【郡山市逢瀬町メガソーラー】事業者・施工者が「不正工事」否定のナゼ

 郡山市逢瀬町の山林で建設が進むメガソーラーで「不正工事」が行われていたことが分かった。県が工事中止指示を出し、各メディアが一斉に報じた。ところが、事業者と施工業者は本誌取材に「不正工事はしていない」と否定している。現場では何が起きていたのか。さらに各地のメガソーラーで最近、反対運動が目立つのはなぜなのか。(佐藤仁)

専門家が「地元資本参加でトラブル回避」を提言

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 郡山市逢瀬町は面積77平方㌔、世帯数1229世帯、人口3485人(今年7月1日現在)。JR郡山駅から西に約13㌔離れた同町は山林と田畑が広がり、高篠山森林公園やふくしま逢瀬ワイナリーなど自然・農業を生かした施設が点在する。

 そんなのどかな地域が今、メガソーラーをめぐって揺れている。完成間近の現場で「不正工事」が行われていたことが発覚したのだ。

 公になったきっかけは、県が6月27日、6月定例県議会で「事業者に工事中止指示を出した」と明かしたことだった。翌28日配信の福島民友はこう伝えている。

 《県によると、施工業者が土砂を固めるための転圧を適切に行わずに盛り土したほか、伐採で生じた木材を産業廃棄物としてチップにして処理しなければならないのに、盛り土に混ぜ込んで造成していた。

 発注者は太陽Reserve3合同会社で、日本国土開発が施工を担当していた。中止指示は5月24日付。現在は工事を中止している状況。今後は発注者に復旧計画の提出を求める方針で、審査を経て工事再開を判断する。県に対して5月14日、情報提供があり、発注者に確認したところ、不正を認めたという》

 メガソーラーは「(仮称)砂欠山太陽光発電所」という名称で工事が進められていた。

 事業者の太陽Reserve3合同会社(東京都港区)が2016年4月に作成した「郡山市砂欠山メガソーラー発電所に係る環境影響評価方法書要約書」によると、事業面積は119・9㌶で、このうち4割に当たる49・2㌶に太陽光パネルを設置し、5割は残置森林、1割は調整池(12個所)、管理道路、排水路、変電施設を整備する計画。発電電力量は1179MWh/年となっている。

 地元への説明会は2016年4月に逢瀬町夏出集会所、18年11月に同集会所と熱海町長橋集会所で開いているが、出席人数は不明。

 同要約書には各種計画の概要が次のように記されている。

 【工事計画】準備工事(仮設沈砂池等の設置、樹木の伐採など)のあと、造成工事、施設建設工事(太陽光パネルの設置、試運転など)を行う。工事期間は約2年で、3年目から発電(売電)する。

 【施設計画】太陽光パネルやパワーコンディショニングシステム、変電所(1個所)を設置。運転開始後は遠隔監視となるため施設は無人。上水、下水、ガスは設置しない。

 【造成計画】現況地形を生かし太陽光パネルの設置範囲ごとに行う。対象事業実施区域内で切り土、盛り土のバランスを図るため、残土は発生させない。

 【防災計画】対象事業実施区域からの流出量の一時的増加が想定されるため、各流域の流末に調整池を設置し流出量を調整する。調整池からの排水は、排水路を経由して後庵川に放流。工事中には土砂流出を防止するため仮設沈砂池を設置する。

 太陽Reserve3合同会社は予定地一帯で環境アセスメントを行うと共に、森林法に基づく林地開発の手続きを進め、2020年2月に県から林地開発許可を受けた。

 工事は同年4月から始まったが、前述の不正工事はそれから4年経った今年5月に発覚。工期(林地開発の許可期限)は6月30日までで、まさに完成目前のタイミングだった。

 7月中旬、現地を訪れると、メガソーラーの入口は門で閉ざされ中に入れなかった。周辺には重機やトラックなどが停まっていたが、作業員の姿はなく静まり返っていた。

 近隣の住宅で聞き込みをすると、高齢男性が取材に応じてくれた。

 「新聞やテレビで報じられていることしか知らないが、要するに適当に盛り土して、その中に木を埋めていたってことでしょ? もし大雨が降って土や木が流出したら、この辺はどうなるの? とんでもないことをする会社だなって呆れたよ」

 問題発覚後、高齢男性は現場関係者から謝罪を受けたが「謝って済む話ではない」と憤る。

 「今回の現場の隣でも別のメガソーラーが建設中だ。この辺の山林は原発事故の放射能で汚染され、使い物になるのかよく分からないが、人命を軽んじているような姿勢も許せないけど、これ以上環境を壊されてはたまったもんじゃない」(同)

県に届いた匿名の告発投書

県に届いた匿名の告発投書

 現場周辺は一面山林だが、ここではかつてゴルフ場開発が行われていたフシがある。2016年4月に開かれた県環境影響評価審査会の議事録を見ると、委員と事業者がこんなやりとりをしている。

 委員 ゴルフ場の開発中に大半の木が伐採されたとのことですが、現状は放棄されているのですか。ススキ草原などになっているのですか。

 事業者 伐採されている範囲は多いです。木が残っているところもあります。

 委員 現状でどこか崩れているところはないですか。

 事業者 現地は山です。歩ける範囲でだいたい見ましたが、崩落している場所は確認していません。

 委員 つまりゴルフ場だから、あまり法面が急な場所には太陽光パネルを設置しないということですか。

 事業者 ゴルフ場のための造成はされていません。着工前でした。

 委員 それではなぜ伐採されているのでしょうか。

 事業者 伐採の経緯は把握していません。

 委員 誰かが伐採し、木材を販売したあとに土地を引き渡したのでしょうか。

 事業者 ゴルフ場計画と関連した伐採なのかどうかも分かりません。

 ゴルフ場計画が何らかの理由で中断されたあとに、メガソーラー計画が持ち込まれたことが分かる。

 現場では一体どんな不正工事が行われていたのか、県森林保全課の石井清隆課長に聞いた。

 「5月14日、県に匿名投書が届きました。そこには①盛り土の一部で締め固めをしていない、②盛り土の中に木片が混入しているなどと書かれ、県に届け出ている工事計画と現場で行われている工事内容が違っている可能性が浮上しました」

 これを受け県が太陽Reserve3合同会社に聞き取りをすると、投書の内容を事実と認めたため、県は5月24日付で工事中止指示を出した。

 「現在、事業者には資料やデータをもとに現場の状況を説明するよう求めています。そこがはっきりしないと、今後どのような是正工事をしなければならないのか見極めが付きません」(同)

 それにしても、この手の匿名投書で告発された側が不正を認めるのは極めて珍しい。投書の内容がいくら詳細でも「証拠」がなければ、現行犯でない限り告発された側はシラを切ることができるからだ。

 「詳しくは言えないが、匿名投書には『証拠』となり得る資料が添付されていたのです。それを事業者に示したところ、事実と認めたので工事中止指示を出した」(同)

 どんな資料が送られてきたのか興味深いが、推測すると「この工事はおかしい」と疑問を持った人物が内部資料を持ち出し、許可権者である県に告発した――と考えるのが自然だろう。

 ともかく、県に「証拠」を突き付けられた太陽Reserve3合同会社は言い逃れできなかったことになる。

 ただ、工事中止指示を受けたのは太陽Reserve3合同会社だが、施工していたのは日本国土開発㈱(東京都港区、林伊佐雄社長)だった。1951年設立、資本金50億1275万円、従業員数約1000人。東証プライム上場。2023年5月期の売上高1542億円。

 今回の問題を考える上で両社の関係性は非常に重要だ。と言うのも日本国土開発が独自の判断で不正工事を行っていれば同社は「加害者」、太陽Reserve3合同会社は「被害者」になるが、不正工事が太陽Reserve3合同会社の指示を受けて行われたものであれば両社は「共犯関係」になるからだ。

 あるいは、太陽Reserve3合同会社から受注したのは日本国土開発だが実際の施工は下請けの土木会社が行っていれば、不正工事は下請けの判断で行われ、日本国土開発は知らなかったかもしれない。逆に、元請けの指示で下請けに不正工事をさせていた可能性も考えられる。

「悪質と認識している」

郡山逢瀬メガソーラー図

 ところが、日本国土開発はこうした推測が及ばない予想外のリリース(7月1日付)を出していた。

 《2024年6月28日および29日に、一部報道機関において、当社が福島県郡山市で施工中の大規模太陽光発電施設の造成工事で不正な工事を行っている旨の報道がありましたが、そのような不正な工事を行った事実はありません。当社といたしましては、今後も引き続き福島県のご指導のもと対応してまいります》

 「不正工事はしていない」と公に否定しているのだ。ならば現場ではどんな工事が行われていたのか。日本国土開発の広報に電話で問い合わせると、担当者は歯切れの悪い回答に終始した。

 「当社が造成工事をしていたのは事実です。事業者に対し、県から工事中止指示が出たので当社も工事を中止しました。しかし、報道されたような不正工事はしていない。当社が勝手に工事をやめたという一部報道もあるが、そういう事実もない。事業者に黙って、当社が勝手に(不正工事を)したり(工事を)やめたりすることはあり得ません」

 では、工事の詳細を教えてほしいと求めても、担当者は「事業者と協議中」「ともかく不正工事はしていない」と繰り返すだけ。最後は「当社の見解はリリースの通りです」と要領を得ない回答で打ち切られてしまった。

 太陽Reserve3合同会社は何と答えるのか。電話で問い合わせると、同じように担当者は「不正工事はしていない」と言う。直接質問しようとしたら「文書でやりとりさせてほしい」と言うので10の質問項目を送ると、以下の回答(7月18日付)が寄せられた。

 《この度、地元住民の方々をはじめ皆さまにはご心配とご迷惑をおかけしており大変申し訳なく思っております。ご心配になられた地元行政区の方々や関係者の方々とは連絡を取らせていただいております。

 今回一部工事について福島県への申請書未提出があったため、実施後に中止指示を受けました。現在は福島県からの質問及び資料提出の要請について対応しているところです。

 防災施設については完成しておりますので、引き続き適切な管理を行って参ります。

 なお、施工会社とも確認しましたが、ご質問中にある「施工業者が土砂を固めるための転圧を適切に行わずに盛り土したほか、伐採で生じた木材を産業廃棄物としてチップにして処理しなければならないのに、盛り土に混ぜ込んで造成していた」や「施工業者が土砂を固めるための薬剤の注入などを行わずに盛り土をしていた他、伐採で生じた木材を盛り土に混ぜ込んで造成していた」というご記載については事実ではないようですので、事実であることを前提としたご質問にはお答えできません》

 せっかく細かく質問しても一括で答えられては話にならない。「不正工事はしていない」と言うなら、日本国土開発も太陽Reserve3合同会社も現場でどんな工事をしていたのか事実関係を説明するのがスジではないか。それをせずに否定されても、こちらとしては納得できない。

 前出・県森林保全課の石井課長に「施工業者らは本誌取材に不正工事を否定している」と伝えると、次のような見解を示した。

 「県に届け出た計画通りに工事をしていない、言い換えると適正に工事をしていなかったわけだから、それは『不正工事』と言って差し支えないと思います」

 石井課長によると、太陽Reserve3合同会社からは新たに今年12月末までとする工期延長の申請書が出されているが、

 「是正工事が終わらないと、県では完了確認を出せない。現地は太陽光パネルの設置を終えているが、場合によってはパネルや支柱を外して工事をやり直してもらう必要もあるかもしれない。いずれにしても、事業者がどのような是正工事をすると県に報告するのか、その工事のやり方で問題ないのかは、事業者の報告を待って判断します」(同)

 朝日新聞は6月29日付県版で、林地開発許可を受けたメガソーラーの建設をめぐり、昨年度から今年度にかけて計9件の施設が県から工事中止指示を受けたと報じた。この中には逢瀬町のメガソーラーも含まれているが、

 「今回は件数が多かったが、年度によっては0件の時もあります。中止指示を出した理由は、防災施設の工事を先行しなければならないのに山の掘削も同時に進めるなど『不適切工事』が見つかるケースがほとんどです。それらに比べると、逢瀬町のメガソーラーで起きた事案は悪質と認識しています」(同)

 事業者、施工業者は不正工事を否定するが、県の受け止めはかなり深刻であることがうかがえる。

 「悪質な事案については、県から経済産業省東北経済産業局に報告することになっています。改正された法律により、違反状況の未然防止や早期解消に向けた措置が取られるようになったためです」(同)

メガソーラー=悪の風潮

【郡山市逢瀬町メガソーラー】県の工事中止指示を受け静まり返る現場
県の工事中止指示を受け静まり返る現場

 それまでは、メガソーラーの事業者が悪質な事案を起こしても、林地開発違反が問われる程度で厳しい罰則規定はなかった。そこで今年4月から施行された改正再エネ特措法では、事業者が関係法令・条例や認定計画・認定基準に違反している場合は、FIT・FIP交付金を一時停止し(積立命令)、違反が解消されず認定取り消しに至った場合は一時停止された交付金を徴収する措置(返還命令)が創設されたのだ。

 売電を目的とする事業者にとってFIT・FIP交付金は「儲け」に当たるので、同交付金が支給されなければメガソーラーを稼働させても旨味がない。石井課長は「交付金がないと困るのは事業者なので、悪質なケースを是正する効果はあると思います」と指摘する。

 県内では、福島市の先達山で建設中のメガソーラーに市民が反対の声を上げ、市が現状を説明する専用のウェブページを開設したり、県に災害防止や景観保全を要請するなどしている。全国を見渡しても奈良県五條市、千葉県鴨川市、長崎県佐世保市などで住民らによる反対運動が表面化している。

 なぜ、メガソーラーは反対されるのか。再エネについて研究する福島大学共生システム理工学類の佐藤理夫教授は次のように解説する。

 「メガソーラーは巨大で目立つので、逢瀬町の施設のように『不正工事』と報じられると注目を集めやすい。本来、どのメガソーラーも法令を遵守し必要な行政手続きを行っているのに、一部が問題を起こすことでメガソーラー全体が『悪』と見られてしまう傾向はあると思います」

 こうした状況を踏まえ佐藤教授が指摘するのは、反対するなら対案も示す必要があるということだ。

 「カーボンニュートラルを進めるなら再エネの普及は欠かせない。しかし、メガソーラーにだけ反対したらカーボンニュートラルは進まない。反対するならメガソーラーに代わる再エネの普及や省エネの取り組みが必要です。市民も行政もそこまで踏み込んで真剣に考えるべきです。計画から運転開始までを考えると、工事開始は中間地点。今は工事開始後であっても、住民が反対すれば工事を止められるバイアスというか誤った風潮が広がっている印象を受けます」(同)

 佐藤教授は、生活する上でエネルギーは欠かせないのだから、エネルギー全体の何割を再エネでまかなうのか、そのために容認できることは何なのかを行政や住民で話し合うことが大切という。

 「メガソーラーは絶対反対の人もいれば、内心は賛成だけど批判されるから声を出せない人もいるはずです。だったら、普及のためにはここまで容認しようという線引きを行政や住民で決めれば、反対から条件付き賛成に転じる人が現れ、賛成の人も声を上げやすくなり、結果、メガソーラー=悪という風潮も変わるのではないか」

 さらに、佐藤教授は踏み込んだ提言もする。

 「本来、再エネ資源はその地域のもの。しかしながら、メガソーラーの開発には大手や外資が関わり、地元は蚊帳の外に置かれることがほとんど。だったら、地元で組織した組合や産業界が資本参加すれば、売電収益の一部が地元に落ちたり、地元業者が施工に携わったり、問題が起きたら自ら解決に乗り出すこともできる。そのためには行政や地元金融機関の後押しが欠かせないことも付言したい」

 どこの誰が建設し、売電しているのかよく分からない現状を、地元が一定程度関わることで変えていってはどうかというわけ。

行き交う利権

ソネディックス・ジャパンの会社案内
ソネディックス・ジャパンの会社案内

 実際、逢瀬町のメガソーラーは表面上、太陽Reserve3合同会社が事業者になっているが、その裏にはソネディックス・ジャパン㈱(東京都港区、太陽Reserve3合同会社と同じ住所)というメガソーラーのデベロッパーが存在する。同社は米国の金融大手グループJPモルガン・アセット・マネジメントの出資などで設立されたソネディックスの日本パートナーで、ソネディックスはアメリカ、チリ、イギリス、フランス、ポルトガルなどでメガソーラーを展開。日本でも運転中・開発中を合わせて二十数カ所の施設を手掛ける。ソネディックス・ジャパンのHPでは逢瀬町の施設を「開発中」と紹介している。

 逢瀬町の予定地の登記簿を見ると複雑な経緯も浮かび上がる。

 もとの所有者は幸和商事㈱(東京都日野市)だったが、2008年に栃木県の男性が買収。そこから所有者は㈲ホクエー(東京都港区)、AAA㈱(東京都港区)、ハイブリッド・サービス(東京都中央区)、イギリス領バージン諸島の会社に代わり、14年に太陽Reserve3合同会社が買収している。

 もっと言うとホクエー→AAA→ハイブリッド社の名義変更は同じ日(2013年9月27日)に行われ、ハイブリッド社はAAAから10億円で買収(プレスリリースより)するなど、メガソーラーをめぐる利権が行き交う様子もうかがわれる。最終的に、太陽Reserve3合同会社は予定地を担保に全国9地銀とのシンジケートローンで187億円の資金調達を実現。この中には東邦銀行(債権額20億円)と福島銀行(同5億円)も入っている。

 地元金融機関も積極的に融資する外資のメガソーラーがトラブルを起こし、地元自治体から指導を受け、地元メディアを騒がせ、地域住民を困惑させる――そんな構図が全国各地で起きている印象だ。前出・佐藤教授が言うカーボンニュートラルの観点から、メガソーラーへの理解を深めると共に何らかの形で地元が関与する仕組みづくりが必要なのかもしれない。

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

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