5月号で南相馬市の医療・介護業界を振り回すブローカー・吉田豊氏についてリポートしたところ、同氏が運営に携わった施設の元スタッフや同氏をよく知る人物から「被害者が何人もいる」と情報提供があった。公的機関は被害者救済に及び腰だ。
被害報告多数も公的機関は及び腰
吉田豊氏は青森県出身。今年4月現在、64歳。同県八戸市の光星学院高校(現・八戸学院光星高校)卒。衆院議員などの秘書を務め、同県上北町(現東北町)議員を2期務めた。医師を招いてクリニックを開設、その一部を母体として医療法人グループを立ち上げ、吉田氏が実質的なオーナーを務めていた。
その後、青森県議選に2度立候補し、2度とも公職選挙法違反で逮捕された。当時の報道によると、有権者に現金を手渡し、投票と票の取りまとめを依頼する手口だった。
複数の関係者によると、数年前から南相馬市内で暮らすようになり、さまざまな企業に医療・介護施設の計画を持ち掛けるようになった。だが、いずれもずさんな計画で、集まった医師・スタッフは賃金未払いにより次々と退職。施設運営は行き詰まり、協力した企業が損失を押し付けられている状況だ。
現時点で分かっているトラブルは以下のようなもの。
〇市内に「南相馬ホームクリニック」という医療機関の開設計画を立て、賃貸料を支払う約束で地元企業に建設させた。だが、当初から賃貸料の未払いが続いた結果、契約解除となり、建物から退去させられた。現在は地元企業から未払い分の支払いを求めて訴えられている。
〇スタッフを集めるため、ほかの医療機関から医師・医療スタッフを高額給与で引き抜いた。だが、賃金未払いとブラックな職場環境に耐えかねて、相次いで退職していった。
〇その後、高齢者向け賃貸住宅が併設された訪問介護事業所「憩いの森」、「桜並木クリニック」を地元企業の支援で立ち上げたが、こちらも退職者が後を絶たない。
〇同市の雲雀ケ原祭場地近くの土地約1万平方㍍を取得し、それを担保に支援者から融資を受け、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)建設計画を進めた。また、市内企業に話を持ち掛けて、バイオマス焼却施設計画なども進めようとしたが、いずれも実現していない。
5月号記事では、事実確認のため複数の関係者に接触したが、「現在係争中なのでコメントを控えたい」、「もう一切関係を持ちたくない」などの理由で取材に応じてもらえなかった。そのため、関係者の意向を踏まえて具体的な企業名・施設名を伏せて報じた。南相馬市の医療・介護業界では「関わってはいけないヒト」と言われている。
だが、藤丸敏衆院議員(4期、福岡7区)の事務所に出入りしており、紳士的かつ気さくで話もうまいので、「初対面だと社会的地位が高い人に見えてしまう」(吉田氏の言動を間近で見て来た人物)。
ちなみに5月号発売後、東京・永田町にある議員会館の藤丸衆院議員の事務所に確認したところ、女性スタッフが次のように説明した。
「吉田豊さんには毎回パーティー券を買っていただいていますが、今年3月のパーティーには来ていただけませんでした。事務所に連絡をいただけるのはほとんどが福岡の支持者ですが、吉田さんは東北の訛りで話してくるので強く印象に残っているし、『(藤丸衆院議員と)どういう接点があるのだろう』と不思議に思っていました。カレンダーを送ってほしいと頼まれ、その送付先が福島県のクリニックだったので、医療関係者だと思っていました」
藤丸衆院議員と個人的に親しい間柄であれば、当然スタッフもそのことを共有しているはず。それほど深い関係ではないと見るべきだろう。
吉田氏は「(藤丸衆院議員が秘書を務めていた)古賀誠元衆院議員とも親交がある」と話していたとも聞いたので、古賀氏の事務所に確認したが、秘書は「申し訳ないですが全く聞いたことがありません」と回答した。細いつながりを大きくして吹聴していた可能性が高い。
本人の反論も聞きたいと思い、裁判所で閲覧した訴状の住所宛てに配達証明で質問書を送付したが、不在続きのため地元郵便局で保管され、そのまま返って来た。
不確定な部分が多かったが、新たな〝被害者〟を出さないようにと記事にしたところ、5月号発売後、吉田氏のことを知る業界関係者や元スタッフから相次いで連絡があり、トラブルの詳細と吉田氏の人物像が見えてきた。
職員への賃金未払いが横行
新たに分かったのは、賃金未払いとなったスタッフが相当数いること。というのも、吉田氏に直接支払いを要望してものらりくらりと逃げられ、相馬労働基準監督署も親身に相談に乗ってくれないからだ。
「過去には立ち入り調査が入って、是正勧告が出された事例もあったが、しょせんは罰則などがない〝行政指導〟。その場だけ取り繕ってごまかされてしまいました。また、退職した人が相談しても『さかのぼって支払いを要求するのは難しい』とされて積極的に動いてもらえませんでした」(ある元スタッフ)
現時点で吉田氏が運営に携わっている施設は前出の「憩いの森」、「桜並木クリニック」の2施設と、吉田氏の親戚筋に当たる榎本雄一氏が管理薬剤師を務める薬局「オレンジファーマシー」。榎本氏は同クリニックにも頻繁に出入りしている吉田氏の〝参謀〟的存在で、吉田氏は現在、この薬局の2階で生活している。
吉田氏関連の会社はこれまで確認されているだけで4社ある。いずれも南相馬市本社。法人登記簿によると、概要は以下の通り。
①ライフサポート
原町区本陣前二丁目53―7
設立=2020年12月25日
資本金=100万円
代表取締役=浜野ひろみ
事業目的=訪問介護、訪問看護、高齢者向け賃貸住宅など
②スマイルホーム
原町区本陣前二丁目22―3
設立=2021年2月19日
資本金=100万円
代表取締役=浜野ひろみ、紺野祐司
事業目的=賃貸アパート経営、入居者への生活支援・介護医療・給食サービスの提供など
③フォレストフーズ
原町区本陣前二丁目53―7
設立=2021年8月25日
資本金=100万円
代表取締役=馬場伸次
事業目的=不動産の企画・運営・管理、フランチャイズビジネスの企画・管理、自動車での送迎・配達サービス、人材派遣サービスなど
④ヴェール
原町区本陣前二丁目53―7
設立=2021年8月6日
資本金=100万円
代表取締役=佐藤寿司
事業目的=不動産の賃貸借・仲介、ビル・共同住宅・寮の経営、公園・観光施設などの管理運営、総合リース業、日用雑貨・介護用品販売など
4社のうち2社の代表取締役を務める浜野氏は吉田氏のパートナー的存在とされる女性。二丁目53―7は「憩いの森」の住所、二丁目22―3は同施設近くの土地の一角に建てられたユニットハウス。
吉田氏を直撃
こうして見ると吉田氏本人の名前は見当たらないが、これこそが吉田氏の得意とする手口だという。
「吉田氏は代表者など表に名前が出る所に出たがらず、スタッフに経営責任者を任せて裏で指示を出す。これだと書類上の経営責任者はスタッフになり、公的機関が指揮系統やお金の流れを把握しづらくなります。実際、ここに名前が挙がっている代表取締役にも、賃金未払いを訴えて退職した職員が含まれています」(前出・元スタッフ)
もっとも、複数の関係者の話を統合すると、書類上で名前を出していなくても決定権を持っているのは吉田氏であり、実際、スタッフからは「オーナー」と呼ばれている。
前出・南相馬ホームクリニックが運営していたころは、敷地内に設けられた小さなユニットハウスが「事務所」となっており、職員は退勤時に必ず顔を出してあいさつする決まりとなっていた。
そこでは毎日17時ぐらいから酒盛りが始まる。吉田氏は素性がよく分からない飲み仲間を呼び寄せ、お気に入りの正職員が顔を出すと、一緒に酒を飲むように勧めた。患者がいようがおかまいなしで、酔った状態で待合室に顔を出し、ソファーに横になることもあった。翌朝、ビールの空き缶や総菜のごみを片付けるのは職員の仕事。オーナーでなければ、こんな振る舞いは許されまい。
ちなみに、南相馬ホームクリニック閉院後、吉田氏の居場所だったユニットハウスはスマイルホームの〝社屋〟として再利用されている。
何より驚いたのは、吉田氏に数百万円単位の金を貸している元スタッフが何人もいるという事実だ。
一例を挙げると、関連会社を統合した組合組織を立ち上げ、理事に就いたスタッフに対し、「出資金が不足している」、「役員に就かせたのだから個人的に協力してくれないか」などの理屈を付けてそれぞれ数百万円の金を出させたという。借用書は残っており、それぞれ返済を求めているが、吉田氏は応じていない。
客観的に見ると吉田氏が信用に値する人物とは到底思えないが「役員として、できる限り協力すると話していたのはうそだったのか。話が違うだろう」などと自分の論理を押し付けて迫る。その〝圧〟に負けて金を貸したが最後、理由をつけて返済を先延ばしにされる。組合組織を立ち上げることになったのも補助金目当てだったとみられ、現在組合として活動している気配は見えない。
同市内で医療・介護業界に従事し、元スタッフとも交流がある人物は吉田氏の性格をこう述べる。
「新しく入ってくる人には手厚い待遇で迎えるが、吉田氏に意見を述べる人や内情を詳しく知った古株は徹底的に冷遇する。職員間対立も煽るようになり、ついには賃金未払いが発生し、支払いを求めると逆ギレされる。そこで初めてどういう人物だったかを思い知らされるのです」
こうした声を当の吉田氏はどのように受け止めるのか。5月下旬、オレンジファーマシーから路上に出て来た吉田氏を直撃した。
――医療・介護施設をめぐるトラブルが多く、当初の約束通りに金を支払ってもらっていない企業などもあるようだが。
「そういうところはない」
――南相馬ホームクリニックでは未払い分の賃貸料の支払いを求める裁判を地元企業から起こされている。
「先方がクリニックをやりたいということで、私が運転資金など2億円近く負担した。損害を被ったのはこちらの方。そもそも係争中なのでそういう部分だけで誤解して書かないでほしい」
――係争中と言うが、地裁相馬支部で確認したところ、訴状に対する答弁書は見当たらなかった。
「契約している東京のサダヒロという弁護士が対応している」
――弁護士の連絡先は。
「あることないこと言われているので、いまさら私の方から答えることは何もない」
――個人的に金を貸して返済してもらっていない元スタッフもいる。
「出資金が必要となり、借用書を書いて事業費として借りたもの。それに関しては、弁護士の方で解散する時期を見て返す考えだ」
――賃金未払いを訴える声が多い。実質的なオーナーとして責任を取るべきではないか。
「私はあくまで各施設に助言する立場。青森県では『オーナー』と呼ばれていたから、職員も『オーナー』と呼ぶのでしょう。給料はきちんと払っているはず。未払い分があるなら各施設に責任者がいるので、そちらに伝えた方がいい」
吉田氏はあくまで「自分は被害者」というスタンスを貫き、賃金未払いに関しても「助言している立場に過ぎないので、各施設の責任者に話してほしい」と述べた。しかし前述の通り、実質的なオーナーであることは間違いない。呆れた言い逃れであり、責任を持って賃金未払いや借入金返済に対応する必要がある。
なお、南相馬ホームクリニックの裁判は、東京の弁護士に任せているとの回答だったが、福島地裁相馬支部にあらためて確認したところ、「吉田豊氏を原告とした裁判の訴状は確認できない」とのことだった。
「ここは本当に法治国家なのか」
結局、本誌の直撃取材を受けた吉田氏は「この後用事があるので」と言って、桜並木クリニックの中に入っていった。本誌5月号では桜並木クリニックを訪問したときの様子を、名前を伏せてこう紹介している。
《中で事務作業をしている人がいた。吉田豊氏について尋ねると、その人は「吉田という患者はいるが、吉田豊という名前は聞いたこともない。私はこのクリニックの建設に当初からかかわっているが、ちょっと分からない」と話した》
このとき、対応したのは「エノモト」と名乗る男性。後から確認したところ、オレンジファーマシーの管理薬剤師を務める榎本雄一氏だった。吉田氏の親戚に当たる人物が平然とうそを付いていたことになる。外部にすらこういう対応なのだから、スタッフへの対応は推して知るべし。
これ以外にも、本誌には▼同クリニックは医師会に入っていない、▼同クリニックの診察時間はその日によってバラバラで、ネット予約も反故にされるため、グーグルマップの口コミで酷評されている、▼スタッフが定着せず、パート・アルバイトで対応している、▼過去には青森県の人物から借金返済を求める電話が毎日のように来ていた、▼業者に対しても代金未払いが発生している、▼同市石神地区で何か始めようとしている――などの情報が寄せられた。
県相双保健福祉事務所、労働基準監督署などの公的機関には、これらの情報を伝えたが、いずれも反応は鈍く、他人事に捉えているように感じられた。
元スタッフの一人は「賃金未払いや借金踏み倒しで泣き寝入りしている人が多いのに、どの公的機関も見て見ぬふり。市議などに相談したが大きな動きにはつながらなかった。ここは本当に法治国家なのか、と疑いたくなりますよ」と嘆いた。
こうした実態は広く知られるべきであり、企業経営者、医療・介護従事者は被害に遭わないように吉田氏の動向を注視しながら、それぞれが〝自衛〟していく必要がある。