呼んでも来ないタクシー・運転代行

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 新型コロナウイルスが徐々に収束する中、夜の街は少しずつ賑わいを取り戻しているが、それと共に目立ってきたのがタクシー・運転代行の少なさだ。週末夜のタクシー乗り場にはちょっとした行列ができ、代行は1時間以上待たされる……読者の中にも最近の飲み会でそんな経験をした人がいるのではないだろうか。昨年10月には県警が、飲酒運転事故が前年比で増え、同死者数は全国ワースト2位という残念なデータを発表した。忘新年会シーズンを駆け回るタクシー・代行を追った。

ドライバー不足が社会に及ぼす痛手

 12月の週末夜、友人との忘年会を終えた筆者はJR郡山駅西口のタクシー乗り場に向かった。タクシープールに車両はない。寒さの中、3、4人が列をつくりタクシーが来るのを待っている。

 かつては飲食店を出て大通りに行けばすぐにタクシーが捕まったが、コロナ後は通りにタクシーが並んでいることは少ない。

 しばらくすると、自分の番がやって来た。目の前に滑り込んできたタクシーに乗車し、帰路につく。

 高齢のドライバーに話しかけると気さくに応じてくれた。

 「おかげ様で忘年会シーズンということもあり忙しい。お客さんを降ろすと、すぐに次のお客さんが乗ってくる状態。いつもこれくらいだとありがたいんですけどね」

 いつもこれくらいだと――要するに、普段はこんなに忙しくないということだ。

 ならば、平日の日中はどんな様子なのか。JR福島駅のタクシープールに行き、待機する車両を直撃してみると

 「オレは年なので夜の営業はやってない。売り上げはコロナ前の7割くらいまで戻ったかな。テレワークが増えて出張が減ったせいでビジネスマンの利用がガクンと落ちた。福島じゃ観光の利用もないし、あとは年寄りが通院で乗るくらいだ」(個人タクシーのドライバー)

 「週末夜は忙しいですよ。深夜3時くらいまでお客さんが絶えない。でも平日はヒマ。コロナで夜の街を出歩く人が減った。朝、出勤時にアルコールチェックをする会社が増えたことも一因だと思います」(50代のドライバー)

 タクシーは新型コロナの影響で車両、ドライバーとも数が減ったと言われているが、実際はどうなのか。

 一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会によると、車両(法人タクシーのみ)はピークの2007年度は22万2500台だったが、20年度は17万7300台と4万5200台減った(20%減)。ドライバーもピークの05年は38万1900人いたが、20年は24万0500人と14万1400人減った(37%減)。

 新型コロナが国内で初めて確認されたのは2020年なので、このデータからはコロナの影響がどれくらい及んだのかは分からない。ただ、年々減る中で落ち込みに拍車がかかったのは間違いないだろう。前出・50代ドライバーも自社の現状をこのように語っている。

 「定年退職したあと、新しいドライバーが全然入ってこない。慢性的な人手不足。おかげで車両も余っているよ」

 状況は福島県内も同じで、一般社団法人県タクシー協会によると、車両は2016年3月末2547台から23年3月末2232台で315台減った(12%減)。ドライバーも同3711人から同3032人で679人減った(18%減)。

 売り上げはどうか。別図は全国ハイヤー・タクシー連合会が県内の7社を抽出し、コロナ禍(2020、21、22年と23年10月まで)の営業収入を対19年比で示したものだ。それを見ると、政府が外出制限・営業自粛を呼びかけた20年3月から大きく落ち込み、徐々に回復していることが分かる。22年4月のように大きく回復している月があるのは、抽出した会社のある地域でイベント等があり、タクシー利用が増えたためとみられる。

 データからは車両、ドライバーとも減り、売り上げもコロナ前に戻っていない実態が浮かび上がる。しかし「それだけでは推し量れない面がある」と県タクシー協会の菊田善昭専務理事は言う。

 「車両もドライバーも不足しているのは事実だが、恒常的に足りないわけではない。確かに、週末夜の飲み会が終わる時間帯は利用が集中するので足りなくなるが、それ以外はタクシーが捕まらなくて不便という話は聞いたことがありません」

 菊田専務によると、むしろ車両が減っている中では1台の稼働率が上がり、稼ぎが増えているドライバーもいるのではないかという。

 県中地区のタクシー会社役員もこのように話している。

 「日中と夜で電話による配車予約の目標値を定めているが、ここ数カ月はクリアしている。コロナ前より車両とドライバーは減ったが、その分、効率は良くなっている」

 タクシーは歩合制なので、努力次第で収入を得られる環境にあるのかもしれない。

 「経済が回復した中で車両もドライバーも足りないというなら話は分かる。しかし、県内経済は落ち込んだままで、会社によっては維持費が負担になるから車両を減らしたところもある。経済が回復しないのに台数を元に戻そうとはならない」(菊田専務)

要するに白タク行為

 そうした状況下で今、政府が進めているのがライドシェアの導入だ。国内で客を有料で運ぶには二種免許が必要で、運行するのはタクシー、管理するのはタクシー会社となっているが、ライドシェアは一般ドライバーが普通免許で自家用車を使い、有料で客を運ぶ。インバウンドで観光が回復する中、首都圏ではドライバー不足により移動に不便を来している外国人旅行者が増えている。そこで政府は、ライドシェアで世界最大手のウーバーなどを念頭に、導入の動きを加速。地域を限定し、タクシー会社が運行を管理するなどの条件付きで今春にもスタートさせる方向で調整している。

 「インバウンドの恩恵を受けているのは首都圏や有名観光地だけ。経済が回復していない地方でライドシェアが始まったら、タクシー会社は大打撃です」(同)

 前出・タクシー会社役員もライドシェアには大反対だ。

 「要するに白タク行為を合法的にやるってことでしょ」

 タクシードライバーはタクシー業務適正化特別措置法に基づき、必要な講習を受講・修了し、地域によっては試験に合格して国交相が指定する登録実施機関に登録している。二種免許を取るのも簡単ではない。

 「そうやって業界を締め付けておいて、一方ではインバウンドで賑わう地域があるからと『ドライバー不足にはライドシェアが最適』というのはあまりに短絡的。挙げ句、面倒な運行管理はタクシー会社に押し付けるなんて冗談じゃない」(同)

 一口に人手不足と言っても、首都圏と地方では事情が異なることが分かる。経済が戻らない地方では、今の車両、ドライバーの数が適正に近いのかもしれない。

 低賃金と労働時間の長さ(厚生労働省の賃金構造基本統計調査)から就職先として敬遠されがちで、他の業界より高齢化率も高いタクシー業界だが(ドライバーの平均年齢は59歳で65歳以上が27%。2015年時点)、同連合会や同協会ではかつてより働き易くなっている環境をアピールしながら、ドライバー不足の解消に努めている。

代行のピークは21時

 筆者が参加した別の忘年会での出来事である。

 参加者のうち筆者を含む3人が車で来ていた。代行が捕まりにくいことは知っていたので、3人とも飲んでいる途中に「23時に来てほしい」と馴染みの代行業者に連絡した。

 しかし、筆者は「0時になる」、一人は「1時過ぎ」と言われた。あとの一人は時間通りに来てくれるというので、その代行にもう2台追加できないか頼むと「それは無理なのでピストン輸送で対応します」。自宅から近場での忘年会だったので遅い帰宅にはならなかったが、あらためて代行の混雑ぶりを思い知らされた。

 その代行のドライバーからはこのように言われた。

 「20時とか早い時間ならすぐに駆け付けられるが、一次会が終わる21時とか二次会が終わる23時前後は申し訳ないが待っていただくことになりますね」

 特にコロナ後は一次会で帰る人が増え、21時以降に代行の利用が集中するという。

 「今、代行の一番忙しい時間帯は21~22時です。みんな一次会で帰るから、その時間に『迎えに来て』と連絡が入る。コロナ前は深夜1時ごろがピークだった」(ある店主)

 コロナを経て、外での飲み方が様変わりしたことがうかがえる。

 筆者の馴染みの代行は、JR郡山駅前の有料駐車場の一角にプレハブ小屋を建て、車とキーを預かり、指定の時間に店まで客を迎えに行く営業スタイルだった。しかし、コロナで行動制限がかかるとプレハブ小屋を撤去し、市外の営業所も閉鎖。ドライバーは辞めていき、動いていない車両が増えた。コロナが徐々に収束すると客も戻ってきたが、だからと言って辞めたドライバーは復職しないし、車両の数も元通りにはなっていないという。

 「経済が戻っていないのに、人員も車両も元通りというわけにはいかない。何割か少ない状態で回し、営業終了時間もコロナ前より早めている」(馴染みのドライバー)

 公益社団法人全国運転代行協会福島県支部によると、過去10年の県内の業者数は2014年が305社、17年がピークの326社、21年に初めて300を下回り(290社)、23年10月には270社まで減った。総台数は23年10月現在565台。

 一方、ドライバーの数は顧客車を運転する人は二種免許、随伴車を運転する人は普通免許と分かれていたり、正社員、パート、アルバイトが入り組んでいる事情もあり、正確には分からないという。

 同協会県支部の渡邉健支部長はこう話す。

 「この時期は忘新年会で書き入れ時なんですが、人手、車両とも足りなくてお客さんの依頼を断らざるを得ない。せっかく楽しく飲んでいるのに〝代行難民〟を増やすことになってしまい、申し訳なく思っています」

 とはいえ、代行が忙しいのは年明けの成人式辺りまでで、その後は歓送迎会や花見がある3、4月までヒマな時期が続くという。

 「代行の7、8割は2、3台の車両で営業している小規模事業者なので、身の丈に合った経営で厳しい状況を乗り越えてほしい」(同)

 代行はタクシーと違い歩合制ではなく、時給に残業手当をプラスして給料を支給しているところが多いようだ。時給は正社員、アルバイト、パートで差がつけられ、二種免許を持ち顧客車を運転できる、普通免許しか持っていないので随伴車しか運転できない、というスキル差も給料に反映されるという。

 代行業界が今注力しているのは最低利用料金の設定だ。タクシー料金は道路運送法により、国土交通大臣の認可を受けて初乗運賃や加算運賃が決まるが、代行料金は自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律や料金制度に関するガイドラインはあるものの、タクシーのように明確に決まっていない。結果、ダンピングする業者が現れ、業界の健全化が進まないという。

 「2022年9月には内堀雅雄知事宛てに最低利用料金に関する条例制定の要望書を提出した。全国の各支部でも同様の行動を起こし、料金の適正化と業界の健全化を目指しているところです」(同)

 そうすることで従業員が安心して働ける環境づくりに努めている。渡邉支部長は「本業(渡辺代行)も大変だが、業界を良い方向に持っていかないと人手不足は解消されない」と支部長としての役割を果たそうとしている。

 そんな渡邉支部長が同協会の最大の使命に挙げるのが「飲酒運転の根絶」だが、昨年10月に判明したデータは福島県にとって芳しいものではなかった。県警が発表した、同9月末までの県内の飲酒運転事故・死者数である。

 発表によると、飲酒運転事故は47件で前年同期比18件増、それによる死者は5人で全国ワースト2位だった。前年同期は0人なので、その多さが際立つ。その後、新たに判明した同11月末までの飲酒運転事故は54件で前年同期比14件増、死者は5人で変わっていない。

被検挙者の呆れた言い訳

 県内でここまで件数が増えている原因を県警に尋ねると、交通企画課の担当者はこのように答えた。

 「いろいろな要素はあるが、これが原因と言い切れるものはない」

 担当者によると、福島県は信号のない横断歩道での停車率やシートベルトの着用率などが高く「交通ルールを守る県民」と認識されているという。にもかかわらず、飲酒運転事故・死者数が多いのはなぜか。

 「例えば、福島は酒どころだからという見方がある。しかし、同じ酒どころの山形で飲酒運転事故・死者数が増えているかというとそうではありません」(同)

 もしかして、代行の数が減ったことが原因?

 「被検挙者の中に『代行が減ったから』と証言する人はいます。しかし、代行が減っているのは福島だけではなく他県も同じ。それが原因ということになれば、繁華街の多い県の方が飲酒運転事故・死者数は増えるだろうし、青森や秋田など福島より公共交通が整っていない県の方が悪化してもいいはず。代行が減ったというのは言い訳に過ぎません」

 あえなく推測は外れたが、飲酒運転が増加する背景には、代行を頼んでも捕まらず「1時間も待つのはめんどくさい」とハンドルを握る不届き物の存在もあるだろう。普通の状態なら絶対にそんなことはしないはずだが、酔っているから理性をなくす。そういう人は酒を飲むべきではない。あらためて「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」を強く意識することを呼びかけたい。

 県警では飲酒運転事故・死者数を少しでも減らせるよう、前記のようなデータを県民に知らせ周知を図ると共に、取り締まりの強化に努めていくとしている。

 地方のタクシー・代行が人手不足なのは確かだが、同時にパイ(乗る人、飲み歩く人)も縮小しているので、今後、淘汰が進みながら適正な業者数に落ち着いていくのかもしれない。一方、同じ人手不足でもインバウンド需要や経済の回復が進む首都圏・有名観光地では、ライドシェアの導入等でこちらも業者数に影響が及びそうだ。

 とはいえ、減るパイの中身を見ると、その多くは高齢者だ。電車やバスの本数が少ない地方では、タクシーまで減ってしまうと移動手段がさらに狭まる。夜の利用を思い浮かべる代行も、前出・渡邉支部長によると「高齢の夫婦が車で病院に行ったら夫が入院することになり、妻は免許を返納していたので、代行を頼まれることがたまにある」という。

 まさに電車やバスを補完する立場にあるタクシー・代行の減少を見過ごせば、高齢化が進む世の中に不便さとなって跳ね返ってくることも覚えておく必要がある。

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