会津地方で、いわゆる「飛び地メガソーラー」が稼働している。「電気の産地偽装」と言われる手法は各地で問題視されてきたが、県内で確認されたのは本誌の知る限り初めてではないだろうか。違法ではないが制度の抜け道をついて設置できた飛び地メガソーラーは、2020年から経済産業省によって規制されている。会津の施設は規制前に設置を許可されていたが、現地を訪ねると〝ある疑惑〟を抱えて稼働している可能性があることが分かった。(佐藤仁)
設置者は今季休業箕輪スキー場の親会社

猪苗代町内を走る県道猪苗代塩川線から南に曲がって農道に入り、JR磐越西線の踏切を渡って少し進むと、茶色のフェンスに囲まれた2枚の太陽光パネルが現れる。登記簿謄本によると、住所は猪苗代町磐根字霜降となっている。

何の目的で設置したのか一見しただけでは分からないが、実はこの場所、メガソーラーの一画に当たる。
メガソーラーと言えば、無数のパネルが一面を覆い尽くす光景が思い浮かぶ。だが、ここは林の中で、パネルが2枚ポツンとあるだけ。メガソーラーの一画と言われても、にわかには信じ難い。
それもそのはず。大量のパネルは会津若松市河東町八田字粟畑地内に設置されている。手掛かりを頼りに現場に向かうと、着いた先はナリ会津カントリークラブだった。2019年に閉鎖されたゴルフ場だが、入り口はフェンスで閉ざされ、中に入ることはできない。高所から監視カメラが様子をうかがう。フェンスには「ブルーキャピタルマネジメント管理物件 関係者以外侵入禁止」と書かれた紙が張られていた。
結局、入り口からパネルは見えなかったが、グーグルマップの上空写真を見ると、コース跡に沿うように大量のパネルが並んでいるのが確認できた。
ただ、ここから2枚のパネルがある場所は直線で3㌔も離れている。車での走行距離は17㌔、時間にして20分もかかった。常識的には、この距離感で「同じメガソーラー」というのは無理がある。
だが、両所は間違いなく同じメガソーラーで、名称は「Blue Power(ブルーパワー)猪苗代発電所」という。資源エネルギー庁のホームページ(HP)によると、設置者は合同会社Blue Power猪苗代(以下Blue社と略)という会社だが、Blue社のかつての本店所在地はゴルフ場入り口の紙に書かれていたブルーキャピタルマネジメント(以下ブルー社と略)と同じで、ブルー社のHPでも自社のメガソーラーとして同発電所を紹介している。
運営会社については後述するが、なぜ、距離の離れた両所が「同じメガソーラー」なのか。カラクリはこうである。
業界では、2枚のパネルがある場所を「種地」、大量のパネルがある場所を「飛び地」と呼び、両所を「自営線」と言われる電線で結ぶことで同じメガソーラーとしている。離れてはいるが電線でつながっているので一体の施設、という理屈だ。こうした施設は各地で散見され、「飛び地メガソーラー」「電気の産地偽装」などと報じられているが、県内で確認されたのは本誌の知る限り初めてではないだろうか。
ではなぜ、このような設置の仕方をするのか。普通なら、遠く離れた場所同士をわざわざ電線で結ぶのは面倒と考えるはずだ。理由は電気の買い取り価格にある。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)は2012年度から始まったが、当初の電気の買い取り価格は1㌔㍗時あたり34~42円。その後段階的に下がり、2024年度は9・2~16円と制度開始時の3分の1以下になっている(金額は地上設置、屋根設置、ワット数など条件によって異なる)。
つまり、FIT認定を受けた時期が早い事業者ほど電気の売値は高くなるが、資源エネルギー庁のHPによると、Blue社が認定を受けたのは2014年3月と制度開始の翌年度なので、買い取り価格は31~38円と高い。他社から見たら、垂涎ものの設置要件だ。
もっとも、ブルーパワー猪苗代発電所の当初予定地は先述・猪苗代町の土地と、隣接する磐梯町更科字沼平の土地にまたがっていた。ところが、予定地の大部分を占めていた磐梯町の土地が何らかの理由で使えなくなり、パネルの設置場所がなくな
ってしまう。
ただ、猪苗代町の土地は残り、FIT認定も継続された。そこでBlue社は高い買い取り価格を維持するため、飛び地としてゴルフ場跡地を見つけてきたとみられる。
異例の設置方法ではあるが、違法ではない。FIT認定された地番から離れた場所に発電設備の一部を設置する「飛び地の追加」は、これまで認められてきた。だが経産省が想定していたのは、離れた場所ではあるが一体の施設と見なせる距離だった。それを拡大解釈し、FIT認定された地番から数十㌔も離れた飛び地を追加、そこにパネルの大部分を設置する業者が現れた。
要するに、ブルーパワー猪苗代発電所は制度の抜け道をついて設置を許可されたのである。
複雑な所有権の変遷
念のため、経産省東北経済産業局エネルギー対策課にブルーパワー猪苗代発電所の設置の仕方は問題ないのか確認すると、布施成章課長が次のようにコメントした。
「個別の事案についてお答えすることはできないが、飛び地をめぐっては数年前に数十㌔も離れた事案は適正なのかという議論があり、その結果、飛び地を認めない法改正が行われています」
具体的には、再エネ特措法で「太陽電池の大半が当初認定された地番に設置されている場合に限り、当初地番と同一の場所と見なせる距離にある飛び地の追加または削除」は例外的に認めるが、それ以外の飛び地は認められない。ただし、この規制が適用されるのは「2020年7月22日以降に申請した施設」で、同日以前に認定されている施設には適用されない。
つまり、Blue社が認定を受けたのは2014年3月なので、規制は適用されず、飛び地での設置も問題ないことになる。
とはいえ関連する土地の登記簿謄本を確認すると、所有権をめぐる複雑な動きが見て取れる(一覧参照)。特に当初予定地とされた磐梯町の土地は、2015年にブルー社の名義になったあと、中部電力グループのトーエネックが長期の地上権を設定しており、両社の間で何らかの攻防があった様子がうかがえる。
猪苗代町磐根字霜降の所有権の変遷
2007.11.8
㈱エフ・アール・イーから㈱トヨダ地所(江戸川区)に売却
2013.9.19
㈱トヨダ地所から合同会社SOLパーク1号(港区)に売却
2018.5.2
合同会社SOLパーク1号から合同会社いわき綜合開発(墨田区)に売却
2018.5.28
㈱インサイド(千代田区)が所有権移転請求権仮登記(代物弁済予約)
2019.9.9
㈱インサイドの所有権移転請求権仮登記を抹消
同日
合同会社いわき綜合開発から㈱ブルーキャピタルマネジメント(港区)に売却
2019.10.29
合同会社Blue Power 猪苗代が地上権設定(存続期間25年)
2023.5.31
合同会社Blue Power 猪苗代が地上権変更(存続期間45年)
2023.6.23
㈱ブルーキャピタルマネジメントからRENEWABLE POWER WORKS合同会社(中央区)に売却
2024.10.11
RENEWABLE POWER WORKS合同会社からPMC合同会社(中央区)に売却
磐梯町更科字沼平の所有権の変遷
2007.11.8
㈱エフ・アール・イーから㈱トヨダ地所(江戸川区)に売却
2013.11.26
㈱トヨダ地所から㈱Kエナジー(港区)に売却
2014.8.19
㈱Kエナジーからリベレステ㈱(埼玉県草加市)に売却
2014.8.29
リベレステ㈱から㈱JCサービス(大阪市西区)に売却
2015.12.1
㈱JCサービスから㈱ブルーキャピタルマネジメント(港区)に売却
2017.6.20
㈱トーエネック(名古屋市)が地上権設定(存続期間2038.12.31まで)
2021.11.12
㈱トーエネックが地上権変更(存続期間2041年1.16まで)
2023.5.31
㈱トーエネックが地上権変更仮登記(存続期間2061年1.16まで)
2023.6.23
㈱ブルーキャピタルマネジメントからRENEWABLE POWER WORKS合同会社(中央区)に売却
2024.10.11
RENEWABLE POWER WORKS合同会社からPMC合同会社(中央区)に売却
会津若松市河東町八田字粟畑の所有権の変遷
2005.6.15
鈴縫観光㈱(茨城県金砂郷村)から河東観光開発㈱(茨城県常陸太田市)に所有権移転
2019.5.15
河東観光開発㈱から㈱ブルーキャピタルマネジメント(港区)に売却
2023.6.23
㈱ブルーキャピタルマネジメントからRENEWABLE POWER WORKS合同会社(中央区)に売却
2024.10.11
RENEWABLE POWER WORKS合同会社からPMC合同会社(中央区)に売却
これが引き金になったのか、ブルー社(Blue社)は磐梯町の土地にパネルを設置することを断念。高い買い取り価格を維持する目的で、新たにゴルフ場跡地を取得し、飛び地メガソーラーとして出直しを図ったものとみられるが、ここで不可解な点に気付く。
ブルー社(Blue社)は2014年に認定を受けた際、メガソーラーの所在地を猪苗代町の土地1筆とゴルフ場跡地の土地27筆と資源エネルギー庁に申請していたが、これらの土地がブルー社の名義になったのは2019年なのだ。
申請者と土地の権利者が異なる場合、土地の使用権原が分かる売買契約書、賃貸契約書、地上権設定契約書などの写しと、契約当事者双方の印鑑証明書を提出しなければならないが、土地の名義が次々と変わっていく中でブルー社(Blue社)はきちんと提出できたのか。
もっとも、苦労してブルーパワー猪苗代発電所の設置に漕ぎ着けたブルー社(Blue社)だが、一覧にある土地は全て2023年6月にRENEWABLE POWER WORKS合同会社に売却、ブルー社は撤退した。ただ、Blue社の地上権は存続しているので、全くの無関係ということではなさそうだ。
現在、ブルーパワー猪苗代発電所の土地はRENEWABLE社から昨年10月に買収したPMC合同会社の名義に変わっているが、同社と同じ住所(東京都中央区)に本社を置くCEISIEC合同会社(本間理志代表)が、自社で運営する19カ所のメガソーラーの一つとして同発電所を紹介している。
それによると敷地面積7万8000平方㍍、パネル出力2万5286㌔㍗、パネル枚数7万5482枚、パワーコンディショナー268台。運転開始日は2024年1月となっている。
そんなCEISIEC社のHPを見ていい加減さを感じたのは、所在地として猪苗代町と磐梯町の住所を載せていることだ。本来載せるべきは当初予定地だった磐梯町の住所ではなく、飛び地として追加したゴルフ場跡地の住所なのに、不正確な所在地のまま自社の発電所として紹介している。前所有者から正確な所在地も聞かずに買収したのか。
2枚のパネルは未稼働!?
「飛び地による設置は、法的には問題ないかもしれないが、稼働状況に〝ある疑惑〟がある」
こう話すのは、首都圏に本社を置き、県内でメガソーラーを稼働させている再エネ会社の役員である。
「真面目にやっている立場から言わせてもらうと、制度の抜け道をついた飛び地メガソーラーには強い違和感しかないが、法的に問題ないというなら我慢するしかない。ただ、ブルーパワー猪苗代発電所は飛び地メガソーラーとしての条件を満たしていない可能性がある」(同)
昨年11月、筆者はこの役員と2枚のパネルが置かれた場所(種地)に行った。役員が解説する。
「(パネルの下に)パワーコンディショナーが付いているが、見てください、電源が入っていません。近付いて耳を澄ましても、何の音も聞こえませんよね? つまり、この2枚のパネルはただの飾り、ダミーということです」
この場所はFIT認定を受けている地番なので、ここが未稼働なら高い買い取り価格が適用されるのはおかしいというのが役員の主張だ。筆者が昨年12月に訪れた時もパワーコンディショナーの電源は切れていた。
役員がもう一つ指摘するのは自営線の存在だ。2枚のパネルがある一帯は地面が土だが、パネルのすぐ近くから東に向かって細長い道のように砂利を敷いた個所が確認できる。
「一見すると砂利の下に自営線を敷いている印象を受けるが、もしかすると敷いたフリをしている可能性もあり、本当に自営線があるかどうか分からないのです」(同)
もし自営線が敷設されていなかったら、ゴルフ場跡地にある大量のパネルとは結ばれていないことになるので、飛び地メガソーラーは成立しない。従って、高い買い取り価格の適用はおかしい、となる。
不透明な自営線の敷設

そもそも、自営線をどういうルートで敷いているのかが判然としないが、2枚のパネルが置かれた土地は合同会社いわき綜合開発(東京都八王子市)の所有地と猪苗代町が管理する公道に囲まれているので、ここから飛び地に自営線を向かわせるには、どちらかの土地を「通らせてもらう」必要がある。だが、いわき綜合開発に聞くと「自営線を通させてほしいという話はきていない」と言い、猪苗代町建設課も「公道を通すなら許可が必要だが、申請はされていない」と話す。
「自営線を無断・無許可で敷いたのか、それとも敷いたフリをしているのか、いずれにしても問題であることに変わりありません。だいいち2枚のパネルと大量のパネルの間には磐越西線の線路、磐越道、川などがあり、起伏も激しい。この間を自営線で結ぶのは簡単ではないと思う。私も想定されるルートを見て回ったが、地中に敷設するために地面を掘り起こした形跡やハンドホール(地中架線をメンテナンスするための設備)は見当たらなかった。もちろん上空架線もなかった」(前出・役員)
ブルーパワー猪苗代発電所は、本当に飛び地メガソーラーとしての体を成しているのだろうか。
こうした疑問を、施設を管理運営するCEISIEC合同会社とFIT認定を受けたBlue社(ブルー社)にメールで質問したが、期日までに返答はなかった。
ちなみにブルー社は、今季休業中の箕輪スキー場とホテルプルミエール箕輪を運営する第三セクター・横向高原リゾートの親会社としても知られる。休業はブルー社の経営不振が原因とみられるが、ブルーパワー猪苗代発電所を売却したのもフトコロ事情と関係がありそうだ。
前出・東北経済産業局エネルギー対策課の布施成章課長にも疑問に対する見解を尋ねたが「個別の事案についてはお答えできない」としながら「一般的に、寄せられた情報は内部で精査し、必要があれば法令違反等がないか現地調査をして、事業者を指導したり、行政処分したりしている(※)」と話した。
※改正再エネ特措法では、森林法、農地法、盛土規正法など関係法令に違反する事業者に対し早期是正を促すため、FIT/FIP交付金を一時停止する措置が講じられる。違反が解消されれば一時停止された交付金は給付されるが、違反が解消されず認定取り消しに至った場合は、違反発生から認定取り消しまでの交付金の返還が命じられる。
「電気の産地偽装」は甘んじて受け入れるにしても、ブルーパワー猪苗代発電所が適正に稼働しているかは調査する必要がありそうだ。