【吉田豊】南相馬市内で暗躍する青森出身元政治家

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 南相馬市の医療・福祉業界関係者から「関わってはいけないヒト」と称される人物がいる。さまざまな企業に医療・福祉施設の計画を持ち掛け、ことごとく頓挫。集めた医師・スタッフは給与未払いに耐え切れず退職、協力した企業は損失を押し付けられ、至る所でトラブルになっている。被害に遭った人たちは口を閉ざすばかり。一体どんな人物なのか。

施設計画持ちかけ複数企業が損失

施設計画持ちかけ複数企業が損失【吉田氏の逮捕を報じる新聞記事(デーリー東北2007年4月28日付)】
吉田氏の逮捕を報じる新聞記事(デーリー東北2007年4月28日付)

 「吉田豊氏について『政経東北』を含めどのマスコミも触れないけど、何か理由があるのかい?」。4月上旬、南相馬市内の経済人からこんな話を持ち掛けられた。

 南相馬市内で医療・福祉施設建設計画を持ち掛け、支援を募っては計画が頓挫し、複数の企業が損失を被っているというのだ。吉田氏は青森県出身の元政治家で、数年前から南相馬市内で暮らしているという。

 事実確認のため複数の関係者に接触したが、結論から言うと、誰も口を開こうとしなかった。「現在係争中なのでコメントは控えたい」、「ほかに影響が及ぶのを避けたい」、「もう関わり合いたくない」というのが理由だった。

 せめて一言だけでもと食い下がると、「とにかく裏切られたという思い」、「業界内では『関わってはいけないヒト』と評判だ」という答えが並んだ。誌面では書けない言葉で吉田氏を罵倒した人もいる。

 ある人物は匿名を条件に次のように語った。

 「医療・福祉の充実という理念を掲げ、補助金がもらえそうな事業計画を企業に持ち掛け出資させる。ただ、ブローカー的な役割に終始し、その後の運営は二の次になるのでトラブルになる。表舞台には決して立とうとせず、ほかの人物や企業を前面に立たせる。だから、結局、何かあっても吉田氏が責任を取ることはない」

 関係者の意向を踏まえ、本稿では具体的な企業名・施設名などを伏せるが、市内の事情通の話や裁判資料などの情報を統合すると、吉田氏をめぐり少なくとも以下のようなトラブルが発生していた。

 〇市内にクリニックを開設する計画を立て、賃貸料を支払う契約で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続き契約解除となり、現在は未払い分の支払いを求めて訴えられている。

 〇ほかの医療機関や介護施設から医師・職員を高額給与で引き抜いたが、賃金未払いが続き、加えてブラックな職場環境だったため、相次いで退職。施設が運営できなくなり、休業している。

 〇市内企業を巻き込んで、数十億円規模のサービス付き高齢者向け住宅建設計画やバイオマス焼却施設計画なども進めようとしていたが、いずれも実現していない。

 吉田氏が一方的に嫌われ悪く言われている可能性もゼロではないが、話を聞いたすべての人が良く言わず、企業が泣き寝入りしている様子もうかがえた。吉田氏は現在公人ではないが、こうした事実を踏まえ、誌面で取り上げるのは公益性・公共性が高いと判断した。

 吉田氏とはどういう人物なのか。過去の新聞記事などを遡って調べたところ、青森県上北町(現東北町)出身で、同町議を2期務めていた。

 《八戸市内の私立高校(※編集部注・現在の八戸学院光星高校)を卒業後、県選出の代議士や県議らの下で政治を学び、1991年の町議選に32歳で初当選した。医療と福祉の充実を掲げ、医師を招いて自宅近くに内科・歯科医院を開業するなど精力的だった》(デーリー東北1999年4月23日付)

 吉田氏が個人で運営していた「あさひクリニック」の一部を母体に「医療法人秀豊会」が立ち上げられ、有床診療所を運営しているほか、関係会社が高齢者・障害者向け住宅賃貸サービス、在宅介護、訪問診療を行っている(現在は医療法人瑞翔会に名称変更している)。吉田氏は登記簿上は役員から外れていたが、実質的なオーナーだったという。

 1999年4月、上北町議2期目途中、青森県議選・上北郡選挙区に推薦なしの無所属で立候補したが、6候補者中6番目の得票数(9545票)で落選した。その後、有権者に現金5万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼、さらに60人以上の有権者に計142万円を配って買収工作を行ったとして、公職選挙法違反(現金買収)の疑いで逮捕された。

 《今年1月ごろから「吉田陣営は派手に買収に動いているようだ」とのうわさが一部に広がり出していた。「福祉に対する熱意が感じられる」として3月上旬まで同容疑者の応援を続けていた県内のある大学教授が、「金にまつわるうわさを聞いて失望した」と、告示の約3週間前に同陣営とのかかわりを断ち切るというトラブルもあった》

 《(※編集部注・吉田氏が実質オーナーだった医療法人グループについて)最近では、老人保健施設や特別養護老人ホーム建設の計画を声高にうたっていた。しかし、老健施設の建設予定地の農地転用の手続きに絡み、町農業委員会の転用許可が下りる前に予定地の一部を更地にして厳重注意を受けるなど、周囲からは吉田容疑者ら経営幹部たちの強引な手法を指摘する声も上がっていた》(いずれもデーリー東北1999年4月23日付)

 吉田氏は懲役2年6月、執行猶予5年の有罪判決を受け、「今後は選挙にかかわらない」と誓っていた。ところが、5年間の公民権停止期間が明けると2007年4月の県議選に再び立候補。結果は、7候補者中6番目の得票数(4922票)で落選した。

 立候補表明時には「住民が安心して暮らせる地域づくりを目指し、地元の医療環境を整備したい」と訴え、「派手な選挙は行わない。地道に政策を訴えたい」と話していた吉田氏。だが選挙後、3人の運動員に計76万円を渡し投票と票の取りまとめを依頼していたとして、再び公職選挙法違反の疑いで逮捕された。

 《「8年前は大変ご迷惑をお掛けしました」―選挙運動中、マイクを握った吉田容疑者はこの言葉から口を開き、自身を含む計6人が公選法違反で逮捕された前々回の県議選と同じ轍は踏まない―との意気込みを見せていた。しかし自身の逮捕により、今回の逮捕者は計8人と前々回を上回る結果となった》(デーリー東北2007年4月28日付)

 呆れた過去に驚かされるが、吉田氏自身は2度の前科を特に隠してはいないようで、周囲に話すネタにしているフシさえあるという。

官僚・政治家人脈を強調

 吉田氏の言動を間近で見てきたという人物は「どう見ても怪しいが、外見は紳士的で、初対面だと社会的地位の高い人に見えてしまう。見抜くのは難しい」と語る。

 「藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区、自民党)の事務所に出入りしており、私も一度案内されたことがあった。話している感じも違和感はなく、過去を知らなければすっかり信用してしまうと思う」

 藤丸氏は古賀誠元衆院議員の秘書を務めていた。そのため、「秘書時代のつながりではないか」と指摘する声もある。しかし、「〇〇議員の秘書とはしょっちゅう連絡を取っている」と至るところで吹聴しているようなので、真偽は分からない。

 中央官僚ともパイプを持っていると盛んにアピールしているようだが、浜通りの政治家によると、「『誰と会っているのか教えてくれたら私からも話をする』と知り合いの官僚の名前を出したら、急にしどろもどろになって話をはぐらかした」のだとか。別の経済人からも同様の声が聞かれた。市町村長クラスと会える場所にはよく顔を出すという話もある。

 複数の関係者によると、吉田氏はトラブル後も同市内で暮らし続けているが、具体的な居場所は分からないようで、「住所を特定されないように宿泊施設を転々としている」、「プレハブ小屋を事務所代わりにしている」「建設に関わった同市原町区のクリニックを拠点としている」などと囁かれている。

 名前の挙がったクリニックを訪ねたところ、扉に「休業中」の札がかかっていたが、電気は付いており、中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初から関わっているが、ちょっと分からない」と話した。休業の理由については「医師が退職し、現在募っているため」という。

手紙には返答なし

 念のため、同クリニック宛てに吉田豊氏に向けた手紙を送り、裁判所で閲覧した資料に掲載されていた青森県の自宅住所にも送ったが、期日までに回答はなかった。なお、吉田氏に未払い賃金の支払いを求めている人物の代理人によると、内容証明を送っても何の返答もない、とのこと。吉田氏本人の主張は残念ながら聞くことができなかった。

 ちなみに、青森県六戸町の現職町長・吉田豊氏は同姓同名の別人物。また、南相馬市内にも同姓同名の医師がおり、業界関係者の間でも混乱することが多々あるという。実際、記者も同市内で最初に話を聞いたときは「町長までやった奴が南相馬で問題を起こしている」と誤って教えられた。

 そのためかネット検索しても、関連情報がヒットしにくい。こうした事情も、吉田氏のトラブルが表に出てこない要因のようだ。

 吉田氏に翻弄されたという男性は「これ以上被害者が増えてほしくない。こういう人物に近付いてはならないと警鐘を鳴らす意味でも政経東北で取り上げるべきだ」と話した。そうした声を踏まえ、不確定な部分が多かったが記事にした次第。

 クリニック開業の際、医師が確保できていないのに認可するなど、保健所をはじめとした公的機関の無策を嘆く声も聞かれたが、一方で、吉田氏の動きはしっかりマークしているとのウワサも聞こえている。ひとまずはその動きをウオッチしながら〝自衛〟していく必要がある。

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