専門家が指摘する危険地点の特徴
1月2日夜、郡山市大平町の交差点で軽乗用車と乗用車が出合い頭に衝突し、軽乗用車が横転・炎上。家族4人が死亡する事故が発生した。悲惨な事故の背景を探る。(志賀)
報道によると、事故は1月2日20時10分ごろ、郡山市大平町の信号・標識がない交差点で発生した。東進する軽乗用車と南進する乗用車が衝突し、軽乗用車は衝撃で走行車線の反対側に横転、縁石に乗り上げた。そのまま炎上し、乗っていた4人は全員死亡。横転した衝撃で火花が発生し、損傷した車体から漏れ出たガソリンに引火したためとみられる。
軽乗用車に乗っていたのは、所有者である橋本美和さん(39)と夫の貢さん(41)、長男の啓吾さん(20)、長女の華奈さん(16)。事故現場に近い大平町簓田地区に自宅があり、市内の飲食店から帰宅途中だった。
乗用車を運転していた福島市在住の高橋俊容疑者(25)は自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで同4日に送検された。現行犯逮捕時は同法違反(過失運転致傷)だったが、容疑を切り替えた。
この間の捜査で高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」、「交差点ではなく単線道路と思った」、「暗い道で初めて通った。目の前を物体が横切り、その後衝撃を感じた」、「ブレーキをかけたが間に合わなかった」などと供述している。
軽乗用車が走っていたのは、郡山東部ニュータウン西側と県道297号斎藤下行合線をつなぐ「市道緑ヶ丘西三丁目前田線」。「JR郡山駅へと向かう際の〝抜け道〟」(地元住民)として使われている。
乗用車が走っていたのは、東部ニュータウン北側から坂道を降りて同市道と交差する「市道川端緑ヶ丘西四丁目線」。交差点では軽乗用者側が優先道路だった。
もっとも、そのことを示す白線はほとんど消えて見えなくなっていた。1月6日に行われた市や地元町内会などによる緊急現場点検では、参加者から「坂道カーブや田んぼの法面で対向車を確認しづらい」、「標識が何もないので夜だと一時停止しない車もあるのでは」などの意見が出た。大平町第1町内会の伊藤好弘会長は「交通量が少なく下り坂もあるのでスピードを出す車をよく見かける」とコメントしている(朝日新聞1月7日付)。
1月上旬の夜、乗用車と同じルートを実際に走ってみた。すると軽乗用車のルートを走る車が坂道カーブや田んぼの法面に遮られて見えなくなり、どこを走っているのか距離感を掴みづらかった。交差点もどれぐらい先にあるのか分かりづらく、減速しながら降りていくと、突然目の前に交差点が現れる印象を受けた。
地域交通政策に詳しい福島大教育研究院の吉田樹准教授は事故の背景を次のように分析する。
「乗用車の運転手は初めて通る道ということで、真っすぐ走ることに気を取られ、横から来る車に気付くのが遅れたのだと思います。さらに軽自動車が転倒し、発火してしまうという不運が重なった。車高が高い軽自動車が横から突っ込まれると、転倒しやすくなります」
地元住民の声を聞いていると、「あの場所がそんなに危険な場所かな」と首を傾げる人もいた。
「事故現場は見通しのいい交差点で、交通量も少ない。夜間でライトも点灯しているのならば、どうしたって目に入るはず。普通に運転していれば事故にはならないはずで、道路環境が原因の〝起こるべくして起きた事故〟とは感じません」
こうした声に対し、吉田准教授は「地元住民と初めて通る人で危険認識度にギャップがある場所が最も危ない。地元住民が『慣れた道だから大丈夫だろう』と〝だろう運転〟しがちな場所を、変則的な動きをする人が通行すれば、事故につながる可能性がぐっと上がるからです」と警鐘を鳴らす。
今回の事故に関しては、軽乗用車、乗用車が具体的にどう判断して動いたか明らかになっていないが、そうした面からも検証する必要があろう。
なお、高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」と供述したとのことだが、乗用車側の道路の先は、墓地や旧集落への入り口があるだけの袋小路のような場所。その先に知人の家があったのか、それとも道に迷っていたのか、はたまたまだ表に出ていない〝特別な事情〟があったのか。こちらも真相解明が待たれる。
道路管理の重要性
今回の事故を受けて、地元の大平第1町内会は道路管理者の市に対し対策強化を要望し、早速カーブミラーが設置された。さらに県警とも連携し、交差点の南北に一時停止標識が取り付けられ、優先道路の白線、車道と路肩を分ける外側線も引き直した。
1月17日付の福島民報によると、市が市道の総点検を実施したところ、同16日までに県市道合わせて約200カ所が危険個所とされた。交差点でどちらが優先道路か分かりにくい、出会い頭に衝突する可能性がある、速度が出やすい個所が該当する。市は国土交通省郡山国道事務所と県県中建設事務所にも交差点の点検を要望している。
県道路管理課では方部ごとに県道・3桁国道の道路パトロールを日常的に実施し、白線などが消えかかっている個所は毎年春にまとめて引き直している。ただし、「大型車がよく通る道路や冬季に除雪が行われる路線は劣化が早く、平均7、8年は持つと言われるところが4、5年目で消えかかったりする」(吉田准教授)事情もある。日常的にチェックする仕組みが必要だろう。
県警本部交通規制課が公表している報告書では「人口減少による税収減少などで財政不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少すると想定される」と述べており、交通安全対策を実施するうえで財源確保がポイントになるとしている。
吉田准教授はこう語る。
「道路予算というと新しい道路の整備費用ばかり注目されがちだが、道路管理費用も重要であり、今後どうするか今回の事故をきっかけに考える必要があります」
県警交通規制課によると、昨年の交通事故死者数は47人で現行の統計になった1948(昭和23)年以降で最少だった。車の性能向上や道路状況の改善、人口減少、安全意識の徹底が背景にあるが、そのうち交差点で亡くなったのは19人で、前年から増えている。
「基本的に交差点は事故が起こりやすい場所。ドライバーは注意しながら走る必要があるし、県警としても広報活動などを通して、交通安全意識を高めていきます」(平子誠調査官・次席)
県内には今回の事故現場と似たような道路環境の場所も多く、他人事ではないと感じた人も多いだろう。予算や優先順位もあるので、すべての交差点に要望通り信号・標識・カーブミラーが設置されるわけではない。ただ、住民を交えて「危険個所マップ」を作るなど、安全意識を高める方法はある。悲惨な事故を教訓に再発防止策を講じるべきだ。
吉田 樹
YOSHIDA Itsuki
福島大学経済経営学類
准教授・博士(都市科学)
http://gakujyutu.net.fukushima-u.ac.jp/015_seeds/seeds_028.html