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  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

    【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

    【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 飯坂・吉川屋社長が選んだお薦めマンガ

    【飯坂】穴原温泉・吉川屋【畠正樹】社長が選んだ【おすすめマンガ】

     福島市飯坂町の穴原温泉・吉川屋では、4月1日、館内に名作漫画を並べたブックラウンジを開設した。同旅館の畠正樹社長(45)にラウンジ設置の狙いやおすすめ漫画、さらには飯坂温泉をモチーフとしたご当地キャラクター「飯坂真尋ちゃん」を用いた地域振興の取り組みについて語ってもらった。(志賀) 温泉旅館内の遊休施設を漫画コーナーに改装 ブックラウンジ「ふくろう」を紹介する畠社長  吉川屋は1841(天保12)年創業の温泉旅館。客室数126。天皇・皇后をはじめ皇室が利用する宿としても知られ、旅行新聞新社主催の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選2023」で全国総合11位に選ばれた人気の宿だ。 そんな同旅館の7代目社長・畠正樹社長は大の漫画好きで、4月1日には約4000冊の漫画を備えた宿泊者向けブックラウンジ「ふくろう」をオープンした。開設の狙いを畠社長はこのように語る。 「もともとは宿泊客の宴会の二次会で使われていたクラブだったが、コロナ禍前から稼働率が低く、景色が良い場所なので、もったいないと考えていました。コロナ禍で団体旅行から個人・少人数旅行への切り替えが急速に進む中、思い切ってクラブをなくし、かねてからの夢だった漫画専用のブックラウンジを整備することにしたのです」 福島市が観光関連事業者をサポートするために設けた「周遊スポット魅力アップ支援事業」に採択され、約1000万円かけてリニューアル。ブックラウンジと併せて、バーだった場所にはボルダリング設備を備えたファミリースペース「あそびば」を整備した。さらにフロント脇には、蛇口をひねるとモモやブドウ、リンゴなど季節ごとに違うジュースが味わえるジューススタンドを設置した。 フルーツジューススタンド  各施設のロゴやジューススタンドのイラストデザインは、福島学院大情報ビジネス学科の学生が担当した。 特筆すべきは、ブックラウンジの漫画は、畠社長自身が厳選したものだということ。「古本屋チェーンのブックオフを通してまとめ買いし、過去に読んで面白かったものを中心に選びました。和食や温泉に加え、日本の文化である漫画も旅館で楽しめるというコンセプトです。旅先で人生を変える1冊に出合うというのも、最高の体験だと思います」 実は畠社長、大学時代から本格的に漫画を描いており、出版社に持ち込みまでしていた異色の経歴の持ち主。果たしてどんな作品をセレクトしたのか。かつて夢中になった作品、衝撃を受けた作品などをいくつか紹介してもらった。 ①『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)既刊37巻 HUNTER×HUNTER(1)posted with ヨメレバ冨樫義博 集英社 1999年01月16日頃 楽天ブックスAmazon  少年ゴン・フリークスとその仲間たちの活躍を描く冒険活劇。 「『面白い漫画』という点では間違いなく3本の指に入る。読者をワクワクさせる物語・伏線の作り方は神クラス。漫画にはさまざまな表現があるが、シンプルな面白さという点で頭一つ抜けています」 ②『BASTARD!!』(萩原一至、集英社)既刊27巻 BASTARD!!(1)posted with ヨメレバ萩原一至 集英社 1994年08月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazon  魔法使いダーク・シュナイダーが戦い続けるファンタジー作品。 「物語もさることながら、圧倒的な画力による精密な作画は週刊連載レベルではない。中学生のころから読み始め、一番影響を受けた作品と言っても過言ではありません。『新世紀エヴァンゲリオン』が話題になる前から、宗教をテーマにしていたのも新しかったと思います」 ③『プラネテス』(幸村誠、講談社)全4巻 プラネテス(1)posted with ヨメレバ幸村誠 講談社 2001年01月22日 楽天ブックス楽天koboAmazon  スペースデブリ(宇宙ごみ)の回収業に従事する青年が、自分と向き合いながら成長していく姿を描く、新感覚のSF作品。 「大学時代、漫画家を夢見てオリジナル作品を漫画誌編集部に持ち込んだが、評価されることはなく、『もっと人間を描け』とアドバイスされた。20歳そこそこで人間の深みなんて表現できるわけがない。人生に迷っているときに読んで心に染みました。青春を代表する1冊です」 「大河ドラマ超える傑作」 畠社長が挙げてくれたお薦め漫画 ④『ゴールデンカムイ』(野田サトル、集英社)全31巻 ゴールデンカムイ 1posted with ヨメレバ野田サトル 集英社 2015年01月19日頃 楽天ブックス楽天koboAmazon  明治末期の北海道・樺太を舞台に、アイヌの埋蔵金をめぐって戦うサバイバル漫画。 「漫画アプリで全巻無料になっているときに知って夢中で読み、本棚に入れることを決めました。徹底した時代考証でアイヌの文化を描きつつ、しっかりストーリーを盛り上げる。個人的には大河ドラマを超えた傑作。日本の漫画の価値は多様性にある、とあらためて感じました」 ⑤『攻殻機動隊』(士郎正宗、講談社)全3巻 攻殻機動隊(1)posted with ヨメレバ士郎 正宗 講談社 1991年10月02日 楽天ブックス楽天koboAmazon  電脳化・サイボーグ技術が発達した未来の日本で、デジタル犯罪に対応する「公安9課」が奔走する物語。 「20年以上前の作品ですが、インターネットが発達した現在の問題を描いていることに驚かされます。アニメ版と合わせて多くのクリエイターに影響を与え、その遺伝子はさまざまな作品に引き継がれている。そういう意味では、日本の漫画・アニメ文化を象徴する作品です」 これ以外にもさまざまな作品を選び、熱い思いを語ってくれた畠社長(写真参照)。ブックラウンジのソファーにはスマホなどが充電できるUSBポートが設置されており、時間を気にせず快適に過ごすことができる。まさに漫画好きの畠社長の理想が反映されていると言える。 今後の展望に関しては「自分の思い出の1冊に再会すると自然と会話が広がるもの。漫画好きな人同士がコミュニケーションを取る場、新たな作品と出合う場になってほしいです。イベントや朗読会の場として活用することも検討していきたい」と明かした。 同旅館のブックラウンジが、福島市におけるアニメ・漫画文化の情報発信地となっていくかもしれない。 漫画以外にもアニメ、ゲームを愛する〝オタク〟であることを隠さない畠社長。その熱量は思わぬ形で経済効果を生みつつある。それが「飯坂真尋ちゃん」の取り組みだ。 全国の温泉をモチーフとしたキャラクターをつくり、漫画・小説・音楽などを展開する「温泉むすめ」というプロジェクトがある。エンバウンド(東京都、橋本竜社長=郡山市出身)が手がける企画だが、その中で飯坂温泉代表として制作されたのが「飯坂真尋ちゃん」だった。 飯坂温泉観光協会に立ち寄ったファンの一言でその存在を知った畠社長。「地域を、温泉地を沸かせたい」という同プロジェクトの理念に共感し、公式に応援することを決めた。 青年部や地域を巻き込みながら、「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」を立ち上げ、2019年2月には、観光協会に等身大パネルを設置。地元商店とコラボしたデザインのイラストやオリジナルグッズも制作した。同年9月には架空のキャラクターながら飯坂温泉特別観光大使に就任し、担当声優の吉岡茉祐さんのトークイベントが開催された。 2020年に「真尋ちゃん音頭」のクラウドファンディングを実施したところ、全国のファンから約360万円の支援を受けた。2022年に行われた生誕祭では、さまざまなコラボデザインの中からお気に入りを選ぶ「飯坂真尋ちゃん総選挙」が行われた。畠社長によると、こうした企画ができるほど「温泉むすめ」のコラボデザインが作られた温泉地はほかにないという。 福島交通飯坂線の飯坂温泉駅前には「飯坂真尋ちゃん」の大きな看板が立てられた。温泉街の中にはラッピング自販機が設置され、「真尋ちゃん神社」が開設された。ついには、スマホのGPSやカメラと連動し、「飯坂真尋ちゃん」が声と動きで飯坂温泉をガイドしてくれるサービスが、観光庁の補助事業で展開された。架空のキャラクターが、現実に存在するアイドルのようになりつつある。 ファンと共に地域振興 飯坂真尋ちゃん(Ⓒ️ONSEN MUSUME PROJECT)  年1回の声優トークイベントには約800人のファンが訪れ、宿泊、飲食、土産品購入などでお金を落とす。地元の新聞・テレビも注目し、福島学院大学や地元企業とも連携。盛り上がりに対応するため、同プロジェクトでは1、2カ月に1回、会議を行い、地域内での連携を深めている。「飯坂真尋ちゃん」をきっかけとした好循環が広がっている。 「もともと温泉むすめは『温泉地の神様が地域を盛り上げるため、人の姿となって、アイドル活動をしている』という設定。『飯坂真尋ちゃん』はまさしく地域を盛り上げ、われわれに一体感・成功体験を与えてくれました」(畠社長) 活動を続けるうちに、「飯坂真尋ちゃん」をモチーフとした痛車(アニメキャラなどがあしらわれた車)やコスプレ、同人誌即売会など、さまざまな〝オタク向けイベント〟も開催されるようになった。これまでの活動を通して、〝オタクに理解がある温泉街〟として認識されたということだろう。 その中心にいたのは、〝オタク文化〟を愛し、誰よりも「飯坂真尋ちゃん」を推している畠社長だ。 「オタクは自分の趣味を静かに楽しむ一方で、関心がある分野への出資を惜しまないもの。温泉地にとってとても良いお客さんであり、先入観を持たずに多様な受け入れをしていく必要があります。今後もファンととともに、『飯坂真尋ちゃん』の取り組みを盛り上げ、地域振興につなげていきたいと思います」(同) かつて漫画家になる夢をあきらめた青年はいま、日本一〝オタク愛〟が深い温泉旅館の社長として、魅力的な旅館づくりと温泉街の振興に奔走している。 楽天トラベルで吉川屋の宿泊予約をする

  • 【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲【山形屋商店】

    【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲

     震災・原発事故、コロナ禍、2年連続で発生した福島県沖地震により、相馬市の企業は深刻なダメージを受けている。そうした中、被災しながらも高品質な商品づくりに努め、全国最高賞を受賞した醤油醸造業者がある。(志賀) 災害乗り越えて全国最高賞受賞 山形屋商店  醤油メーカーの業界団体・日本醤油協会では毎年、全国の醤油を種類別に評価する「全国醤油品評会」を開催している。この品評会で昨年9月末、相馬市の醸造業者・合資会社山形屋商店の商品が、最高賞の「農林水産大臣賞」を受賞した。  同社が一気に脚光を浴びるようになったのは、今回受賞した醤油が、県内ではあまり知られていない淡口醤油だったためだ。穏やかな味わいで、食材の持ち味を引き出すため、精進料理、京料理、懐石料理などに使われる。ただ、味や香りを加える濃口醤油と比べると評価しづらい面があり、過去6年間、淡口醤油から最高賞は出ていなかった。加えて北海道・東北地方では淡口醤油を使う食文化が極端に少なく、過去に淡口醤油で最高賞を受賞した県内醸造業者は一つもなかった。 同社が出品した「ヤマブンうすくち醤油」は食欲をそそる豊かな香り、美しい色と艶、まろやかな甘みと旨み、後味の良い風味と、バランスが優れている点が高く評価されたという。見事、醤油の世界で〝白河の関越え〟を果たした格好だ。 同社は過去、主力商品の濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」でも4度にわたり最高賞を受賞しており、県内最多の受賞歴を誇る醸造業者となった。 「品評会に出品するのは全国展開している大手・中堅メーカーで、うちみたいな零細の醸造業者には縁がない世界だと思っていました」 こう笑うのは同社代表社員で5代目店主の渡辺和夫さん(53)だ。 最高賞を受賞した「ヤマブンうすくち醤油」を掲げる渡辺和夫さん  同社は1863(文久3)年創業で、米麹、味噌、醤油などを扱ってきた。もともと大東銀行の行員だった渡辺さんは、2001年に婿入りしたのを機に同社に入社。義理の父である先代店主・正雄さんのもとで、10年にわたり修行を積んでいた。そうした中で遭遇したのが2011年の震災・原発事故だ。 ガラス瓶に詰められた出荷前の醤油1500本がすべて落下し、タンクの中身もこぼれて、床は黒く染まった。翌日以降片付けに追われ、工場は配管の組み直しを余儀なくされた。原発事故発生直後には従業員を避難させ、家族だけが残って工場内を片付けしながら、店を訪れた人に食べ物などを分けた。 1カ月後、避難先から従業員が戻って来たのに合わせて生産・販売を再開したが、放射能汚染を心配する声は大きく、地元旅館や料理店との取引は一時ストップとなった。しばらくすると「ヤマブンの醤油じゃないと料理の味が決まらない」と取引が復活したが、県外企業との取引はそのまま消滅した。 2012年には、福島第一原発敷地内の配管から汚染水12㌧が海洋に漏れていたことが発覚。福島県産品への不安が一気に高まった。さらに同年には先代店主・正雄さんが亡くなり、渡辺さんが5代目店主となった。普通なら次の一手をどう打つべきか迷いそうなところだが、渡辺さんはひたすら商品の品質向上に向けた取り組みに挑戦した。 「二本松市の福島県醤油醸造協同組合から『いまこそ品質向上に取り組むべき。勉強会を開いて品評会で最高賞を目指しましょう』とお声がけいただき、震災・原発事故から半年後の2011年10月26日、勉強会(福島県醤油出品評価会)に参加しました。勉強会のモデルになったのは県清酒組合が立ち上げた『県酒造アカデミー』です。県ハイテクプラザ研究員の指導のもと、酒蔵のレベルアップ、知識・技術の共有に成功し、『全国新酒鑑評会』で多くの金賞を受賞するようになりました(その後、都道府県別金賞受賞数で史上初の9回連続日本一を達成)。それを参考に、醤油業界でも醸造業者、同組合、ハイテクプラザの3者によるレベルアップを図ったのです」 勉強会で製造方法を研究 福島県醤油醸造協同組合 勉強会の様子(同組合提供)  勉強会に集まったのは18業者の経営者・役員・技術者など。渡辺さん同様、比較的若い世代が多かった。品評会で上位に入った醤油を集め、商品の原材料を比較しながら、利き味(色・香りの確認)をした。ハイテクプラザの主任研究員が成分を分析・数値化し、それを基に上位入賞醤油の色、香り、味、風味などについて仲間とともに議論を交わした。 本来、醤油蔵にとって醤油の製造方法は〝門外不出〟。同業者同士の情報交換などもってのほかだが、県内では醸造業者が古くから連携してきた経緯があった。 醤油の工程は以下の5つに分けられる。 ①原料処理(蒸した大豆と、炒って粉砕した小麦に、麹菌を植え付ける) ②麹造り(温度や湿度を変えながら麹菌を育て、醤油麹をつくる) ③諸味造り(食塩水を加えた「諸味」をつくり、半年かけて発酵させる) ④圧搾(熟成した諸味を搾り、醤油の元となる「生揚げ」をつくる) ⑤火入れ(生揚げに熱を加えて発酵を止め、醤油の色・味・香り・風味を決める) 実は、県内の醤油醸造業者ではこの5工程のすべてをやっているわけではない。①~④までを醸造業者の共同出資で設立された福島県醤油醸造協同組合が一手に担い、でき上がった生揚げを配送し、各業者は醤油づくりの生命線である⑤火入れに集中できる体制となっているのだ。 資本投下が大きく技術力が求められる生揚げの製造を1カ所で行うことで、各業者の負担を減らし、品質向上にもつなげる狙いがある(一方で、すべての工程を自社内で行っている県内醸造業者もある)。 同組合は1964(昭和39)年に設立されたが、福島県で最初に始まったこの仕組みは「生産協業化方式」と呼ばれ、その後、各地に広まっていった。 こうした経緯があったからこそ、震災・原発事故という危機に直面した際、自然と一致団結する機運が高まったのかもしれない。 同組合の工場長で、勉強会の呼びかけ人である紅林孝幸さん(52、農学博士)は「震災・原発事故直後、県内の多数の酒蔵が全国新酒鑑評会で金賞を取っているのを見て感銘を受けました。危機に直面しているいまこそ醤油業界も一つになり、チャンピオンを目指していかなければならないと考え、組合員に勉強会開催を呼びかけました」と振り返る。 紅林孝幸さん  勉強会は品評会直前の5月と直後の10月下旬の年2回、定期的に開催されるようになった。渡辺さんは参加するうちに「福島県の醤油が日本一の安心安全な品質であることを示したい」と考えるようになり、勉強会で学んだ成果を持ち帰っては、伝統の製法に生かす方法を模索した。 地道な取り組みが実を結び、2013年の品評会に出品した濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」は最高賞に選ばれた。同商品は以後14、16、17年にわたり、農林水産大臣賞を獲得した。 こうして高い評価を得た同社の醤油だが、その後前述の通り、ハードルが高い淡口醤油で品評会に挑戦することになった。なぜあえて評価されにくい商品を出品したのか。 その理由を渡辺さんは「昨年3月16日に発生した福島県沖地震がきっかけだった」と明かす。 福島県沖地震で相馬市は震度6強の揺れに見舞われ、多くの企業や住宅が被害を受けた。今年2月時点での公費解体の申請数は1162棟。公共施設の復旧事業は現在も進められている。同社の醸造工場も全壊判定となり、醤油を製造する機械や配管が損傷した。一昨年2月の地震で被害を受け、復旧工事中だっただけに渡辺さんのショックは大きかった。 一時は廃業も覚悟したが、このときも地元飲食店などから「ヤマブンの醤油がなくなると困る。続けてほしい」と温かい言葉をかけられた。勇気づけられた渡辺さんは、雨漏りなどの応急処置を自分たちで行い、「納品を遅れさせてはならない」と復旧作業に全力を注いだ。 4月26日、機械や配管が復旧し、ようやく製造を再開できた。最初に火入れしたのは、そのときたまたま在庫が少なかった淡口醤油だった。 香りとうまみをより引き出すため、普段より火入れの温度を1・3度高く設定した。自信作だったが、地震直後だっただけに、品質の高い醤油ができているか不安だった。そこに、品評会への出品案内が届いた。せっかくなら、品評会の審査員36人全員の評価を聞きたいと考えた。 事前に同組合の紅林さんに相談して利き味をお願いしたところ、「とても良い」と太鼓判を押された。それならばと出品したところ、9月30日の授賞式で最高賞受賞が発表された。 レベルの高さを証明  渡辺さんは、受賞は「チーム福島」の力であることを強調する。 「醸造業者、醸造組合、県ハイテクプラザの『チーム福島』で品質向上に取り組んできた結果だと捉えています。福島県の醤油が日本酒に負けないぐらい高いレベルであることを証明できたのが何よりうれしい。受賞を重ね、いまも続く風評被害の払拭につながっていくことを期待しています」 実は、昨年の品評会では、県醤油醸造協同組合が製造する「香味しょうゆ」も「こいくちしょうゆ」部門で農林水産大臣賞を受賞した。 同組合では、各醸造業者に代わって、難易度が高かったり組合員の負担が大きい商品を製造してきたが、今回受賞した商品は新たに開発した商品だった。 というのも、前出・紅林さんは、渡辺さんら醸造業者関係者とともに勉強会を続ける中でおいしい醤油づくりに関する〝仮説〟を立てていた。 「これまで品評会で上位に入った醤油の傾向を見ていると、『減塩志向が強まっており、マイルドでまろやかな味わいが受け入れられやすい』、『香りが長持ちする醤油が高く評価される』といった法則性が見えてきた。これらを実現した醤油を作れば品評会で上位に入るのではないかと考えました」 醸造業者にはそれぞれの伝統があるので、いきなり製法を変えるわけにはいかない。そこで、仮説を実証する意味で、これまでのテイストを変えた濃口醤油の新商品を製造し、品評会に出品したところ、山形屋商店と並んで「日本一の醤油」の評価をもらった。 品評会授賞式と併せて行われたトークショーでは、一般社団法人日本たまごかけごはん研究所の上野貴史代表理事が「最高賞受賞5商品のうち、『香味しょうゆ』が一番卵かけごはんに合う」と評価したほど。震災・原発事故直後から続けてきた勉強会の方向性が間違っていないことを証明する形となった。 商品のレベルの高さを証明した山形屋商店は、醤油の魅力を広める活動にも積極的に取り組んでいる。 最近では、福島・宮城両県の港町の醸造蔵7社と宮城学院女子大(宮城県仙台市)による共同企画「港町のしょうゆ屋」プロジェクトに参加した。マグロやイカ、ヒラメなど港町でよく食べられている海産物に合う醤油を開発し、共通ボトルで販売するというもので、同大現代ビジネス学部の石原慎士教授が呼びかけて3月11日に販売が開始となった。 同プロジェクトの代表を務める渡辺さんはプロジェクトの狙いを「港町によって水揚げされる海産物の種類は違うし、醸造業者は地元の食文化に合わせて味を変えている。魚食文化を支える〝地醤油〟にスポットライトを当て商品化しようというものです」と話す。 いわきのメヒカリは濃厚なだし醤油、マグロは木桶で作った本格的な丸大豆醤油、イカはさっぱりした昆布醤油で味わう。同社は「『ヒラメ』に合ううまさを引き出すしょうゆ」として前出の「ヤマブンうすくち醤油」を提案した。「ヒラメは白身魚でさっぱりして歯ごたえがある。繊細な旨味と甘味を淡口醤油が引き出してくれます」(渡辺さん)。 こうして聞くと、港町の食堂で提供される「刺身定食」、「煮魚定食」は、その場所ごとに違う味が楽しめるメニューということが分かる。 もっと言えば、全国には1100もの醤油醸造業者があり、作られる醤油にはそれぞれ特徴がある。料理本のレシピなどに「醤油大さじ1杯」などと書いてあっても、使う醤油が異なれば料理の仕上がりは全く違うかもしれない。そういう意味で醤油は奥深い調味料であり、日本の食文化を象徴する存在といえよう。 海洋放出への懸念  頻繁に地震被害を受ける中で、新たな社屋建設計画はあるのか尋ねると、渡辺さんは「福島県沖地震と同じ規模の地震が再び発生するとも報道されていますが、コロナ禍ということもあって、現在の場所に数千万円かけて新しい工場を建てる考えも余裕もありません。直しながらやれるだけやっていこうと腹をくくっています」と答えた。 「県内の醤油出荷量はいまも震災前の半分に落ち込んでいます。他県でこうした動きは確認されていないので、やはり風評被害の影響ということでしょう。だからこそ、高品質な醤油をつくり続け、少しでも多くの人に届けていきたいと考えています」 そのうえで心配なのが、ALPS処理水の海洋放出の行方だという。 「福島第一原発の敷地内からALPS処理水が海洋放出されれば、うちのような港町の醤油醸造業者はさらに打撃を受ける。福島県の漁業者はこれまで試験操業を余儀なくされ、水揚げ量は震災前の2割程度に過ぎない。少しずつ魚価が上がってきており、ようやく本格操業というタイミングで海洋放出が行われれば回復基調が落ち込むでしょう。漁業者の立場に寄り添うということであれば、(海洋放出ではなく)別の方法を検討すべきではないかと思います」 政府・東電は今春から今夏にかけて海洋放出を実施する方針を示し、着々と準備を進めているが、浜通りの魚食文化を支える水産業の〝関係者〟から、こうした声が上がっていることを認識すべきだ。 災害で幾度も苦境に立たされながら、その都度立ち上がり、港町の食文化を支え続けている山形屋商店。今後も「チーム福島」での醤油づくを継続し〝醸造王国ふくしま〟の存在を示し続ける。渡辺さんの挑戦は始まったばかりだ。 農林水産大臣賞を受賞したヤマブンの本醸造特選醤油を購入する

  • 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

    郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

     1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場  郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所     要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 (前田公園前十字路)見通し市53大平町字前田116-2見通し市54大平町字御前田53見通しなし55大平町字御前田59-45見通し市56大平町字向川原80-4見通しなし57荒井町字東195見通し市58阿久津町字風早87-2見通し市59舞木町字岩ノ作44-6見通し市60町東一丁目245見通しなし61町東二丁目67見通しなし62町東三丁目142-2見通し市63新屋敷1-91見通し市64富田町字墨染18見通し公安65富田町字十文字2見通し市66富田町字大十内85-246ヒヤリ市67富田町字音路90-20見通し市68富田東二丁目1優先市69富田町字細田85-1優先公安70富田町日吉ヶ丘53優先市71大槻町字西宮前26ヒヤリ公安72大槻町字南反田18−3ヒヤリなし73大槻町字室ノ木33-8見通し市74大槻町字原田東13-93ヒヤリ市75大槻町字葉槻22-1優先市76笹川一丁目184-32見通し市77安積一丁目155見通し市78安積一丁目38見通しなし79安積町二丁目350番1見通し公安80安積町日出山字一本松100番18見通しなし81三穂田町川田二丁目62-2見通し市82三穂田町川田三丁目156見通し市83三穂田町川田字駒隠1-4見通し公安84三穂田町川田字小樋41見通し公安85三穂田町川田字北宿3-2見通し公安86三穂田町野田字中沢目9見通し公安87三穂田町鍋山字松川53見通しなし88三穂田町駒屋二丁目62ヒヤリ市89三穂田町駒屋字上佐武担2-2見通し公安90三穂田町八幡字北山10-13見通し公安91三穂田町八幡字北山7-12見通しなし92三穂田町富岡字下茂内56見通し市93三穂田町富岡字下間川67ヒヤリ公安94三穂田町富岡字藤沼18-9見通しなし95三穂田町山口字横山5-4見通しなし96三穂田町山口字川底原22優先公安97逢瀬町多田野字清水池125見通し市98逢瀬町多田野字上中丸56-1見通し市99逢瀬町多田野字家向61見通し市100逢瀬町多田野字柳河原77-2優先市101逢瀬町多田野字南原26見通し市102逢瀬町河内字西荒井123優先市103逢瀬町河内字藤田185見通し公安104片平町字庚坦原14-507優先市105片平町字元大谷地27-3優先市106片平町字森48-2優先市107片平町字新蟻塚99-5見通し市108片平町字樋下68優先市109東原一丁目44見通しなし110東原一丁目120見通し市111東原一丁目229見通し市112東原一丁目250見通し市113東原二丁目127見通し市114東原二丁目141見通し市115東原二丁目235見通し市116東原三丁目246ヒヤリ市117喜久田町字双又30-19見通し市118喜久田町堀之内字北原6-9優先市119喜久田町早稲原字伝左エ門原優先市120日和田町高倉字牛ケ鼻130-1優先市121日和田町高倉字鶴番367-1優先市122日和田町高倉字南台23-1見通し公安123日和田町梅沢字衛門次郎原123優先市124日和田町梅沢字衛門次郎原150-2見通し市125日和田町梅沢字新屋敷115-1見通し市126日和田町字鶴見坦139優先市127日和田町字鶴見坦88優先市128日和田町字鶴見坦156優先市129日和田町字沼田29-1見通しなし130日和田町字原町25-1見通し市131日和田町字水神前145優先市132日和田町字水神前169優先市133日和田町字水神前184優先市134日和田町字境田17優先市135日和田町字鶴見坦40-54見通し公安136八山田二丁目204優先市137八山田三丁目204優先市138八山田四丁目160優先市139八山田五丁目452優先市140八山田西二丁目242優先なし141八山田西三丁目149優先なし142八山田西三丁目164優先なし143八山田西四丁目9優先市144八山田西四丁目30優先市145八山田西四丁目83優先なし146八山田西四丁目179優先市147八山田西五丁目284優先市148富久山町八山田字細田原3-18見通し市149富久山町八山田字坂下1-1優先市150富久山町八山田字舘前103-2見通しなし151富久山町八山田字菱池17-4見通し市152富久山町久保田字本木93見通し市153富久山町久保田字我妻117優先市154富久山町久保田字我妻136優先なし155富久山町久保田字石堂35-4優先市156富久山町久保田字石堂22優先市157富久山町久保田字本木54-2見通しなし158富久山町久保田字我妻79-1見通し市159富久山町久保田字麓山115-3見通しなし160富久山町久保田字麓山54-3見通しなし161富久山町久保田字三御堂12-2優先市162富久山町久保田字三御堂15-1優先なし163富久山町久保田字下河原123-1優先市164富久山町久保田字下河原38-2優先市165富久山町久保田字古坦131-4優先なし166富久山町久保田字三御堂122-2優先市167富久山町久保田字三御堂129-10優先なし168富久山町福原字猪田29-1見通し市169富久山町福原字左内90-63見通し市170湖南町三代字原木1148優先市171湖南町三代字御代1155-2優先市172湖南町福良字畑田181-1優先市173湖南町舟津字ヲボケ沼1見通し市174湖南町舘字上高野52優先市175熱海町安子島字北原24-54見通し市176上伊豆島一丁目25見通し市177田村町小川字岡市6見通し市178田村町小川字戸ノ内80-4見通し市179田村町山中字上野90-2見通し市180田村町山中字鬼越91-1見通し市181田村町山中字鬼越518-3優先市182田村町山中字枇杷沢264-6見通し市183田村町金沢字大谷地234-10見通し市184田村町谷田川字北田9見通し市185田村町谷田川字町畑11-1見通しなし186田村町守山字湯ノ川85-1見通し市187田村町正直字南17-1見通し市188田村町正直字北22-3見通し市189田村町金屋字水上35-1見通し市190田村町金屋字水上4見通し市191田村町金屋字マセ口14-2見通し市192田村町金屋字西川原80-3見通しなし193田村町上行合字北古川97優先市194田村町下行合字古道内122-2優先市195田村町下行合字宮田130-25優先市196田村町手代木字三斗蒔34優先市197田村町手代木字永作236-1優先市198田村町桜ケ丘一丁目59優先公安199田村町桜ケ丘一丁目170見通し公安200田村町桜ケ丘一丁目226見通しなし201田村町桜ケ丘二丁目1見通し市202田村町桜ケ丘二丁目2見通し市203田村町桜ケ丘二丁目27見通し市204田村町桜ケ丘二丁目90見通し市205田村町桜ケ丘二丁目115、297-17見通し市206田村町桜ケ丘二丁目144見通し公安207田村町桜ケ丘二丁目203見通し市208田村町桜ケ丘二丁目295-54見通し市209田村町桜ケ丘二丁目365見通し市210田村町守山字権現壇165-1見通し市211西田町鬼生田字前田407優先公安212西田町鬼生田字石堂1194優先市213西田町土棚字内出694-2見通しなし214中田町下枝字五百目55見通し市215中田町柳橋字石畑520-9見通し市216中田町柳橋字久根込564優先市217中田町柳橋字小中里217優先市218中田町牛字縊本字袋内1-1優先市219中田町高倉字弥五郎253優先市220中田町高倉字弥五郎202見通し市221中田町高倉字三渡13-2見通し市222中田町高倉字宮ノ脇198-1見通し市  また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い  東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない  郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影)  さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故【郡山市大平町の事故現場】

    【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故

    専門家が指摘する危険地点の特徴  1月2日夜、郡山市大平町の交差点で軽乗用車と乗用車が出合い頭に衝突し、軽乗用車が横転・炎上。家族4人が死亡する事故が発生した。悲惨な事故の背景を探る。(志賀)  報道によると、事故は1月2日20時10分ごろ、郡山市大平町の信号・標識がない交差点で発生した。東進する軽乗用車と南進する乗用車が衝突し、軽乗用車は衝撃で走行車線の反対側に横転、縁石に乗り上げた。そのまま炎上し、乗っていた4人は全員死亡。横転した衝撃で火花が発生し、損傷した車体から漏れ出たガソリンに引火したためとみられる。  軽乗用車に乗っていたのは、所有者である橋本美和さん(39)と夫の貢さん(41)、長男の啓吾さん(20)、長女の華奈さん(16)。事故現場に近い大平町簓田地区に自宅があり、市内の飲食店から帰宅途中だった。 乗用車を運転していた福島市在住の高橋俊容疑者(25)は自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで同4日に送検された。現行犯逮捕時は同法違反(過失運転致傷)だったが、容疑を切り替えた。 この間の捜査で高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」、「交差点ではなく単線道路と思った」、「暗い道で初めて通った。目の前を物体が横切り、その後衝撃を感じた」、「ブレーキをかけたが間に合わなかった」などと供述している。 軽乗用車が走っていたのは、郡山東部ニュータウン西側と県道297号斎藤下行合線をつなぐ「市道緑ヶ丘西三丁目前田線」。「JR郡山駅へと向かう際の〝抜け道〟」(地元住民)として使われている。 乗用車が走っていたのは、東部ニュータウン北側から坂道を降りて同市道と交差する「市道川端緑ヶ丘西四丁目線」。交差点では軽乗用者側が優先道路だった。  もっとも、そのことを示す白線はほとんど消えて見えなくなっていた。1月6日に行われた市や地元町内会などによる緊急現場点検では、参加者から「坂道カーブや田んぼの法面で対向車を確認しづらい」、「標識が何もないので夜だと一時停止しない車もあるのでは」などの意見が出た。大平町第1町内会の伊藤好弘会長は「交通量が少なく下り坂もあるのでスピードを出す車をよく見かける」とコメントしている(朝日新聞1月7日付)。 1月上旬の夜、乗用車と同じルートを実際に走ってみた。すると軽乗用車のルートを走る車が坂道カーブや田んぼの法面に遮られて見えなくなり、どこを走っているのか距離感を掴みづらかった。交差点もどれぐらい先にあるのか分かりづらく、減速しながら降りていくと、突然目の前に交差点が現れる印象を受けた。 地域交通政策に詳しい福島大教育研究院の吉田樹准教授は事故の背景を次のように分析する。 「乗用車の運転手は初めて通る道ということで、真っすぐ走ることに気を取られ、横から来る車に気付くのが遅れたのだと思います。さらに軽自動車が転倒し、発火してしまうという不運が重なった。車高が高い軽自動車が横から突っ込まれると、転倒しやすくなります」 地元住民の声を聞いていると、「あの場所がそんなに危険な場所かな」と首を傾げる人もいた。 「事故現場は見通しのいい交差点で、交通量も少ない。夜間でライトも点灯しているのならば、どうしたって目に入るはず。普通に運転していれば事故にはならないはずで、道路環境が原因の〝起こるべくして起きた事故〟とは感じません」 こうした声に対し、吉田准教授は「地元住民と初めて通る人で危険認識度にギャップがある場所が最も危ない。地元住民が『慣れた道だから大丈夫だろう』と〝だろう運転〟しがちな場所を、変則的な動きをする人が通行すれば、事故につながる可能性がぐっと上がるからです」と警鐘を鳴らす。 今回の事故に関しては、軽乗用車、乗用車が具体的にどう判断して動いたか明らかになっていないが、そうした面からも検証する必要があろう。 なお、高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」と供述したとのことだが、乗用車側の道路の先は、墓地や旧集落への入り口があるだけの袋小路のような場所。その先に知人の家があったのか、それとも道に迷っていたのか、はたまたまだ表に出ていない〝特別な事情〟があったのか。こちらも真相解明が待たれる。 道路管理の重要性  今回の事故を受けて、地元の大平第1町内会は道路管理者の市に対し対策強化を要望し、早速カーブミラーが設置された。さらに県警とも連携し、交差点の南北に一時停止標識が取り付けられ、優先道路の白線、車道と路肩を分ける外側線も引き直した。 1月17日付の福島民報によると、市が市道の総点検を実施したところ、同16日までに県市道合わせて約200カ所が危険個所とされた。交差点でどちらが優先道路か分かりにくい、出会い頭に衝突する可能性がある、速度が出やすい個所が該当する。市は国土交通省郡山国道事務所と県県中建設事務所にも交差点の点検を要望している。  県道路管理課では方部ごとに県道・3桁国道の道路パトロールを日常的に実施し、白線などが消えかかっている個所は毎年春にまとめて引き直している。ただし、「大型車がよく通る道路や冬季に除雪が行われる路線は劣化が早く、平均7、8年は持つと言われるところが4、5年目で消えかかったりする」(吉田准教授)事情もある。日常的にチェックする仕組みが必要だろう。 県警本部交通規制課が公表している報告書では「人口減少による税収減少などで財政不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少すると想定される」と述べており、交通安全対策を実施するうえで財源確保がポイントになるとしている。 吉田准教授はこう語る。 「道路予算というと新しい道路の整備費用ばかり注目されがちだが、道路管理費用も重要であり、今後どうするか今回の事故をきっかけに考える必要があります」 県警交通規制課によると、昨年の交通事故死者数は47人で現行の統計になった1948(昭和23)年以降で最少だった。車の性能向上や道路状況の改善、人口減少、安全意識の徹底が背景にあるが、そのうち交差点で亡くなったのは19人で、前年から増えている。 「基本的に交差点は事故が起こりやすい場所。ドライバーは注意しながら走る必要があるし、県警としても広報活動などを通して、交通安全意識を高めていきます」(平子誠調査官・次席) 県内には今回の事故現場と似たような道路環境の場所も多く、他人事ではないと感じた人も多いだろう。予算や優先順位もあるので、すべての交差点に要望通り信号・標識・カーブミラーが設置されるわけではない。ただ、住民を交えて「危険個所マップ」を作るなど、安全意識を高める方法はある。悲惨な事故を教訓に再発防止策を講じるべきだ。 吉田 樹YOSHIDA Itsuki 福島大学経済経営学類准教授・博士(都市科学) http://gakujyutu.net.fukushima-u.ac.jp/015_seeds/seeds_028.html あわせて読みたい 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【吉田豊】悪徳ブローカー問題 中間報告【南相馬】

     南相馬市の医療・介護業界で暗躍するブローカー・吉田豊氏について、本誌では5、6、7月号と3号連続で取り上げた。今月は「中間報告」として、あらためてこの間の経緯を説明し、その手口を紹介するとともに、吉田氏の出身地・青森県での評判などにも触れる。 あわせて読みたい 第1弾【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 第2弾【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口 第3弾【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】 カモにされた企業・医療介護職員 発端 現在の南相馬ホームクリニック  2020年、南相馬市原町区栄町に南相馬ホームクリニックが開設された。診療科は内科、小児科、呼吸器科。地元の老舗企業が土地・建物を提供する形で開院した。 このクリニックの開院を手引きしたのが青森県出身の吉田豊という男だ。今年4月現在64歳。医療法人秀豊会(現在の名称は医療法人瑞翔会)のオーナーだったが、医師免許は持っていない。若いころ、古賀誠衆院議員(当時)の事務所で「お世話係」として活動していたつながりから、古賀氏の秘書を務めていた藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所にも出入りしていた。 吉田氏は「地域の顔役」だった地元老舗企業の経営者に気に入られ、「震災・原発事故以降、弱くなった医療機能を回復させたい」との要望に応えるべく、この経営者の全面支援のもとでクリニックを開設することになった。県外から医師を招聘し、クリニックには最新機器をそろえ、土地・建物の賃料として毎月267万円を地元老舗企業に支払う契約を結んだ。 ところが、院長候補の医師が急遽来られなくなるトラブルに見舞われ、賃料の支払いがいきなり滞った。ようやく医師を確保して診察を開始できたのは2020年10月のこと。社宅代わりに戸建てを新築するなど、異例の好待遇で迎えた(ただし、医師名義でローンを組まされたという話もある)。医療スタッフも他施設から好待遇で引き抜いた。 ただ、給料遅配・未払いが発生するようになったことに加え、「オーナー」である吉田氏が医療現場に注文を付けるようになり、ブラックな職場環境に嫌気をさした医療スタッフらが相次いで退職した。 本誌には複数の関係者から「吉田氏が大声でスタッフを怒鳴りつけることがあった」、「勤務するスタッフは悪いところがなくてもクリニックで診察を受け、敷地内の薬局で薬を出してもらうよう強要された」という情報が寄せられている。 吉田氏の判断で顧客情報に手が加えられたことから、医師とも対立するようになり、2022年4月に同クリニックは閉院された。閉院は「院長の判断」で行われたもので、吉田氏は怒り狂っていたとされる。 その後も賃貸料は支払われず、総額7000万円まで膨らんだため、地元老舗企業は2022年3月をもって同クリニックとの契約を解除。同クリニックは土地・建物を明け渡し、現在も空き家となったままだ。 サ高住構想 「サービス付き高齢者向け住宅」用地として取得した土地  同クリニックを運営するかたわら吉田氏が目指していたのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を核とした「医療・福祉タウン」構想の実現だった。 高齢者の住まいの近くにクリニック・介護施設・給食事業者などさまざまな事業所を設け、不自由なく暮らせる環境を実現する。公共性が高い事業なので復興補助金の対象となり、事業を一手に引き受けることで大きな収益を上げられるという目算があった。青森県の医療法人でも1カ所に施設を集約して成功していたため、その成功体験が刻み込まれていたのかもしれない。 吉田氏をウオッチングしている業界関係者がこう解説する。 「厚生労働省が定義するタイプのサ高住だと、医師が1日に診察できる利用者の数が制限されるルールとなっている。そこであえてサ高住とうたわず、高齢者向け賃貸住宅の周辺に事業所を点在させ、診察も制限なくできる案をコンサルタントを使って考えさせた」 吉田氏はライフサポート(訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅運営)、スマイルホーム(賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、フォレストフーズ(不動産の企画・運営・管理など)、ヴェール(不動産の賃貸借・仲介)などの会社を立ち上げ、各社の社長には同クリニックに勤めていたスタッフを据えた。 協同組合設立  2021年12月にはそれら企業を組合員とする「南相馬介護サービス施設共同管理協同組合」を立ち上げた。「復興補助金の対象になるのは一事業者のみ」というルールを受けて、前出・コンサルタントが「複数企業の協同組合を新設すればさまざまな事業を展開できる」と考えたアイデアだった。 理事には前出の関連会社社長やスタッフ、コンサルタントなど6人が就き、吉田氏を公私共に支える浜野ひろみ氏が理事長に就任。吉田氏は「顧問」に就いた。同協同組合の定款で、組合員は出資金5口(500万円)以上出資することが定められ、役員らは500万円を出資した。 サ高住の用地として、同市原町区本陣前にある約1万平方㍍の雑種地をスマイルホーム名義で取得した。同社が土地を担保に大阪のヴィスという会社から1億2000万円借り、吉田氏、浜野氏、理事3人が連帯保証人となった。年利15%という高さだったためか、1年後にはあすか信用組合で借り換えた。 このほか、地元企業経営者から5500万円、東京都の男性から1650万円を借りており、事業費に充てられるものと思われたが、同地はいまも空き地のままだ。 結局、計画が補助事業に採択されなかったため、収支計画が破綻し、そのままなし崩しになったようだ。だとしたら、集めた金はいまどこにあり、どうやって返済する考えなのだろうか。 2つの問題 吉田豊氏  サ高住構想の頓挫と協同組合設立は2つの問題を残した。 一つは協同組合が全く活動していないにもかかわらず、理事らが支払った出資金は返済される見込みがないこと。通帳は理事長の浜野氏に管理を一任した状態となっているが、他の理事が開示を求めても応じず、通常総会や理事会なども開かれていないので「横領されて目的外のことに使われたのではないか」と心配する声も出ている 本誌6月号で吉田氏を直撃した際には「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」と述べていた。ただ前述の通り、吉田氏は「顧問」であり、組合の方針を代表して話すのは筋が通らない。 もう一つの問題は遅延損害金問題。金を借りて返済を終えたはずの前出・ヴィスから「元本のみ返済され、利息分の返済が滞っている状態になっていた」として、遅延損害金2600万円の支払いを求められるトラブルが発生したのだ。 連帯保証人となった理事のうち、2人はすでに退職しているが銀行口座を差し押さえられた。連帯保証の配分が偏っており、吉田氏と浜野氏に比べ理事3人の負担分が大きいなど不可解な点が多いことから、2人は弁護士に相談して解決策を模索している。 バイオマス発電計画  「医療・福祉タウン」構想とともに吉田氏が進めようとしていたのが、廃プラスチックと廃木材によるバイオマス発電構想だ。前出・地元老舗業者を介して知り合った林業関連企業の役員と協力して計画を進めることになった。 吉田氏はこの企業役員にアドバイスするだけでなく、経営にまで介入した。原発事故後の事業を立て直すため、金融機関と作った経営計画があったが、すべて白紙に戻させ、賠償金なども同構想に注入させた。 前出のコンサルタントにも協力を仰ぎ、地域と連携した計画にする狙いから市役所にも足を運んだ。ところが、経済産業省から出向している副市長から「怪しい人物が絡んでいる計画を市に持ち込まないでほしい」と釘を刺されたという。間違いなく吉田氏のことを指しており、市や国は早い段階で吉田氏の評判を聞いていたことになる。 企業役員は吉田氏との連絡を絶ち、前出・コンサルタントと相談しながら独自に実現を目指した。だが、結局は実現に至らず、経営計画変更の影響もあって会社を畳むことになった。企業役員は明言を避けたが、吉田氏に巻き込まれて倒産に追い込まれた格好だ。 悲劇はこれだけに留まらない。 当初は親族ぐるみで南相馬ホームクリニックのスタッフになるなど、吉田氏と蜜月関係にあった企業役員だが、時間が経つごとに吉田氏から冷遇されるようになった。 前出・業界関係者は吉田氏の性格を次のように語る。 「目的を達成するためにさまざまな人に近づき利用するが、ひとたび利用価値がない、もしくは自分に不利益をもたらす存在と判断すると、徹底的に冷遇するようになります。すべてにおいての優先順位が下げられ、給料の遅配・未払いなどを平気でやるようになり、他のスタッフには事実と異なる悪口を吹き込むようになります」 企業役員の親族の男性は担当していた職場で、吉田氏の親戚筋で〝参謀的存在〟の榎本雄一氏に厳しく指導された。その結果、心身を病み、長期間の療養を余儀なくされた。別の親族女性は吉田氏から大声で叱責され、床にひざをついて謝罪させられていたという。 どういう事情があったかは分からないが、正常な職場環境でそうした状況が起こるだろうか。 新たな〝支援者〟 桜並木クリニック  南相馬ホームクリニック閉院から3カ月後の2022年7月、吉田氏は同市原町区二見町の賃貸物件に「桜並木クリニック」を開院した。 同クリニックの近くには、榎本氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」がオープン。同年4月には高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。 前出「医療・福祉タウン」構想に向けた準備の意味で、小規模の施設を整備したのだろう。ただ、ここでも吉田氏の現場介入とブラックな体質、給料遅配・未払いにより、いずれの施設でも退職者が相次いだ。 そうした中で吉田氏を支援し続けているのが、憩いの森の土地・建物を所有しているハウスメーカー・紺野工務所(南相馬市原町区、紺野祐司社長)だ。不動産登記簿によると、2021年12月17日に売買で取得しているから、おそらく同施設に使用させるために取得したのだろう。 吉田氏は前出の地元老舗企業経営者や企業役員と決別後、紺野氏に急接近した。同社が施設運営者であるスマイルホームに土地・建物を賃貸する形だが、紺野氏は昨年12月に関連会社・スマイルホームの共同代表に就任しているので、賃貸料が支払われているか分からない。 紺野工務所は資本金2000万円。民間信用調査機関によると、2021年6月期の売上高3億7000万円(当期純損失760万円)、2022年6月期の売上高3億2800万円(当期純損失4400万円)。業績悪化が顕著となっている 紺野氏本人の考えを聞こうと7月某日の午前中、紺野工務所を訪ねたが、社員に「不在にしている。いつ戻るか分からない」と言われた。 その日の夕方、再度訪ねると、先ほど対応した社員が血相を変えてこちらに走ってきて、中に入ろうとする記者を制した。 質問を綴った文書を渡そうとしたところ、「社長は『取材には応じない』と言っていた」と述べた。社員に無理やり文書を渡したが、結局返答はなかった。おそらく、紺野氏は社内にいたのだろうが、そこまで記者と会いたがらない(会わせたくない)理由は何なのだろうか。  青森での評判 青森県東北町にある吉田氏の自宅  吉田氏は青森県上北町(現東北町)出身。上北町議を2期務め、青森県議選に2度立候補したが、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼していた。 県議選立候補時に新聞で報じられた最終学歴は同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。周囲には「高校卒業後、東京理科大に入学したけどすぐ中退し、国鉄に入った。そのときに政治に接する機会があった」、「元青森県知事で衆院議員も務めた木村守男氏ともつながりがあった」と話していたという。ただ、同町の経済人からは「むつ市の田名部高校を卒業したはず」、「長年県内の政治家を応援しているが、吉田氏と木村知事とのつながりなんて聞いたことがない」との声も聞かれている。 7月下旬の平日、東北町の吉田氏の自宅を訪ね、チャイムを押したが中に人がいる気配はなかった。ドアの外側には夫人宛ての宅配物の不在通知が何通も落ちていた。不動産登記簿を確認したところ、土地・建物とも、今年4月に前出・大阪のヴィス、6月に青森県信用保証協会に差し押さえられていた。現在、家族はどこで暮らしているのだろうか。 近隣住民や経済人に話を聞いたところ、吉田氏は地元でもブローカーとして知られているようで、「『自宅脇にがん患者専用クリニックをつくる』と言って出資者を募ったが、結局何も建設されなかった」、「民事再生法適用を申請した野辺地町のまかど温泉ホテルに出資するという話があったが、結局立ち消えになった」という話が聞かれた。元スタッフによると、過去には、南相馬市の事務所に青森県から「借金を返せ! この詐欺師!」と電話がかかってきたこともあったという。 「町内にクリニックやサ高住を整備した点はすごい」と評価する向きもあったが、大方の人は胡散臭い言動に呆れているようだ。 6月号記事でも報じた通り、吉田氏は通常、オレンジファーマシーの2階で生活しているが、月に1、2度は車で東北町に戻って来るそうだ。小川原湖の水質改善について、吉田氏と紺野氏が現地視察に行っていたという話も聞かれたが、「この辺ではもう吉田氏の話をまともに聞く人はいない。だから、福島から人が来るたびに『今度は誰を巻き込むつもりなんだろう』と遠巻きに見ていた」(同町の経済人)。 青森県出身の吉田氏が福島県に来たきっかけは、大熊町の減容化施設計画に絡もうとしたからだとされている。前述・藤丸衆院議員の事務所関係者から情報を得て、同町の有力者に取り込もうとしたが、相手にされなかった。浜通りで復興需要に食い込めるチャンスを探り、唯一接点ができたのが前出・地元老舗企業の経営者だった。 なお、本誌6月号で藤丸事務所に問い合わせた際には、女性スタッフが「藤丸とどういう接点があるのだろうと不思議に思っていました」と話している。その程度の付き合いだったということだろう。 懐事情は末期状態  「医療・福祉タウン」構想が頓挫し、紺野工務所以外に支援してくれる企業もいなくなった吉田氏は、医師や医療・介護スタッフにも数百万円の借金を打診するようになった。信用して貸したが最後、理由を付けて返済を先延ばしにされる。泣き寝入りしている人も多い。 「医療・福祉タウン」に向けた費用を捻出するため、医師にも個人名義で融資を申し込むよう求めたが、サ高住用地の評価を水増しされていたことや、吉田氏の悪評が金融業界内で知れ渡っていることがバレて南相馬市を去っていった。 コンサルタントや設計士への支払い、ついには、出入り業者や吉田氏が宿泊していたホテルの料金も未払い状態が続いているというから、もはや懐事情は末期状態にあると見るべき。一部では「隠し財産があるらしい」とも囁かれているが、信憑性は限りなく低そうだ。 沈黙する公的機関 相馬労働基準監督署  桜並木クリニックのホームページを検索すると、院長は由富元氏となっているが現在は勤務していない。クリニックの診察時間もその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている。呆れたルーズさだが、東北厚生局から特に指導などは入っていないようだ。 給料未払いのまま退職した元スタッフが何人も相馬労働基準監督署に駆け込んだが、表面的な調査に留まり、解決には至らなかった。吉田氏が代表者として表に出るのを避け、責任追及を巧みに避けているのも大きいようだ。 過去の資料と本誌記事の写しを持って南相馬署に相談に行っても、一通り話を聞かれて終わる。弁護士を通して借金の返済を求めようとしたが、同市内の弁護士は「費用倒れに終わりそうだ」と及び腰で、被害者による責任追及・集団訴訟の機運がいま一つ高まらない。 前述の通り、市や国は早い段階でその悪質さを把握していた。記事掲載後はその実態も広く知れ渡ったはず。にもかかわらず、悪徳ブローカーを監視し、取り締まる立場の公的機関が「厄介事に関わりたくない」とばかり沈黙している。吉田氏の高笑いが聞こえて来るようだ。 あらためて吉田氏の考えを聞きたいと思い、7月19日19時30分ごろ、桜並木クリニックから外に出てきた吉田氏を直撃した。 携帯電話で通話中の吉田氏に対し、「政経東北です。お聞きしたいことがあるのですが」と言うと、大きく目を見開いてこちらを見返した。だが、通話をやめることなく、浜野氏が運転するシルバーのスズキ・ソリオに乗り込んだ。「給料未払いや借金に悩んでいる人が多くいるが、どう考えているのか」と路上から問いかけたが、記者を無視するように車を発進させた。 あるベテランジャーナリストはこうアドバイスする。 「被害者が詐欺師からお金を取り戻そうと接触すると、うまく言いくるめられて逆に金を奪われることが多い。まずはそういう人物を地域から排除することを優先すべき」 これ以上〝被害者〟が出ないように、本誌では引き続き吉田氏らの動きをウオッチし、リポートしていく考えだ。

  • 【吉田豊】ブローカー問題「借金踏み倒し」被害者の嘆き【南相馬市】

     本誌5、6月号と南相馬市で暗躍する医療・介護ブローカーの吉田豊氏についてリポートしたところ、この間、吉田氏の被害に遭った複数の人物から問い合わせがあった。シリーズ第三弾となる今回は、吉田氏に金を貸してそのまま踏み倒されそうになっている男性の声を紹介する。(志賀) 在職時の連帯保証債務で口座差し押さえ 大規模施設予定地  「吉田豊氏に2年前に貸した200万円は返してもらっていないし、未払いだった給料2カ月分も数カ月遅れで一部払ってもらっただけです。彼のことは全く信用できません」 こう語るのは、吉田氏がオーナーを務めていたクリニック・介護施設で職員として勤めていたAさんだ。 青森県出身。震災・原発事故後、南相馬市に単身赴任し、解体業の仕事に就いていた。仕事がひと段落したのを受けて、そろそろ青森に帰ろうと考えていたころ、市内の飲食店でたまたま知り合ったのが吉田豊氏だった。「市内で南相馬ホームクリニックという医療機関を運営している。将来的には医療・介護施設を集約した大規模施設を整備する予定だ。一緒に働かないか」。吉田氏からそう誘われたAさんは、2021年5月から同クリニックで総務部長として勤めることになった。 現在は利用されていない南相馬ホームクリニックの建物  勤め始めて間もなく、妻が南相馬市を訪れ、職場にあいさつに来た。そのとき吉田氏は「資金不足に陥っている。すぐ返すので何とか協力してくれないか」と懇願したという。初対面である職員の家族に借金を申し込むことにまず驚かされるが、Aさんの妻はこの依頼を真に受けて、一時的に預かっていた金などを集めて吉田氏に200万円を貸した。 Aさんは後日そのことを知った。すぐに吉田氏に返済を求めたが、あれやこれやと理由を付けて返さない日が続いた。結局、2年経ち退職した現在まで返済されていない。実質踏み倒された格好だ。 吉田氏に関しては本誌5、6月号でその実像をリポートした。 青森県出身。4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現八戸学院光星高校)卒。衆院議員の秘書を務めた後、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。その後、県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。 青森県では医師を招いてクリニックを開設し、その一部を母体とした医療法人グループを一族で運営していた。実質的なオーナーは吉田氏だ。 複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、かつて医療法人グループを運営していたことをアピールして、医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、その計画はいずれもずさんで、施設が開所された後に運営に行き詰まり、出資した企業が損失を押し付けられている状況だ。 これまでのポイントをおさらいしておく。 〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。訴状によると賃貸料は月額220万円。だが、当初から未払いが続き、契約解除となった。現在、地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。 〇ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜き、クリニックの運営をスタートした。だが、給料遅配・未払い、ブラックな職場環境のため、相次いで退職していった。 〇吉田氏と院長との関係悪化により南相馬ホームクリニックが閉院。地元企業の支援を受け、桜並木クリニック、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」を立ち上げた。だが、いずれの施設も退職者が後を絶たない。 桜並木クリニック  〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、クリニック・介護施設を併設した大規模施設の建設計画を立て、市内の経済人から出資を募った。また、地元企業に話を持ち掛け、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。 〇吉田氏が携わっている会社はこれまで確認されているだけで、①ライフサポート(代表取締役=浜野ひろみ。訪問介護・看護、高齢者向け賃貸住宅)、②スマイルホーム(代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司。賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供)、③フォレストフーズ(代表取締役=馬場伸次。不動産の企画・運営・管理など)、④ヴェール(代表取締役=佐藤寿司。不動産の賃貸借・仲介など)の4社。いずれも南相馬市本社で、資本金100万円。問題を追及されたときに責任逃れできるように、吉田氏はあえて代表者に就いていないとみられる。 〇6月号記事で吉田氏を直撃したところ、「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」と他人事のように話した。 吉田氏について事実確認するため、この間複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じないケースが多かった。その意向を踏まえ、企業名・施設名は必要最小限の範囲で紹介してきた。 それでも、5、6月号発売後、県内外から「記事にしてくれてありがとう」などの意見が寄せられ、南相馬市内の経済人からは「自分も会ったことがあるがうさん臭く見えた」、「自分の話も聞いてほしい」などの声をもらった。とある企業経営者からは「損害賠償請求訴訟を起こして被害に遭った金を回収したいが、どうすればいいか」と具体的な相談の電話も受けたほど。それだけ吉田氏に関わって被害を受けた人が多いということなのだろう。 給料2カ月分が未払い 吉田豊氏  前出・Aさんもそうした中の一人で、吉田氏に貸した200万円を返してもらっていないのに加え、給料2カ月分(約60万円)が支払われていないという。 「憩いの森で介護スタッフとして勤めていましたが、次第に給料遅配が常態化するようになった。2カ月分未払いになった時点で限界だと思い、退職しました」(Aさん) 退職後、労働基準監督署に訴えたところ、未払い分の給料が計画的に支払われることになった。だが、期日になっても定められた金額は振り込まれず、6月に入ってから、ようやく5万円だけ振り込まれた。 Aさんにとって思いがけない打撃になったのが、前述の「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」予定地をめぐるトラブルだ。 不動産登記簿によると、2021年12月7日、この予定地に大阪のヴィスという会社が1億2000万円の抵当権を設定した。年利15%。債務者は前述した吉田氏の関連会社・スマイルホームで、吉田氏のほかAさんを含む4人が連帯保証人となった。 その後、年利が高かったためか、あすか信用組合で借り換え、ヴィスの抵当権は抹消された。ところが、このとき元本のみの返済に留まり、利息分の返済が残っていたようだ。 今年に入ってから、Aさんら連帯保証人のもとに遅延損害金の支払い督促が届き、裁判所を通して債権差押命令が出された。Aさんの銀行口座を見せてもらったところ、実際にその時点で入っていた現金が全額差し押さえされていた。 Aさんによると、遅延損害金の総額は2600万円。スマイルホームの代表取締役である浜野氏に確認したところ、「皆さんには迷惑をかけないように対応しています」と述べたという。 ところがその後、なぜか吉田氏・浜野氏を除く3人で2000万円を返済する形になっていた。吉田氏と浜野氏はなぜ300万円ずつの返済でいいと判断されたのか、なぜ連帯保証人である3人で2000万円を返済しなければならないのか。Aさんは裁判所に差押範囲変更申立書を提出し、再考を求めている状況だ。 複数の関係者によると、この「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」こそ、吉田氏にとっての一大プロジェクトであり、補助金を活用して実現したいと考えていたようだ。だが結局、補助金は適用にならず、計画は実現しなかった。 「青森県時代、クリニックと介護施設を併設し、医師が効率的に往診するスタイルを確立して利益を上げたようです。その成功体験があったため、『何としても実現したい』と周囲に話していた。ただし、現在は医療報酬のルールが変更されており、そのスタイルで利益を上げるのは難しくなっています」(市内の医療関係者) この〝誤算〟が、その後のなりふり構わぬ金策につながっているのかもしれない。 一方的な「借金返済通知」  本誌6月号では、吉田氏が立ち上げた施設のスタッフからも数百万円単位の金を借りていることを紹介した。関連会社を協同組合にして、理事に就いたスタッフに「出資金が不足している」と理屈を付けて金を出させた。ただ、その後の出資金の行方や通帳の中身は教えてもらえないという。家族に内緒で協力したのにいつまで経っても返済されず、泣き寝入りしている人もいる。 一方で、Aさんが退職した後、吉田氏から1通の文書が届いた。 《協同組合設立時の出資金として500万円を貸し、未だに返金いただいておりません》、《本書面到着後1カ月以内に、上記貸付金額の500万円を下記口座へ返済いただきたく本書をもって通知いたします》、《上記期限内にお振込みがなく、お振込み可能な期日のご連絡もいただけない場合には、法的措置および遅延損害金の請求もする所存でおりますのであらかじめご承知おき下さい》 Aさんは呆れた様子でこう話す。 「吉田氏から500万円を借りた事実はありません。一方的にこう書いて送れば、怖がって振り込むとでも考えたのでしょうか。そもそもこちらが貸した200万円を返済していないのに、何を言っているのか」 前出・市内の医療関係者によると、過去には桜並木クリニックに来ていた非常勤医師に対し、「独立」をエサにして「クリニック・介護施設を併設した大規模施設」の用地の一部を買わせようとしたこともあった。 「ただし、市内の地価相場よりはるかに高い価格に設定されていたため、吉田氏の素性を知る金融機関関係者などから全力で購入を止められたらしい。その時点で医師も吉田氏から〝資金源〟として狙われていたことに気付き、自ら去っていったとか」(市内の医療関係者) 医療・介護施設の建設を持ち掛けるブローカーと聞くと、仲介料を荒稼ぎしているイメージがあるが、こうした話を聞く限り、吉田氏はかなり厳しい経済状況に置かれていると言えそうだ。 「南相馬ホームクリニックを開院する際には、医師を呼ぶ金も含め相当金を出したようだが、結局、院長との関係が悪化して閉院した。その後も桜並木クリニックに非常勤医師を招いているので、かなり出費しているはず。出資を募って準備していた大規模施設も開業できていないので、金策に頭を悩ませているのは事実だと思います」(同) 6月号記事で吉田氏を直撃した際には、南相馬ホームクリニックについて「私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方」と主張していたが、ある意味本音だったのかもしれない。だからと言って、クリニック・介護施設のスタッフやその家族からもなりふり構わず借金し、踏み倒していいという話にはならないが……。 実際に会った人たちの話を聞くと「『青森訛りの気さくなおっちゃん』というイメージで、悪い印象は持たない。そのため、政治家などとつながりがある一面を知ると一気に信用してしまう」という。一方で、本誌6月号では次のように書いた。 《「役員としてできる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる》 一度信用して近づくと一気に取り込まれる。つくづく「関わってはいけない人」なのだ。特に県外から来る医師・医療スタッフは注意が必要だろう。 被害者が結集して行動すべき  吉田氏の被害に遭った元スタッフは弁護士に相談して借金返済を求めようとしている。だが、吉田氏に十分な財産がないと思われることや、被害者が多いことから「費用倒れ」に終わる可能性が高いとみられるようで、弁護士から依頼を断られることも多いという。吉田氏に金を貸して返してもらっていないという女性は「『少なくとも南相馬市以外の弁護士に頼んだ方がいい』と言われて落胆した」と嘆いた。 だからと言って貸した金を平然と返さず、被害者が泣き寝入りすることは許されない。それぞれが弁護士に依頼したり、労働基準監督署などに駆け込むのではなく、いっそのこと「被害者の会」を立ち上げ、被害実態を明らかにすべきではないか。 そのうえで、例えば大規模施設用の土地を処分して借金返済に充てるなど、具体的な方策を考えていく方が現実的だろう。一人で悩むより、被害者が集まって知恵を出し合った方が、さまざまな方策が生まれる。また、集団で行動すれば、これまで反応が鈍かった労働基準監督署などの公的機関も「このまま放置するのはマズイ」と本腰を入れて相談・対策に乗り出す可能性がある。 6月号記事で「個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる」と質問した本誌記者に対し、吉田氏はこのように話していた。 「(組合の)出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」 吉田氏には有言実行で被害者に真摯に対応していくことを求めたい。 あわせて読みたい 【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家 【吉田豊】南相馬で暗躍する悪徳ブローカーの手口

  • 【飯坂】穴原温泉・吉川屋【畠正樹】社長が選んだ【おすすめマンガ】

     福島市飯坂町の穴原温泉・吉川屋では、4月1日、館内に名作漫画を並べたブックラウンジを開設した。同旅館の畠正樹社長(45)にラウンジ設置の狙いやおすすめ漫画、さらには飯坂温泉をモチーフとしたご当地キャラクター「飯坂真尋ちゃん」を用いた地域振興の取り組みについて語ってもらった。(志賀) 温泉旅館内の遊休施設を漫画コーナーに改装 ブックラウンジ「ふくろう」を紹介する畠社長  吉川屋は1841(天保12)年創業の温泉旅館。客室数126。天皇・皇后をはじめ皇室が利用する宿としても知られ、旅行新聞新社主催の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選2023」で全国総合11位に選ばれた人気の宿だ。 そんな同旅館の7代目社長・畠正樹社長は大の漫画好きで、4月1日には約4000冊の漫画を備えた宿泊者向けブックラウンジ「ふくろう」をオープンした。開設の狙いを畠社長はこのように語る。 「もともとは宿泊客の宴会の二次会で使われていたクラブだったが、コロナ禍前から稼働率が低く、景色が良い場所なので、もったいないと考えていました。コロナ禍で団体旅行から個人・少人数旅行への切り替えが急速に進む中、思い切ってクラブをなくし、かねてからの夢だった漫画専用のブックラウンジを整備することにしたのです」 福島市が観光関連事業者をサポートするために設けた「周遊スポット魅力アップ支援事業」に採択され、約1000万円かけてリニューアル。ブックラウンジと併せて、バーだった場所にはボルダリング設備を備えたファミリースペース「あそびば」を整備した。さらにフロント脇には、蛇口をひねるとモモやブドウ、リンゴなど季節ごとに違うジュースが味わえるジューススタンドを設置した。 フルーツジューススタンド  各施設のロゴやジューススタンドのイラストデザインは、福島学院大情報ビジネス学科の学生が担当した。 特筆すべきは、ブックラウンジの漫画は、畠社長自身が厳選したものだということ。「古本屋チェーンのブックオフを通してまとめ買いし、過去に読んで面白かったものを中心に選びました。和食や温泉に加え、日本の文化である漫画も旅館で楽しめるというコンセプトです。旅先で人生を変える1冊に出合うというのも、最高の体験だと思います」 実は畠社長、大学時代から本格的に漫画を描いており、出版社に持ち込みまでしていた異色の経歴の持ち主。果たしてどんな作品をセレクトしたのか。かつて夢中になった作品、衝撃を受けた作品などをいくつか紹介してもらった。 ①『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博、集英社)既刊37巻 HUNTER×HUNTER(1)posted with ヨメレバ冨樫義博 集英社 1999年01月16日頃 楽天ブックスAmazon  少年ゴン・フリークスとその仲間たちの活躍を描く冒険活劇。 「『面白い漫画』という点では間違いなく3本の指に入る。読者をワクワクさせる物語・伏線の作り方は神クラス。漫画にはさまざまな表現があるが、シンプルな面白さという点で頭一つ抜けています」 ②『BASTARD!!』(萩原一至、集英社)既刊27巻 BASTARD!!(1)posted with ヨメレバ萩原一至 集英社 1994年08月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazon  魔法使いダーク・シュナイダーが戦い続けるファンタジー作品。 「物語もさることながら、圧倒的な画力による精密な作画は週刊連載レベルではない。中学生のころから読み始め、一番影響を受けた作品と言っても過言ではありません。『新世紀エヴァンゲリオン』が話題になる前から、宗教をテーマにしていたのも新しかったと思います」 ③『プラネテス』(幸村誠、講談社)全4巻 プラネテス(1)posted with ヨメレバ幸村誠 講談社 2001年01月22日 楽天ブックス楽天koboAmazon  スペースデブリ(宇宙ごみ)の回収業に従事する青年が、自分と向き合いながら成長していく姿を描く、新感覚のSF作品。 「大学時代、漫画家を夢見てオリジナル作品を漫画誌編集部に持ち込んだが、評価されることはなく、『もっと人間を描け』とアドバイスされた。20歳そこそこで人間の深みなんて表現できるわけがない。人生に迷っているときに読んで心に染みました。青春を代表する1冊です」 「大河ドラマ超える傑作」 畠社長が挙げてくれたお薦め漫画 ④『ゴールデンカムイ』(野田サトル、集英社)全31巻 ゴールデンカムイ 1posted with ヨメレバ野田サトル 集英社 2015年01月19日頃 楽天ブックス楽天koboAmazon  明治末期の北海道・樺太を舞台に、アイヌの埋蔵金をめぐって戦うサバイバル漫画。 「漫画アプリで全巻無料になっているときに知って夢中で読み、本棚に入れることを決めました。徹底した時代考証でアイヌの文化を描きつつ、しっかりストーリーを盛り上げる。個人的には大河ドラマを超えた傑作。日本の漫画の価値は多様性にある、とあらためて感じました」 ⑤『攻殻機動隊』(士郎正宗、講談社)全3巻 攻殻機動隊(1)posted with ヨメレバ士郎 正宗 講談社 1991年10月02日 楽天ブックス楽天koboAmazon  電脳化・サイボーグ技術が発達した未来の日本で、デジタル犯罪に対応する「公安9課」が奔走する物語。 「20年以上前の作品ですが、インターネットが発達した現在の問題を描いていることに驚かされます。アニメ版と合わせて多くのクリエイターに影響を与え、その遺伝子はさまざまな作品に引き継がれている。そういう意味では、日本の漫画・アニメ文化を象徴する作品です」 これ以外にもさまざまな作品を選び、熱い思いを語ってくれた畠社長(写真参照)。ブックラウンジのソファーにはスマホなどが充電できるUSBポートが設置されており、時間を気にせず快適に過ごすことができる。まさに漫画好きの畠社長の理想が反映されていると言える。 今後の展望に関しては「自分の思い出の1冊に再会すると自然と会話が広がるもの。漫画好きな人同士がコミュニケーションを取る場、新たな作品と出合う場になってほしいです。イベントや朗読会の場として活用することも検討していきたい」と明かした。 同旅館のブックラウンジが、福島市におけるアニメ・漫画文化の情報発信地となっていくかもしれない。 漫画以外にもアニメ、ゲームを愛する〝オタク〟であることを隠さない畠社長。その熱量は思わぬ形で経済効果を生みつつある。それが「飯坂真尋ちゃん」の取り組みだ。 全国の温泉をモチーフとしたキャラクターをつくり、漫画・小説・音楽などを展開する「温泉むすめ」というプロジェクトがある。エンバウンド(東京都、橋本竜社長=郡山市出身)が手がける企画だが、その中で飯坂温泉代表として制作されたのが「飯坂真尋ちゃん」だった。 飯坂温泉観光協会に立ち寄ったファンの一言でその存在を知った畠社長。「地域を、温泉地を沸かせたい」という同プロジェクトの理念に共感し、公式に応援することを決めた。 青年部や地域を巻き込みながら、「飯坂真尋ちゃんプロジェクト」を立ち上げ、2019年2月には、観光協会に等身大パネルを設置。地元商店とコラボしたデザインのイラストやオリジナルグッズも制作した。同年9月には架空のキャラクターながら飯坂温泉特別観光大使に就任し、担当声優の吉岡茉祐さんのトークイベントが開催された。 2020年に「真尋ちゃん音頭」のクラウドファンディングを実施したところ、全国のファンから約360万円の支援を受けた。2022年に行われた生誕祭では、さまざまなコラボデザインの中からお気に入りを選ぶ「飯坂真尋ちゃん総選挙」が行われた。畠社長によると、こうした企画ができるほど「温泉むすめ」のコラボデザインが作られた温泉地はほかにないという。 福島交通飯坂線の飯坂温泉駅前には「飯坂真尋ちゃん」の大きな看板が立てられた。温泉街の中にはラッピング自販機が設置され、「真尋ちゃん神社」が開設された。ついには、スマホのGPSやカメラと連動し、「飯坂真尋ちゃん」が声と動きで飯坂温泉をガイドしてくれるサービスが、観光庁の補助事業で展開された。架空のキャラクターが、現実に存在するアイドルのようになりつつある。 ファンと共に地域振興 飯坂真尋ちゃん(Ⓒ️ONSEN MUSUME PROJECT)  年1回の声優トークイベントには約800人のファンが訪れ、宿泊、飲食、土産品購入などでお金を落とす。地元の新聞・テレビも注目し、福島学院大学や地元企業とも連携。盛り上がりに対応するため、同プロジェクトでは1、2カ月に1回、会議を行い、地域内での連携を深めている。「飯坂真尋ちゃん」をきっかけとした好循環が広がっている。 「もともと温泉むすめは『温泉地の神様が地域を盛り上げるため、人の姿となって、アイドル活動をしている』という設定。『飯坂真尋ちゃん』はまさしく地域を盛り上げ、われわれに一体感・成功体験を与えてくれました」(畠社長) 活動を続けるうちに、「飯坂真尋ちゃん」をモチーフとした痛車(アニメキャラなどがあしらわれた車)やコスプレ、同人誌即売会など、さまざまな〝オタク向けイベント〟も開催されるようになった。これまでの活動を通して、〝オタクに理解がある温泉街〟として認識されたということだろう。 その中心にいたのは、〝オタク文化〟を愛し、誰よりも「飯坂真尋ちゃん」を推している畠社長だ。 「オタクは自分の趣味を静かに楽しむ一方で、関心がある分野への出資を惜しまないもの。温泉地にとってとても良いお客さんであり、先入観を持たずに多様な受け入れをしていく必要があります。今後もファンととともに、『飯坂真尋ちゃん』の取り組みを盛り上げ、地域振興につなげていきたいと思います」(同) かつて漫画家になる夢をあきらめた青年はいま、日本一〝オタク愛〟が深い温泉旅館の社長として、魅力的な旅館づくりと温泉街の振興に奔走している。 楽天トラベルで吉川屋の宿泊予約をする

  • 【ヤマブン】相馬市の醤油醸造業者が殊勲

     震災・原発事故、コロナ禍、2年連続で発生した福島県沖地震により、相馬市の企業は深刻なダメージを受けている。そうした中、被災しながらも高品質な商品づくりに努め、全国最高賞を受賞した醤油醸造業者がある。(志賀) 災害乗り越えて全国最高賞受賞 山形屋商店  醤油メーカーの業界団体・日本醤油協会では毎年、全国の醤油を種類別に評価する「全国醤油品評会」を開催している。この品評会で昨年9月末、相馬市の醸造業者・合資会社山形屋商店の商品が、最高賞の「農林水産大臣賞」を受賞した。  同社が一気に脚光を浴びるようになったのは、今回受賞した醤油が、県内ではあまり知られていない淡口醤油だったためだ。穏やかな味わいで、食材の持ち味を引き出すため、精進料理、京料理、懐石料理などに使われる。ただ、味や香りを加える濃口醤油と比べると評価しづらい面があり、過去6年間、淡口醤油から最高賞は出ていなかった。加えて北海道・東北地方では淡口醤油を使う食文化が極端に少なく、過去に淡口醤油で最高賞を受賞した県内醸造業者は一つもなかった。 同社が出品した「ヤマブンうすくち醤油」は食欲をそそる豊かな香り、美しい色と艶、まろやかな甘みと旨み、後味の良い風味と、バランスが優れている点が高く評価されたという。見事、醤油の世界で〝白河の関越え〟を果たした格好だ。 同社は過去、主力商品の濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」でも4度にわたり最高賞を受賞しており、県内最多の受賞歴を誇る醸造業者となった。 「品評会に出品するのは全国展開している大手・中堅メーカーで、うちみたいな零細の醸造業者には縁がない世界だと思っていました」 こう笑うのは同社代表社員で5代目店主の渡辺和夫さん(53)だ。 最高賞を受賞した「ヤマブンうすくち醤油」を掲げる渡辺和夫さん  同社は1863(文久3)年創業で、米麹、味噌、醤油などを扱ってきた。もともと大東銀行の行員だった渡辺さんは、2001年に婿入りしたのを機に同社に入社。義理の父である先代店主・正雄さんのもとで、10年にわたり修行を積んでいた。そうした中で遭遇したのが2011年の震災・原発事故だ。 ガラス瓶に詰められた出荷前の醤油1500本がすべて落下し、タンクの中身もこぼれて、床は黒く染まった。翌日以降片付けに追われ、工場は配管の組み直しを余儀なくされた。原発事故発生直後には従業員を避難させ、家族だけが残って工場内を片付けしながら、店を訪れた人に食べ物などを分けた。 1カ月後、避難先から従業員が戻って来たのに合わせて生産・販売を再開したが、放射能汚染を心配する声は大きく、地元旅館や料理店との取引は一時ストップとなった。しばらくすると「ヤマブンの醤油じゃないと料理の味が決まらない」と取引が復活したが、県外企業との取引はそのまま消滅した。 2012年には、福島第一原発敷地内の配管から汚染水12㌧が海洋に漏れていたことが発覚。福島県産品への不安が一気に高まった。さらに同年には先代店主・正雄さんが亡くなり、渡辺さんが5代目店主となった。普通なら次の一手をどう打つべきか迷いそうなところだが、渡辺さんはひたすら商品の品質向上に向けた取り組みに挑戦した。 「二本松市の福島県醤油醸造協同組合から『いまこそ品質向上に取り組むべき。勉強会を開いて品評会で最高賞を目指しましょう』とお声がけいただき、震災・原発事故から半年後の2011年10月26日、勉強会(福島県醤油出品評価会)に参加しました。勉強会のモデルになったのは県清酒組合が立ち上げた『県酒造アカデミー』です。県ハイテクプラザ研究員の指導のもと、酒蔵のレベルアップ、知識・技術の共有に成功し、『全国新酒鑑評会』で多くの金賞を受賞するようになりました(その後、都道府県別金賞受賞数で史上初の9回連続日本一を達成)。それを参考に、醤油業界でも醸造業者、同組合、ハイテクプラザの3者によるレベルアップを図ったのです」 勉強会で製造方法を研究 福島県醤油醸造協同組合 勉強会の様子(同組合提供)  勉強会に集まったのは18業者の経営者・役員・技術者など。渡辺さん同様、比較的若い世代が多かった。品評会で上位に入った醤油を集め、商品の原材料を比較しながら、利き味(色・香りの確認)をした。ハイテクプラザの主任研究員が成分を分析・数値化し、それを基に上位入賞醤油の色、香り、味、風味などについて仲間とともに議論を交わした。 本来、醤油蔵にとって醤油の製造方法は〝門外不出〟。同業者同士の情報交換などもってのほかだが、県内では醸造業者が古くから連携してきた経緯があった。 醤油の工程は以下の5つに分けられる。 ①原料処理(蒸した大豆と、炒って粉砕した小麦に、麹菌を植え付ける) ②麹造り(温度や湿度を変えながら麹菌を育て、醤油麹をつくる) ③諸味造り(食塩水を加えた「諸味」をつくり、半年かけて発酵させる) ④圧搾(熟成した諸味を搾り、醤油の元となる「生揚げ」をつくる) ⑤火入れ(生揚げに熱を加えて発酵を止め、醤油の色・味・香り・風味を決める) 実は、県内の醤油醸造業者ではこの5工程のすべてをやっているわけではない。①~④までを醸造業者の共同出資で設立された福島県醤油醸造協同組合が一手に担い、でき上がった生揚げを配送し、各業者は醤油づくりの生命線である⑤火入れに集中できる体制となっているのだ。 資本投下が大きく技術力が求められる生揚げの製造を1カ所で行うことで、各業者の負担を減らし、品質向上にもつなげる狙いがある(一方で、すべての工程を自社内で行っている県内醸造業者もある)。 同組合は1964(昭和39)年に設立されたが、福島県で最初に始まったこの仕組みは「生産協業化方式」と呼ばれ、その後、各地に広まっていった。 こうした経緯があったからこそ、震災・原発事故という危機に直面した際、自然と一致団結する機運が高まったのかもしれない。 同組合の工場長で、勉強会の呼びかけ人である紅林孝幸さん(52、農学博士)は「震災・原発事故直後、県内の多数の酒蔵が全国新酒鑑評会で金賞を取っているのを見て感銘を受けました。危機に直面しているいまこそ醤油業界も一つになり、チャンピオンを目指していかなければならないと考え、組合員に勉強会開催を呼びかけました」と振り返る。 紅林孝幸さん  勉強会は品評会直前の5月と直後の10月下旬の年2回、定期的に開催されるようになった。渡辺さんは参加するうちに「福島県の醤油が日本一の安心安全な品質であることを示したい」と考えるようになり、勉強会で学んだ成果を持ち帰っては、伝統の製法に生かす方法を模索した。 地道な取り組みが実を結び、2013年の品評会に出品した濃口醤油「ヤマブン本醸造特選醤油」は最高賞に選ばれた。同商品は以後14、16、17年にわたり、農林水産大臣賞を獲得した。 こうして高い評価を得た同社の醤油だが、その後前述の通り、ハードルが高い淡口醤油で品評会に挑戦することになった。なぜあえて評価されにくい商品を出品したのか。 その理由を渡辺さんは「昨年3月16日に発生した福島県沖地震がきっかけだった」と明かす。 福島県沖地震で相馬市は震度6強の揺れに見舞われ、多くの企業や住宅が被害を受けた。今年2月時点での公費解体の申請数は1162棟。公共施設の復旧事業は現在も進められている。同社の醸造工場も全壊判定となり、醤油を製造する機械や配管が損傷した。一昨年2月の地震で被害を受け、復旧工事中だっただけに渡辺さんのショックは大きかった。 一時は廃業も覚悟したが、このときも地元飲食店などから「ヤマブンの醤油がなくなると困る。続けてほしい」と温かい言葉をかけられた。勇気づけられた渡辺さんは、雨漏りなどの応急処置を自分たちで行い、「納品を遅れさせてはならない」と復旧作業に全力を注いだ。 4月26日、機械や配管が復旧し、ようやく製造を再開できた。最初に火入れしたのは、そのときたまたま在庫が少なかった淡口醤油だった。 香りとうまみをより引き出すため、普段より火入れの温度を1・3度高く設定した。自信作だったが、地震直後だっただけに、品質の高い醤油ができているか不安だった。そこに、品評会への出品案内が届いた。せっかくなら、品評会の審査員36人全員の評価を聞きたいと考えた。 事前に同組合の紅林さんに相談して利き味をお願いしたところ、「とても良い」と太鼓判を押された。それならばと出品したところ、9月30日の授賞式で最高賞受賞が発表された。 レベルの高さを証明  渡辺さんは、受賞は「チーム福島」の力であることを強調する。 「醸造業者、醸造組合、県ハイテクプラザの『チーム福島』で品質向上に取り組んできた結果だと捉えています。福島県の醤油が日本酒に負けないぐらい高いレベルであることを証明できたのが何よりうれしい。受賞を重ね、いまも続く風評被害の払拭につながっていくことを期待しています」 実は、昨年の品評会では、県醤油醸造協同組合が製造する「香味しょうゆ」も「こいくちしょうゆ」部門で農林水産大臣賞を受賞した。 同組合では、各醸造業者に代わって、難易度が高かったり組合員の負担が大きい商品を製造してきたが、今回受賞した商品は新たに開発した商品だった。 というのも、前出・紅林さんは、渡辺さんら醸造業者関係者とともに勉強会を続ける中でおいしい醤油づくりに関する〝仮説〟を立てていた。 「これまで品評会で上位に入った醤油の傾向を見ていると、『減塩志向が強まっており、マイルドでまろやかな味わいが受け入れられやすい』、『香りが長持ちする醤油が高く評価される』といった法則性が見えてきた。これらを実現した醤油を作れば品評会で上位に入るのではないかと考えました」 醸造業者にはそれぞれの伝統があるので、いきなり製法を変えるわけにはいかない。そこで、仮説を実証する意味で、これまでのテイストを変えた濃口醤油の新商品を製造し、品評会に出品したところ、山形屋商店と並んで「日本一の醤油」の評価をもらった。 品評会授賞式と併せて行われたトークショーでは、一般社団法人日本たまごかけごはん研究所の上野貴史代表理事が「最高賞受賞5商品のうち、『香味しょうゆ』が一番卵かけごはんに合う」と評価したほど。震災・原発事故直後から続けてきた勉強会の方向性が間違っていないことを証明する形となった。 商品のレベルの高さを証明した山形屋商店は、醤油の魅力を広める活動にも積極的に取り組んでいる。 最近では、福島・宮城両県の港町の醸造蔵7社と宮城学院女子大(宮城県仙台市)による共同企画「港町のしょうゆ屋」プロジェクトに参加した。マグロやイカ、ヒラメなど港町でよく食べられている海産物に合う醤油を開発し、共通ボトルで販売するというもので、同大現代ビジネス学部の石原慎士教授が呼びかけて3月11日に販売が開始となった。 同プロジェクトの代表を務める渡辺さんはプロジェクトの狙いを「港町によって水揚げされる海産物の種類は違うし、醸造業者は地元の食文化に合わせて味を変えている。魚食文化を支える〝地醤油〟にスポットライトを当て商品化しようというものです」と話す。 いわきのメヒカリは濃厚なだし醤油、マグロは木桶で作った本格的な丸大豆醤油、イカはさっぱりした昆布醤油で味わう。同社は「『ヒラメ』に合ううまさを引き出すしょうゆ」として前出の「ヤマブンうすくち醤油」を提案した。「ヒラメは白身魚でさっぱりして歯ごたえがある。繊細な旨味と甘味を淡口醤油が引き出してくれます」(渡辺さん)。 こうして聞くと、港町の食堂で提供される「刺身定食」、「煮魚定食」は、その場所ごとに違う味が楽しめるメニューということが分かる。 もっと言えば、全国には1100もの醤油醸造業者があり、作られる醤油にはそれぞれ特徴がある。料理本のレシピなどに「醤油大さじ1杯」などと書いてあっても、使う醤油が異なれば料理の仕上がりは全く違うかもしれない。そういう意味で醤油は奥深い調味料であり、日本の食文化を象徴する存在といえよう。 海洋放出への懸念  頻繁に地震被害を受ける中で、新たな社屋建設計画はあるのか尋ねると、渡辺さんは「福島県沖地震と同じ規模の地震が再び発生するとも報道されていますが、コロナ禍ということもあって、現在の場所に数千万円かけて新しい工場を建てる考えも余裕もありません。直しながらやれるだけやっていこうと腹をくくっています」と答えた。 「県内の醤油出荷量はいまも震災前の半分に落ち込んでいます。他県でこうした動きは確認されていないので、やはり風評被害の影響ということでしょう。だからこそ、高品質な醤油をつくり続け、少しでも多くの人に届けていきたいと考えています」 そのうえで心配なのが、ALPS処理水の海洋放出の行方だという。 「福島第一原発の敷地内からALPS処理水が海洋放出されれば、うちのような港町の醤油醸造業者はさらに打撃を受ける。福島県の漁業者はこれまで試験操業を余儀なくされ、水揚げ量は震災前の2割程度に過ぎない。少しずつ魚価が上がってきており、ようやく本格操業というタイミングで海洋放出が行われれば回復基調が落ち込むでしょう。漁業者の立場に寄り添うということであれば、(海洋放出ではなく)別の方法を検討すべきではないかと思います」 政府・東電は今春から今夏にかけて海洋放出を実施する方針を示し、着々と準備を進めているが、浜通りの魚食文化を支える水産業の〝関係者〟から、こうした声が上がっていることを認識すべきだ。 災害で幾度も苦境に立たされながら、その都度立ち上がり、港町の食文化を支え続けている山形屋商店。今後も「チーム福島」での醤油づくを継続し〝醸造王国ふくしま〟の存在を示し続ける。渡辺さんの挑戦は始まったばかりだ。 農林水産大臣賞を受賞したヤマブンの本醸造特選醤油を購入する

  • 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

     1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場  郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所     要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 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 また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い  東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない  郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影)  さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故

    専門家が指摘する危険地点の特徴  1月2日夜、郡山市大平町の交差点で軽乗用車と乗用車が出合い頭に衝突し、軽乗用車が横転・炎上。家族4人が死亡する事故が発生した。悲惨な事故の背景を探る。(志賀)  報道によると、事故は1月2日20時10分ごろ、郡山市大平町の信号・標識がない交差点で発生した。東進する軽乗用車と南進する乗用車が衝突し、軽乗用車は衝撃で走行車線の反対側に横転、縁石に乗り上げた。そのまま炎上し、乗っていた4人は全員死亡。横転した衝撃で火花が発生し、損傷した車体から漏れ出たガソリンに引火したためとみられる。  軽乗用車に乗っていたのは、所有者である橋本美和さん(39)と夫の貢さん(41)、長男の啓吾さん(20)、長女の華奈さん(16)。事故現場に近い大平町簓田地区に自宅があり、市内の飲食店から帰宅途中だった。 乗用車を運転していた福島市在住の高橋俊容疑者(25)は自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで同4日に送検された。現行犯逮捕時は同法違反(過失運転致傷)だったが、容疑を切り替えた。 この間の捜査で高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」、「交差点ではなく単線道路と思った」、「暗い道で初めて通った。目の前を物体が横切り、その後衝撃を感じた」、「ブレーキをかけたが間に合わなかった」などと供述している。 軽乗用車が走っていたのは、郡山東部ニュータウン西側と県道297号斎藤下行合線をつなぐ「市道緑ヶ丘西三丁目前田線」。「JR郡山駅へと向かう際の〝抜け道〟」(地元住民)として使われている。 乗用車が走っていたのは、東部ニュータウン北側から坂道を降りて同市道と交差する「市道川端緑ヶ丘西四丁目線」。交差点では軽乗用者側が優先道路だった。  もっとも、そのことを示す白線はほとんど消えて見えなくなっていた。1月6日に行われた市や地元町内会などによる緊急現場点検では、参加者から「坂道カーブや田んぼの法面で対向車を確認しづらい」、「標識が何もないので夜だと一時停止しない車もあるのでは」などの意見が出た。大平町第1町内会の伊藤好弘会長は「交通量が少なく下り坂もあるのでスピードを出す車をよく見かける」とコメントしている(朝日新聞1月7日付)。 1月上旬の夜、乗用車と同じルートを実際に走ってみた。すると軽乗用車のルートを走る車が坂道カーブや田んぼの法面に遮られて見えなくなり、どこを走っているのか距離感を掴みづらかった。交差点もどれぐらい先にあるのか分かりづらく、減速しながら降りていくと、突然目の前に交差点が現れる印象を受けた。 地域交通政策に詳しい福島大教育研究院の吉田樹准教授は事故の背景を次のように分析する。 「乗用車の運転手は初めて通る道ということで、真っすぐ走ることに気を取られ、横から来る車に気付くのが遅れたのだと思います。さらに軽自動車が転倒し、発火してしまうという不運が重なった。車高が高い軽自動車が横から突っ込まれると、転倒しやすくなります」 地元住民の声を聞いていると、「あの場所がそんなに危険な場所かな」と首を傾げる人もいた。 「事故現場は見通しのいい交差点で、交通量も少ない。夜間でライトも点灯しているのならば、どうしたって目に入るはず。普通に運転していれば事故にはならないはずで、道路環境が原因の〝起こるべくして起きた事故〟とは感じません」 こうした声に対し、吉田准教授は「地元住民と初めて通る人で危険認識度にギャップがある場所が最も危ない。地元住民が『慣れた道だから大丈夫だろう』と〝だろう運転〟しがちな場所を、変則的な動きをする人が通行すれば、事故につながる可能性がぐっと上がるからです」と警鐘を鳴らす。 今回の事故に関しては、軽乗用車、乗用車が具体的にどう判断して動いたか明らかになっていないが、そうした面からも検証する必要があろう。 なお、高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」と供述したとのことだが、乗用車側の道路の先は、墓地や旧集落への入り口があるだけの袋小路のような場所。その先に知人の家があったのか、それとも道に迷っていたのか、はたまたまだ表に出ていない〝特別な事情〟があったのか。こちらも真相解明が待たれる。 道路管理の重要性  今回の事故を受けて、地元の大平第1町内会は道路管理者の市に対し対策強化を要望し、早速カーブミラーが設置された。さらに県警とも連携し、交差点の南北に一時停止標識が取り付けられ、優先道路の白線、車道と路肩を分ける外側線も引き直した。 1月17日付の福島民報によると、市が市道の総点検を実施したところ、同16日までに県市道合わせて約200カ所が危険個所とされた。交差点でどちらが優先道路か分かりにくい、出会い頭に衝突する可能性がある、速度が出やすい個所が該当する。市は国土交通省郡山国道事務所と県県中建設事務所にも交差点の点検を要望している。  県道路管理課では方部ごとに県道・3桁国道の道路パトロールを日常的に実施し、白線などが消えかかっている個所は毎年春にまとめて引き直している。ただし、「大型車がよく通る道路や冬季に除雪が行われる路線は劣化が早く、平均7、8年は持つと言われるところが4、5年目で消えかかったりする」(吉田准教授)事情もある。日常的にチェックする仕組みが必要だろう。 県警本部交通規制課が公表している報告書では「人口減少による税収減少などで財政不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少すると想定される」と述べており、交通安全対策を実施するうえで財源確保がポイントになるとしている。 吉田准教授はこう語る。 「道路予算というと新しい道路の整備費用ばかり注目されがちだが、道路管理費用も重要であり、今後どうするか今回の事故をきっかけに考える必要があります」 県警交通規制課によると、昨年の交通事故死者数は47人で現行の統計になった1948(昭和23)年以降で最少だった。車の性能向上や道路状況の改善、人口減少、安全意識の徹底が背景にあるが、そのうち交差点で亡くなったのは19人で、前年から増えている。 「基本的に交差点は事故が起こりやすい場所。ドライバーは注意しながら走る必要があるし、県警としても広報活動などを通して、交通安全意識を高めていきます」(平子誠調査官・次席) 県内には今回の事故現場と似たような道路環境の場所も多く、他人事ではないと感じた人も多いだろう。予算や優先順位もあるので、すべての交差点に要望通り信号・標識・カーブミラーが設置されるわけではない。ただ、住民を交えて「危険個所マップ」を作るなど、安全意識を高める方法はある。悲惨な事故を教訓に再発防止策を講じるべきだ。 吉田 樹YOSHIDA Itsuki 福島大学経済経営学類准教授・博士(都市科学) http://gakujyutu.net.fukushima-u.ac.jp/015_seeds/seeds_028.html あわせて読みたい 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証