東山・芦ノ牧温泉を悩ます廃墟ホテル【会津若松】

東山・芦ノ牧温泉を悩ます廃墟ホテル【会津若松】

 会津若松市の東山温泉と芦ノ牧温泉では、廃業した旅館・ホテルが廃墟化しており、温泉街の景観を損ねている。なぜ解体は進まないのか。あるユーチューバーの動画をきっかけに、廃墟ホテルの現状と課題を取材した。(志賀)

横行する!?ユーチューバーの〝無断侵入〟

【芦ノ牧の迷宮】増築を重ね巨大化した廃ホテルの現状調査」

 動画投稿サイト・ユーチューブで「【芦ノ牧の迷宮】増築を重ね巨大化した廃ホテルの現状調査」という動画が公開されている。投稿者は廃墟探索の様子を投稿している蓮水柊斗(はすみ・しゅうと)氏。撮影されているのは芦ノ牧温泉でかつて営業していた芦ノ牧ホテルだ。

 動画には事務室に営業当時の書類がそのまま残されている様子や、客室で何者かが生活していた様子が収められていた。

 芦ノ牧ホテルは昭和41年に開業。運営会社は㈲芦牧ホテル。リゾートブームが起きるバブル期の前にいち早く新館、別館を増築し、一時期は温泉街で最大のホテルとなった。当時のデータが残っているホームページによると、客室全47室。収容人数一般200人(団体280人)。全室渓谷側で眺望の良さが売りだった。

芦ノ牧ホテル地図

芦ノ牧ホテル

 会津若松市内にスイミングスクールがなかった昭和50年代にいち早く屋内プールを整備したほか、近くに総合体育館も建設し、スポーツ合宿の団体客の受け皿となった。

 周りの宿泊施設も設備投資に乗り出し、大型化が進むと、団体客の宴会向けにセクシーなスーパーコンパニオンパックを導入したり、冬場の閑散期に大衆演劇と観劇する老人会の無料送迎(県外にも対応)を始めた。

 それらのサービスも、周囲が追随し始めると差別化が図れなくなり、売り上げが落ち込んだ。団体旅行から個人旅行へとトレンドが移ったことも痛手となった。

 経営は創業者(室井家)の家族が行っていたが、外部から経営者を招くようになった。2009年には運営会社を株式会社にして、元プロ野球選手・小野剛氏を社長として招いた。売り上げは順調に見えたが、同温泉の事情通によると、室井一族で経営していたころの決算内容などをめぐり、内部でゴタゴタが続いていたという。

 それからまもなくして震災・原発事故が発生。賠償金が支払われて立て直しを図ると思われたが、しばらくすると休業に入った。

 同温泉の事情に詳しい人物は、「休業と言っても、実質は廃業。旅行代理店や取引業者は『いきなり連絡が取れなくなった。未払い金があるがこのまま踏み倒されるだろう』と嘆いていた。大きな被害を被ったところもある」と指摘する。

 その後は営業再開することなく、増築により巨大化した廃墟が温泉街に残されることになった。冒頭で触れたユーチューブ動画に「芦ノ牧の迷宮」というタイトルが付いているのはそのためだろう。

 こうした経緯もあり、動画は芦ノ牧温泉の関係者の間で話題になり、視聴した人も多かったようだ。ただ、「物件の所有者様や管理者様から敷地内及び建物内の立入許可を頂いたうえで内部の現状調査を行っております」という表記に疑問の声も出ている。というのも、地元関係者は誰も立入許可をしていなかったからだ。

 芦ノ牧温泉の温泉街の土地は地元住民の入会地となっており、住民で組織される㈲芦ノ牧温泉開発事業所が一括で管理している。だが、同社の関係者は「こちらに問い合わせなどはありませんでした。うちでは一度、財産管理を依頼されている弁護士に断って、警察立ち会いのもとで入ったぐらいです」と述べる。

 芦ノ牧温泉観光協会などにも問い合わせはなかったという。

 同ホテルの建物の不動産登記簿を確認したところ、所有権は㈱芦牧ホテルのままだったが、2012年に会津若松市、令和2年に埼玉県に差し押さえられていた。それらはすぐ解除されたものの、同年12月に会津若松市が差し押さえ、その後は解除されていない。おそらく固定資産税が納付されていないと思われる。

運営会社社長は取材に応じず

運営会社社長は取材に応じず

 そこで会津若松市観光課に確認したが、「市の方では差し押さえただけで建物の管理はしていない。ユーチューバーから問い合わせも来ていない」とのことだった。

 同ホテル関連の建物・土地には根抵当権者・会津信用金庫による極度額8000万円の根抵当権が設定されていた。そこで同金庫の担当者にも確認したが、市観光課同様、管理には携わっておらず、問い合わせも来ていないということだった。

 芦ノ牧ホテルはほぼ廃業状態だが、運営会社の㈱芦牧ホテルは現在も存続している。社長を務める小野氏は埼玉県狭山市で㈱GSLという会社を経営している。2008年設立。資本金3000万円。主な事業は飲食(焼肉店「ベイサイドTOKYO牧場」の展開)、野球教室(プリマヴェーラ・リオーネ)の運営など。民間信用調査機関によると、2022年9月期の売上高は1億8000万円(ただし、3期連続で同じ数字)。

 SNSは数日に一度更新している。10月4日にはX(旧ツイッター)で《ドラフト同期の阿部慎之助が読売巨人軍の監督となった。凄い事である》とつぶやき、過去の写真を掲載していた。週刊文春2022年5月19日号に掲載された横浜高校野球部でのパワハラ指導に関する記事では、被害者の父親として小野氏が取材に応じている。

 にもかかわらず、芦ノ牧ホテルに関しては建物を廃墟のまま放置し、地権者である㈲芦ノ牧温泉開発事業所に地代を支払っていないというから驚く。

 ユーチューバー・蓮水氏に立入許可を出したのか、税金・地代の支払いを滞納していることについてどう考えるのか、そして今後、「芦ノ牧の迷宮」と化した廃墟をどうするつもりなのか。小野氏の連絡先を入手し、繰り返し電話をかけたが、つながらなかった。そこで、狭山市の㈱GSLを直接訪ねたところ、同社営業企画・野球塾講師の米田和弘氏が応対した。

 米田氏が差し出した名刺には「芦ノ牧ホテル」の文字があった。そこで同ホテルについて話を聞きたいと伝えると、「小野は東京・練馬の事務所にいたり、出張していることが多い。芦ノ牧ホテルは老朽化や地震の影響も含めて基本的に廃業している状態ですね。小野に伝えておきます」とあっさり答えたが、10日以上経っても電話はなかった。

 あらためてメールで小野氏に取材を申し込んだが返事がなかったので、米田氏に連絡を取ったところ、「小野には伝えましたが、都合が合わないとのことでした。申し訳なかったです」と話した。都合が悪い取材には応じないのだろう。

 一方で、ユーチューバーへの立入許可に関しては「担当弁護士の対応は小野が担当しているので私の方では分かりかねますが、私が把握している限り、ユーチューバーの立ち入りについて会社として許可を出したことはありません」と話した。

 冒頭のユーチューバー・蓮水氏はいったい誰に許可を取ったのか。X(旧ツイッター)を通して質問を投げかけたところ、以下のような返信があった。

 《動画の制作、編集は全て私が行っておりますが企画や、所有者様、管理者様の調査や立入許可については私1人ではなく、当YouTubeチャンネルの調査部がメインで行っております。倒産物件なども多く、所有権移転などされていない物件が大半です。そのなかでの所有者様や管理者様を探すのは並大抵ではありません。芦ノ牧は、4物件のホテル旅館を撮影していますが、全て所有者様や管理者様と直接お会いしています。まだ未配信の物件も多数ありますが全て立入許可済みでの撮影を行っております》

 結局誰から許可を得たのかよく分からず、何か隠していることがあるのではないかと疑わざるを得ない回答だった。そもそも「調査部」としているが、企業などで大規模にやっているアカウントには見えない。小野氏、弁護士と連絡が取れなかったので断言はできないが、廃墟ホテルの権利関係が複雑になっていることを逆手に取り、あえてテーマに選んでいるようにも見える。

 そういう意味では〝限りなく黒に近いグレーな動画〟と思って見た方が良さそうだ。ほかの廃墟系ユーチューバーも推して知るべし。

廃墟ホテルが放置される理由

廃墟ホテルが放置される理由

 芦ノ牧ホテルの建物の窓ガラスには「不法侵入者を発見時、警察に通報いたします」と張り紙されており、鍵がかかっている。だが同温泉関係者によると、侵入経路があるようで、肝試しや動画配信目的で勝手に侵入する人が後を絶たない。

 芦ノ牧温泉には芦ノ牧ホテル以外にも新湯、元湯、美好館、ホテルいづみやなどの廃墟ホテルがあるが、こちらに関しても中に入った形跡があったり、電気が通っていないのに夜に明かりがついていたりするという。

 本誌昨年6月号「猪苗代〝廃墟ホテル〟で配信者が花火」という記事では、廃墟探索がユーチューバーにとって手軽に視聴回数を稼げる人気コンテンツとなっており、中には火災リスクお構いなしで、花火で遊ぶ動画もあったことを報じた。

 「芦ノ牧温泉に限らず、廃墟ホテル内を通っている配線を盗んで売りさばく業者もいるようです。実際、各温泉の観光協会などに問い合わせがあるようで、廃墟ホテルの前で怪しい車を見かけることもあります」(同温泉の事情に詳しい人物)

 廃墟化した旅館・ホテルが温泉街に残り続けることで、イメージ悪化につながるばかりか、実際に良からぬ輩が出入りしている、と。

 だからこそ、廃墟ホテルは解消した方がいいが、ひとたび廃業し廃墟化してしまうと、解体するのは難しい。所有者と連絡が取れなくなっている可能性が高いためだ。

 解体には億単位の金がかかり、所有者が必要額を捻出できないという事情もある。最近は解体費用が高騰しており、建物にアスベストなどが使われている場合は調査などの対策が求められるので、さらにハードルが上がっている。

 仮に高額な解体費用を負担して更地にしたところで100万円単位の価値しかないし、芦ノ牧温泉の場合、原状復旧して地権者(芦ノ牧温泉開発事業所)に返さなければならない。逆に建物を残したままにしておくと、固定資産税はかかるものの、建物の固定資産税価格は耐用年数が満了となってからは新築時よりかなり低くなるので、所有者は「大した税額ではないし、解体するより安上がりで済む」と放置するようになる。

 芦ノ牧ホテルのように固定資産税を滞納すれば、財産である不動産を当該自治体(芦ノ牧温泉の場合は会津若松市)に差し押さえられ、競売にかけられる。ただ、それに当たって行われる不動産鑑定には100万円単位の金額がかかるという。競売で売れる見込みがある物件ならともかく、誰も買う見込みのない廃墟ホテルにそれだけの経費をかけると自治体の損失につながりかねないため、担当者も対応に及び腰となる。

 こうして廃墟ホテルが放置されていくわけ。

 芦ノ牧温泉のある宿泊施設関係者は「今後も廃墟化が進む可能性が高い」と語る。
 「丸峰観光ホテルの経営者が創業者一族からみちのりホテルズに代わりましたが(本誌9月号参照)、他の宿泊施設も経営者が大手・県外資本に代わったところが多い。安く買い叩けば、設備投資分の回収を考えなくて済むので、宿泊料金を安く抑えられ、より集客を図りやすいという狙いがあります。今後はインバウンド・富裕層狙いの高級路線と、大手資本による低価格路線の二極化が進むと予想されます。その流れに取り残された中途半端な宿泊施設は力尽き、廃墟化がさらに進むかもしれません」

東山温泉にも4つの廃墟ホテル

ホテルキャニオン跡
ホテルキャニオン跡

 芦ノ牧温泉と並び同市を代表する温泉街・東山温泉でも、新栄館、ホテルキャニオン、アネックスシンフォニー、玉屋と4つの廃墟ホテルがある。新栄館は芦ノ牧ホテル同様、休業中だが、残り3つは運営会社が倒産した。

 市によると解体費用の概算は合計約10億円(新栄館約1億4500万円、ホテルキャニオン約3億5000万円、アネックスシンフォニー約2億9700万円、玉屋約2億1000万円)。ただ前述した通り、解体費用が高騰しているのでさらに金額が上がっている可能性が高い。

 会津若松市は昨年、東山温泉、芦ノ牧温泉が今後10年間で目指すべき方向性などを取りまとめた会津若松市温泉地域景観創造ビジョンとそれに伴うアクションプランを策定した。その中で、東山温泉の4つの廃墟ホテルについて、令和14年度までに解体する方針が示された。撤去費用については《地域の事業者も負担をしながら国等の補助金を活用する》と示された。

 ここで言う補助金とは観光地の施設改修や廃屋の撤去などを支援する「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値事業(旧・既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業)」のことだ。

 事業によって補助率、補助上限額が定められており、廃屋撤去は補助率2分の1、補助上限額1億円となっている。

 解体後の土地利用に関しては当初より緩和されており、公園緑地や足湯、オープンスペース、景観に配慮した駐車場などを整備する目的で解体する場合も補助対象になる。

 休業中の新栄館の目の前には「くつろぎ宿 新滝」が立地する。同旅館を運営する㈱くつろぎ宿の深田智之社長は「自己負担分は当社が負担してもいいので、行政が音頭を取ってもっと早く解体に着手することを期待しています」と語る。

 震災後の2013年に廃業した旅館・高橋館の建物が倒壊したまま放置される問題が起きたとき、新滝では約2000万円を負担し解体、顧客用の駐車場として整備し直した。この件も加えてこれまで5件の建物を自己負担で解体し、合計1億円超を投じてきたという。

 「原瀧さんも数千万円かけて廃屋の解体に協力し、跡地を食事会場や駐車場として活用している。このほか安全対策や景観対策など民間レベルで話し合って取り組んでいます。ただ、それ以上に廃墟の負のイメージは大きい。行政は『所有者がいるから手を出せない』などの理由で動きが鈍いですが、お金ならわれわれ民間が負担しても構わないので、もっと積極的に動いてほしい」(深田氏)

 深田氏によると、東山温泉には年間約50万人が宿泊する。平均単価1万5000円と考えると、50~100億円の売り上げが生まれる。たとえ解体費用に数億円かかるとしても、民間・行政が連携し、数年かけて取り組めば、廃墟ホテルをすべて解体して温泉街の景観を整備することも実現不可能ではない、と。

 これに対し、会津若松市観光課の担当者はこのように話す。

 「地元で解体費用を持つからすぐ解体しましょうと言われても、実際に解体を進めるとなれば、清算人を立て、裁判所での手続きを進めなければならない。差し押さえたと言っても所有権が移ったわけではないので、簡単に進まないのが実際のところです」

 東山温泉の関係者からは「コロナ禍でダメージを受け、業績が低迷しているところも多い中、協力して解体費用を出そうと言っても意見をまとめるのは難しいだろう」、「過去に行政主導で同ビジョンのようなものが何度も作られたが、結局うまくいかなかった。今回もうやむやのうちに終わりそうだ」と冷ややかな意見も目立った。

鍵を握る官民の連携

会津若松市役所
会津若松市役所

 こうして見ると、廃墟ホテル問題の解決は簡単ではなさそうだが、芦ノ牧温泉では3年前、宿泊施設が協力してお金を出し合うことを決め、前述の補助事業に申請し採択された経緯もある。

 ホテルいづみや跡を解体し、約2700平方㍍の敷地を使ってグランピング施設、貸し切りの温泉浴場を備えた複合レジャー施設を整備するというもの。解体費用は約1億円。裁判所などの手続きを進め、芦ノ牧グランドホテルを運営するベンチャラー(新潟市)を中心に約5000万円を自己負担する方針がまとまった。

 ところが、長引くコロナ禍で売り上げが激減したため、計画はストップ。資金繰りを優先し、申請を取り下げたのである。ただ、裁判所などの手続きは済んでおり、各ホテル・旅館の業績が回復次第、再挑戦できるという意味では明るい兆しと言えよう。

 芦ノ牧温泉の関係者は「丸峰観光ホテルは経営者が変わって、地域と協力して盛り上げようというムードが出てきた。これからの展開に期待したい」と語る。

 会津若松市観光課によると、昨年の宿泊者数は東山温泉約41万5000人、芦ノ牧温泉約12万2000人。コロナ禍前の2019年の宿泊者数は東山47万3000人、芦ノ牧21万4000人。20年前の2002年は東山50万2000人、芦ノ牧34万6000人。じりじりと減っていたところをコロナ禍が直撃した格好だ。

 各ホテル・旅館は燃料費高騰などを反映して料金を上げているので、見かけ上の売り上げはそれほど落ち込んでいないとのことだが、「3年にわたり売り上げが低迷したダメージがどのように出るか分からない」(ある宿泊施設経営者)。こうしたときだからこそ、将来を見据えて温泉街の景観改善に取り組むことが重要になるのではないか。

 島根県津和野町では廃墟ホテル問題を解決するため、所有者と相談し、土地と建物を合わせてタダ同然の1000円で取得。約1億5000万円かけて建物の撤去と公園の整備を進めた。関係者の熱意とアイデア次第でやりようはあるということだ。

 8月に4選を果たした室井照平市長を中心に、市と温泉街がいかに一致団結して、問題解決に挑めるかが鍵を握る。

志賀 哲也

しが・てつや

1980(昭和55)年生まれ。福島市出身。
大手食品スーパーで勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
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