4月20日投開票で行われる郡山市長選は新人4氏が争う構図だが、老舗の建設業者からは「誰が当選しても私たちの意向を汲んでほしい」と切実な要望が上がっている。
災害出動のインセンティブを望む声
今冬はかなりの積雪だった。特に2月は大雪が相次ぎ、会津地方を中心に深刻な雪害に見舞われた。
「大変だったのは会津だけじゃありませんよ」
と話すのは郡山市内の土木会社社長である。社長はこの2月、市内で連日のように排雪ボランティアに参加した。
「市内では湖南、磐梯熱海、石筵が酷い積雪で、除雪が追い付かない状況だった。そのうち排雪する場所もなくなり、5、6日連続で排雪場所を確保するボランティアに参加しました」(土木会社社長)
近年は積雪が少なく、除雪の仕事がなかったため「機械のリース代80万円と保険代はドブに捨てているようなものだった」(同)。それが今冬は一転、自社の仕事を脇に置いて排雪ボランティアに励んだ。
いかに酷い雪害だったかが分かるが、一方で、参加者はこんな事情も抱えていた。
「市から協会に依頼が届く。その依頼を受けて、協会の会員が現場に出向く。私も会員なので、できることをしようと排雪ボランティアに参加しました」(同)
「協会」とは、一般社団法人こおりやま建設協会(佐藤彰宏代表理事=共立社代表)を指す。今回の雪害にかかわらず、地震や洪水などが発生すると、市は同協会に緊急点検や応急復旧などを依頼する。
市では、このような災害関連の連携協定を130近い団体と交わしているが、「災害時における応援対策業務の支援に関する協定書」を締結しているのはこおりやま建設協会のほか、県建設業協会郡山支部、県造園建設業協会郡山支部、ダンプカー協会、郡山建設業者同友会、郡山電設業者協議会、市管工事協同組合など十数団体に上る。
もっとも、こうした団体に加盟している業者が全て協力的かというとそうではない。前述の排雪ボランティアも、こおりやま建設協会に加盟しているのは54社だが、実際に参加したのは「20社程度だった」(土木会社社長)。
4割の業者しか参加していない状況を「薄情」と切り捨てるのは簡単だが、現実を知るとそうとも言えない。
「ウチも災害時のボランティアは積極的に参加しています」
という老舗業者の役員がこんな事情を明かしてくれた。
「日頃世話になっている地元がピンチの時、地元業者が出動しなくてどうするんだ!と言いたいところだが、全ての業者が同じ気持ちかというとそうではない。例えば夜中に災害が起きて夜通し復旧作業に当たっても、翌朝には通常通り現場に行かなければならない。その現場が市発注工事の場合、本音を言えば復旧作業に出た分、工期を伸ばしてくれるとありがたいのだが、市は『それとこれとは別。工期は守ってもらわないと困る』というわけです」(役員)
言うまでもなく、災害ボランティアは無給だ。そちらに時間と労力を割かれ、本業に支障が出ることになっても、市が工期延長などのインセンティブを認めてくれれば協力した甲斐もあるが、「それとこれとは別」と言われてしまったら善意も失せてしまうのが本音ではないか。
「おかげで協会に加盟する業者の数は年々減っています。市から『災害ボランティアに協力してほしい』と依頼されるのが面倒だし、会費を払って会員であり続けても何のメリットもないから、社長の代替わりなどをきっかけに会員をやめる業者が相次いでいます」(同)
団体によっては、会員数がピーク時の6割程度まで減っているところもあるという。
市内の業者が災害ボランティアに消極的にならざるを得ない理由はほかにもある。
郡山市では1000万円以上の工事は制限付一般競争入札、1000万円未満の工事は指名競争入札を導入している。金額は指名競争入札の方が低いが、発注件数は指名競争入札の方が制限付一般競争入札より4倍近く多い。
同市の指名競争入札に参加するには2年ごとに市の審査を受け、入札参加有資格業者になる必要がある。その手引きを見ると、市内に本社を置く業者が提出する書類に「災害協定の締結」「除雪委託契約の締結」の有無に関する記載欄があるが、市がそれをどれくらい重視しているかは分からない。
前出・役員も「少しは加点要素になっていると思うが、入札で優位に働いたと感じたことはない」。業者にとっては、せっかく災害ボランティアに協力しても市が正当に評価しているとは思えないのが実感だ。
業歴浅い業者への不満
挙げ句には、こんな出来事も。
「どの協会にも加盟していない、業歴の浅い業者が次々と落札している。こう言っては失礼だが、彼らは地元を支える意識が薄い。事実、彼らは災害ボランティアに一切参加しない。協力的なのは地元に根ざしている老舗業者ばかり。そういう業歴の浅い業者と老舗業者が横並びで指名競争入札に参加し、金額が安いという理由だけで業歴の浅い業者が落札していくわけです。こうした状況を虚しいと言ってはいけないんですかね……」(役員)
業歴の浅い業者からすれば「市のルールに則って落札しているだけ」、市からすれば「業歴の浅い業者が落札しても何ら問題ない」ということになるのだろう。しかし、災害ボランティアに協力している老舗業者からすれば、やるせない気持ちになるのは当然だ。
「だから、指名競争入札については7割を協会加盟業者に、3割を非加盟業者に発注する、といったインセンティブを設けてもいいのではないかと思うんです」(同)
この発言を「市に協会優遇を迫るなんて、とんでもない話だ」と短絡的に捉えるべきではない。仮にこのルールが採用されれば、業歴の浅い業者も協会に加盟し、結果、災害ボランティアの協力者が増える可能性があるからだ。市民生活を守るには協力者が多ければ多いほどいいし、復旧のスピードアップにもなる。
「協会というと昔は談合の温床みたいに言われることもあったが、今は違う。災害が頻発する世の中にあ
って、復旧の最前線を担う業者をスムーズに確保するためにも、市は協会加盟の意義を業者に植え付けるべき。そのためにも、指名競争入札におけるインセンティブを積極的に検討してほしい」(同)
品川萬里市長の時代は、こうした業界の考えが上手く伝わらず、どんな業者でもルールに従えば入札に参加していいというやり方が継続された。新市長には、地域を守るためにも指名競争入札におけるインセンティブを検討してほしいというのが、老舗業者たちからの切実な要望だ。
「各協会が堂々と要望すればいいんです」と話すのは、前出・土木会社社長である。
「地元の役に立とうと、自社の仕事を犠牲にしてまで排雪ボランティアに携わったのだから、市には遠慮せず言いたいことを言うべき。昔は受注者から発注者に意見なんて言えなかったが、今は違う。官と民が協力して地域を守る姿勢が求められている。発注者に遠慮していたら地域なんて守れませんよ」
誰が新市長になっても、災害から地元を守る意識があるなら最重要の検討事項に据えるべきだろう。