億1400万円▲32億2500万円2019年412億6800万円16億3600万円15億8700万円10億0900万円2020年382億3700万円6億6000万円8億2300万円▲6億7700万円2021年265億6500万円▲17億2900万円▲9億6900万円▲8億4100万円2022年250億2300万円▲20億4500万円14億5200万円3億7400万円2023年254億6100万円▲16億8700万円▲15億2800万円▲28億5800万円※決算期は3月。▲は赤字。  会社経営の安定性を示す自己資本比率も下がり続けた。2017年3月期は29・95%だったが、昇氏が社長就任前に打ち出していた「筋肉質な経営を目指す」との方針のもと、大規模な不採算店の整理を行った結果、18年3月期は20・94%に落ち込んだ。店舗を大量に閉めれば長期的な売り上げが減り、閉店にかかる費用も重くのしかかるが、昇氏は筋肉質な会社につくり直すためコロナ禍に入った後も店舗整理を進めた。 その影響もありV字回復した19年3月期は自己資本比率が27・09%まで回復したが、2期連続赤字となった20、21年3月期は25・61%、18・40%と再び下落に転じた。(その間の有利子負債、店舗数と併せ、推移を別掲の図に示す)  一般的に、自己資本比率は20%を切るとやや危険とされる。業種によって異なるが、飲食サービス業の黒字企業は平均15%前後が目安。 そう考えると、幸楽苑は22年3月期で3期ぶりの黒字となり、自己資本比率も25・50%に戻した。昇氏が推し進めた筋肉質な経営はようやく成果を見せ始めたが、そのタイミングで「三つ目の想定外の事態」が幸楽苑を襲う。2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻だ。 麺や餃子の皮など、幸楽苑にとって要の原材料である小麦粉の価格が急騰。光熱費や物流費も上がり、店舗運営コストが大きく膨らんだ。2023年3月期の自己資本比率は一気に7・75%まで下がった。 ただ、これらの問題は他社も直面していることで、幸楽苑に限った話ではない。同社にとって深刻だったのは、企業の人手不足が深刻化する中、十分な人員を確保できず、店舗ごとの営業時間にバラつきが生じたことだった。 時短営業・休業が続出 時短営業・休業が続出(写真はイメージ)  幸楽苑のホームページを見ると、一部店舗の営業時間短縮・休業が告知されている。それによると、例えば長井店では7月28、30日は営業時間が10~17時となっている。町田成瀬店では7月29日は9~15時、18~22時と変則営業。栃木店と塩尻広丘店に至っては7月29、30日は休業。こうした店舗が延べ50店以上あり、全店舗の1割以上を占めているから異常事態だ。 深刻な人手不足の中、幸楽苑は人材確保のため人件費関連コストが上昇し、それが経営を圧迫する要因になったと説明する。しかし、一方ではボーナスを支給していないわけだから、待遇が変わらない限り優秀な人材が集まるとは思えない。 幸楽苑では数年前からタブレット端末によるセルフオーダーや配膳ロボットを導入。お冷もセルフ方式に変えた。コロナ禍で店員と顧客の接触を少なくする取り組みで、人手不足の解消策としても期待された。 しかし、6月の株主総会で株主から「昔と比べて店に活気がない」という指摘があったように、コロナ禍で店員が大きな声を出せなくなり、タブレット端末や配膳ロボットにより店員が顧客と接する場面が減った影響はあったにせよ、優秀な人材が少なくなっていたことは否定できない。ボーナス不支給では正社員がやる気をなくし、アルバイトやパートの教育も疎かになる。こうした悪循環が店の雰囲気を暗くしていたのではないか。 あるフランチャイザー関係者も実体験をもとにこう話す。 「昔はフランチャイザーの従業員教育もきちんとしていたが、近年はそういう研修に行っていない。かつては郡山市内の研修センターに行っていたが、今その場所は(幸楽苑がフランチャイザーとして運営する)焼肉ライクに変わっているよね。うちの従業員はスキルが落ちないように、たまに知り合いのいる直営店に出向いて自主勉していますよ」 ボーナス不支給だけではなく、昔のような社員教育が見られなくなったことも人材の問題につながっているのではないかと言いたいわけ。 6月の株主総会では、別の株主から「フロアサービスに表彰制度を設けてモチベーションアップにつなげては」との提案もあった。幸楽苑は厨房係にマイスター制度(調理資格制度)を導入しているが、フロア係のレベルアップにも取り組むべきという意見だ。新井田昇氏は「新経営陣に申し送りする」と応じたが、そもそもマイスター制度が機能しているのかという問題もある。 幸楽苑をよく利用するという筆者の知人は「店によって美味い、不味いの差がある」「高速道路のサービスエリアの店でラーメンを注文したら、麺が塊のまま出てきた」と証言してくれた。県外に住む筆者の父も、以前は幸楽苑が好きで同じ店舗によく通っていたが、ある日急に「あれっ? 美味しくない」と言い出し、以来利用するのをやめてしまった。 チェーン店で調理マニュアルがあるはずなのに、店によって味に差があるのは不可解でしかない。飲食店はQSC(品質、サービス、清潔)が大事だが、肝心のQを疎かにしては客が離れていく。フロア、厨房を問わない人材の確保と育成を同時に進めていく必要がある。 苦戦が続く新業態 社長に復帰した新井田傳氏(幸楽苑HDホームーページより)  昇氏が進めてきた取り組みは継続されるものもあるが、傳氏のもとで見直されるものも少なくない。 その一つ、女性タレントを起用した派手なテレビCMは当時上り調子の幸楽苑を象徴するものだったが、地元広告代理店は「大手に言いくるめられ、柄にもないCMに大金を使わされていなければいいが」と心配していた。傳氏はテレビCMを廃止すると共に、費用対効果を検証しながら販売促進費を削減する方針。 昇氏は前述の通り、コロナ禍や人手不足に対応するためタブレット端末やセルフレジの導入を進めたが、実は、幸楽苑のヘビーユーザーである高齢者からは「操作方法がよく分からない」と不評だった。そんな電子化は2021年6月から株主優待にも導入され、食事券、楽天ポイント、自社製品詰め合わせの3種類から選べるシステムとなったが、高齢の株主からは同じく「使いづらい」と不評だった。傳氏は、タブレット端末やセルフレジはやめるわけにはいかないものの、株主優待は紙の優待券に戻すことを検討するという。 昇氏の取り組みで最も話題になったのが「いきなりステーキ」を運営するペッパーフードサービスとのフランチャイズ契約だ。ラーメンに代わる新規事業として昇氏が主導し、2017年11月に1号店をオープンさせると、19年3月までに16店舗を立て続けに出店した。しかし、ペッパー社の業績低迷と、令和元年東日本台風やコロナ禍の影響で「いきなりステーキ」は22年3月期にはゼロになった。 幸楽苑はラーメン事業への依存度が高く(売り上げ比率で言うとラーメン事業9割、その他の事業1割)、景気悪化に見舞われた時、業績が揺らぐリスクを抱えている。それを回避するための方策が「いきなりステーキ」への業態転換だったが、勢いがあるうちは売り上げ増につながるものの、ブームが去ると経営リスクに直結した。挙げ句、新業態に関心を向けるあまり本業のラーメン店が疎かになり、味やサービスが低下する悪循環につながった。傳氏も、かつてはとんかつ、和食、蕎麦、ファミリーレストランなどに手を出したが全て撤退している。 現在、幸楽苑は各社とフランチャイズ契約を交わし「焼肉ライク」12店舗、「からやま」7店舗、「赤から」5店舗、「VANSAN」1店舗、「コロッケのころっ家」7店舗を運営。ラーメン店から転換した餃子バル業態「餃子の味よし」も4店舗運営。これらは「昇氏の思いつき」と揶揄する声もあるが、ラーメン一筋から脱却したい狙いは分かる半面、ラーメン以外なら何でもいいと迷走している感もある(筆者はむしろラーメン一筋を貫くべきと思うのだが)。 まずは本業のラーメン店を立て直すことが先決だが、別業態にどれくらい注力していくかは、自身も苦い経験をしている傳氏にとって答えを出しづらい課題と言えそうだ。 傳氏は「原点回帰でこの危機を乗り越える」として、次のような経営再建策に取り組むとしている。 ▽メニュー・単価の見直し――①メニューの改定と新商品の投入、②セットメニューの提案による客単価の上昇、③タブレットの改定による店舗業務の効率化 ▽店舗オペレーションの強化――店長会議や店舗巡回による指導を通して「調理」「接客」「清掃」に関するマニュアルの徹底と教育 ▽営業時間の正常化――①人手不足の解消に向け、元店長など退職者への復職促進、②ボーナス支給による雇用の維持 客単価上昇に手ごたえ  傳氏は復帰早々、固定資産を売却して資金調達したり、県外の不採算店30店舗を閉店する方針を打ち出したり、そのために必要な資金を確保するため第三者割り当てによる新株を発行し6億8000万円を調達するなど次々と策を講じている。 「固定資産の売却や即戦力となる元店長の復職が既に数十人単位でメドがついていること等々は、傳氏からいち早く説明があった。復帰に賛否はあるが、間違いなくカリスマ性のある人。私は期待しています」(前出・フランチャイザー関係者) 昇氏は客単価の減少を来店者数の増加で補い、黒字を達成した実績がある。新規顧客の獲得だけでなくリピーターも増やす戦略だったが、人口が急速に減少し、店舗数も年々減る中、来店者数を増やすのは困難。そこで傳氏は、メニュー改定や新商品投入を進めつつ、セットメニューを提案してお得感を打ち出し、来店者数は減っても客単価を上げ、売り上げ増につなげようとしている。 その成果は早速表れており(別表②)、前期比で客数は減っても客単価は上がり、結果、6月の売上高は前期比108・2%となっている。幸楽苑では新商品が投入される7、8月もこの傾向が続けば、今期は着実に黒字化できると自信を見せる。 表② 今期4~6月度の売り上げ等推移 直営店既存店(国内)の対前期比較 4月5月6月累計売上高101.4%98.4%108.2%102.5%客数93.2%88.3%95.9%92.3%客単価108.7%111.5%112.8%111.0%月末店舗数401店401店401店※既存店とはオープン月から13カ月以上稼働している店舗。  本誌は復帰した傳氏にインタビューを申し込んだが「直接の取材は全てお断りしている」(渡辺専務)という。代わりに寄せられた文書回答を紹介する(7月20日付)。 「新井田昇は2018年の社長就任以来、幸楽苑の新しい商品・サービスや新業態の開発を促進し、事業の成長とそれを支える経営基盤の見直しを図ってきました。しかし、コロナ禍を起点に原材料費、光熱費、物流費の上昇、人材不足といった厳しい経営環境は続いており、早期の業績回復のためには原点に立ち返り収益性を追求する必要があることから、創業者新井田傳の復帰が最善と判断し、任期満了をもって新井田昇は取締役を退任しました。会長、前社長ともに、幸楽苑の業績を早期に回復させたいという思いは一致しています。しかしながら赤字経営が続いたことから前社長は退任し、幸楽苑を誰よりも知っている創業者にバトンを戻したものです」 父から子、そして再び父と、上場企業として人材に乏しい印象も受けるが「創業者に託すのが最善」とする判断が正しかったかどうかは来春に判明する決算で明らかになる。

  • 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

    【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

     先月号で、JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が6月8日に事業を停止したことを報じたが、10月に挙式を予定していた夫婦の母親が、その被害と精神的ショックを打ち明けてくれた。 支払い済みの190万円は戻る保証無し 事業停止を伝える張り紙  結婚式場の運営会社である㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11、2003年7月設立、資本金1000万円、黒﨑正壽社長)は福島地裁郡山支部に破産を申請する見通し。負債総額は少なくとも2億円を超えるとみられる。 ピーク時の2013年に5億0100万円あった売り上げ(決算期は9月)は、新型コロナ発生前の19年に2億4000万円と半減し、コロナ禍の22年には1億円と5分の1にまで落ち込んでいた。 《2014年9月期以降もパーティー会場の増設や新しいイベント企画の立案等を進め顧客獲得に努めていたが同業との競争は激しく、業績伸長に苦戦を強いられていた。そのような中、2020年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、挙式・披露宴の日程変更やキャンセルが相次いだ他、招待人数の減少もあり(中略)収支一杯な状況を余儀無くされていた。2021年9月期以降も業況は好転せず、近時においても外注先との契約解消等もあったことから事業継続を断念》(東京商工リサーチ『TSR情報福島県版Weekly』6月26日付より) 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の運営管理を行う㈱TAKUSO(どちらも郡山市駅前一丁目11―7)があるが、オール・セインツの事業停止以降、事務所に人影はない。 「突然、事業停止を告げられ、しかも払ったお金は戻ってくるか分からない。今は騙されたという思いでいっぱいです」 憤った様子でこう話すのは、郡山市在住の主婦Aさん。Aさんは宮城県内に住む息子夫婦がオール・セインツで挙式とパーティーを開く予定だったが、今回の事態で見通しが立たなくなった。 「息子夫婦は5月29日に衣装や髪形などの打ち合わせをして、次回は食事の内容を詰めることになっていました。ところが、息子が担当者のラインに『次の打ち合わせはいつになりますか』と送っても『既読』になっただけで返信がなかった。いつもならすぐに返信があるので、息子も変だなと思ったそうですが、まさかこんなことになるなんて」(同) 息子夫婦が最後に打ち合わせをしたのは事業停止の10日前。おそらく担当者は、その時点では会社が破産することを認識していなかったのだろう。ラインが「既読」になっても返信がなかったということは、打ち合わせ後に黒﨑社長から社員に「6月8日に事業を停止する」旨が伝えられたとみられる。 とはいえ、顧客からすると「破産すると分かっていて説明せず、カネを騙し取ったのではないか」との疑念は拭えない。 「5月29日の打ち合わせには私も同席し、ちょうど黒﨑社長にも会っています。ただ、その日はいつもと様子が違っていました」(同) Aさんによると、黒﨑社長は愛嬌があり、丁寧な挨拶を欠かさないそうだが、その日はいつもの元気がなく、難しい表情を浮かべながら誰かと話し込む様子が見られたという。 「今思えば、破産の話をしていたのかもしれませんね」(同) 実は、Aさんの息子夫婦は他の被害カップルとは事情が異なる。 オール・セインツの約款には《挙式5万円、パーティー5万円の申込金支払いで契約成立とし、申込金は内金として当日費用に充当する》《挙式・パーティーの2週間前までに最終見積もり金額および請求金額を提出するので、挙式10日前までに当社指定の銀行口座にお振り込みください》と書かれている。つまり、被害カップルの損害額は最少で10万円、挙式まで10日を切っていると費用全額になる可能性がある。 そうした中、Aさんの息子夫婦は今年2月26日に挙式とパーティーを行う予定だったが、妻の妊娠が判明したため出産後の10月7日に延期。しかし、オール・セインツは約款で日程変更を認めていないことから、息子夫婦は特例で日程変更を承認してもらい、同社と覚書(昨年9月9日付)を交わしていたのだ。 「ただし『日程変更の条件として見積もり金額180万円の全額を払う必要がある』と言われたので、息子夫婦は覚書に基づき全額を払ったのです」(Aさん) すなわち内金10万円と合わせ、息子夫婦は計190万円を既に支払っていたのだ。挙式が10月7日ということは、本来なら10万円の損害で免れていたかもしれないのに、想定外の被害に巻き込まれた格好だ。 「私は『延期するなら契約を白紙にしてもいいのでは』と言ったのですが、息子夫婦は『どうしてもオール・セインツで式を挙げたい』と言うので、最後は本人たちの意思を尊重した経緯があります。実際、ネットの口コミ評価も高かったし、チャペルの雰囲気も素敵だったので、ここで挙式したいという思いが強かったんでしょうね」(同) 債権者集会はいつ? 門が閉ざされ静まり返るチャペル  事業停止後、オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(山口大輔法律事務所、会津若松市大町一丁目10―14)からは「(オール・セインツを)結婚式という人生の大きな節目をお祝いする場に選んでいただけたにも拘わらず、このような結果になってしまったことをお詫び申し上げます」と謝罪すると共に、▽結婚式業務委託契約を会社都合により解除する、▽支払い済みの金額および損害賠償請求は破産手続きの対象になる旨が書かれた文書(6月9日付)が送られてきた。 「紙切れ1枚で連絡を済ませるなんて酷い。黒﨑社長には、息子夫婦の人生の門出を台無しにした責任を取ってほしい」(同) 黒﨑社長は79歳で、北海道札幌市に自宅があるが出身は福島県ということは先月号でも触れた。Aさんによると「以前、雑談していたら『私は会津出身なんです』と話していました」とのこと。 チャペルやパーティー施設などの不動産は、小野町の土木工事・産廃処理会社が所有していることも既報の通りだが、その他に目ぼしい財産があるか調べたものの、不動産登記簿等では追い切れなかった。 Aさんの息子夫婦は精神的ショックに打ちひしがれている。挙式は行いたいが、別の式場でもう一度最初から打ち合わせをする気持ちになれないという。もちろん費用の問題もあり、支払い済みの190万円が戻ってくる保証はない。 山口弁護士はオール・セインツから事業停止後の処理を一任されただけで、破産手続開始が決定されれば裁判所が破産管財人を選任する。破産手続きは、その破産管財人(山口弁護士とは別の弁護士)のもとで進められることになる。 山口大輔弁護士事務所によると、7月19日現在、負債総額の調査は終わっておらず、債権者集会を開催する見通しも立っていないという。「黒﨑社長と直接話せないか」と尋ねたが「当事務所が代理人を務めているため、直接話すのは難しい」とのことだった。 「幸せ」を商売にしてきた企業が顧客を「不幸」にしたのでは話にならない。債権者を選別するわけではないが、被害カップルを何とか救済できないかと思うのは本誌だけではないだろう。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

  • 【JAグループリポート2023】福島県農業経営・就農支援センター【相談件数298件】

    【JAグループリポート2023】福島県農業経営・就農支援センター【相談件数298件】

     「福島県農業経営・就農支援センター」(福島市)は4月3日に県自治会館で開所式を実施してから、4カ月経過した。同センターは、農業経営基盤強化促進法の改正で各都道府県に設置されることになったが、県および県農業会議・県農業振興公社に加えJAグループが参加し、17名が常駐するワンストップ・ワンフロアの支援体制は全国でも福島県が初めてとなる。 従来の窓口は団体ごとに異なり、手続きが煩雑になるなど相談者の負担となっていた。各団体が1カ所に集まることで団体の連携を密にし、実効性ある支援策を講じることができるようになった。  相談件数は4月に開所して以来、6月末時点で、地域段階のサテライト窓口も含めて298件(就農相談186件、経営相談103件、企業参入相談9件)となった。この相談件数は昨年同時期と比較すると約2倍になっており、新規就農希望者やこれからの経営改善を計画する農業経営者から大きな期待が寄せられ、順調なスタートとなっている。 今後、年間1200件の相談件数を目指したPRや掘り起こし活動を積極的に行うとともに、就農相談を通じて、県農林水産業振興計画に掲げる2030(令和12)年度までに年間340名以上とする新規就農者の確保を目指す。 また今後の課題として、相談者の就農実現に向けた研修受け入れ機関(農家や公的機関)の紹介をはじめ国等の支援事業の対応や農地のあっせん等を含めた伴走支援を進める必要がある。 開所式の様子  経営相談については300件を超える重点支援対象者を設定しており、既存の経営者から寄せられた法人化や経営継承等の課題解決に向けた対応に加え、就農後5年以内の認定新規就農者に対する就農定着と経営発展に向け、センターおよびサテライト窓口職員による訪問活動や専門家派遣などに取り組んでいく。 JA福島グループでは、相談件数の増加が就農者の増加と定着、さらには農業経営者の経営課題解決という成果に着実につながっていくよう、関係機関の連携を一層強めて取り組んでいく考えだ。 JA福島中央会が運営するJAグループ福島のホームページ あわせて読みたい 【JAグループリポート2023】創立70周年記念大会で誓い新たに【JA福島女性部協議会】

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

    【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【ソーラーポスト】太陽光発電普及を後押し【カテエネソーラー】

    【ソーラーポスト】太陽光発電普及を後押し【カテエネソーラー】

     今年で創業23周年となる太陽光発電システム販売の㈱ソーラーポスト(福島市、尾形芳孝社長)は、電気代高騰対策のため、太陽光発電の設置を促進しようと、中部電力ミライズ㈱(名古屋市)と連携し「カテエネソーラー」の取り扱いを始めた。県や自治体は太陽光発電システム設備や蓄電池の設置費用の補助を進めている。太陽光発電設置後の10年分の発電買取代金を中部電力ミライズが一括前払いすることで、ソーラーポストは初期費用の軽減を図り一層の普及を目指す。  契約者が太陽光発電設備を設置後、中部電力ミライズから発電買取代金を一括(10㌔ワット 154万円、8㌔ワット 123万2000円、6㌔ワット 92万4000円、5㌔ワット 77万円)で受け取ることで、初期費用をサポート。設置後10年間は月額料金を定額で支払う(※発電した電気は使い放題となる)。 おすすめポイントは、①『新築住宅・既存住宅への太陽光発電設備の設置後に発電買取代金を中部電力ミライズが一括でお支払い』、②『太陽光設備設置費用を住宅ローンに組み入れてもOK』、③『月々定額の支払いで太陽光発電の電気は使い放題』、④『太陽光発電設備は契約者所有で蓄電池の設置もOK』が挙げられる。  同社が展開する「カテエネソーラー『定額Sプラン』」のモデルケースを見よう。発電買取代金の算定単価は1㌔ワット あたり15万4000円(税込み)。契約期間は10年。太陽光パネル出力6㌔ワット の場合、中部電力ミライズによる発電買取代金の一括前払い92万4000円(同)、サービス利用料(契約者の負担)は月額6820円(同)となる。10年経過後はサービス利用料金が無料になる。 注意点は、①契約期間中(10年間)、余剰電気の売電収入は中部電力ミライズに帰属するため、契約者の売電収入はないが契約完了後は売電収入が得られる。②V2H設備の設置はできない。③加入条件は、申し込み時点で本人または同居者が満60歳未満の成人であること。④太陽光発電設備の発電出力が3㌔ワット以上10㌔ワット未満であること。 「『カテエネソーラー』は福島県初の画期的な商品です。太陽光発電設備で一番ネックとなる初期費用の負担軽減ができます。事業パートナーの中部電力ミライズは中部電力の関連会社で高い信用と信頼を得ている企業です。多くの方々が電気代の高騰に苦しんでいる中、気軽に太陽光発電設置について検討していただけるはずです。今後も同商品の浸透を図りながら再生可能エネルギーの大きな柱である太陽光発電の普及に努めます」(尾形社長)。詳細はカテエネソーラー専用サイトにアクセス。問い合わせは、同社0120(91)5741まで。

  • 宅配で顧客取り込むヨークベニマル

    宅配で顧客取り込む【ヨークベニマル】

     コロナ禍以降の宅配需要の増大や高齢化に対応するため、県内最大手の食品スーパー・ヨークベニマルは宅配サービスの充実化を図り、移動スーパー事業もスタートさせた。各事業の現状と今後の展望について、担当者に話を聞いた。 店に来られない高齢者・単身者に好評 移動スーパー「ミニマル」(福島西店、ヨークベニマル提供)  昨年3月1日、ヨークベニマルは社内に「ラストワンマイル推進部」を設けた。 ラストワンマイルとは店舗・物流拠点から消費者宅までの距離を指すビジネス用語。コロナ禍を経て、EC(ネット通販)の需要が増大し、配送業者のドライバー不足も問題となる中、「ラストワンマイル」でいかに差別化を図れるかが小売・流通各社にとって課題となっている。 加えて本県など高齢化が進む地域では、免許返納などで交通手段がなくなり、近くのスーパーに買い物に行けない〝買い物難民〟問題が深刻化している。それらの課題に対応するために設置されたのが同推進部だ。 同推進部の開山秀晃総括マネジャーは次のように話す。 「例えば高齢者の中には、足が痛くて思うように歩けなかったり、自動車の運転に不安を感じて来店できない方がいます。そうした方でも安心して買い物できて、豊かな生活を送れるように、われわれがライフラインを整備しようと考えました」 昨年5月に始まったのが、クリスマスケーキなどの人気商品をネット予約して店舗で受け取れる「ウェブ予約」。共働きで忙しいが、家族でのイベントは大切にしたい――という子育て世帯の需要に応えた。報道によると、通常商品を扱うネットスーパーも2024年2月期に1店舗で開始する予定だ。 電話で注文を受け付けて自宅に配送する「電話注文宅配サービス」は5年前に開始した。現在は田島店(南会津町)、台新店(郡山市)、門田店(会津若松市)、会津坂下店(会津坂下町)など8店舗で実施している。 宅配サービスの電話注文を受ける担当スタッフ(門田店、ヨークベニマル提供)  会員登録後、チラシなどを見ながら、店舗スタッフに電話で注文する。別途配送料金がかかる(会津坂下店440円税込み。それ以外は330円税込みで、今後値上げされる見込み)が、販売価格は店頭と同じで、入会費や月会費などは一切かからない。配送エリアは店舗ごとに定められており、田島店では最大約50㌔先まで対応するという。2月現在の登録者数は6店舗計約1700人。開山マネジャーによると、一人当たりの買い物金額は約5000円。まとめ買いして、宅配してもらうスタイルが定着しているのだろう。 利用者多い高齢者施設 移動スーパー「ミニマル」の車両(西若松店、ヨークベニマル提供)  昨年7月にスタートしたのが、移動スーパー「ミニマル」だ。福島西店(福島市)、西若松店(会津若松市)を拠点に週6日運行する。取扱商品は生鮮食品、日配品、弁当、総菜など約300品目。既存の移動スーパーが個人宅まで行くのに対し、「ミニマル」は住宅団地や集会所、高齢者向け施設などを巡回する。 「ご近所同士のコミュニティー形成のきっかけにつなげてほしい思いがあるからです。高齢者向け施設は需要が多く、巡回場所の4分の1を占めています。施設利用者本人はもちろん、買い物を依頼されたヘルパーさんも訪れる。部屋に台所がある施設も多いため、意外と漬物にする野菜などが売れたりします」(同) 「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「Wolt(ウォルト)」など、フードデリバリーを使った食品配送も宮城県仙台市や栃木県宇都宮市の4店舗で導入し、5月には浜田店(福島市)で福島県初となる「ウーバーイーツ」での配送を開始した。 顧客から注文があった商品を売り場から取り出すウーバーイーツの配達員(ヨークベニマル提供)  鮮度・温度管理が難しい刺身やアイスを除き、全商品を取り扱う。受け付け時間は10時から19時。配送エリアは店舗から約3㌔圏内。配送手数料は50~550円で、加えて合計注文金額の10%(最大350円)のサービス料金が別途適用される。 単身者などの利用に加え、酒やおつまみだけの注文も目立つことから、開山マネジャーは「買い物に行く時間がない飲食店の店主などにも利用されているのではないか」と分析している。店舗で買うより割高だが、30分以内に自宅まで届けてくれる手軽さが支持され、導入店舗の売り上げは着実に伸びているようだ。 報道によると、同社では2026年2月期までに電話注文サービスを30店舗、「ミニマル」を10店舗、フードデリバリーを15店舗まで拡大することを目指している。 ただし、「電話注文サービスを行うには、顧客の要望を正確に聞き取りできるスタッフの存在が必須で、それなりの教育が必要となる。そういう意味では一気に拡大するのは難しい。地道に増やしていくことになると思います」(開山マネジャー)。 その一方で「うちのエリアでも宅配サービスをやってくれないの?」という問い合わせも多く寄せられているので、少しでも早く導入できないか模索しているようだ。 担当店舗の現場スタッフが負担に感じないように、宅配・移動スーパー分の売り上げを店舗の実績として反映させる仕組みを設けたほか、「先入れ先出し」の徹底、売れ残り品の持ち出し禁止など、社内ルールの構築も同時に進めている。 宅配・移動スーパーの充実により顧客が抱える課題のソリューション(解決)につながれば、同社への信頼度は高まり、〝潜在的な買い物客〟を取り込むこともできる。競合他社にとって大きな打撃になり得る。 行商から同社を立ち上げた創業者・大高善雄氏が唱えた「野越え山越えの精神」は、顧客への感謝と奉仕の心を表す創業理念として、社内で伝え続けられている。同社にとって〝原点回帰〟となるラストワンマイル戦略の成否に注目が集まる。

  • 郡山「モルティ」から人気雑貨店「TGM」が撤退

    郡山「モルティ」から人気雑貨店「TGM」が撤退

     郡山駅西口再開発ビル「ビッグアイ」の商業施設「モルティ」4階で営業する生活雑貨店「TGM」が7月いっぱいで閉店した。モルティの中でも人気店の撤退に、来店客からは「残念」との声が漏れている。 「モルティはただでさえ客が少なく苦戦しているのに、TGMが撤退したら一層寂しくなる」(経済人) モルティ担当者によると、TGMの撤退は運営会社㈱三峰(東京都中野区)の事情によるという。 「三峰さんが全国の店舗を順次閉店しているのです。生活雑貨店は苦戦していると聞いているので、その影響かもしれません」(担当者) 三峰は全国で44店舗運営しているが、既に閉店したところも少なくない。モルティの店舗もその方針に従い粛々と閉められるわけ。 担当者によると、TGM撤退後のテナントは「既に決まっている」。店舗名の発表はもう少し先だが、秋にはオープンさせたいという。 郡山駅前の人通りは相変わらず増えていない。うすい百貨店では中核テナントの「ルイ・ヴィトン」が8月末で撤退する。そうした中で、モルティの人気店撤退―リニューアルは活気の少ない駅前にどのような影響をもたらすのか。

  • 桑折町・福島蚕糸跡地からまた廃棄物出土

    桑折町・福島蚕糸跡地からまた廃棄物出土

     本誌1、3月号で、桑折町の福島蚕糸跡地から廃棄物が出土したことをリポートした。 桑折町の中心部に、福島蚕糸販売農協連合会の製糸工場(以下、福島蚕糸)跡地の町有地がある。面積は約6㌶。震災・原発事故後に災害公営住宅や公園が整備され、残りのスペース2・2㌶を活用すべく公募型プロポーザルを行った結果、㈱いちいと社会福祉法人松葉福祉会が最優秀者に選ばれた。 食品スーパーとアウトドア施設、民設民営による幼保連携型認定こども園が整備される予定で、定期借地権設定契約を締結、造成工事がスタートしていた。 そうした中で、いちいが工事を実施しているエリアからアスベストを含む1000㌧に上る廃棄物が出土したため、工事がストップすることになった。 町議会3月定例会では、①町は昨年6月ごろの段階で廃棄物の存在を把握していたのに議会に報告したのが今年1月17日だったこと、②処理費用は5300万円に上り、いちいと町が折半して負担することになったが、プロポーザルの実施要領や契約書には「土地について不足の事態があった際も事業者は町に損害賠償請求できない」と定められていること――などが問題視された。 廃棄物が積まれた福島蚕糸跡地(今年3月撮影)  結局6月定例会で町が処理費用を半額負担する補正予算案が可決されたが、一方で新たな問題も発覚した。 松葉福祉会の認定こども園の建設予定地からも、大量のコンクリートや鉄筋などの建築廃材が出てきたことが明かされたのだ。町産業振興課によると、4月半ばに同福祉会から連絡があり、全体でどれぐらいの量があるかは分かっていないという。 松葉福祉会にコメントを求めたところ、「廃棄物を撤去して土壌改良すれば、さらなる予算がかかるので、設計を一から見直さなければならないし、2024年4月開園は実質的に難しいだろう。今後、町と協議していくことになる」と話した。 認定こども園は当初2024(令和6)年4月開園予定だったが、土壌改良の期間も含め、開園は1年遅れの2025年4月になる見通し。来年度は従来の醸芳保育所と醸芳幼稚園が園児の受け皿となる。 6月15日の6月定例会一般質問では、高橋宣博町長が経緯を説明したうえで「重大で深刻な事態と受け止めている。開園を期待している町民に深くおわびする」と陳謝した(福島民友6月16日付)。 町産業振興課によると、いちいの工事で出てきた廃棄物は福島蚕糸の前に操業していた郡是製糸桑折工場のものとみられるが、今回出てきた廃棄物は福島蚕糸のものとみられる。要するに、過去に立地していた工場の廃棄物がそのまま放置されてきたことになる。いちいと松葉福祉会にとっては、思いがけず高額な処理費用を負担することになった格好。町は町有地として取得する際にこうした状況にあることをチェックできなかったのだろうか。 気になるのは、今回の処理費用も折半にするのかということ。本誌4月号記事で斎藤松夫町議は「いちいに同情して後からいくらか寄付するなどの方法を取るならまだしも、プロポーザルの実施要領や契約書の内容を最初から無視して折半にするのは問題。根拠のない支出であり、住民監査請求の対象になっても不思議ではない」と指摘した。そうした点も含め、町は事業の進め方をあらためて検証すべきではないか。 あわせて読みたい 【桑折・福島蚕糸跡地から】廃棄物出土処理費用は契約者のいちいが負担 桑折・福島蚕糸跡地「廃棄物出土」のその後

  • 【福島市】メガソーラー事業者の素顔

    【福島市】メガソーラー事業者の素顔

     福島市西部で進むメガソーラー計画の関係者が、思わぬ形で週刊誌に取り上げられた。中国系企業「上海電力日本」が発電所を整備する際、必ず関わっている人物なのだという。予定地の周辺住民は不安を口にしている。 週刊新潮が報じた「上海電力」との関係  本誌昨年12月号で「福島市西部で進むメガソーラー計画の余波」という記事を掲載した。同市西部の福島西工業団地近くの土地を太陽光発電事業者が狙っているというもの。 最初に浮上したのは、福島先達山太陽光発電事業の事業者による変電所計画。しばらくして立ち消えになったが、別の発電事業者がすぐそばの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが分かった。 《発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。 発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。最大出力約4万6000㌔㍗。今年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。事業期間は約16年。 開閉所は20㍍×15㍍の敷地に建設される。変圧器や昇圧器は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ》(本誌昨年12月号記事より) ところが、これらの計画について発電事業者側がおざなりな説明で一方的に進めようとしたため、周辺住民が反発。 開閉所につなぐ送電線は直前で地下から地上に出し、近くにある鉄塔から農地をまたぐ電線に接続する計画となっている。そのため、生活空間への影響を懸念する地権者や住民が計画変更を求めたが、開発72号は一度計画変更すると固定価格買い取り制度(FIT)の権利が失われることから応じなかった。 そこで、地元町内会は資源エネルギー庁に対し、3月28日付で、発電事業者への指導を求める125人分の要望署名を提出した。 そうした中で、さらに住民の不信感を増幅させる出来事があった。発電事業者である開発72号の代表者・戸谷英之氏と執行社員・石川公大氏が、『週刊新潮』が掲載した「上海電力」関連記事の中で繰り返し登場していたのだ。 上海電力(正式名称・上海電力股份有限公司)は、中国の国有発電会社「国家電力投資集団」の傘下企業で、石炭火力発電を中心にガス、風力、太陽光発電を手掛けている。 日本法人の上海電力日本(東京都千代田区、施伯红代表)は2013年9月に設立され、日本でのグリーンエネルギー(太陽光・太陽熱、風力、水力等)発電事業への投資、開発、建設、運営、メンテナンス、管理、電気の供給及び販売に関する事業を展開している。中国資本企業ではあるが、2015年8月に経団連に加入している。 『週刊新潮』の記事は、上海電力日本の子会社によるメガソーラーが山口県岩国市の海上自衛隊岩国航空基地の近くに整備されていることに触れたうえで、中国政府に近い企業に基幹インフラ事業を任せる危うさを指摘する内容だった(『週刊新潮』10月27日号)。 『週刊新潮』の記事  上海電力が進出する際の手口は、「合同会社」の転売を繰り返すというものだが、そこに出てくるのが前出・戸谷氏だ。 不動産登記簿によると、2020年12月28日、SBI証券が同発電所の土地に根抵当権を設定した。債務者はRSM清和コンサルティング内に事務所を構える合同会社開発77号。この会社の代表社員が戸谷英之氏だ。記事によると、RSM清和監査法人の代表社員である戸谷英之氏と同姓同名だという。 メガソーラー発電事業者・合同会社東日本ソーラー13には当初、一般社団法人開発77号(合同会社77号の親会社)が加入していたが、同年9月9日、合同会社SMW九州が合同会社東日本ソーラーに加入し、入れ替わるように一般社団法人77号が退社した。この合同会社SMW九州の現在の代表者は施伯红氏。上海電力日本の代表取締役だ。 要するに、戸谷氏の会社が、上海電力日本の進出の手引き役になっていると指摘しているわけ。 『週刊新潮』今年5月18日号では、北海道の航空自衛隊当別分屯基地に近い石狩市厚田区で進められている風力発電計画においても、全く同じスキームが採用されていることが報じられており、戸谷氏のほか、石川氏の名前も出てくる。 本誌2021年4月号で、宮城県丸森耕野地区でメガソーラー計画に対する反対運動が展開されたことをリポートした。用地交渉担当の事業統括会社社長が住民の賛同を広げるため行政区長に金を渡そうとしたとして、贈賄容疑で逮捕された経緯があったが、ここで事業者となっている合同会社開発65号の代表者も戸谷氏だった。 今年に入ってからは宮城県登米市に建設が予定されていたバイオガス発電所計画をめぐり、事業者が経産省に提出していた食品メーカーとの覚書を偽造していたことが発覚し、計画中止となった。事業者・合同会社開発73号の代表者は戸谷氏だ。 根強い地元住民の不信感 開閉所予定地  これらの会社の電話番号はアール・エス・アセットマネジメント(東京都)というエネルギーファンドの資産運用管理会社と同じ番号で、関連会社だと思われる。上海電力日本との関係は判然としないが、ずさんな計画に関わっていたのは確かだ。 たたでさえ、地元住民はメガソーラーやその関連設備が整備されることで、自然環境維持や防災などの面で影響を受けないか、不安視しているのに、投機目的丸出しのペーパーカンパニーでは不安が募るばかり。だからこそ、福島市桜本地区の住民も反対しているのだ。 地元住民が反対していることについてどう受け止めているのか、開発72号に連絡したが、期日までに返答はなかった。 地元町内会の代表者は「発電事業所は10年ほど前に権利を取得し、1㌔㍗36円という高い金額で売電できるので、住民の反対を押し切ってでも期限のうちに計画を進めたいのだと思います。そうした意向を受けてか、発電設備の建設を担うシャープエネルギーソリューションも地元住民の反対を押し切り、すでに工事に着手している。彼らは『地元住民に話をすればそれで了承を得た』と思っている節があります。農地への地上権設定にあっさり許可を出した市(木幡浩市長)にも、住民として協力できない意向を示す反対署名を提出する予定です」と語る。 地元住民の不信感は相当強い状況。過去の事例のように開発72号は上海電力日本など他社に売却する狙いがあるのか。同地区の住民ならず、その動向を注視しておく必要がある。

  • コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

    コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

     5月に新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に引き下げられ、夜の飲食街は感染収束ムードが漂う。だが、客の嗜好が「飲」から「食」に変化し、団体の2次会は望めない。夜の街調査4回目は6月3日土曜日に会津若松市を回った。 頼みの「無尽」は規模縮小 飲食店が入るパティオビル(会津若松市上町)=6月3日、午後10時35分  会津若松市は会津地方の消費都市の性格が強い。市内だけでなく近隣の喜多方市、猪苗代町はもちろん、遠方は南会津町などからも訪れる。そのため、市内人口に比して飲食店が多く、電話帳をベースに人口1000人当たりのスナック店数を調べたところ、県内主要4市では最も多かった(表1、表2)。 表1:県内人口上位4市のスナック店舗数 2023年5月1日推計人口(百人)2019年スナック数(店)2021年スナック数(店)減少率(%)いわき市3226273221▲19.0郡 山 市3222202159▲21.2福 島 市2763194145▲25.2会津若松市1133158124▲21.5 表2:県内人口上位4市の千人当たりスナック店舗数 2021年スナック店数人口千人当たり店数会津若松市1241.09いわき市2210.68福 島 市1450.52郡 山 市1590.49  「地理的に考えると、峠を越えてきた人たちが金を落とす一大消費地でした」とは市内のある飲食店経営者。 近代から戦後にかけては、猪苗代湖の水力発電で得た安価な電力を背景に産業が集積した。 あるスナックのママが40年前をしのぶ。 「富士通の工場があったころは関係者がよく飲みに来ました」 眠らない街の光景が、いまも目に焼き付いている。 「1980年代の話です。私の店は深夜1時に閉めますが、帰りのタクシーが拾えないほど。2時3時になってもタクシー待ちの行列です。お店はほとんど閉まっているのにどこに人がいたのかと思うくらいの数。『この人たち、明日は仕事だろうに大丈夫なのかな』と心配でしたね。金曜、土曜ではなく平日の話です。いい時代でしたよね……。いまですか? 最悪ですよ」(前出のママ) 新型コロナの感染拡大以降は金、土曜日だけ営業してきた。4月ごろは週末に4、5人が来てくれて明るい兆しを感じたが、5月の大型連休は客の入りが鈍く、同月半ばからは確実に悪い。 「私1人でやっているので、若いお客さんは来ないでしょう。大型連休は、街は久しぶりに若者で賑わっていました。でも、若い人だって毎日は飲みに行かないでしょ。連日賑わっている店はないと思いますよ」(同) 賑わっているところはあるのか。店主たちに聞くと、「パティオビル周辺だけは人が大勢いる」という。パティオビル(地図参照)に入居するテナントはキャバクラやスナック、バー・クラブなど若年層向けの店が多い。 地図:会津若松市の飲食店街  ビルのきらびやかな照明が夜に浮かび上がる。エントランスに入ると、店の紹介映像が画面に流れていた。派手な光と音に包まれ、ここだけ別世界だ。エントランスの上部を見ると、天井の隅に張り付いてこちらをうかがう巨大なゴリラの模型と目が合った。 ビルの前では男女問わず若いグループが複数たむろし、解散するか次の店をどこにするかを話し合っていた。道を挟んで向かいにはコンビニがある。ビル内の店に入るかどうかは別として、人が集まるようだ。 パティオビルは、どの階もテナントで埋まっていた。家賃は階が違っても変わらないので、上階より人の往来がある1階が人気だ。最も賑わう同ビルでさえも移転か閉じた店があるが、入居者も同じ数だけあり、テナントの新陳代謝が起きている。 苦境に立つ老舗  これまでの夜の街調査でも指摘しているように、客が夜の飲食店に求めるものは「飲」から「食」に移ったが、客層も「老」から「若」に移行した。コロナ禍を機に老舗が閉店した。 50年来スナックを経営してきたマスターは、最近の客の一言にプライドを傷つけられた。 「初めて来た男性のお客さんでしたね。『女の子はいないの』と店内を見回しました。若い女性従業員をたくさん抱える店じゃないと知ると、『じゃあいい』とバタンとドアを閉めていきました。街やお客さんと共に私たち従業員も年を重ねてきました。お客さんの好みは理解しますが、入店をやめるにしてもスマートな去り方があるのではないか」 共に年齢を重ねてきた高齢の客は新型コロナに感染して重篤化するのを恐れ、外での飲食を控えるようになった。3年経てば「飲みに行かない」のが習慣となるが、それでも変わらず来てくれる常連もいる。「店を閉めて寂しいとは言われたくない」(マスター)。何より、長年働いてくれている高齢従業員の生活のために、わずかでも稼がなければならない。 会津若松の調査は、郡山(今年1月号)、福島(同5月号)、いわき(同6月号)に続き4回目となる。いままで3市の夜の街を調査してきたと店主らに話すと、よく聞いたのが「いわきはコロナでも賑わっているようだね」「実際に(いわきに)行った人から繁盛していると聞いた」と羨む声だった。 だが、それは幻想と言っていい。いわきでも土曜日にもかかわらず、団体の2次会需要はほとんどないため、夜10時以降閑散とするのは会津若松と変わらない。「食」がメインの店舗でも、売り上げがコロナ禍前の7割に戻っていれば良い方だ。店を開けるだけでは2次会の客が来ることは期待できず、多くの老舗が客の行動変化に苦労していた。 地方は少子高齢化が急速に進み、経済規模の縮小は免れられない。いわきは首都圏に近いという地の利はあるが、会津若松と同様、コロナ禍から未だ立ち直ってはいない。 県内4市の夜の街を調査すると、感染拡大前から飲食店は総じて減っており、コロナ禍が閉店を早めたと言える。本稿末尾にコロナ禍後に電話帳から消えたスナック、バー・クラブの営業調査結果を載せた。近隣の店主に聞くと、コロナ禍前に閉じた店も散見された。 電話帳から消えた会津若松市のスナック、バー・クラブ 〇…6月3日(土)に営業確認 ×…営業未確認 店名建物名営業状況栄町スナック翼パピヨンプラザビル×スナックあんり五番街ネクサスビル×スナック燁里エクセレント大手門ビル×スナックみっちゃん×Coralマリンビル×さざなみ三進ビル×すなっくなおこ白亜ビル×スナックひまわり×スナック演歌Mビル→白亜ビル〇上流階級ヴェルファーレビル〇西栄町スナック情不明×行仁町ラブストーリーリトル東京×上町スナックオルゴール(織香瑠)上町一番街×スナックディアレストAsahi Alpa×スナックアンルート×でん福マルコープラザ×レイティス(RETICE)パティオビル×regalia×スナックageha〇スナック古窯パティオビル→移転〇ミュージックパブオアシスセンチュリーホテル×ゴールデンウェーブ×Villeセンチュリー・ノアビル×スナック胡遊×ピンクパンサー〇佑花×馬場町ベルコット石井ビル×スナックシナリオサンコープラザビル×れとろ×ENZYU×宮町パーティハウス北日本ビル×スナック赤いグラス明月ビル×ニューサンシャインサンシャインビル× 「無尽」の互助に異変  飲食店街は打つ手がないのか。前出の飲食店経営者は「会津若松の夜の活気は無尽が支えてきた」と話す。 無尽とは、会員が掛け金を出し合い、一定期日にくじで優先的に融通の権利を得るシステムやその会のこと。前近代的な金融の一種で、現在は山梨県のものが有名。福島県内では会津地方が盛んだ。 飲食店経営者が説明する。 「例えば会費を1万円とします。5000円を場所代として飲食店で消費し、残りの5000円を積み立てる。10人集まれば、1回の集まりにつき店に5万円を落とし、無尽に5万円を積み立てられる。1年後には60万円に達し、くじでもらう人を決めたり、急ぎの金が要る人に融通する。親睦旅行の代金に充て、会員全員に還元する方法もある」 個々の無尽で取り決めは違うが、現代では無尽にかこつけて集まることが目的なので、積み立てや融通の方法自体は重要ではないという。互助的なシステムである点が大事だ。 「居酒屋はたいてい1店につき6~12本の無尽を持っている。毎月1、2回は店に集まって会を開くので、何本無尽を持てるかが経営の安定につながると言っていい。常連客の他に魚屋、酒屋などの出入り業者、スナックの店主も参加する」(前出の飲食店経営者) 1次会はその居酒屋で、2次会は無尽に参加しているスナックで、という流れができ、常連客も店主も無尽つながりでお互いに店を利用するようになる。「無尽の飲み会がある」と言うと、家族も「しょうがない」と止めるのを諦めるほどの大義名分が立つという。 選挙も無尽で決まると言っても過言ではない。酒席では「健康状態が悪いらしい」「金銭的に苦しいようだ」と政治家のウワサが飛び交い、それを会社や家庭に持ち帰ったり、掛け持ちしている別の無尽で話したりして末端まで広がる。 「いわば選挙キャンペーンの装置です。多くは根も葉もないウワサですが、本人にとっては政治生命に関わる。政治家は、酒席でウワサを否定しなければなりません」(同) 企業も無縁ではない。この経営者によると、商工団体以上の情報伝達網だという。経営難や信用不安など悪いウワサも多い。 侮れない無尽だが、さすがにコロナ禍では自粛となった。 前出のスナックママは 「コロナを機に無尽もやめようという話が出てずいぶん減りました。無尽という言葉すら聞かなくなりましたね」 一方で、前出の飲食店経営者は楽観的だ。1次会の客をメインにしている事情がある。 「飲食店同士の無尽は出費を抑えるために減ったかもしれませんが、個人の参加は着実にあります。ウワサ、酒、選挙という勝負事への欲求は人間のさがですからね。定期的に街へ出る回数が増えれば、飲食店街に広く波及していくはずです。懸念しているのは、運転代行業者が確保できないことです。会津若松の飲食店街は近隣市町村からも多くのお客さんが来ます。コロナ禍で減った運転代行業者の数が戻らないと客足回復の機会を逃がしてしまう」 その店が主にしているのが1次会か2次会かで見解が全く異なる。人付き合いを断つ理由を与えてしまったのがコロナ禍だったと言える。若者の酒離れが進む昨今、スナックママが体験した無尽離れの方が現実味を帯びる。 あわせて読みたい 【いわき駅前】22時に消える賑わい コロナで3割減った郡山のスナック 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 苦戦する福島県内3市の駅前再開発事業

    苦戦する福島県内3市の駅前再開発事業

     県内の駅前再開発事業が苦戦している。福島、いわき、郡山の3市で進められている事業が、いずれも着工延期や工期延長に直面。主な原因は資材価格の高騰だが、無事に完成したとしても施設の先行きを不安視する人は少なくない。新型コロナウイルスやウクライナ戦争など不安定な情勢下で完成・オープンを目指す難しさに、関係者は苛まれている。(佐藤仁) 資材高騰で建設費が増大  地元紙に興味深い記事が立て続けに載った。 「JR福島駅東口 再開発ビル1年先送り 着工、完成 建設費高騰で」(福島民報5月31日付) 「JRいわき駅前の並木通り再開発事業 資材高騰、工期延長 組合総会で計画変更承認」(同6月1日付) 「郡山複合ビル 完成ずれ込み 25年11月に」(福島民友6月1日付) 現在、福島、いわき、郡山の各駅前では再開発事業が進められているが、その全てで着工延期や工期延長になることが分かったのだ。 福島駅前では駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、分譲マンション(13階建て)、駐車場(7階建て)などを建設する「福島駅東口地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は福島駅東口地区市街地再開発組合。 いわき駅前では国道399号(通称・並木通り)の北側1・1㌶に商業・業務棟(4階建て)、分譲マンション(21階建て)、駐車場(5階建て)などを建設する「いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者はいわき駅並木通り地区市街地再開発組合。 郡山駅前では駅前一丁目の0・35㌶に分譲マンションや医療施設(健診・透析センター)などが入るビル(21階建て)を建設する「郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は寿泉堂綜合病院を運営する公益財団法人湯浅報恩会など。 三つの事業が直面する課題。それは資材価格の高騰だ。当初予定より建設費が膨らみ、計画を見直さざるを得なくなった。地元紙報道によると、福島は361億円から2割以上増、いわきは115億円から130億円、郡山は87億円から97億円に増える見通しというから、施工者にとっては重い負担増だ。 資材価格が高騰している原因は、大きく①ウッドショック、②アイアンショック、③ウクライナ戦争、④物流価格上昇、⑤円安の五つとされる(詳細は別掲参照)。 ウッドショック新型コロナでリモートワークが増え、アメリカや中国で住宅建築需要が急拡大。木材不足が起こり価格が高騰した。アイアンショック同じく、アメリカや中国の住宅需要急拡大により、鉄の主原料である鉄鉱石が不足し価格が高騰した。ウクライナ戦争これまで資源大国であるロシアから木材チップ、丸太、単板などの建築資材を輸入してきたが、同国に対する経済制裁で他国から輸入しなければならなくなり、輸入価格が上昇した。物流価格上昇新型コロナの巣ごもり需要で物流が活発になり、コンテナ不足が発生。それが建築資材の運送にも波及し、物流価格上昇が資材価格に跳ね返った。円  安日本は建築資材の多くを輸入に頼っているため、円安になればなるほど資材価格に跳ね返る。  内閣府が昨年12月に発表した資料「建設資材価格の高騰と公共投資への影響について」によると、2020年第4四半期を「100」とした場合、22年第3四半期の建築用資材価格は「126・3」、土木用資材価格は「118・0」。わずか2年で1・2倍前後に増加しており、三つの事業の建設費の増加割合(1・1~1・2倍)とも合致する。 資材価格の高騰は現在も続いており、一時の極端な円安が和らいだ以外は、ウッドショックもアイアンショックも解消の見通しはない。ウクライナ戦争が終わらないうちは、ロシアへの経済制裁も解除されない。いわゆる「2024年問題」に直面する物流も、ますますコスト上昇が避けられない。資材価格の高騰がいつまで続くかは予測不能で、建設業界からは「あと数年は耐える必要がある」と覚悟の声が漏れる。 こうした中で三つの事業は今後どうなっていくのか。現場を訪ね、最新事情に迫った。 福島駅前 解体工事が進む福島駅東口の再開発事業 厳しい福島市の財政  看板が外された複数の建物には緑色のネットが被せられている。人の出入りがない空っぽの建物が並ぶ光景は、もともと人通りが少なかった駅前を一層寂しく感じさせる。 今、福島駅東口から続く駅前通りでは旧ホテル、旧百貨店、旧商店の解体工事が行われている。進ちょくは予定より遅れているが、下水道、ガス、電気などインフラ設備の撤去に時間を要したためという。アスベストの除去はほぼ完了し、解体工事は7月以降本格化。当初予定では終了は来年1月中旬だったが、今年度末までに完了させ、新築工事開始時に建築確認申請を行う見通し。 更地後は物販、飲食、公共施設、ホテルが入るビルや分譲マンションなどが建設される予定だ。ところが福島市議会6月定例会の開会日(5月30日)に、木幡浩市長が突然、 「当初計画より2割以上の増額が見込まれ、工事費縮減のため再開発組合と共に機能品質を維持しながら使用資材を変更したり、施設計画を再調整している。併せて国庫補助など財源確保も再検討している。これらの作業により、着工は2023年度から24年度にずれ込み、オープンは当初予定の26年度から27年度になる見通しです」 と、着工・オープンが1年延期されることを明言したのだ。 施工者は福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、市はビル3、4階に整備される「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を同組合から買い取る一方、補助金を支出することになっている。 同組合設立時の2021年7月に発表された計画では、総事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で、市の補助金支出は54億5000万円になる。 ところが昨年5月に議員に配られた資料には、総事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円と書かれていた。主な理由は延べ床面積が若干増えたことと、資材価格の高騰だった。 市の補助金支出が60億円に増える見通しとなる中、市の負担はこれだけに留まらない。 市は拠点施設が入る3、4階を保留床として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし、前述・議員に配られた資料では190億円に増えていた。市はこのほか備品購入費も負担するが、その金額は開館前に決定されるため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 補助金支出と合わせると市の負担は250億円以上に上るが、資材価格の高騰で建設費が更に増える見通しとなり、計画の見直しを迫られた結果、着工・オープンを1年延期せざるを得なくなったのだ。 元市幹部職員は現状を次のように推察する。 「延期期間を1年とした根拠はないと思う。1年で資材価格の高騰が落ち着くとは考えにくい。市と再開発組合は、この1年であらゆる削減策を検討するのでしょう。事業規模が小さいと削る個所はほとんどないが、事業規模が大きいと削減や変更が可能な個所は結構ある。ただ、それでも大幅な事業費削減にはつながらないと思いますが」 元幹部が懸念するのは、市が昨年9月に発表した「中間財政収支の見通し(2023~27年度)」で、市債残高が毎年増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されていることだ。市も見通しの中で「26年度には財政調整基金と減債基金の残高がなくなり、財源不足を埋められなくなる」「26年度以降の財源を確保できない」という危機を予測している。 「市の借金が急激に増える中、市は今後、地方卸売市場、図書館、消防本部、あぶくまクリーンセンター焼却工場、学校給食センターなどの整備・再編を控えている。市役所本庁舎の隣では70億円かけて(仮称)市民センターの建設も進められている。これらは『カネがなくてもやらなければならない事業』なので、駅前の拠点施設が滞ってしまうと、順番待ちしている事業がどんどん後ろ倒しになっていくのです」 ある元議員も 「既に解体工事が進んでいる以上、『カネがないから中止する』とはならないだろうが、あまりに市の負担が増えすぎると、計画に賛成した議会からも反対の声が出かねない」 と指摘する。 実際、木幡市長の説明を受けて6月15日に開かれた市議会全員協議会では、出席した議員から「どこかの段階で計画をやめることも今後の選択肢として出てくるのか」という質問が出ていた。 「施設が無事完成したとしても、その後は赤字にならないように運営していかなければならない。経済情勢が不透明な中、稼働率やランニングコストを考えると『このまま整備して大丈夫なのか』と議員が不安視するのは当然です」(元議員) 市は「計画の中止は想定していない」としており、資材や工法を変えるなどして事業費を削減するほか、新たな国の補助金を活用して財源確保を目指す方針を示している。 バンケット機能は整備困難  施行者の再開発組合ではどのような見直しを進めているのか。加藤眞司理事長は次のように話す。 「在来工法から別の工法に変えたり、特注品から既製品に変えたり、資材や設備を見直すなど、あらゆる部分を総点検して削れる個所は徹底的に削る努力をしています。例えば電線一つにしても、銅の価格が高騰しているので、使う長さを短くすればコストを抑えられます。市でも拠点施設に使う電線を最短距離で通すなどの検討をしています」 建設費が2割以上増えるなら、単純に10階建てから8階建てに減らせば2割減になる。しかし、加藤理事長は「面積を変更する考えは一切ない」と言う。 「再三検討した結果、今の面積に落ち着いた。それをいじってしまえば、計画を根本から変えなければならなくなります」(同) こうした中で気になるのは、拠点施設以外の商業フロア(1、2階)やホテル(8~12階)などの入居見通しだ。 「商業フロアの1階は地元商店の入居が予定されています。2階は飲食店を予定していますが、福島駅前からは飲食チェーンが軒並み撤退しており、テナントが入るか難しい状況です。場合によってはドラッグストアなど、別の選択肢も見据える必要があるかもしれません」 「ホテルは全国的に需要が戻っています。ただ、どこも従業員不足に悩まされており、今後の人材確保が心配されます」 ホテルと言えば、拠点施設ではさまざまな国際会議の開催を予定しているため、バンケット(宴会・晩餐会)機能の必要性が一貫して指摘されてきた。しかし、バンケット機能を有するホテルは誘致できず、木幡市長も6月定例会で、建設費高騰による家賃引き上げで参入を希望する事業者が見つからないとして「バンケット機能の整備は難しい」と明かしている。 市内では、福島駅西口のザ・セレクトン福島が昨年6月に宴会業務を廃止し、上町の結婚式場クーラクーリアンテ(旧サンパレス福島)も来年3月に閉館するなど、バンケット機能を著しく欠いている状況だ。木幡市長は地元経済界と連携して駅周辺でのバンケット機能確保を目指しつつ、ビルにバンケット機能への転用が図れる仕掛けを準備していることを説明したが、実現性が不透明な以上、一部議員が提案するケータリング(食事の提供サービス)機能も代替案に加えるべきではないか。 「市とは事業費削減だけでなく、完成後の使い勝手をいかに良くするかや、ランニングコストをいかに抑えるかについても繰り返し議論しています。それらを踏まえ、組合として今年度中に新たな計画を確定させたい考えです」(加藤理事長) 前出・元市幹部職員は 「一番よくないのは、見直した結果、施設全体が中途半端になることです。市民から『これなら、つくらない方がよかった』と言われるような施設ではマズイ。つくる以上は稼働率が高く、市民にとって使い勝手が良く、地域にお金が落ちて、税収も上がる好循環を生み出さなければ意味がない」 と指摘するが、着工・オープンの1年延期で市と同組合はどこまで課題をクリアできるのか。現状は、膨らみ続ける事業費をいかに抑え、家賃が上がっても耐えられるテナントをどうやって見つけるか、苦心している印象が強い。目の前のこと(着工)と併せて将来のこと(オープン後)も意識しなければ、市民から歓迎される施設にはならない。 いわき駅前 遅れを取り戻そうと工事が進むいわき駅並木通りの再開発事業 想定外の発掘調査に直面  いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業は2021年8月に既存建物の解体工事に着手し、22年1月から新築工事が始まった。完成は商業・業務棟(63PLAZA)が今年夏、分譲マンション(ミッドタワーいわき)が来年4月を予定していたが、資材価格の高騰などで建設費が膨らみ、資金調達の交渉に時間を要した結果、それぞれ8カ月程度後ろ倒しになるという。 いわき駅前は、駅自体が新しくなり、今年1月には駅と直結するホテル「B4T」や商業施設「エスパルいわき」がオープン。同駅前再開発ビル「ラトブ」では6月に商業スペースが刷新され、2021年2月に閉店した「イトーヨーカ堂平店」跡地にも商業施設の整備が計画されるなど、にわかに活気付いている。 しかし、投資が集中する割に人通りは思ったほど増えていない。参考までに、いわき駅の1日平均乗車数は2001年が8000人、10年が6000人、21年が4200人。20年前と比べて半減している。 駅周辺で商売する人によると 「いったん閉店すると、ずっと空き店舗のままです。収益が少なく、それでいて家賃負担が重いため、若い出店希望者も駅前は及び腰になるそうです。『行政が家賃を補填してくれないと(駅前出店は)無理』という声をよく耳にします」 そうした中で事業が進む同再開発事業に対しては 「施設完成後、商業フロアはきちんと埋まるのか。ラトブは苦戦しており、エスパルいわきも未だにフルオープンはしておらず、シャッターが閉まったままのフロアがかなりある。仮に商業フロアが埋まったとしても、建設費が高ければ、その分家賃も高くなるので、かなりシビアな収支計画を迫られる。人通りが増えない中、店ばかり増えて商売が成り立つのかどうか」(同) 施行者のいわき駅並木通り地区市街地再開発組合で特定業務代理者を務める熊谷組の加藤亮部長(再開発プランナー)はこう話す。 「事業費を削り、新たに使える補助金を探し出す一方、収入を増やすメドがついたので、4月に開いた同組合の総会で事業計画の変更を承認していただきました。その事業計画を今後県に認可してもらい、早期の完成を目指していきます」 加藤部長によると、工期が延長された理由は資材価格の高騰もさることながら、建設現場で磐城平城などの遺構が発見され、発掘調査に予想以上の時間と費用を要したためという。商業・業務棟と分譲マンションのエリアは2022年度に調査を終えたが、駐車場と区画道路のエリアは現在も調査が続いているという。 「発掘調査にかかる費用は、個人施工の場合は補助金が出るが、組合施工の場合は組合が自己負担しなければなりません。さらに発掘調査に時間がかかれば、その分だけ工期が後ろ倒しになり、機器のリース代なども増えていく。同組合内からは、発掘調査によって生じた負担を組合が負わなければならないことに異論が出ましたが、最終的には理解していただきました」(同) 思わぬ形で工期延長を迫られた同事業が、新たな事業計画のもとで予定通り完成するのか、注目される。 郡山駅前 郡山駅前一丁目第二地区再開発事業の建設地。写真奥に見える一番高い建物が寿泉堂病院と分譲マンションが入る複合ビル 「削れる部分は削る」  郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業の敷地には、もともと旧寿泉堂綜合病院が建っていた。 2011年に現在の寿泉堂綜合病院と分譲マンション「シティタワー郡山」が入る複合ビルが完成後(郡山駅前一丁目第一地区市街地再開発事業)、旧寿泉堂綜合病院は直ちに解体され、第二地区の再開発事業は即始まる予定だった。しかし、リーマン・ショックや震災・原発事故が相次いで発生し、当時のディベロッパーが撤退したため、同事業は当面休止されることとなった。 その後、2018年に野村不動産が新たなディベロッパーに名乗りを上げ、20年に同事業の施行者である湯浅報恩会などと協定を締結した。 当初計画では、着工は2022年11月だったが、資材価格の高騰などにより延期。7カ月遅れの今年6月2日に安全祈願祭が行われた。 そのため、完成は当初計画の2025年初頭から同年11月にずれ込む見通し。湯浅報恩会の広報担当者は次のように説明する。 「削れる部分はとにかく削ろう、と。デザインも凝ったものにすると費用がかかるので、すっきりした形に見直しました。立体駐車場も見直しをかけました。最終的に事業費は当初予定の87億円から97億円に増えましたが、見直し段階では97億円より多かったので何とか切り詰めた格好です。同事業は国、県、市の補助金を活用するので、施行者の都合で事業をこれ以上先送りできない事情があります。工期は10カ月程伸びますが、計画通り完成を目指し、駅前再開発に寄与していきたい」 実際の工事は、早ければ今号が店頭に並ぶころには始まっているかもしれない。 地方でも好調なマンション  ところで、三つの事業ではいずれも分譲マンションが建設される。駅前に建設されるマンションは、運転免許を返納するなど移動手段を持たない高齢者を中心に「買い物や通院に便利」として人気が高い。一方、マンション需要は首都圏や近畿圏、福岡などでは高止まりしているというデータが存在するが、地方のマンション需要が分かるデータはなかなか見つからない。 それでなくても三つの事業は、資材価格の高騰という厳しい状況に見舞われ、建設される商業関連施設もテナントが入るかどうか心配されている。建設費が高ければ、その分家賃も高くなるが、それはマンションの販売価格にも当てはまるはず。果たして、三つの事業で建設される分譲マンションは、どのような販売見通しになっているのか。 福島と郡山の事業で分譲マンションを手掛ける野村不動産ホールディングスに尋ねると、 「当社が昨年度と今年度にマンションを分譲した宇都宮市、高崎市、水戸市などの販売は堅調です。福島と郡山の事業も、駅への近さや生活利便性の高さなどは特にお客様から評価いただけると考えています」(広報報担当者) いわきの事業で分譲マンションを建設するフージャースコーポレーションにも問い合わせたところ、 「現在、東北地方で販売中の当社物件は比較的好調です。実際、ミッドタワーいわきは販売戸数206戸のうち160戸が成約となり、成約率は78%です。(資材価格の高騰などで)完成は遅れますが、販売に影響はありません」(事業推進部) 新型コロナやウクライナ戦争など不透明な経済情勢の中でも、マンション販売は地方も好調に推移しているようだ。苦戦ばかりが叫ばれる駅前再開発事業にあって、明るい材料と言えそうだ。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長 スナック調査シリーズ

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

    【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

    【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

    事業を停止したオール・セインツウェディング  JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が突然閉鎖した。本誌に情報が入ったのは6月9日。市内のある式場幹部がこう教えてくれた。 「オール・セインツで結婚式を予定していたカップルが『式場と連絡が取れなくなった。どうすればいいのか』と相談してきたのです」 オール・セインツは英国式チャペルとゲストハウス型パーティー会場で構成されている。チャペルには英国で実際に使われていたステンドグラス、パイプオルガン、長椅子、説教台があり、司式者も認定証のある牧師に依頼するなど、本物志向の結婚式を提供していた。式会場は30~190人まで収容可能な3タイプを揃えていた。 ネットで検索すると、昨年度まで3年連続で「口コミランキング福島県総合1位」を獲得しており、人気の式場だったことが分かる。 6月10日、現地を訪ねると、チャペルに通じる門など全ての出入口が閉ざされていた。門やドアには次のような紙が貼られていた。 《オール・セインツは、令和5年6月8日をもって、法的整理準備のために事業を停止いたしました。債権者の皆様にはご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません》 本誌に情報が入った前日に事業を停止していたわけ。 式場周辺を見て回ると、付属施設のドアが1個所開いているのを見つけた。「ごめんください」と声をかけると、中から大柄な男性が汗だくで出てきた。オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(会津若松市)だった。 「私の一存でどこまで話していいのか判断がつかないので、取材は遠慮したい」(山口弁護士) 施設内で何をしていたのか尋ねると「電気が止まる前に食材の整理をしていた」と言う。代理人がそこまでするのかと更に問うと「いろいろあって……」と言葉を濁した。 近所のホテル従業員の話。 「オール・セインツを通して宿泊予約をされていたお客様から『式場と連絡が取れない』と聞かされ、見に行くと事業停止の張り紙がありました。直近で5、6組の宿泊予約が入っていたのですが、全てキャンセルでしょうね」 結婚式の予定が見通せなくなったカップルは少なくないようだ。 ㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11)は2003年7月設立。資本金1000万円。代表取締役の黒﨑正壽氏は79歳、札幌市在住だが、出身は福島県という。直近5年間の売り上げ(決算期9月)は2018年2億4000万円、19年2億4000万円、20年1億8000万円、21年1億5000万円、22年1億円。新型コロナの影響で苦戦していた様子がうかがえる。 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の管理運営を行う㈱TAKUSO(住所はいずれも郡山市駅前一丁目11―7)がある。両社の事務所も訪ねてみたが留守だった。 オール・セインツの土地と建物は小野町の土木工事・産廃処理会社が所有している。同社にも事情を聞いてみたが、社長から「当社が事業用地および事業用建物として賃貸しているのは事実です。賃借人弁護士から事業停止の通知が届き、驚いています。それ以上のことは多くの方が関係していることもあり、個人情報保護の観点からコメントは差し控えたい」というメールが寄せられ、詳しいことは分からなかった。 債権者の中には結婚式を予定していたカップルも含まれる。ネットの投稿などを見ると、オール・セインツは招待客1人当たり4万5000円かかるようなので、50人招待すると225万円の見積もりになる。事業を停止すると分かっていてカップルから前金を受け取っていたとすれば、悪質と言うほかない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

  • うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

    うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

     本誌3月号に、うすい百貨店(郡山市)から「ルイ・ヴィトン」が撤退するウワサがある、と書いた。 それから2カ月経った先月、ヴィトンは公式ホームページで「うすい店は8月31日で営業を終了することとなりました」と発表。ネット通販が全盛の昨今、地方都市に店舗を構えるのは得策ではない、という経営判断が働いたとみられる。 問題は撤退後の空きスペースをどうするかだが、3月号取材時は「後継テナントが見当たらず、憩いのスペースにする案が浮上している」との話だった。百貨店に憩いのスペースは相応しくない。この間の検討で具体案は練られたのか、うすいの公式発表が待たれる。 あわせて読みたい 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂 2023年3月号

  • 【いわき駅前】22時に消える賑わい

    【いわき駅前】22時に消える賑わい

     新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。かつての日常に戻りつつある中、店での飲食は動向が大きく変わった。客の重視は「飲む」から「食べる」に変化。職場の宴会は減り、あっても1次会のみ。酒の提供がメインで接待を伴うスナックは2次会以降を当てにしているため、客数減による淘汰が進む。第3弾となる夜の街調査は、いわき市を巡った。 客足戻ってもスナックに波及せず  本誌はこれまで郡山市と福島市にあるスナックの数を、電話帳を基にコロナ前と後で比較してきた。電話や訪問で営業状況を確認し、ママやマスターに聞き取り調査を重ねた。 第3回となる今回は、経済規模が県内2番目のいわき市(表1参照)の夜の街を調べた。新型コロナが5類に引き下げとなって初めての土曜日(5月13日)夜に、本誌記者2人がJRいわき駅前(平地区)の店を訪問し、店主から聞き取った。 表1 県内の経済規模上位5市 市町村内総生産県全体の構成比郡山市1兆3635億円17.10%いわき市1兆3577億円17.00%福島市1兆1466億円14.40%会津若松市4553億円5.70%南相馬市3307億円4.10%出典:2019年度『福島県市町村民経済計算』 一1000万円以下切り捨て  現地調査の前に店の増減を電話帳から把握する。新型コロナ感染拡大前の2019年11月時点と感染拡大後の21年10月時点の電話帳(NTT発行『タウンページいわき市版』)で掲載数を比較した。 2021年時点で20軒以上ある業種を挙げる。業種は店からの申告に基づき重複がある。多い順に次の通り(カッコ内は減少率)。 スナック 273店→221店(19・0%) 飲食店 201店→180店(10・4%) 居酒屋 168店→148店(11・9%) 食堂 83店→68店(18・0%) すし店(回転ずし除く) 69店→64店(7・2%) レストラン(ファミレス除く) 72店→62店(13・8%) ラーメン店 67店→62店(7・4%) 喫茶店 61店→54店(11・4%) 焼肉・ホルモン料理店 38店→37店(2・6%) 中華料理店 38店→37店(2・6%) バー・クラブ 48店→36店(25・0%) 焼鳥店 34店→33店(2・9%) うどん・そば店 30店→28店(6・6%) 日本料理店 28店→25店(10・7%) ファミレス 25店→24店(4・0%) カフェ 23店→21店(8・6%) 減少数・率ともに大きいのはスナックだった。53店が電話帳から消え、1店が新規掲載。差し引き52店減少した。もともとの店舗数はスナックや居酒屋に比べれば少ないが、減少率が最も大きかったのはバー・クラブの25・0%。12店が電話帳から消え、新規掲載はなかった。 酒と接待の場を提供するスナックやバー・クラブの減少が著しいのは郡山・福島両市も同じだ。 郡山市 スナック 202店→159店(減少率21・2%)。消滅48店、新規掲載5店 バー・クラブ 45店→42店(減少率6・6%)。消滅5店、新規掲載2店 福島市 スナック 194店→145店(減少率25・2%)。消滅50店、新規掲載1店 バー・クラブ 42店→35店(減少率16・6%)。消滅7店、新規掲載なし スナックの数はコロナ前も後も3市の中でいわき市が最も多い。にもかかわらず減少率は19%と他2市と比べて2~5㌽低い。理由は飲食店街が分散していることが考えられる。スナックが10店舗以上ある地区は表2の通り。市内最大規模の飲食店街は平・田町でスナック約120店舗がひしめく。平地区のスナックの減少率は21%で、郡山・福島とあまり変わらない。減少幅の小さい小名浜や植田など周辺地区が平の減少率を緩和している形だ。 表2 いわき市のスナックの店数 2019年2021年減少率平地区15212021%小名浜地区453717%植田地区423419%常磐地区151220%出典:NTT『タウンページ』の掲載数より 「回復とは言えない」  平・白銀町でバー「QUEEN」を経営するマスター加藤功さん(65)=平飲食業会・社交部会部会長=は、叔母から店を引き継いで計63年続けている。 「客の入りは回復しているとは言い難いですね。土曜日でも空席がある。ライブを開催し、大物ミュージシャンを呼んでもチケットは完売になりませんでした。みんな出不精になったのかな」(加藤さん) コロナ禍で閉店する店が増えたことについては、 「跡継ぎがいないというかねてからの問題があります。コロナ禍が閉店に踏み切るきっかけになった。私の店も後継者はいません。酒を提供する店でも料理がメインのところは回復力が強い。純粋にお酒を愉しんだり、女性が接待する店はまだまだ厳しい」(同) 別のバーの男性オーナーAさんは 「うちは仲間内で楽しむ雰囲気の店です。美味しいものを味わってもらうというより、1人3000円くらいでサンドイッチなど軽食を用意し、腹いっぱいになって帰ってもらう。昔は公務員が多く来ていたが、コロナ以降は全然ですね」    平競輪場が近いこともあり、店内には競輪のグッズが飾ってあった。 「今は送別会をやる選手もいません。余裕がないんでしょうね。お客さんも店も一緒です。やめちゃった店は多分、コロナ禍の間に運営資金を4、500万円くらい借りてあっぷあっぷになったんじゃないか。俺もいつやめてもおかしくない。あと1年、あと1年とマイナスの状況で続けてきた。貯金はみんな食いつぶしたよ」(同) ただ、公務員や地域行事の打ち上げが戻ってきたことで、感染の収束を感じるとも話す。 「ようやく4月から警察関係の人たちが飲み歩き始めた。いい兆しです。だが、うちはPTAや保護者会などの団体さんが動き出さないと経営は厳しい。コロナ前は野球、サッカー、学校行事などが終わった後は打ち上げがお決まりでした。消防団もお得意さんですね。年間行事が決まっているので、安定した集客が見込めます」(同) パートで本業を支える  筆者は別の店主から「昼間にパートに出て本業(スナック)を支えている店もあった」と聞いた。 あるスナックのベテランママBさんも「他人事ではない」と話す。 「店を閉めるには借金を清算しなくてはなりません。でも、この年になったら働き口がないので店を続けるしかない。お客さんの数はコロナ前の水準には戻らないけど、常連さんが来てくれるのでかろうじてやっていけます」 前出のマスター加藤さんは、コロナ後の客の飲み方に明らかな変化を感じているという。 「大型連休中はお客さんがコロナ前の7割程度まで戻った。ただし、1次会だけで終わるケースが多い。帰りの運転代行のピークは20~21時の間です」 5月13日の土曜日、本誌記者2人は19時を待ち、電話帳から消えたスナックやバー・クラブを訪ね開店状況を調べた(結果は別表参照)。20~21時の間は平・田町の路地を団体客が通り、客引きが2次会の場所を紹介しようと賑わっていた。だが21時を過ぎると客足は減り、客引きの方が多くなった。女性従業員がペアになり、いわき駅方面に向かう男性客を呼び止めるが、人の流れが止まる気配はなかった。 電話帳から消えたいわき市平のスナック、バー・クラブ ○…5月13日(土)に営業確認 ×…営業未確認 地区店名最後の所在地または移転先営業状況田町スナックMajo新田町ビル〇桐子×cantina×COOL田町MKビル×Sweethomeミヨンビル〇LOVERINGミヨンビル→泉に移転集約〇スナック・汐第2紫ビル×スナック美穂志賀ビル×チェンマイ×歩楽里×スナック僕×Boroルネサンスビル×サムライサンスマイルビル2〇ラソ(Lazo)アマーレビル→田町鈴建ビル〇ビージェイオセーボ(BJOSEBO)サンスマイルビル1×スナックむげん梅の湯ビル×DREAM移転の情報×WITH二葉館ビル〇くおん田町ビル〇夕凪×きなこ寺田ビル×スナック・杏第3紫ビル×Materia×スナックパルティール2×パブスナックキャットハウス×ROAD鳥海ビル〇カマ騒ぎ×BAR BLUE〇Berry・Berryタマチビレッジ×二町目上海新天地紅小路ビル×スナックきよみ×スナック北京城ひかりビル×スナック戀(れん)×白銀アジエンス×クイーン〇酒処さかもと×五町目プラス・ワン移転の情報×パークサイド××…所在地が空欄の店は移転先の情報を得られなかった。  22時を過ぎると「お兄さん、マッサージいかがですか」と片言で誘ってくる女性が増えてきた。前出のベテランママBさんによると、中国人グループが組織的に行っているという。 土曜の夜でも22時には客が引けてしまう。スナックやバー・クラブにとっては本来、この時間帯からが勝負だが、そもそも2次会の客が減っているので、賑わう店とそうでない店の二極化が進んでいる。 期待が薄い駅前再開発 いわき駅並木通りの再開発事業  業界として打つ手はあるのか。 「徐々に暑くなり、街中でのイベントが再開されれば人通りは多くなります。それを飲食店街にどう呼び込むか。今夏、いわき駅前では七夕まつり、小名浜では花火大会がコロナ前の規模で開催されます。昨年末には、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格を祝うパレードも同駅前でありました。いわきFCに関してはイベントが始まったばかりということもあり、飲食店街の賑わいにどうつなげるか手探りです」(前出・加藤さん) いわき駅前は再開発でホテルやマンションの建設が進む。今後、宿泊しながら飲食する人は増えることが予想され、飲食店街にとっては好材料になるのではないか。 ただ、各店主に話を向けると「そうなればいいですね」「そんなに関係ないな」と、あまり期待していない様子だった。 田町で店の営業状況を調べていると、客引きの女性従業員から「どの店もいつ潰れてもおかしくない。もっといいように書いてくださいよ」と注文を受けた。 正直、プラスの材料を探すのは難しい。早く調査を終わらせようと、女性従業員にリストに載っている店が今もやっているか尋ねた。 「その店は昨年9、10月ころにはなくなったよ。ママが『売り上げがないから疲れちゃった』って。ママが亡くなって閉めた店もあります」 本誌がリストに載せた店は、消えた店の方が多かった。 「私らは最後までやるつもりですよ。それこそ死ぬまでね」 と女性従業員。覚悟を決めた人の言葉だった。 あわせて読みたい 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査 コロナで3割減った郡山のスナック

  • ヨーカドー福島店閉店で加速する中心市街地空洞化

     9月中旬、総合スーパー「イトーヨーカドー」の郡山店、福島店について、閉店が検討されていることが福島民報の報道で明らかになった。  店舗を運営するイトーヨーカ堂の親会社・セブン&アイホールディングス(HD)は来年5月ごろ閉店する方針であることを正式に認めた。郡山店の後継店はグループ企業の食品スーパー・ヨークベニマルを核テナントとする方向で検討しており、福島店の後継店は未定だという(福島民報9月21日付)。  同HDでは3月、地方都市の採算性が低い店を中心に、33店舗を削減する方針を打ち出していた。  特にその影響が懸念されるのは、JR福島駅の西口駅前に立地する福島店の閉店だ。  同店は1985年オープン。敷地面積2万3750平方㍍、地上4階建て。食料品や日用品、衣料品を販売してきた。計680台分の駐車場(平面・立体)を備える。  かつては工場や資材置き場、国鉄の関連施設が並び、〝駅裏〟と呼ばれていた福島駅西口。1982年の東北新幹線大宮―盛岡駅間開業を機に周辺の再開発事業が進む中で、昭栄製紙福島工場跡地にオープンし、人の流れを変えたのが同店だった。  近くの太田町商店街とは当初から〝共存共栄〟の関係。同商店街の振興組合に福島店も加入し、駐車場を2時間無料にして回遊性を高めたり、駐車場で地域の夏祭りを開催するなど、地域貢献に熱心だった。歴代店長は商店街の店主らと積極的に交流していたという。  もっとも、後継者不足により商店街の店舗は年々減少し、振興組合は10年ほど前に解散。現在は個人的な付き合いを除き、福島店と商店街との交流は途絶えているとか。  ある商店街の店主はこう嘆く。  「駅前の一等地なので集客が期待できる商業施設や公共施設を整備してほしい思いはあるが、駅東口周辺でも再開発事業が進められており、再開発ビルに市の公共施設(コンベンションホール)も入居する。そちらの調整もあるので、市では身動きが取れないでしょう。伊達市で建設が進められているイオンモール北福島(仮称、2024年以降開店予定)がオープンすれば、福島市の商業も間違いなく打撃を受ける。このあたりは寂れる一方で、明るい要素はありませんね」  駅東口周辺の再開発に関しては資材価格高騰のあおりで当初計画より2割以上の増額が見込まれたため、計画の再調整を余儀なくされた。オープンは2027年度にまでずれ込む見通しだ(本誌7月号参照)。  車社会の福島市では、郊外の大型商業施設、大手チェーンの路面店を利用する人が多く、伊達市にイオンモールが開店すれば人気を集めるのは必至。そうした中で中心市街地の空洞化状態が続けば、買い物客流出は加速する一方だろう。  土地・建物を所有しているのは不動産大手・ヒューリック(東京都)。同社ではイトーヨーカドー鶴見店が入居する建物を商業施設「LICOPA(リコパ)鶴見」としてリニューアルした実績があり、過去には福島店も活性化策の対象となっていると報じられたことがある。本誌の取材に対し、同社担当者は「検討しているかどうかも含めてお答えすることができない」と話したが、今後どのような判断を示すのか。  「福島駅前は商業機能が脆弱で、人が集まりたくなる魅力に欠けている。コンベンション機能が中心部に必要だ」と話し、市が250億円以上負担する再開発を推し進めてきた木幡浩市長。逆風の中で中心市街地にどうやってにぎわいを生み出すのか、正念場となりそうだ。

  • 「空白」を回避した磐梯東都バス撤退問題

     本誌8月号に「磐梯東都バス撤退の裏事情 会津バスが路線継承!?」という記事を掲載した。猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになり、その影響と背景を探ったもの。その中で、「会津バスが事業を引き継ぐことが決定的」と書いたが、その後、正式に会津バスが事業継承することが発表された。一方で、ある関係者は「磐梯東都バスから会津バスへの事業継承に向けて、〝最後の課題〟が残っている」と明かした。 営業所・車両の売買が〝最後の課題〟 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛け、福島県内では1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。  磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。  同社グループが猪苗代・裏磐梯エリアで路線バスを運行するに至った背景について、北塩原村の事情通はこう話していた。  「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」  こうして、約20年にわたって路線バスが運行されてきたが、「少子化に伴う利用客の減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減」を理由に、事業継続は困難と判断し、9月末で全4路線を廃止してバス事業から撤退することを決めた。  磐梯東都バスから猪苗代・北塩原両町村に正式にそれが伝えられたのは今年6月だが、それ以前から、「このままでは事業を継続できない」旨は知らされていた模様。そのため、両町村は、「クルマを使えない住民が不便になる」、「観光客の足がなくなる」として、代替策を検討し、関係者間の協議で、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことが決定的になっていた。  以前、磐梯東都バスは前述の4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。  村は代替交通手段の確保に向けた検討を行い、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入し、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。  ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。  こうした事例もあったことから、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえると思う――というのが大方の見方だったのだ。 会津バスのリリース 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  本誌8月号締め切り時点では、正式発表はなかったが、その後、会津バスは7月28日付で「猪苗代町内・北塩原村内の路線バスを10月1日から会津乗合自動車が運行します」とのリリースを発表した。  同リリースには、おおむね以下のようなことが記されている。  ○10月1日(※磐梯東都バスの最終運行日の翌日)から会津バスが4路線を運行する。  ○運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ。  ○猪苗代町、北塩原村と連携し、路線バスの維持、適正な運行を目指す。  ○猪苗代町と北塩原村は、夏は登山、冬はスキーを中心とするアクティビリティーを楽しめ、風光明媚な猪苗代湖、磐梯山、五色沼などの豊富な観光資源があるため、路線バスだけでなく、貸切バス事業の活性化により、訪日外国人を含む観光誘客に貢献し、当該地域の経済効果が図られるものと考えている。  ○スマホなどで、利用するバスの現在地や到着時刻などが分かる「バスロケーションシステム」を提供し、より便利で快適な利用を実現する。  単に路線バスを引き継ぐだけでなく、新たなサービスや、運行エリアの観光資源を生かした事業展開などを考えていることが分かる。  一方で、ある関係者によると、「事業継承に向けて〝最後の課題〟になっているのが、磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所の売買金額」という。  磐梯東都バスは猪苗代町千代田地内、JR猪苗代駅から約500㍍のところに猪苗代磐梯営業所を構えている。自社所有の土地・建物で、敷地面積は約991平方㍍。不動産登記簿謄本によると、担保は設定されてない。  前段で紹介した会津バスのリリースでは、磐梯東都バスから運行に必要な営業所、車庫、車両を引き継ぐ、とのことだったが、その売買金額で折り合いが付いていない、というのが、前出・ある関係者の証言だ。  この関係者はこう続ける。  「磐梯東都バスは、営業所、車庫、車両をすべて合わせて9000万円で売却したい考えを示しました。それに対し、会津バスは、『そんなに出せない。もう少し安くならないか』といった意向のようです」  こうして、両者間で折り合いがつかず、「事業継承に向けた〝最後の課題〟になっている」というのだ。  そんな中、会津バスは猪苗代町と北塩原村に補助金要請をしたのだという。  これを受け、関係者間で協議を行い、磐梯東都バスが営業所、車庫、車両などの売却価格に設定した9000万円のうち、4500万円を会津バスが負担し、残りは猪苗代町が75%(3375万円)、北塩原村が25%(1125万円)を負担(補助)する、といった案が出された。猪苗代町と北塩原村の負担割合は、バス路線の大部分が猪苗代町内を走っていることなどが加味された模様。  猪苗代町、北塩原村はともに7月24日に議会全員協議会を開き、この案について説明した。本誌は、両町村が議会に説明するために配布した文書を確認しているが、似たような文面になっており、両町村間で調整したことがうかがえる。  この案について、猪苗代町議会では特に異論はなく、理解が得られたという。 補助名目に疑義 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  一方で、北塩原村議会では、反対ではないものの、ある問題点が指摘された。関係者はこう話す。  「まず、会津バスが磐梯東都バスの事業を継承するのは非常にありがたいことです。路線バスは中高生の通学や高齢者の通院などには欠かせないものですし、観光客の足にもなっていましたからね。そのために、行政として補助金を出すこと自体への反対は出なかった。ただ、今回の場合は、バス運行にかかる補助金ではなく、民間事業者(会津バス)が、土地・建物などの不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)や車両、つまりは財産を取得するための補助金です。ですから、そういった名目での補助金支出が正しいのか、といった疑義が出たのです」  同議会では、不動産取得について補助を出すのであれば、その不動産について一部、村に権利があるようにしなければならないのでは、といった指摘があったようだ。  もっとも、後に本誌が村に確認したところ、「補助金の名目は未定」とのこと。つまり、補助金を出すにしても、不動産(磐梯東都バスの猪苗代磐梯営業所)取得についての補助金なのか、別の名目にするのかはこれから決めるというのだ。予算化の時期についても、「9月議会ではなく、その後になる」(村当局)との説明だった。  猪苗代町にも確認したが、「会津バスに補助金を出すこと自体は、議会から理解が得られたが、まだ予算化はしておらず、名目についてもこれから決めることになる」とのことだった。  ちなみに、両町村が議会に説明するために配布した文書には、「予算の計上時期、方法については、国・県の指導により、適切に行う」と書かれていた。  一方、会津バスに「磐梯東都バスの営業所、車庫、車両の取得について、猪苗代町、北塩原村に補助金を要請したそうだが、その見通しは」と問い合わせたところ、次のように回答した。  「猪苗代町、北塩原村による補助金は見通しがついた。10月1日からの運行に合わせて陸運局への申請・許可取得を済ませ、営業所、車庫、車両も9月30日までに取得する」  北塩原村では名目について疑義が出たようだが、両町村が補助金を出すこと、その金額は猪苗代町が3375万円、北塩原村が1125万円であること自体は、おおむね理解が得られている模様。あとは、どのような名目で、どのタイミングで予算化・支出するのか、ということになる。少なくとも、両町村に確認した限りでは、9月議会で予算化されることはなさそう。つまり、支出は、会津バスが磐梯東都バスの営業所、車庫、車両を取得した後、ということになる。  補助金の名目がどうなるのかなど、不透明な部分はあるものの、〝最後の課題〟は解決の目処が立ったと言えそう。少なくとも、磐梯東都バス撤退後に「空白期間」をつくることなく、バス運行が行われるのは確実で、その点ではひと安心といったところか。 あわせて読みたい 磐梯東都バス撤退の裏事情

  • 【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

    民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰庵の民事再生手続きは未だ不透明  民事再生手続き中の会津若松市・芦ノ牧温泉「丸峰観光ホテル」が会津乗合自動車の支援を受けて再生を目指すことになった。同ホテルの新社長に就く佐藤俊材・会津乗合自動車社長に支援方針を聞いた。 丸峰観光ホテルを運営する㈱丸峰観光ホテル(星保洋社長)と、丸峰黒糖まんじゅうの製造・販売や飲食店経営などを行う関連会社㈱丸峰庵(同)が地裁会津若松支部に民事再生法の適用を申請したのは今年2月28日。負債総額は2022年3月期末時点で、同ホテルが20億7700万円、丸峰庵が4億7900万円、計25億5600万円に上った。  本誌は4月号で民事再生を阻む諸課題を指摘。さらに5月号では元従業員の証言をもとに星氏の杜撰な経営を明らかにしたが、債権者、元従業員、同業者らが揃って疑問を呈していたのは、星氏が「自主再建を目指し、状況によってはスポンサーから支援を受けることも検討する」との再生方針を示したことだった。  債権者らは「自主再建ができるなら多額の負債を抱えることはなかったし、民事再生に頼らなくても済んだはず」と呆れた。大方の意見は、スポンサーを見つけ、星社長は退任し、新しい経営者のもとで再生を目指すべきというものだった。  丸峰観光ホテルは民事再生法の適用申請後も営業を続けていた。芦ノ牧温泉で働く人によると「黒字にはなっていないだろうが、週末を中心に宿泊客はそれなりにいますよ」。  記者も夏休み中の月曜日の朝、チェックアウトの時間に合わせて駐車場をのぞいてみたが、満車とまではいかないまでも首都圏ナンバーの車が多く止まっていた。  「ただ、従業員が次々と辞めていて、どこも人手不足ということもあり、他の温泉街の旅館が『ウチに来てくれそうな人はいないか』と熱心にリクルートしていました」(同)  再生の行方が見えてこない中、市内では「大手リゾートホテルが関心を示しているようだ」とのウワサも聞かれたが、7月25日、会津乗合自動車(通称・会津バス)が会見を開き、スポンサーとして支援することを正式に表明した。  会津乗合自動車㈱(会津若松市、佐藤俊材社長)は会津地方一円で路線・高速・貸切バスやタクシーを運行している。直近5年間の決算は別表①の通りで、コロナ禍により赤字が続いていたが、昨期は黒字に回復した。 表① 会津乗合自動車の業績 売上高当期純利益2018年23億9900万円1300万円2019年23億8200万円▲1400万円2020年16億6700万円▲2億7300万円2021年14億4700万円▲5000万円2022年17億5000万円4500万円※決算期は9月。▲は赤字。  会津乗合自動車は東日本最大級の公共交通事業を展開する「みちのりグループ」の傘下にある。㈱みちのりホールディングス(東京都千代田区、松本順社長)を頂点に、会津乗合自動車のほか岩手県北バス、福島交通、関東自動車、茨城交通、湘南モノレール、佐渡汽船、みちのりトラベルジャパンで構成され、それぞれの会社もバス以外に旅行、整備、保険などのグループを形成。みちのりホールディングスは親会社として各社に100%出資(佐渡汽船のみ86%出資)している。同グループ全体の従業員数は5300人余、バスは2400台余に上る。  会津乗合自動車のプレスリリースによると、同社とみちのりホールディングスが丸峰観光ホテルのスポンサーに指名され、7月14日に基本合意書が締結された。正式なスポンサー契約は8月末に交わされる予定。  会津乗合自動車は民事再生計画の成立を前提に、星保洋氏が保有する全株式を無償で取得・消却したうえで第三者割当の方法により募集株式の全てを同社に割り当て、同社が全額払い込む100%減増資スキームで出資を行う。丸峰観光ホテルの新社長には佐藤氏が就き、同ホテルはみちのりグループの傘下に入る。  「バス会社がホテルを経営?」と思われる人もいるかもしれないが、会津乗合自動車が明かしている支援方針は興味深い。  会津乗合自動車は観光を基幹産業とする会津地方でバスとタクシーを走らせるだけでなく、旅行事業、人材派遣事業、売店事業を展開している。丸峰観光ホテルがある芦ノ牧地区にも路線バスを走らせている。これらの経営資源を生かし、ホテルと地元観光地との周遊ルートや旅行商品をつくり、交通と宿泊との連携や着地型商品の開発につなげ、バスとホテルがウィンウィンの関係になる仕組みを生み出そうとしている。  前出・芦ノ牧温泉で働く人も、こんな期待を寄せる。  「芦ノ牧は市の中心部から遠く離れ、公共交通は会津鉄道があるが、最寄りの芦ノ牧温泉駅から温泉街までは4㌔もある。高齢者やインバウンドの旅行客が増えているのに、訪れる手段がマイカーかレンタカーしかないのは厳しいが、会津バスが芦ノ牧の弱点である脆弱な交通をカバーしてくれれば、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館にとっても有り難いはず」  期待の背景にあるのは、それだけではない。  「会津バスが芦ノ牧全体を気にかけてくれていることが有り難い。実際、佐藤社長と話をしたら『全体が良くならないと自分の所も良くならない』と言っていましたからね。もし『自分のバスとホテルさえ良ければいい』という考え方なら、温泉街は会津バスがスポンサーになったことを歓迎しなかったと思います。大手の〇〇や××(※実名を挙げていたが伏せる)だったら地元と交わろうとせず、周囲と釣り合いの取れない料金設定にして客を囲い込む『自分さえ良ければいい経営』をしていたのではないか」(同)  とはいえ、観光地とホテルをバスでつなぐのはいいとして、会津乗合自動車はホテル経営のノウハウを持ち合わせていない。そこで登場するのが、前述・みちのりグループの傘下にある岩手県北バスの関連会社㈱みちのりホテルズ(岩手県盛岡市、松本順社長)だ。  同社は岩手県内で「つなぎ温泉・四季亭」(22室)と「浄土ヶ浜パークホテル」(75室)を経営し、新潟県佐渡市にある同グループの「SADO二ツ亀ビューホテル」(20室)も受託運営している。別表②の決算を見ると、コロナ禍でも一定の売り上げと利益を計上しているが、岩手県北バスが観光地とホテルをバスでつないでいることが安定した宿泊客確保につながっているという。 表② みちのりホテルズの業績 売上高当期純利益2018年2億1800万円130万円2019年2億3400万円1200万円2020年2億3700万円1700万円2021年2億3000万円1500万円2022年2億3000万円――※決算期は3月。―は不明。  このノウハウが丸峰観光ホテルにも導入される。株式は会津乗合自動車が100%所有するが、運営はみちのりホテルズに委託され、支配人も同社から派遣される。 「地元の企業が守るべき」 スポンサーに名乗りを上げた会津乗合自動車  おおよその支援方針は理解できたが、筆者はさらに詳細に迫ろうと会津乗合自動車に取材を申し込んだ。すると、丸峰観光ホテルと正式なスポンサー契約を交わす直前に佐藤俊材社長が取材に応じてくれた。  最初に、支援を決めた理由を佐藤社長はこう説明した。  「弊社はバス会社ですが、目的もなくバスに乗る人はいません。人は目的地がないとバスに乗らないし、目的地が活性化しないとバス会社も活性化しません。そうした中で観光会津を代表する温泉街の旅館がなくなれば、弊社にとってもダメージになります。丸峰さんには再建を果たしてほしいと思っていましたが、同時に、他社に任せていては難しいのではないかと考えるようになり、直接支援することを決めました」(以下、断りがない限りコメントは佐藤社長)  丸峰観光ホテルのメーンバンクで最大債権者の会津商工信用組合からも、仮に全国チェーンのホテルがスポンサーになった場合、コストが重視され、地元企業との取引が打ち切られたり、同ホテルから「会津らしさ」が薄まってしまう懸念が示されたという。  「ならば、地元の企業が地元の人たちと協力し、地元のホテルを守っていくべきだと思ったことも支援を決めた理由の一つです」  会津乗合自動車ではデューデリジェンス(投資対象となる企業の価値やリスクを調査すること)を行った後、7月に行われたスポンサー選定入札に臨み、スポンサー候補に指名されたという。ちなみに、選定入札には他社も参加したようだが「どこだったのか、何社いたのかは分かりません」とのこと。  佐藤社長の根底にあるのは「自分の所さえ良ければいい、というやり方では会社は良くならない」との考え方だ。  「芦ノ牧温泉全体を活性化していかないとダメだと思うんです。そのためには大川荘さん、観光協会、旅館協同組合などと連携し、行政にも廃旅館の解体を進めてもらうなど、関係する人たちみんなで知恵を出し合うことが大切になる」  そうやって芦ノ牧温泉を変えていけば、訪れたいと思う人が増え、バスの乗客も増え、丸峰観光ホテルだけでなく他の旅館も宿泊客が増える好循環が生まれる、と。 丸峰庵は支援の対象外 丸峰庵  「幸い、私たちにはノウハウがある」と佐藤社長は自信を見せる。  「丸峰観光ホテルの運営を委託するみちのりホテルズは、岩手県と新潟県佐渡市の旅館運営で優れた実績を上げ、その成果は決算にも表れています。そこに、みちのりグループの強みを加えれば、経営再建は十分可能と見ています」  みちのりグループの強みとは、傘下にある他のバス会社との連携だ。とりわけ関東自動車(栃木県宇都宮市)、茨城交通(茨城県水戸市)とは芦ノ牧温泉が両県と2~3時間の距離しか離れていない「小旅行圏内」に位置するため、魅力的な旅行商品を開発すればグループ力で集客につなげることが見込めるという。  「さらに、みちのりグループにはインバウンドをターゲットにしたみちのりトラベルジャパンという会社もあり、閑散期の冬には雪を目当てにしたタイや台湾からの旅行客を呼び込むことも視野に入っています」  今後のスケジュールは8月末に正式にスポンサー契約を交わした後、債権者集会に臨み、再生計画が承認されれば前述した100%減増資スキームで出資を行う(※今号発売時には余程のトラブルがない限り実行されていると思われる)。  「出資が完了したら、10、11月の観光シーズンに間に合わせるべく、すぐに施設の改修に着手します。従業員は引き続き雇用します。新聞には80人とありましたが、実際はそこまではいません。債権者への対応は承認された再生計画に従って粛々と進めます。債権者との取引も継続していく考えです」  気になるのは、会津乗合自動車が株式を100%所有し、社長が佐藤氏に代わった後、星保洋氏の立場はどうなるのかということだ。  「星氏は丸峰観光ホテルとは無関係になるので、役員からも退いていただきます」 ただし、と佐藤社長は続ける。  「弊社がスポンサーになったのは丸峰観光ホテルだけで、丸峰庵は支援の対象ではありません」  なんと会津乗合自動車は、丸峰庵の民事再生計画には一切関与していないというのだ。佐藤社長によるとスポンサー選定入札では両社セットでの支援を申し入れたが「丸峰庵は弊社が示した条件では考え方が合わないとなったようです」。  丸峰庵は丸峰黒糖まんじゅうを製造・販売しているが、それをホテルで取り扱うかは他の土産品同様、今後の話し合いで決めるという。  丸峰観光ホテルの再生にメドがついたのは喜ばしいことだが、丸峰庵の民事再生手続きがどうなるかは未だに不透明なわけ。今後のポイントは債権者集会における債権者の判断と、星氏の会社への関わり方だが、丸峰庵の登記簿謄本(8月24日現在)を見ると社長は星氏のままだった。 ※民事再生申請代理人のDEPT弁護士法人(大阪市)に丸峰庵の民事再生手続きの現状について問い合わせたが、「担当者が不在」と言われ、締め切りまでに返答を得られなかった。

  • 【ブイチェーン】只見町の食品スーパー店主が引退

     只見町で食品スーパー・ブイチェーン只見店を経営していた三瓶政夫さんが、店舗を別の運営会社に売却し、引退することになった。平成23年新潟・福島豪雨で被害を受けてもすぐに店を再開し、地域の生活を支え続けた。50年以上に及ぶ経営の思い出を聞いた。 豪雨災害で水没も地域のため再開 豪雨災害で水没した店舗(三瓶政夫さん提供) 只見町の中心部に「ブイチェーン只見店」というスーパーマーケットがある。川の近くに立地し、2011年に発生した「平成23年新潟・福島豪雨」で大きな被害を受けたが、店主の三瓶政夫さんが復旧させた。その被害状況について、本誌2012年4月号に掲載した。  その三瓶さんが8月末で店を閉めるという。  「もともとは65歳で辞めるつもりだったが、水害に遭ってから必死で店を大きくしてきた。ようやくひと段落したので、ブイチェーン本部に『引退したいので経営をそのまま引き継いでくれる人を紹介してくれないか』とお願いしたのです」  同町朝日地区出身。若松商業高校卒の75歳。50年以上前に実家の商店を継ぎ、友人からの紹介で現在の場所にブイチェーンをオープンした。  地域の人に少しでも新鮮な食材を届けたいと新潟県魚沼市や郡山市の市場まで出かけ、新鮮で珍しい魚や野菜を仕入れた。提案型の売り場は顧客から広く支持され、売り上げを伸ばした。  そうした中で遭遇したのが、「平成23年新潟・福島豪雨」だった。当日、増水を警戒し買い物客に少し早めに帰ってもらっていたが、そこに川から氾濫した水が一気に押し寄せ、閉店作業を進めていた三瓶さんは命からがら店外に脱出した。店は水没し、商品や機械などがすべて使い物にならなくなった。  ただ、三瓶さんは地域の人の生活を守るために復旧を決意。付き合いがあった郡山市の市場関係者などが駆けつけて、片付けを手伝ってくれた。安い中古機械などを買い集めて、何とか営業再開にこぎつけた。その後も「意気消沈する町内の事業者を勇気づけるため先頭に立って復興させなければ」と考え、3期にわたり店舗拡張工事を行った。  三瓶さんが納得いかないのは、こうした民間の動きを支援する姿勢が町などに見えなかったことだ。  豪雨災害後、只見川沿いにダムを設置している東北電力と電源開発は県に10億円ずつ寄付。「只見川流域豪雨災害復興基金」が設けられ、被災町村に分配された。只見町には9億円が入ったが、基金の目的は被災者の住宅の新築・改築・修繕や、自治体の産業復興支援事業などに固定され、被災した事業者や住宅を建て直す予定のない高齢者などは支援を受けられなかった。  町内の水害被害者が国、県、町、電源開発などに損害賠償を求める裁判を提起したが、中心人物の死去などが重なり、和解で終わった。一部事業者らは支援格差を訴え、町に支援金の支払いを要求し、只見区長にも要望書を提出したが、「裁判を起こしてすでに和解している」ことなどを理由に要望には沿えないと拒否された。  「地域のためにやってきたのに、周囲はそう思ってくれなかったのかと落胆しました」(三瓶さん)  店舗の経営を引き継ぐのは他町村でブイチェーンを展開する会社で、社員もそのまま移る。「引退する身なので、顔写真はいいよ。勘弁してくれ」と笑う三瓶さん。雪深く物流が不便な奥地で約50年、地域のことを思い経営してきた熱い気持ちは今後も店に残り続ける。

  • 磐梯東都バス撤退の裏事情

     猪苗代町と北塩原村で路線バスを運行する磐梯東都バス(本社・東京都)が9月末でバス事業から撤退することになった。住民の足が失われることに加え、観光への影響も懸念されることから、関係町村は代替策を検討している。同社撤退の影響と背景を探った。(末永) 会津バスが路線継承!? 磐梯東都バスの運行路線と主な停留所  磐梯東都バスは、東都観光バス(本社・東京都、宮本克彦代表取締役会長、宮本剛宏代表取締役社長)の関連会社。東都観光バスは、1959年設立、資本金3750万円。東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県に営業所を構え、一般貸切旅客自動車運送業、旅行業、ホテル業、ゴルフ場の運営などを手掛けている。福島県内では、1989年から磐梯桧原湖畔ホテル(北塩原村)を、1998年から東都郡山カントリー倶楽部(須賀川市)を運営している。 磐梯東都バスは2002年設立、資本金1800万円。本社は東都観光バスと一緒だが、猪苗代町に猪苗代磐梯営業所がある。2003年からJR猪苗代駅を起点に、猪苗代町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線に加え、北塩原村の裏磐梯方面と、計4路線(11系統)を運行してきた。 「東京都が1999年から独自の排ガス規制(ディーゼル車対策、ヒートアイランド対策、地球温暖化対策など)を検討し始め、2003年から規制がスタートしました。その過程で、東都観光バスは東京都内で使えなくなる車両の活用方法について、恒三先生(渡部恒三衆院議員=当時)に相談し、恒三先生から高橋伝北塩原村長(当時)に話が行き、『だったら、東京で使えないバスを持ってきてここで路線バスを運行すればいい。その中でできることは協力する』という話になったと聞いています」(北塩原村の事情通) 以降、磐梯東都バスは約20年間にわたって、猪苗代町、北塩原村で路線バスを運行してきたわけだが、9月末で全4路線を廃止し、バス事業から撤退することになった。 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所に撤退に至った経緯などを尋ねると、本社経由で回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されましたが、撤退決定に至った理由。また、いつ頃から撤退を考えるようになったのでしょうか。 「近年の少子化に伴う利用客の減少と、3年間に及んだ新型コロナウイルスによる観光利用客の激減により、事業継続は困難と判断しました。撤退を考えるようになったのは、新型コロナウイルスが大きく影響した時期と重なります」 ――差し支えなければで結構ですが、売上高のピークと直近の減少幅、さらには採算ラインはどのくらいか、を教えていただけますか。 「令和2(2020)年3月期(コロナ前)に対し、令和5(2023)年3月期(直近)の売り上げは、33%下落の67%となっております」 ――関係自治体とは撤退決定前の段階で、協議してきたと思われますが、いつの段階で、どのような話をしてきたのでしょうか。また、その中で存続の道筋は見い出せなかったのでしょうか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、といった部分はあったのでしょうか。 「関係自治体とは当社の実績も伝え対策を協議してまいりました。やはりコロナ禍の影響が大きく、従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難であると考えます。当社としましては、事業撤退に際し、地域住民にご迷惑をお掛けしないように努め、引き続き後任事業者と自治体との間で調整してまいります」 大きかったコロナの影響 磐梯東都バス猪苗代磐梯営業所  猪苗代町によると、全4路線のうち、同町内の中ノ沢温泉方面、野口英世記念館・長浜方面、JR川桁駅方面の3路線は、「委託路線」の扱いだという。つまり、町が磐梯東都バスに委託費を支払い、同路線を運行してもらっていた。今年度の委託費は4280万円。 当然、町としては「住民の足」として必要なものと捉えており、例えば町独自でコミュニティバスを運行するよりは、委託費を支払ってバス会社に運行してもらった方が効率的といった考えからそうしている。今年度の契約期間は昨年10月1日から今年9月30日まで。つまり、磐梯東都バスは今年度の委託期間を終えるのと同時に、撤退するということだ。 一方、猪苗代駅から北塩原村裏磐梯地区を結ぶ路線は、「自主路線」の扱いで委託費は支払われていない。諸橋近代美術館前、五色沼入口、小野川湖入口、磐梯山噴火記念館前、長峯舟付、裏磐梯高原駅、裏磐梯レイクリゾート、裏磐梯高原ホテルなどの観光地を中心に停留所があり、観光客の重要な足となっていた。 裏磐梯地区の観光業関係者は次のように話す。 「ほかの路線は、乗客がいてもポツポツで、誰も乗客がいないというのも珍しくなかったが、猪苗代駅から裏磐梯方面への路線は、結構、観光客が利用していました。ですから、ほかと比べたらそれほど悪くなかったと思いますが、コロナ禍以降は観光客が減りましたからね。われわれとしては、観光地としての〝格〟とでも言うんですかね、それが損なわれるというか。今後、代わりの方策が取られるとは思いますが、『路線バス撤退』ということが表に出ただけで、観光地として貧弱な印象を与えてしまう。それだけでマイナスですよね」 磐梯東都バスの回答では「少子化に伴う利用客減少と、新型コロナウイルスによる観光利用客の激減で、事業継続は困難と判断した」とのことだったが、要は「委託路線」は少子化に伴う利用客減少で委託費だけではやっていけない、「自主路線」もコロナによる観光客激減で厳しくなった、ということだろう。 本誌は猪苗代駅周辺で各路線の乗客状況を見たが、やはり乗客はほとんどいなかった。 民間信用調査会社調べの磐梯東都バスの業績は別表の通り。2021年3月期(2020年4月から2021年3月)は、最もコロナの影響を受けた時期で、それが如実に数字に表れている。 磐梯東都バスの業績 決算期売上高当期純利益2017年4億9000万円1074万円2018年4億3300万円1460万円2019年4億2500万円1833万円2020年4億1700万円1218万円2021年8200万円△6405万円2022年2億0300万円1323万円※決算期は3月。△はマイナス  一方、本誌の「存続の道筋は見い出せなかったのか。例えば、関係自治体からこういった提案、支援があれば存続できた、という部分はあったのか」との質問には、磐梯東都バスは「従来からの自治体からの補助制度では、事業の継続が困難と考える。事業撤退で地域住民に迷惑を掛けないよう、後任事業者と自治体との間で調整していく」との回答だった。 猪苗代町の前後公前町長(今年6月25日の任期満了で退任)はこう話した。 「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていました。業績などの内情を示され、やむを得ないだろう、と。とはいえ、それで路線バスが完全になくなっては町(町民)としても困るので、以降は関係事業者を交えて代替策を検討してきました」 その後、前後氏は6月25日の任期満了で退任し、この問題は新町長に引き継がれることになった。 前後前町長が言う「代替策」について、町に確認すると「いま交渉中ですので、まだ詳細をお話できる段階にありません」とのこと。 今号で二瓶盛一新町長のインタビュー取材を行ったが、その際、二瓶町長は次のように語っていた。 「JR猪苗代駅を起点として町内や裏磐梯方面を走る磐梯東都バスが9月末で町内から撤退することになり、10月以降の路線バスの運用について現在協議を進めているところで、空白を生まないためにもスピード感と責任感を持ったうえで判断し、利用者の方々にご不便をおかけしないよう対処していきたい」 どうやら、関係者間の協議では、会津バス(会津乗合自動車)が4路線を引き継ぐことで、ある程度まとまっている模様。ただ、交渉ごとのため、「まだ詳しいことは話せない」、「もう少し待ってほしい」というのが現状のようだ。 喜多方―裏磐梯線の廃止騒動 磐梯東都バス(猪苗代駅周辺)  以前、磐梯東都バスは前述した4路線のほか、JR喜多方駅と裏磐梯地区を結ぶ路線も運行していた。しかし、同社は2019年2月に「同路線を同年11月末で廃止にする」旨を北塩原村に伝えた。 同路線は、主に中高生の通学や高齢者の通院などで利用されていたことから、同村内では「廃止されたら困る」、「12月以降はどうなるのか」といった声が噴出した。そこで、村は代替交通手段の確保に向けた検討を行った。 同社から「喜多方―裏磐梯間のバス廃止」の意思表示があった直後の同村2019年3月議会では、関連の質問が出た。当時の議会でのやりとりで明らかになったのは以下のようなこと。 ○村は喜多方―裏磐梯間のバス運行に対して、年間1600万円の負担金(補助金)を支出している。 ○磐梯東都バスが運行している路線は黒字のところはなく、経営的な問題から喜多方―裏磐梯間廃止の打診があった。そのほか、バス更新、運転手確保などの問題もある。村長が本社に行って協議してきたが、廃止撤回は難しいとのことだった。 ○「廃止」の意思表示を受け、村では運行を引き継ぐ事業者を探すか、村でバスを購入し、運行してもらえる事業者を探す等々の代替策を検討している。 こうして、すったもんだした中、最終的には、村が新たに車両を購入し、磐梯東都バスが運行を担う「公有民営方式」で存続させることが決まった。村は2年がかりで3台のバスを購入、それを磐梯東都バスが運行する仕組み。以降、喜多方―裏磐梯間の路線バスは、その方式で運行されていた。 ところが、昨年4月、磐梯東都バスは「公有民営方式」でも採算が取れないとして、同路線運行から完全に撤退した。 これを受け、村は、再度代替交通手段の確保に向けた検討を行い、会津バスが「公有民営方式」を引き継ぐ形で決着した。いまは、会津バスが村購入のバスを使い、同路線の運行を担っている。 こうした事例があるため、今回の磐梯東都バスの4路線撤退後についても、会津バスに引き継いでもらえるよう交渉し、その方向でまとまりつつあるようだ。 ところで、この「喜多方―裏磐梯間のバス廃止騒動」があった際、ある村民はこう話していた。 「同路線が赤字で厳しい状況だったのは間違いないのだろうけど、廃止の理由はそれだけではなさそう。というのは、元村議の遠藤和夫氏が自身の考えなどを綴ったビラを村内で配布しており、『路線廃止』報道があった直後、磐梯東都バスの件を書いていました。遠藤氏は同社の役員などに会い、そこで得た情報を掲載していたのですが、それによると、同社は数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後の路線バスのあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止に至ったというのです。言い換えると、村がきちんと対応していれば廃止を決断することもなかったかもしれない、と」 要するに、「廃止騒動」の裏には村の不作為があったというのだ。どうやら、磐梯東都バスは村に補助金申請のための相談をしていたが、村が動いてくれなかったため、業を煮やして「廃止せざるを得ない」と伝えた。それで、村が慌てて同社に「どうにかならないか」と持ちかけ、前述した「公有民営方式」に落ち着いたということのようだ。 ここに出てくる「元村議の遠藤和夫氏」は現村長。2015年4月の村議選で初当選し、その任期途中の2016年8月の村長選に立候補したが、当時現職の小椋敏一氏に敗れた。以降は、前出の村民の証言にあったように、村内で各種情報発信をしており、自身の考えなどを綴ったビラを配布していた。その後、2020年の村長選に立候補し、当選を果たした。 かつて、村長選を見据えて情報発信する中で、磐梯東都バス関連で現職村長の対応を問題視していた遠藤氏。その遠藤氏が村長に就いた後、磐梯東都バスの撤退問題に直面することになったわけ。 遠藤村長に聞く 遠藤和夫北塩原村長  村総務企画課を通して、遠藤村長にコメントを求めると、次のような回答があった。 ――6月10日付の地元紙に「磐梯東都バス撤退へ」といった記事が掲載されました。村にはその前の段階で、何らかの話があったと思われますが、事業者からはいつの段階で、どのような話があったのでしょうか。また、それを受けて、村としてはどのように応じたのでしょうか。 「6月5日に、磐梯東都バスが村へ訪問。本年9月30日をもって事業撤退する旨を報告。諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」 ――磐梯東都バスが撤退することで、村、村民の足、あるいは村内に来る観光客など、どのような影響が懸念されますか。 「猪苗代・裏磐梯の路線は村民の通学や通院・買い物に利用されているほか、観光客の移動手段にもなっていることから、磐梯東都バスが撤退後に路線バスの維持がなされない場合、住民や観光客の足が無くなり、住民に不便を来たしてしまうこと、そして観光客の減少につながる懸念が想定される」 ――磐梯東都バスの問題に限らず、いまの社会情勢等を考えると、地方における路線バスの廃止は避けられない面があると思います。一方で、路線バス廃止によって「交通難民」が生まれてしまう懸念もあるわけですが、磐梯東都バス撤退後の代替策についてはどのように考えていますか。 「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」 ――2019年に磐梯東都バスの「喜多方線廃止」問題が浮上した際、遠藤村長は一村民の立場で情報発信する中で、磐梯東都バスの役員と会い、「数年前から北塩原村をはじめとする周辺の関連市町村に、今後のバス路線のあり方を相談していたが、北塩原村の動きが鈍いため、今回の廃止問題に至った」旨を指摘されていたと記憶しています(※当時、村民の方に現物を見せていただき、本誌記者の取材メモとして記録されている)。その後、村長に就いたわけですが、新たな関係性の構築や、協議の場を設けるなどの動きはあったのでしょうか。 「村長就任後に磐梯東都バスとは会っていたが、喜多方線廃止問題が具体的になる中、残念ながら相互に理解を得ることが難しくなり、喜多方線の撤退、猪苗代線も独自運行となった。解決に向けての打開策について協議を行ったが、磐梯東都バスの判断として、このような事態となった」 最大のポイントである磐梯東都バス撤退後の代替策については、「他のバス運行会社の事業承継による路線バスの運行維持」との回答だった。前述したように、同村では喜多方―裏磐梯間の路線バスで「公有民営方式」を採用し、当初の磐梯東都バス撤退後は会津バスに引き継いでもらっている。今回の4路線(※北塩原村が直接的に関係するのは猪苗代―裏磐梯間の路線バス)についても、会津バスに継承してもらって運行維持することを想定しているのだろう。 事業参入時に裏約束⁉  一方で、磐梯東都バスから撤退することを聞かされたのは6月5日で、村役場に同社関係者の訪問があり、「9月30日で事業撤退」の報告を受けたという。そのうえで「諸事情による撤退はやむを得ないとし、村としては、引き続きバス路線運行維持の確保に向け、協力を依頼した」とのことだった。 最終的な決定事項(撤退)の伝達としては、その日だったのだろうが、猪苗代町の前後前町長が「磐梯東都バスからは昨年の時点で、撤退の意思を伝えられていた」と話していたことからも、当然、その前の事前協議があったと思われる。 前出・村内の事情通によると、「昨年の段階で、磐梯東都バスから村には『このままでは厳しい』といった話があったようだ」という。 「その席で、磐梯東都バスは『このエリアでバス事業を始めるときに、渡部恒三衆院議員、高橋伝村長との約束が』と、過去に決め事があったようなニュアンスのことをチラつかせたそうです。要するに、何らかの裏約束があったかのような口ぶりだった、と。とはいっても、それは20年以上前のことですし、恒三先生は亡くなり、高橋伝さんも村長を退いてだいぶ経つ。磐梯東都バスの親会社の社長も代わりました。そもそも、本当に何らかの約束事(裏約束?)があったのか、あったとしてそれがどんな内容だったのかは、いまの村長をはじめとする関係者は誰も知らない。そのため、村では『そんな昔のことを持ち出されても……。それよりも、今後どうすべきかを一緒に考えていきましょう』といったスタンスで応じたそうです」 こうして協議を行ったが、結果的には存続には至らなかった。 マイカーの普及、人口減少による利用者の減少、少子化に伴う通学需要の縮小などを背景に、地方の路線バスはどこも厳しい状況。磐梯東都バスが事業参入したときには、すでにその流れが顕著になっていたが、コロナという思いがけない事態にも見舞われた。そんな中で、撤退は避けられなかったということだろう。

  • 【幸楽苑】創業者【新井田傳】氏に再建を託す

     幸楽苑(郡山市)が苦境に立たされている。2023年3月期決算で28億円超の大幅赤字を計上し、新井田昇社長(49)が退任。創業者の新井田傳氏(79)が会長兼社長に復帰し経営再建を目指すことになった。傳氏が社長時代の赤字から、息子の昇氏が後継者となってⅤ字回復させたものの、再び赤字となり父親の傳氏が再登板。同社は立ち直ることができるのか。(佐藤仁) ラーメン一筋からの脱却に挑んだ【新井田昇】前社長 経営から退いた新井田昇氏  6月23日、郡山市内のホテルで開かれた幸楽苑ホールディングスの株主総会に、筆者は株主の一人として出席したが、帰り際のエレベーターで男性株主がボソッと言った独り言は痛烈だった。 「今期もダメなら、この会社は終わりだな……」 今の幸楽苑(※)は株主にそう思わせるくらい危機的状況にある。 株主総会で報告された2023年3月期決算(連結)は、売上高254億6100万円、営業損失16億8700万円の赤字、経常損失15億2800万円の赤字、当期純損失28億5800万円の赤字だった。 前期の黒字から一転、大幅赤字となった。もっとも、さかのぼれば2021年、20年も赤字であり、幸楽苑にとって経営安定化はここ数年の課題に位置付けられていた。 株主総会では新井田昇社長が任期満了で退任し、取締役からも退くことが承認された。業績を踏まえれば続投は望めるはずもなく、引責と捉えるのが自然だ。 これを受け、後任には一線から退いていた相談役の新井田傳氏が会長兼社長として復帰。渡辺秀夫専務取締役からは「原点回帰」をキーワードとする経営再建策が示された。 経営再建策の具体的な中身は後述するが、その前に、赤字から抜け出せなかった新井田昇氏の経営手腕を検証する必要がある。反省を欠いては再建には踏み出せない。 安積高校、慶応大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社した昇氏が父・傳氏が社長を務める幸楽苑に転職したのは2003年。取締役海外事業本部長、常務取締役、代表取締役副社長を経て18年11月、傳氏に代わり社長に就任した時は同年3月期に売上高385億7600万円、営業損失7200万円の赤字、経常損失1億1400万円の赤字、当期純損失32億2500万円の赤字と同社が苦境にあったタイミングだった。 昇氏は副社長時代から推し進めていた経営改革を断行し、翌2019年3月期は売上高412億6800万円、営業利益16億3600万円、経常利益15億8700万円、当期純利益10億0900万円と、前期の大幅赤字からV字回復を果たした。 昇氏は意気揚々と、2019年6月の株主総会で20年3月期の業績予想を売上高420億円、営業利益21億円、経常利益20億円、当期純利益11億円と発表。V字回復の勢いを持続させれば難しくない数字に思われたが、このあと幸楽苑は「想定外の三つの事態」に襲われる。 一つは2019年10月の令和元年東日本台風。東日本の店舗に製品を供給する郡山工場が阿武隈川の氾濫で冠水し、操業を停止。東北地方を中心に200店舗以上が休業に追い込まれ、通常営業再開までに1カ月を要した。 二つは新型コロナウイルス。2020年2月以降、国内で感染が急拡大すると経済活動は大きく停滞。国による外出制限や飲食店への営業自粛要請で、幸楽苑をはじめとする外食産業は大ダメージを受けた。 V字回復の勢いを削がれた幸楽苑は厳しい決算を余儀なくされる。別表①の通り前期の黒字から一転、2020、21年3月期と2期連続の赤字。新型コロナの影響は当面続くと考えた昇氏は20年5月、ラーメンチェーン業界では先んじて夏のボーナス不支給を決定した。以降、同社はボーナスを支給していない。 表① 幸楽苑の業績(連結) 売上高営業損益経常損益当期純損益2018年385億7600万円▲7200万円▲1億1400万円▲32億2500万円2019年412億6800万円16億3600万円15億8700万円10億0900万円2020年382億3700万円6億6000万円8億2300万円▲6億7700万円2021年265億6500万円▲17億2900万円▲9億6900万円▲8億4100万円2022年250億2300万円▲20億4500万円14億5200万円3億7400万円2023年254億6100万円▲16億8700万円▲15億2800万円▲28億5800万円※決算期は3月。▲は赤字。  会社経営の安定性を示す自己資本比率も下がり続けた。2017年3月期は29・95%だったが、昇氏が社長就任前に打ち出していた「筋肉質な経営を目指す」との方針のもと、大規模な不採算店の整理を行った結果、18年3月期は20・94%に落ち込んだ。店舗を大量に閉めれば長期的な売り上げが減り、閉店にかかる費用も重くのしかかるが、昇氏は筋肉質な会社につくり直すためコロナ禍に入った後も店舗整理を進めた。 その影響もありV字回復した19年3月期は自己資本比率が27・09%まで回復したが、2期連続赤字となった20、21年3月期は25・61%、18・40%と再び下落に転じた。(その間の有利子負債、店舗数と併せ、推移を別掲の図に示す)  一般的に、自己資本比率は20%を切るとやや危険とされる。業種によって異なるが、飲食サービス業の黒字企業は平均15%前後が目安。 そう考えると、幸楽苑は22年3月期で3期ぶりの黒字となり、自己資本比率も25・50%に戻した。昇氏が推し進めた筋肉質な経営はようやく成果を見せ始めたが、そのタイミングで「三つ目の想定外の事態」が幸楽苑を襲う。2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻だ。 麺や餃子の皮など、幸楽苑にとって要の原材料である小麦粉の価格が急騰。光熱費や物流費も上がり、店舗運営コストが大きく膨らんだ。2023年3月期の自己資本比率は一気に7・75%まで下がった。 ただ、これらの問題は他社も直面していることで、幸楽苑に限った話ではない。同社にとって深刻だったのは、企業の人手不足が深刻化する中、十分な人員を確保できず、店舗ごとの営業時間にバラつきが生じたことだった。 時短営業・休業が続出 時短営業・休業が続出(写真はイメージ)  幸楽苑のホームページを見ると、一部店舗の営業時間短縮・休業が告知されている。それによると、例えば長井店では7月28、30日は営業時間が10~17時となっている。町田成瀬店では7月29日は9~15時、18~22時と変則営業。栃木店と塩尻広丘店に至っては7月29、30日は休業。こうした店舗が延べ50店以上あり、全店舗の1割以上を占めているから異常事態だ。 深刻な人手不足の中、幸楽苑は人材確保のため人件費関連コストが上昇し、それが経営を圧迫する要因になったと説明する。しかし、一方ではボーナスを支給していないわけだから、待遇が変わらない限り優秀な人材が集まるとは思えない。 幸楽苑では数年前からタブレット端末によるセルフオーダーや配膳ロボットを導入。お冷もセルフ方式に変えた。コロナ禍で店員と顧客の接触を少なくする取り組みで、人手不足の解消策としても期待された。 しかし、6月の株主総会で株主から「昔と比べて店に活気がない」という指摘があったように、コロナ禍で店員が大きな声を出せなくなり、タブレット端末や配膳ロボットにより店員が顧客と接する場面が減った影響はあったにせよ、優秀な人材が少なくなっていたことは否定できない。ボーナス不支給では正社員がやる気をなくし、アルバイトやパートの教育も疎かになる。こうした悪循環が店の雰囲気を暗くしていたのではないか。 あるフランチャイザー関係者も実体験をもとにこう話す。 「昔はフランチャイザーの従業員教育もきちんとしていたが、近年はそういう研修に行っていない。かつては郡山市内の研修センターに行っていたが、今その場所は(幸楽苑がフランチャイザーとして運営する)焼肉ライクに変わっているよね。うちの従業員はスキルが落ちないように、たまに知り合いのいる直営店に出向いて自主勉していますよ」 ボーナス不支給だけではなく、昔のような社員教育が見られなくなったことも人材の問題につながっているのではないかと言いたいわけ。 6月の株主総会では、別の株主から「フロアサービスに表彰制度を設けてモチベーションアップにつなげては」との提案もあった。幸楽苑は厨房係にマイスター制度(調理資格制度)を導入しているが、フロア係のレベルアップにも取り組むべきという意見だ。新井田昇氏は「新経営陣に申し送りする」と応じたが、そもそもマイスター制度が機能しているのかという問題もある。 幸楽苑をよく利用するという筆者の知人は「店によって美味い、不味いの差がある」「高速道路のサービスエリアの店でラーメンを注文したら、麺が塊のまま出てきた」と証言してくれた。県外に住む筆者の父も、以前は幸楽苑が好きで同じ店舗によく通っていたが、ある日急に「あれっ? 美味しくない」と言い出し、以来利用するのをやめてしまった。 チェーン店で調理マニュアルがあるはずなのに、店によって味に差があるのは不可解でしかない。飲食店はQSC(品質、サービス、清潔)が大事だが、肝心のQを疎かにしては客が離れていく。フロア、厨房を問わない人材の確保と育成を同時に進めていく必要がある。 苦戦が続く新業態 社長に復帰した新井田傳氏(幸楽苑HDホームーページより)  昇氏が進めてきた取り組みは継続されるものもあるが、傳氏のもとで見直されるものも少なくない。 その一つ、女性タレントを起用した派手なテレビCMは当時上り調子の幸楽苑を象徴するものだったが、地元広告代理店は「大手に言いくるめられ、柄にもないCMに大金を使わされていなければいいが」と心配していた。傳氏はテレビCMを廃止すると共に、費用対効果を検証しながら販売促進費を削減する方針。 昇氏は前述の通り、コロナ禍や人手不足に対応するためタブレット端末やセルフレジの導入を進めたが、実は、幸楽苑のヘビーユーザーである高齢者からは「操作方法がよく分からない」と不評だった。そんな電子化は2021年6月から株主優待にも導入され、食事券、楽天ポイント、自社製品詰め合わせの3種類から選べるシステムとなったが、高齢の株主からは同じく「使いづらい」と不評だった。傳氏は、タブレット端末やセルフレジはやめるわけにはいかないものの、株主優待は紙の優待券に戻すことを検討するという。 昇氏の取り組みで最も話題になったのが「いきなりステーキ」を運営するペッパーフードサービスとのフランチャイズ契約だ。ラーメンに代わる新規事業として昇氏が主導し、2017年11月に1号店をオープンさせると、19年3月までに16店舗を立て続けに出店した。しかし、ペッパー社の業績低迷と、令和元年東日本台風やコロナ禍の影響で「いきなりステーキ」は22年3月期にはゼロになった。 幸楽苑はラーメン事業への依存度が高く(売り上げ比率で言うとラーメン事業9割、その他の事業1割)、景気悪化に見舞われた時、業績が揺らぐリスクを抱えている。それを回避するための方策が「いきなりステーキ」への業態転換だったが、勢いがあるうちは売り上げ増につながるものの、ブームが去ると経営リスクに直結した。挙げ句、新業態に関心を向けるあまり本業のラーメン店が疎かになり、味やサービスが低下する悪循環につながった。傳氏も、かつてはとんかつ、和食、蕎麦、ファミリーレストランなどに手を出したが全て撤退している。 現在、幸楽苑は各社とフランチャイズ契約を交わし「焼肉ライク」12店舗、「からやま」7店舗、「赤から」5店舗、「VANSAN」1店舗、「コロッケのころっ家」7店舗を運営。ラーメン店から転換した餃子バル業態「餃子の味よし」も4店舗運営。これらは「昇氏の思いつき」と揶揄する声もあるが、ラーメン一筋から脱却したい狙いは分かる半面、ラーメン以外なら何でもいいと迷走している感もある(筆者はむしろラーメン一筋を貫くべきと思うのだが)。 まずは本業のラーメン店を立て直すことが先決だが、別業態にどれくらい注力していくかは、自身も苦い経験をしている傳氏にとって答えを出しづらい課題と言えそうだ。 傳氏は「原点回帰でこの危機を乗り越える」として、次のような経営再建策に取り組むとしている。 ▽メニュー・単価の見直し――①メニューの改定と新商品の投入、②セットメニューの提案による客単価の上昇、③タブレットの改定による店舗業務の効率化 ▽店舗オペレーションの強化――店長会議や店舗巡回による指導を通して「調理」「接客」「清掃」に関するマニュアルの徹底と教育 ▽営業時間の正常化――①人手不足の解消に向け、元店長など退職者への復職促進、②ボーナス支給による雇用の維持 客単価上昇に手ごたえ  傳氏は復帰早々、固定資産を売却して資金調達したり、県外の不採算店30店舗を閉店する方針を打ち出したり、そのために必要な資金を確保するため第三者割り当てによる新株を発行し6億8000万円を調達するなど次々と策を講じている。 「固定資産の売却や即戦力となる元店長の復職が既に数十人単位でメドがついていること等々は、傳氏からいち早く説明があった。復帰に賛否はあるが、間違いなくカリスマ性のある人。私は期待しています」(前出・フランチャイザー関係者) 昇氏は客単価の減少を来店者数の増加で補い、黒字を達成した実績がある。新規顧客の獲得だけでなくリピーターも増やす戦略だったが、人口が急速に減少し、店舗数も年々減る中、来店者数を増やすのは困難。そこで傳氏は、メニュー改定や新商品投入を進めつつ、セットメニューを提案してお得感を打ち出し、来店者数は減っても客単価を上げ、売り上げ増につなげようとしている。 その成果は早速表れており(別表②)、前期比で客数は減っても客単価は上がり、結果、6月の売上高は前期比108・2%となっている。幸楽苑では新商品が投入される7、8月もこの傾向が続けば、今期は着実に黒字化できると自信を見せる。 表② 今期4~6月度の売り上げ等推移 直営店既存店(国内)の対前期比較 4月5月6月累計売上高101.4%98.4%108.2%102.5%客数93.2%88.3%95.9%92.3%客単価108.7%111.5%112.8%111.0%月末店舗数401店401店401店※既存店とはオープン月から13カ月以上稼働している店舗。  本誌は復帰した傳氏にインタビューを申し込んだが「直接の取材は全てお断りしている」(渡辺専務)という。代わりに寄せられた文書回答を紹介する(7月20日付)。 「新井田昇は2018年の社長就任以来、幸楽苑の新しい商品・サービスや新業態の開発を促進し、事業の成長とそれを支える経営基盤の見直しを図ってきました。しかし、コロナ禍を起点に原材料費、光熱費、物流費の上昇、人材不足といった厳しい経営環境は続いており、早期の業績回復のためには原点に立ち返り収益性を追求する必要があることから、創業者新井田傳の復帰が最善と判断し、任期満了をもって新井田昇は取締役を退任しました。会長、前社長ともに、幸楽苑の業績を早期に回復させたいという思いは一致しています。しかしながら赤字経営が続いたことから前社長は退任し、幸楽苑を誰よりも知っている創業者にバトンを戻したものです」 父から子、そして再び父と、上場企業として人材に乏しい印象も受けるが「創業者に託すのが最善」とする判断が正しかったかどうかは来春に判明する決算で明らかになる。

  • 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

     先月号で、JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が6月8日に事業を停止したことを報じたが、10月に挙式を予定していた夫婦の母親が、その被害と精神的ショックを打ち明けてくれた。 支払い済みの190万円は戻る保証無し 事業停止を伝える張り紙  結婚式場の運営会社である㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11、2003年7月設立、資本金1000万円、黒﨑正壽社長)は福島地裁郡山支部に破産を申請する見通し。負債総額は少なくとも2億円を超えるとみられる。 ピーク時の2013年に5億0100万円あった売り上げ(決算期は9月)は、新型コロナ発生前の19年に2億4000万円と半減し、コロナ禍の22年には1億円と5分の1にまで落ち込んでいた。 《2014年9月期以降もパーティー会場の増設や新しいイベント企画の立案等を進め顧客獲得に努めていたが同業との競争は激しく、業績伸長に苦戦を強いられていた。そのような中、2020年3月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、挙式・披露宴の日程変更やキャンセルが相次いだ他、招待人数の減少もあり(中略)収支一杯な状況を余儀無くされていた。2021年9月期以降も業況は好転せず、近時においても外注先との契約解消等もあったことから事業継続を断念》(東京商工リサーチ『TSR情報福島県版Weekly』6月26日付より) 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の運営管理を行う㈱TAKUSO(どちらも郡山市駅前一丁目11―7)があるが、オール・セインツの事業停止以降、事務所に人影はない。 「突然、事業停止を告げられ、しかも払ったお金は戻ってくるか分からない。今は騙されたという思いでいっぱいです」 憤った様子でこう話すのは、郡山市在住の主婦Aさん。Aさんは宮城県内に住む息子夫婦がオール・セインツで挙式とパーティーを開く予定だったが、今回の事態で見通しが立たなくなった。 「息子夫婦は5月29日に衣装や髪形などの打ち合わせをして、次回は食事の内容を詰めることになっていました。ところが、息子が担当者のラインに『次の打ち合わせはいつになりますか』と送っても『既読』になっただけで返信がなかった。いつもならすぐに返信があるので、息子も変だなと思ったそうですが、まさかこんなことになるなんて」(同) 息子夫婦が最後に打ち合わせをしたのは事業停止の10日前。おそらく担当者は、その時点では会社が破産することを認識していなかったのだろう。ラインが「既読」になっても返信がなかったということは、打ち合わせ後に黒﨑社長から社員に「6月8日に事業を停止する」旨が伝えられたとみられる。 とはいえ、顧客からすると「破産すると分かっていて説明せず、カネを騙し取ったのではないか」との疑念は拭えない。 「5月29日の打ち合わせには私も同席し、ちょうど黒﨑社長にも会っています。ただ、その日はいつもと様子が違っていました」(同) Aさんによると、黒﨑社長は愛嬌があり、丁寧な挨拶を欠かさないそうだが、その日はいつもの元気がなく、難しい表情を浮かべながら誰かと話し込む様子が見られたという。 「今思えば、破産の話をしていたのかもしれませんね」(同) 実は、Aさんの息子夫婦は他の被害カップルとは事情が異なる。 オール・セインツの約款には《挙式5万円、パーティー5万円の申込金支払いで契約成立とし、申込金は内金として当日費用に充当する》《挙式・パーティーの2週間前までに最終見積もり金額および請求金額を提出するので、挙式10日前までに当社指定の銀行口座にお振り込みください》と書かれている。つまり、被害カップルの損害額は最少で10万円、挙式まで10日を切っていると費用全額になる可能性がある。 そうした中、Aさんの息子夫婦は今年2月26日に挙式とパーティーを行う予定だったが、妻の妊娠が判明したため出産後の10月7日に延期。しかし、オール・セインツは約款で日程変更を認めていないことから、息子夫婦は特例で日程変更を承認してもらい、同社と覚書(昨年9月9日付)を交わしていたのだ。 「ただし『日程変更の条件として見積もり金額180万円の全額を払う必要がある』と言われたので、息子夫婦は覚書に基づき全額を払ったのです」(Aさん) すなわち内金10万円と合わせ、息子夫婦は計190万円を既に支払っていたのだ。挙式が10月7日ということは、本来なら10万円の損害で免れていたかもしれないのに、想定外の被害に巻き込まれた格好だ。 「私は『延期するなら契約を白紙にしてもいいのでは』と言ったのですが、息子夫婦は『どうしてもオール・セインツで式を挙げたい』と言うので、最後は本人たちの意思を尊重した経緯があります。実際、ネットの口コミ評価も高かったし、チャペルの雰囲気も素敵だったので、ここで挙式したいという思いが強かったんでしょうね」(同) 債権者集会はいつ? 門が閉ざされ静まり返るチャペル  事業停止後、オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(山口大輔法律事務所、会津若松市大町一丁目10―14)からは「(オール・セインツを)結婚式という人生の大きな節目をお祝いする場に選んでいただけたにも拘わらず、このような結果になってしまったことをお詫び申し上げます」と謝罪すると共に、▽結婚式業務委託契約を会社都合により解除する、▽支払い済みの金額および損害賠償請求は破産手続きの対象になる旨が書かれた文書(6月9日付)が送られてきた。 「紙切れ1枚で連絡を済ませるなんて酷い。黒﨑社長には、息子夫婦の人生の門出を台無しにした責任を取ってほしい」(同) 黒﨑社長は79歳で、北海道札幌市に自宅があるが出身は福島県ということは先月号でも触れた。Aさんによると「以前、雑談していたら『私は会津出身なんです』と話していました」とのこと。 チャペルやパーティー施設などの不動産は、小野町の土木工事・産廃処理会社が所有していることも既報の通りだが、その他に目ぼしい財産があるか調べたものの、不動産登記簿等では追い切れなかった。 Aさんの息子夫婦は精神的ショックに打ちひしがれている。挙式は行いたいが、別の式場でもう一度最初から打ち合わせをする気持ちになれないという。もちろん費用の問題もあり、支払い済みの190万円が戻ってくる保証はない。 山口弁護士はオール・セインツから事業停止後の処理を一任されただけで、破産手続開始が決定されれば裁判所が破産管財人を選任する。破産手続きは、その破産管財人(山口弁護士とは別の弁護士)のもとで進められることになる。 山口大輔弁護士事務所によると、7月19日現在、負債総額の調査は終わっておらず、債権者集会を開催する見通しも立っていないという。「黒﨑社長と直接話せないか」と尋ねたが「当事務所が代理人を務めているため、直接話すのは難しい」とのことだった。 「幸せ」を商売にしてきた企業が顧客を「不幸」にしたのでは話にならない。債権者を選別するわけではないが、被害カップルを何とか救済できないかと思うのは本誌だけではないだろう。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

  • 【JAグループリポート2023】福島県農業経営・就農支援センター【相談件数298件】

     「福島県農業経営・就農支援センター」(福島市)は4月3日に県自治会館で開所式を実施してから、4カ月経過した。同センターは、農業経営基盤強化促進法の改正で各都道府県に設置されることになったが、県および県農業会議・県農業振興公社に加えJAグループが参加し、17名が常駐するワンストップ・ワンフロアの支援体制は全国でも福島県が初めてとなる。 従来の窓口は団体ごとに異なり、手続きが煩雑になるなど相談者の負担となっていた。各団体が1カ所に集まることで団体の連携を密にし、実効性ある支援策を講じることができるようになった。  相談件数は4月に開所して以来、6月末時点で、地域段階のサテライト窓口も含めて298件(就農相談186件、経営相談103件、企業参入相談9件)となった。この相談件数は昨年同時期と比較すると約2倍になっており、新規就農希望者やこれからの経営改善を計画する農業経営者から大きな期待が寄せられ、順調なスタートとなっている。 今後、年間1200件の相談件数を目指したPRや掘り起こし活動を積極的に行うとともに、就農相談を通じて、県農林水産業振興計画に掲げる2030(令和12)年度までに年間340名以上とする新規就農者の確保を目指す。 また今後の課題として、相談者の就農実現に向けた研修受け入れ機関(農家や公的機関)の紹介をはじめ国等の支援事業の対応や農地のあっせん等を含めた伴走支援を進める必要がある。 開所式の様子  経営相談については300件を超える重点支援対象者を設定しており、既存の経営者から寄せられた法人化や経営継承等の課題解決に向けた対応に加え、就農後5年以内の認定新規就農者に対する就農定着と経営発展に向け、センターおよびサテライト窓口職員による訪問活動や専門家派遣などに取り組んでいく。 JA福島グループでは、相談件数の増加が就農者の増加と定着、さらには農業経営者の経営課題解決という成果に着実につながっていくよう、関係機関の連携を一層強めて取り組んでいく考えだ。 JA福島中央会が運営するJAグループ福島のホームページ あわせて読みたい 【JAグループリポート2023】創立70周年記念大会で誓い新たに【JA福島女性部協議会】

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【ソーラーポスト】太陽光発電普及を後押し【カテエネソーラー】

     今年で創業23周年となる太陽光発電システム販売の㈱ソーラーポスト(福島市、尾形芳孝社長)は、電気代高騰対策のため、太陽光発電の設置を促進しようと、中部電力ミライズ㈱(名古屋市)と連携し「カテエネソーラー」の取り扱いを始めた。県や自治体は太陽光発電システム設備や蓄電池の設置費用の補助を進めている。太陽光発電設置後の10年分の発電買取代金を中部電力ミライズが一括前払いすることで、ソーラーポストは初期費用の軽減を図り一層の普及を目指す。  契約者が太陽光発電設備を設置後、中部電力ミライズから発電買取代金を一括(10㌔ワット 154万円、8㌔ワット 123万2000円、6㌔ワット 92万4000円、5㌔ワット 77万円)で受け取ることで、初期費用をサポート。設置後10年間は月額料金を定額で支払う(※発電した電気は使い放題となる)。 おすすめポイントは、①『新築住宅・既存住宅への太陽光発電設備の設置後に発電買取代金を中部電力ミライズが一括でお支払い』、②『太陽光設備設置費用を住宅ローンに組み入れてもOK』、③『月々定額の支払いで太陽光発電の電気は使い放題』、④『太陽光発電設備は契約者所有で蓄電池の設置もOK』が挙げられる。  同社が展開する「カテエネソーラー『定額Sプラン』」のモデルケースを見よう。発電買取代金の算定単価は1㌔ワット あたり15万4000円(税込み)。契約期間は10年。太陽光パネル出力6㌔ワット の場合、中部電力ミライズによる発電買取代金の一括前払い92万4000円(同)、サービス利用料(契約者の負担)は月額6820円(同)となる。10年経過後はサービス利用料金が無料になる。 注意点は、①契約期間中(10年間)、余剰電気の売電収入は中部電力ミライズに帰属するため、契約者の売電収入はないが契約完了後は売電収入が得られる。②V2H設備の設置はできない。③加入条件は、申し込み時点で本人または同居者が満60歳未満の成人であること。④太陽光発電設備の発電出力が3㌔ワット以上10㌔ワット未満であること。 「『カテエネソーラー』は福島県初の画期的な商品です。太陽光発電設備で一番ネックとなる初期費用の負担軽減ができます。事業パートナーの中部電力ミライズは中部電力の関連会社で高い信用と信頼を得ている企業です。多くの方々が電気代の高騰に苦しんでいる中、気軽に太陽光発電設置について検討していただけるはずです。今後も同商品の浸透を図りながら再生可能エネルギーの大きな柱である太陽光発電の普及に努めます」(尾形社長)。詳細はカテエネソーラー専用サイトにアクセス。問い合わせは、同社0120(91)5741まで。

  • 宅配で顧客取り込む【ヨークベニマル】

     コロナ禍以降の宅配需要の増大や高齢化に対応するため、県内最大手の食品スーパー・ヨークベニマルは宅配サービスの充実化を図り、移動スーパー事業もスタートさせた。各事業の現状と今後の展望について、担当者に話を聞いた。 店に来られない高齢者・単身者に好評 移動スーパー「ミニマル」(福島西店、ヨークベニマル提供)  昨年3月1日、ヨークベニマルは社内に「ラストワンマイル推進部」を設けた。 ラストワンマイルとは店舗・物流拠点から消費者宅までの距離を指すビジネス用語。コロナ禍を経て、EC(ネット通販)の需要が増大し、配送業者のドライバー不足も問題となる中、「ラストワンマイル」でいかに差別化を図れるかが小売・流通各社にとって課題となっている。 加えて本県など高齢化が進む地域では、免許返納などで交通手段がなくなり、近くのスーパーに買い物に行けない〝買い物難民〟問題が深刻化している。それらの課題に対応するために設置されたのが同推進部だ。 同推進部の開山秀晃総括マネジャーは次のように話す。 「例えば高齢者の中には、足が痛くて思うように歩けなかったり、自動車の運転に不安を感じて来店できない方がいます。そうした方でも安心して買い物できて、豊かな生活を送れるように、われわれがライフラインを整備しようと考えました」 昨年5月に始まったのが、クリスマスケーキなどの人気商品をネット予約して店舗で受け取れる「ウェブ予約」。共働きで忙しいが、家族でのイベントは大切にしたい――という子育て世帯の需要に応えた。報道によると、通常商品を扱うネットスーパーも2024年2月期に1店舗で開始する予定だ。 電話で注文を受け付けて自宅に配送する「電話注文宅配サービス」は5年前に開始した。現在は田島店(南会津町)、台新店(郡山市)、門田店(会津若松市)、会津坂下店(会津坂下町)など8店舗で実施している。 宅配サービスの電話注文を受ける担当スタッフ(門田店、ヨークベニマル提供)  会員登録後、チラシなどを見ながら、店舗スタッフに電話で注文する。別途配送料金がかかる(会津坂下店440円税込み。それ以外は330円税込みで、今後値上げされる見込み)が、販売価格は店頭と同じで、入会費や月会費などは一切かからない。配送エリアは店舗ごとに定められており、田島店では最大約50㌔先まで対応するという。2月現在の登録者数は6店舗計約1700人。開山マネジャーによると、一人当たりの買い物金額は約5000円。まとめ買いして、宅配してもらうスタイルが定着しているのだろう。 利用者多い高齢者施設 移動スーパー「ミニマル」の車両(西若松店、ヨークベニマル提供)  昨年7月にスタートしたのが、移動スーパー「ミニマル」だ。福島西店(福島市)、西若松店(会津若松市)を拠点に週6日運行する。取扱商品は生鮮食品、日配品、弁当、総菜など約300品目。既存の移動スーパーが個人宅まで行くのに対し、「ミニマル」は住宅団地や集会所、高齢者向け施設などを巡回する。 「ご近所同士のコミュニティー形成のきっかけにつなげてほしい思いがあるからです。高齢者向け施設は需要が多く、巡回場所の4分の1を占めています。施設利用者本人はもちろん、買い物を依頼されたヘルパーさんも訪れる。部屋に台所がある施設も多いため、意外と漬物にする野菜などが売れたりします」(同) 「Uber Eats(ウーバーイーツ)」や「Wolt(ウォルト)」など、フードデリバリーを使った食品配送も宮城県仙台市や栃木県宇都宮市の4店舗で導入し、5月には浜田店(福島市)で福島県初となる「ウーバーイーツ」での配送を開始した。 顧客から注文があった商品を売り場から取り出すウーバーイーツの配達員(ヨークベニマル提供)  鮮度・温度管理が難しい刺身やアイスを除き、全商品を取り扱う。受け付け時間は10時から19時。配送エリアは店舗から約3㌔圏内。配送手数料は50~550円で、加えて合計注文金額の10%(最大350円)のサービス料金が別途適用される。 単身者などの利用に加え、酒やおつまみだけの注文も目立つことから、開山マネジャーは「買い物に行く時間がない飲食店の店主などにも利用されているのではないか」と分析している。店舗で買うより割高だが、30分以内に自宅まで届けてくれる手軽さが支持され、導入店舗の売り上げは着実に伸びているようだ。 報道によると、同社では2026年2月期までに電話注文サービスを30店舗、「ミニマル」を10店舗、フードデリバリーを15店舗まで拡大することを目指している。 ただし、「電話注文サービスを行うには、顧客の要望を正確に聞き取りできるスタッフの存在が必須で、それなりの教育が必要となる。そういう意味では一気に拡大するのは難しい。地道に増やしていくことになると思います」(開山マネジャー)。 その一方で「うちのエリアでも宅配サービスをやってくれないの?」という問い合わせも多く寄せられているので、少しでも早く導入できないか模索しているようだ。 担当店舗の現場スタッフが負担に感じないように、宅配・移動スーパー分の売り上げを店舗の実績として反映させる仕組みを設けたほか、「先入れ先出し」の徹底、売れ残り品の持ち出し禁止など、社内ルールの構築も同時に進めている。 宅配・移動スーパーの充実により顧客が抱える課題のソリューション(解決)につながれば、同社への信頼度は高まり、〝潜在的な買い物客〟を取り込むこともできる。競合他社にとって大きな打撃になり得る。 行商から同社を立ち上げた創業者・大高善雄氏が唱えた「野越え山越えの精神」は、顧客への感謝と奉仕の心を表す創業理念として、社内で伝え続けられている。同社にとって〝原点回帰〟となるラストワンマイル戦略の成否に注目が集まる。

  • 郡山「モルティ」から人気雑貨店「TGM」が撤退

     郡山駅西口再開発ビル「ビッグアイ」の商業施設「モルティ」4階で営業する生活雑貨店「TGM」が7月いっぱいで閉店した。モルティの中でも人気店の撤退に、来店客からは「残念」との声が漏れている。 「モルティはただでさえ客が少なく苦戦しているのに、TGMが撤退したら一層寂しくなる」(経済人) モルティ担当者によると、TGMの撤退は運営会社㈱三峰(東京都中野区)の事情によるという。 「三峰さんが全国の店舗を順次閉店しているのです。生活雑貨店は苦戦していると聞いているので、その影響かもしれません」(担当者) 三峰は全国で44店舗運営しているが、既に閉店したところも少なくない。モルティの店舗もその方針に従い粛々と閉められるわけ。 担当者によると、TGM撤退後のテナントは「既に決まっている」。店舗名の発表はもう少し先だが、秋にはオープンさせたいという。 郡山駅前の人通りは相変わらず増えていない。うすい百貨店では中核テナントの「ルイ・ヴィトン」が8月末で撤退する。そうした中で、モルティの人気店撤退―リニューアルは活気の少ない駅前にどのような影響をもたらすのか。

  • 桑折町・福島蚕糸跡地からまた廃棄物出土

     本誌1、3月号で、桑折町の福島蚕糸跡地から廃棄物が出土したことをリポートした。 桑折町の中心部に、福島蚕糸販売農協連合会の製糸工場(以下、福島蚕糸)跡地の町有地がある。面積は約6㌶。震災・原発事故後に災害公営住宅や公園が整備され、残りのスペース2・2㌶を活用すべく公募型プロポーザルを行った結果、㈱いちいと社会福祉法人松葉福祉会が最優秀者に選ばれた。 食品スーパーとアウトドア施設、民設民営による幼保連携型認定こども園が整備される予定で、定期借地権設定契約を締結、造成工事がスタートしていた。 そうした中で、いちいが工事を実施しているエリアからアスベストを含む1000㌧に上る廃棄物が出土したため、工事がストップすることになった。 町議会3月定例会では、①町は昨年6月ごろの段階で廃棄物の存在を把握していたのに議会に報告したのが今年1月17日だったこと、②処理費用は5300万円に上り、いちいと町が折半して負担することになったが、プロポーザルの実施要領や契約書には「土地について不足の事態があった際も事業者は町に損害賠償請求できない」と定められていること――などが問題視された。 廃棄物が積まれた福島蚕糸跡地(今年3月撮影)  結局6月定例会で町が処理費用を半額負担する補正予算案が可決されたが、一方で新たな問題も発覚した。 松葉福祉会の認定こども園の建設予定地からも、大量のコンクリートや鉄筋などの建築廃材が出てきたことが明かされたのだ。町産業振興課によると、4月半ばに同福祉会から連絡があり、全体でどれぐらいの量があるかは分かっていないという。 松葉福祉会にコメントを求めたところ、「廃棄物を撤去して土壌改良すれば、さらなる予算がかかるので、設計を一から見直さなければならないし、2024年4月開園は実質的に難しいだろう。今後、町と協議していくことになる」と話した。 認定こども園は当初2024(令和6)年4月開園予定だったが、土壌改良の期間も含め、開園は1年遅れの2025年4月になる見通し。来年度は従来の醸芳保育所と醸芳幼稚園が園児の受け皿となる。 6月15日の6月定例会一般質問では、高橋宣博町長が経緯を説明したうえで「重大で深刻な事態と受け止めている。開園を期待している町民に深くおわびする」と陳謝した(福島民友6月16日付)。 町産業振興課によると、いちいの工事で出てきた廃棄物は福島蚕糸の前に操業していた郡是製糸桑折工場のものとみられるが、今回出てきた廃棄物は福島蚕糸のものとみられる。要するに、過去に立地していた工場の廃棄物がそのまま放置されてきたことになる。いちいと松葉福祉会にとっては、思いがけず高額な処理費用を負担することになった格好。町は町有地として取得する際にこうした状況にあることをチェックできなかったのだろうか。 気になるのは、今回の処理費用も折半にするのかということ。本誌4月号記事で斎藤松夫町議は「いちいに同情して後からいくらか寄付するなどの方法を取るならまだしも、プロポーザルの実施要領や契約書の内容を最初から無視して折半にするのは問題。根拠のない支出であり、住民監査請求の対象になっても不思議ではない」と指摘した。そうした点も含め、町は事業の進め方をあらためて検証すべきではないか。 あわせて読みたい 【桑折・福島蚕糸跡地から】廃棄物出土処理費用は契約者のいちいが負担 桑折・福島蚕糸跡地「廃棄物出土」のその後

  • 【福島市】メガソーラー事業者の素顔

     福島市西部で進むメガソーラー計画の関係者が、思わぬ形で週刊誌に取り上げられた。中国系企業「上海電力日本」が発電所を整備する際、必ず関わっている人物なのだという。予定地の周辺住民は不安を口にしている。 週刊新潮が報じた「上海電力」との関係  本誌昨年12月号で「福島市西部で進むメガソーラー計画の余波」という記事を掲載した。同市西部の福島西工業団地近くの土地を太陽光発電事業者が狙っているというもの。 最初に浮上したのは、福島先達山太陽光発電事業の事業者による変電所計画。しばらくして立ち消えになったが、別の発電事業者がすぐそばの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが分かった。 《発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。 発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。最大出力約4万6000㌔㍗。今年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。事業期間は約16年。 開閉所は20㍍×15㍍の敷地に建設される。変圧器や昇圧器は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ》(本誌昨年12月号記事より) ところが、これらの計画について発電事業者側がおざなりな説明で一方的に進めようとしたため、周辺住民が反発。 開閉所につなぐ送電線は直前で地下から地上に出し、近くにある鉄塔から農地をまたぐ電線に接続する計画となっている。そのため、生活空間への影響を懸念する地権者や住民が計画変更を求めたが、開発72号は一度計画変更すると固定価格買い取り制度(FIT)の権利が失われることから応じなかった。 そこで、地元町内会は資源エネルギー庁に対し、3月28日付で、発電事業者への指導を求める125人分の要望署名を提出した。 そうした中で、さらに住民の不信感を増幅させる出来事があった。発電事業者である開発72号の代表者・戸谷英之氏と執行社員・石川公大氏が、『週刊新潮』が掲載した「上海電力」関連記事の中で繰り返し登場していたのだ。 上海電力(正式名称・上海電力股份有限公司)は、中国の国有発電会社「国家電力投資集団」の傘下企業で、石炭火力発電を中心にガス、風力、太陽光発電を手掛けている。 日本法人の上海電力日本(東京都千代田区、施伯红代表)は2013年9月に設立され、日本でのグリーンエネルギー(太陽光・太陽熱、風力、水力等)発電事業への投資、開発、建設、運営、メンテナンス、管理、電気の供給及び販売に関する事業を展開している。中国資本企業ではあるが、2015年8月に経団連に加入している。 『週刊新潮』の記事は、上海電力日本の子会社によるメガソーラーが山口県岩国市の海上自衛隊岩国航空基地の近くに整備されていることに触れたうえで、中国政府に近い企業に基幹インフラ事業を任せる危うさを指摘する内容だった(『週刊新潮』10月27日号)。 『週刊新潮』の記事  上海電力が進出する際の手口は、「合同会社」の転売を繰り返すというものだが、そこに出てくるのが前出・戸谷氏だ。 不動産登記簿によると、2020年12月28日、SBI証券が同発電所の土地に根抵当権を設定した。債務者はRSM清和コンサルティング内に事務所を構える合同会社開発77号。この会社の代表社員が戸谷英之氏だ。記事によると、RSM清和監査法人の代表社員である戸谷英之氏と同姓同名だという。 メガソーラー発電事業者・合同会社東日本ソーラー13には当初、一般社団法人開発77号(合同会社77号の親会社)が加入していたが、同年9月9日、合同会社SMW九州が合同会社東日本ソーラーに加入し、入れ替わるように一般社団法人77号が退社した。この合同会社SMW九州の現在の代表者は施伯红氏。上海電力日本の代表取締役だ。 要するに、戸谷氏の会社が、上海電力日本の進出の手引き役になっていると指摘しているわけ。 『週刊新潮』今年5月18日号では、北海道の航空自衛隊当別分屯基地に近い石狩市厚田区で進められている風力発電計画においても、全く同じスキームが採用されていることが報じられており、戸谷氏のほか、石川氏の名前も出てくる。 本誌2021年4月号で、宮城県丸森耕野地区でメガソーラー計画に対する反対運動が展開されたことをリポートした。用地交渉担当の事業統括会社社長が住民の賛同を広げるため行政区長に金を渡そうとしたとして、贈賄容疑で逮捕された経緯があったが、ここで事業者となっている合同会社開発65号の代表者も戸谷氏だった。 今年に入ってからは宮城県登米市に建設が予定されていたバイオガス発電所計画をめぐり、事業者が経産省に提出していた食品メーカーとの覚書を偽造していたことが発覚し、計画中止となった。事業者・合同会社開発73号の代表者は戸谷氏だ。 根強い地元住民の不信感 開閉所予定地  これらの会社の電話番号はアール・エス・アセットマネジメント(東京都)というエネルギーファンドの資産運用管理会社と同じ番号で、関連会社だと思われる。上海電力日本との関係は判然としないが、ずさんな計画に関わっていたのは確かだ。 たたでさえ、地元住民はメガソーラーやその関連設備が整備されることで、自然環境維持や防災などの面で影響を受けないか、不安視しているのに、投機目的丸出しのペーパーカンパニーでは不安が募るばかり。だからこそ、福島市桜本地区の住民も反対しているのだ。 地元住民が反対していることについてどう受け止めているのか、開発72号に連絡したが、期日までに返答はなかった。 地元町内会の代表者は「発電事業所は10年ほど前に権利を取得し、1㌔㍗36円という高い金額で売電できるので、住民の反対を押し切ってでも期限のうちに計画を進めたいのだと思います。そうした意向を受けてか、発電設備の建設を担うシャープエネルギーソリューションも地元住民の反対を押し切り、すでに工事に着手している。彼らは『地元住民に話をすればそれで了承を得た』と思っている節があります。農地への地上権設定にあっさり許可を出した市(木幡浩市長)にも、住民として協力できない意向を示す反対署名を提出する予定です」と語る。 地元住民の不信感は相当強い状況。過去の事例のように開発72号は上海電力日本など他社に売却する狙いがあるのか。同地区の住民ならず、その動向を注視しておく必要がある。

  • コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

     5月に新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に引き下げられ、夜の飲食街は感染収束ムードが漂う。だが、客の嗜好が「飲」から「食」に変化し、団体の2次会は望めない。夜の街調査4回目は6月3日土曜日に会津若松市を回った。 頼みの「無尽」は規模縮小 飲食店が入るパティオビル(会津若松市上町)=6月3日、午後10時35分  会津若松市は会津地方の消費都市の性格が強い。市内だけでなく近隣の喜多方市、猪苗代町はもちろん、遠方は南会津町などからも訪れる。そのため、市内人口に比して飲食店が多く、電話帳をベースに人口1000人当たりのスナック店数を調べたところ、県内主要4市では最も多かった(表1、表2)。 表1:県内人口上位4市のスナック店舗数 2023年5月1日推計人口(百人)2019年スナック数(店)2021年スナック数(店)減少率(%)いわき市3226273221▲19.0郡 山 市3222202159▲21.2福 島 市2763194145▲25.2会津若松市1133158124▲21.5 表2:県内人口上位4市の千人当たりスナック店舗数 2021年スナック店数人口千人当たり店数会津若松市1241.09いわき市2210.68福 島 市1450.52郡 山 市1590.49  「地理的に考えると、峠を越えてきた人たちが金を落とす一大消費地でした」とは市内のある飲食店経営者。 近代から戦後にかけては、猪苗代湖の水力発電で得た安価な電力を背景に産業が集積した。 あるスナックのママが40年前をしのぶ。 「富士通の工場があったころは関係者がよく飲みに来ました」 眠らない街の光景が、いまも目に焼き付いている。 「1980年代の話です。私の店は深夜1時に閉めますが、帰りのタクシーが拾えないほど。2時3時になってもタクシー待ちの行列です。お店はほとんど閉まっているのにどこに人がいたのかと思うくらいの数。『この人たち、明日は仕事だろうに大丈夫なのかな』と心配でしたね。金曜、土曜ではなく平日の話です。いい時代でしたよね……。いまですか? 最悪ですよ」(前出のママ) 新型コロナの感染拡大以降は金、土曜日だけ営業してきた。4月ごろは週末に4、5人が来てくれて明るい兆しを感じたが、5月の大型連休は客の入りが鈍く、同月半ばからは確実に悪い。 「私1人でやっているので、若いお客さんは来ないでしょう。大型連休は、街は久しぶりに若者で賑わっていました。でも、若い人だって毎日は飲みに行かないでしょ。連日賑わっている店はないと思いますよ」(同) 賑わっているところはあるのか。店主たちに聞くと、「パティオビル周辺だけは人が大勢いる」という。パティオビル(地図参照)に入居するテナントはキャバクラやスナック、バー・クラブなど若年層向けの店が多い。 地図:会津若松市の飲食店街  ビルのきらびやかな照明が夜に浮かび上がる。エントランスに入ると、店の紹介映像が画面に流れていた。派手な光と音に包まれ、ここだけ別世界だ。エントランスの上部を見ると、天井の隅に張り付いてこちらをうかがう巨大なゴリラの模型と目が合った。 ビルの前では男女問わず若いグループが複数たむろし、解散するか次の店をどこにするかを話し合っていた。道を挟んで向かいにはコンビニがある。ビル内の店に入るかどうかは別として、人が集まるようだ。 パティオビルは、どの階もテナントで埋まっていた。家賃は階が違っても変わらないので、上階より人の往来がある1階が人気だ。最も賑わう同ビルでさえも移転か閉じた店があるが、入居者も同じ数だけあり、テナントの新陳代謝が起きている。 苦境に立つ老舗  これまでの夜の街調査でも指摘しているように、客が夜の飲食店に求めるものは「飲」から「食」に移ったが、客層も「老」から「若」に移行した。コロナ禍を機に老舗が閉店した。 50年来スナックを経営してきたマスターは、最近の客の一言にプライドを傷つけられた。 「初めて来た男性のお客さんでしたね。『女の子はいないの』と店内を見回しました。若い女性従業員をたくさん抱える店じゃないと知ると、『じゃあいい』とバタンとドアを閉めていきました。街やお客さんと共に私たち従業員も年を重ねてきました。お客さんの好みは理解しますが、入店をやめるにしてもスマートな去り方があるのではないか」 共に年齢を重ねてきた高齢の客は新型コロナに感染して重篤化するのを恐れ、外での飲食を控えるようになった。3年経てば「飲みに行かない」のが習慣となるが、それでも変わらず来てくれる常連もいる。「店を閉めて寂しいとは言われたくない」(マスター)。何より、長年働いてくれている高齢従業員の生活のために、わずかでも稼がなければならない。 会津若松の調査は、郡山(今年1月号)、福島(同5月号)、いわき(同6月号)に続き4回目となる。いままで3市の夜の街を調査してきたと店主らに話すと、よく聞いたのが「いわきはコロナでも賑わっているようだね」「実際に(いわきに)行った人から繁盛していると聞いた」と羨む声だった。 だが、それは幻想と言っていい。いわきでも土曜日にもかかわらず、団体の2次会需要はほとんどないため、夜10時以降閑散とするのは会津若松と変わらない。「食」がメインの店舗でも、売り上げがコロナ禍前の7割に戻っていれば良い方だ。店を開けるだけでは2次会の客が来ることは期待できず、多くの老舗が客の行動変化に苦労していた。 地方は少子高齢化が急速に進み、経済規模の縮小は免れられない。いわきは首都圏に近いという地の利はあるが、会津若松と同様、コロナ禍から未だ立ち直ってはいない。 県内4市の夜の街を調査すると、感染拡大前から飲食店は総じて減っており、コロナ禍が閉店を早めたと言える。本稿末尾にコロナ禍後に電話帳から消えたスナック、バー・クラブの営業調査結果を載せた。近隣の店主に聞くと、コロナ禍前に閉じた店も散見された。 電話帳から消えた会津若松市のスナック、バー・クラブ 〇…6月3日(土)に営業確認 ×…営業未確認 店名建物名営業状況栄町スナック翼パピヨンプラザビル×スナックあんり五番街ネクサスビル×スナック燁里エクセレント大手門ビル×スナックみっちゃん×Coralマリンビル×さざなみ三進ビル×すなっくなおこ白亜ビル×スナックひまわり×スナック演歌Mビル→白亜ビル〇上流階級ヴェルファーレビル〇西栄町スナック情不明×行仁町ラブストーリーリトル東京×上町スナックオルゴール(織香瑠)上町一番街×スナックディアレストAsahi Alpa×スナックアンルート×でん福マルコープラザ×レイティス(RETICE)パティオビル×regalia×スナックageha〇スナック古窯パティオビル→移転〇ミュージックパブオアシスセンチュリーホテル×ゴールデンウェーブ×Villeセンチュリー・ノアビル×スナック胡遊×ピンクパンサー〇佑花×馬場町ベルコット石井ビル×スナックシナリオサンコープラザビル×れとろ×ENZYU×宮町パーティハウス北日本ビル×スナック赤いグラス明月ビル×ニューサンシャインサンシャインビル× 「無尽」の互助に異変  飲食店街は打つ手がないのか。前出の飲食店経営者は「会津若松の夜の活気は無尽が支えてきた」と話す。 無尽とは、会員が掛け金を出し合い、一定期日にくじで優先的に融通の権利を得るシステムやその会のこと。前近代的な金融の一種で、現在は山梨県のものが有名。福島県内では会津地方が盛んだ。 飲食店経営者が説明する。 「例えば会費を1万円とします。5000円を場所代として飲食店で消費し、残りの5000円を積み立てる。10人集まれば、1回の集まりにつき店に5万円を落とし、無尽に5万円を積み立てられる。1年後には60万円に達し、くじでもらう人を決めたり、急ぎの金が要る人に融通する。親睦旅行の代金に充て、会員全員に還元する方法もある」 個々の無尽で取り決めは違うが、現代では無尽にかこつけて集まることが目的なので、積み立てや融通の方法自体は重要ではないという。互助的なシステムである点が大事だ。 「居酒屋はたいてい1店につき6~12本の無尽を持っている。毎月1、2回は店に集まって会を開くので、何本無尽を持てるかが経営の安定につながると言っていい。常連客の他に魚屋、酒屋などの出入り業者、スナックの店主も参加する」(前出の飲食店経営者) 1次会はその居酒屋で、2次会は無尽に参加しているスナックで、という流れができ、常連客も店主も無尽つながりでお互いに店を利用するようになる。「無尽の飲み会がある」と言うと、家族も「しょうがない」と止めるのを諦めるほどの大義名分が立つという。 選挙も無尽で決まると言っても過言ではない。酒席では「健康状態が悪いらしい」「金銭的に苦しいようだ」と政治家のウワサが飛び交い、それを会社や家庭に持ち帰ったり、掛け持ちしている別の無尽で話したりして末端まで広がる。 「いわば選挙キャンペーンの装置です。多くは根も葉もないウワサですが、本人にとっては政治生命に関わる。政治家は、酒席でウワサを否定しなければなりません」(同) 企業も無縁ではない。この経営者によると、商工団体以上の情報伝達網だという。経営難や信用不安など悪いウワサも多い。 侮れない無尽だが、さすがにコロナ禍では自粛となった。 前出のスナックママは 「コロナを機に無尽もやめようという話が出てずいぶん減りました。無尽という言葉すら聞かなくなりましたね」 一方で、前出の飲食店経営者は楽観的だ。1次会の客をメインにしている事情がある。 「飲食店同士の無尽は出費を抑えるために減ったかもしれませんが、個人の参加は着実にあります。ウワサ、酒、選挙という勝負事への欲求は人間のさがですからね。定期的に街へ出る回数が増えれば、飲食店街に広く波及していくはずです。懸念しているのは、運転代行業者が確保できないことです。会津若松の飲食店街は近隣市町村からも多くのお客さんが来ます。コロナ禍で減った運転代行業者の数が戻らないと客足回復の機会を逃がしてしまう」 その店が主にしているのが1次会か2次会かで見解が全く異なる。人付き合いを断つ理由を与えてしまったのがコロナ禍だったと言える。若者の酒離れが進む昨今、スナックママが体験した無尽離れの方が現実味を帯びる。 あわせて読みたい 【いわき駅前】22時に消える賑わい コロナで3割減った郡山のスナック 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 苦戦する福島県内3市の駅前再開発事業

     県内の駅前再開発事業が苦戦している。福島、いわき、郡山の3市で進められている事業が、いずれも着工延期や工期延長に直面。主な原因は資材価格の高騰だが、無事に完成したとしても施設の先行きを不安視する人は少なくない。新型コロナウイルスやウクライナ戦争など不安定な情勢下で完成・オープンを目指す難しさに、関係者は苛まれている。(佐藤仁) 資材高騰で建設費が増大  地元紙に興味深い記事が立て続けに載った。 「JR福島駅東口 再開発ビル1年先送り 着工、完成 建設費高騰で」(福島民報5月31日付) 「JRいわき駅前の並木通り再開発事業 資材高騰、工期延長 組合総会で計画変更承認」(同6月1日付) 「郡山複合ビル 完成ずれ込み 25年11月に」(福島民友6月1日付) 現在、福島、いわき、郡山の各駅前では再開発事業が進められているが、その全てで着工延期や工期延長になることが分かったのだ。 福島駅前では駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、分譲マンション(13階建て)、駐車場(7階建て)などを建設する「福島駅東口地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は福島駅東口地区市街地再開発組合。 いわき駅前では国道399号(通称・並木通り)の北側1・1㌶に商業・業務棟(4階建て)、分譲マンション(21階建て)、駐車場(5階建て)などを建設する「いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者はいわき駅並木通り地区市街地再開発組合。 郡山駅前では駅前一丁目の0・35㌶に分譲マンションや医療施設(健診・透析センター)などが入るビル(21階建て)を建設する「郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業」が進められている。施行者は寿泉堂綜合病院を運営する公益財団法人湯浅報恩会など。 三つの事業が直面する課題。それは資材価格の高騰だ。当初予定より建設費が膨らみ、計画を見直さざるを得なくなった。地元紙報道によると、福島は361億円から2割以上増、いわきは115億円から130億円、郡山は87億円から97億円に増える見通しというから、施工者にとっては重い負担増だ。 資材価格が高騰している原因は、大きく①ウッドショック、②アイアンショック、③ウクライナ戦争、④物流価格上昇、⑤円安の五つとされる(詳細は別掲参照)。 ウッドショック新型コロナでリモートワークが増え、アメリカや中国で住宅建築需要が急拡大。木材不足が起こり価格が高騰した。アイアンショック同じく、アメリカや中国の住宅需要急拡大により、鉄の主原料である鉄鉱石が不足し価格が高騰した。ウクライナ戦争これまで資源大国であるロシアから木材チップ、丸太、単板などの建築資材を輸入してきたが、同国に対する経済制裁で他国から輸入しなければならなくなり、輸入価格が上昇した。物流価格上昇新型コロナの巣ごもり需要で物流が活発になり、コンテナ不足が発生。それが建築資材の運送にも波及し、物流価格上昇が資材価格に跳ね返った。円  安日本は建築資材の多くを輸入に頼っているため、円安になればなるほど資材価格に跳ね返る。  内閣府が昨年12月に発表した資料「建設資材価格の高騰と公共投資への影響について」によると、2020年第4四半期を「100」とした場合、22年第3四半期の建築用資材価格は「126・3」、土木用資材価格は「118・0」。わずか2年で1・2倍前後に増加しており、三つの事業の建設費の増加割合(1・1~1・2倍)とも合致する。 資材価格の高騰は現在も続いており、一時の極端な円安が和らいだ以外は、ウッドショックもアイアンショックも解消の見通しはない。ウクライナ戦争が終わらないうちは、ロシアへの経済制裁も解除されない。いわゆる「2024年問題」に直面する物流も、ますますコスト上昇が避けられない。資材価格の高騰がいつまで続くかは予測不能で、建設業界からは「あと数年は耐える必要がある」と覚悟の声が漏れる。 こうした中で三つの事業は今後どうなっていくのか。現場を訪ね、最新事情に迫った。 福島駅前 解体工事が進む福島駅東口の再開発事業 厳しい福島市の財政  看板が外された複数の建物には緑色のネットが被せられている。人の出入りがない空っぽの建物が並ぶ光景は、もともと人通りが少なかった駅前を一層寂しく感じさせる。 今、福島駅東口から続く駅前通りでは旧ホテル、旧百貨店、旧商店の解体工事が行われている。進ちょくは予定より遅れているが、下水道、ガス、電気などインフラ設備の撤去に時間を要したためという。アスベストの除去はほぼ完了し、解体工事は7月以降本格化。当初予定では終了は来年1月中旬だったが、今年度末までに完了させ、新築工事開始時に建築確認申請を行う見通し。 更地後は物販、飲食、公共施設、ホテルが入るビルや分譲マンションなどが建設される予定だ。ところが福島市議会6月定例会の開会日(5月30日)に、木幡浩市長が突然、 「当初計画より2割以上の増額が見込まれ、工事費縮減のため再開発組合と共に機能品質を維持しながら使用資材を変更したり、施設計画を再調整している。併せて国庫補助など財源確保も再検討している。これらの作業により、着工は2023年度から24年度にずれ込み、オープンは当初予定の26年度から27年度になる見通しです」 と、着工・オープンが1年延期されることを明言したのだ。 施工者は福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、市はビル3、4階に整備される「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を同組合から買い取る一方、補助金を支出することになっている。 同組合設立時の2021年7月に発表された計画では、総事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で、市の補助金支出は54億5000万円になる。 ところが昨年5月に議員に配られた資料には、総事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円と書かれていた。主な理由は延べ床面積が若干増えたことと、資材価格の高騰だった。 市の補助金支出が60億円に増える見通しとなる中、市の負担はこれだけに留まらない。 市は拠点施設が入る3、4階を保留床として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし、前述・議員に配られた資料では190億円に増えていた。市はこのほか備品購入費も負担するが、その金額は開館前に決定されるため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 補助金支出と合わせると市の負担は250億円以上に上るが、資材価格の高騰で建設費が更に増える見通しとなり、計画の見直しを迫られた結果、着工・オープンを1年延期せざるを得なくなったのだ。 元市幹部職員は現状を次のように推察する。 「延期期間を1年とした根拠はないと思う。1年で資材価格の高騰が落ち着くとは考えにくい。市と再開発組合は、この1年であらゆる削減策を検討するのでしょう。事業規模が小さいと削る個所はほとんどないが、事業規模が大きいと削減や変更が可能な個所は結構ある。ただ、それでも大幅な事業費削減にはつながらないと思いますが」 元幹部が懸念するのは、市が昨年9月に発表した「中間財政収支の見通し(2023~27年度)」で、市債残高が毎年増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されていることだ。市も見通しの中で「26年度には財政調整基金と減債基金の残高がなくなり、財源不足を埋められなくなる」「26年度以降の財源を確保できない」という危機を予測している。 「市の借金が急激に増える中、市は今後、地方卸売市場、図書館、消防本部、あぶくまクリーンセンター焼却工場、学校給食センターなどの整備・再編を控えている。市役所本庁舎の隣では70億円かけて(仮称)市民センターの建設も進められている。これらは『カネがなくてもやらなければならない事業』なので、駅前の拠点施設が滞ってしまうと、順番待ちしている事業がどんどん後ろ倒しになっていくのです」 ある元議員も 「既に解体工事が進んでいる以上、『カネがないから中止する』とはならないだろうが、あまりに市の負担が増えすぎると、計画に賛成した議会からも反対の声が出かねない」 と指摘する。 実際、木幡市長の説明を受けて6月15日に開かれた市議会全員協議会では、出席した議員から「どこかの段階で計画をやめることも今後の選択肢として出てくるのか」という質問が出ていた。 「施設が無事完成したとしても、その後は赤字にならないように運営していかなければならない。経済情勢が不透明な中、稼働率やランニングコストを考えると『このまま整備して大丈夫なのか』と議員が不安視するのは当然です」(元議員) 市は「計画の中止は想定していない」としており、資材や工法を変えるなどして事業費を削減するほか、新たな国の補助金を活用して財源確保を目指す方針を示している。 バンケット機能は整備困難  施行者の再開発組合ではどのような見直しを進めているのか。加藤眞司理事長は次のように話す。 「在来工法から別の工法に変えたり、特注品から既製品に変えたり、資材や設備を見直すなど、あらゆる部分を総点検して削れる個所は徹底的に削る努力をしています。例えば電線一つにしても、銅の価格が高騰しているので、使う長さを短くすればコストを抑えられます。市でも拠点施設に使う電線を最短距離で通すなどの検討をしています」 建設費が2割以上増えるなら、単純に10階建てから8階建てに減らせば2割減になる。しかし、加藤理事長は「面積を変更する考えは一切ない」と言う。 「再三検討した結果、今の面積に落ち着いた。それをいじってしまえば、計画を根本から変えなければならなくなります」(同) こうした中で気になるのは、拠点施設以外の商業フロア(1、2階)やホテル(8~12階)などの入居見通しだ。 「商業フロアの1階は地元商店の入居が予定されています。2階は飲食店を予定していますが、福島駅前からは飲食チェーンが軒並み撤退しており、テナントが入るか難しい状況です。場合によってはドラッグストアなど、別の選択肢も見据える必要があるかもしれません」 「ホテルは全国的に需要が戻っています。ただ、どこも従業員不足に悩まされており、今後の人材確保が心配されます」 ホテルと言えば、拠点施設ではさまざまな国際会議の開催を予定しているため、バンケット(宴会・晩餐会)機能の必要性が一貫して指摘されてきた。しかし、バンケット機能を有するホテルは誘致できず、木幡市長も6月定例会で、建設費高騰による家賃引き上げで参入を希望する事業者が見つからないとして「バンケット機能の整備は難しい」と明かしている。 市内では、福島駅西口のザ・セレクトン福島が昨年6月に宴会業務を廃止し、上町の結婚式場クーラクーリアンテ(旧サンパレス福島)も来年3月に閉館するなど、バンケット機能を著しく欠いている状況だ。木幡市長は地元経済界と連携して駅周辺でのバンケット機能確保を目指しつつ、ビルにバンケット機能への転用が図れる仕掛けを準備していることを説明したが、実現性が不透明な以上、一部議員が提案するケータリング(食事の提供サービス)機能も代替案に加えるべきではないか。 「市とは事業費削減だけでなく、完成後の使い勝手をいかに良くするかや、ランニングコストをいかに抑えるかについても繰り返し議論しています。それらを踏まえ、組合として今年度中に新たな計画を確定させたい考えです」(加藤理事長) 前出・元市幹部職員は 「一番よくないのは、見直した結果、施設全体が中途半端になることです。市民から『これなら、つくらない方がよかった』と言われるような施設ではマズイ。つくる以上は稼働率が高く、市民にとって使い勝手が良く、地域にお金が落ちて、税収も上がる好循環を生み出さなければ意味がない」 と指摘するが、着工・オープンの1年延期で市と同組合はどこまで課題をクリアできるのか。現状は、膨らみ続ける事業費をいかに抑え、家賃が上がっても耐えられるテナントをどうやって見つけるか、苦心している印象が強い。目の前のこと(着工)と併せて将来のこと(オープン後)も意識しなければ、市民から歓迎される施設にはならない。 いわき駅前 遅れを取り戻そうと工事が進むいわき駅並木通りの再開発事業 想定外の発掘調査に直面  いわき駅並木通り地区第一種市街地再開発事業は2021年8月に既存建物の解体工事に着手し、22年1月から新築工事が始まった。完成は商業・業務棟(63PLAZA)が今年夏、分譲マンション(ミッドタワーいわき)が来年4月を予定していたが、資材価格の高騰などで建設費が膨らみ、資金調達の交渉に時間を要した結果、それぞれ8カ月程度後ろ倒しになるという。 いわき駅前は、駅自体が新しくなり、今年1月には駅と直結するホテル「B4T」や商業施設「エスパルいわき」がオープン。同駅前再開発ビル「ラトブ」では6月に商業スペースが刷新され、2021年2月に閉店した「イトーヨーカ堂平店」跡地にも商業施設の整備が計画されるなど、にわかに活気付いている。 しかし、投資が集中する割に人通りは思ったほど増えていない。参考までに、いわき駅の1日平均乗車数は2001年が8000人、10年が6000人、21年が4200人。20年前と比べて半減している。 駅周辺で商売する人によると 「いったん閉店すると、ずっと空き店舗のままです。収益が少なく、それでいて家賃負担が重いため、若い出店希望者も駅前は及び腰になるそうです。『行政が家賃を補填してくれないと(駅前出店は)無理』という声をよく耳にします」 そうした中で事業が進む同再開発事業に対しては 「施設完成後、商業フロアはきちんと埋まるのか。ラトブは苦戦しており、エスパルいわきも未だにフルオープンはしておらず、シャッターが閉まったままのフロアがかなりある。仮に商業フロアが埋まったとしても、建設費が高ければ、その分家賃も高くなるので、かなりシビアな収支計画を迫られる。人通りが増えない中、店ばかり増えて商売が成り立つのかどうか」(同) 施行者のいわき駅並木通り地区市街地再開発組合で特定業務代理者を務める熊谷組の加藤亮部長(再開発プランナー)はこう話す。 「事業費を削り、新たに使える補助金を探し出す一方、収入を増やすメドがついたので、4月に開いた同組合の総会で事業計画の変更を承認していただきました。その事業計画を今後県に認可してもらい、早期の完成を目指していきます」 加藤部長によると、工期が延長された理由は資材価格の高騰もさることながら、建設現場で磐城平城などの遺構が発見され、発掘調査に予想以上の時間と費用を要したためという。商業・業務棟と分譲マンションのエリアは2022年度に調査を終えたが、駐車場と区画道路のエリアは現在も調査が続いているという。 「発掘調査にかかる費用は、個人施工の場合は補助金が出るが、組合施工の場合は組合が自己負担しなければなりません。さらに発掘調査に時間がかかれば、その分だけ工期が後ろ倒しになり、機器のリース代なども増えていく。同組合内からは、発掘調査によって生じた負担を組合が負わなければならないことに異論が出ましたが、最終的には理解していただきました」(同) 思わぬ形で工期延長を迫られた同事業が、新たな事業計画のもとで予定通り完成するのか、注目される。 郡山駅前 郡山駅前一丁目第二地区再開発事業の建設地。写真奥に見える一番高い建物が寿泉堂病院と分譲マンションが入る複合ビル 「削れる部分は削る」  郡山駅前一丁目第二地区第一種市街地再開発事業の敷地には、もともと旧寿泉堂綜合病院が建っていた。 2011年に現在の寿泉堂綜合病院と分譲マンション「シティタワー郡山」が入る複合ビルが完成後(郡山駅前一丁目第一地区市街地再開発事業)、旧寿泉堂綜合病院は直ちに解体され、第二地区の再開発事業は即始まる予定だった。しかし、リーマン・ショックや震災・原発事故が相次いで発生し、当時のディベロッパーが撤退したため、同事業は当面休止されることとなった。 その後、2018年に野村不動産が新たなディベロッパーに名乗りを上げ、20年に同事業の施行者である湯浅報恩会などと協定を締結した。 当初計画では、着工は2022年11月だったが、資材価格の高騰などにより延期。7カ月遅れの今年6月2日に安全祈願祭が行われた。 そのため、完成は当初計画の2025年初頭から同年11月にずれ込む見通し。湯浅報恩会の広報担当者は次のように説明する。 「削れる部分はとにかく削ろう、と。デザインも凝ったものにすると費用がかかるので、すっきりした形に見直しました。立体駐車場も見直しをかけました。最終的に事業費は当初予定の87億円から97億円に増えましたが、見直し段階では97億円より多かったので何とか切り詰めた格好です。同事業は国、県、市の補助金を活用するので、施行者の都合で事業をこれ以上先送りできない事情があります。工期は10カ月程伸びますが、計画通り完成を目指し、駅前再開発に寄与していきたい」 実際の工事は、早ければ今号が店頭に並ぶころには始まっているかもしれない。 地方でも好調なマンション  ところで、三つの事業ではいずれも分譲マンションが建設される。駅前に建設されるマンションは、運転免許を返納するなど移動手段を持たない高齢者を中心に「買い物や通院に便利」として人気が高い。一方、マンション需要は首都圏や近畿圏、福岡などでは高止まりしているというデータが存在するが、地方のマンション需要が分かるデータはなかなか見つからない。 それでなくても三つの事業は、資材価格の高騰という厳しい状況に見舞われ、建設される商業関連施設もテナントが入るかどうか心配されている。建設費が高ければ、その分家賃も高くなるが、それはマンションの販売価格にも当てはまるはず。果たして、三つの事業で建設される分譲マンションは、どのような販売見通しになっているのか。 福島と郡山の事業で分譲マンションを手掛ける野村不動産ホールディングスに尋ねると、 「当社が昨年度と今年度にマンションを分譲した宇都宮市、高崎市、水戸市などの販売は堅調です。福島と郡山の事業も、駅への近さや生活利便性の高さなどは特にお客様から評価いただけると考えています」(広報報担当者) いわきの事業で分譲マンションを建設するフージャースコーポレーションにも問い合わせたところ、 「現在、東北地方で販売中の当社物件は比較的好調です。実際、ミッドタワーいわきは販売戸数206戸のうち160戸が成約となり、成約率は78%です。(資材価格の高騰などで)完成は遅れますが、販売に影響はありません」(事業推進部) 新型コロナやウクライナ戦争など不透明な経済情勢の中でも、マンション販売は地方も好調に推移しているようだ。苦戦ばかりが叫ばれる駅前再開発事業にあって、明るい材料と言えそうだ。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長 スナック調査シリーズ

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【オール・セインツ】郡山駅東口の結婚式場が突然閉鎖

    事業を停止したオール・セインツウェディング  JR郡山駅東口の結婚式場「オール・セインツウェディング」が突然閉鎖した。本誌に情報が入ったのは6月9日。市内のある式場幹部がこう教えてくれた。 「オール・セインツで結婚式を予定していたカップルが『式場と連絡が取れなくなった。どうすればいいのか』と相談してきたのです」 オール・セインツは英国式チャペルとゲストハウス型パーティー会場で構成されている。チャペルには英国で実際に使われていたステンドグラス、パイプオルガン、長椅子、説教台があり、司式者も認定証のある牧師に依頼するなど、本物志向の結婚式を提供していた。式会場は30~190人まで収容可能な3タイプを揃えていた。 ネットで検索すると、昨年度まで3年連続で「口コミランキング福島県総合1位」を獲得しており、人気の式場だったことが分かる。 6月10日、現地を訪ねると、チャペルに通じる門など全ての出入口が閉ざされていた。門やドアには次のような紙が貼られていた。 《オール・セインツは、令和5年6月8日をもって、法的整理準備のために事業を停止いたしました。債権者の皆様にはご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ございません》 本誌に情報が入った前日に事業を停止していたわけ。 式場周辺を見て回ると、付属施設のドアが1個所開いているのを見つけた。「ごめんください」と声をかけると、中から大柄な男性が汗だくで出てきた。オール・セインツの代理人を務める山口大輔弁護士(会津若松市)だった。 「私の一存でどこまで話していいのか判断がつかないので、取材は遠慮したい」(山口弁護士) 施設内で何をしていたのか尋ねると「電気が止まる前に食材の整理をしていた」と言う。代理人がそこまでするのかと更に問うと「いろいろあって……」と言葉を濁した。 近所のホテル従業員の話。 「オール・セインツを通して宿泊予約をされていたお客様から『式場と連絡が取れない』と聞かされ、見に行くと事業停止の張り紙がありました。直近で5、6組の宿泊予約が入っていたのですが、全てキャンセルでしょうね」 結婚式の予定が見通せなくなったカップルは少なくないようだ。 ㈱オール・セインツ(郡山市方八町二丁目2―11)は2003年7月設立。資本金1000万円。代表取締役の黒﨑正壽氏は79歳、札幌市在住だが、出身は福島県という。直近5年間の売り上げ(決算期9月)は2018年2億4000万円、19年2億4000万円、20年1億8000万円、21年1億5000万円、22年1億円。新型コロナの影響で苦戦していた様子がうかがえる。 関連会社にブライダルコンサルタント業の㈱プライムライフ、式場の管理運営を行う㈱TAKUSO(住所はいずれも郡山市駅前一丁目11―7)がある。両社の事務所も訪ねてみたが留守だった。 オール・セインツの土地と建物は小野町の土木工事・産廃処理会社が所有している。同社にも事情を聞いてみたが、社長から「当社が事業用地および事業用建物として賃貸しているのは事実です。賃借人弁護士から事業停止の通知が届き、驚いています。それ以上のことは多くの方が関係していることもあり、個人情報保護の観点からコメントは差し控えたい」というメールが寄せられ、詳しいことは分からなかった。 債権者の中には結婚式を予定していたカップルも含まれる。ネットの投稿などを見ると、オール・セインツは招待客1人当たり4万5000円かかるようなので、50人招待すると225万円の見積もりになる。事業を停止すると分かっていてカップルから前金を受け取っていたとすれば、悪質と言うほかない。 あわせて読みたい 【オール・セインツ】事業停止の郡山結婚式場に「被害者」が怒りの声

  • うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

     本誌3月号に、うすい百貨店(郡山市)から「ルイ・ヴィトン」が撤退するウワサがある、と書いた。 それから2カ月経った先月、ヴィトンは公式ホームページで「うすい店は8月31日で営業を終了することとなりました」と発表。ネット通販が全盛の昨今、地方都市に店舗を構えるのは得策ではない、という経営判断が働いたとみられる。 問題は撤退後の空きスペースをどうするかだが、3月号取材時は「後継テナントが見当たらず、憩いのスペースにする案が浮上している」との話だった。百貨店に憩いのスペースは相応しくない。この間の検討で具体案は練られたのか、うすいの公式発表が待たれる。 あわせて読みたい 【郡山】「うすい」からルイ・ヴィトン撤退の噂 2023年3月号

  • 【いわき駅前】22時に消える賑わい

     新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。かつての日常に戻りつつある中、店での飲食は動向が大きく変わった。客の重視は「飲む」から「食べる」に変化。職場の宴会は減り、あっても1次会のみ。酒の提供がメインで接待を伴うスナックは2次会以降を当てにしているため、客数減による淘汰が進む。第3弾となる夜の街調査は、いわき市を巡った。 客足戻ってもスナックに波及せず  本誌はこれまで郡山市と福島市にあるスナックの数を、電話帳を基にコロナ前と後で比較してきた。電話や訪問で営業状況を確認し、ママやマスターに聞き取り調査を重ねた。 第3回となる今回は、経済規模が県内2番目のいわき市(表1参照)の夜の街を調べた。新型コロナが5類に引き下げとなって初めての土曜日(5月13日)夜に、本誌記者2人がJRいわき駅前(平地区)の店を訪問し、店主から聞き取った。 表1 県内の経済規模上位5市 市町村内総生産県全体の構成比郡山市1兆3635億円17.10%いわき市1兆3577億円17.00%福島市1兆1466億円14.40%会津若松市4553億円5.70%南相馬市3307億円4.10%出典:2019年度『福島県市町村民経済計算』 一1000万円以下切り捨て  現地調査の前に店の増減を電話帳から把握する。新型コロナ感染拡大前の2019年11月時点と感染拡大後の21年10月時点の電話帳(NTT発行『タウンページいわき市版』)で掲載数を比較した。 2021年時点で20軒以上ある業種を挙げる。業種は店からの申告に基づき重複がある。多い順に次の通り(カッコ内は減少率)。 スナック 273店→221店(19・0%) 飲食店 201店→180店(10・4%) 居酒屋 168店→148店(11・9%) 食堂 83店→68店(18・0%) すし店(回転ずし除く) 69店→64店(7・2%) レストラン(ファミレス除く) 72店→62店(13・8%) ラーメン店 67店→62店(7・4%) 喫茶店 61店→54店(11・4%) 焼肉・ホルモン料理店 38店→37店(2・6%) 中華料理店 38店→37店(2・6%) バー・クラブ 48店→36店(25・0%) 焼鳥店 34店→33店(2・9%) うどん・そば店 30店→28店(6・6%) 日本料理店 28店→25店(10・7%) ファミレス 25店→24店(4・0%) カフェ 23店→21店(8・6%) 減少数・率ともに大きいのはスナックだった。53店が電話帳から消え、1店が新規掲載。差し引き52店減少した。もともとの店舗数はスナックや居酒屋に比べれば少ないが、減少率が最も大きかったのはバー・クラブの25・0%。12店が電話帳から消え、新規掲載はなかった。 酒と接待の場を提供するスナックやバー・クラブの減少が著しいのは郡山・福島両市も同じだ。 郡山市 スナック 202店→159店(減少率21・2%)。消滅48店、新規掲載5店 バー・クラブ 45店→42店(減少率6・6%)。消滅5店、新規掲載2店 福島市 スナック 194店→145店(減少率25・2%)。消滅50店、新規掲載1店 バー・クラブ 42店→35店(減少率16・6%)。消滅7店、新規掲載なし スナックの数はコロナ前も後も3市の中でいわき市が最も多い。にもかかわらず減少率は19%と他2市と比べて2~5㌽低い。理由は飲食店街が分散していることが考えられる。スナックが10店舗以上ある地区は表2の通り。市内最大規模の飲食店街は平・田町でスナック約120店舗がひしめく。平地区のスナックの減少率は21%で、郡山・福島とあまり変わらない。減少幅の小さい小名浜や植田など周辺地区が平の減少率を緩和している形だ。 表2 いわき市のスナックの店数 2019年2021年減少率平地区15212021%小名浜地区453717%植田地区423419%常磐地区151220%出典:NTT『タウンページ』の掲載数より 「回復とは言えない」  平・白銀町でバー「QUEEN」を経営するマスター加藤功さん(65)=平飲食業会・社交部会部会長=は、叔母から店を引き継いで計63年続けている。 「客の入りは回復しているとは言い難いですね。土曜日でも空席がある。ライブを開催し、大物ミュージシャンを呼んでもチケットは完売になりませんでした。みんな出不精になったのかな」(加藤さん) コロナ禍で閉店する店が増えたことについては、 「跡継ぎがいないというかねてからの問題があります。コロナ禍が閉店に踏み切るきっかけになった。私の店も後継者はいません。酒を提供する店でも料理がメインのところは回復力が強い。純粋にお酒を愉しんだり、女性が接待する店はまだまだ厳しい」(同) 別のバーの男性オーナーAさんは 「うちは仲間内で楽しむ雰囲気の店です。美味しいものを味わってもらうというより、1人3000円くらいでサンドイッチなど軽食を用意し、腹いっぱいになって帰ってもらう。昔は公務員が多く来ていたが、コロナ以降は全然ですね」    平競輪場が近いこともあり、店内には競輪のグッズが飾ってあった。 「今は送別会をやる選手もいません。余裕がないんでしょうね。お客さんも店も一緒です。やめちゃった店は多分、コロナ禍の間に運営資金を4、500万円くらい借りてあっぷあっぷになったんじゃないか。俺もいつやめてもおかしくない。あと1年、あと1年とマイナスの状況で続けてきた。貯金はみんな食いつぶしたよ」(同) ただ、公務員や地域行事の打ち上げが戻ってきたことで、感染の収束を感じるとも話す。 「ようやく4月から警察関係の人たちが飲み歩き始めた。いい兆しです。だが、うちはPTAや保護者会などの団体さんが動き出さないと経営は厳しい。コロナ前は野球、サッカー、学校行事などが終わった後は打ち上げがお決まりでした。消防団もお得意さんですね。年間行事が決まっているので、安定した集客が見込めます」(同) パートで本業を支える  筆者は別の店主から「昼間にパートに出て本業(スナック)を支えている店もあった」と聞いた。 あるスナックのベテランママBさんも「他人事ではない」と話す。 「店を閉めるには借金を清算しなくてはなりません。でも、この年になったら働き口がないので店を続けるしかない。お客さんの数はコロナ前の水準には戻らないけど、常連さんが来てくれるのでかろうじてやっていけます」 前出のマスター加藤さんは、コロナ後の客の飲み方に明らかな変化を感じているという。 「大型連休中はお客さんがコロナ前の7割程度まで戻った。ただし、1次会だけで終わるケースが多い。帰りの運転代行のピークは20~21時の間です」 5月13日の土曜日、本誌記者2人は19時を待ち、電話帳から消えたスナックやバー・クラブを訪ね開店状況を調べた(結果は別表参照)。20~21時の間は平・田町の路地を団体客が通り、客引きが2次会の場所を紹介しようと賑わっていた。だが21時を過ぎると客足は減り、客引きの方が多くなった。女性従業員がペアになり、いわき駅方面に向かう男性客を呼び止めるが、人の流れが止まる気配はなかった。 電話帳から消えたいわき市平のスナック、バー・クラブ ○…5月13日(土)に営業確認 ×…営業未確認 地区店名最後の所在地または移転先営業状況田町スナックMajo新田町ビル〇桐子×cantina×COOL田町MKビル×Sweethomeミヨンビル〇LOVERINGミヨンビル→泉に移転集約〇スナック・汐第2紫ビル×スナック美穂志賀ビル×チェンマイ×歩楽里×スナック僕×Boroルネサンスビル×サムライサンスマイルビル2〇ラソ(Lazo)アマーレビル→田町鈴建ビル〇ビージェイオセーボ(BJOSEBO)サンスマイルビル1×スナックむげん梅の湯ビル×DREAM移転の情報×WITH二葉館ビル〇くおん田町ビル〇夕凪×きなこ寺田ビル×スナック・杏第3紫ビル×Materia×スナックパルティール2×パブスナックキャットハウス×ROAD鳥海ビル〇カマ騒ぎ×BAR BLUE〇Berry・Berryタマチビレッジ×二町目上海新天地紅小路ビル×スナックきよみ×スナック北京城ひかりビル×スナック戀(れん)×白銀アジエンス×クイーン〇酒処さかもと×五町目プラス・ワン移転の情報×パークサイド××…所在地が空欄の店は移転先の情報を得られなかった。  22時を過ぎると「お兄さん、マッサージいかがですか」と片言で誘ってくる女性が増えてきた。前出のベテランママBさんによると、中国人グループが組織的に行っているという。 土曜の夜でも22時には客が引けてしまう。スナックやバー・クラブにとっては本来、この時間帯からが勝負だが、そもそも2次会の客が減っているので、賑わう店とそうでない店の二極化が進んでいる。 期待が薄い駅前再開発 いわき駅並木通りの再開発事業  業界として打つ手はあるのか。 「徐々に暑くなり、街中でのイベントが再開されれば人通りは多くなります。それを飲食店街にどう呼び込むか。今夏、いわき駅前では七夕まつり、小名浜では花火大会がコロナ前の規模で開催されます。昨年末には、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格を祝うパレードも同駅前でありました。いわきFCに関してはイベントが始まったばかりということもあり、飲食店街の賑わいにどうつなげるか手探りです」(前出・加藤さん) いわき駅前は再開発でホテルやマンションの建設が進む。今後、宿泊しながら飲食する人は増えることが予想され、飲食店街にとっては好材料になるのではないか。 ただ、各店主に話を向けると「そうなればいいですね」「そんなに関係ないな」と、あまり期待していない様子だった。 田町で店の営業状況を調べていると、客引きの女性従業員から「どの店もいつ潰れてもおかしくない。もっといいように書いてくださいよ」と注文を受けた。 正直、プラスの材料を探すのは難しい。早く調査を終わらせようと、女性従業員にリストに載っている店が今もやっているか尋ねた。 「その店は昨年9、10月ころにはなくなったよ。ママが『売り上げがないから疲れちゃった』って。ママが亡くなって閉めた店もあります」 本誌がリストに載せた店は、消えた店の方が多かった。 「私らは最後までやるつもりですよ。それこそ死ぬまでね」 と女性従業員。覚悟を決めた人の言葉だった。 あわせて読みたい 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査 コロナで3割減った郡山のスナック