JR福島駅近くに立地する「ザ・ホテル大亀」が9月3日に事業を停止し、破産申請の準備に入った。老舗ホテルの突然の破たんに、経営者一族を知る人や同業者からは様々な声が上がっている。
レストラン運営も重荷に

民間信用調査機関の帝国データバンクによると、負債は昨年12月時点で約4億8500万円。
ザ・ホテル大亀(福島市栄町7―3)は1921年に創業したうなぎ割烹の㈱大亀楼が前身。64年に福島駅前にホテルを新設し、現在のホテル(兼居宅)は86年に建てられた。その後、2002年に大亀楼からホテル部門を分割し㈱ザ・ホテル大亀(資本金1000万円。以下ホテル大亀と略)を設立。以降は大亀楼がうなぎ割烹、ホテル大亀がホテルを運営してきた。
ホテル大亀は、ホテル1階で「レストラントータス」、福島市内2カ所で「レストランオーカメ」を運営、仕出し料理の製造販売も行っていた。ピーク時には売上高3億円以上を計上したが、同業他社の進出や新型コロナの影響で利用者が減り、売上高は2021年12月期に8200万円まで落ち込んだ。23年12月期は1億0500万円と若干回復したものの、債務超過は1億9300万円に膨らんでいた。
そこに追い打ちをかけたのが食材費の高騰で、飲食部門の採算低下を受け、今年6月からレストランを休止していた。代替策として地元飲食店と連携した宴会場貸し出しサービスを打ち出したが、収益は改善しなかった。業況改善の兆しもなく、資金繰りも限界に達したため事業継続を断念した。
法人登記簿によると、役員は代表取締役・渡辺裕、取締役・渡辺拓郎、渡辺典子、渡辺千晶、渡辺裕樹、渡辺和典、監査役・渡辺キミの各氏。一族は商工会議所、青年会議所、おかみさん会など公の活動にも熱心に取り組んでいた。
ホテルの不動産登記簿を確認すると、名義はホテル大亀で、今年9月6日に福島市が差押をしていた。市税を滞納していたようだ。
土地(623平方㍍)と建物(地上8階、地下1階、延べ床面積1853平方㍍)には東邦銀行が5億7600万円と2400万円、福島信用金庫が6000万円(いずれも極度額)の根抵当権を設定。三つを合わせると借入枠は6億6000万円だが、実際の借り入れはその5~6割とすると3~4億円か。
事業停止から2週間後、ホテルを訪ねると正面の出入り口は閉ざされていた。ガラスの自動ドアの先には衝立が立てられ、中の様子は一切見えない。破産を知らせる紙などは張られていなかった。何度か電話をかけてみるも、応答はなかった。
今年3月、ホテル大亀の宴会場で開かれたイベントに出席したという市民はこう振り返る。
「社長(渡辺裕氏)は普段と変わらない様子だったが、いつも綺麗に着飾っている女将(渡辺典子氏)がやつれ気味だったので、どうしたのかなと気にはなっていた」
駅前のホテルの支配人も次のように話す。
「いきなり破産なんて記事が出たから驚きました。大亀さんは宴会場があるから団体にも対応できるし、以前はホテル前に(一族の所有と思われる)高級車も停まっていたから安泰なんだろうと思っていました」
ただ、報道で負債が約4億8500万円と知り、
「ホテル業だけで負債が5億円近くになることはないと思う。レストランが足を引っ張っていたのか、人件費がきつかったのか」(同)
レストランがネックになっていたのは、前述・食材費の高騰を踏まえると事実だろう。前出の市民は、経営者一族と付き合いがあったので宴会場やレストランで度々食事をしたそうだが「値段の割には味も盛り付けもイマイチな料理をずっと出していた、というのが率直な感想」。
ホテル大亀の従業員数は、ネット上には50~60人とあるが正社員数は不明。ただ、会社の規模の割には一族7人が役員に就くなど、人件費が負担になっていた可能性はある。
「うちは、正社員4人以外はパートで人件費を抑えている。ただ、ビジネスホテルならその態勢で回せるけど、食事も出すホテルとなると一定の人員は必要」(前出・支配人)
レストラン休止は食材費高騰だけが理由ではなく、人件費を抑える狙いもあったのかもしれない。
ホテル大亀は、福島駅東口のすぐ近くという立地の良さがアドバンテージになっていた半面、あとから進出してきた同業他社に常に攻め込まれる環境にあった。
別掲地図は福島駅前で稼働するホテルを示したものだが、西口には五つ、東口には七つのホテルがある。さらに現在、東口では「ホテルルートインGrand福島駅前」(294室)が建設中で今年12月にオープンを控える。

「ホテル業界には『後出しジャンケンが有利』という言葉がある。お客さんは、値段が変わらなければあとからできた新しいホテルに泊まりたがるものです」(同)
全国下位の稼働率
東口では今年2月に「福島リッチホテル東口駅前」が閉店した。同ホテルは数年前にフロントの大改装に着手したが、完成目前に新型コロナが拡大、客足が途絶え閉店の憂き目に遭った。そんな同ホテル跡の目と鼻の先でルートインが間もなくオープンするのだから「本当にやっていけるの?」と首を傾げてしまう。
そこで気になるのが既存ホテルの稼働率だ。市旅館ホテル協同組合などでは稼働率を把握していないので県全体の数値を参考にする。観光庁が2月に発表した宿泊旅行統計調査の2023年・年間値(速報値)によると、福島県は44・4%で全国42位。宿泊施設タイプ別では、旅館は30・5%で39位。リゾートホテルは51・9%で20位、ビジネスホテルは58・2%で44位、シティホテルは54・1%で42位。稼働率の低さは、観光でもビジネスでも福島県を訪れる人が少ないことを物語る。
福島駅前のホテルを取材して回ると、こんな意見が聞かれた。
「福島市は花見山と福島競馬があるくらいで通年観光の資源がない。インバウンドは期待薄で、宿泊はビジネスマンがメーンだが、それで満室になることはない。東口のコンベンション施設に期待していたが、計画が中断され、工事がいつ始まるか分からないからね」(役員男性)
「市外に自宅があり、福島駅前で飲んだあとは代行で帰るより安いという理由で常宿を持つ方が結構いるんですよ」(フロント従業員)
どのホテルも、売り上げはコロナ前の7割程度まで回復しているという。まだまだ回復途上に思えるが、コロナ前は原発事故の除染作業員や大学関係者が泊まる特需が長く続いていたので「『コロナ前の7割』は震災特需前の売り上げに戻ったと考えていい」(前出・フロント従業員)。
にもかかわらず駅前にこれだけのホテルがあるのは、需要と供給を考えるとアンバランスと言っていい。
ホテル大亀はビジネスホテルとは競合しなかったが、大規模な設備投資をしている様子はなく、老朽化は一目瞭然だった。前出の市民は「老舗であることにあぐらをかき、料理の質は昔から変わらず、どうやって生き残ろうとしていたかは疑問」と手厳しいが、今回の破産は、時代のニーズに合わなくなり、あとから進出してきた同業他社にのみ込まれた結果ということだろう。