【2024年問題】トラックで溢れ返る夜の高速SA

【2024年問題】トラックで溢れ返る夜の高速SA

 夜間に高速道路を走行すると、サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)に多くのトラックが止まっている光景が目に付く。昼とは全く異なる光景が広がる理由や、背景を取材してみた。

2024年問題で駐車難民増加

駐車スペースを探すトラック(安達太良SA下り線)
駐車スペースを探すトラック(安達太良SA下り線)

 5月中旬の夜21時ごろ。東北自動車道下り線の安達太良SAには多くの大型トラックが止まっていた。NEXCO(ネクスコ)東日本の公式ウェブサイトによると、同SAには大型車の駐車マスが58台分あるが、それだけでは収まりきらず、普通車の駐車マスに無理やり停車したり、SAの出入り口の路肩に〝路駐〟していた。トラック(小型・中型・大型)、トレーラーの数を数えてみたところ、合計105台が止まっていた。

 東北道下り線の別のSA・PAにも立ち寄ったが、どこも超満車状態。多くのトラックはドライバーが仮眠中なのか、カーテンが閉められ、走り出す車はまばらだった。

 それにしても、夜間の高速道路のSA・PAがなぜトラックで溢れているのか。

 安達太良SAをよく利用するという中年ドライバーは「運送業者のほとんどが高速道路の深夜割引を利用しているのに加え、トラックドライバーは1日に走行できる時間の上限が定められているので、SA・PAで休憩・休息を取っているのです」と説明する。

 高速道路は毎日午前0時から同4時の深夜、ETC搭載車両が30%割引になる。対象は全車種で、この時間帯に高速道路を走っていることが条件となる。例えば福島西インターチェンジ(IC)からの高速料金は、東京ICまでが8780円から5920円に、梅田出入り口ICまでが1万7220円から1万1650円と安くなる。

 経費削減につながるため、活用している運送業者は多く、全日本トラック協会によると、トラック運送の高速道路の活用状況は2015年から2021年にかけて7・3%増加している。本来は目的地に早く到着できるにもかかわらず、SA・PAで深夜割引の適用が始まる0時になるのをわざわざ待って高速道路を降りる「0時待ちトラック」も少なくないという。

 トラックドライバーが1日に走行できる時間の上限は、厚生労働省が定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」というルールに基づく。

 例えば1日の拘束時間は13時間で、状況によって上限16時間まで認められている。その拘束時間の間ずっと走っていいわけではなく、連続運転4時間ごとに必ず30分以上の休憩を取らなければならない。また、運転時間は2日間を平均して1日当たり9時間、2週間を平均して1週間当たり44時間とも定められている。このほか勤務が終わり、次の勤務が始まるまでの「休息」に関しても、連続8時間以上と明確に定められている。

 すなわち、①深夜割引が適用になる夜間に走行するトラックが多いうえ、②トラックドライバーは休憩・休息ルールが厳格に定められているため、夜の高速道路のSA・PAはトラックで溢れているのだ。

 なおこの傾向は今年4月以降、さらに強まっているようだ。というのも2019年に働き方改革関連法が施行され、時間外労働の上限が規制されたのを受け、改善基準告示で定められていた拘束時間や休息期間が4月から変更となったのだ。

 本誌はこの点について、2023年5月号「『2024年問題』サービス低下が必至の物流業界」という記事で触れた。

 あらためて説明すると、働き方改革関連法により、2019年4月から、大企業は原則として時間外労働を月45時間、年360時間(労使が合意した場合に限り年720時間)と定める上限規制が導入されている。中小企業は2020年4月から導入された。

 運送業などの自動車運転業務、建設業、医師などは5年間の猶予を受けていたが、4月からいよいよ施行されることになり、各方面への影響が懸念されている。それが、いわゆる「運送業2024年問題」だ。

 運送業は特別な事情があり、労使が合意した場合、時間外労働の上限を年960時間とする別基準が設けられた。併せて改善基準告示も改正され、1日の拘束時間は状況によって認められる上限が16時間から15時間に引き下げられた。休息時間は連続8時間以上から基本連続11時間以上、最低9時間と定められた。

 さまざまな例外規定は設けられているものの、基本的にはより長時間の休息を取らなければならなくなった。そのため、SA・PAではこれまで以上に激しい駐車マスの取り合いが起こり〝駐車難民〟となるトラックも現れ始めている。

 一方、運送業者は効率性を無視してでも車を停車できるSA・PAを探し、休憩・休息を取るようトラックドライバーに指示しているようだ。

 「交通量が多い東名高速道路は東北道よりも混雑している割合が高く、SA・PAでの効率良い休憩・休息がより難しくなる。だから、関西方面に荷物を運ぶ際は磐越自動車道―北陸自動車道経由で向かうようにしています。長時間休めるようになったのはうれしいかって? やることもないし、それほど眠くもないから全然うれしくないですよ」(前出の中年ドライバー)

「休める場所がない」

普通車の駐車マスもトラックで埋め尽くされる
普通車の駐車マスもトラックで埋め尽くされる

 高速道路のSA・PAが混み合っているのであれば、いっそのこと一般道を使えばいいのでは、と考える人もいるかもしれない。実際、4月以降、できる限り高速道路を利用する運送業者と、できる限り一般道を利用する運送業者への二極化が進んでいるという。もっとも、一般道で大型車が休憩・休息を取れる環境は少ないため、駐車マスの確保は高速道路のSA・PAよりハードルが高いという。

 ある県内運送業関係者の声。

 「一般道で大型車が駐車できるところとなると、駐車場が広いコンビニや道の駅、休憩・タイヤチェーン装着用の駐車スペースぐらいしかない。まして首都圏だと大型車が止められるスペースはごく一部に限られます。かといって、基準を守らなければ、国の巡回指導・監査で運行記録計の数値を細かくチェックされ、行政処分を受けかねない」

 監査は死亡事故や飲酒運転などを起こしたトラックドライバーの事業者に対して実施される。もし改善基準告示違反が見つかれば車両使用停止、事業停止、許可取り消しなどの行政処分を受ける。前出・運送業関係者によると、「最近は労働基準監督署による立ち入り調査も運送会社に多く来ている。そこで違反が確認されると、東北運輸局にも通報が行き、2回に分けて罰則を受けることもある」とか。

 こうした事情から高速道路を利用する運送業者は増えており、従来なら1日で往復していた距離でも無理せず、途中で休憩・休息に入り、2日間かけるようになっているようだ。

 もっとも、この状況が続けば物流の停滞につながることも考えられるため、国土交通省は昨年1月、高速道路の深夜割引の仕組みを見直す方針を発表した。前述の通り深夜割引適用待ちのトラックがSA・PA、料金所出口に並ぶのを防ぐため、対象時間を夜22時~早朝5時に拡大しつつ、その時間帯に走行した分のみ30%割引とする。激変緩和措置として、長距離基本料金の拡充、大口・多頻度割引の拡充も組み合わせる。今年度中に見直される予定だ。

 ネット上で検索すると、過去には高速道路のSA・PA近くで〝路駐〟しているトラックに追突したり、歩いているドライバーがひかれる交通事故も発生していたようだ。そのため、NEXCOでは全国のSA・PAの大型車駐車マスの拡充を進めており、今後は休憩施設以外の高速道路事業用地などを活用した大型車専用駐車場の設置、駐車マスの立体構造化、複数縦列式(コラム式)駐車場の導入を進めていく方針。大型車向けの短時間限定駐車マスの実証実験も実施している。

 4月1日には、総重量が8㌧以上のトラックについて、高速道路での最高速度を時速80㌔から90㌔に引き上げる道路交通法の改正施行令が施行された。

 これらの対策でトラックの〝流れ〟が良くなることが期待されるが、前出の県内運送業関係者は「深夜割引が対象時間の走行分のみに限定されれば、トラックはさらに深夜の対象時間をめがけて高速道路に入るようになり、その前後にSA・PAで休憩を取るようになる」と嘆く。そのうえで「日本の経済を支えている業界なのだから、いっそのこと『運送業は終日30%割引』など抜本的な対策を講じなければ現状は変わらない」と訴える。

業界が抱える構造的課題

業界が抱える構造的課題

 県内運送会社の経営者は「休憩・休息が増えれば歩合給でやっている長距離ドライバーは収入減になるので離れていく。逆に人手不足が加速しかねない」としたうえで「人手不足を解消するためには運賃値上げがポイントになる」と指摘する。

 「他社との激しい価格競争で運賃が下がっていたが、国交省は『持続的に事業を行う際の参考となる標準的な運賃』を告示して荷主に導入を呼びかけており、実際、4月前には運賃の単価を上げてくれた荷主もいた。ただ、元請けや1次下請けにマージンを取られ、下請けには結局増額分が回らないことがほとんど。この下請け構造を見直さない限り、人手不足は解消されないと思います」

 前述・本誌2023年5月号記事でも次のように書いている。

   ×  ×  ×  ×

 同業界は約6万2000社の99%以上を中小零細企業が占めており、保有車両10台以下が約5割、11~20台が2割、21~30台が約1割。ピラミッドの上に立つ元請け企業が仕事を受注し、それを下請け企業に委託し、さらに孫請け企業に委託されるケースも少なくない。車両500台以上を保有する大手も、受けた仕事の9割以上は「協力企業」と呼ぶ下請けに委託している。元請けにとっては閑散期と繁忙期に業務を調整しやすいようにしておき、固定費を増やさずに配送網を広げる狙いがある。

 そうなれば、しわ寄せが来るのは下請けだ。

 前出・社長の運送会社は中小企業のため、下請けに入ることも少なくないという。

 「実際に運賃を払ってくれる荷主と交渉できないのが痛い。実際の運送を担う業者は、十分な運賃が得られないとドライバーを雇うことができない。しかし、元請けやその間の下請けは、少額でもマージンを取れればいいと業界全体のことは考えていない」

   ×  ×  ×  ×

 トラックドライバーは全産業に比べ、労働時間が2割長く、年間賃金は1割低いとされる。福島県トラック協会では労働時間の改善と適正な運賃料金への理解を求め、県内各団体に要請活動を行っている。一方で、夜のSA・PAの風景が変わることはしばらくなさそう。トラックドライバーの本当の意味での働き方改革、待遇改善が実現するのはいつのことになるのか。

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