業務用サイズの商品が割安価格で買えることから全国的に人気を集めている、米国発の会員制小売チェーン「コストコホールセール」。2、3年前から「本宮市に出店するらしい」というウワサが市内外で広まっているが、進んでいる気配は見えない。計画は実現するのか。(志賀)
資材高騰と競合店改装


コストコホールセール(以下コストコと表記)は1983年に米国で設立された。世界14カ国に893店の店舗(同社では倉庫店と呼ぶ)を出店。日本上陸は1999年で、現在は36店舗まで拡大している。日本法人「コストコホールセールジャパン」は千葉県木更津市に本社がある。資本金95億0500万円。民間信用調査機関によると、2024年8月期売上高は7000億円。
広大な倉庫型店舗では、食料品や日用品のほか、衣類や家電なども取り扱っている。商品はどれもビッグサイズで、食品スーパーより価格がかなり安く設定されているため、家族連れなどに人気だ。ただし、買い物する際は事前に会員にならなければならない。個人会員の年会費は4840円(税込み)。こうした業務形態は「会員制ホールセールクラブ」と呼ばれる。
近県では山形県上山市、宮城県富谷市に出店しており、福島県からも多くの人が足を運んでいる。沖縄県南城市で新規オープンした際は周辺が大渋滞となり、全国ニュースで取り上げられたほど話題の店だ。
県内には店舗がないため、出店を待ち望む声が増えており、ここ数年は「◯◯に進出するのではないか」というウワサもよく聞かれる。
本誌2018年9月号では、須賀川市茶畑町にあった日本たばこ産業(JT)東日本原料本部跡地の利活用策をめぐって「コストコができるのではないか」というウワサが飛び交ったことに触れた。結局、同跡地には大和ハウスの大型マルチテナント型物流施設ができた。
《ある有識者は「あそこに大型商業施設ができたら、近隣商店街などへの影響はかなり大きい。そんな中で、商業施設が自発的に出店計画を進めるならともかく、市の事業として商業施設を持ってくるのは考えられない」といった見方を示しており、商業施設の可能性は最初からなかったと言っていい》(本誌2018年9月号)
その後も同様のウワサが県内各地で聞かれていたが、2、3年前から本宮市でかなり具体的なウワサを聞くようになった。
東北自動車道本宮インターチェンジ(IC)近くを走る国道4号の東側に、農業振興地域に指定された農地のエリアがある。その一角にコストコが進出する計画がある、というウワサが流れたのだ。
市内の事情通からは「市が水面下でコストコと交渉して調整を進めているが、正式に契約するまで社名を出さないことが条件になっている。市長選も近いので、話が確定するまで様子を見ておいてほしい」と言われていた。
ところが、本誌で様子を見る間もなくウワサが広まり、《本宮市にコストコ出来るってほんと?》、《本宮市へのコストコ進出の噂話が大きくなって、地元説明会が開催されたような話にまでなってるみたいだけど、果たして今度は信じて大丈夫なのか……?》などSNSに投稿されるようになった。
「企業名は出せないが交渉中」
昨年1月の市長選で高松義行氏が4選を果たした後も実現の動きはなく、同6月には福島テレビ「テレポートプラス」内「福テレ空ネット」のコーナーでコストコ出店のウワサについて紹介された。同コーナーの中で市商工観光課の担当者は「業者名は出せないが、市として大型商業施設を誘致しており、測量を行っている。現在も誘致に向けて取り組んでいる。東北道本宮IC付近で五百川駅からも街のにぎわいを創出したい」とコメントしていた。
コストコのホームページには、出店用地の条件が掲載されている。
◯半径10㌔の人口が概ね50万人以上
◯企業が多い地域
◯敷地面積1万5000坪以上(ガスステーション用敷地を含む)
◯建築面積約4500坪
◯用途地域=準工、商業、近隣商業(売り場面積1万平方㍍超)市街化調整区域内でも行政の許可があれば可
◯駐車場収容台数800台以上
◯車のアクセスの良い物件
◯購入・定期借地(40年以上)・建貸
本宮IC周辺の市町村(本宮市、二本松市、大玉村、三春町、郡山市)の人口は約44万人で、この条件を満たしていないが、山形県上山市の店舗の周辺自治体は人口約32万人で、条件はあくまで目安に過ぎないようだ。こうした事実もテレビで報じられたことで、コストコ出店の期待はさらに膨らんだ。
高松市長は本宮IC周辺の整備を公約に掲げており、この間、議会でも「守秘協定を結んでいるので社名は明かせないが、大型商業施設誘致に向けて話し合いを進めており、トップともお会いした」などと明かしていた。
本誌3月号インタビューでは次のように話していた。
《本宮インター周辺の開発に関する費用を来年度予算案に組み込んでいます。周辺にはビジネスホテルが進出します。さらに大型のショッピングセンターを呼び込むのが目標です。JRの駅と本宮インターは本市の玄関口です。地権者の理解をいただきながら周辺の開発を進め、内陸型物流工業都市としてさらなる発展につなげます。本宮はかつては多くの人が行き交う宿場町でした。人が集う場所として、現代に新しい形で宿場の機能を復活させたいです。誘致については交渉事ですから、焦らず地に足を付けて臨みます》
一応守秘協定を守り、高松市長は名前を出さない。ただ、市がコストコと交渉していることはもはや公然の秘密となっており、市民レベルでは誰もが知っている。もっとも、現在まで表立った動きはないため、この間ウワサだけが飛び交う奇妙な状況となっているのだ。
ある市議は「市民から『どうなったのか』と聞かれるが、私たちも分からないのが本当のところ」と苦笑しながらこのように話した。
「本宮市は過去、工業団地造成に伴い大きな財政負担を抱えた経緯があり、現在は進出企業の立地計画に合わせて土地を確保・造成する『オーダーメイド方式』を基本的に採用している。そう考えると、本来は正式に契約したうえで交渉すべきだが、守秘協定を結んでいるというので市に対応を委ね、静観してきました。ただ、それから2、3年も停滞しているのはおかしい。あの場所は大企業や大型商業施設を誘致する際の〝虎の子〟として、あえて開発せずにきた経緯があるだけになおさら違和感を抱きます」
現在の状況について、市商工観光課にあらためて確認したところ、担当者が「商業施設を誘致する方針で企業誘致を進めており、こちらからお名前を明かすことはできませんが、企業と交渉を継続しています。併せて地権者に対し、将来的には商業施設を誘致したいと説明会などを実施して説明しています。今年度から先行して周辺道路の拡幅工事を進めているところで、全体で約20億円かかる見込みです」と述べた。交渉の進捗状況を確認すると「現段階ではお伝えできませんが、資材高騰もあるので……」と濁した。
この間、福島駅東口の再開発計画をはじめ、資材高騰の影響で事業費が跳ね上がり、計画見直しを余儀なくされた事例を誌面で紹介してきた。コストコに関してもそうした事情があり、交渉を一旦ストップしている可能性がありそうだ。
市の対応に不信感を抱く地権者
コストコ進出予定地と目される場所に足を運ぶと、農地の中を走る道路の整備が始まっていた。予定地近くの集落で年配男性に声を掛けたところ、地権者だった。
「市の説明によると、国道4号沿いにホテルルートインとセブンイレブンが進出するようです。それなのに、肝心のコストコに関しては『外資系大規模ショッピングセンター』と書かれているだけで、正式な名前を一度も知らされていません」
この年配男性によると、開発が検討されている土地の面積は約8~9㌶で、すでに測量は終わっている。地権者は代替わりして、営農していない人が多く、反対する動きは特に見られない。「ただ、仮に土地を貸すとなると、地目が農地から宅地に変わり評価額が跳ね上がるので相続税が大変になりそうです。売買か賃貸か、どれぐらいの金額で契約するのか、まだ何も決まっていないので何とも言えません」(同)。
そう話す年配男性は記者に対し、コストコ進出を進めようとしている市への怒りもぶちまけた。
「個人の農地転用はなかなか認められないのに、市のお墨付きで大型商業施設が進出する場合は8~9㌶も農地転用できるのは納得がいかない。実現すれば周辺が渋滞し、散歩もろくにできなくなるでしょう。環境破壊につながるし、われわれ地元に住む高齢者が会員制の大型商業施設に日常的に足を運ぶとも思えません。どうせ開発するなら、商業施設だけでなく、公共施設や道の駅なども整備してほしい。どうも市の都合で一方的に進められている感が否めず、不信感を抱いています」
このほか、近隣住民からは「コストコは資材高騰で事業費が上がったため、すでに進出をあきらめたと聞いた」、「すぐ近くで営業し、競合必至のヨークベニマルがコストコ出店に反対しており、実現は難しそうだ」、「県が農地転用・開発の許可を出さないのではないか」などの声が聞かれた。
市外で聞かれたのは「郡山市日和田町の大型商業施設・ショッピングモールフェスタの建て替えが発表されたのを受けて慎重になっているのではないか」という見立てだ。

老朽化に加え、度重なる大規模地震で被害を受けたため、旧建物を解体後、イオン系列の新たな商業施設として生まれ変わる。店舗面積約7万平方㍍、延べ床面積約12万平方㍍で、イオンモール新利府(宮城県)に次ぐ東北最大規模のイオン系商業施設となる。2026(令和8)年9月オープンの予定だ。
店舗規模から考えると商圏は広範囲にわたるとみられるが、コストコ進出がウワサされる場所とショッピングモールフェスタの距離は約12㌔しか離れていない。要するに、東北最大級の大型商業施設を相手に〝ガチンコ対決〟を挑むのはさすがに分が悪いと判断し、計画を練り直しているのではないか、と。
流通業界関係者からは「本宮ICや国道4号で渋滞が発生しそう。警察の許可を得る必要があるので実現は難しいのではないか」という指摘も聞かれていた。ただ、市は高速道路のIC近くに立地するコストコ岐阜羽鳥倉庫店(岐阜県羽鳥市)を視察し、周辺では約19億円かけて道路拡幅工事が行われるので、何らかの対策が講じられるとみられる。
気になるコストコの回答
当のコストコは今後の方針をどのように考えているのか。メールで問い合わせたところ、次のような回答が返ってきた。
《あいにく計画・検討中の案件に関しましては、情報をお伝えすることが出来かねます。そのため、申し訳ございませんが、取材のご協力は控えさせていただきます。
しかしながら、弊社は日本全国で出店候補地を探しておりますので、情報が公開出来る段階になりましたら弊社ホームページにてお知らせいたします》
昨年福島テレビで放送した際には、コストコの担当者は「将来福島県にも出店したいと考えています」とコメントしていたことを考えると、及び腰になった印象を受ける。それだけシビアな判断が求められる状況にあるということなのか。
高松市長は誘致企業の〝トップ〟(コストコホールセールジャパンの社長のことか)ともすでに会っていることを議会答弁で明かしている。
いきなり計画を白紙に戻すことはないだろうが、前述したような資材高騰や近隣競合店で建て替えが進んでいることを踏まえ、計画を練り直していると考えられる。
仮に規模縮小となった場合、コストコ側の要望も反映しながら、周辺の道路整備を進めてきた本宮市はどう対応していくのか。そういう意味で、コストコ側の動向を何より気にしているのは本宮市かもしれない。
果たして福島県初のコストコ進出は実現するのか。まずは同市議会12月定例会での高松市長、執行部の答弁に注目したい。