県のビッグパレットふくしまが立地し、「コンベンション」の会場に選ばれることが多い郡山市。県庁所在地・福島市には大規模コンベンションの受け皿となる施設がないこともあり、郡山市のコンベンション需要はますます高まりそうだが、参加者を対象としたアンケート調査では意外にも厳しい評価が下されており、今後の改善が求められる。
話題集めたロックバンドの駅前改善案


コンベンションとは「学会・大会・会議」、「行事・催事」、「展示会・見本市」など、 目的をもって大勢の人々が集まることを指す。大規模なビジネスイベントは集客により、宿泊や食事、土産、観光、交通など幅広い産業に効果があることから、経済振興の側面としても注目される。
近年はMICE(①企業などの会議、②企業などの行う報奨・研修旅行、③国際機関・団体、学会などが行う国際会議、④展示会・見本市、イベント――の英語の頭文字を使った造語)とも呼ばれており、国を挙げて誘致に取り組んでいる。
規模が大きい会議ほど経済波及効果が見込めるが、全国・海外から訪れる来場者を受け入れるためには広い会場のほか、宿泊者の受け皿となる宿泊施設、さらには交通の利便性が求められる。
福島県内で言えば、最大5500人収容可能な多目的展示ホールを備えたコンベンション施設「ビッグパレットふくしま」が立地するほか、交通アクセスが良く、駅前にホテルハマツや郡山ビューホテルなどの宿泊施設が並ぶ郡山市がコンベンション候補地の筆頭格。

郡山コンベンションビューローの2023年度事業報告によると、郡山市で開催された県大会・イベントの開催件数は886件(前年度比325件増)、参加者数は330万4773人(同124万2034人増)と大幅増。東北大会以上の大規模会議などの経済波及効果は約110億円で前年度比約1・6倍となった。
大幅増の最大の要因はコロナ禍が一段落したことと、首都圏などでの積極的な誘致活動が奏功したことで、コロナ禍前の2019年の件数(806件)を上回った。第14回先進的応用情報学に関する国際会議、国際天文学連合アジア太平洋地域の天文学に関する国際会議などの会場にもなり、それぞれ1000人以上分の宿泊需要をもたらした。ただ、2019年の参加者数(約339万人)、経済波及効果(約163億円)には及ばなかった。
県庁所在地である福島市でも大規模コンベンションを誘致すべく、福島駅東口で進む再開発事業の一環として整備される複合ビルの保留床を買い、コンベンション施設を整備する計画を立てていた。
ところが資材・人件費高騰のため完成延期となり、計画を見直した結果、規模を縮小することになった。完成予定は当初予定から2年遅れとなる2028年度。もちろん業界団体の東北・福島県単位の総会など、中小規模のコンベンションは福島市でも行われているが、大規模なコンベンションの会場には郡山市が選ばれる時期が続きそうだ。
もっとも、コンベンションで県外から訪れる人にとっては、郡山市も気になる点が多いようで、同ビューローの事業報告で紹介されていたコンベンション参加者対象のアンケート調査には厳しい意見が記されていた。以下、一部を紹介する。◯は良評価、△は要改善評価の意見。
「怖い」、「臭い」、「道路が混雑」
【交通について】
◯自転車専用レーンがあるのは素晴らしい。
◯こんなに交通の利便性が良いとは思わなかった。
△タクシーの配車で待ち時間1時間と言われるなど、予約が機能していない。
△会場前にタクシーがいなかった。バスがあって助かった。
△タクシー運転手の態度がかなり悪い。話しかけるなオーラ出まくり。
△路線バスの運転手の対応が悪い。言葉遣いがぶっきらぼうで、怒られているように感じてバスに乗るのが嫌だった。他の参加者も同意見。
△4日間タクシーの予約がとれなかった。拾わなければならなかった。
△JRの在来線の便数が少ない。
△郡山駅からビッグパレットまでのアクセスが悪い。
△交通系カードを全国共通のものにしてほしい。
△施設の中や周辺に飲食店やコンビニを増やしてほしい。
△33万都市なのに道路が狭く、一方通行が多い。
△道路が混んでいる。駐車場からの出庫が大変だった。
△客待ちタクシードライバーの対応がなっていない。
【街の印象について】
◯素敵な街なのであらためて訪れたいと思った。
◯歓迎プレートが至る所に掲示してあり、うれしかった。
◯駅前大通りが広くてすっきりしている。
◯ホテル、飲食店、タクシーどれも親切だった。
◯他道府県からの来郡者に対して、地元の対応は温かく、気軽に交流して楽しませてくれる。
△夜のカラスが怖い。朝の駅前周辺の道路・ベンチが鳥の糞で汚れている。
△駅の東西通路が長すぎる。
△夜の商店街が暗く、女性一人では不安。
△客引きが怖い。
△歩道に段差(デコボコ)が目立ち、歩きづらい。杖をついて歩くのは厳しい。
△空き店舗が目立つ。
△駅周辺が臭い。
△東口が閑散としている。
△街全体が暗い印象。
【駅前の店舗について】
◯駅ナカの土産店の対応がとてもよかった。
△事前に郡山の特産品や飲食店の推し情報が欲しかった。
△おいしそうなものは多いのに、買う時のワクワク感がいま一つで、お土産選びに困った。日持ちするお土産が少ない。
△駅前にお土産屋さんが少ない。
△駅前に飲み屋は多いが、食事ができる場所が少ない。
△閉店時間が早い。
【飲食店について】
◯県外では手に入りにくい福島の日本酒が、普通の居酒屋に常備されているのはよかった。
◯ホテル近くの飲食店を数件利用したが、どの店もキャストの対応が良く、地元の名物やおいしいものを堪能できた。
◯混んでいるのを承知でラーメン店に入ったら、待たせたからと言ってデザートをサービスしてくれた。うれしかった。
△地元ならではの料理や居酒屋メニューが分かりづらかった。
△ホットペッパーの情報を基に、「福島牛」、「地酒」を売りにしているお店に入ったが、全くそんなふうではなく残念だった。
△月曜日は飲食店が開いていないように感じる。
△一部飲食店の店員のマナーが悪く、郡山のイメージダウンとなった。
【会場・施設について】
△会場が遠い。
△電源などのインフラ整備が必要。
△会場周辺にお店が少ない(飲食店など)。
△トイレの改装必要。国際会議を考えれば、和式ではなく洋式が必須。
【観光について】
△観光地が少ない印象。
△安積疏水をもっとPRして観光を盛んにしてほしい。
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タクシーやバスの運転手の態度が悪い、土産店や飲食店が使いづらい、道路が混んでいる、トイレを改装すべき、まち全体が暗い・怖いなど、郡山市に対するダメ出しのオンパレード。郡山市に住む読者は地元を悪し様に言われてムッとする半面、「言われてみれば確かに……」という面もあるのではないか。ちなみに、市民によると「駅周辺が臭い」というのは下水などの関係で、実際に臭うところがあるのだという。
「イベントでアンケート調査を頼まれたら無理くり悪いところを見つけて書いてしまうものだ。深刻に受け止める必要はない」と指摘する人もいたが、本誌は市外から訪れた人が郡山市に抱く〝本音〟だと考える。
郡山市の主なコンベンション会場はビッグパレットふくしま。郡山駅から4~5㌔離れている。交通についての要改善評価が多く並んでいるのは、それだけバスやタクシーでの移動中に不満を感じる機会が多かったということだろう。
同ビューローの担当者は「当団体は市や郡山商工会議所などが出資している団体で、宿泊・観光など各分野の業界団体が賛助会員となっている。調査で寄せられた意見はすべて賛助会員と共有して改善を図っていく」という。すべてを一気に改善するのは難しいだろうが、せっかくもらった〝本音〟の意見を生かし、真摯に改善に取り組む必要があろう。
名物を食べられない駅前

郡山市の改善点という意味では、最近X(旧ツイッター)である投稿が話題を集めた。ロックバンド・打首獄門同好会のボーカル・大澤敦史さんが郡山駅に「福島ラーメン横丁」を作ってほしいと訴えたところ、47万回閲覧され、7500いいねがつくなど注目を集めたのだ。
大澤さんは9月8日、同市の開成山公園で開かれた「風とロック芋煮会2024」に出演。終演後、郡山市で濃厚なしょうゆを使った黒いスープのラーメン「郡山ブラック」を食べていきたいと人気店を訪ねたがすでに営業が終わっていた。
《俺は切実に思うんですよ。郡山駅に「福島ラーメン横丁」的なものを作ってほしいと。(中略)北海道で言えば新千歳空港にあるラーメン道場とか、すすきののラーメン横丁的な。福岡県で言えば福岡空港にあるラーメン滑走路とか、博多駅の博多めん街道的な。その都道府県の代表的・特徴的なラーメン屋の支店を集めたエリアね。(中略)忙しくその土地を訪れて離れる人でもババっと味わうことのできる心のお土産屋。その観点で、福島県はどうか》
大澤さんの主張は概ね以下の通り。
▽福島県には喜多方、白河、そして郡山ブラックと、ラーメンの王道である「しょうゆラーメン」のご当地ラーメンが多数ある。県外に強くアピールすべき魅力だが、福島県民は謙虚でおくゆかしいので、「わざわざ言うほどのものでもない」と広めようとしない。
▽仕事などで訪れる人が多い郡山市。その玄関口である郡山駅に喜多方ラーメンや白河ラーメンの店舗があれば1泊2日の出張でも「福島に行って名物を食べてきた」と思える。「次は本場に行って食べたいな!」と思うようになる。
大澤さんによると、2007年ごろから郡山市をライブで訪れるようになり、そのたびに「何か地元の名物を食べたい」と思っていた。だが、知人には「名物は特にない。喜多方ラーメンが食べたければ喜多方へ行け」と一蹴されていたという。
今年ツアーで郡山市を訪れたときに「郡山ブラック」の存在を初めて知り、知人やライブハウスの店長に「なぜ教えてくれなかったのか」と詰め寄ったが、「ご当地グルメという意識はなかった」、「自慢するほどのものでは……」と返された。
「投稿には『こんなに福島の食べ物をよく言ってくれて……』という温度感のコメントが多い印象で、そこにもまた福島県民の奥ゆかしさを感じます。駅周りには仕事の出張などで訪れた人、遊びに来た人など〝よそ者〟が集まる。だからこそ、そうした人が利用しやすい営業時間で、その土地にしかない料理を提供する『ごはん処』がもうちょっと増えてほしい。郡山名物にとどまらず『福島名物』という広めの視点で幅広くプチ体感できる機会があると〝よそ者〟には嬉しいです」(大澤さん)
実は記者も県外から来た人に「郡山駅前で何か名物を食べられるところはないか」と聞かれ、うまく答えられなかったことがある。旅行の醍醐味はその土地ならではのおいしい食べ物。だからこそ、県外から来た人が「せっかく福島県に来たんだからこれを食べていこう」と気軽に寄れるシンボル的な場所がほしい、と大澤さんは主張しているわけ。
民間任せでいいのか
大澤さんは投稿の中で「役所の人とかに届かないかな~この想い~」と触れていたので、郡山市観光政策課に確認したところ、「投稿はすでに確認しており、興味深い意見だったので課の職員で共有していた」と話した。ただ、具体的にコメントを求めたところ、《観光誘客に向けてラーメン等の食文化は、重要なコンテンツのひとつと考えますが、飲食店出店などの経済活動の基本は、民間事業者の経営方針や経営判断の中で行われるのが原則と考えております。郡山駅への「福島ラーメン横丁」の設置につきましては、民間事業者において、出店先の経営環境、市場規模、採算性等を判断され、最良の形で出店されるのが望ましいと考えております》という味気ない回答が返ってきた。
確かに民間の話であり、この間本誌でも報じてきた通り、地方の駅前では集客が難しいこともあって経営が成り立たないから郡山駅前にこうした店舗が出店してこなかったのだろう。ただ、ここで重視すべきは、ラーメン横丁の実現性ではなく、県外から郡山市に来た人が「郡山名物」、「福島名物」を食べられないまま帰っていったという事実。大澤さんの投稿は氷山の一角で、多くの出張者や観光客が同じことを思いながら帰っている可能性もある。
民間任せにするのではなく、郡山コンベンションビューローの報告書の意見も踏まえ、郡山市・福島県のおもてなし態勢の整備を市が先頭に立って考えるべきではないか。
耳の痛い〝ダメ出し〟にどれだけ耳を傾けて改善し、コンベンション数増加、交流人口増加につなげることができるか。市にとって大きな課題であり、来年春の市長選で各候補者がどのような改善策を掲げるかも注目ポイントになりそうだ。