コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

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コロナ禍で岐路に立つ会津のスナック

 5月に新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが5類に引き下げられ、夜の飲食街は感染収束ムードが漂う。だが、客の嗜好が「飲」から「食」に変化し、団体の2次会は望めない。夜の街調査4回目は6月3日土曜日に会津若松市を回った。

頼みの「無尽」は規模縮小

飲食店が入るパティオビル(会津若松市上町)=6月3日、午後10時35分
飲食店が入るパティオビル(会津若松市上町)=6月3日、午後10時35分

 会津若松市は会津地方の消費都市の性格が強い。市内だけでなく近隣の喜多方市、猪苗代町はもちろん、遠方は南会津町などからも訪れる。そのため、市内人口に比して飲食店が多く、電話帳をベースに人口1000人当たりのスナック店数を調べたところ、県内主要4市では最も多かった(表1、表2)。

表1:県内人口上位4市のスナック店舗数

2023年5月1日推計人口(百人)2019年スナック数(店)2021年スナック数(店)減少率(%)
いわき市3226273221▲19.0
郡 山 市3222202159▲21.2
福 島 市2763194145▲25.2
会津若松市1133158124▲21.5

表2:県内人口上位4市の千人当たりスナック店舗数

2021年スナック店数人口千人当たり店数
会津若松市1241.09
いわき市2210.68
福 島 市1450.52
郡 山 市1590.49

 「地理的に考えると、峠を越えてきた人たちが金を落とす一大消費地でした」とは市内のある飲食店経営者。

 近代から戦後にかけては、猪苗代湖の水力発電で得た安価な電力を背景に産業が集積した。

 あるスナックのママが40年前をしのぶ。

 「富士通の工場があったころは関係者がよく飲みに来ました」

 眠らない街の光景が、いまも目に焼き付いている。

 「1980年代の話です。私の店は深夜1時に閉めますが、帰りのタクシーが拾えないほど。2時3時になってもタクシー待ちの行列です。お店はほとんど閉まっているのにどこに人がいたのかと思うくらいの数。『この人たち、明日は仕事だろうに大丈夫なのかな』と心配でしたね。金曜、土曜ではなく平日の話です。いい時代でしたよね……。いまですか? 最悪ですよ」(前出のママ)

 新型コロナの感染拡大以降は金、土曜日だけ営業してきた。4月ごろは週末に4、5人が来てくれて明るい兆しを感じたが、5月の大型連休は客の入りが鈍く、同月半ばからは確実に悪い。

 「私1人でやっているので、若いお客さんは来ないでしょう。大型連休は、街は久しぶりに若者で賑わっていました。でも、若い人だって毎日は飲みに行かないでしょ。連日賑わっている店はないと思いますよ」(同)

 賑わっているところはあるのか。店主たちに聞くと、「パティオビル周辺だけは人が大勢いる」という。パティオビル(地図参照)に入居するテナントはキャバクラやスナック、バー・クラブなど若年層向けの店が多い。

地図:会津若松市の飲食店街
地図:会津若松市の飲食店街

 ビルのきらびやかな照明が夜に浮かび上がる。エントランスに入ると、店の紹介映像が画面に流れていた。派手な光と音に包まれ、ここだけ別世界だ。エントランスの上部を見ると、天井の隅に張り付いてこちらをうかがう巨大なゴリラの模型と目が合った。

 ビルの前では男女問わず若いグループが複数たむろし、解散するか次の店をどこにするかを話し合っていた。道を挟んで向かいにはコンビニがある。ビル内の店に入るかどうかは別として、人が集まるようだ。

 パティオビルは、どの階もテナントで埋まっていた。家賃は階が違っても変わらないので、上階より人の往来がある1階が人気だ。最も賑わう同ビルでさえも移転か閉じた店があるが、入居者も同じ数だけあり、テナントの新陳代謝が起きている。

苦境に立つ老舗

苦境に立つ老舗

 これまでの夜の街調査でも指摘しているように、客が夜の飲食店に求めるものは「飲」から「食」に移ったが、客層も「老」から「若」に移行した。コロナ禍を機に老舗が閉店した。

 50年来スナックを経営してきたマスターは、最近の客の一言にプライドを傷つけられた。

 「初めて来た男性のお客さんでしたね。『女の子はいないの』と店内を見回しました。若い女性従業員をたくさん抱える店じゃないと知ると、『じゃあいい』とバタンとドアを閉めていきました。街やお客さんと共に私たち従業員も年を重ねてきました。お客さんの好みは理解しますが、入店をやめるにしてもスマートな去り方があるのではないか」

 共に年齢を重ねてきた高齢の客は新型コロナに感染して重篤化するのを恐れ、外での飲食を控えるようになった。3年経てば「飲みに行かない」のが習慣となるが、それでも変わらず来てくれる常連もいる。「店を閉めて寂しいとは言われたくない」(マスター)。何より、長年働いてくれている高齢従業員の生活のために、わずかでも稼がなければならない。

 会津若松の調査は、郡山(今年1月号)福島(同5月号)いわき(同6月号)に続き4回目となる。いままで3市の夜の街を調査してきたと店主らに話すと、よく聞いたのが「いわきはコロナでも賑わっているようだね」「実際に(いわきに)行った人から繁盛していると聞いた」と羨む声だった。

 だが、それは幻想と言っていい。いわきでも土曜日にもかかわらず、団体の2次会需要はほとんどないため、夜10時以降閑散とするのは会津若松と変わらない。「食」がメインの店舗でも、売り上げがコロナ禍前の7割に戻っていれば良い方だ。店を開けるだけでは2次会の客が来ることは期待できず、多くの老舗が客の行動変化に苦労していた。

 地方は少子高齢化が急速に進み、経済規模の縮小は免れられない。いわきは首都圏に近いという地の利はあるが、会津若松と同様、コロナ禍から未だ立ち直ってはいない。

 県内4市の夜の街を調査すると、感染拡大前から飲食店は総じて減っており、コロナ禍が閉店を早めたと言える。本稿末尾にコロナ禍後に電話帳から消えたスナック、バー・クラブの営業調査結果を載せた。近隣の店主に聞くと、コロナ禍前に閉じた店も散見された。

電話帳から消えた会津若松市のスナック、バー・クラブ

〇…6月3日(土)に営業確認 ×…営業未確認

店名建物名営業状況
栄町スナック翼パピヨンプラザビル×
スナックあんり五番街ネクサスビル×
スナック燁里エクセレント大手門ビル×
スナックみっちゃん×
Coralマリンビル×
さざなみ三進ビル×
すなっくなおこ白亜ビル×
スナックひまわり×
スナック演歌Mビル→白亜ビル
上流階級ヴェルファーレビル
西栄町スナック情不明×
行仁町ラブストーリーリトル東京×
上町スナックオルゴール(織香瑠)上町一番街×
スナックディアレストAsahi Alpa×
スナックアンルート×
でん福マルコープラザ×
レイティス(RETICE)パティオビル×
regalia×
スナックageha
スナック古窯パティオビル→移転
ミュージックパブオアシスセンチュリーホテル×
ゴールデンウェーブ×
Villeセンチュリー・ノアビル×
スナック胡遊×
ピンクパンサー
佑花×
馬場町ベルコット石井ビル×
スナックシナリオサンコープラザビル×
れとろ×
ENZYU×
宮町パーティハウス北日本ビル×
スナック赤いグラス明月ビル×
ニューサンシャインサンシャインビル×

「無尽」の互助に異変

「無尽」の互助に異変

 飲食店街は打つ手がないのか。前出の飲食店経営者は「会津若松の夜の活気は無尽が支えてきた」と話す。

 無尽とは、会員が掛け金を出し合い、一定期日にくじで優先的に融通の権利を得るシステムやその会のこと。前近代的な金融の一種で、現在は山梨県のものが有名。福島県内では会津地方が盛んだ。

 飲食店経営者が説明する。

 「例えば会費を1万円とします。5000円を場所代として飲食店で消費し、残りの5000円を積み立てる。10人集まれば、1回の集まりにつき店に5万円を落とし、無尽に5万円を積み立てられる。1年後には60万円に達し、くじでもらう人を決めたり、急ぎの金が要る人に融通する。親睦旅行の代金に充て、会員全員に還元する方法もある」

 個々の無尽で取り決めは違うが、現代では無尽にかこつけて集まることが目的なので、積み立てや融通の方法自体は重要ではないという。互助的なシステムである点が大事だ。

 「居酒屋はたいてい1店につき6~12本の無尽を持っている。毎月1、2回は店に集まって会を開くので、何本無尽を持てるかが経営の安定につながると言っていい。常連客の他に魚屋、酒屋などの出入り業者、スナックの店主も参加する」(前出の飲食店経営者)

 1次会はその居酒屋で、2次会は無尽に参加しているスナックで、という流れができ、常連客も店主も無尽つながりでお互いに店を利用するようになる。「無尽の飲み会がある」と言うと、家族も「しょうがない」と止めるのを諦めるほどの大義名分が立つという。

 選挙も無尽で決まると言っても過言ではない。酒席では「健康状態が悪いらしい」「金銭的に苦しいようだ」と政治家のウワサが飛び交い、それを会社や家庭に持ち帰ったり、掛け持ちしている別の無尽で話したりして末端まで広がる。

 「いわば選挙キャンペーンの装置です。多くは根も葉もないウワサですが、本人にとっては政治生命に関わる。政治家は、酒席でウワサを否定しなければなりません」(同)

 企業も無縁ではない。この経営者によると、商工団体以上の情報伝達網だという。経営難や信用不安など悪いウワサも多い。

 侮れない無尽だが、さすがにコロナ禍では自粛となった。

 前出のスナックママは

 「コロナを機に無尽もやめようという話が出てずいぶん減りました。無尽という言葉すら聞かなくなりましたね」

 一方で、前出の飲食店経営者は楽観的だ。1次会の客をメインにしている事情がある。

 「飲食店同士の無尽は出費を抑えるために減ったかもしれませんが、個人の参加は着実にあります。ウワサ、酒、選挙という勝負事への欲求は人間のさがですからね。定期的に街へ出る回数が増えれば、飲食店街に広く波及していくはずです。懸念しているのは、運転代行業者が確保できないことです。会津若松の飲食店街は近隣市町村からも多くのお客さんが来ます。コロナ禍で減った運転代行業者の数が戻らないと客足回復の機会を逃がしてしまう」

 その店が主にしているのが1次会か2次会かで見解が全く異なる。人付き合いを断つ理由を与えてしまったのがコロナ禍だったと言える。若者の酒離れが進む昨今、スナックママが体験した無尽離れの方が現実味を帯びる。

この記事を書いた人

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小池 航

こいけ・わたる 1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。 長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。 【最近担当した主な記事】 福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ) 地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号) 趣味は温泉巡り

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