福島県の〝商都〟を象徴する「うすい百貨店」(郡山市中町13―1、横江良司社長、以下うすいと表記)に気になるウワサが浮上している。
本誌2023年2月号【ホテルプリシード郡山閉館のワケ】で既報の通り、うすいの隣で営業するホテルプリシード郡山が3月末で閉館し、同じ建物に入る商業施設やスポーツクラブも5月末で撤退することが決まるなど、賑わいを取り戻せずにいる中心市街地はますます寂れていくことが懸念されている。
そのうすいをめぐっても、地元経済人の間で最近こんなウワサが囁かれている。
「ルイ・ヴィトンが今年秋に撤退することが決まったらしい」
言わずと知れた高級ファッションブランドのルイ・ヴィトンは、うすいが現在の店舗でリニューアルオープンした1999年からキーテナントとして1階で営業。地方の百貨店にルイ・ヴィトンが出店したことは当時大きな話題となった。
以来、ルイ・ヴィトンは「百貨店としての質」を高める顔役を担ってきたが、それが撤退することになれば集客面はもちろん、イメージ面でも影響は計り知れない。
「うすいに限らず百貨店自体が新型コロナの影響もあり厳しいと言われているが、(うすいに入る)ヴィトンの売り上げ自体は悪くないそうです」(ある商店主)
うすいは今年に入ってから、同じく高級ファッションブランドであるグッチの特設売り場を開設したが、売り上げ好調を受けて開設期間を延長した。延長期間は長期になるという話もあるから、客入りは予想以上に良いのだろう。新型コロナが経済に与える影響は続いているが、高級ブランドへの需要は戻りつつあることがうかがえる。
にもかかわらず、なぜルイ・ヴィトンは撤退するのか。
「東北地方には仙台に店を置けば十分と本部(ルイ・ヴィトンジャパン)が判断したようです。今はネット購入が当たり前で、地方にいても容易にブランド品が手に入る時代なので、テナント料や人件費を払ってまで各地に店を構える必要はないということなんでしょうね」(同)
なるほど一理あるが、半面、郡山に「都市としての魅力」が備わっていれば、ルイ・ヴィトンも「ここに店を置く意義はある」と思い留まったのではないか。そういう意味で、撤退の要因はうすいにあるのではなく、郡山に都市としての魅力が無か
ったと捉えるべきだろう。
もっとも、撤退はウワサの可能性もある。うすいに事実関係を確認すると、広報担当者はこう答えた。
「オフィシャルには11月にリモデルすることを発表していますが、中身については経営側と店舗開発部で協議しているところです。当然、ショップの入れ替わりも出てくると思いますが、現時点で発表できる材料はありません」
前出・商店主によると
「ヴィトンの後継テナントが見当たらないため、内部では『市民の憩いの広場にしてはどうか』という案が浮上しているそうです」
とのことだが、今まで高級ブランド店が構えていた場所にベンチを置くだけの使い方をすれば「百貨店としての質」は確実に落ちる。地方の百貨店にハイブランドテナントを誘致するのが難しいことは十分承知しているが、安易な代替案は避け、百貨店に相応しいテナントを引っ張ってくる努力を怠るべきではない。
ちなみに民間信用調査機関によると、うすいの近年の業績は別表の通り。地方の百貨店は厳しいと言われる中、少ないかもしれないが黒字を維持している。2021年はさすがに新型コロナの影響が出て大幅赤字を計上したが、翌年はその反動からか逆に大幅黒字を計上している。
うすい百貨店の業績
売上高 | 当期純利益 | |
---|---|---|
2018年 | 154.9億円 | 4100万円 |
2019年 | 149.9億円 | 3600万円 |
2020年 | 141.8億円 | 1700万円 |
2021年 | 122.1億円 | ▲1億3300万円 |
2022年 | 132.9億円 | 1億5500万円 |
うすいはこれまでも、大塚家具や八重洲ブックセンターといった有力テナントの撤退に見舞われたが、県内初進出のブランドを期間限定ながら出店させるなどして「県内唯一の百貨店」としての地位を維持してきた。しかし、撤退のウワサはルイ・ヴィトンに留まらず、
「私はティファニー(宝飾品・銀製品ブランド)が出ていくって聞いていますよ」(ある経済人)
という話も漏れ伝わるなど、地方の百貨店の先行きはますます不透明感を増している状況だ。
新型コロナの影響は収まっていないが、11月のリモデルでルイ・ヴィトンやティファニーが撤退するのかどうかも含め、どのような新しい方向性が打ち出されるのか。うすいの奮闘は続く。