昨年10月号に「トラブル相次ぐ磐梯猪苗代メガソーラー」という記事を掲載した。磐梯町と猪苗代町にまたがる林地で建設中のメガソーラーで、施工業者間による工事代金の未払いが起きていることや県の林地開発許可に対する疑義などをリポートしたが、この時、本誌取材に応じた下請けの土木業者が「建設地一帯には本来、産廃として処理しなければならないウッドチップが大量に埋まっている」と驚きの証言をするのだ。
下請け業者が実態を暴露

JR磐越西線翁島駅から南西に約2㌔。磐梯町と一部猪苗代町にまたがる広大な林地に、ほぼ建設を終えたメガソーラーがある。
建設途中から一部のパネルで発電を始めているという話もあるが、正式な運転開始日は不明。メガソーラーの名称は「磐梯猪苗代太陽光発電所」(設備容量28・0㍋㍗)で、事業者は合同会社NRE―41インベストメント(東京都港区。以下、NRE―41と略)。法人登記簿によると、代表社員は日本再生可能エネルギー㈱、職務執行者はニティン・アプテ氏となっている。
調べると、NRE―41と日本再生可能エネルギーは同じ住所。さらにその住所には、日本再生可能エネルギーの親会社ヴィーナ・エナジー・ジャパン㈱が本社を構えていた。
ヴィーナ・エナジーはアジア太平洋地域最大級の独立系再生可能エネルギー発電事業者でシンガポールに本社を置く。日本法人のヴィーナ・エナジー・ジャパン(以下、ヴィーナ社と略)は国内29カ所でメガソーラーを稼働し、県内には国見町、二本松市、小野町に施設がある。
ヴィーナ社にとって磐梯猪苗代は県内4カ所目になるが、実は前記3カ所の事業者もNRE―03インベストメント、同06、同39という合同会社になっている。合同会社は新会社法に基づく会社形態で、設立時の手間やコストを省ける一方、代表社員は出資額以上のリスクを負わされず(ちなみにNRE―41の資本金は10万円)、投資家と事業者で共同事業を行う際、定款で定めれば出資比率に関係なく平等の立場で利益を配分できるといった特徴がある。
そのため合同会社は、外資が手掛けるメガソーラーの事業者として見掛ける頻度が高い。売電を終え利益が確定したら即撤退し、リスクが生じたら切り捨てる――そんな狙いが透けて見える。
本誌は昨年10月号で、磐梯猪苗代メガソーラーを舞台に施工業者間で工事代金の未払いが起きていることや県がNRE―41に出した林地開発許可に疑義があることをリポートした。詳細は同記事を参照していただきたいが、この時、本誌取材に応じた小川工業㈱(郡山市)の小川正克社長が今回、建設地に潜む驚きの実態を証言するのだ。
「郡山市逢瀬町のメガソーラーが県から工事中止指示を受けた。報道によると『伐採で生じた木材をチップにして産廃処理しなければならないのに、盛り土に混ぜ込んで造成した』とのことだが、これと同じ不正工事が磐梯猪苗代の現場でも行われていた」(小川社長)
小川社長によると、建設地の地中に大量のチップが今も埋められたままになっているという。
なぜ、そう断言できるのか。
「私や小川工業の作業員が実際に埋めたからだ。埋めた場所も分かっている」(同)
小川社長が本誌取材に応じたのは昨年夏ごろだが、実は、小川社長はその前から代理人を通じ、建設地に大量のチップが埋まっていることを県に通報していた。
本誌の手元に、NRE―41から林地開発に関する申請書類を受理した会津農林事務所森林土木課と、産廃問題に対応する会津地方振興局県民環境部が電話やメールでやりとりした記録(公文書)がある。約30枚に上る公文書は固有名詞や機密個所が黒塗りにされ、やりとりの全体像はつかめないが、農林事務所と振興局で問題を共有し、対応しようとしている様子の一端がうかがえる。
以下、読み取り可能な公文書を紹介する(××は黒塗り)。
◎2023年2月3日の口頭(電話)受理簿より
振興局 NREの太陽光発電施設造成地において××があるとの情報が××よりあった(1月18~24日まで毎日電話あり。写真提供もあり)。当該個所の状況を知りたい。
※以下、黒塗りが続く。
事務所 林地開発サイドとしては××確認する予定でいる。
振興局 今後、調査等含めいろいろ情報共有をお願いしたい。
◎同年2月6日の口頭(電話)受理簿より
振興局 NREの太陽光発電施設造成地での××に関して農林事務所では調査等何か対応を考えているのか。実施する場合はいつ頃を予定しているのか。
事務所 方法については検討中だが調査する予定だ。なお、いつやるかは未定だが、許可請人への確認はそれほど遅くならずに実施したい。ただ、結果が出るまでにはそれなりに時間がかかると思う。
振興局 こちらでも何かしらの調査が必要と考えているが、少なくとも現地調査となると雪解け後になるので、農林事務所の調査後になると思う。当方には図面等もないので、農林事務所で持っている図面等の資料、また場合によっては確認結果についても提供してほしい。
事務所 了解した。お互いに情報共有をお願いしたい。
◎同年5月22日の打ち合わせ記録簿より
※冒頭から黒塗りが続く。
現場で発生した伐採根は全て産廃処理している。枝、幹は現場内でチップ処理を行い××に持ち込んでいる。当初は土砂流出対策として現場内に敷くことも考えたが敷かなかった。一部の道がぬかるんでいたため滑り止めとして敷いたが、使ったものは全て撤収し産廃処理した。
「現場を掘らせてくれ」

これ以外の公文書は、3月28日に会津農林事務所の担当者が事業者やコンサルタント立ち合いのもと現地確認を行ったとする知事宛ての復命書が一部読める程度。ただ「のり弁状態」の公文書からも、チップについて県が調査していたことは確実に読み取れる。
この公文書にはもう一つ、施工業者がチップを場外にどれくらい搬出したかを示す記録簿もあった。そこには9月26日から10月31日にかけて計8200立方㍍搬出したことが記録されている。しかし、小川社長によると実際に搬出したのは5000立方㍍だったという。
「搬出に直接携わったのが小川工業で、元請けの小又建設(青森県七戸町)には5000立方㍍で請求書を出しているから間違いない。処理は某産廃業者(小川社長は実名を述べたが、ここでは伏せる)に依頼した。8200立方㍍というのは泥混じりのチップも加えた量だと思う」
小川社長は当時、某産廃業者から①泥混じりのチップはすぐには引き取れない、②1年半から2年待てばチップを置けるヤードが空く、③それを最終処理していいなら引き取る――と打診されたという。
「現場は重機や大型ダンプが何台も通り、ぬかるんでいたため滑り止めでチップを敷いていた。しかし、某産廃業者は『綺麗なチップはバイオマスの燃料に転用できるが、泥混じりのチップは最終処理するしかない』と言うので元請けの小又建設に相談したら『最終処理の費用は出せないのでそのまま埋めてくれ』って言われて……」(同)
ちなみに、最終処理の見積もりは2億4000万円だった。
もっとも、実際に発生したチップは5000~8200立方㍍では到底収まらない量だったようだ。小川社長が筆者に見せてくれた写真には建設地に広く積まれたチップが写っていた。小川工業が建設地から撤退する際、ドローンを飛ばして撮影した「証拠写真」だ。
空中から撮ったので高低は分かりづらいが、小川社長いわく「チップは高さ数㍍に達していた」。ただ正確な高さは判別できなくても、一緒に写っている重機や大型ダンプが山積みのチップに対し相当小さい。そこから推察すると、チップは少なく見積もっても8200立方㍍の10倍以上はあるのではないか。
「単純に伐採した木が何本で、それをチップにしたらどれくらいの量になるかを考えれば8200立方㍍で納まらないことは明白」(同)
こうした実態を、小川社長は施工に関わった作業員2人を連れて会津農林事務所や会津地方振興局に出向いて証言し、定期的に電話もしている。小川社長が県に執拗に求めているのは「現場検証」だ。すなわち「全ての関係者を現場に呼んで、みんなが見ている前でボーリング調査をさせてほしい。そうすればチップが大量に埋まっていることを証明できる。かかった費用は全部持つ」と。埋めたのは自分だから、どこを掘ればチップが出てくるかは分かっているというわけ。
「ところが、県は『それはちょっと……』と言葉を濁し、ボーリング調査をさせてくれない。もうかれこれ1年以上、掘らせてくれとお願いしているんだけどね」(同)
筆者は昨年12月、会津地方振興局県民環境部を訪ね、実態をどの程度把握し、どんな調査をしているか担当者に尋ねたが「詳細は話せない。ただ、全く調査していないということではない」と明確な回答をもらえなかった経緯がある。
産廃行政に携わった経験を持つ県職員OBは同振興局をこう庇う。
「今回のような『何かが埋まっている』問題は、現行犯で見つけない限り県では厳しく対応できない。県が『掘らせてほしい』とお願いしても、現場は事業者名義になっていたりするので断られたら掘れない。了承が得られた場合でも『もし何も出てこなかったら損害賠償を請求するからな』と脅す輩もいる。いわゆる不法投棄に関する調査は、皆さんが思うほど簡単ではない」
県の追及に、事業者が不正工事を認めた郡山市逢瀬町メガソーラーのケースはかなり珍しいようだ。ただ似たような案件なのに、こっちは県から工事中止指示が出され、磐梯猪苗代メガソーラーは見過ごされているのは違和感がある。
工事の詳細を把握せず!?

7月中旬、会津農林事務所森林林業部を訪ね、山田憲司副部長に話を聞いた。
「工期は10月20日までだが、県は現時点で林地開発の完了確認を出せずにいる。県に届け出ている工事計画の通りきちんと工事が行われているか、ヴィーナ社に報告を求めているが、十分な回答が未だに返ってこない。県としては届け出通りに工事が行われなかった結果、災害が起きては困るので、回答次第ではヴィーナ社に必要な対応を求めていく」
小川社長によると「ヴィーナ・エナジー(NRE―41)は林地開発許可を受けている立場なのに、現場でどんな工事が行われているか全く把握しておらず、施工業者に丸投げしているため、いくら会津農林事務所が質問してもまともに答えられないんだと思う」。同事務所がヴィーナ社に再三尋ねているのは、チップに関することとみられる。
ヴィーナ社に事実関係を確認するため、昨年取材に応じた広報担当者の携帯を鳴らしたがつながらない。留守電に伝言を入れても折り返しはなかった。メールで質問も送ったが期日までに回答はなかった。
近年の地球環境を踏まえると再エネ普及は必須だが、悪質な出来事が起きると事業者全体に不信の目が向けられ、再エネが思うように普及せず、結果、カーボンニュートラルも進まない悪循環に陥ることを関係者は肝に銘じるべきだ。